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特許7558377クレーン装置、クレーンシステム及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】クレーン装置、クレーンシステム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/32 20060101AFI20240920BHJP
   B65F 5/00 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B66C13/32 Z
B65F5/00
G01N22/00 Y
G01N22/00 S
G01N22/00 W
G01N22/00 X
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023217896
(22)【出願日】2023-12-25
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】西宮 立享
(72)【発明者】
【氏名】窪田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 拓
(72)【発明者】
【氏名】松本 慎治
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 稔彦
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-152395(JP,A)
【文献】特開2022-074240(JP,A)
【文献】特開2003-002577(JP,A)
【文献】特開2017-180963(JP,A)
【文献】特開2017-180962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00- 3/20
B66C 13/00- 15/06
B65F 5/00- 9/00
F23G 5/50
G01N 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、
前記把持部の上端側にて固定された天板部と、
前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、
を備え、
前記計測装置が前記天板部に設置され、
計測装置は、電磁波を照射するとともに空間の電磁波を検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された電磁波の特性値を計測するVNA(Vector Network Analyzer)と、前記VNAが計測した前記電磁波の特性値から前記把持部が掴んだゴミの特性値を計算するコンピュータと、前記VNAと前記コンピュータに電力を供給するバッテリと、を備え、
前記コンピュータは、前記把持部がゴミを掴んだ状態で計測された前記電磁波の特性値と、前記把持部がゴミを掴んでいない状態で計測された前記電磁波の特性値と、から前記ゴミによる前記電磁波の減衰率を計算し、当該減衰率を誘電率に変換し、ゴミの誘電率とゴミの特性値の関係を示す検量線と変換した前記誘電率とに基づいて、前記ゴミの特性値を計算する、
クレーン装置。
【請求項2】
前記バッテリは、前記天板部に固定される、
請求項に記載のクレーン装置。
【請求項3】
前記計測装置は、
前記センサ部と、前記VNAと、前記コンピュータと、を収容するコンテナをさらに含み、前記コンテナが前記天板部に固定される、
請求項又は請求項に記載のクレーン装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のクレーン装置と、
前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて、前記クレーン装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記ゴミの特性値が閾値の範囲内であれば、前記制御装置は前記把持部が掴んだゴミを焼却設備へ投入する、
クレーンシステム。
【請求項5】
前記閾値の範囲は、前記ゴミの特性値の目標範囲の中央値である、
請求項に記載のクレーンシステム。
【請求項6】
前記閾値の範囲は、前記計測装置が計測する前記ゴミの特性値に、前記計測装置の計測誤差を加算した後の値が所定の目標範囲に含まれるように設定される、
請求項に記載のクレーンシステム。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のクレーン装置と、
前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて、前記クレーン装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記把持部がゴミを掴んだ後に当該ゴミを離すよう制御し、
前記計測装置は、前記把持部が前記ゴミを離した後に前記電磁波の特性値を計測して、その特性値を前記コンピュータに登録する、
クレーンシステム。
【請求項8】
下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側にて固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、を備え、前記計測装置が前記天板部に設置されるクレーン装置又は前記ゴミの焼却設備を、
前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて制御する、
制御方法であって、
前記計測装置は、電磁波を照射するとともに空間の電磁波を検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された電磁波の特性値を計測するVNA(Vector Network Analyzer)と、前記VNAが計測した前記電磁波の特性値から前記把持部が掴んだゴミの特性値を計算するコンピュータと、前記VNAと前記コンピュータに電力を供給するバッテリと、を備え、
前記コンピュータは、前記把持部がゴミを掴んだ状態で計測された前記電磁波の特性値と、前記把持部がゴミを掴んでいない状態で計測された前記電磁波の特性値と、から前記ゴミによる前記電磁波の減衰率を計算し、当該減衰率を誘電率に変換し、ゴミの誘電率とゴミの特性値の関係を示す検量線と変換した前記誘電率とに基づいて、前記ゴミの特性値を計算する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴミのクレーン装置、クレーンシステム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゴミを焼却又はガス化するゴミ処理炉と、処理前のゴミを貯留しておくピットと、ピット内のゴミをゴミ処理炉の投入口へ投入供給するクレーンを備え、クレーンのバケットに水分計(静電容量計)が設けられているゴミ処理炉装置が開示されている。特許文献2には、バケットに設けられた開口部に装着される耐食性の電磁波透過部材と、電磁波透過部材を通してバケット内のゴミに電磁波を照射し当該ゴミの水分率を計測する非接触式水分計を備えるゴミ焼却施設が開示されている。
【0003】
特許文献1、2の技術では、ゴミの水分計測結果に基づいて、クレーンの動作制御を行っている。しかしながら、特許文献1、2のようにバケットの把持部(爪の部分)に計測装置を設けると、バケットで把持するゴミの量に応じて、把持部の閉まり方が変化し、対になる計測機器間の距離や相対的な角度の変化等、計測対象物以外の要因により計測結果が変化することとなり、水分率やLHV(Low Heating Value)の計測精度が低下する可能性がある。さらに、計測装置のメンテナンスや不具合を生じた際の交換時において、把持部に計測機器が設置されていると、把持部に付着したごみを清掃する(洗い流す)必要があり、時間と手間を要する。このため、クレーンを停止させる時間も長くなり、クレーンの稼働率にも影響を及ぼす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-180962号公報
【文献】特開2022-074240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バケットで掴んだゴミの特性を精度よく計測できるクレーン装置が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するクレーン装置、クレーンシステム及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るクレーン装置は、下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側にて固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、備え、前記計測装置が前記天板部に設置され、計測装置は、電磁波を照射するとともに空間の電磁波を検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された電磁波の特性値を計測するVNA(Vector Network Analyzer)と、前記VNAが計測した前記電磁波の特性値から前記把持部が掴んだゴミの特性値を計算するコンピュータと、前記VNAと前記コンピュータに電力を供給するバッテリと、を備え、前記コンピュータは、前記把持部がゴミを掴んだ状態で計測された前記電磁波の特性値と、前記把持部がゴミを掴んでいない状態で計測された前記電磁波の特性値と、から前記ゴミによる前記電磁波の減衰率を計算し、当該減衰率を誘電率に変換し、ゴミの誘電率とゴミの特性値の関係を示す検量線と変換した前記誘電率とに基づいて、前記ゴミの特性値を計算する。
【0008】
本開示に係るクレーンシステムは、上記のクレーン装置と、前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて、前記クレーン装置を制御する制御装置と、を備え、例えば、前記ゴミの特性値が閾値の範囲内であれば、前記制御装置は前記把持部が掴んだゴミを焼却設備へ投入する。
【0009】
本開示に係る制御方法では、下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側にて固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置とを、備え、前記計測装置が前記天板部に設置されるクレーン装置または前記ゴミの焼却設備を、前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて制御する制御方法であって、前記計測装置は、電磁波を照射するとともに空間の電磁波を検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された電磁波の特性値を計測するVNA(Vector Network Analyzer)と、前記VNAが計測した前記電磁波の特性値から前記把持部が掴んだゴミの特性値を計算するコンピュータと、前記VNAと前記コンピュータに電力を供給するバッテリと、を備え、前記コンピュータは、前記把持部がゴミを掴んだ状態で計測された前記電磁波の特性値と、前記把持部がゴミを掴んでいない状態で計測された前記電磁波の特性値と、から前記ゴミによる前記電磁波の減衰率を計算し、当該減衰率を誘電率に変換し、ゴミの誘電率とゴミの特性値の関係を示す検量線と変換した前記誘電率とに基づいて、前記ゴミの特性値を計算する。
【発明の効果】
【0010】
本開示のクレーン装置、クレーンシステム及び制御方法によれば、LHVや水分率などのゴミ特性を精度よく計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るゴミ処理プラントの要部の概略図である。
図2A】実施形態に係る計測装置の構成を示す第1の図である。
図2B】実施形態に係る計測装置の構成を示す第2の図である。
図3】実施形態に係る計測装置によるLHVの計測処理の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る計測装置の計測精度とLHVの相関図である。
図5】実施形態に係るホッパへのゴミの投入制御の一例を示す図である。
図6】実施形態に係る計測装置によるLHVの計測処理の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、本開示のクレーン装置について、図1図6を参照しながら説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係るゴミ処理プラント100の概略図である。図1に示すようにゴミ処理プラント100は、ピット1と、ホッパ2と、クレーン3と、制御装置4と、を備えている。ゴミ処理プラント100に運搬されてきたゴミがピット1へ投入され、ピット1にて貯留される。ピット1は、ゴミが貯留された貯留層1aと、その上側の空間1bを含む。空間1bには、クレーン3が移動可能に設けられている。クレーン3は、ピット1内のゴミを掴むバケット3aを有している。例えば、バケット3aは、クレーン3のアーム3dの先端に設けられている。クレーン3は、バケット3aを用いてピット1に貯留されたゴミを掴み上げて落下させることによりゴミを撹拌し、ゴミが焼却に適した状態となると、バケット3aでゴミを掴んでホッパ2まで搬送し、ホッパ2へゴミを投入する。ホッパ2は、投入されたゴミを一時的に貯留し、不図示の焼却設備へ貯留したゴミを供給する。クレーン3およびバケット3aの動作は、制御装置4によって制御される。バケット3aが掴んだゴミが焼却に適した状態かどうかは、バケット3aの天板部3bに設けられた計測装置10によるLHVの計測結果によって判断される。計測装置10は、バケット3aが掴んだゴミについて、マイクロ波による誘電率、或いはマイクロ波の減衰率の計測を行い、計測した誘電率或いは減衰率をLHVに変換して、制御装置4へ送信する。制御装置4は送信されたLHVの値からバケット3aが掴んだゴミが焼却に適した状態かどうかを判断する。焼却に適した状態となっていれば、制御装置4は、クレーン3を制御してホッパ2へゴミを投入し、焼却に適した状態ではない場合には、撹拌を継続する。一般的に、LHV等のゴミ特性を計測する計測装置は天板部3bではなく、バケット3aの把持部3cに設けられることが多い。これに対し、本実施形態では、天板部3bに計測装置10を設けることによって、高精度な計測とメンテナンス性の向上を実現する。なお、本明細書では、ゴミの特性値としてLHVを例に説明を行うが、計測装置10はゴミの水分率を計測してもよい。
【0013】
(計測装置の構成)
図2A図2Bに計測装置10の構成の概略を示す。図2Aは計測装置10を上から見た場合の断面図であり、図2Bはクレーン3に取り付けた計測装置10を側面から見た場合の断面図である。図2Bに示すように、計測装置10は、バケット3aの天板部3bに設置される。天板部3bは、下端側が開閉可能に構成された把持部3cの開閉動作の支点となる上端側にて、アーム3dとバケット3aとを接続する部材の一部を構成する(または、そのような部材に固定される。)。天板部3b自体は動作しない為、天板部3bに計測装置10を設置することで、クレーン3(アーム3d)の動作に対して固定され、安定した計測が可能になる。計測装置10は、センサ部11と、VNA(Vector Network Analyzer)12と、PC(personal computer)13と、バッテリ14と、バッテリ15と、を備える。センサ部11は、電極11a、誘電体11b、アース11cを備える。センサ部11とVNA12は、例えば、同軸ケーブル16bで接続されている。VNA12側ではコネクタにて同軸ケーブル16bを接続し、センサ部11側では同軸ケーブル16bの外皮側の導体はアース11cへ接続し、中心の導体は電極11aへ接続する。このときアース11cと電極11aが短絡しないように、アース11cへ接続する外皮側の導体と中心の導体のそれぞれを保護管で覆ってもよい。バッテリ14とVNA12は電源ケーブル16aで接続される。バッテリ14は、VNA12の電源である。例えば、電極11aには、VNA12を通じて電圧が印加され、電極11aからはマイクロ波が、把持部3cによって囲まれた空間の方向へ照射される。誘電体11bは、この空間の電磁波を検出する。VNA12は誘電体11bを通じて、空間のマイクロ波の強度(振幅)や位相を計測する。VNA12とPC13は、データ転送用のケーブル16cで接続され、VNA12が計測した振幅や位相などの計測値は、ケーブル16cを通じてPC13へ転送される。PC13は、VNA12の計測値からLHVを計算するコンピュータである。バッテリ15とPC13は電源ケーブル16dで接続される。バッテリ15は、PC13の電源である。ピット1の貯留層1aにバッテリ14、15が落下すると、火災が発生する可能性がある。したがって、バッテリの落下を防ぐため、バッテリ14とバッテリ15は、天板部3bにボルト等で固定する。センサ部11と、VNA12と、PC13と、バッテリ14~15、ケーブル16a~16dは、計測に影響を与えない樹脂などの素材でできたコンテナ17内に収容して、天板部3bへボルトやアタッチメント等により固定してもよい。これにより、クレーン3の動作に対して安定して固定することが可能となる。また、ボックスやコンテナ等に収納して天板部3bに設置することにより、周囲からのゴミや水分の飛散から保護することができ、かつ、天板部3bとの間で脱着可能な構造とすることができ、メンテナンスも容易となり、計測装置10の故障や交換の場合の作業効率を向上することができる。但し、上述したようにバッテリ14、15については、コンテナ17に固定するのではなく、直接、天板部3bへ固定する。また、センサ部11内にゴミや水分が浸透しないように、電極11aや誘電体11bを覆うようにコーティングしてもよい。コーティング剤の一例として、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル等を用いてもよい。同様に、コンテナ17と天板部3bの接合部分等に対してコーティング剤を塗布してもよい。さらにコンテナ17を保護するために、コンテナ17の側面を覆うようにカバー18を設けてもよい。カバー18は、例えば鉄製の板であってもよい。カバー18は天板部3bにボルト等で固定する。また、コンテナ17の底面外側に樹脂製のカバーとして底板19を設置してもよい。底板19は、カバー18にボルト等で固定する。
【0014】
なお、VNA12とPC13の電源としてバッテリ14、15を用いることとしているが、天井などから給電線を引いても電力を供給してもよい。ただしクレーン3は高さが変わるため、給電線も伸縮機能が必要となり、コストが高くなったり、取り扱いが難しくなったりする。バッテリであれば、落下に注意すれば、給電線の場合のような懸念点が無く、搭載することができる。
【0015】
計測装置10と制御装置4とは、有線または無線のネットワークにより互いに通信可能に接続されている。例えば、PC13は、計算したLHVの情報を制御装置4へ送信する。また、制御装置4は、VNA12へ制御信号を送信し、VNA12の動作を制御する。
【0016】
(計測装置の動作)
バケット3aの天板部3bに計測装置10を設けると、バケット3aが掴んだゴミの特性を計測することができる。計測装置10は、電極11aからバケット3aが掴んだゴミへマイクロ波を照射し、その反射波をVNA12で計測する。VNA12が計測した反射波の振幅や位相をPC13で解析して誘電率、LHVを計算する。この方法では、誘電体11bの厚さが測定範囲の広さに影響する。そのため、誘電体11bは、バケット3aがゴミを掴んだときにその全体を計測範囲とすることができるような十分な厚さを持つ。バケット3aによりゴミが把持されると、ゴミが無いときに比べて空間の誘電率が増大する。PC13は、マイクロ波の減衰量の変化から、誘電率を計算し、検量線によりLHVを計算する。
【0017】
LHV計測処理の手順を図3に示す。制御装置4の指示により、バケット3aがピット1のゴミを掴む(ステップS1)。次に制御装置4の指示により、VNA12と接続されたセンサ部11からバケット3aが掴んだゴミへマイクロ波を照射する(ステップS2)。VNA12は、反射波の振幅と位相を計測する(ステップS3)。VNA12は、計測した振幅と位相の情報をPC13へ転送する。PC13には、予め、バケット3aがゴミを掴んでいない状態でマイクロ波を照射したときにVNA12が計測した反射波の振幅と位相が登録されている。また、予め誘電率や減衰率とLHVの関係を示す検量線が作成され、PC13には、この検量線が登録されている。PC13は、ゴミを掴んでいない状態と掴んだ状態の反射波の振幅および位相から誘電率または減衰率を計算する(ステップS4)。例えば、PC13は、ゴミによるマイクロ波の減衰率を、(ゴミを掴んだ状態の振幅の減衰量-ゴミを掴んでいない状態の振幅の減衰量)÷(ゴミを掴んだ状態のマイクロ波の位相の進み量-ゴミを掴んでいない状態のマイクロ波の位相の進み量)によって計算する。また、ゴミに空気がどの程度含まれるかで減衰率が変わる為、PC13は、かさ比重を計算し、かさ比重を用いて減衰率を補正してもよい。例えば、重量はクレーン3の上部に搭載された重量計でクレーン3ごとに重量を計り、増加分をゴミの重量とする。また、PC13は、クレーン3がつかんでいる爪の開度等で体積を推定し、重量と体積からかさ比重を求める。PC13は、例えば、かさ比重ごとに補正係数を登録したテーブル等を有しており、求めたかさ比重に応じた補正係数を読み出して、上記のようにして計算した減衰率に読みだした補正係数を乗じるか加減算する等して減衰率を補正してもよい。PC13は、計算した減衰率を所定の計算式を使ってゴミの誘電率に変換し、変換した誘電率と上述の検量線からバケット3aが掴んだゴミのLHVを計算する(ステップS5)。例えば、PC13は、予め登録されている検量線を参照して、ステップS4で計算した誘電率に対応するLHVを読み取る。あるいは、PC13が、減衰率とLHVの対応関係を示す検量線を有している場合、PC13は、検量線を参照して、ステップS4で算出した減衰率に対応するLHVを読み取る。PC13は、読み取ったLHVの情報を制御装置4へ送信する(ステップS6)。
【0018】
以上説明したように、本実施形態によれば、計測装置10をクレーン3の天板部3bへ設置する。バケット3aの把持部3cにゴミや水分が付着した場合であっても、天板部3bはこれらの影響をあまり受けないため精度の高いLHVの計測が可能となる。また、把持部3cに計測装置を設置すると、計測装置のメンテナンスの際には把持部3cを取り外す必要がある場合が生じうるが、天板部3bに設置しておけば把持部3cに関係なく、計測装置10の着脱が可能である。これにより、計測装置10のメンテナンスにより、クレーン3の停止時間を短縮し、クレーン3の稼働率低下を防止し、運用性を向上することができる。なお、ゴミに含まれるプラスチックや水分の割合とLHVの関係式を用いて、PC13がLHVに代えて/加えて、ゴミの水分率を計算するように構成してもよい。
【0019】
(クレーンの制御)
制御装置4は、図3の処理によって、計測装置10から送信されたLHVの情報を参照してクレーン3の動作を決定する。例えば、計測装置10から送信されたLHVが所定の目標範囲内であれば、撹拌を終了し、ホッパ2へゴミを投入する。例えば、LHVの値が11000(kJ/kg)を上回ると、LHVを下げる為に散水し、7000(kJ/kg)未満の場合には燃焼促進のため、燃焼空気温度を上げるといった運用となっている場合、制御装置4は、掴んだゴミのLHVの値が7000~11000(kJ/kg)となったときにホッパ2へ投入すると判断してもよい。また、計測装置10による計測には、誤差が発生するが、その誤差による影響(真のLHVの値は目標範囲に入っていないが、誤差により目標範囲と認識され、ホッパ2へ投入される等)を低減するために、例えば、目標範囲の中央値を計算し、計測装置10から送信されたLHVの値が中央値となった場合のみ、制御装置4がホッパ2へゴミを投入すると判断するように構成してもよい。例えば、上記の例では9000(kJ/kg)が中央値である。この場合、制御装置4は、バケット3aが掴んだゴミについて計測装置10が計測したLHVの値が9000(kJ/kg)となると、ゴミをホッパ2へ投入し、それ以外の場合は撹拌を継続する。
【0020】
また、ゴミを撹拌した後の水分は平均値となる、撹拌後のごみ水分の誤差は誤差伝播則にて算出する、などを前提に水分率の計測精度と撹拌後のLHVの相関を解析したところ図4に例示する相関図が得られた。図4の縦軸は、撹拌後のゴミのLHV(kJ/kg)、横軸は、水分率の計測精度(%)である。図4のグラフは、水分率の計測精度に応じて、計測したLHVが真値となり得る範囲が変わることを示している。例えば、計測装置10の計測精度が±13.9%(水分率の誤差が±13.9%)の場合、計測装置10が計測したLHVの値が9000(kJ/kg)であれば、LHVの真値は7000~11000(kJ/kg)である。計測装置10の水分率の計測精度を予め解析し、その計測精度が13.9%以下であれば、LHVの値が9000(kJ/kg)となった場合にゴミをホッパ2へ投入することで、100%の確率でLHVが目標範囲内のゴミのみをホッパ2へ投入可能なことを期待することができる。計測精度が13.9%を超える場合、LHVの値が9000(kJ/kg)となった場合にゴミを投入したとしても、計測精度に応じた確率で、目標範囲外のLHV値を持つゴミが投入される可能性がある。反対に計測精度が5%の場合、計測装置10が計測したLHVの値が9000でなくても、図示するH1の範囲に入っていれば、誤差を考慮しても目標範囲内となるので、ホッパ2へ投入することができる。このように計測装置10の計測精度に応じて、バケット3aが掴んだゴミをホッパ2へ投入するか、撹拌を継続するかを判断するためのLHVの閾値を設定することができる。
【0021】
さらに、計測装置10が計測したLHVの値に応じて、ゴミに散水を行うことで、ホッパ2へ投入するゴミのLHV値を制御してもよい。これにより、ゴミのLHV値を7000~11000(kJ/kg)の範囲と調整することが可能となる。具体的には、LHVの値が高い場合、ピット1に散水することによりLHVを下げるよう制御してもよい。また、本実施形態のLHVの閾値の設定および閾値に基づくホッパ2へのゴミの投入制御は、計測装置を把持部3cに設置した構成に対しても適用することができる。
【0022】
図5にホッパ2へのゴミ投入制御の一例を示す。最初にバケット3aが掴んだゴミをホッパ2へ投入するかどうかを判断するための閾値の範囲を制御装置4に設定する(ステップS11)。例えば、ホッパ2へ投入するゴミのLHVの目標範囲の中央値を閾値に設定してもよいし、計測装置10の計測精度が分かっている場合には、計測精度に応じた範囲を閾値として設定してもよい。計測精度に応じた閾値の範囲とは、計測装置10によるLHV計測値に計測誤差を加算したとしても目標範囲に含まれるような範囲である。例えば、図4の例で、±5%の計測精度が得られた場合であれば、範囲H1をLHVの閾値に設定してもよい。次に制御装置4の指示により、バケット3aがピット1のゴミを掴む(ステップS12)。次に計測装置10が掴んだゴミのLHVを計測する(ステップS13)。計測装置10は計測したLHVの値を制御装置4へ送信する。制御装置4は、LHVの値を受信し、受信したLHVの値が、ステップS11で設定した閾値の範囲内かどうかを判定する(ステップS14)。LHVの値が閾値の範囲内の場合(ステップS14;Yes)、制御装置4は、クレーン3を制御してゴミをホッパ2へ投入する(ステップS15)。LHVの値が閾値の範囲外の場合(ステップS14;No)、制御装置4は、クレーン3を制御してゴミの撹拌を継続する(ステップS16)。
【0023】
天板部3bに設置した計測装置10により、精度よくLHVを計測するとともに、LHVの閾値の範囲を適切に設定することで、LHVの計測値が目標範囲内となるゴミのみを選択的にホッパ2を介して焼却設備に投入するごとができ、焼却設備における燃焼制御の安定性を向上することができる。
図5のフローでは、LHVの値が閾値の範囲内の場合にホッパに投入することとしたが、例えば閾値の範囲に入っていなくても、特性値を直接利用して何らかの制御を行う場合にも本実施形態の特性値(LHVなど)の算出方法を活用することができる。また、ゴミの特性値に基づいてクレーン3を制御するのではなく、ピット1やゴミの焼却設備を制御してもよい。例えば、LHVに基づいてピット1に散水したり、焼却設備の運転(例えば、燃焼制御)を調整したりしてもよい。
【0024】
(計測精度向上の工夫)
次に計測装置10の計測精度をさらに向上させる制御について説明する。図3のステップS4では、バケット3aがゴミを掴んでいる状態と掴んでいない状態の反射波の変化から掴んだゴミの減衰率を計算し、ゴミの誘電率およびLHVを計算することを説明した。また、PC13には、バケット3aがゴミを掴んでいない状態で電極11aからマイクロ波を照射したときにVNA12が計測した反射波の振幅と位相が登録されていることを前提とした。天板部3bに設置した計測装置10には、ゴミの把持部3cに設けられた計測装置に比べて、水分やゴミが付着しにくい。しかし、天板部3bに計測装置10を設置した場合であっても底板19にゴミや水分が付着し、計測精度に影響する場合がある。そこで、ゴミを掴んでいない状態における位相や振幅を運用中に適宜計測するようにし、最新の計測装置10の状態(ゴミ等の付着状態)を反映した計測を行う。この処理手順を図6に示す。
【0025】
図6は、実施形態に係る計測装置によるLHVの計測処理の他の例を示す図である。
最初にバケット3aがピット1のゴミを掴む(ステップS21)。その状態でマイクロ波を照射し、VNA12による振幅と位相の計測を行う(ステップS22)。次にクレーン3を移動させずにバケット3aの把持部3cを開いてゴミを離す(ステップS23)。次にゴミを離した状態で把持部3cを、ステップS21でのゴミを把持したときの状態と同じ状態に戻し、その状態でマイクロ波を照射して、VNA12による振幅と位相の計測を行う(ステップS24)。次にPC13が、ゴミを掴んだ状態で計測された振幅および位相と、ゴミを掴んでいない状態で計測された振幅および位相から減衰率を計算し(ステップS25)、別途作成されている既知の検量線からLHVを計算する(ステップS26)。これにより、計測装置10にゴミが付着した状態を考慮したうえで、LHVを計測することができる。但し、この計測方法は、掴んだゴミを離してしまうため、計測したLHVが閾値を満たしていたとしても、そのゴミをホッパ2へ投入することができない。
【0026】
そこで、高頻度あるいは定期的に(例えば1日1回、数日に1回など)、図6の計測、あるいは図6のステップS24の状態での振幅および位相の計測を行って、この計測値を、ゴミを掴んでいない状態におけるマイクロ波の振幅および位相としてPCに登録するようにし、図3で説明した処理によってバケット3aが掴んだゴミのLHVを計測するようにし、図6で説明した処理によって、ゴミをホッパ2へ投入するか、撹拌を継続するかを制御してもよい。ゴミを掴んでいない状態での振幅および位相の計測をゴミの撹拌・投入の運用中に適宜(例えば、計測装置10へのゴミや水分の付着状況が変化する毎に)行い、その計測結果をPC13に基準値(ゴミを掴んでいない状態での位相と振幅)として登録しておくことで、計測装置10へのゴミや水分付着の影響を除去した精度が高いLHVの計測が可能となる。
【0027】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0028】
<付記>
実施形態に記載のクレーン装置、クレーンシステム及び制御方法は、例えば以下のように把握される。
【0029】
(1)第1の態様に係るクレーン装置は、下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側に固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、備え、前記計測装置が前記天板部に設置される。
これによりLHVや水分率などのゴミ特性を精度よく計測することができる。
【0030】
(2)第2の態様に係るクレーン装置は、(1)のクレーン装置であって、前記計測装置は、電磁波を照射するとともに空間の電磁波を検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された電磁波の特性を計測するVNA(Vector Network Analyzer)と、前記VNAが計測した電磁波の特性から前記把持部が掴んだゴミの特性を計算するコンピュータと、前記VNAと前記コンピュータに電力を供給するバッテリと、を含む。
これによりLHVや水分率などのゴミ特性を精度よく計測することができる。
【0031】
(3)第3の態様に係るクレーン装置は、(2)のクレーン装置であって、前記バッテリは、前記天板部に固定される。
これにより、バッテリの落下による火災を防ぐことができる。
【0032】
(4)第4の態様に係るクレーン装置は、(2)~(3)のクレーン装置であって、前記センサ部と、前記VNAと、前記コンピュータと、が収容されたコンテナをさらに含み、前記コンテナが前記天板部に固定される。
これにより、計測装置の着脱が容易となり、メンテナンス性が向上する。
【0033】
(5)第5の態様に係るクレーン装置は、(2)~(4)のクレーン装置であって、前記コンピュータは、前記把持部がゴミを掴んだ状態で計測された前記電磁波の特性と、前記把持部が前記ゴミを掴んでいない状態で計測された前記電磁波の特性と、から前記ゴミによる前記電磁波の減衰率を計算し、当該減衰率を誘電率に変換し、誘電率とゴミの特性値の関係を示す検量線と変換した前記誘電率とに基づいて、前記ゴミの特性値を計算する。
これにより、ゴミ特性を計測することができる。
【0034】
(6)第6の態様に係るクレーンシステムは、(1)~(5)に記載のクレーン装置と、前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて、前記クレーン装置を制御する制御装置と、を備え、前記ゴミの特性値が所定の閾値の範囲内であれば、前記制御装置は前記把持部が掴んだゴミを焼却設備へ投入する。
これにより、精度よくゴミの特性値を計測するとともに、特性値が目標範囲のゴミのみを選択的に焼却炉に投入するごとができ、燃焼制御の安定性を向上することができる。
【0035】
(7)第7の態様に係るクレーンシステムは、(6)のクレーンシステムであって、前記閾値の範囲は、前記ゴミの特性値の目標範囲の中央値である。
これにより、ゴミ特性の閾値を適切に設定することができ、燃焼制御の安定性を向上することができる。
【0036】
(8)第8の態様に係るクレーンシステムは、(6)のクレーンシステムであって、前記閾値の範囲は、前記計測装置が計測する前記ゴミの特性値に、前記計測装置の計測誤差を加算した後の値が所定の目標範囲に含まれるように設定される。
これにより、ゴミ特性の閾値を適切に設定することができ、燃焼制御の安定性を向上することができる。
【0037】
(9)第9の態様に係るクレーンシステムは、(2)~(5)に記載のクレーン装置と、前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて、前記クレーン装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記把持部がゴミを掴んだ後に当該ゴミを離すよう制御し、前記計測装置は、前記把持部が前記ゴミを離した後に前記電磁波の特性を計測して、その計測値を前記コンピュータに記録する。
ゴミを掴んでいない状態での電磁波特性の計測を行い、その計測結果を登録しておくことで、計測装置10へのゴミや水分付着の影響を除去した精度が高い計測が可能となる。
【0038】
(10)第10の態様に係る制御方法は、下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側に固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、備え、前記計測装置が前記天板部に設置されるクレーン装置又は前記ゴミの焼却設備又はピットを、前記計測装置が計測した前記ゴミの特性値に基づいて制御する。
【符号の説明】
【0039】
1・・・ピット
2・・・ホッパ
3・・・クレーン
3a・・・バケット
3b・・・天板部
3c・・・把持部
4・・・制御装置
10・・・計測装置
11・・・センサ部
11a・・・電極
11b・・・誘電体
11c・・・アース
12・・・VNA
13・・・PC
14、15・・・バッテリ
16a~16d・・・ケーブル
17・・・コンテナ
18・・・カバー
19・・・底板
100・・・ゴミ処理プラント
【要約】
【課題】バケットで掴んだゴミの特性を精度よく計測できるクレーン装置を提供する。
【解決手段】クレーン装置は、下端側が開閉可能に構成されたゴミを掴む把持部と、前記把持部の上端側に固定された天板部と、前記把持部が掴んだゴミの特性値を計測する計測装置と、を備え、前記計測装置が前記天板部に設置される。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6