(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】テープ巻き絶縁電線及びコイル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240920BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20240920BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H01B7/02 H
H01F5/06 H
H01F5/06 S
H01F27/28 123
(21)【出願番号】P 2023205248
(22)【出願日】2023-12-05
【審査請求日】2023-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 正
(72)【発明者】
【氏名】林 重雄
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-274453(JP,A)
【文献】実開昭60-129853(JP,U)
【文献】国際公開第2021/176816(WO,A1)
【文献】特開2002-006654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01F 5/06
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、導体の外周に絶縁被覆とを有する絶縁電線であって、前記絶縁被覆は、2つ~5つの絶縁テープで重ね巻された複数の絶縁層で構成され、
前記絶縁被覆が、前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合において、前記個々の絶縁層の巻き数の合計は、前記個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であり、又は、前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合において、前記個々の絶縁層の巻き数の合計は、前記個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下であり、前記個々の絶縁層が2層~5層の場合のいずれにおいても前記巻き数の整数部分は
2~4の範囲である
又は前記個々の絶縁層が2層~5層の場合における一部の層の前記巻き数の整数部分が1であり残りの層の前記巻き数の整数部分が2~4の範囲である、ことを特徴とするテープ巻き絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁被覆が前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合において、第1の絶縁テープでの巻き数をs.α重巻きと表し、第2の絶縁テープでの巻き数をt.β重巻きと表し、第3の絶縁テープでの巻き数をu.γ重巻きと表したとき、前記整数部分の合計は、前記絶縁層が2層の場合はs+tとなり、前記絶縁層が3層の場合はs+t+uとなり、小数部分の合計は、前記絶縁層が2層の場合はα+βとなり、前記絶縁層が3層の場合はα+β+γとなり、該小数部分の合計は1.0以下である、請求項1に記載のテープ巻き絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁被覆が前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合において、第1の絶縁テープでの巻き数をs.α重巻きと表し、第2の絶縁テープでの巻き数をt.β重巻きと表し、第3の絶縁テープでの巻き数をu.γ重巻きと表し、第4の絶縁テープでの巻き数をv.δ重巻きと表し、第5の絶縁テープでの巻き数をw.ε重巻きと表したとき、前記整数部分の合計は、前記絶縁層が4層の場合はs+t+u+vとなり、前記絶縁層が5層の場合はs+t+u+v+wとなり、小数部分の合計は、前記絶縁層が4層の場合はα+β+γ+δとなり、前記絶縁層が5層の場合はα+β+γ+δ+εとなり、該小数部分の合計は2.0以下である、請求項1に記載のテープ巻き絶縁電線。
【請求項4】
前記2つ~5つの絶縁テープのいずれか1又は2以上の絶縁テープは、片面に接着層が設けられて
おり、前記絶縁テープの厚さが0.002~0.1mmである、請求項1~
3のいずれか1項に記載のテープ巻き絶縁電線。
【請求項5】
前記複数の絶縁テープのうち最後に巻かれる絶縁テープは、融着層が外向きの面に設けられて
おり、前記絶縁テープの厚さが0.002~0.1mmである、
請求項1~
3のいずれか1項に記載のテープ巻き絶縁電線。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とするコイル。
【請求項7】
請求項
4に記載のテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とするコイル。
【請求項8】
請求項
5に記載のテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とするコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源トランス等の電子部品のコイルに用いられるテープ巻き絶縁電線及びコイルに関し、さらに詳しくは、絶縁被覆の厚さが同じであっても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができ、又は、絶縁被覆の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる、テープ巻き絶縁電線、及びそのテープ巻き絶縁電線で形成したコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
トランス、インダクタンス、チョークコイル等の電子部品では、占積率を高めるため、IEC等の安全規格における強化絶縁となる三層絶縁電線を用いることがある(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、絶縁層が3層の押出被覆層で形成され、絶縁層の厚みを薄くしても、半田付け性,耐熱性,層間剥離性,電気絶縁性がIEC規格を満足する多層絶縁電線が提供されている。この多層絶縁電線は、1層目の絶縁層を機械的強度や軟化温度が高いポリアミド樹脂で形成しているので、コイル加工時の巻張力やコイル使用時の導体発熱に起因する絶縁層のつぶれ現象が導体表面にまで波及しなくなり、そのため、3層の押出被覆層の合計厚さを100μm以下としても、コイル巻線として使用したときに、コイルの占積率を高めることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、トランスのコイル巻線の占積率の更なる向上による高効率化と小型化が望まれている。しかし、上記した従来の3層の押出被覆層は、一層の被覆厚さは30μm程度が限界であり、被覆厚さをより薄くして占積率を高めることが難しかった。一方、押出被覆層に代わる絶縁テープを巻いたテープ巻き絶縁被覆も行われているが、テープ材質による被覆強度と厚さより、10μm程度のテープ厚さが限界であった。しかし、薄い厚さのテープでは絶縁性能を十分に満足させることができなかった。こうした従来のコイル巻線用絶縁電線では、高い耐電圧を確保した上で厚さを薄くすることが難しく、コイルの占積率を高めたコイルの小型化が十分に実現できていなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、絶縁被覆の厚さが同じであっても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができ、又は、絶縁被覆の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる、テープ巻き絶縁電線、及びそのテープ巻き絶縁電線で形成したコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るテープ巻き絶縁電線は、導体と、導体の外周に絶縁被覆とを有する絶縁電線であって、前記絶縁被覆は、2つ~5つの絶縁テープで重ね巻された複数の絶縁層で構成され、
前記絶縁被覆が、前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合において、前記個々の絶縁層の巻き数の合計は、前記個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であり、又は、前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合において、前記個々の絶縁層の巻き数の合計は、前記個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下であり、前記個々の絶縁層が2層~5層の場合のいずれにおいても前記巻き数の整数部分は1~4の範囲である、ことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、導体の外周に2つ~5つの絶縁テープで重ね巻された複数の絶縁層で構成される絶縁被覆を有するが、その絶縁被覆は、個々の絶縁層の層数を2層又は3層とした場合にその個々の絶縁層の巻き数の合計が個々の絶縁層の巻き数の整数部分(1~4の範囲)の合計に1を加えた総数以下とし、個々の絶縁層の層数を4層又は5層とした場合にその合計が個々の絶縁層の巻き数の整数部分(1~4の範囲)の合計に2を加えた総数以下としたので、個々の絶縁テープで重ね巻きした際の周回の重なる整数部分の端数となる小数部分の合計を1.0以下又は2.0以下とすることができる。こうしたことにより、絶縁被覆の合計厚さを薄くすることができ、得られた絶縁電線を細径化することができる。その結果、コイルを製造した際の占積率を向上させることができる。
【0009】
また、前記した小数部分の合計が1以下又は2以下となることで、個々の絶縁テープで重ね巻きした際の周回の重なる整数部分の巻き数を十分に確保できる。その結果、従来の絶縁電線と比較して絶縁被覆の厚さが同じであっても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができ、又は、絶縁被覆の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる。また、小数部分が1.0以下又は2.0以下となることで細径化に有利であるが、整数部分の合計からなる実質的な巻き数(以下「最小巻き数」という。)の観点からは、最小巻き数を1又は2つ多くすることができ、絶縁破壊電圧を高めることができる。なお、絶縁破壊電圧を高くすることができるので、絶縁破壊電圧が同等レベルで十分であれば、絶縁被覆を薄くして絶縁電線の細径化とコイルの占積率向上に寄与できる。
【0010】
こうしたテープ巻き絶縁電線により、絶縁破壊電圧を同等又は向上させ、柔軟でコイル巻き線性に優れ、占積率を高めてコイルを小型化することができる。また、絶縁被覆を薄くできるので、絶縁電線の熱抵抗が下がり放熱性が高くなって絶縁電線の温度を下げることができる。
【0011】
(2)上記した(1)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合において、第1の絶縁テープでの巻き数をs.α重巻きと表し、第2の絶縁テープでの巻き数をt.β重巻きと表し、第3の絶縁テープでの巻き数をu.γ重巻きと表したとき、前記整数部分の合計は、前記絶縁層が2層の場合はs+tとなり、前記絶縁層が3層の場合はs+t+uとなり、小数部分の合計は、前記絶縁層が2層の場合はα+βとなり、前記絶縁層が3層の場合はα+β+γとなり、該小数部分の合計は1.0以下である。この場合において、個々の絶縁層が2層の場合は、前記した第3の絶縁テープは使用しない。
【0012】
(3)上記した(2)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記絶縁テープが2つの場合、前記整数部分の合計が2~8で、前記小数部分の合計が1.0以下で、合計の総数が2.0~9.0であり、前記絶縁テープが3つの場合、前記整数部分の合計が3~12で、前記小数部分の合計が1.0以下で、合計の総数が3.0~13.0である。
【0013】
(4)上記した(1)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合において、第1の絶縁テープでの巻き数をs.α重巻きと表し、第2の絶縁テープでの巻き数をt.β重巻きと表し、第3の絶縁テープでの巻き数をu.γ重巻きと表し、第4の絶縁テープでの巻き数をv.δ重巻きと表し、第5の絶縁テープでの巻き数をw.ε重巻きと表したとき、前記整数部分の合計は、前記絶縁層が4層の場合はs+t+u+vとなり、前記絶縁層が5層の場合はs+t+u+v+wとなり、小数部分の合計は、前記絶縁層が4層の場合はα+β+γ+δとなり、前記絶縁層が5層の場合はα+β+γ+δ+εとなり、該小数部分の合計は2.0以下である。この場合において、個々の絶縁層が4層の場合は、前記した第5の絶縁テープは使用しない。
【0014】
(5)上記した(4)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記整数部分の合計が4~16で、前記小数部分の合計が2.0以下で、合計の総数が4.0~18.0であり、前記絶縁テープが5つの場合、前記整数部分の合計が5~20で、前記小数部分の合計が2.0以下で、合計の総数が5.0~22.0である。
【0015】
(6)上記した(1)~(5)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記2つ~5つの絶縁テープのいずれか1又は2以上の絶縁テープは、接着層が設けられていてもよい。
【0016】
(7)上記した(1)~(5)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線において、前記複数の絶縁テープのうち最後に巻かれる絶縁テープは、融着層が外向きの面に設けられていることが好ましい。
【0017】
(8)本発明に係るコイルは、上記した(1)~(5)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とする。
【0018】
(9)本発明に係るコイルは、上記した(6)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とする。
【0019】
(10)本発明に係るコイルは、上記した(7)の本発明に係るテープ巻き絶縁電線を巻回して得た、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るテープ巻き絶縁電線によれば、絶縁被覆の合計厚さを薄くすることができ、得られた絶縁電線を細径化することができる。その結果、コイルを製造した際の占積率を向上させることができる。また、絶縁被覆の厚さが同じであっても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができ、又は、絶縁被覆の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる、その結果、絶縁破壊電圧を同等又は向上させ、柔軟でコイル巻き線性に優れ、占積率を高めてコイルを小型化することができる。また、絶縁被覆を薄くできるので、絶縁電線の熱抵抗が下がり放熱性が高くなって絶縁電線の温度を下げることができる。
【0021】
本発明に係るコイルによれば、上記したテープ巻き絶縁電線でコイル巻きされるので、絶縁破壊電圧が同等又は向上し、生産性が高く、占積率の高い小型コイルとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るテープ巻き絶縁電線の外観図である。
【
図2】本発明に係るテープ巻き絶縁電線の断面図の例であり、(A)は2つの絶縁テープで重ね巻きした例であり、(B)は3つの絶縁テープで重ね巻きした例である。
【
図3】本発明に係るテープ巻き絶縁電線の断面図の他の例であり、(A)は4つの絶縁テープで重ね巻きした例であり、(B)は5つの絶縁テープで重ね巻きした例である。
【
図4】(A)は絶縁テープに接着層が設けられた形態を示す断面図であり、(B)は絶縁テープに融着層が設けられた形態を示す断面図である。
【
図6】実施例1のテープ巻き絶縁電線の断面図である。
【
図7】比較例1のテープ巻き絶縁電線の断面図である。
【
図8】実施例2のテープ巻き絶縁電線の断面図である。
【
図9】比較例2のテープ巻き絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るテープ巻き絶縁電線及びコイルについて図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
[テープ巻き絶縁電線]
本発明に係るテープ巻き絶縁電線10(以下、単に「絶縁電線10」ということがある。)は、
図1~
図3に示すように、導体1と、導体1の外周に絶縁被覆2とを有する絶縁電線10であって、絶縁被覆2は、2つ~5つの絶縁テープ(11,12,13,14,15)で重ね巻された複数の絶縁層(2a,2b,2c,2d、2e)で構成されている。この絶縁電線10において、絶縁被覆2が、(1)絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であり、又は、(2)絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下であり、個々の絶縁層が2層~5層の場合のいずれにおいても巻き数の整数部分は1~4の範囲である、ことに特徴がある。
【0025】
こうしたテープ巻き絶縁電線10によれば、絶縁被覆2の合計厚さを薄くすることができ、得られた絶縁電線10を細径化することができる。その結果、コイルを製造した際の占積率を向上させることができる。また、絶縁被覆2の厚さが同じであっても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができ、又は、絶縁被覆2の厚さを薄くして絶縁電線10を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる、その結果、絶縁破壊電圧を同等又は向上させ、柔軟でコイル巻き線性に優れ、占積率を高めてコイルを小型化することができる。また、絶縁被覆2を薄くできるので、絶縁電線の熱抵抗が下がり放熱性が高くなって絶縁電線10の温度を下げることができる。
【0026】
以下、各構成要素を説明する。
【0027】
<導体>
導体1は、
図1~
図3に示すように、絶縁電線10、特にコイル用の絶縁電線10の中心導体として適用されているものであれば特に限定されず、どのような種類の導体でもよく、材質や撚り構成も問わない。例えば、長手方向に延びる1本の素線で構成されたものでもよく、数本の素線を撚り合わせて構成されたものでもよいし、リッツ線として構成されたものであってもよい。素線は、良導電性金属であればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。コイル用の観点からは、銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。さらに、「導体」や「素線」は、絶縁・酸化防止用等のエナメル層等で覆われたものも、本発明で言う導体や素線に包含される。素線の断面形状も特に限定されないが、断面形状が円形又は略円形の線材であってもよいし、矩形形状であってもよい。
【0028】
導体1の断面形状も特に限定されないが、円形(楕円形を含む。)であってもよいし矩形等であってもよい。コイル用として好ましく使用可能なように電気抵抗(交流抵抗、導体抵抗)が小さくなるように、導体1の断面サイズはできるだけ大きいことが望ましく、例えば、円形の素線の外径は0.05~5mm程度を挙げることができる。また、矩形の素線の場合には、短辺0.3~2mm、長辺0.5~5mm程度を挙げることができる。これらの導体1の断面サイズは、コイルが用いられる用途によって適宜選択されるが、この断面サイズが小さければ小さいほど、後述の絶縁被覆2の密着性や位置決めの精度を高くする必要がある。
【0029】
<絶縁被覆>
絶縁被覆2は、2つ~5つの絶縁テープで重ね巻されてそれぞれの絶縁テープに対応する複数の絶縁層(2つ~5つの絶縁層)で構成されている。具体的には、絶縁被覆2は、
図1~
図3に示すように、導体1の外周に2つの絶縁テープ(11,12)で重ね巻された2つの絶縁層(2a,2b)からなるもの、3つの絶縁テープ(11,12,13)で重ね巻された3つの絶縁層(2a,2b,2c)からなるもの、4つの絶縁テープ(11,12,13,14)で重ね巻された4つの絶縁層(2a,2b,2c,2d)からなるもの、又は、5つの絶縁テープ(11,12,13,14,15)で重ね巻された5つの絶縁層(2a,2b,2c,2d、2e)からなるものである。絶縁被覆2は、規定の絶縁破壊電圧を確保する厚さである必要があるが、規定の絶縁破壊電圧を確保することができればできるだけ薄くすることが望ましい。絶縁被覆2を薄くできれば、絶縁電線10を細径化することができるとともに、コイルの占積率を高めることができるという利点がある。本発明は、こうした点に着目して完成させたものである。
【0030】
(絶縁被覆の層数)
絶縁被覆2が、2つ又は3つの絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層がそれぞれ2層又は3層の場合(例えば、2つの絶縁テープ11,12を使用した場合は第1絶縁層2a及び第2絶縁層2bであり、3つの絶縁テープ11,12,13を使用した場合は第1絶縁層2a~第3絶縁層2cである。)において、個々の絶縁層の巻き数の合計が、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であるように構成されている。
【0031】
絶縁被覆2が、4つ又は5つの絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合(例えば、4つの絶縁テープ11,12,13,14を使用した場合は第1絶縁層2a~第4絶縁層2dであり、5つの絶縁テープ11,12,13,14,15を使用した場合は第1絶縁層2a~第5絶縁層2eである。)において、個々の絶縁層の巻き数の合計が、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下であるように構成されている。
【0032】
小数部分の扱いを2層又は3層の場合と4層又は5層の場合とで分けた理由は、絶縁被覆の合計厚さを薄くして絶縁電線を細径化する観点、絶縁被覆の厚さを薄く又は同じとした場合でも絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる観点から、2層又は3層の場合と4層又は5層の場合で分けることが、製造が煩雑にならず、実態に即していたためである。なお、個々の絶縁層が2層又は3層の場合と個々の絶縁層が4層又は5層の場合のいずれの場合においても、個々の絶縁層の巻き数の整数部分は1~4の範囲であることが好ましい。整数部分を1以上としたのは、各絶縁層の最低巻き数を1.0以上にして整数部分を1以上にしないと、最低限の絶縁破壊電圧を確保できないためである。また、整数部分を4以下としたのは、各絶縁層の巻き数が5.0を超えると、巻き数が多くなって整数部分と小数部分のカウントがし難くなるとともに、製造工程での煩雑さが増してしまうためである。
【0033】
このテープ巻き絶縁電線10では、個々の絶縁テープで重ね巻きした際の周回の重なり部分(整数部分)の端数となる小数部分の合計を0.0以上で、1.0以下又は2.0以下としたので、絶縁被覆2の合計厚さを薄くすることができ、得られた絶縁電線10を細径化することができる。その結果、コイルを製造した際の占積率を向上させることができる。
【0034】
また、従来の絶縁電線と比較して絶縁被覆2の厚さが同じであっても、前記した小数部分の合計が0.0以上で、1.0以下又は2.0以下となることで、個々の絶縁テープで重ね巻きした際の周回の重なる整数部分を十分に確保できる。その結果、従来の絶縁電線と比較して絶縁被覆2の厚さが同じであっても、絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる。また、従来の絶縁電線と比較して絶縁被覆2の厚さを薄くすることで絶縁電線10を細径化しても、個々の絶縁テープで重ね巻きした際の周回の重なる整数部分を十分に確保できる。その結果、絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができる。また、小数部分の合計が0.0以上で、1.0以下又は2.0以下としたことは細径化に有利に作用するが、最小巻き数の観点からは、最小巻き数を1又は2つ多くすることができる。その結果、絶縁破壊電圧を高めることができる。なお、絶縁破壊電圧を高くすることができるので、絶縁破壊電圧が同等レベルで十分であれば、絶縁被覆2を薄くして絶縁電線10の細径化とコイルの占積率向上に寄与できる。
【0035】
(従来の重ね巻きの態様)
ここで、本発明に係るテープ巻き絶縁電線10を開発する前の従来のテープ巻き絶縁電線について説明する。従来のテープ巻き絶縁電線のように丸い導体にテープ巻きされた絶縁電線は、円形に近いことや表面の滑らかさが求められるため、重なり部分を多くする重ね巻きが通常行われていた。表面を滑らかにするためには、テープの重なりを多くすること、例えば重なり部分が50%以上となるように巻くことが望ましいとされていた。具体的には、テープを1.5~2.0重巻き、2.5~3.0重巻き、3.5~4.0重巻きのように、小数部分を大きい値にしてテープ端部で生じる段差が目立たないようにすることが行われていた。なお、「1.5重巻き」とは、1重巻きの上にテープがさらに巻かれて2重巻きの部分が50%巻かれていることをいい、「2重巻き」とは、1重巻きの上にテープがさらに巻かれて2重巻きの部分が100%巻かれていることをいう。従来では、そうした重ね巻きで、複数の絶縁層(例えば、第1~第3絶縁層、又は第1~第4絶縁層)が形成されていた。一方、従来は、整数巻きを僅かに超える2.1重巻きや2.2重巻きのような重ね巻きは、その小数部分となるテープ端部が僅かな3重巻き部となって他の2重巻き部との間で段差になりやすく、そうした段差の部分が狭いと、絶縁電線の表面が滑らかでなくなるため、整数巻きを僅かに超える重ね巻きは好まれていなかった。
【0036】
しかし、上記した課題の欄で説明したように、絶縁電線の細径化の要請に応えるため、本発明者は、導体に巻かれる絶縁テープの巻き数を従来の絶縁層のような重なり部分を広く(大きく)する1.5~2.0重巻き、2.5~3.0重巻き、3.5~4.0重巻きではなく、重なり部分を狭く(小さく)する1.0~1.5重巻き、2.0~2.5重巻き、3.0~3.5重巻き、4.0~4.5重巻きのように小数部分を0.5以下に小さくすることにより、絶縁層の合計厚さを薄くすることができ、絶縁電線としても細径化できると考えた。さらに、絶縁被覆2は複数の絶縁層で構成されているので、複数層の巻き数を勘案して細径化することができるのではないかと考えた。
【0037】
(本発明での重ね巻きの態様)
上記した背景を踏まえた本発明の絶縁テープの重ね巻きの態様は、上記した(絶縁被覆の層数)の欄で説明したが、さらに詳しくは、本発明は、2つ~5つの絶縁テープの重ね巻きして構成される絶縁被覆2として、(1)絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であるようにした点、又は、(2)絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下であるようにした点、に特徴がある。
【0038】
最初に(1)の、絶縁層が2層又は3層の場合を説明する。絶縁被覆2が絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合においては、後述の実施例で説明するように、第1絶縁層2aは第1の絶縁テープ11での巻き数をs.α重巻きと表し、第2絶縁層2bは第2の絶縁テープ12での巻き数をt.β重巻きと表し、第3絶縁層2cは第3の絶縁テープ13での巻き数をu.γ重巻きと表したとき、整数部分であるs,t,uの合計は、2層の場合ではs+tとなり、3層の場合ではs+t+uとなる。また、小数部分であるα,β,γの合計は、2層の場合ではα+βとなり、3層の場合ではα+β+γとなる。そして、その小数部分の合計が1.0以下になるように構成される。この関係は、絶縁層が2層又は3層の場合に、小数部分の合計が1.0以下になることにより、最小巻き数(整数部分の合計からなる実質的な巻き数)に寄与しない小数部分の巻き数の合計を1.0以下に小さくすることで、テープ巻き絶縁電線10を細径化することができる。なお、最小巻き数とは、テープ巻き絶縁電線の絶縁破壊電圧が依存する整数部分の合計の巻き数のことである。なお、小数部分の巻き数の合計の「1.0以下」には、0.0も含まれる。
【0039】
この場合において、絶縁テープが2つの場合には、整数部分の合計は2~8であり、小数部分の合計は0.0以上、1.0以下であり、それら合計の総数は2.0~9.0となる。また、絶縁テープが3つの場合には、整数部分の合計は3~12であり、小数部分の合計は0.0以上、1.0以下であり、それら合計の総数は3.0~13.0となる。
【0040】
次に(2)の、絶縁層が4層又は5層の場合を説明する。この態様も後述の実施例で説明するように、上記した2層又は3層の場合と同様、絶縁被覆2が絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合においては、第1絶縁層2aは第1の絶縁テープ11での巻き数をs.α重巻きと表し、第2絶縁層2bは第2の絶縁テープ12での巻き数をt.β重巻きと表し、第3絶縁層2cは第3の絶縁テープ13での巻き数をu.γ重巻きと表し、第4絶縁層は第4の絶縁テープでの巻き数をv.δ重巻きと表し、第5絶縁層は第5の絶縁テープでの巻き数をw.ε重巻きと表したとき、整数部分であるs,t,u,v,wの合計は、4層の場合ではs+t+u+vとなり、5層の場合ではs+t+u+v+wとなる。また、小数部分であるα,β,γ,δ,εの合計は、4層の場合ではα+β+γ+δとなり、5層の場合ではα+β+γ+δ+εとなる。そして、その小数部分の合計が2.0以下であるように構成される。この関係は、絶縁層が4層又は5層の場合に、小数部分の合計が2.0以下になることにより、実質的な巻き数(いわゆる最小巻き数)に寄与しない小数部分の巻き数の合計を2.0以下に小さくすることで、テープ巻き絶縁電線10を細径化することができる。なお、小数部分の巻き数の合計の「2.0以下」には、0.0も含まれる。
【0041】
この場合において、絶縁テープが4つの場合には、整数部分の合計は4~16であり、小数部分の合計は0.0以上、2.0以下であり、それら合計の総数が4.0~18.0となる。また、絶縁テープが5つの場合には、整数部分の合計は5~20であり、小数部分の合計は0.0以上、2.0以下であり、それら合計の総数は5.0~22.0となる。
【0042】
こうした絶縁被覆2を有するテープ巻き絶縁電線10により、絶縁破壊電圧を同等又は向上させ、柔軟でコイル巻き線性に優れ、占積率を高めてコイルを小型化することができる。また、絶縁被覆2を薄くできるので、絶縁電線の熱抵抗が下がり放熱性が高くなって絶縁電線10の温度を下げることができる。
【0043】
(絶縁テープ)
絶縁テープは、導体1の外周に複数重ね巻きされる。「複数」とは、本発明では2つ~5つである。絶縁テープを2つ~5つの範囲としたのは、絶縁テープを最低限2つ用いることで、必要な絶縁破壊電圧を確保しやすいためである。また、絶縁テープを5つまでとしたのは、6つ以上では製造工程での煩雑さが増してしまうため製造コストが高くなるとともに、効果のより一層の向上が得にくい。そのため、本発明では2つ~5つの絶縁テープを重ね巻きする態様で説明している。
【0044】
絶縁テープの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂(PET、PEN等)、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等のような絶縁性の樹脂材料を好ましく適用できる。また、それらの樹脂材料の中でも、誘電材料として用いられるPFA、ETFE、FEP等の低誘電率のフッ素系樹脂であってもよいし、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂であってもよい。
【0045】
絶縁テープの厚さは、複数(2~5つ)の絶縁テープそれぞれで重ね巻きした後の絶縁被覆2が必要な絶縁耐圧を確保できるだけの厚さであれば特に限定されない。個々の絶縁テープの厚さは、例えば、0.002~0.1mm程度とすることができるが、絶縁テープを幾つ用いるか、重ね巻き数を何回行うかによって、使用する絶縁テープを重ね巻きして最終的にどの程度の厚さの絶縁被覆2とするかを考慮して選択することが好ましい。絶縁テープに後述する接着層5又は融着層6が設けられている場合は、接着層5又は融着層6の厚さを含めた厚さが絶縁テープの厚さとなる。なお、絶縁テープの幅も特に限定されないが、導体1の外周に又は既に巻かれた絶縁テープ上に重ね巻きできる幅であればよく、例えば導体1の直径の2~12倍の幅であることが好ましい。絶縁テープの幅は、通常、0.4~50mmの範囲の幅であることが好ましい。使用する2~5つそれぞれの絶縁テープは、厚さや幅が同じものを採用してもよいし、異なるものを使用してもよい。重ね巻きの際の巻ピッチは、後述の重ね巻き形態を実現可能な巻ピッチで巻かれることになる。それぞれの絶縁テープの巻き方向も特に限定されないが、隣接する絶縁テープとは逆方向に巻かれることが好ましい。
【0046】
(接着層)
接着層5は、
図4(A)に示すように、第1~第5の絶縁テープのいずれか1又は2以上の絶縁テープに必要に応じて設けることができる。「必要に応じて」とは、接着層5が設けられていても設けられていなくてもよく、任意であることを意味している。
【0047】
接着層5が設けられた絶縁テープとして、上記絶縁テープの材質の説明欄で説明した材質からなる樹脂テープ4に接着層5が設けられた接着層付きの樹脂テープ4が好ましく用いられる。接着層5の厚さも特に限定されないが、あまり厚いと全体の厚さが厚くなってしまうので、5μm以下であることが好ましい。接着層の厚さの下限も特に限定されないが、例えば0.5μmとすることができる。
【0048】
接着層5は、絶縁テープの片面に設けられていても両面に設けられていてもよく、特に限定されないが、片面に設けられていることが好ましい。絶縁テープは、片側に設けられた接着層5の側を内側(導体側)にして巻いてもよいし、外側にして巻いてもよい。複数の絶縁テープのうち最初に巻かれる第1の絶縁テープ11では、片側に設けられた接着層5の側を内側(導体側)にして巻くことにより、絶縁被覆2を導体1に密着させるという利点がある。一方、最初に巻かれる第1の絶縁テープ11では、片側に設けられた接着層5の側を外側(導体の反対側)にして巻くこともでき、絶縁被覆2を剥がすことが容易という利点がある。
【0049】
別の方法として、絶縁被覆2を剥がしやすくするために、内側に接着層が無い第1の絶縁テープ11を巻くことができる。その場合、第1の絶縁テープ11の外側及び第2の絶縁テープ12の内側に接着層5があってもよいし、第1の絶縁テープ11の外側又は第2の絶縁テープ12の内側のいずれか一方に接着層5があってもよい。片面に接着層5が設けられた第3の絶縁テープ13は、その接着層5が内側になるように第2絶縁層2bの上に巻かれる。片面に接着層5が設けられた第4の絶縁テープ14及び第5の絶縁テープ15においても、その接着層5が内側になるように巻かれる。
【0050】
絶縁電線10の外径を小さくするために、2つ~5つの絶縁テープのうち第5絶縁テープを除くいずれか1つに接着層の無い絶縁テープを用いることができる。例えば第1の絶縁テープ11に接着層5が無い場合は、第2~第5の絶縁テープは接着層を内側にして巻かれる。第2の絶縁テープ12に接着層5が無い場合は、第1の絶縁テープ11は接着層5を外側にして巻かれ、第3~第5の絶縁テープは接着層5を内側にして巻かれる。同様に第3の絶縁テープ13或いは第4の絶縁テープ14に接着層5が無い場合は、接着層5の無い絶縁層の内側の絶縁テープは接着層5を外側にするように巻かれ、接着層5のない絶縁層の外側の絶縁テープは、接着層5を内側にするように巻かれる。こうして強固な絶縁被覆2を形成することができる。
【0051】
絶縁電線10の外径をさらに小さくし、かつ絶縁層の形状を維持するために、最外層となる絶縁テープの内側に接着層5を設けた絶縁テープを使用することができる。これにより、その他の絶縁層(最外層以外の層、例えば5層巻きの場合は5層目に接着層を設けて、1層目~4層目には接着層を設けない場合を意味する。)の絶縁テープの接着層を無くし柔軟性がある絶縁被覆を形成できる。
【0052】
接着層5の材質は、アクリル、ポリエステル、ウレタン、ポリイミド、PVC、EVA等の熱可塑性樹脂やエポキシ系、ビスマルイミド等の熱硬化性樹脂からなるものを好ましく挙げることができる。接着層5は、それら樹脂を有機溶剤に溶解させた接着性塗料を、例えばグラビア印刷等の塗工装置で所定の厚さに塗工することで接着層5とすることができる。なお、接着層5は、絶縁テープを導体1に巻く際又は巻いた後に加熱等して接着させることができる。
【0053】
(融着層)
融着層6は、
図4(B)に示すように、2つ~5つの絶縁テープのいずれか1又は2以上の絶縁テープに必要に応じて設けることができる。融着層6を上記した接着層5の代わりに設けてもよい。通常は、上記絶縁テープの材質の説明欄で説明した材質からなる樹脂テープ4に融着層6が設けられた融着層6付きの樹脂テープ4を採用することができる。融着層6は、複数の絶縁テープのうち最後に巻かれる絶縁テープに外向きに設けられていることが好ましい。こうすることにより、得られたテープ巻き絶縁電線10でコイルを作製する場合に、その融着層6を溶融させて絶縁電線同士を固定することができる。
【0054】
融着層6の材質は、熱可塑性樹脂組成物又は熱可塑性樹脂を主体とした樹脂組成物であることが好ましく、一定の温度、例えば80~130℃の温度で熱可塑性を保って絶縁テープ同士を仮接着することができ、特定の温度以上、例えば160~200℃の温度で架橋反応が起こって自己融着して絶縁電線10,10同士を接着することができる性質を有するものであることが好ましい。融着層6がこうした性質を有することにより、絶縁テープ同士を仮接着して自己融着性のテープ巻き絶縁電線として形状を保つことができるとともに、コイルの製造時のコイル巻線した後に特定の温度以上にすることにより架橋反応が起こって自己融着絶縁電線同士を接着することができ、巻線後のコイル形状を維持することができる。
【0055】
融着層6の材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらのうち、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。融着層6を形成する融着層形成用樹脂組成物には、架橋剤や溶剤が含まれる。また、必要に応じて各種の添加剤が含まれる。それらの架橋剤、溶剤及び添加剤は特に限定されず、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の種類とその要求特性(上記性質)に応じた各種の架橋剤、溶剤及び添加剤が必要に応じて用いられる。融着層6の厚さは特に限定されないが、あまり厚くなると絶縁電線10の外径が増えてしまうので、例えば、1~15μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
[コイル]
本発明に係るコイル20は、
図5に示すように、上記した本発明に係る絶縁電線10を用いたトランス用コイルであって、トランスボビン21に絶縁電線10を巻くことにより得ることができる。こうして得られたコイル20は、上記したテープ巻き絶縁電線10でコイル巻きされるので、絶縁破壊電圧が同等又は向上し、生産性が高く、占積率の高い小型コイルとすることができる。また、従来のように、一次巻き線と二次巻き線間の層間紙を巻くことなく、IEC62368の規格を満たす高耐圧のトランスを作製することができる。その結果、絶縁性の高いトランス用コイル、高周波コイル等の巻線部品、高周波コイル等の巻線部品を備えた回路基板等として好ましく使用できる。
【実施例】
【0057】
実施例と比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲内で種々の変更、修正及び改変を行い得る。なお、実施例と比較例の形態を説明する
図6~
図9には、絶縁テープの端がどの位置にあるかを分かり易くするための座標を縦横に附している。その座標で(x,y)と表しているが、「x」は横座標の数値であり、「y」は縦座標の数値である。
【0058】
[実施例1]
実施例1のテープ巻き絶縁電線10について、
図6を用いて説明する。導体1として直径1.00mmの銅導体を用い、その外周に絶縁被覆2を設けた。絶縁被覆2は、第1~第3の3つの絶縁テープ(11,12,13)を重ね巻きした3つの絶縁層(2a,2b,2c)で構成した。導体1に最も近い第1絶縁層2aは第1の絶縁テープ11で重ね巻きしたものであり、その外側の第2絶縁層2bは第2の絶縁テープ12で重ね巻きしたものであり、その外側の第3絶縁層2cは第3の絶縁テープ13で重ね巻きしたものである。
【0059】
厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅7.0mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に2.3重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。
図6の座標より、第1絶縁層2aを形成する第1の絶縁テープ11の端の座標は(10,3)と(32,1)であり、半周巻き回されたときの第1の絶縁テープ11の端の座標は(15,-3)と(37,-1)であり、さらに半周巻き回されたときの第1の絶縁テープ11の端の座標は(20,3)と(42,1)である。第1絶縁層2aは2.3重巻きされた層であるので、
図6に示す導体1の上側では、x座標の1~2、10~12、20~22、30~32、40~42では3重巻きになっており、それ以外の箇所は2重巻きになっている。導体1の下側では、x座標の5~7,15~17,25~27,35~37,45~46では3重巻きになっており、それ以外の箇所では2重巻きになっている。
【0060】
次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅7.0mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、その接着層が第1絶縁層2aと接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に2.2重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。
図6では、第2の絶縁テープ12が第1絶縁層2aの端に沿っている状態が見て取れる。第2絶縁層2bを形成する第2の絶縁テープ12の端の座標は(8,5)と(29,3)であり、半周巻き回されたときの第2の絶縁テープ12の端の座標は(13,-5)と(34、-3)であり、さらに半周巻き回された第2の絶縁テープ12の端の座標は(18,5)と(39,3)である。第2絶縁層2bは2.2重巻きされた層であるので、
図6に示す導体1の上側では、x座標の8~9、18~19、28~29、38~39は3重巻きになっており、それ以外の箇所は2重巻きになっている。導体1の下側では、x座標の3~4、13~14、23~24、33~34、43~44は3重巻きになっており、それ以外の箇所は2重巻きになっている。
【0061】
次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅7.0mmのポリイミド樹脂からなる第3の絶縁テープ13を、その接着層が第2絶縁層2bと接着するように内側にし、第2の絶縁テープ12とは巻き方向を変えて、第2絶縁層2b上に2.3重巻きし、第3絶縁層2cを設けた。
図6では、第3の絶縁テープ13が第2絶縁層2bの端に沿っている状態が見て取れる。第3絶縁層2cを形成する第3の絶縁テープ13の端の座標は(5,7)と(27,5)であり、半周巻き回されたときの第3の絶縁テープ13の端の座標は(10,-7)と(32、-5)であり、さらに半周巻き回された第3の絶縁テープ13の端の座標は(15,7)と(37,5)であるので、第3絶縁層2cは2.3重巻きであるので、
図6に示す導体1の上側では、x座標の5~7、15~17、25~27、35~37、45~46は3重巻きになっており、それ以外の箇所は2重巻きになっている。導体1の下側では、x座標の1~2、10~12、20~22、30~32、40~42は3重巻きになっており、それ以外の箇所は2重巻きになっている。こうして実施例1のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0062】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは64μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は2+2+2=6であり、小数部分の巻き数はいずれも0.5以下で、小数部分の合計は1.0以下の0.8であった。それらの合計を合算した総巻き数は6.8であり、整数部分の合計に1を加えた総数の7以下であった。各絶縁層の巻き数は
図2(B)より分かる。符号1が導体であり、その周りに第1の絶縁テープ11が時計回りに2.3重巻きされている。その外側に第2の絶縁テープ12が反時計回りに2.2重巻きされ、その外側に第3の絶縁テープ13が時計回りに2.3重巻きされている。
【0063】
[比較例1]
比較例1のテープ巻き絶縁電線10について、
図7を用いて説明する。導体1として直径1.00mmの銅線を用い、その外周に設けた絶縁被覆2として、第1~第3の3つの絶縁テープ(11,12,13)を重ね巻きした3つの絶縁層(2a,2b,2c)で構成した。厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅8.5mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に2.8重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅7.5mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、接着剤が第1絶縁層2aに接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に2.3重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅6.0mmのポリイミド樹脂からなる第3の絶縁テープ13を、その接着層が第2絶縁層2bと接着するように内側にし、第2の絶縁テープ12とは巻き方向を変えて、第2絶縁層2b上に1.8重巻きし、第3絶縁層2cを設けた。こうして比較例1のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0064】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは64μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は2+2+1=5であり、小数部分の巻き数の合計は1.0を超えた1.9であった。それらの合計を合算した総巻き数は6.9であり、整数部分の合計に1を加えた総数の6を超えていた。
【0065】
[実施例2]
実施例2のテープ巻き絶縁電線10について、
図8を用いて説明する。導体1として直径0.55mmの銅導体を用い、その外周に設けた絶縁被覆2として、第1の絶縁テープ11と第2の絶縁テープ12を重ね巻きした2つの絶縁層(2a,2b)で構成した。厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅5.5mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に3.2重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅4.0mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、接着剤が第1絶縁層2aに接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に2.1重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。第3絶縁層は設けなかった。こうして実施例2のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0066】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2bを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは48μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2bの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は3+2=5であり、小数部分の巻き数いずれも0.5以下で、小数部分の合計は1.0以下の0.3であった。それらの合計を合算した総巻き数は5.3であり、整数部分の合計に1を加えた総数の6以下であった。
【0067】
[比較例2]
比較例2のテープ巻き絶縁電線10について、
図9を用いて説明する。導体1として直径0.55mmの銅線を用い、その外周に設けた絶縁被覆2として、第1~第3の3つの絶縁テープ(11,12,13)を重ね巻きした3つの絶縁層(2a,2b,2c)で構成した。厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅3.0mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に1.9重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅5.0mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、接着剤が第1絶縁層2aに接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に2.7重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅3.5mmのポリイミド樹脂からなる第3の絶縁テープ13を、その接着層が第2絶縁層2bと接着するように内側にし、第2の絶縁テープ12とは巻き方向を変えて、第2絶縁層2b上に1.8重巻きし、第3絶縁層2cを設けた。こうして比較例2のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0068】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは57μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2b、第3絶縁層2cの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は1+2+1=4であり、小数部分の巻き数いずれも0.5を超え、小数部分の合計は1.0を超えた2.4であった。それらの合計を合算した総巻き数は6.4であり、整数部分の合計に1を加えた総数の5を超えていた。
【0069】
[実施例3]
導体1として直径0.1mmの銅線を33本撚りしたリッツ線を用い、その外周に設けた絶縁被覆2として、第1の絶縁テープ11と第2の絶縁テープ12を重ね巻きした2つの絶縁層(2a,2b)で構成した。厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅6.5mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に3.2重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。次に、厚さ2μmの接着層が設けられた厚さ7.5μm(合計厚さ9.5μm)でテープ幅7.0mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、接着剤が第1絶縁層2aに接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に3.1重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。第3絶縁層は設けなかった。こうして実施例3のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0070】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2bを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは63μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2bの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は3+3=6であり、小数部分の巻き数いずれも0.5以下で合計は1.0以下の0.3であった。それらの合計を合算した総巻き数は6.3であり、整数部分の合計に1を加えた総数の7以下であった。
【0071】
[実施例4]
導体1として直径0.45mmの銅線を用い、その外周に設けた絶縁被覆2として、第1の絶縁テープ11と第2の絶縁テープ12を重ね巻きした2つの絶縁層(2a,2b)で構成した。厚さ2.5μmの接着層が設けられた厚さ5.0μm(合計厚さ7.5μm)でテープ幅4.8mmのポリイミド樹脂からなる第1の絶縁テープ11を、接着層が導体1と接着しないように外側にして導体1上に3.4重巻きし、第1絶縁層2aを設けた。次に、厚さ2.5μmの接着層が設けられた厚さ5.0μm(合計厚さ7.5μm)でテープ幅4.8mmのポリイミド樹脂からなる第2の絶縁テープ12を、接着剤が第1絶縁層2aに接着するように内側にし、第1の絶縁テープ11とは巻き方向を変えて、第1絶縁層2a上に3.1重巻きし、第2絶縁層2bを設けた。第3絶縁層は設けなかった。こうして実施例4のテープ巻き絶縁電線を得た。
【0072】
得られたテープ巻き絶縁電線において、第1絶縁層2a、第2絶縁層2bを有する絶縁被覆2の長手方向Tの各部での平均厚さは51μmであった。第1絶縁層2a、第2絶縁層2bの整数部分の巻き数の合計(最小巻き数)は3+3=6であり、小数部分の巻き数いずれも0.5以下で合計は1.0以下の0.5であった。それらの合計を合算した総巻き数は6.5であり、整数部分の合計に1を加えた総数の7以下であった。
【0073】
[線間耐圧試験]
実施例1~4と比較例1~2について、2本のテープ巻き絶縁電線を撚ったサンプルを作製し、強化絶縁試験に規定されている8kV・1分間印加した後、500V/sの昇圧速度で試験電圧を導体間に印加し、絶縁破壊電圧を測定した。測定は、JIS C 3216(巻線試験方法)に基づいて、耐圧試験機(東京精電株式会社製)で測定した。その結果を表1に示した。表1中、「テープ厚さ」は接着層の厚さを含まない絶縁テープの厚さであり、「テープ総厚」は接着層の厚さを含む絶縁テープの合計厚さであり、「整数」は各絶縁層での整数部分の合計(最小巻き数)であり、「小数」は各絶縁層での小数部分の合計であり、「総数」は「整数」と「小数」の和であり、「被覆厚」は第1層~第3層までを含む絶縁被覆全体の厚さである。
【0074】
【0075】
絶縁破壊電圧は、実施例1では16.95kVであり、比較例1の15.57kVよりも1.38kV高い。両者は絶縁被覆2が同じ第1~第3絶縁層(2a,2b,2c)で構成されており、絶縁被覆2の厚さも同じであり、総数(整数部分と小数部分との和)も同じであるが、実施例1では小数部分が1.0以下の0.8であるのに対し、比較例1では小数部分が1.0を超える1.9であり、絶縁破壊電圧が依存する整数部分の合計(最小巻き数)は実施例1の方が大きくなっているために、実施例1の方が比較例1より絶縁破壊電圧が高くなっているといえる。実施例2と比較例2の結果より、被覆厚や総数(整数部分と小数部分との和)が同じでも、小数部分の合計を1.0以下として整数部分の合計を大きくすれば、高い絶縁破壊電圧を得ることができることが分かる。
【0076】
絶縁破壊電圧は、実施例2では21.30kVであり、比較例2の16.31kVよりも4.99kV高い。絶縁被覆2の厚さは、実施例2では48μmであり、比較例2では57μmであり、実施例2の方が比較例2より9μm薄いにもかかわらず、絶縁破壊電圧が4.99kV高くなっているのは、実施例2の方が絶縁破壊電圧が依存する整数部分の合計(最小巻き数)が5であり、比較例2の4よりも大きいためであるといえる。実施例2と比較例2の結果より、小数部分の合計を1.0以下として整数部分の合計を大きくすれば、被覆厚を薄くしても十分な絶縁破壊電圧を得ることができることが分かる。
【0077】
絶縁破壊電圧は、実施例3では21.5kVであり、実施例4では22.86kVであった。これらはいずれも小数部分の合計を1.0以下として整数部分の合計を大きくしたものであり、十分な絶縁破壊電圧を得ることができることが分かる。さらに、実施例4では、絶縁テープの厚さを薄くして絶縁被覆2の総厚さを細径化しているが、その場合であっても、小数部分の合計を1.0以下として整数部分の合計を大きくすることで、十分な絶縁破壊電圧を得ることができることが分かる。
【0078】
[実施例5~11]
実施例1の第1の絶縁テープ11と同じ絶縁テープを2つ~5つ任意に用い、それぞれの絶縁テープで重ね巻きした各絶縁層の巻き数を変えた。それ以外は実施例1と同様にして、
図2及び
図3に示す形態の実施例5~11の絶縁電線10を作製した。表2に各絶縁層の巻き数を示した。表2中、「整数部分」は各絶縁層での整数部分の合計であり、「小数部分」は各絶縁層での小数部分の合計であり、「総数」は整数部分の合計と小数部分の合計との和である。
【0079】
実施例5の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を4.3重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を4.2重巻きして第2絶縁層2bとしたものであり、整数部分の合計は8で、小数部分の合計は0.5で、それらの和である総数は8.5であった。
【0080】
実施例6の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を1.5重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を1.4重巻きして第2絶縁層2bとしたものであり、整数部分の合計は2で、小数部分の合計は0.9で、それらの和である総数は2.9であった。
【0081】
実施例7の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を3.3重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を3.2重巻きして第2絶縁層2bとし、その上に第3の絶縁テープ13を3.3重巻きして第3絶縁層2cとしたものであり、整数部分の合計は9で、小数部分の合計は0.8で、それらの和である総数は9.8であった。
【0082】
実施例8の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を4.2重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を4.4重巻きして第2絶縁層2bとし、その上に第3の絶縁テープ13を3.3重巻きして第3絶縁層2cとし、その上に第4の絶縁テープ14を3.4重巻きして第4絶縁層2dとしたものであり、整数部分の合計は14で、小数部分の合計は1.3で、それらの和である総数は15.3であった。
【0083】
実施例9の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を2.3重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を2.4重巻きして第2絶縁層2bとし、その上に第3の絶縁テープ13を1.3重巻きして第3絶縁層2cとし、その上に第4の絶縁テープ14を1.4重巻きして第4絶縁層2dとしたものであり、整数部分の合計は6で、小数部分の合計は1.4で、それらの和である総数は7.4であった。
【0084】
実施例10の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を2.3重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を2.2重巻きして第2絶縁層2bとし、その上に第3の絶縁テープ13を2.3重巻きして第3絶縁層2cとし、その上に第4の絶縁テープ14を2.4重巻きして第4絶縁層2dとし、その上に第5の絶縁テープ15を2.2重巻きして第5絶縁層2eとしたものであり、整数部分の合計は10で、小数部分の合計は1.4で、それらの和である総数は11.4であった。
【0085】
実施例11の絶縁電線10は、第1の絶縁テープ11を2.3重巻きして第1絶縁層2aとし、その上に第2の絶縁テープ12を1.3重巻きして第2絶縁層2bとし、その上に第3の絶縁テープ13を1.3重巻きして第3絶縁層2cとし、その上に第4の絶縁テープ14を1.4重巻きして第4絶縁層2dとし、その上に第5の絶縁テープ15を2.3重巻きして第5絶縁層2eとしたものであり、整数部分の合計は7で、小数部分の合計は1.7で、それらの和である総数は8.7であった。
【0086】
【0087】
表2の結果より、2~5つの絶縁テープを任意に採用し、それぞれの絶縁テープを重ね巻きした巻き数を本発明に係る絶縁テープを構成するように任意に設計することができる。こうすることにより、既述した本発明の効果を高い設計自由度で実現することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 導体
2 絶縁被覆
2a 第1絶縁層
2b 第2絶縁層
2c 第3絶縁層
2d 第4絶縁層
2e 第5絶縁層
4 樹脂テープ
5 接着層
6 融着層
10 テープ巻き絶縁電線
11 第1の絶縁テープ
12 第2の絶縁テープ
13 第3の絶縁テープ
14 第4の絶縁テープ
15 第5の絶縁テープ
20 コイル
21 トランスボビン
T 長手方向
【要約】 (修正有)
【課題】絶縁被覆の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しても絶縁破壊電圧を同等又は高くすることができるテープ巻き絶縁電線及びコイルを提供する。
【解決手段】導体1と、導体1の外周に絶縁被覆2とを有する絶縁電線10であって、絶縁被覆2は、2つ~5つの絶縁テープ(11、12、13、・・・)で重ね巻された複数の絶縁層(2a、2b、2c、・・・)で構成され、絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が2層又は3層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に1を加えた総数以下であり、絶縁テープそれぞれで重ね巻きした個々の絶縁層が4層又は5層の場合、個々の絶縁層の巻き数の合計は、個々の絶縁層の巻き数の整数部分の合計に2を加えた総数以下である。
【選択図】
図2