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特許7558422回転電機の短絡検知装置および短絡検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】回転電機の短絡検知装置および短絡検知方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/022 20160101AFI20240920BHJP
   H02P 23/10 20060101ALI20240920BHJP
   H02P 9/04 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
H02P25/022
H02P23/10
H02P9/04 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023550822
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035762
(87)【国際公開番号】W WO2023053241
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】324003956
【氏名又は名称】三菱ジェネレーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 勇二
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】前田 進
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特許第6837619(JP,B1)
【文献】特開昭58-5682(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103713235(CN,A)
【文献】特許第6949287(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/022
H02P 23/10
H02P 9/04
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転子の複数スロットに設けられている界磁巻線に対向して配置された磁気検出器からの電圧信号を処理して前記界磁巻線の短絡を検知する回転電機の短絡検知装置において、
前記磁気検出器からの電圧信号を取得する信号取得部と、
前記信号取得部によって取得された電圧信号を、互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する信号分解部と、
前記複数スロットのピッチに相関を有する高調波であるスロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、前記複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、前記閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる特定周波数成分低減部と、
前記特定周波数成分低減部から出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する信号変換部と、
前記信号変換部により変換された電圧信号を、前記回転子の複数の磁極にそれぞれ対応する前記回転子の周方向角度ごとに分割し、前記複数の磁極のうち、極性が異なる隣り合う磁極に対応する各分割電圧信号の差分波形を、前記各分割電圧信号同士を足し合わせて生成し、前記差分波形の形状に基づいて、前記界磁巻線の短絡を検知するとともに、該短絡が前記回転子の周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する短絡検知部とを備え、
前記短絡検知部は、前記差分波形として、それぞれ特定の周波数成分が積算された複数個の差分波形を生成し、生成された複数個の差分波形について、共通するピーク電圧位置を検出して、該共通のピーク電圧位置を短絡位置として推定する、
回転電機の短絡検知装置。
【請求項2】
前記信号変換部は、前記複数の周波数成分から、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の電圧信号を作成し、
前記短絡検知部は、前記複数個の電圧信号毎にそれぞれ前記差分波形を生成して、前記複数個の差分波形を生成する、
請求項1に記載の回転電機の短絡検知装置。
【請求項3】
前記短絡検知部が生成する前記複数個の差分波形は、全ての周波数成分を積算した第1差分波形を含む、
請求項1または請求項2に記載の回転電機の短絡検知装置。
【請求項4】
前記短絡検知部は、前記複数個の差分波形の内、前記第1差分波形に基づいて、隣接するピーク電圧位置の角度間隔を検出し、該角度間隔に対応する周波数成分の次数以上を除いて、他の差分波形を生成する、
請求項3に記載の回転電機の短絡検知装置。
【請求項5】
前記複数個の差分波形の内、前記第1差分波形を除く差分波形は、特定偶数の倍数を次数とする周波数成分を積算したものである、
請求項3または請求項4に記載の回転電機の短絡検知装置。
【請求項6】
回転電機の回転子の複数スロットに設けられている界磁巻線に対向して配置された磁気検出器からの電圧信号を取得する信号取得ステップと、
前記信号取得ステップによって取得された電圧信号を互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する信号分解ステップと、
前記複数スロットのピッチに相関を有する高調波であるスロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、前記複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、前記閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる特定周波数成分低減ステップと、
前記特定周波数成分低減ステップから出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する信号変換ステップと、
前記信号変換ステップにより変換された電圧信号を、前記回転子の複数の磁極にそれぞれ対応する前記回転子の周方向角度ごとに分割し、前記複数の磁極のうち、極性が異なる隣り合う磁極に対応する各分割電圧信号の差分波形を、前記各分割電圧信号同士を足し合わせて生成し、前記差分波形の形状に基づいて、前記界磁巻線の短絡を検知するとともに、前記界磁巻線の短絡が、周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する短絡検知ステップ、とを備え、
前記短絡検知ステップは、前記差分波形として、それぞれ特定の周波数成分が積算された複数個の差分波形を生成し、生成された複数個の差分波形について、共通するピーク電圧位置を検出して、該共通のピーク電圧位置を短絡位置として推定する、
回転電機の短絡検知方法。
【請求項7】
前記信号変換ステップは、前記複数の周波数成分から、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の電圧信号を作成し、
前記短絡検知ステップは、前記複数個の電圧信号毎にそれぞれ前記差分波形を生成して、前記複数個の差分波形を生成する、
請求項6に記載の回転電機の短絡検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機の短絡検知装置および短絡検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機の界磁巻線で発生する短絡を検知するため、従来の回転電機の短絡検知装置は、回転子の界磁巻線の短絡による界磁磁束の変化をサーチコイルによって検知する。また、サーチコイルからの電圧信号を処理する、信号取得部、信号分解部、特定周波数成分低減部、信号変換部、短絡検知部、及び推定精度判定部を備える。信号分解部は、信号取得部によって取得された電圧信号を、互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する。特定周波数成分低減部は、スロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる。信号変換部は、特定周波数成分低減部から出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する。短絡検知部は、隣り合う磁極に対応する各電圧信号の差分波形を生成し、差分波形の形状に基づいて、界磁巻線の短絡を検知するとともに、界磁巻線の短絡位置を推定する。推定精度判定部は、差分波形のピーク角度を中心とした最大波の波形の対称度合いに基づいて、界磁巻線の短絡位置の推定精度を判定する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6837619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の従来の技術では、短絡検知部で得られた差分波形において、短絡発生で生じるピーク電圧に基づいて短絡位置となる回転子のスロット位置を推定する。その際、異なる近接したスロットにて複数個の短絡が発生した場合には、複数個の短絡に起因した複数個のピーク電圧が互いに重なり合い、短絡位置の推定精度が低下する。
【0005】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、複数個の短絡が異なるスロットで発生した場合に、短絡位置となる各スロット位置を容易に分離して、界磁巻線の短絡位置を信頼性良く推定できる、回転電機の短絡検知装置および短絡検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される回転電機の短絡検知装置は、回転電機の回転子の複数スロットに設けられている界磁巻線に対向して配置された磁気検出器からの電圧信号を処理して前記界磁巻線の短絡を検知する。この回転電機の短絡検知装置は、前記磁気検出器からの電圧信号を取得する信号取得部と、前記信号取得部によって取得された電圧信号を、互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する信号分解部と、前記複数スロットのピッチに相関を有する高調波であるスロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、前記複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、前記閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる特定周波数成分低減部と、前記特定周波数成分低減部から出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する信号変換部と、前記信号変換部により変換された電圧信号を、前記回転子の複数の磁極にそれぞれ対応する前記回転子の周方向角度ごとに分割し、前記複数の磁極のうち、極性が異なる隣り合う磁極に対応する各分割電圧信号の差分波形を、前記各分割電圧信号同士を足し合わせて生成し、前記差分波形の形状に基づいて、前記界磁巻線の短絡を検知するとともに、該短絡が前記回転子の周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する短絡検知部とを備える。そして、前記短絡検知部は、前記差分波形として、それぞれ特定の周波数成分が積算された複数個の差分波形を生成し、生成された複数個の差分波形について、共通するピーク電圧位置を検出して、該共通のピーク電圧位置を短絡位置として推定する。
【0007】
また、本願に開示される回転電機の短絡検知方法は、回転電機の回転子の複数スロットに設けられている界磁巻線に対向して配置された磁気検出器からの電圧信号を取得する信号取得ステップと、前記信号取得ステップによって取得された電圧信号を互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する信号分解ステップと、前記複数スロットのピッチに相関を有する高調波であるスロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、前記複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、前記閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる特定周波数成分低減ステップと、前記特定周波数成分低減ステップから出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する信号変換ステップと、前記信号変換ステップにより変換された電圧信号を、前記回転子の複数の磁極にそれぞれ対応する前記回転子の周方向角度ごとに分割し、前記複数の磁極のうち、極性が異なる隣り合う磁極に対応する各分割電圧信号の差分波形を、前記各分割電圧信号同士を足し合わせて生成し、前記差分波形の形状に基づいて、前記界磁巻線の短絡を検知するとともに、前記界磁巻線の短絡が、周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する短絡検知ステップ、とを備える。そして、前記短絡検知ステップは、前記差分波形として、それぞれ特定の周波数成分が積算された複数個の差分波形を生成し、生成された複数個の差分波形について、共通するピーク電圧位置を検出して、該共通のピーク電圧位置を短絡位置として推定する。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される回転電機の短絡検知装置および短絡検知方法によれば、複数個の短絡が異なるスロットで発生した場合に、短絡位置となる各スロット位置を容易に分離して、界磁巻線の短絡位置を信頼性良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1による回転電機および短絡検知装置を示す構成図である。
図2】実施の形態1による信号取得部によって取得される電圧信号を示す波形図である。
図3】実施の形態1による信号分解部によって周波数分析された電圧信号の振幅成分の周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
図4】実施の形態1による特定周波数成分低減部による低減処理後の振幅成分の周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
図5】実施の形態1による信号変換部によって変換された第1電圧信号を示す図である。
図6】実施の形態1による信号変換部によって変換された第2電圧信号を示す図である。
図7】実施の形態1による信号変換部によって変換された第3電圧信号を示す図である。
図8】実施の形態1による信号変換部によって変換された第4電圧信号を示す図である。
図9】実施の形態1による短絡検知部にて生成される第1差分波形を示す図である。
図10】実施の形態1による短絡検知部にて生成される第2差分波形を示す図である。
図11】実施の形態1による短絡検知部にて生成される第3差分波形を示す図である。
図12】実施の形態1による短絡検知部にて生成される第4差分波形を示す図である。
図13】実施の形態1による短絡検知方法を説明するフローチャートを示す図である。
図14】実施の形態1による信号処理装置の各機能を実現するハードウェアの例を示す構成図である。
図15】実施の形態1による信号処理装置の各機能を実現するハードウェアの別例を示す構成図である。
図16】実施の形態2による短絡検知部にて生成される第1差分波形を示す図である。
図17】実施の形態2による短絡検知部にて生成される第2差分波形を示す図である。
図18】実施の形態2による短絡検知部にて生成される第3差分波形を示す図である。
図19】実施の形態2による短絡検知部にて生成される第4差分波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、実施の形態1による回転電機及び短絡検知装置を示す構成図である。実施の形態1では、回転電機としてタービン発電機10が採用されている。図1において、タービン発電機10については、タービン発電機10の軸方向に垂直な断面が示されている。
【0011】
図1に示したように、タービン発電機10は、電機子としての固定子20及び界磁としての回転子30を備えている。固定子20は、円筒状の固定子コア21と、多相巻線22とを有している。固定子20は、回転子30の外側に設けられている。
【0012】
固定子コア21の軸方向は、固定子コア21の軸心に沿う方向であり、図1の紙面に垂直な方向である。固定子コア21の径方向は、固定子コア21の軸心を中心とする円の径方向である。固定子コア21の周方向は、固定子コア21の軸心を中心とする円弧に沿う方向である。
【0013】
固定子コア21の内周部には、複数の固定子スロット23が形成されている。各固定子スロット23は、固定子コア21の径方向に沿って形成されている。また、複数の固定子スロット23は、固定子コア21の周方向に等ピッチで配置されている。実施の形態1では、固定子スロット23の総数は84である。複数の固定子スロット23には、多相巻線22が巻かれている。
【0014】
回転子30は、回転子コア31、界磁巻線32、及び図示しない回転軸を有している。回転子コア31及び回転軸は、固定子コア21と同軸に配置されている。回転子30は、回転軸を中心に回転可能である。
【0015】
回転子コア31の軸方向は、回転子コア31の軸心Oに沿う方向であり、図1の紙面に垂直な方向である。回転子コア31の径方向は、回転子コア31の軸心Oを中心とする円の径方向である。回転子コア31の周方向は、回転子コア31の軸心Oを中心とする円弧に沿う方向である。
【0016】
回転子コア31の外周部には、複数の回転子スロット33が形成されている。各回転子スロット33は、回転子コア31の径方向に沿って形成されている。
【0017】
実施の形態1では、複数の回転子スロット33は、第1スロット群34と第2スロット群35とに分かれている。第1スロット群34及び第2スロット群35には、それぞれ16個の回転子スロット33が含まれている。即ち、回転子スロット33の総数は、32である。
【0018】
第1スロット群34及び第2スロット群35において、複数の回転子スロット33は、回転子コア31の周方向に等ピッチで配置されている。回転子スロット33のピッチは、回転子コア31の周方向に隣り合う2つの回転子スロット33の幅方向中心間の距離である。実施の形態1における回転子スロット33のピッチは、回転子コア31の周方向角度によって表すと7.42°である。以下、各回転子スロット33のピッチは、回転子スロットピッチSpと呼ばれる。
【0019】
第1スロット群34と第2スロット群35との間には、第1磁極36及び第2磁極37が形成されている。図1において、回転子コア31の軸心Oと、回転子30の周方向における第1磁極36の中心と、第2磁極37の中心とを通る一点鎖線は、以下、磁極中心線C1と呼ばれる。第1スロット群34と第2スロット群35とは、磁極中心線C1を中心として対称に配置されている。
【0020】
また、回転子コア31の軸心Oと、回転子コア31の周方向における第1スロット群34の中心と、第2スロット群35の中心とを通る一点鎖線は、以下、極間中心線C2と呼ばれる。
【0021】
複数の回転子スロット33のそれぞれは、磁極中心線C1に近い方から順に第1スロット、第2スロット、・・・、第8スロットと呼ばれる。言い換えると、複数の回転子スロット33のそれぞれは、極間中心線C2に遠い方から順に第1スロット、第2スロット、・・・、第8スロットと呼ばれる。
【0022】
複数の回転子スロット33には、磁極中心線C1を挟んで、第1スロット群34と第2スロット群35とを往復するように界磁巻線32が巻かれている。界磁巻線32において、隣り合う回転子スロット33に配置されている部分は、互いに直列に接続されている。
【0023】
界磁巻線32は、図示しない外部電源によって直流励磁される。これにより、第1磁極36及び第2磁極37の一方がN極となり、他方がS極となる。つまり、タービン発電機10は2極の発電機である。
【0024】
固定子コア21と回転子コア31との間には空隙40が形成されている。多相巻線22は、図示しない外部電源によって交流励磁される。これにより、空隙40内に回転磁界が発生する。
【0025】
短絡検知装置100は、タービン発電機10の界磁巻線32の短絡を検知するもので、磁気検出器としてのサーチコイル50と、サーチコイル50からの検出信号を処理する信号処理装置60と、表示装置70とを備える。サーチコイル50は、空隙40に配置され、界磁巻線32に対向している。
【0026】
サーチコイル50には、主磁束及び漏れ磁束が鎖交する。主磁束は、空隙40に発生する磁束であり、漏れ磁束は、各回転子スロット33から漏出する磁束である。サーチコイル50に鎖交する磁束は、鎖交磁束と呼ばれる。
【0027】
サーチコイル50は、第1端子51及び第2端子52を有している。サーチコイル50に磁束が鎖交すると、第1端子51と第2端子52との間に検出信号である電圧信号が誘起される。サーチコイル50内の鎖交磁束の分布は、回転子30の回転に伴って変動する。
なお、この場合、短絡検知装置100が磁気検出器としてのサーチコイル50を備えるものとしたが、サーチコイル50を、短絡検知装置100と別構成としても良い。
【0028】
信号処理装置60は、機能ブロックとして、信号取得部61、信号分解部62、特定周波数成分低減部63、信号変換部64、及び短絡検知部65を備えている。
【0029】
信号取得部61は、サーチコイル50に誘起される電圧信号を取得する。信号分解部62は、信号取得部61によって取得された電圧信号を、互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する。さらに、信号分解部62は、分解された各周波数成分を振幅と位相とに分離する。
【0030】
特定周波数成分低減部63は、スロット高調波の基本次数よりも低い周波数成分の次数を閾値として設定する。スロット高調波は、回転子スロットピッチSpに相関を有する高調波である。
【0031】
さらに、特定周波数成分低減部63は、分離された振幅のうち、奇数次の周波数成分と、閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる。
【0032】
信号変換部64は、位相と、特定周波数成分低減部63による低減処理後に得られた振幅とを、周波数成分の次数ごとに積算することにより特定周波数成分の低減後の電圧信号に変換する。その際、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の電圧信号が生成される。この場合、後述する4個の電圧信号である第1電圧信号、第2電圧信号、第3電圧信号および第4電圧信号が生成される。
【0033】
短絡検知部65は、変換された特定周波数成分低減後の各第1~第4電圧信号を、回転子30の第1磁極36及び第2磁極37にそれぞれ対応する回転子30の周方向角度ごとに分割する。さらに、短絡検知部65は、第1磁極36及び第2磁極37に対応する各分割電圧信号の差分波形を生成する。即ち、各第1~第4電圧信号について、それぞれの差分波形である各第1~第4差分波形が生成される。
【0034】
そして、短絡検知部65は、複数個の差分波形(第1~第4差分波形)の形状に基づいて、界磁巻線32の短絡を検知するとともに、界磁巻線32の短絡が、回転子30の周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する。
【0035】
界磁巻線32に短絡が発生すると、短絡が発生した回転子のスロット位置に対応するピーク電圧が差分波形に現れる。即ち、複数個の差分波形には、それぞれ短絡が発生した回転子のスロット位置に対応するピーク電圧が発生する。
これは短絡が発生した回転子のスロット位置に揃った位相が周波数成分の各次数に含まれるためであり、これら次数を組み合わせて得られる複数個の差分波形には共通した位置にピーク電圧が発生する。短絡検知部65は、複数個の差分波形において、共通した位置のピーク電圧を検出することで、短絡の発生した回転子のスロット位置を推定することができる。
なお、共通した位置のピーク電圧以外の位置では、周波数成分の位相は揃わないので、短絡発生によるピーク電圧は現れない。
【0036】
複数個の短絡が異なるスロットで発生した場合も、複数個の差分波形には、短絡毎に共通した位置にピーク電圧が発生することとなり、これら共通した位置のピーク電圧を検出することで、複数個の短絡の発生した回転子のスロット位置を推定することができる。
複数個の差分波形(第1~第4差分波形)を用いた短絡検知の詳細については、後述する。
【0037】
さらに、短絡検知部65は、界磁巻線32の短絡の発生有無、及び短絡が発生している回転子スロット33の位置に関する情報を表示装置70へ出力する。
【0038】
表示装置70は、信号処理装置60の外部に設けられている。表示装置70は、短絡検知部65からの情報に基づいて、界磁巻線32の短絡の有無、及び短絡が発生している回転子スロット33の位置を表示する。
なお、表示装置70は、短絡検知装置100の外部に設けられても良い。
【0039】
次に、短絡検知装置100の信号処理装置60について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。
図2は、信号取得部61によって取得される電圧信号の一例を示す波形図である。この波形図は、電磁界解析プログラムを用いて、図1のタービン発電機10の無負荷運転状態をシミュレーションすることにより得られたものである。
なお、信号取得部61が取得する電圧信号は、サーチコイル50に誘起される電圧信号であり、サーチコイル50は、空隙40内で界磁巻線32に対向して、固定子コア21の表面に配置されている。
【0040】
シミュレーションは、例えば、第2磁極37側の異なる2個所のスロットである第1スロットおよび第3スロットにおいて、界磁巻線32がそれぞれ1ターン分だけ短絡しているという条件で実行されている。このため、図2の波形図に基づいて以下に説明する例は、第2磁極37側の第1スロットと第3スロットにおいて、界磁巻線32がそれぞれ1ターン分だけ短絡している場合である。
この例では、信号処理装置60は、信号取得部61で取得した電圧信号を用いて、第1スロットおよび第3スロットの位置においてそれぞれ短絡が発生していること、さらに、第1スロットと第3スロットとに挟まれた第2スロットで短絡が発生していないことを、推定する。これについて、以下に説明する。
【0041】
図2に示す電圧波形は、周方向角度0°から180°までが第1磁極36に対応し、周方向角度180°から360°までが第2磁極37に対応している。従って、周方向角度90°では、第1磁極36の中心がサーチコイル50に最も近付いており、周方向角度270°では、第2磁極37の中心がサーチコイル50に最も近付いている。図2の波形図において、32個の細かな電圧変動は、回転子スロットピッチSp、即ち、7.42°ごとに発生している。短絡が発生している第2磁極37の第1スロットと第3スロットでは、短絡の発生していない第1磁極36に比べて電圧の絶対値が小さくなる。
【0042】
上述したように、信号分解部62は、信号取得部61によって取得された電圧信号を、互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解し、さらに、分解された各周波数成分を振幅と位相とに分離する。
図3は、信号分解部62によって周波数分析された電圧信号の振幅成分の周波数スペクトルを示すスペクトル図である。横軸は、高調波の次数であり、図中の棒グラフの一山を1次とする。縦軸は、各次数の高調波の電圧強度を示している。
なお、図3では、説明のために80次以下の高調波を示し、81次以上の次数の高調波の表示を割愛する。
【0043】
図3に示すように、奇数次の高調波の電圧強度は、偶数次の高調波の電圧強度よりも大きい。奇数次の高調波のうち、1次の高調波は、空隙40に発生する磁束のうち、主磁束に相当する基本波成分であり振幅が一番大きい。
また、奇数次の高調波のうち、47次の高調波は、その周辺の高調波に比べて電圧強度が大きい。47次の高調波は、スロット高調波であり、回転子スロットピッチSpに相関を有する高調波である。47次は、スロット高調波の基本次数である。スロット高調波は、回転子30における1次の起磁力と、回転子スロットピッチSpのパーミアンス変化との差分によって発生する。パーミアンスは、起磁力から磁束密度への変換係数である。この場合、起磁力次数と、パーミアンス次数との差分47がスロット高調波の次数となる。
【0044】
1次以外の奇数次の成分は、空隙40に発生する磁束のうち、回転子30あるいは固定子20のスロット数など脈動原因に起因する主磁束以外の高調波成分であり、界磁巻線32に短絡が発生しているか否かにかかわりなく発生する。回転子コア31には回転子スロット33が全周にわたって存在せずに2つの磁極36、37も存在するため、47次以外にも、奇数次の次数も存在している。47次より十分大きい次数、例えば53次より大きい次数では、スロットピッチSpよりも小さい磁束の脈動成分となるので、振幅の大きさは47次以下の成分の振幅と比べて十分小さくなる。
一方、偶数次の高調波は、界磁巻線32に短絡が発生している場合に発生する。
【0045】
48次以上の高調波は、回転子スロットピッチSpよりも狭いピッチ、つまり、周方向において回転子スロットピッチSpよりも小さい角度に相当する高調波である。回転子スロットピッチSpよりも小さい角度に対応する周波数成分は、界磁巻線32の短絡位置を推定するために必要な成分ではない。
また、奇数次の周波数成分は、偶数次の周波数成分を検知することを阻害する要因となる。一方で、奇数次の周波数成分は、周方向角度を特定するために必要な情報を含んでいる。具体的には、奇数次の周波数成分を含むことにより、どちらの磁極側で短絡が発生したかを判別できる。
【0046】
特定周波数成分低減部63では、スロット高調波の基本次数である47よりも低い周波数成分の次数である46を閾値として設定され、分離された振幅のうち、奇数次の周波数成分と、閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる。
図4は、特定周波数成分低減部63による低減処理後の振幅成分の周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
この実施の形態では、特定周波数成分低減部63は、閾値を46に設定し、46次よりも高い偶数次、即ち48次以上の周波数成分を除去する。また、特定周波数成分低減部63は、すべての奇数次の周波数成分を減衰させる。この場合、閾値である46次よりも低い奇数次の周波数成分は、振幅を1/1000に低減し、47次以上の奇数次の周波数成分については、ほぼゼロに減衰あるいは除去する。
【0047】
このように、この実施の形態において、周波数成分を低減させることには、周波数成分を除去すること、及び周波数成分を減衰させることが含まれる。
特定周波数成分低減部63が、スロット高調波の基本次数よりも低い次数である閾値よりも高い偶数次の周波数成分と、奇数次の周波数成分とを低減させることにより、界磁巻線32での短絡検知の妨げとなる要因を小さくすることができる。これにより、短絡の検知精度を向上することができる。
【0048】
図5図8は、信号変換部64によって変換された電圧信号を示す図である。
信号変換部64は、位相と、特定周波数成分低減部63による低減処理後に得られた振幅とを、周波数成分の次数ごとに積算することにより特定周波数成分の低減後の電圧信号に変換する。その際、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の電圧信号である第1~第4電圧信号が生成される。
この場合、変換された各電圧信号には、スロット高調波の成分が含まれていないので、回転子スロットピッチSpの細かな波形が現れない。
【0049】
図5に示す第1電圧信号は、全ての次数の周波数成分を積算して生成される。図6に示す第2電圧信号は、4の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。図7に示す第3電圧信号は、8の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。図8に示す第4電圧信号は、12の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。
全ての次数の周波数成分を積算した第1電圧信号以外の第2~第4電圧信号は、特定偶数、この場合、4、8および12の各々の倍数を次数とする周波数成分を積算して生成される。
【0050】
図9図12は、短絡検知部65にて生成される差分波形を示す図である。
短絡検知部65には、信号変換部64にて変換された第1~第4電圧信号が入力される。そして、短絡検知部65は、入力された各電圧信号を、回転子30の第1磁極36及び第2磁極37にそれぞれ対応する回転子30の周方向角度ごとに分割する。第1磁極36と第2磁極37とは互いに極性が異なるため、第1磁極36に対応する0°から180°までの波形と、第2磁極37に対応する180°から360°までの波形とを足し合わせることで、第1磁極36及び第2磁極37に対応する各分割電圧信号の差分波形を生成する。
【0051】
図9に示す第1差分波形は、第1電圧信号から生成され、全ての次数の周波数成分に基づく差分波形である。図10に示す第2差分波形は、第2電圧信号から生成され、4の倍数である次数の周波数成分に基づく差分波形である。図11に示す第3差分波形は、第3電圧信号から生成され、8の倍数である次数の周波数成分に基づく差分波形である。図12に示す第4差分波形は、第4電圧信号から生成され、12の倍数である次数の周波数成分に基づく差分波形である。
図9図12に示した各差分波形は、上述したように、図5図8に示した各電圧信号の波形を左右に分割し、互いに足し合わせることにより得られる。
【0052】
図9図12では、回転子30のスロット位置に対応する角度を縦線で明示している。図中の縦線で、0°、90°及び180°以外の箇所は、第1スロットから第8スロットまでの周方向角度を表している。その中で、磁極の中心に対応する90°に最も近い縦線が第1スロットであり、0°及び180°に最も近い縦線が第8スロットである。隣り合う縦線同士の間隔は、回転子スロットピッチSpに相当する。
【0053】
図9に示す第1差分波形では、第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、βに、それぞれ正方向のピーク電圧P1、P2が現れる。また、負方向においても、同様に第1スロットおよび第3スロットの角度位置αA(=180-α)、βA(=180-β)に、それぞれ負方向のピーク電圧P3、P4が現れる。
【0054】
そして、図9図12の各図を参照すると、第1~第4差分波形において、いずれも角度位置α、βに、それぞれ正方向のピーク電圧(P1、P2)、(P1A、P2A)、(P1B、P2B)、(P1C、P2C)が現れ、角度位置αA、βAに、それぞれ負方向のピーク電圧(P3、P4)、(P3A、P4A)、(P3B、P4B)、(P3C、P4C)が現れる。
第1~第4差分波形において、第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、β(αA、βA)が、共通するピーク電圧位置となる。
【0055】
第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、β(αA、βA)以外のスロット位置では、全ての差分波形(第1~第4差分波形)に共通して現れるピーク電圧の発生はない。
共通するピーク電圧位置でピーク電圧が形成されるのは、短絡の発生によって空隙40の磁束に偶数次の周波数成分が発生し、偶数次の周波数成分の位相が、短絡した回転子スロット33の位置情報を含んでいるためである。即ち、第1~第4差分波形において、短絡が発生した回転子スロット位置で、ピーク電圧の位相が揃うためである。
【0056】
短絡検知部65は、第1~第4差分波形において、共通のピーク電圧位置を検出することで、短絡が発生した回転子30のスロット位置を推定する。この場合、第1スロットおよび第3スロットの位置においてそれぞれ短絡が発生していることを推定すると共に、その他のスロット位置では、共通するピーク電圧の発生がなく、短絡発生無しと、推定する。即ち、第1スロットと第3スロットとに挟まれた第2スロットで短絡が発生していないことを、推定する。
【0057】
仮に、全ての次数の周波数成分に基づく第1差分波形のみで、短絡が発生したスロット位置を推定すると仮定すると、以下に示すように、第2スロットでの短絡発生の有無が推定困難になる。
図9に示すように、第1差分波形では、正方向のピーク電圧P1、P2の2つのピーク波形は干渉し、第1スロットと第3スロットの間の第2スロットの角度位置においても、ゼロではない有意な電圧が発生している。このため、各ピーク電圧P1、P2に基づいて、第1スロットおよび第3スロットで短絡が発生している事が推定できるが、第2スロットで短絡が発生していない事を推定することは困難である。あるいは、有意な電圧が差分電圧の波形で発生している第2スロットでも短絡が発生していると誤検知する可能性もある。
【0058】
次に、この実施の形態による短絡検知方法を図に基づいて、以下に説明する。
図13は、実施の形態1による短絡検知方法を説明するフローチャートを示す図である。短絡検知装置100が起動すると、信号処理装置60は、所定期間毎に、図13のフローチャートに示す短絡検知ルーチンを実行する。
【0059】
短絡検知ルーチンが開始されると、まず、信号取得部61は、サーチコイル50から電圧信号を取得する(ステップS105)。
次いで、信号分解部62は、取得された電圧信号の振幅および位相について周波数分析を行う(ステップS110)。
次いで、特定周波数成分低減部63は、周波数分析された振幅のうち、特定周波数成分の低減を行う。この場合、特定周波数成分低減部63は、振幅のうち、閾値よりも大きいすべての周波数成分を除去するとともに、閾値よりも小さい奇数次の周波数成分を1/1000に減衰させる(ステップS115)。
【0060】
次いで、信号変換部64は、特定周波数成分低減部63により処理された振幅および位相から電圧信号に変換する。この時、全ての次数、および4、8、12の各々の倍数による次数の周波数成分をそれぞれ積算した4個の電圧信号(第1~第4電圧信号)を得る(ステップS120)。
次いで、短絡検知部65は、変換された各電圧信号を、各磁極に対応する電気角、即ち、180°ずつに分割し、隣り合う180°の電気角の分割電圧信号同士を比較する。即ち、隣り合う180°の電気角の4個の差分波形(第1~第4差分波形)を生成する(ステップS125)。
【0061】
続いて、短絡検知部65は、生成された4個の差分波形に共通する角度位置にピーク電圧があるか否かを判定する(ステップS130)。
ステップS130において、共通する角度位置にピーク電圧がある場合、短絡検知部65は、共通する角度位置であるピーク電圧位置α、β(αA、βA)を検出し、共通するピーク電圧位置α、β(αA、βA)に対応するスロットにおいて短絡が発生していることを推定する(ステップS135)。そして、例えば、「第1スロット」と「第3スロット」のように、短絡が発生している回転子スロット33の呼称によって短絡位置を表して、「短絡発生あり」を示す情報と共に、表示装置70に出力して短絡検知ルーチンを一旦終了する(ステップS140)。
また、ステップS130において、共通する角度位置にピーク電圧がない場合、短絡検知部65は、「短絡発生なし」を示す情報を表示装置70に出力して短絡検知ルーチンを一旦終了する(ステップS140)。
【0062】
このように、この実施の形態による短絡検知方法は、ステップS105にて示される信号取得ステップと、ステップS110にて示される信号分解ステップと、ステップS115にて示される特定周波数成分低減ステップと、ステップS120にて示される信号変換ステップ、ステップS130~S150にて示される短絡検知ステップを含んでいる。
【0063】
信号取得ステップでは、界磁巻線32に対向して配置されたサーチコイル50からの電圧信号を取得する。信号分解ステップでは、信号取得ステップによって取得された電圧信号を互いに次数の異なる複数の周波数成分に分解する。特定周波数成分低減ステップでは、スロット高調波の基本次数よりも低い次数を閾値として、複数の周波数成分のうち、奇数次の周波数成分と、閾値よりも高い偶数次の周波数成分とを低減させる。信号変換ステップでは、特定周波数成分低減ステップから出力された複数の周波数成分を電圧信号に変換する。その際、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の電圧信号を生成する。
【0064】
そして、短絡検知ステップでは、信号変換ステップにより変換された電圧信号を、回転子30の複数の磁極36、37にそれぞれ対応する回転子30の周方向角度ごとに分割し、隣り合う磁極に対応する各分割電圧信号の差分波形を生成する。即ち、複数個の電圧信号毎にそれぞれ差分波形を生成して、複数個の差分波形を生成する。さらに、短絡検知ステップでは、生成された複数個の差分波形の形状に基づいて、界磁巻線32の短絡を検知するとともに、界磁巻線32の短絡が、周方向のいずれの位置で発生しているかを推定する。その際、複数個の差分波形について、共通するピーク電圧位置を検出して、該共通のピーク電圧位置を短絡位置として推定する。
【0065】
以上のように、この実施の形態では、上述したように、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の差分波形に基づいて短絡発生を推定するため、複数個の短絡が発生した場合においても、各短絡の発生位置を推定でき、しかも、これら短絡の発生位置に近接したスロットにおいて短絡が発生していないことを高精度に推定できる。即ち、複数個の短絡が異なるスロットで発生した場合に、短絡位置となる各スロット位置を容易に分離して、界磁巻線32の短絡位置を信頼性良く推定できる。
【0066】
また、特定周波数成分低減部63は、次数の高い偶数次の周波数成分を低減するので、異なる複数のスロットで短絡発生する場合、各差分波形において、複数個のピーク電圧は分離して現れる。このため、近接した複数のスロットで短絡が発生した場合においても、短絡が発生したスロット位置を、近傍の健全スロットの位置と分離することが可能になる。
【0067】
なお、上記実施の形態では、特定周波数成分低減部63において、特定の周波数成分を低減させることによって、偶数次の周波数の成分の割合を大きくしているが、偶数次の周波数成分を増幅することでも、偶数次の周波数の成分の割合を大きくできることは言うまでもなく、同様の推定精度が得られる。
【0068】
また、上記実施の形態では、信号変換部64において、4つの電圧信号を生成したが、4つに限定するものでは無い。また、4、8、12の各々の倍数を次数とする周波数成分を積算した第2、第3、第4電圧信号を生成しているが、その他の偶数次の周波数成分を積算した電圧信号でも良い。
【0069】
さらに、上記実施の形態では、信号変換部64にて複数個の電圧信号を作成し、この複数個の電圧信号に基づいて短絡検知部65にて複数個の差分波形を生成したが、信号変換部64では、全ての次数の周波数成分が積算された第1電圧信号のみを生成しても良い。その場合、短絡検知部65は、第1電圧信号に基づいて第1差分波形を生成した後、第1差分波形に基づいて第2、第3、第4差分波形を生成する。即ち、第1差分波形による電圧を周波数分解し、4、8、12の各々の倍数を次数とする周波数成分を積算して第2、第3、第4差分波形を生成する。これにより、上記実施の形態と同様に第1~第4差分波形を生成でき、短絡が発生した回転子30のスロット位置を推定でき、同様の効果が得られる。
【0070】
また、上記実施の形態において、固定子スロット23の数、回転子スロット33の数、磁極36、37の数、回転子スロットピッチSpは、上記の例に限定されない。
例えば、磁極の数が2よりも多い場合、短絡検知部65は、次のように差分波形を生成すればよい。短絡検知部65は、まず、信号変換部64により変換された電圧信号を、回転子30の複数の磁極にそれぞれ対応する回転子30の周方向角度ごとに分割する。さらに、短絡検知部65は、複数の磁極のうち、隣り合う磁極に対応する各電圧信号の差分波形を生成すればよい。
【0071】
また、上記実施の形態において、回転子30は、固定子20の内周側に配置されていたが、回転子30は、固定子20の外周側に配置されてもよい。
【0072】
また、上記実施の形態において、回転電機としてタービン発電機10が採用されていたが、回転電機は、タービン発電機10以外の発電機であってもよいし、電動機であってもよい。
また、磁気検出器としてサーチコイル50を用いたが、これに限るものでは無い。
【0073】
ところで、実施の形態1の信号処理装置60の機能は、処理回路によって実現される。
図14は、信号処理装置60の各機能を実現するハードウェアの例を示す構成図である。この場合、専用のハードウェアである処理回路60Aにて信号処理装置60が構成される。
【0074】
また、処理回路60Aは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
【0075】
また、図15は、実施の形態1による信号処理装置60の各機能を実現するハードウェアの別例を示す構成図である。この場合、処理回路60Bは、プロセッサ201及びメモリ202を備えている。
【0076】
処理回路60Bでは、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより、信号処理装置60の機能が実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ202に格納される。プロセッサ201は、メモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0077】
メモリ202に格納されたプログラムは、上述した各部の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。ここで、メモリ202とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリである。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ202に該当する。
【0078】
なお、上述した信号処理装置60の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0079】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、上述した信号処理装置60の機能を実現することができる。
【0080】
実施の形態2.
この実施の形態2では、短絡検知部65は、第1電圧信号に基づいて第1差分波形を生成した後、第1差分波形に基づいて検出される複数個のピーク電圧の角度間隔に応じて、第2~第4差分波形を生成する。この場合、信号変換部64は、全ての次数の周波数成分が積算された第1電圧信号のみを生成する。
その他の構成は上記実施の形態1と同様であり、実施の形態1と異なる点を中心にして以下に説明する。
【0081】
この実施の形態2においても、上記実施の形態1と同様に、第2磁極37側の第1スロットと第3スロットにおいて、界磁巻線32がそれぞれ1ターン分だけ短絡している場合について説明する。
図16は、短絡検知部65にて生成される第1差分波形を示す図である。
図16に示す第1差分波形は、第1電圧信号から生成され、全ての次数の周波数成分に基づく差分波形である。短絡検知部65には、信号変換部64にて変換された第1電圧信号が入力され、第1磁極36及び第2磁極37に対応する各分割電圧信号の第1差分波形を生成する。なお、図16に示す第1差分波形は、図9に示す第1差分波形と同じ波形である。
【0082】
短絡検知部65は、第1差分波形を生成した後、第1差分波形に基づいて検出される複数個のピーク電圧の角度間隔に基づき、複数個のピーク電圧を分離するのに不要な周波数成分を除いて第2~第4差分波形を生成する。
図16に示す第1差分波形において、第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、βに、それぞれ正方向のピーク電圧P1、P2が現れる。また、負方向においても、同様に第1スロットおよび第3スロットの角度位置αA(=180-α)、βA(=180-β)に、それぞれ負方向のピーク電圧P3、P4が現れる。
このように、第1スロットと第3スロットとの2つの角度位置にピーク電圧が形成され、その角度間隔はスロットピッチSpの2倍に相当する。
【0083】
短絡検知部65は、回転子一周分360°に対して、360/2Spで表される次数以上の成分、即ち、25次以上の周波数成分を、複数個(この場合、2個)のピーク電圧を分離するのに不要な周波数成分として除いて、第2~第4差分波形を生成する。
即ち、第1差分波形よる電圧を周波数分解し、25次以上の周波数成分を除去した後、4、8、12の各々の倍数を次数とする周波数成分を積算して第2、第3、第4差分波形を生成する。
【0084】
図17は、短絡検知部65にて生成される第2差分波形を示す図である。この第2差分波形は、第1差分波形に基づいて、1次~24次内で4の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。
図18は、短絡検知部65にて生成される第3差分波形を示す図である。この第3差分波形は、第1差分波形に基づいて、1次~24次内で8の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。
図19は、短絡検知部65にて生成される第4差分波形を示す図である。この第4差分波形は、第1差分波形に基づいて、1次~24次内で12の倍数である次数の周波数成分を積算して生成される。
【0085】
図16図19の各図を参照すると、第1~第4差分波形において、いずれも角度位置α、βに、それぞれ正方向のピーク電圧(P1、P2)、(P1Aa、P2Aa)、(P1Ba、P2Ba)、(P1Ca、P2Ca)が現れ、角度位置αA、βAに、それぞれ負方向のピーク電圧(P3、P4)、(P3Aa、P4Aa)、(P3Ba、P4Ba)、(P3Ca、P4Ca)が現れる。
第1~第4差分波形において、第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、β(αA、βA)が、共通するピーク電圧位置となる。第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、β(αA、βA)に対応するピーク電圧の検出精度は十分であり、2つの異なる角度位置α、β(αA、βA)の短絡を分離して検出できる。
【0086】
第1スロットおよび第3スロットの角度位置α、β(αA、βA)以外のスロット位置では、全ての差分波形(第1~第4差分波形)に共通して現れるピーク電圧の発生はない。また、第2~第4差分波形において、共通するピーク電圧位置のピーク電圧(P1Aa、P2Aa)、(P1Ba、P2Ba)、(P1Ca、P2Ca)の絶対値がほとんど同じである。このため、25次以上の次数、すなわち、スロットピッチSp=1に相当する短絡による電圧変化がなく、第1スロットと第3スロットとに挟まれた第2スロットで短絡が発生していないことが推定できる。
【0087】
この実施の形態においても、それぞれ特定の周波数成分を積算した複数個の差分波形に基づいて短絡発生を推定するため、複数個の短絡が発生した場合においても、各短絡の発生位置を推定でき、しかも、これら短絡の発生位置に近接したスロットにおいて短絡が発生していないことを高精度に推定できる。即ち、複数個の短絡が異なるスロットで発生した場合に、短絡位置となる各スロット位置を容易に分離して、界磁巻線32の短絡位置を信頼性良く推定できる。
【0088】
また、全ての次数の周波数成分が積算された第1差分波形以外の第2~第4差分波形は、第1差分波形にて検出される複数個のピーク電圧の角度間隔に基づいて、複数個のピーク電圧を分離するのに不要な周波数成分を除いて生成される。このため、演算負荷を軽減して効果的に短絡位置となる各スロット位置を分離することができる。
【0089】
なお、上記実施の形態2では、信号変換部64は、全ての次数の周波数成分が積算された第1電圧信号のみを生成したが、4つの電圧信号を生成しても良い。
その場合、短絡検知部65が第1差分波形を生成した後、第1差分波形に基づいて検出される複数個のピーク電圧の角度間隔に基づいて、信号変換部64が、複数個のピーク電圧を分離するのに不要な周波数成分を除いて第2~第4電圧信号を生成する。その後、短絡検知部65が、第2~第4電圧信号に基づいて、第2~第4差分波形を生成する。
【0090】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0091】
10 タービン発電機(回転電機)、30 回転子、32 界磁巻線、33 回転子スロット、36 第1磁極、37 第2磁極、50 サーチコイル(磁気検出器)、60 信号処理装置、61 信号取得部、62 信号分解部、63 特定周波数成分低減部、64 信号変換部、65 短絡検知部、100 短絡検知装置、Sp 回転子スロットピッチ、α,β 角度位置、αA,βA 角度位置。
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