(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】可撓性積層体、その製造方法、およびそれを用いた防水性製品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20240920BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240920BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240920BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20240920BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20240920BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20240920BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20240920BHJP
E04H 15/32 20060101ALI20240920BHJP
B60R 9/00 20060101ALI20240920BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B27/12
D03D1/00 Z
D03D15/283
D06M15/248
D06M15/564
D06M15/507
D06M15/233
E04H15/32
B60R9/00
B32B27/30 101
(21)【出願番号】P 2023194587
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2020166245の分割
【原出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西村 繁治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮平
【審査官】岩本 昌大
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00-27/18
D06M 10/00-16/00,19/00-23/18
E04H 15/00-15/64
B60R 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、
前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、
前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、
前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下であり、
前記繊維布帛に対し、前記樹脂層を構成する樹脂組成物の付着量が120g/m
2
以上250g/m
2
以下であり、
前記可撓性積層体の目付が300g/m
2以上450g/m
2未満であることを特徴とする、可撓性積層体。
【請求項2】
前記繊維布帛において、経糸の繊度F
1
は、緯糸の繊度F
2
より大きく、経糸の繊度/緯糸の繊度(F
1
/F
2
)が1.1以上2.5以下である、請求項1に記載の可撓性積層体。
【請求項3】
前記繊維布帛において、繊維布帛に含まれる紡績糸が双糸である、請求項1または2に記載の可撓性積層体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の可撓性積層体を含む防水性製品であり、
前記防水性製品は、トラック用シート、野積み用シート、テント用膜材および農業用シートからなる群から選ばれる1つ以上を含む、防水性製品。
【請求項5】
基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体の製造方法であって、
前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、
前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、
前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下である繊維布帛に対し、
前記繊維布帛
に対し、樹脂組成物の付着量が120g/m
2
以上250g/m
2
以下となるように樹脂組成物を付着させることで、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に1層以上の樹脂層を形成させ、目付が300g/m2以上450g/m2未満である可撓性積層体を得る可撓性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体、その製造方法、およびそれを用いた防水性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
小型から大型の各種トラックの荷台には、走行中に荷物が雨や雪で濡れることや、荷物が風で飛散することなどを防ぐため、トラック用シートが設けられている。トラック用シートには、基布となる繊維布帛に樹脂層を設け、防水性を高めた可撓性積層体が広く用いられている。このような可撓性積層体には、従来、ポリエステル、ナイロン、ビニロンなどの合成樹脂で構成されたマルチフィラメント糸および紡績糸、セルロース系繊維のマルチフィラメント糸および紡績糸など、様々な紡績糸やマルチフィラメント糸が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例1~5にはポリエステルの紡績糸を経糸、緯糸に使用した平織の織物(ポリエステル短繊維織物)の両面に、主にポリ塩化ビニル樹脂を含む樹脂層を設けた目付が600~780g/m2の帆布が開示されている。また、特許文献2には、トラック荷台のカバーシート等に用いられる防水膜材として、短繊維紡績糸条からなる経糸およびマルチフィラメント糸条を含む緯糸により構成された繊維布帛を含む基布と、この基布の少なくとも1面上に形成され、かつ1層以上の軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物含有防水樹脂層を含む防水被覆層とからなる可撓性積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-146907号公報
【文献】特開2006-183165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のトラック用シートに使用されている可撓性積層体は、特許文献1と同様、目付が450~800g/m2程度のものが多く使用されている。トラック用シートは、小型のトラック用シートであってもその質量が5kg程度、大型のトラック用シートとなると20kgを超える質量となる。荷物の積み降ろしの度に、トラック用シートを荷台の荷物にかける、荷台の荷物からめくるという作業を繰り返すため、このような目付の大きい可撓性積層体で作られた、製品重量の重いトラック用シートを使用した場合、積み降ろしの作業がトラックの運転手にとって疲労の原因となっている。近年、トラックドライバーの高齢化が進んでいることから、このような荷物の積み降ろしの作業はトラックドライバーに対し、より重大な肉体的な疲労をもたらすことからトラック用シートの更なる軽量化が求められている。
【0006】
トラック用シートに使用される可撓性積層体を軽量化する方法として、可撓性積層体の基布となる繊維布帛を軽量にする方法、および繊維布帛に含浸させる樹脂層の厚さを薄くする方法が考えられる。しかし、繊維布帛を低目付にした場合、可撓性積層体の基布の強度が低下し、得られる可撓性積層体およびそれを用いた防水性製品の強度が低下し、防水性製品が使用中に破れたり引き裂けたりするおそれがある。一方、繊維布帛を経糸、緯糸共にマルチフィラメント糸を使用した織布にした場合、紡績糸のみからなる織布と比較して、同じ強度であれば、より目付の低い繊維布帛にできるため、可撓性積層体の軽量化が図れる。しかし、マルチフィラメント糸は、糸条の表面が毛羽のない平坦な表面であることに加え、紡績糸と比較して糸条の内部に空隙の少ない、密な構造であるため、マルチフィラメント糸のみからなる繊維布帛の表面に樹脂層を形成する際、樹脂が繊維布帛に含浸されにくいだけでなく、糸条の表面と樹脂層の接着強度も小さいことから、繊維布帛と樹脂層の密着性が紡績糸のみを使用した繊維布帛と比較して小さく、可撓性積層体を繰り返し使用すると屈曲部にて樹脂が剥離しやすくなり、耐久性に劣るおそれがある。
【0007】
一方、単位面積あたりの樹脂層の質量(樹脂層の目付)を低下させる、即ち、可撓性積層体において、樹脂層の厚さを薄くしたり、繊維布帛に含浸される樹脂の量を少なくしたりすると、可撓性積層体に占める樹脂層の割合が低下することで、可撓性積層体の目付が低下し、得られる防水性製品の軽量化を図ることができるが、樹脂層が薄くなったり、繊維布帛内部に含浸された樹脂の量が低下することで、繊維布帛と樹脂層の密着性が低下して樹脂層が剥離しやすくなるとともに、樹脂層が薄いことで、可撓性積層体の防水性が低下するおそれがある。
【0008】
防水性製品は一般的に屋外で使用されることが多いため、耐久性を求められることが多いが、その中でも、トラック用シートは高い耐久性が求められる用途である。トラック用シートは荷物の積み降ろしの度に、荷台にシートをかける、シートをめくるといった作業を繰り返すだけでなく、トラックが走行している際、しっかりと固定されていないシートの端部が走行時の風圧ではためく"フラッタリング"が発生することがある。フラッタリングが発生すると、トラックが走行している間、シートが荷台に対し繰り返し打ち付けられるため、樹脂層そのものの耐久性や樹脂層と繊維布帛の密着性が十分でないと、フラッタリングによって樹脂層の表面にひび割れが生じたり、樹脂層が繊維布帛から剥離したりする原因となる。樹脂層の耐久性を高める、即ち、樹脂層に対し、ひび割れが発生することを抑えたり、樹脂層と繊維布帛の剥離を抑えたりするためには樹脂層を厚くしたり、樹脂層と繊維布帛の接着強度を高めるため、樹脂層をバインダー成分の多い構成にしたりすることが考えられるが、樹脂層を厚くすることで可撓性積層体、即ち、防水性製品は質量が大きいものになるだけでなく、可撓性積層体の柔軟性が低下し、トラック用シートを荷台にかける、荷台からめくるといった作業をする際の作業性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れるとともに、軽量性が改善された可撓性積層体、その製造方法、およびそれを用いた防水性製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下であり、前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満であることを特徴とする可撓性積層体に関する。
【0011】
本発明は、基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体の製造方法であって、前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下である繊維布帛に対し、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に1層以上の樹脂層を形成させ、目付が300g/m2以上450g/m2未満である可撓性積層体を得る可撓性積層体製造方法に関する。
【0012】
本発明は、また、前記可撓性積層体を用いた防水性製品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れるとともに、軽量性が改善された可撓性積層体およびそれを用いた防水性製品を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れるとともに、軽量性が改善された可撓性積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発明者らは、従来の可撓性積層体と同様、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れつつ、従来の可撓性積層体よりも軽量化した可撓性積層体を得るために検討を重ねた。その結果、可撓性積層体の基布となる繊維布帛が経糸、緯糸共に紡績糸のみからなる織布であると、紡績糸表面に毛羽が存在すること、糸条内部に空隙が多く、樹脂層を構成する樹脂が糸条内部にも含浸しやすいことから繊維布帛と樹脂層との密着性が極めて高くなるものの、繊維布帛の内部に含浸される樹脂の量が多くなりやすく、得られる可撓性積層体の質量(目付)が大きくなりやすいこと、また、可撓性積層体を構成する繊維布帛が経糸、緯糸共にマルチフィラメント糸のみからなる織布であると、繊維布帛の内部に樹脂が含浸しにくくなることから、樹脂層の質量が抑えられ、比較的軽量な可撓性積層体が得られるものの、繊維布帛と樹脂層の密着性が低下し、可撓性積層体を繰り返し使用することで樹脂層が繊維布帛から剥離しやすくなることを突き止めた。
【0015】
そして、可撓性積層体の基布となる繊維布帛を紡績糸およびマルチフィラメント糸を含む織物として、繊維布帛を構成する紡績糸およびマルチフィラメント糸の割合を所定のものにすることで、繊維布帛表面と樹脂層の密着性と、繊維布帛への樹脂の含浸性のバランスが取れ、繊維布帛表面と樹脂層が十分な密着性を有しながら、樹脂層の質量を低減させることができ、従来の可撓性積層体では得られなかった、目付が450g/m2未満の可撓性積層体が得られることを見いだした。
【0016】
(繊維布帛)
本発明の可撓性積層体の基布となる繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物である。本発明の可撓性積層体において、繊維布帛は織物であれば、その織組織は特に限定されず、平織物、綾織物、朱子織物といった織組織の基本織組織に加えて、拡大法、交換法、配列法、配置法、添糸法、削糸法などによって得られる変化平織物、蜂巣織物、梨子地織物、昼夜朱子織物、もじり織物(紗織物、絽織物)、バスケット織物、二重織物なども使用できる。可撓性積層体の基布となる繊維布帛は、安定して低コストで生産できるだけでなく、強度にも優れることが求められるため、平織物であることが好ましい。なお、繊維布帛に対しては、本発明の効果が損なわれない場合であれば公知の繊維処理加工、例えば、精練処理、漂白処理、染色処理、柔軟化処理、撥水処理、吸水防水処理、防カビ処理、防炎処理、およびバインダー樹脂処理などを施してもよい。
【0017】
<紡績糸>
本発明の可撓性積層体において、紡績糸を構成する繊維として、特に限定されず、例えば、天然繊維、再生繊維、合成繊維などを適宜に用いることができる。天然繊維として、例えば綿、麻、ケナフ、および竹などのセルロース系繊維などが挙げられる。再生繊維として、例えば、ビスコースレーヨン繊維などの再生セルロース繊維、および精製セルロース繊維などのセルロース系繊維が挙げられる。合成繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維などが挙げられる。前記紡績糸は、上述した繊維から選択された1種の繊維で構成された紡績糸でもよいし、上述した繊維から選択された2種類以上の繊維を混紡した紡績糸でもよい。
【0018】
前記ポリエステル繊維としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合によって得られるポリエチレンテレフタレート(PET)、テレフタル酸と1,3-プロパンジオールとの重縮合によって得られるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、テレフタル酸とブチレングリコールとの重縮合によって得られるポリブチレンテレフタレート(PBT)といった芳香族ポリエステル繊維に加えて、ポリ乳酸繊維を始めとする脂肪族ポリエステル繊維も使用できる。中でも、ポリエチレンテレフタレート繊維が汎用性、繊維強度および耐熱クリープ性の観点から好ましい。特に、ポリエチレンテレフタレート繊維は、長期間、屋外で使用しても強度が低下しにくいので、好ましい。
【0019】
前記ポリオレフィン繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維(低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等のポリエチレンで構成された繊維)、ポリメチルペンテン繊維、環状オレフィン繊維などが挙げられる。中でも、汎用性、繊維強度、長期間、屋外で使用しても強度が低下しにくいこと、および細繊度の短繊維が容易に得られることから、ポリプロピレン繊維が好ましい。
【0020】
前記ポリアミド繊維としては、特に限定されず、一般的なナイロン繊維、例えば6,6ナイロンや6-ナイロンを溶融紡糸して得られるナイロン繊維、およびアラミド繊維と称される全芳香族ポリアミド繊維などが挙げられる。中でも、ポリアミド繊維としては、コストと強度のバランスから、6,6-ナイロン繊維や6-ナイロン繊維などが好ましい。
【0021】
前記紡績糸は、英式綿番手(1ポンド(約454g)/840ヤード(約768m)が1番手となる。以下、単に番手と称す。)で5番手以上40番手以下であることが好ましい。紡績糸の繊度が5番手以上であることで、繊維布帛の表面が過剰に粗い状態になることがなく、経方向または緯方向の糸密度が十分に高い織物が得られる。前記紡績糸は、5番手以上30番手以下であることがより好ましく、7番手以上25番手以下であることがさらに好ましく、8番手以上20番手以下であることが特に好ましい。なお、紡績糸が双糸を始めとする、2本以上の糸をより合わせた糸(双糸の他、単糸3本をより合わせた糸(三子糸)や4本以上の単糸をより合せた糸、またはこれらの2本合糸、あるいは2本合撚糸などの糸が挙げられる。)である場合、より合わせた状態での番手が前記範囲を満たせばよい。
【0022】
前記紡績糸は、特に限定されないが、例えば、繊維布帛の表面が過剰に粗い状態になることがなく、経方向または緯方向の糸密度が十分に高い織物が得られやすいという観点から、総繊度が148dtex以上1181dtex以下であることが好ましく、200dtex以上1181dtex以下であることがより好ましく、236dtex以上844dtex以下であることが特に好ましく、295dtex以上738dtex以下であることが最も好ましい。
【0023】
本発明の可撓性積層体において、繊維布帛に含まれる紡績糸は特に限定されず、前記の素材、例えば木綿やポリエステルを始めとする合成繊維の紡績糸であって、前記番手や繊度の範囲を満たす紡績糸を好ましく使用することができるが、紡績糸が双糸であることがより好ましい。紡績糸、特に単糸は糸条の太さ(繊維径)にムラが残った状態であり、局所的に太い部分があると、得られる繊維布帛に凹凸が生じるおそれがあり、局所的に細い部分があると、その部分が弱くなり、得られる繊維布帛の機械的強度(例えば引張強さや引裂強さなどが挙げられる。)が小さくなるおそれがある。前記繊維布帛に含まれる紡績糸として双糸を使用することで、紡績糸条の太さムラ(繊維径のバラつき)が抑えられ、同じ番手(繊度)の単糸を使用したときと比較して強度が向上するだけでなく、得られる繊維布帛の表面が滑らかなものとなり、樹脂層を配置することで得られる可撓性積層体も表面が平滑なものとなる。前記繊維布帛に含まれる紡績糸として双糸を使用する場合、前記番手の範囲を満たすものを好ましく使用することができるが、10番手から30番手の単糸をより合わせた双糸(即ち、双糸にした後の番手が5~15番手)であることがより好ましく、16番手から24番手の単糸をより合わせた双糸(双糸にした後の番手が8~12番手)であることが特に好ましく、18番手から22番手の単糸をより合わせた双糸(双糸にした後の番手が9~11番手)であると最も好ましい。
【0024】
<マルチフィラメント糸>
本発明において、マルチフィラメント糸を構成する繊維は、特に限定されず、再生繊維や合成繊維を適宜用いることができる。再生繊維としては、例えば、ビスコースレーヨン繊維の再生セルロース繊維、および精製セルロース繊維などのセルロース系繊維が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維などの合成繊維などが挙げられる。前記マルチフィラメント糸は、上述した繊維から選択された1種類の繊維で構成されたマルチフィラメント糸でもよいし、上述した繊維から選択された2種類以上の繊維を混繊して得られた混繊糸でもよいし、選択した繊維の一方を糸の中心部に配し、もう一方の繊維を前記一方の繊維に対して外側を巻くように配置した複合マルチフィラメント糸でもよい。複合マルチフィラメント糸として、糸条の中心部分に各種マルチフィラメント糸を配置して"しん糸"として、前記マルチフィラメント(しん糸)に対し、他の繊維を精紡工程でさや状に巻き付けたコアヤーン(コアヤーン糸、コア・スパン・ヤーンとも称される。)や、糸条の中心部分に各種マルチフィラメント糸を配置して"しん糸"として、前記マルチフィラメント(しん糸)に対し、紡績糸をコイル状に巻き付けたカバードヤーンを使用することもできる。
【0025】
前記マルチフィラメント糸において、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維およびポリアミド繊維などとしては、特に限定されず、紡績糸の説明で列挙したものを、適宜用いることができる。
【0026】
前記マルチフィラメント糸を構成する単繊維の繊度は特に限定されないが、例えば、繊維布帛の表面をある程度なめらかな状態とし、後述する樹脂層との接着性を確保するという観点から、1.0dtex以上10dtex以下であることが好ましく、1.5dtex以上8dtex以下であることがより好ましく、1.8dtex以上7dtex以下であることがさらにより好ましく、2dtex以上6dtex以下であることが特に好ましい。そして、前記マルチフィラメント糸の総繊度は、繊維布帛表面の粗さや樹脂層との密着性の観点、および糸密度との関係から、100dtex以上2000dtex以下であることが好ましく、120dtex以上1000dtex以下であることがより好ましく、150dtex以上800dtex以下であることがさらに好ましく、180dtex以上600dtex以下であることが特に好ましく、200dtex以上560dtex以下であることが最も好ましい。なお、マルチフィラメント糸を構成する単繊維の本数(フィラメント数)は特に限定されないが、1本のマルチフィラメント糸を構成する繊維の本数が20本以上250本以下であることが好ましく、24本以上200本以下であることがより好ましく、30本以上150本以下であることがさらに好ましく、36本以上120本以下であると特に好ましい。
【0027】
前記繊維布帛において、経糸の打ち込み密度(糸密度)は特に限定されないが、例えば、25.4mm(1インチ)当り30本以上120本以下であることが好ましい。経糸の糸密度が前記範囲を満たすことで、繊維布帛の構造が適度に密な状態となり、強度と柔軟性のバランスが取れた可撓性積層体が得られる。経糸の糸密度は、25.4mm(1インチ)あたり40本以上100本以下であることがより好ましく、25.4mm(1インチ)あたり45本以上80本以下であることがさらに好ましく、50本以上60本以下であると特に好ましい。一方、緯糸の打ち込み密度(糸密度)は25.4mm(1インチ)当り25本以上100本以下であることが好ましい。緯糸の糸密度が前記範囲を満たすことで、繊維布帛の構造が適度に密な状態となり、強度と柔軟性のバランスが取れた可撓性積層体が得られる。経糸の糸密度は、25.4mm(1インチ)あたり30本以上90本以下であることがより好ましく、25.4mm(1インチ)あたり35本以上70本以下であることがさらに好ましく、40本以上55本以下であると特に好ましい。本発明において、繊維布帛は経糸の糸密度、緯糸の糸密度はそれぞれ前記の範囲を満たすことが好ましいが、より好ましくは、前記経糸の糸密度、緯糸の糸密度を満たし、かつ経糸の糸密度が緯糸の糸密度よりも大きいとより好ましい。前記繊維布帛において、経糸の糸密度と緯糸の糸密度の比(経糸の糸密度/緯糸の糸密度)は1より大きく1.5以下であると好ましく、1より大きく1.4以下であるとより好ましく、1.02以上1.35以下であると特に好ましく、1.05以上1.3以下であると最も好ましい。前記繊維布帛が、経糸および緯糸の太さ(番手、繊度など)、糸密度の好ましい範囲だけでなく糸密度の比(経糸の糸密度/緯糸の糸密度)を満たすことで、繊維布帛は引張強度を始めとする強度に優れるだけでなく、繊維布帛の織組織が適度に密な状態となるため、繊維布帛に対して樹脂層を設ける際、繊維布帛の内部に含浸される樹脂の量が適度なものとなることで、繊維布帛表面と樹脂層の密着性を維持しつつ、樹脂層の質量を低減させやすくなると考えられる。
【0028】
本発明において、繊維布帛の目付(単位面積あたりの質量)は、特に限定されないものの、140g/m2以上250g/m2以下であることが好ましい。基布となる繊維布帛の目付が上述した範囲を満たすことで、強度を低下させることなく、軽量で柔軟性に富んだ可撓性積層体となる。繊維布帛の目付は、160g/m2以上250g/m2以下であることがより好ましく、170g/m2以上240g/m2以下であることがさらに好ましく、180g/m2以上230g/m2以下であることが特に好ましい。また、繊維布帛の引張破断伸び率は、特に限定されないものの、0%以上80%以下であることが好ましく、特に0%以上50%以下であることが好ましい。また、前記繊維布帛の150℃における乾熱収縮率は特に限定されないが、0%以上50%以下であることが好ましく、特に0%以上30%以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明において、繊維布帛は、繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸を55質量%以上80質量%以下、およびマルチフィラメント糸を20質量%以上45質量%以下含む。前記繊維布帛において、紡績糸およびマルチフィラメント糸が前記割合で含まれることで、得られる繊維布帛は紡績糸により樹脂層との密着性が高いだけでなく、マルチフィラメント糸により、繊維布帛への樹脂含浸が適度に抑えられ、軽量な可撓性積層体が得られるようになる。繊維布帛は、紡績糸を60質量%以上80質量%以下含むことが好ましく、60質量%以上75質量%以下含むことがより好ましく、65質量%以上75質量%以下含むことが特に好ましく、65質量%以上70質量%以下であることが最も好ましい。一方、繊維布帛は、マルチフィラメント糸を20質量%以上40質量%以下含むことが好ましく、25質量%以上40質量%以下含むことがより好ましく、25質量%以上35質量%以下含むことが特に好ましく、30質量%以上35質量%以下含むことが最も好ましい。なお、繊維布帛に含まれる糸の中にマルチフィラメントと短繊維からなる複合糸(例えば、マルチフィラメント糸の周囲を短繊維で覆った糸であるコア・スパン・ヤーン、コアヤーン糸、カバードヤーンと呼ばれる複合糸が一例として挙げられる。)を使用している場合、複合糸を構成している短繊維の質量は、繊維布帛を構成している紡績糸の割合に加えるものとする。
【0030】
前記繊維布帛において、紡績糸およびマルチフィラメント糸の割合が上述した範囲を満たすものであれば、経糸や緯糸にどのような糸を配置してもよい。例えば、経糸に紡績糸、マルチフィラメント糸、コア・スパン・ヤーンを含めた複合マルチフィラメント糸などから選択される一種以上の糸を用いてもよいが、前記繊維布帛を構成する経糸は、全ての経糸の質量を100質量%としたとき、紡績糸の割合が80質量%以上であることが好ましい。前記繊維布帛を構成する経糸において、紡績糸の割合が80質量%以上であることで、繊維布帛と、樹脂層の密着性が向上するだけでなく、可撓性積層体が柔軟性に優れたものとなる。経糸に占める紡績糸の割合は、90質量%以上であることがより好ましく、経糸が全て紡績糸であることが特に好ましい。
【0031】
前記繊維布帛において、緯糸に紡績糸、マルチフィラメント糸、およびコア・スパン・ヤーンを含めた複合マルチフィラメント糸などから選択される一種以上の糸を用いてもよいが、前記繊維布帛を構成する緯糸は、全ての緯糸の質量を100質量%としたとき、マルチフィラメント糸の割合が80質量%以上であることが好ましい。前記繊維布帛を構成する緯糸において、マルチフィラメント糸の割合が80質量%以上であることで、繊維布帛に対し、樹脂層を構成する際、繊維布帛に対し、過剰な樹脂含浸が発生しにくくなり、得られる可撓性積層体が軽量なものとなる。また、緯方向の糸密度が経方向の糸密度よりも小さい場合、緯糸にマルチフィラメント糸を配置することで、緯方向の強度が高まり、紡績糸を主体としている経方向との強度の差が小さいのもとなりやすい。緯糸に占めるマルチフィラメント糸の割合は、90質量%以上であることがより好ましく、緯糸が全てマルチフィラメント糸であることが特に好ましい。
【0032】
前記繊維布帛において、繊維布帛と樹脂層の密着性および可撓性積層体の軽量性を両立する観点から、経糸の繊度F1は、緯糸の繊度F2より大きいことが好ましく、経糸の繊度/緯糸の繊度(F1/F2)が1.1以上2.5以下であることがより好ましく、1.2以上2.2以下であることが特に好ましい。また、経糸は紡績糸100質量%からなり、緯糸はマルチフィラメント糸100質量%からなり、経糸となる紡績糸の繊度F1が、緯糸となるマルチフィラメント糸の総繊度F2より大きく、経糸の繊度/緯糸の繊度(F1/F2)が1.1以上2.5以下であることが好ましく、1.2以上2.2以下であることがより好ましい。なお、経糸や緯糸が異なる繊度の糸を複数使用している場合は、それぞれの方向(経方向や緯方向)を構成する糸において、その繊度の糸が占める本数の割合から求めた繊度を平均繊度として、その方向の糸状の繊度とする。例えば、糸密度が25.4mm(1インチ)あたりA(本)であり、繊度がD1(dtex)の糸が25.4mm(1インチ)あたりa(本)含まれており、繊度がD2(dtex)の糸が25.4mm(1インチ)あたりb(本)含まれている織布であれば、これらの糸で構成される方向の平均繊度(Dx)は、下記式(1)で求めることができる。
Dx(dtex)=D1×(a/A)+D2(b/A) (1)
【0033】
(樹脂層)
本発明において、基布となる繊維布帛の一方または両方の表面には、少なくとも1層の樹脂層が配置され、繊維布帛を被覆している。前記樹脂層は、繊維布帛の少なくとも一方の表面を被覆した防水性の樹脂層であればよく、樹脂の種類は特に限定されず、樹脂層の厚さも特に限定されない。また樹脂層は、種類の異なる樹脂層を積層する、具体的には、繊維布帛に接している樹脂層は、繊維布帛との密着性の高い樹脂層とし、最も外側の樹脂層には、耐候性を高めた樹脂層や難燃性の高い樹脂層を設ける、といった構成にしてもよい。本発明の可撓性積層体において、樹脂層の単位面積あたりの質量は、前記繊維布帛に質量に対し、0.5倍以上1.5倍以下(繊維布帛に対し、両表面に樹脂層が配置され繊維布帛を被覆している場合は、両表面の樹脂層の質量の合計と繊維布帛の比である。)であることが好ましい。樹脂層の単位面積あたりの質量は、可撓性積層体の目付(単位面積あたりの質量)から繊維布帛の目付(単位面積あたりの質量)を除くことで算出することができる。繊維布帛の単位面積あたりの質量に対し、樹脂層の単位面積あたりの質量が0.5倍以上であることで、繊維布帛の表面には強固な樹脂層が形成されるようになり、樹脂層と繊維布帛とが強固に接着するだけでなく、得られる可撓性積層体が高い防水性を有するものとなる。繊維布帛の単位面積あたりの質量に対し、樹脂層の単位面積あたりの質量が1.5倍以下であることで、得られる可撓性積層体は軽量性に優れ、トラック用シートや各種テント用幌として使用した場合、作業性に優れるものとなる。本発明の可撓性積層体において、樹脂層の単位面積あたりの質量は、前記繊維布帛に単位面積あたりの質量(目付)に対し、0.6倍以上1.3倍以下であることがより好ましく、0.7倍以上1.2倍以下であることがさらに好ましく、0.8倍以上1倍以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層は、繊維布帛と密着し、強固な防水性を発揮する樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を含む層であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系エラストマー、スチレン系共重合体、オレフィン系共重合体などを使用することができる。
【0035】
前記樹脂層に塩化ビニル系樹脂を使用する場合について説明する。樹脂層に塩化ビニル系樹脂を使用した場合、防水性に富むだけでなく、ある程度の難燃性を有する樹脂層を安価に形成することができる。ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体)は、ポリ塩化ビニルに汎用の可塑剤を含む組成物として用いることができ、必要に応じてこれらに、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、および/または塩化ビニル-ウレタン共重合体などの塩化ビニル系共重合体を併用したもの、またはこれらの塩化ビニル系共重合体と汎用可塑剤との組成物を用いることができる。
【0036】
前記樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として、塩化ビニル系樹脂を用いる場合、その配合には公知の軟質配合を用いることができる。塩化ビニル系樹脂によって構成される樹脂層を可撓性に優れた軟質な樹脂層にするため、可塑剤を使用するが、使用する可塑剤は特に限定されず、塩化ビニル系樹脂に使用されている公知の可塑剤、例えばフタル酸エステル系可塑剤、イソフタル酸エステル系可塑剤、テレフタル酸エステル系可塑剤、シクロヘキサンジカルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、塩素化パラフィン系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤などが使用できる。フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP、一般的にジオクチルフタレート(DOP)とも称される、)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、ジブチルフタレート(DBP、フタル酸ジブチルとも称される。)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)などが挙げられる。ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、またはフタル酸などのジカルボン酸と、エチレングリコール、1,2-ブタンジオール、または1,6-ヘキサンジオールなどのジオールとから合成されたものが例示される。エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどが例示される。塩素化パラフィン系可塑剤としては、例えば、パラフィンワックス、ノルマルパラフィンを原料とした可塑剤が挙げられ、市販されているものとして、味の素フィンテクノ株式会社から販売されている『エンパラ(登録商標)』、東ソー株式会社より販売されている『トヨパラックス(登録商標)』などを用いてもよい。これらの可塑剤は、1種を単独でも用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
塩化ビニル系樹脂に対し、前記可塑剤の好ましい使用例としては、塩化ビニル系樹脂(好ましくはペースト塩化ビニル樹脂)100質量部に対し、可塑剤を合計量で40質量部以上100質量部以下の割合で配合する処方が例示できる。このペースト塩化ビニルを主とする樹脂組成物を用いてディッピング加工やコーティング加工を行うことで、繊維布帛に対し、塩化ビニル系樹脂を含む樹脂層を積層することができる。前記ペースト塩化ビニルを主とする樹脂組成物は必要に応じて有機溶剤で希釈して液粘度を調整することができる。
【0038】
塩化ビニル系樹脂に対し、前記可塑剤の好ましい別の使用例としては塩化ビニル系樹脂(ペースト塩化ビニル樹脂を使用することもできるし、ストレート塩化ビニル樹脂を使用することもできる。)100質量部に対し、可塑剤を合計量で50質量部以上100質量部以下の割合で配合する処方も例示できる。このような塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物を用いて、カレンダー成型、T-ダイ押出成型など、公知の成型法によって塩化ビニル系樹脂のフィルムを成型し、得られた塩化ビニル系樹脂のフィルムを繊維布帛と積層、一体化することで繊維布帛に対し、塩化ビニル系樹脂を含む樹脂層を積層することができる。
【0039】
また、ストレート塩化ビニル樹脂またはペースト塩化ビニル樹脂100質量部に対し、可塑剤として合計量で40質量部以上140質量部以下の割合で配合する処方も例示できる。このような塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物などを用いて、カレンダー成型、T-ダイ押出成型など、公知の成型法によって塩化ビニル系樹脂のフィルムを成型し、得られた塩化ビニル系樹脂のフィルムを繊維布帛と積層、一体化することで繊維布帛に対し、塩化ビニル系樹脂を含む樹脂層を積層することができる。
【0040】
前記塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、滑剤、架橋剤、硬化剤、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤など公知の添加剤を配合できる。
【0041】
前記ポリウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を分子構造内に2個以上有するポリオール化合物の中から選ばれた1種以上と、イソシアネート基と反応する官能基を含有する化合物との付加重合反応によって得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用できる。ジイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、脂環式(水素添加物を包含する。)のジイソシアネート化合物が用いられるが、本発明においては、脂肪族、脂環式(水素添加物を包含する。)のジイソシアネート化合物を用いることが耐候性の観点において好ましい。ジイソシアネート化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネートなどを包含する。ヒドロキシル基を分子構造内に2個以上有するポリオール化合物としては、ジイソシアネート化合物と反応する量のヒドロキシル基を含有するもの、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジヒドロキシポリエチレンアジペート、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールなどが用いられる。前記ポリウレタン系樹脂の具体例としては、用いるポリオールの種類に応じて、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂といったものを例示することができる。
【0042】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層にポリエステル系エラストマーを使用する場合、使用できるポリエステル系エラストマーとしては、高融点の結晶性ポリエステルセグメント(以下、セグメントAとも称す。)と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(以下、セグメントBとも称す。)とからなるブロック共重合体などを挙げることができる。前記セグメントA(結晶性ポリエステルセグメント)は、ジカルボン酸と、ジオールとの重合によって得られるポリエステル構造であり、ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが用いられる。ジオール成分としては、例えば、炭素原子数が2~12の脂肪族ジオールおよび脂環族ジオールなどがあげられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、および1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。前記セグメントB(低融点重合体セグメント)を構成する脂肪族ポリエーテル単位としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール、およびこれらの共重合体のグリコールなどが包含され、また、セグメントBを構成する脂肪族ポリエステル単位としては、ポリε-カプロラクトン、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどを例示することができる。
【0043】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層にスチレン系共重合体を使用する場合、使用できるスチレン系共重合体としては、A-B-A型スチレンブロック共重合(このとき、前記Aは、スチレン重合体ブロック、Bは、ブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、もしくはビニルイソプレン重合体ブロックを表す。)、A-B型スチレンブロック共重合体(AとBは、上記と同義である。)、スチレンランダム共重合体および、これらのスチレン系共重合体の水素添加樹脂(二重結合を水素置換したもの)などが用いられる。これら共重合体の市販品としては、例えば、クレイトンポリマージャパン株式会社より販売されているスチレン系ブロック共重合体『クレイトンG』(登録商標)、旭化成株式会社より販売されているスチレン系ブロック共重合体『タフテック』(登録商標)、株式会社クラレより販売されているスチレン系ブロック共重合体『ハイブラー』(登録商標)および『セプトン』(登録商標)、JSR株式会社より販売されているスチレン系ランダム共重合体『ダイナロン』(登録商標)などが挙げられる。
【0044】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層にオレフィン系共重合体を使用する場合、使用できるオレフィン系共重合体としては、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、プロピレン系共重合体などの共重合体が例示される。エチレン-α-オレフィン共重合体としては、具体的には、チーグラー・ナッタ系触媒、あるいはメタロセン系触媒の存在下、エチレンと、炭素原子数が3~18のα-オレフィンとを共重合して得られるエチレン-α-オレフィン共重合体などが挙げられる。前記α-オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、およびデセン-1などが挙げられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、エチレンモノマーと酢酸ビニルモノマーとをラジカル共重合して製造され、酢酸ビニル成分量が好ましくは6質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下であるエチレン系共重合体が用いられる。また、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体としては、エチレンモノマーと、(メタ)アクリル酸モノマーとのラジカル共重合によって製造され、かつ(メタ)アクリル酸成分量が好ましくは6質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレンモノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとのラジカル共重合によって製造され、(メタ)アクリル酸エステル成分を好ましくは6質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下含有するエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体など、およびこれらの共重合体の2種類以上の混合物からなるエチレン系共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよび/またはメタアクリル酸エステルを意味し、より具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどを包含する。プロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン-プロピレン系共重合エラストマー(リアクターアロイ)、およびプロピレン-エチレン・プロピレン・非共役ジエン系共重合エラストマー(リアクターアロイ)などが挙げられ、これらはランダム共重合体、あるいはブロック共重合体の何れの共重合体であってもよい。これらのプロピレン系共重合体には、スチレン系共重合体の任意量をブレンドしてプロピレン系共重合体の柔軟化を図ることができる。
【0045】
本発明の可撓性積層体において、繊維布帛の表面上に樹脂層を形成する方法は、繊維布帛に強固に密着し、高い防水性、耐水性を有する樹脂層を形成できる方法であれば、限定されない。例えば、繊維布帛に対し、前記塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系エラストマー、スチレン系共重合体、およびオレフィン系共重合体からなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂に、難燃性付与剤を配合した熱可塑性樹脂組成物を、カレンダー成型法、およびT-ダイ押出成型法など公知のフィルム・シート成型法に供して製造することができる。また、前記熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、着色剤、滑剤、発泡剤、帯電防止剤、界面活性剤、架橋剤、硬化剤、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤など公知の添加剤を配合できる。
【0046】
本発明において、繊維布帛との密着性および防水性を高める観点から、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系エラストマー、スチレン系共重合体、およびオレフィン系共重合体からなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂を水系溶剤や有機溶剤などの溶剤に分散させた分散樹脂(エマルジョン、ディスパージョン)を、繊維布帛の一方または両方の表面上に塗布して、乾燥する方法、または前記熱可塑性樹脂を塗料形態にて繊維布帛の一方または両方の表面上に塗布して乾燥する方法により、樹脂層を形成する方法が好ましい。前記分散樹脂を繊維布帛の一方または両方の表面上に塗布する方法は特に限定されず、公知の方法、例えば、ディッピング法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、ナイフコート法、キスコート法、フローコート法などが挙げられる。この中でも、繊維布帛の両表面に一度に樹脂層を形成できること、樹脂組成物を溶媒に分散させた分散液に繊維布帛を含浸した後、余剰の樹脂組成物を絞り落とす際の圧力を調整したりすることで樹脂層の厚さが容易に調整でき、均一な樹脂層を形成しやすいことからディッピング法で樹脂層を形成することが好ましい。
【0047】
本発明において、上述した熱可塑性樹脂に可塑剤、各種機能剤を添加した樹脂組成物を各種溶媒に分散させた後、前記分散液を繊維布帛に塗布することで繊維布帛の一方または両方の表面を被覆する1層以上の樹脂層を形成してもよく、前記樹脂組成物をフィルム状にして繊維布帛に積層、一体化させることで繊維布帛の一方または両方の表面を被覆する1層以上の樹脂層を形成してもよいが、好ましくは、熱可塑性樹脂として塩化ビニル系樹脂を使用し、可塑剤として少なくともフマル酸系可塑剤を含む樹脂組成物を繊維布帛に対し、ディッピング法で含侵させ、繊維布帛の両表面上に樹脂層を形成することが好ましい。樹脂層を形成する樹脂組成物としてフマル酸系可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を使用することで、容易に、かつ安価に難燃性や耐久性の高い樹脂層を繊維布帛上に設けることができる。
【0048】
本発明において、繊維布帛を被覆する樹脂層が、フマル酸系可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物で構成されている場合、塩化ビニル系樹脂の耐光性、耐紫外線耐久性を向上させるため、塩化ビニル系樹脂組成物はさらに安定剤を含むことが好ましい。安定剤を含む樹脂組成物とすることで、得られる塩化ビニル系樹脂を含む樹脂層は紫外性に対する耐久性が向上し、長期間の屋外での使用に耐えられるものとなる。前記安定剤としては塩化ビニル系樹脂の安定剤として使用されている公知の安定剤であれば特に限定されることなく使用でき、具体的にはカルシウム-亜鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛有機複合体系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、カドミウム-バリウム系安定剤などを使用することができる。これらの安定剤を単独あるいは2種以上混合したものを塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、通常0.1質量部以上10質量部以下の割合となるよう使用すると好ましい。
【0049】
本発明において、繊維布帛を被覆する樹脂層が、フマル酸系可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物で構成されている場合、塩化ビニル系樹脂の耐光性、耐紫外線耐久性を向上させるため、塩化ビニル系樹脂組成物はさらに紫外線吸収剤を含むことが好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物が安定剤や紫外線吸収剤を含む樹脂組成物であると、日光が直接当たる環境下でも長期間使用しやすくなるため、可撓性積層体がトラック用シート、各種テント用幌、テント倉庫のシート材といった用途に対し、特に適したものとなる。前記紫外線吸収剤としては塩化ビニル系樹脂の紫外線吸収剤として使用されている公知の紫外線吸収剤であれば特に限定されることなく使用でき、具体的にはベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、シアノアクリレート系の紫外線吸収剤、サリシレート系の紫外線吸収剤などが挙げられる。ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′テトラヒドロキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、例えば、(2′-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。シアノアクリレート系の紫外線吸収剤としては、例えば、エチル2-シアノ3,3′ジフェニルアクリレートなどを挙げることができる。サリシレート系の紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレートなどを挙げることができる。これらの紫外線吸収剤を単独あるいは2種以上混合したものを、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、通常0.5質量部以上5質量部以下の割合となるよう使用することができる。
【0050】
本発明の可撓性積層体は、目付が450g/m2未満であるが、軽量性を高め、より製品重量の軽い防水性製品を得るという観点から、目付が440g/m2以下であることが好ましく、430g/m2以下であることがより好ましく、420g/m2以下であることがさらに好ましく、410g/m2以下であることが特に好ましく、400g/m2未満であることが最も好ましい。また、本発明において、可塑性積層体は、目付が300g/m2以上であれば、強度および耐久性が良好になる。可塑性積層体は、目付が310g/m2以上であることが好ましく、320g/m2以上であることがより好ましく、330g/m2以上であることがさらに好ましく、350g/m2以上であることが最も好ましい。
【0051】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層の付着量(即ち、単位面積あたりの樹脂層のみの質量であり、樹脂層が繊維布帛の両表面に配置されている場合はその合計となる。)は特に限定されないが、繊維布帛に対し、樹脂組成物の付着量が120g/m2以上250g/m2以下であることが好ましい。繊維布帛に対する樹脂組成物の付着量が120g/m2以上であることで、樹脂層が強固に繊維布帛に密着するだけでなく、樹脂層の防止性、耐久性が十分なものとなる。繊維布帛に対する樹脂組成物の付着量が250g/m2以下であることで、得られる可撓性積層体は軽量で可撓性、柔軟性、製品の取り扱い性に優れたものとなる。繊維布帛に対する樹脂組成物の付着量は140g/m2以上220g/m2以下であることがより好ましく、150g/m2以上200g/m2以下であることが特に好ましく、160g/m2以上190g/m2以下であることが最も好ましい。
【0052】
本発明の可撓性積層体において、樹脂層を構成する熱可塑性樹脂に対し、様々な機能剤を添加することで可撓性積層体に対し、所望の機能を付与できる。前記機能剤といては特に限定されず、例えば、用途などに応じて、所望の機能剤、具体的には、難燃剤、着色剤(顔料などを含む)、帯電防止剤、界面活性剤、撥水剤、架橋剤、硬化剤、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤、防虫剤といった機能剤を添加することができる。前記難燃剤は特に限定されず、公知の難燃剤、具体的には、リン含有化合物、窒素含有化合物、無機系化合物、臭素系化合物などを使用することができる。難燃剤の添加量は特に限定されないが、樹脂層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対し、難燃剤5質量部以上200質量部以下、より好ましくは10質量部以上100質量部以下の割合となるよう添加することが好ましい。前記難燃剤のより具体的な例を挙げると、リン含有化合物の難燃剤の例としては、赤リン、リン酸エステル系化合物、芳香族リン酸エステル化合物、芳香族リン酸エステル化合物のオリゴマー状縮合体、(金属)リン酸塩、(金属)有機リン酸塩、ポリリン酸アンモニウム、熱硬化樹脂表面被覆ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミンなどが挙げられる。窒素含有化合物の難燃剤としては、(イソ)シアヌレート誘導体、(イソ)シアヌル酸誘導体、グアニジン誘導体、尿素誘導体などが挙げられる。無機系化合物の難燃剤としては金属酸化物(三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化モリブデン)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、金属複合酸化物(ジルコニウム-アンチモン複合酸化物)、金属複合水酸化物(ヒドロキシ錫酸亜鉛)などが挙げられる。臭素系化合物の難燃剤としては、ビストリブロモフェノキシエタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビスペンタブロモフタルイミドを用いることができる。
【0053】
本発明の可撓性積層体を構成する樹脂層は、各種顔料等を用いて着色されていることが、美観上および景観上好ましい。例えば、繊維布帛を被覆する樹脂層のうち、最も外側の層を白、パステル色などに着色すると、得られた可撓性積層体に対し、二次加工で文字や絵柄をプリントする場合の自由度が高く、色映えにも優れる。また、濃緑色、濃青色、濃灰色、黒色といった濃色に着色した樹脂を使用して樹脂層を形成すると、遮光性に優れた可撓性積層体となり、トラック用シートや野積みシートに適した可撓性積層体となる。樹脂層への着色は、公知の無機系顔料および有機系顔料から選んで任意に組み合わせ、熱可塑性樹脂に均一分散させることによって色の種類を充実させることができる。前記無機系顔料としては、例えば、金属酸化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、クロム酸金属塩、カーボンブラック、スピネル型構造酸化物、ルチル型構造酸化物、アルミニウム粉顔料、ブロンズ粉、ニッケル粉、ステンレス粉、パール顔料などが挙げられる。また、有機系顔料としては、例えば、アゾ系顔料、(不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、金属錯塩アゾ顔料)、フタロシアニン顔料(フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン)、染付けレーキ顔料(酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料)、縮合多環系顔料(アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、イソインドリン系顔料)、その他ニトロソ顔料、アリザリンレーキ顔料、金属錯塩アゾメチン顔料、アニリン系顔料などが挙げられる。
【0054】
(防水性製品)
本発明の可撓性積層体は、軽量性、防水性および耐久性に優れることから、防水性製品として好適に用いることができる。防水性製品としては、例えば、自動車用キャンバストップ、トラック幌、トラック用シートなど車両用の各種防水性シート、小型から大型まで各種テント用シート、野積み用シート、テント倉庫用のシート、農業用シート、各種産業資材用途に使用されるシートまたは膜材として好適に使用することができる。特にトラック用シートにおいては耐久性を維持しつつ軽量化が図れることで荷物の積み降ろしを行う作業者の疲労を低減し、作業効率の向上に寄与できる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【0056】
実施例および比較例に用いた試験方法は下記の通りである。
【0057】
(目付)
JIS L 1096 (2010年) 8.3.2 A法(JIS法)に基づき測定した。
【0058】
(厚さ)
JIS L 1096 (2010年) 8.4 A法(JIS法)に基づき測定した。
【0059】
(密度)
前記方法で求めた目付および厚さから可撓性積層体の密度を算出した。
【0060】
(打ち込み密度(糸密度))
可撓性積層体の基布である繊維布帛について、織布の経糸および緯糸の打ち込み密度(糸密度))は、JIS L 1096(2010年) 8.6.1(A法 JIS法)に準じて測定した。
【0061】
(引張強さおよび伸び率)
可撓性積層体の引張強さおよび伸び率は、縦方向(MD方向とも称される。)および横方向(CD方向とも称される。)について、JIS L 1096 (2010年) 8.14.1 JIS法(A法 ストリップ法)に準じて測定した。
【0062】
(引裂強さ)
可撓性積層体の引裂強さは、縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)について、JIS L 1096 (2010年) 8.17.1 A法(シングルタング法)に準じて測定した。
【0063】
(もみ試験)
可撓性積層体の使用時における耐久性を評価するため、もみ試験を行った。もみ試験はJIS K 6404-4(2015年)6.もみ試験 に準じてスコット形もみ試験機を使用して行った。このときスコット型試験器の押圧力を29.4Nとし、200回もんだ後の試料表面を肉眼で観察し、樹脂層が繊維布帛から剥離していたり、樹脂層に亀裂が発生したりしていないか確認し、樹脂層の剥離や亀裂が認められなかったものは耐久性が良好と判断し、樹脂層の剥離および/または亀裂が肉眼で確認できたものは耐久性が不良と判断した。
【0064】
実施例および比較例では下記の糸を用いた。
紡績糸1:ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維紡績糸。英式綿番手で20番手のポリエステル短繊維紡績糸を2本撚り合わせた双糸であり、双糸の番手は10番手、総繊度は約590.5dtexである。
マルチフィラメント糸1:ポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント糸。単糸繊度約3.1デニール(3.5dtex)、フィラメント数96本、総繊度300デニール(333.3dtex)、繊維径175μm。
マルチフィラメント糸2:ポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント糸。単糸繊度約4.9デニール(5.4dtex)、フィラメント数96本、総繊度470デニール(522.2dtex)、繊維径220μm。
マルチフィラメント糸3:ポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント糸。単糸繊度約5.2デニール(5.8dtex)、フィラメント数48本、総繊度250デニール(277.8dtex)、繊維径160μm。
【0065】
(実施例1)
経糸として紡績糸1を用い、緯糸としてマルチフィラメント糸1を用い、長尺平織物を作製した。経糸の糸密度は54本/25.4mmであり、緯糸の糸密度は48本/25.4mmであった。得られたポリエステル平織物は、経糸が紡績糸1のみからなり、緯糸がマルチフィラメント糸1のみからなる平織物であり、目付は205g/m2、平織物の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量は66.6質量%、マルチフィラメント糸の含有量は33.4質量%であった。
【0066】
次に、下記の表1に示す配合になるよう調製した塩化ビニル系樹脂組成物を溶剤(トルエン)に分散させた分散樹脂液槽の中に平織物を浸漬し、ディッピング法で平織物の両表面に樹脂層を形成した。具体的には、平織物を分散樹脂液槽に浸漬した後、マングルロールで圧搾して余分な塩化ビニル系樹脂組成物を除いた後、150℃で1分間のセミゲル化を行い、続けて185℃で1分間の熱処理を行い、塩化ビニル樹脂の溶融固化による平織物との接着を行い、可撓性積層体を得た。得られた可撓性積層体は、基布となるポリエステル平織物に対し、塩化ビニル系樹脂組成物が185g/m2の割合で付着しており、可撓性積層体全体の目付(繊維布帛+樹脂層)は390g/m2であった。
【0067】
【0068】
(実施例2)
紡績糸1とマルチフィラメント糸2を用いて長尺平織物を作製した。経糸として紡績糸1を用い、緯糸としてマルチフィラメント糸2を用い、長尺平織物を作製した。経糸の糸密度は56.5本/25.4mmであり、緯糸の糸密度は42.8本/25.4mmであった。得られたポリエステル平織物は、経糸が紡績糸1のみからなり、緯糸がマルチフィラメント糸2のみからなる平織物であり、目付は217g/m2、この平織物の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量は59.9質量%、マルチフィラメント糸の含有量は40.1質量%であった。
【0069】
得られたポリエステル平織物に対し、実施例1の可撓性積層体を製造する際に用いた塩化ビニル系樹脂組成物と同じ塩化ビニル系樹脂組成物を溶剤(トルエン)に分散させた分散樹脂液槽の中に平織物を浸漬させ、同じ条件で処理をすることで可撓性積層体を得た。得られた可撓性積層体は、基布であるポリエステル平織物に対し、塩化ビニル系樹脂組成物が183g/m2の割合で付着しており、可撓性積層体全体の目付(繊維布帛+樹脂層)は400g/m2であった。
【0070】
(実施例3)
経糸として紡績糸1を用い、緯糸としてフィラメント糸1を用い、長尺平織物を作製した。このとき経糸の糸密度は54本/25.4mmであり、緯糸の糸密度は48本/25.4mmである。得られたポリエステル平織物は、経糸が紡績糸1のみからなり、緯糸がマルチフィラメント糸1のみからなる平織物であり、目付は205g/m2、この平織物の質量を100質量%としたとき、紡績糸の割合は66.6質量%、マルチフィラメント糸の割合は33.4質量%であった。
【0071】
得られたポリエステル平織物に対し、実施例1の可撓性積層体を製造する際に用いたポリ塩化ビニル系樹脂組成物と同じ塩化ビニル系樹脂組成物を溶剤(トルエン)に分散させた分散樹脂液槽の中に平織物を浸漬させた。浸漬後、マングルロールで圧搾する際、実施例1の条件よりもマングルロールの圧を高め、繊維布帛表面に形成される樹脂層の厚みが薄くなるように調整したこと以外は、実施例1と同じ条件で処理を行い、可撓性積層体を得た。得られた可撓性積層体は、基布であるポリエステル平織物に対し、塩化ビニル系樹脂組成物が148g/m2の割合で付着しており、可撓性積層体全体の目付(繊維布帛+樹脂層)は353g/m2であった。
【0072】
(実施例4)
可撓性積層体の基布となる繊維布帛について、前記紡績糸1とマルチフィラメント糸3を用いて長尺平織物を作製した。経糸として紡績糸1を用い、緯糸としてマルチフィラメント糸3を用いた。経糸の糸密度は56本/25.4mmであり、緯糸の糸密度は50本/25.4mmであった。得られたポリエステル平織物は、経糸が紡績糸1のみからなり、緯糸がマルチフィラメント糸3のみからなる平織物であり、目付は195g/m2、この平織物の質量を100質量%としたとき、紡績糸の割合は70.4質量%、マルチフィラメント糸の割合は29.6質量%であった。
【0073】
得られたポリエステル平織物に対し、実施例1の可撓性積層体を製造する際に用いた塩化ビニル系樹脂組成物と同じ塩化ビニル系樹脂組成物を溶剤(トルエン)に分散させた分散樹脂液槽の中に平織物を浸漬させた。浸漬後、マングルロールで圧搾する際、実施例1の条件よりもマングルロールの圧を高め、繊維布帛表面に形成される樹脂層の厚みが薄くなるように調整したこと以外は、実施例1と同じ条件で処理を行い、可撓性積層体を得た。得られた可撓性積層体は、基布であるポリエステル平織物に対し、塩化ビニル系樹脂組成物が143g/m2の割合で付着しており、可撓性積層体全体の目付(繊維布帛+樹脂層)は338g/m2であった。
【0074】
(比較例1)
市販されている可撓性積層体を比較例1とした。具体的には、経糸、緯糸共に紡績糸1を使用した平織りの基布に対し、塩化ビニル系樹脂組成物を含む樹脂層を両面に形成した帆布(重布)を比較例1とした。比較例1の帆布は目付が450g/m2であった。
【0075】
(比較例2)
市販されている可撓性積層体を比較例2とした。具体的には、経糸、緯糸共にマルチフィラメント3を使用した平織りの基布に対し、塩化ビニル樹脂系組成物を含む樹脂層を両面に形成したターポリンを比較例2とした。比較例2のターポリンは目付が374g/m2であった。
【0076】
得られた実施例1~4の可撓性積層体、および市販されている比較例1、2の可撓性積層体について前記の方法で引張り強さ、伸び率、引裂強さ、およびスコット形試験機を使用したもみ試験を行った。その結果を下記表2に示した。
【0077】
【0078】
実施例1~4の可撓性積層体は、いずれも目付が450g/m2未満となっており、従来の経糸、緯糸共に紡績糸を使用した可撓性積層体を基布とする比較例1と比較して、単位面積あたり10%~25%軽量化されていることが分かる。加えて、比較例1の可撓性積層体と実施例1~4の可撓性積層体を比較すると、実施例1~4の可撓性積層体は、引張強さ、引裂強さ、および伸び率はいずれも比較例1の可撓性積層体と同等の値となっており、本発明の可撓性積層体は、基布となる繊維布帛において、紡績糸およびマルチフィラメント糸をそれぞれ適度な割合で含む織物にすることで、繊維布帛に対し、樹脂層が適度に含浸することで、可撓性積層体が軽量なものになるだけでなく、得られる可撓性積層体の強度及び柔軟性も維持できるようになっている。
【0079】
経糸、緯糸共にマルチフィラメント糸を使用した平織物を基布とする比較例2の可撓性積層体は、比較例1の経糸、緯糸共に紡績糸を使用した平織物を基布とする可撓性積層体と比較して大幅に軽量化されている。しかし、基布を構成するマルチフィラメント糸に微小な毛羽が存在しないことから塩化ビニル系樹脂組成物を含む樹脂層との密着性が弱いため、もみ試験において、樹脂層に亀裂やひび割れ、樹脂層の剥離が発生した。一方、実施例1~4の可撓性積層体はもみ試験において、樹脂層に亀裂やひび割れ、樹脂層の剥離が生じていなかった。これは、実施例1~4の可撓性積層体が、それを構成する繊維布帛に紡績糸を55質量%以上含んでいることから、紡績糸が有する微小な毛羽によって樹脂組成物が繊維布帛の内部に含浸するだけでなく、毛羽によって樹脂層との間に係止効果が発生し、繊維布帛と樹脂層との密着性が高くなったためと考えられる。
【0080】
実施例1の可撓性積層体を使用して、2トントラックの荷台の大きさに合わせたトラック用シート(幅約2m、長さ約3.5m、約7m2)を作製した。市販されている汎用トラック用シート(幅約2m、長さ約3.5m、約7m2)は、目付が約550g/m2の可撓性積層体を使用しているため、製品重量が約4kgであったが、実施例1の可撓性積層体を使用したトラック用シートは、製品重量が約2.9kgとなっており、汎用のトラックシートと比較して20%以上の軽量化を図ることができた。また、実施例1の可撓性積層体を用いたトラックシートは軽く、柔軟性にも優れているため、荷物に対して被せやすく、作業性も良好であった。
【0081】
本発明は、特に限定されないが、例えば、下記の実施形態を含むことができる。
[1] 基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、
前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、
前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、
前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下であり、
前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満であることを特徴とする、可撓性積層体。
[2] 前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含む、[1]に記載の可撓性積層体。
[3] 前記繊維布帛は、単位面積あたりの質量が140g/m2以上250g/m2以下である、[1]または[2]に記載の可撓性積層体。
[4] 前記樹脂層の単位面積あたりの質量は、前記繊維布帛の単位面積当たりの質量の0.5倍以上1.5倍以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の可撓性積層体。 [5] 前記紡績糸およびマルチフィラメント糸は、セルロース系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル繊維およびビニロン繊維からなる群から選ばれる1つ以上の繊維を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の可撓性積層体。
[6] 前記紡績糸は、英式綿番手で5番手以上40番手以下であり、
前記マルチフィラメント糸は、単糸繊度が1.0dtex以上10dtex以下、フィラメント数が20本以上250本以下、総繊度が100dtex以上2000dtex以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の可撓性積層体。
[7] 前記繊維布帛において、経糸の打ち込み密度が25.4mmあたり30本以上120本以下であり、緯糸の打ち込み密度が25.4mmあたり25本以上100本以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の可撓性積層体。
[8] 前記繊維布帛において経糸の打ち込み密度が緯糸の打ち込み密度より大きく、経糸の打ち込み密度と緯糸の打ち込み密度の比(経糸の打ち込み密度/緯糸の打ち込み密度)が1より大きく、1.5以下である、[7]に記載の可撓性積層体。
[9] 前記樹脂層が、塩化ビニル系樹脂組成物、ポリウレタン系樹脂組成物、ポリエステル系エラストマー組成物、ポリスチレン系共重合体組成物およびオレフィン系共重合体組成物からなる群から選ばれる1つ以上の樹脂組成物を含む、[1]~[8]に記載の可撓性積層体。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の可撓性積層体を含む防水性製品であり、 前記防水性製品は、トラック用シート、野積み用シート、テント用膜材および農業用シートからなる群から選ばれる1つ以上を含む、防水性製品。
[11] 基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体の製造方法であって、
前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、
前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、
前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下である繊維布帛に対し、
前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に1層以上の樹脂層を形成させ、目付が300g/m2以上450g/m2未満である可撓性積層体を得る可撓性積層体の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の可撓性積層体は、例えば、自動車用キャンバストップ、トラック幌、トラック用シートなど車両用の各種防水性シート、小型から大型まで各種テント用シート、野積み用シート、テント倉庫用のシート、農業用シート、各種産業資材用途に使用されるシートまたは膜材などの防水性製品に好適に使用することができる。