(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】レーザはんだ付けまたはレーザ溶接方法における消耗材料からなるワイヤの搬送速度を調整または制御する方法、およびその方法を実施するためのレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 1/005 20060101AFI20240920BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20240920BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240920BHJP
B23K 3/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B23K1/005 A
B23K31/02 310H
B23K26/21 A
B23K3/06 M
(21)【出願番号】P 2023527287
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2022059983
(87)【国際公開番号】W WO2022223419
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-13
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘア,アンドレアス
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第04412093(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01125672(EP,A2)
【文献】特開2019-188473(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03170613(EP,A2)
【文献】特開昭58-119471(JP,A)
【文献】登録実用新案第3198490(JP,U)
【文献】特表2015-522426(JP,A)
【文献】特開2016-179499(JP,A)
【文献】登録実用新案第3200613(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/005
B23K 31/02
B23K 26/00 - 26/70
B23K 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザはんだ付けまたはレーザ溶接方法中に、消耗材料からなるワイヤ(4)の搬送速度(V
D)を調節または制御する方法であって、ワイヤ(4)はレーザユニット(2)からのレーザビーム(L)によって溶融され、加工されるワークピース(5)の方向に平均搬送速度(V
D,M)で搬送され、ワイヤ(4)とワークピース(5)との間の電圧(U)が測定され、
測定された電圧(U)の関数として、定義された電圧限界値(U
G)を超えた場合に、ワイヤ(4)の搬送速度(V
D)を、増加前の平均搬送速度(V
D,M)を平均して少なくとも50%上回る、所定のブースト速度(V
D,Boost)まで一時的に増加させ、遅くとも電圧限界値(U
G)を下回った場合に、搬送速度(V
D)を再び減少させることを特徴とする方法。
【請求項2】
搬送速度(V
D)は、少なくとも10m/分である所定のブースト速度(V
D,Boost)まで増加さ
れることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワイヤ(4)を予熱するために、電流(I)がワイヤ(4)に供給され、その結果生じる電圧(U
M)が測定され、この測定された電圧(U
M)の関数として、搬送速度(V
D)が所定のブースト速度(V
D,Boost)まで一時的に上昇させられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ワイヤ(4)を通る電流(I)が追加的に測定され、測定された電圧(U
M)と測定された電流(I)とから抵抗(R)が決定され、抵抗限界値(R
G)を超えた場合に、搬送速度(V
D)が所定のブースト速度(V
D,Boost)まで増加され、遅くとも抵抗限界値(R
G)を下回った場合に、搬送速度(V
D)が再び減少されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
搬送速度(V
D)は、ブースト速度(V
D,Boost)への上昇後、所定の期間(Δt1)、所定の搬送速度量(ΔV
D1)だけ少なくとも1回減少されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
搬送速度(V
D)は、電圧限界値(U
G)または抵抗限界値(R
G)を下回った場合に、上昇前の平均搬送速度(V
D,M)まで再び低下させられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
電圧制限値(U
G)または抵抗制限値(R
G)を下回った場合に、搬送速度(V
D)が、所定の搬送速度量(ΔV
D2)だけ増加した平均搬送速度(V
D,M)に減速されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
搬送速度量(ΔV
D2)だけ増加された平均搬送速度(V
D,M)は、定義された期間(Δt2)が経過した後、平均搬送速度(V
D,M)に再び到達するまで、所定の搬送速度量(ΔV
D3)だけ少なくとも1回減少されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ワイヤ搬送速度(V
D)
をブースト速度(V
D,Boost
)まで上昇させた後、電流(I)を減少させることによって、
電流(I)はワイヤ(4)によって調節または制御されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
ワイヤ(4)の搬送速度(V
D)が検出され、そこからノイズ信号(V
D,noise)が生成され、ノイズ信号の閾値(V
D,noise,S)を超えた場合に、搬送速度(V
D)の調節または制御が解除されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
ノイズ信号閾値(V
D,noise,S)を超えた場合に警告が発せられることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
レーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置(1)であって、消耗材料のワイヤ(4)を溶融するレーザユニット(2)、ワイヤ(4)をワークピース(5)の方向に搬送速度(V
D)で搬送するワイヤ搬送装置(3)、およびワイヤ(4)とワークピース(5)との間の電圧(U)を測定するための回路、を含み、
請求項1または2に記載の方法を実施するように設計された調整装置または制御装置(6)を含むことを特徴とするレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置(1)。
【請求項13】
ワイヤ搬送装置(3)は、ギヤなしの直接駆動装置により形成されていることを特徴とする請求項12に記載のレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置(1)。
【請求項14】
ワイヤ(4)を搬送するためのワイヤ搬送装置(3)は、少なくとも10m/分の搬送速
度を有するように設計されていることを特徴とする請求項12に記載のレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置(1)。
【請求項15】
搬送速度(V
D
)は、少なくとも2000m/分/秒の速度変化(ΔV
D
/Δt)で増加されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項16】
ワイヤ搬送速度(V
D
)をブースト速度(V
D,Boost
)まで上昇させた後、所定の電流量(ΔI)だけ電流(I)を減少させることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
ワイヤ(4)を搬送するためのワイヤ搬送装置(3)は、少なくとも2000m/分/秒の速度変化(ΔV
D
/Δt)を有するように設計されていることを特徴とする請求項14に記載のレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接方法において、消耗材料からなるワイヤの搬送速度を調節または制御する方法に関し、ワイヤは、レーザユニットからのレーザビームにより溶融され、ワークピースの方向に平均搬送速度で搬送され、ワイヤとワークピースとの間の電圧が測定される。
【0002】
また、本発明は、消耗材料のワイヤを溶融するレーザユニットと、ワイヤをワークピース方向に搬送速度で搬送するワイヤ搬送装置とを有し、ワイヤとワークピースとの間の電圧を測定する回路を有するレーザはんだ付け装置またはレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、消耗材料からなるワイヤをレーザの焦点に自動的に移動させ、そこでワイヤの材料を溶融させ、少なくとも2つのワークピースを接続したり、ワークピースの表面をコーティングしたり、付加的に仕上げたりするために使用するレーザはんだ付けおよびレーザ溶接方法に関する。接合されるワークピースまたはコーティングされるワークピースの材料も溶融されるレーザ溶接とは対照的に、レーザはんだ付けではワークピースの材料の実質的な溶融しない。消耗材料のワイヤを予熱すると、溶融力を高めることができる。これは、溶加材が予熱されないコールドワイヤプリケーション(コールドワイヤソルダリングまたはコールドワイヤ溶接)とは対照的に、ホットワイヤプリケーション(ホットワイヤソルダリングまたはホットワイヤ溶接)と呼ばれる。
【0004】
レーザはんだ付けやレーザ溶接では、ワイヤの搬送速度を一定に保ち、消耗溶加材を常に流動溶融浴に接触させておくことが非常に重要である。これは、はんだ付けまたは溶接プロセスを安定させ、熱線電流を維持し、いかなる場合でもアークの形成による短絡を避けるために必要である。はんだ付けまたは溶接プロセス中の短絡は、例えば、気孔、穴、不規則な材料導入または塗布、熱的不規則性、光学的不規則性、異なる溶接溶け込み、構造的欠陥など、溶接シームまたははんだ付けシームの多種多様な欠陥につながる可能性がある。特に、はんだ付けロボットまたは溶接ロボットの位置、またはワークピースに対するワークピースの垂直方向の位置が変化した場合、または、例えば、ホットワイヤアプリケーションにおけるワイヤを予熱するための電流が過度に高いなど、誤ったパラメータ設定の場合、ワイヤと溶融浴の間で望ましくない短絡が発生する可能性がある。溶接ヘッドの位置を制御する先端触覚センサを備えた特殊なレーザはんだ付けまたはレーザ溶接ヘッドを使用することにより、ワークに対する溶接ヘッドの位置の変化による短絡を防止することができる。しかしながら、パラメータ設定の誤りや不適切さ、はんだ付けまたは溶接プロセス中の熱条件の変化によるはんだ付けまたは溶接プロセスの障害は、この方法では防ぐことができない。
【0005】
DE 44 12 093 A1は、レーザ溶接機を調整する方法と装置を開示しており、ワークピースの表面に凹凸がある場合でもレーザ溶接機の正確なガイドを確保するために、集束ヘッドと溶接ワイヤの搬送装置を、送りモータを介してワークピースに対して垂直に移動させる。
【0006】
EP 1 125 672 A2 には、レーザビームを使用してワークピース部品を接合する方法と装置が記載されており、この方法では、ワイヤが機械的なフィーダ要素として使用され、ワイヤ先端が摩擦方式でワークピース表面に沿って案内される。
【0007】
EP 3 560 649 A1には、レーザユニットに対するワークピースの位置を制御し、ワイヤを予熱するために、さまざまな溶接パラメータが使用されるホットワイヤ溶接方法が記載されている。
【0008】
EP 3 170 613 A2には、ワイヤを予熱するレーザ溶接方法が記載されている。ワイヤとワークの接触が検出されると、搬送が停止される。さらに、ワイヤにかかる力が測定され、力が増加するとワイヤの加熱力が増加し、力が減少すると加熱力が減少する。
【0009】
US 4 467 176 Aも同様にホットワイヤプリケーションを記載しており、ワイヤの搬送速度とワイヤを加熱するために供給される電流は、時間と共に互いに同期して増加するように対応して調節される。
【0010】
レーザはんだ付け法では、US 2010/0176109 A1が、ワイヤの端部とワークピースの接触の関数として加熱電流を調節することを開示している。ワイヤの接触は、ワイヤとワークピースの間の電圧によって検出される。
【0011】
最後に、US 2013/092667 A1には、ワイヤとワークピースの間の短絡およびアークの形成を防止するために、ワイヤの加熱電力が適宜制御されるレーザ溶接方法が記載されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接方法において、消耗材料のワイヤの搬送速度を調節または制御するための上述の方法、およびレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置を提供することであり、この方法は、簡単な方法で、消耗材料のワイヤが溶融浴にできるだけ永久的に浸漬することを確実にし、少なくとも長時間の短絡およびアークの形成を効果的に防止する。レーザはんだ付けまたはレーザ溶接法で達成される結果は、可能な限り最高品質でなければならない。本発明は、ワイヤを予熱しない方法(コールドワイヤアプリケーション)でも、ワイヤを予熱する方法(ホットワイヤアプリケーション)でも使用可能である。既知の方法または装置の欠点は回避されるか、少なくとも低減される。
【0013】
本発明による目的は、測定された電圧の関数として、ワイヤの搬送速度を所定のブースト速度まで一時的に増加させ、定義された電圧限界値を超えたときにワイヤの搬送速度を所定のブースト速度まで増加させ、遅くとも電圧限界値を下回ったときにワイヤの搬送速度を再び減少させる方法に関して達成される。ワイヤとワークピース間の測定電圧の関数として搬送速度を一時的に増加させることにより、ワイヤとワークピース間の短絡を防止するか、少なくとも短絡が非常に短い時間だけ持続し、その後再び閉じるようにすることができる。短絡が発生した場合、電圧と抵抗はリアルタイムで低下し、短絡が発生した場合、電圧と抵抗はリアルタイムで上昇する。このように、電圧と抵抗は短絡の有無を判断するための理想的なリアルタイム測定基準である。さらに、このような電圧や抵抗のようなリアルタイム測定基準は、大きな労力をかけることなく、リアルタイムの調整や制御に使用できる。本方法は、コールドワイヤアプリケーションでもホットワイヤアプリケーションでも使用でき、実装も非常に簡単である。ホットワイヤプリケーションの場合、ワイヤに電流を誘導するために通常存在する電子回路を、ワイヤとワークピース間の電圧測定にも使用することができる。コールドワイヤアップリケーションの場合、必要に応じてワイヤとワーク間の電圧を測定する回路を追加する必要がある。ワイヤとワーク間の電圧を連続的に測定・評価し、必要に応じてワイヤの搬送速度を所定のブースト速度まで一時的に上昇させる、いわゆるブースト処理を行う結果、少なくとも長時間の短絡を防止することが可能になる。電圧測定が速ければ速いほど、またワイヤ搬送が動的に行われれば行われるほど、ワイヤとワーク間の短絡の持続時間を短くすることができる。最適な結果は、特にワイヤ搬送用の、いわゆる高ダイナミック駆動モータ、すなわち加速と速度が非常に高いモータで達成できる。ギアを使用しない最新のダイレクトドライブでも最適な値が得られる。ワイヤの所定の搬送速度は、実際の搬送速度と連続的に比較することもでき、その結果、調整の場合のような調整をすることなく、搬送速度を制御したり、設定したり、予め決定したりすることができる。
【0014】
定義された電圧限界値を超えるとワイヤの搬送速度が所定のブースト速度まで上昇し、遅くとも電圧限界値を下回るとワイヤの搬送速度が再び低下するという事実は、実施が容易な方法の変形を表している。電圧限界値は、短絡が可能な限り迅速に識別され、かつ可能な限り確実に識別されるように選択される。
【0015】
本発明のさらなる特徴によれば、搬送速度を所定のブースト速度まで上昇させることが提供され、このブースト速度は、上昇前の平均搬送速度の少なくとも50%上である。これは、実際に許容されるブースト速度の値である。もちろん、ブースト速度が可能な限り高く、速度の変化つまり加速度も可能な限り高い方が有利である。しかし、このような要件は、ワイヤコンベヤの駆動装置に対する通常より高い出費にもなる。特に、ブースト速度は少なくとも10m/分、速度変化は少なくとも2000m/分/秒が有利である。
【0016】
ホットワイヤ法では、ワイヤを予熱するために電流がワイヤに導入され、その結果生じる電圧が測定され、この測定された電圧の関数として、搬送速度が一時的に所定のブースト速度まで上昇される。既に上述したように、ホットワイヤ法では、ワイヤを予熱するための電流と、このようにして存在する予熱電圧を、ワイヤとワークピースとの間の測定電圧として使用することができ、その結果、この方法の出費を非常に低く抑えることができる。
【0017】
ワイヤを流れる電流も測定することができ、測定された電圧と測定された電流から抵抗値を決定することができ、抵抗値の限界値を超えた場合に、搬送速度を所定のブースト速度まで上昇させることができ、遅くとも抵抗値が限界値を下回った場合に、搬送速度を再び低下させることができる。これは、ワイヤと溶融浴の間の短絡が差し迫った場合に同様に迅速に反応することが可能な方法のさらなる実施形態を示す。
【0018】
有利には、搬送速度は、ブースト速度への上昇の後、所定の搬送速度量だけ、所定の期間、少なくとも1回減速される。この場合、ブースト速度への上昇後、搬送速度は、ブースト速度への上昇前の値まで直ちに再び低下させるのではなく、1つまたは複数のステップで徐々に低下させる。ワイヤ搬送速度をより緩やかに徐々に減少させることにより、搬送速度のオーバーシュートおよび場合によってはアンダーシュートがより少なくなるため、短絡の継続時間をさらに短縮することができる。
【0019】
本発明のさらなる特徴によれば、搬送速度は、電圧限界値または抵抗限界値が下回ると、上昇前の平均搬送速度まで再び減速される。ワイヤとワークピースとの間の短絡が再び確認されるとすぐに、搬送速度は短絡前の値に従って調整される。
【0020】
また、電圧制限値または抵抗制限値を下回った場合に、搬送速度を所定の搬送速度量だけ増加させた平均搬送速度に低減または設定することにより、レーザはんだ付け方法またはレーザ溶接方法のさらなる改善を図ることができる。この測定の結果、部品の望ましくない位置ずれや、はんだ付けまたは溶接プロセスの熱条件が正しく設定されていない場合に、特定のプロセスパラメータを自動的に適合させることができる。各ブーストプロセスの後に搬送速度を所定量増加させることにより、わずか数回の短絡発生で適応が達成され、将来のさらなる短絡を防止することができる。短絡後に搬送速度を増加させるそれぞれの搬送速度量は、それぞれの条件に従って選択または決定されるか、アルゴリズムに基づいて自動的に計算される。
【0021】
決められた時間が経過した後、搬送速度量によって増加された平均搬送速度は、再び平均搬送速度に達するまで、所定の搬送速度量だけ少なくとも1回減少させることができる。この措置により、搬送速度は、少なくとも一定時間が経過すると、当初設定され選択された値に戻る。その結果、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接方法は、位置またはプロセスパラメータの短時間の摂動の後、元の設定で再開することができる。
【0022】
ホットワイヤプリケーションの場合、搬送速度を上げた後、ブースト速度まで電流を下げることにより、ワイヤを流れる電流を調節または制御することができる。ワイヤを流れる電流が大きいほど、ワイヤの溶融力は高くなり、短絡の方向へ調節または制御することができる。ワイヤを流れる電流が低いほど、ワイヤの溶解力は低くなり、短絡への調節または制御が速くなる。ワイヤを予熱するための電流を徐々に下げる、いわゆるホットワイヤ電流順応によって、短絡またはブースト工程のたびに、プロセスパラメータの順応が達成され、将来の短絡がさらに防止される可能性が高くなる。電流は、好ましくは、プロセスに応じて決定される所定の規定電流量だけ低減される。
【0023】
さらに、ワイヤの搬送速度が検出され、そこからノイズ信号が生成され、もしノイズ信号の閾値を超えると、搬送速度の調節または制御が解除され、短絡の誤検出が防止され、方法の信頼性がさらに高くなる。その結果、干渉が減少し、誤った短絡検出によるブーストプロセスの誤ったトリガが回避される。
【0024】
ノイズ信号の閾値を超えた場合に警告が発せられると、方法の使用者にワイヤ搬送の品質を知らせることができ、許容できないほど高いノイズ信号の場合には、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接プロセスの停止を推奨または実行することもできる。
【0025】
本発明による目的は、上述した方法を実行するように設計された調整装置または制御装置を有する、上述したレーザはんだ付け装置またはレーザ溶接装置によっても達成される。このような装置は、比較的少ない労力で作ることができる。特に、ホットワイヤアプリケーションの場合、短絡を検出するために、ワイヤとワークピースとの間の電圧を検出するために、ワイヤに電流を印加するための、いずれにせよ存在する装置を使用することもできる。しかしながら、コールドワイヤを使用する場合でも、その労力は制限される。ここで重要なことは、短絡の検出ができるだけ速く行われ、搬送速度の調節または制御も可能な限り高い加速度で行われることである。これによって達成され得る更なる利点に関しては、本方法の上記説明を参照されたい。
【0026】
有利には、ワイヤ搬送装置は、ギアなしの直接駆動装置によって形成される。このようなダイレクトドライブにより、特に高加速度での搬送速度の迅速な調節または制御が可能である。
【0027】
本発明の一つの特徴によれば、ワイヤ搬送装置は、少なくとも10m/分の搬送速度で、好ましくは少なくとも2000m/分/秒の速度変化でワイヤを搬送するように設計されている。このような高度に動的な駆動装置は、本発明による方法を実施するのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明について添付図面を参照してさらに説明する。
【0029】
【
図1】消耗材料のワイヤの搬送速度の調節または制御を備えたレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置の概略ブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態にかかるワイヤの電圧、搬送速度および電流の時間プロファイルを示す。
【
図3】本発明の第2の実施形態にかかるワイヤの電圧、搬送速度、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図4】本発明の第3の実施形態にかかるワイヤの電圧、搬送速度、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図5】本発明の第4の実施形態にかかるワイヤの電圧、搬送速度、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図6】本発明の第5の実施形態にかかるワイヤの電圧、搬送速度、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図7】本発明の第6の実施形態にかかるワイヤの、はんだ付けまたは溶接ヘッドのz方向の位置、電圧、搬送速度、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図8】本発明のさらなる実施形態にかかるワイヤの、電圧、搬送速度、抵抗、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図9】本発明のさらなる実施形態にかかるワイヤの、はんだ付けまたは溶接ヘッドのz方向の位置、電圧、搬送速度、抵抗、および電流の時間プロファイルを示す。
【
図10】本発明のさらなる実施形態にかかるワイヤ、z方向におけるはんだ付けまたは溶接ヘッドの位置、電圧、搬送速度、抵抗、ワイヤ上の電流、決定されたノイズ信号、および特定のノイズ信号閾値を超えた場合の警告信号の時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1では、消耗材料のワイヤ4の搬送速度V
Dの調節または制御を備えたレーザはんだ付けまたはレーザ溶接装置1の概略ブロック図が表されている。消耗材料のワイヤ4は、少なくとも2つのワークピース5を互いに接続するため、またはワークピース5にコーティングを生成するため、またはワークピース5の付加仕上げに使用するために、レーザユニット2のレーザビームLによって溶融される。この目的のために、ワイヤ4は、ワイヤ搬送装置3を介してワイヤドラム7によって所定の搬送速度V
Dでワークピース5上のレーザビームLの焦点または入射点に搬送され、そこでレーザビームLのエネルギーによって溶融される。レーザ溶接時には、少なくとも1つのワークピース5の材料の溶融も生じるが、レーザはんだ付け時には、ワークピース5の材料の実質的な溶融は生じない。さらに、ワイヤ4は、ワイヤ搬送装置3においてワイヤ4に印加される電流Iによって予熱することができる(ホットワイヤはんだ付けまたはホットワイヤ溶接)。レーザはんだ付けおよびレーザ溶接では、ワイヤ4の搬送速度V
Dを一定に保ち、ワイヤ4を常に流体溶融浴に接触させることがプロセスの安定性にとって非常に重要である。
【0031】
本発明によれば、ワイヤ4の搬送速度VDは、ワイヤ4とワークピース5との間の測定電圧Uの関数として、調整装置または制御装置6において所定のブースト速度VD,Boostまで一時的に上昇させられる。有利には、ワイヤ4とワークピース5との間の電圧Uの定義された電圧限界値UGを超えると、ワイヤ4の搬送速度VDが所定のブースト速度VD,Boostまで増加され、遅くとも電圧限界値UGを下回ると、ワイヤ4の搬送速度VDが再び減少される。また、ワイヤ4に流れる電流Iも考慮して抵抗Rを決定し、抵抗制限値RGを超えると、搬送速度VDを所定のブースト速度VD,Boostまで上昇させ、ブースト処理を行うことができる。
【0032】
図2は、本発明の第1の実施形態にかかるワイヤ4の電圧U、搬送速度V
D、電流Iの時間プロファイルを示す。ワイヤ4とワークピース5との間の電圧Uを測定することにより、望ましくない短絡を検出することができる。例えば、短絡は、定義された電圧限界値U
Gを超えたときに判定することができる。短絡は、ここに示すワイヤ4を流れる電流Iの低下からも明らかである。しかし、電流Iの測定は絶対に必要というわけではない。測定された電圧Uに応じて、またここでは定義された電圧限界値U
Gを超えた状態で、ワイヤ4の搬送速度V
Dは一時的に所定のブースト速度V
D,Boostまでブーストされ、ここでブースト速度V
D,Boostはブースト前の平均搬送速度V
D,Mの少なくとも50%上であり、特に少なくとも10m/分である。図示の例では、ブースト速度V
D,Boostはブースト前の平均搬送速度V
D,Mの何倍も高く、しかしこれには対応するワイヤ搬送装置が必要である。搬送速度V
Dのブースト速度V
D,Boostへの上昇は、好ましくはできるだけ速く、すなわち可能な限り高い加速度で、好ましくは少なくとも2000m/分/秒の速度変化ΔV
D/Δtで行われる。その結果、短絡は効果的に打ち消され、その結果、例示的な実施形態では不釣り合いに長く示された継続時間Δt
KSAの後に再び短絡を終了させることができる。
【0033】
短絡の再発は、測定された電圧Uの崩壊と、定義された電圧限界値UGを下回る低下によって識別され、搬送速度VDは再び低下する。ここで、短絡とブースト処理の後、搬送速度VDは、短絡前に設定されていたワイヤ4の平均搬送速度VD,Mまで再び低下する。例えば、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接プロセスの外乱(例えば、高さ位置の変動、ワイヤ4を予熱するために高すぎる電流Iの設定、はんだ付けまたは溶接速度の変動など)のような様々な事象の結果として、時間ダイヤグラムに見られるように、短絡が再び発生する可能性がある。さらなる短絡が検出されるとすぐに、ブーストプロセスおよびワイヤの搬送速度VDのブースト速度VD,Boostへの上昇が再び行われ、その結果、短絡の継続時間ΔtKSAを非常に短く保つことができる。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施形態にかかるワイヤ4の電圧U、搬送速度V
D、電流Iの時間プロファイルを示している。この場合、
図2による第1の実施形態とは対照的に、短絡の場合、搬送速度V
Dは、ブースト速度V
D,Boostへの上昇後、所定の期間Δt1だけ所定の搬送速度量ΔV
D1だけ低下させられる。このように搬送速度V
Dを段階的に低下させることで、よりスムーズな速度低下とオーバーシュートやアンダーシュートの低減を図ることができる。
【0035】
図4は、本発明の第3の実施形態にかかるワイヤ4の電圧U、搬送速度V
D、および電流Iの時間プロファイルを示し、搬送速度V
Dは、継続時間Δt
KSAが経過した後に短絡を終了できるまで、複数の段階で低減される。
図3による例示的な実施形態とは対照的に、この例示的な実施形態は、搬送速度V
Dを低下させるための複数段階の方法を示している。図示された2回目の短絡はより短く、そのためここでは、持続時間Δt
KSAが終了した後の短絡の前に、ブースト速度V
D,Boostが所定の搬送速度量ΔV
D1だけ1回だけ低減される。
【0036】
図5には、本発明の第4の実施形態にかかるワイヤ4の電圧U、搬送速度V
Dおよび電流Iの時間プロファイルが表されている。変形例によれば、搬送速度V
Dは、ここでは、継続時間Δt
KSAが電圧制限値U
Gを下回った後に短絡が回復した後、所定の搬送速度量ΔV
D2だけ増加した平均搬送速度V
D,Mに減少される。この短絡後の平均搬送速度V
D,Mのアップレギュレーションにより、プロセスの適応が達成され、その結果、将来の短絡をよりよく防止することができる。
【0037】
図6には、ワイヤ4の予熱を伴う本発明の第5の実施形態にかかる、ワイヤ4の電圧U、搬送速度V
Dおよび電流Iの時間プロファイルが表されている。ここで、電流Iは、短絡後、すなわち搬送速度V
Dがブースト速度V
D,Boostまで上昇した後に、例えば所定の電流量ΔIだけ減少するように、ワイヤ4によって調節または制御される。この対策は、
図5に示す実施形態の変形例と組み合わせることもでき、プロセスの対応する適応を達成し、将来の短絡を防止する。
【0038】
図7は、本発明の第6の実施形態にかかるワイヤ4の、ワークピース5に対するはんだ付けまたは溶接ヘッドの垂直方向のz位置、電圧U、搬送速度V
D、および電流Iの時間プロファイルを示す。z位置の最上部の時間ダイヤグラムの経過から分かるように、位置は高さΔzだけ変化し、その後z位置は再び減少する。
図5による例示的な実施形態を参照して既に説明したように、短絡が検出されると、継続時間Δt
KSAの後に短絡が回復した後、搬送速度V
Dは、所定の搬送速度量ΔV
D2だけ増加した平均搬送速度V
D,Mに減少される。さらに、規定時間Δt2が経過した後、短絡後の平均搬送速度V
D,Mは、再び平均搬送速度V
D,Mに達するまで、所定の搬送速度量ΔV
D3だけ少なくとも1回減少する。各ブースト処理後の平均搬送速度V
D,Mの段階的な上昇により、新たな短絡の確率を低減することができる。一定時間Δt2が経過すると、平均搬送速度V
D,Mは再び元の設定値まで順次下げられる。元の平均搬送速度V
D,Mに到達した時点でz位置の外乱がまだ残っている場合、平均搬送速度V
D,Mのさらなる上昇に続くブーストプロセスで短絡が再び発生する。
【0039】
図8は、本発明のさらなる実施形態にかかる、ワイヤ4の電圧U、搬送速度V
D、抵抗Rおよび電流Iの時間プロファイルを示している。この場合、電圧Uに加えて電流Iも検出され、そこから抵抗Rが計算され、これはリアルタイムで評価される。実際の短絡の前には、抵抗Rが最初に緩やかに上昇し、その後急峻に上昇するので、この上昇または抵抗Rの変化率も監視することができる。抵抗Rが所定の抵抗限界値R
Gを超えた場合、同様に、ブースト速度V
D,Boostを増加させてブーストプロセスをトリガすることができる。この制御の利点は、理想的な場合、短絡を完全に防止できることである。従って、溶融浴ブリッジや、ワイヤ4とワークピース5の間の短絡回路が開放されることはない。はんだ付けプロセスまたは溶接プロセス、および完成したはんだ付けシームまたは溶接シームへの影響は、ここで最も小さくなる。
【0040】
図9は、本発明のさらなる実施形態にかかるワイヤ4の、はんだ付けまたは溶接ヘッドの垂直方向におけるz位置、電圧U、搬送速度V
D、抵抗R、および電流Iの時間プロファイルを示す。当初、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接プロセスは、定義された搬送速度V
Dおよびワイヤ4を予熱するための定義された電流Iで、安定した方法で、乱れなく進行する。電圧Uはほぼゼロである。高さΔzの変化によりz位置が上昇すると、搬送速度V
Dが一定のままでは短絡が発生する。電圧と電流Iを測定し、抵抗Rを計算し、抵抗限界値R
Gの超過を観察することにより、
図8に記載された方法に従って、短絡を効果的に防止することができる。レーザまたは溶接ヘッドを元のZ位置に戻した後、電圧Uまたは抵抗Rの増加はなく、したがってブーストプロセスもなく、レーザはんだ付けまたはレーザ溶接プロセスは再び安定に実行される。
【0041】
最後に、
図10は、本発明の別の実施形態にかかるワイヤ4の、z位置、電圧U、搬送速度V
D、抵抗R、電流I、決定されたノイズ信号V
D,noise、およびあるノイズ信号閾値V
D,noise,Sを超えたときの警告信号の時間プロファイルを示す。この場合、さらに、現在の搬送速度V
Dが、外乱または信号ノイズについて監視される。好ましくは伝達なしにワイヤ4に直接結合される、ワイヤ4のための好ましくは高度に動的な搬送装置によって、搬送速度V
Dのわずかな乱れさえ検出することが可能になり、そしてそれに応じて評価することが可能になる。一方では、このような短い干渉ピークの監視は、本発明による短絡安定器を使用しなくても原理的に意味があり、そこから生成されるノイズ信号V
D,noiseは、ワイヤ4の搬送の一般的な品質に関する情報を提供し、それに応じて、プロセス停止の可能性に対する警告信号Wも生成することができるからである。一方、抵抗Rの評価を伴う変形においてブーストプロセスを安定的に機能させるためには、ノイズ信号V
D,noiseを評価し考慮することが好都合であり、必要でさえある。ワイヤ4の搬送経路におけるある種の障害や誤った設定により、電圧Uや抵抗値Rが切迫した短絡の場合と同様の経過をたどることがある。このような場合、ブーストプロセスが誤って起動されることになる。これは、ノイズ信号V
D,noiseの追加評価によって防ぐことができ、実際の短絡の発生のみが識別される。ノイズ信号V
D,noiseがノイズ信号閾値V
D,noise,Sを超えた場合、警告信号Wを出力することができる。このエラーにより、ワイヤ4の搬送品質に関する結論を導き出すことが可能となり、必要に応じて、プロセスを停止することもできる。この警告信号Wのさらなる機能は、短絡安定装置のトリガーアルゴリズムの自動切り替えである。警告信号WがFで”FALSE”に設定されている場合、抵抗Rの経過を評価することにより、より高速で効果的なアルゴリズムを使用することができる。警告信号がTで”TRUE”に設定されている場合、抵抗Rの経過の評価は機能しないか、または最適に機能せず、トリガーアルゴリズムは電圧Uを介した実際の短絡の検出を介して使用される。警告信号Wは”TRUE”のTに設定され、従ってブーストプロセスは電圧Uの測定によってトリガされる。ノイズ信号V
D,noiseの発生は、好ましくはブーストプロセスの間休止され、全ての信号の進行が整定する一定の待ち時間Δt
minが経過した後にのみ再開される。