(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】圧縮機および熱交換システム
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
F04C18/02 311W
(21)【出願番号】P 2024001867
(22)【出願日】2024-01-10
【審査請求日】2024-01-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】黒野 亮
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-257287(JP,A)
【文献】特開2012-092773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻き状の曲線部を有する旋回スクロールと、
前記曲線部が収容される渦巻き状の溝を有し、前記溝に前記曲線部が収容されて冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、
前記固定スクロールが有する前記溝の底の中央より径方向外側に設けられ、前記圧縮室へ油を供給するための油供給開口部と
を含み、
前記圧縮室は、前記曲線部の外線側の外線室と、前記曲線部の内線側の内線室とを有し、前記旋回スクロールと前記固定スクロールとにより形成される前記冷媒の最大閉じ込み容積が、前記内線室より前記外線室が大きく、
前記油供給開口部は、
前記冷媒の吸込側に形成される吸込室と連通する前記外線室への
該冷媒の閉じ込み前に、前記外線室と連通し、前記内線室への前記冷媒の閉じ込み後に、前記内線室と連通するような位置に設けられる、
圧縮機。
【請求項2】
前記油供給開口部は、前記固定スクロールが有する径方向の内側と外側の溝のうち、該外側の溝に設けられ、前記油供給開口部の径は、前記曲線部の幅より小さい、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記油が給油される背圧室と、
前記油供給開口部と前記背圧室との間に設けられる背圧弁と
を含み、
前記背圧室と前記背圧弁とを連通する連通路が常に開口している、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記冷媒は、R410A以上の断熱指数を有する冷媒である、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項5】
冷媒を圧縮する圧縮機を含み、前記冷媒と熱交換させるシステムであって、
前記圧縮機が、
渦巻き状の曲線部を有する旋回スクロールと、
前記曲線部が収容される渦巻き状の溝を有し、前記溝に前記曲線部が収容されて前記冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、
前記固定スクロールが有する前記溝の底の中央より径方向外側に設けられ、前記圧縮室へ油を供給するための油供給開口部と
を含み、
前記圧縮室は、前記曲線部の外線側の外線室と、前記曲線部の内線側の内線室とを有し、前記旋回スクロールと前記固定スクロールとにより形成される前記冷媒の最大閉じ込み容積が、前記内線室より前記外線室が大きく、
前記油供給開口部は、
前記冷媒の吸込側に形成される吸込室と連通する前記外線室への
該冷媒の閉じ込み前に、前記外線室と連通し、前記内線室への前記冷媒の閉じ込み後に、前記内線室と連通するような位置に設けられる、
熱交換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および熱交換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置やチラー等の熱交換システムには、空気や水等と熱交換を行う冷媒を循環するための圧縮機として、スクロール圧縮機が用いられる。
【0003】
スクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールを噛み合わせて圧縮室を形成する。圧縮室は、旋回スクロールラップの外線側と内線側に形成され、外線側に形成されるものが外線室であり、内線側に形成されるものが内線室である。スクロール圧縮機は、外線室内と内線室内のシール性を向上させるため、外線室と内線室のそれぞれに油を供給する必要がある。
【0004】
非対称歯形のスクロール圧縮機では、圧縮室を構成する外線室と内線室の理論最大容積(冷媒の最大閉じ込み容積)が異なり、外線室の容積が内線室の容積より大きい場合が多く、外線室のスクロールラップ間シール長さも大きくなる。このため、外線室と内線室とに同じ量の油を供給したのでは、外線室側の油が不足し、シール性が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、外線室への給油量を、内線室への給油量より多くして、シール性を向上させたスクロール圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、外線室に高温の油が多く供給されると、外線室の圧力が上昇し、圧縮に必要な動力が増加して圧縮機効率が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、渦巻き状の曲線部(ラップ、歯)を有する旋回スクロールと、
旋回スクロールラップが収容される渦巻き状の溝を有し、溝に旋回スクロールラップが収容されて冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、
固定スクロールが有する溝の底(固定スクロール歯底)の中央より径方向外側に設けられ、圧縮室へ油を供給するための油供給開口部と
を含み、
圧縮室は、旋回スクロールラップの外線側の外線室と、曲線部の内線側の内線室とを有し、旋回スクロールと固定スクロールとにより形成される冷媒の最大閉じ込み容積が、内線室より外線室が大きく、
油供給開口部は、外線室への冷媒の閉じ込み前に、外線室と連通し、内線室への冷媒の閉じ込み後に、内線室と連通するような位置に設けられる、
圧縮機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧縮機効率の低下を抑制することができる圧縮機および熱交換システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】熱交換システムの一例として空気調和装置の構成例を示した図。
【
図2】空気調和装置に用いられる圧縮機としてスクロール圧縮機の構成例を示した断面図。
【
図3】スクロール圧縮機の圧縮室内の構成例を示した図。
【
図4】スクロール圧縮機の圧縮工程について説明する図。
【
図5】スクロール圧縮機における背圧弁付近の構成例を示した断面図。
【
図7】圧縮室と背圧室の連通区間について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、熱交換システムの一例として空気調和装置の構成例を示した図である。熱交換システムは、熱媒体として冷媒を圧縮および膨張させながら密閉された系内を循環させ、熱交換の対象である空気や水等の流体を間接的に接触させて、冷媒と流体との間で熱交換を行うシステムである。したがって、熱交換システムは、このような構成のシステムであれば空気調和装置に限定されるものではなく、冷凍機、チラー、ヒートポンプ式給湯器等であってもよい。
【0012】
空気調和装置10は、空気調和を行う空間内(室内)に設置される室内機11と、室外に設置される室外機20とを含み、室内機11と室外機20との間で冷媒を循環させ、室内の空気と熱交換させることにより空気調和を行う。
【0013】
室内機11および室外機20は、それぞれ2台以上で構成されていてもよく、室内機11は、1台の室外機20に対し、2台以上接続されていてもよい。冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロオレフィン(HFO)を使用することができる。HFCの種類としては、R410A、R32等を挙げることができる。HFOの種類としては、R1234yf等を挙げることができる。
【0014】
室内機11は、リモコンとの間で赤外線等を使用した無線通信を行い、運転指令、停止指令、設定温度の変更指令、運転モードの変更指令等の種々の信号を受信する。室内機11は、室外機20と通信線を介して接続され、室外機20と協働して室内の空気調和を行う。
【0015】
室内機11は、リモコンからの運転指令を受信して起動し、室外機20に対し、起動を指示する。室外機20は、起動後、室内の温度が設定温度になるように、圧縮機の回転数や膨張弁の開度等を調整し、冷媒の循環量等を制御する。
【0016】
室内機11は、室内熱交換器12と、室内ファン13と、室内ファンモータ14とを備える。室内ファン13は、室内ファンモータ14により駆動し、室内の空気を取り込み、室内熱交換器12へ送り込む。室内熱交換器12は、内部に冷媒が流通する伝熱管を有し、送り込まれた空気が伝熱管の表面に接触して熱交換を行うように構成されている。室内熱交換器12により熱交換された空気は、室内へ排出される。
【0017】
室内機11は、そのほか、室内温度等を計測するための各種センサや膨張弁等を備えることができる。
【0018】
室外機20は、圧縮機21と、アキュームレータ22と、四方弁23と、膨張弁24と、室外熱交換器25と、室外ファン26と、室外ファンモータ27とを備える。圧縮機21は、スクロール圧縮機であり、圧縮機モータにより駆動し、低圧のガス冷媒を圧縮し、高圧のガス冷媒として吐出する。アキュームレータ22は、過渡時の液戻りを貯留するための容器で、冷媒を適度な乾き度に調整する。乾き度は、蒸気と微小液滴との混合状態を示す湿り蒸気中における蒸気の占める割合である。
【0019】
四方弁23は、空気調和装置10の運転状態(運転モード)に応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。運転モードは、冷房モード、暖房モード、送風モード等である。膨張弁24は、高圧の冷媒を減圧し、膨張させる弁である。室外ファン26は、室外ファンモータ27により駆動し、室外の空気を取り込み、室外熱交換器25へ送り込む。室外熱交換器25は、室内熱交換器12と同様、内部に冷媒が流通する伝熱管を有し、送り込まれた空気が伝熱管の表面に接触して熱交換を行うように構成されている。室外熱交換器25により熱交換された空気は、室外へ排出される。
【0020】
室外機20は、さらに、制御装置28を備えている。制御装置28は、圧縮機21、四方弁23、膨張弁24、室内ファンモータ14、室外ファンモータ27と接続され、これらの制御を行う。具体的には、圧縮機モータの回転数、膨張弁24の開度、室内ファンモータ14および室外ファンモータ27の回転数等の制御である。これらを制御するため、室外機20にも、各種センサが取り付けられる。制御装置28は、各種センサにより検出された情報に基づき、これらの制御を行う。
【0021】
冷房運転時は、室内熱交換器12を蒸発器とし、室外熱交換器25を凝縮器として利用する。このため、制御装置28は、矢印に示すように、圧縮機21、室外熱交換器25、膨張弁24、室内熱交換器12、四方弁23、アキュームレータ22、圧縮機21の順で系内に封入された冷媒を循環させる。
【0022】
圧縮機21は、低温低圧のガス状態の冷媒(冷媒ガス)を圧縮し、高温高圧の冷媒ガスとして吐出する。室外熱交換器25は、室外の空気と熱交換を行い、冷媒ガスを冷却して凝縮させる。膨張弁24は、冷媒を減圧して一部を気化させる。このため、冷媒は、気液が混合した状態で室内機11へ供給される。膨張弁24は、適度な液体の量になるように制御装置28により開度が調整される。
【0023】
室内熱交換器12は、室内の空気と熱交換を行い、凝縮した液体の冷媒が全て気化し、冷媒ガスとして室外機20へ戻す。室内熱交換器12から戻された冷媒ガスは、四方弁23を通してアキュームレータ22へ送られ、圧縮機21へ戻される。
【0024】
制御装置28は、室外機20に実装されるが、これに限られるものではなく、室内機11に実装されてもよいし、その他の中央制御盤等に実装されていてもよい。
【0025】
図2は、空気調和装置10に用いられる圧縮機21としてスクロール圧縮機の構成例を示した断面図である。
図2に示す圧縮機21は、縦型スクロール圧縮機であり、密閉容器(チャンバー)30と、電動機(モータ)31と、圧縮機構32と、偏芯部を備える回転軸(クランクシャフト)33とを含む。
【0026】
チャンバー30は、中空の筒状の筒チャンバー30aと、筒チャンバー30aの下部に溶接される底チャンバー30bと、筒チャンバー30aの上部に溶接される蓋チャンバー30cとから構成される。チャンバー30は、筒チャンバー30aの上部および下部が底チャンバー30bと蓋チャンバー30cとにより閉鎖されることで、内部に密閉空間が形成される。
【0027】
蓋チャンバー30cには、圧縮機構32の吸込口46に接続される吸込パイプ34が溶接またはロウ付けされている。圧縮機構32の吐出口47は、チャンバー30内の空間と連通しており、筒チャンバー30aの側面には、チャンバー30内の空間と外部とを連通する吐出パイプ35が溶接またはロウ付けされている。このように、チャンバー30内の空間は、吐出口から高圧の冷媒ガスが吐出された高圧雰囲気の空間となる。
【0028】
チャンバー30の底部には、油を貯留する貯油部36が形成される。貯油部36に貯留される油は、圧縮機21内の各摺動部へ供給される。
【0029】
モータ31は、固定子(ステータ)31aと、回転子(ロータ)31bとを備える。ステータ31aは、チャンバー30に圧入や溶接等によって固定される。ロータ31bは、ステータ31a内に回転可能に配置される。
【0030】
クランクシャフト33は、主軸と、偏芯部(ピン部)33aとを備える。クランクシャフト33は、上側が、圧縮機構32が備えるフレーム42の主軸受49により回転可能に支持され、下側がハウジング51内に設けられる下軸受52により回転可能に支持されている。ピン部33aは、主軸に対して偏芯して回転運動する。クランクシャフト33には、主軸受49や下軸受52等へ貯油部36に貯油された油を供給するための給油縦穴や給油横穴等の給油穴37が設けられている。給油縦穴は、縦型スクロール圧縮機の場合、鉛直方向である回転軸の軸方向に延びるように設けられ、給油横穴は、給油縦穴に対して略垂直方向に延びるように設けられる。なお、油は、貯油部36内に吸込口が挿入された給油ポンプ53により給油穴37を介して各摺動部へ供給される。各摺動部へ供給された油は、圧縮機21内を循環し、貯油部36へ戻される。
【0031】
圧縮機構32は、旋回スクロール40と、旋回スクロール40と噛み合って冷媒を圧縮する圧縮室48を形成する固定スクロール41と、フレーム42と、オルダムリング43と、背圧弁44とを備える。
【0032】
旋回スクロール40は、渦巻き状の曲線部、すなわちインボリュートを断面線とする旋回スクロールラップと、旋回端板と、クランクシャフト33のピン部33aが挿入される旋回軸受45とを有する。
【0033】
固定スクロール41は、渦巻き状の曲線部、すなわちインボリュートを断面線とする固定スクロールラップと、固定端板とを有する。固定スクロールラップの外周部に吸込口46が配置され、固定スクロールラップの中央部に吐出口47が配置されている。固定スクロールラップの外線側および内線側には、溝が存在し、溝は、旋回スクロールラップが収容され、旋回運動可能な幅を有する。
【0034】
旋回スクロール40は、固定スクロール41と相対向して旋回自在に配置されており、旋回スクロールラップと固定スクロールラップによって吸込口46と連通する吸込室と、圧縮室48とが形成される。
【0035】
フレーム42は、クランクシャフト33の主軸を回転可能に支持する主軸受49を備える。フレーム42には、ボルトにより固定スクロール41が所定位置に固定される。旋回スクロール40とフレーム42との間には、背圧室50が形成される。
【0036】
オルダムリング43は、リングにキーを備え、旋回スクロール40とフレーム42との間に配置される。オルダムリング43のキーは、旋回スクロール40に設けられたキー溝とフレーム42に設けられたキー溝に挿入されており、旋回スクロール40を自転させずに旋回運動をさせる。
【0037】
背圧弁44は、背圧室50と、圧縮室48とを連通する通路に設けられ、圧力差で開き、背圧室50の圧力(背圧)を制御する。
【0038】
したがって、圧縮機構32は、旋回スクロール40と固定スクロール41とを噛み合わせ、旋回スクロール40とフレーム42との間にオルダムリング43を配置し、固定スクロール41をフレーム42にネジ固定することにより形成される。旋回端板の上面側には、旋回スクロール40および固定スクロール41のラップ間に旋回スクロール40の内線側の圧縮室(内線室)と、旋回スクロール40の外線側の圧縮室(外線室)とが形成される。また、旋回端板の上面側であって、吸込側に、吸込室が形成される。さらに、旋回端板の下面側に、背圧室50が形成される。
【0039】
モータ31は、筒チャンバー30aに設けられた電源端子55を介して電源が供給される。
【0040】
図3は、圧縮機構32内を下側から見た図である。圧縮機構32は、旋回スクロール40と固定スクロール41とを備え、固定スクロール41は、旋回スクロール40を挟み込むようにフレーム42に締結される。固定スクロール41は、インボリュートを断面線とする固定スクロールラップ41aを備える。インボリュートは、円筒体に糸を巻き付け、それをほどいていく際の糸の先端がとる軌跡を表した形状で、渦巻き状である。固定スクロール41は、主軸の軸方向の下側から見て、固定スクロールラップ41aの部分が渦巻き状に下方に延び、固定スクロールラップ41aの外線側および内線側の両方に溝が形成されている。
【0041】
旋回スクロール40は、固定スクロールラップ41aの外線側および内線側の両方に形成された溝に、渦巻き状に上方に延びる旋回スクロールラップ40aが収容される形で差し込まれる。固定スクロールラップ41aの外線側および内線側の両方に形成された溝に旋回スクロールラップ40aを差し込んだ後に残る隙間によって圧縮室48が形成される。
【0042】
圧縮室48は、旋回スクロールラップ40aの内線40c側に形成される内線室と、旋回スクロールラップ40aの外線40b側に形成される外線室とから構成される。
【0043】
旋回スクロール40は、旋回軸受45をクランクシャフト33の偏芯したピン部33aに挿入され、クランクシャフト33の回転に伴い、旋回運動をする。旋回スクロール40の旋回運動によって圧縮室48は、その容積を徐々に縮小し、冷媒を圧縮する。
【0044】
固定スクロール41は、主軸の軸方向の下側から見て、径方向の中央に吐出口47を有し、吐出口47を一端とし、その一端から固定スクロールラップ41aに沿って形成された渦巻き状の溝の他端に吸込口46を有する。吸込口46は、吐出口47から径方向に離間した位置であって、当該径方向の縁部に近い側に設けられている。
【0045】
圧縮機21は、非対称歯形の圧縮機であり、内線室と外線室の圧縮開始の角度が略180度ずれており、圧縮室48の理論最大容積(冷媒の最大閉じ込み容積)が、内線室より外線室の方が大きくなっている。閉じ込み容積は、旋回スクロールラップ40aと固定スクロールラップ41aとにより閉鎖され、吸込口46および吐出口47のいずれにも連通していないときの空間の容積である。
【0046】
固定スクロール41は、歯底(旋回スクロールラップ40aの上面が接する部分)の中央より径方向外側に、圧縮室48へ油を供給するための油供給開口部56を備える。油供給開口部56は、歯底の外線室寄りに配置しているため、内線室より外線室に開口する時間が長く、内線室よりも外線室へ多くの油を供給することができる。
【0047】
圧縮室48は、旋回スクロール40の端板と旋回スクロールラップ40a、固定スクロール41の端板と固定スクロールラップ41aによって形成されるが、その摺動部には微小の隙間が存在する。隣り合う圧縮室48には、圧力差があるため、隣り合う圧縮室48の間で漏れ流れが生じる。圧縮室48への給油は、この微小の隙間をシールし、漏れ流れによる圧縮機効率の低下を抑制する効果がある。非対称歯形の圧縮機では、最大閉じ込み容積が内線室より外線室の方が大きいため、固定スクロール41と旋回スクロール40との摺動部にある隙間のシール長さも外線室の方が長くなり、内線室より外線室の必要給油量が多くなる。
【0048】
油供給開口部56は、固定スクロールラップ41aの歯底中央より径方向外側に設けられているため、内線室よりも外線室へ多くの油を供給することができ、外線側への油の供給量が不足することを防止し、シール性の低下を抑制することができる。
【0049】
なお、
図3には、背圧弁44から背圧室50へ連通する背圧室側連通路57と鏡板溝58とが示されている。油は、背圧室50から鏡板溝58、背圧室側連通路57、背圧弁44、圧縮室側連通路59を介して、油供給開口部56から圧縮室48内へ給油される。
【0050】
図4は、旋回スクロール40の旋回運動に伴う冷媒の圧縮工程を例示した図である。
図4(a)は、内線室における圧縮工程を示し、
図4(b)は、外線室における圧縮工程を示す。旋回スクロール40の旋回スクロールラップ40aは、中央の吐出口47に近隣した一端(巻き始め)から吸込口46に近隣した他端(巻き終わり)へと渦巻き状に形成されており、巻き終わりの外線側が固定スクロール41に接しているとき(クランクシャフト33のピン部33aの偏芯方向が、
図4に向かって上側に向いているとき)が、クランク角が0°の位置にあるものとする。
【0051】
吸込口46から吸い込まれた冷媒は、クランク角が0°度の位置にあるとき、旋回スクロールラップ40aの巻き終わりの外線側が固定スクロール41の内線側と接しており、旋回スクロールラップ40aの内線側にのみ取り込まれる。旋回スクロール40が旋回運動し、クランク角が180°の位置に移動すると、巻き終わりの内線側が固定スクロール41に接し、三日月状の内線室48aが形成され、内線室48aに冷媒が取り込まれる。
【0052】
旋回スクロール40がクランク角360°の位置へ進み、クランク角0°に戻ると、三日月状の内線室48aの容積が減少し、内線室48aに取り込まれた冷媒が圧縮される。さらにクランク角が進み、冷媒が圧縮され、吐出口47に連通すると、圧縮は終了し、冷媒は吐出口47から吐出される。これが繰り返されることにより、内線室48aを使用した冷媒の圧縮が行われる。
【0053】
旋回スクロールラップ40aの外線室48bへは、クランク角180°の位置にあるとき、旋回スクロールラップ40aの巻き終わりの内線40c側が固定スクロール41の外線側と接しており、旋回スクロールラップ40aの外線40b側にのみ取り込まれる。旋回スクロール40がクランク角360°の位置に移動すると、巻き終わりの外線40b側が固定スクロール41に接し、三日月状の外線室48bが形成され、外線室48bに冷媒が取り込まれる。
【0054】
旋回スクロール40がクランク角360°の位置へ移動し、クランク角0°の位置へ戻り、再びクランク角180°、360°の位置へ進んでいくにつれて三日月状の外線室48bの容積が減少し、外線室48bに取り込まれた冷媒が圧縮されていく。クランク角が進むにつれて圧縮室48は次第に中央の吐出口47に近づき、外線室48bが吐出口47に連通すると、吐出口47から吐出される。これが繰り返されることにより、外線室48bを使用した冷媒の圧縮が行われる。
【0055】
図5は、圧縮機21における背圧弁44付近の構成例を示した断面図である。固定スクロール41は、旋回スクロール40を挟み込むようにフレーム42に締結される。旋回スクロール40とフレーム42との間には背圧室50が形成され、背圧室50の圧力(背圧)は、吸入圧力と吐出圧力の間の圧力となっている。
【0056】
背圧室50は、油供給開口部56に連続する圧縮室側連通路59と、背圧室側連通路57および鏡板溝58により接続される。背圧弁44は、圧縮室側連通路59と背圧室側連通路57の間に設けられており、油供給開口部56が開口する圧縮室48の圧力と背圧の差圧で開閉し、背圧を調整する。ここでは、鏡板溝58を備える構成を例示しているが、これに限られるものではなく、鏡板溝58を備えていなくてもよい。この場合、旋回スクロール40の回転運動(クランク角)に応じて、背圧室50が背圧室側連通路57と連通することになる。
【0057】
ところで、チャンバー30内は、圧縮された高温の冷媒で満たされるため、冷媒に接触している貯油部36に貯留されている油は、高温になっている。油は、クランクシャフト33の主軸の内部に形成された給油穴37を介して主軸受49や下軸受52、旋回軸受45とピン部33aとの間、背圧室50等へ供給される。
【0058】
背圧室50へ供給された油は、オルダムリング43とフレーム42、オルダムリング43と旋回スクロール40、旋回スクロール40と固定スクロール41の摺動部に給油し、その一部は、鏡板溝58、背圧室側連通路57、背圧弁44、圧縮室側連通路59、油供給開口部56を順に通り、圧縮室48へ給油される。油供給開口部56は、固定スクロール41の歯底のうち、径方向の最も外側にある歯底の中央より径方向外側に設けられている。径方向は、主軸の軸方向の下側から見て、略円形の固定スクロール41の径方向である。固定スクロール41の歯底は、旋回スクロールラップ40aが上側へ向けて延びていることから、旋回スクロールラップ40aの上面に接して摺動する略平坦な部分である。
【0059】
このように、油供給開口部56が、歯底の中央より径方向外側に設けられることにより、最大閉じ込め容積が内線室48aより大きい外線室48bへの給油量を多くすることができ、これにより、シール性を高め、圧縮機効率を向上させることができる。
【0060】
高温の油を圧縮室48に給油すると、圧縮室48内の冷媒が高温の油によって加熱され、圧縮室48の圧力が上昇する。圧縮室48の圧力が上昇すると、圧縮機21の動力が増加し、圧縮機効率が低下する。特に、最大閉じ込め容積が小さい内線室48aは、圧力増加が大きく、適切な量の給油が必要となる。
【0061】
内線室48aへの給油量は、油供給開口部56を、内線室48aと外線室48bのそれぞれに連通させる時間の割合を変化させることにより調整することができる。この連通時間の割合は、油供給開口部56の径方向位置を調整することにより調整することができる。特に、高温の油により圧力増加が大きくなり易い内線室48aとの連通時間の割合を小さくし、外線室48bとの連通時間の割合を大きくすることができる。
【0062】
具体的には、油供給開口部56は、外線室48bへの冷媒の閉じ込み前に、外線室48bと連通し、内線室48aへの冷媒の閉じ込み後に、内線室48aと連通するような位置に設けることができる。
【0063】
内線室48aの圧力増加を抑制するために内線室48aへの給油量を減らし、外線室48bへの給油量を増やすと、外線室48bでも圧力が増加する。油供給開口部56を、外線室48bへの冷媒の閉じ込み前にその一部が吸込室と連通するような位置に設けることで、油は開空間に流入するため、外線室48bの圧力上昇を抑制することができる。また、油供給開口部56の位置を調整し、適切な給油量となっている内線室48aでは、油供給開口部56を、内線室48aへの冷媒の閉じ込み前に吸込室と連通しないような位置に設けることで、閉じ込み前には油が流れないため、吸込室の冷媒が加熱されることはなく、冷媒の加熱による圧縮機効率の低下を抑制することができる。
【0064】
図6は、圧縮室48と背圧室50の連通区間について説明する図である。縦軸は吸入圧力を1としたときの圧力比を示し、横軸はクランク角(°)を示す。クランク角は、外線室48bの圧縮を開始したときを0°とした例を示している。圧縮機21は、非対称歯形であるため、内線室48aの圧縮開始の位置は、180°ずれている。
【0065】
油供給開口部56の位置が、固定スクロール41の歯底の中央より径方向外側に配置される場合、外線室48bと背圧室50との連通区間は、内線室48aと背圧室50との連通区間より長くなる。
【0066】
油供給開口部56の位置が、上記の外線室48bへの冷媒の閉じ込み前に、外線室48bと連通し、内線室48aへの冷媒の閉じ込み後に、内線室48aと連通するような位置である場合、クランク角が0°より小さい角度のときに外線室48bと背圧室50と連通を開始し、クランク角が180°より大きい角度のときに内線室48aと背圧室50と連通を開始する。
【0067】
このようにして、圧縮室48に給油する油の量を適正化することで、高温の油が給油されることによる圧縮室48の加熱を抑制し、圧縮機効率を向上させることができる。
【0068】
図7は、油供給開口部56を設ける範囲の一例を示した図である。
図7は、旋回スクロール40を取り除いて固定スクロール41のみを示した図であり、主軸の軸方向の下側から見た図である。固定スクロール41は、固定スクロールラップ41aを備え、固定スクロールラップ41aの両隣には、溝60を有する。溝60は、渦巻き状で、旋回スクロールラップ40aが収容され、旋回運動可能な幅、深さを有している。
【0069】
溝60の底は、略平坦で、一端(巻き終わり)が吸込口46に連続し、他端(巻き始め)が吐出口47に連続している。油供給開口部56は、略円形の開口で、旋回スクロールラップ40aの幅より小さい径を有する。油供給開口部56の径が、旋回スクロールラップ40aの幅より大きいと、油供給開口部56を介して内線室48aと外線室48bとが繋がり、圧力が高い方から低い方へ冷媒が漏れ出てしまうからである。
【0070】
油供給開口部56の位置は、外線室48bが閉じ込み前に油供給開口部56と連通するため、一点鎖線Aで示す境界より径方向外側とされる。また、油供給開口部56の位置は、内線室48aが閉じ込み後に油供給開口部56と連通するため、二点鎖線Bで示す境界より径方向外側とされる。
【0071】
油供給開口部56の位置は、内線室48aより外線室48bに多くの油を供給するため、点線Cで示す境界より径方向外側とされる。また、油供給開口部56の位置は、内線室48aに連通する必要があるため、破線Dで示す境界より径方向内側とされる。
【0072】
旋回スクロールラップ40aの巻き終わりが固定スクロール41と接する方向が、クランク角が0°の位置にあるとすると、油供給開口部56は、吸込口46から連続する溝60の底の、クランク角が略180°~略325°の位置に設けることができる。
【0073】
これらのことから、
図7に示す一点鎖線A、二点鎖線B、点線C、破線Dで囲まれた領域内に、油供給開口部56を設けることができる。なお、外線室48bと油供給開口部56の連通区間を大きくするには、径方向外側へ近づける。外線室48bが閉じ込み前に油供給開口部56との連通区間を大きくするには、吸込口46側へ近づける。
【0074】
再び
図5を参照すると、背圧室側連通路57には、固定スクロール41のフレーム42と突き合わせて連結される鏡板に鏡板溝58を設けることができる。これにより、背圧室50は、鏡板溝58を介して背圧室側連通路57に連通した状態とすることができる。すると、背圧弁44は、圧縮室48と背圧室50との圧力差のみで開閉を決定し、背圧室50の圧力を制御することができる。また、背圧弁44は、内線室48a、外線室48bの背圧室50との給油区間の制御が容易となる。
【0075】
冷媒は、断熱指数が大きいほど、圧縮室48に高温の油が給油されたときの圧力上昇が大きくなる。このような場合に、油供給開口部56の位置を、上記のように調整することで、圧縮室48の加熱を抑制して圧縮機効率の低下を抑制することができる。断熱指数が大きい冷媒としては、ジフルオロメタン(R32)や、R32とペンタフルオロエタン(R125)を50質量%ずつ含むR410A等がある。これらの断熱指数が大きく、高温の油が給油されたときの圧力上昇が大きくなるR32やR410Aに対して、このように調整することが効果的である。なお、冷媒は、R32やR410Aに限らず、R410A以上の断熱指数を有した冷媒に対しても同様に効果的である。
【0076】
これまで本発明の圧縮機および熱交換システムについて上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0077】
したがって、本発明によれば、(1)渦巻き状の曲線部を有する旋回スクロールと、前記曲線部が収容される渦巻き状の溝を有し、前記溝に前記曲線部が収容されて冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記固定スクロールが有する前記溝の底の中央より径方向外側に設けられ、前記圧縮室へ油を供給するための油供給開口部とを含み、前記圧縮室は、前記曲線部の外線側の外線室と、前記曲線部の内線側の内線室とを有し、前記旋回スクロールと前記固定スクロールとにより形成される前記冷媒の最大閉じ込み容積が、前記内線室より前記外線室が大きく、前記油供給開口部は、前記外線室への前記冷媒の閉じ込み前に、前記外線室と連通し、前記内線室への前記冷媒の閉じ込み後に、前記内線室と連通するような位置に設けられる、圧縮機を提供することができる。
【0078】
本発明によれば、(2)前記油供給開口部は、前記固定スクロールが有する径方向の内側と外側の溝のうち、該外側の溝に設けられ、前記油供給開口部の径は、前記曲線部の幅より小さい、上記(1)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0079】
本発明によれば、(3)前記油が給油される背圧室と、前記油供給開口部と前記背圧室との間に設けられる背圧弁とを含み、前記背圧室と前記背圧弁とを連通する連通路が常に開口している、上記(1)または(2)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0080】
本発明によれば、(4)前記冷媒は、R410A以上の断熱指数を有する冷媒である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0081】
本発明によれば、冷媒を圧縮する上記(1)~(4)のいずれかに記載の圧縮機を含み、前記冷媒と熱交換させるシステムを提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
10…空気調和装置
11…室内機
12…室内熱交換器
13…室内ファン
14…室内ファンモータ
20…室外機
21…圧縮機
22…アキュームレータ
23…四方弁
24…膨張弁
25…室外熱交換器
26…室外ファン
27…室外ファンモータ
28…制御装置
30…チャンバー
30a…筒チャンバー
30b…底チャンバー
30c…蓋チャンバー
31…モータ
31a…ステータ
31b…ロータ
32…圧縮機構
33…クランクシャフト
33a…ピン部
34…吸込パイプ
35…吐出パイプ
36…貯油部
37…給油穴
40…旋回スクロール
40a…旋回スクロールラップ
40b…外線
40c…内線
41…固定スクロール
41a…固定スクロールラップ
42…フレーム
43…オルダムリング
44…背圧弁
45…旋回軸受
46…吸込口
47…吐出口
48…圧縮室
48a…内線室
48b…外線室
49…主軸受
50…背圧室
51…ハウジング
52…下軸受
53…給油ポンプ
54…下フレーム
55…電源端子
56…油供給開口部
57…背圧室側連通路
58…鏡板溝
59…圧縮室側連通路
60…溝
【要約】
【課題】 圧縮機効率の低下を抑制することができる圧縮機および熱交換システムを提供すること。
【解決手段】 圧縮機21は、旋回スクロールラップ40aを有する旋回スクロール40と、旋回スクロールラップ40aが溝に収容されて冷媒を圧縮する圧縮室48を形成する固定スクロール41と、固定スクロール41が有する溝の底の中央より径方向外側に設けられ、圧縮室48へ油を供給するための油供給開口部56とを含む。圧縮室48は、旋回スクロールラップ40aの外線側の外線室と内線側の内線室とを有し、旋回スクロール40と固定スクロール41とにより形成される冷媒の最大閉じ込み容積が、内線室より外線室が大きい。油供給開口部56は、外線室への冷媒の閉じ込み前に、外線室と連通し、内線室への冷媒の閉じ込み後に、内線室と連通するような位置に設けられる。
圧縮機
【選択図】
図3