(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電動工具及び電動工具用トルク応答型ギアユニット
(51)【国際特許分類】
F16H 3/54 20060101AFI20240920BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20240920BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16H3/54
B25F5/00 G
B25F5/00 Z
B25F5/00 C
B25B21/00 520A
(21)【出願番号】P 2021574863
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020066550
(87)【国際公開番号】W WO2020254281
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-12
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】502212604
【氏名又は名称】アトラス・コプコ・インダストリアル・テクニーク・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】レンブロム ヨーアン
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-071599(JP,A)
【文献】特開平07-009357(JP,A)
【文献】特開2013-133873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/54
B25F 5/00
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(10)と、
入力軸(20)と、
出力軸(15)と、
を備える、電動工具内に配置されるようになった2速動力伝達装置であって、
前記2速動力伝達装置は、遊星歯車(18)と、高トルク/低速駆動モードでは前記遊星歯車(18)を介して、又は低トルク/高速駆動モードでは前記遊星歯車(18)を通り越してトルクを導くためのトルク応答型ギアシフト機構(19)とを備え、
前記遊星歯車(18)は、前記入力軸(20)に連結された太陽歯車(21)と、前記ハウジング(10)に固定されたリングギア(22)と、遊星キャリア(24)とを含み、
前記ギアシフト機構(19)は、前記遊星歯車(18)の前記太陽歯車(21)に連結された駆動部材(26)と、前記出力軸(15)に連結された従動部材(27)と、第1の位置で前記駆動部材(26)と前記従動部材(27)とを相互に結合し、第2の位置で前記遊星キャリア(24)と前記従動部材(27)とを相互に結合するように配置された複数の結合要素(30)と、を備え、
前記従動部材(27)は、前記第1の位置と前記第2の位置との間で前記結合要素(30)を軸方向に変位させるために、前記結合要素(30)を支持するように配置された複数の軸方向に延びる溝(36)を備え、
前記駆動部材(26)は、前記結合要素(30)の前記第1の位置において前記結合要素(30)と協働するための、軸方向に作用する第1のカム手段(35)を備え、
軸方向に作用する第1のばね手段(31)は、前記結合要素(30)を前記結合要素(30)の前記第1の位置に向かって付勢するために配置されており、それによって、前記第1のばね手段(31)の作用が、前記第1のカム手段(35)によって前記結合要素(30)によってもたらされる軸方向の力を打ち消し、前記結合要素(30)は、所定のレベル以下のトルク値では前記第1の位置に維持されるが、前記所定のレベル以上のトルク値では前記第1のカム手段(35)によって前記第1の位置から押し出されるようになっており、
前記従動部材(27)は、前記軸方向に延びる溝(36)内に設けられ、前記所定レベル以上のトルク値で前記結合要素(30)が前記第1の位置を離れたときに、前記ばね手段(31)の付勢作用に抗して、前記結合要素(30)に前記第2の位置に向かって軸方向に変位する力を及ぼすように配置された、軸方向に作用する第2のカム手段(36b)をさらに備え、
前記遊星キャリア(24)は、前記結合要素(30)の前記第2の位置において前記結合要素(30)を半径方向にのみ支持しかつ前記結合要素(30)の前記第2の位置において前記結合要素(30)と協働するための複数の軸方向に延びるトラック(38)を備える結合スリーブ(29)に結合されており、
前記駆動部材は、複数の凹部(39)を備え、前記第1の軸方向に作用するカム要素(35)の各々は、それぞれ前記凹部のうちの1つの一部を形成し、前記凹部の各々は、前記結合要素(30)の前記第1の位置において前記結合要素(30)のうちの1つを受け入れて半径方向に支持するようになっており、前記高速/低トルクモードにおいて前記結合要素(30)が前記結合スリーブから遮断されて回転デカップリングされるようになっている、
ことを特徴とする電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項2】
前記結合スリーブは、軸方向に移動可能に配置されている、
請求項1に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項3】
前記軸方向に移動可能な結合スリーブ(29)を前記結合要素(30)に対して付勢するための、軸方向に作用する第2のばね手段(40)をさらに備える、
請求項2に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項4】
前記遊星キャリア(24)は、外側スリーブ(32)を備え、前記外側スリーブは、軸方向に延在し、前記遊星キャリア(24)と前記被駆動部材(27)とを前記第2の位置で相互に結合するために、前記結合スリーブ(29)に回転可能に係止される、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項5】
前記駆動部材を前記遊星キャリアに対して支持する第1の軸方向軸受(33)が設けられており、さらに前記外周スリーブを前記ハウジング(10)に対して支持する第2の軸方向軸受(34)が設けられており、前記結合部材に作用する前記第1のばね手段からの力が前記第1及び第2の軸受を介して前記ハウジングに吸収できるようになっている、
請求項4に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項6】
前記結合要素(30)は、同じ大きさのボール(30)で構成されている、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項7】
前記結合スリーブの前記トラック(38)の数は、前記結合要素(30)の数の2倍である、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項8】
前記駆動部材(26)は、軸方向フランジ(26b)を備え、前記軸方向フランジ(26b)は、前記結合要素を半径方向に支持するように配置されている、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項9】
前記フランジの軸方向の範囲と前記凹部の深さとを合わせたものは、前記ボール(30)の半径よりも大きい、
請求項7に従属する請求項8に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項10】
前記第1のばね手段(31)は、前記従動部材(27)と同軸関係に配置され、前記ボール(30)に付勢力を与える第1のコイルばね(31)を備える、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の電動工具用の2速動力伝達装置。
【請求項11】
動力工具であって、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の2速動力伝達装置と、モータと、前記工具から供給されたトルクを示す量を監視する手段と、前記トルクを示す前記感知された量に基づいて前記モータの回転速度を制御するように動作する制御ユニットと、を備える動力工具。
【請求項12】
前記工具から供給されたトルクを示す量を監視するための前記手段は、トルク変換器(センサ)及びモータ電流を監視するようになった回路配置のうちの少なくとも1つを備える、請求項11に記載の動力工具。
【請求項13】
請求項12に記載の電動工具を制御する方法であって、以下のステップを含む方法。
第1のトルク値を示す量を監視するステップと、
前記第1のトルク値を所定の閾値トルク値と比較するステップと、
前記測定値が前記閾値に近づく場合にモータの回転速度を制御するステップと、
を含み、
前記モータの回転速度を制御する前記ステップは、前記測定値が前記閾値に近づく場合に前記モータの回転速度を低下させるステップを含む、方法。
【請求項14】
前記量は、モータ電流及びトルク変換器の値のうちの少なくとも1つである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、電動工具に関し、より詳細には、電動工具用のトルク応答型ギアユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野で様々なタイプの電動工具が使用されていることが知られており、特に一般的なタイプは、ねじ又はボルトの締結に使用される電動工具である。
【0003】
この分野で様々な設計上の課題を引き起こすことが知られている問題の1つは、一般的な作業の異なる部分で必要とされる速度及びトルクに関して、作業条件及び期待される出力に対する要求が使用中に大きく変化する傾向があることである。例えば、上述の締結工具の場合、ねじ又はナットの締結の初期段階(いわゆるランダウン)では、必要なトルクが低いのに対して、作業時間を短縮するために、回転速度は理想的には高くする必要があるが、実際の締結段階(すなわち、接合部の実際の締結)では、必要なトルクは高くなる。
【0004】
しかしながら、このように要求が変わる電動工具は、例えば所望のトルクレベルを提供できるようにするために、例えば直列に結合された1又は2以上の遊星ギア段のような1又は2以上の動力伝達装置を含むことが知られている。
【0005】
しかし、このような動力伝達装置を使用して高いトルクを供給すると、それに応じてもたらされる回転速度が低下し、その結果、ランダウン時にも回転速度が低下するという不都合が生じる。これは、特に大きなねじを高トルクで締結するようになった電動工具の分野では大きな問題となり、所望の高トルクを供給するために回転数が非常に低くなり、その結果、一般にランダウン段階が不合理に遅くなる。
【0006】
これらの問題の一部を解決するために、トルク応答型ギアシフト機構すなわち動力伝達装置を備える2速動力伝達装置を使用することが試みられており、ギアユニットを通る力の流れ、従って、場合によっては提供されるギア比がトルクレベルに依存し、ランダウン時にはより高い回転数を使用し、必要時にのみ高トルク/低回転モードを使用するようになっている。
【0007】
しかしながら、このような動力伝達装置には、多くの問題が残されている。例えば、このような動力伝達装置の多くは、オペレータが手動で高速/低トルクモードと低速/高トルクの間で切り換える必要があり、工具を扱うオペレータの複雑さが増大する。さらに、このような動力伝達装置は、当然、耐久性、強度、公差に対する要求が高いので設計が複雑になり、また、これらの要求は、動力伝達装置が多くのスペースを必要とし、工具の全体的なサイズを大幅に増大させる傾向があることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、電動工具用のトルク応答型ギアユニットの分野では、改善が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、ギアシフトが自動的に、すなわちオペレータによる手動介入なしに行われるような電動工具用のギアユニット又は動力伝達装置を提供することが望ましいであろう。特に、小型で信頼性の高い設計を有するこのような動力伝達装置を提供することが望ましいであろう。これらの問題の1又は2以上をより良く解決するために、独立請求項に定義されているように、締結工具用のギアユニット、そのようなギアユニットを含む動力工具、及びそのような動力工具を制御する方法が提供される。好ましい実施形態は、従属請求項で定義される。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、電動工具用の2速動力伝達装置が提供され、工具は、ハウジングと、入力軸と、出力軸とを備える。2速動力伝達装置は、遊星歯車と、高トルク/低速駆動モードでは遊星歯車を介して、又は低トルク/高速駆動モードでは遊星歯車を通り越してトルクを導くためのトルク応答型ギアシフト機構とを備える。遊星歯車は、入力軸に連結された太陽歯車と、ハウジングに固定されたリングギアと、遊星キャリアとを含む。ギアシフト機構は、遊星歯車の太陽歯車に連結された駆動部材と、出力軸に連結された従動部材と、第1の位置で駆動部材と従動部材とを相互に結合し、第2の位置で遊星キャリアと従動部材とを相互に結合するように配置された複数の結合要素とを備える。従動部材は、第1の位置と第2の位置との間で結合要素を軸方向に変位させるために、結合要素を支持するように配置された複数の軸方向に延びる溝を備え、駆動部材は、結合要素の第1の位置において結合要素と協働するための、軸方向に作用する第1のカム手段を備える。軸方向に作用する第1のばね手段は、結合要素を結合要素の第1の位置に向かって付勢するために配置されており、それによって、第1のばね手段の作用が、第1のカム手段によって結合要素によってもたらされる軸方向の力を打ち消し、結合要素は、所定のレベル以下のトルク値では第1の位置に維持されるが、所定のレベル以上のトルク値では第1のカム手段によって第1の位置から押し出されるようになっており、従動部材は、所定レベル以上のトルク値で結合要素が第1の位置を離れたときに、ばね手段の付勢作用に抗して、結合要素に第2の位置に向かって軸方向に変位する力を及ぼすように配置された、軸方向に作用する第2のカム手段をさらに備える。遊星キャリアは、結合要素の第2の位置において結合要素を半径方向に支持しかつ結合要素の第2の位置において結合要素と協働するための複数の軸方向に延びるトラックを備える結合スリーブに結合されており、駆動部材は、複数の凹部を備え、第1の軸方向に作用するカム要素の各々は、それぞれ凹部のうちの1つの一部を形成し、凹部の各々は、結合要素の第1の位置において結合要素のうちの1つを受け入れて半径方向に支持するようになっている。
【0011】
第1の態様によれば、2速動力伝達装置は、トルクレベルに応じて、高トルク/低速駆動モードでは遊星歯車を介して、又は低トルク/高速駆動モードでは遊星歯車を通り越して自動的にトルクを導くトルク応答型ギアシフト機構を組み込んだ設計によって、上述の問題に対する発明性のある解決策を提供し、結合要素などの高回転速度で回転する構成要素と低回転速度で回転する構成要素との間に設けられた効率的な回転デカップリング、又は分離によって、堅牢性及び信頼性が向上する。
【0012】
詳細には、本発明の動力伝達装置の駆動部材には、高速/低トルクモードで結合要素を受け入れて半径方向に支持するようになっている複数の凹部が組み込まれているので、結合要素は、追加の構成要素を設けることなく、異なる速度で回転する構成要素から効率的に遮断される、すなわち切り離される。従って、この設計により、小型で信頼性の高い設計を有する2速動力伝達装置が巧妙に提供される。
【0013】
一実施形態では、結合スリーブは、軸方向に移動可能に配置される。これにより、わずかな遊びを得ることができ、これは結合要素と結合スリーブの可能性のある角度の位置合わせ不良に対処するために利用することができる。特に、結合要素が第1の位置から第2の位置に移動する場合に、結合要素と従動部材の軸方向に延びる溝との間の何らかの位置合わせ不良は、部品間の妨害を引き起こす代わりに、軸方向に移動可能なスリーブによって対処することができる。位置合わせ不良とは、結合要素の角度位置と、第1の位置で結合要素を受け入れるように配置された凹部の角度位置との間のわずかな角度の不一致と理解すべきである。
【0014】
一実施形態によれば、2速動力伝達装置は、軸方向に移動可能な結合スリーブを結合要素に対して付勢するための、軸方向に作用する第2のばね手段をさらに備える。これにより、結合スリーブが結合要素に対してわずかに押し付けられ、それにより、結合要素に正しい方向に作用するわずかな力によって凹部への戻りが容易になるため、位置合わせ不良にさらに効率的に対処することができる。結合スリーブは、通常、初期位置、すなわち駆動部材に隣接した位置に留まるが、結合要素が正しく位置合わせされていない場合には、結合スリーブは、ばねの付勢の下で軸方向にわずかに移動し、結合要素を正しい位置にスライドさせることができるようになっている。
【0015】
一実施形態によれば、遊星キャリアは、外側スリーブを備え、このスリーブは、軸方向に延在し、結合スリーブに回転可能に係止されて、遊星キャリアと従動部材とを第2の位置で相互に結合する。一実施形態では、外側スリーブは、結合スリーブの外側に形成されたトラックに配置された複数のボール又は他の転動体によって、結合スリーブに回転可能に係止される。従って、低速/高トルクモードでは、トルクは、遊星キャリア、移動ボール、結合スリーブを介して、さらには結合要素を介して、従動部材に導かれることになる。さらに、一部の実施形態において、外側スリーブは、従動部材及び駆動部材と同軸に配置することができる。一実施形態では、外側スリーブと、凹部が配置されている部分の駆動部材及び/又は結合スリーブの少なくとも一部との間には、軸方向の重なりがある。
【0016】
一実施形態によれば、第1の軸方向は、軸受駆動要素、すなわち駆動部材を遊星キャリアに対して支持するために設けられ、第2の軸方向軸受は、外側スリーブをハウジングに対して支持するために設けられており、結合要素に作用する第1のばね手段からの力は、第1及び第2の軸受を介して工具ハウジングに吸収され得るようになっている。これにより、ばね(すなわち、結合要素)とモータ軸との間の有利なデカップリングが達成され、モータ軸(すなわち、入力軸)は、ばねによって及ぼされる軸方向の力から解放される。代わりに、この力は、工具ハウジングによって吸収することができる。さらに、公差連鎖(tolerance chain)が短くなり、公差の蓄積が少ない設計が可能になるという利点もある。
【0017】
一実施形態によれば、結合要素は同じ大きさのボールで構成される。ボールの数は、例えば工具の大きさに応じて自由に選択することができる。
【0018】
一実施形態によれば、結合スリーブのトラックの数は、結合要素の数の2倍である。これにより、位置合わせ不良のリスク、従って妨害の可能性を低減することができる。
【0019】
一実施形態によれば、駆動部材は、軸方向フランジを備え、軸方向フランジは、結合要素を半径方向に支持するように配置されている。これは、改善された半径方向の支持及び回転デカップリングが提供されるという点で有利な設計である。
【0020】
一実施形態によれば、フランジの軸方向の範囲と凹部の深さの合計は、ボールの半径よりも大きい。これにより、高速モードでは、ボールと異なる回転速度で回転する構成要素との間の十分な半径方向の支持、並びに完全な半径方向のデカップリングが保証される。
【0021】
一実施形態によれば、第1のばね手段は、従動部材と同軸に配置され、ボールに付勢力を与える第1のコイルばねで構成される。これは、例えば、より小型の設計が可能になるという点で有利である。一実施形態では、第1のコイルばねは、結合要素に直接、当接する。別の実施形態では、第1のコイルばねは、結合要素と連続的に接触する接触要素を介してカップリング要素に当接し、その例としては、フラットリング要素が挙げられる。さらに、一部の実施形態では、ばねによって与えられる付勢力の設定値を変化させる手段を備えることができる。
【0022】
一実施形態によれば、リングギア(又は歯車リム)は、伝達トルクの測定値を得ることができるように、トルク変換器によってハウジング内に固定されるように構成することができる。提供されたデータは、例えば、トレーサビリティーの提供、オペレータフィードバックの提供、及び/又は、工具の制御に使用することができる。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、上述したいずれかの実施形態による2速動力伝達装置を備える動力工具が提供される。
一実施形態によれば、動力工具は、上述したいずれかの実施形態による2速動力伝達装置と、モータと、工具から供給されるトルクを示す量を監視する手段と、トルクを示す監視された量に基づいて、モータの回転速度を制御するように動作する制御ユニットとを備える。
【0024】
一実施形態では、工具から供給されるトルクを示す量を監視するための手段は、供給されたトルクを示す量を感知するための少なくとも1つのセンサを備えることができる。例えば、上述したように、リングギアは、伝達トルクの測定値を得ることができるように、トルク変換器によってハウジング内に固定することができる。さらに、トルクを示す量を監視する手段は、モータ電流又はモータの性能に関連する他の内部提供データを監視するようになっている回路(すなわち、回路配置)を備えることができる。
【0025】
従って、制御ユニットは、センサから得られた量の値を所定の閾値と比較することによって工具を制御し、測定値が閾値に近づいた場合にモータの回転速度を低下させるように構成することができる。これにより、動力伝達装置の駆動モード間の切り替えを容易にすることができる。
【0026】
例えば、低トルク/高速駆動モードでは、感知される量は、トルクを示すモータ電流とすることができ、電流が閾値に近づくと、従って、この場合はトルクが増加すると、高トルク/低速駆動モードへの移行を容易にするようにモータの回転速度を低下させることができる。同様に、高トルク/低速駆動モードにおいて、感知される量は、トルク変換器からのトルク値とすることができ、トルク値が閾値に近づくと、従って、この場合はトルクが減少すると、低トルク/高速度駆動モードへの復帰を容易にするようにモータの回転速度を増加させることができる。
【0027】
従って、少なくとも1つのセンサは、モータ電流を感知するセンサ、又はトルクセンサ、すなわちトルク変換器とすることができ、又は、一般的には、電流又は他のモータパラメータを監視する制御ユニットの内部機能とすることができる。一実施形態では、トルク変換器は、高トルク/低速駆動モードでのみアクティブになる。このような変換器のアクティブ化は、動力伝達装置が高トルク/低速モードに切り替わったことの制御ユニットに対する指標として使用することができる。
【0028】
一実施形態によれば、トルク応答型動力伝達装置は、1段ギアユニットである。すなわち、このような実施形態における入力軸は、モータに直接連結されるか、又は、場合によっては工具のモータモジュールに配置することさえできる。これは、工具のより小型でスリムな設計を達成できる点で特に有利である。
【0029】
一実施形態によれば、電動工具は、前段ギアユニット、又は2段ギアユニットをさらに備える。このような実施形態では、トルク応答型動力伝達装置は、モータと前段又は後段のギアユニットとの間に配置することができる。これは、このような工具のための前部ギアユニットは交換可能な前部ギアユニットとすることができ、トルク応答型動力伝達装置を工具内又は工具上に残したままで、所望のトルクに応じて前部ギアユニットを交換することができる点で有利である。
【0030】
このような電動工具に関して、一実施形態によれば、モータは電気モータである。工具は、例えば、スクリュードライバ、ナットランナ、ドリル及びグラインダからなるグループから選択された電気式の手持ち動力工具とすることができる。しかしながら、当業者は、静止又は固定式工具で使用するためには、構造のわずかな変更が必要であることを理解している。一部の実施形態では、電動工具は、バッテリ駆動式工具とすることができる。一実施形態では、動力工具は、例えば3500-4500Nmの範囲のより高い締結トルクを提供する工具である。
【0031】
本発明の第3の態様によれば、上述したいずれかの実施形態によるギアユニットを備える動力工具を制御する方法が提供される。
【0032】
一実施形態によれば、この方法は、第1のトルク値を示す量を監視するステップと、第1のトルク値を所定の閾値トルク値と比較するステップと、測定値が閾値に近づいた場合にモータの回転速度を制御するステップと、を含む。
【0033】
一実施形態によれば、モータの回転速度を制御するステップは、測定値が閾値に近づいた場合にモータの回転速度を低下させるステップを含む。一実施形態によれば、監視される量は、モータ電流及びトルク変換器の値のうちの少なくとも1つである。
【0034】
本発明の第3の態様の範囲で考えられる方法の目的、利点、及び特徴は、本発明の第2の態様を参照した上述の説明によって容易に理解される。
【0035】
本発明のさらなる目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な開示、図面、及び添付の請求項を検討すると明らかになる。当業者であれは、本発明の様々な特徴を組み合わせて、以下に説明する以外の実施形態を作り出すことができることを理解できる。
【0036】
本発明は、添付の図面を参照して、例示的な実施形態の以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】一実施形態による電動工具用の例示的な2速動力伝達装置の断面図である。
【
図2】一実施形態による例示的な変速機の構成要素の一部を示す第1の斜視図である。
【
図3】一実施形態による例示的な変速機の構成要素の一部を示す第2の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
すべての図面は概略的であり、必ずしも縮尺通りではなく、一般的には本発明を説明するために必要な部分のみを示しており、他の部分は省略されるか又は単に示唆される場合がある。
【0039】
図1は、一実施形態による例示的な動力工具の一部の断面図であり、この場合は、手持ち式の電池式電動工具である。電動工具は、ハウジング10と、入力軸20と、入力軸に連結するモータ(図示せず)と、出力軸15と、入力軸と出力軸との間に配置された2速動力伝達装置とを備える。さらに、電動工具は、トルク変換器及びモータの回転速度を制御する制御装置を備えており、これらについてはこの電動工具の機能を説明する際に詳細に説明する。
【0040】
図1に示す実施形態の2速動力伝達装置1は、遊星歯車18と、高トルク/低速駆動モードでは遊星歯車18を介して、又は低トルク/高速駆動モードでは遊星歯車18を通り越して、入力軸20(すなわち、モータから)から出力軸15にトルクを導くためのトルク応答型ギアシフト機構19とを備える。
図1には、低トルク/高速駆動モードの動力伝達装置が示されている。
【0041】
遊星歯車18は、入力軸20に連結された太陽歯車21と、ハウジング10に固定されたリングギア(又は歯車リム)22と、遊星キャリア24とから構成されている。ギアシフト機構19は、遊星歯車18の太陽歯車21に連結された駆動部材26と、出力軸15に連結された従動部材27とを備える。
【0042】
結合要素、図示の実施形態では3つのボール30は、第1の位置で駆動部材26と従動部材27とを相互に結合し(上記で低トルク/高速駆動モードと呼ばれる)、第2の位置で遊星キャリア24と従動部材27とを相互に結合する(上記で高トルク/低速駆動モードと呼ばれる)するように配置される。
【0043】
さらに、従動部材27は、第1の位置と第2の位置との間の軸方向の変位のためにボール30を支持するように配置された複数の軸方向に延びる溝36を備えており、一方、駆動部材26は、結合要素30の第1の位置において結合要素30と協働するために、等間隔の凹部39に配置された軸方向に作用する第1のカム手段35を備えている。これらの凹部39及びカム手段35は、
図2に示されており、以下でより詳細に説明される。
【0044】
第1の軸方向に作用するコイルばね31は、ボール30を第1の位置に向かって付勢するために、従動部材に対して同軸に配置されており、それによって、コイルばね31の作用は、ボール30上の第1のカム手段35によってもたらされた軸方向の力を打ち消す。これにより、ボール30は、所定のレベル以下のトルク値では第1の位置に維持されるが、所定のレベル以上のトルク値では第1のカム手段35によって第1の位置から外に押し出される。図示の実施形態では、ばね31は、ボール30に直接、当接する。
【0045】
また、従動部材27は、所定レベル以上のトルク値でボール30が第1の位置を離れたときに、コイルばね31の付勢作用に抗してボール30の第2の位置に向かってボール30に軸方向の変位力を与えるように配置された、第2の軸方向に作用するカム手段36bを備える。
【0046】
さらに、図示の実施形態では、遊星キャリア24は、軸方向に移動可能な結合スリーブ29に結合されており、結合スリーブは、第2の位置にあるボール30を半径方向に支持する。従って、結合スリーブ29の内周面には、ボール30と協働するための複数の軸方向に延びるトラック38が配置されている(
図3を参照して以下にさらに詳細に説明する)。図示の実施形態の結合スリーブ29におけるトラック38の数は、ボール30の数の2倍、すなわち図示の実施形態では6個である。さらに、結合スリーブ29は、図示の実施形態では、軸方向に作用する第2のコイルばね40によってボール30に対して付勢されており、コイルばね40は、第1のコイルばね31と同様に、従動部材27に対して同軸に配置されている。
【0047】
第2の位置において遊星キャリア24と従動部材27とを相互に結合するために、遊星キャリア24は、外側スリーブ32を備える。このスリーブ32は、軸方向に延びており、複数の小さなボール32aによって、結合スリーブ29に回転可能に係止される。さらに、ボール30に作用する第1のコイルばね31からの力に対処するために、第1の軸方向軸受33は、駆動要素又は駆動部材26を遊星キャリア24に対して支持するために設けられ、第2の軸方向軸受34は、この外側スリーブ32をハウジング10に対して支持するために設けられ、力はハウジングによって吸収されるようになっている。
【0048】
図2を参照すると、駆動部材26及び3つの結合ボール30がより詳細に示されている。ボール30を第1の位置で受け入れて半径方向に支持するために、駆動部材は、それぞれが1つのボール30を受け入れるようになった複数の凹部39を備える。また、
図2から分かるように、第1の軸方向に作用するカム要素35の各々は、それぞれの凹部のうちの1つの一部を形成し、例えば、カム要素は、凹部39の傾斜側部を備えることができる。さらに、駆動部材26は、さらなる半径方向の支持を可能にするように配置された軸方向フランジ26bを備える。ボールが、異なる回転速度で回転する周囲の構成要素と半径方向に接触しないようにするために、このフランジ26bの軸方向の範囲と凹部39の深さとを合わせたものは、ボール30の半径よりも大きい。
【0049】
最後に、結合スリーブ29は、結合スリーブの例示的な実施形態の斜視図である
図3により詳細に示されており、同様に3つのボール30がある。
図3では、ボールは、第2のモードで配置されており、従って、スリーブ29の内表面に形成された等間隔の隆起部38aの間に形成されたトラック38に配置されている。スリーブ29の外周面には、遊星キャリア24に回転ロックを与える小さなボールを受け入れるように配置されたトラック29aが示されている。上述の第2コイルばね40は、ボールの移行時にボール30とトラック38との間に角度の位置合わせ不良が生じる可能性があり、スムーズな移行ができなくなる場合に備えて設けられており、ばね40の付勢力により、スリーブをボールに対して整列状態に徐々に押し込むことで、何らかの著しい妨害を回避するようになっている。
【0050】
図1に戻ると、遊星歯車機構のリングギア(又は歯車リム)22は、少なくとも一部がトルク変換器(図示せず)によってハウジング10に固定されており、伝達トルクの測定値を提供できることが分かる。これについては、以下、本発明の動力伝達装置の機能を説明する際に、より詳細に説明する。
【0051】
作動時、入力軸20は、電気モータに連結され、出力軸15は、ナットソケットを介して締結されるねじ接合部に連結される。動力伝達装置、従って電動工具の機能性は、動力伝達装置が、駆動部材26と従動部材27との間の結合をトルクレベルに応じて遊星歯車機構を迂回して、又は遊星歯車機構を介して選択的に行うことによって達成される。
【0052】
締結作業が開始されると、モータは、動力伝達装置を介してトルクを供給し始める。第1の段階では、ギアシフト機構19は高速/低トルク駆動モードにあり、ボール30は駆動部材26の凹部39に着座し、入力軸20を介して駆動部材26に供給されたトルクは、遊星減速歯車18の影響を受けることなく、凹部35、ボール30、溝36を介して従動部材27に伝達される、すなわち、駆動部材26から従動部材27に直接、伝達される。遊星キャリア24は、ハウジング10内で自由に回転する。
【0053】
ねじ接合部のトルク抵抗が増加すると、第1の軸方向に作用するカム要素35は、ボール30に増加する軸方向の力を加え、所定のトルクレベルに達すると、この力がばね31の付勢力に取って代わり、ボール30は溝36を通って軸方向に移動し始めることになり、最終的には、カム手段36bがボール30に補助的な軸方向の力を同様に加え、やはり最終的には、ばね31に取って代わり、その結果、ボール30がその軸方向の移動を終えて第2の位置になることができる。このようなカム手段36bの例としては、それぞれの溝36の傾斜側部又は分岐部分が挙げられる。現在、ギアシフト機構19により、動力伝達装置は高トルク/低速駆動モードになっている。
【0054】
この駆動モードは、伝達トルクが、第2カム手段36bの作用がばね31の付勢力を支配するほど高い間は維持される。トルクがそのレベルまで低下すると、すなわち、所定の駆動モード移行点に到達すると、カム手段36bによって発揮される力は、もはやばね力を支配せず、ボール30は、その最初の位置に変位する。
【0055】
この相互結合を容易にするために、より具体的には変速を容易にするために、上述の電動工具は、センサ(図示せず)、この場合はトルク変換器を備え、さらに、制御ユニット(図示せず)は、トルク変換器から感知データを受け取り、それに応じてモータの回転速度を制御するように動作する。より詳細には、測定されたトルク値が所定の閾値に近づくと、すなわち変速が行われる値に近づくと、制御ユニットはモータの回転速度を低下させる。
【0056】
図示の実施形態では、トルク変換器は、ハウジング10と歯車リム22との間に配置されるので、変換器は、第2の駆動モード、すなわち高トルク/低速駆動モードにおいて、トルクが実際にリングギアに向けられた場合にのみアクティブになる(すなわち、有意な測定値を与える)ことになり、変換器からのデータを使用して速度を制御する上述の手順は、高トルク/低速駆動モードから低トルク/高速駆動モードに切り替えるタイミングを決定する場合にのみ適切である。
【0057】
動力伝達装置が低トルク/高速駆動モードで動作する場合、制御ユニットは、代わりに、トルクが閾値に近づいていること、従って、変速を容易にするために回転速度を低下させる必要があることを判定するために、適切な回路配置(図示せず)によってモータ電流を監視する。追加機能として、トルク変換器がトルクデータの提供を開始したということは、制御ユニットが、動力伝達装置が高トルク/低速駆動モードに切り替わって動作していることを確認するために使用することができる。
【0058】
本発明は、図面及び上記に説明で詳細に図示及び説明されるが、このような図示及び説明は、例示的又は模範的なものであり、制限的なものではないと見なされ、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。当業者は、特許請求の範囲で定義された範囲内で、多くの修正、変形、及び変更が考えられることを理解している。加えて、開示された実施形態に対する変形は、クレームされた発明を実施する当業者が、図面、開示内容及び請求項の検討することによって理解して効果を得ることができる。特許請求の範囲において、用語「構成する」は、他の要素やステップを除外するものではなく、また、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を除外するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという事実だけで、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。また、特許請求の範囲に記載されている参照符号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。