(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電解液およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20240924BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240924BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20240924BHJP
H01M 6/18 20060101ALN20240924BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
C08F220/26
H01M6/18 E
(21)【出願番号】P 2020161070
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 汰玖哉
(72)【発明者】
【氏名】大西 敏之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢志
(72)【発明者】
【氏名】星原 悠司
(72)【発明者】
【氏名】箕田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】本柳 仁
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-193755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
C08F 220/26
H01M 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性溶媒、支持塩、および、メタクリル酸メチルと(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレートとの共重合体であって重量平均分子量が10万以上30万以下かつ分子量分布が2未満であるメタクリル酸エステル重合物、を含む電解液
であって、
前記メタクリル酸エステル重合物の含有量が前記電解液全体の1.5~2.5質量%である、電解液。
【請求項2】
前記非プロトン性溶媒として、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、環状エーテル類および鎖状エーテル類からなる群より選択された少なくとも一種の溶媒を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記支持塩として、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6およびLiN(SO
2F)
2からなる群より選択された少なくとも一種の物質を含む、請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
正極と、負極と、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電解液を用いて前記メタクリル酸エステル重合物を架橋させて得られるポリマーゲル電解質と、を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極が、正極活物質として、リチウム含有複合酸化物を含む、請求項
4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極が、負極活物質として、リチウムを吸蔵・放出できる材料からなる群より選択される物質を含む請求項
4または
5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記リチウムを吸蔵・放出できる材料が炭素材料を含む請求項
6に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電解液、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池においては、出力特性やサイクル特性などの電池特性を向上することが求められる。例えば、特許文献1、2には、メタクリル酸メチルと(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレートとを共重合して得られるメタクリル酸エステル重合物を架橋させてなる架橋体を含むポリマーゲル電解質を用いることで、サイクル特性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/004483号パンフレット
【文献】国際公開第2016/125726号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載のメタクリル酸エステル重合物は、メタクリル酸メチル単位の数を表すnが1800<n<3000、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート単位の数を表すmが350<m<600であり、具体的に実施例で用いられたものではn=2620,m=420で分子量が30万を超える。そして、実施例ではこのような高分子量のメタクリル酸エステル重合物を2質量%含有する電解液を用いて、ポリマーゲル電解質を作製している。しかしながら、この電解液は粘度が高いことが予想されるため、例えば、注液前電池に電解液を注液する際に、電極への電解液の含浸が不十分となって、サイクル特性などの電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、良好な出力特性やサイクル特性を得ることを可能にしつつ、注液性を改善することができる電解液、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 非プロトン性溶媒、支持塩、および、メタクリル酸メチルと(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレートとの共重合体であって重量平均分子量が10万以上30万以下かつ分子量分布が2未満であるメタクリル酸エステル重合物、を含む電解液。
[2] 前記非プロトン性溶媒として、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、環状エーテル類および鎖状エーテル類からなる群より選択された少なくとも一種の溶媒を含む、[1]に記載の電解液。
[3] 前記支持塩として、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6およびLiN(SO2F)2からなる群より選択された少なくとも一種の物質を含む、[1]または[2]に記載の電解液。
[4] 前記メタクリル酸エステル重合物の含有量が前記電解液全体の1.5~2.5質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の電解液。
[5] 正極と、負極と、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電解液を用いて前記メタクリル酸エステル重合物を架橋させて得られるポリマーゲル電解質と、を含むリチウムイオン二次電池。
[6] 前記正極が、正極活物質として、リチウム含有複合酸化物を含む、[5]に記載のリチウムイオン二次電池。
[7] 前記負極が、負極活物質として、リチウムを吸蔵・放出できる材料からなる群より選択される物質を含む[5]または[6]に記載のリチウムイオン二次電池。
[8] 前記リチウムを吸蔵・放出できる材料が炭素材料を含む[7]に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態であると、電解液を低粘度とすることができ、そのため注液時に電極への含浸性がよく注液性を改善することができるとともに、良好な出力特性やサイクル特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態に係る電解液は、非プロトン性溶媒と、支持塩と、メタクリル酸エステル重合物とを含む非水電解液である。電解液は、非プロトン性溶媒に支持塩とメタクリル酸エステル重合物を溶解させた電解質溶液であり、メタクリル酸エステル重合物が架橋して架橋体となることにより、ポリマーゲル電解質を形成することができる。
【0009】
[非プロトン性溶媒]
非プロトン性溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(炭酸エチレン、EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類;ジエチルカーボネート(炭酸ジエチル、DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類;1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;それらのフッ素誘導体;ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらの非プロトン性有機溶媒は、いずれか一種用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0010】
非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、環状エーテル類および鎖状エーテル類からなる群より選択された少なくとも一種の溶媒を含むことが好ましく、より好ましくは、環状カーボネート類および鎖状カーボネート類からなる群より選択された少なくとも一種を含むことである。
【0011】
[支持塩]
支持塩は、非プロトン性溶媒の導電性を高める物質であり、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiN(SO2F)2(即ち、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI)、LiAlCl4、LiClO4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、LiFなどのリチウム塩が挙げられる。これらの支持塩は、いずれか一種用いても、二種以上併用してもよい。
【0012】
支持塩としては、フッ素を含有するリチウム塩を含むことが好ましく、より好ましくは、LiPF6、LiBF4、LIAsF6、LiSbF6およびLiN(SO2F)2からなる群より選択された少なくとも一種の物質を含むことである。
【0013】
電解液における支持塩の濃度は、特に限定されないが、0.5~2.0mol/Lであることが好ましく、より好ましくは0.6~1.8mol/Lであり、0.8~1.6mol/Lでもよい。
【0014】
[メタクリル酸エステル重合物]
本実施形態で用いるメタクリル酸エステル重合物は、メタクリル酸メチル(MMA)と(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート(OXMA)との共重合体である。
【0015】
本実施形態では、該メタクリル酸エステル重合物として、重量平均分子量(Mw)が10万以上30万以下であるものを用いる。重量平均分子量が10万以上であることにより、ゲル化が起こりやすくなり、ポリマーゲル電解質が得られやすくなる。また、重量平均分子量が30万以下であることにより、電解液の粘度を低くして注液時における電極への含浸性を向上することができる。メタクリル酸エステル重合物の重量平均分子量は12万以上であることが好ましく、より好ましくは15万以上であり、20万以上でもよい。また、該重量平均分子量は28万以下であることが好ましく、より好ましくは26万以下である。
【0016】
本実施形態では、また該メタクリル酸エステル重合物として、分子量分布(Mw/Mn)が2未満であるものを用いる。分子量分布が2未満であることにより、ゲル化が起こりやすくなる。より詳細には、メタクリル酸エステル重合物を高濃度にしなくてもゲル化させることができ、良好な出力特性やサイクル特性を得る上で有利である。メタクリル酸エステル重合物の分子量分布は1.8以下であることが好ましく、より好ましくは1.6以下である。分子量分布は小さいほど好ましいので、下限は特に限定されず、例えば1.1程度でもよい。
【0017】
ここで、メタクリル酸エステル重合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で測定されるものであり、分子量分布は、当該測定により得られる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を用いて、両者の比(Mw/Mn)を求めることにより得られる。
【0018】
該メタクリル酸エステル重合物は、下記式(1)で表される構成単位(以下、MMA単位という。)と下記式(2)で表される構成単位(以下、OXMA単位という。)を含む共重合体であり、モノマー由来の構成単位としては実質的にMMA単位とOXMA単位のみからなることが好ましいが、その効果を損なわない範囲で他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。特に限定するものではないが、モノマー由来の全構成単位100モル%に対して、MMA単位とOXMA単位の合計含有量が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは99モル%以上である。
【0019】
【0020】
該メタクリル酸エステル重合物において、MMA単位の数(重合度)nに対するOXMA単位の数(重合度)mの比(m/n)は、0.3<m/n<3.0を満たすことが好ましい。m/nが0.3よりも大きいことにより、ゲル化が起こりやすくなる。m/nが3.0未満であることにより、電解液の包括性(保持性)が良好となる。m/nは0.35以上であることが好ましく、より好ましくは1.8以上である。また、m/nは2.5以下であることが好ましく、より好ましくは2.3以下である。
【0021】
MMA単位の数nは、特に限定されないが、190<n<1500を満たすことが好ましく、より好ましくは200<n<1000を満たすことである。また、OXMA単位の数mは、特に限定さないが、340<m<1200を満たすことが好ましく、より好ましくは400<m<1150を満たすことである。
【0022】
ここで、メタクリル酸エステル重合物のm/nは、1H-NMR測定により求められるOXMAとMMAの含有mol比率(m/n)であり、小数第2位を四捨五入した値が0.3<m/n<3.0を満たせばよい。また、mおよびnの値は、このようにして得られたm/nの値と数平均分子量Mnの測定値とから算出される値であり、それぞれ平均値を表す。
【0023】
一実施形態において、該メタクリル酸エステル重合物は、下記一般式(3)で表される。
【化2】
一般式(3)において、mおよびnは0.3<m/n<3.0を満たす。
【0024】
本実施形態に係るメタクリル酸エステル重合物は、メタクリル酸メチル(MMA)と(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート(OXMA)をラジカル共重合することにより得ることができる。ラジカル重合法としては、フリーラジカル重合でもよいが、分画操作など煩雑な工程が必要となるため、好ましくはリビングラジカル重合であり、上記の分子量分布の小さいメタクリル酸エステル重合物を得やすい。
【0025】
リビングラジカル重合としては、特に限定されず、例えば、RAFT(可逆的付加-開裂連鎖移動重合)法(Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer Polymerization)、ATRP(原子移動ラジカル重合)法(Atom Transfer Radical Polymerization)、NMP(ニトロキシド介在重合)法(Nitroxide-mediated Polymerization)などが挙げられる。例えば、RAFT法におけるRAFT剤としては、ジチオベンゾアート、トリチオカルボナート、ジチオカルバマート、キサンタート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない
【0026】
電解液におけるメタクリル酸エステル重合物の含有量は、特に限定されないが、電解液全体(即ち、電解液100質量%に対して)の0.5~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1~5質量%であり、さらに好ましくは1.5~2.5質量%である。メタクリル酸エステル重合物の含有量を0.5質量%以上とすることによりゲル化が起こりやすくなり、また10質量%以下であることにより電池特性の低下を抑えることができる。
【0027】
本実施形態に係る電解液には、上記成分の他、無水酸、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t-ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えてもよい。
【0028】
[リチウムイオン二次電池]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、上記電解液を用いてメタクリル酸エステル重合物を架橋させて得られるポリマーゲル電解質と、を含む。
【0029】
ポリマーゲル電解質は、非プロトン性溶媒と、支持塩と、メタクリル酸エステル重合物を架橋させてなる架橋体とを含むものである。該架橋体は、メタクリル酸エステル重合物が有するオキセタニル基を、カチオン重合開始剤により開環重合することで得られる。カチオン重合開始剤としては、一般に公知の重合開始剤を用いることができるが、電解液中に含まれるリチウム塩及びリチウム塩のアニオン成分が加水分解した微量の酸性物質を利用することが、電池に与える特性が小さく好ましい。
【0030】
ポリマーゲル電解質は、メタクリル酸エステル重合物が架橋することで上記電解液がゲル状になったものである。ここでいうゲル状には、通常のゲルだけでなく、電池業界においてゲル状電解質と称される電解質と同様の状態も含まれ、厳密な意味でのゲルでなくても、液の流動性がほとんどないか、または液が流動しなくなった状態も含まれる。
【0031】
ポリマーゲル電解質における支持塩の濃度は、上記の電解液における支持塩の濃度と同じである。また、ポリマーゲル電解質におけるメタクリル酸エステル重合物の架橋体の含有量は、上記の電解液におけるメタクリル酸エステル重合物の含有量と同じである。
【0032】
正極は、少なくとも正極活物質を含むが、例として、アルミニウム箔等の金属からなる集電体の片面または両面に正極活物質を含有する正極合剤層が形成されたものを用いることができる。正極合剤層は、集電体に、正極合剤含有ペーストを塗布・乾燥し、圧縮・成型することで形成することができる。正極合剤含有ペーストは、正極活物質を、カーボンブラックや黒鉛等の導電助剤、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーとともに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の分散媒中に分散混練することで得ることができる。
【0033】
正極活物質としては、特に限定されず、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム含有複合酸化物を用いることができる。また、これらのリチウム含有複合酸化物の遷移金属部分を他の元素で置き換えたリチウム含有複合酸化物を用いることもできる。これらはいずれか一種用いても、二種以上併用してもよい。
【0034】
負極は、少なくとも負極活物質を含むが、例として、銅箔等の金属からなる集電体の片面または両面に負極活物質を含有する負極合剤層が形成されたものを用いることができる。負極合剤層は、例として、集電体に、負極合剤含有ペーストを塗布・乾燥し、圧縮・成型することで形成することができる。負極合剤含有ペーストは、負極活物質を、スチレンブタジエンゴムなどのバインダーとともに、水などの分散媒中に分散混練することで得ることができる。負極合剤含有ペーストには、カルボキシメチルセルロース塩などの増粘剤や、カーボンブラックなどの導電助剤を更に含有させてもよい。負極合剤層は、また、蒸着法、CVD法、スパッタリング法などの方式で形成してもよい。
【0035】
負極活物質としては、特に限定されず、リチウム金属又はリチウム合金の他、リチウムを吸蔵・放出できる材料から選択される一又は二以上の物質を用いることができる。リチウムを吸蔵・放出できる材料の具体例としては、炭素材料、酸化物などが挙げられる。
【0036】
リチウム合金は、リチウム及びリチウムと合金形成可能な金属により構成される。具体的には、リチウムと、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどの金属との2元又は3元以上の合金が挙げられる。
【0037】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、およびこれらの複合酸化物が挙げられる。なかでも、黒鉛又は非晶質炭素が好ましい。
【0038】
酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウムや、これらの複合物を用いることができる。なかでも、安定で他の化合物との反応を引き起こさないことから、酸化シリコンが好ましい。
【0039】
リチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、正極と負極とをセパレーターを介して積み重ねて積層体とする。あるいは、正極と負極とをセパレーターを介して扁平に巻回した後、成型して巻回体とする。そして、積層体又は巻回体を、缶やラミネート材等の外装体に挿入した後、電解液を外装体内に注入し、硬化(ゲル化)処理することにより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0040】
硬化処理としては、例えば、電解液の注入後に充電し、加熱することにより、電解液中に含まれるリチウム塩及びリチウム塩のアニオン成分が加水分解した微量の酸性物質を利用してメタクリル酸エステル重合物を架橋させることができ、ポリマーゲル電解質が形成される。
【0041】
セパレーターとしては、不織布、ポリオレフィン微多孔膜など、リチウムイオン二次電池で一般的に使用されるものを用いることができる。なお、セパレーターは必須ではなく、ポリマーゲル電解質にセパレーターの機能を持たせることもできる。
【0042】
本実施形態であると、低粘度でありながらゲル化性が良好な電解液とすることができるため、注液前電池に電解液を注液する際に電極への含浸性に優れ、出力特性やサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池を得ることができる。従って、リチウムイオン二次電池における良好な電池特性と電解液の注液性改善とを両立することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<測定・評価方法>
[重合物の重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布]
メタクリル酸エステル重合物をテトラヒドロフランに溶解し、ポリスチレン系ゲルを充填剤とした4本のカラム(Shodex GPCカラム KF-601、KF-602、KF-603、KF-604、昭和電工製)を連結したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(Prominence、島津製作所製)によりポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。カラムオーブン温度40℃、THF流量0.6mL/minとし、示差屈折率検出器(Shodex RI-504、昭和電工製)を用いた。
【0045】
[重合物のm/n]
メタクリル酸エステル重合物を重水素化クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(JEOL製)により1H-NMR測定を行ってOXMAとMMAの含有mol比率(m/n)を求めた。
【0046】
[電解液のゲル化性]
電解液をスクリュー瓶に入れて密封し、60℃の恒温オーブンで20時間加熱した。その後、スクリュー瓶を倒置し、ゲル状物の生成が目視確認できたものを○、できなかった(液体のままであった)ものを×とした。
【0047】
[電解液の粘度]
電解液について25℃での振動粘度を振動粘度計(VISCOMATE MODEL VM-10A-L、CBCマテリアルズ製)により測定した。
【0048】
[出力特性]
出力特性評価として、25℃の雰囲気下において、0.5C電流値にてCC(Constant Current:定電流)充電した後、所定の電流値(1、2、3C)にてCC放電したときの容量保持率(0.2C放電容量に対する比)を算出した。充放電の電圧範囲は2.7V~4.2Vに設定した。なお、0.5C電流値とは、セル容量を1時間で放電できる1C電流値の半分の電流値を示す。
【0049】
[サイクル特性]
サイクル特性評価として、25℃の雰囲気下において、0.5C電流値にてCC-CV(Constant Voltage:定電圧)充電および1C電流値にてCC放電の繰り返しサイクルを200サイクル行ったときの容量保持率(1サイクル目の放電容量に対する保持率)(%)を算出した。充放電の電圧範囲は2.7V~4.4Vに設定した。
【0050】
以下の製造例1~5により、MMAとOXMAとのランダム共重合体であるメタクリル酸エステル重合物1~5を合成した。
【0051】
[製造例1(メタクリル酸エステル重合物1の合成)]
2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート9.3mg、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)3.4mgに炭酸ジエチル1.00gを加え、重合開始剤溶液を調製した。十分に乾燥した重合管に、メチルメタクリレート188.9mg、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート811.1mgを入れ、重合開始剤溶液0.10g、炭酸ジエチル1.40gを加えた。直ちに真空ラインに接続し、凍結脱気法を3回繰り返すことで脱気を行った。減圧下で封管し、60℃のオイルバス中で72時間反応させた。反応終了後直ちに重合管を氷冷した後、炭酸ジエチル5.69gで希釈し、メタクリル酸エステル重合物の13.9質量%溶液を得た(濃度は実測値。製造例2,3において同じ)。この溶液4.000gに対し、炭酸エチレン2.348g、炭酸ジエチル0.604gを加えて希釈し、モレキュラーシーブで乾燥することでメタクリル酸エステル重合物1を8質量%溶液として得た。
【0052】
[製造例2(メタクリル酸エステル重合物2の合成)]
2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート18.3mg、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)6.8mgに炭酸ジエチル1.00gを加え、重合開始剤溶液を調製した。十分に乾燥した重合管に、メチルメタクリレート930.0mg、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート570.2mgを入れ、重合開始剤溶液0.10g、炭酸ジエチル1.40gを加えた。直ちに真空ラインに接続し、凍結脱気法を3回繰り返すことで脱気を行った。減圧下で封管し、60℃のオイルバス中で72時間反応させた。反応終了後直ちに重合管を氷冷した後、炭酸ジエチル9.53gで希釈し、メタクリル酸エステル重合物の13.6質量%溶液を得た。この溶液4.000gに対し、炭酸エチレン2.296g、炭酸ジエチル0.504gを加えて希釈し、モレキュラーシーブで乾燥することでメタクリル酸エステル重合物2を8質量%溶液として得た。
【0053】
[製造例3(メタクリル酸エステル重合物3の合成)]
2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート18.6mg、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)6.9mgに炭酸ジエチル1.00gを加え、重合開始剤溶液を調製した。十分に乾燥した重合管に、メチルメタクリレート188.9mg、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート811.1mgを入れ、重合開始剤溶液0.10g、炭酸ジエチル1.40gを加えた。直ちに真空ラインに接続し、凍結脱気法を3回繰り返すことで脱気を行った。減圧下で封管し、60℃のオイルバス中で48時間反応させた。反応終了後直ちに重合管を氷冷した後、炭酸ジエチル5.59gで希釈し、メタクリル酸エステル重合物の14.1質量%溶液を得た。この溶液4.000gに対し、炭酸エチレン2.380g、炭酸ジエチル0.668gを加えて希釈し、モレキュラーシーブで乾燥することでメタクリル酸エステル重合物3を8質量%溶液として得た。
【0054】
[製造例4(メタクリル酸エステル重合物4の合成)]
十分に乾燥した3000mLのセパラブルフラスコに、メチルメタクリレート165.0g、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート55.2g、炭酸エチレン880.8gを加え、70℃で窒素バブリングしながら90分間攪拌した後、炭酸ジエチル3.27gに2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.364gを溶解した溶液を加えて反応を開始した。さらに反応3時間後および6時間後に、炭酸ジエチル0.972gにAIBN0.108gを溶解した溶液を加え、合計9時間加熱攪拌を続けた後、炭酸エチレン28.8gと炭酸ジエチル1618.5gで希釈した。この溶液をモレキュラーシーブで乾燥することでメタクリル酸エステル重合物4を8質量%溶液として得た。
【0055】
[製造例5(メタクリル酸エステル重合物5の合成)]
十分に乾燥した3000mLのセパラブルフラスコに、メチルメタクリレート55.1g、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート165.2g、炭酸エチレン323.6g、炭酸ジエチル557.2gを加え、70℃で窒素バブリングしながら90分間攪拌した後、炭酸エチレン1.201gと炭酸ジエチル2.069gの混合溶媒に2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.5461gを溶解した溶液を加えて反応を開始した。さらに反応3時間後および6時間後に、炭酸エチレン0.357gと炭酸ジエチル0.614gにAIBN0.1621gを溶解した溶液を加え、合計9時間加熱攪拌を続けた後、炭酸エチレン604.4gと炭酸ジエチル1041.0gで希釈した。この溶液をモレキュラーシーブで乾燥することでメタクリル酸エステル重合物5を8質量%溶液として得た。
【0056】
[調製例1(電解液1の調製)]
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例1で得たメタクリル酸エステル重合物1の8質量%溶液と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と炭酸エチレン/炭酸ジエチル(3/7、体積比)を所定量ずつ混合溶解し、電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/L、メタクリル酸エステル重合物濃度が1.8質量%となるように調製して電解液1を得た。
【0057】
[調製例2(電解液2の調製)]
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例2で得たメタクリル酸エステル重合物2の8質量%溶液と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と炭酸エチレン/炭酸ジエチル(3/7、体積比)を所定量ずつ混合溶解し、電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/L、メタクリル酸エステル重合物濃度が2.0質量%となるように調製して電解液2を得た。
【0058】
[調製例3(電解液3の調製)]
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例3で得たメタクリル酸エステル重合物3の8質量%溶液と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と炭酸エチレン/炭酸ジエチル(3/7、体積比)を所定量ずつ混合溶解し、電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/L、メタクリル酸エステル重合物濃度が2.3質量%となるように調製して電解液3を得た。
【0059】
[調製例4(電解液4の調製)]
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例4で得たメタクリル酸エステル重合物4の8質量%溶液と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と炭酸エチレン/炭酸ジエチル(3/7、体積比)を所定量ずつ混合溶解し、電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/L、メタクリル酸エステル重合物濃度が2.0質量%となるように調製して電解液4を得た。
【0060】
[調製例5(電解液5の調製)]
調製例4において、電解液中のメタクリル酸エステル重合物濃度が1.8質量%となるようにし、その他は調製例4と同様にして電解液5を得た。
【0061】
[調製例6(電解液6の調製)]
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例5で得たメタクリル酸エステル重合物5の8質量%溶液と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と炭酸エチレン/炭酸ジエチル(3/7、体積比)を所定量ずつ混合溶解し、電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/L、メタクリル酸エステル重合物濃度が2.5質量%となるように調製して電解液6を得た。
【0062】
[調製例7(電解液7の調製)]
調製例6において、電解液中のメタクリル酸エステル重合物濃度が2.0質量%となるようにし、その他は調製例6と同様にして電解液7を得た。
【0063】
[実施例1(リチウムイオン二次電池の作製と評価)]
(正極の作製)
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2からなる正極活物質92質量部と、バインダーであるPVDFを4質量部と、導電助剤としてSuperP(Timcal製、カーボンブラック)2質量部とKS6(Timcal製、黒鉛)2質量部とに、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドンを加えて、遊星式ミキサーを用いて混練し、正極合剤含有ペーストを調製した。
【0064】
該正極合剤含有ペーストを、厚みが15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した後、130℃で8時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、正極合剤層の厚さおよび密度を調節し、長さ60mm、幅30mmの帯状の正極を作製した。得られた正極における正極合剤層は、片面あたりの厚みが57μmであった。
【0065】
(負極の作製)
負極活物質である平均粒子径D50が約10μmである黒鉛96質量部と、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)2.5質量部と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC)1.5質量部とに、水を加えて混合し、負極合剤含有ペーストを調製した。
【0066】
該負極合剤含有ペーストを、厚みが10μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布した後、130℃で8時間の真空乾燥を行って、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。その後、プレス処理を行って、負極合剤層の厚さおよび密度を調節し、長さ62mm、幅32mmの帯状の負極を作製した。得られた負極における負極合剤層は、片面あたりの厚みが60μmであった。この時の電池の充電上限電圧は4.4Vと設定し、電池容量は0.5Ahであった。
【0067】
(電池の組み立て)
上記で得られた正極、負極間に、セパレーターとしてポリオレフィン系単層セパレーターを挟んで積層し、各正負極に正極端子と負極端子を超音波溶接した。この積層体をアルミラミネート包材に入れ注液用の開口部を残してヒートシールし、正極面積18cm2、負極面積19.8cm2とした注液前電池を作製した。次に、調製例1で得た電解液1を注液用の開口部から注入した後、開口部を封止した。そして、0.2Cで4.2Vまで充電した後に、恒温槽で60℃×20時間加熱し、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を得た。
【0068】
(実施例2~3、比較例1~4)
電解液の種類を下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3および比較例1~4に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0069】
実施例1~3および比較例1~4について、メタクリル酸エステル重合物のMw,Mn,Mw/Mn,m/n、電解液のゲル化性および粘度、ならびに出力特性の測定結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1に示すように、比較例1では、メタクリル酸エステル重合物の重量平均分子量が大きく、電解液のゲル化性が良好であり、また電池の出力特性およびサイクル特性も良好であったが、電解液の粘度が高く、注液時に含浸不良になるおそれがある。そこで、比較例2のように低粘度化のためにメタクリル酸エステル重合物の濃度を1.8質量%に下げたが、ゲル化性を維持できる濃度では十分に低粘度化されなかった。そのため比較例2では電池特性は評価していない。
【0072】
一方、比較例3,4では、メタクリル酸エステル重合物の重量平均分子量が小さく、電解液が低粘度化されていたが、分子量分布が大きく、数平均分子量が小さいので、比較例1と同程度のメタクリル酸エステル重合物濃度では、比較例4に示すようにゲル化性に劣っていた。比較例3に示すように重合物濃度を上げることでゲル化性は良好となったが、出力特性としての2C放電容量/0.2C放電容量が0.85未満、3C放電容量/0.2C放電容量が0.60未満であり、良好な出力特性が得られず、またサイクル特性も大きく悪化した。
【0073】
これに対し、実施例1~3であると、リビングラジカル重合により合成したメタクリル酸エステル重合物は、重量平均分子量が小さくかつ分子量分布が小さいので、電解液のゲル化性が良好でかつ低粘度であり、よって、注液時における電極への含浸性に優れていた。また、電池特性としても、重量平均分子量が大きいメタクリル酸エステル重合物を用いた比較例1と同程度の良好な出力特性とサイクル特性を有していた。そのため、リチウムイオン二次電池における良好な電池特性と電解液の注液性改善とが両立していた。
【0074】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。