(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】木質燃料製造システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240924BHJP
B30B 9/20 20060101ALI20240924BHJP
F26B 5/14 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C10L5/44
B30B9/20 G
F26B5/14
(21)【出願番号】P 2020140265
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】平原 美博
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 憲
(72)【発明者】
【氏名】大原 利章
(72)【発明者】
【氏名】古藤田 香代子
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073953(JP,A)
【文献】特開2019-218473(JP,A)
【文献】特開2008-036666(JP,A)
【文献】特開昭60-046204(JP,A)
【文献】特開平11-023149(JP,A)
【文献】特開2014-205179(JP,A)
【文献】特開2016-141801(JP,A)
【文献】特開2016-089100(JP,A)
【文献】特開2016-099023(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/217530(US,A1)
【文献】国際公開第2002/062876(WO,A1)
【文献】特表2013-540912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/44
F26B 1/00-25/22
B09B 1/00-5/00
B30B 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス発電用の木質燃料製造システムであって、
前記燃料の原材料である木材を、バイオマス発電設備の炉内に投入可能な所定乾燥度へ乾燥させる乾燥装置と、
前記乾燥装置へ送る前記木材に含有されている水分を、前記木材を連続的に加圧可能なローラーによる圧搾で抽出する圧搾装置と、を備え
、
前記圧搾装置は、
前記木材を上から圧搾する上部ローラーと、前記上部ローラーよりも前に前記木材を下から圧搾する前部ローラーと、前記上部ローラーよりも後に前記木材を下から圧搾する後部ローラーと、を有しており、
前記木材が棒状の状態で導管の方向である長手方向に沿うように投入されることにより、前記木材を前記前部ローラーと前記後部ローラーとの間で前記上部ローラーにより折り曲げながら圧搾する、
木質燃料製造システム。
【請求項2】
前記
各ローラー
の少なくとも何れかは、前記木材に接触する外周面が鉄で形成されている、
請求項
1に記載の木質燃料製造システム。
【請求項3】
前記
各ローラーは、前記外周面に突起及び溝の少なくとも何れかが設けられている、
請求項
2に記載の木質燃料製造システム。
【請求項4】
バイオマス発電用の木質燃料製造方法であって、
前記燃料の原材料である木材を、バイオマス発電設備の炉内に投入可能な所定乾燥度へ乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程へ送る前記木材に含有されている水分を、前記木材を連続的に加圧可能なローラーによる圧搾で抽出する圧搾工程と、を含
み、
前記圧搾工程では、
前記木材を上から圧搾する上部ローラーと、前記上部ローラーよりも前に前記木材を下から圧搾する前部ローラーと、前記上部ローラーよりも後に前記木材を下から圧搾する後部ローラーと、を用い、
前記木材を棒状の状態で導管の方向である長手方向に沿うように投入することにより、前記木材を前記前部ローラーと前記後部ローラーとの間で前記上部ローラーにより折り曲げながら圧搾する、
木質燃料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質燃料製造システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材の廃材を燃料として有効活用する試みが進められている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木材を発電の燃料として使うバイオマス発電の方式としては、例えば、バイオマス燃料をボイラーで燃焼させて蒸気を発生させ、蒸気タービンを駆動する直接燃焼方式や、燃料を熱処理してガス化し、ガスタービンを駆動する熱分解ガス方式が挙げられる。直接燃焼方式は、バイオマス燃料を燃焼炉で燃やし、その熱でボイラーの水を蒸気にして蒸気タービンを駆動する。よって、直接燃焼方式は、熱エネルギーの変換効率を商業的な値にするために、数MW程度の発電能力を擁する大規模な施設で採用される。一方、熱分解ガス方式は、バイオマス燃料をガス化炉で加熱してメタン等のガスを発生させ、発生したガスでガスエンジンやガスタービンを駆動する。よって、熱分解ガス方式は、数十kW程度の小規模な施設で採用しても、熱エネルギーの変換効率を商業的な値にすることができる。
【0005】
ところで、バイオマス発電の燃料として木材を使う場合、木材に含有されている水分が多いと、燃焼炉やガス化炉における炉内温度の低下により、システム全体の熱エネルギー変換効率が低下する。このため、木材をバイオマス発電の燃料として利用するには、木材を炉へ入れる前に、木材に含有されている水分を予め十分に低下させた良質な木質燃料にしておく必要がある。例えば、生木の含水率は通常50~65%程度であるが、熱分解ガス方式のバイオマス発電機で利用するには含水率を15%程度にまで低下させる必要がある。
【0006】
また、木材は、約300℃以上の温度で熱分解が起こり、ガス化されるが、植物の細胞壁に含まれるリグニンは、ガス化後に約500℃以下になると再結合して変性タールになる(木材の熱分解温度を約180℃とする文献も存在する)。このため、燃焼炉やガス化炉の温度が低いと、変性タールが炉内に蓄積して燃焼やガス化を阻害する。変性タールの蓄積による燃焼やガス化の阻害は、発電機の停止や発電効率の低下、炉の交換頻度の増加、メンテナンス費用の増大といった諸問題を招く。そこで、木質燃料を使うバイオマス発電機では、リグニンの再結合による不具合を防ぐために炉内を約1000℃以上にすることが考えられる。しかし、炉内温度を上げると、炉の耐久性に問題が生じる。このため、炉内温度を高めなくても変性タールが炉内に蓄積しにくい木材が求められる。
【0007】
これらの課題を解決するために、バイオマス発電に使う木材を、例えば、加熱して乾燥させたり、或いは、ピストンで加圧して脱水させたりすることが考えられる。しかし、加熱乾燥の場合、含水率が上述した程度の値になるように乾燥させるには多大な時間を要し、また、給湯や空調等に利用可能な熱エネルギーが木材の加熱乾燥で消費されてしまう。また、ピストンで加圧する場合には、ピストンを往復させないと加圧できないので連続処理が困難であり、また、加圧を解除すると、木材から染み出た水分が、圧縮された木材の
体積が復元する過程で木材に再び吸水されてしまい、脱水効率が悪い。
【0008】
そこで、本願は、木材の脱水を効率的に行うことが可能なバイオマス発電用の木質燃料製造システム及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、燃料の原材料である木材をローラーで圧搾することにした。
【0010】
詳細には、本発明は、バイオマス発電用の木質燃料製造システムであって、燃料の原材料である木材を、バイオマス発電設備の炉内に投入可能な所定乾燥度へ乾燥させる乾燥装置と、乾燥装置へ送る木材に含有されている水分を、木材を連続的に加圧可能なローラーによる圧搾で抽出する圧搾装置と、を備える。
【0011】
上記の木質燃料製造システムであれば、木材が圧搾装置のローラーで圧搾されるので、木材の導管に残留する水分が圧搾により脱水される。そして、圧搾装置で脱水された木材が乾燥装置で乾燥される。ローラーを使った圧搾による脱水は、例えば、加熱による脱水に比べると、極めて短時間で行うことができる。よって、ローラーを使った圧搾による脱水は、、加熱による脱水に比べて消費エネルギーが小さい。したがって、上記の木質燃料製造システムであれば、木材の脱水を効率的に行うことが可能となる。
【0012】
なお、圧搾装置は、短冊状に切断された木材を導管の方向に沿って投入可能な投入口を有するものであってもよい。このような圧搾装置を有する木質燃料製造システムであれば、木材の導管に残留する水分が、導管の長手方向に沿ったローラーの圧搾によって導管から絞り出されるので、木材の脱水を更に効率的に行うことが可能となる。
【0013】
また、圧搾装置は、木材を上から圧搾する第1のローラーと、木材を下から圧搾する第2のローラーとを有するものであってもよい。このような圧搾装置を有する木質燃料製造システムであれば、木材をローラーで上下から圧搾することができるので、木材の脱水を連続で効率的に行うことが可能となる。
【0014】
また、ローラーは、木材に接触する外周面が鉄で形成されていてもよい。このようなローラーを使った圧搾装置であれば、木材の脱水の他に、木材に含まれるリグニンを効率的に抽出することができる。
【0015】
また、ローラーは、外周面に突起及び溝の少なくとも何れかが設けられていてもよい。このようなローラーを使った圧搾装置であれば、木材に含まれるリグニンを更に効率的に抽出することができる。
【0016】
また、圧搾装置は、ローラーによる木材の連続的な圧搾により、木材からリグニンを効率的に除去するものであってもよい。
【0017】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、バイオマス発電用の木質燃料製造方法であって、燃料の原材料である木材を、バイオマス発電設備の炉内に投入可能な所定乾燥度へ乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程へ送る木材に含有されている水分を、木材を連続的に加圧可能なローラーによる圧搾で抽出する圧搾工程と、を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
上記のバイオマス発電用の木質燃料製造システム及び方法であれば、木材の脱水を効率
的に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態に係る木質燃料製造システムを示した図である。
【
図2】
図2は、圧搾装置の内部構成を示した図である。
【
図3】
図3は、圧搾装置における脱水の様子を解説した第1の図である。
【
図4】
図4は、圧搾装置における脱水の様子を解説した第2の図である。
【
図5】
図5は、圧搾装置における脱水前後の木材の構造的な変化を電子顕微鏡で捉えた図である。
【
図6】
図6は、圧搾装置における脱水前後の木材の構造的な変化を表したイメージ図である。
【
図7】
図7は、圧搾装置における脱水前後の木材の木口面を電子顕微鏡で捉えた図である。
【
図8】
図8は、圧搾装置で木材と木質チップを圧縮した場合の圧搾効果の違いを検証した表である。
【
図9】
図9は、前部ガイドの変形例を示した図である。
【
図10】
図10は、上部ローラーと前部ローラーと後部ローラーの圧搾面の形状のバリエーションを例示した図である。
【
図11】
図11は、圧搾装置によるリグニンの抽出量を表した表である。
【
図12】
図12は、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を捉えた顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の技術的範囲を以下の形態に限定するものではない。
【0021】
図1は、実施形態に係る木質燃料製造システム1を示した図である。木質燃料製造システム1は、木材からバイオマス発電用の木質燃料を製造するシステムであり、圧搾装置2と乾燥装置3を備える。圧搾装置2は、バイオマス発電用の木質燃料の原材料である木材を圧搾し、木材に含有されている水分を絞り出す。また、乾燥装置3は、圧搾装置2において圧搾された木材を乾燥させる。
【0022】
圧搾装置2に投入される木材の形態としては、短冊状に切断された棒状材、数cm程度の大きさの小片に切断された木材チップ、その他各種の形態が挙げられる。圧搾装置2に投入される木材は、例えば、
図1に示されるように、全国の各地にある製材所4において木材を製材する過程で生まれる廃材等である。
【0023】
本実施形態の木質燃料製造システム1は、製造した木質燃料をバイオマス発電機5へ供給する。バイオマス発電機5としては、木質燃料を使って発電することが可能な各種の発電機が適用可能である。バイオマス発電機5の具体例としては、例えば、バイオマス燃料をガス化炉で加熱してメタン等のガスを発生させ、発生したガスでガスエンジンやガスタービンを駆動する熱分解ガス方式のバイオマス発電機や、バイオマス燃料を燃焼炉で燃やし、その熱でボイラーの水を蒸気にして蒸気タービンを駆動する直接燃焼方式のバイオマス発電機などが挙げられる。
【0024】
なお、
図1では、1つの木質燃料製造システム1に対して3つの製材所4が図示されているが、木質燃料製造システム1は、このような形態に限定されるものではない。木質燃料製造システム1は、例えば、2つ以下の製材所4から送られる木材を受け入れてもよいし、或いは、4つ以上の製材所4から送られる木材を受けいれてもよい。また、木質燃料製造システム1は、1つのバイオマス発電機5に木質燃料を送る形態に限定されるもので
なく、例えば、複数のバイオマス発電機5に木質燃料を送るものであってもい。
【0025】
図2は、圧搾装置2の内部構成を示した図である。圧搾装置2は、
図2に示すように、上部ローラー21、前部ローラー22、後部ローラー23を備える圧搾装置である。上部ローラー21は、投入口2Aに投入された木材を上から圧搾するためのローラーである。また、前部ローラー22と後部ローラー23は、投入口2Aに投入された木材を下から圧搾するためのローラーである。圧搾装置2は、投入口2Aに投入された木材を上部ローラー21と前部ローラー22との間に挟み込んで圧搾し、更に、上部ローラー21と後部ローラー23との間にも挟み込んで更に圧搾することにより、投入口2Aに投入された木材の脱水を行う。なお、圧搾装置2は、例えば、2つのローラー、或いは、4つ以上のローラーを備えるものであってもよい。
【0026】
上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23は、歯車等の動力伝達機構を介して電動モータにより回転させられる。上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23の圧搾面(外周面)には、投入口2Aに投入された木材を巻き込むための歯や溝が設けられていてもよい。上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23の圧搾面の形状の詳細については後述する。
【0027】
圧搾装置2には、上記の他に、投入口2Aを形成するための上部ガイド24と前部ガイド25が設けられている。上部ガイド24は、投入口2Aの上部の案内面を形成する部材である。また、前部ガイド25は、投入口2Aの下部の案内面を形成する部材である。圧搾装置2にはこのような上部ガイド24と前部ガイド25が設けられているため、投入口2Aに棒状の木材が投入されて上部ローラー21と前部ローラー22との間に巻き込まれた際、巻き込まれる前の木材の部分が上下に動いても、動く範囲が上部ガイド24と前部ガイド25により一定範囲に制限される。また、上部ガイド24は、木材の案内面が前部ガイド25よりもやや上向きの傾斜角となるように配置されている。このため、投入口2Aは、開口面の大きさが開口方向に向かって漸次大きくなっており、木材を投入しやすい。
【0028】
また、圧搾装置2には、前部ローラー22の圧搾面に圧着した木材を削ぎ落すための前部スクレーパー26が前部ローラー22と後部ローラー23との間に設けられている。前部スクレーパー26は、上部ローラー21と前部ローラー22との間を通過した木材が、上部ローラー21と後部ローラー23との間へ向かうように木材を案内する役割も果たす。
【0029】
また、圧搾装置2には、上部ローラー21の圧搾面に圧着した木材を削ぎ落すための上部スクレーパー27が、投入口2Aから見た場合に上部ローラー21の後方側となる位置に設けられている。上部スクレーパー27は、上部ローラー21と後部ローラー23との間を通過した木材が、排出口2Bから斜め下へ向かうように木材を案内する役割も果たす。
【0030】
また、圧搾装置2には、後部ローラー23の圧搾面に圧着した木材を削ぎ落すための上部スクレーパー27が、投入口2Aから見た場合に後部ローラー23の後方側となる位置に設けられている。後部スクレーパー28は、上部ローラー21と後部ローラー23との間を通過した木材が、排出口2Bから斜め下へ向かうように案内面を形成する後部ガイド29に載るように木材を案内する役割も果たす。
【0031】
なお、圧搾装置2には、上記の他に、上部ローラー21の高さを微調整するための調整機構が備わっている。調整機構は、微調整用のネジを有する手動式の調整機構である。調整機構にはバネが設けられており、投入口2Aに過大な厚さの木材が投入されるとバネが
圧縮され、上部ローラー21が上へ動くようになっている。
【0032】
図3は、圧搾装置2における脱水の様子を解説した第1の図である。圧搾装置2の電動モータを始動すると、上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23が回転する。よって、
図3(A)に示されるように、圧搾装置2が作動している状態で木材6が投入口2Aに投入されると、木材6は、上部ローラー21と前部ローラー22との間に引き込まれる。上部ローラー21と前部ローラー22の間は、木材6の厚さよりも狭くなるように調整機構で調整されている。よって、木材6は、上部ローラー21と前部ローラー22との間に引き込まれると圧縮される。そして、木材6は、
図3(B)に示されるように、上部ローラー21と後部ローラー23との間にも引き込まれて更に圧縮され、排出口2Bから出ていく。圧搾装置2によって脱水された木材6は、
図3(C)に示されるように、脱水前よりも薄くなって排出口2Bから排出される。なお、調整機構における調整量は、木材6の厚さ(5~50mm程度)や木材の種類にもよるが、例えば、木材6に対し15MPa以上の圧力が加わるように調整することが望ましい。
【0033】
図4は、圧搾装置2における脱水の様子を解説した第2の図である。圧搾装置2は、
図3に示したような棒状の木材6のみならず、例えば、5cm程度の大きさに切り分けられた木質チップ7を脱水することもできる。木質チップ7を脱水したい場合、例えば、
図4(A)に示されるように、圧搾装置2が作動している状態で木質チップ7を投入口2Aに投入する。すると、木質チップ7は、上部ローラー21と前部ローラー22との間に引き込まれて圧縮される。そして、木質チップ7は、
図4(B)に示されるように、上部ローラー21と後部ローラー23との間にも引き込まれて更に圧縮され、排出口2Bから出ていく。そして、圧搾装置2によって脱水された木質チップ7は、
図4(C)に示されるように、脱水前よりも小さくなって排出口2Bから排出される。圧搾装置2には、上述したように前部スクレーパー26が備わっているため、木質チップ7のような小片であっても、前部ローラー22と後部ローラー23との間から下へ落ちることなく脱水可能である。
【0034】
図5は、圧搾装置における脱水前後の木材の構造的な変化を電子顕微鏡で捉えた図である。また、
図6は、圧搾装置における脱水前後の木材の構造的な変化を表したイメージ図である。
図5と
図6を見ると判るように、圧搾前はセルロース内に閉じ込められていたリグニンは、ローラーの圧力を受けてセルロースに機械的破堤が生じると、セルロース内から流出する。そして、木部繊維内の間隙に流出したリグニンは、ローラーの回転方向に応じた方向へ移動し、木口面等から排出される。
【0035】
図7は、圧搾装置2における脱水前後の木材の木口面を電子顕微鏡で捉えた図である。
図7(A)を見ると判るように、圧搾装置2における脱水前の木材は、木材を形作る木部繊維がハニカム状になっており、根から吸収した水分を枝や葉へ送るための導管が形成されている。このため、脱水前の木材は、このような導管内に水分が残留した状態となっている。
【0036】
そして、
図7(B)を見ると判るように、木材を形作る木部繊維は、圧搾装置2における脱水後においては、その形状がハニカム状から四角形状に変形してはいるものの、道管自体は破壊されていない。よって、圧搾装置2は、木材6や木質チップ7を圧縮することにより導管を圧搾し、導管内に残留する水分を、木口面にある導管の端部開口から排出する装置であると言える。このため、導管内の水分を圧搾装置2の圧搾により効率的に排出するには、投入方向が導管の長手方向に沿うように木材を投入することが好ましい。よって、圧搾装置2は、
図4に例示したように木質チップ7を脱水することも可能であるが、脱水の効率性に着目した場合、
図3に例示したような脱水方法、すなわち、棒状の木材6を木材6の長手方向(導管の長手方向)に沿うように投入することが好ましいと推察される。
【0037】
図8は、圧搾装置2で木材6と木質チップ7を圧縮した場合の圧搾効果の違いを検証した表である。
図8の「ロール式圧搾機1」の結果を見ると判るように、木質チップ7を圧縮した場合、1回目の脱水で木質チップ7から抽出された水分は、木材の重量比で0.33%と僅かな量に留まった。そこで、2回目の脱水を試みたが、2.22%に留まった。
【0038】
一方、短冊状の木材6を圧縮した場合、1回目の脱水で木材6から抽出された水分は、木材の重量比で13.27%という量であった。木材6の寸法は、幅100mm、厚さ10mm、長さ1000mmであった。また、2回目の脱水を試みたところ、0.32%であった。これは、圧搾装置2で脱水可能な水分量のほとんどが1回目で脱水できたためと推察される。
【0039】
なお、
図8の「ロール式圧搾機2」の結果を見ると判るように、木質チップ7の量を多くしたり、厚さを互い違いにした2種類の木材6を用意したりした場合の試験についても行った。
図8の「短冊板A」の寸法は、幅100mm、厚さ10mm、長さ1000mmである。一方、「短冊板B」の寸法は、幅100mm、厚さ15mm、長さ1000mmである。木質チップ7の量を多くしたり、厚さを互い違いにしたりしても、木質チップ7より木材6の方が効率的に脱水できることが確認された。
【0040】
また、図には示していないが、本実施形態の圧搾装置2のようなロール式の圧搾機と、ピストン加圧式のプレス機との比較試験についても行った。しかし、プレス機については木質チップから水分がほとんど抽出されなかった。これは、木質チップに加わる加圧力の不足の可能性もあるが、ピストンを収縮させた際の木質チップの嵩の回復により、抽出された水分が再び吸収されたことが主な原因と推察される。また、ピストン加圧式のプレス機は、木質チップの入れ替えのためにバッチ式となり、本実施形態の圧搾装置2のように木材を連続的に投入することができない。このため、ローラーを使った本実施形態の圧搾装置2は、ピストン加圧式のプレス機に比べると、木材の脱水を極めて効率的に行うことができると言える。
【0041】
なお、木材6のように短冊状の板材ではない木質チップ7であっても、例えば、前部ガイド25を下記のように変形すれば、導管の長手方向が投入方向に沿うように木質チップ7を圧搾装置2へ投入することができる。
図9は、前部ガイド25の変形例を示した図である。
図9では、圧搾装置2を上側から見た場合について示している。
【0042】
本変形例では、木質チップ7が直方体に切り分けられていることを前提とする。また、木質チップ7は、直方体の長手方向が導管に沿うように切り分けられていることを前提とする。本変形例では、前部ガイド25が、木質チップ7を載せる作業が行われる載置面25Aと、載置面25Aから下り勾配の傾斜を形成する前部傾斜面25Bと、前部傾斜面25Bから投入口2A内に入る下り勾配の後部傾斜面25Cとを有する。前部傾斜面25Bと後部傾斜面25Cには、木質チップ7の長手方向が投入方向に沿うように木質チップ7の向きを揃えるガイド壁25Dが設けられている。よって、載置面25Aに適当な向きで載置された木質チップ7は、ガイド壁25Dによって向きが揃えられ、投入口2A内に投入されることになる。したがって、圧搾装置2は、木質チップ7のような小片の木材であっても、木材6と同様に、木材の脱水を効率的に行うことが可能となる。
【0043】
木質燃料製造システム1では、圧搾装置2によって脱水された木材が乾燥装置3で乾燥される。乾燥装置3では、加熱による木材の乾燥が行われる。加熱手段としては、例えば、燃料を燃やして発生させた熱などが挙げられる。乾燥装置3では、木材がバイオマス発電機5の炉内に投入可能な乾燥度(本願でいう「所定乾燥度」の一例である)、例えば、含水率が15%程度の乾燥度になるまで乾燥が行われる。木質燃料製造システム1では、
木材を乾燥装置3で乾燥させる前に圧搾装置2で脱水を行っているため、乾燥装置3における乾燥時間が短縮され、乾燥装置3で消費する熱エネルギー量が削減される。よって、木材の乾燥に消費される熱エネルギーを、例えば、給湯や空調といった他の設備で有効利用することが可能となる。
【0044】
また、木質燃料製造システム1では、圧搾装置2における脱水により、木材に含まれるリグニンを抽出することもできる。リグニンは、植物の病害を防除する農薬としての効能や、抗腫瘍作用等を奏する医薬としての効能があることが認められている。リグニンは、植物の細胞壁を構成する主要成分の一つであり、リグノセルロースに含まれている。よって、リグニンを抽出するには、リグノセルロースからリグニンを抽出する処理が必要となり、通常の圧搾程度では容易に抽出されない。しかし、リグノセルロース等のリグニン含有材料からリグニンを効率的に抽出する手段の一つとして、リグニン含有材料を鉄イオンに接触させる方法が近年の研究で見出されている。そこで、圧搾装置2では、上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23の圧搾面を鉄で形成することにより、木材からリグニンを効率的に抽出できるようにしている。
【0045】
図10は、上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23の圧搾面の形状のバリエーションを例示した図である。圧搾装置2は、例えば、
図10(A)に示されるように、スパイラル状の突起あるいは溝を外周面に設けた鉄製の上部ローラー21と、突起や溝の無い平滑な外周面を有する鉄製の前部ローラー22及び後部ローラー23とを有するものであってもよい。また、圧搾装置2は、
図10(B)に示されるように、直線状の突起や溝を外周面に設けた鉄製の前部ローラー22及び後部ローラー23を有するものであってもよい。また、圧搾装置2は、
図10(C)に示されるように、上部ローラー21に設けられた突起あるいは溝に対応する溝あるいは突起と、外周面を周回する突起あるいは溝とを設けた鉄製の前部ローラー22を有するものであってもよい。また、圧搾装置2は、その他の形態の溝あるいは突起を有する上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23とを有するものであってもよい。
【0046】
鉄製の上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23の外周面にこのような各種形態の突起や溝が設けられていれば、外周面が平滑な場合に比べて、リグノセルロースに接触する外周面の接触面積が増大する。よって、圧搾装置2における圧搾により、リグノセルロースが各ローラーの鉄イオンに接触し、リグニンが効率的に抽出できる。また、このようなローラー外周面の突起と溝は、投入口2Aに投入された木材を、バイオマス発電機5で用いるのに適した大きさ(例えば、20~50mm程度)の木質チップとなるように切り刻む機能を兼ね備えることもできる。
【0047】
図11は、圧搾装置2によるリグニンの抽出量を表した表である。
図11の表を見ると判るように、鉄製の上部ローラー21と前部ローラー22と後部ローラー23を有する圧搾装置2を使って木材の圧搾を行うと、リグニンを効率的に抽出できることが判る。特に、
図3に例示したような短冊状の木材6を圧搾装置2に投入した場合、
図4に例示したような木質チップ7を圧搾装置2に投入した場合に比べて、極めて効率的にリグニンを抽出できることが判る。
【0048】
以上より、本実施形態の木質燃料製造システム1であれば、乾燥装置3における加熱に消費される熱エネルギー量を圧搾装置2によって削減できるのみならず、圧搾装置2において木材からリグニンを抽出することも可能となる。よって、本実施形態の木質燃料製造システム1であれば、バイオマス発電用の木質燃料を効率的に製造できる他に、各種の効能が認められているリグニンを圧搾装置2で木材から抽出することが可能となる。
【0049】
ところで、木材から抽出されたリグニン抽出液の効能を検証する実験を試みたので、そ
の結果を以下に示す。本検証実験では、短冊板を木質燃料製造システム1で圧搾することにより抽出されたリグニン抽出液の効能について検証した。リグニン抽出液には様々な効能が認められているが、本検証実験では、抗ウイルス効果について検証した。検証実験は、インフルエンザウイルスPR8[A/PUERTORICO/8/34(H1N1)]を用いて行った。ウイルス株を感染させる細胞には、イヌの腎尿細管上皮細胞(MDCK細胞)を用い、ウイルスの力価をTCID50=2.8×105/mlにして実験を行った。
【0050】
実験では、ウイルスと等量の短冊板圧搾抽出リグニンの溶液を30分間室温にて反応させ、96wellプレートを用いてMDCK細胞に37℃、5%CO
2の条件下で45分間吸着させた。その後、各wellに100μlずつ感染培地を加え、37℃、5%CO
2の条件下で培養し、細胞変性効果の観察を行った。
図12は、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を捉えた顕微鏡画像である。
図12を見ると判るように、対照群(Ultrapure water)ではウイルス感染により、MDCK細胞の変性が認められたが、短冊板から圧搾して抽出したリグニン抽出液を用いたリグニン溶液(1%、5%)では変性が認められず、抗ウイルス効果が確認された。この結果より、短冊板を木質燃料製造システム1で圧搾することにより抽出されたリグニン抽出液は、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を発揮することが判る。
【符号の説明】
【0051】
1・・木質燃料製造システム
2・・圧搾装置
21・・上部ローラー
22・・前部ローラー
23・・後部ローラー
24・・上部ガイド
25・・前部ガイド
25A・・載置面
25B・・前部傾斜面
25C・・後部傾斜面
25D・・ガイド壁
26・・前部スクレーパー
27・・上部スクレーパー
28・・後部スクレーパー
29・・後部ガイド
2A・・投入口
2B・・排出口
3・・乾燥装置
4・・製材所
5・・バイオマス発電機
6・・木材
7・・木質チップ