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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20240920BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240920BHJP
   C09K 23/28 20220101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K8/06
A61Q19/00
A61Q17/04
A61K8/44
A61K8/63
A61K8/37
A61K8/92
A61K8/31
C09K23/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023039645
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2018189797の分割
【原出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2023073283
(43)【公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017209078
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】新井 志緒
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-068957(JP,A)
【文献】特開平04-013608(JP,A)
【文献】特開2016-183152(JP,A)
【文献】Moist Rich Cream (ID#):3984533,Mintel GNDP [online],2016年05月,インターネット:URL<https://portal.mintel.com>
【文献】AQ エマルジョン,Cosmetic Info,2017年
【文献】AQ エマルジョン ER,Cosmetic Info,2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C09K 23/00-23/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(C);
(A)N‐アシルアミノ酸又はその塩
(B)オレイン酸フィトステリル
(C)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル、N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸ジ(フィトステリル・2‐オクチルドデシル)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ステアリン酸水添ヒマシ油、シア脂及びワセリンから選ばれる一種又は二種以上(但し(B)を除く)
を含有し、
成分(B)と成分(C)の含有質量割合(B)/(C)が0.05~5であり、
成分(B)と成分(C)の組み合わせによる抱水力が200%以上である、水中油型乳化組成物。
【請求項2】
油剤中の成分(B)と成分(C)の合計含有量が、水中油型乳化組成物全量に対して1~25質量%である、請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
更に成分(D)リン脂質を含有する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項4】
成分(A)と成分(D)の含有質量割合(A)/(D)が0.3~2である、請求項3に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項5】
成分(C)が脂肪酸とステロール、高級アルコール、若しくはジペンタエリスリトールとのエステルである、請求項1~4のいずれかの項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項6】
成分(C)が、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル又は、N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸ジ(フィトステリル・2‐オクチルドデシル)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリルである、請求項1~5のいずれかの項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項7】
水中油型乳化組成物に、次の成分(B)及び(C)を混合することを含む、水中油型乳化組成物の抱水力を高める方法。
(B)オレイン酸フィトステリル
(C)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル及びヒドロキシステアリン酸コレステリルから選ばれる一種又は二種以上(但し(B)を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型乳化組成物に関し、さらに詳細には、N‐アシルアミノ酸又はその塩と、オレイン酸フィトステリルと、自重に対する抱水力が150%以上である油剤を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物であって、肌のハリ感及び柔軟性を付与し、うるおいの持続性、さらには経時安定性が優れるという特徴を有する水中油型乳化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、女性がスキンケア化粧料を使用する目的は多様化しており、保湿を目的とした化粧料はもちろんのこと、アンチエイジング効果を期待して、例えば肌の美白、しみ、しわの低減、肌に若々しさを想起させるハリ感を与えることなどを目的とした化粧料が広く受け入れられている。
ハリ感やハリ感の持続性を目的として、例として以下の技術が開示されている。不飽和脂肪酸とコレステロール又はフィトステロールとのエステルと、ミツロウを組み合わせることにより、硬い油剤によるハリ感及びハリ感の持続を付与する水中油型乳化化粧料(例えば特許文献1)、また、イソステアリン酸グリセリン又はポリビニルアルコールを主成分とし、肌上に被膜を形成することによってハリ感を付与し、さらに低温~高温の幅広い温度領域において長期安定性に優れる乳化皮膚外用剤(例えば特許文献2)や、粒子径10~2000μmの油性粒子を、ポリビニルアルコールを含む水層中に分散させた外用組成物(例えば特許文献3)等が提示されている。さらに、極性油を化粧料中に90%以上含有する液状油性化粧料を皮膚に塗布することで、ハリ感を付与し、次いで当該塗布部位上に炭化水素ワックスないし固形状親油性化粧料を塗布することで、ハリ感の持続を特徴とするスキンケア方法(例えば特許文献4)等が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2013-213957号公報
【文献】特開2011-148716号公報
【文献】特開2011-46629号公報
【文献】特開2013-32342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来のいずれの技術も、肌上に硬い被膜を形成する事でハリ感の付与やハリ感を持続する技術であり、多様化する消費者の要望に応えるには不十分であった。特に強いハリ感を付与する場合、肌上に硬いハリ感成分が残るため、肌の柔軟性が落ちることが課題として挙げられる。特許文献1の技術では、不飽和脂肪酸とコレステロール又はフィトステロールとのエステルと、ミツロウを組み合わせることでべたつきがなく、肌にハリ感を付与するものであったが、肌上に硬い油剤が残るため、肌を柔軟にする効果には欠けるものであった。特許文献2及び特許文献3の技術では、肌上に被膜を形成させて水分の蒸発を防ぐことによって、ハリ感を与えようとするものであるが、肌表面にハリ感のみを付与するものであり、肌を柔軟性にする効果には欠けるものであった。特許文献4の技術では、化粧料中に高濃度の極性油を含む液状親油性化粧料を皮膚上に塗布することで肌を柔軟にし、ハリを付与するものであるが、持続性に欠けるため、当該塗布部位上に炭化水素ワックスないし固形状親油性化粧料を塗布するスキンケア方法であるが、極性油だけではハリ感が不十分であり、且つ塗布部上に炭化水素ワックスないし固形状親油性化粧料を塗布することで、肌の柔軟性も劣るものであった。一方柔軟性を改善するために抱水力が高い油剤の使用により肌の水分量を向上させる手段も知られているが、抱水力が高い油剤は総じて極性油であり、水中油型乳化物において油剤の極性油比率が高まると一般的に合一、分離が起きやすくなり乳化物の安定性が低下すると言う問題も発生する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような従来技術における課題等を勘案して、本発明においては肌へのハリ感を付与する油剤は高粘性、ワックス状と硬く、塗布した肌の柔軟性を損ねる事、一方、水和可能な官能基を多く持つことにより抱水力が非常に高く、肌にうるおいや柔軟性を付与する油剤は液状から低粘性のものが多く肌へのハリ感の付与効果が低い場合が多いという相反する点を解消し、かつ経時安定性にも優れる水中油型組成物を開発することを目指した。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果、粘性、ワックス状のハリ感を付与する油剤、また水和可能な官能基を持つ高い抱水力が期待できる油剤の中から組み合わせた油性成分の性質のスクリーニングを実施した。その結果オレイン酸フィトステリルと、オレイン酸フィトステリル以外で自重の150%以上の抱水力を有する油剤の中から特定のものを組み合わせることで、抱水力が混合前と比較して大幅に増加し、かつ250%以上となる事を見出した。併せて水中油乳化物への応用を考え製剤系での安定性への第三成分の影響を確認した所、N‐アシルアミノ酸又はその塩と組み合わせることによって経時安定性が優れるという特徴を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、次の成分(A)、(B)、(C);
(A)N‐アシルアミノ酸、
(B)オレイン酸フィトステリル
(C)自重に対する抱水力が150%以上である油剤(但し(B)を除く)
を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中油型乳化組成物は、肌にハリ感を付与し、うるおいの持続及び柔軟性に優れ、さらには経時安定性も優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について特にその好ましい形態を中心に具体的に説明する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。
【0010】
本発明に用いられる成分(A)N-アシルアミノ酸又はその塩は、アミノ酸中のアミノ基の少なくとも一つがアシル化されたもの、及び更に塩基性物質によって中和されたものである。また発明品の製造工程中に処方中の塩基性物質によって中和されてもよい。
【0011】
このような成分(A)N-アシルアミノ酸又はその塩を構成するアミノ酸としては、中性、酸性、塩基性、何れのものでもよく、及びカルボキシル基、アミノ基以外の官能基を有していてもよくグルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、スレオニン、メチルアラニン、サルコシン、リジン、アルギニン等が挙げられる。これらのアミノ酸は、L体、D体又はDL体の何れでもよい。これらのうち1種類を使用してもよいし、上記の群から選ばれる2種以上を混合して使用してもよい。分散安定性、べたつき感のなさの点から、酸性アミノ酸又は中性アミノ酸がより好ましい。具体的には、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニンが更に好ましく、グルタミン酸が特に好ましい。
【0012】
このような成分(A)N-アシルアミノ酸又はその塩を構成するアシル基としては、炭素数8~22の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖の脂肪酸由来のアシル基が使用できる。例えば、脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を混合して使用することができる。特に経時安定性、肌の柔軟性を付与する点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸が好ましく、特にラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸が好ましい。
【0013】
N-アシルアミノ酸の塩としては特に限定されず、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛などの無機塩、あるいはアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンや、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸などの有機塩が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を混合して使用することができる。乳化安定性の観点から、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミン、アルギニンの塩が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる成分(A)の含有量は、特に限定されるものではないが、肌の柔軟性だけでなく、経時安定性などの点を考慮すると、好ましくは0.01~0.5質量%(以下、単に「%」と記す)であり、より好ましくは0.1~0.5%であり、0.1~0.4%が更に好ましい。
【0015】
本発明に用いられる成分(A)N-アシルアミノ酸又はその塩は、本発明においては主に肌の柔軟性に関して効果が期待できるものである。
【0016】
本発明に用いられる成分(B)オレイン酸フィトステリルは、オレイン酸とフィトステロールのエステルである。
【0017】
このような成分(B)オレイン酸フィトステリルは、米ぬか及び米胚芽などから抽出並びに精製されたもの、または合成によって得られたものが挙げられるが、米ぬか及び米胚芽から抽出並びに精製されたものが好ましい。該オレイン酸フィトステリルの主構成成分は、オレイン酸、フィトステロール等であり、フィトステロールは、植物から得られるステロール骨格を有する有機混合物の総称で、その中には主としてβ‐シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロールが含まれる。本発明に含有するフィトステロールエステルを合成するために、これらの混合物を用いても良く、また単独で用いても良い。
【0018】
このような成分(B)オレイン酸フィトステリルは、得られる条件(時期、場所、品種、採取方法等)によって、融点が異なるものであるが、1気圧で概ね30℃~50℃付近のものであり35℃~45℃付近のものが好ましい。
【0019】
このような成分(B)の市販品の例としては、例えばライステロールエステル(築野ライスファインケミカルズ社製)、サラコス PO(T)(日清オイリオグループ社製)等が挙げられる。
【0020】
このような成分(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、組成物塗布後の肌のハリ感を付与するために、好ましくは0.1~10%であり、より好ましくは0.1~7%であり、0.1~5%が更に好ましい。
【0021】
このような成分(B)は、本発明においては、おもに塗布後のハリ感の付与が期待できるものである。
【0022】
本発明に用いられる成分(C)の自重に対する抱水力が150%以上である油剤は以下の試験方法にて、抱水力が150%以上となるものである。
【0023】
試験方法:油剤20gを200mlビーカーに秤取り、50℃に加熱しデスパーミキサーにて3000rpmで撹拌しながら50℃の水を徐々に添加し、排液しない最大の水の質量を測定し、この数値を20で除し、100倍した値を抱水力とした。
【0024】
このような成分(C)は、皮膚外用剤又は化粧料などに使用できるものであればいずれのものも使用でき、植物油、動物油、また脂肪酸と、高級アルコール、ステロール、糖、多価アルコール、アミノ酸、ひまし油等のヒドロキシル基を有する成分とのエステル化合物などが挙げられ、具体的にはヒマシ油、シア脂、牛脂、N-アシルアミノ酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ダイマー酸エステル、ジペンタエリストール脂肪酸エステル等が挙げられる。さらに具体的には例えば、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/2-オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジオクチルドデシル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)等のN-アシルアミノ酸エステル、ヘキサグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、(アジピン酸/2-エチルヘキサン酸/ステアリン酸)グリセリルオリゴエステル、ステアリン酸硬化ヒマシ油、ヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油等のグリセリン脂肪酸エステル、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビスイソステアリル等のダイマー酸エステル、(12-ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリトール、ヘキサ(12-ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリトール、(12-ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリトール等のジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、イソステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、リシノール酸コレステリル等の脂肪酸コレステリルエステル、マカデミアンナッツ油脂肪酸フィトステリル等の脂肪酸フィトステリルエステル等などが挙げられ、これらを1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
これらの中でも、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・2-オクチルドデシル)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリルが、肌にうるおいを付与し、肌を柔軟にするためより好ましい。
【0026】
このような成分(C)の市販品としては、PLANDOOL MAS(日本精化社製)、エルデュウ PS-203(味の素社製)、コスモール168ARN(日清オイリオグループ社製)、サラコスHS(日清オイリオグループ社製)等がある。
【0027】
本発明に用いられる成分(C)は、本発明においては、主に肌にうるおいを付与し、肌にうるおいを与えることにより、肌を柔軟にする効果が期待できるものである。
【0028】
成分(C)は、自重に対する抱水力が180%以上であると好ましく、更には200%以上であると肌の柔軟効果の点から好ましい。
【0029】
成分(C)の含有量は、特に限定されるものでないが、組成物塗布後の潤い及び肌のハリ感を付与するために好ましくは0.1~10%であり、より好ましくは0.1~7%であり、0.1~5%が更に好ましい。
【0030】
上記した成分(B)、成分(C)の水中油型乳化組成物全量に対する含有質量合計の(B)+(C)を特定の範囲とすることにより、肌のうるおい及び柔軟性をさらに向上させることが可能となる。このような割合は、(B)+(C)が、1~25%であることが好ましく、2~20%がより好ましい。
【0031】
上記した成分(B)、成分(C)の含有割合(B)/(C)を特定の範囲とすることにより、肌のうるおい及び柔軟性をさらに向上させることが可能となる。(B)/(C)が、0.05~5であるとハリ感と柔軟性の付与の両立の面から好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0032】
本発明にはさらに成分(D)リン脂質を含有することが好ましい。リン脂質は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質の総称であり、通常皮膚外用剤や化粧料などに使用されるものであれば特に限定されない。例えばグリセリンやスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸とリン酸が結合し、更にリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもつ。リン脂質は、大きく分けてグリセリンを骨格とするグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質の2つが存在する。グリセリンのC1、C2位に脂肪酸が、C3位にリン酸がそれぞれエステル結合した分子をホスファチジン酸、ホスファチジン酸からC2位の脂肪酸が外れた分子をリゾホスファチジン酸という。C1には飽和脂肪酸が、C2位には不飽和脂肪酸が結合している場合が多い。アルコールの種類としてはコリン、エタノールアミン、イノシトール、セリン、グリセリンなどを取りうる。
前記リン脂質は、動植物から抽出・精製した天然物であってもよいし、化学合成したものであってもよく、水素添加、水酸化処理、酵素処理等の加工処理を行なっても良い。天然物としては、例えば、大豆由来リン脂質及び卵黄由来リン脂質等が挙げられ、加工処理したものとして、例えば、水素添加リン脂質、リゾリン脂質等が挙げられる。より具体的には、大豆由来リン脂質、大豆由来水素添加リン脂質、大豆由来リゾリン脂質、大豆由来水素添加リゾリン脂質、卵黄由来リン脂質、卵黄由来水素添加リン脂質、卵黄由来リゾリン脂質、卵黄由来水素添加リゾリン脂質等が挙げられる。
このうち、水素添加リン脂質が好ましく、さら大豆由来水素添加リン脂質が好ましい。水素添加リン脂質(好適には大豆由来)が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と組み合わせたときに、良好なハリ感があり、使用中及び使用後の感触が良好であるので、好適である。
【0033】
成分(D)の市販品としては、ニッコール レシノールS‐PIE、ニッコール レシノールS‐10、ニッコール レシノール S‐10E(いずれも日光ケミカルズ社製)、ベイシスLS-60HR(日清オイリオグループ社製)、HSL‐70(ワイエムシィ社製)、レシチンCLO(J-オイルミルズ社製)、卵黄レシチンPL-100P(キューピー社製)等が挙げられる。
【0034】
本発明の水中油型乳化組成物に用いられる成分(D)の含有量は、塗布時のべたつきの軽減の点や、水中油型乳化組成物における効果の点から、0.1~2%が好ましい。
【0035】
このような成分(D)は、本発明においては主に肌の柔軟性を付与し、組成物塗布後のハリ感を付与が期待できるものである。
【0036】
一方、既述した成分(A)の含有量は成分(D)を特定比率で含有させることにより、成分(D)によるべたつき及び、成分(A)による硬い膜感を軽減し、肌がべたつかず適度に柔らかいハリ感を長時間付与させることができるだけでなく、経時安定性が良好となる。このような成分(A)と成分(D)の含有質量割合(A)/(D)としては、特に限定されるものではないが好ましくは0.3~2であり、0.4~1であるとより好ましい。
【0037】
本発明は水中油型乳化組成物であり、水を含むものである。ここで水は、本発明品の分散媒体として用いられるものであり、通常皮膚外用剤又は化粧料に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば精製水、蒸留水、イオン交換水、水道水、温泉水、海洋深層水等があげられる。特に限定されるものではないが、含有量としては、水中油型乳化組成物において20~70%がより好ましい。
【0038】
本発明の水中油型乳化組成物には、上記した必須成分の他に通常の皮膚外用剤又は化粧料に使用される成分、例えば、水溶性高分子、アルコール類、水等の水性成分、界面活性剤、紫外線吸収剤、保湿剤、酸化防止剤、美容成分、防腐剤、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0039】
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、成分(A)~(D)および必要に応じて他の添加剤等を混合したものに、水と必要に応じて任意成分を混合したものを添加し、乳化させて得ることができる。
【0040】
本発明の水中油型乳化組成物は、特に限定されないが、性状として液状、ゲル状、乳液状、クリーム状、半固形状、固形状のものが挙げられる。また、製品形態としては、洗顔フォーム、洗顔クリーム、クレンジング、マッサージ料、パック、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧下地、日焼け止めなどの皮膚用化粧料、ファンデーション、白粉、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、アイブロウ、コンシーラー、口紅、リップクリーム等の仕上げ用化粧料、ヘアミスト、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ポマード、チック、液体整髪料、セットローション、ヘアスプレー等の頭髪用組成物などを例示することができる。この中でも、肌にハリを与える効果を実感しやすいという点から、顔に塗布する乳液が本発明の効果が発揮されやすい水中油型乳化組成物である。またその使用方法としては、手に適量取って使用する方法、不織布等に含浸させて使用する方法等が挙げられる。
【0041】
このようにして得られた本発明の水中油型乳化組成物は、肌にうるおいを付与し、肌を柔軟にし、そのハリ感の持続性に優れ、さらには経時安定性が優れるという特徴を有する。
【0042】
本発明を説明する前に成分(B)と成分(C)の組み合わせによる抱水力を以下に実施例をあげて詳細に説明する。尚、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0043】
各試料に含有されている成分(B)と成分(C)の組み合わせた時の抱水力を下に示す評価基準により、評価判定し、結果を併せて表1~2に示した。
(I:成分(B)並びに成分(C)混合物の抱水力))
各試料に含有されている成分(B)と成分(C)を組み合わせた抱水力(%)を、下記の4段階基準で判定した。抱水力は下記の試験方法にしたがって判断する。
試験方法:50℃に加熱した油剤20gを200mlビーカーに秤取り、デスパーミキサーにて3000rpmで撹拌しながら50℃の水を徐々に添加し、排液しない最大限の水の質量を測定し、この数値を20で除し、100倍して抱水力とした。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
(イ)4段階評価基準
◎:250%以上
〇:200%以上250%未満
△:150%以上200%未満
×:150%未満
【0047】
油性混合物1~4の油剤の組み合わせは、250%以上の高い抱水力を示すものであった。これに対して、成分(C)を含まない油性混合物5では、抱水力が144%と低くなり、成分(B)と成分(C)を組み合わせないと、十分な抱水力を得られないことが分かった。また、成分(B)を含まない油性混合物6及び7は、抱水力が190%、及び169%となり、どちらも抱水力が低くなり、成分(B)との組み合わせで抱水力が向上している事が分かった。また、成分(B)を含まない油性混合物8、9は、抱水力はそれぞれ501%、336%と成分(B)単独より高い値であった。さらに、成分(B)と抱水力が150%以下である成分(C)以外の油剤とを組み合わせた油性混合物11では、抱水力が139%と低い値となった。これは、成分(C)自身の抱水力が150%以上でないと、本発明の効果を叶えられないことが示唆された。
【実施例
【0048】
本発明について以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。尚、これらは本発明を何ら限定するものではない。含有量は特記しない限り、その成分が含有される系に対する質量%で示す。
本発明品1~21および比較品1~6:水中油型乳化組成物(乳液)
表3~6に示す組成および下記製造方法にて乳液を調整した。化粧品評価専門パネル20名により、各試料を適量顔に塗布した後、肌のハリ感(塗布直後)、肌の柔軟性(塗布直後)、肌のうるおいの持続性(塗布5時間後)の各項目について、以下に示す評価基準により評価判定し、結果を併せて表3~6に示した。また、各試料に含有されている成分(B)と成分(C)の組み合わせ(B)+(C)の抱水力並びに経時安定性についても、下に示す評価基準により、評価判定し、結果を併せて表3~6に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
(製造方法)
A:成分(1)~(18)を室温にて均一に混合し、70℃に加熱する。
B:成分(19)~(20)を70℃に加熱し、Aに添加し乳化する。
C:Bを冷却した後に成分(21)~(26)を添加混合し、乳液を得た。
【0054】
(1:成分(B)並びに成分(C)の抱水力))
各試料に含有されている成分(B)と成分(C)を組み合わせた抱水力(%)を、下記の4段階基準で判定した。抱水力は下記の試験方法にしたがって判断する。
試験方法:50℃に加熱した油剤20gを200mlビーカーに秤取り、デスパーミキサーにて3000rpmで撹拌しながら50℃の水を徐々に添加し、水が排液しない最大限(質量g)を測定し、この数値を20で除し、100倍して抱水力とした。
【0055】
(イ)4段階評価基準
(判定):(評価)
◎:250%以上
〇:200%以上250%未満
△:150%以上200%未満
×:150%未満
【0056】
専門評価者20名に、本発明品1~21および比較品1~6の各試料を塗布し、肌のうるおいの持続性(塗布5時間後)、肌のハリ感(塗布直後)、及び肌の柔軟性(塗布直後)について、アンケートを行い、以下の基準で評価した。
【0057】
(2:肌のうるおいの持続性(塗布5時間後))
(ロ)4段階評価基準
(判定):(評価)
◎:塗布5時間経過後の肌に、うるおいがあると答えた評価者が16名以上。
○:塗布5時間経過後の肌に、うるおいがあると答えた評価者が12~15名。
△:塗布5時間経過後の肌に、うるおいがあると答えた評価者が8~11名。
×:塗布5時間経過後の肌に、うるおいがあると答えた評価者が7名以下。
【0058】
(3:肌のハリ感(塗布直後))
(ハ)4段階評価基準
(判定):(評価)
◎:塗布後の肌に、ハリ感があると答えた評価者が16名以上。
○:塗布後の肌に、ハリ感があると答えた評価者が12~15名。
△:塗布後の肌に、ハリ感があると答えた評価者が8~11名。
×:塗布後の肌に、ハリ感があると答えた評価者が7名以下。
【0059】
(4:肌の柔軟性(塗布直後))
(ニ)4段階評価基準
(判定):(評価)
◎:塗布後の肌に、柔らかさが増したと答えた評価者が16名以上。
○:塗布後の肌に、柔らかさが増したと答えた評価者が12~15名。
△:塗布後の肌に、柔らかさが増したと答えた評価者が8~11名。
×:塗布後の肌に、柔らかさが増したと答えた評価者が7名以下。
【0060】
(5:経時安定性)
調製した試料の経時安定性の評価については、50℃の恒温槽に1ヶ月保管した各試料の、外観の変化(クリーミング)について、目視で観察し、以下の4段階絶対判定基準に従って評価した。
【0061】
(ホ)4段階評価基準
(判定):(評価)
◎:1ヶ月でクリーミングが認められない
〇:1か月でクリーミングが認められる
△:2週間でクリーミングが認められる
×:1日でクリーミングが認められる
【0062】
本発明品1~21の水中油型乳化組成物は、肌にうるおいを付与し持続性に優れ、肌を柔軟にし、ハリ感を付与し、さらには経時安定性も優れるものであった。これに対して、成分(A)を含有しない比較品1では、界面活性剤の含有が無いため、乳化が出来なかった。また成分(B)を含有しない比較品2及び3は、特に肌のハリ感の評価が低く、柔軟性の評価も低かった。また成分(C)を含有しない比較品4では、油剤の抱水力が低いことから肌のうるおいの持続性が劣り、肌のハリ感並びに柔軟性においても評価が低く、さらに成分(B)を増量した比較品5でも同様であった。これらの結果から、本発明において成分(A)、成分(B)、成分(C)は必須の成分であり、このどれかが欠けても発明の効果が得られないことが示された。さらに成分(A)の代わりにステアリン酸を含有した比較品6においては、後肌の硬い膜感が生じ、ハリ感を強く感じてしまい、ハリ感と柔軟性の両立において劣るものであった。すなわち、成分(A)N‐アシルアミノ酸又はその塩以外の界面活性剤では、本発明の効果が得られないことが示唆された。
【0063】
実施例1:水中油型乳化組成物(目元用クリーム)
(成分) (%)
1.N‐ステアロイル‐L‐グルタミン酸 0.2
2.ステアリン酸グリセリル 0.3
3.オレイン酸フィトステリル 1
4.ヒドロキシステアリン酸コレステリル 1
5.N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/
オクチルドデシル) 0.5
6.トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリン 3
7.流動パラフィン 3
8.セトステアリルアルコール 5
9.重質流動イソパラフィン(*1) 2
10.香料 0.3
11.水添レシチン 0.1
12.精製水 残量
13.ビャクダンエキス 0.1
14.カルボキシビニルポリマー 1
15.水酸化ナトリウム 0.35
16.アルカリゲネス多糖体 0.01
17.ポリビニルアルコール 4
*1:パールリーム18(日油社製)
【0064】
(製造方法)
A:成分(1)~(11)を室温にて均一に混合し、70℃に加熱する。
B:成分(12)を70℃に加熱し、Aに添加し乳化する。
C:Cを40℃まで冷却した後に成分(13)~(17)を添加し目元用クリームを得た。
【0065】
実施例1の目元用クリームは、肌のハリ感、肌のうるおいの柔軟性、肌の柔軟性及び経時安定のいずれの項目においても優れるものであった。
【0066】
実施例2:水中油型乳化組成物(マッサージクリーム)
(成分) (%)
1.N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸 0.2
2.ステアリン酸グリセリル 0.3
3.オレイン酸フィトステリル 1
4.マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 1
5.N‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸ジ(フィトステリル・2‐オクチルドデシル)
0.5
6.オレイン酸オレイル 5
7.流動パラフィン 2
8.メドゥフォーム油 2
9.水添レシチン 0.1
10.精製水 残量
11.アルキル変性カルボキシビニルポリマー 1
12.トリエタノールアミン 適量
13.1,3-ブチレングリコール 5
14.ヒアルロン酸 0.1
15.加水分解コラーゲン 0.1
16.ムコ多糖 0.1
17.チョウジエキス 0.1
【0067】
(製造方法)
A:成分(1)~(9)を室温にて均一に混合し、70℃に加熱する。
B:成分(10)~(13)を70℃に加熱し、Aに添加し乳化する。
C:Cを40℃まで冷却した後に成分(14)~(17)を添加しマッサージクリームを得た。
【0068】
実施例2のマッサージクリームは、肌のハリ感、肌のうるおいの持続性、肌の柔軟性及び経時安定性のいずれの項目においても優れるものであった。
【0069】
実施例3:水中油型乳化組成物(日焼け止めクリーム)
(成分) (%)
1.ミリストイルグルタミン酸Na 0.2
2.ステアリン酸グリセリル 0.3
3.オレイン酸フィトステリル 1
4.ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル) 1
5.水添レシチン 2
6.濃グリセリン 10
7.1,3-ブチレングリコール 5
8.ジカプリン酸プロピレングリコール 1
9.メトキシケイ皮酸エチルヘキシル 7
10.テトライソステアリン酸ジグリセリル 5
11.ジメチルポリシロキサン(*2) 2
12.スクワラン 8
13.精製水 残量
14.アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 (*1) 1
15.カラギーナン 1
(*2)SH200C FLUID 6CS(東レ・ダウコーニング社製)
【0070】
(製造方法)
A:成分(1)~(12)を室温にて均一に混合し、70℃に加熱する。
B:成分(13)~(14)を70℃に加熱し、Aに添加し乳化する。
C:Cを40℃まで冷却した後に成分(15)を添加し日焼け止めクリームを得た。
【0071】
実施例3の日焼け止めクリームは、肌のハリ感、肌のうるおいの持続性、肌の柔軟性及び経時安定性のいずれの項目においても優れるものであった。