(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/66 20060101AFI20240920BHJP
B60T 17/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60T13/66 A
B60T17/00 E
(21)【出願番号】P 2024527966
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2022023861
(87)【国際公開番号】W WO2023242966
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】松山 悦司
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 俊平
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-338123(JP,A)
【文献】米国特許第6472769(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0034058(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に搭載される機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置であって、
複数のスロットを有し、前記複数のスロットに電気的に接続される電源ラインおよび指令用ラインが形成されるバックプレーンと、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、制御用電源から制御用電源線を介して直流電力の供給を受け、非常ブレーキ用電源から非常ブレーキ指令線を介して直流電力の供給を受け、前記電源ラインに直流電力を供給し、前記非常ブレーキ指令線に印加される直流電圧の電圧値に応じて前記指令用ラインに直流電圧を印加する電源回路が形成されている電源基板と、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記鉄道車両のブレーキ指令および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御回路が形成されているブレーキ制御基板と、
を備えるブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記ブレーキ指令から前記鉄道車両の目標ブレーキ力を決定する目標ブレーキ力決定部と、前記目標ブレーキ力から前記機械ブレーキ装置に供給される流体の目標圧を決定する目標圧決定部と、を有する演算処理モジュールが実装されている演算処理基板をさらに備え、
前記ブレーキ制御回路は、前記目標圧および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキ装置を制御する、
請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記演算処理モジュールは、前記ブレーキ指令および前記鉄道車両の車輪の軸速度から前記鉄道車両の滑走の有無を判別する滑走判別部をさらに有し、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記滑走判別部の判別結果および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキに供給される流体の圧力を調節する滑走制御回路が形成されている滑走制御基板をさらに備える、
請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記演算処理モジュールは、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する異常判別部をさらに有する、
請求項2または3に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記異常判別部は、前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記異常判別部は、前記鉄道車両の運転指令および前記機械ブレーキ装置に供給される流体の圧力に応じて前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
請求項5に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別するモニタリング回路が形成されているモニタリング基板をさらに備える、
請求項1から
3のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別するモニタリング回路が形成されているモニタリング基板をさらに備え、
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果と前記鉄道車両の運転指令および他のブレーキ制御装置が有する前記演算処理モジュールの前記モニタリング回路の判別結果の少なくともいずれかとに応じて、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する、
請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果および前記鉄道車両の運転指令に応じて、前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
請求項8に記載のブレーキ制御装置。
【請求項10】
前記電源回路は、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に断線が生じていないと判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給し、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づいて前記指令用ラインに直流電圧を印加し、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に断線が生じていると判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づいて、直流電力を前記電源ラインに供給し、前記指令用ラインに直流電圧を印加する、
請求項
4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項11】
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果および他のブレーキ制御装置が有する前記演算処理モジュールの前記モニタリング回路の判別結果に応じて、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する、
請求項8に記載のブレーキ制御装置。
【請求項12】
前記異常判別部は、前記非常ブレーキ指令線の短絡の有無を判別する、
請求項11に記載のブレーキ制御装置。
【請求項13】
前記電源回路は、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に短絡が生じていないと判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給し、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づいて前記指令用ラインに直流電圧を印加し、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に短絡が生じていると判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づいて、直流電力を前記電源ラインに供給し、前記指令用ラインを前記非常ブレーキ指令線から電気的に切り離す、
請求項12に記載のブレーキ制御装置。
【請求項14】
前記電源回路は、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して、前記電源ラインに供給するための直流電力が得られなくなると、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給する、
請求項1から
3のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に搭載されるブレーキ制御装置は、機械ブレーキ装置を制御してブレーキ力を生じさせる常用ブレーキ制御、または機械ブレーキ装置を制御して常用ブレーキ制御時よりも大きいブレーキ力を生じさせる非常ブレーキ制御を行う。運転台に設けられる主幹制御器において非常ブレーキの操作が行われていないときには、非常ブレーキ用電源によって、非常ブレーキ指令線に一定の直流電圧が印加されている。主幹制御器において非常ブレーキの操作が行われると、非常ブレーキ指令線に直流電圧が印加されなくなる。ブレーキ制御装置は、非常ブレーキ指令線に接続されていて、非常ブレーキ指令線に印加されている直流電圧が低下すると、非常ブレーキ制御を行う。この種のブレーキ制御装置の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるブレーキ制御装置のように、空気溜めから供給される空気を機械ブレーキ装置に供給することで機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置は、電磁弁と、電磁弁を制御するブレーキ制御ユニットと、電磁弁およびブレーキ制御ユニットを収容する筐体と、を備える。ブレーキ制御ユニットは、ブレーキ制御の各機能にそれぞれ対応する複数の基板と、複数の基板が接続されるバックプレーンと、複数の基板およびバックプレーンを収容するサブラックと、を有する。主幹制御器において非常ブレーキの操作が行われているか否かによって、ブレーキ制御の各機能の処理内容を変更するブレーキ制御ユニットでは、筐体の内部に引き通した非常ブレーキ指令線が分岐し、分岐した非常ブレーキ指令線が各基板に接続されている。
【0005】
非常ブレーキ指令線において断線、短絡等の異常が生じると、主幹制御器におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応しないことがある。例えば、非常ブレーキ指令線における異常の一例である断線が生じると、非常ブレーキ指令線を介してブレーキ制御装置に直流電力が供給されないため、ブレーキ制御装置は、主幹制御器において非常ブレーキの操作が行われていないにも関わらず、非常ブレーキ制御を行ってしまう。分岐された非常ブレーキ指令線が各基板に接続されていると、非常ブレーキ指令線において異常が生じた箇所の特定に時間を要するため、上述のようにブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消するために時間を要する。
【0006】
本開示は上述の事情に鑑みてなされたものであり、主幹制御器におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態の解消に要する時間を短縮可能なブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示に係るブレーキ制御装置は、鉄道車両に搭載される機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置であって、バックプレーンと、電源基板と、ブレーキ制御基板と、を備える。バックプレーンは、複数のスロットを有する。バックプレーンには、複数のスロットに電気的に接続される電源ラインおよび指令用ラインが形成される。電源基板は、スロットのいずれかに取り付けられる。電源基板には、制御用電源から制御用電源線を介して直流電力の供給を受け、非常ブレーキ用電源から非常ブレーキ指令線を介して直流電力の供給を受け、電源ラインに直流電力を供給し、非常ブレーキ指令線に印加されている直流電圧の電圧値に応じて指令用ラインに直流電圧を印加する電源回路が形成されている。ブレーキ制御基板は、スロットのいずれかに取り付けられる。ブレーキ制御基板には、鉄道車両のブレーキ指令および指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御回路が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るブレーキ制御装置において、ブレーキ制御基板に形成されるブレーキ制御回路は、ブレーキ指令および指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、機械ブレーキ制御を制御する。このため、電源基板に接続されている非常指令線を分岐してブレーキ制御基板に接続する必要がない。この結果、非常ブレーキ指令線において異常が生じた箇所の特定が容易となり、主幹制御器におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態の解消に要する時間を短縮可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係るブレーキ制御装置のブロック図
【
図2】実施の形態1に係るブレーキ制御ユニットのブロック図
【
図3】実施の形態1に係る演算処理モジュールのブロック図
【
図4】実施の形態1に係る演算処理モジュールのハードウェア構成を示すブロック図
【
図5】実施の形態1に係るブレーキ制御回路のハードウェア構成を示すブロック図
【
図6】実施の形態1に係るブレーキ制御ユニットの分解斜視図
【
図7】実施の形態1に係るブレーキ制御ユニットの斜視図
【
図8】実施の形態1に係る電源回路の実装例を示す図
【
図9】実施の形態2に係るブレーキ制御装置のブロック図
【
図10】実施の形態2に係るブレーキ制御ユニットのブロック図
【
図11】実施の形態2に係る演算処理モジュールのブロック図
【
図12】実施の形態2に係るブレーキ制御ユニットの分解斜視図
【
図13】実施の形態2に係る電源回路の実装例を示す図
【
図14】実施の形態3に係る電源回路の実装例を示す図
【
図15】実施の形態4に係る電源回路の実装例を示す図
【
図16】実施の形態に係る演算処理モジュールの変形例のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態に係るブレーキ制御装置について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0011】
(実施の形態1)
鉄道車両に搭載される機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置を例にして、実施の形態1に係るブレーキ制御装置について説明する。
図1に示すブレーキ制御装置1は、主幹制御器91に伝送線91aを介して接続され、非常ブレーキ用電源92に非常ブレーキ指令線92aおよび接触器93を介して接続され、制御用電源94に制御用電源線94aを介して接続される。ブレーキ制御装置1は、空気ばね95および流体源96に接続される。
図1において、太い実線は空気管を示し、細い実線は電源線または信号線を示す。
【0012】
ブレーキ制御装置1は、流体源96から流体の供給を受け、流体の圧力を調節し、圧力が調節された流体を滑走防止弁97を介して接続されている機械ブレーキ装置98に供給することで、機械ブレーキ装置98を制御する。
【0013】
ブレーキ制御装置1は、鉄道車両の各車両に設けられる。非常ブレーキ用電源92は、複数のブレーキ制御装置1に共通した電源である。空気ばね95は、各車両の車体を支持する台車ごとに設けられる。機械ブレーキ装置98は、車輪ごとに設けられる。滑走防止弁97は、機械ブレーキ装置98ごとに設けられる。
【0014】
主幹制御器91は、例えば運転台に設けられ、運転員の操作に応じて運転指令をブレーキ制御装置1に出力する。運転指令は、鉄道車両の加速を指示する力行指令、鉄道車両の減速を指示するブレーキ指令、および鉄道車両の惰行運転を指示する惰行指令のいずれかを含む。惰行指令は、運転指令およびブレーキ指令のいずれも含まれていない状態を示すものとする。
【0015】
非常ブレーキ用電源92は、例えば100Vの直流電源であって、鉄道車両の全ての車両に引き通されている非常ブレーキ指令線92aを介して直流電力を各車両に設けられるブレーキ制御装置1に供給する。
【0016】
接触器93は、主幹制御器91の操作、ATS(Automatic Train Stop:自動列車停止)装置からの指令、非常スイッチの操作等によって投入または開放される。接触器93が投入されている間は、非常ブレーキ用電源92からブレーキ制御装置1に直流電力が供給されている。非常ブレーキ用電源92からブレーキ制御装置1に直流電力が供給されている状態で、ブレーキ指令を含む運転指令がブレーキ制御装置1に送られると、ブレーキ制御装置1は、機械ブレーキ装置98を制御してブレーキ力を生じさせる常用ブレーキ制御を行う。
【0017】
接触器93が開放されると、非常ブレーキ用電源92からブレーキ制御装置1への直流電力の供給が停止される。非常ブレーキ用電源92からブレーキ制御装置1への直流電力の供給が停止されると、ブレーキ制御装置1は、機械ブレーキ装置98を制御して常用ブレーキ制御時よりも大きいブレーキ力を生じさせる非常ブレーキ制御を行う。
【0018】
実施の形態1では、運転員の操作に応じて主幹制御器91が出力する接触器制御信号によって、接触器93が投入または開放される。鉄道車両の運行開始時には、接触器93は投入されている。運転員が力行、惰行または通常のブレーキに相当する操作を行うと、主幹制御器91は、運転指令をブレーキ制御装置1に出力し、接触器93の投入を指示する接触器制御信号を接触器93に送る。この結果、接触器93は投入されたままとなる。
【0019】
運転員が非常ブレーキに相当する操作を行うと、主幹制御器91は、ブレーキ指令を含む運転指令をブレーキ制御装置1に出力し、接触器93の開放を指示する接触器制御信号を接触器93に送る。この結果、接触器93が開放される。ブレーキ制御装置1は、機械ブレーキ装置98を制御して常用ブレーキ制御時よりも大きいブレーキ力を生じさせる非常ブレーキ制御を行う。
【0020】
制御用電源94は、直流電源であって、制御用電源線94aを介して直流電力をブレーキ制御装置1に供給する。
【0021】
空気ばね95は、鉄道車両の車体を支持する台車に設けられる。ブレーキ制御装置1は、空気管を介して空気ばね95が有する空気室に接続されている。
【0022】
流体源96は、機械ブレーキ装置98を動作させるために用いられる流体をブレーキ制御装置1に供給する。実施の形態1では、流体源96が供給する流体として空気が用いられる。
【0023】
滑走防止弁97は、ブレーキ制御装置1と機械ブレーキ装置98とを接続する空気管に設けられ、信号線97aを介してブレーキ制御装置1に接続される。鉄道車両の車輪の滑走が生じると、ブレーキ制御装置1の制御によって、滑走防止弁97が開く。この結果、機械ブレーキ装置98に供給される空気が滑走防止弁97から排出され、機械ブレーキ装置98に供給される空気の圧力が低下する。これにより、機械ブレーキ装置98によって生じるブレーキ力が減少し、車輪がレールに再粘着する。
【0024】
機械ブレーキ装置98は、ブレーキ制御装置1から空気の供給を受けるブレーキシリンダと、一部がブレーキシリンダの内部に位置し、ブレーキシリンダ内の空気の圧力に応じて摺動するピストンと、を有する。機械ブレーキ装置98はさらに、ピストンに取り付けられる摩擦材として、例えば、制輪子を有する。ブレーキシリンダ内の空気の圧力に応じてピストンが摺動して制輪子が回転している車輪に押し付けられることで、ブレーキ力が生じる。
【0025】
ブレーキ制御装置1は、制御用電源線94aを介して制御用電源94から直流電力の供給を受けて動作し、主幹制御器91から取得した運転指令に含まれるブレーキ指令および非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、機械ブレーキ装置98の常用ブレーキ制御または非常ブレーキ制御を行う。
【0026】
常用ブレーキ制御時には、ブレーキ制御装置1は、ブレーキ指令が示す目標減速度および空気ばね95が有する空気室内の圧力の測定値に応じて、流体源96から供給される空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を滑走防止弁97を介して機械ブレーキ装置98に供給する。
【0027】
非常ブレーキ制御時には、ブレーキ制御装置1は、空気ばね95から供給される空気の圧力に応じて流体源96から供給される空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を滑走防止弁97を介して機械ブレーキ装置98に供給する。
【0028】
ブレーキ制御装置1は、常用ブレーキ制御または非常ブレーキ制御を行うブレーキ制御ユニット11と、ブレーキ制御ユニット11からの信号に応じて流体源96から供給される空気の圧力を調節する常用電磁弁21と、を備える。ブレーキ制御装置1はさらに、空気ばね95から供給される空気の圧力に応じて流体源96から供給される空気を圧縮して出力する応荷重弁22と、ブレーキ制御ユニット11からの信号に応じて応荷重弁22から出力される流体を出力する非常電磁弁23と、を備える。常用電磁弁21は信号線21aを介してブレーキ制御ユニット11に接続され、非常電磁弁23は信号線23aを介してブレーキ制御ユニット11に接続される。
【0029】
ブレーキ制御装置1はさらに、常用電磁弁21および非常電磁弁23が出力する空気の内、圧力が高い空気を出力する複式逆止弁24と、複式逆止弁24が出力する空気の圧力に応じて流体源96から供給される空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を滑走防止弁97を介して機械ブレーキ装置98に供給する中継弁25と、を備える。
【0030】
ブレーキ制御装置1はさらに、空気ばね95の空気室内の空気の圧力および中継弁25が出力する空気の圧力をそれぞれ測定する圧力センサ26をさらに備える。
【0031】
常用電磁弁21は、信号線21aを介してブレーキ制御ユニット11に接続される。常用電磁弁21は、ブレーキ制御ユニット11から送られる電磁弁制御信号に応じて、流体源96から供給される空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を複式逆止弁24に送る。
【0032】
応荷重弁22は、空気ばね95から供給される空気の圧力に応じて内部のピストンが変位することで、流体源96から供給される空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を複式逆止弁24に送る。応荷重弁22が出力する空気の圧力は、常用電磁弁21が出力する空気の圧力が取り得る値の最大値よりも大きいものとする。これにより、非常ブレーキ制御時に常用ブレーキ制御時よりも大きいブレーキ力を生じさせることが可能となる。
【0033】
複式逆止弁24は、高位優先性を有する電磁弁である。詳細には、複式逆止弁24は、常用電磁弁21および非常電磁弁23が出力する空気の内、圧力が高い空気を出力する。
【0034】
中継弁25は、複式逆止弁24が出力する空気の圧力に応じて、流体源96が出力する空気の圧力を調節し、圧力が調節された空気を滑走防止弁97を介して機械ブレーキ装置98に供給する。
【0035】
圧力センサ26は、中継弁25および空気ばね95に接続される。圧力センサ26は、信号線26aを介してブレーキ制御ユニット11に接続される。圧力センサ26は、中継弁25が出力する空気の圧力の測定値および空気ばね95が有する空気ばねの空気室内の圧力の測定値をブレーキ制御ユニット11に送る。
【0036】
ブレーキ制御ユニット11の詳細について以下に説明する。
図2に示すように、ブレーキ制御ユニット11は、主幹制御器91から取得した運転指令に含まれるブレーキ指令から機械ブレーキ装置98に供給される空気の圧力の目標値である目標圧を決定し、鉄道車両の車輪の滑走の有無を判別する演算処理モジュール31を備える。ブレーキ制御ユニット11はさらに、目標圧および非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に応じて常用電磁弁21または非常電磁弁23を制御するブレーキ制御回路32と、演算処理モジュール31で判別された滑走の有無に応じて滑走防止弁97を制御する滑走制御回路33と、を備える。ブレーキ制御ユニット11はさらに、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32、および滑走制御回路33に電力を供給する電源回路34を備える。
【0037】
図2において細い実線で示すように、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32、および滑走制御回路33は互いにシステムバス54で接続されている。
図2において太い実線で示すように、電源回路34は、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32、および滑走制御回路33に指令用ライン57を介して接続される。電源回路34は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、指令用ライン57に直流電圧を印加する。詳細には、指令用ライン57は、電源回路34によって、非常ブレーキ指令線92aに電気的に接続される。この結果、指令用ライン57に印可されている直流電圧の電圧値は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に一致するとみなせる。
【0038】
図2において二重線で示すように、電源回路34は、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32、および滑走制御回路33に電源ライン55,56を介して接続される。電源回路34は、電源ライン55,56を介して、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32、および滑走制御回路33のそれぞれに、直流電力を供給する。
【0039】
図3に示すように、演算処理モジュール31は、車両のブレーキ力の目標値である目標ブレーキ力を決定する目標ブレーキ力決定部41と、目標ブレーキ力から目標圧を決定し、目標圧をブレーキ制御回路32に送る目標圧決定部42と、ブレーキ時に車輪の滑走が生じているか否かを判別し、判別結果を滑走制御回路33に送る滑走判別部43と、を有する。
【0040】
目標ブレーキ力決定部41は、主幹制御器91から取得した運転指令に含まれるブレーキ指令が示す目標減速度に、圧力センサ26が測定した空気ばね95の空気室内の圧力から得られる車両の重量を乗算することで目標ブレーキ力を決定する。
【0041】
目標圧決定部42は、目標ブレーキ力を機械ブレーキ装置98が有する制輪子と車輪との接触面の摩擦係数で除算することで、制輪子を車輪に押し付ける力の目標値である目標押付力を決定する。目標圧決定部42は、目標押付力をピストンの摺動方向に直交する面の面積値で除算することで、目標圧を決定する。
【0042】
滑走判別部43は、図示しない速度検出器から各車軸の回転速度を取得し、各車軸の回転速度から、各車輪の周速度を求め、各車輪の周速度を軸速度として用いる。滑走判別部43は、各車両において軸速度の最大値を基準軸速度とし、軸速度と基準軸速度との差が目標範囲であるか否かに基づいて滑走の有無を判別する。例えば、軸速度の少なくともいずれかと基準軸速度との差が閾値速度差以上であれば、滑走が生じているとみなすことができる。閾値速度差は、試験走行またはシミュレーションによって定められ、滑走が生じていないときに起こり得る軸速度の変動、滑走時に生じ得る軸速度と基準軸速度との差等に応じて決定されればよい。
【0043】
上述の演算処理モジュール31のハードウェア構成を
図4に示す。演算処理モジュール31は、プロセッサ81と、メモリ82と、インターフェース83と、を備える。プロセッサ81、メモリ82、およびインターフェース83は互いにバス80で接続されている。演算処理モジュール31の各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ82に格納される。プロセッサ81が、メモリ82に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、上述の各部の機能が実現される。すなわち、メモリ82には、目標ブレーキ力決定部41、目標圧決定部42、および滑走判別部43の各部の処理を実行するためのプログラムが格納される。
【0044】
メモリ82は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)等を含む。
【0045】
演算処理モジュール31は、インターフェース83を介して、ブレーキ制御回路32、滑走制御回路33、および電源回路34に接続される。インターフェース83は、接続先に応じて、1つまたは複数の規格に準拠したインターフェースモジュールを有する。
【0046】
上述のブレーキ制御回路32、滑走制御回路33および電源回路34は、処理回路で実現される。一例として、ブレーキ制御回路32のハードウェア構成例を
図5に示す。
図5に示すように、ブレーキ制御回路32は、処理回路84で実現される。処理回路84は、インターフェース85を介して、常用電磁弁21、非常電磁弁23、演算処理モジュール31、滑走制御回路33、および電源回路34に接続される。処理回路84が専用のハードウェアである場合、処理回路84は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものである。
【0047】
ブレーキ制御回路32は、機能ごとに設けられた個別の処理回路84を有してもよいし、複数の機能に対して共通の処理回路84を有してもよい。滑走制御回路33および電源回路34は、ブレーキ制御回路32と同様のハードウェア構成を有する。
【0048】
上記構成を有するブレーキ制御装置1の構造について以下に説明する。ブレーキ制御装置1は、上述の構成要素、具体的には、ブレーキ制御ユニット11、常用電磁弁21、応荷重弁22、非常電磁弁23、複式逆止弁24、中継弁25、および圧力センサ26を収容する筐体を有する。
【0049】
ブレーキ制御ユニット11は、
図6および
図7に示すように、サブラック装置で実現される。詳細には、ブレーキ制御ユニット11は、一面が開口している箱型の形状を有するサブラック51と、サブラック51に収容され、複数のスロット53a,53b,53c,53dが設けられるバックプレーン52と、を有する。ブレーキ制御ユニット11はさらに、スロット53aに取り付けられる演算処理基板61、スロット53bに取り付けられるブレーキ制御基板62と、スロット53cに取り付けられる滑走制御基板63と、スロット53dに取り付けられる電源基板64と、を有する。
【0050】
サブラック51は、ブレーキ制御装置1の図示しない筐体に収容される。詳細には、サブラック51は、ブレーキ制御装置1の筐体の内部の内、筐体の外部から空気が流入することが抑制されている空間に収容される。
【0051】
バックプレーン52には、スロット53a,53b,53cに接続されるシステムバス54、スロット53a,53b,53c,53dに電気的に接続される電源ライン55,56、および、スロット53a,53b,53c,53dに電気的に接続される指令用ライン57が形成される。
【0052】
演算処理基板61は、プラグインユニットであって、伝送線91aおよび信号線26aが取り付け可能なポートを有するフロントパネル61aと、スロット53aに取り付けられるコネクタ61bと、
図4に示す演算処理モジュール31の構成要素が実装されるプリント基板61cと、を有する。
図6に示すフロントパネル61aおよびコネクタ61bは、
図4に示すインターフェース83として機能する。
【0053】
図6および
図7に示すように、ブレーキ制御基板62は、プラグインユニットであって、信号線21a,23aが取り付け可能なポートを有するフロントパネル62aと、スロット53bに取り付けられるコネクタ62bと、
図2に示すブレーキ制御回路32が実装されるプリント基板62cと、を有する。
図6に示すフロントパネル62aおよびコネクタ62bは、
図5に示すインターフェース85として機能する。
【0054】
図6および
図7に示すように、滑走制御基板63は、プラグインユニットであって、信号線97aが取り付け可能なポートを有するフロントパネル63aと、スロット53cに取り付けられるコネクタ63bと、
図2に示す滑走制御回路33が実装されるプリント基板63cと、を有する。
図6に示すフロントパネル63aおよびコネクタ63bは、
図5に示すインターフェース85として機能する。
【0055】
図6および
図7に示すように、電源基板64は、プラグインユニットであって、非常ブレーキ指令線92aおよび制御用電源線94aが取り付け可能なポートを有するフロントパネル64aと、スロット53dに取り付けられるコネクタ64bと、
図2に示す電源回路34が実装されるプリント基板64cと、を有する。
図6に示すフロントパネル64aおよびコネクタ64bは、
図5に示すインターフェース85として機能する。
【0056】
図6および
図7に示す電源基板64は、演算処理基板61、ブレーキ制御基板62、および滑走制御基板63に電力を供給する。電源基板64の構成の詳細について以下に説明する。
図8に示すように、電源基板64のプリント基板64cに実装される電源回路34は、フロントパネル64aに取り付けられる非常ブレーキ指令線92aを、コネクタ64bおよびスロット53dを介して指令用ライン57に電気的に接続するパターン配線71を有する。これにより、指令用ライン57に印可されている直流電圧の電圧値は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に一致するとみなせる。例えば、指令用ライン57には、100Vの直流電圧が印加されるとみなせる。
【0057】
電源回路34はさらに、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを、コネクタ64bおよびスロット53dを介して電源ライン55,56に電気的に接続するパターン配線72を有する。電源回路34はさらに、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力を他の基板、具体的には、演算処理基板61、ブレーキ制御基板62および滑走制御基板63の少なくともいずれかに供給するための直流電力に変換する電力変換回路73を有する。
【0058】
電力変換回路73は、例えば、DC(Direct Current:直流)-DCコンバータである。実施の形態1では、電源ライン55には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給される。電源ライン56には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。
【0059】
上述のように、指令用ライン57に印可されている直流電圧の電圧値は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に一致するとみなせる。このため、演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31、ブレーキ制御基板62に実装されているブレーキ制御回路32、滑走制御基板63に実装されている滑走制御回路33は、非常ブレーキ指令線92aに直接的に接続されていなくても、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値を取得することが可能となる。
【0060】
ブレーキ制御装置1のブレーキ制御および滑走制御の動作について以下に説明する。ブレーキ制御ユニット11は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上である間は、常用ブレーキ制御および滑走制御を行い、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧未満になると、非常ブレーキ制御を行う。閾値電圧は、非常ブレーキ指令線92aに異常が生じていない状態で非常ブレーキ指令線92aに印加される直流電圧が取り得る値の範囲に応じて定められればよい。例えば、閾値電圧は、非常ブレーキ用電源92の出力電圧の目標値に0.8を乗算した値である。
【0061】
ブレーキ制御ユニット11が行う常用ブレーキ制御および滑走制御の詳細について以下に説明する。演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上である間は、常用ブレーキ制御および滑走制御を行う。
【0062】
図3に示す演算処理モジュール31が有する目標ブレーキ力決定部41は、伝送線91aを介して主幹制御器91から運転指令を取得し、信号線26aを介して圧力センサ26から空気ばね95が有する空気室内の空気の圧力の測定値を取得する。目標ブレーキ力決定部41は、運転指令がブレーキ指令を含むときは、ブレーキ指令が示す目標減速度に、空気ばねの空気室内の空気の圧力の測定値から得られる車両の重量を乗算することで目標ブレーキ力を決定する。
【0063】
目標圧決定部42は、機械ブレーキ装置98が有する制輪子と車輪との接触面の摩擦係数および目標ブレーキ力から、目標押付力を決定する。目標圧決定部42は、摩擦係数についての情報を予め保持しているものとする。
【0064】
目標圧決定部42は、目標押付力をピストンの摺動方向に直交する面の面積値で除算することで、目標圧を決定する。目標圧決定部42は、ピストンの摺動方向に直交する面の面積値についての情報を予め保持しているものとする。目標圧決定部42が決定した目標圧は、システムバス54を介してブレーキ制御基板62に実装されているブレーキ制御回路32に送られる。
【0065】
滑走判別部43は、伝送線91aを介して主幹制御器91から取得した運転指令がブレーキ指令を含むときは、少なくとも1つの軸速度と基準軸速度との差が閾値速度差以上であるか否かを判別する。少なくとも1つの軸速度と基準軸速度との差が閾値速度差以上であれば、滑走が生じているとみなすことができる。
【0066】
滑走判別部43は、少なくとも1つの軸速度と基準軸速度との差が閾値速度差以上であれば、滑走が生じていることを示す滑走判別結果を出力する。滑走判別部43は各軸速度と基準軸速度との差が閾値速度差未満であれば、滑走が生じていないことを示す滑走判別結果を出力する。滑走判別結果は、システムバス54を介して滑走制御基板63に実装されている滑走制御回路33に送られる。
【0067】
ブレーキ制御基板62に実装されているブレーキ制御回路32は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上である間は、システムバス54を介して取得した目標圧に応じて常用電磁弁21を制御する。詳細には、ブレーキ制御回路32は、システムバス54を介して取得した目標圧に応じて、信号線21aを介して常用電磁弁21に電磁弁制御信号を送ることで常用電磁弁21を制御する。このとき、ブレーキ制御回路32は、信号線23aを介して非常電磁弁23に電磁弁制御信号を送ることで非常電磁弁23を閉じたままとする。これにより、応荷重弁22から供給される空気は、複式逆止弁24に供給されない。この結果、常用電磁弁21が出力する空気は、複式逆止弁24および滑走防止弁97を介して、機械ブレーキ装置98に送られる。
【0068】
滑走制御基板63に実装されている滑走制御回路33は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上である間は、システムバス54を介して取得した滑走判別結果に応じて滑走防止弁97を制御する。詳細には、滑走制御回路33は、滑走が生じていることを示す滑走判別結果を取得すると、滑走防止弁97を開く。滑走防止弁97が開くと、中継弁25から出力される空気が排気され、機械ブレーキ装置98に供給される空気の圧力が減少する。この結果、ブレーキ力が減少し、車輪がレールに再粘着する。滑走制御回路33は、滑走が生じていないことを示す滑走判別結果を取得すると、滑走防止弁97を閉じたままに維持する。これにより、中継弁25から出力される空気は、排気されることなく機械ブレーキ装置98に供給される。
【0069】
ブレーキ制御ユニット11が行う非常ブレーキ制御の詳細について以下に説明する。演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧未満になると、非常ブレーキ制御を行う。非常ブレーキ制御時において、演算処理モジュール31が有する目標ブレーキ力決定部41は、常用ブレーキ制御時と同様に目標ブレーキ力の決定を行い、目標圧決定部42は、常用ブレーキ制御時と同様に目標圧の決定を行う。非常ブレーキ制御時において、滑走判別部43は上述の滑走の有無の判別を行わない。
【0070】
ブレーキ制御基板62に実装されているブレーキ制御回路32は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧未満になると、システムバス54を介して取得した目標圧によらず、信号線23aを介して非常電磁弁23に電磁弁制御信号を送ることで非常電磁弁23を開く。非常電磁弁23が開かれると、応荷重弁22が出力する空気が、複式逆止弁24に供給される。上述のように、非常電磁弁23が出力する空気の圧力は、常用電磁弁21が出力する空気の圧力より高いため、非常電磁弁23が出力する空気は、複式逆止弁24および滑走防止弁97を介して、機械ブレーキ装置98に送られる。
【0071】
滑走制御基板63に実装されている滑走制御回路33は、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧未満になると、システムバス54を介して取得した滑走判別結果によらず、滑走防止弁97を閉じたままに維持する。この結果、非常ブレーキ制御時には滑走制御が行われない。
【0072】
以上説明した通り、実施の形態1に係るブレーキ制御装置1において、非常ブレーキ指令線92aは、電源基板64に接続されていて、他の基板、具体的には、演算処理基板61、ブレーキ制御基板62、および滑走制御基板63に接続されていない。このため、複数の基板にそれぞれ非常ブレーキ指令線が接続されている構造と比べると、非常ブレーキ指令線92aにおいて異常が生じた箇所の特定が容易となる。実施の形態1に係るブレーキ制御装置1によれば、非常ブレーキ指令線92aにおいて異常が生じた際に、主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態の解消に要する時間を短縮可能となる。
【0073】
ブレーキ制御装置1において、電源基板64と演算処理基板61、ブレーキ制御基板62、および滑走制御基板63のそれぞれとを接続する指令用ライン57に、非常ブレーキ指令線92aから供給される直流電力に基づく直流電圧が印加されている。このため、演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31、ブレーキ制御基板62に実装されているブレーキ制御回路32、滑走制御基板63に実装されている滑走制御回路33は、非常ブレーキ指令線92aに直接的に接続されていなくても、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値を取得することが可能となる。換言すれば、演算処理モジュール31、ブレーキ制御回路32および滑走制御回路33は、非常ブレーキ指令線92aに直接的に接続されていなくても、主幹制御器91における非常ブレーキの操作の有無を判別することが可能となる。
【0074】
演算処理基板61に接続される信号線26aに流れる電圧信号は、例えば5Vの低電圧信号である。演算処理基板61には、高電圧が印加される非常ブレーキ指令線92aが接続されないため、信号線26aに流れる電圧信号が、非常ブレーキ指令線92aに印加される高電圧に起因する電磁ノイズの影響を受けることが抑制される。
【0075】
(実施の形態2)
非常ブレーキ指令線92aの異常、例えば断線が生じると、主幹制御器91において非常ブレーキの操作が行われていないにも関わらず、非常ブレーキ制御が行われてしまう。主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消するための構造を有するブレーキ制御装置について実施の形態1との差異を中心に実施の形態2で説明する。
【0076】
図9に示す実施の形態2に係るブレーキ制御装置2は、主幹制御器91から、伝送線91a、列車統合管理装置99、および伝送線99aを介して、運転指令を取得する。ブレーキ制御装置2の構成は、実施の形態1に係るブレーキ制御装置1と同様である。
【0077】
制御用電源94の出力電圧の目標値は、非常ブレーキ用電源92の出力電圧の目標値以上である。制御用電源94は、非常ブレーキ用電源92と同様に100Vの直流電源であることが好ましい。
【0078】
ブレーキ制御装置2が備えるブレーキ制御ユニット12は、
図10に示すように、ブレーキ制御ユニット11の構成に加えて、非常ブレーキ指令線92aの状態を監視するモニタリング回路35をさらに有する。詳細には、モニタリング回路35は、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かの判別を定められた間隔で繰り返す。実施の形態1と同様に、指令用ライン57に印加されている直流電圧の電圧値は、非常ブレーキ指令線92aに印加されている直流電圧の電圧値に一致するとみなせる。このため、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値を監視することで、非常ブレーキ指令線92aの状態を監視することが可能となる。
【0079】
図11に示すように、演算処理モジュール31は、実施の形態1に係るブレーキ制御ユニット11が有する演算処理モジュール31の構成に加えて、非常ブレーキ指令線92aの異常の有無を判別する異常判別部44をさらに有する。
【0080】
詳細には、異常判別部44は、運転指令およびモニタリング回路35の判別結果に応じて非常ブレーキ指令線92aの断線の有無を判別する。例えば、異常判別部44は、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない惰行指令である場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別する。
【0081】
運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満になるということは、主幹制御器91において非常ブレーキの操作がされていないにも関わらず、非常ブレーキ制御が行われていることを意味する。例えば、非常ブレーキ指令線92aに断線が生じると、主幹制御器91において非常ブレーキの操作がされていないにも関わらず、ブレーキ制御装置2は、非常ブレーキ制御を行う。したがって、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満になると、非常ブレーキ指令線92aに断線が生じているとみなすことができる。
【0082】
異常判別部44は、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であると判別すると、電源回路34を制御して、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力に基づいて、指令用ライン57に直流電圧を印加させる。
【0083】
図12に示すように、ブレーキ制御ユニット12は、実施の形態1と同様に、サブラック装置で実現される。バックプレーン52には、複数のスロット53a,53b,53c,53d,53eが設けられる。ブレーキ制御ユニット12は、実施の形態1に係るブレーキ制御ユニット11の構成に加えて、スロット53eに取り付けられるモニタリング基板65をさらに有する。
【0084】
バックプレーン52には、スロット53a,53b,53d,53eに接続されるシステムバス54、スロット53a,53b,53c,53d,53eに電気的に接続される電源ライン55,56、および、スロット53a,53b,53c,53d,53eに電気的に接続される指令用ライン57が形成される。
【0085】
モニタリング基板65は、プラグインユニットであって、フロントパネル65aと、スロット53eに取り付けられるコネクタ65bと、モニタリング回路35が実装されるプリント基板65cと、を有する。モニタリング回路35は、ブレーキ制御回路32と同様のハードウェア構成を有する。詳細には、フロントパネル65aおよびコネクタ65bは、
図5に示すインターフェース85として機能する。
【0086】
図12に示す指令用ライン57には、非常ブレーキ指令線92aを介して供給される直流電力に基づく直流電圧が印加されている。このため、モニタリング基板65に実装されているモニタリング回路35は、非常ブレーキ指令線92aに直接的に接続されていなくても、非常ブレーキ指令線92aに印加されている電圧値を取得することが可能となる。
【0087】
電源基板64は、演算処理基板61、ブレーキ制御基板62、滑走制御基板63、およびモニタリング基板65に電力を供給する。電源基板64の構成の詳細について以下に説明する。
図13に示すように、電源基板64のプリント基板64cに実装される電源回路34は、実施の形態1における電源回路34の構成に加えて、指令用ライン57の接続先を切り替えるスイッチ74と、スイッチ74を切り替えるスイッチ制御回路75と、をさらに有する。
【0088】
スイッチ74は、パターン配線71を介して、フロントパネル64aに取り付けられる非常ブレーキ指令線92aに電気的に接続される端子74aと、パターン配線72を介して、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aに電気的に接続される端子74bと、を有する。スイッチ74はさらに、パターン配線71およびコネクタ64bを介して指令用ライン57に電気的に接続される端子74cを有する。端子74cは、端子74aまたは端子74bに接続される。
【0089】
スイッチ制御回路75は、システムバス54を介して演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31から取得した指令に応じて、端子74cの接続先を切り替える。例えば、スイッチ制御回路75は、演算処理モジュール31から取得した指令に応じて、リレーで形成されるスイッチ74が有するコイルに流れる電流を調節することで、スイッチ74を切り替えればよい。
【0090】
ブレーキ制御装置1の動作開始時には、端子74cは端子74aに接続されている。これにより、指令用ライン57に印可される直流電圧の値は、非常ブレーキ指令線92aに印加される直流電圧の値に一致するとみなせる。実施の形態1と同様に、電源ライン55には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給される。電源ライン56には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。
【0091】
非常ブレーキ指令線92aに断線が生じると、指令用ライン57に印加されている直流電圧が閾値電圧を下回るため、実施の形態1と同様に、ブレーキ制御回路32が非常ブレーキ制御を行う。この結果、主幹制御器91において非常ブレーキの操作が行われていないにも関わらず、非常ブレーキ制御が行われてしまう。主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消するためにブレーキ制御装置2が行う復旧動作について以下に説明する。
【0092】
異常判別部44は、上述のように、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別する。異常判別部44は、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であると判別すると、システムバス54を介して電源回路34のスイッチ制御回路75に非常ブレーキ指令線92aの異常が生じている旨の通知を行う。
【0093】
スイッチ制御回路75は、非常ブレーキ指令線92aの異常の通知を受けると、端子74cを端子74bに接続する。これにより、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が指令用ライン57に供給される。制御用電源94の出力電圧値が非常ブレーキ用電源92の出力電圧値以上であれば、指令用ライン57に印加される電圧は閾値電圧以上となる。この結果、ブレーキ制御回路32は、非常ブレーキ制御を終了する。これにより、主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態が解消される。
【0094】
スイッチ74の状態に関わらず、電源ライン55には、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給され、電源ライン56には、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。
【0095】
以上説明した通り、実施の形態2に係るブレーキ制御装置1において、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じると、電源回路34は、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力に基づいて指令用ライン57に直流電圧を印加する。この結果、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じた際に、主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消することが可能となる。例えば、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じた際に、意図していない非常ブレーキ制御が行われることを抑制することが可能となる。
【0096】
(実施の形態3)
非常ブレーキ指令線92aの異常は、断線に限られない。非常ブレーキ指令線92aの断線の有無だけでなく、非常ブレーキ指令線92aの短絡の有無を判別する異常判別部44を有する演算処理モジュール31を備えるブレーキ制御ユニット12について実施の形態3で説明する。ブレーキ制御ユニット12および演算処理モジュール31の構成は、実施の形態2と同様である。
【0097】
複数の車両を有する鉄道車両において、非常ブレーキ用電源92に接続される非常ブレーキ指令線92aは、全車両に引き通され、各車両において分岐されて各車両に設けられるブレーキ制御装置2に接続される。分岐された非常ブレーキ指令線92aで異常が生じた場合には、他の車両での非常ブレーキ指令線92aの状態と比較することで、異常の有無を判別することが可能となる。実施の形態3では、3つ以上の車両で編成される鉄道車両を例にして、非常ブレーキ指令線92aの異常の有無の判別について説明する。
【0098】
実施の形態3に係るブレーキ制御ユニット12が行う非常ブレーキ指令線92aの異常の有無の判別方法について以下に説明する。モニタリング回路35は、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かの判別を定められた間隔で繰り返す。
【0099】
異常判別部44は、モニタリング回路35から取得した判別結果を列車統合管理装置99に送信する。異常判別部44は、列車統合管理装置99から、他の車両に設けられるブレーキ制御装置2が備えるブレーキ制御ユニット12が有するモニタリング回路35での判別結果を取得する。異常判別部44は、モニタリング回路35から取得した判別結果と列車統合管理装置99から取得した他の車両におけるモニタリング回路35での判別結果とを比較し、非常ブレーキ指令線92aの異常の有無を判別する。
【0100】
例えば、異常判別部44は、モニタリング回路35から取得した判別結果と列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果のそれぞれとが一致するか否かを判別する。モニタリング回路35から取得した判別結果と列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果の少なくともいずれかとが一致すれば、非常ブレーキ指令線92aの異常は生じていないとみなすことができる。
【0101】
モニタリング回路35から取得した判別結果が、列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果のいずれにも一致しなければ、非常ブレーキ指令線92aの異常が生じているとみなすことができる。
【0102】
詳細には、モニタリング回路35から取得した判別結果が、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であることを示し、列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果がいずれも、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であることを示していれば、非常ブレーキ指令線92aの短絡が生じているとみなすことができる。
【0103】
モニタリング回路35から取得した判別結果が、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であることを示し、列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果がいずれも、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であることを示していれば、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じているとみなすことができる。
【0104】
図14に示すように、電源基板64のプリント基板64cに実装される電源回路34は、指令用ライン57の接続先を切り替えるスイッチ76を有する。スイッチ76は、スイッチ制御回路75によって切り替えられる。
【0105】
スイッチ76は、パターン配線71を介して、フロントパネル64aに取り付けられる非常ブレーキ指令線92aに電気的に接続される端子76aと、パターン配線72を介して、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aに電気的に接続される端子76bと、を有する。スイッチ76はさらに、パターン配線71およびコネクタ64bを介して指令用ライン57に電気的に接続される端子76cと、接地されている接地端子76dと、を有する。端子76cは、端子76a、端子76bまたは接地端子76dに接続される。
【0106】
スイッチ制御回路75は、システムバス54を介して演算処理基板61に実装されている演算処理モジュール31から取得した通知に応じて、端子76cの接続先を切り替える。
【0107】
ブレーキ制御装置2の動作開始時には、端子76cは端子76aに接続されている。これにより、指令用ライン57に印可される直流電圧の値は、非常ブレーキ指令線92aに印加される直流電圧の値に一致するとみなせる。実施の形態1と同様に、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給される。電源ライン56には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。
【0108】
非常ブレーキ指令線92aに断線が生じると、指令用ライン57に印加されている直流電圧が閾値電圧を下回るため、実施の形態1と同様に、ブレーキ制御回路32が非常ブレーキ制御を行う。この結果、主幹制御器91において非常ブレーキの操作が行われていないにも関わらず、非常ブレーキ制御が行われてしまう。
【0109】
非常ブレーキ指令線92aに短絡が生じると、主幹制御器91において非常ブレーキの操作が行われても、非常ブレーキ指令線92aに直流電圧が印加され続ける。この結果、主幹制御器91において非常ブレーキの操作が行われても、常用電磁弁21が出力する空気が機械ブレーキ装置98に供給され、実ブレーキ力は非常ブレーキ時の所望のブレーキ力を下回る。
【0110】
主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消するためにブレーキ制御装置2が行う復旧動作について以下に説明する。
【0111】
異常判別部44は、上述のように、モニタリング回路35から取得した判別結果と列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果のそれぞれとが一致するか否かを判別する。
【0112】
異常判別部44は、モニタリング回路35から取得した判別結果が、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であることを示し、列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果がいずれも、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であることを示していれば、システムバス54を介して電源回路34のスイッチ制御回路75に、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じている旨の通知を行う。
【0113】
スイッチ制御回路75は、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じている旨の通知を受けると、端子76cを端子76bに接続する。これにより、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が指令用ライン57に供給される。制御用電源94の出力電圧値が非常ブレーキ用電源92の出力電圧値以上であれば、指令用ライン57に印加される電圧は閾値電圧以上となる。この結果、ブレーキ制御回路32は、非常ブレーキ制御を終了する。これにより、主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態が解消される。
【0114】
異常判別部44は、モニタリング回路35から取得した判別結果が、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧以上であることを示し、列車統合管理装置99から取得した他の複数の車両におけるモニタリング回路35での判別結果がいずれも、指令用ライン57に印加される電圧の電圧値が閾値電圧未満であることを示していれば、システムバス54を介して電源回路34のスイッチ制御回路75に、非常ブレーキ指令線92aの短絡が生じている旨の通知を行う。
【0115】
スイッチ制御回路75は、非常ブレーキ指令線92aの短絡が生じている旨の通知を受けると、端子76cを接地端子76dに接続する。これにより、指令用ライン57は、非常ブレーキ指令線92aから電気的に切り離される。詳細には、指令用ライン57は接地される。この結果、指令用ライン57に印加される電圧は閾値電圧未満となるため、ブレーキ制御回路32は、非常ブレーキ制御を開始する。これにより、主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態が解消される。
【0116】
スイッチ76の状態に関わらず、電源ライン55には、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給され、電源ライン56には、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。
【0117】
以上説明した通り、実施の形態3に係るブレーキ制御装置2において、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じると、電源回路34は、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力に基づいて指令用ライン57に直流電圧を印加する。この結果、非常ブレーキ指令線92aの断線が生じて、意図していない非常ブレーキ制御が行われることを抑制することが可能となる。
【0118】
非常ブレーキ指令線92aの短絡が生じると、電源回路34は、指令用ライン57を接地端子76dに接続する。この結果、非常ブレーキ指令線92aの短絡が生じて、実ブレーキ力が非常ブレーキ時の所望のブレーキ力を下回ることを抑制することが可能となる。
【0119】
(実施の形態4)
主幹制御器91におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態は、非常ブレーキ指令線92aの異常だけでなく、制御用電源線94aの異常によっても起こり得る。制御用電源線94aの異常、具体的には、制御用電源線94aの断線が生じると、制御用電源94からブレーキ制御ユニット11に直流電力が供給されないため、ブレーキ制御を行うことができなくなる。
【0120】
制御用電源線94aの断線が生じた際に、運転台におけるブレーキの操作と実際のブレーキ制御とが対応していない状態を解消するための構造を有するブレーキ制御装置について実施の形態1との差異を中心に実施の形態4で説明する。
【0121】
実施の形態4に係るブレーキ制御装置1の構造は、実施の形態1に係るブレーキ制御装置1と同様である。
図15に示すように、電源基板64のプリント基板64cに実装される電源回路34は、電源ライン55,56の接続先を切り替えるスイッチ77と、スイッチ77を切り替えるスイッチ制御回路78と、をさらに有する。
【0122】
スイッチ77は、パターン配線72を介して、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aに電気的に接続される端子77aと、パターン配線71を介して、フロントパネル64aに取り付けられる非常ブレーキ指令線92aに電気的に接続される端子77bと、を有する。スイッチ77はさらに、パターン配線72、電力変換回路73、およびコネクタ64bを介して電源ライン55に電気的に接続され、パターン配線72およびコネクタ64bを介して電源ライン56に電気的に接続される端子77cを有する。端子77cは、端子77aまたは端子77bに接続される。
【0123】
スイッチ制御回路78は、非常用電源線92aを介して非常ブレーキ用電源92から供給される直流電力によって駆動され、制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力の電圧値に応じて、端子76cの接続先を切り替える。
【0124】
ブレーキ制御装置1の動作開始時には、端子77cは端子77aに接続されている。これにより、実施の形態1と同様に、電源ライン55には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給され、電力変換回路73で降圧された直流電力が供給される。電源ライン56には、フロントパネル64aに取り付けられる制御用電源線94aを介して制御用電源94から供給される直流電力が供給される。実施の形態1と同様に、指令用ライン57に印加される直流電圧の値は、非常ブレーキ指令線92aに印加される直流電圧の値に一致するとみなせる。
【0125】
制御用電源線94aに断線が生じると、制御用電源94から制御用電源線94aを介して、電源ライン55,56に供給するための直流電力が得られなくなり、パターン配線72における直流電圧が低下する。スイッチ制御回路78は、パターン配線72における直流電圧が各基板が動作するために必要な電圧値未満となると、端子77cを端子77bに接続する。この結果、非常ブレーキ指令線92aを介して非常ブレーキ用電源92から供給される直流電力に基づく直流電力が電源ライン55,56に供給される。これにより、制御用電源線94aに断線が生じても、ブレーキ制御装置1がブレーキ制御を継続することが可能となる。
【0126】
スイッチ77の状態に関わらず、指令用ライン57には、非常用電源線92aを介して供給される直流電力に基づく直流電圧が印加される。
【0127】
以上説明した通り、実施の形態4に係るブレーキ制御装置1において、制御用電源線94aの断線が生じると、電源回路34は、非常ブレーキ指令線92aを介して非常ブレーキ用電源92から供給される直流電力に基づく直流電力を電源ライン55,56に供給する。この結果、制御用電源線94aに断線が生じても、ブレーキ制御装置1がブレーキ制御を継続することが可能となる。
【0128】
本開示は、上述の実施の形態に限られない。非常ブレーキ指令線92aの異常の有無を判別する方法は、上述の例に限られない。実施の形態2に係るブレーキ制御装置2が有するブレーキ制御ユニット12は、モニタリング回路35を有さずに、演算処理モジュール31は、運転指令および中継弁25が出力する空気の圧力に応じて、非常ブレーキ指令線92aの断線の有無を判別してもよい。詳細には、
図16に示すように、異常判別部44は、列車統合管理装置99から運転指令を取得し、圧力センサ26から中継弁25が出力する空気の圧力の測定値を取得する。異常判別部44は、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、中継弁25が出力する空気の圧力の測定値が閾値圧力以上であるか否かを判別する。閾値圧力は、常用ブレーキ制御時に中継弁25が出力する空気の圧力の測定値が取り得る値の範囲の上限値よりも高い値である。
【0129】
非常ブレーキ指令線92aの異常の有無の判別制度を高めるために、異常判別部44は、運転指令が力行指令を含む場合、または、運転指令が力行指令およびブレーキ指令のいずれも含まない場合に、中継弁25が出力する空気の圧力の測定値が閾値圧力以上である状態が定められた判定期間以上継続するか否かを判別することが好ましい。判定期間は、中継弁25が出力する空気の圧力の変動による誤判定を防ぐのに十分な長さの時間である。
【0130】
実施の形態1に係るブレーキ制御装置1は、実施の形態2-4と同様に、列車統合管理装置99から運転指令を取得してもよい。
【0131】
ブレーキ制御装置1,2の構造は、上述の例に限られない。一例として、ブレーキ制御装置1,2は、滑走制御基板63を備えなくてもよい。他の一例として、ブレーキ制御装置1,2は、他の機能に対応する基板をさらに備えてもよい。
【0132】
非常ブレーキ時のブレーキ制御ユニット11,12の処理は、上述の例に限られない。一例として、滑走制御回路33は、非常ブレーキ時にも常用ブレーキ時と同様に滑走制御を行ってもよい。他の一例として、滑走制御回路33は、非常ブレーキ時には、常用ブレーキ時と比べて滑走防止弁97の開度を小さく調節してもよい。
【0133】
演算処理基板61、ブレーキ制御基板62、滑走制御基板63、および電源基板64の配置順序は、上述の例に限られず任意である。モニタリング基板65の配置位置は、上述の例に限られず任意である。
【0134】
バックプレーン52が備えるスロットの数は、上述の例に限られず任意である。バックプレーン52に設けられる電源ラインの個数は、上述の例に限られず任意である。
【0135】
異常判別部44は、列車統合管理装置99の一機能として実現されてもよい。
【0136】
列車統合管理装置99は、異常判別部44から取得した判別結果を、例えば、運転台に設けられる表示装置に出力してもよい。
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
鉄道車両に搭載される機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置であって、
複数のスロットを有し、前記複数のスロットに電気的に接続される電源ラインおよび指令用ラインが形成されるバックプレーンと、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、制御用電源から制御用電源線を介して直流電力の供給を受け、非常ブレーキ用電源から非常ブレーキ指令線を介して直流電力の供給を受け、前記電源ラインに直流電力を供給し、前記非常ブレーキ指令線に印加される直流電圧の電圧値に応じて前記指令用ラインに直流電圧を印加する電源回路が形成されている電源基板と、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記鉄道車両のブレーキ指令および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御回路が形成されているブレーキ制御基板と、
を備えるブレーキ制御装置。
(付記2)
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記ブレーキ指令から前記鉄道車両の目標ブレーキ力を決定する目標ブレーキ力決定部と、前記目標ブレーキ力から前記機械ブレーキ装置に供給される流体の目標圧を決定する目標圧決定部と、を有する演算処理モジュールが実装されている演算処理基板をさらに備え、
前記ブレーキ制御回路は、前記目標圧および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキ装置を制御する、
付記1に記載のブレーキ制御装置。
(付記3)
前記演算処理モジュールは、前記ブレーキ指令および前記鉄道車両の車輪の軸速度から前記鉄道車両の滑走の有無を判別する滑走判別部をさらに有し、
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記滑走判別部の判別結果および前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値に応じて、前記機械ブレーキに供給される流体の圧力を調節する滑走制御回路が形成されている滑走制御基板をさらに備える、
付記2に記載のブレーキ制御装置。
(付記4)
前記演算処理モジュールは、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する異常判別部をさらに有する、
付記2または3に記載のブレーキ制御装置。
(付記5)
前記異常判別部は、前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
付記4に記載のブレーキ制御装置。
(付記6)
前記異常判別部は、前記鉄道車両の運転指令および前記機械ブレーキ装置に供給される流体の圧力に応じて前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
付記5に記載のブレーキ制御装置。
(付記7)
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別するモニタリング回路が形成されているモニタリング基板をさらに備える、
付記1から6のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
(付記8)
前記スロットのいずれかに取り付けられ、前記指令用ラインに印加されている直流電圧の電圧値が閾値電圧以上であるか否かを判別するモニタリング回路が形成されているモニタリング基板をさらに備え、
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果と前記鉄道車両の運転指令および他のブレーキ制御装置が有する前記演算処理モジュールの前記モニタリング回路の判別結果の少なくともいずれかとに応じて、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する、
付記4に記載のブレーキ制御装置。
(付記9)
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果および前記鉄道車両の運転指令に応じて、前記非常ブレーキ指令線の断線の有無を判別する、
付記8に記載のブレーキ制御装置。
(付記10)
前記電源回路は、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に断線が生じていないと判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給し、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づいて前記指令用ラインに直流電圧を印加し、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に断線が生じていると判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づいて、直流電力を前記電源ラインに供給し、前記指令用ラインに直流電圧を印加する、
付記4から6、8、9のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
(付記11)
前記異常判別部は、前記モニタリング回路の判別結果および他のブレーキ制御装置が有する前記演算処理モジュールの前記モニタリング回路の判別結果に応じて、前記非常ブレーキ指令線の異常の有無を判別する、
付記8に記載のブレーキ制御装置。
(付記12)
前記異常判別部は、前記非常ブレーキ指令線の短絡の有無を判別する、
付記11に記載のブレーキ制御装置。
(付記13)
前記電源回路は、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に短絡が生じていないと判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給し、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づいて前記指令用ラインに直流電圧を印加し、前記異常判別部で前記非常ブレーキ指令線に短絡が生じていると判別されると、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して取得した直流電力に基づいて、直流電力を前記電源ラインに供給し、前記指令用ラインを前記非常ブレーキ指令線から電気的に切り離す、
付記12に記載のブレーキ制御装置。
(付記14)
前記電源回路は、前記制御用電源から前記制御用電源線を介して、前記電源ラインに供給するための直流電力が得られなくなると、前記非常ブレーキ用電源から前記非常ブレーキ指令線を介して取得した直流電力に基づく直流電力を前記電源ラインに供給する、
付記1から13のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【0137】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0138】
1,2 ブレーキ制御装置、11,12 ブレーキ制御ユニット、21 常用電磁弁、21a,23a,26a 信号線、22 応荷重弁、23 非常電磁弁、24 複式逆止弁、25 中継弁、26 圧力センサ、31 演算処理モジュール、32 ブレーキ制御回路、33 滑走制御回路、34 電源回路、35 モニタリング回路、41 目標ブレーキ力決定部、42 目標圧決定部、43 滑走判別部、44 異常判別部、51 サブラック、52 バックプレーン、53a,53b,53c,53d,53e スロット、54 システムバス、55,56 電源ライン、57 指令用ライン、61 演算処理基板、61a,62a,63a,64a,65a フロントパネル、61b,62b,63b,64b,65b コネクタ、61c,62c,63c,64c,65c プリント基板、62 ブレーキ制御基板、63 滑走制御基板、64 電源基板、65 モニタリング基板、71,72 パターン配線、73 電力変換回路、74,76,77 スイッチ、74a,74b,74c,76a,76b,76c,77a,77b,77c 端子、75,78 スイッチ制御回路、76d 接地端子、80 バス、81 プロセッサ、82 メモリ、83,85 インターフェース、84 処理回路、91 主幹制御器、91a,99a 伝送線、92 非常ブレーキ用電源、92a 非常ブレーキ指令線、93 接触器、94 制御用電源、94a 制御用電源線、95 空気ばね、96 流体源、97 滑走防止弁、97a 信号線、98 機械ブレーキ装置、99 列車統合管理装置