(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】T細胞改変
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240920BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240920BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/0783
A61P35/00
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2021512812
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 IB2019057485
(87)【国際公開番号】W WO2020049496
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-16
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517122578
【氏名又は名称】アダプティミューン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレット,サラ ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィーズ,マリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】サウスゲート,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】アダムズ,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】メルキオリ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ライス,ルイーズ
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/073755(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/133175(WO,A1)
【文献】特表2019-511222(JP,A)
【文献】特表2012-531904(JP,A)
【文献】BAJWA,G. ET AL.,MOLECULAR THERAPY,2018年05月, 26(5 SUPPL1),206 440.
【文献】XUE, SA. ET AL.,ONCOIMMUNOLOGY,2013年,2(1),e22590 P.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性CD8共受容体、およびT細胞受容体(TCR)を提示する、改変されたCD4+T細胞の集団であって、前記TCRは、配列番号2
のアミノ酸配列のTCRα鎖可変ドメインを含む、前記改変されたCD4+T細胞の集団。
【請求項2】
前記CD8共受容体がCD8αである、請求項1に記載の改変されたT細胞の集団。
【請求項3】
前記CD8共受容体が、配列番号1に対して、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の改変されたT細胞の集団。
【請求項4】
前記TCRが、配列番号3に対して、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の改変されたT細胞の集団。
【請求項5】
以下iおよびii、すなわち
i. CD8共受容体をコードする第1ヌクレオチド配列、および
ii. T細胞受容体(TCR)をコードする第2ヌクレオチド配列、ここで
該ヌクレオチド配列は、
TCRα鎖可変ドメインをコードする配列番号5
のヌクレオチド配列を含むものである、
を含む核酸構築物。
【請求項6】
前記CD8共受容体がCD8αである、請求項
5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記のCD8αをコードするヌクレオチド配列が、配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項
5に記載の核酸構築物。
【請求項8】
前記TCRをコードするヌクレオチド配列が、配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項9】
請求項
5~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ベクター。
【請求項10】
前記ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項
9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項
5~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物または請求項
9若しくは
10に記載のベクターを含む、T細胞の集団。
【請求項12】
請求項1~
4または
11のいずれか1項に記載の改変されたT細胞の集団、および製薬上許容しうる担体を含む、医薬組成物。
【請求項13】
療法に使用するための、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
癌を治療する方法に使用するための、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
癌を治療する方法において使用するための、請求項1~
4もしくは
11に記載の改変されたT細胞の集団、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の核酸構築物、
又は、請求項
9若しくは
10に記載のベクタ
ー。
【請求項16】
以下i~iii、すなわち
i. T細胞を用意すること、
ii. 請求項
9または請求項
10に記載のベクターを該T細胞に導入すること、および
iii.該ベクターを該T細胞内で発現させ、それにより改変されたT細胞を製造すること
を含む、T細胞を操作する、生体外方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、T細胞の、その細胞傷害活性を増大させるための改変、および例えば、癌の治療のための、免疫療法における改変T細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫治療法は、長期生存を期待して癌の治療状況を変化させる段階にある(McDermottら、Cancer Treat Rev. 2014 Oct;40(9):1056-64)。患者集団および腫瘍型の範囲を拡大するための、新規免疫調節薬への明らかな満たされていない医学的ニーズが存在する。さらに、抗腫瘍応答の大きさおよび持続期間を強化するための新規薬剤が必要とされている。これらの薬剤の開発は、この20年にわたる、T細胞免疫を制御する基本的原則の徹底的な理解により可能となった(SharmaおよびAllison, Cell. 2015 Apr 9;161(2):205-14)。これは典型的には、MHC分子により提示される腫瘍関連ペプチド抗原を認識する腫瘍特異的CD4+およびCD8+T細胞を必要とする。種々のワクチン接種戦略およびex vivoで増殖させた腫瘍浸潤リンパ球の養子移入は、一部の症例で、後期癌を治療する腫瘍特異的T細胞の能力を示した(Rosenbergら、Nat Med. 2004 Sep;10(9):909-15)。しかし、腫瘍部位にしばしば認められる、強力な免疫抑制性微小環境と結びついた腫瘍抗原に対する高い寛容性が、T細胞抗腫瘍活性の最適以下の活性化という形で現れる。従って、高親和性T細胞を持たない個体は、自己抗原に対するT細胞寛容のために、抗PD-1および抗CTLA-4などの免疫チェックポイント阻害療法に応答しない場合がある。
【0003】
遺伝子操作は、高親和性T細胞受容体(TCR)の作成により、腫瘍抗原に対する内因性高親和性T細胞の発生頻度の低さという問題の克服に役立ち、かつチェックポイント阻害剤による治療に反応しない患者に臨床的利益をもたらしうる。このアプローチは、gp100、MAGE-A3およびNY-ESO-1を含む幾つかの抗原に関して、野生型TCRのその天然リガンドペプチド/MHCクラスI複合体への親和性をin vitroで10~1000倍増大させることが示されている(Liら、Nat Biotechnol. 2005 Mar;23(3):349-54;Robbinsら、J Immunol. 2008 May 1;180(9):6116-31.)。より高い親和性のTCRは、T細胞がより低いレベルの抗原に応答することを可能にし、このことは、腫瘍微小環境が抗原発現を低減しかつMHCクラスI分子の発現を減少させるよう適応している場合に重要である(BarrettおよびBlazar, N Engl J Med. 2009 Jul 30;361(5):524-5;Marincolaら、Adv Immunol. 2000;74:181-273)。腫瘍へのT細胞の再指向は、TCRを操作したT細胞療法により、またはT細胞を再指向させる生物製剤を用いて達成されている(Bossiら、Cancer Immunol Immunother. 2014 May;63(5):437-48;Fanら、J Hematol Oncol. 2015 Dec 21;8:130)。
【0004】
T細胞療法は、一部の再発性または高リスクの腫瘍の治療に関して治癒の可能性を示した(Dudleyら、J Immunother. 2003 Jul-Aug;26(4):332-42;Dudleyら、J Clin Oncol. 2005 Apr 1;23(10):2346-57;Kalosら、Sci Transl Med. 2011 Aug 10;3(95):95ra73)。現在、キメラ抗原受容体(CAR)および親和性成熟TCRを含む、腫瘍抗原を認識するよう患者のT細胞を遺伝的に操作するために利用されている2つの方法がある。
【0005】
しかし、CARは、細胞表面上のエピトープのみの標的化に限定されている。TCRベースの治療法は、細胞表面タンパク質だけでなく、内部の細胞タンパク質も認識できる。さらに、このTCRアプローチは、内因性シグナル伝達分子およびT細胞とその特異的標的との空間的-時間的相互作用を動員することにより、T細胞の生来の機能をより厳密に模倣する。しかしこれは、TCRにより認識される、適当なMHC拘束性を共有する個体に限定される。このタイプの療法は、HLA型および抗原発現の両方に関する患者選択アッセイの並行進行を必要とする。
【0006】
MHCクラスI拘束性T細胞受容体(TCR)のペプチド-MHC複合体への結合は、CD8(分化抗原群8)と称される糖タンパク質により安定化し、これがSrc-ファミリーキナーゼLckも同様に動員して、シグナル伝達を増強する。MHCクラスIの定常部へのCD8結合は、結合の親和性の増大と、標的細胞上の抗原に対する応答の閾値の低下をもたらす(Gao, Nature. 1997 Jun 5;387(6633):630-4;Artyomovら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 28;107(39):16916-21)。TCRレンチウイルスベクターへのCD8導入遺伝子の付加は、CD4+T細胞に同様の増大した応答を付与し、CD8+T細胞にヘルパー機能を与えるそれらの能力ならびに追加の直接的な腫瘍細胞死滅を増大させて、場合によっては臨床的有効性の増強をもたらす可能性がある。
【0007】
CD8α/CD8β(分化抗原群8)は、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞および樹状細胞により発現されるヘテロ二量体膜貫通糖タンパク質である。CD8α/CD8βはクラスIペプチド-主要組織適合抗原(pMHC、人間の場合これらは通常ペプチド-ヒト白血球抗原またはpHLAと記述される)上の保存領域に結合し、またそうすることで、CD8α/CD8βはT細胞受容体(TCR)によるMHCペプチド特異的結合の一般的な共受容体として働く。CD8α/CD8は成熟CD4+T細胞には見出されず、該T細胞ではそれらの抗原特異的TCRは、関連はあるが異なるクラスII pMHC抗原に結合し、かつ該T細胞ではCD4ホモ二量体がTCR共受容体として働く。
【0008】
最も一般的なタイプの共受容体依存性TCRは、αおよびβポリペプチド鎖を持つヘテロ二量体膜貫通糖タンパク質である。α/βTCRがクラスI pMHC抗原に結合すると、それらは、細胞傷害性T細胞によるpMHC発現標的細胞の死滅を含む過度の細胞事象を活性化する、リン酸化事象の細胞内シグナル伝達カスケードを誘発する。このシグナル伝達カスケードは、Lck(リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ)によるTCR結合型CD3膜貫通タンパク質のリン酸化によって開始される。CD8α/CD8βとLckとの細胞内会合は、TCRシグナル伝達を増強すると考えられている。
【0009】
ヒトにおいては、前記のCD8α/CD8βヘテロ二量体に加えて、CD8+細胞の約3分の1はCD8α/CD8αホモ二量体形態も示す。一部の腸管T細胞、NK細胞、およびγ/δT細胞では、このホモ二量体形態のみが見られる。ヒトにおいては、このCD8αホモ二量体を機能上完全に前記のCD8α/CD8βヘテロ二量体の代用としうることが、証拠により示唆されている(Coleら、Immunology. 2012 Oct;137(2):139-48)。
【0010】
in vivoでは、TCRおよびCD8二量体のクラスI pHLAへの同時結合は、胸腺におけるT細胞クローンの正/負の選択に影響を与える。これにより、これらのT細胞クローンにより発現されるTCRのpHLA抗原親和性が決定する。一般に、病原体関連pHLA反応性T細胞クローンにおけるTCR抗原親和性は、癌関連抗原を認識する同等のT細胞クローンより高い。TCR親和性向上技術は、癌反応性TCRの親和性を、病原体反応性TCRの親和性近くまで増大させることができる。TCR親和性におけるこれらの増大は、通常はCD8共受容体非依存性であるTCRを生じる。これらのTCRを発現する遺伝子発現ベクターによるCD4+T細胞の細胞形質導入は、他の場合には普通はクラスII特異的ペプチド抗原によってのみ活性化されうるキラーおよびヘルパー機能を備えたクラスI pHLA特異的CD4+T細胞という新規物質を生み出す(Tanら、Clin Exp Immunol. 2017 Jan;187(1):124-137)。これらのTCRにより、T細胞がその癌標的細胞を、その野生型親TCRが認識するよりも効率的に認識できるようになる。重要なことに、pHLA抗原特異性はCD8+T細胞でも、すなわち、内因性CD8共受容体の存在下でも維持される。
【0011】
共受容体非依存性は、これらの親和性向上TCRがCD4+T細胞においてもある程度機能できることを意味しているものの、CD4+T細胞における最適なTCR親和性がCD8+T細胞におけるそれより高いことは明白である(Tanら)。
【0012】
患者において抗腫瘍応答の大きさおよび持続期間を強化するための、新規でありかつ改善されたTCRベースの治療法の継続的な需要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】McDermottら、Cancer Treat Rev. 2014 Oct;40(9):1056-64
【文献】SharmaおよびAllison, Cell. 2015 Apr 9;161(2):205-14
【文献】Rosenbergら、Nat Med. 2004 Sep;10(9):909-15
【文献】Liら、Nat Biotechnol. 2005 Mar;23(3):349-54
【文献】Robbinsら、J Immunol. 2008 May 1;180(9):6116-31
【文献】BarrettおよびBlazar, N Engl J Med. 2009 Jul 30;361(5):524-5
【文献】Marincolaら、Adv Immunol. 2000;74:181-273
【文献】Bossiら、Cancer Immunol Immunother. 2014 May;63(5):437-48
【文献】Fanら、J Hematol Oncol. 2015 Dec 21;8:130
【文献】Dudleyら、J Immunother. 2003 Jul-Aug;26(4):332-42
【文献】Dudleyら、J Clin Oncol. 2005 Apr 1;23(10):2346-57
【文献】Kalosら、Sci Transl Med. 2011 Aug 10;3(95):95ra73
【文献】Gao, Nature. 1997 Jun 5;387(6633):630-4
【文献】Artyomovら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 28;107(39):16916-21
【文献】Coleら、Immunology. 2012 Oct;137(2):139-48
【文献】Tanら、Clin Exp Immunol. 2017 Jan;187(1):124-137
【発明の概要】
【0014】
本発明は、第1態様において、外因性CD8共受容体またはその断片、およびT細胞受容体(TCR)を提示する改変T細胞を提供する。該第1態様の1実施形態において、該改変T細胞は、(i)CD8共受容体またはその断片をコードする第1ヌクレオチド配列、および(ii)T細胞受容体(TCR)をコードする第2ヌクレオチド配列、を含む核酸構築物を含んでいてもよい。
【0015】
本発明はまた、第2態様において、CD8共受容体またはその断片、およびTCRを提示する本発明の第1態様の複数の改変T細胞、ならびに製薬上許容しうる担体を含む医薬組成物も提供する。
【0016】
本発明はまた、第3態様において、本発明の第2態様の医薬組成物をヒトに投与することを含む、該ヒトにおいて癌を治療する方法も提供する。
【0017】
本発明の好適な実施形態の以下の詳細な説明は、添付図面と併せて読むとより良く理解されよう。本発明を例示する目的で、現時点で好適な実施形態を図面に示す。しかし、本発明が図面に示された実施形態の厳密な配置および手段に限定されないことは理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、完全長CD8α_F2A_NY-ESO
c259 TCRコード配列を作成するために利用したオーバーラップPCR戦略の模式図を示す図である。
【
図2】
図2は、CD8αNY-ESO-1
c259 TCR導入プラスミドのプラスミドマップを示す図である。
【
図3】
図3は、非形質導入(ntd)T細胞、CD8αNY-ESO
c259 T、またはNY-ESO
c259 CD8αNY-ESO
c259 T細胞におけるCD40L発現により測定した、抗原に応答したT細胞の活性化を示す図である。
【
図4】
図4は、抗原陽性(A375)および陰性(HCT-116)細胞株に応答した、ntd、NY-ESO
c259 T、またはCD8αNY-ESO
c259 T細胞内のCD4+Vbeta+およびCD4+Vbeta-T細胞サブセットの増殖を示す図である。
【
図5】
図5は、抗原陽性細胞株A375に応答した、ntd、NY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞内のCD8+Vbeta+およびCD4+Vbeta+T細胞サブセットの、3ドナーのウェーブバッグから得た増殖指数データを示す図である。
【
図6】
図6は、NY-ESO-1ペプチド(SLLMWITQC)による刺激時のntd、NY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞に対する、Luminex(商標)MAGPIX(登録商標)アッセイによるIL-2放出解析を示す図である。
【
図7】
図7は、NY-ESO-1陽性および陰性A375 GFP 3Dスフェロイドとの共培養における、ntd、NY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞によるIFN-γ放出を示す図である。
【
図8】
図8は、NY-ESO-1陽性細胞をntd、NY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞と共に培養した場合のグランザイムB放出を示す図である。
【
図9】
図9は、3D細胞培養アッセイ(A375-GFP細胞の3D培養物中のntd、NY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞)におけるグランザイムB放出アッセイデータを示す図である。
【
図10】
図10は、単一ドナーから得たNY-ESO-1
c259 T、またはCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞によるA375黒色腫細胞の経時的な細胞死滅を示す図である。
【
図11】
図11は、7ドナーに関する、0~51時間という時間枠にわたりA375標的細胞と共培養した場合の、A375標的細胞に対するNY-ESO-1
c259 T細胞と比較したCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の細胞傷害性活性の曲線下面積(AUC)解析を示す図である。
【
図12】
図12は、Mel624細胞に対する、NY-ESO-1
c259 T細胞と比較したCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞のIncuCyte死滅実験を示す図である。
【
図13】
図13は、NY-ESO-1を発現するA375-GFP 3Dスフェロイド(大、直径約500μm)に対するウェーブ147およびウェーブ149 CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の細胞傷害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、外因性CD8共受容体またはその断片、およびT細胞受容体(TCR)を提示する改変T細胞を提供する。1実施形態において、該CD8共受容体は、CD8αホモ二量体である。別の実施形態において、該CD8共受容体は、CD8α(配列番号1)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0020】
【0021】
別の実施形態において、前記TCRは親和性が成熟している。別の実施形態において、前記TCRはα鎖およびβ鎖を含む。別の実施形態において、前記TCRはNY-ESO-1 TCRである。NY-ESO-1c259は、野生型TCRと比較して、α鎖の位置95および96で95:96LYで変異させた、親和性を向上させたTCRである。NY-ESO-1c259は、HLA-A2+クラス1対立遺伝子との関連において、ヒト癌精巣Ag NY-ESO-1のアミノ酸残基157~165に相当するペプチド(SLLMWITQC)に、非改変野生型TCRと比較して増大した親和性で結合する(Robbinsら J Immunol (2008) 180(9):6116)。
【0022】
別の実施形態において、前記NY-ESO-1 TCRのアミノ酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRα鎖(配列番号2)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、前記NY-ESO-1 TCRのアミノ酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRβ鎖(配列番号3)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態において、前記NY-ESO-1 TCRα鎖のアミノ酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRα鎖(配列番号2)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記NY-ESO-1 TCRβ鎖のアミノ酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRβ鎖(配列番号3)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。各TCR鎖(TCRα鎖およびTCRβ鎖)の配列同一性パーセントは、必ずしも関連するものではなく、またTCRα鎖とTCRβ鎖とで異なる場合があることは、理解されよう。
【0023】
前記NY-ESO-1
c259 TCRα鎖のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0024】
前記NY-ESO-1
c259 TCRβ鎖のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0025】
本発明はまた、CD8共受容体またはその断片をコードする第1核酸配列、およびT細胞受容体(TCR)をコードする第2核酸配列を含む核酸構築物も提供する。1実施形態において、該CD8共受容体はCD8αである。別の実施形態において、該CD8共受容体は、CD8α(配列番号4)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0026】
【0027】
別の実施形態において、前記核酸構築物中の前記TCRは親和性が成熟している。別の実施形態において、前記TCRはα鎖およびβ鎖を含む。別の実施形態において、前記TCRはNY-ESO-1 TCRである。別の実施形態において、該NY-ESO-1 TCRの核酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRα鎖(配列番号5)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含む。別の実施形態において、前記NY-ESO-1 TCRの核酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRβ鎖(配列番号6)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含む。さらなる実施形態において、前記NY-ESO-1 TCRα鎖の核酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRα鎖(配列番号5)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含み、かつ前記NY-ESO-1 TCRβ鎖の核酸配列は、NY-ESO-1c259 TCRβ鎖(配列番号6)に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0028】
前記のNY-ESO-1
c259 TCRα鎖の核酸配列を配列番号5に示す。
【0029】
前記のNY-ESO-1
c259 TCRβ鎖の核酸配列を配列番号6に示す。
【0030】
1実施形態において、本発明の核酸構築物を含む発現ベクターを提供する。別の実施形態において、該核酸構築物を、遺伝子編集技術を利用してT細胞に直接導入してもよい。別の実施形態において、該核酸構築物または該発現ベクターを含む改変T細胞を提供する。
【0031】
同様に本明細書中で提供するのは、療法に使用するための改変T細胞である。1実施形態において、該療法は同種間のものである。別の実施形態において、該療法は自己のものである。
【0032】
同様に本明細書中で提供するのは、(i)T細胞を提供すること、(ii)CD8共受容体またはその断片およびT細胞受容体(TCR)をコードする本発明のヌクレオチド構築物を含む発現ベクターを該T細胞に導入すること、ならびに(iii)該CD8共受容体またはその断片およびT細胞受容体(TCR)を改変T細胞において発現させることを含む、該改変T細胞を操作する方法である。
【0033】
1実施形態において、CD8共受容体またはその断片およびTCRを提示する複数の改変T細胞、ならびに製薬上許容しうる担体を含む医薬組成物を提供する。1実施形態において、該医薬組成物は同種T細胞を含む。別の実施形態において、該医薬組成物は自己T細胞を含む。
【0034】
別の実施形態においては、有効量、例えば、治療上有効な量の前記医薬組成物をヒトに投与することを含む、該ヒトにおいて癌を治療する方法を提供する。1実施形態において、該方法はさらに、該ヒトに投与する前にex vivoで前記改変T細胞の集団を増殖させることを含む。適当な投与量は臨床試験により決定しうるが、投与の量および頻度は患者の健康状態、ならびに患者の疾患の種類および重症度などの因子により決定される。幾つかの実施形態においては、前記癌は滑膜肉腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、粘液型円形細胞脂肪肉腫(MRCLS)、または多発性骨髄腫(MM)であってもよい。
【0035】
当業者であれば、本明細書中で意図される前記組成物の複数回投与が、所望の療法を達成するために必要とされうることは認識されよう。例えば、組成物を、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、10年、またはそれ以上の期間にわたり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10またはそれ以上の回数投与してもよい。
【0036】
1実施形態においては、その必要がある対象に、該対象において癌への細胞性免疫応答を増大させるために有効量の組成物を投与する。該免疫応答としては、感染細胞を死滅させることができる細胞傷害性T細胞、調節性T細胞、およびヘルパーT細胞の応答により媒介される細胞性免疫応答を挙げることができる。B細胞を活性化し、その結果抗体産生をもたらすことができるヘルパーT細胞により主に媒介される体液性免疫応答もまた、誘導されうる。前記組成物により誘導される免疫応答の種類を解析するために様々な技術が使用可能であり、該技術は当分野で十分に説明されていて、例えば、Current Protocols in Immunology, Edited by:John E. Coligan, Ada M. Kruisbeek, David H. Margulies, Ethan M. Shevach, Warren Strober (2001) John Wiley & sons, NY, N.Y.)。
【0037】
別の実施形態において、本発明はまた、癌に苦しむ対象を治療する方法における使用のための、本明細書中に記載した改変T細胞の集団、本明細書中に記載した核酸構築物、本明細書中に記載したベクター、または本明細書中に記載した医薬組成物も提供する。
【0038】
本明細書中で引用した、特許および特許出願を含むがこれらに限定されない全ての刊行物は、参照により、十分に記載されているかのように本明細書中に組み込まれるものとする。
【0039】
本明細書中および特許請求の範囲内で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈において別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「ペプチド鎖」への言及は、1つ以上のペプチド鎖への言及であり、また当業者に公知のその等価物を含む。
【0040】
別途定義しない限り、本明細書中で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書中に記載したものと同様または同等である任意の組成物および方法を、本開示の方法の実践または試験に利用することができるが、模範的な組成物および方法が本明細書中に記載されている。本明細書中に記載した本開示の態様および実施形態のうちのいずれかを組み合わせてもよい。例えば、本明細書中に開示した任意の従属項または独立項の主題を複合的に組み合わせてもよい(例えば、各従属項からの1つ以上の記述を、それらが従属する独立項に基づく単一の請求項にまとめてもよい)。
【0041】
本明細書中に提供される範囲は、記載した特定の範囲内にある全ての値、および特定の範囲の端点付近の値を含む。本開示の図面および表もまた、本明細書中に開示した方法のうちのいずれかの要素を構成しうる、範囲、および別個の値を記載する。
【0042】
本明細書中に記載の濃度は、周囲温度および圧力で決定する。これは、例えば、室温での、またはプロセスの流れの特定部分の範囲内にある温度および圧力でありうる。好ましくは、25℃および1バールの圧力という標準状態で濃度を決定する。
【0043】
「約」という用語は、任意の特定の測定値に関する平均値の2つの標準偏差内の値を意味する。
【0044】
「活性化」という用語は、本明細書中で使用する場合、検出可能な細胞の増殖を誘導するよう十分に刺激されているT細胞の状態を指す。活性化は、誘導されるサイトカイン産生、および検出可能なエフェクター機能と関連付けることもできる。「活性化T細胞」という用語は、特に、細胞分裂過程にあるT細胞を指す。
【0045】
本明細書中で使用する「養子細胞療法」または「養子免疫療法」という用語は、標的細胞上に発現された表面抗原またはペプチドMHC複合体に特異的な、CARまたは遺伝子改変TCRを発現するよう遺伝子導入により操作されたヒトTリンパ球またはNKリンパ球の養子移入を指す。これは、選択した標的に応じて様々な疾患を治療するために、例えば、癌を治療するために腫瘍特異的抗原に応じて、使用することができる。養子細胞療法は、白血球除去療法と呼ばれる処置を利用してドナーの白血球または患者の白血球の一部を除去することを含む。T細胞またはNK細胞はその後、増殖させてから、該T細胞またはNK細胞にCAR/TCRスカフォールドを移入するために該CAR/TCRポリヌクレオチドを含む発現ベクターと混合してもよい。該T細胞または該NK細胞を再び増殖させてから、該増殖の終了時に、この操作されたT細胞またはNK細胞を洗浄し、濃縮し、さらにその後冷凍することにより、試験、輸送、および患者が操作細胞の輸注を受ける準備が整うまでの保管のための時間を与える。
【0046】
「親和性」は、1つの分子の、他の分子への結合の強度である。抗原結合タンパク質のその標的への結合親和性は、平衡法(例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)もしくはラジオイムノアッセイ(RIA))、または動力学(例えばBIACORE(商標)解析)により測定してもよい。
【0047】
本明細書中で使用する「同種」という用語は、同一種の異なる動物に由来する任意の物質を指す。
【0048】
本明細書中で使用する「抗原」という用語は、抗原結合タンパク質により選択的に認識される高分子の構造を指す。抗原としては、1つ以上のT細胞エピトープを含むタンパク質(多糖を含むもの、もしくは含まないもの)またはタンパク質組成物が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で意図するように、抗原結合タンパク質の標的結合ドメインは、特定のアミノ酸配列よりも糖タンパク質の糖側鎖または高分子の糖側鎖を認識する場合がある。従って、この糖部分または硫酸化糖部分は抗原としての役割を果たす。
【0049】
本明細書中で使用する「抗腫瘍効果」という用語は、腫瘍成長の速度の低下、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少、転移の数の減少、平均余命の延長、または癌性症状に付随する様々な生理的症候の改善により顕在化しうる生物学的効果を指す。「抗腫瘍効果」はそもそも、腫瘍の発生の予防における本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞および抗体の能力によっても顕在化しうる。
【0050】
本明細書中で使用する「自己」という用語は、後に同一対象に再導入する予定の、該対象由来の任意の物質を指す。
【0051】
本明細書中で使用する「アビディティー」という用語は、例えば相互作用の結合価を考慮に入れた、複数部位における2分子の互いへの結合の強度の総計である。
【0052】
本明細書中で使用する場合、「癌」、「新生物」、および「腫瘍」という用語は、互換的に、かつ単数形または複数形で使用され、細胞を宿主生物にとって病的なものとする悪性転化を来した該細胞を指す。特定の実施形態において意図される組成物および方法により標的化できる細胞の例示的具体例としては、限定するものではないが、次の癌:滑膜肉腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、粘液型円形細胞脂肪肉腫(MRCLS)、および多発性骨髄腫(MM)が挙げられる。原発性癌細胞は、十分に確立された技術、特に組織学的検査により非癌性細胞と容易に識別することができる。癌細胞の定義には、本明細書中で使用する場合、原発性癌細胞だけでなく、癌原細胞に由来する任意の細胞も含まれる。これには転移した癌細胞、ならびに癌細胞に由来するin vitro培養物および細胞株が含まれる。通常は固形腫瘍として顕在化する癌の種類について言及する場合、「臨床的に検出可能な」腫瘍とは、例えば、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴映像法(MRI)、X線、超音波もしくは身体検査時の触診などの手法により腫瘍量に基づいて検出可能なもの、および/または患者から取得可能な試料における1つ以上の癌特異的抗原の発現のおかげで検出可能なものである。腫瘍は、「液性腫瘍」と称される場合がある、造血系の(または血液の、または血液学的な、または血液に関連する)癌、例えば、血液細胞または免疫細胞由来の癌でありうる。血液腫瘍に基づく臨床症状の具体例としては、白血病、例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病および急性リンパ球性白血病;形質細胞の悪性腫瘍、例えば、多発性骨髄腫、MGUSおよびWaldenstromマクログロブリン血症;リンパ腫、例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫などが挙げられる。
【0053】
前記癌は、リンパ性と骨髄性の両悪性腫瘍を含む、異常な数の芽細胞もしくは望ましくない細胞増殖が存在するかまたは血液癌と診断される任意の癌でありうる。骨髄性悪性腫瘍としては、限定するものではないが、急性骨髄性(myeloid)(または骨髄球性または骨髄性(myelogenous)または骨髄芽球性)白血病(未分化または分化)、急性前骨髄性(promyeloid)(または前骨髄球性または前骨髄性(promyelogenous)または前骨髄芽球性)白血病、急性骨髄単球性(または骨髄単芽球性)白血病、急性単球性(または単芽球性)白血病、赤白血病および巨核球性(または巨核芽球性)白血病が挙げられる。これらの白血病は、合わせて急性骨髄性(myeloid)(または骨髄球性または骨髄性(myelogenous))白血病(AML)と称される場合がある。骨髄性悪性腫瘍には骨髄増殖性疾患(MPD)も含まれ、例として、限定するものではないが、慢性骨髄性(myelogenous)(または骨髄性(myeloid))白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、本態性血小板血症(または血小板増加症)、および真性多血症(PCV)が挙げられる。骨髄性悪性腫瘍としては、不応性貧血(RA)、芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)、および移行期の芽球増加を伴う不応性貧血(RAEBT)と称される場合もある骨髄形成異常症(または骨髄異形成症候群またはMDS);ならびに特発性骨髄化生を伴うかまたは伴わない骨髄線維症(MFS)も挙げられる。
【0054】
造血系の癌にはリンパ性悪性腫瘍も含まれ、これはリンパ節、脾臓、骨髄、末梢血、および/または結節外の部位に影響を及ぼす場合がある。リンパ系の癌にはB細胞悪性腫瘍が含まれ、例として、限定するものではないが、B細胞性非ホジキンリンパ腫(B-NHL)が挙げられる。B-NHLは緩慢性(または低悪性度)、中悪性度(もしくは侵攻性)または高悪性度(高度侵攻性)でありうる。緩慢性B細胞リンパ腫としては、濾胞性リンパ腫(FL);小リンパ球性リンパ腫(SLL);辺縁体リンパ腫(MZL)、例えば、節性MZL、節外性MZL、脾MZLおよび絨毛リンパ球を伴う脾MZL;リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL);ならびに粘膜関連リンパ組織(MALTまたは節外性辺縁体)リンパ腫が挙げられる。中悪性度B-NHLとしては、白血病の関与を伴うかまたは伴わないマントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)、濾胞性大細胞(またはグレード3またはグレード3B)リンパ腫、および原発性縦隔リンパ腫(PML)が挙げられる。高悪性度B-NHLとしては、Burkittリンパ腫(BL)、Burkitt様リンパ腫、小非分割細胞性リンパ腫(SNCCL)およびリンパ芽球性リンパ腫が挙げられる。他のB-NHLとしては、免疫芽球性リンパ腫(または免疫細胞腫)、原発性滲出性リンパ腫、HIV関連(またはAIDS関連)リンパ腫、および移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)またはリンパ腫が挙げられる。B細胞悪性腫瘍としては、限定するものではないが、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、Waldenstromマクログロブリン血症(WM)、有毛細胞白血病(HCL)、大顆粒リンパ球性(LGL)白血病、急性リンパ系(またはリンパ球性またはリンパ芽球性)白血病、およびCastleman病も挙げられる。NHLにはT細胞性非ホジキンリンパ腫(T-NHL)も含まれ、例として、T細胞性非ホジキンリンパ腫・非特定型(NOS)、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、血管免疫芽球性リンパ節症(AILD)、鼻ナチュラルキラー(NK)細胞/T細胞リンパ腫、ガンマ/デルタリンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、菌状息肉症、およびSezary症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
造血系の癌としては、ホジキンリンパ腫(またはホジキン病)、例えば、古典的ホジキンリンパ腫、結節硬化型ホジキンリンパ腫、混合細胞型ホジキンリンパ腫、リンパ球優位型(LP)ホジキンリンパ腫、結節性LPホジキンリンパ腫、およびリンパ球減少型ホジキンリンパ腫も挙げられる。造血系の癌としては、多発性骨髄腫(MM)などの形質細胞性疾患または形質細胞癌、例えば、くすぶり型MM、意義不明の(または意義が未知の、または意義が不明瞭な)単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、形質細胞腫(骨、髄外性)、リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)、Waldenstromマクログロブリン血症、形質細胞性白血病、および原発性アミロイドーシス(AL)も挙げられる。造血系の癌としては、多形核白血球(または好中球)、好塩基球、好酸球、樹状細胞、血小板、赤血球およびナチュラルキラー細胞を含む、さらなる造血細胞の他の癌も挙げることができる。造血細胞を含み本明細書中では「造血細胞組織」と称される組織としては、骨髄;末梢血;胸腺;および末梢リンパ系組織、例えば脾臓、リンパ節、粘膜に関連するリンパ系組織(例えば、腸管関連リンパ系組織)、扁桃腺、パイエル板および虫垂、ならびに他の粘膜に関連するリンパ系組織、例えば、気管支内膜が挙げられる。
【0056】
「含む(comprising)」という用語は「含む(including)」または「からなる(consisting)」を包含し、例えばXを「含む」組成物は、Xのみからなるものであっても、または何らかの付加的なものを含んでいてもよく、例えば、X+Yである。
【0057】
「本質的に~からなる」という用語は、特徴の範囲を、指定の材料または段階、および特許請求された特徴の基本的特性(複数可)に実質的に影響を及ぼさない材料または段階に限定する。
【0058】
「からなる」という用語は、あらゆる追加の成分(複数可)の存在を除外する。
【0059】
本明細書中で使用する「細胞免疫療法」という用語は、免疫調節性細胞が、疾患を標的化するために遺伝的に改変されており、かつ後に患者に導入される療法の一種を指す。重要な焦点となる部分は、キメラ抗原受容体(CAR)または遺伝的に改変されたT細胞受容体(TCR)を、それらを標的特異的なものとするために免疫調節性細胞上に導入することである。
【0060】
本明細書中で使用する場合、「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含有する抗体または抗体断片の結合特性に有意に影響を与えないかまたは該結合特性を変更しないアミノ酸改変を指すものとする。かかる保存的改変としては、アミノ酸の置換、付加、および欠失が挙げられる。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR介在性突然変異誘発などの、当分野で公知の標準的な技術により本発明の抗体または抗体断片に導入することができる。保存的アミノ酸改変は、アミノ酸残基が、類似した側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられているものである。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当分野で定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。
【0061】
「ドメイン」という用語は、タンパク質の他の部分から独立してその3次元構造を保持する、折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般に、ドメインはタンパク質の個別の機能的特性を担っており、また多くの場合、該タンパク質および/または該ドメインの残部の機能を損なうことなく他のタンパク質に付加するか、他のタンパク質から除去するかまたは他のタンパク質に移入することができる。
【0062】
本明細書中で使用する「有効量」という用語は、治療的または予防的利益をもたらす量を意味する。
【0063】
「コードする」は、ヌクレオチドの定義された配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の定義された配列ならびに該配列から生じる生物学的特性を有する、生物学的過程で他の重合体および高分子の合成のための鋳型としての役割を果たすための、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどの、ポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定配列の固有の性質を指す。従って、遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳により細胞または他の生物系においてタンパク質が産生される場合、該遺伝子は該タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、かつ通常は配列表に記載されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖は共に、該遺伝子または該cDNAのタンパク質または他の産物をコードすると言うことができる。
【0064】
本明細書中で使用する「エピトープ」という用語は、特定の結合ドメイン、例えばTCR分子の標的結合ドメインと接触する抗原の一部を指す。エピトープは線状または構造的/不連続であってもよい。構造的または不連続エピトープは、他の配列により隔てられた、すなわち、抗原の一次配列中の連続配列の形ではないアミノ酸残基を含む。該残基はペプチド鎖の異なる領域からのものであってもよいが、それらは抗原の3次元構造内で近接している。多量体抗原の場合、構造的または不連続エピトープは異なるペプチド鎖からの残基を含む場合がある。エピトープに含まれる特定の残基は、コンピュータモデリングプログラムを通じて、またはX線結晶構造解析などの当分野で公知の方法を通じて取得した3次元構造を介して、決定することができる。本明細書中で意図されるように、前記用語エピトープは、グリコシル化タンパク質の糖部分などの、抗原結合タンパク質またはドメインにより認識されうるポリペプチドへの翻訳後修飾を含む。
【0065】
本明細書中で使用する「発現ベクター」という用語は、発現させるヌクレオチド配列に動作可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは発現のための十分なシス作用エレメントを含み、発現のための他の要素は、宿主細胞により、またはin vitro発現系で供給することができる。発現ベクターとしては、当分野で公知のもの全て、例えば、前記組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(例えば、裸のプラスミド、またはリポソームに含有させたプラスミド)ならびにウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0066】
本明細書中で使用する「免疫調節性細胞」という用語は、免疫応答において機能する細胞、またはその前駆細胞もしくは子孫細胞を指す。免疫調節性細胞の例としては、以下:炎症性、細胞傷害性、調節性もしくはヘルパーT細胞でありうるT細胞(Tリンパ球としても知られる);プラズマもしくは記憶B細胞でありうるB細胞(もしくはBリンパ球);ナチュラルキラー細胞;好中球;好酸球;好塩基球;マスト細胞;樹状細胞;またはマクロファージが挙げられる。
【0067】
「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書中では互換的に使用される。1実施形態において、該対象は、霊長類、例えばマーモセットまたはサル、またはヒトなどの哺乳動物である。さらなる実施形態において、該対象はヒトである。
【0068】
本明細書中で使用する「単離された(単離した)」という用語は、その自然状態から変更されているかまたは取り出されていることを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離された」ものではないが、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同一核酸またはペプチドは「単離された」ものである。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができるか、または例えば、宿主細胞などの非天然環境で存在することができる。
【0069】
本明細書中で使用する「レンチウイルスベクター」という用語は、特にMiloneら、Mol. Ther. 17(8):1453-1464 (2009)に記載されているような自己不活性化レンチウイルスベクターを含む、レンチウイルスゲノムの少なくとも一部に由来するベクターを意味する。pELPSベクターの代替物として診療所で使用しうる他の例またはレンチウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えば、Oxford BioMedicaからのLentiVector(登録商標)遺伝子送達技術、LentigenからのLentiMax(商標)ベクター系などが挙げられる。非臨床型のレンチウイルスベクターもまた利用可能であり、それらは当業者に公知であろう。
【0070】
本明細書中で使用する「レンチウイルス」という用語は、レトロウイルス科の1属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染可能である点でレトロウイルスの中でも独特であり、それらは相当量の遺伝情報を宿主細胞のDNAに送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、およびFIVは全て、レンチウイルスの例である。レンチウイルス由来のベクターは、in vivoで有意なレベルの遺伝導入を達成するための手段を提供する。
【0071】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびその1本鎖または2本鎖形態の重合体を指す。具体的に限定しない限り、該用語は、参照核酸と類似した結合特性を有しかつ天然に存在するヌクレオチドと類似した様式で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含有する核酸を包含する。別途指示しない限り、特定の核酸配列は、保存的に改変されたそのバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オーソログ、SNP、および相補的配列ならびに明確に示された配列も暗に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作成することにより達成しうる(Batzerら、Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsukaら、J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびRossoliniら、Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0072】
「作動可能に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現をもたらす機能的連結を指す。例えば、第1核酸配列が第2核酸配列との機能的関係に置かれている場合、該第1核酸配列は該第2核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与えるならば、該プロモーターは該コード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は連続しており、また2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合は、同じリーディングフレーム内にある。
【0073】
本明細書中で使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、互換的に使用され、またペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基からなる化合物を指す。タンパク質またはペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含有していなければならず、またタンパク質の配列またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドとしては、ペプチド結合により互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が挙げられる。本明細書中で使用する場合、前記用語は、例えば、一般に当分野でペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短鎖、ならびに通常は当分野でタンパク質と称されるより長い鎖の両方を指し、それらには多くの種類が存在する。「ポリペプチド」としては、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、改変ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質などが挙げられる。該ポリペプチドとしては、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
クエリー核酸配列と対象核酸配列との「同一性パーセント」は、対象核酸配列がペアワイズBLASTNアライメントを実施した後にクエリー核酸配列と100%のクエリー範囲(query coverage)を有する場合にBLASTNアルゴリズムにより算出される、パーセンテージとして表される「同一性」の値である。クエリー核酸配列と対象核酸配列とのかかるペアワイズBLASTNアライメントは、National Center for Biotechnology Instituteのウェブサイト上で利用可能なBLASTNアルゴリズムのデフォルト設定を、低複雑度領域のためのフィルタをオフにして利用することにより実施する。重要なことに、クエリー核酸配列は、本明細書中の1つ以上の請求項において特定される核酸配列により記載しうる。
【0075】
クエリーアミノ酸配列と対象アミノ酸配列との「同一性パーセント」は、対象アミノ酸配列がペアワイズBLASTPアライメントを実施した後にクエリーアミノ酸配列と100%のクエリー範囲を有する場合にBLASTPアルゴリズムにより算出される、パーセンテージとして表される「同一性」の値である。クエリーアミノ酸配列と対象アミノ酸配列とのかかるペアワイズBLASTPアライメントは、National Center for Biotechnology Instituteのウェブサイト上で利用可能なBLASTPアルゴリズムのデフォルト設定を、低複雑度領域のためのフィルタをオフにして利用することにより実施する。重要なことに、クエリーアミノ酸配列は、本明細書中の1つ以上の請求項において特定されるアミノ酸配列により記載しうる。
【0076】
前記クエリー配列は前記対象配列と100%同一であってもよいし、または前記クエリー配列は、同一性%が100%未満であるように前記対象配列と比較してアミノ酸またはヌクレオチドの変更をある一定の整数個まで含んでいてもよい。例えば、前記クエリー配列は、前記対象配列と少なくとも50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99%同一である。かかる変更としては、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換(例えば、保存的および非保存的置換)、または挿入が挙げられ、またその際、該変更は前記クエリー配列のアミノ-もしくはカルボキシ-末端位で、またはそれらの末端位置の間のどこかに、前記クエリー配列のアミノ酸もしくはヌクレオチド中に個々に、もしくは前記クエリー配列内の1つ以上の隣接したグループとして散在して、生じていてもよい。
【0077】
本明細書中で使用する「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するために必要な、細胞の合成機構、または導入された合成機構により認識されるDNA配列と定義される。本明細書中で使用する場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、該プロモーター/調節配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。幾つかの場合には、この配列はコアプロモーター配列であってもよく、また他の場合には、この配列は、前記遺伝子産物の発現に必要とされるエンハンサー配列および他の調節エレメントも含んでいてもよい。前記プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な様式で前記遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0078】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードするかまたは指定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合に、実質的に該プロモーターに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合にのみ該細胞において該遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0079】
本明細書中で使用する「配列同一性」とは、配列を比較することにより決定される、2つ以上のアミノ酸配列間、または2つ以上の核酸配列間の関連性の程度である。配列の比較および配列同一性の決定は、数学的アルゴリズムを利用して達成してもよく、当業者であれば、2つの配列を整列させて該配列間の同一性パーセントを決定するために利用可能なコンピュータプログラムを認識しているであろう。当業者であれば、異なるアルゴリズムによりわずかに異なる結果が生じうることを理解するであろう。
【0080】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするかまたは遺伝子により指定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合に、実質的に細胞が該プロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ該細胞内に遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0081】
抗体に関して本明細書中で使用する「特異的に結合する」という用語、およびその文法的変形は、試料中の特異的な抗原を認識しかつこれと結合するが、実質的に他の分子は認識しないかまたはそれらと結合しない抗体または抗体断片を意味する。例えば、1つの種から得た抗原に特異的に結合する抗体は、1つ以上の種から得たその抗原とも結合しうる。しかし、かかる異種間反応性それ自体は、特異的なものとしての抗体の分類を変更するものではない。別の例では、抗原に特異的に結合する抗体は、該抗原の異なる対立遺伝子形態にも結合しうる。しかし、かかる交差反応性それ自体は、特異的なものとしての抗体の分類を変更するものではない。幾つかの場合には、前記の「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質、またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関して、該相互作用が該化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するために使用することが可能であり、例えば、抗体は、タンパク質全体にではなく、特異的なタンパク質構造を認識しこれに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的であるならば、エピトープAを含有する分子(または遊離の、非標識A)の存在は、標識「A」および該抗体を含有する反応において、該抗体に結合する標識Aの量を減少させるであろう。
【0082】
「刺激」という用語は、免疫受容体を操作したTCR/CAR T細胞またはCAR NK細胞との関連において使用する場合、刺激分子(例えば、TCR/CD3またはCAR/CD3複合体)がその同族リガンドと結合し、それによってシグナル伝達事象、例えば、限定するものではないが、該CAR/CD3またはTCR/CD3複合体を介したシグナル伝達を媒介することにより誘導される一次応答を意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再編成などといった、ある特定の分子の発現の変更を媒介することができる。
【0083】
本明細書中で使用する「T細胞受容体」(「TCR」)という用語は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドとして抗原の断片を認識する、T細胞の表面上に存在する受容体を指す。天然のTCRはαβおよびγδ形態で存在し、これらの形態は構造的に類似しているが異なる場所に存在しており、異なる機能を有すると考えられている。該TCRの細胞外部分は2つの定常ドメインおよび2つの可変ドメインを有する。該可変ドメインは、該TCRの結合部位を形成し、かつ抗体の相補性決定領域(CDR)に類似する、多形性ループを含有する。細胞免疫療法との関連において、該TCRは通常、その抗原認識を変化させるかまたは改善するように、遺伝的に改変されている。例えば、WO01/055366およびWO2006/000830(これらの文献は、参照により本明細書中に組み込まれるものとする)には、T細胞を異種TCRでトランスフェクトするためのレトロウイルスベースの方法が記載されている。WO2005/113595(この文献は参照により本明細書中に組み込まれるものとする)には、高親和性NY-ESO T細胞受容体が記載されている。
【0084】
適切なTCRは、腫瘍抗原のペプチド断片を呈示する、癌細胞の表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に特異的に結合する。MHCは、獲得免疫系が「外来」分子を認識することを可能にする細胞表面タンパク質のセットである。タンパク質は、MHCにより細胞内で分解されて細胞の表面上に提示される。ウイルスまたは癌関連ペプチドなどの「外来」ペプチドを呈示するMHCは、適当なTCRを有するT細胞により認識され、細胞破壊経路を刺激する。癌細胞の表面上のMHCは、腫瘍抗原、すなわち、癌細胞上に存在するが対応する非癌性細胞上にはない抗原のペプチド断片を呈示しうる。これらのペプチド断片を認識するT細胞は、癌細胞に対して細胞傷害性効果を発揮しうる。
【0085】
幾つかの実施形態において、前記TCRの個々の鎖(例えばTCRαおよびTCRβ鎖)のコード配列は、切断認識配列によって隔てられている場合がある。これにより、前記TCRの鎖を、細胞内切断を受けて2つの別個のタンパク質を生成する単一融合物として発現させることができる。適切な切断認識配列は当分野で周知であり、例として2A-フューリン配列が挙げられる。
【0086】
好ましくは、前記TCRは、T細胞により天然に発現されることはない(すなわち、前記TCRは外因性または異種である)。異種TCRはαβTCRヘテロ二量体を含んでいてもよい。適切な異種TCRは、腫瘍抗原を発現する癌細胞に特異的に結合しうる。例えば、T細胞を改変することにより、特定の癌患者において癌細胞により発現される腫瘍抗原のペプチド断片を呈示するMHCに特異的に結合する異種TCRを発現させてもよい。該癌患者において癌細胞により発現される腫瘍抗原を、標準的な技術を利用して同定してもよい。
【0087】
異種TCRは、合成または人工TCR、すなわち、天然に存在しないTCRであってもよい。例えば、異種TCRを操作することにより、腫瘍抗原に対するその親和性またはアビディティーを増大させてもよい(すなわち、親和性を向上させたTCR)。この親和性向上TCRは、天然に存在するTCRと比較して1つ以上の変異、例えば、TCRαおよびβ鎖の可変領域の超可変相補性決定領域(CDR)に1つ以上の変異を含んでいてもよい。これらの変異は、癌細胞により発現される腫瘍抗原のペプチド断片を呈示するMHCに対するTCRの親和性を増大させる。作成した親和性向上TCRの適切な方法には、ファージまたは酵母ディスプレイを利用してTCR変異体のライブラリーをスクリーニングすることが含まれ、それらは当分野で周知である(例えば、Robbinsら J Immunol (2008) 180(9):6116;San Miguelら (2015) Cancer Cell 28 (3) 281-283;Schmittら (2013) Blood 122 348-256;Jiangら (2015) Cancer Discovery 5 901を参照されたい)。
【0088】
本明細書中で使用する「治療的(therapeutic)」という用語は、治療(treatment)および/または予防を意味する。治療的効果は、疾病状態の抑制、寛解、または根絶により得られる。
【0089】
「治療上有効な量」という用語は、研究者、獣医、医師または他の臨床医によって探し求められている、組織、系、または対象の生物学的または医学的応答を誘発するであろう被験化合物の量を指す。「治療上有効な量」という用語には、投与された場合に、治療下の障害または疾患の徴候または症候のうちの1つ以上の進行を予防する、またはある程度まで緩和するのに十分な、その化合物の量が含まれる。この治療上有効な量は、該化合物、該疾患およびその重症度ならびに治療する対象の年齢、体重などによって異なるであろう。
【0090】
本明細書中で使用する「トランスフェクトされた(した)」または「形質転換された(した)」または「形質導入された(した)」という用語は、外因性核酸を宿主細胞に移入または導入する過程を指す。「トランスフェクトされた(した)」または「形質転換された(した)」または「形質導入された(した)」細胞は、外因性核酸を用いてトランスフェクト、形質転換または形質導入された細胞である。該細胞には、初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0091】
本明細書中で使用する「移入ベクター(トランスファーベクター)」という用語は、単離された核酸を細胞の内部へ送達するために使用できる物質の組成物を指す。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結合したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含む、数多くのベクターが当分野で公知であるが、これらに限定されない。従って、「移入ベクター」という用語には、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスが含まれる。前記用語は、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどといった、細胞への核酸の導入を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性の化合物もさらに含むと解釈すべきである。ウイルス性の移入ベクターの例としては、限定するものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。
【0092】
本明細書中で使用する「治療する」という用語およびその文法的変形は、治療的な療法を意味する。特定の症状に関して、治療するとは、(1)該症状の生物学的発現のうちの1つ以上の状態を改善または予防すること、(2)(a)該症状をもたらすかもしくは該症状の原因である生物学的カスケードにおける1つ以上の点または(b)該症状の生物学的発現のうちの1つ以上に干渉すること、(3)該症状もしくはその治療に伴う症候、効果または副作用のうちの1つ以上を緩和すること、(4)該症状もしくは該症状の生物学的発現のうちの1つ以上の進行を緩徐化すること、および/あるいは(5)寛解の期間にわたって追加の治療を行うことなく、その発現に関して寛解の状態であるとみなされる期間、該症状の生物学的発現のうちの1つ以上を除去するかまたは検出不可能なレベルまで軽減することにより、該症状または該症状の生物学的発現のうちの1つ以上を治癒させることを意味する。当業者であれば、特定の疾患または症状に関して寛解とみなされる期間を理解されよう。予防的療法もまた、それによって意図される。当業者であれば、「予防」が絶対的な用語ではないことは認識されよう。医学においては、「予防」は、症状もしくはその生物学的発現の尤度もしくは重症度を実質的に低減するため、またはかかる症状もしくはその生物学的発現の発生を遅延させるための、薬剤の予防的投与を指すものと理解される。予防的療法は、例えば、対象が癌の強い家族歴を有する場合または対象が発癌物質に曝露されていた場合などの、対象が癌を発症するリスクが高いとみなされる場合に適当である。
【0093】
本明細書中で使用する「転写調節下」または「動作可能に連結された」という表現は、プロモーターが、ポリヌクレオチドに関して、該ポリヌクレオチドのRNAポリメラーゼによる転写の開始および発現を制御するために、正しい位置および向きにあることを意味する。
【0094】
「ベクター」は、別の核酸分子を移入させるかまたは輸送することができる核酸分子を含む物質の組成物である。移入される核酸は一般に、該ベクターの核酸分子に連結され、例えば、該ベクターの核酸分子内に挿入される。ベクターは、細胞内での自律複製を指示する配列を含んでいてもよいし、または宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに十分な配列を含んでいてもよい。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損性のレトロウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。
(実施例)
【実施例1】
【0095】
実施例1:クローニング戦略および結果
単一のCD8α_F2A_NY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβTCR ORFをコードするレンチウイルスベクター導入遺伝子発現プラスミドを構築した。該プラスミドは、T細胞への形質導入後に、組み込まれたベクター導入遺伝子カセットが、各2A部分の末端での翻訳時のペプチド結合スキッピングにより3つの個別のタンパク質の各々を産生するための鋳型として働くように設計した。設計図中の残存するC末端の2A部分は、その後フューリンプロテアーゼ切断により除去した。得られたCD8αタンパク質は、ホモ二量体を形成することにより、親和性向上NY-ESOα/βTCRによるクラスIペプチド-HLA抗原の結合を補助する。
【0096】
CD8α_F2A_NY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβをコードする完全長配列は、オーバーラップPCRによる2つの別個のPCR断片の融合により作成した。第1 PCR断片は、CD8αをC末端のフューリン/SGSGリンカー配列と共にコードする。第2 PCR断片は、N末端のフューリン/SGSGリンカー配列をF2AスキップペプチドおよびNY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβTCR配列と共にコードする。該フューリン/SGSGリンカー配列をコードするヌクレオチド配列は、これら2つのPCR産物間に相補的な領域を提供する。このPCR戦略の模式図を
図1に示す。
【0097】
PCR産物1は、CD8αおよびF2Aペプチドを自社TCR配列と共にインフレームでコードする既存の自社プラスミドから増幅した。この断片は、開始ATGのすぐ上流に5' Nhel部位およびKozak配列GCTAGCCGCCACCも含有する。PCR産物1を、プライマーであるLenti_eF1a (AGGCCAGCTTGGCACTTGAT)およびフューリン_CD8_rev (ACCACTACCACTTCTTTTAGCTCTTGAACCGACGTATCTCGCCGAAAGGC)を用いて増幅した。これらのプライマーを用いた増幅により、871 bpの産物が生成した(前記プライマーLenti_eF1aはEF1aプロモーター領域内に位置しており、従ってPCR産物1はNheIによる消化後に除去される該EF1aプロモーターの部分的断片をコードしていることに留意されたい)。
【0098】
PCR産物2は、介在するF2Aペプチドと共にNY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβTCR配列に融合させた追加の遺伝子をコードする別個の自社プラスミドから増幅した。PCR産物2は、プライマーであるフューリンF2AF(GGTTCAAGAGCTAAAAGAAGTGGTAGTGGTGCCCCTGTGAAGCAGACC)およびLenti WDCHr(CGTATCCACATAGCGTAAAAGG)を用いて増幅した。これらのプライマーを用いた増幅により、2038 bpの産物が生成した。この断片は、TAA終止コドンの直後に3' SalI GTCGAC部位を有するTCR配列をコードする(前記プライマーLenti WDCHrはそのレンチ骨格(WPRE配列)内に位置しており、またこの付加配列はSalIによる消化後に除去されることに留意されたい)。
【0099】
PCR後、両産物をゲル抽出により精製し、さらに前記の5'プライマーLenti_eF1aおよび前記の3'プライマーLenti WDCHrを用いるオーバーラップPCRにより互いに融合した。この増幅により、2879 bpの産物が生成した。完全長CD8α_F2A_NY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβ配列の増幅後、このPCR産物をゲル精製してからNheIおよびSalIで消化した。消化した産物を、固有のNheIおよびSalI部位の間のレンチベクター骨格内にライゲーションした。このライゲーションで得たクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによりスクリーニングした。単一クローンを、メガプレップスケールでのプラスミドDNAのさらなる精製のために選択した。
【0100】
前記WPRE配列を除去した新規レンチベクター骨格を自社で作成した。前記CD8α_F2A_NY-ESOc259αTCR_P2A_NY-ESOwtβコード配列を、上記で作成した構築物からNheIおよびSalIを用いた制限消化により取り出し、さらに固有のNheIおよびSalI制限部位の間の新規骨格にサブクローニングした。これにより、レンチベクターADB1035を作製した。バリアントであるADB1035_kanのベクターマップを
図2に示す。
【実施例2】
【0101】
実施例2:T細胞活性化に与えるCD8α発現の影響
CD40リガンド(CD40L(CD154としても知られている))は、活性化T細胞で主に発現され、CD4+T細胞で選択的に発現される。CD40リガンドは抗原提示細胞(APC)上のCD40に結合する共刺激分子として働く。CD40-CD40L相互作用は、APCに抗原特異的ナイーブCD8+T細胞を活性化する許可を与える。CD40リガンドは、TCR媒介性シグナル伝達ならびに抗CD3標的化などの非生理的刺激に応答して発現され、また一過性に発現される(TCR活性化の5分後から6時間)。
【0102】
CD40Lは、抗原に応答した初期T細胞活性化のマーカーとして使用し、またCD4+T細胞において測定した。3人のドナーから得た模擬臨床スケールのウェーブ(Wave)T細胞(ウェーブ124、147、149)を標的細胞と共に5時間インキュベートしてから、細胞内のCD40Lについて染色した。使用した標的細胞は、A375(NY-ESO-1+/LAGE-1A-)、Mel624(NY-ESO-1+/LAGE-1A+)および陰性対照HCT-116(NY-ESO-1/LAGE-1A-)であった。追加のNY-ESO-1ペプチドLLMWITQCを含有するウェルを陽性対照として含め、またT細胞単独(無刺激)をCD40Lのベースラインを反映する陰性対照として含めた。結果を
図3に示す。細胞表面上にc259 TCRを発現しているNY-ESO-1
c259 T細胞を、内因性TCRへのわずかな交差結合(約5%)を伴う、NY-ESO-1
c259 TCRを認識する抗体を使用して細胞を流動選別することにより同定した。形質導入された細胞を、以後Vbeta+と定義する。データは、抗原陽性標的細胞(A375およびMel624)を非形質導入(ntd)T細胞と比較して提示した場合の、NY-ESO-1
c259 CD4+T細胞によるCD40Lの一貫したアップレギュレーションを示している。このことは、CD40Lが抗原に応答してアップレギュレートされること、および測定可能であることを裏付けている。NY-ESO-1
c259 T CD4+T細胞と比較すると、CD8αNY-ESO-1
c259 CD4+T細胞からのさらなる応答は非常に変動的であったが、CD8α共発現によるCD40L発現増強の傾向が見られた。その少ない試料数(n=2または3)のために、統計学的有意性は限定的である。前記3ウェーブの各々についてのデータを(平均値の平均をとることにより)統合すると、NY-ESO-1
c259 T形質導入CD4+T細胞と比較して、CD8αNY-ESO-1
c259 T形質導入CD4+T細胞からの応答に若干ではあるが統計学的に有意な差異が、A375細胞でチャレンジした場合に認められた(p=0.0232)が、Mel624では認められなかった(p=0.0979)。
【0103】
概して、抗原陽性細胞曝露に応答した前記のCD40Lアップレギュレーションは、その少ない試料数により統計解析が制限されるものの、NY-ESO1c259 T CD4+細胞に対する、CD8αNY-ESO-1c259 CD4+T細胞における活性化増強の傾向を示唆している。
【実施例3】
【0104】
実施例3:抗原特異的T細胞増殖
CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の増殖に与えるCD8αホモ二量体共受容体の影響を判定するために、抗原陽性(A375)および陰性(HCT-116)細胞株に応答する、ntd、NY-ESO
c259 T、またはCD8αNY-ESO
c259 T細胞内のCD4+Vbeta+およびCD4+Vbeta-T細胞サブセットのフローサイトメトリーに基づく増殖アッセイを、3ドナー(ウェーブ128、147および149)に対して実施した。ウェーブ128は血清を用いずに増殖させたが、ウェーブ147および149は血清を用いて増殖させた。CD4+T細胞に関してこれら3ドナーから得たデータの複合解析を
図4に示す。増殖期のCD4+Vbeta+(%分裂(divided);A)およびCD4+Vbeta-(%分裂;B)のパーセンテージを、3ドナー:ウェーブ147、ウェーブ149およびウェーブ128にわたる平均±SEMとして示す(統合)。細胞は、3日間単独で(Tのみ)培養するか、または抗原陽性(A375)もしくは抗原陰性(HCT-116)細胞株と共培養した。統計学的有意性は、対応のある両側t検定を利用して評価した。抗原に応答したCD8+Vbeta-細胞の増殖が同一の培養条件で観察された。これは恐らく、抗原によって駆動されたのではなく、むしろ増殖期のVbeta+T細胞から放出されたサイトカインによって誘導された副次的効果である。
【0105】
CD4+T細胞は、通常はMHCクラスI分子と結合したペプチドを認識しない。しかし、前記のNY-ESO-1c259 TCRの高親和性のおかげで、CD4+T細胞もはやそれらの活性化のために共受容体ライゲーションに完全に依存することはない。試験した全3ドナーを通して一貫して、CD8αとNY-ESO-1c259 TCRの両方をコードするベクターを用いて形質導入した場合、抗原に応答したCD4+形質導入T細胞の増殖増強の傾向が見られる。
【0106】
抗原特異的増殖を、同様に、NY-ESO-1陽性細胞株A375に応答したVbeta+CD8+およびCD4+T細胞サブセットの増殖指数(PI)を算出することによって評価した(
図5)。該PIは、全応答細胞の分裂の平均数に相当する。
【0107】
このアッセイにおいて、青紫色の増殖色素(VPD450)を負荷した細胞は、その色素を娘細胞間に均等に分配する。フローサイトメトリーアッセイにおける該色素の減少は、細胞分裂、ひいては増殖を示す。休止期のT細胞をVPD450で染色し、さらに単独で、または抗原提示細胞との共培養として(T細胞:標的細胞比=5:1)インキュベートしてから、10-5 MのNY-ESO-1ペプチドSLLMWITQCの存在下または非存在下で3日間、標的細胞に放射線を照射した。PIは、分裂に入った細胞の数で割った分裂の総数として算出する。該PIは少なくとも1回の分裂を経た細胞を考慮するのみであるため、応答細胞だけが該PIに反映される。
【0108】
前記PIを、3つの異なるドナー(ウェーブ128、ウェーブ147およびウェーブ149)からntd、NY-ESO-1
c259 TおよびCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞について算出し(
図5)、さらにそのデータの複合解析を、これら3つのT細胞ドナーウェーブのPIの平均をとることにより実行した(
図5、下パネル)。
【0109】
図5に見られるように、CD8+T細胞に関してはPIに統計学的に有意な差異は認められなかったが、CD4+Vbeta+T細胞は、複合解析でNY-ESO-1
c259 T細胞よりもCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞においてより大きな程度まで増殖した(p<0.05)。ウェーブスケールはウェーブの複合解析において有意性を示したが、研究スケールの増殖データはNY-ESO-1
c259 T細胞に対してCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の一貫した、または有意な増殖増大を示さなかった。研究スケールとウェーブスケールを比較すると、プロトコルに幾つかの違いはあるものの、それら2つの方法間で結果に差異が見られる理由は明らかではない。
【実施例4】
【0110】
実施例4:CD4+細胞Th1およびTh2サイトカイン応答に与えるCD8α発現の影響
ナイーブCD4+T細胞は、活性化後に、異なるサイトカインの組み合わせを分泌する別個のサブセットに分極する。これらのサブセットのうち最初に定義されかつ最も特徴付けられているのはTh1およびTh2サブセットである。Th1細胞は、IFN-γ、TNFαおよびIL2などのサイトカインの分泌を特徴とする。それらは主に、CD8+T細胞応答を増強することにより、またはマクロファージを直接活性化して細胞内病原体を貪食させることにより、細胞内の病原体に対する免疫応答に関与すると考えられている。対照的に、Th2細胞は、典型的には、B細胞の増殖および分化ならびに抗体のクラススイッチを支持することにより体液性免疫にとって重要であると考えられる特徴的なサイトカインIL4、IL5およびIL13を分泌する(KimおよびCantor, Cancer Immunol Res. 2014 Feb;2(2):91-8)。
【0111】
Th1細胞は、CD8+T細胞のプライミングおよび増殖を増強する大量のIFN-γの産生に起因しうる、Th2細胞より強力な抗腫瘍効果を有すると考えられる。さらに、Th1細胞は、腫瘍を根絶するために共に作用しうるナチュラルキラー(NK)細胞およびI型マクロファージを含む他の免疫細胞を、該腫瘍部位へ動員するのを助ける。Th1細胞、およびそれらが産生するIFN-γなどのサイトカインは、多くの癌種についての良好な臨床転帰と強く関連している(Fridmanら、Nat Rev Cancer. 2012 Mar 15;12(4):298-306)。対照的に、Th2細胞は代わりに一部の癌において腫瘍成長を促進しうること(KimおよびCantor)、また多くの場合、不良な臨床転帰および進行性の腫瘍と関連していること(Fridmanら)を示唆する証拠がある。従って、CD8αを形質導入したCD4+T細胞によるTh1サイトカインの誘導または増強は、腫瘍微小環境内では望ましいと考えられるが、一方でTh2表現型への偏り(skewing)はあまり好ましくない場合がある。
【0112】
NY-ESO-1c259 T TCRまたはCD8αNY-ESO-1c259 T非分離PBLまたはCD4+のみの画分をNY-ESO-1抗原でチャレンジした場合の、25のサイトカインおよびケモカインのパネルの分泌における変化を、Luminex(商標)Magpix(登録商標)システムを利用して測定した。細胞をVbeta形質導入に対して標準化し、さらにT2細胞(各図面のパネルA)または抗原陽性A375細胞株(各図面のパネルB)により提示される漸増濃度の抗原性NY-ESO-1ペプチドと共にインキュベートした。T2細胞は、抗原処理に関連するペプチドトランスポーター(TAP)を欠損しており、そのため内因性MHC-ペプチド複合体を提示できない。上清を24および48時間後に収穫した。CD4+ヘルパー機能と関連することが知られている、選択したTh1サイトカイン(IL-2、GM-CSF、IFN-γ、TNFα)およびTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-10およびIL-13)について検討した。
【0113】
Th1サイトカイン応答-前臨床ウェーブスケールデータ
インターロイキン-2(IL-2)は、T細胞の応答および機能の促進および制御の両方において重要な役割を果たす、Tリンパ球の成長、生存および分化因子である。IL-2は主にCD4+T細胞により活性化後早期に産生され、自己分泌または傍分泌の様式で作用することができる。IL-2はCD4+およびCD8+T細胞の生存、増殖および分化を刺激する。
図6は、Luminex(商標)MAGPIX(登録商標)アッセイによるIL-2放出解析を、各ドナー(ウェーブ124(ACL118、ACL120)、ウェーブ147(ACL112、ACL119)、ウェーブ149(ACL111、ACL114)および非分離(PBL)またはCD4濃縮(CD4)T細胞についてプロットした個々のパネルを用いて示したものである。NY-ESO-1ペプチドによる刺激時に、形質導入非分離T細胞およびCD4(+)-濃縮画分は共にIL-2の用量依存的な放出を示した。調べた3ドナーのうちの2つについては、CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞がNY-ESO-1
c259 T細胞に関してより低い濃度のペプチドで応答した。該CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞のこのより高い感受性は、48時間時点でのEC50値のログシフトに反映されており、またCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞は抗原が少ない細胞と関わる場合により有効でありうることを示唆している。ウェーブ147は、恐らくはドナーの変動(バリエーション)のために、同じようには応答しなかった。
【0114】
インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)は、活性化CD4+およびCD8+T細胞により(ただし、主に活性化CD8+T細胞により)、ならびにNK細胞により産生される。IFN-γは、MHC分子および抗原処理に関与するタンパク質の多くの発現を刺激することにより、T細胞への抗原の提示を促進する。またIFN-γは、これらの作用を、CD4+T細胞のIFN-γ産生Th1サブセットへの分化を促進しかつTh2およびTh17細胞の発達を阻害することにより、増幅する。IFN-γは主要なマクロファージ活性化サイトカインでもある。
【0115】
腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)は、多くの異なる微生物産物に応答して、主に組織マクロファージおよび樹状細胞により、ただし脂肪細胞、CD4 T細胞および線維芽細胞を含む他の細胞型によっても分泌される、炎症誘発性サイトカインである。TNFαは白血球に対する血管内皮の接着性を増強し、かつ経内皮遊走を促進する。またTNFαは、MHC誘導およびマクロファージ活性化を含むその作用の多くにおいてIFN-γとの相乗作用を示す。TNFαは、細菌および他の感染性微生物に対する免疫応答を媒介する上で必須の因子であり、また多種多様な腫瘍細胞に対して細胞傷害性である。
【0116】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、最近になって前立腺癌ワクチンの治験においてネオアジュバントとして試験され、腫瘍微小環境へのCD8+細胞傷害性T細胞の動員を増強することが証明された。GM-CSFは、細胞傷害性免疫応答の開始に関与するDCサブセットである1型樹状細胞(DC1)の数および活性の両方を選択的に増強することが示されている。
【0117】
IL2と同様の結果が、Th1サイトカインであるIFN-γ、TNFαおよびGM-CSFに関して3ドナーのうち2つで見られ、これらのサイトカインの量は、48時間の時点でNY-ESO-1c259 TCR単独と比較してCD8αNY-ESO-1c259 Tの場合に大きく上昇し、多くは数倍であった。これと対応して、NY-ESO-1c259 Tと比較した場合にCD8αNY-ESO-1c259 Tによってより低いペプチド濃度を用いて同等の分析物応答が得られたが、これらの変化はIL2の場合に見られたものと同じEC50値のシフトには反映されなかった。これらの結論はたった2つのドナーに基づくものであり、その上ウェーブ147は外れ値であるため、統計分析は実施できなかったということに留意すべきである。
【0118】
2Dアッセイに加えて、抗原陽性3Dスフェロイドに対するT細胞の応答を、IFN-γを測定することにより判定した(
図7)。上清をT細胞添加の139時間後に回収し、さらに該上清中のIFN-γのレベルをELISAにより測定した。グラフは、A375-GFP 3Dスフェロイドと共に、10μMのNY-ESO-1 SLLMWITQCペプチドを使用して(中が塗りつぶされていない記号)、または使用せずに(中が塗りつぶされた記号)インキュベートした末梢血リンパ球(PBL)、CD4+もしくはNY-ESO-1
c259 T、CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞または非形質導入(ntd)T細胞により産生されたサイトカインのレベルを示している。個別の反復実験を示す。ペプチド不使用の条件は全て3連とし、またはペプチドを使用して1連とした。ペプチド不使用の全画分およびドナーに対して、CD8αNY-ESO-1
c259 TおよびCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞により放出されるIFN-γを比較する、対応のない両側t検定を実施した(df=全て4、ns=有意差なし、
*=p<0.05、
**=p<0.01)。これらのデータは、中および大規模3DスフェロイドA375-GFP 3Dスフェロイドの両方に応答した、ウェーブ147および149の両方についてのCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞によるより大きなIFN-γ応答を示している(p<0.05またはp<0.01)。
【0119】
Th2サイトカイン応答
Th2 CD4+T細胞は、養子免疫応答に関して抑制性であるとみなされており、また不良な癌の予後と関連付けられている。最も広く記載されているTh2サイトカインであるIL4、IL5、IL10およびIL13について、本研究で調べた。
【0120】
研究スケールでは、CD8αNY-ESO-1c259 T細胞またはNY-ESO-1c259 T細胞からのTh2サイトカインの有意な産生は認められなかった。前臨床スケールでは、全般的に、T2細胞を使用しての外因性NY-ESO-1ペプチドに応答したTCR-形質導入CD4+T細胞によるTh2サイトカイン放出は、アッセイの検出限界に近かった。ウェーブ149 CD8αNY-ESO-1c259 T CD4+T細胞だけが相当量のIL-4およびIL-13を分泌した(データは示さず)。概して、NY-ESO-1ペプチドに対するTh2サイトカイン応答は、非常にドナー依存性であるように思われ、また各ドナーに存在する固有のTh1/Th2バランスに左右される場合がある。内因性ペプチド-MHCクラスI複合体でチャレンジした場合、CD4+T細胞は一般にバックグラウンドレベルのサイトカインを生じる。わずかなNY-ESO-1指向型応答がIL-4分泌に関して観察されたが、CD8αNY-ESO-1c259 TとNY-ESO-1の差異はごくわずかであった。
【実施例5】
【0121】
実施例5:他のサイトカインおよびケモカインのNY-ESO-1c259 CD4+T細胞放出に与えるCD8α発現の影響
Th1およびTh2の応答に加えて、さらなるサイトカインおよびケモカインのレベルを調べた。NY-ESO-1c259 T細胞とCD8αNY-ESO-1c259 T細胞の重要な差異を表1に要約する。
【0122】
【0123】
表1の結果から、CD4+CD8αNY-ESO-1c259 T細胞は、エフェクターT細胞の動員を媒介する多くのケモカインおよびサイトカインを分泌し、CD4+NY-ESO-1c259 T細胞と比較してレベル上昇の傾向を伴うことが観察された。これらのものとしては、癌においてHLAクラス1をアップレギュレートすることが示されているIFNα;活性化T細胞を動員する上で重要な役割を果たすと考えられており、かつマウスにおける血管新生の強力な阻害物質であるケモカインIP-10;ならびにNK細胞および記憶T細胞を含む多くの細胞型にとって強力な化学遊走物質であるRANTESが挙げられる。これらの結果は、CD8αの共発現がT細胞の移動および追加の抗腫瘍効果の増大をもたらす場合があることを示している可能性がある。
【実施例6】
【0124】
実施例6:CD8α共発現によるグランザイムBの発現の増強
グランザイムBは、CTLの顆粒中に見出されるセリンプロテアーゼである。グランザイムBはT細胞により放出され、その取込みはアポトーシスカスケードおよび標的細胞の死滅(殺細胞)を引き起こす。そのため、その発現はT細胞の死滅活性(殺細胞活性)のサロゲートである。形質導入T細胞の細胞傷害性機能を、A375細胞と共培養した24時間および48時間共培養アッセイ(Th1/Th2サイトカイン応答)から回収した上清においてグランザイムB ELISAにより評価した(
図8)。抗原陽性A375細胞を用いてチャレンジした場合、概して、NY-ESO-1
c259 T細胞と比較してCD8αNY-ESO-1
c259 Tからより多くのグランザイムBが分泌される傾向があり、特にウェーブ124および149からのCD4+単離細胞ではそうであった。その差異は小さいが、グランザイムBを介した死滅(殺細胞)はCD4+T細胞にとって小規模な機能であり、そのため小さな差異ですら注目に値する。この傾向は、TCR-形質導入CD4+T細胞がクラスI MHC複合体上に提示される抗原により良好に応答するのを助ける、CD8α共受容体の前記の提案された機能を裏付けている。
【0125】
グランザイムBを測定するNY-ESO-1ペプチド希釈アッセイも実施した。より高いペプチド濃度では、このアッセイは、はNY-ESO-1c259 Tと比較してCD8αNY-ESO-1c259 Tからのより大きな応答の傾向を示した。
【0126】
3次元(3D)細胞培養アッセイにおけるグランザイムBの発現
幾つかのアッセイ(例えば、グランザイムBおよび細胞傷害性)を3Dスフェロイド系で実行した。GFPをコードするベクターで形質導入したA375ヒト黒色腫細胞(A375-GFP)を、細胞が接着しないコーティング(cell-repellent coating)を施したプレートで増殖させることにより、細胞の互いへの接着を促進して3D細胞構造体を形成させた。細胞を2つの異なる密度で播種することにより、「中」(直径400μm)および「大」(直径500μm)構造体を作製した。形質導入効率に対して標準化したウェーブスケールのT細胞を次に添加した。このアッセイに関しては、2つのウェーブ147および149を試験した。このグランザイムBアッセイの結果を
図9に示す。上清をT細胞添加の139時間後に回収してから、該上清中のグランザイムBのレベルをELISAにより測定した。
図9のグラフは、10μMのNY-ESO-1 SLLMWITQCペプチドを使用して、または使用せずに、A375-GFP 3D微小組織と共にインキュベートした末梢血リンパ球(PBL)、CD4+もしくはCD8+NY-ESO-1
c259 T細胞、CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞、またはntd T細胞により産生されたサイトカインのレベルを示している。個別の反復実験を示す。ペプチド不使用の条件は全て3連(三重反復)とし、またはペプチド使用時は1連とした。対応のない両側t検定を実施した。
図9は、両ウェーブに関して、CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞がNY-ESO-1
c259 T細胞よりも多くのグランザイムBを産生し、結果が統計学的有意性に達したことを示している。ウェーブ147の場合、これは両サイズの3D細胞構造体:400μM(P<0.01)および500μM(p<0.0001)において見られ、ウェーブ149の場合は500μMサイズでのみ見られた(p<0.01)。
【実施例7】
【0127】
実施例7:CD8αT細胞の細胞傷害性
CD8αNY-ESO-1c259 T細胞をNY-ESO-1c259 T細胞と比較する、3セットの細胞傷害性T細胞死滅アッセイ、すなわち、研究スケール、2D細胞培養物および3D細胞培養物死滅アッセイにおける前臨床ウェーブスケールを実行した。
【0128】
CD8αの研究スケールの細胞傷害性
研究スケールで、7人のドナーから得たPBL、CD4+およびCD8+細胞を全血から分離し、形質導入し、14日間増殖させてからアッセイを行った。NY-ESO-1に対して親和性を示さない模擬TCR(TCR1)を対照として使用した。HLA-A2+/NY-ESO-1+ヒト黒色腫細胞株A375、SKMel37およびNY-ESO-1抗原陰性細胞HepG2を標的細胞として使用した。細胞をSLLMWITQVまたはTC1ペプチドでパルスでした。形質導入効率は、同一ドナーから得た非形質導入T細胞の追加により標準化した。エフェクターT細胞死滅は、CellPlayer(商標) 96-Well Kinetic Caspase-3/7試薬(Essen Biosciences)を使用しIncyCyte Zoomシステムで取得した画像を用いて測定した。データ画像は、T細胞の添加後2時間毎に、最長で96時間にわたって取得した。画像を解析したが、これは解析から死/瀕死エフェクター細胞を取り除くための除外ゲートを伴った。A375標的細胞に対する、NY-ESO-1
c259 T細胞と比較したCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の細胞傷害性活性の曲線下面積(AUC)測定値は、解析した全ドナーについて、死滅(殺細胞)のピークが51時間で生じたという仮説に沿うものであったため、0~51時間のAUCを使用した。
図10は、前記標的細胞がA375である1ドナーについての代表的な曲線を示しており、また
図11は前記標的細胞がA375である7ドナーに関する総体的な集団的AUC解析を示している。
【0129】
試験した全7ドナーについて、c259 TCRのみを形質導入したPBLおよびCD8+T細胞は、NY-ESO-1を発現するA375細胞を強力に死滅させることができた。CD4+NY-ESO-1
c259 T細胞は同一標的細胞に対して低下したレベルを示すかまたは死滅を示さなかったが、CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞はA375細胞を死滅させるその能力に有意な改善を示した(
図11)。CD8+T細胞の、このより迅速な死滅(殺細胞)の動力学は、CD8αをCD8画分中およびPBL中でNY-ESO-1
c259 TCRと共発現させた場合の死滅(殺細胞)におけるあらゆる改善を覆い隠した可能性がある(
図8および9)。前記のA375標的をNY-ESOペプチドでパルスした場合、c259 TCRのみ、またはCD8αc259を形質導入したCD4+T細胞による死滅は比較可能であった。
【0130】
前記データは、CD4 T細胞におけるCD8αのc259 TCRとの共発現が、TCR-pMHC相互作用の結合アビディティーを増大させることによりそれらの細胞のペプチド感受性を増強したことを示唆している。このことは、抗原のレベルが、前記標的細胞を高レベルの同族ペプチドでパルスした際にNY-ESO-1
c259 T細胞とCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞の間で差異が観察されないほど低い場合に、重要でありうる(
図8を参照されたい)。さらに、死滅(殺細胞)における前記改善はTCRにより駆動される。なぜならば、抗原陰性標的に対して、または、T細胞においてCD8αを無関係なTCR1と共発現させたときに、非特異的死滅(殺細胞)が観察されなかったからである(
図11)。
【0131】
前記細胞株SKMel37に関して、7ドナー中5ドナーで、CD4+NY-ESO-1c259細胞と比較してCD8αNY-ESO-1c259 CD4+細胞により死滅(殺細胞)が増大する傾向を伴う同様の結果が見られたが、このデータの正式な統計分析は行わなかった。死滅の動力学は、A375の場合よりも遅く、これはより低い抗原レベルの結果のためであり得る。
【0132】
前臨床ウェーブスケールの細胞傷害性データ
NY-ESO-1c259 T細胞と比較したCD8αNY-ESO-1c259 T細胞の細胞傷害性をさらに評価するために、抗原陽性細胞株A375、NCI-H1755、Mel624ならびに陰性対照株Colo205.A2、Caski.A2およびHCT-116を用いてIncuCyte死滅アッセイを実施した。これらのアッセイは、臨床試験用の細胞製品をよりうまく模倣するために、ウェーブスケール(2リットル培養バッグ)で増殖させたT細胞を使用して実施した。
【0133】
標的細胞を、PBLと並行して、単離したCD4+T細胞と共にインキュベートした。CD8αNY-ESO-1
c259 T細胞およびNY-ESO-1
c259 T細胞を同様に、各アッセイ前および細胞分離前に形質導入効率(総Vbeta+)に対して標準化した。NY-ESO-1 SLLMWITQCペプチドを含む追加の試料を各アッセイに含めることで、標的細胞が抗原を提示するその能力およびT細胞機能性について照合した。
図12は、アッセイを行った抗原陽性細胞株の1つ、Mel624についての結果を示している。Mel624細胞を、384ウェルフォーマットプレートの各ウェルに播種した。T細胞は、非分離ウェーブ生成物(PBL)またはCD4+濃縮画分とした。画像は、IncuCyte Zoomで2時間毎に、96時間という期間にわたって撮影した。
図12中のパネルは、全アッセイに関してNY-ESO-1
c259 T細胞応答と比較した比として表し(ウェーブ124およびウェーブ147から得たデータと組み合わせた両ウェーブ149アッセイの平均AUC)、かつ過剰な培養密度または栄養欠乏のためにntd T細胞で処理した標的細胞が死に始める時点である72時間の時点で算出した、曲線下面積(AUC)を示している。各点は1アッセイ/ウェーブT細胞を意味している。統計学的有意性は対応のあるt検定により評価した。
【0134】
図12は、統計学的有意性に達しなかった、NY-ESO-1
c259 T細胞と対比したCD8αNY-ESO-1
c259 T細胞のCD4+画分による死滅(殺細胞)増大の傾向を示している。非常に類似した結果が他の抗原陽性細胞株A375およびNCI-1755について得られた(データは示さず)。
【0135】
前臨床ウェーブバッグT細胞作製用の培養条件には、実験の研究スケールのパッケージのために使用する培養条件と比較すると差異が存在する。これにより、細胞死滅に与えるCD8αの影響における、前記研究および前記前臨床実験間の差異の一部の説明がつく場合があり、例えば、恐らく、前記研究および前記前臨床T細胞プロセス間のCD3/CD28ビーズの除去の時点での差異が、培養時にin vitroで示差的なT細胞活性化状態をもたらした。
【0136】
前臨床ウェーブスケールの3Dスフェロイド細胞傷害性アッセイ
NY-ESO-1を発現する、HLA-A*02陽性A375-GFP細胞を、細胞が接着しないコーティングを施したプレートで増殖させることにより、細胞の互いへの接着を促進して3D細胞スフェロイドを形成させた。細胞を2つの異なる密度で播種することにより、「中」(直径400μm)および「大」(直径500μm)の3D「細胞構造体」を作製した。ウェーブスケールのT細胞を、前記アッセイへの添加前に形質導入効率に対して標準化した。
【0137】
中および大スフェロイドの全てで、CD4+T細胞画分において、前記CD8αNY-ESO-1c259 T細胞はNY-ESO-1c259 T細胞と比較して死滅(殺細胞)改善の傾向を示した(
図13)。画像化はIncuCyte ZOOMを利用して3時間毎に実施した。
図13中のプロットは、末梢血PBL、CD4+単離、およびCD8+単離T細胞画分に関する、T細胞添加の時点(播種の126時間後)およびアッセイの終了時(330時間)の、NY-ESO-1ペプチドパルスの非存在下での、ウェーブ147およびウェーブ149 NY-ESO-1c259 TまたはCD8αNY-ESO-1c259 T細胞を用いた際の各3Dスフェロイドのコア蛍光面積を示している。黒色バーは平均3D細胞面積を意味する。ペプチド不使用の全画分およびドナーについて、330時間の時点で3D細胞面積をNY-ESO-1c259 Tの場合とCD8αNY-ESO-1c259 T細胞の場合とで比較する、対応のない両側t検定を実施した。死滅改善の傾向は、ウェーブ147細胞に関して、330時間の時点で、大スフェロイドの場合に統計学的有意性に達した。予想通り、前記のCD8画分およびPBL画分(CD8+細胞を含有する)は、細胞の効率的な死滅(殺細胞)を示し、CD8α共発現に関しては差異を示さなかった。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 外因性CD8共受容体またはその断片、およびT細胞受容体(TCR)を提示する、改変T細胞の集団。
[2] 前記CD8共受容体がCD8αである、実施形態1記載の改変T細胞の集団。
[3] 前記CD8共受容体が、配列番号1に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態2記載の改変T細胞の集団。
[4] 前記TCRが、親和性を向上させたTCRである、実施形態1~3のいずれかに記載の改変T細胞の集団。
[5] 前記TCRがNY-ESO-1 TCRである、実施形態1~4のいずれかに記載の改変T細胞の集団。
[6] 前記TCRが、配列番号2に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態5記載の改変T細胞の集団。
[7] 前記TCRが、配列番号3に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態5または6記載の改変T細胞の集団。
[8] 以下iおよびii、すなわち
i. CD8共受容体またはその断片をコードする第1ヌクレオチド配列、および
ii.T細胞受容体をコードする第2ヌクレオチド配列
を含む核酸構築物。
[9] 前記CD8共受容体がCD8αである、実施形態8記載の核酸構築物。
[10] 前記のCD8αをコードするヌクレオチド配列が、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、実施形態9記載の核酸構築物。
[11] 前記TCRが、親和性を向上させたTCRである、実施形態8~10のいずれかに記載の核酸構築物。
[12] 前記TCRがNY-ESO-1 TCRである、実施形態8~11のいずれかに記載の核酸構築物。
[13] 前記TCRが、配列番号5に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する核酸を含む、実施形態12記載の核酸構築物。
[14] 前記TCRが、配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸を含む、実施形態12または13記載の核酸構築物。
[15] 実施形態8~14のいずれかに記載の核酸構築物を含むベクター。
[16] 前記ベクターがレンチウイルスベクターである、実施形態15記載のベクター。
[17] 実施形態8~16のいずれかに記載の核酸構築物またはベクターを含む、T細胞の集団。
[18] 実施形態1~7または17のいずれかに記載のT細胞の集団、および製薬上許容しうる担体を含む、医薬組成物。
[19] 療法に使用するための、実施形態18記載の医薬組成物。
[20] 実施形態18記載の医薬組成物の治療上有効な量を対象に投与することを含む、癌に苦しむ該対象を治療するための方法。
[21] 癌に苦しむ対象を治療する方法において使用するための、実施形態1~7もしくは17記載の改変T細胞の集団、実施形態8~14記載の核酸構築物、実施形態15~16記載のベクター、または実施形態18記載の医薬組成物。
[22] 以下i~iii、すなわち
i. T細胞を提供すること、
ii. 実施形態15または実施形態16記載のベクターを該T細胞に導入すること、および
iii.該ベクターを該T細胞内で発現させること
を含む、改変T細胞を操作する方法。
【配列表】