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特許7558246コロニー形成細胞を同定するためのアッセイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】コロニー形成細胞を同定するためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240920BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
C12Q1/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022504168
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070076
(87)【国際公開番号】W WO2021013669
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】19188003.8
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウーテ ビッセルス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ボズィオ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ロッケル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア フェルケル
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0059778(US,A1)
【文献】特表2009-537137(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128914(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化した造血細胞を検出するための方法であって、
a)支持体上で1~1000個の細胞の群における未分化の造血幹細胞を単離するステップ、
b)成長因子を含む細胞培地を提供することにより、単離した細胞を増殖させて分化した造血細胞の細胞コロニーを形成するステップ、
c)細胞コロニーと、少なくとも1つの検出部分及びCD14、CD235a及びCD15に対して少なくとも1つの抗原認識部分を含む1つ以上のマーカー接合体とを接触させるステップ、
d)マーカー接合体で標識した細胞コロニーにおいて分化した造血幹細胞の相対量を検出するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
細胞コロニー中の分化した造血幹細胞を、マーカー接合体
【表1】
で標識した細胞の相対量によって、CFU-GEMM、CFU-GM、CFU-M、BFU-E及びCFU-Gとして検出することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチルセルロースの非存在下で実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
赤血球が溶解されている未分化造血幹細胞を含む細胞試料を、ステップa)に提供することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
CD34+細胞を濃縮させた未分化造血幹細胞を含む細胞試料を、ステップa)に提供することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
細胞試料のCD34+細胞を、少なくとも50%の純度まで濃縮させることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
検出部分が、発色団部分、蛍光部分、リン光部分、発光部分、光吸収部分、放射性部分、遷移金属及び同位体質量タグ部分からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
抗原認識部分が、抗体、断片化した抗体、断片化した抗体誘導体、TCR分子を標的とするペプチド/MHC複合体、細胞接着受容体分子、共刺激分子の受容体、又は人工的に操作した結合分子である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
細胞試料における幹細胞の分化状態を決定するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロニー形成細胞の検出又は同定のためのアッセイ及びその方法、並びにそれらの細胞に、特に造血幹細胞(HSC)に由来するコロニーの識別に関する。
【0002】
全ての幹細胞と同様に造血幹細胞(HSC)は、自己複製し、同時に造血前駆細胞を生じ、続いて最終的にはT細胞、B細胞及びNK細胞を生じるリンパ系のいずれかに、及び赤血球、血小板、顆粒球、マクロファージ等を生じる骨髄系細胞に分化する。長い実験の結果、ヒトにおいては、いくつかの多系統前駆細胞に分化する能力を有する細胞がCD34+細胞集団であることが明らかとなった。実際に、マウスモデルで及び造血幹細胞移植(HSCT)環境でin vivoでこれを確認した。in vitroで最も信頼性が高く簡単で長年にわたるアッセイは、メチルセルロースアッセイとも言われるコロニー形成細胞(CFC)アッセイであった。該アッセイは、数えられかつ特徴付けられる別個のコロニーに分化するCD34+細胞の能力に基づく。
【0003】
古典的なCFCアッセイにおいて、特定の数のCD34+細胞(通常250~500個の細胞)を、35mmの皿上で、骨髄系細胞(myeloid lineage)の分化を支持できる1.1mlの培地に播種する。この培地は、サイトカイン、例えば、SCF、Flt3リガンド、TPO、IL3及びIL6等で補ったIMDM、ウシ胎児血清並びにメチルセルロースからなり、高粘度の培地を生成する。この背後にある考え方は、細胞が液体培地内で自由に移動できないが、代わりにメチルセルロース半固体培地中で特定の位置に留まることである。このように、約14日間のインキュベート後に、35mmの皿は多くの異なるコロニーを含んでおり、それぞれのコロニーは、少なくとも理論的には、コロニーを形成できるCD34+のパーセンテージ及びコロニーの種類の測定を可能にする単一のCD34+細胞に由来する。このように、異なる種類の前駆細胞に由来するコロニーは、倒立顕微鏡を使用して観察した後に形態学的基準及び表現型基準を使用して、含まれる成熟細胞の数及び種類に基づいて分類及び計数される。図1は、35mmの皿からのCFCコロニーアッセイの典型的な結果を示す。点は、異なる種類のコロニーを表す。
【0004】
公知のメチルセルロースCFUアッセイで形成されたコロニーは、次のカテゴリに分類される:赤芽球コロニー形成単位(CFU-E)、赤芽球バースト形成単位(BFU-E)、マクロファージコロニー形成単位(CFU-M)、顆粒マクロファージコロニー形成単位(CFU-GM)及び顆粒球・赤血球・マクロファージ・巨核球コロニー形成単位(CFU-GEMM)。
【0005】
BFU-Eは、200個超の初期の赤芽球を含み、典型的に3~8個の高密度クラスターに見出される。CFU-Eは、BFU-Eと比較して小さく、典型的に1つ又は2つの高密度クラスターに見出される8~200個の赤血球前駆細胞を含む。CFU-EとBFU-Eの双方は、ヘモグロビン含有細胞により濃い赤/オレンジから茶色がかった色を有する。CFU-GEMMは、通常、大きくあってよいか又は小さくあってよい半透明の細胞の周辺の扁平な叢の中央にある密集したな領域を示す(「目玉焼き」の外観)。
【0006】
CFU-GEMMは赤芽球も含むため、ヘモグロビン化のレベルに依存して、ヘモグロビン含有細胞の色は、濃い赤/オレンジから茶色がかった色に変動してよい。CFU-Gは、通常扁平あり、かつ胚中心を有する20~40個の半透明の小さい細胞からなる。最終的に、CFU-Mは、20個超の半透明の大きい細胞からなる低密度に成長する扁平なコロニーである一方で、CFU-GMは、20~50個の半透明の小さな細胞及び大きな細胞からなる扁平なコロニーでもある。CFUアッセイの典型的な結果を図1に示し、ここで、異なる種類のコロニーを、前述したように形態学的基準及び表現型基準のみに基づいて視覚化し、最終的に列挙してよい。図2は、異なるコロニーの種類を高倍率で示す。
【0007】
残念ながら、現在、形態学的基準及び表現型基準を利用することによりコロニーを計数する方法はバイアスがあってよく、コロニーを計数する人の経験に大きく依存する。変動の程度を決定するために、14日間のインキュベーション期間後にコロニーを含む同一の35mmの皿を数えるように数人の研究者に依頼するいくつかの実験を実施した。
【0008】
1つの代表的な実験からの図3(a及びb)に示すように、同一のコロニーの数え上げ及び特徴付け後に、その結果は、コロニーの総数を同定しかつコロニーを正しい種類に割り当てることにおいて非常に大きい変動性があったことを示した。より詳述すれば、合計で27個のコロニーのうち6個のみが、適切に計数及び評価され他一方で、コロニーの4分の1未満については明確な同定があった。明らかに、最も容易に同定可能なコロニーであるBFU-Eタイプのコロニーは、正確で再現可能な結果をもたらした。これらの発見は、形態学的分類及び表現型分類が安定さ(robust)も再現性もないことを強く示唆している。
【0009】
発明の要約
したがって、本発明の目的は、
a)支持体上で1~1000個の細胞の群における未分化の造血幹細胞を単離するステップ、
b)成長因子を含む細胞培地を提供することにより、単離した細胞を増殖させて分化した造血細胞の細胞コロニーを形成するステップ、
c)細胞コロニーと、C少なくとも1つの検出部分及びD14、CD235a及びCD15に対して少なくとも1つの抗原認識部分を含む1つ以上のマーカー接合体とを接触させるステップ、
d)マーカー接合体で標識した細胞コロニーにおいて分化した造血幹細胞の相対量を検出するステップ
を含む、分化した造血細胞を検出するための方法である。
【0010】
本発明のさらなる目的は、細胞試料における幹細胞の分化状態を決定するための方法の使用である。
【0011】
本発明の他の目的は、少なくとも1つの検出部分及びCD14、CD235a及びCD15に対して少なくとも1つの抗原認識部分をそれぞれ含む1つ以上のマーカー接合体を含むマーカーカクテルである。
【0012】
さらに他の目的は、少なくとも1つの成長因子を含む細胞培地と、少なくとも1つの検出部分及びCD14、CD235a及びCD15に対して少なくとも1つの抗原認識部分をそれぞれ含む1つ以上のマーカー接合体を含むマーカーカクテルとを含む分化した造血幹細胞を検出するためのキットである。
【0013】
本発明の方法において、成長因子を含む細胞培地が利用される。かかる細胞培地は当業者に公知であり、典型的な組成物が実施例に示されている。以下、成長因子を含む細胞培地を、「HSC-CFUアッセイ培地」又は「アッセイ培地」という。かかる培地は、商標名「StemMACS HSC-CFU Assay Media」でMiltenyi Biotec B.V.&Co.KG社から入手できる。
【0014】
本発明の及び本発明における使用のためのマーカーカクテルは、「抗体カクテル」又は「HSC-CFU抗体カクテル」といわれ、商標名「StemMACS HSC-CFU Antibody Cocktail」でMiltenyi Biotec B.V.&Co.KG社から入手できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、35mmの皿からのCFCコロニーアッセイの典型的な結果を示す。点は、異なる種類のコロニーを表す。
図2】高倍率でのCFUアッセイからの特異的特性を有する異なる種類のコロニー。
図3】6人の独立した研究者から同一の35mmの皿を評価した後に得られた結果。それぞれの研究者がそれぞれのコロニーを種類の点から特徴付けることができるように、コロニーを、最初に数え上げ、次に順番にリスト化した。図3aは、数え上げたコロニーを有する皿を示す。図3bは、目視検査後に観察された高い程度の変動性を表す6人の独立した研究者から得られた結果を示す。これらの発見は、形態学的分類及び表現型分類が安定さも再現性もないことを強く示唆している。
図4】同一の細胞濃度で播種した場合の、2つの35cmウェルで見出された平均合計コロニー数と3つの96ウェルプレートでの平均合計コロニー数との比較。エラーバーは標準偏差を表す。
図5】ゲーティング戦略。分析のために必要な領域を強調表示する。
図6】BFU-Eの特徴。BFU-Eコロニーは、赤血球マーカーCD235aに対して陽性である。
図7図7はCFU-Gの特徴を示す。
図8図8はCFU-Mの特徴を示す。CFU-Mコロニーは、CD14に対して少なくとも50%陽性であるべきである。
図9図9はCFU-GMの特徴を示す。コロニーは、30%超のCD14陽性細胞及び30%超のCD15陽性細胞を発現する場合に、CFU-GMとして特徴付けられる。赤血球マーカーCD235aに対して陰性でもあるべきである。
図10】CFU-GEMMの特徴。CFU-GEMMの本質は、全ての骨髄前駆細胞の細胞を含み、かつ赤血球マーカーCD235aの発現にも陽性であることである。
【0016】
詳細な説明
コロニー評価における低い再現性の問題に対処するために、及び安定性(robustness)を高め、かつCFUアッセイにおけるバイアスを排除するために、本発明による方法を開発した。本発明による方法は、造血幹細胞及び前駆細胞を分析するための高度に標準化した方法を提供する。それというのも、それは細胞培養における分化と標準化したフローサイトメトリーベースの読み出しとを組み合わせ、かつ顕微鏡下での使用者依存の視覚的スコアリングの必要性を排除するからである。
【0017】
本発明の方法は、コロニー形成細胞の検出又は同定、及び任意にそれらの細胞、特に造血幹細胞(HSC)に由来するコロニーの識別を可能にする。
【0018】
未分化の又は分化した造血細胞は、未分化の又は分化した造血幹細胞が好ましい。
【0019】
本発明の方法のステップa)において、細胞は、表面上の1~1000個の細胞の群に単離される。好ましくは、細胞の数は、100~500個の細胞又は150~350個の細胞のようにより少ない。
【0020】
コロニー形成のために、細胞を、メチルセルロース不含HSC-CFUアッセイ培地で希釈し、例えば、2.5細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに置いてよい。このように、それぞれのウェルは、単一の造血幹細胞又は前駆細胞のクローン子孫に対応する。続くインキュベート期間(14日間)の間、HSC-CFUアッセイ培地は、懸濁液中で堆積した細胞の成長及び分化を促進する。それらの形成に続いて、コロニーを、96ウェルプレートのそれぞれのウェルをHSC-CFU抗体カクテルで染色することによってそれらの種類に関してさらに評価し、続いてフローサイトメトリーによって分析する。
【0021】
したがって、それぞれのコロニーは、対応するマーカーの組み合わせによって容易に識別できる。さらに、それぞれのコロニーの種類の頻度に基づいて、それぞれのコロニーの出現率を、コロニーの全数に対して決定できる。この仕組みは、HSC-CFUアッセイの標準化した、使用者に依存しない分析を提供し、かつあらゆるフローサイトメトリー分析器と組み合わせた自動化を可能にする。
【0022】
本発明の方法により、細胞試料中の幹細胞の分化状態の決定が可能である。この目的のために、細胞コロニー中の分化した造血幹細胞を、以下の表において定義したマーカー接合体で標識した細胞の相対量によって、CFU-GEMM、CFU-GM、CFU-M、BFU-E及びCFU-Gとして検出する。
【0023】
【表1】
【0024】
好ましくは、本発明による方法は、メチルセルロースの非存在下で実施される。
【0025】
細胞試料の供給源に依存して、赤血球を除去して、かつ/又はCD34+細胞を濃縮して、細胞試料を本発明の方法に供することが望ましい。
【0026】
赤血球の除去は、試料からの赤血球の溶解又は沈殿によって実施してよい。かかる技術は当業者に公知である。
【0027】
未分化の造血幹細胞を含む細胞試料からのCD34+細胞の濃縮は、少なくとも50%の純度で実施することが好ましく、少なくとも90%の純度がより好ましい。例えば、磁気細胞選別又はフローサイトメトリー分析器による濃縮プロセスが当業者に公知である。
【0028】
マーカー接合体の検出部分は、本発明の方法に特に関連性がなく、発色団部分、蛍光部分、リン光部分、発光部分、光吸収部分、放射性部分、遷移金属及び同位体質量タグ部分からなる群から選択してよい。しかしながら、1つ以上の蛍光部分を含むマーカー接合体が好ましい。
【0029】
同様のことがマーカー接合体の抗原認識部分にも当てはまり、抗体、断片化抗体、断片化抗体誘導体、TCR分子を標的とするペプチド/MHC複合体、細胞接着受容体分子、共刺激分子の受容体、又は人工的に操作した結合分子からなる群から選択されてよい。
【0030】
本発明のマーカーカクテル及びキットに関して、それぞれCD14、CD235a及びCD15に対する少なくとも1つの抗原認識部分をそれぞれ含む少なくとも3つの異なるマーカー接合体を提供することが好ましい。マーカー接合体の相対量は、最適な結果を得るために当業者によって決定できる。CD14、CD235a及びCD15に対するマーカー接合体の比率は、55~75質量%、15~30質量%、及び5~20質量%が好ましい。
【0031】
実施例
材料及び方法
HSC-CFUアッセイ培地は、ヒトBFU-E、CFU-E、CFU-G、CFU-M、CFU-GM及びCFU-GEMMコロニーの成長をサポートする培地配合物である。典型的な組成物を第1表に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
以下の試薬及び機器が必要であるが、一部は任意である。
・APC、PE及びVioBlueを識別する能力を有するフローサイトメーター、例えばMACSQuant Analyzer
・MACSQuant Analyzer10を使用する場合にフローサイトメーターで96ウェルプレートを処理するためのアクセサリー、例えばMACS(登録商標)Chill 96 Rack(#130-094-459)
・滅菌15ポリプロピレンチューブ
・滅菌使い捨てピペットチップ
・滅菌ピペット
・96ウェル丸底プレート
・湿度チャンバー
・希釈培地:Iscovesの改良Dulbecco培地(IMDM)
・0.5%BSAを含むPBS/EDTAバッファー(PEB)、滅菌及び非滅菌
・滅菌水
・マルチチャンネルピペット
・試薬リザーバー
・CD34-APC
・白血球の任意測定のためのCD45-FITC。CD45陽性細胞の一部もCD34陽性である
・FCRブロッキング試薬
・(任意に)赤血球溶解液(10×)(130-094183)。
【0034】
HSC-CFUアッセイ培地の調製
凍結融解サイクルの繰り返しを避けるために、HSC-CFUアッセイ培地を、適切なアリコートに分注する必要がある。プロトコルは以下である:
1. 4℃で一晩培地を融解する。
2. ボトルを激しく振る。
3. 滅菌ピペットを使用して滅菌チューブに分注する(15.0ml/チューブ)。
4. アリコートを-20℃で凍結する。使用前に室温で融解するか又は4℃で一晩融解する。
【0035】
細胞試料の調製
造血コロニー形成アッセイを、骨髄、臍帯血、又は末梢血からの単核細胞を使用して実施してよい。同様に、濃縮した造血幹細胞及び前駆細胞、例えば濃縮した細胞系列マーカー陰性の(Lin-)細胞、CD133+細胞もしくはCD34+細胞、又はES細胞及びiPS細胞由来の前駆細胞を使用してよい。
【0036】
CD133細胞、CD34+細胞、又はLin-細胞の事前濃縮については、それぞれの分離生成物のデータシートを参照されたい。
【0037】
HSC-CFUアッセイの設定:
プロトコルは以下である:
1. 必要な数の分注したHSC-CFUアッセイ培地を室温で又は一晩4℃で融解する。それぞれ15mLアリコートは、1試験/アッセイに対応し、3枚の96ウェルプレートの処理のために十分である。(任意に)高い赤血球含有量を有する試料について、CD34+細胞の数を決定する前に赤血球溶解を実施することを強く推奨する。赤血球溶解液の指示(10x)に従う。細胞ペレットを滅菌PEBに再懸濁する。
2. 滅菌条件を使用して、20μlまでの少量の試料を採取し、細胞数を決定する。
3. 滅菌技術を使用して最大10E6細胞のアリコートを取り出し、ステップ4~5に進む。
4. 300×gで10分間遠心分離する。上澄みを完全に吸引する。
5. 非滅菌PEB 96μLに再懸濁する。
6. CD34-APC 2μL及びCD45-FITC 2μLを添加する。
7. 十分に混合し冷蔵庫(2~8℃)で暗所で10分間インキュベートする。
8. バッファー 1~2mLを添加することにより細胞を洗浄し、300×gで10分間遠心分離する。上澄みを完全に吸引する。
9. 細胞ペレットをフローサイトメトリー分析のために適切な量の非滅菌PEBに再懸濁する。プレーンIMDMを使用して、細胞濃度を1mL培地あたり250個のCD34+CD45+細胞に調整する。
10. 注意:それぞれ試料について3つの96ウェル丸底プレートが必要である。この5は、IMDM 4ml中1000個のCD34+細胞に相当する。
11. チューブをボルテックスして細胞の均一な分布を確実にする。
12. 細胞懸濁液を試薬リザーバーに移す。
13. 3つの96ウェル丸底プレートのそれぞれのウェルに10μLをピペットで入れる。
14. HSC-CFUアッセイ培地 15mLを新しい試薬リザーバーに移す。
15. 3つの96ウェル丸底プレートのそれぞれのウェルに50μLをピペットで入れる。
16. プレートを湿度チャンバー又は滅菌水数mLで満たした滅菌エンクロージャーに入れて、培養中の細胞培養培地の気化を最小限に抑える。
17. プレートを加湿インキュベーターで37℃及び5%CO2で12~14日間インキュベートする。
【0038】
フローサイトメトリー分析
プロトコルは以下である:
1. HSC-CFU抗体カクテル 45μLをPBS/EDTA/0.5%BSAバッファーで最終容量4.5mLに希釈することにより蛍光色素カクテルを調製する。
2. 3つの96ウェル丸底プレートのそれぞれのウェルに希釈カクテル15μLを添加する。
3. PBS/EDTA/0.5%BSAバッファー 25μLをそれぞれのウェルに添加して全量100μLにする。
4. 獲得を実施する。
5. 注意:フローサイトメーターが96ウェルプレートの処理用に設定されていることを確認する。フローサイトメーターによりサポートされている場合には、穏やかな混合モードを推奨する。
【0039】
先行技術によるHSC-CFUアッセイの設定(比較例)
このアッセイは、従来のメチルセルロースCFUアッセイに匹敵する。後者では、合計500~1000個のCD34+細胞を、半固形培地3ml(又は250~500個のCD34+細胞/1.5ml)に蒔き、そして培地を2つの35mmウェルに分ける(1ウェルあたり約1ml)。最初の実験から、コロニーサイズ、コロニーの種類及びコロニーの合計数/ウェルに関して最も信頼性の高い出力を提供する、蒔いたCD34+細胞の理想的な数が、250細胞/1mlであることを観察した。その観察に基づいて、96ウェルプレートに合計量960μlを蒔き(96ウェル×1ウェルあたり10μl)、全てのCD34+細胞がコロニーを生じるわけではないことを考慮して、異なる細胞播種数で実験を実施し、理想的なプレーティングが250細胞/960μl(1ウェルあたり2.5細胞の濃度に相当する)であった。実際に、この方法で得られた結果は、35mm皿中の半固体ベースのCFUアッセイ(「従来の」CFUアッセイ)と96ウェルプレートの液体ベースのCFUアッセイとの間で同等の数のコロニーを生じた(図4)。したがって、相関関係は以下である:250細胞/35mm皿は約250細胞/96ウェルプレートに相当する。試料ごとに、合計3つの96ウェルプレートに蒔く。
【0040】
図4は、同一の細胞濃度で播種した場合の、2つの35cmウェルで見出された平均合計コロニー数と3つの96ウェルプレートでの平均合計コロニー数との比較を示す。エラーバーは標準偏差を表す。
【0041】
合計6回の実験の累積結果を、第2表にも示し、96ウェルのデータが35mm皿のデータに匹敵することを示した。p値は、全ての測定について0.05(両側t検定)よりも高く、コロニー数及びコロニーの種類の形成に関して2つのアッセイ間に統計的差異がないことを示唆する。
【0042】
【表3】
【0043】
HSC-CFU抗体カクテルでの免疫蛍光染色、及び続くデータ分析
バフィーコートからのCD34+細胞をHSC-CFUアッセイ培地で14日間培養し、前記したようにHSC-CFU抗体カクテルで染色し、MACSQuant Analyzer 10で分析した。分析のプロセスを、次の手順に従って説明する:
1. CD235aで陽性シグナルを有する赤いコロニー(例えばBFU-Eコロニー)を選択して、最初のフローサイトメトリー分析を実施する。
2. 全ての事象を含めるためにゲートを描く(図5a)。
3. 次に、FSC-A対FSC-Hプロットでの単一細胞をゲーティングすることにより全ての二重項を除外する(図5b)。
4. 全ての単一細胞を2つの新しいプロットで示す:第一のプロット(図5c)についてはy軸をCD15-APCに、x軸をCD235a-PEに調整する。第二のプロット(図5d)についてはy軸をCD15-APCに、x軸をCD14 VioBlueに調整する。示したように母集団を分割する象限を設定する(図5c及び5d)。
5. 着目領域を名付ける:プロットcのCD235a-PE陽性領域、プロットdのCD15-APC陽性及びCD14-VioBlue陽性領域に名前を追加する。
6. この分析テンプレートを全ての残りのウェルに適用する。それぞれの象限におけるCD14+細胞、CD15+細胞、及びCD235a+細胞のパーセンテージについての情報を生成し、さらに計算分析のためにexcelワークシートにエクスポートする。一般的なゲーティングパラメータを引き続き適用し、フローサイトメーターの再補正後に領域がシフトされていないことを常に確認してください。
【0044】
データ分析
フローサイトメトリー分析は、それぞれのウェルについて特定の染色が戻り、したがって、それぞれのウェルは、それぞれのマーカーに対応する図5でマークした1つ以上の領域で別個の陽性事象を表示する。これらのマーカーに基づいて、それぞれのコロニーを、これらのそれぞれの領域における染色した細胞のパーセンテージによって分類できる。コロニーを、図6~10及び第3表において要約したガイドラインに基づいて、BFU-E、CFU-GEMM、CFU-M及びCFU-GMとして特徴付ける。
【0045】
BFU-Eコロニーを、それらが示す陽性CD235a事象の数によって決定できる。合計の事象の50%以上が、CD235a-PEに対して陽性であるべきである。図6は、BFU-Eの特徴を示す。BFU-Eコロニーは、赤血球マーカーCD235aに対して陽性である。
【0046】
全ての事象の50%以上がCD15-APC陽性の場合に、コロニーはCFU-Gである。図7は、CFU-Gの特徴を示す。CFU-Gコロニーは、赤血球マーカーCD235aに対して陰性であり、細胞の50%以上でCD15を発現する。
【0047】
CFU-Mコロニーに属する細胞は、全ての事象の50%超でCD14陽性である。図8は、CFU-Mの特徴を示す。CFU-Mコロニーは、CD14に対して少なくとも50%陽性であるべきである。
【0048】
CFU-GMコロニーは、顆粒球及び単球/マクロファージ系列の前駆細胞を含む。したがって、CD14-VioBlue陽性及びCD15-APC陽性領域における染色は、それぞれ30%超でなければならない。コロニーは、赤血球マーカーCD235aに対して陰性でもあるべきである。図9は、CFU-GMの特徴を示す。コロニーは、30%超のCD14陽性細胞及び30%超のCD15陽性細胞を発現する場合に、CFU-GMとして特徴付けられる。赤血球マーカーCD235aに対して陰性でもあるべきである。図10は、CFU-GEMMの特徴を示す。CFU-GEMMの本質は、全ての骨髄前駆細胞の細胞を含み、かつ赤血球マーカーCD235aの発現にも陽性であることである。
【0049】
CFU-GEMMコロニーは、全ての他の骨髄前駆細胞の細胞を含む多系列前駆細胞である。CFU-GEMMを決定するために満たすべき基準は、CD235a-PE陽性事象が全ての細胞の20%超であるべきであること、CD15-APC陽性事象が全ての細胞の15%超であるべきであつこと、及びCD14-VioBlue陽性事象が同時に全ての細胞の15%超であるべきであることである。
【0050】
要約すると、それぞれのウェルについての特定の染色に基づいて、第3表で挙げた検出パラメーターを使用してコロニーを同定できる。例えば、少なくとも15%のCD15、14%のCD14、及び20%のCD235aの陽性事象を示すいずれかのウェルは、CFU-GEMMコロニーである。
【0051】
造血システムは常に自己複製し、かつ成熟の種々の段階にある細胞を含む。これらは、多系列の分化能及び高い自己複製能力を有する希な原始幹細胞、並びに制限された分化及び自己複製の可能性を有する前駆細胞を含む。今日、半固形培地は、コロニー形成単位(CFU)としての幹細胞及び前駆細胞の数え上げ及び評価の標準となっている。IMDM中のメチルセルロースに基づいて、ウシ胎児血清(FBS)及び異なる成長因子で補われた、これらの培地は、間質細胞の効果を模倣し、かつ最適な成長条件を提供する。前述したように、インキュベート期間の終了後に、光学顕微鏡下での目視観察後にコロニーを評価する。しかしながら、この方法で得られた結果は、アッセイを担当する研究者の専門知識に完全に依存しているため偏りがありエラーが生じやすい。系列特異的な前駆細胞の成長についての情報を得ながらCFUアッセイの分析を単純化する方法のひとつは、全てのコロニーが1つの前駆細胞亜型に、例えばCFU-GM又はBFU-E等のみに由来する系列特異的な培地でアッセイを実施する。しかしながら、このタイプの培養物は、前駆細胞/幹細胞の全体の貯蔵所を示すものではなく、安定な評価の基礎を作成するものではない。したがって、視覚的なコロニー評価における低い再現性の問題に対処し、安定性を高めてあらゆるバイアスを排除する唯一の方法は、細胞培養における分化と使用者に依存しない読み取りアッセイとの双方を組み合わせてコロニーを系統的に分析する方法を開発することである。
【0052】
この目的のために、造血幹細胞及び前駆細胞を分析するための標準化した方法を提供する本発明による方法を開発した。それというのも、それは、細胞培養における分化と続くフローサイトメトリーベースの評価を組み合わせるため、したがって顕微鏡下での使用者依存の視覚的スコアリングの必要が排除される。
【0053】
それらの形成に続いて、コロニーをフローサイトメトリーによって分析し、そしてHSC-CFU抗体カクテルで染色された後にそれらの種類に関して評価する。したがって、それぞれのコロニーは、対応するマーカーの組み合わせによって容易に識別できる。さらに、それぞれのコロニーの種類の頻度に基づいて、それぞれのコロニーの出現率を、コロニーの全数に対して決定できる。本発明によるアッセイ及び方法の技術革新は、メチルセルロース不含HSC-CFU培地、並びにHSC-CFU抗体カクテルとの同時の組み合わせの双方にあり、それというのも、それは、幹/前駆細胞の分化を可能にするだけでなく、それが提示する特定の染色に基づいてそれぞれのコロニーの包括的な特徴を提供するからである。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9