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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】管腔構造体,及び管腔構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240924BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240924BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024535538
(86)(22)【出願日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2023035893
(87)【国際公開番号】W WO2024071433
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022158455
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、ムーンショット型研究開発事業、「ミトコンドリア先制医療」委託事業、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】尾上 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀磨
(72)【発明者】
【氏名】板井 駿
(72)【発明者】
【氏名】豊原 敬文
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/208094(WO,A1)
【文献】NIKOLAEV, Mikhail et al.,Homeostatic mini-intestines through scaffold-guided organoid morphogenesis,Nature,2020年,Vol 585,pp. 574-578
【文献】TANAKA, Shuma et al.,A THREE-DIMENSIONAL ARTIFICIAL INTESTINAL TISSUE WITH A CRYPT-LIKE INNER SURFACE,2023 IEEE 36th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS), Munich, Germany,2023年01月,pp. 456-459,<doi: 10.1109/MEMS49605.2023.10052541.>
【文献】YAN, Kun et al.,Wire templated electrodeposition of vessel-like structured chitosan hydrogel by using a pulsed electrical signal,Soft Matter,2020年,16,pp. 9471-9478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔構造体の外形に対応した凹部を有する鋳型に収容された仮固定剤であって,前記管腔構造体の内腔本体部に対応した芯形成部材が挿入された仮固定剤である鋳型内仮固定剤を得る鋳型内仮固定剤取得工程と,
前記芯形成部材を用いて前記鋳型内仮固定剤の内部に泡を生じさせた状態で前記鋳型内仮固定剤を固化させる鋳型内仮固定剤固化工程とを含む,
管腔構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の管腔構造体の製造方法であって,
前記管腔構造体は,人工腸である,方法。
【請求項3】
請求項1に記載の管腔構造体の製造方法であって,
前記仮固定剤は,プレゲル溶液である,方法。
【請求項4】
請求項3に記載の管腔構造体の製造方法であって,
前記芯形成部材は,電極であり,
前記鋳型内仮固定剤固化工程は,前記芯形成部材を電極として用いた電気分解により前記芯形成部材表面に前記泡を生じさせる電気分解工程を含む,方法。
【請求項5】
請求項4に記載の管腔構造体の製造方法であって,
前記電気分解工程は,前記芯形成部材に印加する電圧の値及び印加時間を調整することで,得られる管腔構造体内部の凹凸の形状を調整する,方法。
【請求項6】
内腔部分を有する管状の管腔構造体であって,
前記内腔部分は,深さが10μm以上200μm以下であり,最大幅が20μm以上500μm以下の窪みを複数有する管腔構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の管腔構造体であって,
前記窪みを10個以上有する管腔構造体。
【請求項8】
請求項6に記載の管腔構造体であって,前記窪みは,半球状である管腔構造体。
【請求項9】
請求項6に記載の管腔構造体であって,前記窪みの幅は,当該窪みの深さの1.2倍以上3倍以下である管腔構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,人工腸などの管腔構造体や管腔構造体を製造する方法に関する。より詳しく説明すると,気泡により三次元的な凹凸を調整できる管腔構造体を製造する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
特表2020-500018号公報には,人工腸組織が記載されている。このように人工的に腸を製造する技術は知られている。
【0003】
この発明は,人工腸などの管腔構造体では,管腔構造体内部の凹凸を三次元的に調整し,適切な構造を有する管腔構造体を製造することが望まれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-500018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,管腔構造体内部の凹凸を三次元的に調整できる管腔構造体の製造方法や管腔構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は,基本的には泡を用いることで管腔構造体内部の凹凸を三次元的に調整できるという実施例による知見に基づく。
【0007】
この発明の管腔構造体の製造方法は,鋳型内仮固定剤取得工程と,鋳型内仮固定剤固化工程とを含む。管腔構造体の例は,人工腸である。
鋳型内仮固定剤取得工程は,鋳型内仮固定剤を得るための工程である。鋳型内仮固定剤は,管腔構造体の外形に対応した凹部を有する鋳型に収容された仮固定剤であって,前記管腔構造体の内腔本体部に対応した芯形成部材が挿入された仮固定剤である。仮固定剤の例は,プレゲル溶液である。
鋳型内仮固定剤固化工程は,芯形成部材を用いて鋳型内仮固定剤の内部に泡を生じさせた状態で鋳型内仮固定剤を固化させる工程である。芯形成部材は,電極として機能するものであってもよい。そして,芯形成部材を電極として用いた電気分解により芯形成部材表面に泡を生じさせる電気分解工程を含んでもよい。芯形成部材に印加する電圧の値及び印加時間を調整することで,得られる管腔構造体内部の凹凸の形状を調整できる。
この工程の後に,固化した鋳型内仮固定剤を鋳型から取り出す工程や,鋳型から取り出した鋳型内仮固定剤を洗浄するなどして,管腔構造体を得てもよい。
【0008】
この発明の管腔構造体は,上記の製造方法により得られるものであってもよい。この発明の管腔構造体は,内腔部分を有する管状の管腔構造体であって,内腔部分は,深さが10μm以上200μm以下であり,最大幅が20μm以上500μm以下の窪みを複数有する。この発明の管腔構造体は,窪みを10個以上有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明は,管腔構造体内部の体腔本体を形成するための棒状モールドにより泡を発生させることで,管腔構造体内部の凹凸を三次元的に調整できる管腔構造体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は,管腔構造体を説明するための概念図である。
図2図2は,実施例における製造系の例を示す図である。図2(a)は,実施例において用いた鋳型,及び棒状モールドの概念図である。図2(b)は実施例で用いたシステムの概念図である。
図3図3は,電気分解が進行する様子を示す概念図である。
図4図4は,電気分解が進行する様子を示す図面に代わる写真である。
図5図5は,実施例により得られた人工腸を示す図面に代わる写真である。
図6図6は,細胞培養実験に用いた実験系を示す図面に代わる写真である。
図7図7は,人工腸内のCaco-2細胞を示す図面に代わる写真である。
図8図8は,人工腸の管の直径と,内腔に形成された窪みの深さと開口部の直径を示す図面に代わるグラフである。
図9図9は,共培養系を示す図面に代わる写真である。
図10図10は,共培養の結果を示す図面に代わる蛍光写真である。
図11図11は,監察結果を示す図面に代わる位相差顕微鏡の撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0012】
この発明の管腔構造体の製造方法は,鋳型内仮固定剤取得工程と,鋳型内仮固定剤固化工程とを含む。
【0013】
管腔構造体
図1は,管腔構造体を説明するための概念図である。図1(a)は管腔構造体の側面図の例を示し,図1(b)は管腔構造体の正面図(端部)の例を示し,図1(c)は,図1(a)のA-A断面図の例を示し,図1(d)は図1(a)の断面図の例を示す。図1(e)は,管腔構造体や実施例を説明するための概念図である。図1に示されるように,管腔構造体1は,管腔構造体の本体部分3と,本体部分3の内側に形成された内腔部分5とを有する。管腔構造体の外形は,いわゆる管状である。内腔部分5は,円筒状の内腔本体部7と,管腔構造体の本体部分3の領域に形成された複数の窪み9とを有する。図1(b)に示す例では,管腔構造体の端部領域の内腔部分5には,内腔本体部7のみが存在し,窪み9が存在していない。しかしながら,この発明の管腔構造体は,その端部領域の内腔部分5にも窪み9が存在してもよい。管腔構造体は,柔軟性のあるものであってもよい。
【0014】
管腔構造体は,例えば,ヒト又は哺乳動物の腸の一部と類似した大きさや物性を有するものであることが好ましい。管腔構造体は,例えば,管状である。管腔構造体の長さは,用途に応じて適宜調整すればよい。また,管腔構造体の本体部分3を形成する壁の厚さも用途に応じて適宜調整すればよい。管の長さをlとすると1mm≦l≦1mでもよく,1mm≦l≦10cmでもよく,1mm≦l≦1cmでもよく,5mm≦l≦1mでもよく,5mm≦l≦50cmでもよく,5mm≦l≦10cmでもよい。管の外周の平均半径をrとすると,0.1mm≦r≦3cmでもよく,0.6mm≦r≦1cmでもよく,0.6mm≦r≦5mmでもよく,0.6mm≦r≦3mmでもよい。管の内腔(内腔本体部7)の平均直径をdとすると,0.1r≦d≦1.8rでもよく,0.1r≦d≦0.8rでもよく,0.2r≦d≦0.8rでもよく,0.2r≦d≦0.6rでもよく,0.3r≦d≦0.6rでもよい。管腔構造体は,公知の生体親和性のある樹脂を適宜用いればよい。人工腸は,公知なので,公知の素材を用いて管腔構造体を製造できる。
【0015】
窪み9は,意図的に形成された凹凸であり,窪みの上にさらに窪みが形成されてもよい。窪み9の例は,略半球状のものであり,深さが10μm以上200μm以下であり,最大幅が20μm以上500μm以下である。管腔構造体は,この範囲に含まれる窪み9が,複数存在すればよい。窪み9を形成する深さ及び幅は,泡の半径及び直径と同視できる。すると,窪み9の深さの例は,10μm以上200μm以下であり,20μm以上150μm以下でもよく,20μm以上100μm以下でもよく,50μm以上150μm以下でもよく,50μm以上100μm以下でもよい。窪み9の幅の例は,上記の窪み9の深さの1倍以上4倍以下であり,1.2倍以上3倍以下でもよく,1.3倍以上2.5倍以下でもよい。この発明の管腔構造体は,上記のいずれかの範囲に相当する窪み9を1×10個以上有するものが好ましい。窪み9の数は,1×10個以上1×1020個以下でもよいし,2×10個以上1×1010個以下でもよいし,1×10個以上1×10個以下でもよいし,1×10個以上1×10個以下でもよい。
【0016】
管腔構造体の例は,人工腸である。腸の例は,小腸及び大腸である。小腸の例は,十二指腸,空腸及び回腸である。大腸の例は,盲腸,結腸及び直腸である。結腸は,上行結腸,横行結腸,下行結腸及びS状結腸である。人工腸は,これらの何れかの部分又は全長に置換する人工臓器であってよい。このため,その大きさや太さは用途に応じて適宜調整すればよい。腸は,ヒトの人工腸であることが好ましい。つまり,好ましい人工腸の例は,ヒトの治療用の医療機器である。
【0017】
鋳型内仮固定剤取得工程
鋳型内仮固定剤取得工程は,鋳型内仮固定剤を得るための工程である。鋳型内仮固定剤は,管腔構造体の外形に対応した凹部を有する鋳型に収容された仮固定剤であって,前記管腔構造体の内腔本体部に対応した芯形成部材が挿入された仮固定剤である。仮固定剤は,後の処理により硬化する前の状態の剤を意味する。仮固定剤は,液状であってもよいし,半固体状であってもよい。仮固定剤の例は,熱硬化性樹脂,光硬化性樹脂,接着剤,印象材,及びプレゲル溶液である。熱硬化性樹脂は,熱を加えることで固化する樹脂である。光硬化性樹脂は,光を照射することで固化する樹脂である。接着剤は,水分が蒸発すると固化する樹脂である。プレゲル溶液は,例えば,特許7129668号公報,特開2020-180239号公報や特表2022-513229号公報に記載されるように,所定の樹脂成分を含み,熱を加えたり,風乾することでゲル化する半固体の液である。この工程は,管腔構造体の外形である円柱状のものを製造した後に,芯部分を取り除き,芯形成部材を挿入してもよい。この工程は,管腔構造体の外形である円柱状のものを製造した後に,芯形成部材を挿入し,芯部分を排除してもよい。この工程は,あらかじめ芯形成部材を鋳型内に挿入しておいて,芯部分(内腔本体部7に対応する)を除いた状態で,鋳型内仮固定剤を得てもよい。
【0018】
鋳型内仮固定剤固化工程
鋳型内仮固定剤固化工程は,芯形成部材を用いて鋳型内仮固定剤の内部に泡を生じさせた状態で鋳型内仮固定剤を固化させる工程である。この泡は,意図的又は人為的に発生させるものである。また,この泡の発生量や発生位置を制御するものが好ましい。芯形成部材は,電極として機能するものであってもよい。そして,芯形成部材を電極とした用いた電気分解により芯形成部材表面に気泡を生じさせる電気分解工程を含んでもよい。芯形成部材に印加する電圧の値及び印加時間を調整することで,得られる管腔構造体内部の凹凸の形状を調整できる。また,芯形成部材がその表面に微小な穴(鋳型内仮固定剤が内部に侵入しにくい程度の大きさ)を複数有しており,芯形成部材内部から流体(例えば,空気やオイル)を放出することで,泡を形成してもよい。例えば,流体がオイルの場合は,オイルが存在した部分が,固化せずに窪み9となる。この工程の後に,固化した鋳型内仮固定剤を鋳型から取り出す工程や,鋳型から取り出した鋳型内仮固定剤を洗浄するなどして,管腔構造体を得てもよい。
【0019】
この発明の管腔構造体は,上記の製造方法により得られるものであってもよい。人工腸は,各種医療行為や,医療関連の実験に用いることができる。以下,この発明を,人工腸を例にして説明する。しかしながら,この発明は以下の実施例に限定されるものではなく,公知の技術を適宜採用したものも含む。
【実施例
【0020】
[実験例1]
人工腸の製造
人工腸を作成するにあたり,以下の鋳型,及び棒状モールドを準備した。図2は,実施例における製造系の例を示す図である。図2(a)は,実施例において用いた鋳型,及び棒状モールドの概念図である。図2(b)は実施例で用いたシステムの概念図である。棒状モールドは,中空の芯部分に対応するものである。鋳型は10×25×3のアルミニウム片からコラーゲンプレゲル溶液注入用の溝を掘ったものを用いた。鋳型は導電性材料であれば,アルミニウムに限定されない。棒状モールドとして,直径0.5mmのタングステンを用いた。棒状モールドは導電性材料であれば,タングステンに限定されない。
【0021】
鋳型にコラーゲンプレゲル溶液(Atelocell)を充填した。棒状モールドを電極として用い,タングステンワイヤを介して,5Vの直流電圧を200m秒間印可し,プレゲルを電気分解することにより気泡を発生させた。37℃の状態で,2時間静置することによりゲルを硬化させた。ゲルを硬化させた後に得られたコラーゲンチューブを鋳型から取出し,人工腸を得た。
【0022】
図3は,電気分解が進行する様子を示す概念図である。上図は,電気分解前の様子を示す。中図は,電気分解が始まり,マイクロバブル(微小な泡)が発生した様子を示す。下図は,電気分解が進み,コラーゲンプレゲル溶液内のタングステンワイヤ周辺に多数のマイクロバブルが生じている様子を示す。
【0023】
図4は,電気分解が進行する様子を示す図面に代わる写真である。上図は,電気分解前の様子を示し,下図は電気分解が進み,コラーゲンプレゲル溶液内のタングステンワイヤ周辺に多数のマイクロバブルが生じている様子を示す。
【0024】
図5は,実施例により得られた人工腸を示す図面に代わる写真である。上図は位相差像を示し,下図は蛍光顕微鏡写真を示す。
【0025】
半径1.2mmの溝を持つ鋳型と直径0.5mmの棒状モールドを用いて得られた,人工腸の外径および内径の寸法(平均値±標準偏差)はそれぞれ,2454±24μm,538±22μmである。
鋳型および棒状モールドの寸法を変更することで所望の大きさの人工腸を得られる。過度に大きな外径は培地浸透性の悪化を,過度に大きな内径は細胞がコンフルエントになるまでに要する培養日数の増加を,それぞれ引き起こす。そのため,内径は500μm以下が望ましい。
窪みの形状は,棒状モールド表面を加工することで制御可能である。例えば,表面に撥水コーティング(OPTOOL HD-1100TH, DAIKIN, Japan)を施した場合,気泡の接触角を変更可能である。接触角を小さくすることで,窪みの開口部が広くなり,後の細胞播種が容易になる利点がある。
窪みの大きさは,電気分解の電圧印加時間で制御可能である。5V電圧を用いた場合,印加時間を25m秒,100m秒,200m秒,1000m秒と長くすると,生成する気泡の直径(平均値±標準偏差)は,それぞれ64.5±22.3μm,76.5±26.2μm,116.6±28.7μm,131.2±33.8μmと大きくなる。電圧印加時間が200m秒より大きくなると,生成した気泡が周囲の気泡と結合し,より大きな気泡を形成するため,結果的に窪みの数は少なくなる。
コラーゲンゲル(4.0mg/mL)を用いて細胞を培養する場合,細胞のけん引力による窪みの変形を鑑みると,深さは100μm以上あることが望ましい。深さがこれより小さいと窪みが平らになってしまう場合がある。
管の硬度は,コラーゲンゲルの濃度を濃くしたり,ゼラチンを用いたりすることで,より硬くすることが可能である。その場合,深さが100μmより小さくても問題ない。
【0026】
[実験例2]
ヒト細胞の培養
図6は,細胞培養実験に用いた実験系を示す図である。図6の1のとおり,理化学研究所より購入したCaco-2細胞懸濁液 (1.0 × 10 cells/mL)を注射器(250 μL,ハミルトン)に入れ,棒状モールドを取り除いたコラーゲンゲル内腔に注入した。図6の2のとおり,5%CO中にて,37℃にてインキュベートした。図6の3のとおり,ヒト細胞(Caco-2細胞)を再び撒種した。図6の4のとおり,上下を逆にしてインキュベートした。鋳型から人工腸を取りはずした。
【0027】
図7は,人工腸内のCaco-2細胞を示す図面に代わる写真である。
【0028】
図8は,人工腸の管の直径と,内腔に形成された窪みの深さと開口部の直径を示す図面に代わるグラフである。図8に示される通り,4日間の培養を行うと,細胞のけん引力により,管の直径は14%短くなり,窪みの深さは61%短くなり,窪みの開口部の直径は34%長くなった。
【0029】
[実験例3]
ヒト細胞及び腸内細菌の共培養
次に,ビフィズス菌を用いて人工腸を共培養した。図9は,共培養系を示す図面に代わる写真である。得られた人工腸内部にビフィズス菌(5.0 × 10 cells/mL)を撒菌し,24時間静置培養した。蛍光染色したビフィズス菌を観察した。この例では,人工腸をヒト細胞(Caco-2細胞)を培養する培地内に設置するとともに,人工腸の両端部の開口から腸内細菌(ビフィズス菌)を培養する培地を流入及び流出させた。図10は,共培養の結果を示す図面に代わる蛍光写真である。上図及び下図に腸内細菌(ビフィズス菌)とヒト細胞(Caco-2細胞)の写真をそれぞれ示す。図10に示される通り,結果,人工腸内腔にビフィズス菌が留まっていることを確認した。
【0030】
[実験例4]
F-hiSIEC培養手順
培養方法
細胞の播種は、F-hiSIECTM(FUJIFILM human iPS cell-derived Small Intestinal Epithelial like Cell)を専用播種培地に4.0×10cells/mL濃度で懸濁し、形成したチューブに複数回に分けて送液することで行った。
細胞播種の翌日から、専用培養培地に切り替え、以後2日おきに培地交換を行った。培地交換の際は、チューブ内腔への送液も行うことで死細胞の除去も同時に行った。
チューブでの培養は9日間行った。
【0031】
観察結果
図11に、位相差顕微鏡の撮影画像を示す。図11左上は、膜種直後の様子を示す。図11右上は、9日後の様子を示す。図11左下は、図11右上の部分拡大図を示す。図11右下は、図11左下の拡大図を示す。位相差顕微鏡の観察により、管腔内での細胞の増殖および腸上皮様組織の形成を確認した。さらに、腸上皮様組織の形成に伴い細胞の牽引力が働き、チューブ内壁が収縮方向に引っ張られることで、チューブ内径が減少する現象が観察された。
【0032】
本発明のポイントは,生体内の腸管内壁で観察される,無数の100μmオーダーの凹凸を,3次元方向に,かつ瞬時に作製可能な点である。さらに,作製に必要な装置は一般的な任意波形発生器のみであり,特殊な装置を必要としないため導入障壁が低い。
また,管の素材はゲルに限定されない。泡によって窪みが作製できること,泡を除去しても窪みが維持できること,の2つの条件を満たせば作製可能である。
さらに,気泡の発生方法は電気分解に限らない。例えば,空気送達が可能な管状で,かつ表面に空気噴出口を設けた棒状モールドを用いる方法や,棒状モールドを加熱することで溶存気体を発生させる方法などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は,人工腸などに関するので医療機器の分野や,生物学的実験装置の分野などで利用されうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11