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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】振動評価装置、及び振動評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20240924BHJP
   G01H 9/00 20060101ALI20240924BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20240924BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G01N29/44
G01H9/00 B
G01N29/04
G01H17/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020005836
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021113717
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】512098186
【氏名又は名称】株式会社ペガソス・エレクトラ
(74)【代理人】
【識別番号】100110560
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 恵三
(72)【発明者】
【氏名】内田 成明
(72)【発明者】
【氏名】村松 正康
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康夫
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6644342(JP,B1)
【文献】特開2019-157361(JP,A)
【文献】特開2002-228642(JP,A)
【文献】特開2019-157360(JP,A)
【文献】特開2019-157359(JP,A)
【文献】特開2019-086487(JP,A)
【文献】特開2004-069301(JP,A)
【文献】特開平04-286933(JP,A)
【文献】特開平04-098141(JP,A)
【文献】特開昭62-002153(JP,A)
【文献】日 本原子力研究開発機構 公益財団法人レーザー技術総合研究所 理化学研究所 科学技術振興機構(JST),レーザーでトンネルコンクリートの健全性を高速で検査する,共同発表(インターネット),2016年01月11日,https://www.jst.go.jp/pr/announce/20160111/index.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01H 1/00-17/00
G01M 7/00-7/08
A61B 8/00-8/15
E01D 1/00-24/00
E04B 1/00-9/36
E02D 1/00-37/00
G06N 20/00-20/20
G06F 16/00-16/958
G06T 7/00-7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーを用いて計測した構造体の振動に基づき、前記構造体の状態を評価する振動評価装置であって、
前記計測により生成された振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する取得部と、
予め取得された複数の過去の評価対象情報と、複数の前記過去の評価対象情報にそれぞれ紐づけられた複数の参照情報と、の間における第1連関性が記憶された第1参照データベースと、
前記第1参照データベースを参照し、前記評価対象情報に対する評価データを生成する生成部と、
を備えること
更に、前記参照情報は、前記構造体の内部に発生するひびの形状に関する形状情報を含み、
前記評価データは、前記形状情報のうち、前記評価対象情報に紐づく第1形状情報を含むこと
更に、予め取得された複数の過去の評価データを一組とした過去の総合情報と、複数の前記過去の総合情報にそれぞれ紐づけられた総合参照情報と、の間における第2連関性が記憶された第2参照データベースを備え、
前記取得部は、複数の前記評価データを含む総合情報を取得し、
前記生成部は、前記第2参照データベースを参照し、前記総合情報に対する総合評価データを生成し、
前記総合情報に含まれる複数の前記評価データは、それぞれ計測位置が異なる前記振動データに紐づくこと
を特徴とする振動評価装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記振動データに含まれる信号パターンをフーリエ変換したデータから、前記第1データを取得すること
を特徴とする請求項1記載の振動評価装置。
【請求項3】
前記評価対象情報及び前記過去の評価対象情報は、前記振動データを生成するために、前記構造体に振動を与えた方法に関する打音情報を含むこと
を特徴とする請求項1又は2記載の振動評価装置。
【請求項4】
前記総合参照情報は、前記過去の総合情報に対する健全性の評価に関する健全性情報を含み、
前記総合評価データは、前記健全性情報のうち、前記総合情報に紐づく第1健全性情報を含むこと
を特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の振動評価装置。
【請求項5】
レーザーを用いて計測した構造体の振動に基づき、前記構造体の状態を評価する振動評価システムであって、
前記計測により生成された振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する取得手段と、
予め取得された複数の過去の評価対象情報と、複数の前記過去の評価対象情報にそれぞれ紐づけられた複数の参照情報と、の間における連関性が記憶された参照データベースと、
前記参照データベースを参照し、前記評価対象情報に対する評価データを生成する生成手段と、
を備えること
更に、前記参照情報は、前記構造体の内部に発生するひびの形状に関する形状情報を含み、
前記評価データは、前記形状情報のうち、前記評価対象情報に紐づく第1形状情報を含むこと
更に、予め取得された複数の過去の評価データを一組とした過去の総合情報と、複数の前記過去の総合情報にそれぞれ紐づけられた総合参照情報と、の間における第2連関性が記憶された第2参照データベースを備え、
前記取得手段は、複数の前記評価データを含む総合情報を取得し、
前記生成手段は、前記第2参照データベースを参照し、前記総合情報に対する総合評価データを生成し、
前記総合情報に含まれる複数の前記評価データは、それぞれ計測位置が異なる前記振動データに紐づくこと
を特徴とする振動評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動評価装置、及び振動評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート等の構造体の状態を評価する手段として、例えば特許文献1、2の評価装置等が提案されている。
【0003】
特許文献1では、構造体の表面を照射加熱する加熱用レーザー装置と、前記照射加熱に伴って、構造体に発生した弾性波を前記照射加熱の位置から所定距離だけ離れた検出位置で検出する第一検出用レーザー装置と、前記照射加熱の位置から前記所定距離だけ離れた位置まで、ひび割れの無い部分を通って弾性波が伝播する際の基準信号の信号強度を測定する第二検出用レーザー装置と、両検出用レーザー装置での検出結果から、ひび割れ深さを導出する演算装置とで構成されるひび割れ深さ測定装置が開示されている。この演算装置において、両検出用レーザー装置で検出された測定信号及び基準信号の時間差又は信号減衰からひび割れ深さを導出する。
【0004】
特許文献2では、鉄筋コンクリート部材に対する過去の検査データと、当該検査データに対する鉄筋コンクリート部材の劣化状況の判別結果との3段階以上の第1連関度を予め取得する第1連関度取得ステップと、新たに劣化状況を判別する鉄筋コンクリート部材に対して検査を行うことにより得られた検査データを入力する第1入力ステップと、上記第1連関度取得ステップにおいて取得した第1連関度を参照し、上記第1入力ステップにおいて入力した検査データに基づいて、鉄筋コンクリート部材の劣化状況を判別する第1判別ステップとをコンピューターに実行させる判別プログラム等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-230053号公報
【文献】特許第6371027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、構造体の内部に発生したひび割れの形状のような、構造体の内部における状態を評価する方法として、レーザーリモートセンシング法のような非接触式の計測方法が注目を集めている。レーザーリモートセンシング法は、他の評価方法と比べて、構造体に対して非接触で計測を行うことができる。このため、高所等の計測者等が近づき難い場所に対しても容易に計測ができる点や、接触に伴う計測データのバラつきを防ぐことができる点等が、利点として挙げられる。
【0007】
レーザーリモートセンシング法において計測される振動データは、構造体の内部に発生したひび割れの深さ、厚さ方向に対する角度、幅、枝分かれ数等のような、ひび割れの形状に起因する複雑な信号パターンを含み得る。しかしながら、現状では複雑な信号パターンに基づき、構造体の状態を評価できる高精度な評価手段が確立されていない。このため、構造体の状態を高精度に評価することが課題として挙げられている。
【0008】
この点、特許文献1では、振動データが発生するタイミングや信号強度に基づく評価が開示されている。このため、特許文献1の開示技術では、振動データに含まれる複雑な信号パターンを評価対象としていない。これにより、構造体の状態に対する高精度な評価結果を得ることが難しい。また、特許文献1の開示技術では、測定位置が評価結果に大きく依存する。このため、計測位置を厳密に測定する必要があり、計測者毎の測定バラつきに伴う精度低下が懸念として挙げられる。
【0009】
また、特許文献2では、鉄筋コンクリートの状態を評価した結果に基づき、鉄筋コンクリートの劣化状況を判別する技術が開示されているに過ぎない。このため、特許文献2の開示技術では、振動データに基づき、鉄筋コンクリート等の構造体の状態を評価することができず、上記課題の解決に結びつけることができない。
【0010】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、高精度な評価結果を得ることができる振動評価装置、及び振動評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係る振動評価装置は、レーザーを用いて計測した構造体の振動に基づき、前記構造体の状態を評価する振動評価装置であって、前記計測により生成された振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する取得部と、予め取得された複数の過去の評価対象情報と、複数の前記過去の評価対象情報にそれぞれ紐づけられた複数の参照情報と、の間における第1連関性が記憶された第1参照データベースと、前記第1参照データベースを参照し、前記評価対象情報に対する評価データを生成する生成部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る振動評価装置は、第1発明において、前記取得部は、前記振動データに含まれる信号パターンをフーリエ変換したデータから、前記第1データを取得することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る振動評価装置は、第1発明又は第2発明において、前記評価対象情報及び前記過去の評価対象情報は、前記振動データを生成するために、前記構造体に振動を与えた方法に関する打音情報を含むことを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る振動評価装置は、第1発明~第3発明の何れかにおいて、前記参照情報は、前記構造体の内部に発生するひびの形状に関する形状情報を含み、前記評価データは、前記形状情報のうち、前記評価対象情報に紐づく第1形状情報を含むことを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る振動評価装置は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、予め取得された複数の過去の評価データを一組とした過去の総合情報と、複数の前記過去の総合情報にそれぞれ紐づけられた総合参照情報と、の間における第2連関性が記憶された第2参照データベースを更に備え、前記取得部は、複数の前記評価データを含む総合情報を取得し、前記生成部は、前記第2参照データベースを参照し、前記総合情報に対する総合評価データを生成し、前記総合情報に含まれる複数の前記評価データは、それぞれ計測位置が異なる前記振動データに紐づくことを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る振動評価装置は、第5発明において、前記総合参照情報は、前記過去の総合情報に対する健全性の評価に関する健全性情報を含み、前記総合評価データは、前記健全性情報のうち、前記総合情報に紐づく第1健全性情報を含むことを特徴とする。
【0017】
第7発明に係る振動評価システムは、レーザーを用いて計測した構造体の振動に基づき、前記構造体の状態を評価する振動評価システムであって、前記計測により生成された振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する取得手段と、予め取得された複数の過去の評価対象情報と、複数の前記過去の評価対象情報にそれぞれ紐づけられた複数の参照情報と、の間における連関性が記憶された参照データベースと、前記参照データベースを参照し、前記評価対象情報に対する評価データを生成する生成手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明~第6発明によれば、生成部は、第1参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。このため、過去の結果を踏まえた評価データを生成でき、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。これにより、高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0019】
また、第1発明~第6発明によれば、取得部は、振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。このため、評価に最低限必要なパラメータとして、計測位置等を含める必要がない。これにより、計測者毎の測定バラつきに伴う精度低下を防ぐことが可能となる。
【0020】
特に、第2発明によれば、取得部は、信号パターンをフーリエ変換したデータから、第1データを取得する。このため、構造体における状態の差異に伴う僅かな信号パターンの違いに対しても、信号パターンの違いを反映した評価データを生成することができる。これにより、構造体の複雑な状態を示す評価対象情報に対しても、最適な評価データを容易に生成することが可能となる。
【0021】
特に、第3発明によれば、評価対象情報及び過去の評価対象情報は、振動データを生成するために、構造体に振動を与えた方法に関する打音情報を含む。このため、構造体を振動させる際に用いられる様々な打音方法毎に、最適な評価データを生成することができる。これにより、得られる評価結果の精度を更に向上させることが可能となる。
【0022】
特に、第4発明によれば、評価データは、評価対象情報に対する第1形状情報を含む。このため、構造体の内部状態を定量的に評価することができる。これにより、計測者毎の主観を排除した評価結果を得ることが可能となる。
【0023】
特に、第5発明によれば、生成部は、第2データベースを参照し、総合情報に対する総合評価データを生成する。このため、総合情報に含まれる複数の評価データにおけるバラつきが大きい場合においても、定量的な評価を行うことができる。これにより、評価精度を更に向上させることが可能となる。
【0024】
特に、第6発明によれば、総合評価データは、健全性情報のうち、総合情報に紐づく第1健全性情報を含む。このため、構造体の一部の状態に対する評価に加え、構造体の全体の状態に対する評価を行うことができる。これにより、構造体の総合的な評価を定量的に実現することが可能となる。
【0025】
第7発明によれば、生成手段は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。このため、過去の結果を踏まえた評価データを生成でき、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。これにより、高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0026】
また、第7発明によれば、取得手段は、振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。このため、評価に最低限必要なパラメータとして、計測位置等を含める必要がない。これにより、計測者毎の測定バラつきに伴う精度低下を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、第1実施形態における振動評価システム、及び振動評価装置の概要の一例を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態における振動評価システム、及び振動評価装置の動作の一例を示す模式図である。
図3図3(a)は、振動データの一例を示すグラフであり、図3(b)は、信号パターンをフーリエ変換したデータの一例を示すグラフである。
図4図4は、参照データベースの一例を示す模式図である。
図5図5は、参照データベースの他の例を示す模式図である。
図6図6は、参照データベースの更に他の例を示す模式図である。
図7図7(a)は、第1実施形態における振動評価装置における構成の一例を示す模式図であり、図7(b)は、第1実施形態における振動評価装置における機能の一例を示す模式図である。
図8図8(a)は、評価データと、基準評価データとを比較した結果の一例を示す模式図であり、図8(b)は、画像情報の一例を示す模式図である。
図9図9は、第1実施形態における振動評価システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態における振動評価システム、及び振動評価装置の動作の一例を示す模式図である。
図11図11は、総合評価結果の一例を示す模式図である。
図12図12は、第2実施形態における振動評価システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した実施形態における振動評価装置、及び振動評価システムの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1、2を参照して、第1実施形態における振動評価システム100、及び振動評価装置1の一例について説明する。図1は、本実施形態における振動評価システム100、及び振動評価装置1の概要の一例を示す模式図である。図2は、本実施形態における振動評価システム100、及び振動評価装置1の動作の一例を示す模式図である。
【0030】
(振動評価システム100)
振動評価システム100は、レーザーを用いて計測した構造体9の振動に基づき、構造体9の状態を評価するために用いられる。振動評価システム100を用いることで、構造体9におけるひび割れ91の深さや形状等の内部状態を評価することができる。
【0031】
構造体9は、例えばコンクリートを用いて設けられたトンネルや橋等のほか、金属配管や建築物等のような、打音により振動が発生する構造物を示す。特に、振動評価システム100では、トンネル等のような計測者の手が届き難い場所に用いられることが好ましい。
【0032】
レーザーリモートセンシング法は、パルスレーザー等を用いた打音方法により、構造体9に振動を発生させる。その後、例えばレーザー干渉計を用いて、構造体9に発生した振動を計測し、振動データを生成する。すなわち、構造体9に対して非接触を維持した状態で、振動データを生成することができる。このため、例えば構造体9に対して接触して振動データを生成する方法に比べ、接触に伴う振動データのバラつきを抑制することができる。なお、構造体9に振動を発生させる打音方法として、上述したパルスレーザーを用いるほか、ハンマー、スピーカ、ガス、ウォータージェット等のような、公知のものを用いた方法が行われてもよい。
【0033】
振動評価システム100では、レーザーを用いて構造体9の振動を計測する。また、振動評価システム100では、過去に評価された情報を利用する。このため、例えば超音波法のような構造体9に接触して計測する方法に比べ、非接触で振動データを生成することができる。このため、振動評価システム100は、過去に評価された情報を利用する際、計測条件に伴うバラつきの影響を抑制した振動データに対する評価を実現することができる。これにより、高精度な評価を実現できることを、発明者らは見出した。
【0034】
振動評価システム100は、例えば図1に示すように、振動評価装置1を備える。振動評価装置1は、例えば計測装置2と接続されるほか、振動装置3や撮像装置7等と接続されてもよく、通信網4を介して端末5やサーバ6等と接続されてもよい。なお、振動評価装置1は、例えば計測装置2等の機能を備えてもよい。
【0035】
振動評価システム100は、例えば図2に示すように、表面にひび割れ91が確認された構造体9を対象として評価する。振動評価システム100は、例えば振動装置3を用いて構造体9に振動を発生させる。その後、計測装置2を用いて振動を計測する。このとき、例えば計測装置2は、レーザーを出射し、構造体9に反射したレーザーを受光することで、計測した振動に基づく振動データを生成する。振動評価システム100では、例えば外観から確認できるひび割れ91の近辺における振動を計測するほか、例えば外観ではひび割れ91等を確認できない位置における振動を計測してもよい。
【0036】
そして、振動評価装置1は、評価対象情報を取得する。評価対象情報は、例えば計測装置2の計測により生成された振動データに基づくデータ(第1データ)を含む。その後、振動評価装置1は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成し、例えば評価データに基づく評価結果を出力する。これにより、例えばひび割れ91の深さ等のような構造体9の状態を、評価結果として出力することができる。なお、評価結果は、構造体9の状態に関する内容を1つ表示するほか、例えば「[深さ]30mm:50%、20mm:20%」等のように複数の候補を表示してもよい。
【0037】
以下、振動評価システム100に用いられる振動データ、評価対象情報、及び参照データベースについて説明する。
【0038】
<振動データ>
振動データは、例えば図3(a)に示すように、時間(Time(s))に対する速度(Velocity(m/s))で表される時間波形の信号パターンを含む。振動データは、公知の振動計測結果を用いることができる。振動データは、例えば振動発生のタイミングから10~50msec程度後までの信号パターンを含み、状況に応じて任意に設定することができる。
【0039】
信号パターンは、主に構造体9の表面を経由する表面波、及び構造体9の内部を経由する内部弾性波の重ね合わせによる複雑な形状を示す。このため、信号パターンは、振動を発生させる打音方法、計測位置、構造体9の状態(例えばひび割れ91の形状)によって得られる内容が異なる。この点、振動評価システム100では、信号パターンに基づく評価を行うことができる。このため、厳密な測定位置を必須のパラメータとする必要が無い。また、測定位置を必須のパラメータとしないため、測定位置と、構造体9におけるひび割れ91の位置との距離を算出しなくてもよい。このため、構造体9におけるひび割れ91や空洞が内部のみに発生し、構造体9の表面に達していない場合においても、高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0040】
<評価対象情報>
評価対象情報は、振動データに基づく第1データを含む。第1データは、例えば時間波形の信号パターンをフーリエ変換したデータ(例えば図3(b))から取得する。フーリエ変換したデータは、例えば周波数(Frequency(Hz))に対する強度(Magnitude)で示すことができる。この場合、フーリエ変換したデータから、例えば特徴的な値を複数抽出し、第1データとして取得する。このため、時間波形の信号パターンを直接評価する場合に比べて、重ね合わさった振動全体の特徴を評価対象とすることができる。これにより、構造体9における状態の差異に伴う僅かな振動データの違いに対しても、明確な違いを示す評価結果を出力することができる。
【0041】
上記のほか、例えば時間波形の信号パターンから特徴的な値を複数抽出し、評価対象情報に含まれる第1データとして取得してもよい。この場合、フーリエ変換等の処理を実行する必要がなく、データ処理工程の増加を抑制することができる。なお、上述した「特徴的な値」を抽出する方法として、例えば主成分分析等の公知技術を用いることができる。これにより、計測者等の主観を含めることなく評価に必要なデータ量を削減できる。また、不要なデータ(ノイズ)を削除することで、精度向上を図ることができる。
【0042】
評価対象情報は、例えば信号パターンからメル周波数スペクトルに変換したデータ、又はメル周波数ケプストラム係数(MFCC:Mel Frequency Cepstrum Coefficients)から取得してもよい。評価対象情報として、行列(例えばベクトル)形式のデータが取得されるほか、例えばスペクトログラム等のような画像形式のデータが取得されてもよい。
【0043】
評価対象情報は、例えば打音情報を含む。打音情報は、振動データを生成するために、構造体9に振動を与えた方法(即ち打音方法)に関する情報を示す。打音情報は、例えば構造体9に振動を与えるパルスレーザー、ハンマー、スピーカ、ガス、又はウォータージェット等の打音方法毎に異なる識別情報を含むほか、例えばパルスレーザーの発振条件や照射角度のほか、ハンマーの種類や振動を与える時間等の打音条件に関する情報を含んでもよい。評価対象情報が打音情報を含むことで、打音方法の違いに起因する僅かな信号パターンの差異についても、評価結果に反映することができるほか、例えば打音方法別に異なる評価を行うこともできる。
【0044】
<参照データベース>
参照データベース(第1参照データベース)には、予め取得された複数の過去の評価対象情報と、複数の過去の評価対象情報にそれぞれ紐づけられた複数の参照情報と、の間における連関性(第1連関性)が記憶される。連関性は、例えば過去の評価対象情報、及び参照情報を一組の学習データとして、複数の学習データを用いた公知の機械学習により構築される。機械学習として、畳み込みニューラルネットワーク等の深層学習が用いられるほか、例えばランダムフォレストや、SVM(Support Vector Machine)等のような公知の技術が用いられてもよい。
【0045】
この場合、例えば連関性は、多対多の情報(複数の過去の評価対象情報、対、複数の参照情報)の間における繋がりの度合いにより構築される。連関性は、機械学習の過程で適宜更新され、例えば過去の評価対象情報、及び参照情報に基づいて最適化された関数(分類器)を示す。このため、過去に構造体9の状態を評価した結果を全て踏まえた連関性を用いて、評価対象情報に対する評価データが生成される。これにより、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。また、評価対象情報が、過去の評価対象情報と同一又は類似である場合のほか、非類似である場合においても、最適な評価データを定量的に生成することができる。なお、機械学習を行う際に汎化能力を高めることで、未知の信号パターンに対する評価精度の向上を図ることができる。
【0046】
参照データベースには、例えば機械学習の学習データに用いられた過去の評価対象情報、及び参照情報が記憶されてもよい。なお、連関性は、例えば各情報の間における繋がりの度合いを示す複数の連関度を有してもよい。連関度は、例えば参照データベースがニューラルネットワークで構築される場合、重み変数に対応させることができる。
【0047】
過去の評価対象情報は、上述した評価対象情報と同種の情報を示す。過去の評価対象情報が打音情報を含む場合、信号パターンに基づくデータと、打音情報とを一組の入力データとして、機械学習に用いることができる。上記のほか、例えば打音情報毎に分別した評価対象情報を入力データとして機械学習を行ってもよいほか、打音情報毎にアンサンブル学習を行ってもよい。
【0048】
参照情報は、過去の評価対象情報に紐づき、構造体9の状態に関する情報を示す。参照情報は、例えば構造体9に発生するひび割れ91の形状に関する形状情報を含む。形状情報は、構造体9内におけるひび割れ91の深さ、構造体9の厚さ方向に対する角度、幅、テーパー角、空隙率、含水率、及び枝分かれ数の少なくとも何れかを含み、構造体9の表面画像のみでは判断できない状態を示す。形状情報は、「ひび割れの深さ15mm」、「ひび割れの幅13mm」等の一定値を示す値を含むほか、例えば「ひび割れの深さ10~20mm」、「ひび割れの幅5~10mm」等の範囲を示す値を含んでもよく、値の表示方法については任意である。
【0049】
参照情報は、例えば構造体9の状態を分類する分類情報を含んでもよい。分類情報は、例えば「健全(正常)」、「欠陥(異常)」等の断定的な分類を含むほか、例えば「ひび割れの深さが××mm以上」、「影響の範囲が広い可能性あり」等のひび割れ91の特徴や判断の指標を分類した内容を含んでもよい。なお、参照情報は、例えば過去の評価結果の具体例を含んでもよく、例えば「2015年3月3日 ○○トンネル評価時と類似」、「2015年9月5日 ○○トンネルではひび割れが××mmに拡大」、「2015年12月1日 補修」等の経年変化や処置履歴等を含んでもよく、内容の組み合わせ等は任意に設定できる。上記のほか、例えば参照情報は、「□□の範囲で追加計測することが望ましい」等の構造体9の総合的な評価を実施する上で必要な情報を含んでもよい。
【0050】
連関性は、例えば図4に示すように、複数の過去の評価対象情報と、複数の参照情報との間における繋がりの度合いを示してもよい。この場合、連関性を用いることで、複数の過去の評価対象情報(図4では「対象A」~「対象C」)のそれぞれに対し、複数の参照情報(図4では「参照A」~「参照C」)の関係の度合いを紐づけて記憶させることができる。このため、例えば連関性を介して、1つの過去の評価対象情報に対して、複数の参照情報を紐づけることができ、多角的な評価データの生成を実現することができる。
【0051】
連関性は、各過去の評価対象情報と、各参照情報とをそれぞれ紐づける複数の連関度を有する。連関度は、例えば百分率、10段階、又は5段階等の3段階以上で示され、例えば線の特徴(例えば太さ等)で示される。例えば、過去の評価対象情報に含まれる「対象A」は、参照情報に含まれる「参照A」との間の連関度AA「62%」を示し、参照情報に含まれる「参照B」との間の連関度AB「26%」を示す。すなわち、「連関度」は、各データ間における繋がりの度合いを示しており、例えば連関度が高いほど、各データの繋がりが強いことを示す。なお、上述した機械学習により連関性を構築する際、連関性が3段階以上の連関度を有するように設定してもよい。
【0052】
連関度は、例えば図5に示すように、過去の評価対象情報の2以上の組み合わせ(図5の破線)を1つの対象データとして、複数の参照情報とを紐づけてもよい。例えば、過去の評価対象情報に含まれる「対象A」、及び「対象D」の組み合わせは、「参照A」との間の連関度ADA「25%」を示し、「参照B」との間の連関度ADB「17%」を示す。この場合、参照データベースを参照して評価する評価対象情報が、「対象A」及び「対象D」の何れにも類似する場合等においても、定量的な評価を実施することができる。
【0053】
なお、例えば図6に示すように、過去の評価対象情報に含まれる信号パターンに基づく情報(図6では「特徴A」~「特徴C」)と、打音情報(図6では「打音A」~「打音C」)とを組み合わせたデータに対して、参照情報が紐づけられてもよい。図4図6に示した連関性は、例えば上述した機械学習により構築されてもよい。
【0054】
上述した連関度を用いることで、それぞれ複数のデータを有する過去の評価対象情報と、参照情報との間における複雑な関係性を、高精度に表現することができる。このため、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。また、振動データに含まれる未知の信号パターンに対しても、高精度な評価を実現することができる。
【0055】
参照データベースには、例えば基準評価データが記憶されてもよい。基準評価データは、評価データを評価するための基準として予め取得され、参照データベースに記憶される。基準評価データとして、例えば構造体9の健全な状態に対応するデータが用いられる。
【0056】
参照データベースには、例えば画像情報が記憶されてもよい。画像情報は、構造体9の表面を撮像した画像を示し、例えば測定位置や振動位置がプロットされてもよい。画像情報は、例えば撮像装置7により予め撮像され、参照データベースに記憶される。
【0057】
(振動評価装置1)
次に、図7を参照して、本実施形態における振動評価装置1の一例を説明する。図7(a)は、本実施形態における振動評価装置1の構成の一例を示す模式図であり、図7(b)は、本実施形態における振動評価装置1の機能の一例を示す模式図である。
【0058】
振動評価装置1として、ラップトップ(ノート)PC又はデスクトップPC等の電子機器が用いられる。振動評価装置1は、例えば図7(a)に示すように、筐体10と、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、保存部104と、I/F105~107とを備える。各構成101~107は、内部バス110により接続される。
【0059】
CPU101は、振動評価装置1全体を制御する。ROM102は、CPU101の動作コードを格納する。RAM103は、CPU101の動作時に使用される作業領域である。保存部104は、参照データベースや評価対象情報等の各種情報が記憶される。保存部104として、例えばHDD(Hard Disk Drive)のほか、SSD(Solid State Drive)等のデータ保存装置が用いられる。なお、例えば振動評価装置1は、図示しないGPU(Graphics Processing Unit)を有してもよい。
【0060】
I/F105は、データ通信手段を介して、必要に応じて計測装置2、振動装置3等との各種情報の送受信を行うためのインターフェースであり、例えば通信網4を介して端末5等との各種情報の送受信を行うために用いられてもよい。I/F106は、入力部分108との情報の送受信を行うためのインターフェースである。入力部分108として、例えばキーボードが用いられ、振動評価装置1の計測者等は、入力部分108を介して、各種情報、又は振動評価装置1若しくは計測装置2等の制御コマンド等を入力する。I/F107は、出力部分109との各種情報の送受信を行うためのインターフェースである。出力部分109は、保存部104に保存された各種情報、又は振動評価装置1若しくは計測装置2等の処理状況等を出力する。出力部分109として、ディスプレイが用いられ、例えばタッチパネル式でもよい。
【0061】
図7(b)は、振動評価装置1の機能の一例を示す模式図である。振動評価装置1は、取得部11と、生成部12と、記憶部14とを備え、例えば出力部13、制御部15、及び更新部16の少なくとも何れかを有してもよい。なお、図7(b)に示した各機能は、CPU101が、RAM103を作業領域として、保存部104等に記憶されたプログラムを実行することにより実現され、例えば人工知能等により制御されてもよい。
【0062】
<取得部11>
取得部11は、振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。取得部11は、例えば計測装置2により生成された振動データを取得し、振動データに含まれる信号パターンをフーリエ変換等の処理を行い、第1データを取得する。取得部11は、例えば予め計測者等によって入力された打音情報を、評価対象情報の一部として取得してもよい。また、取得部11は、例えば振動装置3から送信された打音条件等を含む打音情報を、評価対象情報の一部として取得してもよい。
【0063】
取得部11は、例えば構造体9の表面を撮像した画像情報を取得してもよい。画像情報は、例えば計測者等によって予め入力されるほか、端末5等から受信してもよい。また、取得部11は、例えば撮像機能を有する計測装置2や振動装置3によって撮像された画像情報を取得してもよいほか、撮像装置7によって撮像された画像情報を取得してもよい。
【0064】
取得部11は、例えば画像情報における振動データを生成するためのレーザーを出射した位置、及び画像情報における振動データを生成するために構造体9に振動を与えた振動位置、の少なくとも何れかを取得してもよい。
【0065】
計測位置は、振動データを生成するために計測装置2から出力されたレーザーのスポットによって特定することができる。このため、計測位置は、計測装置2から取得するほか、例えば撮像装置7によって取得してもよく、例えば計測者等により直接入力されてもよい。
【0066】
振動位置は、構造体9に振動を与えるパルスレーザーを用いた場合、振動装置3から出力されたレーザーのスポットによって特定することができる。このため、振動位置は、振動装置3から取得するほか、例えば撮像装置7によって取得してもよい。なお、ハンマー等を用いて構造体9に振動を与える場合、例えば計測者等が直接振動位置を入力してもよい。なお、取得部11は、例えば計測位置及び振動位置の少なくとも何れかを、評価対象情報の一部として取得してもよい。この場合、各位置の情報を補助パラメータとした評価を実施することができ、さらなる精度向上を図ることが可能となる。
【0067】
<生成部12>
生成部12は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。生成部12は、例えば連関性(分類器)を介して、評価対象情報に紐づく1以上の参照情報を選択し、選択した参照情報を反映した評価データを生成する。
【0068】
生成部12は、例えば選択した複数の参照情報のうち、評価対象情報と紐づく連関度が最も高い参照情報を抽出し、評価データとして生成する。なお、抽出される参照情報は複数でもよく、その場合、例えば予め設定された閾値以上の連関度に紐づく参照情報を抽出するようにしてもよい。
【0069】
生成部12は、例えば図4に示したような参照データベースを参照した場合、評価対象情報と同一又は類似する過去の評価対象情報(例えば「対象A」:第1対象データとする)を選択する。過去の評価対象情報として、評価対象情報と一部一致又は完全一致する対象データが選択されるほか、例えば類似する対象データが選択される。なお、選択される類似度の度合いについては、任意に設定できる。また、第1対象データとして、複数の対象データが選択されてもよい。
【0070】
生成部12は、選択した第1対象データに紐づく参照情報(第1参照データとする)、及び第1対象データと第1参照データとの間における連関度(例えば連関度AA:第1連関度とする)を選択する。例えば生成部12は、第1対象データ「対象A」に紐づく第1参照データ「参照A」、及び「対象A」と「参照A」との間における第1連関度「62%」を選択し、選択した各データを含む評価データとして生成する。
【0071】
また、参照データ及び連関度を複数選択する場合、上述した「参照A」及び「62%」に加えて、第1対象データ「対象A」に紐づく第1参照データ「参照B」、及び「対象A」と「参照B」との間における第1連関度「26%」、等を、第1参照データ及び第1連関度として選択してもよい。このように、生成部12は、選択された第1参照データ及び第1連関度を含む評価データを生成する。
【0072】
<出力部13>
出力部13は、例えば評価データに基づく評価結果を出力する。出力部13は、例えば保存部104に予め記憶された表示用のフォーマットを用いて、評価データを計測者等が理解できる文字列等に変換した評価結果を生成し、出力する。出力部13は、I/F107を介して出力部分109に評価結果を送信するほか、例えばI/F105を介して、端末5等に評価結果を送信する。
【0073】
例えば参照情報が形状情報を含む場合、出力部13は、形状情報のうち、評価対象情報に紐づく形状情報(例えば第1形状情報)が含まれた評価データに基づく評価結果を生成する。このため、構造体9の内部状態を定量的に評価することができる。
【0074】
出力部13は、例えば評価データと、基準評価データとを比較した結果を含む評価結果を出力する。出力部13は、例えば図8(a)に示すように、ピアソンの積率相関係数を用いて、基準評価データに対する各対象評価データ(図8(a)では第1評価データ~第5評価データ)の比較結果を算出し、評価結果に含ませて出力する。出力部13は、例えば比較結果に基づき、色分け、「健全」、「欠陥の可能性大」等の分類結果を評価結果に含ませて出力してもよい。
【0075】
出力部13は、例えば画像情報における振動データの計測位置、及び画像情報における振動データを生成するために、構造体9に振動を与えた振動位置の少なくとも何れかの位置に紐づけられた評価結果を出力する。出力部13は、例えば図8(b)に示すように、計測位置(例えば位置ref、位置s1~s5)や、振動位置(例えば位置int)をプロットした画像情報を、評価結果に含ませて出力する。出力部13は、例えば画像における各位置(位置ref、位置s1~s5、位置int)に対応するX-Y座標等の数値を、評価結果に含ませて出力してもよい。
【0076】
<記憶部14>
記憶部14は、保存部104に保存された参照データベース等の各種データを必要に応じて取出す。記憶部14は、各構成11~13、15、16により取得又は生成された各種データを、必要に応じて保存部104に保存する。
【0077】
<制御部15>
制御部15は、例えば計測装置2を制御する。制御部15は、例えば計測者等により入力された内容に基づき、計測装置2から出射するレーザーの条件や、計測の条件を制御する。制御部15は、例えば公知の技術を用いて計測装置2を制御するほか、例えば振動装置3や撮像装置7等を制御してもよい。
【0078】
<更新部16>
更新部16は、例えば参照データベースを更新する。更新部16は、過去の評価対象情報と、参照情報との間の関係を新たに取得した場合には、関係を連関性に反映させる。例えば出力部13により出力された評価結果を踏まえて、計測者等が評価結果の精度を検討し、検討結果を振動評価装置1が取得した場合、更新部16は、検討結果に基づき参照データベースに含まれる連関性を更新する。連関性の更新は、例えば機械学習を用いる。
【0079】
<計測装置2>
計測装置2は、構造体9に発生した振動を計測するために用いられる。計測装置2は、例えば干渉レーザー光を用いて、構造体9に発生した振動から振動データを生成する。計測装置2は、生成した振動データを振動評価装置1に送信する。計測装置2は、例えば生成した振動データに含まれる信号パターンをフーリエ変換する機能を有してもよい。
【0080】
計測装置2は、振動評価装置1と直接接続されるほか、例えば通信網4を介して接続されてもよい。計測装置2として、例えば公知のレーザー干渉計等が用いられる。
【0081】
<振動装置3>
振動装置3は、構造体9に振動を発生させる。振動装置3は、例えばパルスレーザー光を用いて、構造体9の表面に振動を与える。振動装置3として、公知のパルスレーザー発生装置が用いられるほか、ハンマリング装置、スピーカ、ガス発生装置、ウォータージェット機器等のような、公知の振動発生機器が用いられる。この場合、例えば振動評価装置1と接続され、振動評価装置1によって制御されてもよい。
【0082】
<通信網4>
通信網4は、例えば振動評価装置1が通信回路を介して接続されるインターネット網等である。通信網4は、いわゆる光ファイバ通信網で構成されてもよい。また、通信網4は、有線通信網のほか、無線通信網等の公知の通信網で実現してもよい。
【0083】
<端末5>
端末5は、例えば計測場所から離れた場所に設けられ、通信網4を介して振動評価装置1と接続される。端末5は、例えばパーソナルコンピュータや、タブレット端末等の電子機器が用いられる。端末5は、例えば振動評価装置1の備える機能のうち、少なくとも一部の機能を備えてもよい。
【0084】
<サーバ6>
サーバ6は、例えば計測場所から離れた場所に設けられ、通信網4を介して振動評価装置1と接続される。サーバ6は、過去の計測された各種データ等が記憶され、必要に応じて振動評価装置1から各種データが送信される。
【0085】
<撮像装置7>
撮像装置7は、構造体9の表面を撮像するために用いられる。撮像装置7は、撮像した画像を振動評価装置1に送信する。撮像装置7は、例えば振動評価装置1と直接接続されるほか、例えば通信網4を介して接続されてもよい。撮像装置7として、例えばデジタルカメラ等の公知の撮像装置が用いられる。
【0086】
(第1実施形態:振動評価システム100の動作の一例)
次に、本実施形態における振動評価システム100の動作の一例について説明する。図8は、本実施形態における振動評価システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0087】
振動評価システム100は、例えば図8に示すように、取得手段S110と、生成手段S120とを備え、例えば出力手段S130、及び更新手段S140の少なくとも何れかを備えてもよい。
【0088】
<取得手段S110>
取得手段S110は、構造体9の計測により生成された振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。取得部11は、計測装置2等により生成された振動データを取得し、振動データに含まれる信号パターンに基づき第1データを取得する。取得部11は、例えば1つの信号パターンに基づく1つの評価対象情報を取得するほか、例えば複数の信号パターンに基づく1つの評価対象情報を取得してもよい。取得部11は、例えば記憶部14を介して、取得した評価対象情報等を保存部104に保存する。
【0089】
例えば制御部15は、計測装置2を制御してもよい。この場合、制御部15は、計測装置2からレーザーを出射させ、構造体9に反射したレーザーを計測装置2に受光させるための制御を行うことで、計測装置2に振動データを生成させてもよい。
【0090】
例えば制御部15は、振動装置3を制御して構造体9に振動を発生させたあと、計測装置2を制御して振動データを生成させてもよい。なお、振動装置3を介して構造体9に振動を発生させるタイミング、及び計測装置2を介して振動データを生成するタイミングは、それぞれ任意である。
【0091】
<生成手段S120>
生成手段S120は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。生成部12は、例えば参照データベースに記憶された連関性を介し、評価対象情報との関係の度合いが高い参照情報(第1参照データ)を抽出する。生成部12は、抽出した第1参照データを含む評価データを生成する。生成部12は、例えば記憶部14を介して、生成した評価データを保存部104に保存する。
【0092】
上記のほか、例えば生成部12は、参照データベースに記憶された過去の評価対象情報のうち、評価対象情報と同一又は類似する情報を含む第1対象データを選択する。生成部12は、参照データベースに記憶された参照情報のうち、選択した第1対象データに紐づく第1参照データを選択し、第1対象データと第1参照データとの間における第1連関度を選択する。
【0093】
これにより、本実施形態における振動評価システム100の動作が終了する。なお、振動評価システム100では、例えば生成手段S120のあと、出力手段S130を行ってもよい。
【0094】
<出力手段S130>
出力手段S130は、例えば評価データに基づく評価結果を出力する。出力部13は、評価データを計測者等が理解できる文字列等に変換した評価結果を生成し、出力する。
【0095】
<更新手段S140>
なお、例えば過去の評価対象情報と、参照情報との間の関係を新たに取得した場合には、関係を連関性に反映させてもよい(更新手段S140)。更新部16は、評価結果に対する計測者等の検討結果に基づき、参照データベースに含まれる連関性を更新する。なお、更新手段S140を実施するタイミングや頻度は、任意である。
【0096】
本実施形態によれば、生成部12は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。このため、過去の結果を踏まえた評価データを生成でき、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。これにより、高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0097】
また、本実施形態によれば、取得部11は、振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。このため、評価に最低限必要なパラメータとして、計測位置等を含める必要がない。これにより、計測者毎の測定バラつきに伴う精度低下を防ぐことが可能となる。
【0098】
また、本実施形態によれば、取得部11は、信号パターンをフーリエ変換したデータから、第1データを取得する。このため、構造体9における状態の差異に伴う僅かな信号パターンの違いに対しても、信号パターンの違いを反映した評価データを生成することができる。これにより、構造体9の複雑な状態を示す評価対象情報に対しても、最適な評価データを容易に生成することが可能となる。
【0099】
また、本実施形態によれば、評価対象情報及び過去の評価対象情報は、振動データを生成するために、構造体9に振動を与えた方法に関する打音情報を含む。このため、構造体9を振動させる際に用いられる様々な打音方法毎に、最適な評価データを生成することができる。これにより、得られる評価結果の精度を更に向上させることが可能となる。
【0100】
また、本実施形態によれば、評価データは、評価対象情報に対する第1形状情報を含む。このため、構造体9の内部状態を定量的に評価することができる。これにより、計測者毎の主観を排除した評価結果を得ることが可能となる。
【0101】
また、本実施形態によれば、例えば出力部13は、評価データと、基準評価データとを比較した結果を含む評価結果を出力してもよい。この場合、構造体9の設置環境や計測環境等の各種条件を踏まえた評価結果を出力することができる。これにより、各種条件に伴う信号パターンのバラつきを抑制することが可能となる。
【0102】
また、本実施形態によれば、例えば出力部13は、計測位置及び振動位置の少なくとも何れかに紐づけられた評価結果を出力してもよい。この場合、経時変化を評価する場合等において、以前の計測条件等を容易に把握することができる。これにより、評価結果を踏まえた計測や分析等を容易に実施することが可能となる。
【0103】
本実施形態によれば、生成手段S120は、参照データベースを参照し、評価対象情報に対する評価データを生成する。このため、過去の結果を踏まえた評価データを生成でき、複雑な信号パターンが振動データに含まれる場合においても、最適な評価データを生成することができる。これにより、高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0104】
また、本実施形態によれば、取得手段S110は、振動データに基づく第1データを含む評価対象情報を取得する。このため、評価に最低限必要なパラメータとして、計測位置等を含める必要がない。これにより、計測者毎の測定バラつきに伴う精度低下を防ぐことが可能となる。
【0105】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態における振動評価システム100、及び振動評価装置1の一例について、図10を用いて説明する。図10は、本実施形態における振動評価システム100、及び振動評価装置1の動作の一例を示す模式図である。
【0106】
上述した実施形態と、第2実施形態との違いは、総合情報に対する総合評価データを生成する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容に関しては、説明を省略する。
【0107】
本実施形態における振動評価システム100は、上述した評価データを複数含む総合情報を取得し、総合情報に対する総合評価データを生成する。このため、総合情報に含まれる複数の評価データにおけるバラつきが大きい場合においても、定量的な評価を行うことができる。
【0108】
振動評価システム100は、例えば図10に示すように、上述した評価対象情報に対する評価データを、複数生成する。このとき、上述した参照データベース(第1参照データベース)を参照し、各評価対象情報に対する評価データが生成される。
【0109】
次に、振動評価システム100は、複数の評価データを含む総合情報を取得し、第2参照データベースを参照し、総合情報に対する総合評価データを生成する。振動評価システム100では、例えば総合評価データに基づく総合評価結果が出力される。これにより、例えば健全性のような構造体9の状態を示す指標を、総合評価結果として出力することができる。なお、総合評価結果は、「[健全性]要点検」のような構造体9の状態に関する内容を1つ表示するほか、例えば「安全:30%、要点検:60%、危険:10%」のように複数の候補及び確率等を表示してもよい。
【0110】
振動評価システム100では、例えば図11に示すように、構造体9における複数の位置(例えば図11のP1~P5)毎の評価結果、及び各評価結果に基づく総合評価結果を出力できる(例えば図11の例1、例2)。例えば「○」、「×」等の2値以上で示される評価結果が用いられる場合、総合評価結果として、各値の頻度や評価箇所を踏まえた結果が用いられる。また、各評価結果の内容や、隣接する位置の評価結果の傾向に基づき、総合評価結果が生成されてもよい。
【0111】
総合情報に含まれる複数の評価データは、例えばそれぞれ計測位置が異なる振動データに紐づく。総合情報は、例えばひび割れ91を跨ぐ計測位置に紐づく一対の評価データを含むほか、例えばひび割れ91に沿った計測位置に紐づく複数の評価データを含む。総合情報は、例えば構造体9の表面全体に亘る計測位置に紐づく複数の評価データを含んでもよい。
【0112】
第2参照データベースには、予め取得された複数の過去の評価データを一組とした過去の総合情報と、複数の過去の総合情報にそれぞれ紐づけられた総合参照情報と、の間における第2連関性が記憶される。即ち、第2参照データベースは、第1参照データベースとは異なるデータを用いて構築される。このため、振動評価システム100では、第2参照データベースを参照することで、総合情報に適した総合評価データを生成することができる。これにより、構造体9における状態の評価精度を更に向上させることが可能となる。なお、第2参照データベースの構築方法は、例えば第1参照データベースと同様の方法により構築することができる。
【0113】
総合参照情報は、上述した参照情報と同様に、構造体9の状態に関する情報を示す。総合参照情報は、例えば上述した形状情報、及び分類情報の少なくとも何れかを含んでもよい。総合参照情報は、例えば過去の総合情報に対する健全性の評価に関する健全性情報を含む。この場合、総合評価データには、健全性情報のうち、総合情報に紐づく健全性情報(第1健全性情報)を含ませることができる。これにより、評価対象となる構造体9に適した健全性情報を出力することができる。
【0114】
各評価において用いられる振動評価装置1として、それぞれ異なる振動評価装置1a、1bが用いられるほか、例えば同じ振動評価装置1が用いられてもよい。それぞれ異なる振動評価装置1a、1bが用いられる場合、各振動評価装置1a、1bは、それぞれ同様の機能を備え、例えば通信網4を介して接続され、各種情報の送受信を行うことができてもよい。
【0115】
(第2実施形態:振動評価システム100の動作の一例)
次に、本実施形態における振動評価システム100の動作の一例について説明する。図12は、本実施形態における振動評価システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0116】
本実施形態における振動評価システム100は、第1取得手段S110aと、第1生成手段S120aと、第2取得手段S210と、第2生成手段S220とを備え、例えば第2出力手段S230を備えてもよい。なお、振動評価システム100のうち、第1取得手段S110a、及び第1生成手段S120aは、主に上述した取得手段S110、及び生成手段S120と同様のため、説明を省略する。
【0117】
<第2取得手段S210>
第1取得手段S110a、及び第1生成手段S120aのあと、複数の評価データを含む総合情報を取得する(第2取得手段S210)。例えば取得部11は、第1生成手段S120aで生成された評価データを複数取得する。即ち、第2取得手段S210の前に、第1取得手段S110a、及び第1生成手段S120aは、それぞれ複数行われてもよい。取得部11は、例えば複数の評価データを一度に取得するほか、例えば一部の評価データを保存部104等から取得してもよい。
【0118】
<第2生成手段S220>
次に、第2参照データベースを参照し、総合情報に対する総合評価データを生成する(第2生成手段S220)。例えば生成部12は、第2参照データベースに記憶された第2連関性を介し、総合情報との関係の度合いが高い総合参照情報(第1総合参照データ)を抽出する。生成部12は、抽出した第1総合参照データを含む総合評価データを生成する。
【0119】
<第2出力手段S230>
その後、例えば総合評価データに基づく総合評価結果を出力する(第2出力手段S230)。出力部13は、総合評価データを計測者等が理解できる文字列等に変換した総合評価結果を生成し、出力する。
【0120】
これにより、本実施形態における振動評価システム100の動作が終了する。
【0121】
なお、例えば上述した更新手段S140と同様に、第2参照データベースに含まれる第2連関性を更新してもよい(第2更新手段)。第2更新手段では、例えば更新部16は、過去の総合情報と、総合参照情報との間の関係を新たに取得した場合には、関係を第2連関性に反映させる。更新部16は、総合評価結果に対する計測者等の検討結果に基づき、第2参照データベースに含まれる第2連関性を更新する。なお、第2更新手段を実施するタイミングや頻度は、任意である。
【0122】
本実施形態によれば、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0123】
また、本実施形態によれば、生成部12は、第2データベースを参照し、総合情報に対する総合評価データを生成する。このため、総合情報に含まれる複数の評価データにおけるバラつきが大きい場合においても、定量的な評価を行うことができる。これにより、評価精度を更に向上させることが可能となる。
【0124】
また、本実施形態によれば、総合評価データは、健全性情報のうち、総合情報に紐づく第1健全性情報を含む。このため、構造体9の一部の状態に対する評価に加え、構造体9の全体の状態に対する評価を行うことができる。これにより、構造体9の総合的な評価を定量的に実現することが可能となる。
【0125】
なお、上述した振動評価装置1、及び振動評価システム100は、例えばビル等の建築物、堤防、計装配管、ガスタンク、飛行機、船、塀、壁、水道管、ガス管、建造物に設けられる看板、鉄道のほか、車両や電子機器等の部品若しくは組立後の製品、又は硬質材料、セラミック、若しくは分散剤を含む製品等を対象(構造体9)として、構造体9の状態を評価することができる。このため、従来では評価が難しい、又は精度の向上が難しい等の事情がある構造体9においても、構造体9に対する高精度な評価結果を得ることが可能となる。
【0126】
本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規の実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0127】
1 :振動評価装置
2 :計測装置
3 :振動装置
4 :通信網
5 :端末
6 :サーバ
7 :撮像装置
9 :構造体
10 :筐体
11 :取得部
12 :生成部
13 :出力部
14 :記憶部
15 :制御部
16 :更新部
100 :振動評価システム
101 :CPU
102 :ROM
103 :RAM
104 :保存部
105 :I/F
106 :I/F
107 :I/F
108 :入力部分
109 :出力部分
110 :内部バス
S110 :取得手段
S120 :生成手段
S130 :出力手段
図1
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