(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】内燃機関の燃焼室をシールするための装置
(51)【国際特許分類】
F02F 5/00 20060101AFI20240920BHJP
F16J 10/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F02F5/00 Z
F16J10/04
F02F5/00 A
F02F5/00 H
(21)【出願番号】P 2021551608
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 DE2020100125
(87)【国際公開番号】W WO2020177812
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】102019105613.6
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509340078
【氏名又は名称】フェデラル-モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL-MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リヒャート ミットラー
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-076712(JP,A)
【文献】再公表特許第2005/045222(JP,A1)
【文献】特表2010-513776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F02F 1/00- 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室をシールするための装置であって、少なくとも1つのピストン(1)と、該ピストン(1)を収容する円筒状の構成部材(8)とを有し、前記ピストン(1)は、前記構成部材(8)の内部にて上側の終端位置(o)と下側の終端位置(u)との間で交互に運動可能であり、前記構成部材(8)は、前記ピストン(1)の前記上側の終端位置(o)の領域において、溝(9)内に挿入された、合口(18)を備える少なくとも1つのシール要素(10)に作用接続可能であり、前記シール要素(10)は、
シールリング
(10)として形成されていて、前記ピストン(1)側の内周面(14)の領域に成形部を備え、前記ピストン(1)は、前記成形部(14)の高さ(h)の範囲内に前記上側の終端位置(o)の領域を有し、
前記成形部(14)は、前記シールリング(10)の上側の側面(11)を起点として下側の側面(12)の方向に均一にテーパされており、これによって、少なくとも前記上側の側面(11)の領域において、前記シールリング(10)もしくは前記成形部(14)と前記ピストン(1)との間に密な接触が形成可能であり、
前記シールリング(10)は、前記ピストン(1)との接触により、半径方向に拡開可能である、
ことを特徴とする、
装置。
【請求項2】
前記シールリング(10)の、前記ピストン(1)側の前記内周面(14)は、円錐状に延びる成形部を備えるかまたはテーパフェース状の摺動面として形成されていることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記シールリング(10)は、予め設定可能な合口隙間(FT)を備え、該合口隙間(FT)は、前記ピストン(1)の上昇運動と、前記シールリング(10)の成形された前記内周面(14)とに基づき、前記ピストン(1)の前記上側の終端位置(o)の領域で可変であることを特徴とする、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記シールリング(10)の前記内周面(14)は、摩耗を減じる保護層(14’)を備えることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記構成部材(8)は、ライナとして形成されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記シールリング(10)は、トップコンプレッションリング(5)として形成されたピストンリングの上方で、予め設定可能な間隔をおいて前記構成部材側に位置決めされており、これによって、前記シールリング(10)の前記内周面(14)の接触領域(16,16’)の一番上側が、前記ピストン(1)のピストンクラウン(15)の前記上側の終端位置(o)で終端していることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
内燃機関の燃焼室をピストンと接触することによりシールするためのシールリング
(10)であって、
前記シールリング(10)
は、上側の側面(11)および下側の側面(12)と、外周面(13)および内周面(14)と、合口(18)とを有し、前記内周面(14)は、成形部を備える摺動面として形成されており、
前記内周面(14)は、円錐状の成形部を備えるかまたはテーパフェースとして形成されており、前記ピストンと接触可能で
あり、前記シールリング(10)は、前記ピストン(1)との接触により、半径方向に拡開可能である、ことを特徴とする、
シールリング
(10)。
【請求項8】
前記シールリング(10)は、予め設定可能な合口隙間(FT)を備える金属製のリングとして形成されていることを特徴とする、請求項7記載のシールリング
(10)。
【請求項9】
前記内周面(14)は、成形された摺動面として形成されており、少なくとも前記摺動面(14)の前記成形部は
、摩耗を減じる保護層(14’)を備えることを特徴とする、請求項7または8記載のシールリング
(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室をシールするための装置に関する。
【0002】
コンプレッションピストンリングは、内燃機関の燃焼室に対して、クランクケースをガス流に対してシールする役割を有する。このことは、ピストンに装着される適切なピストンリングによって行われる。実際のシール作用は、摺動面の湾曲した形状と相応のピストン速度とによって生じる、ピストンリングとシリンダとの間の流体動力学的なオイル膜の形成によって生じる。この場合、オイル膜が破られると、流体動力学的な摩擦ならびに混合摩擦が生じる。ピストンリングの位置は、クーリングチャネルによるピストン強度に基づき、一般に、ピストンのピストンクラウンの数ミリメートル下方に設けられる。これによって、いわゆるデッドボリュームが生じる。このデッドボリュームは、圧縮およびガス/燃料混合に関して、システムの最善化された効率に不都合な影響を与える。
【0003】
自動車開発およびHD開発では、通常は3つのピストンリング、すなわち1つのオイルリングおよび2つのコンプレッションリングから成るシステムが使用される。これらのピストンリングは、行程中のピストンの位置に応じて、燃焼室からのガス流およびクランクケースからのオイル流に対してシステムをシールする。
【0004】
独国特許発明第1930834号明細書は、多かれ少なかれ残渣形成の傾向が強い液状の燃料で運転される縦型のクロスヘッド式内燃機関において、オイル残渣および燃焼残渣を導出するための装置を開示している。この装置は、ピストンの下方の縁部を動力機構室に対してシールする中間底部であって、運転時に往復運動するピストンロッドに対してシールするスタッフィングボックスを備えたスタッフィングボックス支持体を保持している中間底部と、場合によっては、ピストン下面を掃気空気の圧縮のために使用する場合には中間底部のすぐ上方に配置されている弁ハウジングとを有する。突出したピストンホイールまたはシリンダの内壁の動力機構側の端区分と、これに対して平行に延びる環状空間の内側の壁面として働く、中間底部もしくはスタッフィングボックス支持体または場合によって存在する弁ハウジングにおける画定面とは、緊張式もしくは緊縮式のシールリングを備える。
【0005】
欧州特許第2535540号明細書により、内燃機関のシリンダ用のインサートが公知になっている。このインサートは、シリンダ内でガイド可能なピストンのトップランドの領域の汚染物を、ピストンが上死点位置を経る際に除去する。インサートは、シリンダの半径方向の凹部内に固定的に取付け可能な少なくとも1つの第1の環状の要素と、この第1の環状の要素に形成された第1の環状の要素の半径方向の溝内に挿入可能な少なくとも1つの第2の環状の要素とを備える。この第2の環状の要素は、溝内で、第1の環状の要素に対して相対的に半径方向で可動であり、かつ軸線方向で実質的に不動である。
【0006】
本発明の根底にある課題は、内燃機関の燃焼室をシールするための装置を改良して、冒頭で言及した、圧縮およびガス/燃料混合に関してシステムの最善化された効率に不都合な影響を与えるデッドボリュームを構造的に別の形態で構成することである。
【0007】
さらに、本発明の根底にある課題は、いわゆるデッドボリュームをその不都合な影響に関して最善化することができる、内燃機関の燃焼室をシールするためのシールリングを提供することである。
【0008】
上記課題は、内燃機関の燃焼室をシールするための装置であって、少なくとも1つのピストンと、このピストンを収容する円筒状の構成部材とを有し、ピストンは、構成部材の内部にて上側の終端位置と下側の終端位置との間で交互に運動可能であり、構成部材は、ピストンの上側の終端位置の領域において、溝内に挿入された、合口を備える少なくとも1つのシール要素に作用接続可能であり、シール要素は、緊縮式のシールリングとして形成されていて、ピストン側の内周面の領域に成形部を備え、ピストンは、成形部の高さの範囲内に上側の終端位置領域を有する、装置によって解決される。
【0009】
本発明に係る装置の有利な改良形態は、対応する従属請求項から知ることができる。
【0010】
上記課題は、また、内燃機関の燃焼室をシールするためのシールリングであって、緊縮式のシールリングとして形成されていて、上側の側面および下側の側面と、外周面および内周面と、合口とを有し、内周面は、成形部を備える、シールリングによって解決される。
【0011】
本発明に係るシールリングの有利な改良形態は、対応する従属請求項に記載されている。
【0012】
付加的なシールリングが、ピストンを取り囲む構成部材、例えばライナ内に挿入されることによって、最大圧縮の時点におけるトップリングの一番上側の位置とピストンクラウンとの間のいわゆるデッドボリュームが閉鎖される。これによって、ガス/燃料混合気がデッドボリューム内に侵入し得ることが阻止される。オイル滴による早期着火も起こり得ない。
【0013】
シールリングは、有利にはライナ溝内に挿入され、内向きの力成分を有する。シールリングの合口隙間は、緊縮の時点で正確にゼロである。ピストンクラウンは上死点において、緊縮式のシールリングの中間で終端し、場合により両寸法がオーバラップしている場合には、シールリングをライナ溝の方向に拡開することができる。
【0014】
本発明の対象によって、以下の利点:
- デッドボリュームの低減
- 最善化された燃焼による効率向上
- 逆流するガス流によるパーティクル形成の阻止
- 燃焼室の方向へのオイル滴の飛散の阻止
が得られる。
【0015】
ピストンはシールリングの傍らを通過するのではなく、最高でも上死点においてシールリング、特にシールリングの上側の側面で終端する。
【0016】
有利には金属製のシールリングとして形成されたシールリングは、矩形の横断面を有する。この場合、ピストンに対する内周面に、種々異なる幾何学的な輪郭が与えられていてよい。テーパフェース状に形成された内周面または円錐状の構成形状が提供される。
【0017】
従来のピストンリングに類似して、ライナに組み込まれたシールリングも上側の側面と下側の側面とを有する。従来のピストンリングとは異なり、本発明に係るシールリングでは、確かに外周面は存在するが、成形された内周面は、ピストンに対する摺動面として形成されている。
【0018】
シールリングは、幾何学的には、上側のリング側面の領域が、下側のリング側面の領域よりも小さな直径を有するように構成されている。したがって、ピストンが上昇行程時に、円錐状に延びる内周面(摺動面)に沿って滑動し、合口を備えたシールリングを押圧して拡開することが可能となる。この付加的なシール箇所に基づき、上述のデッドボリュームは低減され、上に挙げた有利な効果が得られる。
【0019】
シールリングとピストンとの間の、選択された幾何学的な関係により、ピストンクラウンは、上側の終端点(死点)において、シールリングの内周面に接触する。
【0020】
本発明の別の思想によれば、シールリングの内周面(摺動面)の領域に、摩擦を減じる摩耗保護層が設けられてよい。この摩耗保護層は、例えばCr、CKS、PVDまたはDGをベースとして形成されていてよい。
【0021】
付加的なシールリングは、ピストンに関して、独自の軸線方向運動を行わない。シールリングは、ライナ溝内では軸線方向でも半径方向でも自由に運動することができる。この場合、半径方向の方向成分は、組み込まれた状態でピストンによってのみ外方に向かって形成することができる。
【0022】
シールリングを収容する溝は、ライナに加工形成されてもよいし、ライナに加工形成可能な別個のセグメントに設けられた凹部として設けられてもよい。ライナも付加的なセグメントも与えられていない場合には、シール要素を直接シリンダブロックに設けてもよい。
【0023】
シールリングの壁はライナの肉厚によって制限されており、個別に設計されていてよい(0.5~100mm)。
【0024】
本発明の対象を実施例に基づき図示し、以下のように説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】円筒状の構成部材内に挿入されたシールリングを含む燃焼室シール状態を、この構成部材内に配置されたピストンの1つの位置で示す図である。
【
図2】円筒状の構成部材内に挿入されたシールリングを含む燃焼室シール状態を、この構成部材内に配置されたピストンの別の位置で示す図である。
【
図3】円筒状の構成部材内に挿入されたシールリングを含む燃焼室シール状態を、この構成部材内に配置されたピストンのさらに別の位置で示す図である。
【
図4】ピストンに接触していないシールリングを示す図である。
【
図5】ピストンに接触しているシールリングを示す図である。
【0026】
図1~
図3は、単に略示された内燃機関の燃焼室をシールするための装置を示す。以下の構成部材、すなわち、それぞれ1つのピストンリング5,6,7を収容するための複数の溝2,3,4を有するピストン1が図示されている。ピストンリング7は従来のオイル掻取りリングであり、一方、ピストンリング5および6はコンプレッションリングとして形成されている。ピストン1は、単に略示されている終端位置o,uの間で交互に運動可能である。ピストン1は、円筒状の構成部材8内で、終端位置o,uの間でガイドされる。構成部材8は、本実施例ではライナとして形成されていることが望ましいが、従来のシリンダ壁によって形成されていてもよい。構成部材8は、上側の終端位置oの領域に収容溝9を備え、この収容溝9に、付加的なシール要素10が挿入されている。シール要素10は、矩形断面状に形成された緊縮式のシールリングとして形成されている。シールリング10は、上側の側面11と、下側の側面12と、外周面13と、内周面14とを有する。摺動面として形成された内周面14は、本実施例では、円錐状に拡大していく成形部を備えている。半径方向の力成分が矢印で示されている。ピストン1は燃焼室側(上側の終端位置o)に、ピストンクラウン15を有する。摺動面14(成形部)は、摩耗を減じる層14’、例えばCrをベースとする層14’を備えていてよい。CKS、PVD、DGをベースとする代替的な構成も同様に可能である。
【0027】
図1は、ピストン1が下側の終端位置uから、付加的なシール要素10の方向に運動しているものの、まだシール要素10との接触を有していない位置を示す。成形部14は、シール要素10の構造高さ全体にわたって延びている高さhを有する。円錐状の成形部のほか、曲線状の成形部または別の幾何学的な輪郭も可能である。
【0028】
図2では、ピストンクラウン15が、シール要素10の高さhの範囲内にある領域16において、シール要素10の摺動面14(成形部)に接触していることを認めることができる。緊縮式のシール要素10は拡開され(矢印参照)、これによって、シール要素10と収容溝9の溝底17との間隔は減じられる。この最初の接触において、シール要素10の下側の側面12と、トップリングとして形成されたピストンリング5との間に、予め設定可能な間隔aが存在している。
【0029】
図3は、ピストン1の上側の終端位置oの領域にあるピストン1の位置を示す。ピストンリング5とシール要素10の下側のリング側面12との間の間隔aは、さらに減じられている。
図3では認めることができないシール要素10の隙間は、ピストン1の上側の終端位置oで、その最大のクリアランスを有する。ピストンクラウン15と摺動面14(成形部)との接触領域16’は、ほぼシール要素10の上側のリング側面11の高さに位置している。
【0030】
図2および
図3に示す接触領域16と16’との間では、ピストン1の上側の終端位置領域oで燃焼室の持続的なシールが行われるので、この領域に存在したデッドボリュームが低減されると同時に、最善化された燃焼による効率向上が得られる。逆流するガス流によるパーティクル形成は確実に阻止される。同じことが、燃焼室の方向へのオイル滴の飛散についても当てはまる。
【0031】
図4および
図5はシールリング10を示す。合口18を認めることができる。緊縮式のシールリングとして形成されたシール要素10は、
図4では、(
図4では認めることができない)ピストンに接触していない位置で図示されている。合口隙間FTは、その最小の寸法で図示されている。
【0032】
図5は、ピストンに接触しているシールリング10を示す。合口隙間FTは、
図5では、その最大の開き幅で図示されている。
【符号の説明】
【0033】
1 ピストン
2 溝
3 溝
4 溝
5 ピストンリング
6 ピストンリング
7 ピストンリング
8 構成部材(ライナ)
9 収容溝
10 シール要素
11 上側の側面
12 下側の側面
13 外周面
14 内周面(摺動面)
14’ Cr層
15 ピストンクラウン
16 接触領域
16’ 接触領域
17 溝底
18 合口
o 上側の終端位置
u 下側の終端位置
h 高さ 成形部
FT 合口隙間