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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水性ボールペン用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/01 20060101AFI20240920BHJP
   B43K 7/12 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B43K7/01
B43K7/12
C09D11/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023068831
(22)【出願日】2023-04-19
(62)【分割の表示】P 2021005993の分割
【原出願日】2016-06-24
(65)【公開番号】P2023090769
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100168859
【弁理士】
【氏名又は名称】柏 延之
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一裕
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226180(JP,A)
【文献】特開2021-062634(JP,A)
【文献】特開平05-339534(JP,A)
【文献】特開2011-178973(JP,A)
【文献】特開2013-028789(JP,A)
【文献】特開2013-103986(JP,A)
【文献】特開2005-171037(JP,A)
【文献】特開2010-115781(JP,A)
【文献】特開2017-222113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K1/00-1/12;5/00-8/24
C09D11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、
前記有機樹脂粒子はオレフィン系樹脂粒子であって、その含有量は前記インキ組成物全量に対して0.03~1.0質量%であり、
前記着色剤は着色球状樹脂粒子であり、
前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径Xμmが1μm以上10μm以下、前記着色球状樹脂粒子の平均粒子径Yμmが1μm以下であって、かつ0.001≦Y/X≦0.5であり、
前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボールペンチップのボール径をB(mm)とした場合、110<A/B≦600の関係であることを特徴とする、
水性ボールペン
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径Xμmが4μm以上10μm以下であり、前記着色球状樹脂粒子の平均粒子径Yμmが0.5μm以下である、
請求項1に記載の水性ボールペン
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂粒子が、ポリエチレン樹脂粒子である、
請求項1または2に記載の水性ボールペン
【請求項4】
前記インキ組成物がリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸をさらに含んでなる、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン
【請求項5】
前記インキ組成物がフェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤をさらに含んでなる、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン
【請求項6】
前記インキ組成物が剪断減粘性付与剤をさらに含んでなる、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水性ボールペン
【請求項7】
前記インキ組成物の粘度が、20℃、剪断速度1.92sec-1において、500~5000mPa・sである、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペン
【請求項8】
前記インキ組成物のpH値が、7.0~11.0である、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水性ボールペン
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、
前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とする出没式水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペンに関し、さらに詳細としては、インキ漏れ出しの抑制と、書き味に優れ、濃い筆跡となる水性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のボールペンに用いるボールペン用インキ組成物として、特許文献1として特許第3338222号公報「直液ノック式水性ボールペン用インキ」のように、保湿性を向上しキャップなしでペンを放置しても、ペン先からインキが吹きだしたり、垂れ下がったりする直流現象が発生しない直液ノック式水性ボールペン用インキのものや、特許文献2として特公平6-47661号公報「ボ-ルペン用インキ組成物」のように、インキ粘度が、50~2000cpsであるボールペン用インキのものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3338222号公報
【文献】特公平6-47661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの水性ボールペン用インキを用いて、出没式ボールペンやキャップオフ状態のボールペンとした場合、前記ボールペンが下向きの状態にある場合にチップ先端からのインキ漏れによるインキ垂れ下がりが発生する恐れがあった。
【0005】
ところで、陳列ケースに陳列されているボールペンは、使用者は、陳列ケースからボールペンを取り出し、試し書きやノック操作の確認等して、前記ボールペンを、同陳列ケースに戻している。
【0006】
この時、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接する。そのように、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みによって、ボールペン用陳列ケースの底部に、ボールペンチップ先端が当接した時の衝撃をボールが受けてボール抱持室の底壁方向に移動するため、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、その隙間からインキが垂れ下がり、インキ漏れを発生し、陳列ケースを汚してしまい、他のケース内のボールペンも、汚れてしまう問題があった。
【0007】
前記したインキ漏れを解決するために、インキでの対応方法として、インキ粘度を高くすると、インキ消費量が少なくなり、濃い筆跡が得られず、さらに筆記時の書き味も劣ってしまう。また、チップでの対応方法として、チップ本体内にコイルスプリング等で、常時、ボールをチップ先端の内壁面に押圧し、ボールとチップ先端の微小な間隙を閉鎖することで、インキ垂れ下がりを抑制することも可能であるが、製造コストが高騰し、ボールの回転が劣りやすく、書き味にも影響が出やすい問題もあった。
【0008】
本発明は、インキの漏れ出しを抑制し、書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペン。
2.前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、20~50μmであることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン。
3.前記オレフィン系樹脂粒子が、ポリエチレン樹脂粒子であることを特徴とする第1項または第2項に記載の水性ボールペン。
4.前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec-1において、500~5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
5.前記着色剤が顔料粒子であり、前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/X≦1.0であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
6.前記水性ボールペン用インキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
7.第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とする出没式水性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ボールペンチップを突出させた状態でボールペンを陳列ケースに戻して、ボールとチップ先端の内壁との隙間が生じても、インキの漏れ出しを抑制するとともに、書き味に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンを得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の特徴は、インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に水、着色剤、有機樹脂粒子からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、前記有機樹脂粒子がオレフィン系樹脂粒子であり、かつ、前記水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600の関係であることを特徴とする水性ボールペンとする。
【0012】
本発明では、濃い筆跡にするにはインキ消費量を増やすことで、濃い筆跡が得られるが、インキ消費量が増えると、ボールとチップ先端の内壁との隙間より、インキの漏れ出しや、筆跡にじみ、泣きボテなどの筆記性能に影響が出てしまう課題がある。そこで、ボールペンチップ本体の仕様とインキ消費量の関係について検討したところ、ボール径が大きくなると、ボールとチップ先端の内壁との隙間が大きくなり、インキ漏れに影響してしまい、そのため、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係が重要であることが分かった。そこで、本願発明者は検討したところ、水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600の関係とすることで、濃い筆跡で、書き味を向上し、にじみ、泣きボテのない良好な筆記性能になることが分かった。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
また、ボール径については、特に限定されないが、0.1~2.0(mm)程度のボールを用いる。
【0013】
しかし、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係を、110≦A/B≦600として、良好な筆記性能とすることは可能であるが、ある程度インキ漏れを抑制することが可能であるが、前述したように、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みによるインキ漏れを抑制するには、十分ではないため、本願発明者は、鋭意検討したところ、樹脂粒子の中でも、オレフィン系樹脂粒子を用いることで、インキ漏れ抑制を格段に向上しつつ、書き味を向上することを可能とすることができた。
【0014】
本発明で用いるオレフィン系樹脂粒子については、含有することで、前記ボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制することを可能とする。さらに、前記オレフィン系樹脂粒子は、無機物と比較して硬度が低いことから、粒子同士が一部変形などして、お互い密着することで、微弱な凝集構造を形成し、インキ漏れを抑制する。さらに、オレフィン系樹脂粒子が炭化水素化合物であり、無極性であるために水中で凝集が起こりやすく、インキ漏れを抑制しつつ、インキ量の不足などの不具合を起こさないような最適化された凝集構造を形成しやすいため、インキ消費量を保ちつつ、インキ漏れ抑制効果が得られるものと推定される。さらに、オレフィン系樹脂粒子は溶融温度が高いため、高温環境下であっても安定して存在しやすく、高圧環境にあった場合では、変形はしやすく変性はしにくいという特徴を持っているため、ボールとボール座の間に挟まれても安定しているため、クッション効果が得られ、書き味を向上し、ボール座の摩耗抑制が得られるため、好適に用いることが可能である。
【0015】
そのため、本願発明では、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係を、110≦A/B≦600として、水性インキ組成物中にオレフィン系樹脂粒子を含んでなることで、ボールペンチップを突出させた状態でボールペンを陳列ケースに戻して、ボールとチップ先端の内壁との隙間が生じても、インキの漏れ出しを抑制するとともに、書き味に優れ、濃い筆跡とし、筆記性能を良好とすることが可能となる。
【0016】
また、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係については、より濃い筆跡や書き味を向上するには、120≦A/Bにすることが好ましく、オレフィン系樹脂粒子を含むことによって、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりや、にじみや泣きボテが発生しにくくして筆記性能を良好とするには、A/B≦500とすることが好ましい。そのため、120≦A/B≦500とすることが好ましく、より濃い筆跡とインキ垂れ下がりを考慮すれば、150≦A/B≦450となることが好ましい。具体的に例を挙げると、ボール径をB(mm)=1.0(mm)の場合、100mあたりのインキ消費量A(mg)は、A=110~600(mg)とすることで、110≦A/B≦600の関係とすることができる。
【0017】
(オレフィン系樹脂粒子)
オレフィン系樹脂粒子の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、インキ漏れ抑制や書き味を向上することを考慮すれば、ポリエチレンを用いることが好ましく、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレン、変性高密度ポリエチレンなどが挙げられる。その中でもインキ漏れ抑制効果を考慮すれば、低密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレンが好ましく、特に低密度ポリエチレンは、他種のポリエチレンよりも融点が低く、柔らかい性質があるため、ポリエチレン粒子が密着しやすく、粒子間の隙間を生じづらく、インキ漏れしづらいため、低密度ポリエチレンが好ましく、さらに、低密度ポリエチレンは、柔らかいため、ボールとボール座の間でのクッション効果が得られやすく、書き味を向上し、ボール座の摩耗抑制が得られるため、好適に用いることが可能である。オレフィン系樹脂粒子は、必要に応じてポリオレフィン以外の材料を含んでいてもよい。
【0018】
前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径については、平均粒子径が小さい方が、お互い密着して、微弱な凝集構造をとりやすく、インキ漏れを抑制しやすいため、10μm以下が好ましく、さらに、8μm以下が好ましく、ボールの回転抵抗を緩和し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制することを考慮すれば、7μm以下がより好ましい。また、水素結合による凝集構造を形成することから、粒子自体が比較的小さくても巨視的な凝集構造を形成しやすいため、より細かい粒子径を用いても優れたインキ漏れ抑制効果を得ることができる。一方、平均粒子径が小さすぎると、インキ漏れ抑制効果が劣りやすいため、平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは、3μm以上が好ましい。また、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法や、コールターカウンター法(コールター社製)を用いて測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)を測定することができる。
【0019】
前記オレフィン系樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
【0020】
また、前記オレフィン系樹脂粒子については、予め水などに分散したオレフィン分散体にすることが好ましいが、オレフィン分散体のpH値については、7~11が好ましい。これは、オレフィン樹脂粒子の分散安定性や、着色剤、界面活性剤などのインキ成分に対する安定性を良好としやすいためである。より考慮すれば、pH値7~10がより好ましい。
【0021】
前記オレフィン系樹脂粒子については、具体的には、ケミパールM-200(低密度ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9)、同W-100(低分子ポリエチレン分散体、平均粒子径3μm、pH値9)、同W-200(低分子ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9)、同W300(低分子量ポリエチレン分散体、平均粒子径3μm、pH値9)、同W-310(低分子ポリエチレン分散体、平均粒子径9.5μm、pH値8)、同W-400(低分子ポリエチレン分散体、平均粒子径4μm、pH値9)、同W-800(低分子ポリエチレン分散体、平均粒子径8μm、pH値9)、同W900(低分子量 ポリエチレン分散体、平均粒子径0.6μm、pH値11)、同S300(平均粒子径0.5μm、カルボン酸変性ポリオレフィン分散体、pH値10)、同SA100(平均粒子径1μm、カルボン酸変性ポリオレフィン分散体、pH値10)(以上三井化学(株)製)、ノプコマル MS-40(平均粒子径1.0μm、ポリエチレンパラフィンワックス)、ノプコマル PEM-17(平均粒子径0.01μm、ポリエチレンワックス)(以上サンノプコ(株)製)、CERAFLOUR950(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径9μm)、同925(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径6μm)、同929(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径8μm)(BYK(株)製)等が挙げられる。
【0022】
また、前記オレフィン系樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01~10.0質量%がより好ましい。これは、前記オレフィン系樹脂粒子の含有量が、0.01質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10.0質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、書き味やドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.02~5.0質量%が好ましく、0.03~1.0質量%が特に好ましく、最も好ましくは、0.05~0.5質量%が好ましい。
【0023】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量(クリアランス)が、15~50μmとするのが好ましい。これは、15μm未満であると、110≦A/Bの関係に設定しづらくなり、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、50μmを越えると、A/B≦600の関係に設定しづらくなり、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、より考慮すれば、20~45μmとするのが好ましく、さらに考慮すれば、25~40μmとするのが好ましい。
ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
【0024】
インキ粘度については、20℃環境下、剪断速度1.92 sec-1で、インキ粘度は、500~5000mPa・sが好ましい、これは、前記インキ粘度が500mPa・s未満だと、インキ粘度が低過ぎて、インキ漏れを抑制しづらく、5000mPa・sを越えると、書き味やボール座の摩耗抑制や書き味が劣りやすく、インキ消費量が少なく、濃い筆跡が得られにくいためである。より考慮すれば、1000~3500mPa・sが好ましい。
【0025】
また、インキ粘度調整剤として剪断減粘性付与剤を用いることが好ましい、剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル酸重合体、多糖類としては、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムなどや、会合型増粘剤としては、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系などやアルカリ膨潤会合型増粘剤、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられ、これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0026】
剪断減粘性付与剤の中でも、インキ漏れ抑制効果を考慮すれば、多糖類または会合型増粘剤を用いることが好ましい。
また、多糖類の中でも、キサンタンガム、サクシノグリカンを用いることが好ましいが、これは、オレフィン系樹脂粒子と併用することで、より三次元構造を形成しやすくなり、よりインキ漏れ抑制効果が得られやすいためである。
また、会合型増粘剤については、アルカリ膨潤会合型増粘剤が好ましいが、これは、会合型増粘剤の中でもインキ粘度発現効率が高く、さらに前記オレフィン系樹脂粒子に対する吸着性が高く、より架橋構造を形成しやすく、密度の高い三次元構造が形成されるため、インキ漏れ抑制や顔料分散性を向上してインキ経時安定性を向上しやすいためである。
【0027】
また、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリ膨潤性を示す機構としてアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、などのカルボキシル基を有する各種重合性モノマーを含む単量体または共重合体の重合性樹脂が挙げられるが、長期間安定した膨潤性を有することで、インキ漏れ抑制や顔料分散性を向上してインキ経時安定性を向上しやすい効果が期待できるため好ましく、特に、酢酸ビニル、メチルメタルリレート、及びメタクリル酸の3種の単量体から構成されるものが好ましい。
【0028】
また、前記剪断減粘性付与剤の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01~5.0質量%がより好ましい。これは、前記剪断減粘性付与剤の含有量が、0.01質量%未満だとインキ増粘効果が十分でなく、インキ漏れを抑制しづらく、5.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりやすく、ボール座の摩耗を抑制、筆記時の追従性、書き味、ドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1~2.0質量%が好ましく、最も好ましくは、0.1~1.0質量%とする。
【0029】
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、マイクロカプセル、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0030】
着色剤について、吸油量が100g以上であるカーボンブラックを含んでなることが、好ましい。これは、吸油量はカーボンブラックのつながりであるストラクチャーをあらわす代替特性であり、吸油量が大きいほどストラクチャーは大きくなる。吸油量が100g以上のカーボンブラックは、ストラクチャーが大きいため、紙面への浸透を抑制し、カーボンブラック自体が、紙面上に残ることで、濃い鮮明な筆跡が得られるためである。さらに、カーボンブラックの吸油量については、100~300g(/100g)が好ましい、これは、300g(/100g)を越えると、カーボンブラックの沈降が発生しやすい傾向があるためである。さらに、より濃い筆跡にするや、カーボンブラックの沈降抑制を考慮すれば、吸油量が、120~200g(/100g)が好ましい。
カーボンブラックの吸油量は、カーボンブラックのストラクチャーを示す特性であり、乾燥された一定量のカーボンブラックがDBP(ジブチルフタレート)を吸収する量をいいJIS K6221に規定される試験方法で測定される。
【0031】
それらの着色剤の中でも、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子を用いることが好ましい。これは、平均粒子径が10μm以下であるオレフィン系樹脂粒子を用いる場合は、前記オレフィン系樹脂粒子同士が密着した時に、前記オレフィン系樹脂粒子間に隙間が発生した場合、インキ漏れに影響を及ぼすこともあるので、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子によって、前記隙間を埋めることで、インキ漏れ抑制効果がより得られやすいためであり、より考慮すれば、平均粒子径が0.5μm以下である顔料粒子が好ましい。さらに、顔料粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状顔料粒子が好ましく、より好ましくは、球状の顔料樹脂粒子である。ここでいう球状顔料粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の顔料粒子や、略楕円球状の顔料粒子などでも良い。
また、顔料粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0032】
また、前記オレフィン系樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/X≦1.0の関係であることが好ましい、これは、前記オレフィン系樹脂粒子同士が密着し、前記オレフィン系樹脂粒子間に隙間が発生した時に、該隙間を埋めづらく、インキ漏れに影響が出やすいためである。より考慮すれば、Y/X≦0.5の関係であることが好ましく、より好ましくは、0.001≦Y/X≦0.5である。
【0033】
また、インキ漏れを抑制するために、デキストリンを用いることが好ましい、これは、デキストリンを用いることで、ペン先のインキが乾燥時に、皮膜を形成することで、ボールとチップ先端の内壁との間の隙間よりインキ漏れ抑制する効果が得られためである。
【0034】
また、デキストリンの重量平均分子量については、5000~120000がより好ましい。重量平均分子量が120000を超えると、ペン先に形成される皮膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすい傾向があり、一方、重量平均分子量が5000未満だと、吸湿性が高くなりやすく、ペン先に皮膜が柔らかくなりやすく、インキ漏れ抑制効果を十分に得られづらい傾向があるためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、皮膜が薄くなりやすい傾向があるため、重量平均分子量が、20000~120000が最も好ましい。
【0035】
デキストリンの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、インキ漏れの効果が十分得られない傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりインキ中の溶解性について考慮すれば、0.1~3.0質量%が好ましく、よりインキ漏れについて考慮すれば、1.0~3.0質量%が、最も好ましい。
【0036】
また、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性溶剤を用いる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。その中でも、本発明で用いる前記オレフィン系樹脂粒子との溶解安定性を考慮すれば、多価アルコール溶剤を用いる方が好ましい。多価アルコール溶剤とは、二個以上の水酸基が脂肪族あるいは脂環式化合物の相異なる炭素原子に結合した化合物である溶剤であり、その中でも、2価または3価の水酸基を有する多価アルコールを少なくとも含有することが、最も好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
水溶性溶剤の含有量については、溶解性、インキ漏れ、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1~25.0質量%が好ましいが、本発明のようにインキ漏れを考慮すれば、7.0~20.0質量以下が好ましい、これは、溶剤による水素結合によって、凝集構造が崩れやすくなり、前記オレフィン樹脂粒子によるインキ漏れ抑制効果に影響しやすいためである。
【0038】
また、潤滑性を向上することで、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするために、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸を用いることが好ましい。特に、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これは、リン酸基が金属吸着することで、より潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするためである。リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系、ヘキサノール系等が上げられる。この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に影響が出やすいため、フェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤を用いることが、好ましい。より潤滑性を考慮すれば、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系のリン酸エステル系界面活性剤が好ましい、これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0039】
また、リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C(トリデシルアルコール系)、同A208B(ラウリルアルコール系)、同A213B(ラウリルアルコール系)、同A208F(短鎖アルコール系)、同A215C(トリデシルアルコール系)、同A219B(ラウリルアルコール系)等が挙げられる。また、脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR-14、FR-25(花王(株))等が挙げられる。これ等のリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0040】
また、顔料粒子を用いてより濃い筆跡とするには、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることが好ましい。これは、紙に対する浸透性が向上することで、顔料粒子が、紙面上に残り、より濃い鮮明な筆跡が得られやすいためである。そのため、本発明のように、110≦A/B≦600の関係として、前記界面活性剤を用いることで、より濃い鮮明な筆跡が得られるやすい。その中でも、フッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい、これは、前記フッ素系界面活性剤は、最も表面張力を低減することが可能で、紙への浸透性も向上しやすいため、濃い筆跡が得られやすいからである。
【0041】
また、シリコーン系界面活性剤は、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、親水性特殊変性、フッ素変性、ジメチル、メチルフェニルなどのシリコーンオイル等が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロ基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親水性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。その中でも、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物を用いるのが好ましい。これは、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物のフッ素系界面活性剤は、より濃い筆跡になり易くすることが可能なため、好ましく用いることができる。さらに、エチレンオキシド基があると、親水性が強くなるため、水に対して溶解しやすく、経時安定性が安定する傾向にあることも挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0042】
その他の添加剤は、所望により添加剤を含有することができる、具体的には、着色剤の経時安定性やさらに潤滑性を向上させるためにpH調整剤や、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン-ブタジエン系樹脂エマルジョンなどの定着剤、酸性樹脂などの顔料分散剤、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等の防菌剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0043】
また、水性ボールペン用インキ組成物のpH値については、7.0~11.0が好ましい。これは、pH値が7未満で酸性領域であると、オレフィン樹脂粒子、着色剤、界面活性剤などのインキ成分に対する安定性への影響や、金属製のボールペンチップやボールの腐食に影響が発生するためで、pH値が10を超えて強アルカリ側に寄っても、同様にインキ成分に対する安定性への影響が発生してしまうためである。より考慮すれば、pH値7.0~10.0がより好ましい。
【0044】
また、より潤滑性を向上し、濃い筆跡を得るためには、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)を0.1~5nmとするとより好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が、この範囲を越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きくなりやすいため、書き味が劣りやすい傾向があり、また、この範囲を下まわると、ボールの表面に十分にインキが乗らないため、濃い筆跡が得られづらくなる傾向が強くなる。そのため、書き味を向上し、濃い筆跡を得るためには、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1~5nmとすることが好ましい。さらに、考慮すれば、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1~4nmとすることが好ましい。
【0045】
ボール 表面の算術平均粗さについて、算術平均粗さ(Ra)とは、表面粗さ測定器(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)により測定された粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0046】
また、ボール材は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボールや、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素などが挙げられる。特に、超硬合金ボールは、低コストであり、さらに、インキがボール表面に載りやすく、手脂の付着した筆記面において筆記時にも有利であるため好ましい。
【0047】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
顔料分散体(着色樹脂粒子:平均粒子径0.4μm、固形分量34%)20.0質量部
水 59.2質量部
オレフィン樹脂粒子(低密度ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9、固形分40%) 0.5質量部
多価アルコール(グリセリン) 10.0質量部
デキストリン(重量平均分子量:100000) 1.0質量部
尿素 5.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部
エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 0.5質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
剪断減粘性付与剤(サクシノグリカン) 0.3質量部
【0048】
顔料分散体、水、オレフィン系樹脂粒子、多価アルコール溶剤、デキストリン、尿素、pH調整剤、エチレンジアミン四酢酸、潤滑剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
【0049】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1600mPa・sであった。
また、実施例1のpH値は、IM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃にて測定したところ、pH値=8.5であった。
【0050】
実施例2~20
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2~20の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【0051】
比較例1~8
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例1~8の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表3】
【0052】
試験および評価
実施例1~20及び比較例1~8で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.7mm、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量30μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)1nm)をチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G-knock)に装着して、以下の試験および評価を行った。尚、書き味、筆跡の濃さの評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
また、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を用いて水性ボールペンとして、らせん筆記試験を行い、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、A=170(mg)、ボール径をB=0.7(mm)となり、A/B=243であった。
【0053】
インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が5mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が5~15mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの ・・・△
インキ漏れ量が30mg以上のもの ・・・×
【0054】
筆跡の濃さ:手書きにより筆記した筆跡を観察した。
濃く鮮明な筆跡であるもの ・・・◎
濃い筆跡であるもの ・・・○
実用上問題ない濃さの筆跡であるもの ・・・△
薄い筆跡のもの ・・・×
【0055】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0056】
表の結果より、実施例1~20では、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。尚、実施例1~20の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、コイルスプリングなどの弾発部材を具備しないボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。
【0057】
さらに、実施例5、6、9の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、ボール径を1.0mmとしたボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好の性能が得られ、実施例5、6、9と同等以上の性能が得られた。そのため、ボール径が0.9mm以上のボールを用いて、インキ吐出量を多くする場合では、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間が大きく、インキ漏れの影響が発生しやすいが、本発明の効果は顕著であり、好適に用いられる。
【0058】
表の結果より、比較例1、2、6、7、8では、オレフィン系樹脂粒子を用いなかったため、インキ漏れがひどく、実用上問題となるレベルであった。
【0059】
比較例3、4では、A/B<110となり、100mあたりのインキ消費量とボール径との関係のバランスが悪く、薄い筆跡であり、書き味が悪かった。
【0060】
比較例5では、600<A/Bとなり、インキ漏れがひどかった。
【0061】
一般的に水性ゲルボールペンのボールペンチップは、インキ漏れ抑制するために、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖してあるが、本発明のようにインキの漏れ出しの抑制効果が特段に高いボールペン用インキ組成物を用いると、前記コイルスプリングなどの弾発部材がなくても、インキ漏れを抑制できる。そのため、ボールと弾発部材の抵抗がなくなり、書き味が向上し、インキの流動性も向上することで、インキ追従性も向上し、さらに部品点数の低下に繋がり、コストを抑制することが可能となり、より効果的である。特に、出没式等のボールペンでは、インキ漏れの抑制については、より重要視されているので、好適に用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、水性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の水性ボールペンなどとして、広く利用することができる。