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特許7558281搭乗者の温熱生理学に基づく車両のマイクロクライメートのパーソナル化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】搭乗者の温熱生理学に基づく車両のマイクロクライメートのパーソナル化
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B60H1/00 101Q
B60H1/00 101U
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022547206
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 US2021016743
(87)【国際公開番号】W WO2021158867
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】62/970,430
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511014862
【氏名又は名称】ジェンサーム インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Gentherm Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】チューター,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ウェスターマン,チャド
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーズ,タイラー
(72)【発明者】
【氏名】スワンソン,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユン
(72)【発明者】
【氏名】ヨボビッチ,ウラジミール
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536287(JP,A)
【文献】特開2019-043511(JP,A)
【文献】特開平06-234318(JP,A)
【文献】特開2019-177804(JP,A)
【文献】特開平07-172147(JP,A)
【文献】特開2015-013636(JP,A)
【文献】特開2018-062297(JP,A)
【文献】特開2003-048416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0214456(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法であって、
それぞれが異なる搭乗者の身体エリアと関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)の各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、前記決定することは、前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいて、前記それぞれの目標温度は、前記OPZの間において異なり、かつ、それにおいて、前記決定することは、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値を決定することと、前記OPZに対応する熱伝達率に基づいて前記第2のOTSを計算することとを含むものとすることと、
各OPZ内において前記OPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することであって、前記提供することは、前記OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することを含むものとすることと、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整することと、
を包含し、
前記決定することと、提供することと、調整することとを複数の繰り返しにわたって、前記複数の繰り返しのそれぞれの間に同一の温度オフセット値を利用しつつ、反復的に繰り返すこと、を包含する、乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法。
【請求項2】
前記OPZのうちの1つまたは複数のためのディセーブル命令を前記搭乗者から受信することと、
前記ディセーブル命令の前記受信に基づいて、
前記OPZのうちの前記1つまたは複数のための温度エフェクタを、前記ディセーブル命令に基づいてディセーブルすること、または、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記温度オフセット値を、前記ディセーブル命令に基づいてリセットすることと、
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各OPZ内の温度を決定することを包含し、
それにおいて、各OPZについて、前記OPZ内において温度調和を提供することは、前記OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、前記OPZのための前記決定された温度と前記目標温度の間の差を低減することを包含する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記各OPZは、頭ゾーンと、背もたれゾーンと、座席クッション・ゾーンと、手/腕ゾーンと、足/脚ゾーンのうちの少なくとも3つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記各OPZのための前記温度エフェクタは、クライメート・コントロール付き座席と、ヘッドレストまたは上部背もたれにマウントされたネック・コンディショナと、クライメート・コントロール付きのヘッドライナと、暖房付きステアリング・ホイールと、暖房付きシフト・レバーと、暖房付きドア・パネルと、暖房マットと、前記背もたれまたはクッション内に配置される暖房または冷房能力を有する対流性の温度エフェクタと、ミニコンプレッサ・システムのうちの少なくとも3つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記温度エフェクタのうちの少なくとも1つは、ファンを含む対流性の温度エフェクタであり、前記方法が、
前記ファンのためのデフォルトのファン速度を決定することと、
前記搭乗者からのファン速度のオフセットの受信に基づいて前記デフォルトのファン速度を調整することと、
を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記搭乗者のための熱平衡を決定することと、
前記熱平衡に基づいて前記第1のOTSを決定することと、
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法であって、
それぞれが異なる搭乗者の身体エリアと関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)の各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、前記決定することは、前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいて、前記それぞれの目標温度は、前記OPZの間において異なり、かつ、それにおいて、前記決定することは、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値を決定することと、前記OPZに対応する熱伝達率に基づいて前記第2のOTSを計算することとを含むものとすることと、
各OPZ内において前記OPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することであって、前記提供することは、前記OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することを含むものとすることと、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整することと、
を包含し、
各OPZ内の温度を決定することを包含し、
それにおいて、各OPZについて、前記OPZ内において温度調和を提供することは、前記OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、前記OPZのための前記決定された温度と前記目標温度の間の差を低減することを包含し、
各OPZ内において前記温度調和を提供することは、
前記搭乗者を、前記OPZのうちの第1のOPZ内の第1の温度エフェクタを用いて、前記第1のOPZの前記決定された温度より低い前記第1のOPZのための前記目標温度に基づいて暖房することと、
前記搭乗者を、前記OPZのうちの第2のOPZ内の第2の温度エフェクタを用いて、前記第2のOPZの前記決定された温度より高い前記第2のOPZのための前記目標温度に基づいて冷房することと、
を包含し、それにおいて前記暖房および冷房が同時に行われる、
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法。
【請求項9】
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法であって、
それぞれが異なる搭乗者の身体エリアと関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)の各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、前記決定することは、前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいて、前記それぞれの目標温度は、前記OPZの間において異なり、かつ、それにおいて、前記決定することは、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値を決定することと、前記OPZに対応する熱伝達率に基づいて前記第2のOTSを計算することとを含むものとすることと、
各OPZ内において前記OPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することであって、前記提供することは、前記OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することを含むものとすることと、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整することと、
を包含し、
各OPZ内の温度を決定することを包含し、
それにおいて、各OPZについて、前記OPZ内において温度調和を提供することは、前記OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、前記OPZのための前記決定された温度と前記目標温度の間の差を低減することを包含し、
前記各OPZ内において温度調和を提供することは、
前記温度エフェクタのそれぞれのランキングを決定すること、
さらに、前記OPZ内の各温度エフェクタの相対的な前記ランキングに基づいて各OPZのための温度設定ポイントを決定することと、
を包含する、乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法。
【請求項10】
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法であって、
それぞれが異なる搭乗者の身体エリアと関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)の各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、前記決定することは、前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいて、前記それぞれの目標温度は、前記OPZの間において異なり、かつ、それにおいて、前記決定することは、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値を決定することと、前記OPZに対応する熱伝達率に基づいて前記第2のOTSを計算することとを含むものとすることと、
各OPZ内において前記OPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することであって、前記提供することは、前記OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することを含むものとすることと、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整することと、
を包含し、
前記各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することは、
各OPZ内の各エフェクタのために、上限温度と下限温度を含む少なくとも1つのあらかじめ定義済みの温度調和範囲を決定することと、
前記上限温度および下限温度に基づいて、前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲内の前記OPZのためのデフォルトの温度を決定することと、
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差に基づいて、前記目標温度を獲得するべく前記デフォルトの温度を調整することと、
を包含する、乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのあらかじめ定義済みの温度調和範囲は、上限の空気流量と下限の空気流量も含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲は、前記OPZの間および各OPZ内の前記温度エフェクタの間において異なる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差に基づいて、前記目標温度を獲得するべく前記デフォルトの温度を前記調整することは、
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差、デフォルトの温度、および前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲の大きさに基づいて公称温度設定ポイントを決定することと、
前記第1のOTSが前記第2のOTSより大きいことに基づいて、前記公称温度設定ポイントから導出された値によって前記デフォルトの温度を上げることと、
前記第1のOTSが前記第2のOTSより小さいことに基づいて、前記公称温度設定ポイントから導出された前記値によって前記デフォルトの温度を下げることと、
を包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法であって、
それぞれが異なる搭乗者の身体エリアと関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)の各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、前記決定することは、前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいて、前記それぞれの目標温度は、前記OPZの間において異なり、かつ、それにおいて、前記決定することは、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値を決定することと、前記OPZに対応する熱伝達率に基づいて前記第2のOTSを計算することとを含むものとすることと、
各OPZ内において前記OPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することであって、前記提供することは、前記OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することを含むものとすることと、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整することと、
を包含し、
前記調整した目標温度を、前記OPZのための上限の許容可能な目標温度および前記OPZのための下限の許容可能な目標温度のうちの少なくとも1つと比較することと、
前記OPZのための前記上限の許容可能な目標温度を超えるか、または前記OPZのための前記下限の許容可能な目標温度を下回る前記調整した目標温度に基づいて前記温度オフセット値を縮小すること、
を包含する、乗り物の搭乗者のための温度調和を提供する方法。
【請求項15】
温度調和システムであって、
それぞれが搭乗者の身体エリアの異なる部分に関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)内に、各OPZが複数の温度エフェクタのうちの少なくとも1つを含むように配される前記複数の温度エフェクタと、
コントローラであって、
前記搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と前記搭乗者によって現在経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいて各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することであって、それにおいて、前記それぞれの目標温度が前記OPZの間において異なり、かつそれにおいて、前記決定は、それぞれが前記各OPZのうちのそれぞれの1つにおける推定された熱流に対応する複数の離散的なOTS値の決定と、前記OPZに対応する熱伝達率に基づく前記第2のOTSの計算と、を含むものとすることと、
各OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを、前記OPZのための前記目標温度に基づいてコントロールするべく構成され、
前記搭乗者から前記OPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信するべく構成され、かつ、
前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整するべく構成された、
コントローラと、
を包含し、
各OPZのための前記それぞれの目標温度を決定するために、前記コントローラは、
上限温度と下限温度を含む前記OPZのためのあらかじめ定義済みの温度調和範囲であって、前記OPZの間において異なる前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲を決定するべく構成され、
前記上限温度と下限温度に基づいて前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲内の前記OPZのためのデフォルトの温度を決定するべく構成され、かつ、
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差に基づいて、前記目標温度を獲得するために前記デフォルトの温度を調整するべく構成される、
温度調和システム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記OPZのうちの前記特定の1つのための前記温度オフセット値を、前記搭乗者が、前記OPZのうちの前記特定の1つ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタをディセーブルすることに基づいてリセットするべく構成される、
請求項15に記載の温度調和システム。
【請求項17】
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差に基づいて、前記目標温度を獲得するべく前記デフォルトの温度を調整するために、前記コントローラは、
前記第1のOTSと第2のOTSの間の前記差、デフォルトの温度、および前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲の大きさに基づいて公称温度設定ポイントを決定するべく構成され、
前記第1のOTSが前記第2のOTSより大きいことに基づいて、前記公称温度設定ポイントから導出された値によって前記デフォルトの温度を上げるべく構成され、かつ、
前記第1のOTSが前記第2のOTSより小さいことに基づいて、前記公称温度設定ポイントから導出された前記値によって前記デフォルトの温度を下げるべく構成される、
請求項15に記載の温度調和システム。
【請求項18】
前記コントローラは、各OPZ内の温度を決定するべく構成され、かつ、
前記OPZのための前記目標温度に基づいて各OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタをコントロールするために、前記コントローラは、前記OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、前記OPZのための前記決定された温度と前記目標温度の間の差を低減するべく構成される、
請求項15に記載の温度調和システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、すべてが参照によりこれに援用される2020年2月5日に出願された米国特許仮出願第62/970,430号の優先権を主張する。
【0002】
この出願は、車両のキャビンの温度調和に関し、より詳細には、車両のキャビン内の複数の異なる搭乗者パーソナル化ゾーンにおけるパーソナル化された温度調和の提供に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両の搭乗者のための温度調和の提供は、多くの課題を呈する。これらの課題のうちの1つは、人々が、性別、体重、および着衣等の多様な要因に異なる形で左右されて温度的快適さを経験することである。このように、同じ車両のキャビン内にいる2人の搭乗者が、車両の温度調和システムに対して相異なり、かつ相容れない期待を有することがあり得る。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この開示の一例に従った車両の搭乗者のための温度調和を提供する方法は、複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)のそれぞれのためのそれぞれの目標温度を決定することを含む。各OPZは、搭乗者の異なる身体エリアと関連付けされ、前記決定することは、搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)と搭乗者によって経験されると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいてそれぞれの目標温度は、OPZの間において異なる。この方法は、各OPZ内においてそのOPZのための前記目標温度に基づいて温度調和を提供することを含み、前記提供することには、OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを利用することが含まれる。またこの方法は、搭乗者からOPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を受信することと、その温度オフセット値に基づいてOPZのうちのその特定の1つのための目標温度を調整することとを含む。
【0005】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記方法が、OPZのうちの1つまたは複数のためのディセーブル命令を搭乗者から受信することと、ディセーブル命令の受信に基づいて、OPZのうちの前記1つまたは複数を、ディセーブル命令に基づいてディセーブルすること、または、OPZのうちの特定の1つのための温度オフセットを、ディセーブル命令に基づいてリセットすることと、を含む。
【0006】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記方法が、各OPZ内の温度を決定することを含み、各OPZについて、OPZ内において温度調和を提供することは、そのOPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、そのOPZのための決定された温度と目標温度の間の差を低減することを含む。
【0007】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、各OPZ内において前記温度調和を提供することが、搭乗者を、OPZのうちの第1の1つ内の第1の温度エフェクタを用いて、第1のOPZの決定された温度より低い第1のOPZのための目標温度に基づいて暖房することと、搭乗者を、OPZのうちの第2の1つ内の第2の温度エフェクタを用いて、第2のOPZの決定された温度より高い第2のOPZのための目標温度に基づいて冷房することと、を含み、それにおいて前記暖房と冷房は、同時に行われる。
【0008】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、各OPZ内において前記温度調和を提供することが、温度エフェクタのそれぞれのランキングを決定することと、さらに、OPZ内の各温度エフェクタの相対的なランキングに基づいて各OPZのための温度設定ポイントを決定することと、を含む。
【0009】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定することが、各OPZ内の各エフェクタのために、上限温度と下限温度を有する少なくとも1つのあらかじめ定義済みの温度調和範囲を決定することと、上限および下限の温度に基づいて、あらかじめ定義済みの温度調和範囲内のOPZのためのデフォルトの温度を決定することと、第1のOTSと第2のOTSの間の差に基づいて、目標温度を獲得するべくデフォルトの温度を調整することと、を含む。
【0010】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記少なくとも1つのあらかじめ定義済みの温度調和範囲が、上限の空気流量と下限の空気流量も含む。
【0011】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記あらかじめ定義済みの温度調和範囲が、OPZの間および各OPZ内の温度エフェクタの間において異なる。
【0012】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、第1と第2のOTSの間の差に基づいて、前記目標温度を獲得するべく前記デフォルトの温度を前記調整することが、第1のOTSと第2のOTSの間の差、デフォルトの温度、およびあらかじめ定義済みの温度調和範囲の大きさに基づいて公称温度設定ポイントを決定することを含む。デフォルトの温度は、第1のOTSが第2のOTSより大きいことに基づいて、公称温度設定ポイントから導出された値によって上げられ、かつ、デフォルトの温度は、第1のOTSが前記第2のOTSより小さいことに基づいて、公称温度設定ポイントから導出された値によって下げられる。
【0013】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、デフォルトの温度が、上限と下限の温度の平均になる。
【0014】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記方法が、調整した目標温度と、OPZのための上限の許容可能な目標温度およびOPZのための下限の許容可能な目標温度のうちの少なくとも1つと比較することと、OPZのための上限の許容可能な目標温度を超えるか、またはOPZのための前記下限の許容可能な目標温度を下回る調整した目標温度に基づいて温度オフセットを縮小すること、を含む。
【0015】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、複数のOPZが、頭ゾーンと、背もたれゾーンと、座席クッション・ゾーンと、手/腕ゾーンと、足/脚ゾーンのうちの少なくとも3つを含む。
【0016】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、複数のOPZのための前記温度エフェクタが、クライメート・コントロール付き座席と、ヘッドレストまたは上部背もたれにマウントされたネック・コンディショナと、クライメート・コントロール付きのヘッドライナと、暖房付きステアリング・ホイールと、暖房付きシフト・レバーと、暖房付きドア・パネルと、暖房マットと、対流性の温度エフェクタと、ミニコンプレッサ・システムのうちの少なくとも3つを有する。
【0017】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、温度エフェクタのうちの少なくとも1つが、ファンを有する対流性の温度エフェクタであり、この方法が、ファンのためのデフォルトのファン速度を決定することと、搭乗者からのファン速度のオフセットの受信に基づいてデフォルトのファン速度を調整することと、を含む。
【0018】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記方法が、搭乗者のための熱平衡を決定することと、その熱平衡に基づいて第1のOTSを決定することと、を含む。
【0019】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、前記方法が、前記決定することと、提供することと、調整することとを複数の繰り返しにわたって、それらの複数の繰り返しのそれぞれの間に同一の温度オフセット値を利用しつつ、反復的に繰り返すことを含む。
【0020】
この開示の一例に従った温度調和システムは、それぞれが搭乗者の身体エリアの異なる部分に関連付けされた複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)内に、各OPZが複数の温度エフェクタのうちの少なくとも1つを含むように配される複数の温度エフェクタを含む。コントローラが、搭乗者のための目標熱流を示す第1の全体的な温度感覚(OTS)とその搭乗者によって現在経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいて各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定するべく構成され、それにおいてそれぞれの目標温度は、OPZの間において異なる。コントローラは、各OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタを、OPZのための目標温度に基づいてコントロールし、かつOPZのうちの特定の1つのための温度オフセット値を搭乗者から受信し、かつOPZのうちの前記特定の1つのための前記目標温度を、前記温度オフセット値に基づいて調整するべく構成される。
【0021】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、コントローラが、OPZのうちの特定の1つのための温度オフセットを、搭乗者がOPZのうちのその特定の1つ内の少なくとも1つの温度エフェクタをディセーブルすることに基づいてリセットするべく構成される。
【0022】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、各OPZのためのそれぞれの目標温度を決定するために、前記コントローラが、上限温度と下限温度を含む前記OPZのためのあらかじめ定義済みの温度調和範囲を決定するべく構成され、それにおいてあらかじめ定義済みの温度調和範囲は、OPZの間において異なることが許される。コントローラは、上限と下限の温度に基づいてあらかじめ定義済みの温度調和範囲内のOPZのためのデフォルトの温度を決定し、かつ第1と第2のOTSの間の差に基づいて、目標温度を獲得するためにデフォルトの温度を調整するべく構成される。
【0023】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、第1と第2のOTSの間の差に基づいて、目標温度を獲得するべく前記デフォルトの温度を調整するために、コントローラが、第1のOTSと第2のOTSの間の差、デフォルトの温度、およびあらかじめ定義済みの温度調和範囲の大きさに基づいて公称温度設定ポイントを決定するべく構成される。コントローラは、第1のOTSが第2のOTSより大きいことに基づいて、公称温度設定ポイントから導出された値によってデフォルトの温度を上げ、第1のOTSが第2のOTSより小さいことに基づいて、公称温度設定ポイントから導出された値によってデフォルトの温度を下げるべく構成される。
【0024】
上記の実施態様のいずれかのうちのさらなる実施態様においては、コントローラが、各OPZ内の温度を決定するべく構成され、かつ、OPZのための目標温度に基づいて各OPZ内の少なくとも1つの温度エフェクタをコントロールするために、コントローラが、OPZ内の前記少なくとも1つの温度エフェクタの出力を調整し、そのOPZのための決定された温度と目標温度の間の差を低減するべく構成される。
【0025】
先行するパラグラフ、特許請求の範囲、または以下の説明および図面の実施態様、例、および代替は、それらの多様な態様またはそれぞれの個別の特徴を含め、独立に、または任意の組み合わせにおいて考慮することができる。1つの実施態様に関連して説明される特徴は、その種の特徴に互換性のない場合を除き、すべての実施態様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】HVACシステムおよびマイクロクライメート温度調和システムを含む温度調和システムを略図的に図解した説明図である。
図2】複数のマイクロクライメート温度エフェクタをコントロールするための例示的な方法を図示したフローチャートである。
図3】車両搭乗者が経験する全体的な温度感覚(OTS)が季節の間でどのように変化し得るかについて一例を図示したグラフである。
図4図4A、4B、および4Cが配される態様を図解した図式である。
図4A】車両の搭乗者のOTSを決定するための一例のアレンジメントを図解した組み合わせ図の部分である。
図4B】車両の搭乗者のOTSを決定するための一例のアレンジメントを図解した組み合わせ図の部分である。
図4C】車両の搭乗者のOTSを決定するための一例のアレンジメントを図解した組み合わせ図の部分である。
図5】日射負荷が有することが可能なOTSに対する効果の例を図解したグラフである。
図6】OTSに基づいて温度エフェクタの設定ポイント温度を調整するための方法を図示したフローチャートである。
図7】訂正後の温度設定ポイントを決定するための一例のアレンジメントを図解した説明図である。
図8】複数の温度エフェクタの温度調和の範囲を図解した説明図である。
図9】特定の搭乗者パーソナル化ゾーンのための温度設定ポイントをカスタム化するためのグラフィカル・ユーザ・インターフェースの一例を図解した説明図である。
図10】車両の搭乗者のために温度調和を提供する方法の一例を図示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この開示では、HVACシステムおよびマイクロクライメート温度調和システム(MTCS)を含む車両のキャビンのための温度調和システムを述べる。MTCSは、車両のキャビン内の複数の離散的な搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ)(たとえば、頭、背もたれ、座席クッション、手/腕、および足/脚等)内において温度調和を提供するべく動作する複数のマイクロクライメート温度エフェクタを含む。マイクロクライメート温度エフェクタのための温度設定ポイントは、車両の搭乗者のために、その車両の搭乗者によってもっとも好まれる温度範囲の搭乗者プロファイルに関連して決定され、かつそれぞれの身体セグメント毎に定義される全体的な温度感覚(OTS)に基づいて決定される。OTSは、環境から車両の搭乗者へ引き渡される熱流をはじめ、車両の搭乗者の代謝状態の計算に基づく。OTSは、車両の搭乗者によって経験される全体的な温度感覚を示す。MTCSのために、代表的な車両の搭乗者に対して最大限の温度的快適性を提供する、可能性のある温度および熱の流れのシナリオを示すデフォルトの搭乗者プロファイルが提供される。いくつかの実施態様においては、車両の搭乗者のプロファイルが、たとえば特定の搭乗者の体重、性別、および着衣等の詳細を示すべく、これらのそれぞれが温度的快適性を搭乗者が経験する態様に影響を及ぼすことから、カスタム化可能である。温度調和システム10は、車両の搭乗者が、OPZの多様な温度および流量のためのそれらのオフセットを入力して自分たちの温度的快適性を向上させることを可能にする。
【0028】
図1は、HVACシステム12およびマイクロクライメート温度調和システム(MTCS)14を含む温度調和システム10を略図的に図解している。HVACシステム12は、熱交換器20に空気を通過させて温度調和された空気22を車両のキャビン24内へ提供するファン18を駆動するモータ16を含む。キャビン温度センサ26が、キャビン温度センサ26からの温度読み値に基づいてモータ16の動作を調整するべく動作可能なHVACコントローラ28へ温度情報を提供する。HVACコントローラ28は、外部空気温度センサ30、およびたとえば1つまたは複数の追加のセンサ32から情報を受け取ることもできる。
【0029】
HVACコントローラ28は、通常は車両の搭乗者によってマニュアルで調整される温度設定ポイントに対してHVACシステム12の動作を調整する。セントラルHVACシステム12は、多くのシナリオにおいてそれぞれの特定の搭乗者および場所のための温度的快適性を達成するには充分でなく、そのためMTCS14が備えられて、車両のキャビン24内の各搭乗者に特有のマイクロクライメートが作り出され、それによって改善された全体的な搭乗者の温度的快適性が提供される。
【0030】
各搭乗者は、通常、固有の個人的な快適さの好みを有する。言い換えると、個々の搭乗者が気付く温度エネルギのレベルは、別の搭乗者と異なる。その結果として、車両内の正確に同一の温度環境は、1人の搭乗者によって快適であるとして知覚されるが、別の搭乗者によっては快適でないとされることがあり得る。このため、この開示は、最適かつ調和された態様でセントラルHVACシステム12およびMTCS14の両方をコントロールするマニュアル調整を各搭乗者へ提供する。
【0031】
車両内には、車両の搭乗者の温度的快適性に影響を及ぼす多数の暖房および冷房源が存在する。1つの例においては、多様な暖房および冷房源を、キャビン内の等価均一温度(EHT)によって表現することが可能である。EHTは、搭乗者に係る総合的な温度効果を、その車両の搭乗者の、全身の温度感覚を生み出す熱損失の測度として表す。EHTは、車両の搭乗者への伝導、対流、および輻射の組み合わされた効果を考慮に入れて、これらの効果を、非一様な温度環境のモデリングに特に有用な単一の値に結合する。EHTの計算の1つの例は、Han,Taeyoung(ハン・テーヨン)、およびHuang,Linjie(ホアン・リンジー)著『A Model for Relating a Thermal Comfort Scale to EHT Comfort Index(ア・モデル・フォア・リレーティング・ア・サーマル・コンフォート・スケール・トゥ・イー・エッチ・ティー・コンフォート・インデックス)』SAE Technical Paper(エス・エー・イー・テクニカル・ペーパー)、2004-01-0919、2004年に見付けることができる。参照によりその全体がこれに援用されるこのSAEペーパー内に説明されているとおり、モデリングされた温度環境は、『呼吸レベル』の空気温度、平均輻射温度(MRT)、空気の速度、太陽光負荷、および相対湿度によって影響を受ける。
【0032】
車両のHVACシステムは、キャビン内の空気塊を調和させてキャビン温度を達成する。マイクロクライメート環境に対するそのほかの環境的な影響には、車両周囲温度および車両上の太陽光負荷が含まれる。EHTを使用して搭乗者の温度的快適性を達成する1つの例は、参照によりその全体がこれに援用される、2019年12月20日に『AUTOMATIC SEAT THERMAL COMFORT CONTROL SYSTEM AND METHOD(オートマチック・シート・サーマル・コンフォート・コントロール・システム・アンド・メソッド)』と題されて出願された米国特許仮出願第62/951,289号の中に記述されている。
【0033】
搭乗者の温度状態は、たとえばArens E.A.(アーレンズ・イー・エー)、Zhang H.(ザング・エッチ)、およびHuizenga C.(ハイゼンガ・シー)著『Partial- and whole-body thermal sensation and comfort,Part I:Uniform environmental conditions(パーシャル・アンド・ホール・ボディ・サーマル・センセーション・アンド・コンフォート、パート・ワン:ユニフォーム・エンバイロメンタル・コンディションズ)』、Journal of Thermal Biology(ジャーナル・オブ・サーマル・バイオロジー)31、53-59、2006年に記述されているバークレーの感覚および快適さスケール(Berkeley Sensation and Comfort Scale)(『バークレー・スケール』)を使用して表現することが可能である。バークレー・スケールは、温度感覚を数値的に、-4を非常に寒い、-3を寒い、-2を涼しい、-1をわずかに涼しい、0をどちらでもない、1をわずかに暖かい、2を暖かい、3を暑い、4を非常に暑いとして表す。理解される必要があるが、このほかのアプローチを使用して搭乗者の温度状態を定量化することは可能である。全体的な温度感覚(OTS)は、個々の搭乗者によって経験される、その者の身体への熱伝達率に基づく温度感覚の測度である。バークレー・スケールの各レベルは、ユーザの現在の熱流とそのユーザの希望する熱流の間の差を示す。
【0034】
MTCS14は、多くの離散的な搭乗者マイクロクライメート・ゾーン、または搭乗者パーソナル化ゾーン(OPZ:Occupant Personalization Zone)を有することができる。ISO 145045-2:2006(E)によれば、人間の身体は、手、頭、または胸等の異なる身体セグメントに分割することが可能であり、各セグメントは、異なる温度的快適性の温度範囲を有することがあり得る。図1における5つの例のゾーンは、頭、背中、クッション(大腿部および臀部)、足/脚、および腕/手である。より少ないか、より多いか、かつ/または異なるゾーンを、望ましければ使用することができる。
【0035】
引き続き図1を参照するが、MTCS14は、それぞれが、対応するOPZ42A-Eに配置される複数の離散的なマイクロクライメート温度エフェクタ40A-Eを含む。図1の例においては、OPZ42が、頭ゾーン42Aと、背中ゾーン42Bと、手/腕ゾーン42Cと、クッション・ゾーン42Dと、足/脚ゾーン42Eとを含む。多様なOPZ42A-Eを、異なる車両内に使用することが可能である。一例においては、これらの頭ゾーン42A、背中ゾーン42B、手/腕ゾーン42C、座席クッション・ゾーン42D、および足/脚ゾーン42Eのうちの少なくとも3つが提供される。
【0036】
各OPZ42は、個々の車両搭乗者と接触する特定のゾーンのためのマイクロクライメートを提供する。図1に示されている一例の車両搭乗者50は、ステアリング・ホイールへのアクセスを有する運転者である。そのほかの車両の搭乗者がステアリング・ホイールを有することはありがちでないが、それでもなお、ゾーン内のクライメート、たとえば暖冷房された表面、輻射暖房パネル、HVAC通気孔、日射負荷等に影響を及ぼすそのほかのデバイスを有することは可能である。42A-Eに示されたOPZのそれぞれのために、そのゾーンに影響を及ぼす熱伝達のあらゆる方法、すなわち、HVACを含むコントロール付きのエフェクタおよび日光からの輻射等のコントロールされない負荷の両方を熱力学的に計算に入れるべくソフトウエアが構成される。そのゾーン内のクライメートは、その後、そのゾーン内のクライメートの望ましい状態と比較したそのゾーン内のクライメートの実際の状態に従ってコントロールされる。各OPZ42には、単一のマイクロクライメート温度エフェクタ40だけが示されているが、個々のOPZ42に複数の温度エフェクタ40を含めることが可能なことは理解されるものとする。
【0037】
各OPZ内においては、抵抗性電気ヒータ、ペルチェ効果を使用して暖房または冷房を提供する熱電デバイス、空気流(たとえば、車両の座席内からOPZ42への空気流)を提供する対流性温度調和デバイス等の多様な温度エフェクタ40を使用することが可能である。システム10内において使用可能ないくつかの例の温度エフェクタには、限定ではないが、たとえば、クライメート・コントロール付き座席(たとえば、米国特許第5,524,439号明細書および同第6,857,697号明細書参照)、ヘッドレストまたは上部背もたれ内にマウントされたネック・コンディショナ(たとえば、米国特許仮出願第62/039,125号参照)、クライメート・コントロール付きヘッドライナ(たとえば、米国特許仮出願第61/900334号参照)、クライメート・コントロール付き(たとえば、暖房付き)ドア・パネルおよび/またはインストルメント・パネル、暖房コントロール付きステアリング・ホイール(たとえば、米国特許第6,727,467号明細書および米国特許出願公開第2014/0090513号明細書参照)、暖房付きシフト・レバー(たとえば、米国特許出願公開第2013/0061603号明細書等参照)、インテリジェント・マイクロ熱モジュールまたは『iMTM』(たとえば、国際公開第WO202011290号参照)、暖房マット(座席および車両搭乗者50を取り囲むかまたは接触するそのほかの表面内に取り付けることができる)、冷却され調和された空気から車両搭乗者50へ対流性熱伝達によって温度効果を引き渡すべく構成されたミニコンプレッサ・システム(たとえば、国際公開第WO2018049159A1号参照)、および/または暖房または冷房能力を有し、背もたれまたはクッション内に配置されてパーソナル化されたマイクロクライメートを達成する対流性温度エフェクタが含まれる。
【0038】
1つの例においては、次の温度エフェクタ40のうちの少なくとも3つが提供される:クライメート・コントロール付き座席と、リード・レストまたは上部背もたれ内にマウントされるネック・コンディショナと、クライメート・コントロール付きヘッドライナと、暖房付きステアリング・ホイールと、暖房付きシフト・レバーと、クライメート・コントロール付きドア・パネルと、暖房マットと、ミニコンプレッサ・システムと、対流性の温度エフェクタ。
【0039】
マイクロクライメート・システムは、望ましい搭乗者個人のための快適さを、車両の搭乗者からの入力が殆ど、またはまったく要求されることなく自動化された態様で提供する。これらのデバイスのすべてまたはいくつかは、乗用車の内側の場所に置かれた座席の搭乗者周りの温度環境を最適にコントロールするべく配することが可能である。それに加えて、これらの構成要素を使用して、車両の搭乗者の身体の個別のセグメントまたはパーソナル化されたゾーンのために温度的快適性を別々に調整することが可能である。
【0040】
コントローラ44は、温度エフェクタ40のそれぞれをコントロールする。コントローラ44は、HVACシステム・コントローラ28と、たとえば、コントロール・エリア・ネットワーク(CAN)バスおよび/またはローカル相互接続ネットワーク(LIN)バスを含めることができる通信バス46を通じて通信する。コントローラ44は、また、分布された複数の、OPZ42のうちの1つまたは複数内に配置されるキャビン温度センサ48A-Dとも通信する。図1には、5つの局所的な温度センサ48A-Eが示されているが、そのほかの(たとえば、5つのOPZ温度センサより少ないか、または多い)数のOPZ温度センサ48の使用が可能なことは理解されるものとする。身体をゾーンに区分けすることは、2つの目的を有する。第1に、人間の身体およびそれの局所的環境を、身体に対する全体的な熱伝達率が決定可能となるようにモデリングすることが可能である。これは、車両内の各搭乗者のための温度的快適性の現在の状態の評価に使用される。セグメントの数がより大きいほど、温度モデルをより正確なものとすることが可能である。熱力学的モデルの正確性のために理想的なゾーンの数は、現在の車両のキャビン内において利用可能なセンサの数によって制限されることがある。第2に、車両の搭乗者は、頭、足等々の具体的なゾーンに応じて自分の身体周りの温度環境の差別化を好むことがある。検知の制限を伴ってさえ、熱力学的ゾーンの最適数が、パーソナル化およびコントロールのために車両の搭乗者によって選択される数を超えることがある。実際、搭乗者は、一般に、好みを考えたとき、むしろより限られた数のゾーンを選ぶ。したがって、コントロール・ソフトウエアは、自動コントロールおよびパーソナル化を同時に提供するために、推定のために使用される正確な熱力学的マルチ・ゾーン・モデルを解いて、より少ない数の搭乗者パーソナル化ゾーンにする。
【0041】
図2は、コントローラ44が、複数のマイクロクライメート温度エフェクタ40をどのようにコントロールするかを示したフローチャート100である。コントローラは、マイクロクライメート・システムの直接コントロールの下にないデバイス、たとえばHVACまたはそのほかのエフェクタのための最適設定ポイントを、直接コントロールの下にあるデバイス、たとえば座席ヒータ等と同じ態様でそれらのデバイスの数学的モデルを含めることによって決定することが可能である。それに代えて、コントローラは、特定の電力予算内のゾーンを分割し、別々にコントロールすることによってそのほかのクライメート・コントロール・システムと協働することができる。これらのシナリオのいずれにおいても、コントローラ44は、車両のキャビン24内の車両の搭乗者50のための、車両の搭乗者の全身の温度感覚を生み出す熱損失の測度として車両の搭乗者50に係る総合的な温度効果を表す熱平衡を決定する(ステップ102)。1つの例においては、参照により開示の全体がこれに援用される同時係属出願の第62/951,289号の中で述べられているとおり、『等価均一温度』として熱平衡が決定される。
【0042】
熱平衡を決定すると、コントローラ44は、車両の搭乗者50によって経験されているOTSを推定する(『OTS_est』)(ステップ104)。OTS_estは、車両の搭乗者50によって経験されていると推定される(たとえば、OPZ42のうちのいくつか、または全部にわたる)熱流を示す。またコントローラ44は、車両の搭乗者50のための目標OTS(『OTS_target』)も決定する(ステップ106)。OTS_targetは、同様に、推定と同じ温熱生理学モデルのインバージョンを使用して計算するが、熱伝達率および搭乗者プロファイルの公称条件を伴う。この熱伝達モデルのインバージョンは、ユーザが「設定温度」を入力することを可能にし、コントロール・ソフトウエアは、それを等価目標OTSへ変換することができる。車両の搭乗者のプロファイルは、車両の搭乗者の体重、性別、および着衣についての詳細を仮定または推測するデフォルトのプロファイルであり得るか、またはその種の詳細を提供するべく車両の搭乗者によってカスタム化し得る。OTS_targetは、車両の搭乗者50のための望ましい(たとえば、OPZ42のうちのいくつか、または全部にわたる)熱流を示す。またOTS_targetは、デフォルトの温度値に基づいて、または搭乗者が提供した具体的な温度値に基づいて提供することができる、OPZ42のすべてにわたる車両の搭乗者のグローバル温度設定ポイントに基づいても計算される。
【0043】
コントローラ44は、2つのOTSメトリクスの間の差を示すOTS_target-OTS_estとして2つのOTSメトリクスの間の誤差を計算する(ステップ108)。正の誤差は、OTS_estがOTS_targetより低いことを示し、相応じてOPZ42のうちのいくつかまたは全部において車両の搭乗者50を暖房する必要があることを示す。その逆に、負の誤差は、OTS_estがOTS_targetより高いことを示し、相応じてOPZ42のうちのいくつかまたは全部において車両の搭乗者50を冷房する必要があることを示す。コントローラ44は、ステップ108の誤差を縮小するべく複数の温度エフェクタ40をコントロールする(ステップ110)。
【0044】
1つの例においては、OTSは、次に示した式のような、具体的な搭乗者の身体に対して計算された熱損失の組み合わせでその搭乗者の温度特性に関係する項を伴うシグモイド関数の形式の式を使用して決定される。
【0045】
OTS_est=(6/(1+exp(-A×(HeatLossBody+B))))-3 (式1)
【0046】
これにおいて、HeatLossBodyは、複数のOPZ42にわたる車両の搭乗者の熱流に対応し、AおよびBは、熱流に対する季節効果等の、いくつかの環境および搭乗者のファクタに関係する係数である。
【0047】
1つの例においては、ステップ110のコントロールが、所定の搭乗者についてエフェクタ40および/またはOPZ42を優先する順序を示す各温度エフェクタ40の相対的なランキング(たとえば、0-1.5のスケール)に基づく。例として述べるが、所定の搭乗者が、主としてエフェクタ40Aを通じて温度調和が行われることを好むことがあり、したがってこのエフェクタ40Aには、ほかのエフェクタより高いランクを割り当てることが可能である。それに対して、別の搭乗者は、エフェクタ40Aの強調を抑えることを希望し、それに代えてエフェクタ40Dを通じて温度調和がより有意に行われることを好むことがある。その搭乗者は、エフェクタ40Aより高いランクをエフェクタ40Dへ割り当てることができる。ランキングは、搭乗者50が自分の希望する優先度を示すことを可能にする。
【0048】
『AutoComfort(オートコンフォート)』モードにおいては、ランキングをOTS誤差によって(たとえば、次の式2を使用して)乗じ、OPZ固有のOTS値を決定することが可能である。
【0049】
OTSerrEffector=OTSerrNormalized×EffectorRanking (式2)
【0050】
1つの例においては、車両の搭乗者がそのエフェクタのための設定ポイントにおける変更(たとえば、暖房の間において上げること、または冷房の間において下げること)を要求した場合に、第1の量によってこの温度エフェクタのためのランクが上げられる。車両の搭乗者によってエフェクタがオフにされた場合には、第1の量より大きい第2の量によってランクが下げられる。
【0051】
『AutoOptimal(オートオプティマル)』モードにおいては、ランクが、各温度エフェクタによって消費される電力/引き渡される電力を反映する同一範囲を伴う有効性の値によって乗じられる。その目的は、好みだけ(AutoComfort)および好みおよび有効性(AutoOptimal)に従った各デバイスの設定ポイントに対して適用される訂正を「重み付け」することである。
【0052】
したがって、コントローラ44は、1つの例において、温度エフェクタ40のそれぞれのランクを決定し、さらにOPZ42内の各温度エフェクタ40の相対的なランキングに基づいて、各OPZ42のための温度設定ポイントを決定する。
【0053】
図3は、夏季と冬季の間にOTSがどのように変化し得るかを示したグラフである。Y軸は、OTSを表し、X軸は、ワット(ジュール/秒)を単位として測定される熱伝達率『q』を表す。図3に示されているとおり、車両の搭乗者50は、季節に応じて同一の熱伝達率において異なるOTSを経験し、概して車両の搭乗者50は、冬季の天候において、夏季の天候おけるよりも低い熱伝達率において所定のOTSを経験する。
【0054】
図4は、図4A、4B、および4Cを含み、OTS_estとOTS_targetを決定するための一例のアレンジメントを図解した図式である。図4A、4B、および4Cを参照すると、各OPZ42のためのそれぞれの推定器60A-Eが、それのOPZ42のための総合的な熱伝達率(Q)を計算する。オプションとして、HVACシステム12および/または日射負荷がOPZ42に対して有意な効果を有するとき、推定器60のうちのいくつかは、HVACシステム12からの温度調和および/または車両が経験する日射負荷を計算に入れることができる。特に、推定器60Bは、車両搭乗者50の上半身が、これらのファクタによって影響されがちであることから、この種の考慮から利益を得ることができる。それぞれの推定器60は、それ自体のOPZ固有の熱伝達率を出力し、それらが加算デバイス62によって加算されて全体的な熱伝達率64が決定される。加算デバイス62は、車両搭乗者50に対する、またはそれからの総合的な熱伝達を理解するべくOPZゾーンのそれぞれのための熱伝達を組み合わせる。車両の搭乗者50に対するこの総合的な熱伝達は、その後、その車両の搭乗者の温度的快適性を定量化するそのほかのメトリクス(たとえば、OTS、EHT、予測平均温冷感申告(PMV)、および予測不快者率(PPD)等)の計算に、またその後の相応じたシステムのコントロールに使用することが可能である。
【0055】
第1のOTS計算機66Aは、加算デバイス62から総合的な熱伝達を受け取り、OTS_estを計算し、出力68AとしてOTS_estを提供する。第2のOTS推定器66Bは、車両搭乗者50のためのOTS_targetを決定し、出力68BとしてOTS_targetを提供する。推定器66Aは、その決定を、(たとえば、グラフィカル・ユーザ・インターフェースからの)ユーザの好み、および/または多様なマイクロクライメート温度エフェクタ40のための電力予算に基づいて行う。
【0056】
加算デバイス70は、OTS_targetとOTS_estの間の差を決定してOTS誤差72を決定し、それをコントローラ44が使用して多様な温度エフェクタ40のための設定ポイントを決定する。OTSモード・モジュール74は、OTS誤差72に基づいて、さらに搭乗者が提供した温度オフセットがあれば(たとえば、OPZ固有の温度オフセット)それに基づいて温度エフェクタ40のそれぞれが暖房または冷房を提供することになるか否かを決定する。このオフセットについては、より詳細を後述する。
【0057】
図5は、日射負荷が有することが可能なOTSに対する影響の一例を図解したグラフである。図5の例に示されているとおり、特定の外部温度について日射負荷がない場合には、OTS_estがOTS_targetより小さくなるが、日射負荷がある場合には、OTS_estがOTS_targetより大きくなることがある。このように、日射負荷により車両の搭乗者50は、より暑く感じさせられ、したがって、日射負荷がない場合に感じるより、温度的快適性が小さいことがあり得る。OTS_estに対する日射負荷の効果は、コントロール・ソフトウエアが、熱的擾乱を補償することによって各搭乗者周りのマイクロクライメートをコントロールするために、温熱生理学ベースのモデルをどのように使用するかということの例である。
【0058】
図6は、図2のステップ110の実装例のフローチャート200を図解している。1つの例においては、コントローラ44が、フローチャート200の多様なステップを行うべく構成される。車両の搭乗者50の所定の座席の場所に関連付けされた各温度エフェクタ40について、コントローラ44は、快適温度の上限および下限{t_max_comfort,t_min_comfort}を含む温度調和の範囲と、適用可能な場合には、流量設定ポイントの範囲{v_min_comfort,v_max_comfort}とを決定する(ステップ210)。あらかじめ定義済みの温度調和範囲は、OPZ42の間、および各OPZ42内の温度エフェクタ40の間において異なることが許される。
【0059】
上限および下限は、温熱生理学モデルおよび/または所定の身体エリアにとって概して望ましい温度調和の温度を示す経験的なデータに基づいて決定される。たとえば、車両の搭乗者50が、自分の頭と足を背中と上脚部より暖かくするとより快適であると見出す可能性もある。注意する必要があるが、コントロール・メカニズムは、HVACまたはそのほかの補助的な暖房および冷房デバイスを含めて車両内の任意の温度エフェクタに適用することが可能である。このようにしてコントロール・ソフトウエアは、種々の応用において異なることがあり得るが、同一のコントロール・スキームで取り扱うことができるデバイスのネットワークを調和させることが可能である。
【0060】
ステップ210において上限および下限の快適温度設定ポイントの範囲を決定すると、コントローラ44は、そのOPZ内の各温度エフェクタ40のための公称温度設定ポイント(tSetNom)を決定する(ステップ212)。OPZのための公称温度設定ポイントは、たとえば、そのOPZのためのデフォルトの温度として使用することができる。図6の例においては、これが、そのOPZのための上限と下限の快適温度設定ポイントの範囲の平均にステップ208のOTS誤差を加算、または減算して決定することを含む。
【0061】
図7は、図4Cに示されているOTS誤差72に基づいて訂正後の温度設定ポイントを決定するための一例のアレンジメントを図解した図式である。図7の図式は、たとえば、図6のステップ212の実施に使用することが可能である。OTS誤差72が、OTS誤差72を分析し、周知のPIDコントロール・テクニックを使用して比例項、積分項、および微分項に基づくOTS誤差出力76を提供するべく構成される比例積分微分(PID)コントローラ74へ提供される。1つの例においては、これらの項のそれぞれが各エフェクタに特有である。積分項(図7には示されていないが、OTS誤差72の累算によって特徴付けされる)、および微分項(図7には示されていないが、経時的なOTS誤差72の変化率によって特徴付けされる)。以下において論じる例は、積分項および微分項を0と仮定するが、周知のPIDコントロール・テクニックを使用してこれらの項のために非ゼロ値が使用可能であることは理解されるものとする。
【0062】
上限温度(t_max_comfort)と下限温度(t_min_comfort)を含む温度調和範囲77が提供される。一例として、個々のOPZ42のためのt_max_comfortを10℃とし、その個々のOPZ42のためのt_min_comfortを0℃と仮定する。ブロック78は、これらの値の平均(この例においては、5℃)を決定し、ブロック80は、範囲の大きさ82(この例においては、10℃)を決定する。ブロック84は、これらの入力に基づいて訂正後の設定ポイント(tsetNom)86を決定する。1つの例においては、ブロック84が、次の式3を使用する。
【0063】
tsetNom=u(1)+(u(2)×u(3))/100 (式3)
【0064】
これにおいて、u(1)は、公称設定ポイントを表す。
【0065】
u(2)は、範囲の大きさを表す。
【0066】
u(3)は、OTS誤差出力76を表す。
【0067】
上で検討した例の値を使用すると、u(1)は5℃に等しく、u(2)は10℃に等しい。検討の都合上、u(3)に対応するOTS誤差出力76が20%の誤差(OTS_targetがOTS_estより20%高いことを示す)であると仮定する。これらの値を使用すると、tsetNomは、(5+(10×20)/(100)、すなわち7℃に等しくなる。
【0068】
再び図6を参照すると、コントローラ44は、車両の搭乗者50が、ユーザ・インターフェースを通じてOPZ42のうちのいずれかのための温度設定ポイント・オフセット(OPZ_TSoffset)を提供したか否かを決定する(ステップ214)。オフセットが提供されていなければ、そのOPZのためのOPZ_TSoffsetは、ゼロになる。非ゼロのOPZ_TSoffsetを有する各OPZ42に関連付けされた各温度エフェクタ40について、コントローラ44は、そのオフセットを用いて公称温度設定ポイント(たとえば、デフォルトの温度設定ポイント)をオフセットすることによって、パーソナル化された温度設定ポイント(tSetPersonalized)を計算する(ステップ216)。特定のOPZ42のためのオフセットがなければ、tSetPersonalizedは、tSetNomに等しくなる。
【0069】
車両の搭乗者50が、+1℃のオフセットを有する場合には、前述の例のtsetNomを使用し、sSetPersonalizedを7+1=8℃として計算することが可能である。これに対して、車両の搭乗者50が、-1℃のオフセットを有する場合には、tSetPersonalizedを7-1=6℃として計算することが可能である。この例においては、5℃のデフォルトの温度が、上限と下限の温度の平均であり、そのデフォルトの温度が、OTS_targetとOTS_estの間の差に基づいて調整され、目標温度8℃または6℃が獲得される。
【0070】
各温度エフェクタ40について、コントローラ44は、OPZのためのパーソナル化された温度設定ポイント(tSetPersonlized)と許容温度調和範囲を比較する(ステップ218)。これは、そのOPZのためのOEM固有の温度調和範囲に対応してよく、ステップ210において決定された上限と下限の快適性レベルとは異なることがある。たとえば、OEMが、所定の温度エフェクタ40および/またはOPZ42のために可能な温度調和の完全な範囲の提供を望まないことがある。パーソナル化された温度設定ポイントが許容可能な限界を超えた(すなわち、上限温度より高いか、または下限温度より低い)場合には、そのパーソナル化された温度設定ポイントが、相応じてtSetPersonalizedLimitedとして調整される(たとえば、下げることによって)(ステップ218)。tSetPersonalizedが、そのOPZのための許容温度調和範囲内である場合には、tSetPersonalizedLimitedは、そのOPZ42のためのtSetPersonalizedと等しい。
【0071】
コントローラ44は、所定のOPZ42についての実際の温度(tActual)とtSetPersonalizedLimitedとを比較し(ステップ220)、それらが異なれば、tActualとtSetPersonalizedLimitedの間の差を低減するか、かつ/または目標値を達成するべく、そのOPZ42内の各温度エフェクタの出力温度を調整する(ステップ222)。上で論じたとおり、tActualは、OPZ内からの直接測定とすることが可能であるか、またはOPZ42の外側の温度から推測することが可能である。
【0072】
1つの例においては、ステップ222が、温度設定ポイントをどの程度積極的に追求するかを示す利得計画に基づいて行われる。たとえば、搭乗者は、比較的寒い温度から車両のキャビン24へ最初に入ったときには、20分間にわたって車両内に滞在した後より高い手および/または首の暖房温度を有することを希望する可能性がある。また、ステップ222の調整は、さらに、温度設定ポイントを積極的に追求する程度に対するOEM固有の指示に基づくことも可能である。たとえば、あるOEMが、温度設定ポイントへのより積極的なアプローチを欲することがあり、一方、別のOEMが、温度設定ポイントをより控えめに追求することを望む可能性がある(たとえば、温度設定ポイントのオーバーシュートを回避するため)。
【0073】
車両の搭乗者50からのフィードバックとしてOPZ_TSoffsetを利用することによって、温度調和システム10は、閉ループ・システムとして作用する。1つの例において、車両の搭乗者50は、特定のゾーン(OPZ)内の温度効果をパーソナル化することが可能であるが、それにもかかわらずコントローラ44は、身体に対する全体的な熱伝達をそれが測定/計算することから、全体的なOTSを維持する。このことは、各ゾーンおよびデバイスのための個別の好みが設定されることを可能にする一方、車両の搭乗者50によって好まれるアレンジメントでのすべてのデバイスの組み合わせを使用して正しいOTSを維持する。時間を経るにつれて、これらの好みが学習されるようにできるが、それにもかかわらず、その一方で、温度調和システム10へ入力されるOTSsetを使用して全体的なOTSを調整する機会が車両の搭乗者50に与えられる。
【0074】
1つの例においては、OPZのうちの1つの第1のOPZのための目標温度がその第1のOPZの決定済み温度より低いことに基づいて、その第1のOPZ内の第1の温度エフェクタ40(たとえば、OPZ42A内の温度エフェクタ40A)を用いて車両の搭乗者50を暖め、かつOPZのうちの1つの第2のOPZのための目標温度がその第2のOPZの決定済み温度より高いことに基づいて、その第2のOPZ内の第2の温度エフェクタ40(たとえば、OPZ42E内の温度エフェクタ40E)を用いて用いて車両の搭乗者50を冷やすことによって車両の搭乗者50の暖房と冷房を同時に行うべく図6の方法を実施することが可能である。
【0075】
図8は、ステップ210の上限および下限の快適な温度調和範囲の一例を図解している。図8に示されているとおり、各OPZ42A-Eは、関連付けされた温度調和範囲180A-Eを有し、異なるOPZは、異なる温度調和範囲を有する。たとえば、OPZのための頭部の温度調和範囲180Aの上限および下限の温度は、上半身および手の温度調和範囲180B、180Cのそれらより大きく、車両の搭乗者50が、概して、OPZ42AにおいてOPZ42Bおよび42Cより高い温度を好むと考えられることが示される。グローバル温度調和範囲182もまた提供され、それから上で論じたグローバル温度設定ポイントを決定することができる。これは、各OPZ42の細かいコントロールを明細に提供することを希望せず、むしろグローバル温度設定ポイントに基づいてコントローラ44が各OPZ42を自動的にコントロールすることを希望する車両の搭乗者50によって『自動』モードにおいて使用され得る。
【0076】
図9は、各OPZ42内における熱的温度設定ポイントのカスタム化を提供するグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)90の一例を図解している。GUI190は、車両の搭乗者50に対して各温度調和設定ポイント182A-Eの正確な温度を曖昧にするが、それに代えて、各範囲のグラフィカルな図示192A-E内における設定ポイント182のグラフィカルな図示を提供する。実際、図8に示されているとおり、範囲が異なる可能性があるときには、GUI190の範囲192Aが、見かけ上それぞれが同一の上側および下側の境界を有するように正規化される。温度調和設定ポイント182A-Eのうちの特定の1つを上げることによって、車両の搭乗者50は、ステップ214の温度オフセットを導入すること、およびそれによってコントローラ44が各OPZ42内において温度調和を提供する態様をパーソナル化することが可能である。
【0077】
車両の搭乗者50は、GUI190を通してディセーブル命令を提供することによって所定のOPZ42のためのすべての温度エフェクタ40をディセーブルする選択を行うことができる。このディセーブル命令に基づいて、コントローラ44は、そのOPZ42のための温度エフェクタ40をディセーブルする。1つの例においては、コントローラ44が、OPZ42のためのディセーブル命令の受信に基づいて、そのOPZ42のためのユーザ搭乗者オフセットがあれば、それのリセットも行う。1つの例においては、コントローラ44が、上で論じたとおり、各温度エフェクタ40をランキングすることによってユーザの好みに適合する。これは、エフェクタ40がオフにされた場合に、そのエフェクタのランクを下げることを含めることが可能である。
【0078】
1つの例においては、オフセットが誤って行われた(たとえば、オフセットが決定されたときにシステムに障害があった場合)とコントローラ44が決定した場合に、コントローラ44は、所定のエフェクタのためのオフセットをリセットする。1つの例においては、ユーザがすべてのOPZ42に同じオフセットを導入した場合に、コントローラ44は、これを、車両のキャビン24のためのグローバル温度設定ポイントを変更する要求として扱い、すべてのオフセットをゼロにリセットする。
【0079】
図9には示されていないが、ファン速度のカスタム化もまた、ファンを利用するマイクロクライメート温度エフェクタのための同じ、または別のGUI190を通して提供可能であることは理解されるものとする。ファン速度のオフセットは、1つの例において、図6のステップ222の一部としてコントローラ44によって決定されたデフォルトのファン速度のオフセットに使用される。tActualとtSetPersonalizedLimitedの間の差が第1のスレッショルドより大きい場合には、デフォルトのファン速度をより高くすることができ、その差がスレッショルドより小さい場合には(tActualがtSetPersonalizedにより近いことを示す)デフォルトのファン速度をより低くすることができる。ファン速度のオフセットを提供し、車両の搭乗者50に、ファン速度を自分の好みにカスタム化させることが可能である。
【0080】
車両の搭乗者50の好み(たとえば、OPZ_TSoffsetとして提供される+/-デルタ温度)は、温度調和において、下げるまたは上げるとして解釈することができる。しかしながら、それらが充分に大きい場合(たとえば、それらがあらかじめ定義済みの温度スレッショルドを超える場合)、1つの例においては、温度調和システム50のコントローラ44が、これらの好みを、暖房および冷房の両方の能力を有する特定のOPZについての暖房から冷房への切り替え、またはその逆の切り換えの希望として解釈することになる。温度調和システム10が閉ループ・システムであることから、それにもかかわらず、全体的なOTSを維持することが可能である。暖房から冷房への切り替え、およびその逆の決定は、好み(OPZデルタ温度)とその特定のゾーンのためのtSet(たとえば、tSetNomおよび/またはtSetPersonalized)の比較に基づく。
【0081】
図10は、車両の搭乗者50のために温度調和を提供する方法の一例を図示したフローチャート300である。コントローラ44は、1つの例において、フローチャート300の多様なステップを行うべく構成される。図10を参照すると、各OPZ42が搭乗者の異なる身体エリアと関連付けされた複数の離散的なOPZ42それぞれのためのそれぞれの目標温度の決定が行われる(ステップ302)。ステップ302の決定は、車両の搭乗者50のための目標熱流を示す第1のOTSと車両の搭乗者50によって経験されていると推定された熱流を示す第2のOTSの間の差に基づいており、それにおいてそれぞれの目標温度は、OPZ42の間において異なる。ステップ302の一例が、図6にステップ210-218として示されている。
【0082】
各OPZ42において、そのOPZ42のための目標温度に基づいて温度調和が提供される(ステップ304)。ステップ304における温度調和の提供は、そのOPZ42内の少なくとも1つの温度エフェクタ40を利用することを含む。
【0083】
OPZ42のうちの特定の1つのための温度オフセット値が、車両の搭乗者50から受信される(ステップ306)。ステップ306の一例が、図6にステップ214として示されている。温度オフセットは、たとえば、図9のGUI190を使用して受信することができる。OPZ42のうちの特定の1つのための目標温度が、温度オフセット値に基づいて調整される(ステップ308)。ステップ302の決定と、ステップ304の提供と、ステップ308の調整は、複数の繰り返しにわたって、たとえば、その複数の繰り返しのそれぞれの間に同一の温度オフセットを単位化して反復的に繰り返すことができる。
【0084】
ここでは、単一の車両の搭乗者50が論じられているが、方法100が複数の追加の車両の搭乗者(たとえば、前部座席の搭乗者、後部座席の1人または複数人の搭乗者等)のために実施可能であることは理解されるものとする。各搭乗者は、次のうちの1つまたは複数に基づいて別々にコントロールすることが可能な自分独自のOPZを有する:追加の搭乗者のプロファイルと、車両内におけるその追加の搭乗者の場所(たとえば、後部座席の搭乗者が日射負荷を経験することがあまりありがちでないとし得ることから)と、その追加の搭乗者に利用可能な特定の温度エフェクタと、その追加の搭乗者によって、自分のそれぞれのOPZのために導入される温度オフセット。
【0085】
例示的な実施態様を開示してきたが、この分野の当業者は、特定の修正がこの開示の範囲内となることを認識するであろう。その理由のために、以下の請求項が考究され、この開示の範囲と内容が決定される必要がある。
【符号の説明】
【0086】
10 温度調和システム
12 HVACシステム
14 マイクロクライメート温度調和システム、MTCS
16 モータ
18 ファン
20 熱交換器
22 温度調和された空気
24 車両のキャビン
26 キャビン温度センサ
28 HVACシステム・コントローラ
30 外部空気温度センサ
32 追加のセンサ
40 マイクロクライメート温度エフェクタ
40A-40E エフェクタ
42 OPZ
42A-E OPZ
44 コントローラ
46 通信バス
48A-D キャビン温度センサ
48A-E 局所的な温度センサ
48 OPZ温度センサ
50 車両の搭乗者
60A-E 推定器
60 推定器
62 加算デバイス
64 全体的な熱伝達率
66A 第1のOTS計算機、推定器
66B 第2のOTS推定器
70 加算デバイス
72 OTS誤差
74 OTSモード・モジュール、PIDコントローラ
76 OTS誤差出力
77 温度調和範囲
78 ブロック
80 ブロック
82 範囲の大きさ
84 ブロック
86 訂正後の設定ポイント
100 フローチャート、方法
180A-E 温度調和範囲
182A-E 温度調和設定ポイント
182 グローバル温度調和範囲
190 GUI
192A-E 範囲
192A 範囲
200 フローチャート
300 フローチャート
図1
図2
図3
図4
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10