(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】生体適合性膜、その製造方法及び埋め込み型バイオセンサー
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1473 20060101AFI20240920BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240920BHJP
A61B 5/1486 20060101ALI20240920BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240920BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B5/1473
G01N27/416 338
A61B5/1486
C08L101/00
B32B27/04
(21)【出願番号】P 2022554266
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 CN2020085033
(87)【国際公開番号】W WO2021207994
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520364794
【氏名又は名称】三諾生物伝感股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SINOCARE INC.
【住所又は居所原語表記】No. 265, Guyuan Road, Hi-Tech Zone Changsha, Hunan 410205 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高 志強
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-520172(JP,A)
【文献】特表2005-522692(JP,A)
【文献】特開2002-188075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0045147(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0296186(US,A1)
【文献】特表2008-534137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
A61B
G01N
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
500~5000重量部の架橋剤、5~50重量部の親水性材料及び200~5000重量部の疎水性材料を20000重量部の溶媒にて混合し、20~70℃で40~120min反応させ、200~2000重量部のフリーラジカル捕捉剤を加え、40~70℃で40~120min反応させ、生体適合性膜溶液を得るステップA)であって、
前記架橋剤は、ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、
前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、
前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含み、
前記フリーラジカル捕捉剤は、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、アニリン、末端アミノを有するポリエチレンオキシド、エチレンオキシドの共重合体、及び末端アミノを有するポリプロピレンオキシドのうちの1種又は複数種を含むステップA)と、
前記生体適合性溶液に基体を浸漬して、ディップコーティング法によって基体の表面に前記生体適合性膜溶液を塗布するステップB)と、
生体適合性膜溶液が塗布された基体を乾燥し、生体適合性膜が被覆された基体を得るステップC)とを含む、生体適合性膜の製造方法。
【請求項2】
前記親水性材料はポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド含有共重合体であり、
前記疎水性材料はポリビニルピリジンである、ことを特徴とする請求項1に記載の
製造方法。
【請求項3】
前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテルである、ことを特徴とする請求項1に記載の
製造方法。
【請求項4】
原料として強化剤をさらに含み、
前記強化剤はスチレン-ビニルピリジン共重合体、スチレン-ビニルピロール共重合体、及びスチレン-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の
製造方法。
【請求項5】
前記強化剤はスチレン-ビニルピリジン共重合体である、ことを特徴とする請求項4に記載の
製造方法。
【請求項6】
前記フリーラジカル捕捉剤はエタノールアミンである、ことを特徴とする請求項1に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオセンサーの技術分野に属し、特に生体適合性膜、その製造方法及び埋め込み型バイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に発展してきた埋め込み型人体持続モニタリングシステム、例えば埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムは、何千人もの糖尿病患者に利益をもたらしている。糖尿病はすでに世界中よく見られる疾患になって、国際糖尿病連盟の統計によると、世界には4億人を超える糖尿病患者がいて、そのうち中国の糖尿病患者数は1億人を超えている。現在の医療技術はまだ糖尿病を根治することができないため、現在できることは最大限に血糖値を正常範囲内にコントロールして、糖尿病合併症の出現を減少、遅延することである。糖尿病患者にとって、毎日の自己血糖モニタリングは生活の一部となっている。しかし、従来の指血血糖値測定は限界が大きく、一日中のある時点の血糖値しか提供できず、信頼性のある血糖モニタリングを行うには、糖尿病患者は毎日頻繁に指血血糖値測定を行う必要があり、これは彼らの仕事と生活に大きな不便をもたらした。一方、埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムは、より便利かつ効果的に糖尿病患者の血糖をコントロールできるようにする。間断なく血糖をリアルタイムに測定することができ、すでに血糖コントロールのための有力なツールになっている。
【0003】
埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムのバイオセンサーの主要部品及び生体と直接接触する唯一の界面として、生体適合性膜の性能は埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムの生体適合性、感度、安定性、干渉抵抗能力や生体モニタリングを行う場合の動作寿命を直接に決定する。従来の埋め込み型継続モニタリングシステム、例えば、埋め込み型グルコース継続モニタリングシステムは、第1世代又は第2世代のバイオセンシング技術に基づいて開発されてきた。第1世代バイオセンシング技術を利用してグルコースを継続的にモニタリングしているものとして、徳康社のDexcom G5とG6及びメドトロニック社のGuardianとiPro2があり、これらは、グルコースオキシダーゼによるグルコースの接触酸化の過程で酸素が還元されたときに生成する過酸化水素を電気化学的に検出することで、グルコースを間接的にモニタリングする仕組みを持っている。第1世代のバイオセンシング技術に基づいて発展してきたグルコース持続モニタリングシステムはグルコースオキシダーゼによるグルコースの接触酸化のための自然な媒体である組織液や血液中の酸素に依存してグルコースをモニタリングするが、体液中の酸素含有量(0.2~0.3mmol/l)がグルコース(5~10mmol/l)よりもはるかに低いので、その生体適合性膜は生体適合性を高くする上に、酸素の通過を最大限に許容しつつ、グルコースの通過を効率的にシミュレートすることが必要である。グルコースに比べて酸素は疎水性であることが知られているので、その生体適合性膜も高疎水性でなければならない。しかし、高疎水性の要件は生体適合性膜の設計に巨大な挑戦をもたらし、20年以上の探索を経たが、その性能はまだグルコース持続モニタリングを満たすことができない。例えば、メドトロニック社のGuardianとiPro2はさらに1日2回の校正が必要で、動作寿命も1週間しかない。
【0004】
前世紀末、Hellerら(非特許文献1)は、酸化還元物質である人工酸化還元媒体(フェロシアン化物、フェロセン及びその誘導体などの酸化還元小分子又は酸化還元高分子)をバイオセンシング膜に導入し、グルコースオキシダーゼがこれらの人工媒体を介して電極との電子交換を実現できることを発見した。この原理に基づいて発展してきた第2世代のバイオセンシング技術は現在、バイオセンサー、特にグルコースバイオセンサーに広く応用されており、例えばアボット・ダイアビーツ・ケア株式会社のFreeStyle Libreのような埋め込み型グルコース継続モニタリングシステムのグルコースバイオセンサーを含む。第2世代のバイオセンシング技術は人工的に合成された酸化還元媒体をバイオセンサーに導入することにより、グルコースを直接電気化学的に検出することを実現するので、酸化還元媒体の分子設計と最適化により、グルコースの検出を非常に低い電位で実現することができ、それによって、埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムの干渉抵抗能力を大幅に高める。このようなグルコースモニタリングシステムは、人工酸化還元媒体を介してグルコースを直接電気化学的に検出するため、感度も著しく改善される。一方、人工的に合成された酸化還元媒体を導入することによってグルコースの直接の電気化学的検出を実現したが、酸素はグルコースオキシダーゼがグルコースを接触酸化する自然な媒体として、必然的にグルコースの接触酸化に関与し、グルコースモニタリングの重要な干渉要素となっている。
【0005】
このような埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムの性能をさらに高めるために、様々な生体適合性膜が導入され、一方では、酸素の干渉を最大限に排除し、他方では、グルコースのモニタリング可能な範囲を拡大している。グルコースと酸素の親水性に顕著な差があることから、高親水性はこのような生体適合性膜の基本的な特性の1つである。酸素の干渉を取り除くのには非常に効果的であるものの、酸素とグルコースの両方を効果的かつ正確に制御することは困難である。グルコースを効率的に制御するためには、生体適合性膜の厚さを大幅に増加させる必要がある。厚すぎる生体適合性膜は、埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムのグルコースに対する応答時間が長すぎることを直接引き起こし、深刻な遅延現象をもたらし、その正確性を大幅に低下させる。例えばアボット・ダイアビーツ・ケア株式会社のFreeStyle Libreは、PBS(pH7.4)緩衝液中でグルコースに対する応答時間が8~10分と長い。また、従来の生体適合性膜の処方には、化学架橋反応が存在し、これは生体適合性膜溶液の耐用年数を大幅に短縮し、埋め込み型グルコース持続モニタリングシステムの生産コストを増加させる。さらに深刻なことに、使用時間の増加に伴い、化学架橋反応が増加し、生体適合性膜溶液の粘度も増加し、製品の一貫性に重大な影響を及ぼしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Acounts of Chemical Research 23 (1990) 128-134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バイオセンサーの生体適合性を向上させることができ、酸素ガスとグルコースの両方を制御することができ、生体適合性膜溶液の安定性や耐用年数を向上させる生体適合性膜、その製造方法及び埋め込み型バイオセンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主に、成分として、
架橋剤と、親水性材料と、疎水性材料と、溶媒とで製造され、
前記架橋剤は、ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、
前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、
前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含む生体適合性膜を提供する。
好ましくは、前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド含有共重合体であり、前記疎水性材料はポリビニルピリジンである。
【0009】
好ましくは、前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテルである。
【0010】
好ましくは、生体適合性膜の原料として強化剤をさらに含み、
前記強化剤はスチレン-ビニルピリジン共重合体、スチレン-ビニルピロール共重合体、及びスチレン-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含む。
【0011】
好ましくは、前記強化剤はスチレン-ビニルピリジン共重合体である。
【0012】
好ましくは、生体適合性膜の原料としてフリーラジカル捕捉剤をさらに含み、
前記フリーラジカル捕捉剤は、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、アニリン、末端アミノを有するポリエチレンオキシド、エチレンオキシドの共重合体、及び末端アミノを有するポリプロピレンオキシドのうちの1種又は複数種を含む。
【0013】
好ましくは、前記フリーラジカル捕捉剤はエタノールアミンである。
【0014】
本発明は、
架橋剤、親水性材料及び疎水性材料を溶媒にて混合し、20~70℃で40~120min反応させ、40~70℃で40~120min反応させ、生体適合性膜溶液を得るステップA)であって、
前記架橋剤は、ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、
前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、
前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含むステップA)と、
前記生体適合性溶液に基体を浸漬して、ディップコーティング法によって基体の表面に前記生体適合性膜溶液を塗布するステップB)と、
生体適合性膜溶液が塗布された基体を乾燥し、生体適合性膜が被覆された基体を得るステップC)とを含む、生体適合性膜の製造方法を提供する。
【0015】
好ましくは、前記ステップAでは、具体的には、
架橋剤、親水性材料、疎水性材料及び強化剤を溶媒にて混合し、20~70℃で40~120min反応させた後、フリーラジカル捕捉剤を加え、40~70℃で40~120min反応させ、生体適合性膜溶液を得る。
【0016】
本発明は、バイオセンサー基体と、前記バイオセンサー基体の表面に被覆された生体適合性膜とを含み、
前記生体適合性膜は上記の生体適合性膜である埋め込み型バイオセンサーを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、主に、成分として、架橋剤と、親水性材料と、疎水性材料と、溶媒とで製造され、前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含む生体適合性膜を提供する。本発明は、生体適合性膜(選択的透過膜)を製造する原料として高生体適合性を有する材料を使用し、これらを組み合わせて最適化させることで、グルコースバイオセンサーの生体適合性を大幅に向上させる。選択的生体適合性膜の成分及び各成分の割合、例えば疎水性成分と親水性成分の種類及び割合を調整することにより、酸素ガスとグルコースの両方を制御することができる。また、生体適合性膜溶液を調製した後、フリーラジカル捕捉剤を加えることで、生体適合性膜溶液の安定性及び耐用年数を大幅に改善し、その安定性及び耐用年数には1年以内に明らかな変化が認められず、このため、一貫性が非常に一致する埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムが製造される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の実施例又は従来技術の技術案をより明確に説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に説明するが、明らかに、以下の説明における図面は本発明の実施例に過ぎず、当業者にとっては、創造的な努力を必要とせずに、係る図面に基づいて他の図面を取得することもできる。
【
図1】本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーのグルコースのPBS緩衝溶液における電流と持ち上げ回数との関係を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーの電流信号への酸素ガスの影響であり、a曲線は実施例1における生体適合性膜が被覆されたグルコースバイオセンサーを表し、b曲線は生体適合性膜のないグルコースバイオセンサーを表す。
【
図3】本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーの5mmol/Lのグルコースを含有するPBS緩衝溶液における電流応答曲線であり、a曲線は生体適合性膜のないグルコースバイオセンサーを表し、b曲線は実施例1における生体適合性膜が被覆されたグルコースバイオセンサーを表す。
【
図4】本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーの作動曲線であり、a曲線は生体適合性膜のないグルコースバイオセンサーを表し、b曲線は実施例1における生体適合性膜が被覆されたグルコースバイオセンサーを表す。
【
図5】本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーの埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムにおける人体実験結果である。
【
図6】本発明の実施例2における埋め込め型グルコースバイオセンサー及び国外のあるブランドの連続血糖計の埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムにおける人体の2週間の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、主に、成分として、
架橋剤と、親水性材料と、疎水性材料と、溶媒とで製造され、
前記架橋剤は、ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、
前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、
前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含む、生体適合性膜を提供する。
【0020】
本発明では、前記架橋剤は、ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、より好ましくはポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテルであり、前記架橋剤の重量部は、好ましくは500~5000部、より好ましくは1000~4000部、最も好ましくは2000~3000部であり、具体的には、本発明の実施例では、可1500部又は2000部であってもよい。
【0021】
前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、より好ましくはポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド含有共重合体であり、前記親水性材料の重量部は、好ましくは5~50部、より好ましくは10~40部、最も好ましくは20~30部であり、具体的には、本発明の実施例では、20部であってもよい。
【0022】
前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含み、より好ましくはポリビニルピリジンであり、前記疎水性材料の重量部は、好ましくは200~5000部、より好ましくは500~4000部、最も好ましくは1000~3000部、最も好ましくは2000~2500部であり、具体的には、本発明の実施例では、1000部又は2000部であってもよい。
【0023】
前記強化剤は疏水性材料であり、生体適合性膜の機械的強度を向上させることができ、好ましくはスチレン-ビニルピリジン共重合体、スチレン-ビニルピロール共重合体、及びスチレン-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含み、より好ましくはスチレン-ビニルピリジン共重合体であり、前記強化剤の重量部は、好ましくは200~5000部、より好ましくは500~4000部、最も好ましくは1000~3000部、最も好ましくは2000~2500部であり、具体的には、本発明の実施例では、1000部又は2000部であってもよい。
【0024】
前記フリーラジカル捕捉剤は、溶液中の未反応のフリーラジカル(即ち架橋剤)を全て消費することができ、好ましくはエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、アニリン、末端アミノを有するポリエチレンオキシド、エチレンオキシドの共重合体、及び末端アミノを有するポリプロピレンオキシドのうちの1種又は複数種を含み、より好ましくはエタノールアミンであり、前記フリーラジカル捕捉剤の重量部は、好ましくは200~2000部、より好ましくは500~1000部、最も好ましくは500~800部であり、具体的には、本発明の実施例では、500部又は600部であってもよい。
【0025】
前記溶媒は、好ましくは95体積%のアルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールのうちの1種又は複数種であり、前記溶媒の重量部は好ましくは20000部である。
【0026】
本発明はまた、
架橋剤、親水性材料及び疎水性材料を溶媒にて混合し、20~70℃で40~120min反応させ、40~70℃で40~120min反応させ、生体適合性膜溶液を得るステップA)であって、
前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び4-(2,3-グリシドキシ)-N,N-ジ(2,3-エポキシプロピル)アニリンのうちの1種又は複数種を含み、
前記親水性材料はポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、
前記疎水性材料はポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含むステップA)と、
前記生体適合性溶液に基体を浸漬して、ディップコーティング法によって基体の表面に前記生体適合性膜溶液を塗布するステップB)と、
生体適合性膜溶液が塗布された基体を乾燥し、生体適合性膜が被覆された基体を得るステップC)とを含む、生体適合性膜の製造方法を提供する。
【0027】
本発明における生体適合性膜溶液を調製する原料の種類及び使用量は上記の原料の種類及び使用量と同じであるので、ここでは詳しく説明しない。
【0028】
本発明では、まず、親水性材料、疎水性材料及び強化剤のそれぞれに適量の溶媒を加えて、親水性材料溶液、疎水性材料溶液及び強化剤溶液を調製し、使用される溶媒は全て95体積%のアルコール類溶媒である。調製された親水性材料溶液の質量濃度は好ましくは5~20mg/mL、より好ましくは10~15mg/mLであり、具体的には、本発明の実施例では、10mg/mLであってもよく、前記疎水性材料溶液の質量濃度は好ましくは50~300mg/mL、より好ましくは100~200mg/mLであり、具体的には、本発明の実施例では、100mg/mLであってもよく、前記強化剤溶液の質量濃度は好ましくは25~300mg/mL、より好ましくは50~200mg/mL、最も好ましくは100~150mg/mLであり、具体的には、本発明の実施例では、100mg/mLであってもよい。
【0029】
本発明では、架橋剤、親水性材料溶液、疎水性材料溶液及び強化剤を混合して、所定時間加熱して反応させた後、フリーラジカル捕捉剤を加え、更に所定時間反応させ、生体適合性溶液を得る。
【0030】
本発明では、フリーラジカル捕捉剤を加える前の反応温度は、好ましくは20~70℃、より好ましくは30~60℃、最も好ましくは40~50℃であり、具体的には、本発明の実施例では、30℃又は60℃であってもよく、フリーラジカル捕捉剤を加えるまでの反応時間は、好ましくは40~120min、より好ましくは50~100min、最も好ましくは60~80minであり、具体的には、本発明の実施例では、60minであってもよい。
【0031】
フリーラジカル捕捉剤を加えた後の反応温度は、好ましくは20~70℃、より好ましくは30~60℃、最も好ましくは40~50℃であり、具体的には、本発明の実施例では、30℃又は60℃であってもよく、フリーラジカル捕捉剤を加えた後の反応時間は、好ましくは40~120min、より好ましくは50~100min、最も好ましくは60~80minであり、具体的には、本発明の実施例では、60minであってもよい。
【0032】
エタノールアミンを加えることは、溶液の粘度を十分に安定化し、製品の一貫性を確保するとともに、溶液中の未反応のフリーラジカル(架橋剤)を全て消費することを目的とする。生体適合性膜溶液はエタノールアミンにより処理されると、安定性及び耐用年数が大幅に改善され、安定性及び耐用年数には1年以内に明らかな変化が認められない。
【0033】
反応させて得られた生体適合性膜溶液では、25℃における粘度は、好ましくは50~1000mPa、より好ましくは100~900mPa・s、最も好ましくは200~800mPa・s、最も好ましくは300~700mPa・sであり、具体的には、100mPa・s、200mPa・s、300mPa・s、400mPa・s、500mPa・s、600mPa・s、700mPa・s又は800mPa・sであってもよい。
【0034】
本発明では、生体適合性膜溶液を得た後、基体を上記の溶液に浸漬し、ディップコーティング法によって、基体の表面に生体適合性膜溶液を塗布する。
【0035】
本発明では、前記基体は好ましくはバイオセンサーであり、グルコースバイオセンサー、乳酸バイオセンサー及び血中ケトンバイオセンサーを含むが、これらに限定されるものではなく、
前記ディップコーティングは、好ましくは、クラス10万のクリーン環境及び飽和エタノール蒸気の環境で行われる。前記ディップコーティングにおける降下速度は、好ましくは100~5000μm/s、より好ましくは500~4000μm/s、最も好ましくは1000~3000μm/s、最も好ましくは1500~2000μm/sであり、具体的には、本発明の実施例では、200μm/s、2000μm/s又は5000μm/sであってもよく、前記ディップコーティングにおける持ち上げ速度は、好ましくは20~300μm/s、より好ましくは50~250μm/s、最も好ましくは100~200μm/sであり、具体的には、本発明の実施例では、25μm/s、100μm/s又は300μm/sであってもよい。
【0036】
その後、生体適合性膜が塗布された基体を厳格に制御された環境にて乾燥して成膜し、溶媒が完全に蒸発されると、これらのグルコースバイオセンサーの表面全面に亘って薄い生体適合性膜が被覆される。
【0037】
本発明では、前記乾燥温度は、好ましくは22~25℃、より好ましくは23~24℃であり、前記本発明の前記乾燥時間には制限はなく、溶媒が全て蒸発されるとよく、好ましくは、前記乾燥時間は、30~120min、より好ましくは50~100min、最も好ましくは60~80minである。前記乾燥成膜環境の相対湿度は好ましくは35~45%である。
【0038】
生体適合性膜の厚さを大きくするために、上記のディップコーティング及び乾燥の工程は複数回繰り返されてもよく、通常、3~4回すれば所望の厚さが得られる。本発明における生体適合性膜は複数の成膜工程により形成されるので、酸素ガス及びグルコースに対する最終的な制御性能については、膜の厚さ(ディップコーティング回数)及び生体適合性膜溶液の処方を最適化させることにより、所望の効果が簡便且つ効果的に得られる。
【0039】
本発明はまた、バイオセンサー基体と、前記バイオセンサー基体の表面に被覆された生体適合性膜とを含み、
前記生体適合性膜は上記の生体適合性膜である埋め込み型バイオセンサーを提供する。
【0040】
前記生体適合性膜の厚さは、好ましくは50~500μm、より好ましくは100~400μm、最も好ましくは200~300μmである。
【0041】
前記バイオセンサーは、好ましくはグルコースバイオセンサーであり、前記グルコースバイオセンサーは、電気化学的に活性化されたグルコース酸化マグネシウムを含む。
【0042】
より好ましくは、本発明におけるグルコースバイオセンサーは、第3世代バイオセンシング技術であるオキシドレダクターゼの電気化学活性化技術に基づくものである。第3世代バイオセンシング技術はオキシドレダクターゼの直接電気化学を利用して発展してきたバイオセンシング技術である。実験により、第3世代バイオセンシング技術に基づいて発展してきた本発明における電気化学活性化後のグルコースオキシダーゼを含有するグルコースバイオセンサーは、グルコースに対する接触酸化性能を維持しつつ、直接電気化学によるグルコースへの接触酸化効率が、天然のグルコースオキシダーゼの酸素ガスによるグルコースへの接触酸化効率よりも顕著に向上することが明らかになる。第2世代バイオセンシング技術に比べ、グルコースオキシダーゼの直接電気化学によってグルコースバイオセンサーの設計及び製造が大幅に簡素化され、また、グルコースバイオセンサーの感度、正確性、安定性、特異性や干渉抵抗能力が大幅に向上する。
【0043】
一方、第2世代バイオセンシング技術と類似するように、酸素ガスは、グルコースオキシダーゼがグルコースを接触酸化する自然な媒体として、必然的にグルコースの接触酸化に関与し、グルコースモニタリングの重要な干渉要素となっている。直接電気化学によるグルコースの接触酸化効率はグルコースオキシダーゼのその自然な媒体である酸素ガスによる接触酸化効率よりもはるかに高いものの、酸素ガスの影響を徹底的に解消することができない。また、直接電気化学がグルコース検出に対して高感度であるので、グルコースを効果的に制御することも第3世代バイオセンシング技術が直面する難問である。これは、埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムが30年間も発展したが、ほとんどの埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムの耐用年数が不十分であることにつながる。
【0044】
さらに、本発明は、電気化学活性化後のグルコースオキシダーゼを含有するグルコースバイオセンサーの表面に本発明における高生体適合性の生体適合性膜を被覆することにより、グルコースバイオセンサーの高生体適合性を首尾よく実現しつつ、酸素ガス及びグルコースに対する正確な制御を実現する。
【0045】
さらに、本発明における生体適合性膜が被覆された埋め込み型バイオセンサーは他の埋め込め型持続モニタリングシステム、例えば乳酸及び血中ケトンのモニタリングにも適用できる。
【0046】
本発明における埋め込み型バイオセンサーの製造方法は、基体を電気化学活性化後のグルコースオキシダーゼを含むグルコースバイオセンサーに変更する以外、残りの操作が上記の生体適合性膜の製造方法と同じである。本発明では、詳しく説明しない。
【0047】
本発明は、成分として、架橋剤500~5000重量部、親水性材料5~50重量部、疎水性材料200~5000重量部、強化剤200~5000重量部、フリーラジカル捕捉剤200~2000重量部、溶媒20000重量部で製造され、前記親水性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド含有共重合体、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシド含有共重合体、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコールのうちの1種又は複数種を含み、前記疎水性材料は、ポリビニルピリジン、ビニルピリジン-アクリルアミド共重合体、ポリビニルピロール及びビニルピロール-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含み、前記強化剤は、スチレン-ビニルピリジン共重合体、スチレン-ビニルピロール共重合体、及びスチレン-アクリルアミド共重合体のうちの1種又は複数種を含み、前記フリーラジカル捕捉剤は、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、アニリン、末端アミノを有するポリエチレンオキシド、エチレンオキシドの共重合体、及び末端アミノを有するポリプロピレンオキシドのうちの1種又は複数種を含む、生体適合性膜を提供する。本発明では、生体適合性膜(選択的透過膜)を製造する原料として高生体適合性を有する材料を使用し、これらを組み合わせて最適化させることで、グルコースバイオセンサーの生体適合性を大幅に向上させる。選択的生体適合性膜の成分及び各成分の割合、例えば疎水性成分と親水性成分の種類及び割合を調整することにより、酸素ガスとグルコースの両方を制御することができる。また、生体適合性膜溶液を調製した後、フリーラジカル捕捉剤を加えることで、生体適合性膜溶液の安定性及び耐用年数を大幅に改善し、その安定性及び耐用年数には1年以内に明らかな変化が認められず、このため、一貫性が非常に一致する埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムが製造される。
【0048】
本発明では、本発明における高度生体適合性が被覆された生体適合性膜のグルコースバイオセンサーは、酸素ガスとグルコースの両方を非常に効果的かつ正確に制御することができ、より重要なことには、本発明における生体適合性膜の存在によりグルコースのモニタリング可能な範囲が顕著に拡大し、グルコースバイオセンサーの人体での安定性及び生体適合性が大幅に向上し、校正フリー(工場校正)埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムの要件が満たされ、校正フリー埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムの量産のために強固な基礎が築かれる。また、本発明における生体適合性膜は、他の埋め込め型持続モニタリングシステム、例えば乳酸及び血中ケトンのモニタリングにも適用できる。
【0049】
本発明をさらに説明するために、以下、実施例を参照して本発明による生体適合性膜、その製造方法及び埋め込み型バイオセンサーを詳細に説明するが、これらは本発明の特許範囲を限定するものとして理解すべきではない。
(実施例1)
【0050】
本実施例では、溶媒は全て95%のエタノールとした。
【0051】
ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル2mL、10mg/mLポリエチレンオキシド2mL、100mg/mLポリビニルピリジン20mL、及び100mg/mLスチレン-ビニルピリジン共重合体20mLを十分に混合し、次に、60℃の水浴にて60min加熱反応した。反応後の生体適合性膜溶液にエタノールアミン0.5mLを加え、十分に混合した後、60℃の水浴にてさらに60min加熱反応し、生体適合性膜溶液を得た。
グラス10万のクリーンルーム及び飽和エタノール蒸気を含有する環境にて、降下速度2000μm/s、持ち上げ速度100μm/sのディップコーティング法によって、電気化学活性化後のグルコースオキシダーゼを含有するグルコースバイオセンサーに生体適合性膜溶液を均一に塗布し、次に、温度25℃、相対湿度40%の環境で60min乾燥した後、ディップコーティングと乾燥の工程を5回繰り返し、ディップコーティング及び乾燥を合計6サイクルすると、埋め込め型グルコースバイオセンサーを得た。
【0052】
本実施例におけるグルコースバイオセンサーを5mmol/LグルコースのPBS緩衝溶液に浸漬し、電流検出を行い、結果を
図1に示し、
図1は本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーのグルコースのPBS緩衝溶液における電流と持ち上げ回数との関係を示す図である。
【0053】
図1に示すように、グルコースバイオセンサーが完全に生体適合性膜により被覆されたときに、膜の厚さ(ディップコーティング回数)の増加に伴い、直接電気化学によるグルコースの接触酸化電流は指数関数的に急激に減少し、ディップコーティングと乾燥を6サイクルしたところ、グルコースバイオセンサーの電流は元の1%よりも小さく減少した。この実験結果から明らかなに、本発明における生体適合性膜はグルコースを非常に効果的に制御できる(グルコースの接触酸化電流により反映される)。
【0054】
前記の通り、第3世代のバイオセンシング技術に基づいて発展してきたグルコースバイオセンサーは、グルコースを直接電気化学的に検出する場合、酸素ガスがグルコースオキシダーゼがグルコースを接触酸化する自然な媒体であるので、組織液や血液などの体液中の酸素ガスが必然的にグルコースの接触酸化に関与する。グルコースバイオセンサーが酸素ガスを効果的に制御しないと、酸素ガスによる干渉はグルコースを正確にモニタリングすることによって巨大な挑戦となっている。このため、本発明では、さらなる実験を通じて、
図2に示すようにこの生体適合性膜が酸素ガスによる干渉をほぼ解消できることを検証し、
図2は本発明の実施例1における埋め込め型グルコースバイオセンサーの電流信号への酸素ガスの影響である。10mmol/Lグルコースを含有するPBS緩衝溶液に酸素ガスが導入されると、実施例1において生体適合性膜が被覆されたグルコースバイオセンサーは1%よりも小さい減衰しかなく、溶液中の酸素ガスがアルゴンで完全に除去されると、電流信号もこれに伴い元のレベルに戻る(
図2、曲線a)。一方、酸素ガスが導入されたときに、生体適合性膜のないグルコースバイオセンサーでは、電流信号に明らかな減衰が認められ、生体適合性膜のないグルコースバイオセンシング膜の安定性により、溶液中の酸素ガスがアルゴンで完全に除去された後にも、電流信号は元のレベルに戻られない(
図2、曲線b)。
【0055】
本発明では、グルコースバイオセンサーに生体適合性膜が被覆されることにより、酸素ガス及びグルコースに対する正確な制御が実現されるが、正確性、再現性及び安定性が良好であり、埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムに適用できるグルコースバイオセンサーを製造するには、これらのセンサーが十分な線形応答範囲及び高い安定性を有することが必要であり、これらはグルコースバイオセンサーの生体適合性膜を最適化させることで実現され得る。例えば、生体適合性膜溶液においてディップコーティングと乾燥を3サイクル受けたグルコースバイオセンサーは、いずれの生体適合性膜も被覆されていないグルコースバイオセンサーと比べて、グルコースに対する応答時間が2分間から4分間に延長するが、電流信号がこの生体適合性膜によりよく制御され、しかも、グルコースバイオセンサーの安定性も顕著に改善された(
図3)。また、グルコースのモニタリング可能な範囲は10mmol/Lから35mmol/Lに広げ、糖尿患者のグルコースモニタリングニーズに対応できる(
図4)。
【0056】
以上の全ての実験結果から、本発明の生体適合性膜のインビトロでの優れた性能を証明しているが、生体内でモニタリングするときの性能こそ、その生体適合性にとって最も説得力のある証明である。このため、本発明では、インビトロ作動に加えて、生体適合性膜が被覆されたグルコースバイオセンサーを埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムに適用して、人体試験を20日間連続して行い、最初の16日は結果が良好であり、感度(ベースライン)には明らかな減衰が認められず(
図5、a図)、これは、今まで作動寿命が最も長い人体モニタリング用のグルコースバイオセンサーであり、より重要なことに、モニタリングされたグルコース濃度(曲線により表される)は指血血糖値測定(丸点により表される)の結果と非常に一致した(
図5、a図)。埋め込めた後17日目から、センサーの感度には明らかな減衰が認められ、モニタリングされたグルコース濃度は指血血糖値測定結果に対して大きな差が見られた。このため、厳密さのために、本発明における生体適合性膜の作動寿命は15日間とした。
【0057】
埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムのグルコースバイオセンサーが皮下に埋め込まれ、モニタリングされるグルコースが組織液中のグルコースであり、組織液中のグルコースと指血血糖値とには不可避的な遅延があることが知られている。このため、本発明では、センサーを埋め込めた後15日目の朝に、空腹時血糖から、高頻度で指血血糖値を測定した結果、この2種の方法により得られたグルコースの濃度の変化曲線が非常に一致するが、本発明における埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムで検出された組織液中のグルコースの濃度変化曲線が、指血を用いて測定された血糖の濃度変化曲線に比べて、平均9分間の遅延が存在する(
図5、b図)。
(実施例2)
【0058】
本実施例では、溶媒は全て95%n-プロパノールとした。
【0059】
ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル5mL、10mg/mLポリエチレンオキシド5mL、200mg/mLポリビニルピリジン50mL、200mg/mLスチレン-ビニルピリジン共重合体50mLを十分に混合し、次に、40℃の水浴にて120min加熱反応した。反応後の生体適合性膜溶液にエタノールアミン2mLを加え、十分に混合した後、40℃の水浴にてさらに120min加熱反応し、生体適合性膜溶液を得た。
【0060】
クラス10万のクリーンルーム及び飽和エタノール蒸気を含有する環境にて、降下速度200μm/s、持ち上げ速度25μm/sのディップコーティング法によって、電気化学活性化後のグルコースオキシダーゼを含有するグルコースバイオセンサーに生体適合性膜溶液を均一に塗布し、次に、温度25℃、相対湿度40%の環境で60min乾燥した後、ディップコーティングと乾燥の工程を2回繰り返し、ディップコーティングと乾燥を合計3サイクルすると、埋め込め型グルコースバイオセンサーを得た。
【0061】
本発明では、グルコースバイオセンサーに生体適合性膜が被覆されることによって、埋め込め型グルコース持続モニタリングシステムに適用できるグルコースバイオセンサーを実現した。14日間連続人体試験では、モニタリングされたグルコースの濃度変化曲線は国外のある有名なブランドのものによりモニタリングされたグルコースの濃度変化曲線とは非常に一致した(
図6)。
(実施例3)
【0062】
本実施例では、溶媒は全て95%のイソプロパノールとした。
【0063】
ポリ(ジメチルシロキサン)-ジグリシジルエーテル0.5mL、10mg/mLポリプロピレンオキシド0.5mL、100mg/mLポリビニルピリジン5mL、及び100mg/mLスチレン-ビニルピリジン共重合体5mLを十分に混合し、次に、70℃の水浴にて40min加熱反応した。反応後の生体適合性膜溶液にプロパノールアミン0.2mLを加え、十分に混合した後、70℃の水浴にて40min加熱反応し、生体適合性膜溶液を得た。
【0064】
クラス10万のクリーンルーム及び飽和エタノール蒸気を含有する環境にて、降下速度5000μm/s、持ち上げ速度300μm/sのディップコーティング法によって、電気化学活性化後の乳酸オキシダーゼを含有する乳酸バイオセンサーに生体適合性膜溶液を均一に塗布し、次に、温度22℃、相対湿度35%の環境で40min乾燥した後、ディップコーティングと乾燥の工程を3回繰り返し、ディップコーティング及び乾燥を合計4サイクルすると、埋め込め型乳酸バイオセンサーを得た。生体適合性膜が被覆されることにより、乳酸に対する応答の線形範囲は8mmol/Lから30mmol/Lに拡大し、生体乳酸モニタリングのニーズに対応できる。
【0065】
以上は本発明の好適な実施形態に過ぎず、当業者であれば、本発明の原理を逸脱することなく、いくつかの改良や修飾を行うことができ、これらの改良や修飾も本発明の特許範囲とみなされるべきである。