(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ミーリング工具、その使用方法及び切削加工方法
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20240920BHJP
B23B 27/10 20060101ALI20240920BHJP
B23B 29/12 20060101ALI20240920BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20240920BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B23C5/28
B23B27/10
B23B29/12 Z
B23Q11/10 D
B23C5/06 A
(21)【出願番号】P 2022573792
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021064655
(87)【国際公開番号】W WO2021245068
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-03-03
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516232368
【氏名又は名称】セラティチット ルクセンブルグ エス.アー.エール.エル
【氏名又は名称原語表記】CERATIZIT LUXEMBOURG S.A.R.L.
【住所又は居所原語表記】Route de Holzem 101,L-8232,LU
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】キスター,ファビアン
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-031923(JP,A)
【文献】特開平10-166205(JP,A)
【文献】特表2010-516482(JP,A)
【文献】特開2018-027605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00- 9/00
B23B27/00-29/34
B23Q11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサート(2、2’)、ホルダ(3)、締結具(4)及びシム(5、5’)を含むミーリング工具(1、1’)であって、
前記切削インサート(2、2’)は、切削端部(22、22’)、クリアランス側(27、27’)及びインサート頂部側(21、21’)を備え、
前記締結具(4)は、頭部(40)にて前記切削インサート(2、2’)に対し支持され、かつ軸部(41)にて前記ホルダ(3)に対し固定され、前記軸部(41)は、前記切削インサート(2、2’)を通って延在し、
前記締結具(4)は、前記切削インサート(2)と協働して第1の経路(100)を形成し、前記第1の経路(100)は、冷却剤を前記インサート頂部側(21、21’)に向かって導くように構成され、前記第1の経路(100)は、前記ホルダ(3)のベース経路(32)と流通し、
前記シム(5、5’)は、前記切削インサート(2、2’)と前記ホルダ(3)との間に配置され、前記軸部(41)は、少なくとも部分的に前記シム(5、5’)を通って延在し、
前記シム(5、5’)は、冷却剤を前記クリアランス側(27、27’)に向かって導くように構成された第2の経路(200、200’)を備え、前記第2の経路(200、200’)は、前記ベース経路(32)と流通
し、
冷却剤が前記シム(5、5’)を通って前記第1の経路(100)及び第2の経路(200)内に流れ込むように、前記シム(5、5’)が構成されて、配置され、
前記シム(5、5’)と前記ホルダ(3)が協働して分配経路(55)を形成して、冷却剤が前記ベース経路(32)から前記分配経路(55)を通って前記第1の経路(100)内に流れ込むことを可能にし、前記軸部(41)が少なくとも部分的に前記分配経路(55)を通って延在して、冷却剤が前記軸部(41)の周りを流れることを可能にした、
ミーリング工具(1、1’)。
【請求項2】
前記第2の経路(200)は、出口開口部(201、201’)を有し、前記出口開口部(201、201’)は、前記クリアランス側(27、27’)の一部にて前記切削インサート(2、2’)によって部分的に覆われ、冷却剤は前記第2の経路(200、200’)から依然として出ることができるが、前記切削インサート(2、2’)によって遮られるようにした、請求項1に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項3】
前記シム(5、5’)は、複数のシム経路(200’)を含み、前記第2の経路(200)は、前記複数のシム経路(200’)のうちの1つのシム経路(200’)であり、前記シム経路(200’)のそれぞれが冷却剤を前記クリアランス側(27、27’)に向かって導くように構成され、前記シム経路(200’)のそれぞれが前記ベース経路(32)と流通し、
前記シム経路(200’)のそれぞれが、出口開口部(201’)を有し、前記出口開口部(201’)は、前記クリアランス側(27、27’)の一部で前記切削インサート(2、2’)によって部分的に覆われて、冷却剤は前記シム経路(200’)から依然として出ることができるが、前記切削インサート(2、2’)によって遮られるようにした、請求項1又は2に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項4】
前記切削端部(22、22’)の少なくとも一部を追従するように、前記シム経路(200’)の少なくとも2つの出口開口部(201、201’)が配置されて、前記少なくとも2つの出口開口部(201’)に属する前記シム経路(200’)のそれぞれからの冷却剤の噴出を前記切削端部(22、22’)が遮るようにした、請求項3に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項5】
前記切削端部(22、22’)の少なくとも一部を追従するように、前記第2の経路(200、200’)の出口開口部(201、201’)の形状が定められて、前記第2の経路(200、200’)からの冷却剤の噴出を前記切削端部(22、22’)が遮るようにした、請求項1から4のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項6】
前記ホルダ(3)に向かう開放型の経路構造(59)によって前記シム(5、5’)の一部に前記分配経路(55)を形成した、請求項
1から5のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項7】
前記ホルダ(3)はホルダ経路(300)を備え、前記ホルダ経路(300)は前記ホルダ(3)単独で形成され、前記ホルダ経路(300)は、冷却剤を前記インサート頂部側(21、21’)の上方に配置された前記ホルダ経路(300)の出口開口部(301)から前記インサート頂部側(21、21’)に向かって導くように構成された、請求項1から
6のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項8】
前記軸部(41)は、前記シム(5)の下方で前記ホルダ(3)と係合するねじ部を備えている、請求項1から
7のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項9】
前記第2の経路(200、200’)は、冷却剤を前記切削端部(22、22’)に向かって導くように構成され、前記切削端部(22、22’)は、突出部(212)の頂部に形成され、前記突出部(212)は、少なくとも、頭部(40)と同様の前記インサート頂部側(21、21’)から離れて突出する、請求項1から
8のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)を用いて、ワークピースを切削加工することを特徴とする、ミーリング工具(1、1’)の使用方法。
【請求項11】
前記ワークピースは、チタン基合金又はステンレス鋼から作られる、請求項
10に記載の使用方法。
【請求項12】
切削加工方法であって、
請求項1から
9のいずれか1項に記載のミーリング工具(1、1’)を用意するステップと、
ワークピースを用意するステップと、
前記ミーリング工具(1、1’)を用いて前記ワークピースを切削加工するステップと、
を含む切削加工方法。
【請求項13】
前記ワークピースは、チタン基合金又はステンレス鋼から作られる、請求項
12に記載の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート、ホルダ、締結具、及びシムを含むミーリング工具に関する。切削インサートは、切削端部、クリアランス側、及びインサート頂部側を備える。締結具は、頭部にて切削インサートに対し支持されて、軸部にてホルダに対し固定される。軸部は、切削インサートを通って延在する。締結具は、切削インサートと協働して第1の経路を形成する。第1の経路は、冷却剤をインサート頂部側に向って導くように構成される。第1の経路は、ホルダのベース経路と流通する。シムは、切削インサートとホルダとの間に配置され、軸部は、少なくとも部分的にシムを通って延在する。
【0002】
本発明は、上記ミーリング工具の使用方法と、上記ミーリング工具を用いた切削加工(ミーリング加工、フライス加工等ともいう)方法についても関する。
【0003】
ミーリング工具は、切削用に用いられるが、その際、工具ホルダの回転軸を中心とした回転式切削移動と、回転軸に対して垂直又は斜めの方向での送り移動とが行われる。
【背景技術】
【0004】
切削インサートは、切削加工中に強い負荷を受けて、ワークピース(被削材等ともいう)と加工後のチップ(切粉、切りくず等ともいう)の双方と摩擦的に当接する。このため、切削インサート、特に切削端部は、非常に高い温度まで加熱され、例えば900℃を超える温度まで加熱され得る。切削インサートが高温になると、切削加工中に摩耗が増大して、切削インサートの寿命が低下する虞がある。そのため、通常、冷却剤(クーラント等ともいう)を用いて、切削加工中に切削インサートを冷却させている。
【0005】
特許文献1では、冷却剤の供給を可能にしたミーリング工具が開示されている。このミーリング工具が備える切削インサートは、工具ホルダに対してねじ式に固定されている。このねじ部は、切削インサートと協働して隙間を形成している。この隙間は、冷却剤経路として機能しており、冷却剤を、工具ホルダの冷却剤ボアから、切削インサートを通って、切削インサートの頂部側まで導くことを可能にしている。
【0006】
回転工具、ドリル工具及びリーミング工具では、各切削工具の動作中に、対応する切削インサートが常時ワークピースと接触するのとは異なり、上記のミーリング工具を用いた切削加工では、切削インサートは、工具ホルダの回転毎に熱サイクルに曝されている。
【0007】
即ち、切削加工中に、回転毎に、切削インサートがワークピースの材料内に出入りするため、材料の切削時には、切削インサートが摩擦のために加熱されているが、材料の非切削時には、切削インサートが冷却されている。このように、切削インサートは、回転毎に熱サイクルに曝されている。
【0008】
通常、切削加工中、切削インサートの熱サイクルの間に、インサートの異なる部分の間で熱膨張の差異が生じると、切削インサート中にクラック又は亀裂が連続的に伝わることが起こり得る。このような場合、熱疲労により、インサート不良がもたらされる虞がある。
【0009】
特許文献1に開示された冷却剤の供給の仕方では、特に、熱伝導率が低く、降伏応力値の高い材料を切削加工する場合、熱膨張時に生じ得る有害な差異を十分に抑制することが十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2012/0087747号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、切削加工の条件下で、切削インサートの熱疲労をより良好に防止することを可能にした、ミーリング工具と、その使用方法と、切削加工方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、特許請求の範囲の請求項1に記載のミーリング工具によって解決され得る。ミーリング工具の好適な実施形態は、請求項1を引用する従属請求項に記載されている。
【0013】
ミーリング工具は、切削インサート、ホルダ、締結具及びシムを含む。切削インサートは、切削端部、クリアランス側及びインサート頂部側を備える。締結具は、頭部にて切削インサートに対し支持され、かつ軸部にてホルダに対し固定され、軸部は、切削インサートを通って延在する。締結具は、切削インサートと協働して第1の経路を形成し、第1の経路は、冷却剤をインサート頂部側に向って導くように構成され、第1の経路は、ホルダのベース経路と流通する。シムは、切削インサートとホルダとの間に配置され、軸部は、少なくとも部分的にシムを通って延在する。シムは、冷却剤をクリアランス側に向って導くように構成された第2の経路を備え、第2の経路は、ベース経路と流通する。
【0014】
第2の経路は、冷却剤をクリアランス側に向って導くように構成されているため、切削インサートがワークピースの材料を切削しているか否かに関係なく、常時、切削インサートには冷却剤の噴出が供給されている。即ち、クリアランス側は、切削端部の切れ味に寄与するが、切削加工中にワークピースとの接触を避けているため、切削中にクリアランス側に材料が入らない。
【0015】
従って、第1の経路から供給される冷却に加えて、第2の経路からクリアランス側に向かって常時冷却剤が供給されるため、切削時の切削インサートの温度と、切削インサートが切削加工対象の材料から離れて回転した時(非切削時)の切削インサートの温度との差は、切削インサートの部分でより一層低減される。熱サイクルの温度振幅が減少するため、切削インサートの熱変形の差異もまた減少する。このため、切削加工中の熱疲労が一層低減され、切削インサートの寿命がより延長されている。
【0016】
対照的に、第2の経路からの追加の冷却剤供給が、シムの外部で実現される場合、例えば、ホルダ内の切削インサートの上方の位置の場合、インサート頂部側を横切って送られる機械加工後のチップによって冷却剤供給が遮断され得る。従って、そのような冷却剤供給は、切削加工中に切削インサートを冷却する点で、不十分となり得る。
【0017】
例えば、第2の経路は、シムの頂部側と交わる。典型的には、シムは、平板状又はプレート状であって、ホルダのベース側に適合するシム底部側と、切削インサートの底部側に適合するシム頂部側とを有している。
【0018】
シム頂部側は、切削インサートの底部側とは逆の形状としてもよい。即ち、切削インサートの底部側から離れるように延出する突起部は、その突起部と適合するように構成されたシム頂部側の窪み内に収容され得る。
【0019】
シム頂部側は、ファセットされていてもよく、中央ファセットから傾斜した外側ファセットを有していてもよい。ファセットは、平面部分であって、隣接するファセットから異なるように傾斜していてもよい。
【0020】
シム頂部側は、平坦状でもよく、対応する平坦なインサート底部側に適合していてもよい。
これに関して、シムは、少なくともシム頂部側の中央部分にて、又は、代替的に若しくは追加的に、シム頂部側の外側部分にて、切削インサートと接触する。
【0021】
第2の経路は、シムの1つ又は複数の外側ファセットと交わっていてもよい。中央ファセットは、切削インサートのインサート底部側と接触してもよい。
【0022】
切削インサートは、インデックス可能(インデキサブル、刃先交換式等ともいう)とすることができ、締結具の中心軸の周りで切削インサートが回転できるようにするが、その際、第2の切削端部又は切削端部の異なる部分が、切削位置に位置決めされると、第2の経路から冷却剤が供給されるようにする。インサート底部側は、平坦なシム頂部側と適合するように平坦状でもよい。
【0023】
切削インサートは、代替的に又は追加的に、インデックス可能であってもよく、例えば、インサート頂部を逆さまにすることができるようにする。この際、インサート底部側であったものがインサート頂部側となって、インサート底部側の下方の切削端部が切削位置に配置されると、第2の経路から冷却剤が供給されるようにする。インサート底部側は、インサート頂部側と同様な形状であってもよく、例えば、締結具を内部に収容するための窪みを備えたファセット形状を有して、両側で、同様の切削条件とチップ送り条件とを満足させてもよい。
【0024】
シムのファセット形状は、特に、切削インサートのインデックス可能な実施形態に適しており、他の切削エッジを使用可能(アクティブ)にするために、インサート頂部側を上下逆さまに反転させることを可能にする。
【0025】
シムの外側ファセットは、シムと対面する切削インサートの傾斜端部を収容することを可能にする。この傾端部斜は、アクティブな切削位置に位置決めされていない切削インサートの切削端部であり得る。シムは、締結具の中央軸に沿った上面図で見たときに、三角形の形状を有していてもよく、例えば、三角形の形状は、ファセット状又は丸みを帯びた角を有することができる。
【0026】
さらに、第1の経路と第2の経路とが、それぞれ、追加的に、冷却剤を導くように構成されて、例えば、切削端部にて対応する冷却剤の噴流が互いに交る場合、切削端部(熱衝撃を最も受けやすい切削インサートの部分)の冷却が向上することが認められた。
【0027】
切削インサートは、インサート頂部側及びインサート底部側と交る貫通孔を備えることができる。締結具は、貫通孔を通って延出することで、切削インサートを貫通して延在する。
【0028】
締結具は、例えば、頭部がねじ頭部で、軸部がねじ軸であるねじであってもよく、そのねじ軸には、少なくとも部分的にねじ軸に沿って延出するねじ部が備えられていてもよい。頭部、例えばスクリューヘッドは、切削インサートの貫通孔内に配置することができ、これにより、切削インサートの貫通孔と頭部との間の第1の間隙(ギャップ)と、切削インサートの貫通孔と軸部(例えばスクリューシャフト)との間の第2の間隙とによって、統合的に、第1の経路が形成されてもよい。第1の間隙と第2の間隙とによって、第1の経路が形成される。切削インサートの貫通孔内に頭部が配置される部分では、凹部を備えることができる。凹部は、冷却剤を切削端部に向って導くのに役立ち、例えば、切削端部の下方のインサート頂部側の位置から切削端部に向かって上向きに冷却剤を向かわせてもよい。
【0029】
インサート頂部側は、開放型(オープン)の経路構造を有することができ、第1の経路と協働して、冷却剤をインサート頂部側に向って導き、特にインサート頂部側の部分上で切削端部が形成されている場所に導く。開放型の経路構造は、インサート頂部側の1つ又は複数の窪みによって形成することができる。
【0030】
切削端部は、主要な切削端部とすることができ、この際、切削インサートは、切削コーナーにて主要な切削端部とつなげられるより短い二次的な切削端部を含むことができる。二次的な切削端部は、ワイパー状切削端部であってもよい。
【0031】
第2の経路は、好ましくは、主要な切削端部に向かって冷却剤を導くように構成されるが、その場所では、典型的に、二次的な切削端部よりも冷却剤の必要性がより高い。
【0032】
シムは、切削インサートの貫通孔と同軸状に位置決めされた貫通孔を備えていてもよい。軸部は、少なくとも部分的に、シムの貫通孔を通って延在してもよい。シムの貫通孔は、第1の経路及び第2の経路と流通することができ、それによって、冷却剤がベース経路からシムの貫通孔を通って第1の経路及び第2の経路の各々に流れ込むことを可能にしてもよい。シムの貫通孔の空間は、その内部に軸部が延在する場合、その軸部を収容するだけでなく、冷却剤供給の一部としても使用可能になる。これにより、さらに、冷却剤供給をコンパクトに実現することが可能になる。
【0033】
ミーリング工具のさらなる利点は、そのコンパクトな構成にある。特に、ホルダ(本明細書では、ツールホルダや工具ホルダとしても参照可能)の内部では、切削インサートとシムとが協働して冷却剤の移送手段として作用し、典型的に、ホルダは、シムと切削インサートとを含む凹部を備えるからである。
【0034】
締結具は、切削インサートの貫通孔を通って延在し、その際、切削インサートの貫通孔は、インサート頂部側と交るとともに、インサート頂部側と反対側の切削インサートのインサート底部側と交る。締結具は貫通孔に入り、貫通孔の反対側の貫通孔から出る。
【0035】
好適には、ミーリング工具は、1つの組立体(アセンブリ)を含み、その組立体は、本明細書に開示される複数の実施形態のうちの1つでは、切削インサート、シム及び締結具を含む。
【0036】
好適には、ミーリング工具は、少なくとも2つの組立体を含み、各組立体は、切削インサート、シム及び締結具を含み、それら組立体は、ホルダの回転軸を中心として円周方向に等間隔に配置される。本明細書に開示される複数の実施形態のうちの1つでは、少なくとも1つの組立体は、切削インサート、シム及び締結具を含む。2つ又は複数の組立体によって、ミーリング工具の切削性能を向上することができる。
【0037】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、第2の経路は、出口開口部を有し、出口開口部は、クリアランス側の一部にて切削インサートによって部分的に覆われ、冷却剤は第2の経路から依然として出ることができるが、切削インサートによって遮られるようにする。これにより、クリアランス側が下方から冷却剤で浸水され得るため、つまり、冷却剤の流れが下方からクリアランス側に沿って導かれるため、切削インサートの温度をさらに低下することが可能になる。
【0038】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、シムは、複数のシム経路を含み、第2の経路は、複数のシム経路のうちの1つのシム経路である。シム経路のそれぞれが冷却剤をクリアランス側に向って導くように構成され、シム経路のそれぞれがベース経路と流通する。シム経路のそれぞれが、出口開口部を有し、出口開口部は、クリアランス側の一部で切削インサートによって部分的に覆われて、冷却剤は、シム経路のそれぞれから依然として出ることができるが、切削インサートによって遮られるようにした。この実施形態の更なる利点として、複数のシム経路、即ち、少なくとも2つのシム経路(そのうちの一つが第2の経路である)が、詰まりに関し、シムからクリアランス側への冷却剤供給を冗長にしている。換言すると、本開示内容の範囲内で、第2の経路のみが備えられる場合、詰まりが生じると、クリアランス側への冷却剤の供給が終了され得る。これに対して、複数のシム経路を備えることにより、その最大数よりも小さい数で詰まりが生じたとしても、残りのシム経路からの冷却剤の供給を依然として可能にする。シム経路の出口開口部は、任意の形状を有していてもよく、例えば丸形状又は多角形状等の形状を有し、締結具の中央軸に沿って見たインサート頂部側の上面図では、切削端部に沿って、例えば、曲線状又は直線状に、並置されていてもよい。
【0039】
ミーリング工具のさらなる実施形態によれば、切削端部の少なくとも一部を追従するように、第2の経路の出口開口部の形状が定められて、第2の経路からの冷却剤の噴出を切削端部が遮るようにする。例えば締結具の中央軸に沿って、切削インサート上の上面図では、インサート頂部側に面して、切削端部が第2の経路の出口開口部と交る。これにより、第2の経路からの冷却剤は、クリアランス側の部分で切削端部によって遮られて、第2の経路から切削端部に冷却剤が供給され得る。第2の経路の出口開口部は、締結具の中央軸に沿って見たインサート頂部側の上面図では、湾曲状又は直線状であってもよい。切削端部が直線状のとき、出口開口部は、例えば、切削端部の外輪に追従する直線に沿って最大延長部を有するように細長くてもよい。
【0040】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、切削端部の少なくとも一部を追従するように、シム経路の少なくとも2つの出口開口部の形状が定められて、少なくとも2つの出口開口部の各々に属するシム経路の各々からの各冷却剤の噴出を切削端部が遮るようにする。これにより、上記の実施形態と同様の長所が可能となる。切削端部が湾曲する場合、出口開口部は、切削端部の輪郭に追従した湾曲線に沿って整合してもよく、例えば、円弧線に沿って湾曲してもよい。
【0041】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、第2の経路は、切削インサートに向かって広がる。従って、第2の経路の断面は、切削インサートに向かう方向で増大する。このため、第2の経路によって形成される冷却剤の噴出は、より遠方に広がって、クリアランス側のより大きな領域をカバーできるようになる。この結果、クリアランス側の部分の冷却が向上され得る。
【0042】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、冷却剤がシムを通って第1の経路及び第2の経路内に流れ込むように、シムが構成され、配置される。シムは、冷却剤を導く経路構造の一部を形成するが、その経路構造は、ベース経路によりホルダを貫通し、第1の経路により切削インサートを貫通し、第2の経路によりシムを貫通して延在する。第2経路は、シム単独で、又はシムとホルダとが協働することで、ベース経路と流通する。冷却剤を供給するために利用可能となる空間はインサート頂部側に向い、ホルダ、シム、切削インサート、及び締結具から形成された内部では、クリアランス側が用いられる。
【0043】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、シムとホルダが協働して分配経路を形成して、冷却剤がベース経路から分配経路を通って第1の経路内に流れ込むことを可能にする。また、軸部が少なくとも部分的に分配経路を通って延在して、冷却剤が軸部の周りを流れることを可能にする。これにより、ミーリング工具を一層コンパクトな設計とし、特にシム、切削インサート、及び締結具から組立体を形成可能にする。冷却剤をベース経路から第1の経路に供給するために、シムとホルダの他、さらなる部品を必要としない。そして、シム、ホルダ、又は双方は窪み(凹部)を含むが、その窪みはシムとホルダの間に空洞(キャビティ)を形成する。シムは、切削インサートによってホルダのベース側に対して押し付けられて、ホルダの外部環境に対して空洞をシール(密封)可能にする。空洞は、ベース経路と直接的に流通し、第1の経路は、空洞から分岐する。上記の経路は、シム単体で形成される経路とは異なり、ホルダ及び/又はシムの前駆体の表面に直接的に製造することができる。ここで、前駆体の表面とは、シム及び工具ホルダの夫々の最終的な機械加工(例えば、切削加工及び/又はプレス加工)に先立つ表面のことを指す。さらに、この実施形態では、軸部の部分上に締結具を収容するために、シムが、別の穴(例えば別の貫通穴)を有する必要がない。
【0044】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、分配経路を形成することにより、冷却剤が、軸部の周りのベース経路から第2の経路内に流れ込めことを可能にする。従って、軸部とシムとの一部に十分なスペースが残されて、冷却剤が第2の経路を通ることができるようにし、例えば、十分な大きさのシムの貫通孔を形成する。シムの貫通孔の外側では、追加の迂回経路は回避される。
【0045】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、ホルダに向かう開放型の経路構造によってシムの一部に分配経路が形成される。従って、工具ホルダの側部(それに対して、シムが押圧される)を平面状にすることができるので、より少ない処理工程でミーリング工具を製造することが可能になる。さらに、この実施形態では、分配経路の詰まりをクリーニングすることは、シムを取り外して、容易にアクセス可能な開放型の経路構造をクリーニングするだけで行うことができる。
【0046】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、ホルダはホルダ経路を備えるが、ホルダ経路はホルダ単独で形成される。ホルダ経路は、冷却剤をインサート頂部側の上方に配置されたホルダ経路の出口開口部からインサート頂部側に向かって導くように構成される。ホルダ経路からの冷却剤の噴出は、インサート頂部側からのチップの排出を向上させる。このようにして、冷却剤は、第1の経路、第2の経路、代替的に、第2の経路を含む複数のシム経路のそれぞれから、及びホルダ経路から、統合的に供給され得る。ホルダ経路は、ベース経路と流通していてもよい。
【0047】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、軸部は、シムの下方でホルダと係合するねじ部を備えている。そのねじ部の一部をホルダと係合させることで、締結具がホルダに対して固定される。締結具がシムの下方で係合されることで、クランプ機構と比較してより省スペースとなるが、クランプ機構では、上面図で見ると、レバーが頭部から切削インサートの外に伸びて、切削インサート及びシムの横で工具本体の空間内に入る。従って、この実施形態は、ミーリング工具をよりコンパクトな設計にしている。
【0048】
ブッシングがシムに対して支持されるため、さらに工具ホルダに対しても押し付けられることが理解できるであろう。ブッシングは、シムの凹部と当接するリップ部分によって、シムに対して支持することができる。ブッシングは、ミーリング工具の取り外し可能な部分であって、締結具の設計に応じて選ぶことができる。
【0049】
ミーリング工具のさらなる実施形態では、第2の経路は、冷却剤を切削端部に向って導くように構成され、切削端部は、突出部の頂部に形成される。突出部は、少なくとも頭部と同様、インサート頂部側から離れて突出する。換言すると、クリアランス側を見ると、頭部が見えなくなる。このため、頭部によって妨げられずにチップを送ることができるので、インサート頂部側の部分でもチップを滑らかに運ぶという利点を有する。さらに、第1の経路からの冷却剤に利用可能となるインサート頂部側の面積を増加させる点でも利点を有する。さらに、シム、切削インサート及び締結具から形成される組付体の組付け後の外側寸法が、切削インサートとシムのみによって定められるため、ミーリング工具をよりコンパクトな構成にできる。
【0050】
さらに、上記目的は、特許請求の範囲の請求項12に記載のミーリング工具の使用方法と、請求項12を引用する他の請求項に記載のミーリング工具の使用方法とによって解決され得る。
【0051】
本明細書に開示されるミーリング工具は、ワークピースを切削加工するために使用され得る。ホルダの回転軸を中心にしてホルダが回転される際、冷却剤が第1の経路及び第2の経路の各々を通って、そこから流出する。ホルダがホルダ経路を備える際、同様に、冷却剤がホルダ経路を通って、そこから流出する。第1の経路と第2の経路とが協働して、ホルダの回転毎に、切削時と非切削時の双方で、切削インサートの温度を下げるため、コンスタントな冷却剤の供給が実現される。
【0052】
好適には、チタン基合金又はステンレス鋼から作られるワークピースを切削加工するためにミーリング工具が使用される。「チタン基合金」とは、その合金の質量組成に関して単一の最大成分がチタンである任意のチタン合金のことを指すが、例えば6質量%のアルミニウム、4質量%のバナジウム、及び90質量%のチタンを有するチタン合金等が含まれる。特に、チタン基合金及びステンレス鋼に関して、本明細書に開示されるミーリング工具の使用は有益である。つまり、チタン基合金とステンレス鋼は、それぞれ、降伏強さ(又は降伏応力値)が高く、熱伝導率が低いという性質を有する。換言すると、切削加工中に、ワークピース内に大きな切削力が限定的な熱伝導と組み合わせられて生じる。上記性質によって、切削時に切削インサートの温度を上昇させるため、ミーリング工具の回転毎に、熱衝撃のリスクを増大させている。第1の経路によるインサート頂部側の冷却に加えて、クリアランス側をコンスタントに冷却することで、ミーリング工具の回転毎での切削インサートの温度を減少させるため、工具寿命を一層延ばしてさせている。
【0053】
さらに、上記目的は、特許請求の範囲の請求項14に記載の切削加工方法と、請求項14を引用する他の請求項に記載の切削加工方法とによって解決され得る。
【0054】
切削加工方法は、本明細書に開示されるミーリング工具を用意するステップと、ワークピースを用意するステップと、ミーリング工具を用いてワークピースを切削加工するステップと、を含む。この切削加工方法の利点は、ミーリング工具の使用方法に関して説明したものと同様である。
【0055】
好適には、チタン基合金又はステンレス鋼から形成されたワークピースに対して、切削加工方法が用いられる。その利点は、上記の材料を切削加工するためのミーリング工具の使用方法について説明したものと同様である。
【0056】
本開示内容のさらなる特徴と、それから導かれる利点とは、以下の図面を参照することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は本開示内容に係るミーリング工具の第1の実施形態に係る概略的な上面図である。
【
図2】
図2は
図1に描かれたミーリング工具の実施形態の線II-IIに沿った概略的な断面図である。
【
図3】
図3は
図1に描かれたミーリング工具の実施形態の線III-IIIに沿った概略的な断面図である。
【
図4】
図4は
図1に描かれたミーリング工具の実施形態で構成されたホルダについてより詳細に上方から示す、概略的な斜視図である。
【
図5a】
図5aは
図1に描かれたミーリング工具の実施形態で構成されたシムについてより詳細に上方から示す、概略的な斜視図である。
【
図5b】
図5bは
図1に描かれたミーリング工具の実施形態で構成されたシムについてより詳細に下方から示す、概略的な斜視図である。
【
図6a】
図6aは
図1に描かれたミーリング工具の実施形態で構成された切削インサート、締結具、ブッシング、及びシムを上方から示す、分解斜視図である。
【
図6b】
図6bは
図1に描かれたミーリング工具の実施形態で構成された切削インサート、締結具、ブッシング、及びシムを下方から示す、分解斜視図である。
【
図7a】
図7aは本開示内容に係るミーリング工具の第2の実施形態に係る切削インサート、締結具、ブッシング、及びシムを上方から示す、分解斜視図である。
【
図7b】
図7bは本開示内容に係るミーリング工具の第2の実施形態に係る切削インサート、締結具、ブッシング、及びシムを下方から示す、分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図中の同一の参照記号は、同一の構成要素又は機能的に同一の構成要素を示している。
【実施例1】
【0059】
図1乃至
図3を参照すると、ミーリング工具(ミリング工具、フライス加工工具、切削加工工具等ともいう)1の第1の実施形態が例示されている。ミーリング工具1は、切削インサート(カッティング・インサート、刃先の部分、チップ等ともいう)2、ホルダ3、締結具(ファスナ等ともいう)4及びシム5を備えている。
【0060】
シム5は、切削インサート2とホルダ3の間に配置される。締結具4は、切削インサート2の貫通孔20と、シム5の貫通孔50とを通って延出して、シム5の下方のホルダ3内まで延在する。
【0061】
締結具4は、締結機能と、冷却剤供給機能とを有している。
締結具4の締結機能は、切削インサート2をホルダ3に対して固定するように作用する。締結具4の冷却剤供給機能は、切削インサート2の貫通孔20の一部と協働して、冷却剤(冷却液、クーラント等ともいう)を切削インサート2のインサート頂部側21に向かって導くように作用する。冷却剤は、インサート頂部側21に沿って流動して、切削インサート2の切削端部(カッティング・エッジ、刃先等ともいう)22に向かって導かれる。切削端部22は、インサート頂部側21の突起の頂部に形成される。このため、切削端部22を隆起部(リッジ等ともいう)として参照することができる。
【0062】
図2に例示しているように、締結具4がホルダ3と係合する際、切削インサート2がシム5に対して押し付けられて、シム5は、締結具4と協働する。即ち、この際、シム5は、切削インサート2の支持体として機能する。
【0063】
同時に、シム5は冷却剤供給機能を有している。
シム5の冷却剤供給機能は、冷却剤を切削インサート2のクリアランス側(間隙側等ともいう)27に向かって導くように作用する。切削端部22は、クリアランス側27をインサート頂部側21に対してつなげているが、逆も同様である。クリアランス側27に冷却剤を供給することは、経路(通路、チャネル等ともいう)200によって実現されている。経路200はシム5のみで形成されていて、冷却剤が経路200の開口部201から噴出することを遮るように切削インサート2が配置されている。その遮ることは、特に
図2に例示されているが、切削インサート2が部分的に開口部201と重なることが示されている。このようにして、クリアランス側27の下方から冷却剤の流れが浸水することが可能になっている。
【0064】
締結具4の締結機能に関して、締結具4の円錐状の頭部40が貫通孔20内に配置されて、切削インサート2の3つのインサート当接突起23と当接する。これらインサート当接突起23は、貫通孔20の中心軸24を中心として周方向に互いに等間隔に離間している。中心軸24は、貫通孔50の中心軸に相当している。
【0065】
図2には、3つのインサート当接突起23のうち、1つの断面が例示されている。
図2には、各インサート当接突起23が、軸24を含む断面にて、凸状であることが例示されている。
【0066】
締結具40の軸部41は、頭部40から貫通孔20を通ってホルダ3に向かって延出している。
頭部40がインサート当接突起23にて切削インサート2と当接しているのと異なり、軸部41は切削インサート2と当接せず、切削インサート2を通って延出している。
【0067】
軸部41は、切削インサート2のインサート底部側25にて貫通孔20から出ている。インサート底部側25は、インサート頂部側21と同じ形状に形成されており、即ち、切削インサート2をインデックス可能にしている。
【0068】
軸部41は、インサート底部側25からブッシング(ブッシュともいう)6内に延在している。軸部41には、その軸方向延長部に沿ってねじ部(図示略)が延出して設けられている。そのねじ部によって、軸部41は、ブッシング6の内側に形成されたねじ部(図示略)と係合している。ブッシング6はホルダ3の孔30内に延出する際、ブッシング6の外側に形成されたねじ部が、孔30の中に形成されたホルダ3のねじ部と係合している。
孔30は、プラグ70によって、ミーリング工具1の環境に対して密閉又はシールされている。
【0069】
ブッシング6は、軸24を中心として全周方向に延在するブッシング当接突起61を有している。その軸24は、ブッシング6と孔30のそれぞれに関し中心軸である。ブッシング当接突起61は、シム5のシム当接突起51と当接する。軸24の周囲での、シム当接突起51の周囲の延長は、シムの軸方向凹部52によって割込まれている(又は中断されている)。
【0070】
図2に例示すように、ブッシング6が孔30内に螺合すると、ブッシング当接突起61とシム当接突起51との係合によって、シム5がホルダ3に対して押し付けられる。このため、シム5のシム底部側53が、ホルダ3のベース(又は基底)側31に対して押し付けられる。
【0071】
図2に例示するように、締結具4がその軸部41にてブッシング6内に螺合すると、頭部40が各インサート当接突起23と当接するため、切削インサート2がシム5に対して押し付けられる。このため、インサート底部側25が、シム5のシム頂部側54に対して押し付けられる。
【0072】
なお、締結具4の締結機能は、ブッシング6を用いることなく実現することは可能である。例えば、軸部41の直径をより大きくして、軸部41が孔30内に直接的に螺合するようにしてもよい。
【0073】
締結具4の冷却剤供給機能に関して、頭部40と軸部41とは、切削インサート2と協働して、貫通孔20内に経路100を形成している。
【0074】
3つのインサート凹部26(これら凹部26のうちの1つは
図2の断面で例示されている)の1つと、それらインサート凹部26の下方の貫通孔20の残部とによって、切削インサート2の一部に経路100が形成されている。その際、軸部41と切削インサート2とは、貫通孔20内で互いに対して非接触である。
【0075】
複数のインサート凹部26は、軸24を中心として、互いに対して、周方向に等間隔で離間している。これにより、インサート当接突起23は、インサート凹部26によって、互いに対して等間隔で、周方向で分離されている。
【0076】
三次元投影で見ると、各インサート凹部26は、ファンネル型(又は漏斗状)の表面の一部として形成されており、その傾斜は、インサート頂部側21から下方に向かうことが理解できる。
【0077】
なお、切削インサート2の全体と、それに伴う貫通孔20とは、軸24に対して垂直な鏡面では鏡対称の関係を有するが、その鏡面は、貫通孔20の直径が最小となる位置で切削インサート2と交差するものとする。その位置は、軸24と平行に測定してインサート頂部側21からインサート底部側25までの距離の半分の位置に相当する。
【0078】
経路100は、シム軸方向凹部52と流通する。
シム軸方向凹部52は、シム底部側53とベース側31とが協働して形成した分配経路55と流通する。このため、冷却剤は、分配経路55から、シム軸方向凹部52を通って、経路100内に流れ込むことができ、そして、冷却剤は、インサート頂部側21と頭部40のリム部42とが協働して形成した経路100の開口部101から流出することができる。
【0079】
リム部42は、締結具4の平面状の上面43にて終端する。
平面であるとともに、軸24(
図2参照)を含む断面にて切削端部22の下方に位置決めされることで、上面43と、それに伴う頭部40の延長部とが、インサート21上面側に沿って送られる機械加工後のチップ(切粉、切りくず等ともいう)からの障害を最小に減らしている。
【0080】
軸24を含む断面にて切削端部22の下方に上面43が配置されるため、軸24に沿った対応する軸方向寸法で、ミーリング工具1をコンパクトな設計とすることができる。
【0081】
なお、経路200は分配経路55と流通し、軸24と平行な方向で、経路200が分配経路55から分岐している。
【0082】
特に
図1を参照すると、軸24に沿って平行に眺めると、切削端部22が開口部201を横切ることが明らかになる。このため、開口部201から出る冷却液は、切削端部22と直接隣接するクリアランス側27の一部に到達する。
【0083】
図1及び
図2を参照すると、インサート頂部側21には窪み(凹部)210があるため、開口部101から出る冷却剤が窪み210の平面状底面211に沿って流れて、さらにそこからインサート頂部側21のファセット状突起212に沿って切削端部22に向かって上方に流れることが理解できる。
【0084】
図1に例示しているように、ファセット状突起212は、軸24を中心とする周方向に沿って上面43を完全に囲んでいる。
【0085】
ファセット状突起212のうち主要なファセット213は、切削端部22と直接隣接しており、チップを送るための主要なすくい面として機能することができる。
【0086】
切削端部22は、切削インサート2の主要な切削端部であり、
図1から明らかなように、アクティブとなる切削位置に配置される。
【0087】
切削端部22は、切削角部221を介して、短めのより小さな切削端部22aとつなげられており、後者は、切削端部22と共に切削加工中にアクティブなワイパー状切削端部として機能することができる。この際、同様に、切削角部221もアクティブとなる。
切削端部22は、切削角部220から切削角部221に向って下方に傾斜している。
【0088】
なお、切削インサート2は、2つの更なる切削端部22’及び22’’を有しており、それらは、各々、切削端部22と類似して構成されている。即ち、切削端部22’及び22’’は、各々が切削端部22のようにアクティブとなる位置では、開口部201を横切り、開口部201から出る冷却剤によって冷却される。
切削端部22’は、小さな切削端部22a’を有しており、切削端部22’’は、小さな切削端部22a’’を有している。
【0089】
締結具4がホルダ3から緩められるか、又は取り外されると、軸24の周りで切削インサート2を120°で回転することが可能となり、その結果、切削端部22’及び22a’、又は切削端部22’’及び22a’’が協働してアクティブとなり得る。切削端部22’’及び22a’’の各々は、クリアランス側27と類似して構成されたクリアランス側にてインサート頂部側21をつなげている。即ち、対応する切削端部22’及び22’’がアクティブとなるように配置されると、他のクリアランス側には、夫々、冷却剤が供給され得る。
【0090】
さらに、軸24と平行な方向で、インサート底部側25から眺めた図から明らかとなるように、切削インサート2は、切削端部22、22a、22’、22a’、22’’及び22a’’と同様の切削端部を有している。従って、インサート底部側25が上向きにされる(又は裏返しにされる)と、インサート底部側25の切削端部は、切削端部22、22a、22’、22a’、22’’及び22a’’と同様に使用することが可能になる。
【0091】
切削端部22、22’及び22’’と、それらに対応するインサート底部側25の切削端部とは、それぞれ傾斜している。このため、ベース側31に対して押圧され得るインサート底部側25の表面積は、インサート底部側25の平面的な構成と比較して削減されている。ただし、シム5は、インサート底部側25と平面状に合わせるように構成されたシム頂部側54を有している。インサート頂部側21がシム5と対向するように下方にされる場合も、同様でなる。このようにして、シム5は、切削インサート2が締結具4によりホルダ3に対して固定される際、その機械的安定性を高めている。
【0092】
図3を参照すると(切削インサート2を含まず、軸24、シム5、ブッシング6及びホルダ3を含む断面図)、ホルダ3は、孔30と交わるベース経路(又は基底側経路)32を有しており、分配経路55がベース経路32と流通することが理解できる。即ち、冷却剤は、ベース経路32から分配経路55内に移動し、さらにそこから経路100及び経路200のそれぞれに流れ込むことが可能となっている。
【0093】
図4(ホルダ3の斜視図)を参照すると、ベース経路32の開口部32aは、ベース側31の下方の穴31と交わり、ベース経路32と分配経路55とが流通することが理解できる。
【0094】
図4を参照すると、さらに、ベース側面31が基本的に三角形状かつ平面状に構成されており、軸24に沿った方向で上面図を眺めると、シム5の幾何学的形状と整合することが理解できる。
【0095】
また、
図4を参照すると、ホルダ3が、ホルダ経路300の出口開口部301(これはインサート頂部側21の上方に位置している)からインサート頂部側21に向かって冷却剤を供給するためのホルダ経路300を備えることが理解できるが、このことは、
図2及び
図4を合わせて参照することでも明らかとなる。ホルダ経路300からの冷却剤の供給は、機械加工後のチップを切削インサート2から排出する(フラッシングする等ともいう)のに用いることができる。ホルダ経路300は、ベース経路32と流通している。
【0096】
図5a(シム5を例示した斜視図)を参照すると、シム頂部側54に設けられる中央ファセット56は、貫通孔50及びシム軸方向凹部52と交わる。
図2に例示したように、締結具4がホルダ3に係合されると、貫通孔50及びシム軸方向凹部52は、キャビティを形成する。
【0097】
図2に例示したように、中央ファセット56は、締結具4がホルダ3と係合される際、切削インサート2用の平面状の支持面となる。中央ファセット56は、基本的に三角形であって、どの側面がシム5に面するかに応じて、窪み210と、インサート底部側25の類似形状の窪みと、に適合することができる。
【0098】
シム頂部側54は、3つの外側ファセット57、58a及び58bを有し、夫々が中央ファセット56と直接的に隣接していて、かつ夫々が中央ファセット56からシム底部側53に向かって下方に傾斜している。
【0099】
外側ファセット57、58a及び58bは、夫々、切削インサート2の傾斜した切削端部を収容するように傾斜している。即ち、インサート頂部側21が下向きにされる(裏返される)と、切削端部22、22’及び22’’は、関連する小さな切削端部22a、22a’及び22a’’と共に、シム5によって収容可能となる。
【0100】
外側ファセット57が開口部201と交わる場所では、開口部201の傾斜は、外側ファセット57の傾斜に従うとともに、開口部201は、外側ファセット57の直線状の外側端部500に従う。
【0101】
図5aを参照すると、さらに、シム当接突起51は円形形状を有することが理解できるが、これは、半径方向外方にさらに遠方に延出するシム軸方向凹部52によって割込まれている。
【0102】
図5b(シム5の底部側の斜視図)を参照すると、シム底部側53は、貫通孔50、シム底部凹部59、及び経路200と交わっている。
【0103】
図5bと
図2をともに参照すると、シム底部凹部59とベース側31とが協働して分配経路55を形成することが理解できる。
【0104】
シム底部凹部59は、環状形状を有するが、それはシム軸方向凹部52及び経路200によって割込まれている。シム底部凹部59の環状形状によって、冷却剤を放射状に広げさせて、シム軸方向凹部52及び経路200の各々に流入するようにより一層の冷却剤を作り出すことを可能にしている。
【0105】
図6aを参照すると、3つのインサート凹部26の内の2つが部分的に斜視図で例示されている。3つのインサート凹部26は、夫々、冷却剤が、締結具4と切削インサート2との間の貫通孔20内に流動することを可能にしている。
図6aを参照すると、特に、インサート凹部26の各ファンネル型の形状が例示されている。
【0106】
図6aを参照すると、締結具4と夫々当接する3つのインサート当接突起23のうちの2つが部分的に例示されているが、締結具4がインサート当接突起23と当接する貫通孔20内での冷却液の流れについてシールが可能となっている。
図6aと
図6bを合わせて参照すると、切削インサート2の頂部から底部まで対称性が例示されている。
【0107】
図1乃至
図6bで例示したミーリング工具1では、切削インサート2に対して、そのインサート頂部側21に向って冷却剤が供給されると同時に、そのクリアランス側27に向かって冷却剤が供給されている。前者は経路100により達成され、かつ後者は経路200により達成されているが、双方とも分配経路55を介してベース経路32から冷却剤が内部的に供給されている。経路100は、第1の経路100と呼ぶこともでき、経路200は、第2の経路200と呼ぶこともできる。
加えて、ミーリング工具1では、ホルダ経路300からチップ除外用の冷却剤の供給が実現されている。
【実施例2】
【0108】
図7a及び
図7bを参照すると、第2の実施形態に係るミーリング工具1’が例示されている。
【0109】
ミーリング工具1’とミーリング工具1との相違点は、シム5の代わりにシム5’が使用されており、かつ切削インサート2の代わりに切削インサート2’が使用されている点に限られている。そして、ミーリング工具1、1’のいずれであっても、特に、同じ種類の二重の冷却剤の供給と、ねじ式の締結とが実現されている。
【0110】
切削インサート2’は、基本的に円形状であって、円形状の切削端部22’、インサート頂部側21’、インサート底部側25’、貫通孔20’、クリアランス側27’、及び把持ファセット(グリッピング・ファセットともいう)27a’を有している。把持ファセット27a’は、切削端部22’の異なる部分を切削に使用できるように、切削インサート2’の正確な回転を可能にしている。
【0111】
切削端部22’は円形状であるため、即ち、角部が無いため、切削加工中の機械的衝撃に関して安定性を向上させている。
【0112】
切削インサート2に関してインサート凹部26について説明したが、このことは切削インサート2’についても適用でき、切削端部22’に対して冷却剤を供給するために、経路100と類似した冷却剤経路が形成されている。
【0113】
切削インサート2’のインサート当接突起23は、締結具4用の当接部として用いられ、即ち、切削インサート2のインサート当接突起23と類似して用いられる。
【0114】
シム5’は、円形状のプレートであって、平面状シム頂部側54’を有している。締結具4’が切削インサート2’とホルダ3(図示略)と係合する際、平面状インサート底部側25’が平面状シム頂部側54’ に対して押し付けられる。
【0115】
ミーリング工具1について説明したように、締結具4と係合するブッシング6は、シム5と当接する場合と同様に、シム5’と当接する。
【0116】
シム5’は、底部側53’を有するが、それは、貫通孔50’及びシム底部凹部59’と交わる。シム底部凹部59’とベース側31(図示略)とは、協働して、分配経路55に類似した分配経路を形成している。
【0117】
シム底部凹部59’は、環状形状を有するが、それはシム軸方向凹部52’によって割込まれている。シム底部凹部59’の環状形状によって、冷却剤を放射状に広げさせて、シム軸方向凹部52’及び経路200’の各々に流入するようにより一層冷却剤を作り出すことを可能にしている。経路200’の各々は、締結具4の軸方向延長部と平行な底部凹部59’から分岐して、シム上部側54’と交わっている。
【0118】
経路200’の各々は、円形状の出口開口部201’から出る冷却剤をクリアランス側27’に供給することができる(各出口開口部201’は経路200’のいずれかに属している)。このため、特に、切削端部22’によってクリアランス側27’がインサート頂部側面21’とつなげられる場所で、クリアランス側27’を冷却することができ、即ち、切削端部22’を下方から冷却することができる。
【0119】
複数の出口開口部201’は離間して、切削端部22’の円形状に追従するように配置されていて、クリアランス側27’の部分で切削端部22’に冷却剤を供給している。即ち、出口開口部201’は円弧状の軌跡をたどっている。
【0120】
図7a及び
図7bを共に参照すると、例示されているミーリング工具1’では、切削インサート2’にはそのインサート頂部21’に向かって冷却剤が供給されると同時に、そのクリアランス側27’に向かって冷却剤が供給されている。前者は、切削インサート2’と締結具4との間の経路100に類似して形成された経路によって形成され、後者は、複数の経路200’によって形成されているが、それら複数の経路200’は、分配経路55と類似して形成された分配経路を介して、ベース経路32から冷却剤が内部的に供給されている。
【符号の説明】
【0121】
1 ミーリング工具(又はミリング工具、切削加工工具、フライス加工工具ともいう)
2 切削インサート(又はカッティング・インサート、刃先の部分、チップともいう)
3 ホルダ
4 締結具(又はファスナともいう)
5 シム
6 ブッシング(又はブッシュともいう)
20 貫通孔
21 インサート頂部側
22 切削端部(又はカッティング・エッジ、刃先ともいう)
23 インサート当接突起(又は当接突起ともいう)
24 中心軸
25 インサート底部側
26 インサート凹部
27 クリアランス側(又は間隙側ともいう)
30 孔
32 ベース経路(又は基底側経路ともいう)
40 頭部
41 軸部
42 リム部
43 上面
50 貫通孔
51 シム当接突起(又は当接突起ともいう)
52 シム軸方向凹部
55 分配経路
70 プラグ
100 経路
200 経路
201 開口部