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  • 特許-筒状編地の編成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】筒状編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/10 20060101AFI20240920BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20240920BHJP
   A41D 1/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D04B1/10
D04B1/00 Z
A41D1/04 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023505493
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009260
(87)【国際公開番号】W WO2022191048
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021036718
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】田口 智士
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-001852(JP,A)
【文献】特開2012-092469(JP,A)
【文献】特開2005-232603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/02-1/04
A41D 3/00-3/08
A41D 29/00
D04B 1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一給糸口と第二給糸口とを備える横編機を用いて、第一の針床に係止される第一編地部と、前記第一の針床に対向する第二の針床に係止される第二編地部とを備える筒状編地を編成する過程で、
前記第一給糸口を動かして、前記第一編地部の編幅内にインターシャ部を編成した後、前記第一給糸口を停止させた状態で、前記第一給糸口を横切るように前記第二給糸口を動かして前記第二編地部を編成する筒状編地の編成方法において、
前記インターシャ部の終端編目を編成した後、前記第一給糸口を第一方向に移動させ、前記第二編地部の編目が係止される編針にタック目を形成する工程Aと、
前記工程Aの後に、前記タック目よりも第二方向側に前記第一給糸口を配置させることで、前記第二編地部を編成する際に、前記編針が歯口に進出することに伴い前記タック目が外れるようにする工程Bとを行う筒状編地の編成方法。
但し、前記第一方向は、前記インターシャ部の外側に向かう方向であり、
前記第二方向は、前記インターシャ部に内側に向かう方向である。
【請求項2】
前記工程Aにおいて前記タック目が形成される位置は、前記終端編目から見て編幅方向に3目以内の位置であり、
前記工程Bにおいて前記第一給糸口が配置される位置は、前記タック目から見て編幅方向に2目以内の位置である請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記終端編目を編成した後で、かつ前記工程Aの前に、工程X、工程Y、及び工程Zを行い、
前記工程Xでは、前記第一給糸口を前記第一方向に移動させ、前記第一編地部及び前記第二編地部が係止されていない編針に第一編目を編成し、
前記工程Yでは、前記第一編目よりも前記第二方向側に前記第一給糸口を配置させることで、前記第一給糸口から前記第一編目に延びる編糸を、前記終端編目と前記第一編目とをつなぐ渡り糸に交差させ、
前記工程Zでは、前記第一編目を、前記第一編地部が係止される針床に移動させる請求項1又は請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記第一編地部と前記第二編地部とが総針状態で編成される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の筒状編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いた筒状編地の編成方法に係る。
【背景技術】
【0002】
横編機は、複数の針床と複数の給糸口を備える。各給糸口は、各針床に備わる複数の編針に編糸を供給する。横編機を用いて編成を行う場合、ある給糸口Xを用いて編地部が編成される際、その給糸口Xが、停止している別の給糸口Yを横切る場合がある。このとき、給糸口Yから延びる編糸が、上記編地部に編み込まれてしまう場合がある。このような問題点を解決する技術として、例えば特許文献1に開示される編地の編成方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、インターシャ編成において生じる上記問題点を解決する技術が開示されている。特許文献1の図2には、工程1において第一給糸口(符号11)を用いて第一編地部を編成した後、工程2~4において第二給糸口(符号13)を用いて第二編地部を編成することが示されている。第一編地部の少なくとも一部が、針床上で第二編地部の編幅方向に重複している。工程3に示されるように、第二給糸口が第一給糸口を横切る際、第二給糸口と第一給糸口が共に、蹴り返されている。蹴り返しとは、ある方向に移動していた給糸口が、一時的に反対方向に移動することを意味する。両給糸口が蹴り返されることで、第一給糸口から第一編地部に延びる編糸が第二編地部に編み込まれることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-1852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、第二編地部が編成される際、第二給糸口が蹴り返される。その際、第二給糸口が一旦停止し、第二給糸口から延びる編糸のテンションが変化する。その結果、第二給糸口の蹴り返しの前後で編目の大きさが変化する場合がある。編糸の材質によっては、第二編地部における編目の大きさの違いが目立つ場合がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、停止した状態にある第一給糸口を横切るように第二給糸口を移動させて編成する際、第二給糸口を蹴り返す必要がない編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の筒状編地の編成方法は、
第一給糸口と第二給糸口とを備える横編機を用いて、第一の針床に係止される第一編地部と、前記第一の針床に対向する第二の針床に係止される第二編地部とを備える筒状編地を編成する過程で、
前記第一給糸口を動かして、前記第一編地部の編幅内にインターシャ部を編成した後、前記第一給糸口を停止させた状態で、前記第一給糸口を横切るように前記第二給糸口を動かして前記第二編地部を編成する筒状編地の編成方法において、
前記インターシャ部の終端編目を編成した後、前記第一給糸口を第一方向に移動させ、前記第二編地部の編目が係止される編針にタック目を形成する工程Aと、
前記工程Aの後に、前記タック目よりも第二方向側に前記第一給糸口を配置させることで、前記第二編地部を編成する際に、前記編針が歯口に進出することに伴い前記タック目が外れるようにする工程Bとを行う。
但し、前記第一方向は、前記インターシャ部の外側に向かう方向であり、
前記第二方向は、前記インターシャ部に内側に向かう方向である。
【0008】
<2>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Aにおいて前記タック目が形成される位置は、前記終端編目から見て編幅方向に3目以内の位置であり、
前記工程Bにおいて前記第一給糸口が配置される位置は、前記タック目から見て編幅方向に2目以内の位置である形態が挙げられる。
【0009】
<3>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記終端編目を編成した後で、かつ前記工程Aの前に、工程X、工程Y、及び工程Zを行い、
前記工程Xでは、前記第一給糸口を前記第一方向に移動させ、前記第一編地部及び前記第二編地部が係止されていない編針に第一編目を編成し、
前記工程Yでは、前記第一編目よりも前記第二方向側に前記第一給糸口を配置させることで、前記第一給糸口から前記第一編目に延びる編糸を、前記終端編目と前記第一編目とをつなぐ渡り糸に交差させ、
前記工程Zでは、前記第一編目を、前記第一編地部が係止される針床に移動させる形態が挙げられる。
【0010】
<4>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記第一編地部と前記第二編地部とが総針状態で編成される形態が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の編成方法によれば、後述する実施形態で詳しく説明するように、インターシャ部の編幅方向に重複する第二編地部を編成する際、第二給糸口を蹴り返す必要がない。従って、第二編地部を編成する際、第二給糸口を停止させる必要が無い。第二給糸口を停止させることなく第二編地部を編成することで、第二編地部の編幅方向に並ぶ複数の編目の大きさにばらつきが生じ難い。
【0012】
ここで、本発明の編成方法の工程Aでは、第一給糸口から給糸される編糸を用いて第二編地部の編目にタック目を形成している。そのため、第二編地部を編成する際に第一編地部と第二編地部とが綴じ合わされてしまうように思われるかもしれない。しかし、後述する実施形態で詳しく説明するように、工程Aのタック目は第二編地部を編成する際に編針から外れてしまうので、第一編地部と第二編地部とが綴じられることはない。
【0013】
ループプレッサーやステッチプレッサーなどの編成補助部材を備える横編機によって筒状編地を編成する場合、第一給糸口から延びる編糸がその編成補助部材に引っ掛けられる恐れがある。その場合、第一編地部と第二編地部とが綴じられてしまう可能性がある。上記形態<2>及び<3>の編成方法によれば、後述する実施形態で詳しく説明するように、第一給糸口から延びる編糸が編成補助部材に引っ掛けられることを効果的に抑制できる。
【0014】
上記形態<4>の編成方法によれば、詰んだ編目を有するしっかりとした筒状編地を編成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態1に係る筒状編地であるニットウェアの概略図である。
図2図2は、実施形態1に係る編成方法の一例を示すイメージ図である。
図3図3は、実施形態1に係る編成方法の編成工程の一部を示す編成工程図である。
図4図4は、実施形態1に係る編成方法の編成工程の一部を説明する針床の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本実施形態1では、本発明の編成方法を用いて、インターシャ組織を有するニットウェアを編成する例を図1から図4に基づいて説明する。もちろん、本例の編成方法によって編成される編地は、ニットウェアに限定されるわけではなく、例えばシートカバーなどの産業資材であっても良い。
【0017】
図1に示される筒状編地100は、身頃50と右袖60Rと左袖60Lとを有するセーターである。身頃50は、前身頃50Fと後身頃50Bとを備える。セーターの左右は着用者の左右を基準としており、セーターの前後は着用者の前後を基準としている。前身頃50Fにはインターシャ部3が形成されている。インターシャ部3はインターシャ編成によって得られる。従って、インターシャ部3を構成する編糸と、インターシャ部3以外の部分を構成する編糸とは異なっている。
【0018】
インターシャ部3を編成する手順を図2のイメージ図に基づいて説明する。本例では、4枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。以下、4枚ベッド横編機に備わる下部前針床、下部後針床、上部前針床、及び上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、及びBUと表記する。本例では、FD及びFUが第一の針床、BD及びBUが第二の針床である。FD、BD、FU、BUに備わる編針は、フックを開閉するスライダーを備えるコンパウンドニードルでも良いし、フックを開閉するラッチを備えるラッチニードルでも良い。4枚ベッド横編機は、複数の給糸口を備える。本例では、第一編糸8Yを給糸する第一給糸口8と、第二編糸9Yを給糸する第二給糸口9とを用いた編成例である。給糸口8,9はキャリッジに連行される構成でも良いし、キャリッジとは独立して移動可能な構成でも良い。本例の給糸口8,9は、キャリッジと独立して移動可能な構成である。第一給糸口8から給糸される第一編糸8Yは、インターシャ部3の編成に利用される。第二給糸口9から給糸される第二編糸9Yは、インターシャ部3以外の編成に利用される。もちろん、編成に使用される給糸口は三つ以上でも良い。
【0019】
図2では、給糸口8,9は逆三角マークで示される。FDから見て、第一給糸口8は第二給糸口9よりも手前側に配置されている。言い換えれば、BDから見て、第二給糸口9は第一給糸口8よりも手前側に配置されている。身頃50の両端に示される横棒は、前身頃50Fと後身頃50Bとの境界である。図2における「T+数字」は編成の手順を示す。太線矢印は給糸口8,9の移動を示す。
【0020】
T0には、インターシャ部3の直前まで編成された身頃50が示されている。本例の身頃50は、第二給糸口9を用いた筒状編成によって編成される。この状態から、インターシャ部3を有する前身頃50Fと、この前身頃50Fに対向する後身頃50Bとを編成する。T1以降、インターシャ部3を有する前身頃50Fを第一編地部1とし、後身頃50Bを第二編地部2とする。
【0021】
T1では、身頃50(T0)の編幅外から第一給糸口8を糸入れし、第一給糸口8を右方向に移動させた後、左方向に移動させる往復編成を行う。この往復編成によって、FDにおいてインターシャ部3がウエール方向に2段分編成される。インターシャ部3の編成後、後述する図3,4の編成工程図に示される編成を行う。
【0022】
T2では、第二給糸口9を右方向に移動させた後、左方向に移動させる往復編成を行う。この往復編成によって、FDにおいて右部1Rがウエール方向に二段分編成される。右部1Rは、第一編地部1の一部である。右部1Rは、インターシャ部3の編幅方向の右側(図面上は左側)に隣接し、タックなどの編成によってインターシャ部3と接合される。
【0023】
T3では、第二給糸口9を右方向に移動させ、BDにおいて第二編地部2を編成する。本例では、第二編地部2の編成範囲内に、インターシャ部3の編成範囲が重複している。従って、第二編地部2を編成するとき、第二給糸口9は第一給糸口8を横切る。本例では、T1の後に図3,4の編成を行うことで、第二給糸口9を停止させることなく第二編地部2を編成することができる。T3の編成の後、再び、図3,4の編成を行う。
【0024】
T4では、第二給糸口9を左方向に移動させた後、右方向に移動させる往復編成を行う。この往復編成によって、FDにおいて左部1Lがウエール方向に二段分編成される。左部1Lは、第一編地部1の一部である。左部1Lは、インターシャ部3の編幅方向の左側(図面上は右側)に隣接し、タックなどの編成によってインターシャ部3と接合される。
【0025】
T5では、第二給糸口9を左方向に移動させ、後針床BDにおいて第二編地部2を編成する。このT5においても、第二給糸口9は第一給糸口8を横切る。T3の後に図3,4の編成を行っているので、第二給糸口9を停止させることなく第二編地部2を編成することができる。T5が終了した時点における給糸口8,9の配置はT1と同じである。従って、T5以降は、T1からT5の編成を繰り返すことで、図1に示されるように身頃50にインターシャ部3が編成される。
【0026】
次に、インターシャ部3を有する部分の具体的な編成工程を図3,4に基づいて説明する。図3における「S+数字」は編成工程の番号を示す。図3の右欄にはFD、BD、及びBUにおける編目の係止状態が示されている。図3ではFUの図示は省略されている。右欄において、黒点は編針を、丸マークは編目を、V字マークは掛け目又はタック目を、逆三角マークは給糸口8,9を示している。欄外の大文字アルファベットは、編針の位置を示している。各工程において実際に編成された部分は太線で、新たに編成された編目は塗り潰して示される。
【0027】
図3のS0には、図2のT0の左半分に相当する編目が示されている。本例では、第一編地部1と第二編地部2とは、隣接する編目の間に空針が無い総針状態で編成されている。
【0028】
S1では、第一給糸口8を右方向に移動させ、空針であるBUの編針Kに掛け目10を形成した後、FDの編針Lから編針Tに係止されるインターシャ部3を編成する。掛け目10の編成は必須では無い。S1の編成は、図2のT1の往路編成に相当する。
【0029】
S2では、第一給糸口8を左方向に移動させ、FDの編針Tから編針Lに係止されるインターシャ部3を編成する。S2の編成は、図2のT1の復路編成に相当する。このS2では更に、インターシャ部3の編成終了後に、第一給糸口8を左方向に移動させ、掛け目10のウエール方向に連続する第一編目11を編成する(工程X)。本例では、インターシャ部3から離れる図3の左方向を第一方向D1と呼び、インターシャ部3に近づく右方向を第二方向D2と呼ぶ。第一方向D1と第二方向D2は、欄外の大文字アルファベットの横に示す。ここで、S1において掛け目10を形成しなかった場合、S2の第一編目11は掛け目となる。第一編目11は、次のS3を実施する時点で、第一編地部1に対向する針床に存在する必要がある。
【0030】
S3では、第一編目11よりも第二方向D2側に第一給糸口8を配置させることで、第一給糸口8から第一編目11に延びる第一編糸8Yを、渡り糸12に交差させる(工程Y)。本例では、第一給糸口8を第二方向D2に移動させることで、第一編糸8Yを渡り糸12に交差させている。渡り糸12は、FDに係止される終端編目3Eと、BUに係止される第一編目11とをつなぐ。終端編目3Eは、S2において編成されるインターシャ部3の複数の編目のうち、最後に編成される編目である。つまり、渡り糸12は、前後の針床をわたっている。本例とは異なり、BD及びBUを第一方向D1にラッキングさせることで、第一編糸8Yを渡り糸12に交差させても良い。
【0031】
S4では、第一編地部1が係止される針床に第一編目11を移動させる(工程Z)。具体的には、第一編目11をFDの編針Kに移動させている。このとき、渡り糸12に交差する第一編糸8Yが、渡り糸12に引っ掛けられてFD側に寄せられる。また、S4の第一編目11の移動によって、第一編目11が編目19(S3参照)に重ねられる。編目19は、第一編地部1におけるインターシャ部3以外の部分の編目である。編目19と第一編目11とが重ねられることで、図2のT2において右部1Rを形成したときに、インターシャ部3と右部1Rとがより強固に接合される。
【0032】
S4に続く編成手順を図4に基づいて説明する。図4では、FD及びBDの編針への編目の係止状態が模式的に示されている。図4における欄外の大文字アルファベットは、編針の位置を示している。図4の大文字アルファベットは、図3の大文字アルファベットに対応している。図4では、インターシャ部3の編目以外の編目を省略している。実際には、FDの編針J,Kには第一編地部1の編目が、BDの編針J,K,L,Mには第二編地部2の編目が係止されている。隣接する編針の間にはシンカー6とループプレッサー5が配置されている。シンカー6は、編幅方向に隣接する二つの編目の間をつなぐシンカーループの形状を整えるための構成である。ループプレッサー5は、編目や編糸を歯口7の下方に押えるための構成である(例えば、特開2013-64205号公報などを参照)。ループプレッサー5は必須の構成ではない。ここで、S5,S6では、FDに設けられるシンカー6とループプレッサー5の図示を省略している。
【0033】
図4のS4には、図3のS4が終了したときの編目の係止状態が示されている。S4に示されるように、第一編目11から第一給糸口8に向かって延びる第一編糸8Yは、渡り糸12に引っ掛けられてFDの側に寄せられている。そのため、BDの編針を動かしても、第一編糸8YがBDの編針に引っ掛けられ難くなる。例えばステッチプレッサー(特開平3-8841号公報)を備える横編機を使用する場合であっても、ステッチプレッサーが第一編糸8Yを引っ掛け難い。ステッチプレッサーは、新たな編目を編成する際、針床に係止される既存の編目を歯口7の下方に押える部材である。歯口7は、FDとBDとの間に形成される隙間である。歯口7の下方は、紙面垂直方向における奥側である。ステッチプレッサーは、キャリッジに搭載され、キャリッジと共に移動する。
【0034】
S5では、第一給糸口8を第一方向D1に移動させ、第二編地部2(図3参照)の編目にタック目15を形成する(工程A)。具体的には、BDの編針Jのフック4にタック目15を形成する。タック目15の形成位置は、終端編目3Eから見て編幅方向に3目以内の位置であることが好ましい。本例では、タック目15の形成位置は、終端編目3Eから見て編幅方向に2目離れた位置である。
【0035】
S5では更に、タック目15よりも第二方向D2側に第一給糸口8を配置させる(工程B)。本例では、第一給糸口8を第二方向D2に移動させ、タック目15を超える位置に第一給糸口8を停止させている。第一給糸口8の停止位置は、タック目15から見て編幅方向に2目以内の位置であることが好ましい。本例では、第一給糸口8の停止位置は、編針Jと編針Kとの間である。この停止位置は、タック目15から見て編幅方向に0.5目離れた位置である。S5に示されるように、タック目15を形成した後、第一給糸口8を第二方向D2に移動させる。その結果、第一編糸8Yのうち、第一給糸口8からタック目15に延びる部分と、タック目15から第一編目11に延びる部分が弛みなく張られた状態となる。従って、タック目15は、フック4の先端に引っ掛けられたような状態になる。本例とは異なり、BDを第一方向D1にラッキングさせることで、タック目15よりも第二方向D2側に第一給糸口8を配置させても良い。
【0036】
S5が実施された後、図2のT2,T3が実施される。S5の時点で、終端編目3Eから第一給糸口8に延びる第一編糸8Yがフック4で折り返され、弛みなく張られた状態になっている。第一編糸8Yが弛みなく張られた状態にあることで、タック目15は編針Jのフック4の先端に引っ掛けられた状態になっている。従って、S6に示されるように、第二編地部2を編成するためにBDの編針J,Kが歯口7に進出すると、タック目15(S5)はフック4から外れる。ここで、第二編地部2(図2)の編目は編針Jのフック4の奥に配置され、既存の第二編地部2によって歯口7の下方に引っ張られているため、編針Jからは外れない。
【0037】
S6において、第一給糸口8から第一編目11に延びる編糸(第一編糸8Yの一部)は、編成時には編針Kの下方に配置される。このような状態となるのは、S5においてタック目15から第一編目11に延びる部分が弛みなく張られた状態となっているからである。第一給糸口8から第一編目11に延びる編糸が、編針Kのフック4に引っ掛けられることが無いし、ステッチプレッサーに引っ掛けられることも無い。従って、S5に示される編成を行うことで、第二編地部2(図2のT3)を編成するためにBDの編針を動かしても、第一編糸8Yが第二編地部2に編み込まれることが無い。しかも、第二編地部2を編成する際に、第二給糸口9を停止させる必要が無い。
【0038】
S6では、ループプレッサー5が歯口7に向かって進出している。本例では、ループプレッサー5が歯口7に向かって進出しても、第一編糸8Yが第二編地部2に編み込まれることは無い。なぜなら、S5に示されるように、第一給糸口8が編針Jと編針Kとの間に配置され、第一給糸口8からタック目15に延びる部分がループプレッサー5の動作域よりも下方に配置されるからである。ループプレッサー5を備えない横編機を用いて編成を行う場合、第一給糸口8の停止位置は、S5の位置よりも第二方向D2側であっても良い。
【0039】
ここで、S5において、第一編目11からタック目15に延びる編糸(第一編糸8Yの一部)と、針床の長さ方向との間の角度θが小さい方が好ましい。角度θが小さくなるほど、S6において、第一給糸口8から延びる編糸が編針Kの下側に配置され易くなる。また、当該編糸が、図示しないステッチプレッサーに引っ掛けられ難くなる。本例では、図3の編成を行うことで、第一編目11からタック目15に向かう編糸が、編針Kの第二方向D2側から引き出されている。そのため、本例における角度θは、第一編目11からタック目15に向かう編糸が編針Kの第一方向D1側から引き出されている場合に比べて小さい。角度θを小さくする手段として、タック目15を形成する編針を、編針Jよりも第一方向D1の側にある編針とすることが挙げられる。
【0040】
上述したように、図3,4の編成を行うことで、図2のT3及びT5において、第二給糸口9を蹴り返すことなく第二編地部2を編成しても、第一編地部1と第二編地部2とが閉じられない。従って、第二編地部2を編成する際、第二給糸口9を停止させる必要が無い。第二給糸口9を停止させることなく第二編地部2を編成することで、第二給糸口9から延びる第二編糸9Yのテンションを一定に保ったまま第二編地部2を編成できる。その結果、第二編地部2を構成する複数の編目の大きさにばらつきが生じ難く、見栄えの良い筒状編地100が編成される。
【0041】
<その他>
図3に示される編成は必須では無い。例えば、図2のT1に示される往復編成によってインターシャ部3を編成した後、図3に示される編成を行うことなく、図4のS5に示される編成を行っても良い。この場合、終端編目3Eとタック目15とが直接つながる。図3の編成を行わない場合、インターシャ部3の終端編目3Eは、第一給糸口8を第二方向D2に移動させて編成することが好ましい。そうすることで、終端編目3Eは捻り目となる。終端編目3Eからタック目15に延びる編糸が、編針Lの第二方向D2側から引き出される。その結果、終端編目3Eからタック目15に延びる編糸と、針床の長さ方向との間の角度が小さくなる。
【0042】
第一編地部1と第二編地部2は、隣接する編目の間に空針が配置される針抜き状態で編成されても良い。第一編地部1と第二編地部2とを針抜き状態で編成するのであれば、本発明の編成方法に使用する横編機は2枚ベッド横編機でも良い。
【0043】
前身頃50Fは複数のインターシャ部3を有していても良い。前身頃50Fに加えて、後身頃50Bも少なくとも一つのインターシャ部3を有していても良い。前身頃50Fと後身頃50Bのそれぞれにインターシャ部3が有る場合、四つ以上の給糸口を用いて編成を行う。この場合、前身頃50Fのインターシャ部3を編成するときは、前身頃50Fを第一編地部1、後身頃50Bを第二編地部2とみなし、本発明の編成方法を実施する。後身頃50Bのインターシャ部3を編成するときは、後身頃50Bを第一編地部1、前身頃50Fを第二編地部2とみなし、本発明の編成方法を実施する。
【符号の説明】
【0044】
1 第一編地部、1L 左部、1R 右部
2 第二編地部
3 インターシャ部、3E 終端編目
4 フック
5 ループプレッサー
6 シンカー
7 歯口
8 第一給糸口、8Y 第一編糸
9 第二給糸口、9Y 第二編糸
10 掛け目、11 第一編目、12 渡り糸、15 タック目
50 身頃、50F 前身頃、50B 後身頃
60L 左袖,60R 右袖
100 筒状編地
D1 第一方向、D2 第二方向
図1
図2
図3
図4