(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ディスクホイール
(51)【国際特許分類】
B60B 19/00 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
B60B19/00 K
(21)【出願番号】P 2021006325
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 正和
(72)【発明者】
【氏名】石川 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 佑享
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061831(WO,A1)
【文献】特開2017-001549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0147997(US,A1)
【文献】実開昭56-097103(JP,U)
【文献】特開平11-208205(JP,A)
【文献】実開昭59-060003(JP,U)
【文献】特開2004-196005(JP,A)
【文献】特開2015-136991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 1/00 - 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として略円筒状を成し、かつ、軸方向一端側に配置されたインナーリム部、及び、該インナーリム部から軸方向他端側に延在するアウターリム部を有するリムと、
前記軸方向他端側に設けられ、かつ、前記軸方向他端側の回転中心部から前記アウターリム部に向かって延在する複数のスポークを有するディスクと、
三角平板状を成し、かつ、前記複数のスポーク間において、前記リムの少なくとも前記アウターリム部の内周面から突出するように設けられたフィンと、
を備えるディスクホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、従来、車両のタイヤが取り付けられるディスクホイールとして、例えば、ディスクブレーキ装置に対する冷却性能を向上させるとともに、空気抵抗の増加(すなわち空力性能の悪化)を抑制することを企図したディスクホイールを種々提案してきた(例えば特許文献1)。
【0003】
当該ディスクホイールは、スポークの形状に特徴を有しており、具体的には、スポークの外側表面の周端に沿って延在し、かつ、車両の車幅方向外側に突出する突起部を備えている。また、その突起部は、ディスクの外周側に位置する部分が、ディスクの中心部側に位置する部分よりも高く形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-20640号公報(特許第6561935号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のディスクホイールでは、車両走行時において、スポークの外側表面の車両後方側に低圧渦が形成され、スポーク間の開口部から車両の外側に向かって流れるブレーキ冷却風の流速が増加される。また、スポークの外側表面に沿って車両後方側に流れる走行風は、突起部の傾斜面によって車両の外側に湾曲させられる。これらの結果、スポークの車両後方側の開口部から外側に流れ出るブレーキ冷却風が、車両後方側に流れる走行風と衝突することが防止され、車両の空気抵抗の増加が抑制される。これにより、ディスクブレーキ装置に対する冷却性能の向上と空力性能の悪化抑制を両立させることが可能となる。
【0006】
しかし、本発明者らの知見によれば、上記従来のディスクホイールは、車両の空力性能を向上させる観点から、未だ十分ではなく、空力性能の更なる向上が望まれていた。加えて、上記従来のディスクホイールでは、突起部を有効に機能させるべく、スポークをある程度、太軸化する必要があり、また、突起部を比較的大型の部材とする必要もあるため、ディスクホイール自体の意匠性が制約され、ディスクホイールひいては車両質量の増大をも招いてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、車両の空力性能を向上させることができ、しかも、ディスクホイールの意匠性の制約と質量の増大を抑制することができるディスクホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用する。すなわち、本開示に係るディスクホイールの一例は、全体として略円筒状を成し、かつ、軸方向一端側(車両の幅方向内側)に配置されたインナーリム部、及び、該インナーリム部から軸方向他端側(車両の幅方向外側)に延在するアウターリム部を有するリムと、前記軸方向他端側(車両の幅方向外側)に設けられ、かつ、前記軸方向他端側(車両の幅方向外側)の回転中心部から前記アウターリム部に向かって延在する複数のスポークを有するディスクと、略平板状を成し、かつ、前記複数のスポーク間において、前記リムの少なくとも前記アウターリム部の内周面から突出するように設けられたフィンと、を備える。なお、フィンの数量は、特に制限されないが、ディスクホイールの周方向に沿って複数配設されているとより好適である。
【0009】
かかる構成を有するディスクホイールは、リムの外周面に車両のタイヤが取り付けられ、ディスク面が車幅方向外側に向くように、ディスクの回転中心部(例えばハブ取付部)が車両の回転軸に装着される。そして、ディスクホイールにおける複数のスポーク間には、開口部(「飾り窓部」等とも呼ばれる。)が画成され、その部位において、アウターリム部の内周面から(ディスクの回転中心部、及び/又は、車幅方向外側に向かって)突出するフィンが設けられている。
【0010】
このようにフィンを配置することにより、後述する如く、車両の走行時において、車両床下の車幅方向内側からディスクの開口部を通って車幅方向外側へ排出される空気の流れによる「流れ場」の乱れが抑制され、車両の空気抵抗係数(Cd値)が改善されることが確認された。また、本開示に係るフィンは、多数(多軸)の細軸スポークを有するディスクホイールに組み付けることができるので、それらのスポークで形成される意匠の一部としてフィンを組み込むことが可能となる。その結果、ディスクホイールのスポークの太さや形状の自由度を高めることができるので、ディスクホイールの意匠性の制約を抑制しつつ、ディスクホイールの軽量化を図ることもできる。
【発明の効果】
【0011】
以上のことから、本開示によれば、車両の空力性能を向上させることができ、しかも、ディスクホイールの意匠性の制約と質量の増大の両方を抑制することができる。また、これらにより、車両の運転特性及び経済性の向上に資することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係るディスクホイールの一例の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿う断面の一部を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るディスクホイールに備わるフィンの一例の概略形状を示す斜視図である。
【
図4】(A)及び(C)は、従来のディスクホイールが装着された車両の空力特性の解析結果の一例を示す図であり、(B)及び(D)は、本開示の一実施形態に係るディスクホイールが装着された車両の空力特性の解析結果の一例を示す図である。
【
図5】(A)は、従来のディスクホイールが装着された車両の空力特性の解析結果の他の一例を示す図であり、(B)は、本開示の一実施形態に係るディスクホイールが装着された車両の空力特性の解析結果の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、形状及び寸法の比率は、一例であり、図示に限定されるものではない。
【0014】
[実施形態]
図1は、本開示の一実施形態に係るディスクホイールの一例の概略構成を示す斜視図である。また、
図2は、
図1におけるII-II線に沿う断面の一部を示す。ディスクホイール1は、例えば車両用の空気入りタイヤが取り付けられる全体として略円筒状を成すリム10を備える。リム10は、軸方向一端側(車幅方向内側)に配置されたインナーリム部11、及び、インナーリム部11から軸方向他端側(車幅方向外側)に延在するアウターリム部12を有する。また、アウターリム部12(リム10の軸方向他端側)には、ディスクホイール1の回転中心部である中心開口部13aを画成するハブ取付部13と、ハブ取付部13からアウターリム部12に向かって径方向に延在する複数のスポーク14とを有するディスク15が接合されている。なお、
図1においては、比較的太軸のスポーク14を例示したが、スポーク14の大きさ、形状、及び寸法は、それに限定されない。
【0015】
また、複数のスポーク14は、軸方向視(車両側面視)において、ディスク15の周方向に沿って一定間隔で配設されており、換言すれば、複数のスポーク14は、ディスクホイール1の回転中心軸に対して軸対称に配置されている。さらに、隣接するスポーク14,14間には、ディスクホイール1の軸方向一端側(車幅方向内側)と軸方向他端側(車幅方向外側)とを連通する略扇形状を成す開口部16が複数画成されている。例えば、
図1に示すように、5本のスポーク14と5個の開口部16が、それぞれディスク15の周方向において等間隔で形成されている。
【0016】
また、アウターリム部12における外周面には、端部側に位置する凸部12aと、インナーリム部11側に位置する凸部12bが形成されている(
図2参照)。一方、アウターリム部12の内周面12s(アウターリム面)は、リム10とスポーク14との交差部20(インナーリム部11とアウターリム部12との境界部)から、アウターリム部12の周端側に向かって徐々に拡径するように、断面略直線状に延在する部分を有している。すなわち、アウターリム部12における凸部12bの反対側にあたる部位が平坦面とされている。
【0017】
またさらに、複数のスポーク14間(開口部16)には、略平板状を成す複数のフィン17が、アウターリム部12の内周面12sから突出するように配設されている。例えば、
図1に示すように、5個の開口部16のそれぞれにおいて、3個のフィン17がディスク15の周方向において等間隔で設けられている。換言すれば、
図2に示すように、アウターリム部12の内周面12sに、フィン17の斜面17sが当接するようにして、両者が接合されており、これにより、アウターリム部12の内周面12sから、ディスク15の回転中心部、及び、車幅方向外側に向かって、フィン17が突出するように構成されている。
【0018】
ここで、
図3は、本開示の一実施形態に係るディスクホイールに備わるフィン17の一例の概略形状を示す斜視図である。なお、
図2及び
図3においては、
図1に示すフィン17の形状を簡略化して示した。
図2及び
図3の例では、フィン17は、直角三角平板状を成す部材である。このフィン17の形状や大きさは特に制限さないものの、ディスクホイール1が装着された車両の空力特性の解析結果及び実車評価より、フィン17が、以下の式(1)及び式(2)で表される関係を満たすと、より好適であることが判明した。
【0019】
Db≒Da/2 …(1)
Dc=15mm~45mm …(2)
ここで、Daは、
図2に示すとおり、アウターリム部12の外周端と、リム10及びスポーク14の交差部20との間の軸方向距離を示す。また、
図3に示すとおり、Dbは、フィン17の底面17tの長尺方向の長さを示し、Dcは、フィン17の厚さ(フィン17の底面17tの幅)を示す。なお、フィン17の厚さDcは、ディスクホイール1自体の意匠にも鑑みて好適な寸法を適宜選択することができる。
【0020】
このように構成された本実施形態のディスクホイール1によれば、上述したようにフィン17を配置することにより、ディスクホイール1を装着した車両の走行時において、車両床下の車幅方向内側からディスク15の開口部16を通って車幅方向外側へ排出される空気流に対する整流効果が発現され、その空気流の「流れ場」の乱れが抑えられて車両の空気抵抗係数(Cd値)が改善され得る。
【0021】
例えば、
図4は、従来のディスクホイール1’が装着された車両、及び、本開示によるディスクホイール1が装着された車両に対する空力特性の解析結果の一例(特に、車両前方側のタイヤ及びその周囲における空気流の状態)を示す図である。
図4の(A)及び(B)は、車両をその床下斜め方向から視認した状態を示す斜視図であり、
図4の(C)及び(D)は、車両をその床下側から視認した状態を示す平面図である。また、
図4の(A)及び(C)が従来の結果を示し、
図4の(B)及び(D)が本開示の結果を示す。
【0022】
これらのうち、
図4の(A)及び(B)の比較より、従来の(A)では、破線楕円C01で囲んだタイヤ後方の部位において、空気流の乱れ(攪乱)が顕著であるのに対し、本開示の(B)では、破線楕円C11で囲んだタイヤ後方の部位における空気流の乱れが格段に減少することが確認された。また、違う角度から見た
図4の(C)及び(D)の比較より、従来の(C)では、破線楕円C02で囲んだタイヤ後方の部位において、空気流を車両の前方方向に巻き込むような乱流が有意に生じているのに対し、本開示の(D)では、破線楕円C12で囲んだタイヤ後方の部位においても、従来のような空気流の巻き込みによる乱れが顕著に抑制されることが確認された。
【0023】
また、
図5は、従来のディスクホイール1’が装着された車両、及び、本開示によるディスクホイール1が装着された車両に対する空力特性の解析結果の他の一例(特に、車両後方側のタイヤ及びその後段における空気流の状態)を示す図である。
図5の(A)及び(B)は、車両をその床下斜め方向から視認した状態を示す斜視図であり、
図5の(A)が従来の結果を示し、
図5の(B)が本開示の結果を示す。
【0024】
これらの
図5の(A)及び(B)の比較より、従来の(A)では、破線楕円C03で囲んだタイヤ後方の部位において、空気流の乱れ(攪乱)が比較的大きいのに対し、本開示の(B)では、破線楕円C13で囲んだタイヤ後方の部位における空気流の乱れが有意に減少することが確認された。
【0025】
以上の結果より、スポーク14間の開口部16においてフィン17が複数配設された本開示のディスクホイール1によれば、フィン17を採用していない従来のディスクホイールに比して、車両に装着したときの走行時における空気流の乱れを、顕著に減少及び抑制することができることが理解される。これは、フィン17による整流効果によるものと推察され、これにより、車両の空気抵抗係数(Cd値)を改善して空力性能を向上させることができる。また、略平板状を成すフィン17は、多数(多軸)の細軸スポークを有するディスクホイール1に組み付けることができるので、それらのスポークで形成される意匠の一部としてフィン17を組み込むことが可能となる。その結果、ディスクホイール1のスポーク14の太さや形状の自由度を高めることができるので、ディスクホイール1の意匠性の制約を抑制しつつ、ディスクホイール1の軽量化を図ることもできる。また、これらにより、車両の運転特性及び経済性の向上を実現することも可能となる。
【0026】
以上、本開示の一例としての上記実施形態について詳細に説明してきたが、前述した説明はあらゆる点において本開示の一例を示すに過ぎず、本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。また、上記実施形態は、部分的に置換してもよく、適宜組み合わせて構成することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…ディスクホイール、1’…ディスクホイール(従来)、10…リム、11…インナーリム部、12…アウターリム部、12a,12b…凸部、12s…アウターリム部の内周面、13…ハブ取付部、13a…中心開口部、14…スポーク、15…ディスク、16…開口部、17…フィン、17s…フィンの斜面、17t…フィンの底面、20…リムとスポークとの交差部、C01~C03…解析結果(従来)における破線楕円、C11~C13…解析結果における破線楕円。