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特許7558181肝細胞がん早期スクリーニング用キット、その製造方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】肝細胞がん早期スクリーニング用キット、その製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240920BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 33/574 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
G01N33/574 E
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021547820
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 CN2019106064
(87)【国際公開番号】W WO2020181752
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】201910179499.X
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520426298
【氏名又は名称】中国医学科学院腫瘤医院
(73)【特許権者】
【識別番号】519350421
【氏名又は名称】北京泛生子基因科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】GENETRON HEALTH (BEIJING) CO, LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 201,2/F Building 11, Zone 1, No.8 Life Park Road, Zhongguancun Life Science Park, Huilongguan Town,Changping District, Beijing 102206 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】焦宇辰
(72)【発明者】
【氏名】曲春楓
(72)【発明者】
【氏名】王宇▲てぃん▼
(72)【発明者】
【氏名】王沛
(72)【発明者】
【氏名】陳坤
(72)【発明者】
【氏名】宋欠欠
(72)【発明者】
【氏名】劉慧
(72)【発明者】
【氏名】王思振
(72)【発明者】
【氏名】閻海
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0155279(US,A1)
【文献】国際公開第2017/184883(WO,A1)
【文献】特表2018-512042(JP,A)
【文献】KAWAI-KITAHARA, F., et al.,"Comprehensive analyses of mutations and hepatitis B virus integration in hepatocellular carcinoma with clinicopathological features.",Journal of Gastroenterology,2016年,Vol. 51,pp.473-486
【文献】CHEN, H., et al.,"Direct Comparison of five serum biomarkers in early diagnosis of hepatocellular carcinoma.",Cancer Management and Research,2018年,Vol.10,pp.1947-1958
【文献】ZHANG, A., et al.,"Urine as an Alternative to Blood for Cancer Liquid Biopsy and Precision Medicine.",IEEE International Conference on Bioinformatics and Biomedicine (BIBM),2018年12月,pp.2820-2825
【文献】ロジスティック回帰のための汎化性向上の工夫,[online], INTERNET,2002年07月18日,https://home.hiroshima-u.ac.jp/tkurita/lecture/svm/node14.html
【文献】COHEN, J.D., et al.,"Detection and localization of surgically resectable cancers with a multi-analyte blood test.",Science,2018年01月18日,Vol. 359、Issue 6378,pp.926-930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
G01N 33/50
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子マーカー検出剤及びDCP検出剤を含むAFP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キットであって、
前記遺伝子マーカー検出剤は、TP53検出剤、CTNNB1検出剤、AXIN1検出剤、及びTERT検出剤を含み、
前記TP53検出剤が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1検出剤が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1検出剤が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERT検出剤が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記DCP検出剤は、血漿中のDCP含有量を検出するのに用いられる、
キット。
【請求項2】
遺伝子マーカー及び/又はタンパク質マーカーの情報を被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアに変換し、前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するデータ処理システムをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載のキット。
【請求項3】
肝細胞がん早期スクリーニング用キットの製造における、遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤の使用であって、
(1)遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤は、被検者の遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを検出するのに用いられ、
(2)前記遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出結果は、肝細胞がんスクリーニングスコアを算出し、閾値と比較するのに用いられ、
前記遺伝子マーカー検出剤は、TP53検出剤、CTNNB1検出剤、AXIN1検出剤、及びTERT検出剤を含み、
前記TP53検出剤が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1検出剤が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1検出剤が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERT検出剤が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記タンパク質マーカー検出剤は、AFP検出剤及びDCP検出剤を含み、
前記AFP検出剤が、血漿中のAFP含有量を検出するのに用いられ、
前記DCP検出剤が、血漿中のDCP含有量を検出するのに用いられる、
使用。
【請求項4】
前記肝細胞がんスクリーニングスコア及び閾値は、肝がん予測モデルにより得られ、
前記肝がん予測モデルの構築方法は、
複数の肝がん患者及び複数の肝がんハイリスク者からなる訓練セットを構築するステップと、
訓練セットの遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを特徴とし、検出結果を特徴スコア値に変換し、罰則付きロジスティック回帰アルゴリズムを用いて、肝がん予測モデルを構築し、肝細胞がんスクリーニングスコアを算出するステップと、
肝細胞がんスクリーニングスコアとサンプルグループ情報とに従って、罰則付きロジスティック回帰モデルの感度と特異性のROC曲線を取得し、ROC曲線に従って、肝がん患者と肝がんハイリスク者とを区別するための閾値となるカットオフ値を決定するステップとを含む、ことを特徴とする請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記遺伝子マーカー検出剤は、HBV組み込み検出剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項6】
前記遺伝子マーカー検出剤は、CNV検出剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項7】
前記遺伝子マーカー検出剤は、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬をさらに含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項8】
前記遺伝子マーカー検出剤は、cfDNA濃度及び/又はcfDNA長さ検出剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項9】
肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、及びAFP検出試薬を含む、肝がん早期スクリーニング用キットであって、
前記肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、TP53の検出試薬、CTNNB1の検出試薬、AXIN1の検出試薬、及びTERTの検出試薬を含み、
前記TP53の検出試薬が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1の検出試薬が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1の検出試薬が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERTの検出試薬が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられる、
キット。
【請求項10】
HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬及び/又はcfDNA検出試薬をさらに含む、ことを特徴とする請求項に記載のキット。
【請求項11】
被験者の肝がん遺伝子変異情報、DCP含有量、AFP含有量、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA情報及び臨床情報を前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアに変換し、前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するデータ処理システムをさらに含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のキット。
【請求項12】
被験者が肝がん患者であるか否かを予測するためのキットの製造における、肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、AFP検出試薬、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬及びcfDNA検出試薬の使用であって、
前記肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、TP53の検出試薬、CTNNB1の検出試薬、AXIN1の検出試薬、及びTERTの検出試薬を含み、
前記TP53の検出試薬が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1の検出試薬が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1の検出試薬が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERTの検出試薬が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられる、
使用。
【請求項13】
肝がんを予測するためのキットの製造における、肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、AFP検出試薬、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬及びcfDNA検出試薬の使用であって、
前記肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、TP53の検出試薬、CTNNB1の検出試薬、AXIN1の検出試薬、及びTERTの検出試薬を含み、
前記TP53の検出試薬が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1の検出試薬が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1の検出試薬が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERTの検出試薬が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられる、
使用。
【請求項14】
被験者が肝がん患者であるか否かを予測するためのキットであって、肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、及びAFP検出試薬を含み、
前記肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、TP53の検出試薬、CTNNB1の検出試薬、AXIN1の検出試薬、及びTERTの検出試薬を含み、
前記TP53の検出試薬が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1の検出試薬が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1の検出試薬が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERTの検出試薬が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AFP検出試薬が、血漿中のAFP含有量を検出するのに用いられ、
前記DCP検出試薬が、血漿中のDCP含有量を検出するのに用いられ、
予測は、被験者の年齢、被験者の性別、被験者の血漿中のDCP含有量、被験者の血漿中のAFP含有量及び「被験者のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、遺伝子コピー数変異、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA濃度、異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージ」をマーカーとして使用することを含む、
キット。
【請求項15】
肝がんを予測するためのキットであって、肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、及びAFP検出試薬を含み、
前記肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、TP53の検出試薬、CTNNB1の検出試薬、AXIN1の検出試薬、及びTERTの検出試薬を含み、
前記TP53の検出試薬が、cfDNA中のTP53遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記CTNNB1の検出試薬が、cfDNA中のCTNNB1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AXIN1の検出試薬が、cfDNA中のAXIN1遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記TERTの検出試薬が、cfDNA中のTERT遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられ、
前記AFP検出試薬が、血漿中のAFP含有量を検出するのに用いられ、
前記DCP検出試薬が、血漿中のDCP含有量を検出するのに用いられ、
予測は、被験者の年齢、被験者の性別、被験者の血漿中のDCP含有量、被験者の血漿中のAFP含有量及び「被験者のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、遺伝子コピー数変異、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA濃度、異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージ」をマーカーとして使用することを含む、
キット。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のキットであって、
予測は、被験者の血漿中のDCP含有量とAFP含有量を検出するステップと、
被験者のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、遺伝子コピー数変異、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA濃度、及び異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージを検出するステップと、
被験者の年齢と性別を記録するステップと、
前記被験者の情報を肝細胞がんスクリーニングスコアに変換し、肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するステップとを含む、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に属し、肝細胞がん早期スクリーニング用キットに関し、より具体的には、AFP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キット、その製造方法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝がんには、肝細胞がん(HCC)と肝内胆管細胞がん(iCCA)の2つの主要な病理組織学的タイプがあり、そのうち、HCCが約85~90%を占め、現在進行したHCCに有効な治療法がないことから、HCCのリスクが高い肝硬変患者にはスクリーニングが薦められる(Omata M, et al. (2017) Asia-Pacific clinical practice guidelines on the management of hepatocellular carcinoma: a 2017 update. Hepatol Int11(4):317-370;Marrero JA, et al. (2018) Diagnosis, Staging and Management of Hepatocellular Carcinoma: 2018 Practice Guidance by the American Association for the Study of Liver Diseases. Hepatology.)。中国では、アジア太平洋肝臓学会のガイドラインによれば、すでに複数のコホートでHCC早期スクリーニングを行っており、肝硬変個体とB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)陽性個体が6ヶ月ごとに超音波検査(US)と血清αフェトプロテイン(AFP)検査を含むHCCモニタリングを行う(Omata M, et al. (2017)、同上)ことが薦められている。従来の研究では、このような早期発見と早期治療は肝がんの総生存率を著しく高めた(Singal AG, Pillai A, & Tiro J (2014) Early detection, curative treatment, and survival rates for hepatocellular carcinoma surveillance in patients with cirrhosis: a meta-analysis. PLoS medicine 11(4):e1001624.)が、HCCの正確な検査は経験のある専門家を必要とし、それにより全てのHBsAg陽性個体における広範な応用が制限される。さらに、年2回のスクリーニングは、フォローアップ予約や不安の発生にも繋がる。現在、中国のHCC症例の大部分は、HCCスクリーニングではなく、臨床症状に基づいて発見されており、病院で診断されたときにはすでに進行期にある。
【0003】
最近の研究では、細胞の遊離DNA(cfDNA)の遺伝子改変に基づく液体生検が、がんの早期検査で良好な効果を示している(Bettegowda C, et al.(2014) Detection of circulating tumor DNA in early- and late-stage human malignancies. Science translational medicine 6(224):224ra224;Chaudhuri AA, et al. (2017) Early Detection of Molecular Residual Disease in Localized Lung Cancer by Circulating Tumor DNA Profiling. Cancer discovery7(12):1394-1403.)。遺伝子とタンパク質マーカーを組み合わせることにより、検出の感度と特異性がさらに向上し、1つのテストで複数の腫瘍タイプをスクリーニングする可能性がある(Springer S, et al. (2015) A Combination of Molecular Markers and Clinical Features Improve the Classification of Pancreatic Cysts. Gastroenterology;Cohen JD, et al. (2018) Detection and localization of surgically resectable cancers with a multi-analyte blood test. Science359(6378):926-930;Cohen JD, et al. (2017) Combined circulating tumor DNA and protein biomarker-based liquid biopsy for the earlier detection of pancreatic cancers. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 114(38):10202-10207.)。しかし、これらの研究は主にHCC入院患者とHBV感染のない健常者を対象としている(Cohen JD, et al. (2018)、同上)。慢性HBV感染のハイリスク集団では、肝硬変などの前がん障害もHCCに普遍的に存在するドライバー変異を持っている可能性があるため、液体生検の性能が影響を受ける恐れがある。肝炎、肝硬変や非がん性肝結節の分析は、ベースラインを作成してイメージング又は組織学的臨床検証によってHCCを正確に同定するのに必要である。
【0004】
肝機能障害を引き起こすよくある原因は感染(例えばB型肝炎ウイルス感染)、肥満、アルコール依存症、アフラトキシン暴露、血中脂質異常などであり、しかも肝疾患患者は肝がんにかかるリスクが更に高い。αフェトプロテイン(AFP)、プロトロンビン(DCP)及び扁平上皮細胞がん抗原(SCCA)は全て肝がんのタンパク質マーカーである。研究により、AFPとDCPの両方を測定すると、肝がんの予測感度を高め、早期肝がんと非代償性肝硬変を効果的に区別できることが明らかになった。しかしながら、多くの早期肝がんの場合、AFP、DCP、及びSCCAの検査結果は全て陰性である。
【0005】
腫瘍やその他の細胞はDNA分子を血液中に放出し、DNA分子が分解されて遊離するDNA断片(Cellfree DNA、cfDNA)となる。cfDNAの検出は腫瘍の標的投薬の指導、治療効果の監視及びがんの早期スクリーニングなどにおいて極めて大きな潜在力を示している。中国の肝がん患者のうち、約90%はB型肝炎ウイルス感染があり、しかもB型肝炎ウイルス関連性肝がんにはKRAS、BRAFなどのホットスポット変異がほとんどない。
【0006】
前述したように、従来、AFPなどの単独のタンパク質マーカーをHCC早期スクリーニング指標として使用してきた。Chunらは2015(Chun S, Rhie SY, Ki CS, Kim JE, & Park HD (2015) Evaluation of alpha-fetoprotein as a screening marker for hepatocellular carcinoma in hepatitis prevalent areas. Annals of hepatology 14(6):882-888.)に、単独のαフェトプロテインをスクリーニングマーカーとして用いたことを報告しているが、効果が低く、陽性予測値が約1~2%であった。
【0007】
最近、遺伝子変化とタンパクマーカーの組み合わせを用いたHCC早期スクリーニングも試みられている。Joshua D.Cohenらは2018(Cohen J D,Li L,Wang Y,et al. Detection and localization of surgically resectable cancers with a multi-analyte blood test[J].Science,2018,359(6378):eaar3247.)に、HCCを含む汎がん種の早期スクリーニングを遺伝子変異とタンパク質マーカーの組み合わせにより行うことを報告したが、HCCに関わる場合、例えばTERT及びその多様な形及び/又はHBV融合の遺伝子変化を用いていない。しかも、この研究は、HCCと診断された入院患者と健常集団に対する後ろ向き研究だけであり、HCC病状のない集団に対して前向き研究を行って、HCCの発生に対して予測を行い、陽性予測値を提供していない。
【0008】
発明の概要
従来、遺伝子変化又はタンパク質マーカーは、それぞれ単独でがん早期スクリーニングに用いられてきた。遺伝子変化とタンパク質マーカーの組み合わせによるがん早期スクリーニングも試みられたことがある。遊離した細胞DNA(cfDNA)とタンパク質を組み合わせた液体生検は、多くの組織型のがんの早期検査に潜在力を示してきた。しかしながら、これらの研究の多くは、以前にがんと診断された個体を症例とし、健常個体を対照とした後ろ向きのものである。一方、ごく少数の前向き研究であっても、肝細胞がんについては、従来技術で採用されているマーカーの予測効果は低い。そこで、本発明は、肝細胞がんスクリーニング(HCCスクリーニング)と呼ばれる液体生検測定法を開発し、特定の遺伝子マーカーとタンパク質マーカーを組み合わせ、多拠点コミュニティ集団において慢性HBV感染の早期HCC検査への応用価値を確認した。検証の結果、この方法はHCC個体と非HCC個体を確実に区別し、85%の感度と93%の特異性を有することを示している。発明者らはさらに、この測定法を肝臓超音波検査と血清AFPレベルが正常な331名の個体に適用し、前向き研究を行った。24例の陽性症例を識別し、6~8ヶ月の臨床フォローアップにより、4例がHCCに進展したことを確認した。同じ時期のフォローアップでは、307人のテスト陰性個体はHCC症例を診断できなかった。この測定法は検証セットで100%の感度、94%の特異性、17%の陽性予測値を示した。その陽性予測値(PPV)である17%は、従来のAFPレベルのみによるスクリーニング結果(Chun S, Rhie SY, Ki CS, Kim JE, & Park HD (2015) Evaluation of alpha-fetoprotein as a screening marker for hepatocellular carcinoma in hepatitis prevalent areas. Annals of hepatology 14(6):882-888.)よりも著しく高く、本発明の特定の遺伝子マーカー及び特定のタンパク質マーカーをそれぞれ用いて単独で得られた結果よりも高い。
【0009】
特定の遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを含む本発明のキットは、不特定集団においてHCC早期スクリーニングに有効であることを確認されているため、不特定集団のHCC早期スクリーニング、より好ましくはAFP陰性被検者のHCC早期スクリーニングに適用できる。
【0010】
なお、本発明のキットは、4例のHCCがそれぞれ診断時に早期(<3cm)であり、その後の治療に良好な基礎を提供する前向きな早期HCC予測のためのものである。本発明者の研究の証拠は、cfDNA改変とタンパク質マーカーを併用した検出が、無症状でHCC状態が未知のコミュニティ集団から早期HCCを識別するための実行可能な方法であることを示している。
【0011】
したがって、一態様において、本発明は、遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤を含む肝細胞がん早期スクリーニング用キットを提供する。
【0012】
前記キットは、遺伝子マーカー及び/又はタンパク質マーカーの情報を前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアに変換し、前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するデータ処理システムをさらに含んでもよい。
【0013】
別の態様において、本発明は、
(1)遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤を用いて被検者の遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを検出するステップと、(2)前記遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出結果を用いて肝細胞がんスクリーニングスコアを算出し、閾値と比較するステップとを含む、肝細胞がん早期スクリーニング方法を提供する。
【0014】
前記方法において、前記肝細胞がんスクリーニングスコア及び閾値は、肝がん予測モデルにより得られ、前記肝がん予測モデルの構築方法は、
複数の肝がん患者及び複数の肝がんハイリスク者からなる訓練セットを構築するステップと、
訓練セットの遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを特徴とし、検出結果を特徴スコア値に変換し、罰則付きロジスティック回帰アルゴリズムを用いて、肝がん予測モデルを構築し、肝細胞がんスクリーニングスコアを算出するステップと、
肝細胞がんスクリーニングスコアとサンプルグループ情報とに従って、罰則付きロジスティック回帰モデルの感度と特異性のROC曲線を取得し、ROC曲線に従って、肝がん患者と肝がんハイリスク者とを区別するための閾値となるカットオフ値を決定するステップとを含む。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤の肝細胞がん早期スクリーニングにおける使用を提供する。
【0016】
さらに別の態様において、本発明は、肝細胞がん早期スクリーニング用キットの製造における遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤の使用を提供する。
【0017】
本発明の目的は、肝がんの早期スクリーニングを行うことである。
【0018】
本発明は、まず、肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、AFP検出試薬を含んでもよい肝がん早期スクリーニング用キットを保護する。
【0019】
前記「肝がん突然変異遺伝子の検出試薬」は、cfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ及び/又は突然変異reads及び/又は遺伝子コピー数変異を検出するのに用いられてもよい。
【0020】
前記「肝がん突然変異遺伝子」は、TP53遺伝子及び/又はTERT遺伝子及び/又はAXIN1遺伝子及び/又はCTNNB1遺伝子であってもよい。
【0021】
前記DCP検出試薬は、血漿中のDCP含有量を検出するのに用いられてもよい。
【0022】
前記AFP検出試薬は、血漿中のAFP含有量を検出するのに用いられてもよい。
【0023】
前記キットは、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬及び/又はcfDNA検出試薬をさらに含んでもよい。
【0024】
前記「HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬」は、cfDNAにおけるHBV配列のヒトゲノムへの組込み部位の有無を検出するのに用いられてもよい。
【0025】
前記「cfDNA検出試薬」は、cfDNA濃度及び/又はcfDNA中の異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージを検出するのに用いられてもよい。
【0026】
上記のいずれかのキットは、被験者の肝がん遺伝子変異情報(即ち、11個の遺伝子突然変異特徴の情報)、DCP含有量(血漿中のDCP含有量)、AFP含有量(血漿中のAFP含有量)、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA情報及び臨床情報を前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコア(即ち、HCCscreenスコア値)に変換し、前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するデータ処理システムをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明はまた、上記のいずれかの肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、AFP検出試薬、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬、及びcfDNA検出試薬のA1)~A4)の少なくとも1つであってもよい使用を保護している:
A1)被験者が肝がん患者であるか否かを予測すること、
A2)被験者が肝がん患者であるか否かを予測するためのキットを製造すること、
A3)肝がんを予測すること、
A4)肝がんを予測するためのキットを製造すること。
【0028】
本発明はまた、上記のいずれかの肝がん突然変異遺伝子の検出試薬、DCP検出試薬、AFP検出試薬、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬、cfDNA検出試薬、及びデータ処理システムのA1)~A4)の少なくとも1つであってもよい使用を保護している:
A1)被験者が肝がん患者であるか否かを予測すること、
A2)被験者が肝がん患者であるか否かを予測するためのキットを製造すること、
A3)肝がんを予測すること、
A4)肝がんを予測するためのキットを製造すること。
【0029】
本発明はまた、被験者の年齢、被験者の性別、被験者の血漿中のDCP含有量、被験者の血漿中のAFP含有量、及び「被験者のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、遺伝子コピー数変異、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA濃度、異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージ」の、マーカーとしてのA1)~A4)のうちの少なくとも1つであってもよい使用を保護している:
A1)被験者が肝がん患者であるか否かを予測すること、
A2)被験者が肝がん患者であるか否かを予測するためのキットを製造すること、
A3)肝がんを予測すること、
A4)肝がんを予測するためのキットを製造すること。
【0030】
本発明はまた、被験者の血漿中のDCP含有量及びAFP含有量を検出するステップと、被験者のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ、突然変異reads、遺伝子コピー数変異、HBVが遺伝子に組み込まれているか否か、cfDNA濃度、及び異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージを検出するステップと、被験者の年齢と性別を記録するステップと、上記被験者の情報を肝細胞がんスクリーニングスコア(即ち、HCCscreenスコア値)に変換し、肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測するステップとを含んでもよい肝がん予測方法を保護している。
【0031】
前記「肝細胞がんスクリーニングスコアから被験者が肝がん患者であるか否かを予測する」ステップは、動作特性曲線(ROC曲線)により診断閾値を決定し、被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアと前記診断閾値の大きさを比較することにより、被験者の肝がん予測を行うことを含む。
【0032】
被験者のHCCscreenスコア値は、肝がん予測モデルにより算出されてもよい。前記肝がん予測モデルは、訓練セット中の個々の患者の特徴スコア値とグループ化情報に従って開発された罰則付きロジスティック回帰モデルである。訓練セットは、複数の肝がん患者(肝がん群を構成)と複数の肝がんハイリスク患者(肝がんハイリスク群を構成)からなる。本発明の一実施例では、訓練セットは65人の肝がん患者と70人の肝がんハイリスク者からなる。
【0033】
上記のいずれかのHBVが遺伝子に組み込まれているか否かは、HBVが遺伝子に組み込まれている程度、HBVがTERT遺伝子に組み込まれているか否か、及び/又はHBVが非TERT遺伝子(例えばAPOBEC4、FBX010、FUT8、WDR7、SLC7A10、GUSBP4)に組み込まれているか否かであってもよい。
【0034】
上記のいずれかの肝がん突然変異遺伝子の情報は、肝がん突然変異遺伝子の突然変異タイプ及び/又は突然変異reads及び/又は遺伝子コピー数変異の情報を含む。
【0035】
上記のいずれかのcfDNA情報は、cfDNA濃度及び/又はcfDNA中の異なる挿入断片長のcfDNA含有量を含んでもよい。前記cfDNA中の異なる挿入断片長のcfDNA含有量が占めるパーセンテージは、具体的には、遊離DNA断片長が90bp未満の区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が90~140bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が141~200bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が200bpより大きい区間のパーセンテージであってもよい。区間のパーセンテージは全てのcfDNA含有量に占めるパーセンテージを指す。
【0036】
上記のいずれかの臨床情報は、年齢及び/又は性別を含んでもよい。
【0037】
上記のいずれかの肝がん突然変異遺伝子の検出試薬は、cfDNAを抽出する試薬(例えば、MagMAXTMCell-Free DNA Isolation Kit)、cfDNAライブラリーを構築する試薬(例えば、KAPA Hyper Prepキット)、及び目的領域のハイブリダイゼーションキャプチャを行う試薬(例えば、sureselect XT標的キャプチャキット)を含む。
【0038】
前記DCP検出試薬は、血漿中のDCP含有量を検出する試薬であってもよい。具体的には、血漿を分離し、米国アボット社のARCHITECT i2000SR化学発光免疫分析装置を用いてDCPの含有量を検出する。
【0039】
前記AFP検出試薬は、血漿中のAFP含有量を検出する試薬であってもよい。具体的には、血漿を分離し、米国アボット社のIMx分析装置を用いてAFPの含有量を検出する。
【0040】
上記のいずれかのHBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬は、cfDNAを抽出する試薬(例えば、MagMAXTMCell-Free DNA Isolation Kit)を含んでもよい。
【0041】
前記cfDNA検出試薬は、cfDNAを抽出する試薬(例えば、MagMAXTMCell-Free DNAI solation Kit)を含む。
【0042】
以上では、検出(キット検出)の特徴は、具体的には、以下のような実施例における20個の特徴であってもよい。
【0043】
一、前記「肝がん突然変異遺伝子の検出試薬」の検出用の特徴は、具体的には、実施例の11個の特徴であってもよく、それぞれ、TP53遺伝子非R249S突然変異、TERT遺伝子突然変異、AXIN1遺伝子突然変異、CTNNB1遺伝子突然変異、TP53 R249Sホットスポット突然変異、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6(即ち、11個の遺伝子突然変異特徴)である。具体的なステップは以下のとおりである。
1、被験血液サンプルcfDNAを抽出する。
2、前記被験血液サンプルcfDNAを取り、KAPA Hyper Prepキットを用いてライブラリーを構築し、被験血液サンプルのcfDNAライブラリーを得る。
3、前記被験血液サンプルのcfDNAライブラリーを取り、sureselect XT標的キャプチャキットを用いて目的領域のハイブリダイゼーションキャプチャを行い、その後、Illuminaプラットフォームでシークエンシングを行う。被験血液サンプルcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の検出結果(突然変異遺伝子及び突然変異頻度を含む)を得る。
4、遺伝子突然変異結果の注釈及び採点
cfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の検出結果を、突然変異readsサポート頻度の注釈スコアで注釈する。
5、被験血液サンプルのcfDNAライブラリーを取り、低深度全ゲノムシークエンシングを行い、その後、シークエンシングデータをCNV検出とcfDNA断片長検出を行う。
6、遺伝子コピー数変異の検出結果の特徴抽出
CNV検出結果について次の処理を行う。各染色体腕レベルのCNVシグナル(性染色体は性別がCNVシグナルに与える影響を排除するために削除された)に対して主成分分析(PCA)次元削減処理を行い、累積割合(cumulative proportion)≧95%を閾値として、前の6つの主成分(即ち、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6)をCNV関連の特徴として選択し、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6)をCNV特徴とし後続の計算を行い、各CNV特徴に対応する主成分のスコア値は当該特徴の特徴スコア値となる。
7、cfDNA断片長の検出
低深度全ゲノムシークエンシングデータは、それぞれ、遊離DNA断片長が90bp未満の区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が90~140bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が141~200bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が200bpより大きい区間のパーセンテージという実施例の4つの特徴の分析に用いることができる。
【0044】
二、前記「cfDNA検出試薬」の検出用の特徴は、具体的には、cfDNA濃度であってもよい。cfDNA濃度値はlog2変換後の値を特徴スコア値とする。
【0045】
三、前記「DCP検出試薬」の検出用の特徴は、具体的には、実施例の1つの特徴、即ち血漿中のDCP含有量であってもよい。
【0046】
四、前記「AFP検出試薬」の検出用の特徴は、具体的には、実施例の1つの特徴、即ち血漿中のAFP含有量であってもよい。
【0047】
五、前記「HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬」の検出用の特徴は、具体的には、それぞれHBVが変異に組み込まれている状況と、HBVとTERTが変異に組み込まれているか否か(即ち2つの遺伝子突然変異特徴)との実施例の2つの特徴である。
【0048】
以上では、突然変異部位の組み込み及び採点:遺伝子突然変異ごとに、突然変異readsサポート頻度に従って注釈点数を与え、その後、突然変異部位のスコア値を異なるROI(Region Of Interest)区間に累積する(即ち、特徴スコア値が得られる)。この区間は、4つの遺伝子(TP53、CTNNB1、TERT及びAXIN1)と1つのTP53 R249Sホットスポット突然変異位置領域を含む。計算式は以下のとおりである。
【0049】
ここで、nはROIと重複する突然変異の数であり、adj_scoreは突然変異のreadsサポート頻度である。
【0050】
以上では、構造的変異結果の特徴抽出ステップは以下の通りである。
(1)各標本のHBV組み込み変異の特徴スコア値を検出し、検出した各組み込み変異に対して、readsサポート信頼度によってA、B、及びCの3つの等級(組み込みreads数≧10:A等級、10>組み込みreads数>6:B等級、残りはC等級、表7中の第3列を参照)に分け、対応するスコアはそれぞれ1、0.8、及び0.3点であり、その後合計すると、HBV組み込み変異の特徴スコア値が得られる。
(2)各標本HBVとTERT組み込み変異の特徴のスコア値を検出し、TERT組み込みが発生した場合、TERT組み込み変異の特徴スコア値は1であり(readsサポート信頼度の格付けを考慮する必要はない)、TERT組み込みが発生していない場合、TERT組み込み変異の特徴スコア値は0である。
【0051】
以上では、遊離DNA長の関連特徴抽出のステップは以下の通りである。4つの区間(<90bp、90~140bp、141~200bp、及び>200bp)に占めるcfDNA断片長のパーセンテージを算出し、これらの特徴を予測変数とし、4つの区間に占めるcfDNA断片長のパーセンテージを特徴スコア値とする。
【0052】
以上では、タンパク質マーカーの関連特徴抽出のステップは以下の通りである。
AFPの実測値を閾値(13、20、200、400)の昇順で5つの値の等級:0、5、8、20、30に分け、DCPの実測値を閾値(40、60)の昇順で3つの値の等級:0、2、5に分け、2つのタンパク質マーカーの特徴スコア値とする。
【0053】
また、臨床及び実験の関連特徴によって2つの特徴を抽出してもよく、臨床的特徴は、患者の年齢、性別を含み、病例の表現型とも一定の相関性を持つ。このうち、年齢の特徴スコア値はサンプルの実年齢の数値であり、、性別が男性である場合、特徴スコア値は1、性別が女性である場合、特徴スコア値は0である。
【0054】
特徴は、13個の遺伝子突然変異特徴、2個のタンパク質マーカー、5個のcfDNA物理特徴、及び2個の血液サンプルの基本情報からなる22個の特徴を含んでもよい。13個の遺伝子突然変異特徴は、それぞれ、TP53遺伝子非R249S突然変異、TERT遺伝子突然変異、AXIN1遺伝子突然変異、CTNNB1遺伝子突然変異、TP53 R249Sホットスポット突然変異、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6、HBV組み込み変異、HBVとTERTの変異組み込みの有無である。2個のタンパク質マーカーは、それぞれAFPとDCPである。5個のcfDNA物理特徴は、それぞれ、遊離DNA断片長が90bpより小さい区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が90~140bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が141~200bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が200bpより大きい区間のパーセンテージ、及びcfDNA濃度である。2個の血液サンプルの基本情報はそれぞれ性別と年齢である。
【0055】
がんの早期検査は、がんによる死亡を減少させる最も効果的な方法である。最近の研究では、cfDNAやタンパク質に基づく液体生検は、様々な組織型のがんの早期検査に有望であるが(Cohen JD, et al. (2018),同上)、HCCに対する良好な予測結果や、早期肝がんとハイリスク群を同定する際の効果は証明されていない。本研究において、発明者は液体生検測定法を開発して試験した。バイオマーカーの選択には、TERTプロモーター突然変異など、頻繁に変化し発がん機序が明確な遺伝子バイオマーカーや、DCP(Lok AS, et al. (2010) Des-gamma-carboxy prothrombin and alpha-fetoprotein as biomarkers for the early detection of hepatocellular carcinoma. Gastroenterology138(2):493-502.)など、診断価値が明確なタンパク質マーカーに焦点を当てる。本発明は、HCCと明確に関連する限られた数の候補バイオマーカーを含み、限られた数の腫瘍/正常症例において多数の候補バイオマーカーを検討した場合の過剰適合効果を回避するために、HCCと明確に関連する少数の候補バイオマーカーを組み入れる。後向き及び/又は前向き研究に用いる研究ツールを用いて、本発明で選択された遺伝子マーカーとタンパク質マーカーの特定の組み合わせを検証することにより、この特定の組み合わせが後向き及び前向き検証の両方において優れた効果を得ることを見出した。
【0056】
したがって、一態様において、本発明は、遺伝子マーカー検出剤及びDCP検出剤を含むAFP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キットを提供する。
【0057】
前記キットは、遺伝子マーカー及び/又はタンパク質マーカーの情報を前記被験者の肝細胞がんスクリーニングスコアに変換し、前記被検者の肝細胞がんスクリーニングスコアから前記被験者が肝がん患者であるか否かを予測するデータ処理システムをさらに含んでもよい。
【0058】
上記のいずれかの遺伝子マーカー検出剤は、TP53検出剤、CTNNB1検出剤、AXIN1検出剤、TERT検出剤から選ばれる1種又は複数種、好ましくは3種又は4種であってもよい。
【0059】
上記のいずれかの遺伝子マーカー検出剤は、HBVが遺伝子に組み込まれているか否かの検出試薬をさらに含んでもよい。
【0060】
上記のいずれかのタンパク質マーカー検出剤は、AFP検出剤及びDCP検出剤から選ばれる1種又は複数種を含んでもよい。
【0061】
本発明のキットは、不特定の集団のHCC早期スクリーニング、又はAFP陰性被検者のような特定の集団のHCC早期スクリーニングに使用することができる。AFPは血液検査などの日常的な健康診断における一般的な検査指標であるため、被検者のAFPの状態(陰性又は陽性)が既知である可能性が高い。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のキットは、AFP陰性被検者のような特定の集団のHCC早期スクリーニングに用いられ、ここで、前記キットはAFP検出剤を含まない。同様に、いくつかの実施形態では、本発明のキットは、DCP陰性被検者のような特定の集団のHCC早期スクリーニングに用いられ、ここで、前記キットはDCP検出剤を含まない。同様に、いくつかの実施形態では、本発明のキットは、AFP及びDCP陰性被検者のような特定の集団のHCC早期スクリーニングに用いられ、ここで、前記キットはAFP検出剤及びDCP検出剤を含まない。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤を含み、好ましくは、前記タンパク質マーカー検出剤がDCP検出剤を含む、AFP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キットを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤を含み、好ましくは、前記タンパク質マーカー検出剤がAFP検出剤を含む、DCP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キットを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、遺伝子マーカー検出剤を含む、AFP及びDCP陰性被検者の肝細胞がん早期スクリーニング用キットを提供する。本発明に係る遺伝子マーカー検出剤は、突然変異タイプ及び突然変異readsを含む遺伝子マーカーの存在及び/又はタイプを検出することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明に係る遺伝子マーカー検出剤はCNV検出剤をさらに含む。CNV検出剤は、通常、全ゲノムレベルのCNVを検出するために使用されるが、いくつかの実施形態では、局所レベル、例えば遺伝子のCNVを検出するためにも使用され得る。いくつかの実施形態では、本発明のキットは、グローバルCNVレベルを検出するためのCNV検出剤を含む。いくつかの実施形態では、本発明のキットは、局所CNVレベルを検出するためのCNV検出剤を含む。いくつかの実施形態では、本発明のキットは、TERT遺伝子のCNVレベルを検出するためのCNV検出剤を含む。CNV検出剤の使用は、HCCスクリーニングの感度及び特異性をさらに向上させることができる。いくつかの実施形態では、CNV検出結果は、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、及び/又はCNV次元削減特徴6に変換されてもよい。
【0063】
本明細書で使用される場合、「遺伝子マーカー検出剤」という用語は、遺伝子マーカーを検出するための検出剤であり、当業者に周知されたものと本明細書に記載のものとを含む。このような場合、「TP53検出剤」、「CTNNB1検出剤」、「AXIN1検出剤」及び「TERT検出剤」という用語は、それぞれにより示される遺伝子マーカーを検出するための検出剤であり、当業者に周知のものと本明細書に記載のものとを含む。TP53、CTNNB1、AXIN1及びTERTは、TERTプロモーター突然変異のような、当業者に周知の遺伝子マーカーである。いくつかの実施形態では、TP53の全長が検出される。いくつかの実施形態では、TP53の1つ又は複数のエクソンが検出される。本発明のいくつかの態様は、TP53の1種又は複数種のエクソンだけを検出するのではなく、TP53の全長を検出することを特徴とする。
【0064】
当業者にとって自明なように、本発明に記載の遺伝子は、遺伝子マーカーとして機能する場合、必ずしも特定の部位に限定されるのではなく、シーケンシングにより得られた配列の全部又は一部とそれに対応する野生型配列との間の少なくとも1つ又は複数のヌクレオチドの相違を利用するものである。TP53、CTNNB1、AXIN1及びTERT遺伝子は、遺伝子マーカーとして機能する場合、それに対応する野生型配列との間に、全長にわたって少なくとも1つ又は複数のヌクレオチドの相違が存在していてもよい。TP53遺伝子は、遺伝子マーカーとした場合、その特定のホットスポット領域(例えばR249S)とそれに対応する野生型配列との間に少なくとも1つ又は複数のヌクレオチドの相違が存在してもよい。TERT遺伝子は、遺伝子マーカーとした場合、その特定のホットスポット領域(例えば、chr5:1295228C>T又はchr5:1295250C>T)とそれに対応する野生型配列との間に少なくとも1つ又は複数のヌクレオチドの相違が存在していてもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明に係る遺伝子マーカー検出剤はHBV組み込み検出剤をさらに含む。本明細書で使用される場合、「HBV組み込み検出剤」という用語は、HBVがゲノムに組み込まれているか否かの検出試薬である。いくつかの実施形態では、HBVのゲノムへの組み込みは、例えばTERTの上流1.5kb内のような、ゲノム中のTERT近傍へのHBVの組み込み、及びゲノム中の他の場所へのHBVの組み込みを含んでもよい。
【0066】
いくつかの実施形態では、被検者の遺伝子マーカーは、被検者のcfDNAから検出されるものである。一般には、本明細書に記載の遺伝子マーカー検出剤を用いて遺伝子マーカーを検出する際には、使用過程又は検出過程は、cfDNAの抽出及び検出を含むことから、例えばcfDNA濃度及び/又はcfDNA中の異なる挿入断片長のcfDNA含有量に占めるパーセンテージ及び/又はcfDNA長検出剤など、cfDNAに関する情報を把握する。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の「遺伝子マーカー検出剤」及びその下位概念は、同様にcfDNA検出剤として機能してもよく、このため、「cfDNA検出剤」と交換的に使用することができる。別の実施形態では、本発明のキットはcfDNA検出剤をさらに含む。
【0067】
本明細書で使用される場合、「タンパク質マーカー検出剤」という用語は、タンパク質マーカーを検出するための検出剤であり、当業者に周知のものと本明細書に記載のものとを含む。このような場合、「AFP検出剤」及び「DCP検出剤」という用語は、それぞれにより示されるタンパク質マーカーを検出するための検出剤であり、当業者に周知のものと本明細書に記載のものとを含む。AFP及びDCPは、当業者に周知のタンパク質マーカーである。
【0068】
いくつかの実施形態では、被検者のタンパク質マーカーは、被検者の血液、又は血清又は血漿のような血液成分から検出されるものである。いくつかの実施形態では、キットは採血器具をさらに含む。
【0069】
本発明のキットは、データ処理システムを含むか、又はデータ処理システムと共に使用してもよく、例えば、データ処理システムはコンピュータに含まれてもよい。前記データ処理システムは、本発明に係る遺伝子マーカー検出剤及び/又はタンパク質マーカー検出剤の検出結果を処理するためのものである。いくつかの実施形態では、データ処理システムは、前記遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出結果を用いて肝細胞がんスクリーニングスコアを算出する。いくつかの実施形態では、データ処理システムは、肝細胞がんスクリーニングスコアを閾値と比較する。いくつかの実施形態では、データ処理システムは、好ましくは肝細胞がんスクリーニングスコアを閾値と比較することによって、HCCを推定及び/又は検証及び/又は予測する。
【0070】
本発明は、このHCCスクリーニングを用いて、早期HCC個体を識別し、肝硬変を含む慢性肝疾患に罹患している非HCC個体と区別することが可能であることを見出した。この測定法は、肝結節及び/又は血清AFP上昇の個体を超音波で検出するHCC診断において、85%の感度と93%の特異性を示している。さらに重要なことに、AFP/US陰性検証セット中でも性能は維持されており、感度及び特異性はそれぞれ、100%及び94%である。現在の感度は、限られた数のHCC症例に基づくものである。追加のHCC症例が識別された場合、これは全ての個体の長期フォローアップ又は動的CT/MRI検査によって変化する可能性がある。このような場合、フォローアップ時間に応じて感度と特異性を決定するには、前向きでかつ大規模な臨床試験が必要とされる。しかしながら、検証セットの現在の陽性予測値(PPV)である17%は、従来AFPレベル単独でのスクリーニングで得られたものよりも著しく高い(Chun S, Rhie SY, Ki CS, Kim JE, & Park HD (2015) Evaluation of alpha-fetoprotein as a screening marker for hepatocellular carcinoma in hepatitis prevalent areas. Annals of hepatology 14(6):882-888.)。
【0071】
したがって、別の態様において、本発明は、
(1)被検者の遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを検出するステップと、
(2)前記遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出結果を用いて肝細胞がんスクリーニングスコアを算出し、閾値と比較するステップとを含む、肝細胞がん早期スクリーニング方法を提供する。
【0072】
1回目の試験で陽性となった症例に対して、2回目のHCCスクリーニングを行えば、PPVはさらに改善する。高PPVは、非HCC個体の不必要な不安やフォローアップ検査を減らすことができることから、通常の臨床応用に非常に役立つ。
【0073】
したがって、別の態様において、本発明は、
(1)被検者の遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーを検出するステップと、
(2)前記遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出結果を用いて肝細胞がんスクリーニングスコアを算出し、閾値と比較するステップと、
(3)肝細胞がんスクリーニングスコアが閾値よりも高い場合、一定期間後に前記被検者に対して(1)及び(2)ステップを1回又は複数回繰り返すステップとを含む、肝細胞がん早期スクリーニング方法を提供する。
【0074】
1つの実施形態では、被検者の遺伝子マーカーは、被検者のcfDNAから検出されるものである。即ち、本発明の方法は、被検者のcfDNAを抽出することを含む。
【0075】
1つの実施形態では、被検者のタンパク質マーカーは、被検者の血液から検出されるものである。即ち、本方法は、被検者の血液、好ましくは血清又は血漿を採取することを含む。
【0076】
本明細書で使用される場合、「一定期間」という用語は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年とすることができ、これに限定されない。
【0077】
いくつかの実施形態では、算出された肝細胞がんスクリーニングスコアと比較する閾値は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1.0である。好ましい実施形態では、閾値は0.4である。好ましい実施形態では、閾値は0.5である。
【0078】
さらに別の態様において、本発明は、肝細胞がん早期スクリーニングにおける遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤の使用を提供する。
【0079】
さらに別の態様において、本発明は、肝細胞がん早期スクリーニング用キットの製造における遺伝子マーカー検出剤及びタンパク質マーカー検出剤の使用を提供する。
【0080】
当業者が理解できるように、本明細書でキットを説明する際に説明される特徴、パラメータ、及び効果などの全ての限定が、本発明の方法又は使用に関する他の任意の態様と適切に組み合わされ得る。
【0081】
腫瘍の大きさは診断時に重要な臨床パラメーターであり、HCC患者の生存に影響する。タンパク質やRNAに基づくバイオマーカーとは異なり、腫瘍細胞は、たいていの場合、突然変異体DNAのコピーを1コピーしか含んでいない。cfDNAに基づく早期検査スクリーニングの基本的な問題は、早期腫瘍が循環的に検出するのに十分な突然変異DNAのコピーを放出するか否かである。本研究では、HCCスクリーニングにより識別された全てのHCCのうち、85%と68%の症例は、それぞれ<5cmと<3cmである。<5cmのHCC腫瘍は早期段階であり、治療効果のある手術に適している。腫瘍<3cm未満の患者は更に良い結果が得られ、それによって、HCCの発病率と死亡率の低下におけるHCCスクリーニングの価値が反映される。検証セットでは、本発明はAFP/US陰性集団から2~3cmの大きさの4例のHCCを識別した。これらの結果から明らかに、HCCスクリーニングの感度は早期HCC検査において非常に将来性が期待できる。
【0082】
理想的な腫瘍スクリーニング方法は、高感度と高特異性が要求され、また臨床実践において実施しやすいものでなければならない。このHCCスクリーニング測定法は、コード領域中の突然変異と未知のブレークポイントを有する転座/HBV組み込みを検出するものであり、コストが150ドル未満である。さらに、この液体生検測定法は、処理の集中化と標準化が可能であり、地域の病院/診療所の専門知識や設備への要求が最小限に抑えられている。一般的には、この方法は、ハイリスク集団のHCCスクリーニング用の常の試験として非常に好適である。
【0083】
本発明の研究により提供される証拠から明らかなように、HCC患者を同定する上で、ハイリスク集団において、cfDNA突然変異及びタンパク質マーカーに基づくスクリーニングが有効である。このスクリーニングは、非侵襲的であり、早期及び進行期の腫瘍を検出することができる。さらに重要なことに、ドライバー遺伝子における体細胞の突然変異がほとんどのがんの発展において一般的であるため、単一チューブの血液から他の腫瘍タイプ又は複数の腫瘍タイプを早期にスクリーニングするために、このストラテジーを修正することができる。
【0084】
本発明のキットは、追加の治療剤をさらに含んでもよい。本発明の方法は、追加の治療剤を投与するステップをさらに含んでもよい。1つの実施形態では、前記追加の治療剤は、本分野で知られているがん(例えば肝細胞がん)の治療剤である。
【0085】
本出願において一連の挙げられた数値が現れる全ての箇所において、挙げられた数値のいずれかが、数値範囲の上限又は下限であってもよい。また、本発明は、そのような全ての数値範囲、即ち、数値の上限値と下限値との組み合わせを有する範囲を包含し、上限値と下限値のそれぞれの数値は、本発明に記載の任意の数値としてもよい。本発明による範囲は、その範囲内の全ての値を含むものと理解すべきである。例えば、1~10は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の全ての値を含み、場合によっては分数の値を含むものと理解する。「最大(up to)」と表現される値(例えば、最大5)の範囲は、0、1、2、3、4、5などの範囲の上限を含む全ての値と理解し、場合によっては分数値を含むものとする。最大1週間又は1週間内は、0.5日、1日、2日、3日、4日、5日、6日又は7日を含むものと理解すべきである。同様に、「少なくとも」で限定された範囲は、提供された低い値と高い値を全て含むものと理解すべきである。
【0086】
特に明記されていない限り、全てのパーセンテージの形式は重量/重量である。
【0087】
本発明で使用される場合、「約」は、平均値の3つの標準偏差又は特定範囲内の標準公差の範囲に含まれるものと理解すべきである。いくつかの実施形態では、「約」は0.5を超えない変動として理解すべきである。「約」は、その後に挙げられた全ての値を修飾する。例えば、「約1、2、3」は「約1」「約2」「約3」を意味する。
【0088】
冠詞「一(a)」及び「1個(an)」は、本発明では、この冠詞の1つ又は複数(即ち、少なくとも1つ)の文法的客体を指す。一例として、「1つの要素」とは、1つ又は複数の要素を指す。
【0089】
「含む」という用語は、本発明では、「含むが、限定されない」という語句を意味し、この語句と交換的に使用されてもよい。
【0090】
文脈によって特に明示的に示されない限り、「又は」という用語は、本発明では、「及び/又は」という用語を包含的に意味し、「及び/又は」という用語と交換的に使用されてもよい。
【0091】
「例えば」という用語は、本発明では、「例えば、限定されないが」という語句を指し、それと交換的に使用されてもよい。
【0092】
当業者が理解できるように、以上の様々な実施形態に記載の技術的特徴は、単独で又は組み合わせて、本発明の様々な態様の技術案と組み合わせて使用されてもよい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の非限定的な実施例にて説明される。
【0094】
早期肝がんスクリーニングマーカーの多くはタンパク質類や遺伝子メチル化情報である。本発明は、血清タンパク質マーカーとcfDNA改変の両方の検出に基づく、新しい肝細胞がんスクリーニング(HCCスクリーニング)方法を報告し、慢性HBV感染を有する多拠点コミュニティ集団の早期HCC検査に応用する場合の有用性を確認した。本発明者らは、血漿中のcfDNAの遺伝子変異情報が早期HCC予測に有用であることを、大量の実験により初めて確認した。本発明者らは、肝がん予測モデルを用いて被験者をスコアリングし、そのスコア値により被験者が肝がん患者であるか否かを予測することにより、本発明の遺伝子マーカーとタンパク質マーカーの組み合わせによりHCC早期スクリーニングを効果的に行えることを検証した。このことから、cfDNA検出による肝がんの早期スクリーニング、病状追跡、治療効果評価、予後予測などは重要な臨床意義を持つことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
図1】研究設計案である。集団募集、HCCスクリーニングモデルの訓練、及びサンプリングしたAFP/US陰性個体における検証を含む。
図2】詳細な研究設計案である。
図3】HCCスクリーニング測定法におけるcfDNAの遺伝子スペクトル解析の設計である。
図4】訓練セットと検証セットにおけるHCCスクリーニングの表現である。ここで、Aは、訓練セットの場合、診断モデルにおけるHCCスクリーニングスコア、及びcfDNAとタンパク質バイオマーカーの貢献であり、Bは、訓練セットの場合、診断モデルの二元結果であり、Cは訓練セットの場合、HCCスクリーニングの診断モデルのROC曲線であり、Dは、検証セットの場合、診断モデルのHCCスクリーニングの表現であり、Eは、検証セットの場合、HCCスクリーニング陽性症例のフォローアップと診断であり、Fは、検証セットの場合、診断モデルの二元結果であり、Gは、AFP/US陰性個体のうち、HCCスクリーニングにより検出された4例のHCC症例の動的CT画像である。
図5】異なる訓練セットの表現である。その中で、AはHBV感染のない健常個体を対照とした訓練セットにおけるHCCスクリーニング診断モデルのROC曲線であり、BはHCCと非HCC個体を用いた訓練(左図)とHCCと健常個体を用いた訓練(右図)である。
図6】肝がん予測モデルのROC曲線である。
図7】異なる群のモデルのスコアの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下の実施例は、本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0097】
以下の実施例における実験方法は、特に断らない限り、従来の方法である。
以下の実施例に用いる試験材料は、特に断らない限り、通常の生化学試薬販売店から購入したものである。
以下の実施例における定量試験は、いずれも3回の反復実験を設定し、結果として平均値と取る。
下記の実施例では、各肝がん患者、各肝がんハイリスク者、及び健常ボランティア全員が本研究の内容についてインフォームドコンセントをしている。
MagMAXTMCell-Free DNA Isolation KitはThermo Fisher社の製品である。KAPA Hyper PrepキットはKAPA社の製品である。sureselect XT標的キャプチャキットはAgilent社の製品である。
【0098】
下記の実施例では、一部の肝がん患者、肝がんハイリスク者、及び健常ボランティアの基本情報の詳細は表1に示される。
【0099】
【0100】
倫理声明
コミュニティ集団が行った早期HCCスクリーニングプロジェクトに基づき、発明者は2017年に肝がんのハイリスク集団に対してコミュニティに基づくコホート研究(CCOP-LCコホート;中国臨床登録、ChiCTR-EOC-17012835)を立ち上げた。この研究案(NCC201709011)は、国家がんセンター/国家腫瘍臨床医学研究センター/中国医学科学院腫瘍病院の機構審査委員会によって承認された。
【0101】
コミュニティグループにおける早期HCCスクリーニングプロジェクトの概要
早期HCCスクリーニングは、衛生部疾病予防制御センターの中国がん早期検査・早期治療専門家委員会が発表した「がん早期診断・早期治療技術案」に基づいて行われる(Shia YC, Beever JE,Lewin HA,& Schook LB (1991) Restriction fragment length polymorphisms at the porcine t complex polypeptide 1 (TCP1) locus. Anim Genet 22(2):194.)。全てのスクリーニングセンターに、集団に基づくがん登録所と人口動態統計部門が設置されている(Chen W, et al. (2018) Cancer incidence and mortality in China, 2014. Chinese journal of cancer research = Chung-kuo yen cheng yen chiu30(1):1-12.)。簡単に言えば、HBsAg陽性の35~69歳の「健常」個体は、早期HCCスクリーニングに参加してもらう。全ての参加者は、血清AFP濃度測定と超音波検査(US;Aloka ProSound SSD-4000;中国上海)、及びその他の標準的な生化学検査(表2)を受けた。血清AFPレベルと肝結節検査に基づいて、個体をAFP/US陽性、擬似又は陰性とした。「AFP/US陽性」個体は以下のいずれかを有する。1)超音波で測定した結節を考慮せず、血清AFPレベル>400ng/mLである。2)血清AFP濃度を考慮せず、超音波で測定した結節は≧2cmである。3)超音波で測定した結節は≧1cmであり、血清AFPは≧200ng/mlである。「AFP/US擬似」個体は、以下のいずれかを有する。1)超音波で測定した肝結節を考慮せず、血清AFPレベル≧20ng/mlである。2)超音波で測定した結節は≧1cmである。「AFP/US陰性」個体は、血清AFPレベルが<20ng/mLであり、超音波検査で肝臓結節が検出されていないものと定義される。AFP/US陽性の個体は、上級病院(中国三級病院)に紹介され、動的CTや動的MRIで肝がん患者と確診された場合、臨床実践指針に基づく関連治療を受ける(図1)(Omata M,et al. (2017) Asia-Pacific clinical practice guidelines on the management of hepatocellular carcinoma:a 2017 update.Hepatol Int 11(4):317-370.)。確診されなかった個体は、2ヶ月以内に戻って動的CT/MRI検査を受けるようになる。AFP/US擬似個体は、2~3ヶ月以内に2回目の血清AFP定量検査と超音波検査を受けることが推奨されている。
【0102】
【0103】
参加者及び研究設計
現在の研究の参加者は、中国の江蘇省と安徽省の4つのスクリーニングセンターで個体を評価するCCOP-LCコホートから得られた(図1)。AFP/USスクリーニング期間中(ベースラインを考慮して、2017年10月7日~2018年1月31日の間に実施)に、発明者は末梢血(EDTAを塗布したチューブ内、5mL)を採取し、採取後2時間内に4000gを10分間遠心分離して、血漿・血球を分離した。全ての標本は-80℃で保管した。ほとんどの場合、タンパク質マーカーの測定には0.5mLの血漿が使用され、cfDNA抽出には2mLの血漿が使用される。
【0104】
HCCスクリーニング測定法において、さらに176個のAFP/US陽性/擬似症例を分析した。本研究では、フォローアップ検査での診断結果に従って、信頼度の高い診断を受けた参加者を訓練セットとして選択した。本発明者の発見を検証するために、本発明は、HCCスクリーニング測定法においてAFP/US陽性/擬似者と年齢が類似しているAFP/US陰性個体から331人の参加者をサンプリングした。2018年5月20日~7月17日(ベースライン採血から6~8ヶ月後)まで、動的CT/MRI、AFP/超音波検査又は電話インタビューにより331人の個体をフォローアップした。CT/MRI画像は北京中国医学科学院国家がんセンターの2名の放射線科医師が独立して評価した。この間、本発明は、ベースラインがAFP/US陰性であり、HCCスクリーニング試験が実施されていない個体に対して、追加のAFP/US試験を提供した。彼らの中には追加のAFP/US検査を選択していないものもあり、2018年6月30日までの肝がんの結果(ICD-10コードC22)は、スクリーニングセンターの集団に基づくがん登録所から得られた(図1)。3617人のAFP/US陰性個体のうち、1612人(44.6%)の参加者は2018年5月20日~7月17日までの期間、即ちベースラインスクリーニングの6~8ヶ月後にフォローアップできた。このうち、87人の参加者は動的CT/MRI検査を受け、1120人はAFP/USを受け、68人は電話インタビューを受けた。337人の参加者の肝がんの結果は、現地の集団に基づくがん登録所から得られた(図2)。他の2005人の参加者のHCC状態は、2018年6月30日まで得られなかった(図2)。
【0105】
年間健康診断を行い、いかなるHBV感染も報告されていない集団の中から70人の健常対照者を得た。献血したところ、全員HBsAg陰性が確認された。
【0106】
血清DCP濃度の測定
製造者の取扱書(Abbott Laboratories;Chicago,IL,USA)によると、市販キットを使用してAbbott ARCHITECT i2000SR化学発光免疫分析装置(CLIA)で血清DCPレベルを測定した。
【0107】
cfDNA改変のスペクトル解析
本発明者は試験を設計してcfDNAのシーケンシングを行い、1)TP53、CTNNB1、AXIN1のコード領域とTERTのプロモーター領域(表3);2)HBV組み込みに対して、スペクトル解析を行った。簡単に言えば、まず、cfDNA断片をランダムなDNAバーコードを有するアダプタ(adaptor)に接続する(図3)。接続された構築物を10回の反応サイクルで増幅して、各元のcfDNA断片を識別する固有のDNAバーコードを有する数百の冗長構築物を含む全ゲノムライブラリーを生成する。増幅されたライブラリーは、5~10回の独立したシークエンシング解析を行うのに十分である。標的領域は、標的特異的プライマー(TSプライマー1)と接合体配列を一致させるプライマー(Perera BP & Kim J (2016) Next-generation sequencing-based 5' rapid amplification of cDNA ends for alternative promoters. Analytical biochemistry 494:82-84;Zheng Z, et al. (2014) Anchored multiplex PCR for targeted next-generation sequencing. Nature medicine 20(12):1479-1484.)(図3)を用いたPCRの9サイクル中にDNAバーコードとともに増幅される。アダプタと標的領域を一致させる一対のネストプライマー(TSプライマー2)を用いて、15サイクルのPCRを再度行い、標的領域をさらに濃縮し、Illuminaシークエンシングアダプタを追加する(図3)。PCRに基づくこの測定法では、有効な濃縮が観察され、>80%のreadsが<10Kbの小標的領域にマッピングされた。該測定法により、本発明は100,000回を超える標的領域、3Gbシークエンシングデータをカバーすることができ、元のcfDNA 5,000コピーの20×冗長シークエンシングが可能となる。DNAバーコードが元のcfDNA分子に接続されている場合、元のcfDNA分子からの冗長readsを追跡して、PCR増幅及び並列変異シーケンシングに固有の呼び出しエラー(calling error)を最小化することができる(Kinde I, Wu J, Papadopoulos N, Kinzler KW, & Vogelstein B (2011) Detection and quantification of rare mutations with massively parallel sequencing. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108(23):9530-9535;Chaudhuri AA, et al.(2017) Early Detection of Molecular Residual Disease in Localized Lung Cancer by Circulating Tumor DNA Profiling. Cancer discovery 7(12):1394-1403.)。本発明は、今回の測定法で検出された11個の突然変異をデジタルPCRで調べて、全ての突然変異を0.03~0.16%の突然変異スコアで検証した。
【0108】
【0109】
データ処理及び変異検出
シーケンシングreadsは、処理によってタグを抽出し、シーケンスアダプタを除去する。次に、Trimmomatic(v0.36)を使用して、残ったアダプタと低質量領域を除去する。デフォルトパラメータを有する‘bwa(v0.7.10)mem’(Li H & Durbin R (2010) Fast and accurate long-read alignment with Burrows-Wheeler transform. Bioinformatics26(5):589-595.)を使用して、清浄なreadsをhg19及びHBVゲノムにマッピングする。samtools mpileup(Li H, et al. (2009) The Sequence Alignment/Map format and SAMtools. Bioinformatics 25(16):2078-2079.)を用いて、関心のある標的領域においてSNPとINDELからなる候補体突然変異を同定する。正確性を確保するために、同じタグ及び開始座標と終了座標を持つreadsは、一意識別子(Unique Identifier)ファミリー(UIDファミリー)にグループ化される。少なくとも2つのreadsを含有し、その少なくとも80%のreadsが同じタイプであるUIDファミリーは、有効一意識別子(Effective Unique Identifier)ファミリー(EUIDファミリー)として定義される。各突然変異の頻度は、代替EUIDファミリーの数を代替と参照の合計で除算することによって算出される。IGVにおいてさらに手動で突然変異を検査する。Ensembl Variant Effect Predictor(VEP)で候補バリアントを注釈し(Wang J, et al. (2011) CREST maps somatic structural variation in cancer genomes with base-pair resolution. Nat Methods 8(8):652-654)。Crestを用いてHBV組み合わせを同定し(McLaren W, et al. (2016) The Ensembl Variant Effect Predictor. Genome biology 17(1):122.)、また、少なくとも4つのソフトトランケーションシーケンスのサポート(soft-clip reads supports)を必要とする。
【0110】
モデル構築
1.特徴マッピング及びデータ前処理
1)突然変異注釈及びスコア:
突然変異の頻度(候補突然変異をサポートするreadsのスコア)は、血液中に循環する腫瘍DNAの総量及び腫瘍の大きさに高度に比例する。したがって、本発明は、入力突然変異の全てを、そのreadsサポート頻度で注釈を付ける。
2)突然変異の分解
突然変異を遺伝子レベル又は焦点領域に分解することにより、複数の遺伝子特徴を抽出する。ROIスコアは、関心のある領域(ROI)ごとに算出される。
ここで、nはROIと重複する突然変異の数であり、adj_scoreは突然変異のreadsサポート頻度である。
3)タンパク質及び実験マーカー
DCPとAFPの2つのタンパク質マーカーは、これまでの研究でHCC診断の非常に強力な指標であることが確認された(Chen H, et al. (2018) Direct comparison of five serum biomarkers in early diagnosis of hepatocellular carcinoma. Cancer management and research10:1947-1958.)ため、本発明のモデルに使用されている。これらの値は、複数の数値分類にランク付けされる。cfDNA濃度も本発明のモデルの特徴リストに含まれる。
4)特徴としての臨床情報
HCC診断の可能性が個体の年齢及び性別にある程度関連していることが証明されているので、患者の年齢及び性別も本発明の予測器の一部を構成する。
【0111】
2.特徴選択
RandomForestは、候補特徴から有用な変数をスクリーニングすることに使用される。発明者は、バイアスのないアウトオブバッグ誤差推定(unbiasedout-of-bag error estimation)を最小化することにより、逆変数減算(backward variables subtraction)を適用し、実行するごとに1つの特徴を削除する。その後、タンパク質、遺伝子マーカー及び臨床情報を最適化して、二元分類器の最終的な特徴を構築する。HCCを健常個体と比較する訓練では、ctDNA SNP/indel突然変異とタンパク質マーカーのみを使用する。健常群ではHBV感染がないため、HBV-TERT融合又は他のHBV組み込みは含まれない。
【0112】
3.モデル及びパラメータの最適化
罰則付きロジスティック回帰モデルは、65個のHCCと70個の非HCCを含む135個の標本の訓練セットから構築される。モデルの性能は、曲線下面積(AUC)統計によって、訓練データセットと検証データセットの両方について評価される。モデルの感度と特異性は、最適化されたカットオフ値0.4を用いても決定される。このカットオフ値の最適化にはYoudenインデックスが使用される。遺伝子、タンパク質、CNVレベルをそれぞれクラスタリング分析するために、罰則付きロジスティック回帰を用いた特徴ごとの交差検証係数も与える。このモデルはRパッケージ‘glmnet’(Rバージョン3.5.1)で起動され、ペナルティパラメータαは訓練データセット内で10倍交差検証により最適化され、最適化された値は0である。
【0113】
統計分析
本発明は、ctDNA突然変異、タンパク質バイオマーカーレベル、及び臨床的特徴を変数とする罰則付きロジスティック回帰モデルを使用する。発明者は、AFP/US陽性及びAFP/US擬似個体において、動的CT/MRI及び/又は組織学的HCC症例及び非HCC症例を定義した(図1)。HCCスクリーニング測定法の感度と特異性は、65例のHCCと70例の非HCCの訓練データセットに対して100回の反復のLOOCV(Leave-One-Out Cross Validation、一個抜き交差検証)を行って算出した。
【0114】
実施例1、4つのスクリーニングセンターによるベースライン参加者の臨床パラメータ及び肝細胞がん(HCC)結果のフォローアップ
4つのスクリーニングセンターにおいて、血液B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)試験によりコミュニティ個体(n=72720)をスクリーニングし、その後アンケート調査を行った。HBsAg陽性個体(n=3793)にAFP/USスクリーニングに参加してもらった。これらのHBsAg陽性個体のうち、176位に関連するAFP/US結果(AFP/US陽性/擬似群と命名)があり、残りのHBsAg陽性患者はAFP/US陰性群(n=3617)を構成した(図1と表3)。彼らのHCC状態を決定するために、全てのAFP/US陽性/擬似個体は、最初のスクリーニングから2ヶ月以内に動的CT/MRI検査を行うことが推奨された。HCC状態が確実に診断された患者を本研究の訓練セットに入れて、これらの個体から得られたベースラインAFP/US血液サンプルに対してHCCスクリーニング試験を行った(図1)。
【0115】
この3617人のAFP/US陰性個体のうち、約60%は、本研究のベースラインスクリーニングの前にAFP/USスクリーニングを行ったことがある(図2及び表3)。フォローアップにおける不安や非コンプライアンスを軽減するために、本発明は、主に、過去1~3年間にAFP/USスクリーニングを行った個体を検証セット(n=331)として選択する。性別、USで検出された肝硬変の割合及び血清アルブミンレベルに基づいて、サンプリングしたAFP/US陰性参加者の分布は全てのHBsAg陽性参加者と類似している(図2及び表3)。本発明は、ベースラインAFP/USスクリーニングにおいて検証セットから採取された血液サンプルに対してHCC液体生検試験(HCCスクリーニング)を行い、ベースラインスクリーニングの6~8ヶ月後にHCC状態をフォローアップした。本発明はまた、HBV感染のない70人の健常個体に対してHCCスクリーニングを行った。
【0116】
実施例2、HCCスクリーニングを用いたHCCマーカーの選択及び検出
本発明は、1)HCCにおいて非常に一般的であり、cfDNAで検出可能な遺伝子改変;及び2)血清タンパク質マーカーであるαフェトプロテイン(AFP)及び脱-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)という2種類のバイオマーカーを用いてHCCスクリーニング測定法を開発した。以前のがんゲノム研究では、HBV関連HCCの多くは、TP53、CTNNB1、AXIN1又はTERTプロモータの遺伝子/位置の突然変異を少なくとも有する(Totoki Y, et al. (2014) Trans-ancestry mutational landscape of hepatocellular carcinoma genomes. Nature genetics 46(12):1267-1273;Zhang W, et al. (2017) Genetic Features of Aflatoxin-associated Hepatocellular Carcinomas. Gastroenterology.)。本発明はまた、HCCの潜在的なバイオマーカーとしてHBV組み込みブレークポイントを考慮する。HBV組み込み部位は各体細胞において一意であるべきであるため、血漿(2~3ml)から複数のコピー(>2)が検出された特定の組み込み部位は、HBV組み込みを有する個々の細胞のクローン増幅を示すことができる。この場合にのみ、そこからできた腫瘍が同じゲノムDNAの複数のコピーを血液中に放出する。本発明は、並列スペクトル解析(profile)可能な遺伝子変化の測定法を設計した。抽出されたcfDNAは、DNAバーコードを有するカスタマイズされたアダプタに接続され、その後、増幅されて全ゲノムライブラリーが生成される。発明者は、TP53、CTNNB1及びAXIN1のコード領域、TERTのプロモーター領域、及びHBV配列をカバーする複数のプライマーを用いて、cDNA末端の迅速増幅(RACE)と同様の方法で、点突然変異及びHBV組み込みを有する標的を濃縮させる(図3)(Chaudhuri AA, et al.(2017) Early Detection of Molecular Residual Disease in Localized Lung Cancer by Circulating Tumor DNA Profiling. Cancer discovery 7(12):1394-1403;Waltari E, et al. (2018) 5' Rapid Amplification of cDNA Ends and Illumina MiSeq Reveals B Cell Receptor Features in Healthy Adults, Adults With Chronic HIV-1 Infection, Cord Blood, and Humanized Mice. Frontiers in immunology 9:628.)。第二世代シークエンシングのreadsは、DNAバーコードによって元のcfDNA分子を追跡することができるため、シークエンシング/増幅エラーから偽陽性一塩基変異(SNV)をフィルタリングすることができる(Kinde I, Wu J, Papadopoulos N, Kinzler KW, & Vogelstein B (2011) Detection and quantification of rare mutations with massively parallel sequencing. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108(23):9530-9535.)。
【0117】
本発明者のこれまでの発見及びHCC、肝硬変及び慢性肝炎の影響を受けた他の入院患者の報告に基づくと、AFPとDCPの血清タンパク質レベルの組み合わせは、早期HCCと非代償性肝硬変との区別において顕著な感度及び特異性を示す(Chen H, et al. (2018) Direct comparison of five serum biomarkers in early diagnosis of hepatocellular carcinoma. Cancer management and research10:1947-1958.)。したがって、本発明は、このような液体生検に基づく測定法(AFP、DCP及びcfDNAを含む)が早期HCCを効果的にスクリーニングできるか否かを検討するために、cfDNA改変とこれら2つの血清タンパク質マーカーを組み合わせる。
【0118】
実施例3、HCCスクリーニング測定法による臨床診断の一致性
HCC検査におけるその有用性を決定するために、本発明は、HCCと診断されたか、又は排除された(非HCC)個体においてHCCスクリーニングを行った。AFP/US陽性/擬似個体から65例のHCCと70例の非HCCを得た。このHCC陽性又はHCC陰性の状態は、動的CT/MRI画像及び組織学に基づいて確認された。この135例の症例を訓練セットとして使用し、HCCスクリーニング結果を臨床診断と比較した。測定法において、異なるタイプのバイオマーカーを組み込んだ分類器を確立するために、本発明は、まず、異なるタイプのcfDNA突然変異を、各遺伝子又は遺伝子座について関心領域(region of interest、ROI)スコアに分解(collapse)する。ROIスコアは、ROI内の各点突然変異の破壊効果及び頻度の加重和である。本発明は、遺伝子におけるSNV/indel突然変異のROIスコアに加えて、HCC状態を予測するための診断分類器を構築するための最終的な特徴として、2つの構造的バリアント特徴(TERTプロモーター領域におけるHBV組み込み及び他のHBV組み込み)、1つの実験的特徴(cfDNA濃度)、2つのタンパク質マーカー(AFP及びDCP)、及び2つの臨床的特徴(年齢及び性別)を追加する(表2)。これらのマーカーを用いて罰則付きロジスティック回帰アルゴリズムを用いると、HCCスクリーニングモデルはHCC症例と非HCC症例をよく区別する(図4のA)。65例のHCCと70例の非HCCの訓練データセットに対して100回の繰り返した一個抜き交差検証(leave-one-out cross validation)を行ったところ、該測定法は、HCC診断において85%の感度と93%の特異性(曲線下面積=0.928)を有することがわかった(図4のB及び図4のC)。HCCスクリーニングスコアのカットオフ値は最高Youdenインデックスのスコアに対して0.4であった(図5のB及び表4)。cfDNAとタンパク質マーカーの両方はHCCの識別に顕著な貢献をした(図4のC及び表5)。
【0119】
【0120】
【0121】
実施例4、HCCスクリーニング測定法によるAFP/US陰性個体の早期HCCの予測値
本発明はさらに、AFP/US陰性で臨床症状を示さないHBsAg陽性個体からHCCスクリーニングがHCCを検出できるか否かを試験した。331人のAFP/US陰性個体をHCCスクリーニングで試験し、訓練セットから得られたアルゴリズムに基づいて24例の陽性症例(HCCスクリーニング陽性と呼ばれる)を識別した(図4のD)。
【0122】
24名のHCCスクリーニング陽性個体に対して6~8ヶ月のフォローアップを行い、HCCの臨床結果を得た。これらの個体のうち、17名に動的CT検査、4名にAFP/US検査、3名に電話インタビューによるフォローアップを行った。24名のHCCスクリーニング陽性個体のうち4名は最終的にHCCと診断され、HCC検査の陽性予測値は17%であった(図4のE)。また、1群のHCCスクリーニング陰性参加者(n=70)は、6~8ヶ月に動的CT検査を行うことに同意し、誰もHCCと診断されなかった。本発明はまた、ベースラインAFP/USスクリーニングの6~8ヶ月後に、172人のHCCスクリーニング陰性参加者をAFP/USで追跡したが、HCC症例を診断しなかった。電話インタビューによるフォローアップを行った65人の参加者のうち、HCC患者は認められなかった(図2)。一般的には、これらのHCCスクリーニング陰性症例のうち、HCC症例は認められなかった。これらを総合すると、HCCスクリーニング測定法はAFP/US陰性個体では17%の陽性予測値、100%(4/4)の感度、94%の特異性(307/327)を示した(図4のF)。動的CTで診断した時、識別した全ての4つのHCC患者の腫瘍の大きさは全て<3cm(図4のG)であり、しかもベースライン時のUS結果によると、この4人の患者は肝硬変がなかった。
【0123】
本発明は、ベースライン検出時にAFP/US-陰性であり、HCCスクリーニング試験を行っていない944人の参加者に対して、ベースライン検出後6~8ヶ月の間にAFP/US検査を行った。HCCが4例検出され、さらに確認された(0.4%、4/944)。がん登録記録によると、ベースラインスクリーニングでAFP/US陰性であり、HCCスクリーニング又はそれ以上のAFP/USスクリーニングを行っていない337人の参加者のうち、2018年6月30日までに肝がんの結果(ICD-10コードC22)が確認されなかった(図2)。
【0124】
ベースラインの1回目の採血から6~8ヶ月後に、24人のHCCスクリーニング陽性症例のうち13人に対して2回目の採血を行い、HCCスクリーニング測定法を繰り返した。このうち、HCC症例の1つは引き続き陽性で、6ヶ月前よりもスコアが高かった。もう1つのHCC症例は、2回目の採血の前に手術で腫瘍を切除しており、HCCスクリーニングでは陰性であり、この状態と一致していた。HCCスクリーニングで陽性となった11例の非HCC症例のうち、7例(64%)は、2つのスクリーニング結果が閾値(0.40)に近かったものの、2回目のHCCスクリーニングで陰性であった。残りの4例の非HCC症例は、2回目のHCCスクリーニングで陽性であるままであった(図4のE)。これらの結果は、第2の時点で試験を繰り返すことにより、陽性予測値をさらに改善できることを示している。現在、これらの症例に対してフォローアップを行い、さらにこの測定法を検証した。
【0125】
実施例5、健常個体訓練による液体生検測定法
HCCスクリーニング測定法はハイリスク集団で強いHCC識別能力を示した。以前の研究によれば、そのようなハイリスク集団では、HBV感染又は他のリスク因子を持たない健常者とのがん患者の比較よりも感度と特異性が低くなると予測されていた。この仮説をテストするために、本発明は、HBV感染のない70人の健常個体(HBsAg陰性)にHCCスクリーニングを行い、訓練セットのHBsAg陽性の非HCC症例70例の代わりにこれらのデータを使用した。HCCスクリーニング測定法は、cfDNAとタンパク質マーカーの解析により、健常個体からHCC症例を効率的に識別し、感度が98%、特異性が100%であった(図5のA)。しかし、この訓練セット(HCC及び健常個体)から得られたアルゴリズムは、HBsAg陽性の非HCC症例ではパフォーマンスが良くなかった。このアルゴリズムによれば、非HCC症例のほとんどが陽性に分類される一方、HCCと非HCCの症例は高く重複している(図5のB)。さらに、検証セットに対してパフォーマンスが良くなかった。試験では、4つのHCC症例が全て陽性であったが、HBsAg(+)個体の多くは陽性と分類され、生成した特異性と陽性予測値はそれぞれ58%と2.8%にとどまった(図5のB)。一方、HBsAg陽性の検証セットにおけるそのパフォーマンスを除いて、HCCと非HCC症例から得られたアルゴリズムは、全ての健常個体(100%)を正しく陰性に分類した(図5のB)。
【0126】
実施例6、CNVをさらに含む液体生検測定法
一、血液サンプルの取得
肝がん患者の血液サンプルは、臨床的に肝がんと同定された65人の肝がん患者から提供された。
肝がんハイリスク者の血液サンプルは、文献(Omata,M.,et al.,Asia-Pacific clinical practice guidelines on the management of hepatocellular carcinoma:a 2017 update.Hepatol Int,2017.11(4):p.317-370.)に記載されている方法を用いて、肝がんハイリスクと同定された70人の肝がんハイリスク者から提供された。
健常者の血液サンプルは100人の健常ボランティアから提供された。
【0127】
二、被験血液サンプルのcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の検出及びCNV検出
被験血液サンプルは、65人の肝がん患者の血液サンプル、70人の肝がんハイリスク者の血液サンプル、及び100名の健常者の血液サンプルである。
【0128】
1、MagMAXTMCell-Free DNA Isolation Kitを用いて、被験血液サンプルcfDNAをそれぞれ抽出した。
【0129】
2、ステップ1を完了した後、液相ハイブリダイゼーションキャプチャ技術を用いて、被験血液サンプルのcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子情報、例えばTP53遺伝子、AXIN1遺伝子、CTNNB1遺伝子、TERT遺伝子のプロモーター、B型HBVとC型HBVの突然変異情報を測定した。ステップは、具体的には、以下のとおりである。
(1)前記被験血液サンプルのcfDNAを採取し、KAPA Hyper Prepキットを用いてライブラリーを構築し、被験血液サンプルのcfDNAライブラリーを得た。
(2)ステップ(1)を完了した後、前記被験血液サンプルのcfDNAライブラリーによって、sureselect XT標的キャプチャキットを用いて標的領域のハイブリダイゼーションキャプチャを行い、その後、Illuminaプラットフォームで20000×の深さでシークエンシングを行った。検出された遺伝子又はウイルスのバージョン、染色体、開始位置、終了位置及びカバー領域の詳細は表6に示される。
【0130】
一部の血液サンプルのcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の検出結果は表7中の第2列と第4列に示される。
【0131】
注:「-」は突然変異未検出、「--」は組み込み未検出を表す。
【0132】
3.ステップ2の(1)で製造した血液サンプルのcfDNAライブラリーを取り、低深度全ゲノムシーケンシングを行い、次に、シーケンシングデータ(約3G)をCNV検出を行った。
【0133】
三、血漿中のAFP含有量の検出
被験血液サンプルは、65人の肝がん患者の血液サンプル、70人の肝がんハイリスク者の血液サンプル、100名の健常者の血液サンプルである。
【0134】
1、被験血液サンプルを採取し、採血管の上下を逆にして10回混ぜ、4℃、2000gで10min遠心分離した後、上層血漿を遠心分離管(規格は1.5mL)に移し、4℃、16000gで10min遠心分離し、上清(血漿)を収集した。
2、ステップ1を完了した後、前記血漿を採取し、米国アボット社のIMx分析装置を用いてAFPの含有量を検出した。
一部の血液サンプル血漿中のAFP含有量の検出結果は表8の第2列に示される。
【0135】
【0136】
四、血漿中のDCP含有量の検出
被験血液サンプルは65人の肝がん患者の血液サンプル、70人の肝がんハイリスク者の血液サンプル、及び100名の健常者の血液サンプルである。
1、被験血液サンプルを採取し、採血管の上下を逆にして10回混ぜ、4℃、2000gで10min遠心分離した後、上層血漿を遠心分離管(規格1.5mL)に移し、4℃、16000gで10min遠心分離し、上清(即ち血漿)を収集した。
2、ステップ1を完了した後、前記血漿を取り、米国アボット社のARCHITECT i2000SR化学発光免疫分析装置を用いてDCPの含有量を検出した。
一部の被験血液サンプルの血漿中のDCP含有量の検出結果は表8の第3列に示される。
【0137】
五、データ処理及び22個の特徴スコア値の取得
1、遺伝子突然変異結果の注釈及び採点
ステップ二のcfDNA中の肝がん突然変異遺伝子の検出結果に対して、突然変異readsサポート頻度の注釈スコアで注釈を行った。突然変異readsサポートは、組織内の変異細胞の割合を大きく反映しているため、表現型に関連する重要な因子である。
【0138】
2.突然変異部位の組み込み及び採点
各遺伝子突然変異について、突然変異readsサポート頻度に従って注釈スコアを与え、その後、突然変異部位スコア値を異なるROI(Region Of Interest)区間に累積した(即ち、特徴スコア値が得られる)。この区間は4つの遺伝子(TP53、CTNNB1、TERT及びAXIN1)と1つのTP53 R249Sホットスポット突然変異位置領域を含む。計算式は以下のとおりである。
【0139】
ここで、nはROIと重複する突然変異の数であり、adj_scoreは突然変異のサポート頻度である。
【0140】
3.構造的変異結果の特徴抽出
(1)各標本のHBVとTERT組み込み変異特徴のスコアを検出し、TERT組み込みが発生した場合、TERT組み込み変異の特徴スコア値は1であり、TERT組み込みが発生しない場合、TERT組み込み変異の特徴スコア値は0である。
(2)各標本のHBV組み込み変異の特徴スコア値を検出し、検出した各組み込み変異に対して、readsサポート信頼度によってA、B、及びCの3つの等級(組み込みreads数≧10:A等級;10>組み込みreads数>6:B等級;残りはC等級、表7中の第3列を参照)に分け、対応するスコアはそれぞれ1、0.8、及び0.3点であり、その後合計すると、HBV組み込み変異の特徴スコア値を得た。
【0141】
4、遺伝子コピー数変異検出結果の特徴抽出
ステップ二のCNV検出結果を以下のように処理した。各腕レベルでの計44個のCNVシグナル(性染色体は性別がCNVシグナルに与える影響を排除するために削除された)のスコアに対してPCA次元削減処理を行い、R値により前の6つの主成分(即ち、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6)をCNV関連の特徴として選択し、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6のR値は特性スコアとなる。
【0142】
5.遊離DNAの長さに関する特徴抽出
本発明の発明者は、cfDNA断片長が4つの区間(<90bp、90~140bp、141~200bp、及び>200bp)に占めるパーセンテージを算出し、これらの特徴を予測変数とし、4つの区間に占めるcfDNA断片長のパーセンテージを特徴スコア値とした。
【0143】
6、タンパク質マーカーに関する特徴抽出
AFPの実測値を閾値(13、20、200、400)の昇順で5つの数値ランク:0、5、8、20、30に、DCPの実測値を閾値(40、60)の昇順で3つの数値ランク:0、2、5に分け、2つのタンパク質マーカーの特徴スコア値とした。
【0144】
7.臨床及び実験に関する特徴抽出
臨床的特徴は患者の年齢、性別を含み、cfDNA濃度(cfDNA含有量/血漿体積)も病例の表現型と一定の相関性を呈し、モデルに組み入れられた。そのうち、cfDNA濃度値はlog2変換後の数値を特徴スコア値とした。年齢の特徴スコア値はサンプルの実際の年齢数値であり、性別が男の場合、特徴スコア値は1、性別が女の場合、特徴スコア値は0であった。
【0145】
以上のように、22個の特徴は13個の遺伝子突然変異特徴、2個のタンパク質マーカー、5個のcfDNA物理特徴、及び2個の血液サンプルの基本情報からなる。13個の遺伝子突然変異特徴は、それぞれ、TP53遺伝子突然変異、TERT遺伝子突然変異、AXIN1遺伝子突然変異、CTNNB1遺伝子突然変異、TP53 R249Sホットスポット位置領域、CNV次元削減特徴1、CNV次元削減特徴2、CNV次元削減特徴3、CNV次元削減特徴4、CNV次元削減特徴5、CNV次元削減特徴6、HBVとTERT組み込み変異、HBVと非TERT組み込み変異である。2個のタンパク質マーカーは、それぞれAFPとDCPである。5個のcfDNA物理特徴は、それぞれ遊離DNA断片長が90bpより小さい区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が90~140bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が141~200bpの区間のパーセンテージ、遊離DNA断片が200bpより大きい区間のパーセンテージ、及びcfDNA濃度である。2個の血液サンプルの基本情報は、それぞれ性別と年齢であった。
【0146】
六、肝がん予測
1、ステップ一~五の方法に従って、被験者の22個の特徴の特徴スコア値を得た。
2、ステップ1で得られた特徴スコア値をパラメータとして、罰則付きロジスティック回帰アルゴリズムを用いて65個のHCCと70個の肝がんハイリスク者を含む135個の標本からなる訓練セットデータに対してモデル構築を行い、HCCscreenスコア値を算出した。遺伝子、タンパク質、及びCNVレベルをそれぞれクラスタリング分析するために、罰則付きロジスティック回帰を用いた特徴ごとの交差検証係数も与えられた。このモデルはRパッケージ‘glmnet’(Rバージョン3.5.1)で起動され、ペナルティパラメータαは訓練データセット内で10倍の交差検証により最適化され、最適化された値は0である。その後、HCCScreenスコア値及びサンプルグループ(がん又は非がん)情報によりROC曲線(receiver operating characteristic curve)をプロットした。ヨーデン指数(Youden’s index)が最大のときに対応するHCCScreenスコアの値を閾値とした。このモデルでは、モデルの最適なcut-off値として0.4を選択した。
HCCScreen>0.4の場合は肝がんと判定し、そうでない場合は非肝がんと判定した。
【0147】
七、肝がん予測モデルの有効性の検証
それぞれ肝がん群(65人の肝がん患者からなる)、肝がんハイリスク群(70人の肝がんハイリスク者からなる)、及び健常群(100名の健常ボランティアからなる)をサンプルとして、ステップ七の肝がん予測モデルの予後方法の有効性を検証した。
結果を図7に示す。その結果、肝がん予測モデルは、被験者が肝がん患者であるか否かを予測できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の本発明者らは、血漿中のcfDNAの遺伝子変異情報が早期HCC予測に有用であることを、多くの実験により初めて確認した。本発明者らは、肝がん予測モデルを用いて被験者をスコアリングし、そのスコア値から被験者が肝がん患者であるか否かを予測することにより、本発明の遺伝子マーカーとタンパク質マーカーとの組み合わせによる有効なHCC早期スクリーニング効果を検証した。このことから、cfDNA検出による肝がんに対する早期スクリーニング、病状追跡、治療効果評価、予後予測などは、重要な臨床意義がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7