(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】脈波推定装置、状態推定装置、及び、脈波推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240920BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B5/02 310Z
A61B5/16 130
(21)【出願番号】P 2024513659
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017324
(87)【国際公開番号】W WO2023195149
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】村地 遼平
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193021(JP,A)
【文献】特開2020-039480(JP,A)
【文献】特開2020-162873(JP,A)
【文献】特開2021-132999(JP,A)
【文献】特開2017-104491(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085895(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054122(WO,A1)
【文献】特開2018-068720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人を撮像した撮像画像を取得する撮像画像取得部と、
前記撮像画像から前記人の肌領域を検出する肌領域検出部と、
前記撮像画像上の、前記肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための計測領域を設定する計測領域設定部と、
前記撮像画像上の前記計測領域における前記輝度変化に基づき、前記脈波元信号を抽出する脈波元信号抽出部と、
前記計測領域における前記輝度変化のノイズ成分と推定される、前記計測領域の前記輝度変化を模擬した模擬信号を取得する模擬信号取得部と、
前記脈波元信号から前記模擬信号を除去した後のノイズ除去信号に、前記人の脈波を推定するための信号が残るように、前記模擬信号を調整するための係数を算出する係数算出部と、
前記脈波元信号から前記係数を掛算した前記模擬信号を除去するノイズ除去部と、
前記ノイズ除去信号に基づいて前記人の前記脈波を推定する推定部
とを備えた脈波推定装置。
【請求項2】
前記模擬信号を生成する模擬信号生成部を備え、
前記模擬信号取得部は、前記模擬信号生成部が生成した前記模擬信号を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の脈波推定装置。
【請求項3】
前記模擬信号生成部は、前記計測領域の位置変化に基づき、前記計測領域の位置変化によって生じる前記計測領域の前記輝度変化を模擬した信号を、前記模擬信号として生成する
ことを特徴とする請求項2記載の脈波推定装置。
【請求項4】
前記模擬信号生成部は、前記計測領域の位置変化と、撮像範囲における環境光の分布モデルとに基づき、前記環境光のもとで、前記計測領域の位置変化によって生じる前記計測領域の前記輝度変化を模擬した信号を、前記模擬信号として生成する
ことを特徴とする請求項2記載の脈波推定装置。
【請求項5】
前記環境光は、前記撮像画像を撮像した撮像装置が備える照明部が照射する照明光である
ことを特徴とする請求項4記載の脈波推定装置。
【請求項6】
前記模擬信号生成部は、前記環境光が照射される状況に応じた複数の異なる前記環境光の前記分布モデルと前記計測領域の位置変化とに基づき、前記模擬信号を生成する
ことを特徴とする請求項4記載の脈波推定装置。
【請求項7】
前記模擬信号生成部は、前記人の左右の動きによって生じる前記計測領域の前記輝度変化を示す信号のスケール、及び、前記人の前後の動きによって生じる前記計測領域の前記輝度変化を示す信号の前記スケール、を正規化した信号に基づき、前記模擬信号を生成する
ことを特徴とする請求項2記載の脈波推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項記載の脈波推定装置が推定した前記人の前記脈波に基づいて、前記人の
覚醒度を推定する状態推定部
を備えた状態推定装置。
【請求項9】
前記状態推定部は、前記人が覚醒していると想定される状態で前記脈波推定装置が推定した前記人の前記脈波に基づいて基準脈拍数を算出しておき、前記脈波推定装置が推定した前記脈波と、前記基準脈拍数との比較によって、前記人の前記覚醒度を推定する
ことを特徴とする請求項
8記載の状態推定装置。
【請求項10】
撮像画像取得部が、人を撮像した撮像画像を取得するステップと、
肌領域検出部が、前記撮像画像から前記人の肌領域を検出するステップと、
計測領域設定部が、前記撮像画像上の、前記肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための計測領域を設定するステップと、
脈波元信号抽出部が、前記撮像画像上の前記計測領域における前記輝度変化に基づき、前記脈波元信号を抽出するステップと、
模擬信号取得部が、前記計測領域における前記輝度変化のノイズ成分と推定される、前記計測領域の前記輝度変化を模擬した模擬信号を取得するステップと、
係数算出部が、前記脈波元信号から前記模擬信号を除去した後のノイズ除去信号に、前記人の脈波を推定するための信号が残るように、前記模擬信号を調整するための係数を算出するステップと、
ノイズ除去部が、前記脈波元信号から前記係数を掛算した前記模擬信号を除去するステップと、
推定部が、前記ノイズ除去信号に基づいて前記人の前記脈波を推定するステップ
とを備えた脈波推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脈波推定装置、状態推定装置、及び、脈波推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置が撮像した撮像画像における人の肌を含む領域(以下「肌領域」という。)の輝度信号に基づいて脈波を推定することで、人の肌表面の微小な輝度変化から、非接触に人の脈波を推定する技術が知られている。その際、肌領域の輝度信号に、人の脈波を推定するにあたりノイズとなる信号が含まれていると、脈波の推定精度が低下するという問題がある。
そこで、従来、脈波を推定する対象となる人(以下「被験者」という。)の脈波を推定する際に、被験者の肌領域の輝度信号から、ノイズとなる信号を除去する技術が知られている。例えば、特許文献1には、撮像領域における顔領域の位置情報を周波数分析して得られた特定の周波数成分を、顔領域からの画像信号からノイズとして除去する脈拍検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている脈拍検出装置に代表される従来技術は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって、上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない可能性があるという課題があった。
【0005】
本開示は上記のような課題を解決するためになされたもので、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐ脈波推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る脈波推定装置は、人を撮像した撮像画像を取得する撮像画像取得部と、撮像画像から人の肌領域を検出する肌領域検出部と、撮像画像上の、肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための計測領域を設定する計測領域設定部と、撮像画像上の計測領域における輝度変化に基づき、脈波元信号を抽出する脈波元信号抽出部と、計測領域における輝度変化のノイズ成分と推定される、計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を取得する模擬信号取得部と、脈波元信号から模擬信号を除去した後のノイズ除去信号に、人の脈波を推定するための信号が残るように、模擬信号を調整するための係数を算出する係数算出部と、脈波元信号から係数を掛算した模擬信号を除去するノイズ除去部と、ノイズ除去信号に基づいて人の脈波を推定する推定部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る脈波推定装置を備えた状態推定装置の構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る脈波推定装置の構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る脈波推定装置における脈波推定部の詳細な構成例を示す図である。
【
図4】
図4A、
図4B及び
図4Cは、実施の形態1に係る脈波推定装置における、計測領域設定部による計測領域の設定方法の一例について説明するための図である。
【
図5】実施の形態1に係る脈波推定装置の動作について説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図5のステップST6の詳細について説明するためのフローチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る状態推定装置の動作について説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8A,
図8Bは、実施の形態1に係る脈波推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態2に係る脈波推定装置を備えた状態推定装置の構成例を示す図である。
【
図10】実施の形態2に係る脈波推定装置の構成例を示す図である。
【
図11】実施の形態2において、環境光モデルに2次元ガウス分布を用いた場合の、撮像画像における、環境光モデルがあらわす環境光の分布の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態2に係る脈波推定装置の動作について説明するためのフローチャートである。
【
図13】環境光の分布が不均一な場合に生じる、環境光の、撮像画像に基づく被験者の脈波推定に用いる信号への影響について説明するための図であって、
図13Aは、環境光の分布が均一なシーンで撮像された撮像画像の一例を示す図であり、
図13Bは、環境光の分布が不均一なシーンで撮像された撮像画像の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態2における、模擬信号生成部による、複数の環境光モデルに基づく模擬信号の生成方法の一例について説明するための図である。
【
図15】実施の形態2において、計測領域の外接矩形及びその中心座標の一例と、計測領域の一角の頂点座標と、それに対応した中心座標との距離のイメージとを示す図である。
【
図16】実施の形態2において、模擬信号生成部が正規化用係数を掛けることで、スケールの差が揃った第1模擬信号及び第2模擬信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る脈波推定装置1を備えた状態推定装置2の構成例を示す図である。
【0010】
脈波推定装置1は、人を撮像した撮像画像に基づき、当該人の脈波を推定する。脈波推定装置1が脈波を推定する対象となる人を「被験者」という。
脈波推定装置1は、予め定められたフレームレートFrで、少なくとも、被験者の肌を含む領域である肌領域が存在すべき範囲(以下「肌存在範囲」という。)を撮像した、一連のフレームIm(k)からなる撮像画像を取得する。ここで、kは、それぞれフレームに割り当てられるフレーム番号を示す。例えば、フレームIm(k)の次のタイミングで与えられるフレームは、フレームIm(k+1)である。
実施の形態1では、肌領域は、被験者の顔に対応する領域とする。なお、これは一例に過ぎず、肌領域は、被験者の顔以外の領域であってもよい。例えば、肌領域は、被験者の目、眉、鼻、口、おでこ、頬、又は、顎のような、顔に属する部位、に対応する領域であってもよい。また、肌領域は、被験者の頭、肩、手、首、又は、足のような、顔以外の身体部位、に対応する領域であってもよい。肌領域は複数の領域であってもよい。
【0011】
そして、脈波推定装置1は、ある特定のフレーム数Tp毎に、一連のフレームIm(k-Tp+1)~Im(k)から被験者の脈波を推定し、推定した脈波を示す情報(以下「脈波情報」という。)である脈波推定結果P(t)を出力する。具体的には、脈波推定装置1は、一連のフレームIm(k-Tp+1)~Im(k)における被験者の肌領域の輝度変化に基づく信号から、ノイズとなる信号を除去することで、被験者の脈波を推定する。
【0012】
ここで、tは、特定のフレーム数Tp毎に割り当てられる出力番号を示す。例えば、脈波推定結果P(t)の次のタイミングで与えられる脈波推定結果は、脈波推定結果P(t+1)である。フレーム番号k及び出力番号tは、1以上の整数である。フレーム数Tpは、2以上の整数である。
【0013】
被験者の脈波を推定する際に用いる、被験者の肌領域の輝度変化を示す信号は、脈波に基づく信号の他、例えば、被験者の動きに基づく信号、又は、撮像範囲に照射される環境光等に基づく信号を含む。これらの信号は、被験者の脈波の推定精度を低下させるノイズとなる。そこで、脈波推定装置1は、これらの信号を、ノイズを示す信号として除去した上で、被験者の脈波を推定する。実施の形態1において、被験者の脈波を推定する上でノイズとみなす撮像画像上の輝度変化が生じる「被験者の動き」とは、被験者の頭の位置自体の移動を伴う動き、顔向きの変化を伴う動き、表情の動き(笑顔、会話で口元が動く等)、及び、輝度変化を示す信号を抽出するための領域(計測領域という。詳細は後述する)の検出誤差による動きのいずれかを含むものを指す。
実施の形態1において、脈波推定装置1は、ノイズとなる信号を、各種センサ等、脈波推定装置1の外部の装置(
図1においては図示省略)から取得する。実施の形態1では、被験者の脈波を推定するにあたりノイズとなる信号を、「模擬信号」という。「模擬信号」は、計測領域の輝度変化を模擬した信号である。
【0014】
なお、撮像画像に含まれる人である被験者の数は、1人であっても複数人であってもよい。説明を簡単にするため、以下の実施の形態1では、撮像画像に含まれる被験者の数は、1人であるものとして説明する。
【0015】
状態推定装置2は、脈波推定装置1から脈波推定結果P(t)を取得し、被験者の状態を推定する。なお、実施の形態1では、一例として、被験者の状態は、被験者が覚醒しているか否かの状態を想定している。状態推定装置2は、脈波推定結果P(t)に基づき、被験者が覚醒しているか否かの度合いを示す覚醒度を推定する。
状態推定装置2は、推定した被験者の状態に関する状態情報Z(t)を出力装置3に出力する。例えば、状態推定装置2は、被験者の覚醒度が低下している場合に、被験者の覚醒度が低下している旨の状態情報Z(t)を、出力装置3に出力する。
【0016】
出力装置3は、状態推定装置2から出力された状態情報Z(t)に基づく情報を出力する。出力装置3は、例えば、音声出力装置である。例えば、出力装置3は、状態推定装置2から、被験者の覚醒度が低下している旨の状態情報Z(t)が出力されると、覚醒度の低下を警告する警告音を出力する。
【0017】
実施の形態1では、一例として、脈波推定装置1、状態推定装置2、及び、出力装置3は車両(図示省略)に搭載されているものとし、被験者は車両のドライバとする。つまり、脈波推定装置1は、車両のドライバの脈波を推定する。また、状態推定装置2は、ドライバの状態を推定する。そして、出力装置3は、状態推定装置2が推定したドライバの状態に基づき、ドライバに対して警告音を出力する。
図1に示す状態推定装置2の構成例の詳細については後述することとし、まず、脈波推定装置1の構成例の詳細について説明する。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る脈波推定装置1の構成例を示す図である。
図2に示すように、脈波推定装置1は、撮像画像取得部11、肌領域検出部12、計測領域設定部13、脈波元信号抽出部14、模擬信号取得部15、脈波推定部16、及び、出力部17を備える。
脈波推定部16は、
図3に示すように、係数算出部161、ノイズ除去部162、及び、推定部163を備える。
【0019】
撮像画像取得部11は、被験者を撮像した撮像画像を取得する。詳細には、撮像画像取得部11は、車両に搭載されている撮像装置(図示省略)が車両のドライバを撮像した撮像画像を取得する。撮像装置は、ドライバの肌存在範囲を撮像可能に設置されている。
撮像画像取得部11は、取得した撮像画像を、肌領域検出部12に出力する。
ここで、実施の形態1における撮像装置について説明する。撮像装置は、撮像部(図示省略)及び照明部(図示省略)を備えている。照明部は、例えば、LED(Light Emitting Diode)で構成される。照明部は、撮像部の撮像範囲に光を照射する。撮像部は、照明部が発光することで光が照射された撮像範囲を撮像する。なお、照明部は、撮像装置に1つ備えられてもよいし、複数備えられてもよい。
【0020】
肌領域検出部12は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像に含まれるフレームIm(k)から、被験者の肌領域を検出する。肌領域検出部12は、公知の手段を用いて肌領域を検出すればよい。例えば、肌領域検出部12は、Haar-like特徴量を使用したカスケード型の顔検出器を使用して、肌領域を検出できる。
肌領域検出部12は、検出した肌領域を示す肌領域情報S(k)を生成する。
肌領域情報S(k)は、肌領域の検出の有無を示す情報と、検出された肌領域の撮像画像上における位置及びサイズを示す情報とを含むことができる。実施の形態1では、肌領域は撮像画像上の矩形領域であらわされるものとし、肌領域情報S(k)は、当該矩形領域の撮像画像上における位置及びサイズを示す情報を含むものとする。
具体的には、肌領域が被験者の顔に対応する領域である場合、肌領域情報S(k)は、例えば、被験者の顔の検出の有無と、撮像画像上で当該被験者の顔を囲む矩形の中心座標Fc(Fcx,Fcy)と、この矩形の幅Fcw及び高さFchとを示す。被験者の顔の検出の有無は、例えば、検出できた場合は「1」、検出できなかった場合は「0」であらわされる。また、顔を囲む矩形の中心座標は、フレームIm(k)の座標系で表現される。なお、フレームIm(k)の左上を原点とし、フレームIm(k)の右向きをx軸の正方向、フレームIm(k)の下向きをy軸の正方向とする。
肌領域検出部12は、生成した肌領域情報S(k)を、計測領域設定部13に出力する。
【0021】
計測領域設定部13は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、肌領域検出部12が出力した肌領域情報S(k)とに基づき、フレームIm(k)上の、肌領域情報S(k)で示される肌領域に対応する画像領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための複数の計測領域を設定する。なお、計測領域設定部13は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像を、肌領域検出部12を介して取得すればよい。
計測領域設定部13は、複数の計測領域を設定すると、設定した複数の計測領域を示す計測領域情報R(k)を生成する。計測領域情報R(k)は、Rn(正の整数)個の計測領域の撮像画像上における位置及びサイズを示す情報を含む。各計測領域は、計測領域ri(k)(i=1,2,・・・,Rn)とする。実施の形態1では、計測領域ri(k)は、四辺形とし、計測領域ri(k)の位置及びサイズは、撮像画像上における、四辺形の4つの頂点の座標値とする。
【0022】
ここで、
図4A、
図4B及び
図4Cは、実施の形態1に係る脈波推定装置1における、計測領域設定部13による計測領域の設定方法の一例について説明するための図である。
図4を用いて、計測領域設定部13が複数の計測領域を設定する方法の一例について説明する。
まず、
図4A及び
図4Bに示されているように、計測領域設定部13は、肌領域情報S(k)で示されている肌領域srにおいて、目尻、目頭、鼻及び口等の顔器官のランドマークをLn(正の整数)個検出する。
図4A及び
図4Bでは、ランドマークは丸で示されている。計測領域設定部13は、検出したランドマークの座標値を格納したベクトルをL(k)とする。
なお、計測領域設定部13は、Constrained Local Model(CLM)と呼ばれるモデルを用いる等、公知の手段を用いて顔器官を検出すればよい。
【0023】
次に、計測領域設定部13は、検出したランドマークを基準にして、計測領域ri(k)の四辺形の頂点座標を設定する。例えば、計測領域設定部13は、
図4Cに示されているような四辺形の頂点座標を設定し、Rn個の計測領域ri(k)を設定する。
【0024】
計測領域設定部13が肌領域srの頬に対応する部分に計測領域ri(k)を設定する例を挙げて説明すると、計測領域設定部13は、顔の輪郭のランドマークLA1と、鼻のランドマークLA2を選択する。計測領域設定部13は、まず、鼻のランドマークLA2を選択し、当該鼻のランドマークLA2から最も近い顔の輪郭のランドマークLA1を選択すればよい。
そして、計測領域設定部13は、ランドマークLA1とランドマークLA2との間の線分を4等分するように補助ランドマークa1、a2、a3を設定する。
同様に、計測領域設定部13は、顔の輪郭のランドマークLB1と、鼻のランドマークLB2とを選択する。また、計測領域設定部13は、ランドマークLB1とランドマークLB2との間の線分を4等分するように補助ランドマークb1、b2、b3を設定する。なお、ランドマークLB1、LB2は、それぞれ、例えば、ランドマークLA1、LA2に隣接する顔の輪郭又は鼻のランドマークから選択されればよい。
計測領域設定部13は、補助ランドマークa1、b1、b2、a2で囲まれる四辺形領域を一つの計測領域R1として設定する。補助ランドマークa1、b1、b2、a2は、それぞれ、計測領域R1に対応する頂点座標となる。
計測領域設定部13は、同様に、補助ランドマークa2、b2、b3、a3で囲まれる一つの計測領域R2及び当該計測領域R2の頂点座標を設定する。
【0025】
なお、ここでは、頬の対応する部分に計測領域ri(k)を設定する例を説明したが、計測領域設定部13は、例えば、頬の他の部分、及び、あごに対応する部分の肌領域srに対しても同様に、計測領域ri(k)及び当該計測領域ri(k)の頂点座標を設定する。なお、
図4Cでは図示していないが、計測領域設定部13は、被験者の肌領域srの額に対応する部分、又は、鼻先に対応する部分に、計測領域ri(k)を設定してもよい。
【0026】
計測領域設定部13は、生成した計測領域情報R(k)を、脈波元信号抽出部14に出力する。
【0027】
脈波元信号抽出部14は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域設定部13から出力された計測領域情報R(k)とに基づき、フレームIm(k)上の、計測領域情報R(k)で示される複数の計測領域ri(k)の各々から、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における輝度変化を示す脈波元信号を抽出する。なお、脈波元信号は、脈波の元となる信号である。脈波推定装置1は、脈波元信号を用いて被験者の脈波を推定する。被験者の脈波の推定は、脈波推定部16が行う。脈波推定部16の詳細は後述する。
脈波元信号抽出部14は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像を、肌領域検出部12及び計測領域設定部13を介して取得すればよい。
脈波元信号抽出部14は、脈波元信号を抽出すると、抽出した脈波元信号を示す脈波元信号情報W(t)を生成する。
【0028】
脈波元信号情報W(t)は、計測領域ri(k)で抽出された脈波元信号wi(t)を示す情報を含む。脈波元信号wi(t)は、Tp分の時系列データであり、例えば、過去Tp分のフレームIm(k-Tp+1),Im(k-Tp+2),・・・,Im(k)と、計測領域情報R(k-Tp+1),R(k-Tp+2),・・・,R(k)とに基づいて抽出される。
脈波元信号wi(t)を抽出するにあたっては、脈波元信号抽出部14は、撮像画像の各フレームIm(k)に対して、各計測領域ri(k)の輝度特徴量Gi(j)(j=k-Tp+1,k-Tp+2,・・・,k)を算出する。輝度特徴量Gi(j)は、各計測領域ri(j)に対し、撮像画像のフレームIm(j)上の輝度値に基づいて算出される値である。輝度特徴量Gi(j)は、計測領域ri(j)内に含まれる画素の輝度値の平均又は分散等である。実施の形態1では、一例として、輝度特徴量Gi(j)は、計測領域ri(j)に含まれる画素の輝度値の平均とする。脈波元信号抽出部14は、撮像画像の各フレームIm(k)に対し算出した輝度特徴量Gi(j)を時系列に並べて脈波元信号wi(t)とする。すなわち、脈波元信号抽出部14は、脈波元信号wi(t)=[Gi(k-Tp+1),Gi(k-Tp+2),・・・,Gi(k)]とする。
【0029】
脈波元信号抽出部14は、各計測領域ri(k)における脈波元信号wi(t)をまとめたものを脈波元信号情報W(t)として生成する。
脈波元信号抽出部14は、生成した脈波元信号情報W(t)を、脈波推定部16に出力する。
【0030】
なお、脈波元信号wi(t)は、前述した脈波成分及び顔の動き成分以外にも様々なノイズ成分を含む。ノイズ成分としては、例えば、撮像装置の素子欠陥によるノイズ等がある。これらのノイズ成分を除去するためには、脈波元信号wi(t)に対する前処理としてフィルタ処理が行われることが望ましい。例えば、脈波元信号抽出部14は、当該フィルタ処理を行う。
フィルタ処理では、脈波元信号wi(t)に対して、例えば、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタを用いて、処理が施される。以下の説明では、バンドパスフィルタが施されたものとして説明する。
バンドパスフィルタとしては、例えば、バターワースフィルタ等を用いることができる。バンドパスフィルタのカットオフ周波数としては、例えば、低い方のカットオフ周波数は、0.5Hz、高い方のカットオフ周波数は5.0Hzが望ましい。
【0031】
模擬信号取得部15は、図示しない脈波推定装置1の外部の装置から、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における、計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を取得する。
模擬信号の取得元となる、脈波推定装置1の外部の装置を、以下「模擬信号取得元装置」という。模擬信号取得元装置は、例えば、車両の動き若しくは被験者の顔の動きを検知するジャイロセンサ、又は、撮像範囲における環境光の照度を検知する照度センサである。ジャイロセンサ及び照度センサは、車両に搭載されている。
例えば、模擬信号取得元装置がジャイロセンサである場合、模擬信号取得部15は、ジャイロセンサが検知した車両の動きを示す信号、又は、被験者の顔の動きを示す信号を、模擬信号として取得する。なお、ジャイロセンサの設置位置及び検知範囲と、撮像装置の設置位置及び撮像範囲は予めわかっているので、ジャイロセンサが車両又は被験者の顔の動きを捉えた位置が、撮像画像上のどの計測領域に対応するかの対応付けが可能である。
また、例えば、模擬信号取得元装置が車室内の明るさを検知する照度センサである場合、模擬信号取得部15は、照度センサが検知した環境光の強度を示す信号を、模擬信号として取得する。環境光は、撮像範囲に均一に照射されるものとする。
模擬信号取得部15は、計測領域設定部13から計測領域情報R(k)を取得して、模擬信号取得元装置から取得した信号と、複数の計測領域ri(k)との対応付けを行う。
【0032】
模擬信号取得部15は、模擬信号取得元装置から、模擬信号を取得すると、取得した模擬信号を示す模擬信号情報M(t)を生成する。
模擬信号情報M(t)は、計測領域ri(k)に対応する模擬信号mi(t)を示す情報を含む。模擬信号mi(t)は、Tp分の時系列データである。模擬信号取得部15は、例えば、過去Tp分のフレームIm(k-Tp+1),Im(k-Tp+2),・・・,Im(k)が取得されるタイミングに応じて、模擬信号mi(t)を取得する。
模擬信号取得部15は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像を、肌領域検出部12及び計測領域設定部13を介して取得すればよい。
模擬信号取得部15は、模擬信号情報M(t)を、脈波推定部16へ出力する。
【0033】
脈波推定部16は、脈波元信号抽出部14から出力された脈波元信号情報W(t)と、模擬信号取得部15から出力された模擬信号情報M(t)とに基づいて、被験者の脈波を推定する。すなわち、脈波推定部16は、脈波元信号抽出部14が抽出した脈波元信号wi(t)と模擬信号取得部15が取得した模擬信号mi(t)とに基づいて、被験者の脈波を推定する。
具体的には、脈波推定部16は、脈波元信号情報W(t)と模擬信号情報M(t)とに基づいて、模擬信号情報M(t)に掛ける係数(以下「除去用係数」という。)ci(t)を算出し、脈波元信号wi(t)から除去用係数ci(t)を掛算した模擬信号mi(t)をノイズとして除去した後の信号(以下「ノイズ除去信号」という。)に基づいて、被験者の脈波を推定する。
脈波推定部16は、推定した脈波を示す脈波情報である脈波推定結果P(t)を出力部17に出力する。
脈波情報は、例えば、脈波推定部16が推定した被験者の脈波の時系列データであってもよいし、被験者の脈拍数であってもよい。ここでは、説明を簡便にするため、脈波情報は、被験者の脈拍数(1分間当たりのはく数)とする。
【0034】
脈波推定部16による被験者の脈波の推定方法の詳細について説明する。
上述のとおり、脈波推定部16は、係数算出部161、ノイズ除去部162、及び、推定部163を備える。
係数算出部161は、脈波元信号情報W(t)と模擬信号情報M(t)とに基づいて、模擬信号情報M(t)に対する係数情報C(t)を算出する。
係数情報C(t)は、除去用係数ci(t)に関する情報であり、脈波元信号情報W(t)からノイズとして除去する模擬信号情報M(t)の量を調整するための情報である。詳細には、脈波元信号wi(t)から模擬信号mi(t)を除去した後のノイズ除去信号ei(t)が、被験者の脈波を推定するための信号として残るように、模擬信号を調整するための信号である。具体的には、係数情報C(t)は、模擬信号を減らす信号である。
係数情報C(t)の値が大きいと、脈波元信号情報W(t)からノイズとして除去する模擬信号情報M(t)の量は多くなり、係数情報C(t)の値が小さいと、脈波元信号情報W(t)からノイズとして除去する模擬信号情報M(t)の量は少なくなる。
係数算出部161は、例えば、以下の式(1)を用いて係数情報C(t)を算出する。
【0035】
係数算出部161は、脈波元信号情報W(t)と、係数情報C(t)を模擬信号情報M(t)に掛算した結果との差が小さくなるように係数情報C(t)を算出する。これにより、脈波推定部16は、脈波元信号情報W(t)に含まれる模擬信号情報M(t)の量を、係数情報C(t)によって調整できる。なお、模擬信号情報M(t)の量の、係数情報C(t)を用いた調整は、ノイズ除去部162が行う。
係数算出部161は、算出した係数情報C(t)を、ノイズ除去部162へ出力する。
【0036】
ノイズ除去部162は、脈波元信号情報W(t)と模擬信号情報M(t)と係数情報C(t)とに基づいて、ノイズの除去を行う。そして、ノイズ除去部162は、ノイズ除去後の信号情報であるノイズ除去信号情報E(t)を算出する。
ノイズ除去部162は、以下の式(2)を用いて、ノイズ除去信号情報E(t)を算出する。
【0037】
具体的には、ノイズ除去部162は、まず、模擬信号mi(t)と除去用係数ci(t)とを掛算する。そして、ノイズ除去部162は、脈波元信号wi(t)から、模擬信号mi(t)に除去用係数ci(t)を掛けた信号を引き算することで、ノイズ除去信号ei(t)を算出する。ノイズ除去信号ei(t)は、計測領域ri(k)における輝度変化からノイズを除去した信号となる。すなわち、ノイズ除去部162は、各計測領域ri(k)に対してノイズ除去信号ei(t)を算出する。
次に、ノイズ除去部162は、各計測領域ri(k)に対応するノイズ除去信号ei(t)を合算したノイズ除去信号情報E(t)を算出する。
ノイズ除去部162は、算出したノイズ除去信号情報E(t)を、推定部163へ出力する。
【0038】
推定部163は、ノイズ除去信号情報E(t)に基づいて、被験者の脈波を推定する。
具体的には、推定部163は、ノイズ除去信号情報E(t)に対し、フーリエ変換を行い、周波数パワースペクトルにおけるピーク周波数を脈拍数として算出する。推定部163は、算出した脈拍数に関する情報を、推定した脈波を示す脈波情報である脈波推定結果P(t)とする。
なお、推定部163は、ノイズ除去信号情報E(t)を、脈波推定結果P(t)としてもよい。
推定部163は、脈波推定結果P(t)を、出力部17に出力する。
【0039】
出力部17は、脈波推定部16から出力された脈波推定結果P(t)を、状態推定装置2の脈波情報取得部21に出力する。
なお、出力部17の機能は脈波推定部16に備えられていてもよい。
【0040】
続いて、実施の形態1に係る状態推定装置2の構成例について説明する。
図1に示すように、状態推定装置2は、脈波推定装置1、脈波情報取得部21、状態推定部22、及び、出力部23を備える。
【0041】
脈波情報取得部21は、脈波推定装置1から出力された脈波推定結果P(t)を取得する。
脈波情報取得部21は、取得した脈波推定結果P(t)を状態推定部22に出力する。
【0042】
状態推定部22は、脈波情報取得部21から出力された脈波推定結果P(t)に基づいて、言い換えれば、脈波推定装置1が推定した被験者の脈波に基づいて、被験者の状態を推定する。実施の形態1では、状態推定部22は、脈波推定装置1が推定した被験者の脈拍数に基づいて、被験者の状態を推定する。詳細には、状態推定部22は、被験者、言い換えれば、ドライバの脈拍数に基づいて、ドライバの状態として、ドライバの覚醒度を推定する。例えば、覚醒度は、2段階(1:眠い、2:覚醒している)の覚醒レベルであらわされる。
【0043】
状態推定部22は、例えば、脈波情報取得部21から脈波推定結果P(t)が出力されるとこれを記憶するようにし、記憶しておいた脈波推定結果P(t)に基づき、運転開始後10分間の被験者の脈拍数を当該被験者の基準脈拍数として算出する。状態推定部22は、運転が開始されたことを、例えば、車両の電源がオンにされたことで判定すればよい。また、状態推定部22は、運転が開始されたことを、例えば、シフトポジションセンサ等、車両に搭載されている各種センサからの信号に基づいて判定してもよい。
一般に、人は、運転開始直後は覚醒している状態であると想定される。そこで、状態推定部22は、運転開始後10分間の被験者の脈拍数を、覚醒している状態であるか否かを判定する基準となる基準脈拍数として算出する。被験者の脈拍数が基準脈拍数より低下した場合、被験者の覚醒度は低下していると推定できる。
状態推定部22は、脈波情報取得部21から出力された脈波推定結果P(t)、言い換えれば、脈波推定装置1が推定した被験者の脈拍数と、基準脈拍数との比較によって、被験者の覚醒度を推定する。状態推定部22は、被験者の脈拍数が基準脈拍数から予め設定された閾値(以下「低下判定用閾値」という。)以上低下した場合、覚醒レベルが低下したとし、覚醒レベル「1」と推定する。
【0044】
なお、実施の形態1では、状態推定部22は、脈波情報取得部21から出力された脈波推定結果P(t)、言い換えれば、脈波推定装置1が推定した被験者の脈波に基づき、基準脈拍数を算出するようにしたが、これは一例に過ぎない。例えば、基準脈拍数には、予め、一般的な、人の覚醒状態での脈拍数が設定され、当該基準脈拍数が状態推定部22に記憶されていてもよい。状態推定部22は記憶している基準脈拍数に基づいて、被験者の覚醒度を推定する。ただし、状態推定部22は、上述したように、脈波推定装置1から出力される脈波推定結果P(t)に基づいて被験者に対する基準脈拍数を算出することで、個人差を考慮し、被験者に応じた覚醒度の推定を行うことができる。
【0045】
なお、状態推定部22は、脈波推定結果P(t)に基づいて被験者の覚醒度を推定する手法と、公知の覚醒度推定手法とを組み合わせて、被験者の覚醒度を推定してもよい。公知の覚醒度推定手法とは、閉眼時間割合が増加しているかを検出して覚醒度を推定する手法等を想定している。
【0046】
状態推定部22は、推定した被験者の状態に関する状態情報Z(t)を出力部23に出力する。
【0047】
出力部23は、状態推定部22から出力された状態情報Z(t)を、出力装置3に出力する。
なお、出力部23の機能は状態推定部22に備えられてもよい。
【0048】
実施の形態1では、上述の通り、状態推定部22が推定した被験者の状態に関する状態情報Z(t)は出力装置3に出力されるものとするが、これは一例に過ぎない。例えば、状態推定部22が、状態情報Z(t)を記憶してもよい。この場合、状態推定装置2は、出力装置3と接続されていることを必須としない。また、状態推定装置2は、出力部23を備えない構成とできる。
【0049】
実施の形態1に係る脈波推定装置1の動作について説明する。
図5は、実施の形態1に係る脈波推定装置1の動作について説明するためのフローチャートである。
【0050】
撮像画像取得部11は、被験者を撮像した撮像画像を取得する(ステップST1)。
撮像画像取得部11は、取得した撮像画像を、肌領域検出部12に出力する。
【0051】
肌領域検出部12は、ステップST1にて撮像画像取得部11が取得した撮像画像に含まれるフレームIm(k)から肌領域を検出する(ステップST2)。
肌領域検出部12は、検出した肌領域を示す肌領域情報S(k)を生成する。
肌領域検出部12は、生成した肌領域情報S(k)を、計測領域設定部13に出力する。
【0052】
計測領域設定部13は、ステップST1にて撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、ステップST2にて肌領域検出部12が出力した肌領域情報S(k)とに基づき、フレームIm(k)上の、肌領域情報S(k)で示される肌領域に対応する画像領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための複数の計測領域を設定する(ステップST3)。
計測領域設定部13は、複数の計測領域を設定すると、設定した複数の計測領域を示す計測領域情報R(k)を生成する。
計測領域設定部13は、生成した計測領域情報R(k)を、脈波元信号抽出部14及び模擬信号取得部15に出力する。
【0053】
脈波元信号抽出部14は、ステップST1にて撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、ステップST3にて計測領域設定部13から出力された計測領域情報R(k)とに基づき、フレームIm(k)上の、計測領域情報R(k)で示される複数の計測領域ri(k)の各々から、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における輝度変化を示す脈波元信号を抽出する(ステップST4)。
脈波元信号抽出部14は、脈波元信号を抽出すると、抽出した脈波元信号を示す脈波元信号情報W(t)を生成する。
脈波元信号抽出部14は、生成した脈波元信号情報W(t)を、脈波推定部16に出力する。
【0054】
模擬信号取得部15は、模擬信号取得元装置から、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における、計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を取得する(ステップST5)。
模擬信号取得部15は、模擬信号取得元装置から、計測領域情報R(k)で示される複数の計測領域ri(k)の各々に対応する信号を模擬信号とし、当該模擬信号をあわせて模擬信号情報M(t)とする。
模擬信号取得部15は、模擬信号情報M(t)を、脈波推定部16へ出力する。
【0055】
脈波推定部16は、ステップST4にて脈波元信号抽出部14から出力された脈波元信号情報W(t)と、ステップST5にて模擬信号取得部15から出力された模擬信号情報M(t)とに基づいて、被験者の脈波を推定する(ステップST6)。
脈波推定部16は、推定した脈波を示す脈波情報である脈波推定結果P(t)を出力部17に出力する。
出力部17は、脈波推定部16から出力された脈波推定結果P(t)を、状態推定装置2の脈波情報取得部21に出力する。
【0056】
なお、
図5に示すフローチャートでは、ステップST4、ステップST5の順に処理が行われるものとしているが、これは一例に過ぎない。ステップST4とステップST5の処理の順番は逆でもよいし、ステップST4の処理とステップST5の処理が並行して行われてもよい。
【0057】
図6は、
図5のステップST6の詳細について説明するためのフローチャートである。
係数算出部161は、
図5のステップST4にて脈波元信号抽出部14から出力された脈波元信号情報W(t)と、
図5のステップST5にて模擬信号取得部15から出力された模擬信号情報M(t)とに基づいて、模擬信号情報M(t)に対する係数情報C(t)を算出する(ステップST61)。
係数算出部161は、算出した係数情報C(t)を、ノイズ除去部162へ出力する。
【0058】
ノイズ除去部162は、
図5のステップST4にて脈波元信号抽出部14から出力された脈波元信号情報W(t)と、
図5のステップST5にて模擬信号取得部15から出力された模擬信号情報M(t)と、ステップST61にて係数算出部161から出力された係数情報C(t)とに基づいて、ノイズの除去を行う(ステップST62)。具体的には、ノイズ除去部162は、脈波元信号wi(t)から、模擬信号mi(t)に除去用係数ci(t)を掛けた信号を引き算することで、ノイズ除去後の信号情報であるノイズ除去信号情報E(t)を算出する(ステップST62)。
ノイズ除去部162は、算出したノイズ除去信号情報E(t)を、推定部163へ出力する。
【0059】
推定部163は、ステップST62にてノイズ除去信号情報E(t)に基づいて、被験者の脈波を推定する(ステップST63)。具体的には、推定部163は、ノイズ除去信号情報E(t)に対し、フーリエ変換を行い、周波数パワースペクトルにおけるピーク周波数を脈拍数として算出する。
推定部163は、脈波推定結果P(t)を、出力部17に出力する。
【0060】
実施の形態1に係る状態推定装置2の動作について説明する。
図7は、実施の形態1に係る状態推定装置2の動作について説明するためのフローチャートである。
【0061】
脈波情報取得部21は、脈波推定装置1から出力された脈波推定結果P(t)を取得する(ステップST11)。
脈波情報取得部21は、取得した脈波推定結果P(t)を状態推定部22に出力する。
【0062】
状態推定部22は、ステップST11にて脈波情報取得部21から出力された脈波推定結果P(t)に基づいて、被験者の状態を推定する(ステップST12)。
状態推定部22は、推定した被験者の状態に関する状態情報Z(t)を出力部23に出力する。
出力部23は、状態推定部22から出力された状態情報Z(t)を、出力装置3に出力する。
【0063】
被験者の脈波を推定するのに用いる、被験者の肌領域の輝度変化に基づく輝度信号には、被験者の脈波の推定に用いるべき、被験者の真の脈波に基づく輝度信号と、ノイズとなる信号とが含まれている。従って、被験者の脈波を推定するにあたっては、肌領域の輝度変化に基づく輝度信号から上記ノイズとなる信号を除去することで、上記ノイズとなる信号以外の、被験者の真の脈波に基づく輝度信号を抽出する必要がある。
しかし、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうと、肌領域の輝度変化に基づく輝度信号に含まれている被験者の真の脈波に基づく輝度信号までもが、ノイズとなる信号とともに除去されてしまう。そうすると、被験者の脈波の推定に用いるべき、被験者の真の脈波に基づく輝度信号が十分に残らず、あるいは、当該輝度信号がどれぐらいであったかがわからない状態となり、被験者の脈波を推定できないことになる。
【0064】
これに対し、実施の形態1に係る脈波推定装置1は、撮像画像上の、被験者の肌領域に対応する領域に設定した計測領域ri(t)における輝度変化に基づき脈波元信号wi(t)を抽出し、計測領域ri(t)における輝度変化のノイズ成分と推定される模擬信号mi(t)を取得する。そして、脈波推定装置1は、脈波元信号wi(t)から模擬信号mi(t)を除去した後のノイズ除去信号ei(t)に、被験者の脈波を推定するための信号が残るように、模擬信号mi(t)を調整するための除去用係数ci(t)を算出し、脈波元信号wi(t)から除去用係数ci(t)を掛算した模擬信号mi(t)を除去すると、ノイズ除去信号ei(t)に基づいて、被験者の脈波を推定する。
これにより、脈波推定装置1は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1は、高精度に被験者の脈波を推定することができる。
【0065】
以上の実施の形態1では、脈波推定装置1において、係数算出部161は、上述の式(1)を用いて係数情報C(t)を算出していた。
しかし、係数算出部161が上述の式(1)を用いて係数情報C(t)を算出した場合、その後、ノイズ除去部162が上述の式(2)を用いて算出したノイズ除去信号情報E(t)が「0」に近い値となる可能性がある。
そこで、以上の実施の形態1において、係数算出部161は、以下の式(3)を用いて係数情報C(t)を算出してもよい。
式(3)は、式(1)にλ||C(t)||
2の項を追加することで、||C(t)M(t)-W(t)||
2が「0」に近づく度合いを軽減することができる。
すなわち、係数算出部161は、式(3)を用いて係数情報C(t)を算出することで、その後、ノイズ除去部162が算出するノイズ除去信号情報E(t)の中に、脈波情報の推定に必要な信号成分が残らなくなるという事態をより抑制することができる。脈波推定装置1は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を、より防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1は、高精度に被験者の脈波を推定することができる。
【0066】
また、以上の実施の形態1では、脈波推定装置1において、計測領域設定部13は、フレームIm(k)上の、肌領域情報S(k)で示される肌領域に対応する画像領域に、複数の計測領域を設定したが、これは一例に過ぎない。例えば、計測領域設定部13が設定する計測領域は1つであってもよい。
なお、計測領域設定部13が計測領域を1つのみ設定する場合、設定される1つの計測領域は、会話による口の動き、又は、表情の変化による動き等、動きの少ない肌領域に設定されることが好ましい。ここでいう「肌領域の動き」とは、頭の位置自体の移動に伴ったものではなく、頭の位置自体の移動以外の要因で生じる「肌領域の動き」をいう。
例えば、計測領域設定部13が計測領域を1つのみ設定する場合、設定される1つの計測領域は、頬又は額に対応する肌領域に設定されることが好ましい。ただし、額に対応する肌領域は前髪等で隠れる可能性があるため、額より頬に対応する肌領域の方が、より好ましい。
【0067】
また、以上の実施の形態1では、脈波推定装置1は状態推定装置2に備えられていたが、これは一例に過ぎない。脈波推定装置1は、状態推定装置2の外部に備えられ、状態推定装置2の外部にて状態推定装置2と接続されていてもよい。
また、以上の実施の形態1では、照明部は撮像装置に備えられていたが、これは一例に過ぎない。例えば、撮像装置の外部に照明装置が備えられ、照明装置が、撮像装置の外部から撮像範囲に光を照射してもよい。
【0068】
また、以上の実施の形態1では、被験者は、車両のドライバとしたが、これは一例に過ぎない。被験者は、車両のドライバ以外の乗員としてもよい。
【0069】
また、以上の実施の形態1では、脈波推定装置1及び状態推定装置2は車載装置とし、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23は、車載装置に備えられていた。
これに限らず、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23のうち、一部が車両の車載装置に搭載され、その他が当該車載装置とネットワークを介して接続されるサーバに備えられて、車載装置とサーバとでシステムを構成してもよい。
また、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23が全部サーバに備えられてもよい。
【0070】
また、以上の実施の形態1に係る脈波推定装置1及び状態推定装置2は、車両に搭載される車載装置に限らず、例えば、家電機器に適用することもできる。また、被験者は、車両の乗員に限らず、様々な人とできる。
具体例を挙げると、脈波推定装置1及び状態推定装置2は、住居においてリビングに設置されているテレビに搭載されてもよい。この場合、被験者は、住居の住人等のユーザである。脈波推定装置1は、テレビに搭載されている撮像装置が撮像した撮像画像に基づき、ユーザの脈波を推定する。なお、撮像装置は、少なくとも被験者の肌存在範囲を撮像可能になっていればよい。状態推定装置2は、例えば、脈波推定装置1が推定したユーザの脈波に基づく脈波推定結果P(t)に基づいて、脈拍数の上昇又は下降からユーザの体調を推定し、記録する。
【0071】
図8A,
図8Bは、実施の形態1に係る脈波推定装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。
実施の形態1において、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17の機能は、処理回路101により実現される。すなわち、脈波推定装置1は、環境光モデルを用いて被験者の脈波を推定する制御を行うための処理回路101を備える。
処理回路101は、
図8Aに示すように専用のハードウェアであっても、
図8Bに示すようにメモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。
【0072】
処理回路101が専用のハードウェアである場合、処理回路101は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
【0073】
処理回路がプロセッサ104の場合、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ105に記憶される。プロセッサ104は、メモリ105に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17の機能を実行する。すなわち、脈波推定装置1は、プロセッサ104により実行されるときに、上述の
図5のステップST1~ステップST6が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ105を備える。また、メモリ105に記憶されたプログラムは、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17の処理の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ105とは、例えば、RAM、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の、不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリ、又は、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0074】
なお、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、撮像画像取得部11と出力部17については専用のハードウェアとしての処理回路101でその機能を実現し、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16についてはプロセッサ104がメモリ105に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
また、脈波推定装置1は、撮像装置等の装置と、有線通信又は無線通信を行う入力インタフェース装置102及び出力インタフェース装置103を備える。
【0075】
実施の形態1に係る状態推定装置2のハードウェア構成の一例も、
図8A,
図8Bに示すような構成である。
実施の形態1において、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23の機能は、処理回路101により実現される。すなわち、状態推定装置2は、脈波推定装置1が推定した被験者の脈波に関する脈波情報に基づいて、被験者の状態を推定する制御を行うための処理回路101を備える。
【0076】
処理回路がプロセッサ104の場合、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ105に記憶される。プロセッサ104は、メモリ105に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23の機能を実行する。すなわち、状態推定装置2は、プロセッサ104により実行されるときに、上述の
図7のステップST11~ステップST12が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ105を備える。また、メモリ105に記憶されたプログラムは、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23の処理の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0077】
なお、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、脈波情報取得部21と出力部23については専用のハードウェアとしての処理回路101でその機能を実現し、状態推定部22についてはプロセッサ104がメモリ105に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
また、状態推定装置2は、脈波推定装置1又は出力装置3等の装置と、有線通信又は無線通信を行う入力インタフェース装置102及び出力インタフェース装置103を備える。
【0078】
以上のように、実施の形態1に係る脈波推定装置1は、人(被験者)を撮像した撮像画像を取得する撮像画像取得部11と、撮像画像から人の肌領域を検出する肌領域検出部12と、撮像画像上の、肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号wi(t)を抽出するための計測領域ri(k)を設定する計測領域設定部13と、撮像画像上の計測領域ri(k)における輝度変化に基づき、脈波元信号wi(t)を抽出する脈波元信号抽出部14と、計測領域ri(k)における輝度変化のノイズ成分と推定される、計測領域ri(k)の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)を取得する模擬信号取得部15と、脈波元信号wi(t)から模擬信号mi(t)を除去した後のノイズ除去信号ei(t)に、人の脈波を推定するための信号が残るように、模擬信号mi(t)を調整するための係数(除去用係数ci(t))を算出する係数算出部161と、脈波元信号wi(t)から係数を掛算した模擬信号mi(t)を除去するノイズ除去部162と、ノイズ除去信号ei(t)に基づいて、人の脈波を推定する推定部163とを備えるように構成した。そのため、脈波推定装置1は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1は、被験者の脈波を高精度に推定できる。
【0079】
また、以上の実施の形態1に係る状態推定装置2は、上記構成を有する脈波推定装置1が推定した人(被験者)の脈波に基づいて、人の状態を推定するように構成した。そのため、状態推定装置2は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防いで、高精度に推定された脈波に基づいて被験者の状態を推定することができる。その結果、状態推定装置2は、高精度に被験者の状態を推定することができる。
【0080】
実施の形態2.
実施の形態1では、脈波推定装置は、模擬信号取得元装置から模擬信号を取得していた。
実施の形態2では、脈波推定装置が、模擬信号を生成する実施の形態について説明する。
【0081】
図9は、実施の形態2に係る脈波推定装置1aを備えた状態推定装置2の構成例を示す図である。
図9において、実施の形態1にて
図1を用いて説明した状態推定装置2の構成例と同様の構成例については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
図9に示す状態推定装置2の構成例は、実施の形態1にて
図1を用いて説明した状態推定装置2の構成例とは、状態推定装置2に備えられている脈波推定装置1aの構成例が異なる。
【0082】
図10は、実施の形態2に係る脈波推定装置1aの構成例を示す図である。
図10において、実施の形態1にて
図2を用いて説明した脈波推定装置1の構成例と同様の構成例については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
図10に示す脈波推定装置1aの構成例は、実施の形態1にて
図2を用いて説明した脈波推定装置1の構成例とは、模擬信号生成部18を備える点が異なる。
【0083】
模擬信号生成部18は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域設定部13から出力された計測領域情報R(k)とに基づいて、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を生成する。なお、実施の形態2では、計測領域設定部13は、生成した計測領域情報R(k)を、脈波元信号抽出部14及び模擬信号生成部18に出力する。
【0084】
例えば、模擬信号生成部18は、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、環境光のもとで、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における、計測領域の位置変化によって生じる当該計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を生成する。
模擬信号生成部18は、計測領域情報R(k)で示される複数の計測領域ri(k)の各々について上記模擬信号を生成する。
模擬信号生成部18は、撮像画像取得部11が取得した撮像画像を、肌領域検出部12及び計測領域設定部13を介して取得すればよい。
模擬信号生成部18は、計測領域ri(k)の各々について模擬信号を生成すると、生成した模擬信号をあわせた模擬信号情報M(t)を生成する。
【0085】
模擬信号情報M(t)は、計測領域ri(k)に対し生成された模擬信号mi(t)を示す情報を含む。模擬信号mi(t)は、Tp分の時系列データであり、例えば、過去Tp分のフレームIm(k-Tp+1),Im(k-Tp+2),・・・,Im(k)と、計測領域情報R(k-Tp+1),R(k-Tp+2),・・・,R(k)と、環境光モデルとに基づいて生成される。
環境光モデルは、予め、模擬信号生成部18に備えられている。
環境光モデルは、環境光が照射される範囲の空間的な輝度分布に基づき、撮像画像上の座標の輝度値を模擬した値を出力する環境光の分布モデルである。
【0086】
例えば、撮像画像が撮像される際の環境光が、撮像装置の照明部の照明光とする。ここで、例えば、照明部による照明光は、撮像部の撮像範囲の中心付近に、一番強く照射されるとする。撮像部が撮像する撮像画像において、中央部の輝度が一番高くなり、当該中央部から撮像画像の端部にかけて輝度が低くなっていく。なお、実施の形態2において、「中央」は、厳密に「中央」であることに限定されず、略中央を含む。
このように、例えば、撮像画像において中央部が明るく周囲が暗くなるように当該撮像画像が撮像されるよう撮像範囲に照射される環境光の場合、環境光モデルは、次の式(4)で表すような2次元ガウス分布である。
q_(x,y)は撮像画像上の座標(x,y)における輝度値を模擬した値であり、(x_c,y_c)は2次元ガウス分布の中心座標である。aは、2次元ガウス分布の高さを決めるパラメータである。σは、2次元ガウス分布の拡がりを決めるパラメータである。2次元ガウス分布の中心座標は、照明部が照射した照明光を撮像部で取得した際の空間的な輝度分布に基づいて決定される。
【0087】
図11は、実施の形態2において、環境光モデルに2次元ガウス分布を用いた場合の、撮像画像における、環境光モデルがあらわす環境光の分布の一例を示す図である。
図11に示す環境光モデルは、環境光が撮像装置の照明部の照明光である場合の環境光モデルとしている。
【0088】
模擬信号生成部18は、計測領域ri(k)に含まれている撮像画像上の座標値(x,y)を、上記環境光モデルを用いて、模擬信号mi(t)に変換する。
模擬信号mi(t)を生成するにあたっては、模擬信号生成部18は、撮像画像の各フレームIm(k)に対して、上記環境光モデルを用いて、各計測領域ri(k)の中の座標における輝度値を模擬した値Vi(j)(j=k-Tp+1,k-Tp+2,・・・,k)を算出する。模擬信号生成部18は、撮像画像の各フレームIm(k)に対し算出したVi(j)を時系列に並べて模擬信号mi(t)とする。すなわち、模擬信号生成部18は、模擬信号mi(t)=[Vi(k-Tp+1),Vi(k-Tp+2),・・・,Vi(k)]とする。
そして、模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)における模擬信号mi(t)をまとめたものを模擬信号情報M(t)として生成する。
【0089】
なお、以上の説明では、環境光モデルは2次元ガウス分布としたが、これは一例に過ぎない。環境光モデルとして2次元ガウス分布以外の任意のモデルが用いられてもよい。例えば、環境光が撮像装置の照明部の照明光である場合、照明光の分布を実測したものが環境光モデルとして用いられてもよい。つまり、環境光モデルは、数式としてモデル化したものに限らず、撮像画像上のどの位置がどれぐらいの明るさになるかを実測して得られた値を元に生成されたものであってもよい。
また、模擬信号生成部18は、模擬信号mi(t)を、計測領域ri(k)に対し、1つ算出してもよいし、各計測領域ri(k)が持つ座標点数分算出してもよい。実施の形態2では、一例として、模擬信号生成部18は、計測領域ri(k)に対し、1つの模擬信号mi(t)を算出するものとする。模擬信号生成部18は、例えば、計測領域ri(k)の四辺形の重心座標を用いて、計測領域ri(k)に対し1つの模擬信号mi(t)を算出する。
【0090】
模擬信号生成部18は、生成した模擬信号情報M(t)を、模擬信号取得部15へ出力する。
実施の形態2では、模擬信号取得部15は、模擬信号生成部18から出力された模擬信号情報M(t)を取得し、当該模擬信号情報M(t)を、脈波推定部16へ出力する。
【0091】
なお、例えば、模擬信号生成部18が、各計測領域ri(k)において、座標点数分の模擬信号mi(t)を算出する場合、ノイズ除去部162は、1つの計測領域ri(k)に対して算出される模擬信号mi(t)の数に応じた係数(以下「模擬信号用係数」という。)を各模擬信号mi(t)に掛け算する。そして、ノイズ除去部162は、模擬信号用係数を掛けた後の模擬信号mi(t)に除去用係数ci(t)を掛けた信号を、脈波元信号wi(t)から引き算する。
具体例を挙げると、例えば、模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)において、座標点数分の模擬信号mi(t)の振幅の最大値をmi_amp(t)、脈波元信号wi(t)の振幅の最大値をwi_amp(t)とする。この場合、ノイズ除去部162は、各模擬信号mi(t)に模擬信号用係数「wi_amp/mi_amp」を掛ける。そして、ノイズ除去部162は、「wi_amp/mi_amp」を掛けた後の各模擬信号mi(t)を、脈波元信号wi(t)から引き算する。
【0092】
実施の形態2に係る脈波推定装置1aの動作について説明する。
図12は、実施の形態2に係る脈波推定装置1aの動作について説明するためのフローチャートである。
図12において、ステップST21~ステップST24、ステップST27の具体的な動作は、それぞれ、実施の形態1にて説明済みの、
図5のステップST1~ステップST4、ステップST6の具体的な動作と同様であるため、重複した説明を省略する。
【0093】
模擬信号生成部18は、ステップST21にて撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、ステップST23にて計測領域設定部13から出力された計測領域情報R(k)とに基づき、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における、計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を生成する(ステップST25)。
例えば、模擬信号生成部18は、ステップST21にて撮像画像取得部11が取得した撮像画像のフレームIm(k)と、ステップST23にて計測領域設定部13から出力された計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、環境光のもとで、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における計測領域の位置変化によって生じる当該計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号を生成する。
なお、ステップST23において、計測領域設定部13は、生成した計測領域情報R(k)を、脈波元信号抽出部14及び模擬信号生成部18に出力する。
そして、模擬信号生成部18は、計測領域ri(k)の各々について生成した模擬信号をあわせた模擬信号情報M(t)を生成する。
模擬信号生成部18は、生成した模擬信号情報M(t)を、模擬信号取得部15へ出力する。
【0094】
模擬信号取得部15は、ステップST25にて模擬信号生成部18から出力された模擬信号情報M(t)を取得する(ステップST26)。
模擬信号取得部15は、取得した模擬信号情報M(t)を、脈波推定部16に出力する。
【0095】
なお、
図12に示すフローチャートでは、ステップST24、ステップST25の順に処理が行われるものとしているが、これは一例に過ぎない。ステップST24とステップST25の処理の順番は逆でもよいし、ステップST24の処理とステップST25の処理が並行して行われてもよい。
【0096】
実施の形態2に係る状態推定装置2の動作は、実施の形態1にて
図7に示すフローチャートを用いて説明した動作と同様であるため、重複した説明を省略する。
【0097】
このように、脈波推定装置1aは、例えば、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、環境光のもとで、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における計測領域の位置変化によって生じる当該計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)を生成することができる。そして、脈波推定装置1aは、脈波元信号wi(t)から、生成した模擬信号mi(t)を除去した後の信号に、被験者の脈波を推定するための信号が残るように、模擬信号mi(t)を調整するための除去用係数ci(t)を算出し、脈波元信号wi(t)から除去用係数ci(t)を掛算した模擬信号mi(t)を除去すると、除去した後のノイズ除去信号ei(t)に基づいて、被験者の脈波を推定する。
これにより、脈波推定装置1aは、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1aは、高精度に被験者の脈波を推定することができる。
【0098】
また、以上の実施の形態2では、脈波推定装置1aは、上述のとおり、例えば、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、環境光のもとで、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における計測領域の位置変化によって生じる当該計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)を生成する。
脈波推定装置1aは、模擬信号を生成する際、環境光モデルを用いることで、撮像範囲における環境光の分布が不均一なシーンであっても、被験者の動きによるノイズを除去し、被験者の脈波を推定することができる。以下、詳細に説明する。
【0099】
上述したように、撮像装置で取得した撮像画像における人の肌領域の微小な輝度変化から、非接触に脈波を推定する手法が知られている。例えば、以下の参考文献1のように、被験者の顔画像上に複数の計測領域を設定し、各計測領域で取得された輝度信号の周波数パワースペクトルを算出し、当該周波数パワースペクトルのピーク周波数に応じて脈波を合成し、合成した脈波の周波数パワースペクトルのピークから脈拍数を推定する手法が知られている。
【0100】
[参考文献1]
Mayank Kumar, et al.,“DistancePPG: Robust non-contact vital signs monitoring using a camera”,Biomedical optics express,6(5),1565-1588,2015
【0101】
しかし、参考文献1に開示されているような手法では、被験者の顔が動くと脈波の推定精度が低下する問題がある。被験者の顔が動くと、顔の動きに相当する成分が周波数パワースペクトルのピークとして出現するため、脈波に相当する周波数成分ではなく、顔の動きに相当する成分を脈波として誤検出してしまうためである。
【0102】
このような問題に対し、上述のとおり、撮像領域における顔領域の位置情報を周波数分析して得られた特定の周波数成分を、顔領域からの画像信号からノイズとして除去する技術が知られている。
しかし、撮像範囲における環境光の分布が不均一なシーンも発生し得る。
例えば、撮像装置において、照明部による照明光は、撮像部の撮像範囲の中心付近に、一番強く照射されるとする。そうすると、撮像部が撮像する撮像画像において、中央部の輝度が一番高くなり、当該中央部から撮像画像の端部にかけて輝度が低くなっていく。すなわち、撮像範囲における環境光の分布が不均一になる。
撮像範囲における環境光の分布が不均一なシーンでは、撮像画像における被験者の肌領域の微小な輝度変化から推定される脈波は、肌領域の位置の変化だけでなく、環境光の影響を受ける。このことが考慮されていないと、ノイズ除去の際に、十分なノイズ除去効果が得られない可能性がある。
【0103】
図13は、環境光の分布が不均一な場合に生じる、環境光の、撮像画像に基づく被験者の脈波推定に用いる信号への影響について説明するための図である。
図13Aは、環境光の分布が均一なシーンで撮像された撮像画像の一例を示す図である。
図13Bは、環境光の分布が不均一なシーンで撮像された撮像画像の一例を示す図である。
図13A及び
図13Bにおいて、撮像画像を、それぞれ、ImA、ImBで示している。
図13A及び
図13Bに示す撮像画像上の色の濃さは、環境光に応じた輝度分布をあらわしている。色が薄いほど(白いほど)輝度が高く、色が濃くなるほど(黒くなるほど)輝度が低くなっていくことをあらわしている。
撮像画像には、被験者(
図13AではSA、
図13BではSBで示す)が撮像される。
例えば、被験者は顔を動かしたため、時系列の複数の撮像画像のフレーム(Tp分のフレーム)において被験者の顔が
図13上左から右へ移動するとする。便宜上、
図13では1フレームの撮像画像のみ示し、時系列の複数の撮像画像のフレームにおける被験者の顔の位置の移動を矢印であらわしている。
図13Aに示すように、環境光が均一なシーンでは、被験者が顔を動かしても、言い換えれば、時系列の撮像画像の複数フレームにおいて被験者の顔がどの位置にあっても、顔の位置を示す信号及び顔の表面の輝度を示す信号は、ともに、環境光の影響を受けない。一方、
図13Bに示すように、環境光が不均一なシーンでは、被験者が顔を動かしても顔の位置を示す信号は環境光の影響を受けないのに対し、被験者が顔を動かすことにより、言い換えれば、時系列の撮像画像の複数フレームにおいて被験者の顔の位置が変わることにより、被験者の顔の表面の輝度を示す信号は、環境光の影響を受ける。被験者の顔が撮像画像の中央付近に近いほど、被験者の顔の表面の輝度は、環境光の影響を受け、高くなる。
【0104】
脈波推定装置1aは、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、環境光のもとで、予め定められた期間、言い換えれば、フレーム数Tpに対応する期間における計測領域の位置変化によって生じる当該計測領域の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)を生成する。そして、脈波推定装置1aは、生成した模擬信号mi(t)を、ノイズ除去に利用する。そのため、脈波推定装置1aは、撮像範囲における環境光の分布が不均一なシーンであっても、被験者の肌領域の位置変化によるノイズを除去し、被験者の脈波を推定することができる。そして、状態推定装置2は、撮像範囲における環境光の分布が不均一なシーンであっても、被験者の状態を推定することができる。
【0105】
なお、以上の説明では、環境光モデルは1つであることを想定していたが、環境光モデルは複数存在してもよい。
模擬信号生成部18は、複数の環境光モデルを用いて模擬信号mi(t)及び当該模擬信号mi(t)をあわせた模擬信号情報M(t)を生成できる。
この場合、脈波推定部16において、係数算出部161は、脈波元信号情報W(t)と、模擬信号生成部18が複数の環境光モデルを用いて生成した複数の模擬信号情報M(t)とに基づいて、上記式(1)を用いて、複数の環境光モデルに対する係数情報C(t)を算出する。
ノイズ除去部162は、上記式(2)を用いて、脈波元信号情報W(t)から、係数情報C(t)を掛算した複数の模擬信号情報M(t)を引き算して、ノイズ除去信号情報E(t)を算出する。
【0106】
図14は、実施の形態2における、模擬信号生成部18による、複数の環境光モデルに基づく模擬信号mi(t)の生成方法の一例について説明するための図である。
図14において、ImCは、夜間に走行中の車両にて撮像装置が撮像した撮像画像を示し、ImDは、昼間に、撮像画像上で左側の輝度が高くなるよう撮像範囲に光が入り込む環境で走行中の車両にて撮像装置が撮像した撮像画像を示し、ImEは、昼間に、撮像画像上で右側の輝度が高くなるよう撮像範囲に光が入り込む環境で走行中の車両にて撮像装置が撮像した撮像画像を示している。また、
図14において、81aは、ImCに示す撮像画像が撮像される状況における環境光に基づく環境光モデルがあらわす光の強度分布を示す図であり、81bは、ImDに示す撮像画像が撮像される状況における環境光に基づく環境光モデルがあらわす光の強度分布を示す図であり、81cは、ImEに示す撮像画像が撮像される状況における環境光に基づく環境光モデルがあらわす光の強度分布を示す図である。81a、81b、及び、81cにおいて、環境光の強度は色の濃さで示しており、白いほど強度が高いことをあらわしている。なお、わかりやすさのため、
図14では、撮像装置が備える撮像部(
図14において401で示す)及び照明部(
図14において402で示す)を図示している。また、
図14において、Drは、被験者、ここでは、運転者の顔を示している。
【0107】
例えば、夜間の走行シーンでは、環境光は撮像装置に備えられた照明部が照射する照明光のみとなる。
例えば、昼間の、撮像画像上で左側の輝度が高くなるよう車外から光が入り込む走行シーンでは、環境光は車外から入り込む光となる。また、昼間の、撮像画像上で右側の輝度が高くなるよう車外から光が入り込む走行シーンでは、環境光は車外から入り込む光となる。
例えば、模擬信号生成部18が、予め、夜間の走行シーン及び昼間の走行シーンに応じた複数の環境光モデルを備えておき、複数の環境光モデルを用いて模擬信号mi(t)及び模擬信号情報M(t)を生成するよう構成することで、脈波推定装置1aは、撮像範囲における環境光の分布が不均一な、様々なシーンに対応して、被験者の肌領域の動きによるノイズを除去し、被験者の脈波を推定できる。
【0108】
なお、以上の実施の形態2では、脈波推定装置1aにおいて、模擬信号生成部18は、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)と、環境光モデルとに基づき、模擬信号mi(t)を生成したが、これは一例に過ぎない。
模擬信号生成部18は、例えば、環境光モデルを用いず、撮像画像のフレームIm(k)と、計測領域情報R(k)とに基づいて、計測領域の位置変化によって生じる計測領域の輝度変化を模擬した信号を、模擬信号mi(t)として生成してもよい。
この場合も、脈波推定装置1aは、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1aは、高精度に被験者の脈波を推定することができる。
【0109】
被験者の動きは、左右の動きに限らず、前後の動きもあり得る。そこで、以上の実施の形態2において、模擬信号生成部18は、これを考慮して模擬信号mi(t)及び当該模擬信号mi(t)をあわせた模擬信号情報M(t)を生成してもよい。
詳細には、模擬信号生成部18は、例えば、被験者の左右の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化のスケール(振幅)、及び、被験者の前後の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化のスケールを正規化した信号に基づき、模擬信号mi(t)を生成してもよい。
【0110】
模擬信号生成部18は、以上の実施の形態2で説明したような方法で生成した模擬信号mi(t)を、被験者の左右の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)(以下「第1模擬信号mi1(t)」という。)とする。
模擬信号生成部18は、第1模擬信号mi1(t)とは別に、被験者の前後の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化を模擬した模擬信号mi(t)(以下「第2模擬信号mi2(t)」という。)を生成する。
模擬信号生成部18が第2模擬信号mi2(t)を生成する具体的な方法について、説明する。
模擬信号生成部18は、まず、すべての計測領域ri(k)の外接矩形Rec(k)を算出し、その中心座標O(k)(x,y)=(xc,yc)を求める。
図15の
上側の図は、計測領域ri(k)の外接矩形Rec(k)、及び、その中心座標O(k)の一例を示す図である。
次に、模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)の各頂点座標と、前記中心座標O(k)との距離Dis(k)を算出する。例えば、計測領域ri(k)の一角の頂点座標を(x,y)=(xi_rb,yi_rb)とし、それに対応した前記中心座標O(k)との距離をDis_i_rbとした場合、模擬信号生成部18は、Dis_i_rbを、以下の式(5)を用いて算出する。
図15の
下側の図は、計測領域ri(k)の一角の頂点座標と、それに対応した前記中心座標O(k)との距離のイメージを示す図である。
【0111】
そして、模擬信号生成部18は、上記のように求めた各計測領域ri(k)の頂点座標と外接矩形Rec(k)の中心座標O(k)との距離Dis(k)を第2模擬信号mi2(t)とする。
【0112】
なお、上述の例では、模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)の頂点座標と外接矩形Rec(k)の中心座標O(k)との距離を算出したが、これに限らない。例えば、模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)の重心座標と外接矩形Rec(k)の中心座標O(k)との距離を算出するようにしてもよい。
また、上述の例において、模擬信号生成部18は、外接矩形Rec(k)の中心座標O(k)に代えて、各計測領域ri(k)の頂点座標の平均値、言い換えれば、重心を用い、当該重心と、各計測領域ri(k)の頂点座標との距離Dis(k)を算出してもよい。模擬信号生成部18は、各計測領域ri(k)に対する基準座標を定めることができればよい。
【0113】
次に、模擬信号生成部18は、第1模擬信号mi1(t)と、第2模擬信号mi2(t)に、係数(以下「正規化用係数」という。)を掛けて、スケールを正規化する。言い換えれば、模擬信号生成部18は、第1模擬信号mi1(t)と、第2模擬信号mi2(t)に、正規化用係数を掛けて、第1模擬信号mi1(t)及び第2模擬信号mi2(t)のスケールの差を揃える。
例えば、模擬信号生成部18は、第1模擬信号mi1(t)と第2模擬信号mi2(t)のいずれか一方に、正規化用係数を掛ける。例えば、模擬信号生成部18は、第1模擬信号mi1(t)及び第2模擬信号mi2(t)の両方に正規化用係数を掛けてもよい。なお、正規化用係数は予め設定されている値としてもよいし、模擬信号生成部18が、第1模擬信号mi1(t)及び第2模擬信号mi2(t)のスケールの平均値が揃うように正規化用係数を算出してもよい。
図16は、実施の形態2において、模擬信号生成部18が正規化用係数を掛けることで、スケールの差が揃った第1模擬信号mi1(t)及び第2模擬信号mi2(t)の一例を示す図である。
そして、模擬信号生成部18は、正規化用係数を掛けた後の第1模擬信号mi1(t)及び第2模擬信号mi2(t)をあわせて模擬信号mi(t)とする。
【0114】
このように、模擬信号生成部18が、被験者の左右の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化を模擬した信号(第1模擬信号mi1(t))のスケール、及び、被験者の前後の動きによって生じる計測領域ri(k)の輝度変化を模擬した信号(第2模擬信号mi2(t))のスケールを正規化した信号に基づき、模擬信号mi(t)を生成することで、脈波推定装置1aは、被験者の前後の動きも考慮して、被験者の肌領域の位置変化によるノイズを除去し、被験者の脈波を推定することができる。
【0115】
また、以上の実施の形態2において、例えば、計測領域設定部13が設定する計測領域は1つであってもよい。
また、脈波推定装置1aにおいて、模擬信号生成部18が、模擬信号を生成する際に、計測領域設定部13が設定した複数の計測領域のうちから1つ計測領域を選択し、選択した1つの計測領域のみについて模擬信号を生成してもよい。
【0116】
また、以上の実施の形態2では、脈波推定装置1aは状態推定装置2に備えられていたが、これは一例に過ぎない。脈波推定装置1aは、状態推定装置2の外部に備えられ、状態推定装置2の外部にて状態推定装置2と接続されていてもよい。
また、以上の実施の形態2では、照明部は撮像装置に備えられていたが、これは一例に過ぎない。例えば、撮像装置の外部に照明装置が備えられ、照明装置が、撮像装置の外部から撮像範囲に光を照射してもよい。
【0117】
また、以上の実施の形態2でも、被験者は、車両のドライバ以外の乗員としてもよい。
【0118】
また、以上の実施の形態2では、脈波推定装置1a及び状態推定装置2は車載装置とし、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23は、車載装置に備えられていた。
これに限らず、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23のうち、一部が車両の車載装置に搭載され、その他が当該車載装置とネットワークを介して接続されるサーバに備えられて、車載装置とサーバとでシステムを構成してもよい。
また、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18と、脈波情報取得部21と、状態推定部22と、出力部23が全部サーバに備えられてもよい。
【0119】
また、以上の実施の形態2に係る脈波推定装置1a及び状態推定装置2は、実施の形態1に係る脈波推定装置1及び状態推定装置2同様、車両に搭載される車載装置に限らず、例えば、家電機器に適用することもできる。また、被験者は、車両の乗員に限らず、様々な人とできる。
【0120】
実施の形態2に係る脈波推定装置1aのハードウェア構成は、実施の形態1において
図8A及び
図8Bを用いて説明した脈波推定装置1のハードウェア構成と同様である。
実施の形態2において、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18の機能は、処理回路101により実現される。すなわち、脈波推定装置1aは、被験者の脈波を推定する制御を行うための処理回路101を備える。
処理回路101は、
図8Aに示すように専用のハードウェアであっても、
図8Bに示すようにメモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。
処理回路101は、メモリ105に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18の機能を実行する。すなわち、脈波推定装置1aは、処理回路101により実行されるときに、上述の
図12のステップST21~ステップST27が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ105を備える。また、メモリ105に記憶されたプログラムは、撮像画像取得部11と、肌領域検出部12と、計測領域設定部13と、脈波元信号抽出部14と、模擬信号取得部15と、脈波推定部16と、出力部17と、模擬信号生成部18の処理の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。
また、脈波推定装置1aは、撮像装置等の装置と、有線通信又は無線通信を行う入力インタフェース装置102及び出力インタフェース装置103を備える。
【0121】
以上のように、実施の形態2に係る脈波推定装置1aは、実施の形態1に係る脈波推定装置1の構成に加え、模擬信号mi(t)を生成する模擬信号生成部18を備えるように構成した。そのため、脈波推定装置1aは、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。その結果、脈波推定装置1aは、被験者の脈波を高精度に推定できる。
【0122】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【0123】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0124】
(付記1)
人を撮像した撮像画像を取得する撮像画像取得部と、
前記撮像画像から前記人の肌領域を検出する肌領域検出部と、
前記撮像画像上の、前記肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための計測領域を設定する計測領域設定部と、
前記撮像画像上の前記計測領域における前記輝度変化に基づき、前記脈波元信号を抽出する脈波元信号抽出部と、
前記計測領域における前記輝度変化のノイズ成分と推定される、前記計測領域の前記輝度変化を模擬した模擬信号を取得する模擬信号取得部と、
前記脈波元信号から前記模擬信号を除去した後のノイズ除去信号に、前記人の脈波を推定するための信号が残るように、前記模擬信号を調整するための係数を算出する係数算出部と、
前記脈波元信号から前記係数を掛算した前記模擬信号を除去するノイズ除去部と、
前記ノイズ除去信号に基づいて前記人の前記脈波を推定する推定部
とを備えた脈波推定装置。
(付記2)
前記模擬信号を生成する模擬信号生成部を備え、
前記模擬信号取得部は、前記模擬信号生成部が生成した前記模擬信号を取得する
ことを特徴とする付記1記載の脈波推定装置。
(付記3)
前記模擬信号生成部は、前記計測領域の位置変化に基づき、前記計測領域の位置変化によって生じる前記計測領域の前記輝度変化を模擬した信号を、前記模擬信号として生成する
ことを特徴とする付記2記載の脈波推定装置。
(付記4)
前記模擬信号生成部は、前記計測領域の位置変化と、撮像範囲における環境光の分布モデルとに基づき、前記環境光のもとで、前記計測領域の位置変化によって生じる前記計測領域の前記輝度変化を模擬した信号を、前記模擬信号として生成する
ことを特徴とする付記2記載の脈波推定装置。
(付記5)
前記環境光は、前記撮像画像を撮像した撮像装置が備える照明部が照射する照明光である
ことを特徴とする付記4記載の脈波推定装置。
(付記6)
前記模擬信号生成部は、前記環境光が照射される状況に応じた複数の異なる前記環境光の前記分布モデルと前記計測領域の位置変化とに基づき、前記模擬信号を生成する
ことを特徴とする付記4または付記5記載の脈波推定装置。
(付記7)
前記模擬信号生成部は、前記人の左右の動きによって生じる前記計測領域の前記輝度変化を示す信号のスケール、及び、前記人の前後の動きによって生じる前記計測領域の前記輝度変化を示す信号の前記スケール、を正規化した信号に基づき、前記模擬信号を生成する
ことを特徴とする付記2記載の脈波推定装置。
(付記8)
付記1から付記7のうちのいずれか1つ記載の脈波推定装置が推定した前記人の前記脈波に基づいて、前記人の状態を推定する状態推定部
を備えた状態推定装置。
(付記9)
前記状態推定部は、前記人の状態として、前記人の覚醒度を推定する
ことを特徴とする付記8記載の状態推定装置。
(付記10)
前記状態推定部は、前記人が覚醒していると想定される状態で前記脈波推定装置が推定した前記人の前記脈波に基づいて基準脈拍数を算出しておき、前記脈波推定装置が推定した前記脈波と、前記基準脈拍数との比較によって、前記人の前記覚醒度を推定する
ことを特徴とする付記9記載の状態推定装置。
(付記11)
撮像画像取得部が、人を撮像した撮像画像を取得するステップと、
肌領域検出部が、前記撮像画像から前記人の肌領域を検出するステップと、
計測領域設定部が、前記撮像画像上の、前記肌領域に対応する領域に、輝度変化を示す脈波元信号を抽出するための計測領域を設定するステップと、
脈波元信号抽出部が、前記撮像画像上の前記計測領域における前記輝度変化に基づき、前記脈波元信号を抽出するステップと、
模擬信号取得部が、前記計測領域における前記輝度変化のノイズ成分と推定される、前記計測領域の前記輝度変化を模擬した模擬信号を取得するステップと、
係数算出部が、前記脈波元信号から前記模擬信号を除去した後のノイズ除去信号に、前記人の脈波を推定するための信号が残るように、前記模擬信号を調整するための係数を算出するステップと、
ノイズ除去部が、前記脈波元信号から前記係数を掛算した前記模擬信号を除去するステップと、
推定部が、前記ノイズ除去信号に基づいて前記人の前記脈波を推定するステップ
とを備えた脈波推定方法。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示に係る脈波推定装置は、ノイズ除去の際に、被験者の肌領域の輝度信号に含まれる脈波信号までもがノイズ成分とみなされ除去されてしまうことによって上記被験者の脈波の推定に用いるべき上記被験者の肌領域の輝度信号を抽出できない事態を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0126】
1,1a 脈波推定装置、11 撮像画像取得部、12 肌領域検出部、13 計測領域設定部、14 脈波元信号抽出部、15 模擬信号取得部、16 脈波推定部、161 係数算出部、162 ノイズ除去部、163 推定部、17 出力部、18 模擬信号生成部、2 状態推定装置、21 脈波情報取得部、22 状態推定部、23 出力部、3 出力装置、401 撮像部、402 照明部、101 処理回路、102 入力インタフェース装置、103 出力インタフェース装置、104 プロセッサ、105 メモリ。