(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ボツリヌストキシン類似活性を有するペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20240920BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240920BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240920BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240920BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P21/02
A61P25/02
A61P21/00
A61P17/00
A61K8/64
A61Q19/08
A61K31/353
A61Q19/00
A61K8/49
(21)【出願番号】P 2022575915
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 KR2021007326
(87)【国際公開番号】W WO2021251791
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071661
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
(72)【発明者】
【氏名】リ ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】リ ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】カン ハンア
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0279193(US,A1)
【文献】特表2015-514721(JP,A)
【文献】特表2018-525971(JP,A)
【文献】特表2017-527300(JP,A)
【文献】TISSUE ENGINEERING PART A,2016年,vol.22, no.1,S82
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,2016年,vol.24,pp.4138-4143
【文献】Journal of Applied Sciences Research,2013年,vol.9, no.6,pp.4030-4040
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体
であって、
前記トロロックスは、ペプチドのN-末端とペプチド結合する、トロロックス-ペプチド結合体。
【請求項2】
前記トロロックス-ペプチド結合体は、神経伝達物質の分泌を抑制することにより、筋肉の収縮を緩和させる、請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体。
【請求項3】
請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体を含有する筋肉弛緩用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、神経伝達物質の分泌を抑制することにより、筋肉の収縮を緩和させる、請求項
3に記載の筋肉弛緩用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含有する神経筋肉疾患の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記神経筋肉疾患は、間代性筋痙攣(myoclonus)、片側顔面痙攣(hemifacial spasm)、痙性斜頸(spasmodic torticollis)、裂肛(analfissure)、眼瞼痙攣(blepharospasm)、顔面痙攣(facial spasm)、脳性麻痺(cerebral palsy)、斜視(strabismus)、顎関節症(temperomandibular disorder)、神経痛(neuralgia)、筋肉痛(myalgia)、過活動膀胱(overactive bladder)、切迫性尿失禁(urgeurinary incontinence)、ジストニア(dystonia)、及び多汗症(hyperhydrosis)から構成された群から選択される、請求項
5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含有する皮膚状態改善用組成物。
【請求項8】
前記組成物は、神経伝達物質の分泌を抑制することにより、顔面筋肉の収縮を緩和させる、請求項
7に記載の皮膚状態改善用組成物。
【請求項9】
前記組成物は、i)ColIα1(collagen type I alpha 1)発現の増加、ii)フィブロネクチン(fibronectin)遺伝子発現の増加、又はiii)エラスチン(elastin)遺伝子発現を増加させることにより、シワを改善する、請求項
7に記載の皮膚状態改善用組成物。
【請求項10】
前記皮膚状態改善は、微細ライン(fine line)の外形(appearance)の減少、シワの外形減少、目の拡張(widening)、口角リフティング(lifting the corner of the mouth)、筋肉量の減少、顔面非対称の減少、及び上唇から展開されるラインの平坦化からなる群から選択される、請求項
7に記載の皮膚状態改善用組成物。
【請求項11】
前記組成物は、化粧料組成物である、請求項
7に記載の皮膚状態改善用組成物。
【請求項12】
前記組成物は、医薬外品組成物である、請求項
7に記載の皮膚状態改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロロックス(Trolox)とペプチドが化学的に結合された構造を有するトロロックス-ペプチド結合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉の弛緩と収縮を調節するために、筋肉の上層には神経筋肉接合部があり、この神経末端には、シナプス小胞が取り付けられている。筋肉は、一種の神経小胞の内部から伝達される神経伝達物質のメッセージを受けて収縮するようになる。神経伝達物質が放出されるためには、SNARE(soluble Nethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor;SNAP Receptor)と呼ばれる受容複合体がなければならず、この複合体が、神経物質が筋肉とドッキングするようにする。もし、SNARE受容複合体が少し不安定であると、伝達体は、神経伝達物質を活性的に分泌することができず、これにより神経筋連接から発生したインパルスが筋肉に伝達されず、インパルスが中断されるので、筋肉が弛緩されるようになる。すなわち、筋肉収縮が緩やかに起こり、これは、シワの生成が減少することを意味する。
【0003】
一方、顔面表情シワの形成原因やそのメカニズムは、皮膚を内部に引っ張る表皮筋肉緊張にある。このような筋肉緊張は、顔面筋肉の弱化、神経の活動過剰の結果である。神経の過剰活動は、筋肉繊維を刺激する制御されていない過度な神経伝達物質の放出特性である。このため、神経伝達物質の放出を調節する分子は、筋肉の緊張を弛緩させ、顔面シワを除去するに寄与する。
【0004】
このようなメカニズムに基づいて、シワ生成抑制のための多くの物質が研究され、市販されている。
【0005】
ボツリヌストキシン(Botulinum neurotoxin、BoNT)は、神経伝達物質の排出に関与する核心タンパク質であるSNAREタンパク質を切断するプロテアーゼ(protease)であって、顔面シワ除去の用途として臨床実験と美容に最も普遍的に使用される。ボツリヌストキシンは、SNAREタンパク質を切断することにより、神経伝達物質の分泌抑制及び神経伝達を遮断し、結果として、ボツリヌストキシンが浸透された筋肉細胞が麻痺されるようにする。
【0006】
しかし、ボツリヌストキシンの麻痺効果は、平均6ヶ月間可逆的であるので、ボツリヌストキシンの繰り返し注入が必要であり、患者の免疫系により認識可能なサイズを有するので、薬剤に対する免疫反応が誘発される可能性がある。ボツリヌストキシンに対する抗体の形成は、顕著な治療効能の損失をもたらすので、深刻な問題である。
【0007】
したがって、免疫反応を誘発しないより簡単で安定した分子構造を有しつつ、神経伝達物質の放出を調節することにより、筋痙攣を治療し、顔面非対称及び/又は顔面シワ(特に、顔面表情シワ)を減少するか除去するに効能がある新規活性成分を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一目的は、神経伝達物質の放出を抑制する、新規のペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の一目的は、筋肉の収縮を緩和するか筋肉を弛緩するための用途の組成物を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の一目的は、筋肉弛緩方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の一目的は、筋肉弛緩に使用するためのトロロックス-ペプチド結合体を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の一目的は、神経筋肉疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の一目的は、神経筋肉疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の一目的は、神経筋肉疾患の予防又は治療に使用するためのトロロックス-ペプチド結合体を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の一目的は、シワの改善を含む皮膚状態改善用組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明の他の一目的は、皮膚状態改善方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の一目的は、皮膚状態の改善に使用するためのトロロックス-ペプチド結合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0019】
本発明の他の側面は、前記トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む筋肉弛緩用組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む筋肉弛緩方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、筋肉弛緩に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の側面は、前記トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む神経筋肉疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0023】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む神経筋肉疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、神経筋肉疾患の予防又は治療に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0025】
本発明のさらに他の側面は、前記トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む皮膚状態改善用組成物を提供する。
【0026】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む皮膚状態改善方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、皮膚状態の改善に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のトロロックス-ペプチド結合体は、神経伝達物質の分泌を抑制することにより、SNARE及び神経伝達物質が関与する細胞内反応の調節剤として有用である。そこで、本発明のトロロックス-ペプチド結合体は、筋肉弛緩用組成物、神経筋肉疾患の予防又は治療用組成物、又はシワの改善を含む皮膚状態改善用組成物として活用され得る。
【0029】
ただし、本発明の効果は、前述した効果に制限されず、言及されていないさらに他の効果は、以下の記載から当業者に明確に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】神経細胞において、本発明のトロロックス-ペプチド結合体の処理により神経伝達物質の放出が抑制される効果を示した図である:ニコチン(Nicotine)と塩化カリウム(KCl)は、神経伝達物質の分泌を促進するための誘導因子;テタヌス(Tetanus)は陽性対照群。
【
図2】実験動物に、本発明のトロロックス-ペプチド結合体を処理して筋肉弛緩効果を確認した写真である;BoNTはボツリヌストキシンで陽性対照群。
【
図3】実験動物に、本発明のトロロックス-ペプチド結合体を処理して筋肉弛緩効果の持続時間を確認したグラフである:Aは、トロロックス-ペプチド結合体を処理したときのDAS結果、Bは、ボツリヌストキシンを処理したときのDAS結果。
【
図4】線維芽細胞(fibrolast)において、本発明のトロロックス-ペプチド結合体により真皮を構成するCOL1A1、フィブロネクチン、及びエラスチンの発現が増加する効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド及び前記ペプチドに活性物質が結合された活性物質-ペプチド結合体を提供する。
【0033】
本発明のペプチドの合成は、例えば、機器を用いるか遺伝工学技術を用いて行ってよい。機器を用いて合成する場合、自動ペプチド合成器で所望のペプチドをFmoc固体相(Fmoc solid-phase)方法で合成することができる。
【0034】
具体的な一実施形態において、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドは、Fmoc固体相(Fmoc solid-phase)方法を用いて合成及び同定し、同定されたペプチドの効能を検証して選別された。
【0035】
具体的な一実施形態において、同定されたペプチドの効能を検証するために、SNARE複合体形成抑制の効果及び神経伝達物質分泌抑制の効果に対する有効性を検証して神経伝達物質分泌抑制用ペプチドを選別した。
【0036】
続いて、本発明の活性物質-ペプチド結合体は、前記過程を介して選別されたペプチドと活性物質を結合させて製造することができる。具体的な一実施形態において、前記活性物質を配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドと化学的に結合させて製造した活性物質-ペプチド結合体の効能を検証して選別された。
【0037】
具体的な一実施形態において、10種の活性物質-ペプチド結合体をマウスに投与し、DAS分析結果が4であった結合体を1次選別した後、筋肉弛緩効果の持続時間を観察し、同一の投与量で最も長い持続時間を示した活性物質-ペプチド結合体を最終選別した。
【0038】
本明細書において、用語「ペプチド」とは、アミノ酸残基からなる線状の分子を意味し、具体的には、本発明のペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含んでよい。
【0039】
前記「ペプチド」は、機能に影響を与えない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換、又はこれらの組み合わせにより異なる配列を有するアミノ酸の変異体、又は断片であってよい。前記ペプチドの活性を全体的に変更させないアミノ酸交換は、本技術分野に公知されている。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などに変形されてよい。したがって、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチド及びその変異体、又はその活性断片を含む。前記実質的に同一のタンパク質とは、前記配列番号1のアミノ酸配列と75%以上、好ましくは80%以上、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を意味するが、これに限定されず、75%以上のアミノ酸配列の相同性を有し、同一の活性を有する場合、本発明の範囲に含まれる。また、本発明のペプチドは、標的化配列、タグ(tag)、標識された残基、半減期、又はペプチド安定性を増加させるための特定の目的で製造されたアミノ酸配列をさらに含んでよい。
【0040】
また、さらに良好な化学的安定性、強化された薬理特性(半減期、吸水性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範囲な生物学的活性スペクトル)、減少した抗原性を獲得するために、本発明のペプチドのN-末端又はC-末端に保護基が結合されていてもよい。例えば、前記保護基は、アセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基、又はポリエチレングリコール(PEG)であってよいが、ペプチドの改質、特に、ペプチドの安定性を増進させ得る成分であれば、制限なしに含んでよい。前記「安定性」は、生体内タンパク質切断酵素の攻撃から本発明のペプチドを保護する生体内(in vivo)での安定性のみでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も含む意味として使用される。
【0041】
本明細書において、前記「活性物質」は、少なくとも一つのカルボキシル基を有し、本発明のペプチドのN-末端に化学的に結合されてよく、ペプチドの活性を相乗的に誘導する物質を意味し、具体的には、前記活性物質は、トロロックス(trolox)であってよい。
【0042】
本発明の前記「トロロックス」は、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸であって、ビタミンEの水溶性類似体であり、抗酸化剤として使用される。トロロックスの構造は、下記化学式1のとおりである。
【0043】
【0044】
本発明の活性物質-ペプチド結合体において、活性物質がトロロックスの場合、トロロックスと結合されたペプチドを「トロロックス-ペプチド結合体」と命名した。
【0045】
具体的には、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列から構成されたペプチドにトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0046】
前記トロロックスは、ペプチドのN-末端、C-末端、又は側鎖に結合してよい。具体的には、前記トロロックスのカルボキシル基は、ペプチドのN-末端とペプチド結合してよい。
【0047】
前記トロロックス-ペプチド結合体の一具体例は、下記化学式2で表されるものであってよい。
【0048】
【0049】
本発明の具体的な実施形態において、前記トロロックス-ペプチド結合体は、神経細胞の末端で神経伝達物質の放出を抑制する効果が優れていることを確認し、実験動物で収縮された筋肉を弛緩する効果が優れていることを確認した。
【0050】
また、本発明の具体的な実施形態において、本発明のトロロックス-ペプチド結合体は、筋肉の収縮を緩和する効果が優れているだけでなく、真皮を構成するタンパク質の発現を増加させるので、皮膚シワの改善にも顕著な効果があることを確認した。
【0051】
他の一側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を含む筋肉弛緩用組成物を提供する。
【0052】
また、本発明は、個体(subject)に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む筋肉弛緩方法を提供する。
【0053】
また、本発明は、筋肉弛緩に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0054】
前記ペプチド、トロロックス、及びトロロックス-ペプチド結合体の具体的な内容は、前述したとおりである。
【0055】
前記トロロックス-ペプチド結合体は、神経細胞末端で神経伝達物質の放出を抑制することにより、筋肉の収縮を緩和するか、筋肉を弛緩させることができる。
【0056】
前記筋肉弛緩用組成物は、当業界で通常製造される如何なる剤形でも製造されてよく、例えば、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤、又は滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用されてよい。
【0057】
前記「個体(subject)」は、人間を含むものであってよい。また、用語「個体(subject)」は、本発明のトロロックス-ペプチド結合体の投与を必要とする個体(subject in need thereof)であってよく、前記投与を必要とする個体は、筋肉弛緩が必要な個体であってよい。
【0058】
前記「投与」は、任意の適切な方法で患者に所定の物質を提供することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、通常のすべての経路を介して径口又は非径口投与されてよい。また、組成物は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置により投与されてよい。
【0059】
さらに他の側面において、本発明は、前記トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む神経筋肉疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0060】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む神経筋肉疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0061】
前記個体は、トロロックス-ペプチド結合体の投与が必要な個体であってよく、神経筋肉疾患の予防又は治療が必要な個体であってよい。
【0062】
また、本発明は、神経筋肉疾患の予防又は治療に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0063】
前記トロロックス-ペプチド結合体は、SNARE複合体の形成を阻害することにより、神経伝達物質を抑制する役割を行うことができるため、筋肉収縮を緩和するか、筋肉弛緩を目的とする神経筋肉疾患の予防又は治療に用いることができる。
【0064】
前記「神経筋肉疾患」は、神経伝達物質の過度な放出により筋肉が収縮されるか硬直される状態によって誘発され得る疾患を意味し、例えば、間代性筋痙攣(myoclonus)、片側顔面痙攣(hemifacial spasm)、痙性斜頸(spasmodic torticollis)、裂肛(anal fissure)、眼瞼痙攣(blepharospasm)、顔面痙攣(facial spasm)、脳性麻痺(cerebral palsy)、斜視(strabismus)、顎関節症(temperomandibular disorder)、神経痛(neuralgia)、筋肉痛(myalgia)、過活動膀胱(overactive bladder)、切迫性尿失禁(urge urinary incontinence)、ジストニア(dystonia)、多汗症(hyperhydrosis)、及びコリン性神経系により制御される腺(gland)の過剰分泌によって発現される疾患から構成された群から選択されるものであってよい。
【0065】
前記「予防」は、トロロックス-ペプチド結合体又はこれを含む組成物の投与により発病を抑制するか発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0066】
前記「治療」又は「改善」は、トロロックス-ペプチド結合体又はこれを含む組成物の投与により前記疾患の症状が好転するか良好に変更されるすべての行為を意味する。
【0067】
前記神経筋肉疾患の予防又は治療用組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用されてよく、剤形化のために薬学組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、又は希釈剤を含んでよい。
【0068】
前記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含んでよい。
【0069】
前記薬学的組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでよい。
【0070】
前記薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与又は非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、又は局所に適用)してよく、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路、及び時間によって異なるが、当業者により適切に選択されてよい。
【0071】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の割合で疾患を治療するに十分な量を意味し、有効容量の水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路、及び排出割合、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素に応じて決定されてよい。前記薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の肥満治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤と同時に、別途で、又は順次に投与されてよく、単一又は多重投与されてよい。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定され得る。
【0072】
前記薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率、排泄速度、疾病種類、併用する薬物に応じて変わってよく、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などに応じて増減してよく、例えば、前記薬学的組成物を1日当たり患者体重1kg当たり約0.0001ug~500mg、好ましくは0.01ug~100mg投与してよい。
【0073】
さらに他の側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む皮膚状態改善用組成物を提供する。
【0074】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を投与する段階を含む皮膚状態改善方法を提供する。
【0075】
前記個体は、トロロックス-ペプチド結合体の投与が必要な個体であってよく、皮膚状態の改善が必要な個体であってよい。
【0076】
また、本発明は、皮膚状態の改善に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとトロロックスが結合されたトロロックス-ペプチド結合体を提供する。
【0077】
前記ペプチド、トロロックス、及びトロロックス-ペプチド結合体の具体的な内容は、前述したとおりである。
【0078】
前記「皮膚状態」は、皮膚老化による皮膚弾力の減少、シワの生成、又は顔面に微細ラインが生成されることを意味し、前記老化は、時間の流れ又は外部環境などにより誘発される内因性老化と外因性老化をすべて含む。
【0079】
また、前記シワは、顔面を含むすべての身体部位で発生するシワを意味し、静的なシワ(static rhytides)と動的なシワ(dynamic rhytides)をすべて含んでよい。
【0080】
前記「皮膚状態の改善」は、皮膚のシワ及び弾力に関する能力を維持又は強化させることを意味し、例えば、微細ライン(fine line)の外形(appearance)の減少、シワの外形減少、目の拡張(widening)、口角リフティング(lifting the corner of the mouth)、筋肉量の減少、顔面非対称の減少、及び上唇から展開されるラインの平坦化から構成された群から選択されるいずれか一つであってよい。
【0081】
前記トロロックス-ペプチド結合体は、SNARE複合体の形成を抑制することにより、神経伝達物質を分泌できないようにすることから、顔面筋肉の収縮を緩和して皮膚状態改善効果を示すことができる。
【0082】
続いて、前記トロロックス-ペプチド結合体は、i)ColIα1(collagen type I alpha 1)発現の増加、ii)フィブロネクチン(fibronectin)遺伝子発現の増加、又はiii)エラスチン(elastin)遺伝子発現の増加を誘導し、皮膚シワを予防又は改善することにより、皮膚状態改善効果を示すことができる。
【0083】
具体的には、皮膚を構成する主タンパク質であるコラーゲンは、皮膚真皮に存在する線維芽細胞でプロコラーゲンの形態に合成された後、細胞外マトリックスに分泌され、活性型コラーゲンに転換され、本発明のトロロックス-ペプチド結合体は、皮膚真皮で活性コラーゲンタンパク質の合成を増加させることにより、シワの形成を抑制することができる。また、皮膚の真皮は、膠原線維であるコラーゲンと弾力繊維であるエラスチンで構成されており、前記コラーゲン繊維は、皮膚張力の形成と構造的な統合が行われ、エラスチン繊維は、皮膚弾力に関与して皮膚弾力を増進させることができる。具体的には、本発明に係るトロロックス-ペプチド結合体は、エラスチンの発現を促進することにより、皮膚弾力増進の効果を示すことができる。
【0084】
前記皮膚状態改善用組成物は、化粧料組成物であってよい。
【0085】
前記化粧料組成物は、本技術分野において通常製造される任意の剤形に製造されてよく、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション、及びスプレーなどに剤形化されてよいが、これに制限されるものではない。
【0086】
前記化粧料組成物は、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー、パウダー、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアエアゾール、ポマード、ジェルなどのような溶液、ゾルゼル、エマルジョン、オイル、ワックス、エアゾールなどの様々な形態に製造されてよいが、これに制限されるものではない。
【0087】
前記化粧料組成物は、トロロックス-ペプチド結合体に加え、賦形剤、担体などのその他添加剤を含んでよく、一般皮膚化粧料に配合される普通の成分を、必要なだけ適用配合することが可能である。
【0088】
前記化粧料組成物の剤形の形態がペースト、クリーム、又はゲルの場合には、担体成分として動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、又は酸化亜鉛などが用いられてよい。
【0089】
前記化粧料組成物の剤形の形態がパウダー又はスプレーの場合には、担体成分としてラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、ケイ酸カルシウム、又はポリアミドパウダーが使用されてよく、特に、スプレーの場合には、さらにクロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタン又はジメチルエーテルのような推進体が含まれてよいが、これに制限されるものではない。
【0090】
前記化粧料組成物の剤形の形態が溶液又は乳濁液の場合には、担体成分として溶媒、溶解化剤、又は乳濁化剤が用いられてよく、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール、又はソルビタンの脂肪酸エステルなどが用いられてよい。
【0091】
前記化粧料組成物の剤形の形態が懸濁液の場合には、担体成分として水、エタノール、又はプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチルソルビトールエステル、及びポリオキシエチレンソルビタンエステルなどのような懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー又はトラガカントなどが用いられてよい。
【0092】
前記化粧料組成物の剤形が界面活性剤含有クレンジングの場合には、担体成分として脂肪族アルコールスルフェート、脂肪族アルコールエーテルスルフェート、スルホコハク酸モノエステル、イセチオン酸、イミダゾリニウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテルスルフェート、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体、又はエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどが用いられてよい。
【0093】
前記化粧料組成物の剤形がヘアシャンプーの場合には、本発明のトロロックス-ペプチド結合体に増粘剤、界面活性剤、粘度調節剤、保湿剤、pH調節剤、防腐剤、エッセンシャルオイルなどのように、シャンプーを組成するためのベース成分が混合されてよい。前記増粘剤としては、CDEが使用されてよく、前記界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤であるLESと、両性界面活性剤であるココベタインが使用されてよく、前記粘度調節剤としては、ポリクォーターが使用されてよく、前記保湿剤としては、グリセリンが使用されてよく、前記pH調節剤としては、クエン酸、水酸化ナトリウムが使用されてよい。前記防腐剤としては、グレープフルーツ抽出物などが使用されてよく、それ以外にも、シダーウッド、ペパーミント、ローズマリーなどのエッセンシャルオイルと、シルクアミノ酸、ペンタノール、又はビタミンEが添加されてよい。
【0094】
前記化粧料組成物に含まれる成分は、有効成分として本発明の前記トロロックス-ペプチド結合体と担体成分以外に、化粧料組成物に通常使用される成分、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤などをさらに含んでよいが、これに制限されるものではない。
【0095】
前記皮膚状態改善用組成物は、医薬外品組成物であってよい。
【0096】
前記「医薬外品」は、人や動物の疾病を診断、治療、改善、軽減、処置、又は予防する目的として使用される物品中に医薬品よりも作用が軽微な物品を意味するものであって、例えば、薬事法によると、医薬外品と医薬品の用途として使用される物品を除いたものであって、人/動物の疾病治療や予防に使用される製品、人体に対する作用が軽微であるか直接作用しない製品などが含まれる。
【0097】
前記医薬外品組成物は、ボディソープ、フォーム、せっけん、マスク、軟膏剤、クリーム、ローション、エッセンス、及びスプレーから構成された群から選択される一つ以上に製造してよいが、これに制限されるものではない。また、前記組成物は、バンド、生理用ナブキンなどの形態に製造されてよいが、これに制限されない。
【0098】
前記トロロックス-ペプチド結合体を医薬外品添加物として使用する場合、前記トロロックス-ペプチド結合体をそのまま添加するか他の医薬外品又は医薬外品成分とともに使用してよく、通常の方法によって適切に使用してよい。
【0099】
前述したように、本発明のトロロックス-ペプチド結合体は、神経細胞末端から神経伝達物質の分泌を抑制することにより、筋肉収縮の緩和又は筋肉弛緩の効果があるので、筋肉収縮の緩和を目的とする医薬品、医薬外品、又は化粧料組成物の原料として使用されてよい。
【0100】
以下、本発明を実施例及び実験例により詳細に説明する。
【0101】
ただし、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の内容が下記実施例及び実験例により限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
新規ペプチドの合成及び物性確認
1-1.配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの合成
配列番号1として記載されるアミノ酸配列から構成される新規ペプチド配列「KFLIK」は、公知の方法を用いて製造した。分子量測定器を用いて前記配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドの分子量を測定した結果、その分子量が647.4Daに該当することを確認した。
【0103】
1-2.長期保管時の高温安定性の評価
配列番号1のアミノ酸配列から構成された本発明のペプチドを、1000ppm濃度で滅菌蒸留水に溶かし、45℃で7日、14日、28日、60日、75日間保管した後、HPLC分析を行った。
【0104】
その結果、[
図1a]に示されたように、45℃条件で最大観察日である75日間、本発明のペプチドが安定性を維持することを確認できた。
【0105】
1-3.高温安定性の評価
本発明のペプチドを、1000ppm濃度で滅菌蒸留水に溶かし、121℃で15分、30分間加温した後、HPLC分析を行った。
【0106】
その結果、[
図1b]に示されたように、121℃で最大加温時間である30分間、本発明のペプチドが安定性を維持することを確認できた。
【0107】
[実施例2]
トロロックス-ペプチド結合体の製造
ペプチド反応器に、1moleのペプチジル樹脂と10mlの1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を入れ、270mg(2.0equiv.)の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybenzotriazole、1-HOBt)と759mg(2.0equiv.)のN,N,N’、N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(N,N,N’,N’-Tetramethyl-O-(1H-benzotriazol-1-yl)uroniumhexafluorophosphate、HBTU)を添加し、30分間反応させた。その後、前記反応物に、388mg(3.0equiv.)のN,N’-ジイソプロピルエチルアミン(N,N’-Diisopropylethylamine、DIEA)と500mg(2.0equiv.)のトロロックス(trolox)を添加し、常温で72時間反応させた後、濾過した。その後、前記濾過物と切断溶液(cleavage solution)を常温で2時間反応させ、レジン及び保護器を除去した。最後に、10mlのジエチルエーテルを入れて結晶化させ、トロロックス-ペプチド結合体(すなわち、配列番号1のペプチドとトロロックスの結合体)を製造した。トロロックス-ペプチド結合体を製造するための反応式は、下記反応式1のとおりである。
【0108】
【0109】
生成されたトロックロックス-ペプチド結合体に対して質量分析を行った結果、分子量880.1Daに該当するトロロックス-ペプチド結合体が合成されたことを確認した。
【0110】
[実験例1]
神経細胞でトロロックス-ペプチド結合体による神経伝達物質分泌抑制の効果
トロロックス-ペプチド結合体による神経細胞での神経伝達物質分泌阻害の効果を確認するために、神経芽細胞腫由来の細胞株(SH-SY5Y)を使用し、神経伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine)の分泌量を測定した。
【0111】
具体的には、SH-SY5Y細胞をディッシュに注入し、37℃、5%CO2のインキュベーターで24時間培養した後、培地を無血清培地に交替した。その後、1μM、10μM、50μM濃度のトロロックス-ペプチド結合体をディッシュに処理し、陽性対照群としては、50nMのテタヌス(tetanus)をディッシュに処理し、48時間培養させた。この後、ニコチン(NIC)と塩化カリウム(KCl)を30分間処理し、アセチルコリンの放出を誘導した。その後、培地に含まれているアセチルコリンの分泌量を、アセチルコリン分析キット(Abcam)を使用して測定した。
【0112】
その結果、[
図1]に示されたように、ニコチン(NIC)と塩化カリウム(KCl)のみを処理した群からは、何も処理しない対照群に対する3倍以上のアセチルコリンが分泌したが、トロロックス-ペプチド結合体を処理した群からは、いずれも有意性あるようにアセチルコリンの分泌が抑制された。
【0113】
[実験例2]
実験動物でトロロックス-ペプチド結合体による筋肉弛緩の効果
2-1.動物モデルの準備
具体的には、7週齢の雌Sprague-Dawleyラット(サムタコ BIO KOREA)を動物実験に使用し、ラットをそれぞれボツリヌストキシン(botulinum neurotoxin、BoNT)1U、3U処理群及び本発明のトロロックス-ペプチド結合体2.5mg、5mg/head処理群に分類した。
【0114】
実験動物の右側下腿筋にボツリヌストキシンと本発明のトロロックス-ペプチド結合体をそれぞれ投与した。
【0115】
2-2.筋肉収縮緩和効果の確認
トロロックス-ペプチド結合体が筋肉弛緩に及ぼす影響を確認するために、前記実施例2-1の各処理群に対して麻痺された足指筋肉の弛緩にかかる時間を肉眼観察分析を介して比べた。
【0116】
具体的には、各処理群を投与したラットの右側足を観察し、筋肉麻痺をDAS(Digit Abduction Scoring)分析を用いて測定した。DAS分析で、ラットにその後脚(hind limb)を伸び、その後足指(hind digit)を開けることが特徴的な驚愕反応(startle response)を誘発するために、マウスを短時間その尾により浮遊させた。ラットが驚愕反応を示し得る程度を5点尺度(0 sowl 4)で評価し、0点は正常な驚愕反応を示し、4点は足指開け(digit abduction)及び足伸び(leg extension)の最大減少を示す(0点:五本の足指がすべて離れていること;1点:外側足指の一つが外転中にくっついてること;2点:三本の足指がくっついてること。3点:四本の足指がくっついてること;4点:五本の足指がすべてくっついてること)。
【0117】
その結果、[表2]、[
図2]、及び[
図3]に示されたように、3日後には、すべての群で筋肉弛緩効果が最も高く、時間が経つにつれて、効果はある程度減少し、本発明のトロロックス-ペプチド結合体を注射した群が、ボトックスを注射した群より筋肉弛緩効果がより長く持続した。
【0118】
【0119】
[実験例3]
トロロックス-ペプチド結合体による皮膚シワの改善の効果
本発明のトロロックス-ペプチド結合体が皮膚シワを改善する効果があるか否か確認するために、マウス線維芽細胞(NIH3T3)を使用して真皮を構成するタンパク質発現の様相を確認した。
【0120】
具体的には、NIH3T3細胞を、1.5×105cells/wellの密度で6-ウェルプレートに接種した後、37℃、5%CO2インキュベーターで16時間培養した。次に、1μM、10μM、50μM濃度のトロロックス-ペプチド結合体をプレートに処理し、再び16時間培養した後、培養細胞からRNAを分離した。cDNA合成キット(Intron、Korea)を使用して分離されたRNAからcDNAを合成した。この際、使用されたプライマー塩基配列は、表3に提示されたとおりである。増幅されたPCR産物を、アガロースゲルに電気泳動してDNAバンドを確認した。
【0121】
【0122】
その結果、[
図4]に示されたように、対照群に対するトロロックス-ペプチド結合体を処理した場合、コラーゲン、フィブロネクチン、及びエラスチン発現の水準が顕著に増加することを確認した。
【0123】
これにより、トロロックス-ペプチド結合体は、真皮を構成するタンパク質発現の水準を増加させることにより、皮膚シワを予防又は改善する効果を示すことができることが分かる。
【配列表】