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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】運転者状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/18 20060101AFI20240924BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
A61B5/18
B62D5/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021008605
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112708
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】貝野 彰
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 由貴
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-067123(JP,A)
【文献】特開2012-234398(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172528(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
B62D 5/00-5/32
B60K 25/00-28/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、
前記車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、
前記ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、
前記振動装置及び前記振動検出器を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記振動装置により前記ステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与し、
前記振動検出器により検出された振動信号を周波数解析し、前記振動信号に前記ステアリングホイールの固有振動周波数及び前記励起周波数とは異なる所定の異常周波数を有する異常信号を検出した場合に前記運転者が異常状態であると判定し、
前記異常周波数は、特定の疾患の発症時に前記励起周波数の振動の付与に応答して前記振動信号にあらわれる周波数であり、
前記コントローラは、前記異常周波数を記憶するメモリを含み、前記異常周波数を有する前記異常信号を検出すると、前記運転者が前記特定の疾患を発症したと判定する、運転者状態判定装置。
【請求項2】
車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、
前記車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、
前記ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、
前記振動装置及び前記振動検出器を制御するコントローラと、
運転者の状態を検出するセンサと、を備え、
前記コントローラは、
前記振動装置により前記ステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与し、
前記振動検出器により検出された振動信号を周波数解析し、前記振動信号に前記ステアリングホイールの固有振動周波数及び前記励起周波数とは異なる所定の異常周波数を有する異常信号を検出した場合に前記運転者が異常状態であると判定し、
前記コントローラは、前記センサの検出信号に基づいて、前記運転者が異常状態であると推定した場合に前記振動装置により前記ステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与する、運転者状態判定装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記振動信号を周波数解析し、前記振動信号のパワースペクトル密度が前記固有振動周波数及び前記励起周波数とは異なる異常周波数にピークを有する異常信号を検出した場合に前記運転者が異常状態であると判定する、請求項に記載の運転者状態判定装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記振動信号を周波数解析し、前記振動信号のパワースペクトル密度が前記固有振動周波数及び前記励起周波数とは異なる異常周波数にピークを有する異常信号を検出した場合に前記運転者が異常状態であると判定する、請求項に記載の運転者状態判定装置。
【請求項5】
運転者の状態を検出するセンサを更に備え、
前記コントローラは、前記センサの検出信号に基づいて、前記運転者が異常状態であると推定した場合に前記振動装置により前記ステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与する、請求項1又は3に記載の運転者状態判定装置。
【請求項6】
前記振動装置は、前記運転者による前記ステアリングホイールの操舵操作を補助するための電動パワーステアリング用の電気モータである、請求項1~のいずれかに記載の運転者状態判定装置。
【請求項7】
前記振動信号は、前記ステアリングホイールの回転方向の振動成分を表す信号である、請求項1~のいずれかに記載の運転者状態判定装置。
【請求項8】
前記振動検出器は、前記ステアリングホイールに印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、前記振動信号は、前記操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクを表す信号である、請求項1~のいずれかに記載の運転者状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転中に運転者が異常状態にあるか否かを判定するための運転者状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が異常状態にあると判定すると、音やランプにより運転者に警告を発する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置では、自動運転支援モード(例えば、車線維持支援)による車両走行中に、運転者による操作入力がない状態が所定時間(例えば、5秒)だけ継続すると、運転者に向けて警告が発生される。その後、さらに運転者の操作入力がない時間が継続すると、順次、警告や車両操作への自動介入(減速等)が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6455456号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
疾患に基づく運転者の異常状態には、数秒以内に完全な意識喪失に至る第1のケースと、運転者の運動能力レベル又は意識レベルが数十秒から数十分を掛けて徐々に低下していく第2のケースとがある。従来のように各種のセンサによる検知信号(運転者の画像情報、生体情報、車両操作情報等)に基づいて運転者の異常状態を検出する場合、急激な意識消失の第1のケースでは、疾患の発症から短時間の内に異常状態の判定がなされる。
【0005】
一方、疾患(例えば、心疾患、脳疾患、低血糖等)が発症してから運動能力レベルが徐々に低下していく第2のケースでは、誤判定を回避するように異常状態の判定を高い精度で行うには、長い時間にわたる検知信号の分析が必要となる。このため、異常状態の判定に長い時間を要し、結果的に異常状態の判定を早期に行うことができない。
【0006】
したがって、疾患の発症から長い時間にわたって、運転者が低い運動能力レベルを有した状態で車両走行が継続されることになる。例えば、疾患の発症により視覚能力の喪失が徐々に進行しても、運転者は不完全なステアリング操作により運転操作を継続することができる。
【0007】
特許文献1の装置では、上記のように運動能力レベルが徐々に低下していく途中で、一旦運転者の異常状態が検出されても、運転者が不安定なステアリング操作を行うと異常判定が解除されてしまう。このため、この装置では、運動能力レベルが消失した状態にならないと、運転者の異常判定を確定することができなかった。すなわち、この装置では、運転者の異常状態の判定を早期に確定することができなかった。
【0008】
また、特許文献1の装置において、警告後における運転者による操作入力(例えば、ステアリング操作)に代えて、警告解除操作(解除ボタンの押下)を採用してもよい。しかしながら、この場合、運転者が自らの運動能力レベルの低下に気付かずに、解除ボタンを押下してしまうと異常状態の判定が確定されない。よって、この場合も、運転者の異常状態の判定を早期に確定することができない。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、運転者の運動能力レベルの喪失の予兆を捉えて異常状態の判定を早期に確定することが可能な運転者状態判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、振動装置及び振動検出器を制御するコントローラと、を備え、コントローラは、振動装置によりステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与し、振動検出器により検出された振動信号を周波数解析し、振動信号にステアリングホイールの固有振動周波数及び励起周波数とは異なる所定の異常周波数を有する異常信号を検出した場合に運転者が異常状態であると判定し、異常周波数は、特定の疾患の発症時に励起周波数の振動の付与に応答して振動信号にあらわれる周波数であり、コントローラは、異常周波数を記憶するメモリを含み、異常周波数を有する異常信号を検出すると、運転者が特定の疾患を発症したと判定することを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明によれば、運転者が異常状態であるときには、ステアリングホイールに付与した振動に対する応答である振動信号に特有の異常周波数成分が含まれることを利用している。これにより、本発明では、従来のように運転者の操作入力や長時間の生体情報データによる判定処理を行うことなく、運転者が異常状態であることを早期に且つ高い精度で確定することができる。また、このように構成された本発明によれば、振動信号中に生起される異常周波数により、特定の疾患(例えば、脳梗塞等)を即座に判断することができる。これにより、本発明では、運転者が特定の疾患を発症していることを、早期に判定することができる。
【0012】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、振動装置及び振動検出器を制御するコントローラと、運転者の状態を検出するセンサと、を備え、コントローラは、振動装置によりステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与し、振動検出器により検出された振動信号を周波数解析し、振動信号にステアリングホイールの固有振動周波数及び励起周波数とは異なる所定の異常周波数を有する異常信号を検出した場合に運転者が異常状態であると判定し、コントローラは、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態であると推定した場合に振動装置によりステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与することを特徴としている。
【0013】
このように構成された本発明によれば、運転者が異常状態であるときには、ステアリングホイールに付与した振動に対する応答である振動信号に特有の異常周波数成分が含まれることを利用している。これにより、本発明では、従来のように運転者の操作入力や長時間の生体情報データによる判定処理を行うことなく、運転者が異常状態であることを早期に且つ高い精度で確定することができる。また、このように構成された本発明によれば、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態である可能性が比較的高い場合において、振動付与による異常状態の判定を行うことができる。また、他の形態では、センサを用いずに、コントローラは、定期的に運転者の異常状態の判定を行うことができる。すなわち、コントローラは、定期的に振動装置へ制御信号を送出して、振動検出器の検出信号に基づいて判定を行うことができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、コントローラは、振動信号を周波数解析し、振動信号のパワースペクトル密度が固有振動周波数及び励起周波数とは異なる異常周波数にピークを有する場合に前記運転者が異常状態であると判定する。このように構成された本発明によれば、振動信号を周波数解析して、異常周波数成分のピーク信号を検出することにより、異常信号の存在(すなわち、異常状態)を容易に判定することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、運転者の状態を検出するセンサを更に備え、コントローラは、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態であると推定した場合に振動装置によりステアリングホイールに所定の励起周波数の振動を付与する。このように構成された本発明によれば、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態である可能性が比較的高い場合において、振動付与による異常状態の判定を行うことができる。また、他の形態では、センサを用いずに、コントローラは、定期的に運転者の異常状態の判定を行うことができる。すなわち、コントローラは、定期的に振動装置へ制御信号を送出して、振動検出器の検出信号に基づいて判定を行うことができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、振動装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵操作を補助するための電動パワーステアリング用の電気モータである。このように構成された本発明によれば、振動装置を新たに設けることなく、電動パワーステアリング装置の電気モータを振動装置として利用することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、振動信号は、ステアリングホイールの回転方向の振動成分を表す信号である。また、本発明において、好ましくは、振動検出器は、ステアリングホイールに印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、振動信号は、操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクを表す信号である。このように構成された本発明によれば、振動検出器を新たに設けることなく、操舵トルクセンサを振動検出器として利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の運転者状態判定装置によれば、運転者の運動能力レベルの喪失の予兆を捉えて異常状態の判定を早期に確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による運転者状態判定装置が搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による運転者状態判定装置のブロック図である。
図3】本発明の実施形態による異常周波数の説明図である。
図4】本発明の実施形態による振動信号のパワースペクトル密度のグラフである。
図5】本発明の実施形態による異常周波数の説明図である。
図6】本発明の実施形態による異常状態の判定処理のフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による運転者状態判定装置を説明する。図1は運転者状態判定装置が搭載された車両の説明図、図2は運転者状態判定装置のブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態による運転者状態判定装置10は、操舵装置1aを有する車両1に搭載されている。操舵装置1aは、ステアリングホイール2、これに固定的に連結されたステアリングシャフト3、及びステアリングシャフト3と操舵輪4とを連結する連結機構(図示せず)を備えている。
【0022】
図2に示すように、運転者状態判定装置10は、運転者の状態を検出する1又は複数のセンサ12と、ステアリングホイール2に所定の振動を付与する振動装置14と、ステアリングホイール2又はステアリングシャフト3の振動を検出する振動検出器16と、コントローラ18と、車両運転制御装置20とを備えている。
【0023】
センサ12は、運転者の状態を検出するセンサである。運転者の状態は、運転者の身体状態、及び運転者による車両操作状態を含む。身体状態を検出するセンサ12は、例えば、運転者を撮像する車内カメラ、心拍センサ、心電図センサ等である。また、車両操作状態を検出するセンサ12は、車外を撮像する車外カメラ、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、操舵角センサ、操舵トルクセンサ、アクセル開度センサ、ブレーキ圧センサ、GPSセンサ、ADASセンサ等である。
【0024】
例えば、コントローラ18は、車内カメラにより撮像された運転者の撮像信号(画像データ)を用いて、運転者の視線方向、姿勢(上半身又は頭部の位置)、運転者のまぶたの開き具合等を検出し、このような検出結果に基づいて、運転者が異常状態であることを推定することができる。例えば、視線方向の安定性が所定値以下の場合、姿勢の安定性が所定値以下の場合、まぶたが所定時間以上にわたって閉じている場合に、運転者が異常状態であると推定することができる。また、例えば、コントローラ18は、操舵角センサにより検出された操舵角信号、車外カメラにより撮像された画像信号等に基づいて、運転者が異常状態であることを推定することができる。例えば、走行路上での中央線からの車両1の位置の安定性、操舵角の安定性等が所定値以下の場合に、運転者が異常状態であると推定することができる。
【0025】
振動装置14は、往復回転を出力可能な電気モータを備え、ステアリングシャフト3に取り付けられている。振動装置14は、制御信号を受けるとステアリングシャフト3を周方向に所定の周波数で且つ小さな角度で往復回動させるように構成されている。これにより、ステアリングシャフト3を介してステアリングホイール2に所定の周波数の振動が付与される。また、振動検出器16は、ステアリングシャフト3に取り付けられており、ステアリングシャフト3を介してステアリングホイール2の振動状態を検出する。
【0026】
車両1は、電動パワーステアリング装置を備えている。電動パワーステアリング装置は、操舵アシストトルクを付与するためにステアリングシャフト3に連結された電気モータ、運転者による操舵トルクを検出するためにステアリングシャフト3に連結された操舵トルクセンサ等を含む。本実施形態では、電動パワーステアリング装置の構成要素のうち、電気モータが振動装置14を構成し、操舵トルクセンサが振動検出器16を構成する。
【0027】
したがって、電気モータは、電動パワーステアリング装置として、ステアリングシャフト3に対してアシストトルクを付与するように作動する。また、電気モータは、振動装置14として、ステアリングシャフト3を小さな角度で周方向に往復動させるようにして、ステアリングシャフト3及びステアリングホイール2を振動させるように作動する。
【0028】
また、操舵トルクセンサは、電動パワーステアリング装置及び振動検出器16として、運転者がステアリングホイール2を介してステアリングシャフト3に付与した操舵トルクを検出するように作動する。操舵トルクセンサは、ステアリングシャフト3の周方向のねじれを検出する。よって、振動検出器16(すなわち、操舵トルクセンサ)による検出信号は、ステアリングホイール2又はステアリングシャフト3の周方向の振動成分を含んでいる。コントローラ18は、振動検出器16(操舵トルクセンサ)により検出された操舵トルクの時系列検出信号(振動信号)を周波数解析する。
【0029】
コントローラ18は、CPUとしてのプロセッサ18a、各種プログラムやデータベースを記憶するメモリ18b(RAM、ROM等)、電気信号の入出力装置等を備えたコンピュータデバイスである。コントローラ18は、センサ12、振動装置14、振動検出器16、車両運転制御装置20を制御する。コントローラ18は、センサ12、振動装置14、振動検出器16を利用して、運転者が異常状態であると判定すると、車両運転制御装置20に制御信号を送り、自動運転により車両1を安全な場所に停車させるように構成されている。車両運転制御装置20は、操舵制御装置、エンジン制御装置、ブレーキ制御装置等である。
【0030】
コントローラ18は、各種のセンサ12から検出信号を受け取り、検出信号に基づいて運転者の運動能力レベル又は意識レベルが正常状態から低下したか否か(正常状態から異常状態になったか否か)を推定する。運転者が異常状態にあることが推定されると、コントローラ18は、振動装置14へ所定期間(例えば、1秒)だけ作動信号を出力すると共に、振動検出器16から検出信号を受け取る。コントローラ18は、検出信号に基づいて、運転者が異常状態であるか否かを判定する(運転者が異常状態であることを確定する)。そして、運転者が異常状態であると判定されると、コントローラ18は、車両運転制御装置20により、車両1を自動運転により停車させる。
【0031】
次に、図3図5を参照して、本実施形態の運転者状態判定装置10による異常状態の判定処理について説明する。図3は異常周波数の説明図であり、図4は振動信号のパワースペクトル密度のグラフ、図5は異常周波数の説明図である。
【0032】
図3は、振動検出器16で検出された振動信号を周波数解析して得られたパワースペクトル密度を示している。図3は理解の容易のため簡略化されている。振動装置14は、ステアリングホイール2に所定期間だけ所定周波数の振動(例えば、励起周波数f0=20Hz)を付与する。振動検出器16は、少なくとも上記所定期間において検出した検出信号をコントローラ18へ出力する。コントローラ18は、振動検出器16から受け取った時系列信号である検出信号を、FFT解析技術等を用いて周波数分析(スペクトル分析)し、図3のようなパワースペクトル密度信号を取得する。図3において、破線Aは運転者が正常状態にあるときの応答信号(振動信号のパワースペクトル密度)であり、実線Bは運転者が異常状態にあるときの応答信号である。
【0033】
図3から分かるように、正常状態では励起周波数f0のみに有意な信号ピークが形成される。一方、異常状態では励起周波数f0に加えて、特定の共振周波数fD(例えば、10Hz付近)においても有意な信号ピークが形成される。この共振周波数fDは、運転者が異常状態であるときに検出される特異な周波数である。コントローラ18は、このような異常周波数fDをメモリ18bに記憶している。コントローラ18は、振動信号のパワースペクトル密度を分析し、パワースペクトル密度の異常周波数fDに信号ピークが現れる場合、又は、異常周波数fDの信号強度が所定値以上である場合、運転者が異常状態であると判定する。
【0034】
図4は、振動信号のパワースペクトル密度のより詳細なグラフを示している。図5は、励起周波数と異常周波数の関係を示している。図4の実線は、同名半盲により両眼とも視野の半分(右又は左)が見えない視野異常の疾患を有する運転者の運転中に取得されたデータに基づいている。図4から分かるように、励起周波数f0に加えて、異常周波数fDに信号ピークが形成されている。さらに、図4においては、他の周波数f1,f2,f3等にも信号ピークが形成されている。なお、図4の破線は、視野異常の疾患を有しない運転者の運転中に取得されたデータに基づくものである。
【0035】
図5に示すように、周波数fn(n=1,2,3・・・)は、正常状態(疾患のない運転者が運転)及び異常状態(視野機能が低下した運転者が運転)の両方に現れる信号ピークであり、操舵装置1aに固有の共振周波数である。一方、正常状態では異常周波数fDには信号ピークは現れないが、異常状態では異常周波数fDに信号ピークが現れる。なお、図5の例では、振動期間を1秒としているが、これに限らず、1秒よりも長くても短くてもよいことが分かっている。例えば、0.5秒や2秒であっても同様の結果が得られた。
【0036】
従来、疾患を有する運転者と疾患を有さない運転者による運転操作に相違があることは知られていた。すなわち、疾患により運動機能レベルが低下している運転者は、適切な車両操作を継続することができないため、常に修正操作を行う。本発明者は、このような知見に基づいてさらに研究を進めた結果、上記のように、運動機能レベルの低下に起因して運転者の振動入力に対する応答特性に変化が現れることを実験的に見出した。
【0037】
車両1に外乱入力(路面や風等)が加わった場合、この外乱入力はタイヤやサスペンション等の車両構造からステアリング機構に伝達される。すなわち、外乱入力は、ステアリングホイール2を介して、運転者に振動として伝えられる。このとき、正常状態の運転者は、このような振動にかかわらず、適切に操舵操作を行うことができる。一方、異常状態では、この振動により正常状態よりも強い筋伸縮反応が誘発されるので、異常状態の運転者は意図通りに操作を行うことができず、修正操作を繰り返すことになる。
【0038】
すなわち、振動入力があったとき、正常状態の場合は、運転者モデルにおいてフィードフォワード操作が主となる。しかしながら、異常状態の場合は、フィードバック操作の割合が著しく増加する。また、異常状態では、把持力調整能力の低下、筋収縮による振動伝達特性の変化等が生じると考えられる。このような現象に関連して、図4のように、操舵トルク信号に新たな共振周波数(異常周波数)が現れたのだと推察される。本実施形態の運転者状態判定装置は、このような人間特性を利用して、ステアリングホイール2に振動(外乱入力)を付与し、その反応を分析することにより運転者が異常状態であるか否かを判定することが可能である。
【0039】
次に、図6を参照して、本実施形態の運転者状態判定装置10による異常状態の判定処理の処理フローについて説明する。図6は異常状態の判定処理のフローチャートである。
【0040】
コントローラ18は、この処理フローを繰り返し実行している。まず、コントローラ18は、センサ12から検出信号を取得し(ステップS11)、この検出信号に基づいて運転者が正常状態であるか異常状態であるかを推定する(ステップS12)。運転者が正常状態であると推定された場合は、この処理フローは終了される。
【0041】
一方、運転者が異常状態であると推定された場合(S12:Yes)、コントローラ18は、制御信号を出力して振動装置14により所定期間(例えば、1秒)だけステアリングホイール2を所定の励起周波数f0で振動させる(ステップS13-S14)。このとき、コントローラ18は、振動検出器16から振動信号を取得する。
【0042】
所定期間が経過すると(S14:Yes)、コントローラ18は、振動信号を周波数解析してパワースペクトル密度を算出し、パワースペクトル密度に現れた1又は複数の共振周波数を取得する(ステップS15)。すなわち、パワースペクトル密度に現れるピーク周波数を検出する。取得した全ての共振周波数が、励起周波数f0や操舵装置1aの1又は複数の固有周波数fn(n=1,2,3・・・)と一致する場合、この処理フローは終了される。
【0043】
一方、取得した共振周波数の一部の周波数が、励起周波数f0や操舵装置1aの固有周波数fnと異なる場合、又は、予めメモリ18bに記憶された異常周波数fDと一致する場合(S16:Yes)、コントローラ18は、運転者が異常状態にあると判定し(ステップS17)、自動運転介入処理フローを実行する(ステップS18)。自動運転介入処理フローでは、コントローラ18は、車両運転制御装置20へ制御信号を送出して、自動運転により車両1を安全な場所に停車させる。
【0044】
なお、固有周波数fnは、コントロールホイール2又は操舵装置1aに所定の励起周波数f0の振動を付与することにより予め実験的に取得し、メモリ18bに格納することができる。また、異常周波数fDも、種々の疾患を模擬した実験を実行することにより予め取得し、メモリ18bに格納することができる。この場合、メモリ18bは、各疾患に対応する異常周波数fDを格納することができる。
【0045】
また、本実施形態では、推定処理により、運転者の異常状態が推定された場合(S12:Yes)、ステアリングホイール2に振動を付与する(S13)。しかしながら、本実施形態は、推定処理とは別に、定期的に振動を付与して、共振周波数に基づく異常状態の判定(S15-S17)を行うように構成することができる。
【0046】
次に、本発明の本実施形態の運転者状態判定装置10の作用について説明する。
本実施形態の車両1を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置10は、車両1の操舵装置1aのステアリングホイール2に振動を付与する振動装置14と、ステアリングホイール2の振動を検出する振動検出器16と、振動装置14及び振動検出器16を制御するコントローラ18と、を備え、コントローラ18は、振動装置14によりステアリングホイール2に所定の励起周波数f0の振動を付与し、振動検出器16により検出された振動信号を周波数解析し、振動信号にステアリングホイール2の固有振動周波数fn(n=1,2,3・・・)及び励起周波数f0とは異なる所定の異常周波数fDを有する異常信号を検出した場合に運転者が異常状態であると判定する。
【0047】
ある種の疾患(例えば、心疾患、脳疾患、低血糖等)を発症すると、身体の機能低下は高次機能から低次機能へ徐々に進行していくと考えられる。例えば、随意運動の機能低下は運動不能となる数十分~数十秒前から進行し、不随意運動は数秒前から進行する。随意運動の機能が低下し始めると、例えば、運転者の車線維持能力や速度維持能力は平時よりも低下する。しかしながら、この状況でも運転者は不完全ながらも車両操作を行うことが可能である。一方、不随意運動の機能が低下し始めると、姿勢維持や頭部の運動が困難になるため、運転者は運転操作自体が困難になる。
【0048】
ある種の疾患においては、不随意運動の機能が低下し始めると数秒のうちに運転者の運動機能が失われる。したがって、随意運動の機能が低下している段階で運転能力レベルの低下又は喪失の予兆を検出することが有効である。本実施形態では、運転者が異常状態であるときには、ステアリングホイール2に付与した振動に対する応答である振動信号に特有の異常周波数成分が含まれることを利用している。これにより、本実施形態では、従来のように運転者の操作入力や長時間の生体情報データによる判定処理を行うことなく、運転者が異常状態であることを早期に且つ高い精度で確定することができる。
【0049】
また、本実施形態において好ましくは、異常周波数fDは、特定の疾患の発症時に励起周波数f0の振動の付与に応答して振動信号にあらわれる周波数であり、コントローラ18は、異常周波数fDを記憶するメモリ18bを含み、異常周波数fDを有する異常信号を検出すると、運転者が特定の疾患を発症したと判定する。
【0050】
従来のように、操作入力が一定時間以上無いことや、運転者のまぶたが所定時間以上閉じていることにより、運転者が異常状態であると推定する場合、運転者が緊急停車を必要とする疾患を発症したのか、覚醒を促すことにより運転継続が可能な状態(居眠り等)であるのかを判定することはできなかった。しかしながら、本実施形態では、振動信号中に生起される異常周波数fDにより、特定の疾患(例えば、脳梗塞等)を即座に判断することができる。これにより、本実施形態では、運転者が特定の疾患を発症していることを、早期に判定することができる。
【0051】
また、本実施形態において好ましくは、コントローラ18は、振動信号を周波数解析し、振動信号のパワースペクトル密度が固有振動周波数fn及び励起周波数f0とは異なる異常周波数fDにピークを有する場合に運転者が異常状態であると判定する。このように構成された本実施形態では、振動信号を周波数解析して、異常周波数成分のピーク信号を検出することにより、異常信号の存在(すなわち、異常状態)を容易に判定することができる。
【0052】
また、本実施形態において好ましくは、運転者の状態を検出するセンサ12を更に備え、コントローラ18は、センサ12の検出信号に基づいて、運転者が異常状態であると推定した場合に振動装置14によりステアリングホイール2に所定の励起周波数f0の振動を付与する。このように構成された本実施形態では、センサ12の検出信号に基づいて、運転者が異常状態である可能性が比較的高い場合において、振動付与による異常状態の判定を行うことができる。また、他の実施形態では、センサ12を用いずに、コントローラ28は、定期的に運転者の異常状態の判定を行うことができる。すなわち、コントローラ18は、定期的に(例えば、10分毎に)振動装置14へ制御信号を送出して、振動検出器16の検出信号に基づいて判定を行うことができる。
【0053】
また、本実施形態において好ましくは、振動装置14は、運転者によるステアリングホイール2の操舵操作を補助するための電動パワーステアリング用の電気モータである。このように構成された本実施形態では、振動装置を新たに設けることなく、電動パワーステアリング装置の電気モータを振動装置として利用することができる。
【0054】
また、本実施形態において好ましくは、振動信号は、ステアリングホイール2の回転方向の振動成分を表す信号である。また、本実施形態において好ましくは、振動検出器16は、ステアリングホイール2に印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、振動信号は、操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクを表す信号である。このように構成された本実施形態では、振動検出器を新たに設けることなく、操舵トルクセンサを振動検出器として利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
1a 操舵装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
10 運転者状態判定装置
f0 励起周波数
fn 固有周波数
fD 異常周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6