(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240920BHJP
【FI】
H02M7/48 U
(21)【出願番号】P 2024542090
(86)(22)【出願日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2024013826
【審査請求日】2024-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 宏規
(72)【発明者】
【氏名】谷山 雄紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健治
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-183571(JP,A)
【文献】特開2007-252094(JP,A)
【文献】特開2007-325448(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126545(WO,A1)
【文献】特開2022-053492(JP,A)
【文献】国際公開第2022/149206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上のスイッチ素子を備え、交流電源から印加される第1の交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータが出力する電圧を平滑するコンデンサと、
前記コンデンサによって平滑された直流電圧を第2の交流電圧に変換し、前記第2の交流電圧をモータに印加して回転駆動させるインバータと、
前記コンバータ及び前記インバータをそれぞれ駆動制御する制御装置を備え、
前記コンバータ及び前記インバータは、前記コンバータに流れるコンバータ電流及び前記インバータに流れるインバータ電流を検出するために、それぞれが少なくとも1つの電流検出部を備え、
前記制御装置は、前記電流検出部によって検出された前記コンバータ電流及び前記インバータ電流の検出値を使用し、前記コンデンサに流れるコンデンサ電流を演算対象として、前記コンバータの動作状態によって演算処理を切り替えて、コンデンサ電流の推定演算を行うコンデンサ電流推定部を備え
、
前記コンデンサ電流推定部は、推定した前記コンデンサ電流を周波数分析することで前記コンデンサ電流に含まれる複数の特定周波数成分の電流振幅を演算し、演算した複数の前記特定周波数成分の電流振幅のそれぞれを前記コンデンサの周波数特性に応じて正規化し、正規化した複数の前記特定周波数成分の電流振幅を用いて、推定した前記コンデンサ電流の実効値を演算する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記インバータは、前記制御装置が生成する前記インバータの各相に付与する相電圧指令によってスイッチング制御される複数のスイッチ素子を備え、
前記コンデンサ電流推定部は、前記複数のスイッチ素子に対する前記相電圧指令の大小関係が中間となる相を中間相とするときに、
前記中間相のスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わる前の第1のスイッチング状態継続時間と、前記第1のスイッチング状態継続時間に検出されたインバータ電流の検出値との積、及び前記中間相のスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わった後の第2のスイッチング状態継続時間と、前記第2のスイッチング状態継続時間に検出されたインバータ電流の検出値との積に基づいて、前記インバータのスイッチング周期ごとに前記インバータ電流の平均値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記コンデンサ電流推定部において分析される複数の特定周波数には、N、Mを任意の自然数とするときに、前記交流電源から印加される交流電圧の周波数のN倍の周波数、駆動対象である機械装置の回転周波数のM倍の周波数、前記N倍の周波数と前記M倍の周波数との和である周波数和、及び前記N倍の周波数と前記M倍の周波数との差である周波数差のうちの少なくとも1つが含まれる
ことを特徴とする請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記コンデンサ電流推定部において分析される複数の特定周波数には、K、Lを任意の自然数とするときに、前記コンバータのスイッチング周波数のK倍の周波数、及び前記インバータのスイッチング周波数のL倍の周波数のうちの少なくとも1つが含まれる
ことを特徴とする請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、推定した前記コンデンサ電流の推定値が予め設定されたコンデンサ電流の制限値を超えた場合には、アラーム信号を出力するアラーム信号発生部を備えたことを特徴とする請求項1から
4の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記アラーム信号を受信して前記モータの回転速度指令を低下させる速度指令垂下部を備えたことを特徴とする請求項
5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
請求項1から
4の何れか1項に記載の電力変換装置を備えるモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1から
4の何れか1項に記載の電力変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力を所望の電力に変換する電力変換装置、モータ駆動装置及び冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源からの交流電圧を直流電圧に変換し、更に直流電圧を所望の交流電力に変換する電力変換装置では、直流電圧のリプル電圧の変動を低減するために、平滑用のコンデンサが設けられることがある。このコンデンサには、直流電圧のリプル電圧に応じたリプル電流が流れる。
【0003】
平滑用のコンデンサに流れるリプル電流は、コンデンサの自己発熱の原因となる。また、平滑用のコンデンサに過大なリプル電流が流れ続けると、コンデンサが故障し、或いは、コンデンサが寿命劣化に至る。コンデンサのリプル電流を低減する対策として、コンデンサを大容量化することが挙げられる。しかしながら、コンデンサを大容量化すると、装置のコスト上昇を招き、装置重量が増加する。装置のコスト上昇の抑制、及び装置重量の増加の抑制は、用途を問わず、常に電力変換装置に求められる共通の課題である。
【0004】
従来から、コンデンサのリプル電流を低減する種々の制御技術が提案されている。例えば、コンデンサに流出入する電流の脈動を抑制するように、インバータから出力されるモータ電流を適切に制御する技術がある。しかしながら、この種の何れの制御においても、コンデンサのリプル電流を低減する制御が正常に機能しないときには、コンデンサに過大なリプル電流が流れ続けるので、コンデンサの故障又は寿命劣化を回避することが困難になる。従って、電力変換装置の動作中にコンデンサに流れるリプル電流を把握しておくことは重要である。コンデンサに流れるコンデンサ電流を推定する技術を開示した文献には、例えば下記特許文献1がある。この特許文献1には、直流電圧の検出値及びコンデンサ容量値を用いてコンデンサ電流を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術において、コンデンサ電流の推定に用いるコンデンサ容量値は、公称値に対して個体差や経時変化による誤差が生じるので、推定されるコンデンサ電流にも誤差が生じてしまうという課題がある。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、コンデンサ容量値が公称値に対して個体差や経時変化を有する場合であっても、コンデンサ電流を精度よく推定可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る電力変換装置は、コンバータ、コンデンサ及びインバータ、並びにコンバータ及びインバータをそれぞれ駆動制御する制御装置を備える。コンバータは、少なくとも1つ以上のスイッチ素子を備え、交流電源から印加される第1の交流電圧を直流電圧に変換する。コンデンサは、コンバータが出力する電圧を平滑する。インバータは、コンデンサによって平滑された直流電圧を第2の交流電圧に変換し、変換した第2の交流電圧をモータに印加して回転駆動させる。コンバータ及びインバータは、コンバータに流れるコンバータ電流及びインバータに流れるインバータ電流を検出するために、それぞれが少なくとも1つの電流検出部を備える。制御装置は、コンバータ及びインバータをそれぞれ駆動制御する。また、制御装置は、電流検出部によって検出されたコンバータ電流及びインバータ電流の検出値を使用し、コンデンサに流れるコンデンサ電流を演算対象として、コンバータの動作状態によって演算処理を切り替えて、コンデンサ電流の推定演算を行うコンデンサ電流推定部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電力変換装置によれば、コンデンサ容量値が公称値に対して個体差や経時変化を有する場合であっても、コンデンサ電流を精度よく推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置及びモータ駆動装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1に係る電力変換装置に備えられるコンバータの動作説明に供する図
【
図3】実施の形態1のコンバータ制御部及びコンバータの動作説明に供する図
【
図4】実施の形態1の制御装置に備えられるインバータ制御部の構成例を示すブロック図
【
図6】実施の形態1のインバータにおける8つのスイッチングパターンを示す図
【
図7】実施の形態1のインバータ及びインバータ制御部の動作説明に供するタイムチャート
【
図8】実施の形態1の制御装置に備えられるコンデンサ電流推定部の構成例を示すブロック図
【
図9】実施の形態1のコンデンサ電流推定部に備えられる電流実効値演算部の構成例を示すブロック図
【
図10】実施の形態2に係る電力変換装置及びモータ駆動装置の構成例を示す図
【
図11】実施の形態2に係る電力変換装置に備えられるコンバータの動作説明に供する図
【
図12】実施の形態3に係る電力変換装置及びモータ駆動装置の構成例を示す図
【
図13】実施の形態3に係る制御装置に備えられるインバータ制御部及びコンデンサ電流推定部の構成例を示すブロック図
【
図14】実施の形態3に係るインバータ、インバータ制御部及びコンデンサ電流推定部の動作説明に供するタイムチャート
【
図15】実施の形態4に係る電力変換装置及びモータ駆動装置の構成例を示す図
【
図16】実施の形態5に係る電力変換装置及びモータ駆動装置の構成例を示す図
【
図17】実施の形態6に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る電力変換装置、モータ駆動装置及び冷凍サイクル適用機器について詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置1及びモータ駆動装置2の構成例を示す図である。電力変換装置1は、商用電源110及び圧縮機400に接続される。電力変換装置1は、商用電源110から供給される第1の交流電力を所望の振幅及び位相を有する第2の交流電力に変換し、圧縮機400に供給する。商用電源110は単相であってもよいし、3相であってもよい。本稿では、商用電源110が単相の場合について説明する。
【0013】
図1に示す圧縮機400は、駆動対象である機械装置の一例である。圧縮機400は、電力変換装置1によって駆動されるモータ401と、機械負荷402とを備える。モータ401は機械負荷402を駆動し、機械負荷402は機械的な仕事を行う。本稿では、圧縮機400を一例として説明するが、圧縮機400以外の機械装置にも適用可能である。実施の形態1に係るモータ駆動装置2は、電力変換装置1と、圧縮機400に備えられるモータ401とによって構成される。
【0014】
圧縮機400では、冷媒を吸入、圧縮、吐出する際に、周期的な負荷トルクが変化する。モータ401の速度が概ね一定であるとき、圧縮機400における負荷トルクは周期的な脈動波形となる。なお、圧縮機400において、圧縮機400が冷媒を圧縮するための機械的構造は特に限定されない。圧縮機400は、ロータリー圧縮機であってもよいし、レシプロ圧縮機であってもよいし、スクロール圧縮機であってもよいし、スクリュー圧縮機であってもよい。また、圧縮機400は、これら以外の圧縮機であってもよい。
【0015】
また、電力変換装置1は、
図1に示されるように、コンバータ100と、コンデンサ200と、インバータ300と、電流検出部301a,301bと、電圧検出部201a,201bと、制御装置3とを備える。制御装置3は、電流検出部301a,301b及び電圧検出部201a,201bによって検出された検出値のうちの少なくとも1つの検出値に基づいて、コンバータ100及びインバータ300をそれぞれ駆動制御する。
【0016】
コンバータ100は、商用電源110とコンデンサ200との間に接続される。コンバータ100は、少なくとも1つ以上のスイッチ素子を備え、交流電源である商用電源110から印加される第1の交流電圧を直流電圧に変換して出力する電力変換器である。コンバータ100の出力端には、コンデンサ200、電圧検出部201b、インバータ300が接続される。
【0017】
交流電源から直流電圧を得る際には、力率改善回路を用いるのが一般的である。力率改善回路は、高調波規格に準拠可能なように交流電流を制御する機能と、出力の直流母線電圧の変動を抑制する機能とを有する。
【0018】
図1に示すコンバータ100は、簡易スイッチング回路と呼ばれる力率改善回路により構成される。具体的に、コンバータ100は、商用電源110の入力側に設置されたリアクトル120と、ダイオード整流器130と、2つのダイオード140a,140bにスイッチ素子150を接続した簡易スイッチングセル160とを備える。コンバータ100における電流及び電圧の検出には、
図1のように電流検出部301a及び電圧検出部201a,201bを用いることができる。オープンループ制御を適用する場合、
図1のような、電流検出部301a及び電圧検出部201a,201bを使用しなくてもよい。なお、
図1では、スイッチ素子150をIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の記号で表しているが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いてもよく、スイッチ素子150はIGBTには限定されない。また、
図1では力率改善回路を用いたコンバータ100として、簡易スイッチングセル160を備えた回路構成を例示しているが、これら以外の回路構成であってもよい。その他の力率改善回路の一例は、後述の実施の形態で説明する。
【0019】
電流検出部301aは、
図1に示すようにダイオード整流器130の下側の出力端に設置されている。ダイオード整流器130の下側の出力端とは、ダイオード整流器130によって整流された電力による電流が商用電源110に帰還する側である。電流検出部301aは、この部分に流れるコンバータ電流Iconvを検出し、検出した電流値を制御装置3に出力する。なお、電流検出部301aの設置位置は
図1の位置に限らず、コンバータ電流Iconvを検出又は推定可能な位置であれば、任意の位置に設置してよい。例えば、ダイオード整流器130の下側の出力端に設置する代わりに、リアクトル120に流れる入力交流電流Iacを検出する位置に電流検出部301aを設置してもよい。この場合、Iconv=|Iac|となる関係を用いると、コンバータ電流Iconvを推定し、制御装置3における制御演算に用いることが可能である。
【0020】
コンデンサ200は、コンバータ100が出力する電圧を平滑する平滑用のコンデンサである。コンデンサ200の例は、電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどである。コンデンサ200は、コンバータ100によって整流された電力をある程度平滑化できるような容量を有していればよい。
【0021】
インバータ300は、コンデンサ200とモータ401とに接続される。インバータ300は、コンデンサ200によって平滑された直流電圧を内部のスイッチ素子をスイッチングすることで第2の交流電圧に変換し、変換した第2の交流電圧をモータ401に印加してモータ401を回転駆動させる。第2の交流電圧は、所望の振幅、周波数及び位相を有する交流電圧である。モータ401は、第2の交流電圧によって所望の回転速度で回転する。
【0022】
電流検出部301bは、インバータ300から帰還するインバータ電流Iinvをインバータ300の制御周期ごとに少なくとも2回検出し、検出した電流値を制御装置3に出力する。インバータ電流Iinvは、インバータ300に流出入する電流である。モータ401が三相Y結線の場合、インバータ電流Iinvから、モータ401に流れる三相電流Iu,Iv,Iwを復元する技術が公知であるため、これによりモータ401に流れる三相電流Iu,Iv,Iwを復元することが可能である。もちろん、インバータ300から出力される三相電流Iu,Iv,Iwを直接検出するように電流検出器を設置して、その検出値を制御装置3に出力してもよい。
【0023】
制御装置3は、電流検出部301aが検出したコンバータ電流Iconvの検出値、電流検出部301bが検出したインバータ電流Iinvの検出値、及び電圧検出部201bが検出した直流母線電圧Vdcの検出値を入力として、後述のコンバータ制御部500、インバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700により各制御演算を行って、コンバータ100及びインバータ300への各スイッチング信号Q0,Q1を出力すると共に、コンデンサ電流Icを推定するための推定演算を行う。
【0024】
制御装置3は、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、A/D(Analog Digital)変換器等の各種インタフェースの電子回路を含んで構成される。また、制御装置3は、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するように構成される。なお、
図1では、1つの制御装置3にコンバータ制御部500、インバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700の機能を実現するような構成としているが、個々の機能ごとに個別の制御装置、即ちCPU、ROM、RAM、A/D変換器等の各種インタフェースの電子回路を含んだ制御装置として構成されていてもよい。
【0025】
冷凍サイクル適用機器における一般的な電力変換装置では、従来から、後述のコンバータ制御部500及びインバータ制御部600の機能を実現するため、或いはコンバータ100及びインバータ300のスイッチ素子を過電流から保護するため、コンバータ100及びインバータ300は、それぞれが少なくとも1つの電流検出部を備えている。従って、コンバータ100及びインバータ300に備えられた電流検出部を用いてコンデンサ電流Icを推定することができれば、コンデンサ200の部分に新たな電流検出部を追加で設ける必要はない。そこで、実施の形態1に係る電力変換装置1では、電力変換装置1に備えられた電流検出部301a,301bにより検出されたコンバータ電流Iconv及びインバータ電流Iinvの検出値に基づいて、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icを推定するコンデンサ電流推定部700を制御装置3の内部に構成する。なお、コンデンサ電流Icを電流検出部301a,301bの検出値を用いて推定する手法は、従来の電圧検出値から推定する手法と比較して、微分演算による誤差、又はコンデンサ容量値のばらつきによる誤差などが生じないというメリットがある。
【0026】
次に、実施の形態1に係る制御装置3に構成されるコンバータ制御部500、インバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700の各部において行われる制御演算について詳細に説明する。
【0027】
コンバータ制御部500は、少なくとも交流電圧Vacの検出値又はその同期信号を参照してコンバータ100のスイッチ素子150のON/OFF指令値であるスイッチング信号Q
0を出力する。コンバータ制御部500の演算手法としては、
図1に示すように、直流母線電圧Vdc、及びコンバータ電流Iconvの検出値を入力して、直流母線電圧Vdc、及びコンバータ電流Iconvが所望の値となるようにフィードバック制御により、スイッチング信号Q
0を決定する手法である。フィードバック制御の手法としては、PID(Proportional Integral Differential)制御が代表的である。或いは、電圧検出値及び電流検出値を用いず、予め制御装置3に記憶されたスイッチングパターンを参照してオープンループ制御によりスイッチング信号Q
0を決定する制御手法も公知であり、この公知の手法を用いてもよい。また、スイッチング信号Q
0のスイッチング方式は、高周波でスイッチングする方式が用いられてもよいし、簡易スイッチング方式と呼ばれるスイッチング方式が用いられてもよい。簡易スイッチング方式は部分スイッチング方式とも呼ばれ、コンバータ100のスイッチ素子150に対し、交流電源半周期に1回又は数回のみのスイッチング制御が行われる。
【0028】
次に、コンバータ制御部500及びコンバータ100の動作について幾つかの図面を参照して説明する。
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置1に備えられるコンバータ100の動作説明に供する図である。
【0029】
コンバータ100に備えられるスイッチ素子150に対するスイッチング制御、即ち、スイッチ素子150に対するオンオフ(以下「ON/OFF」と表記)制御により、商用電源110から供給される電力により流れる電流の経路は、
図2のように切り替わる。具体的に、スイッチ素子150がOFFに制御される場合、商用電源110から流れる入力交流電流Iacは、図示の太破線で示されるように、リアクトル120を介して、ダイオード整流器130により整流され、コンデンサ200に流れる充電電流となる。このとき、簡易スイッチングセル160には電流は流れない。スイッチ素子150がONに制御される場合、図示の太実線で示されるように、簡易スイッチングセル160を通る経路によって短絡電流が流れ、ダイオード整流器130を介してリアクトル120に磁気エネルギーが蓄えられる。このとき、商用電源110の電力によるコンデンサ200への充電は行われない。スイッチ素子150に対するスイッチング制御により、スイッチ素子150がONからOFFに切り替わると同時に、リアクトル120に蓄えられた磁気エネルギーがダイオード整流器130を介して、コンデンサ200に転送される。実施の形態1の力率改善回路を備えたコンバータ100では、これらの一連の動作により、スイッチング制御を行わない場合、即ち、スイッチ素子150が常にOFFである場合よりも入力交流電流Iacの通電角を広げることができるので、力率をある程度まで改善することができる。なお、スイッチ素子150に対するON/OFF制御に関わらず、インバータ300へは、コンデンサ200の放電による電流が流れる。
【0030】
図3は、実施の形態1のコンバータ制御部500及びコンバータ100の動作説明に供する図である。
図3の左側には、「(a)簡易スイッチング方式」でコンバータ制御部500及びコンバータ100を動作させたときの商用電源110の交流電圧Vac、入力交流電流Iac及びスイッチング信号Q
0の波形が示されている。また、
図3の右側には、「(b)高周波スイッチング方式」でコンバータ制御部500及びコンバータ100を動作させたときの交流電圧Vac、入力交流電流Iac及びスイッチング信号Q
0の波形が示されている。
図3(a)及び
図3(b)の各下側には、“High”レベルが“ON”、“Low”レベルが“OFF”であるスイッチング信号Q
0が一例として示されている。
【0031】
簡易スイッチング方式で、オープンループ制御にて、スイッチ素子150が電源半周期に1回から複数回ON/OFF制御される。これにより、
図3(a)に示すような入力交流電流Iacが流れる。
図3では、スイッチ素子150に対して、電源半周期に1回のみのスイッチング制御が行われる場合を示したが、スイッチング制御の回数は何回でもよい。簡易スイッチング方式は、高周波スイッチング方式に対して、力率改善機能は劣るが、スイッチング回数が少ないため、スイッチ素子150のスイッチング損失を低く抑えることができる。なお、簡易スイッチング方式では、短絡開始時間Tdl、短絡時間Ton及びスイッチング回数Nswを制御することで、リアクトル120に蓄積するエネルギーを制御できる。短絡開始時間Tdlは、交流電圧Vacのゼロクロス点からスイッチ素子150を最初にONにするまでの時間である。短絡時間Tonは、スイッチ素子150のONを継続させている時間である。スイッチング回数Nswは、スイッチ素子150をON/OFF制御する電源半周期当たりの回数である。直流母線電圧Vdcは、スイッチ素子150に対してスイッチング制御を行わない場合に比べて、より高い任意の電圧値まで無段階で昇圧することができる。
【0032】
高周波スイッチング方式は、直流母線電圧Vdc及び入力電流Iinをフィードバック制御する方式である。入力電流Iinは、コンバータ100からコンデンサ200及びインバータ300に向けて流れる電流である。高周波スイッチング方式では、
図3(b)に示されるように、簡易スイッチング方式でのスイッチング周波数を数kHz以上として、直流母線電圧Vdcが所望の値となるように、また、入力交流電流Iacが交流電圧Vacに同期する正弦波に近づくようにスイッチ素子150のON/OFF時間が制御される。また、高周波スイッチング方式では、
図3(b)に示されるように、入力交流電流Iacの波形を交流電圧Vacに同期した正弦波に近づけることが可能となるため、力率をほぼ1まで改善できる。また、高周波スイッチング方式は、簡易スイッチング方式よりも昇圧能力が高い。従って、高周波スイッチング方式での直流母線電圧Vdcは、スイッチ素子150に対してスイッチング制御を行わない場合に比べて、より高い任意の電圧値まで無段階で昇圧することができる。
【0033】
なお、実施の形態1のコンバータ制御部500における制御方式は上記で説明した簡易スイッチング方式及び高周波スイッチング方式には限定されず、公知である各種の制御方式が用いられてもよい。
【0034】
図4は、実施の形態1の制御装置3に備えられるインバータ制御部600の構成例を示すブロック図である。インバータ制御部600は、速度制御部601と、d軸電流指令決定部602と、電流復元部603と、電流制御部604と、位置推定部605と、PWM(Pulse Width Modulation)信号生成器606とを備えて構成される。以下、インバータ制御部600の動作について説明する。なお、ここでは、モータ401の回転子位置に同期したdq回転座標上で制御を行う場合について説明するが、dq回転座標は一例であって、他の座標系で制御を行ってもよい。また、dq回転座標上で制御を行うためには、モータ401の回転子位置の情報が必要となるが、モータ401の回転子位置は不図示の位置センサで検出してもよい。或いは、位置推定部605において、インバータ300の出力電圧、及びモータ401に流れる電流を用いて速度起電力を演算し、演算した速度起電力を用いて回転子位置を推定してもよい。
【0035】
速度制御部601は、位置推定部605が推定した推定速度ωestと速度指令ω*とが一致するように速度制御を行うことで生成したq軸電流指令Iq*を出力する。速度制御の手法としては、PID制御が有名である。
【0036】
d軸電流指令決定部602は、d軸電流指令Id*を決定して電流制御部604に出力する。図示はしていないが、d軸電流指令Id*の決定には、三相電圧指令Vuvw*、q軸電流指令Iq*、速度指令ω*などを参照することで行う。d軸電流指令Id*の決定手法としては、モータ駆動装置2が最大効率駆動を達成するように決定する手法、モータ401の電圧飽和を抑制するように弱め磁束制御により決定する手法などが一般的である。
【0037】
電流復元部603は、インバータ300の制御周期ごとに少なくとも2回検出したインバータ電流Iinvの検出値を使用して、モータ401の三相電流Iu,Iv,Iwの復元値である三相電流復元値Iuvwを演算する。電流復元部603の動作については、更に幾つかの図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、コンデンサ200とインバータ300との間のインバータ電流Iinvが流れる部位を「直流母線部」と呼ぶ。
【0038】
図5は、実施の形態1のインバータ300の構成例を示す図である。
図5において、インバータ300は、6つのスイッチ素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを備えている。本稿では、スイッチ素子Sup,Svp,Swpを、適宜「上アームスイッチ素子」又は、単に「上アーム」と呼び、スイッチ素子Sun,Svn,Swnを、適宜「下アームスイッチ素子」又は、単に「下アーム」と呼ぶ。
【0039】
前述したように、電流復元部603は、インバータ電流Iinvの検出値を使用して三相電流復元値Iuvwを演算するが、その際、インバータ300の6つのスイッチ素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnのスイッチング状態に関する情報を使用する。
【0040】
図6は、実施の形態1のインバータ300における8つのスイッチングパターンを示す図である。スイッチングパターンは、インバータ300におけるスイッチング状態のパターンである。インバータ300の6つのスイッチ素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnは、インバータ制御部600によって、組合せの異なるON/OFF制御のスイッチングパターンでスイッチング制御される。これらのスイッチングパターンは、
図6に示すような(a)~(h)の8つのスイッチングパターンに場合分けできる。このときの、三相電流Iu,Iv,Iwと、インバータ電流Iinvとの関係は、
図6中の(a)~(h)にそれぞれに示した通りとなる。
【0041】
まず、「(a)上アーム全てOFF」、及び「(h)上アーム全てON」について着目する。これらの何れの場合も、直流母線部からの電力供給は行われず、モータ401に流れる三相電流Iu,Iv,Iwは、モータ401及びインバータ300の上アーム又は下アーム中を還流する。従って、直流母線部には電流が流れず、Iinv=0となる。
【0042】
次に、「(b)U相のみ上アームON」に着目する。この場合、直流母線部から供給される電力は、U相上アームを介してモータ401に供給され、V相下アーム及びW相下アームを介して直流母線部に帰還する。従って、Iinv=-Iv-Iwとなり、キルヒホッフの法則であるIu+Iv+Iw=0の関係から、Iinv=Iuとなる。
【0043】
その他の(c)~(g)のスイッチングパターンの場合についても、(b)と同様に、三相電流Iu,Iv,Iwとインバータ電流Iinvとの関係を導出することができる。電流復元部603は、
図6に示す三相電流Iu,Iv,Iwと、インバータ電流Iinvとの関係を用いることで、インバータ電流Iinvから三相電流Iu,Iv,Iwを復元する。
【0044】
図6では、インバータ電流Iinvから三相電流Iu,Iv,Iwを復元可能であることを示した。その一方で、インバータ電流Iinvの1回の検出値から復元できる電流値は、三相電流Iu,Iv,Iwの何れか1つのみである。インバータ制御部600の制御を実現するためには、制御周期ごとに三相電流Iu,Iv,Iwの全ての値が必要である。1相分はキルヒホッフの法則から演算するとしても、少なくとも残りの2相分の電流を検出する必要がある。即ち、インバータ制御部600の制御を実現するためには、インバータ電流Iinvをインバータ制御部600の制御周期ごとに少なくとも2回検出する必要がある。また、インバータ300のスイッチング状態が「(a)上アーム全てOFF」のとき、及び「(h)上アーム全てON」のときには、電流検出ができない。そのため、スイッチング状態が(b)~(g)の何れかの場合に少なくとも2回電流検出を行い、且つそのときに検出できる電流が異なる相電流でなければならない。
【0045】
図7は、実施の形態1に係るインバータ300及びインバータ制御部600の動作説明に供するタイムチャートである。
図7には、インバータ300の各相に付与する相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、インバータ300の上アームのスイッチ素子Sup,Svp,Swpに付与するスイッチング信号、インバータ電流Iinv、インバータ電流Iinvの検出のタイミングなどが示されている。
【0046】
図7では、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*における大小関係が、Vu*>Vv*>Vw*である場合を一例として示している。上アームスイッチ素子の各スイッチング信号は、各々の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に対する三角波比較PMWにより決定され、
図7の2段目~4段目に示す通りとなる。その結果、インバータ300のスイッチングパターンは、最下段に示す通りとなる。
【0047】
図7におけるインバータ電流Iinvの波形には、黒丸の点が示されているが、この点は、インバータ電流Iinvを検出するタイミングを示している。
図7に示される通り、キャリア周期中のスイッチングパターンが(b)及び(c)のそれぞれでインバータ電流Iinvを検出することにより、U相電流Iu及びW相電流Iwの検出が可能となる。また、U相電流Iu及びW相電流Iwを検出できれば、キルヒホッフの法則により、V相電流Ivの検出も可能となる。
【0048】
図7を更に着目すると、インバータ電流Iinvを検出するスイッチングパターンの(b)及び(c)における検出タイミングは、キャリア波が単調減少している期間に含まれている。即ち、
図7の例では、キャリア波が単調減少している間のキャリア半周期中に含まれるスイッチングパターンが(b)及び(c)のときにそれぞれ1回ずつインバータ電流Iinvが検出されている。これにより、インバータ電流Iinvの検出値に基づいて、インバータ制御部600の制御周期ごとに三相電流Iu,Iv,Iwの全てを復元することが可能となる。
【0049】
なお、
図7において、スイッチングパターンが(b)及び(c)のときとは、3段目のV相のスイッチ素子Svpの波形から理解できるように、V相のスイッチ素子Svpのスイッチング状態が切り替わる前後のときと言い替えることができる。従って、インバータ電流Iinvの検出タイミングについては、スイッチ素子Svpのスイッチング状態が切り替わる前後にそれぞれ1回ずつ検出を行えばよいと言い替えられる。ここで、
図7は、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*間の関係が、Vu*>Vv*>Vw*である場合であり、相電圧指令Vv*は、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を大小順に並べたときの中間となる中間相である。従って、インバータ電流Iinvの検出は、中間相の上アームスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わる前後にそれぞれ1回ずつ行えばよいと一般化できる。
【0050】
ここまでの説明の通り、電流復元部603では、キャリア波が単調減少するキャリア下り半周期ごとに、インバータ電流Iinvを中間相のスイッチング状態が切り替わる前後にそれぞれ1回ずつ検出することで、三相電流Iu,Iv,Iwのうちの2相分の電流値を復元する。そして、残りの1相分の電流値は、キルヒホッフの法則にて算出することでインバータ電流Iinvの検出値から三相電流Iu,Iv,Iwを復元する。なお、ここで示した例はあくまで一例であり、キャリア周期ごとに3回以上検出した値を用いてもよい。例えば、
図7では、キャリア下り半周期ごとに2回検出としたが、キャリア下り半周期とキャリア上り半周期とのそれぞれで2回検出して、各半周期での検出値の平均値を用いてもよい。また、スイッチングパターンが(b)~(g)の何れかのときに、それぞれ複数回の電流検出を行い、それらの平均値を用いて電流復元を行ってもよい。これらの場合、演算量は増えるものの、1キャリア周期中の相電流の変化分をある程度平均化して、電流復元することができる。
【0051】
電流制御部604は、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、三相電流復元値Iuvw、推定位置θestに基づいて電流制御を行い、三相電圧指令Vuvw*を出力する。電流制御の手法としては、速度制御と同様にPID制御が有名である。
【0052】
位置推定部605は、三相電圧指令Vuvw*と、三相電流復元値Iuvwとに基づいて速度起電力を演算し、演算した速度起電力に基づいて回転子位置及び速度を推定する。モータ401の位置センサレス制御については様々な手法が提案されているが、例えば適応オブザーバを用いたセンサレスベクトル制御が公知である。
【0053】
PWM信号生成器606は、三相電圧指令Vuvw*及び直流母線電圧Vdcに基づいてPWM信号を生成する。生成されたPWM信号は、インバータ300へのスイッチング信号Q1としてインバータ300に出力される。PWM信号の生成手法としては、キャリア比較変調が有名であるが、他の方式を使用しても構わない。
【0054】
以上の説明のように、インバータ制御部600は、インバータ300へのスイッチング信号Q1としてPWM信号を出力し、インバータ300は、PWM信号の通りにスイッチング動作する。これにより、モータ401は、所望の速度指令ω*と一致するように動作することが可能となる。
【0055】
図8は、実施の形態1の制御装置3に備えられるコンデンサ電流推定部700の構成例を示すブロック図である。コンデンサ電流推定部700は、推定電流演算部710と、電流実効値演算部720とを備えて構成される。
【0056】
推定電流演算部710は、コンバータ電流Iconvの検出値、インバータ電流Iinvの検出値、及びコンバータのスイッチング信号Q0に基づいて、推定コンデンサ電流Ic_estを演算する。
【0057】
図1に示す電力変換装置1の回路構成において、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、キルヒホッフの法則により、Ic=Iin-Iinvの関係を満たす。従って、インバータ電流Iinvの他に、入力電流Iinを検出すれば、コンデンサ200が接続される電気配線の部位に電流検出部を設置することなく、コンデンサ電流Icを推定することが可能である。ここで、
図2で示した、コンバータ100のスイッチ素子150がOFFのときの電流経路と、ONのときの電流経路とを参照する。コンバータ100のスイッチ素子150がONのときは、入力電流Iinが0となる。この場合、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、Ic=-Iinvとなる。また、コンバータ100のスイッチ素子150がOFFのとき、入力電流Iinはコンバータ電流Iconvと一致するので、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、Ic=Iconv-Iinvとなる。
【0058】
推定電流演算部710は、以上の関係を考慮して、コンバータ電流Iconvの検出値、インバータ電流Iinvの検出値、及びコンバータ100のスイッチング信号Q0に基づき、以下の(1)式に従って、推定コンデンサ電流Ic_estを演算する。
【0059】
【0060】
少なくとも実施の形態1で想定する電力変換装置1において、コンバータ100及びインバータ300のそれぞれに設置された電流検出部301a,301bの検出値を使用し、且つコンバータ100のスイッチ素子150のスイッチング状態によって、演算式を切り替えてコンデンサ電流Icの推定値である、推定コンデンサ電流Ic_estを演算するという手法は、発明者らの知る限り、他の文献では言及されていない新しい手法と考える。
【0061】
以上の説明の通り、実施の形態1による新手法では、推定コンデンサ電流Ic_estを演算することでコンデンサ200を接続する電気配線の部位に、追加で新たな電流検出部を設置せずに、コンデンサ電流Icを推定することが可能である。また、実施の形態1による新手法では、(1)式の通り、電流検出部301a,301bによって検出された検出値を直接使用するため、従来技術による直流母線電圧Vdc及びコンデンサ容量値を参照して推定する手法に対して、微分演算及びコンデンサ容量値の誤差による影響がないという利点がある。
【0062】
電流実効値演算部720は、推定コンデンサ電流Ic_estを入力として推定コンデンサ電流Ic_estの実効値を演算する。ここで、推定コンデンサ電流Ic_estの実効値とは、推定コンデンサ電流Ic_estを、コンデンサ200のリプル電流に起因する温度上昇の周波数特性に応じた、基準となる周波数で正規化した電流実効値である。
【0063】
商用電源110から電力供給が開始されてから十分時間が経過し、モータ401が一定負荷、一定速度で運転している定常状態では、コンデンサ電流Icは、コンデンサ電流Icの平均値である直流成分が0の交流電流となる。従って、コンデンサ電流Icの大小は、コンデンサ電流Icのピーク値又は実効値により判別することとなる。
【0064】
コンデンサ200に電流が流れることにより、コンデンサ200は、コンデンサ200の内部抵抗の影響で発熱する。コンデンサ200の内部抵抗は周波数特性を有するので、低周波である程、内部抵抗が大きくなる。このため、コンデンサ電流Icが低周波である程、コンデンサ200の温度上昇は大きくなる。ここで、コンデンサ電流Icの交流成分には、商用電源110の周波数に同期した交流成分と、機械負荷402の消費電力の変動に同期した交流成分など、複数の交流成分が含まれる。そのため、コンデンサ電流Icの大小を判別するには、ピーク値により判別するよりも、実効値により判別することが望ましい。更に、コンデンサ200の温度上昇への影響度の大小を判別するには、コンデンサ200の内部抵抗の周波数特性に応じた、基準となる周波数で正規化した電流実効値を算出することが望ましい。
【0065】
以上の内容を踏まえ、電流実効値演算部720は、推定コンデンサ電流Ic_estを入力として周波数分析を行い、推定コンデンサ電流Ic_estに含まれる各周波数成分の振幅値を演算する。周波数分析手法としては、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)が有名であるが、FFT以外の周波数分析手法を用いてもよい。電流実効値演算部720は、周波数分析を行った後、各周波数成分の振幅値Ic_f0,Ic_f1,Ic_f2,…,Ic_fN及び周波数補正係数K(f0),K(f1),K(f2),…,K(fN)を使用し、以下の(2)式に従って、周波数補正後の推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを演算する。
【0066】
【0067】
上記(2)式において、周波数補正係数K(f0),K(f1),K(f2),…,K(fN)は、周波数fに対する関数として定義されていてもよい。或いは、予めテーブルデータとして制御装置3に記憶しておき、記憶された周波数補正係数K(f0),K(f1),K(f2),…,K(fN)を電流実効値演算部720が参照する処理としてもよい。
【0068】
なお、上記(2)式において、各周波数成分の合算により推定コンデンサ電流Ic_estの実効値を算出する際には、周波数分析により得た全ての周波数成分の振幅値Ic_f0,Ic_f1,Ic_f2,…,Ic_fN及び周波数補正係数K(f0),K(f1),K(f2),…,K(fN)を使用して実効値を算出する必要はなく、振幅値Ic_f0,Ic_f1,Ic_f2,…,Ic_fNのうちで値が大きい特定の周波数成分のみを使用して合算してもよい。また、前述した周波数分析についても、全ての周波数成分の振幅値Ic_f0,Ic_f1,Ic_f2,…,Ic_fNを演算する必要はなく、特定の周波数成分の振幅値のみを演算してもよい。これらの点に着意すれば、少ない演算負荷で推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを演算することが可能となる。特定の周波数成分の振幅値を演算する手法としては、フーリエ級数展開による演算が有名である。
【0069】
また、上述したように、コンデンサ電流Icの交流成分には、商用電源110の周波数に同期した交流成分、圧縮機400の消費電力の変動に同期した交流成分など、種々の交流成分が含まれる。ここで、ダイオード整流器130に印加される交流電圧Vacは、ダイオード整流器130を介して全波整流される。その結果、商用電源110の周波数に同期した交流成分としては、商用電源110から印加される交流電圧Vacの周波数の2倍成分及びその高調波成分の電流振幅値が大きくなる。このため、電流実効値演算部720が特定の周波数成分の振幅値を演算する際には、推定電流演算部710は、コンデンサ電流Icに含まれる、交流電圧Vacの周波数の整数倍成分の振幅値を演算する。このようにすれば、電流実効値演算部720は、コンデンサ電流Icに含まれる、交流電圧Vacの周波数に同期した交流成分の実効値を演算することができる。
【0070】
次に、圧縮機400の消費電力の変動に同期した交流成分の例について説明する。前述したように、圧縮機400では、冷媒を吸入、圧縮、吐出する際に周期的な負荷トルク脈動が発生する。この負荷トルク脈動は、一般的に、圧縮機400の回転速度に同期した負荷トルク脈動である。モータ401が発生するトルクが一定トルクである場合、負荷トルク脈動により、圧縮機400の回転速度に速度脈動が生じる。
【0071】
従来技術では、この種の速度脈動を抑制するため、モータトルクを負荷トルク脈動に同期して脈動させる脈動抑制制御が行われている。この脈動抑制制御では、モータトルクを脈動させるため、コンデンサ200から見た直流負荷であるインバータ300及びモータ401においては、それぞれに流れる電流であるインバータ電流Iinv及びモータ電流が負荷トルク脈動に同期して変動する。また、コンデンサ電流Icにも、負荷トルク脈動に同期した電流脈動が発生し、その周波数成分の電流振幅が大きくなることが予想される。従って、電流実効値演算部720は、特定の周波数成分の振幅値として、負荷トルク脈動に同期した成分、即ち、モータ401の回転速度の整数倍の周波数成分の振幅値を演算することが望ましい。このようにすれば、電流実効値演算部720において、コンデンサ電流Icに含まれ得る、インバータ300及びモータ401に流れる電流の変動に同期した交流成分の実効値を演算することができる。
【0072】
また、商用電源110の周波数に同期した交流成分と、圧縮機400の消費電力の変動に同期した交流成分との干渉により、コンデンサ電流Icにはそれぞれの周波数成分の和成分及び差成分によるリプル電流が発生する場合がある。この場合の具体例として、例えば、商用電源110の周波数が50Hzであり、圧縮機400が30回転/秒の速度で回転している場合を考える。このとき、コンデンサ電流Icには、商用電源110の周波数の2倍成分と回転速度の周波数との和成分による130Hz(=100Hz+30Hz)のリプル電流と、商用電源110の周波数の2倍成分と回転速度の周波数との差成分による70Hz(=100Hz-30Hz)のリプル電流とが発生することが予想される。従って、電流実効値演算部720は、特定の周波数成分の振幅値を演算する際は、これらの周波数成分を含めて演算することが望ましい。このようにすれば、電流実効値演算部720において、コンデンサ電流Icに含まれ得る、商用電源110の周波数の2倍成分と回転速度の周波数成分との和成分及び差成分に同期した交流成分の実効値を演算することができる。なお、ここでは、商用電源110の周波数の2倍成分と回転速度の周波数成分との和成分及び差成分を例として挙げたが、これらの自然数倍成分同士を組み合わせた周波数成分を更に対象としてもよい。
【0073】
また、コンデンサ電流Icには、上記で示した周波数成分以外にもコンバータ100のスイッチング周波数に同期した周波数成分のリプル電流、及びインバータ300のスイッチング周波数に同期した周波数成分のリプル電流も発生することが予想される。従って、電流実効値演算部720は、特定の周波数成分の振幅値を演算する際は、これらの周波数成分を含めて演算することが望ましい。また、演算処理に余裕があれば、これらの周波数の自然数倍成分同士を組み合わせた周波数成分を更に含めて演算してもよい。このようにすれば、電流実効値演算部720において、コンデンサ電流Icに含まれ得る、コンバータ100のスイッチング周波数及びインバータ300のスイッチング周波数に同期した周波数成分の実効値を演算することができる。
【0074】
図9は、実施の形態1のコンデンサ電流推定部700に備えられる電流実効値演算部720の構成例を示すブロック図である。電流実効値演算部720はフーリエ級数展開演算部721a~721hと、周波数成分合算部722とを備えて構成される。
【0075】
フーリエ級数展開演算部721a~721hは、推定コンデンサ電流Ic_estを入力して、フーリエ級数展開の演算により、それぞれが推定コンデンサ電流Ic_estに含まれる特定周波数成分の振幅値を演算する。
図6のフーリエ級数展開演算部721a,721bは、特定周波数成分として、商用電源110の周波数の2倍成分の振幅値Ic_2fac及び4倍成分の振幅値Ic_4facをそれぞれ演算して出力する。また、フーリエ級数展開演算部721c,721dは、特定周波数成分として、モータ401の回転速度の1倍成分の振幅値Ic_fω及び2倍成分の振幅値Ic_2fωをそれぞれ演算して出力する。また、フーリエ級数展開演算部721e,721fは、特定周波数成分として、商用電源110の周波数の2倍成分とモータ401の回転速度の1倍成分との周波数和成分の振幅値Ic_2fac+fω及び周波数差成分の振幅値Ic_2fac-fωをそれぞれ演算して出力する。更に、フーリエ級数展開演算部721g,721hは、特定周波数成分として、コンバータ100のスイッチング周波数の2倍成分の振幅値Ic_2fconv及びインバータ300のスイッチング周波数の2倍成分の振幅値Ic_2finvをそれぞれ演算して出力する。
【0076】
以下、代表的に、フーリエ級数展開演算部721aが特定周波数成分として、商用電源110の周波数の2倍成分の振幅値Ic_2facを生成する手順について説明する。
【0077】
まず、フーリエ級数展開演算部721aは、推定コンデンサ電流Ic_estに対して、商用電源110の周波数の2倍成分を検波するため、それぞれ商用電源110の周波数の2倍の周波数を有する正弦波成分sin(2fac×t)及び余弦波成分cos(2fac×t)を乗算する。乗算して得られた正弦波項及び余弦波項の1周期の平均値の2倍が商用電源110の周波数の2倍に応じた正弦波成分及び余弦波成分の振幅である。フーリエ級数展開演算部721aは、商用電源110の周波数の2倍に応じた正弦波成分及び余弦波成分の振幅の2乗和の平方根を演算することで推定コンデンサ電流Ic_estに含まれる商用電源110の周波数の2倍成分の振幅値Ic_2facを演算する。以上がフーリエ級数展開演算部721aによるフーリエ級数展開の演算である。フーリエ級数展開演算部721b~721hの演算は、フーリエ級数展開演算部721aに対して、検波する周波数が異なるのみであり、その他は同様の演算である。また、推定コンデンサ電流Ic_estが周期波形であれば、フーリエ級数展開演算部721a~721hの出力信号は、ほぼ一定となる。
【0078】
周波数成分合算部722は、フーリエ級数展開演算部721a~721hにおいて演算された各振幅値、及び各周波数に対応した周波数補正係数K(f)を参照し、上記の(2)式に代入して演算することで全周波数成分を合算して推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを演算する。
【0079】
図9に示す電流実効値演算部720を用いれば、コンデンサ電流Icに含まれる周波数成分のうち、特定の影響度の高い周波数成分のみを抽出することができる。これにより、少ない演算負荷で、且つ精度よく推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを演算することが可能となる。
【0080】
以上説明したように、実施の形態1に係る電力変換装置は、コンバータ及びインバータ、並びにコンバータ及びインバータをそれぞれ駆動制御する制御装置を備える。コンバータ及びインバータは、コンバータに流れるコンバータ電流及びインバータに流れるインバータ電流を検出するために、それぞれが少なくとも1つの電流検出部を備える。制御装置は、電流検出部によって検出されたコンバータ電流及びインバータ電流の検出値を使用し、コンデンサに流れるコンデンサ電流を演算対象として、コンバータの動作状態によって演算処理を切り替えて、コンデンサ電流の推定演算を行うコンデンサ電流推定部を備える。実施の形態1に係る電力変換装置によれば、コンデンサが接続される電気配線の部位に電流検出部を設置することなく、コンデンサ電流を推定できるという効果が得られる。また、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、電流検出部によって検出された検出値を使用してコンデンサ電流を推定するので、直流電圧の検出値及びコンデンサ容量値を用いてコンデンサ電流を推定する従来技術と比較して、微分演算による誤差及びコンデンサ容量値による誤差が生じないという利点が得られる。また、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、コンデンサ容量値が公称値に対して個体差や経時変化を有する場合であっても、コンデンサ電流を精度よく推定することができるという効果が得られる。
【0081】
また、実施の形態1に係る電力変換装置において、制御装置に備えられるコンデンサ電流推定部は、推定したコンデンサ電流を周波数分析することでコンデンサ電流に含まれる複数の特定周波数成分の電流振幅を演算する。特定周波数成分とは、コンデンサ電流に含まれる周波数成分のうち、影響度の高い周波数成分である。コンデンサ電流推定部は、演算した複数の特定周波数成分の電流振幅のそれぞれをコンデンサの周波数特性に応じて正規化し、正規化した複数の特定周波数成分の電流振幅を用いて、推定したコンデンサ電流の実効値を演算する。このように構成された電力変換装置によれば、コンデンサ電流の推定値である推定コンデンサ電流を演算する際に、コンデンサ電流に含まれる周波数成分のうち、影響度の高い周波数成分のみを抽出してコンデンサ電流を演算するので、少ない演算負荷でリアルタイム性の高い演算処理を行うことができるという効果が得られると共に、精度のよいコンデンサ電流の推定値を得ることができるという効果も得られる。
【0082】
なお、実施の形態1に係る電力変換装置において、コンデンサ電流推定部が分析する複数の特定周波数には、N、Mを任意の自然数とするときに、交流電源から印加される交流電圧の周波数のN倍の周波数、駆動対象である機械装置の回転周波数のM倍の周波数、当該N倍の周波数と当該M倍の周波数との和である周波数和、及び当該N倍の周波数と当該M倍の周波数との差である周波数差のうちの少なくとも1つが含まれるように構成されていてもよい。これらの特定周波数に対応するコンデンサ電流の成分は、影響度の高い周波数成分である。このため、これらの特定周波数に対応するコンデンサ電流の成分を抽出することで、精度のよいコンデンサ電流の推定値を得ることができるという効果が得られる。
【0083】
また、実施の形態1に係る電力変換装置において、コンデンサ電流推定部において分析される複数の特定周波数には、K、Lを任意の自然数とするときに、コンバータのスイッチング周波数のK倍の周波数、及びインバータのスイッチング周波数のL倍の周波数のうちの少なくとも1つが含まれるように構成されていてもよい。これらの特定周波数に対応するコンデンサ電流の成分は、影響度の高い周波数成分である。このため、これらの特定周波数に対応するコンデンサ電流の成分を抽出することで、精度のよいコンデンサ電流の推定値を得ることができるという効果が得られる。
【0084】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1とは、コンバータ100の構成が異なる電力変換装置1a及びモータ駆動装置2aについて説明する。
図10は、実施の形態2に係る電力変換装置1a及びモータ駆動装置2aの構成例を示す図である。
図1に示す構成と比較すると、
図10では、コンバータ100がコンバータ100aに置き替えられている。また、
図1に示す構成と比較すると、
図10では、制御装置3に備えられるコンデンサ電流推定部700がコンデンサ電流推定部700aに置き替えられている。実施の形態2に係るモータ駆動装置2aは、電力変換装置1aと、圧縮機400に備えられるモータ401とによって構成される。その他の構成は、
図1と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0085】
コンバータ100aは、ダイオード整流器130と、ダイオード整流器130の出力側に設置されたリアクトル120aと、スイッチ素子150aと、ダイオード140cとを備えて構成される。コンバータ100aにおける電流及び電圧の検出には、
図10のように電流検出部301a及び電圧検出部201a,201bを用いることができる。オープンループ制御を適用する場合、
図10のような、電流検出部301a及び電圧検出部201a,201bを使用しなくてもよい。なお、
図10でも、スイッチ素子150aをIGBTの記号で表しているが、MOSFETを用いてもよく、スイッチ素子150aはIGBTには限定されない。スイッチ素子150aのON/OFFは、コンバータ制御部500から出力されるスイッチング信号Q
0によって切り替えられる。
【0086】
実施の形態2のコンバータ100aの基本的な機能は、実施の形態1のコンバータ100と同じである。即ち、実施の形態2のコンバータ100aは、商用電源110とコンデンサ200との間に接続され、商用電源110から印加される第1の交流電圧を直流電圧に変換してコンデンサ200及びインバータ300に出力する。一方、実施の形態1とは異なり、コンバータ100aにおいては、リアクトル120aは交流側ではなく、直流側に設置されている。スイッチ素子150aのON動作による短絡動作も直流側で行われる点が、実施の形態1のコンバータ100に対して異なる。
【0087】
制御装置3は、電流検出部301aが検出したコンバータ電流Iconvの検出値、電流検出部301bが検出したインバータ電流Iinvの検出値、及び電圧検出部201bが検出した直流母線電圧Vdcの検出値を入力として、実施の形態1で説明した内容と同様に、コンバータ制御部500、インバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700による各制御演算を行ってコンバータ100及びインバータ300の各スイッチング信号を出力すると共に、コンデンサ電流Icを推定するための推定演算を行う。
【0088】
コンバータ制御部500は、コンバータ100のスイッチ素子150のON/OFF指令値であるスイッチング信号Q0を出力する。実施の形態2に係る電力変換装置1aにおいても、スイッチング信号Q0の演算は、実施の形態1で説明した簡易スイッチング方式及び高周波スイッチング方式のうちの何れの方式を適用してもよいし、これらの方式とは異なる公知のスイッチング方式を適用してもよい。
【0089】
図11は、実施の形態2に係る電力変換装置1aに備えられるコンバータ100aの動作説明に供する図である。コンバータ100aに備えられるスイッチ素子150aに対するON/OFF制御により、商用電源110から供給される電力により流れる電流の経路は、
図11のように切り替わる。具体的に、スイッチ素子150aがOFFに制御される場合、商用電源110から流れる入力交流電流Iacは、図示の太破線で示されるように、ダイオード整流器130により整流され、リアクトル120を介して、コンデンサ200に流れる充電電流となる。スイッチ素子150aがONに制御される場合、図示の太実線で示されるように、スイッチ素子150aを通る経路によって短絡電流が流れ、ダイオード整流器130を介した整流電流によってリアクトル120に磁気エネルギーが蓄えられる。このとき、商用電源110の電力によるコンデンサ200への充電は行われない。スイッチ素子150aに対するスイッチング制御により、スイッチ素子150aがONからOFFに切り替わると同時に、リアクトル120に蓄えられた磁気エネルギーがダイオード140cを介して、コンデンサ200に転送される。実施の形態2の力率改善回路を備えたコンバータ100aでは、これらの一連の動作により、スイッチング制御を行わない場合、即ち、スイッチ素子150aが常にOFFの場合であるよりも入力交流電流Iacの通電角を広げることができるので、力率をある程度まで改善することができる。なお、スイッチ素子150aに対するON/OFF制御に関わらず、インバータ300へは、コンデンサ200の放電による電流が流れる。
【0090】
次に、コンデンサ電流推定部700の動作について説明する。実施の形態1のときと同様に、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、キルヒホッフの法則により、Ic=Iin-Iinvの関係を満たす。従って、インバータ電流Iinvの他に、入力電流Iinを検出すれば、コンデンサ200が接続される電気配線の部位に電流検出部を設置することなく、コンデンサ電流Icを推定することが可能である。ここで、
図11で示した、コンバータ100aのスイッチ素子150aがOFFのときの電流経路と、ONのときの電流経路とを参照する。コンバータ100のスイッチ素子150がONのときは、入力電流Iinが0となる。この場合、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、Ic=-Iinvとなる。また、コンバータ100のスイッチ素子150がOFFのとき、入力電流Iinはコンバータ電流Iconvと一致するので、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icは、Ic=Iconv-Iinvとなる。
【0091】
以上の説明のように、結局のところ、実施の形態2のコンバータ100aのスイッチ素子150aのON/OFFに応じたコンデンサ電流Icは、実施の形態1のコンバータ100のスイッチ素子150のON/OFFに応じたコンデンサ電流Icと同様であり、上述した(1)式で表すことができる。従って、コンデンサ電流推定部700での演算処理は、実施の形態1と同様の演算でよい。従って、実施の形態2に係る電力変換装置を用いても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0092】
なお、
図10に示すコンバータ100aは、
図1に示すコンバータ100と同等の機能を有するコンバータの一例であり、同等の機能を有するコンバータであれば、
図10とは異なる構成のコンバータであっても、実施の形態1で説明した制御を適用することが可能である。
【0093】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係る電力変換装置1b及びモータ駆動装置2bの構成例を示す図である。
図1に示す構成と比較すると、
図12では、制御装置3が制御装置3aに置き替えられ、制御装置3aでは、コンデンサ電流推定部700がコンデンサ電流推定部700aに置き替えられている。また、
図1に示す構成と比較すると、
図12では、インバータ制御部600からインバータ300に出力されるスイッチング信号Q
1がコンデンサ電流推定部700aにも入力されている。実施の形態3に係るモータ駆動装置2bは、電力変換装置1bと、圧縮機400に備えられるモータ401とによって構成される。その他の構成は、
図1と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0094】
図7に示すタイムチャートの波形について考察する。インバータ300が過変調で動作していない場合、即ち、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*が何れもVdc/2以下の場合、キャリア波の1キャリア周期におけるインバータ300のスイッチングパターンは、インバータ電流Iinvが0となる(a)及び(h)のスイッチングパターンと、インバータ電流Iinvがモータ401に流れる三相電流Iu,Iv,Iwの何れかの絶対値と一致する(b)~(g)のスイッチングパターンとの何れか2つを組み合わせた計4つの状態で変化していく。このとき、インバータ電流Iinvは、
図7で示したように各相のスイッチング動作のON/OFFに応じたパルス状の波形となる。従って、インバータ電流Iinvには、インバータ300のキャリア周波数の2倍成分及びその高調波成分からなるリプル電流が含まれる。また、コンデンサ電流Icは、上記した(1)式で表されるため、コンデンサ電流Icには、インバータ電流Iinvのリプル電流と同様のリプル電流が流れる。
【0095】
リプル電流の高調波成分の影響を検出するには、インバータ300のキャリア周期に対して、十分速い周期でインバータ電流Iinvの検出を行いながら、同時に(1)式による演算を行う必要がある。十分速い周期の目安は、例えばキャリア周期1/10以下である。このような検出周期を高速化する処理を行う場合、制御装置3aには高速で演算可能なA/D変換器、CPUなどが必要となり、制御装置3a及び電力変換装置1bのコスト上昇及び装置重量の増加に繋がる。
【0096】
また、積分回路、平均値演算用のAD変換ポートを用いて、ある周期ごとにインバータ電流Iinvの平均値を検出し、検出した平均値をコンデンサ電流Icの推定演算に用いる手法がある。この手法では、検出周期を高速化する必要はなく、キャリア周波数による高調波成分の影響分を検出することができる。しかしながら、この手法であっても、追加で積分回路を設ける必要があり、コスト上昇及び装置重量の増加に繋がる。また、積分回路を構成する抵抗及びコンデンサの定数のばらつきによっても電流検出誤差が発生するため、望ましくない。
【0097】
そこで、実施の形態3に係る電力変換装置1bでは、以下の手法を提案する。まず、コンデンサ電流推定部700aは、インバータ300のキャリア周期ごとに少なくとも2回検出したインバータ電流Iinvの検出値と、インバータ300へのスイッチング信号Q1を参照して、インバータ300のキャリア周期ごとにインバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出する。そして、コンデンサ電流推定部700aは、算出したインバータ電流Iinvの平均値Iinv_m及びコンバータ電流Iconvを用いて、インバータ300のキャリア周期ごとに推定コンデンサ電流Ic_estを演算する。この手法により、電流検出を高速で行うことをせず、また、電流検出用に追加回路を設けることを必要とせず、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出して、コンデンサ電流Icの推定演算を行うことができる。
【0098】
次に、実施の形態3に係るコンデンサ電流推定部700aによる制御演算について具体的に説明する。
図13は、実施の形態3に係る制御装置3aに備えられるインバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700aの構成例を示すブロック図である。
【0099】
インバータ制御部600の構成は、実施の形態1で示した
図4と同様であり、各部の演算処理も同様であるため、説明は省略する。実施の形態1と異なる点は、インバータ制御部600からインバータ300へ出力されるスイッチング信号Q
1がコンデンサ電流推定部700aにも入力されている点である。
【0100】
コンデンサ電流推定部700aは、推定電流演算部710aと、電流実効値演算部720と、インバータ電流平均値演算部730とを備えて構成される。
図8に示す構成と比較すると、
図13に示すコンデンサ電流推定部700aでは、推定電流演算部710が推定電流演算部710aに置き替えられると共に、推定電流演算部710aの前段にインバータ電流平均値演算部730が追加されている点が異なっている。また、実施の形態1では、コンデンサ電流推定部700の演算周期を限定していなかったのに対して、実施の形態3のコンデンサ電流推定部700aでは、インバータ300のキャリア周期に同期した演算処理が行われる点も異なる。
【0101】
インバータ電流平均値演算部730は、インバータ300のキャリア周期ごとに少なくとも2回検出したインバータ電流Iinvの検出値と、インバータ300のスイッチング信号Q1を参照して、インバータ300のキャリア周期ごとに、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出する。
【0102】
インバータ電流平均値演算部730の動作については、更に幾つかの図面を参照して説明する。
図14は、実施の形態3に係るインバータ300、インバータ制御部600及びコンデンサ電流推定部700aの動作説明に供するタイムチャートである。
図14には、インバータ300の各相に付与する相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、インバータ300の上アームのスイッチ素子Sup,Svp,Swpに付与するスイッチング信号、インバータ電流Iinv、インバータ電流Iinvの検出のタイミングなどが示されている。
図14において、インバータ300及びインバータ制御部600の動作に関する部分は、
図7と同等である。
【0103】
実施の形態1では、
図6を参照し、インバータ300のスイッチング状態によって、インバータ電流Iinvが0となる場合と、モータ401の三相電流Iu,Iv,Iwのうちの何れかの絶対値と一致する場合とがあることを示した。また、実施の形態1では、
図7を参照し、インバータ電流Iinvが、モータ401の三相電流Iu,Iv,Iwのうちの何れかの絶対値と一致するのは、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を大小順で並べたときに、中間となる中間相の上アームスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わる前後であることを示した。このことは、
図14の動作状態においても同様である。従って、インバータ電流平均値演算部730の動作として、インバータ300のキャリア周期ごとに、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出するには、
図14において、中間相の上アームスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わる前後のスイッチング状態継続時間Ti,Tjと、それぞれの期間に検出したインバータ電流Iinvの検出値Iinv1,Iinv2と、キャリア波における1キャリア周期Tcとを用いて、以下の(3)式により算出すればよい。
【0104】
【0105】
なお、本稿では、スイッチング状態継続時間Ti,Tjのうち、スイッチング状態継続時間Tiを「第1のスイッチング状態継続時間」と呼び、スイッチング状態継続時間Tjを「第2のスイッチング状態継続時間」と呼ぶことがある。インバータ300のキャリア周波数が変更されない場合、1キャリア周期Tcは固定値である。従って、(3)式において変動する要素は、スイッチング状態継続時間Ti,Tj、及びインバータ電流Iinvの検出値Iinv1,Iinv2である。このため、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mは、スイッチング状態継続時間Tiとインバータ電流Iinvの検出値Iinv1との積、及びスイッチング状態継続時間Tjとインバータ電流Iinvの検出値Iinv2との積に基づいて算出可能であると言える。
【0106】
また、スイッチング状態継続時間Ti,Tjは、
図14から理解できるように、1キャリア周期中の各相上アームスイッチ素子のON時間Tup,Tvp,Twpを用いて算出可能である。即ち、インバータ制御部600で演算されたスイッチング信号Q
1を参照することで算出できる。
図14においては、V相が中間相となるため、Ti=(Tup-Tvp)/2、Tj=(Tvp-Twp)/2となる。中間相がU相又はW相となる他の組合せの場合においても、同様に算出することが可能である。
【0107】
また、(3)式で用いる中間相の上アームスイッチ素子がスイッチングする前後において検出されるインバータ電流Iinvの検出値Iinv1,Iinv2は、インバータ制御部600の電流復元部603においてモータ401の三相電流Iu,Iv,Iwの復元のために使用する検出値と同じでよい。そのため、コンデンサ電流推定部700aにおいて、コンデンサ電流Icを推定するために、異なるタイミングで電流検出を追加で行う必要はなく、三相電流Iu,Iv,Iwの復元のために検出した検出値を共通で用いればよい。これにより、A/D変換の演算負荷を増加させることなく、インバータ300のキャリア周期ごとに、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを演算して、推定コンデンサ電流Ic_estを演算することが可能である。
【0108】
或いは、電流検出の精度向上のため、中間相の上アームスイッチ素子がスイッチングする前後の期間にそれぞれ複数回、インバータ電流Iinvの検出を行い、それぞれを平均化した値をIinv1,Iinv2として、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出してもよい。
図14においては、説明の簡略化のため、各々のスイッチング状態継続時間Ti,Tjのそれぞれでインバータ電流Iinvは一定であるように示したが、実際にはモータ401の相電流の変化に応じて、各々のスイッチング状態継続時間Ti,Tjの間にも電流変化が生じる。一方、スイッチング前後の期間にそれぞれ複数回の電流検出を行うことにより、スイッチング状態継続時間Ti,Tj中の電流変化を加味することができるので、電流検出の精度を向上することができる。複数回の電流検出によってA/D変換の演算負荷は増加するので、電流検出の精度向上と、演算負荷の増加とはトレードオフの関係にあり、どちらを優先するかによって、複数回の電流検出を行うか否かを判断すればよい。
【0109】
なお、
図14では、キャリア波が単調減少する期間であるキャリア下り周期に電流検出を行って、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出する例を示したが、この例に限定されない。キャリア波が単調増加する期間であるキャリア上り周期に電流検出を行って、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出するようにしてもよい。また、キャリア下り周期及びキャリア上り周期の双方で電流検出を行い、キャリア下り周期におけるスイッチング前後の期間の電流の平均値と、キャリア上り周期におけるスイッチング前後の期間の電流の平均値とを更に平均処理して、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mとして算出してもよい。
【0110】
以上の説明の通り、実施の形態3の手法では、インバータ電流平均値演算部730は、インバータ300のキャリア周期ごとに少なくとも2回検出したインバータ電流Iinvの検出値と、インバータ300へのスイッチング信号Q1を参照して、キャリア周期ごとに、インバータ電流Iinvの平均値Iinv_mを算出する。
【0111】
推定電流演算部710aは、インバータ300のキャリア周期に同期して検出したコンバータ電流Iconvの検出値、及びインバータ電流平均値演算部730において演算したインバータ電流Iinvの平均値Iinv_m、及びコンバータ100のスイッチング信号Q0を参照して、推定コンデンサ電流Ic_estを演算する。なお、推定コンデンサ電流Ic_estの演算方法は、実施の形態1で示した(1)式中のインバータ電流Iinvをインバータ電流Iinvの平均値Iinv_mに置き換えて演算する点が異なるだけであり、コンバータ100のスイッチング信号Q0に応じて演算式を切り替える点は同様である。
【0112】
電流実効値演算部720は、推定コンデンサ電流Ic_estを入力として、インバータ300のキャリア周期ごとに推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを演算する。電流実効値演算部720の演算内容は、実施の形態1で示した電流実効値演算部720の演算と同様である。
【0113】
以上説明したように、実施の形態3に係る電力変換装置において、インバータは、制御装置が生成するインバータの各相に付与する相電圧指令によってスイッチング制御される複数のスイッチ素子を備える。複数のスイッチ素子に対する相電圧指令の大小関係が中間となる相を中間相とするときに、制御装置に備えられるコンデンサ電流推定部は、中間相のスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わる前の第1のスイッチング状態継続時間と、第1のスイッチング状態継続時間に検出されたインバータ電流の検出値との積、及び中間相のスイッチ素子のスイッチング状態が切り替わった後の第2のスイッチング状態継続時間と、第2のスイッチング状態継続時間に検出されたインバータ電流の検出値との積に基づいて、インバータのスイッチング周期ごとにインバータ電流の平均値を算出する。実施の形態3に係る電力変換装置によれば、実施の形態1に係る電力変換装置と同様の効果を享受することができる。また、実施の形態3の手法を用いれば、精度のよい電流検出を行うことが可能であるが、電流検出用に新たな検出器及び追加回路を設けずに実現できるという効果が得られる。
【0114】
実施の形態4.
図15は、実施の形態4に係る電力変換装置1c及びモータ駆動装置2cの構成例を示す図である。
図1に示す構成と比較すると、
図15では、制御装置3が制御装置3bに置き替えられ、制御装置3bでは、アラーム信号発生部750が追加されている。実施の形態4に係るモータ駆動装置2cは、電力変換装置1cと、圧縮機400に備えられるモータ401とによって構成される。その他の構成は、
図1と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0115】
アラーム信号発生部750は、推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsに基づいて、特定の条件時にアラーム信号ALMを出力する。ここで、特定の条件とは、例えば、推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsが制御装置3bに予め記憶されたコンデンサ電流制限値Ic_limよりも大きくなった場合である。
【0116】
一般的な電力変換装置であっても、コンデンサごとに許容電流が定められている。コンデンサに許容電流よりも大きい電流が流れ続けたまま長時間に渡って運転を行うと、コンデンサが故障したり、コンデンサの寿命が急速に劣化したりすることがある。そこで、実施の形態4に係る電力変換装置1cにおいては、予め設定されたコンデンサ電流の制限値であるコンデンサ電流制限値Ic_limを制御装置3bに記憶しておく。そして、制御装置3bは、電力変換装置1cの運転中に演算された推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsを常に監視し、推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsがコンデンサ電流制限値Ic_limを超過した場合、制御装置3bのアラーム信号発生部750は、推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsがコンデンサ電流制限値Ic_limを超過したことを表す、アラーム信号ALMを出力する。
【0117】
アラーム信号ALMにより本装置の使用者、又は図示しない上位の制御装置は、コンデンサ200に故障、又は寿命劣化の可能性があることを知ることができる。なお、電力変換装置1cは、アラーム信号ALMが一定時間解除されない場合に、インバータ制御部600へのスイッチング信号Q1を自動的に停止するような機能を備えていてもよい。このようにすれば、装置が故障する前に、警告、保護といった種々の対策を講じることが可能となる。
【0118】
以上説明したように、実施の形態4に係る電力変換装置に備えられる制御装置は、推定したコンデンサ電流の推定値が予め設定されたコンデンサ電流の制限値を超えた場合には、アラーム信号を出力するアラーム信号発生部を備える。実施の形態4に係る電力変換装置によれば、電力変換装置の運転中にコンデンサ電流を監視することができ、コンデンサに故障又は寿命劣化の可能性があるか否かを判定することができると共に、コンデンサに故障又は寿命劣化の可能性がある場合には、その旨の情報を本装置の使用者、上位の制御装置などに適切に通知できるという効果が得られる。
【0119】
実施の形態5.
図16は、実施の形態5に係る電力変換装置1d及びモータ駆動装置2dの構成例を示す図である。
図15に示す構成と比較すると、
図16では、制御装置3bが制御装置3cに置き替えられ、制御装置3cでは、速度指令垂下部760が追加されている。実施の形態5に係るモータ駆動装置2dは、電力変換装置1dと、圧縮機400に備えられるモータ401とによって構成される。その他の構成は、
図15と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0120】
実施の形態5に係る電力変換装置1dに限ることではないが、コンデンサ200から見て負荷側に位置するインバータ300及びモータ401の消費電力が大きい程、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icが大きくなる。従って、推定コンデンサ電流実効値Ic_est_rmsがコンデンサ電流制限値Ic_limを超過し、アラーム信号ALMが出力された場合、モータ401の回転速度を下げるようにすれば、負荷側の消費電力を低減でき、コンデンサ電流Icも低減することが可能である。
【0121】
図16において、速度指令垂下部760は、アラーム信号ALMを受信したときには、モータ401の回転速度を下げるための信号Δωを生成する。速度指令垂下部760は、速度指令ω*から信号Δωを減算したで修正後速度指令ω**(=ω*-Δω)を生成し、生成した修正後速度指令ω**をインバータ制御部600に出力する。
【0122】
インバータ制御部600は、速度指令ω*の代わりに修正後速度指令ω**に基づいて、実施の形態1で示した各演算を実施し、モータ401の回転速度が修正後速度指令ω**と一致するように速度制御する。
【0123】
速度指令垂下部760の動作により、モータ401への出力電力は低下するものの、コンデンサ200の故障又は寿命劣化を防ぎながら、電力変換装置1dの運転を継続することができる。
【0124】
以上説明したように、実施の形態5に係る電力変換装置に備えられる制御装置は、アラーム信号発生部から出力されるアラーム信号を受信してモータの回転速度指令を低下させる速度指令垂下部を備える。実施の形態5に係る電力変換装置によれば、コンデンサに故障又は寿命劣化の可能性がある旨のアラーム信号を受信した場合には、モータの回転速度指令を低下させることでモータへの出力電力を小さくできるので、コンデンサの故障又は寿命劣化を防ぎながら、電力変換装置の運転を継続できるという効果が得られる。
【0125】
実施の形態6.
図17は、実施の形態6に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態6に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した電力変換装置1を備える。なお、電力変換装置1に代え、実施の形態2~5で説明した電力変換装置1a~1dを備えていてもよい。実施の形態6に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。なお、
図17において、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素には、実施の形態1と同一の符号を付している。
【0126】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1におけるモータ401を内蔵した圧縮機400と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。
【0127】
圧縮機400の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ401とが設けられている。
【0128】
冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御されるモータ401によって駆動される。
【0129】
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0130】
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0131】
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0132】
電力変換装置1は、コンバータ100及びインバータ300それぞれに設置された電流検出部301a,301bを用いて、コンデンサ200に流れるコンデンサ電流Icを推定することが可能である。そのため、コンデンサ200を接続する電気配線の部位に、追加で新たな電流検出部を設置することなく、コンデンサ電流Icを推定できる。これにより、冷凍サイクル適用機器900の運転中にコンデンサ電流Icを監視することで、コンデンサ200が過電流により、装置が故障又はコンデンサが寿命劣化する前に、適切に警告、保護といった種々の対策を講じることができるという効果が得られる。
【0133】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0134】
1,1a~1d 電力変換装置、2,2a~2d モータ駆動装置、3,3a~3c 制御装置、100,100a コンバータ、110 商用電源、120,120a リアクトル、130 ダイオード整流器、140a~140c ダイオード、150,150a,Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swn スイッチ素子、160 簡易スイッチングセル、200 コンデンサ、201a,201b 電圧検出部、300 インバータ、301a,301b 電流検出部、400 圧縮機、401 モータ、402 機械負荷、500 コンバータ制御部、600 インバータ制御部、601 速度制御部、602 d軸電流指令決定部、603 電流復元部、604 電流制御部、605 位置推定部、606 PWM信号生成器、700,700a コンデンサ電流推定部、710,710a 推定電流演算部、720 電流実効値演算部、721a~721h フーリエ級数展開演算部、722 周波数成分合算部、730 インバータ電流平均値演算部、750 アラーム信号発生部、760 速度指令垂下部、900 冷凍サイクル適用機器、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管。
【要約】
電力変換装置(1)は、コンバータ(100)、コンデンサ(200)及びインバータ(300)、並びにコンバータ(100)及びインバータ(300)をそれぞれ駆動制御する制御装置(3)を備える。コンバータ(100)及びインバータ(300)は、コンバータ(100)に流れるコンバータ電流及びインバータ(300)に流れるインバータ電流を検出するために、それぞれが少なくとも1つの電流検出部(301a,301b)を備える。制御装置(3)は、電流検出部(301a,301b)によって検出されたコンバータ電流及びインバータ電流の検出値を使用し、コンデンサ(200)に流れるコンデンサ電流を演算対象として、コンバータ(100)の動作状態によって演算処理を切り替えて、コンデンサ電流の推定演算を行うコンデンサ電流推定部(700)を備える。