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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】炭素被覆電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20240920BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20240920BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240920BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240920BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0213
C23C14/06 F
C23C26/00 H
C25B1/04
C25B11/075
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023565348
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2023051373
(87)【国際公開番号】W WO2023139214
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/000008
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】22157354.6
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510302157
【氏名又は名称】ナノフィルム テクノロジーズ インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanofilm Technologies International Limited
【住所又は居所原語表記】28 Ayer Rajah Crescent,#02-02/03,139959 Singapore SINGAPORE
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ティン
(72)【発明者】
【氏名】シ,シュ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/127240(WO,A1)
【文献】特開2010-219340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a-C層で被覆された電極であって、
該a-C層が、
(i)60%~95%のsp2含有率で高い導電性を有する少なくとも10層の第1のサブ層が
(ii)50%~90%のsp2含有率で高い耐腐食性を有する少なくとも10層の第2のサブ層と、
交互に配置されているものを含み、
該第1のサブ層のsp2含有率が、該第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きい、電極。
【請求項2】
前記第1のサブ層のsp2含有率が、前記第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも7%大きい、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記第1のサブ層が70%~85%のsp2含有率を有し、かつ前記第2のサブ層が60%~80%のsp2含有率を有する、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記サブ層の各々が最大5nmの厚さを有する、請求項1から3のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
前記サブ層の各々が最大3nmの厚さを有する、請求項1から4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記各サブ層が0.2nm~2nmの範囲内の厚さを有する、請求項1から5のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
前記電極がPEM水素燃料電池用バイポーラプレートである、請求項1から6のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
前記電極が水から水素を発生させるための電極である、請求項1から6のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
前記第1のサブ層および第2のサブ層がそれぞれ少なくとも20層存在する、請求項1から8のいずれかに記載の電極。
【請求項10】
前記a-C層が、少なくとも30層ずつの前記第1のサブ層と前記第2のサブ層とが交互に配置されているものを含み、
該サブ層の各々が0.8nm~2nmの厚さを有し、
該第1のサブ層が、70%~85%のsp2含有率を有し、かつ15%~30%のsp3含有率を有し、そして
該第2のサブ層が、65%~80%のsp2含有率を有し、かつ20%~35%のsp3含有率を有する、請求項1から9のいずれかに記載の電極。
【請求項11】
前記a-C層が1%以下のモル水素含有率を有する、請求項1から10のいずれかに記載の電極。
【請求項12】
前記a-C層が1%以下の酸素含有率を有する、請求項1から11のいずれかに記載の電極。
【請求項13】
前記a-C層が2μm以下の厚さを有する、請求項1から12のいずれかに記載の電極。
【請求項14】
前記a-C層が1μm以下の厚さを有する、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記被膜がフィルター型カソーディック真空アーク方式によって堆積される、請求項1から14のいずれかに記載の電極。
【請求項16】
前記被膜全体のsp含有率が少なくとも55%である、請求項1から15のいずれかに記載の電極。
【請求項17】
求項1から16のいずれかに記載の電極を製造するために、電気化学用途の電極を炭素含有被膜で被覆する方法であって、
a)a-Cを含む第1のサブ層を堆積させる工程と、
b)a-Cを含む第2のサブ層を堆積させる工程であって、該第1のサブ層のsp2含有率が、該第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きい工程と、
c)該複数の工程を繰り返すことにより少なくとも10層の第1のサブ層と10層の第2のサブ層とを交互に堆積させる工程と、
を含む、方法。
【請求項18】
電気化学用途のための電極を炭素含有被膜で被覆する方法であって、
d)a-Cを含み、65%~90%のsp2含有率を有し、かつ10%~35%のsp3含有率を有する第1のサブ層を堆積させる工程と、
e)a-Cを含み、45%~80%のsp2含有率を有し、かつ20%~55%のsp3含有率を有する第2のサブ層を堆積させる工程と、
f)前記複数の工程を繰り返すことにより少なくとも10層の第1のサブ層と10層の第2のサブ層とを交互に堆積させる工程と、
を含み、
該第1のサブ層のsp2含有率が、該第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きく、そして
該サブ層の各々が0.3nm~5nmの範囲内の厚さを有する、方法。
【請求項19】
少なくとも30層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させる工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の電極を被覆する方法であって、
該電極がバイポーラプレートであり
第1のバイアスレジメンを該バイポーラプレートに適用しながら、フィルター型カソーディック真空アーク方式によって前記第1のサブ層を堆積させる工程と、
第2のバイアスレジメンを該バイポーラプレートに適用しながら、フィルター型カソーディック真空アーク方式によって前記第2のサブ層を堆積させる工程と、
を含み、
該第2のバイアスレジメンが、該第1のバイアスレジメンと比較して、該a-C中のsp2含有率が少なくとも3%減少しかつ該a-C中のsp3含有率が少なくとも3%増加するように調整される、方法。
【請求項21】
前記バイアスレジメンが、デューティサイクルにしたがってバイアス電圧を印加することを含み、当該方法が、該デューティサイクルを周期的に調整し、調整後のデューティサイクルによって、sp3含有率が増加しかつsp2含有率が減少した前記第2のサブ層を堆積させる工程を含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有被膜で被覆された、電解用途のプレートおよび水素燃料電池(特にPEM燃料電池)に使用するためのバイポーラプレートを含む電極プレート、ならびに当該プレートの製造方法および使用方法に関する。この炭素被覆プレートは、良好な導電性および耐腐食性を有し、例えば金被覆バイポーラプレートよりも経済的な代替品を提供する。
【背景技術】
【0002】
非晶質炭素は、結晶形を有さない自由で反応性に富む炭素である。様々な形態の非晶質炭素膜が存在し、通常、膜の水素含有率および膜中の炭素原子のsp:sp比によって分類される。
【0003】
当該分野の文献の一例において、非晶質炭素膜は7つのカテゴリーに分類されている(Fraunhofer Institut Schicht- und Oberflachentechnikの「Name Index of Carbon Coatings」から引用した以下の表を参照のこと)。
【0004】
【表1】
【0005】
非晶質炭素および四面体非晶質炭素(a-Cおよびta-C)は、水素をほとんど含有していないか全く含有していない(10%mol未満、一般的には5%mol未満、典型的には2%mol未満)ことによって特徴付けられる。
【0006】
四面体、水素非含有非晶質炭素(ta-C)は、spハイブリッド炭素原子を多く含有する(典型的には、炭素原子の80%よりも多い割合がspの状態にある)ことによってさらに特徴付けられる。
【0007】
四面体非晶質炭素被膜は、硬度が高く摩擦係数が低い、耐摩耗性に優れた被膜である。同時に、ta-Cおよびa-Cはまた、過酷な環境下(酸またはアルカリ条件など)でも長期間安定性を保つことができるため、耐腐食用途の開発において幅広い可能性を秘めている。
【0008】
気候変動の影響に対する意識の高まりから、水素のような「化石燃料を使わない」代替エネルギー源の研究が活発化している。水素を電気化学的に酸化させて水を生成し、電力を生み出す電極を備えた水素燃料電池が開発されている。水素は、同様の電極を用いた水の電気分解によって生成される。
【0009】
広く用いられている水素燃料電池は、プロトン交換膜(PEM)燃料電池であり、この電池は電子および反応物(例えば、水素および酸素ガス)に対するバリアとして機能する一方でプロトンが膜を通過するのを許容する半透膜を含む。隣接するPEMセルは、1つのPEMセルから隣接するPEMセルに電気を流すバイポーラプレートによって接続されている。
【0010】
バイポーラプレートは、酸に対する反応性から金属で形成され、耐腐食性被膜で被覆されることが多い。金属製バイポーラプレートによく使われる被膜は金である。しかし、金の被膜工程はバイポーラプレートのコストを大幅に上昇させる。また、耐腐食性被膜はプレートの導電性を損なう可能性がある。
【0011】
同様に、電解電極のような他の電極板も金属や合金から作られている。また、公知の水素生成用電極は、耐腐食性被膜で被覆することができる。ここでも、耐腐食性を目的として設計された公知の被膜は、導電性ひいては電極性能を制限する可能性がある。
【0012】
Liらによる2014年の文献(International Journal of Hydrogen Energy, 39(16):8421-8430)は、TiN、CrN、C、C/TiN、C/CrN、およびa-Cトップ層で被膜されたアルミニウム製バイポーラプレートを開示している。WO2013/124690は、鋼、アルミニウム、またはチタンから作られており、TiN、CrN、ZrN、TiC、またはTiCN層、および非水素化非晶質炭素層を含むプレートを開示している。WO01/28019は、Tiを含有する第1の層、TiAlNを含有する第2の層、および疎水性グラファイト外層で被覆されたアルミニウム製バイポーラプレートを開示している。EP 3 670 696は、シード層、CVDで堆積されたDLCからなるバリア層、およびCVAで堆積されたta-C層で被覆されたスチール基材を開示している。この文献には、この被覆基材をバイポーラプレートとして使用することは開示されていない。CN 106 374 116は、高エントロピー合金プライマー層、高エントロピー合金-炭素混合遷移層、および外側の非晶質炭素層を有するステンレス鋼バイポーラプレートを開示している。EP 3650 582は、SiCシード層、熱絶縁層(例えばAlN、Si Si3N4、Al2O3)、界面層、および1層以上のta-C層をこの順序で含む多層被膜を開示している。この文献には、この被膜をバイポーラプレートに使用することは開示されていない。CN 109 560 290は、導電性被膜(ITOなどの金属酸化物)、耐腐食性被膜(例えば、CrまたはTi)、a-Cトップ膜を含むバイポーラプレート(例えば、スチール製)を開示している。CN 110 783 594は、Ni層、グラフェン層、および非晶質炭素外層で被覆されたステンレス鋼バイポーラプレートを開示している。
【0013】
US 20220042178は、耐腐食性炭素被膜およびこのような被膜の製造方法を開示し、WO 2022013317は、水素燃料電池に使用するための炭素被覆バイポーラプレートを開示している。Zhangら(Energy、162巻、933-943頁)は、マグネトロンスパッタリング中の交流バイアス電圧の結果として耐腐食性および界面導電性を向上させる、燃料電池バイポーラプレート上のTiCx/a-C被膜を開示している。さらに、Lacerdaらによる1998年の文献(Appl. Phys. Lett., 73:617; https://doi.org/10.1063/1.121874)およびAhmadらによる2005年の文献(Thin Solid Films, 482:45-49)は、両方共、スパッタリング炭素膜のsp2/sp3含有率に対する基材バイアスの変化の影響をそれぞれ開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
例えば、参照した先行技術に記載されているような被覆電極に共通する問題は、ある特定の特性(例えば、所定の性能基準を満たす高い導電性)を有するように設計された被膜が、別の特性(例えば、耐腐食性)を損なう可能性(またはその逆の可能性)があることである。
【0015】
そのため、良好な導電性と耐腐食性とを兼ね備えた代替電極が必要とされている。
【0016】
以前の未公開出願では、非晶質炭素(a-C)で被覆された水素燃料電池用バイポーラプレートを含む電極について記載した。
【0017】
本明細書において、代替電極、好ましくは公知の電極に対する改良点、およびその製造方法について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、非晶質炭素(a-C)で被覆された電気化学用途に用いられる電極(例えば、プレート)を提供する。好適な実施形態において、本発明は、非晶質炭素(a-C)で被覆された水素燃料電池(特にPEM燃料電池)に用いられるバイポーラプレートおよび非晶質炭素(a-C)で被覆された水素生成用の電極を提供する。
【0019】
本発明の電極は、導電性と耐腐食性とを好ましく兼ね備えることが示されており、具体的な実施形態の電極は、低イオン溶出、低界面接触抵抗(ICR)、低腐食電流密度、および高導電性という好ましい特性を有することが示されている。その結果、これらの電極は、PEM燃料電池での使用に特に適している。
【0020】
したがって、本発明は、燃料電池用または電気分解用の電極を提供し、好適な実施形態において、PEM水素燃料電池用バイポーラプレートまたは水素生成用の電極を提供する。電極は、炭素含有被膜で被覆されており、炭素含有被膜は、a-Cを含む。好ましくは、被膜は、a-Cからなる層を含み、典型的には、この層は、被膜の最上層または外層(すなわち、大気に曝される被膜の層)である。
【0021】
特に、本発明は、a-C層で被覆された電極であって、a-C層が、
(i)60%~95%のsp2含有率で高い導電性を有する少なくとも10層の第1のサブ層と、
(ii)50%~90%のsp2含有率で高い耐腐食性を有する少なくとも10層の第2のサブ層と、が交互に配置されて構成されており、
第1のサブ層のsp2含有率が、第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きい電極を提供する。
【0022】
このように、被膜は複数の第1のサブ層および第2のサブ層を含み、さらにa-C非含有層を含んでいてもよい。これによって、被膜の耐腐食性が高まり、および/またはa-C含有層の下地基材への接着性が向上する。
【0023】
したがって、本発明はまた、炭素含有被膜で被覆された、PEM水素燃料電池用バイポーラプレート等の電極であって、炭素含有被膜が、
a)金属または金属合金を含むシード層と、
b)シード層の金属または合金の炭化物および/または窒化物および/または酸化物を含む界面層と、
c)本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層で構成されるa-Cを含むトップ層とをこの順序で含む電極を提供する。
【0024】
本発明はまた、PEM水素燃料電池用バイポーラプレート等の電極を炭素含有被膜で被覆する方法であって、
a)金属または合金を含有するシード層をプレート上に付与する工程と、
b)シード層の金属または合金の窒化物および/または炭化物および/または酸化物を含有する界面層をシード層上に付与する工程と、
c)本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層で構成されるa-Cを含む機能層を界面層上に付与する工程と、を含む方法を提供する。
【0025】
特に、本発明は、PEM水素燃料電池用バイポーラプレート等の電極を炭素含有被膜で被覆する方法であって、
a)a-Cを含み、65%~90%のsp2含有率および10%~35%のsp3含有率を有する第1のサブ層を堆積させる工程と、
b)a-Cを含み、45%~80%のsp2含有率および20%~55%のsp3含有率を有する第2のサブ層を堆積させる工程と、
c)上記複数の工程を繰り返すことにより少なくとも10層の第1のサブ層と10層の第2のサブ層とを交互に堆積させる工程と、を含む方法を提供する。
【0026】
多層構造は明確であると考えられるが、誤解を避けるために記すと、sp2が比較的高い第1のサブ層の後にsp2が比較的低い第2のサブ層が被覆され、その後さらなる第1のサブ層等が被覆される。第1のサブ層と第2のサブ層とは、それらの間に他のサブ層を挟むことなく、a-C層全体を通して交互に配置されてもよいし、さらなる任意の中間サブ層と交互に配置されてもよい。さらなる中間サブ層が存在するか否かにかかわらず、第1のサブ層は別の第1のサブ層に隣接せず、第2のサブ層は別の第2のサブ層に隣接しない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電極の利点には、導電性と耐腐食性とを兼ね備えることが含まれ、いくつかの実施形態において、従来の金被覆バイポーラプレートと比較して、耐腐食性の向上、導電性の向上、電極材料の溶出の低減(例えば、イオン溶出の低減)、およびコストの低減のうちの1つ以上またはすべてを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、本明細書に記載されるように堆積された非晶質炭素層および必要に応じて他の層を含む被膜を備えた電気化学用途の電極を有利に提供する。本発明は、好適な硬度および使用時の高い耐摩耗性を有し、良好な導電性および耐腐食性を有する被膜を備えた電極を提供する。
【0030】
電極は、バイポーラプレートであってもよく、したがって、本発明は、炭素含有被膜で被覆されたPEM水素燃料電池用バイポーラプレートであって、炭素含有被膜が、a-Cを含むかa-Cからなり、当該a-Cが、本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層を含むかそれらからなる、バイポーラプレートを提供する。
【0031】
電極は、電解電極であってもよい。したがって、本発明は、炭素含有被膜で被覆された電解電極であって、炭素含有被膜が、a-Cを含むかa-Cからなり、当該a-Cが、本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層を含むかそれらからなる、電解電極を提供する。
【0032】
好ましくは、被膜は、a-Cからなる層を含み、典型的には、この層は、被膜の最上層(すなわち、大気に曝される被膜の層)である。
【0033】
上述したように、本発明の特定の実施形態は、a-C層で被覆された、PEM水素燃料電池用バイポーラプレート等の電極であって、a-C層が、
(i)高い導電性を有する少なくとも10層の第1のサブ層と、
(ii)高い耐腐食性を有する少なくとも10層の第2のサブ層とが交互に配置されているものを含む、電極を提供する。
【0034】
第1のサブ層と第2のサブ層とは、sp2含有率に基づいて区別され得る。したがって、被膜は均質ではない。本発明の被膜は、数百ナノメートルスケールの被膜深さにわたって例えば平均sp2含有率が74%であり、sp2含有率がそれぞれ78%および70%のナノメートルスケールの複数の第1のサブ層および第2のサブ層から構成され、被膜全体の平均sp2含有率が74%であってもよい。本明細書の他の箇所に記載されているように、これらの特定の値は、本発明の異なる実施形態について異なる。個々の層のsp2の%は、各々の場合の堆積法のパラメータによって決定される。
【0035】
本発明の実施形態において、a-C層は、少なくとも10層ずつの第1のサブ層および第2のサブ層、好ましくは少なくとも20層ずつの第1のサブ層および第2のサブ層、より好ましくは少なくとも50層ずつの第1のサブ層および第2のサブ層、少なくとも75層ずつの第1のサブ層および第2のサブ層、または少なくとも100層ずつの第1のサブ層および第2のサブ層を含む。本明細書において、多層被膜への言及は、(i)より高い導電性を有する複数の第1のサブ層と(ii)より高い耐腐食性を有する複数の第2のサブ層とを交互に配置するものを含む被膜を指すことを意図している。「第1のサブ層」または「より高い導電性を有する層」などの用語は、被膜中のすぐ隣のサブ層よりも高い導電性を有する層を指す。同様に、「第2のサブ層」または「耐腐食性の高いサブ層」などの用語は、被膜中のすぐ隣のサブ層よりも耐腐食性が高い(例えば、腐食電流密度Icorrがより低い)層を指す。上記の記載では、sp2含有率が78%の第1のサブ層が導電性の高い層であり、sp2含有率が70%の第2の層が耐腐食性の高い層である。サブ層のsp2の%の差は大きくないように見えるが、結果として得られる本発明の多層被膜は、同じ平均sp2の%を有する均質な層による被膜よりも優れた導電性および優れた耐腐食性能を有することができる。
【0036】
平均して、第1のサブ層は、典型的には、第2のサブ層よりも高い割合のsp2ハイブリッド炭素原子を有する。第1のサブ層は、典型的には、隣接する第2のサブ層よりも高い割合のsp2ハイブリッド炭素原子を有する。必要に応じて、第1のサブ層と第2のサブ層との間のsp2ハイブリッド炭素原子の割合の差は、少なくとも3%、または少なくとも4%、典型的には少なくとも5%、または少なくとも10%である。必要に応じて、第1のサブ層と第2のサブ層との間のsp2ハイブリッド炭素原子の割合の差は、40%以下、典型的には30%未満、または20%未満である。
【0037】
誤解を避けるために、第1のサブ層と第2のサブ層との間のsp2ハイブリッド炭素原子の割合におけるn%(例えば3%)の差は、sp2含有率がn(3)ポイント低いことを意味する。例えば、sp2含有率が60%の第1のサブ層を有する被膜の場合、sp2が3%低い第2のサブ層はsp2含有率が57%以下となる。
【0038】
第1のサブ層のsp2含有率は、適切には60%以上、典型的には最大95%である。sp2含有率は、70%以上、好ましくは75%以上であってもよい。sp2含有率は、90%以下、好ましくは85%以下であってもよい。また必要に応じて、第1のサブ層のsp2含有率は、第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きく、必要に応じて少なくとも7%大きく、必要に応じて少なくとも10%大きく、第1のサブ層のsp3含有率は、第2のサブ層のsp3含有率よりも少なくとも3%少なく、必要に応じて少なくとも7%少なく、必要に応じて少なくとも10%少ない。
【0039】
第2のサブ層のsp2含有率は、適切には40%以上、一般的には50%以上、典型的には最大90%である。sp2含有率は、55%以上、好ましくは60%以上であってもよい。sp2含有率は、85%以下、好ましくは80%以下であってもよい。また必要に応じて、第2のサブ層のsp2含有率は、第1のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%少なく、必要に応じて少なくとも7%少なく、必要に応じて少なくとも10%少なく、第2のサブ層のsp3含有率は、第1のサブ層のsp3含有率よりも少なくとも3%多く、必要に応じて少なくとも7%多く、必要に応じて少なくとも10%多い。
【0040】
また必要に応じて、第1のサブ層のsp2含有率は、第2のサブ層のsp2含有率よりも40%以下大きく、より適切には20%以下大きく、第1のサブ層のsp3含有率は、第2のサブ層のsp3含有率よりも40%以下小さく、より好適には20%以下小さい。
【0041】
被膜全体のsp2含有率(すなわち、個々のサブ層の平均sp2含有率)は、適切には少なくとも55%、典型的には少なくとも60%である。被膜の全体的なsp2含有率は、好適には70%より高く、より好適には75%より高い。必要に応じて、被膜の全体的なsp2含有率は、一般的には95%未満、または90%未満である。典型的には、全体のsp2含有率は85%未満である。
【0042】
本発明の具体的な実施形態を、被膜のa-C成分のみを参照して、以下の実施例の表に示す。
【0043】
好適な実施形態において、本発明のバイポーラプレートは、60%~95%のsp2含有率を有する複数の第1のサブ層および40%~90%のsp2含有率を有する複数の第2のサブ層から構成されるa-C層を含む。sp2含有率とsp3含有率との両方がしばしば記載されるが、本発明のa-C被膜およびta-C被膜では、sp2含有率とsp3含有率との合計は一般的には100%または100%に非常に近い、つまり少なくとも98%であり、sp3含有率はsp2含有率を考慮した後の残部として計算することができ、逆も同様であることが理解される。
【0044】
a-C層内には複数の第1のサブ層および第2のサブ層があり、これらのサブ層は非常に薄い。以下に詳述するように、a-C層の合計厚さは、3.0μm以下、1.0μm以下であってもよい。好ましくは、a-Cの合計厚さは、0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下であってもよい。その層内でサブ層はより薄いものである。各サブ層の厚さは、一般的には最大20nm、典型的には最大5nm、より典型的には最大3nm、好ましくは最大2nm、より好ましくは最大1.5nmであり、後述の実施例では、厚さは約1nmであった。各サブ層の厚さは、典型的には0.2nm以上、より典型的には0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは0.8nm以上である。サブ層の厚さは、0.3nm~3nmの範囲であってもよく、好ましくは0.5nm~2nmの範囲であってもよい。層が薄ければ薄いほど、所与の全体厚さのa-C層中により多くの層を含め得ることが理解される。層全体は、少なくとも20層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層と(合計40のサブ層)が交互に配置されて構成されていてもよいし、少なくとも30層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とが交互に配置されて構成されていてもよい。好ましくは、層全体は、少なくとも50層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とが交互に配置されて構成されており、より好ましくは、少なくとも80層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とが交互に配置されて構成されている。バイポーラプレート上の本発明の被膜は、交互に堆積された100層以上ずつのサブ層で構成されている。以下の例では、第1のサブ層および第2のサブ層が140層ずつであった。周期的に変化する基材バイアスまたはデューティサイクルを利用して層を堆積させる場合、周期的サイクルの数が既知でありサブ層ごとに1つであるため、層の数を正確に知ることができる。
【0045】
特定の実施形態のバイポーラプレートにおいて、
a-C層は、少なくとも30層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に配置して含み、
各サブ層が、約0.8nm~1.3nmの厚さを有し、
第1のサブ層が、70%~85%のsp2含有率および15%~30%のsp3含有率を有し、
第2のサブ層が、60%~80%のsp2含有率および20%~40%のsp3含有率を有し、そして
必要に応じて、sp2の%が第1のサブ層と第2のサブ層との間で少なくとも3%異なる。
【0046】
さらなる特定の実施形態のバイポーラプレートにおいて、
a-C層は、少なくとも80層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に配置して構成されており、
各サブ層が約1nmの厚さを有し、
第1のサブ層が70%~85%のsp2含有率および15%~30%のsp3含有率を有し、
第2のサブ層が60%~80%のsp2含有率および20%~40%のsp3含有率を有し、そして
必要に応じて、sp2の%が、第1のサブ層と第2のサブ層との間で約4%異なる。
【0047】
被膜はまた、基材とa-C含有層との間に1層以上の追加層を含んでもよく、1つ以上の追加層は、a-C層の基材への密着性を向上させ、および/または被膜にさらなる耐腐食性を付与する。
【0048】
電極上の被膜は、典型的にはシード層を含み、これは典型的には金属である基材上に被覆される。
【0049】
被膜は、典型的にはシード層とa-C含有層(トップ層または最上層とも呼ばれる)との間に界面層をさらに含む。
【0050】
基材は、炭素材料(グラファイトなど)および複合材料(グラファイトまたは複合プレートなど)を含む、電極の典型的な材料である他の物質で形成されてもよい。基材が金属である場合、基材は単一の金属(例えば、チタンまたはアルミニウム)で形成されてもよく、合金(例えば、鉄、チタン、またはアルミニウムの合金)で形成されてもよい。金属基材は、好ましくは鋼基材、好ましくは、例えばPEMセル用バイポーラプレートの製造に一般的に用いられる304または316Lステンレス鋼基材等のステンレス鋼である。他の金属、合金、鋼もまた適切である。
【0051】
金属基材の大きさ(厚さ)は、PEMセル等の電極の大きさ、およびPEMセルの意図される用途に依存することは言うまでもない。バイポーラプレートの場合、金属基材は、典型的には0.5mm以下、例えば0.3mm以下、好ましくは0.2mm以下(例えば、約0.1mm)の厚さを有する。
【0052】
金属基材の表面には、スタンピングまたはエッチングによって溝が形成されていてもよい。これらの溝は、例えば隣接するバイポーラプレート間の冷却剤または試薬の移動を可能にする。
【0053】
上述したように、本発明の被膜を適用することができる適切な基材は、電気化学用途に使用するための電極およびプレートである。本発明の被膜は、例えば、陽極(例えば、水素生成用)として、または酸素が放出されない陽極または陰極として用いるための、電気分解用途のバイポーラプレートまたは電極の使用に適している。
【0054】
好適な実施形態において、金属基材上にシード層が堆積される。シード層は、金属基材と界面層との間の密着性を促進する役割を果たし、また、ある程度の耐腐食性を示すこともある。
【0055】
シード層は、金属または合金を含む(好ましくは、金属または合金からなる)。適切には、シード層は、Ti、Nb、Zr、Mo、W、Ta、V、Hf、Cr、Ni、およびAlを含む群から選択される金属を含むか、当該金属からなり、あるいはその合金を含有するか当該合金からなるがこれらに限定されない。シード層はまた、金属または合金の1つと酸素、窒素、または炭素との化合物、すなわち金属または合金の酸化物、窒化物、または炭化物を含むかこれらからなるものであってもよい。
【0056】
好ましくは、シード層の金属/合金は、クロム、チタン、クロムの合金、およびチタンの合金から選択される。さらに好ましくは、シード層の金属はチタンであるかチタンを含む。
【0057】
シード層の典型的な厚さは、1μm以下、典型的には0.5μm以下、適切には0.4μm以下、好ましくは0.3μm以下、または0.2μm以下である。さらに、シード層は、通常0.01μm以上、0.03μm以上、0.05μm以上である。後述の特定の実施例では、シード層は約0.06μmであった。
【0058】
上述したように、シード層は、被膜全体にいくらかの耐腐食性を付与する可能性があるため、シード層の堆積は、基材の可能な限り多くを覆うように行う必要がある。シード層は、好ましくは高密度になるように堆積させる。したがって、シード層は、様々なプラズマ蒸着または化学蒸着技術を用いて堆積させ得る。好ましくは、シード層は、フィルター型カソーディック真空アーク方式(FCVA:Filtered Cathodic Vacuum Arc)、マルチアーク堆積、スパッタリング、例えばマグネトロンスパッタリング(高密度被膜を促進する高出力インパルスマグネトロンスパッタリングを含む)により堆積される。
【0059】
シード層は、典型的には不純物をほとんど含まない(すなわち、シード層は典型的には非常に高純度である)。例えば、シード層中の不純物含有率は、10%以下、典型的には5%以下、好ましくは2%以下(例えば1%以下)であってもよい。本明細書でいう不純物とは、シード層を構成することを意図するもの以外の任意の物質を指す。例えば、シード層がTiからなる場合、シード層に存在するTi以外の任意の元素は不純物とみなすことができる。
【0060】
界面層が存在する場合、界面層はa-C含有層(複数のサブ層から構成される)のシード層への密着性を促進する。シード層に関しては、界面層も被膜の耐腐食性を高めることがある。さらに、界面層は、電極/基材の接触抵抗を低減する役割を果たし得る。好ましくは、界面層は、(シード層およびa-C含有層と比較して)比較的低密度であり、被膜内にピンホールまたは空孔のある柱状ポケットを有する。低密度の被膜を促進し、被膜内の柱状体成長の形成を促進する条件下で堆積させてもよい。
【0061】
一般に、界面層は、Ti、Nb、Zr、Mo、W、Ta、V、Hf、Cr、Ni、およびAlからなる群から選択される金属を含むか、当該金属からなり、あるいはその合金を含むか当該合金からなるがこれらに限定されない。界面層はまた、金属または合金の1つ以上と酸素、窒素、および/または炭素との化合物、すなわち金属または合金の酸化物、窒化物、および/または炭化物を含有するかこれらからなるものであってもよい。通常、界面層はシード層とは異なる。好ましくは、シード層と界面層との間に共通する元素が1つある。
【0062】
界面層は、一般的に、金属または合金の炭化物および/または窒化物から形成され、通常、シード層の金属のいずれかまたはシード層の金属/合金の炭化物および/または窒化物から形成される。例えば、シード層がチタンシード層である場合、界面層は、炭化チタン、窒化チタン、またはそれらの混合物を含有するかこれらからなるものであってもよい。同様に、シード層がクロムシード層である場合、界面層は、炭化クロム、窒化クロム、またはそれらの混合物を含有するかこれらからなるものであってもよい。好ましくは、シード層がチタンを含むか、かチタンからなる場合、界面層は炭化チタンを含むか、炭化チタンからなる。
【0063】
界面層の厚さは、典型的には1μm以下、好適には0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下である。また、界面層の厚さは、通常0.005μm以上、一般的には0.01μm以上、例えば0.03μm以上である。後述の実施例では、界面層の厚さは約0.1μmであった。
【0064】
上述したように、界面層は、被膜全体にいくらかの耐腐食性を付与する可能性があるため、界面層の堆積は、基材の可能な限り多くを覆うように行う必要がある。したがって、界面層は、様々なプラズマ蒸着または化学蒸着技術を用いて堆積させることができる。好ましくは、界面層は、スパッタリングによって堆積され、好ましくは、十分に高い密度を維持しながら、シード層と比較して密度の低い被膜層が形成されるように調整される。
【0065】
界面層は、典型的には不純物をほとんど含まない(すなわち、界面層は典型的には非常に高純度である)。例えば、界面層中の不純物含有率は、10%以下、典型的には5%以下、好ましくは2%以下(例えば1%以下)であってもよい。例えば、シード層が窒化チタンからなる場合、界面層に存在するTiまたはN以外の任意の元素は不純物とみなすことができる。
【0066】
したがって、炭素含有被膜は、
a)金属または合金を含むシード層と、
b)シード層の金属/合金の炭化物および/または窒化物および/または酸化物を含む界面層と、
c)a-Cを含むトップ層(複数のサブ層として)と、
をこの順序で含んでもよい。
【0067】
被膜の最上層(すなわち大気に曝される層)はa-C含有層である。この層は、a-Cを70重量%以上、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上含んでいてもよく、a-Cからなっていてもよい。
【0068】
上述したように、本明細書で使用する用語「非晶質炭素」(a-C)は、水素含有率が低いsp2含有非晶質炭素を指す。例えば、a-Cの水素含有率は、10%以下、典型的には5%以下、好ましくは2%以下(例えば1%以下)であってもよい。a-Cサブ層は、適切にはFCVAによって堆積される。一般的には、a-Cサブ層は実質的に水素を含まない。ここでいう水素の含有率とは、(水素の質量%ではなく)モル%を意味する。
【0069】
さらに、a-Cの窒素含有率は低いことが好ましい。例えば、a-Cの窒素含有率は、10%以下、典型的には5%以下、好ましくは2%以下(例えば1%以下)であってもよい。ここでいう窒素の含有率とは、(窒素の質量%ではなく)モル%を意味する。FCVAを用いてa-Cを堆積する場合、窒素含有率は、通常、界面層の堆積後にチャンバー内に残留するガス(存在する場合)の結果としての最小量を除けば、実質的にゼロである。
【0070】
また、a-Cは酸素含有率が低いことも好ましい。例えば、a-Cの酸素含有率は、5%以下、典型的には2%以下、好ましくは1%以下であってもよい。ここでいう酸素含有率とは、(酸素の質量%ではなく)モル%を意味する。FCVAを用いてa-Cを堆積する場合、酸素含有率は、通常、界面層の堆積後にチャンバー内に残留するガス(存在する場合)の結果としての最小量を除けば、実質的にゼロである。
【0071】
サブ層のsp2含有率およびsp3含有率については、別の箇所で詳述する。sp2含有率およびsp3含有率は、a-C層の所与のサブ層全体にわたって変化し得ることに留意されたい。上記の値は、サブ層のsp2含有率およびsp3含有率の平均値として意図されている。
【0072】
ta-Cは、無秩序ダイヤモンドに存在するのと同様に、強い結合で相互に連結された無秩序なsp3から構成されると説明される高密度非晶質物質である(Neuville S, 「New application perspective for tetrahedral amorphous carbon coatings」, QScience Connect 2014:8, http://dx.doi.org/10.5339/connect.2014.8を参照のこと)。ダイヤモンドとの構造的類似性により、ta-Cも非常に硬い物質であり硬度はしばしば30GPaを超えることも多い。
【0073】
ta-C被膜は、典型的に硬く緻密である。本発明では、特別に高いレベルの硬度は必要ない場合があり、sp2含有率は許容可能な導電性を保持する程度に必要である。したがって、よりsp3特性の高いサブ層(すなわち、高い耐腐食性を有する第2のサブ層)であっても、そのsp3含有率はサブ層が真にまたは純粋にta-Cとみなされるためにはそれほど高くない。典型的には、第2の層のsp2含有率は上述のように50%よりも高く、したがって、第2の層は、第1のサブ層よりもsp2含有率が低いのにもかかわらず、sp3層よりもsp2層に近い。a-C被膜/層は、適切な導電性を保持しながら、適切な硬度を提供する。後述する具体的な実施形態の被膜硬度は、約987HVおよび1171HVであり、良好な結果が得られた。一般的に、a-C/ta-C堆積プロセスは、極めて高い硬度のものを含む様々な被膜を製造するように調整することができるが、本発明の被膜は過度に高い硬度を有する必要はない。上記のように比較的低いsp含有率は、通常は、低い硬度値と相関する。この場合は電極またはバイポーラプレートである基材は、適切には、硬度が少なくとも650HVまたは少なくとも700HVであるa-C被膜を有していてもよい。硬度は、700HV~1500HVの範囲、適切には800HV~1400HVの範囲、好ましくは800HV~1200HVの範囲であってもよい。測定された硬度値がこれらの範囲内にある被膜が適していると考えられ、わずかに異なる最終用途には、時にはユーザーの選択にしたがって異なる硬度が適切であり得る。
【0074】
硬度は、適切には、ビッカース硬さ試験(1921年にビッカース社のロバート・L・スミスとジョージ・E・サンドランドによって開発された。標準試験については、ASTM E384-17も参照のこと)を用いて計測される。本試験は、あらゆる金属に使用でき、硬さ試験の中でも最も広いスケールを有する。この試験で与えられる硬さの単位は、ビッカースピラミッド数(HV)として知られており、パスカル(GPa)の単位に変換することができる。硬度値は、一定の荷重で試験される圧痕の表面積によって決定される。例として、硬度が高い鋼であるマルテンサイトのHVは約1000であり、ダイヤモンドのHVは約10,000HV(約98GPa)である。ダイヤモンドの硬度は、正確な結晶構造と方位によって変化するが、約90GPaから100GPaを超える硬度が一般的である。
【0075】
a-Cは、必要に応じて他の物質(金属または非金属)でドープされる。
【0076】
a-C被膜はまた、好ましくは、中性炭素原子または粒子を含まないか実質的に含まない。
【0077】
複数の第1のサブ層および第2のサブ層から構成されるa-C含有層全体の密度は、典型的には2.0g/cmより高く、例えば2.5g/cmより高く、好ましくは2.7g/cmより高い。複数の第1のサブ層および第2のサブ層から構成されるa-C含有層全体の密度は、典型的には最大4.0g/cm、例えば最大3.5g/cm、好ましくは最大3.2g/cmである。この密度は、従来のDLC膜やsp2含有率が高い他の膜に比べて高い。この密度レベルは、被膜内のsp3炭素-炭素結合が非常に小さい(1~2オングストロームと低い)結果である。この構造では、他の原子、特に鉄は通過できないため、鉄イオンの溶出や腐食を防ぐことができる。sp2特性が(比較的)高い複数の層とsp3特性が(比較的)高い複数の層とを堆積させ、層全体の結晶領域の形成を避けるか減少させるために層を薄く保つことで、sp2結合に基づく好ましい導電特性とsp3結合に基づくより高い密度との組み合わせを保持することができる。
【0078】
a-Cの複数のサブ層は、典型的には、カソーディック真空アーク堆積技術、例えば、フィルター型カソーディック真空アーク方式(FCVA堆積技術)によって堆積される。FCVA被覆のための装置および方法は公知であり、本発明の方法の一部として用いることができる。FCVA被覆装置は、典型的には、真空チャンバー、陽極、ターゲットからプラズマを発生させるための陰極アセンブリ、および基材を所定の電圧にバイアスするための電源から構成される。アーク電流、基材バイアス、および変動するデューティサイクルを含むFCVAの性質は従来のものであり、本発明の一部ではないが、本発明は、被膜の複数の第1のサブ層および第2のサブ層を得るために、FCVA装置および周期的に変化させた堆積条件を用いる堆積方法を提供する。
【0079】
本明細書に記載の被覆バイポーラプレートは、被膜が比較的薄い場合であっても良好な耐腐食性を有する。例えば、全体的な被膜厚さ(a-C含有層および存在する場合にはシード層および界面層を含む)は、典型的には2μm未満であり、好適には1.5μm未満であり、好ましくは1μm未満である。
【0080】
さらに、本明細書に記載されている被覆バイポーラプレートは、良好な導電性を有している。被覆バイポーラプレートが良好な導電性と良好な耐腐食性とを兼ね備えることは重要である。理論に束縛されることを望むものではないが、a-C層内に第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に配置することにより、sp2含有率が均一な単一の層のみを含むa-C層を有する被膜と比較して、耐腐食性と導電性の特性の組み合わせが改善されると考えられる。
【0081】
本発明の電極/プレート用の層を堆積させる多数の従来かつ市販の堆積技術が知られている。上記において、いくつかの実施形態は、好ましい堆積プロセスを示す。一般的に、本明細書におけるシード層および界面層の堆積は、スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング、マルチアークイオンプレーティング、アーク堆積、カソード真空アーク堆積、フィルター型真空アーク堆積、およびプラズマ強化化学気相堆積を含む公知のPVD法またはCVD法の1つ以上または組み合わせを含むがこれらに限定されない、当業者に適切なプロセスを用いて達成され得る。
【0082】
本発明はまた、そのサブ層を含むa-C層を堆積する方法を提供する。
【0083】
したがって、本発明は、電極を被覆する方法であって、電極を準備する工程と、a-C層を電極上に成膜する工程と、を含み、
a-C層は、
(i)高い導電性を有する少なくとも10層の第1のサブ層と、
(ii)高い耐腐食性を有する少なくとも10層の第2のサブ層と、が交互に配置されているものを含む、方法を提供する。
【0084】
本発明の方法は、異なった第1のサブ層および第2のサブ層からなる多層被膜が電極上に付与されるように、被膜パラメータを周期的に変化させる工程を含んでいてもよい。本発明の方法は、好ましくは、a-C層を堆積させるための連続堆積プロセス、すなわち、a-C層を形成するためにa-Cを連続的に堆積させるが、被膜パラメータは、被膜が複数の第1のサブ層および第2のサブ層から構成されるように変化させるプロセスを含む。
【0085】
本発明の方法の実施形態は、電極を提供する工程と、炭素含有被膜を電極に付与する工程とを含み、
炭素含有被膜が、
a)金属または金属合金を含むシード層と、
b)シード層の金属または合金の炭化物および/または窒化物および/または酸化物を含む界面層と、
c)本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層で構成されるa-Cを含むトップ層と、をこの順序で含む。
【0086】
本発明はまた、PEM水素燃料電池用バイポーラプレート等の電極を炭素含有被膜で被覆する方法であって、
a)金属または合金を含有するシード層をプレート上に付与する工程と、
b)シード層の金属または合金の窒化物および/または炭化物および/または酸化物を含有する界面層をシード層上に付与する工程と、
c)本発明の複数の第1のサブ層および第2のサブ層で構成されるa-Cを含む機能層を界面層上に付与する工程と、
を含む方法を提供する。
【0087】
PEM水素燃料電池用バイポーラプレートを炭素含有被膜で被覆するさらなる方法は、
a)a-Cを含み、60%~90%のsp2含有率および10%~40%のsp3含有率を有する第1のサブ層を堆積させる工程と、
b)a-Cを含み、45%~80%のsp2含有率および20%~55%のsp3含有率を有する第2のサブ層を堆積させる工程と、
c)上記複数の工程を繰り返すことにより少なくとも10層の第1のサブ層と10層の第2のサブ層とを交互に堆積させる工程と、を含み、
必要に応じて、第1のサブ層のsp2含有率は、第2のサブ層のsp2含有率よりも少なくとも3%大きい。
【0088】
本発明の方法を用いて堆積された第1のサブ層および第2のサブ層の任意かつ好ましい特性は、被膜それ自体に関連して本明細書の他の箇所に記載されている通りである。
【0089】
当該方法は、好適には少なくとも30層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させる工程を含み、より好適には少なくとも50層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させる工程を含み、好ましくは少なくとも80層ずつの第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させる工程を含む。
【0090】
堆積パラメータを変化させることによって、サブ層を交互に堆積させることが可能になる。これは、好適には、同じグラファイト/炭素ターゲットを用いる単一の堆積チャンバーで行われる。したがって、本方法は、第1のバイアスレジメンをバイポーラプレートに適用しながら、第1のサブ層を(例えば、FCVAによって)堆積させる工程と、第2のバイアスレジメンをバイポーラプレートに適用しながら、第2のサブ層を(例えば、再びFCVAによって)堆積させる工程と、を含んでいてもよい。当該方法において、第1のバイアスレジメンと比較して、a-C中のsp2含有率が少なくとも3%減少してa-C中のsp3含有率が少なくとも3%増加するように第2のバイアスレジメンが調整される。レジメンとは、電流、電圧、基材バイアス、デューティサイクル、堆積時間、温度などの1つ以上の堆積パラメータを指す。回転カルーセルを有する堆積装置では、カルーセルの回転速度や、カルーセルに取り付けられた回転基材ホルダー(存在する場合)の回転速度も含まれる。
【0091】
適切には、本発明の方法は、25℃~190℃、好ましくは100℃~170℃の温度で基材を被膜する工程を含む。
【0092】
適切には、異なるサブ層を堆積させる間、バイアスをほぼ一定の電圧に保持する。この場合、当該方法は、サブ層間を異ならせるためにデューティサイクルを調整する工程を含むことが好ましい。したがって、本方法は、デューティサイクルにしたがってバイアス電圧を印加する工程と、デューティサイクルを周期的に調整し、調整後のデューティサイクルによって、sp3含有率が増加しsp2含有率が減少した第2のサブ層を堆積させる工程と、を含んでいてもよい。したがって、好ましい方法において、デューティサイクルを周期的に増減させて、それぞれのサブ層を堆積させる。
【0093】
あるいは、異なるサブ層を堆積させる間、バイアス電圧を変化させることも適切である。この場合、当該方法は、サブ層間を異ならせるためにバイアス電圧を調整する工程を含むことが好ましい。したがって、本方法は、デューティサイクルにしたがってバイアス電圧を印加する工程と、sp3含有率が増加しsp2含有率が減少したサブ層とsp3含有率が減少しsp2含有率が増加したサブ層とを交互に堆積させるようにバイアス電圧を周期的に調整する工程とを含んでいてもよい。
【0094】
さらに別の方法として、異なるサブ層を堆積させる間、バイアス電流を変化させることも好適である。この場合、当該方法は、サブ層間を異ならせるためにバイアス電流を調整する工程を含むことが好ましい。したがって、本方法は、デューティサイクルにしたがってバイアス電流を印加する工程と、第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させるように電流を周期的に調整する工程とを含んでいてもよい。
【0095】
さらなる実施形態において、バイアス電圧、バイアス電流、およびデューティサイクルのうちの2つ以上またはすべてを変化させて、それぞれのサブ層を堆積させる。
【0096】
より詳細に後述する実施例において、本方法は、FCVA堆積チャンバー内の回転カルーセルにバイポーラプレートを取り付ける工程と、カルーセルをほぼ一定速度で回転させる工程と、第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に堆積させるようにバイアス電圧を周期的に調節する工程とを含む。それぞれのバイアスレジメンで動作する期間はサブ層の厚さを決定するため、別の箇所で説明されているサブ層の厚さを達成するように調整される。以下の例において、バイアスパラメータを50秒ごとに変更したが、これは、所与のFCVAチャンバーの設定に対する所望のサブ層厚さおよび堆積速度に応じて変化することが理解される。
【0097】
堆積パラメータを周期的に変化させることにより、ほぼ同じ厚さのサブ層を交互に堆積させることができる。また、堆積パラメータを変化させて、第1のサブ層と第2のサブ層とが異なるあらかじめ決められた厚さを有するようにすることもできる。
【0098】
本発明の方法は、本発明の他の上述した任意および好ましい特徴にしたがって、複数のサブ層からなるa-C層を堆積させるのに適している。
【実施例
【0099】
本発明を以下の実施例で説明する。
【0100】
(実施例1:被覆バイポーラプレートの調製)
316Lステンレス鋼バイポーラプレートを以下のように被覆した。
【0101】
(工程1:試料調製)
バイポーラプレートを以下の工程にしたがって洗浄した。
a.弱アルカリ性溶液を用いて超音波洗浄を行い、表面および流路内の油汚れを除去した。
b.酸性酸溶液を用いて、酸化膜と基材上のあらゆる錆を除去した。
c.基材を超音波条件下で純水を用いてすすいだ。
d.その後、基材を真空条件下で0.5時間乾燥させた。
【0102】
(工程2:試料被覆)
被覆装置:イオンエッチング機能およびマグネトロンスパッタリング源を備えたFCVA被覆装置
プロセス:
a.被覆対象の洗浄したバイポーラプレートを被覆チャンバーに入れ、被覆チャンバー内の圧力を5.0×10-5Torr(6.6mPa)に下げ、温度を130℃に上げた。
b.イオンビーム洗浄を行う(従来のイオンビーム洗浄方法を使用)。
c.チャンバー内の圧力をさらに2×10-5Torr(2.6mPa)まで下げ、マグネトロンスパッタリング条件下で、Ti層を厚さが0.06μmになるまで堆積させるのに十分な時間、Tiシード層を堆積させる。
d.シード層を堆積させた後、界面層の堆積を開始する。真空度が4×10-3Torrになるまでアセチレンガスをチャンバーに導入する。アセチレンガスの存在下12kWの出力でチタンターゲットを用いたスパッタリング堆積法で、TiC界面層を堆積する。この堆積工程を、TiC層を厚さが0.1μmになるまで堆積させるのに十分な時間実施する。
e.界面層を堆積させた後、バイアスパラメータを周期的に変化させながら、フィルター型カソーディック真空アーク方式(FCVA)技術を用いて、複数のサブ層を有する0.3μmのa-C層を堆積させた。堆積パラメータおよび堆積方法は以下の通りであった。
f.堆積の完了後、真空チャンバーを室温および常圧に戻し、被覆された基材を被覆チャンバーから取り出す。
【0103】
完成した被覆基材は次のような構造を有する。
【0104】
【表2】
【0105】
(工程2(e):a-C層堆積)
バイポーラプレート基材を、FCVA堆積チャンバー内の回転カルーセルに取り付けた。アーク電流および基材バイアスを、sp2バイアスとsp3バイアスとの間でデューティサイクルを切り替える基材バイアスで固定した。チャンバー内温度を測定したところ、約100℃であった。sp2含有サブ層およびsp3含有サブ層が140層ずつの合計280層となり、合計厚が約300nmとなるまで、被覆を継続した。交互に配置したサブ層のsp2含有率はそれぞれ60%~70%(sp2サブ層)および50%~40%(sp3サブ層)とした。
【0106】
(実施例2:被覆)
316L鋼板を準備し、実施例1と同様にシード層および界面層を形成した。以下の特定の被膜を個々の316L鋼板に堆積した(a-C被膜成分のみを参照)。
【0107】
【表3】
【0108】
(実施例3:本発明の被膜の特性試験)
被覆ステンレス鋼バイポーラプレートを、上述の方法にしたがって調製したが、本実施例において、交互に配置したサブ層のsp2含有率はそれぞれ70%~85%(高sp2サブ層)および60%~80%(低sp2サブ層)とした。被覆バイポーラプレートの硬度、試験前後の界面接触抵抗(ICR)、および腐食電流密度(Icorr)を測定した。結果を下表に示し、図1および図2にグラフで表した。
【0109】
試験条件は、1.8V(対SHE)、0.1ppmフッ素+HSO、pH3、10時間であった。
【0110】
【表4】
【0111】
上表のsp2値およびsp3値は、各被膜(存在する場合、サブ層を含む)のa-C層全体の平均値であり、サブ層であるA層、B層、C層、D層、およびE層のそれぞれのsp2値およびsp3値を、下表に記載する。
【0112】
【表5】
【0113】
試料1および試料4は、交互に配置されたサブ層が同じであるため、単一のa-C層で構成されている。したがって、試料1および試料4は被膜全体を通してsp2レベルが一定の均質な比較例として存在する。試料2、試料3、および試料5は、a-C層内に異なる第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に配置した本発明の被膜で構成されている。
【0114】
試料2の場合、A層はsp2率が高い結果として導電性が高い第1のサブ層であり、B層はsp3率が高い結果として耐腐食性が高い第2のサブ層である。
【0115】
試料3において、A層はsp2率が高い結果として高い導電性を有する第1のサブ層であり、C層はsp3率が高い結果として耐腐食性を有する第2のサブ層である。
【0116】
試料5において、D層はsp2率が高い結果として高い導電性を有する第1のサブ層であり、E層はsp3率が高い結果として耐腐食性を有する第2のサブ層である。
【0117】
試料2、試料3、および試料5の各サブ層の個々の厚さを以下の表に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
試料の多層a-C被膜の合計厚さは、約250nmである。
【0120】
試料2および試料3は、厚さが各0.5nmである第1のサブ層および第2のサブ層で構成されているため、試料2および試料3の平均sp2含有率は、2つのサブ層の平均値である。
【0121】
しかし、試料5は、厚さが0.4nmである第1のサブ層および厚さが0.6nmである第2のサブ層から構成されているため、平均sp2含有率は2つの層の平均値と等しくなく、実際にはわずかに低い。
【0122】
データから、試料2および試料3は、平均sp2値と平均sp3値が同じでサブ層が交互に配置されていない均質な被膜に予想されるよりも、導電性が高く(ICRが低い)、耐腐食性が高い(Icorrが低い)ことがわかる。このことは、後述する図1および図2のグラフでさらに実証されている。
【0123】
試料5は、試料2および試料3よりもさらに導電性が高い(ICRがさらに低い)。試験(1.8V(対SHE)、0.1ppmフッ素+HSO、pH3、10時間)の前、試料5のICRは試料2や試料3よりも低かった。試験後、試料5のICRは(予想通り)上昇したが、試料2と同程度である一方、試料3よりはまだ低いものである。また、試料5の腐食電流密度も試料1~試料4より低く、試料5が最も優れた性能を示している。
【0124】
図1は、試験前と試験後のsp2含有率に対するICRのグラフである。グラフには、各データについて比較試料1と比較試料4との間に線が引かれている。この線は、sp2含有率が均一であるa-C層を有する(すなわち、第1のサブ層と第2のサブ層が交互に配置されていない)被膜に予想されるICRを示していると考えられる。試料2および試料3のデータがほぼ当該線上にあることから、試料2および試料3のICRは、試験前にsp2含有率が均一である被膜に予想されるものとほぼ同じであることがわかる。しかし、試験後の試料2および試料3のICRは両方とも線より有意に下にあり、サブ層が交互に配置されていない被膜に予想されるよりも低い界面接触抵抗(したがって高い導電性)を示すため、試料2および試料3のICRは予想よりも良好である。したがって、図1は、a-C層のsp2含有率が均一な被膜と比較して、本発明の被膜で被覆されたバイポーラプレートの導電性が改善されていることを示している。
【0125】
図2を参照して、sp2含有率が均一なa-C層を有する(すなわち、第1のサブ層と第2のサブ層とが交互に配置されていない)被膜に予想されるIcorrを示すために、比較試料1と比較試料4との間に再び線が引かれている。(本発明の被膜からなる)試料2および試料3のIcorrは、これらのデータが予想される線よりも下にあるために、予想よりも良好であることが図から明らかである。Icorrが低いほど耐腐食性が高いことを示しており、したがって図2は、比較被膜1および比較被膜4と比較して、本発明の被膜で被覆された試料2および試料3の特性が改善されていることを示している。
【0126】
したがって、本発明は、電気化学用途(電極、燃料電池用バイポーラプレートなど)に用いるプレートであって、複数の第1のサブ層と第2のサブ層とを交互に配置してなるa-C層を有するプレート、およびその製造方法を提供する。
図1
図2