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特許7558178超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物系粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物系粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/00 20230101AFI20240920BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20240920BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240920BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240920BHJP
   B22F 10/25 20210101ALI20240920BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240920BHJP
   B22F 9/22 20060101ALI20240920BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240920BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240920BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C22C1/00 B
C22C27/02 102A
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F10/25
B22F10/28
B22F9/22 Z
B33Y70/00
B33Y70/10
C22C13/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021546377
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2020052826
(87)【国際公開番号】W WO2020161170
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】102019000905.3
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ハース
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150618(JP,A)
【文献】特開昭62-010229(JP,A)
【文献】特開平08-092668(JP,A)
【文献】特開2008-274443(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072517(WO,A1)
【文献】SUZUKI, R. O., et al.,"Processes to produce superconducting Nb3Sn powders from Nb-Sn oxide",Journal of Materials science,1987年,Vol. 22,pp. 1999-2005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00-1/03
C22C 1/06
C22C 1/11-3/00
C22C 27/00-27/06
B22F 1/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導部品を製造するためのNbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]を含む粉末であって、別途のNbO相および/またはSnO相を有さず、且つ前記粉末中の酸素含有率が、粉末の総質量に対して0.75質量%以下であることを特徴とする、前記粉末。
【請求項2】
前記粉末中の酸素含有率が、粉末の総質量に対して0.2~0.75質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
粉末中のNb3SnまたはNb6Sn5またはNbSn2が、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ粉末のX線回折パターンのリートベルト解析に基づき、それぞれ92%を上回る割合を構成することを特徴とする、請求項1または2に記載の粉末。
【請求項4】
前記粉末が、レーザー回折を用いて特定して粒子サイズD99 15μm未満を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項5】
前記粉末が、BETによる比表面積0.5~5m2/gを有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項6】
本発明による粉末の全ての粉末粒子の95%が噴霧化後にフェレット径0.7~1を有し、ここで、フェレット径は、一粒子の最小直径を最大直径によって除算したものとして定義されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末の製造方法であって、ニオブ金属粉末とスズ金属粉末と還元剤の存在下で反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項8】
それぞれ粉末の総質量に対して、用いられるニオブ金属粉末が3質量%未満の酸素、および/またはスズ金属粉末が1.5質量%未満の酸素を有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤が蒸気形態の還元剤であることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記還元剤が、マグネシウム、カルシウム、CaH2、MgH2およびそれらの混合物からなる群から選択されるものであることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法がさらに、得られた生成物の洗浄段階を含むことを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記洗浄段階が鉱酸を用いた洗浄であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
超伝導部品を製造するための、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【請求項14】
前記超伝導部品が、粉末冶金法または付加製造法によって製造されることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
付加製造法における、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物、殊に組成物NbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]系粉末であって、低い酸素含有率を特徴とする前記粉末、その製造方法、並びに超伝導部品を製造するための前記粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導は特定の温度、いわゆる転移温度を下回ると、電気抵抗がゼロに落ちる材料である。超伝導状態において、材料の内部は電場および磁場がないままであり、且つ電流は損失なく輸送される。超伝導体はとりわけ、強い一定の磁場を生成するため、または同じ出力で従来の変圧器よりも小さな寸法および質量を有し、ひいてはとりわけ移動操作において利点をもたらす低損失の変圧器の製造のために使用される。
【0003】
超伝導体は様々なカテゴリ、例えば金属超伝導体、セラミック超伝導体、および高温超伝導体に区分される。ニオブスズ(Nb3Sn)の転移温度18.05Kが発見されて以来、ニオブとその合金は超伝導体を製造するための材料として注目されてきた。従って、ニオブから製造される超伝導空洞共振器が例えば粒子加速器において用いられている(とりわけ、ハンブルグのDESYまたはジュネーヴのCERNでのXFELおよびFLASH)。
【0004】
超伝導部品として、殊に超伝導線材、とりわけ超伝導コイルを製造するために使用される超伝導線材に興味が持たれている。強い超伝導コイルのためには、通常、数マイクロメートルしかない厚さの導体繊維/フィラメントを有するキロメートル長の線材が必要であり、それは複雑な製造方法を要する。
【0005】
そのような線材、殊にニオブスズ合金系の線材を製造するために、主としていわゆるブロンズ法が用いられ、その際、Cu-Sn合金が出発材料として使用される。
【0006】
例えば、欧州特許0048313号明細書(EP0048313)は、ブロンズ-Nb3Sn系の超伝導線材であって、高磁場で用いることができ且つブロンズ-Nb3Sn線材における立方晶相を特徴とし、正方晶相の形成を大部分防ぎ且つ/または正方晶の変形(1-c/a)が低減した、Li、Be、Mg、Sc、Y、U、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Mo、Re、Fe、Ru、Ni、Pd、Zn、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sbの群からの、安定化合金成分をNbの割合に対して0.01~7の質量パーセントの範囲で、且つ/またはブロンズの割合に対して0.05~10の質量パーセントの範囲で線材中に有する、前記線材を記載している。
【0007】
代替的に、ニオブスズ合金系の超伝導線材をいわゆるPIT(パウダー・イン・チューブ)法によって製造でき、その際、ニオブ管内に粉末状のスズ含有出発化合物を装入し、次いで伸線する。最後の段階で、熱処理によって、ニオブを含有する管のシースと充填されたスズ含有粉末との間で超伝導Nb3Sn境界層が形成される。その際、スズ含有出発化合物に関し、相の組成、化学的純度および粒子サイズ(完成したフィラメントの直径より大きくてはならない)が重要である。
【0008】
T.Wongらは、例えば、PIT法およびスズ含有出発化合物の製造をNbSn2の例で記載している(T.Wong et al, “Ti and Ta Additions to Nb3Sn by the Powder in Tube Process”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.11, No 1(2001),3584-3587)。前記方法の場合の欠点は、ニオブとスズとを充分に反応させてNbSn2にするために、粉砕および熱処理による48時間までの多段階の工程が必要とされることである。さらに、その一般的な教示は、酸素含有率をできるだけ低くすべきであるということである。
【0009】
米国特許第7459030号明細書(US7459030)は、タンタルスズ合金粉末を出発化合物として使用する、PIT法による超伝導Nb3Sn線材の製造方法を記載している。この製造のためにK2NbF7およびK2TaF7が用いられ、それらはスズとの反応前にそれぞれニオブ金属およびタンタル金属に還元される。ただし、上記の方法は、このニオブ金属およびタンタル金属の使用についてのいくつかの制限という欠点がある。例えば、酸素3000ppm未満および水素100ppm未満の最大含有率を有するものしか用いることができない。その酸素含有率を超過すると、完成した線材の品質が低下する。100ppmを上回る水素の値では工程の実施に際して安全性の問題が生じ、なぜなら、温度処理の際に水素が抜けるからである。さらに、上記の方法は、目的の化合物が未反応のスズを高い含有率で含有し、さらに、完成した線材のコアはタンタル含有化合物を含有し、そのことにより線材の超伝導特性に悪影響を及ぼしかねないという欠点を有する。さらに、出発化合物K2NbF7およびK2TaF7を還元する際、難溶性の金属フッ化物、例えばMgF2またはCaF2が生じ、それらは完全には分離され得ない。さらに、一連の工程における全てのフッ素含有化合物は非常に有毒である。
【0010】
A.Godekeらは、ニオブスズ超伝導体を製造するための従来のPIT法についての概要を提供している(A.Godeke et al, “State of the art powder-in-tube niobium-tin superconductors”, Cyrogenics 48(2008),308-316)。
【0011】
M.Lopezらは、メカニカルアロイングおよび低温での熱処理によるナノ金属間Nb3Snの合成について記載している(M.Lopez et al, “Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220)。このようにして製造されたNb3Snは、87質量%のNb3Snおよび8質量%のNbOの割合を有する。
【0012】
しかしながら、Nb3Sn製の超伝導線材を製造するための従来技術において公知の全ての方法は、元素ニオブおよびスズの酸素の導入により、並びに工程の実施の間の例えば空気により、著しい割合の酸素が目的の化合物に運ばれるという欠点を有する。従って、例えば米国特許第7459030号明細書による方法は、最大3000ppmの酸素含有率を有するニオブおよびタンタル金属粉末、および最大2000ppmの酸素含有率を有するスズの使用に限定されている。目的の化合物中での酸素の割合が高いと、とりわけ、格子間サイトが酸素原子により占有されること、並びに別途のNbO相が形成されることがもたらされることがあり、それはX線回折解析によって検出可能である。このように結合されたニオブは、さらなる反応、例えばNb3Sn境界層の形成のためにはもはや使用できない。さらに、境界層を形成するために必要な、スズとニオブとの固体拡散が妨げられる。これは製造方法の歩留まりおよび効率に悪影響を及ぼすだけではなく、酸素の存在は、目的の化合物および線材の超伝導特性、例えば臨界電流密度または残留抵抗比(Residual Resistance Ratio RRR)が著しく損なわれることももたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許0048313号明細書
【文献】米国特許第7459030号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】T.Wong et al, “Ti and Ta Additions to Nb3Sn by the Powder in Tube Process”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.11, No 1(2001),3584-3587
【文献】A.Godeke et al, “State of the art powder-in-tube niobium-tin superconductors”, Cyrogenics 48(2008),308-316
【文献】M.Lopez et al, “Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の課題は、超伝導部品、殊に超伝導線材を製造するために適した出発化合物であって、目的の化合物の超伝導特性を損なうことなく効率的な反応が可能になる、前記化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
意外なことに、この課題は、別途のNbO相またはSnO相を有さないことを特徴とする粉末によって解決されることが判明した。
【0017】
従って、本発明の第1の対象は、NbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]を含む超伝導部品を製造するための粉末であって、別途のNbO相またはSnO相を有さない前記粉末である。これは殊に、前記粉末が、例えば粉末形態の試料でMalvern-PANalytical社の装置(半導体検出器、X線管 Cu LFF、40KV/40mAで、Niフィルタを備えた、X’Pert-MPD)を用いて特定されたX線回折パターンにおいてNbOおよび/またはSnOの反射を有さないことによって示される。
【0018】
好ましい実施態様において、NbxSny化合物は、Nb3Sn、Nb6Sn5、NbSn2およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物である。
【0019】
従来技術により提供されるような従来の粉末の分析は別途のNbO相を有することを示し、それは従来のNb3Snの図を示す図1から明らかなとおり、X線回折パターンにおける反射として示される(M.Lopez et al, “Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220も参照)。意外なことに、本発明による粉末のX線回折パターンは、そのような反射を示さないことが判明し、そのことから、この粉末は別途のNbO相を有さないと結論付けることができる。
【0020】
好ましい実施態様において、本発明による粉末は、粉末中の酸素含有率が、粉末の総質量に対して1.5質量%未満、有利には1.1質量%未満、および特に好ましくは0.2~0.75質量%であることを特徴とする。粉末の酸素含有率は、例えばキャリアガス熱抽出(Leco TCH600)を用いて特定できる。
【0021】
低い酸素含有率の他に、本発明による粉末はさらに、卓越した相の純度を特徴とし、そのことはとりわけ、それぞれのニオブスズの目的の化合物以外の化合物の結晶相を少ない割合でしか有さないことによって示される。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末は、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ本発明による粉末のX線回折パターンのリートベルト解析によって特定して、化合物Nb3Snおよび/またはNb6Sn5および/またはNbSn2がそれぞれ92%を上回る、有利には95%を上回る、特に好ましくは98%を上回る割合を構成することを特徴とする。
【0022】
好ましい実施態様において、本発明による粉末は、前記粉末が、レーザー回折を用いて特定してD90値400μm未満、有利には220~400μmを有するサイズを有する三次元凝集体を有し、前記凝集体は一次粒子から構成されており、前記一次粒子は走査型電子顕微鏡法を用いて特定して平均粒径15μm未満、好ましくは8μm未満を有し、且つ前記凝集体は細孔を有し、前記細孔の90%以上が、水銀ポロシメトリを用いて特定して0.2~15μmの直径を有することを特徴とする。
【0023】
前記D90値は、示されたサイズ以下の粒子サイズを有する、粉末中の凝集体のパーセント割合を示す値である。
【0024】
超伝導線材の製造においては、さらに、小さい粒子サイズを有する粉末が用いられる場合が有利であることが判明している。従って、粉末が、レーザー回折を用いて特定してD99値15μm未満、有利には8μm未満、特に好ましくは1μm~6μmの粒子サイズを有する、本発明による粉末の実施態様が好ましい。ここで、D99値は、15μm未満の粒子サイズを有する、粉末中の粒子の割合を示す値である。前記粒子サイズは、例えば粉末の粉砕によって実現され得る。
【0025】
付加製造法、例えばLBM(レーザービーム溶融)、EBM(電子ビーム溶融)および/またはLC(レーザークラッディング)を用いて超伝導部品を製造するためには、特に球状の粒子形状を有する粉末を使用することが有利であることが判明している。この場合、意外なことに、本発明による粉末は公知の方法によって、例えばEIGA法(電極誘導融解ガス噴霧; Electrode Induction-melting Gas Atomization)で、球状粒子を有する粉末へと非常に良好に噴霧化できることが示された。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末の全ての粉末粒子の少なくとも95%が噴霧化後にフェレット径0.7~1、有利には0.8~1を有し、ここで、フェレット径は、本発明の範囲ではSEM写真を評価して特定可能な、一粒子の最小直径を最大直径によって除算したものとして定義される。
【0026】
本発明による粉末は、有利にはBETによる比表面積0.5~5m2/g、有利には1~3m2/gを有する。その際、BETによる比表面積はASTM D3663に準拠して特定できる。
【0027】
受け容れ可能な特性を有する超伝導部品を製造するために、使用される粉末の化学的な純度が高く、且つ異相はドーパントとして制御された形でのみ導入されることが必須である。意図的ではなく工程に導入される物質、殊に金属不純物およびフッ化物含有化合物は最小化されるべきである。好ましい実施態様において、本発明による粉末はフッ素含有率25ppm未満、有利には10ppm未満を有し、前記ppmは質量割合に関する。さらに好ましい実施態様において、本発明による粉末は、故意ではない金属不純物の含有率が、タンタルを除いて、それぞれ粉末の総質量に対して合計で0.8質量%未満、好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.25質量%未満である。
【0028】
好ましい実施態様において、本発明による粉末はさらにドーパントを含有する。適したドーパントの添加により、粉末の特性を必要に応じて適合させることができ、その際、意外なことに、ドーパントに特別な要件はなく、むしろ当業者に公知の通常のドーパントを使用できることが判明した。
【0029】
Nb3Sn系の超伝導線材を製造するための従来技術に記載される方法のいくつかは、タンタルスズ合金から、または前駆体粉末としてのタンタルおよびニオブに基づく金属間スズ合金から出発する。しかしながら、これは、後のNb3Sn線材フィラメント中にタンタルの残留物が残り、ひいては製品の超伝導特性を損なうという欠点を有する。本発明の範囲では、意外なことに、反応の効果に悪影響を及ぼすことなく、タンタルの添加がなくて済むことが判明した。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末は本質的にタンタルおよびタンタル化合物不含である。特に好ましい実施態様において、本発明による粉末中でのタンタルおよびその化合物の割合は、それぞれ粉末の総質量に対して1質量%未満、有利には0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満である。
【0030】
本発明による粉末は、その低い酸素含有率を特徴とし、それはとりわけ、本発明による粉末のX線回折パターンにおいてNbOおよび/またはSnOについての反射が検出できないことによって示される。従って、本発明のさらなる対象は、この特性を実現することを可能にする、本発明による粉末の製造方法であって、本発明による方法は、ニオブ金属粉末とスズ金属粉末との反応、並びに還元剤の存在下での還元段階を含み、その際、添加される還元剤の量は、使用される2つの金属粉末の予め特定された合計の酸素含有率に関する。還元剤は、マグネシウム、カルシウム、CaH2およびMgH2およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【0031】
本発明の方法の好ましい実施態様において、第1の段階で、ニオブ金属粉末をスズ金属粉末と反応させ、得られた生成物を引き続き、還元剤の存在下での還元段階に供し、その際、添加される還元剤の量は、第1の反応から得られた生成物の予め特定された酸素含有率に関する。
【0032】
その工程の実施を効率的にするために、ニオブ金属粉末とスズ金属粉末との反応を、直接的に還元剤の存在下で実施することが有利であることが判明している。従って、ニオブ金属粉末とスズ金属粉末との反応を、還元剤の存在下で行う本発明による方法の実施態様が好ましい。
【0033】
意外なことに、金属の出発化合物の反応を蒸気形態の還元剤の存在下で実施する場合、別途の酸素含有相、例えばNbOおよびSnOの形成をさらに低減できることが判明した。殊に、前記還元剤はマグネシウム、カルシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるものである。意外なことに、この還元剤を、殊に蒸気の状態で使用することによって、粉末中のNbO相およびSnO相の形成を低減できる一方で、還元剤の残留物を容易且つ且つ残さず生成物の粉末から除去できることが示された。
【0034】
酸化された還元剤の除去を、洗浄によって容易に行うことができる。従って、得られた粉末をさらに洗浄段階に供する本発明による方法の実施態様が好ましい。意外なことに、洗浄液として鉱酸を使用する場合、生じ得る還元剤の残留物の特に効率的な除去を達成できることが判明した。従って、洗浄段階が鉱酸を用いた洗浄である、実施態様が好ましい。有利には、前記鉱酸は、硫酸、塩酸および硝酸からなる群から選択される。
【0035】
本発明の方法における酸素の合計の含有率に関する量の還元剤を用いたさらなる処理によって、従来技術、例えば米国特許第7459030号明細書内に記載されるような、使用可能な出発物質の酸素含有率に関する制限はもはや存在しない。目的の化合物の相の純度が改善される場合、明らかにより高い酸素含有率が許容可能である。それにもかかわらず、酸素含有率は高すぎるべきではない。従って、3質量%未満、好ましくは0.4~2.5質量%、特に好ましくは0.5~1.5質量%の酸素を有するニオブ金属粉末、および/または1.5質量%未満、特に好ましくは0.4~1.4質量%の酸素を有するスズ金属粉末を使用する、本発明による方法の実施態様が好ましく、ここで前記の記載はそれぞれ粉末の合計質量に関する。
【0036】
意外なことに、使用されるニオブ金属粉末の形態は制限されないことが判明した。三次元的に結合した一次粒子からなる多孔性の凝集体を有する粉末も、多孔性を有さない不規則または球状の粒子からなる粉末も使用できる。
【0037】
本発明による粉末中での難溶性のMgF2およびCaF2の形成を防止するために、できるだけ低いフッ素含有率を有するニオブ金属粉末が好ましい。従って、ニオブ酸化物の還元により製造されるニオブ金属粉末は、フッ素含有化合物、例えばK2NbF7の還元により製造されるニオブ金属粉末よりも好ましい。好ましい実施態様において、使用されるニオブ金属粉末は、10ppm未満、有利には5ppm未満、特に好ましくは2ppm未満のフッ素を含有する。
【0038】
本発明による粉末は殊に、超伝導部品を製造するために適している。従って、本発明のさらなる対象は、超伝導部品を製造するための、殊に超伝導線材を製造するための、本発明による粉末の使用である。その際、超伝導部品は有利には、粉末冶金法または付加製造法によって製造される。好ましい実施態様において、超伝導線材は、PIT法によって製造される。
【0039】
本発明のさらなる対象は、付加製造法における本発明による粉末の使用である。付加製造法は例えば、LBM(レーザービーム溶融)、EBM(電子ビーム溶融)および/またはLC(レーザークラッディング)であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】従来技術の粉末のX線回折パターンを示す図である。
図2】例2により得られたNbSn2を示す図である。
図3】例4により得られたNb3Snを示す図である。
図4】例3により得られたNb3Snを示す図である。
【0041】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、これは本発明の概念の限定として理解されるべきではない。
【実施例
【0042】
ニオブ金属粉末を、還元剤としてのマグネシウムの存在下で、種々の条件下でスズ金属粉末と反応させて、得られた生成物を硫酸で洗浄して解析した。比較実験として、従来どおり還元剤を用いずに出発化合物を反応させ、引き続き洗浄を行った粉末を引き合いに出した。使用されたスズ金属粉末は全ての実験において、粒子サイズ150μm未満および酸素含有率6800ppm未満を有した。
【0043】
結果を表1に要約し、その際、酸素含有率についての記載はキャリアガス熱抽出(Leco TCH600)を用いて、比表面積はBET(ASTM D3663、Tristar 3000、Micromeritics)に従って特定された。粒子サイズはそれぞれ、レーザー回折(MasterSizer S、水およびDaxad11中の懸濁液、5分の超音波処理)を用いて特定された。金属不純物、例えばMgの微量解析は、ICP-OESを用い、引き続く解析装置PQ 9000(Analytik Jena)またはUltima 2(Horiba)を用いて行われた。X線回折は、粉末試料において、Malvern-PANalytical社の装置(半導体検出器、X線管Cu LFF、40KV/40mAで、Niフィルタを備えたX’Pert-MPD)を用いて行った。
【0044】
【表1】
【0045】
例2および4の粉末を製造するために使用されたニオブ金属粉末は、国際公開第2000/67936号(WO00/67936)に記載される製造方法に類似して、NbO2をマグネシウム蒸気と反応させることにより得られた。得られたニオブ金属粉末は、酸素含有率8500ppm、水素含有率230ppm、フッ素含有率2ppm、並びに205μmのD50および290μmのD90の凝集体サイズを有した。一次粒子の平均サイズは0.6μmであり、凝集体の細孔サイズ分布は0.5および3μmで最大を有する二峰性であった。そのようなニオブ金属粉末は高い多孔性を特徴とするが、予想に反して、より高い酸素含有率およびNbSn粉末中でのNbOおよびSnO相の形成をもたらさない。それに応じて、高い多孔性を有するニオブ粉末も本発明による方法において用いることができる。
【0046】
例1および3、並びに2つの比較例による粉末では、粒子の内部の多孔性のない従来技術によるニオブ金属粉末を使用し、これは酸素含有率2900ppm、水素含有率10ppm、およびD90値95μmを有する粒子サイズを有した。例1および3は、これらの出発材料を用いても、低い酸素含有率、およびNbO相およびSnO相の回避を達成できることを示す。
【0047】
例2の粉末を、引き続き、酸素不含雰囲気中で粉砕し、ここでD90値3.1μmおよびD99値4.9μmが達成された。意外なことに、予想に反して、粉末の粉砕は酸素含有率の上昇をもたらさず、それは粉砕された粉末において0.78質量%であり、NbO相およびSnO相の形成ももたらさなかったことが観察された。
【0048】
意外なことに、マグネシウムの存在下での金属の反応は、生成物中に還元剤の残留物が残ることをもたらさないことも示された。むしろ、本発明による粉末中のMg含有率は通常の範囲であることが判明した。
【0049】
図2~4は本発明による粉末のX線回折パターンを示し、ここで、図2は例2により得られたNbSn2を示し、図3は例4により得られたNb3Snを示し、且つ図4は例3により得られたNb3Snを示す。本発明による粉末は別途のNbO相を有さないことが、全ての写真で明らかにわかる。図1は、例えばM.Lopez et al(“Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220)に記載されるような従来技術の粉末のX線回折パターンを示し、その場合は別途のNbO相およびSnO相の発生が明らかにわかる。
図1
図2
図3
図4