IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ワシントン・ユニバーシティの特許一覧

特許7558574マルチプレックスアッセイおよびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】マルチプレックスアッセイおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240924BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240924BHJP
   C07K 14/775 20060101ALN20240924BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20240924BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240924BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240924BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C12Q1/02
C07K14/775
C07K14/46
C07K7/06
C07K7/08
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021539978
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 US2020012959
(87)【国際公開番号】W WO2020146652
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】62/790,290
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ベイトマン,ランドール
(72)【発明者】
【氏名】ビュードリア,メリッサ
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/204406(WO,A1)
【文献】特表2017-500562(JP,A)
【文献】NAKAMURA, A. et al.,High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer’s disease,Nature,2018年01月31日,Vol.554,p.249-254
【文献】VERBERK, I.M.W. et al.,Plasma Amyloid as Prescreener for the Earliest Alzheimer Pathological Changes,Annals of Neurology,2018年09月09日,Vol.84/No.5,p.648-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/02
C07K 14/775
C07K 14/46
C07K 7/06
C07K 7/08
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
さらなる診断検査のための候補として対象を特定するための方法であって、
対象の年齢およびApoE ε4状態を決定すること、および、
象から取得した血液試料において、Aβ42およびAβ40の濃度を測定し、Aβ42/Aβ40値を計算することを含み、
(a)対象がApoE ε4陽性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも55歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vii)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1404以下のAβ42/Aβ40値を有する、または、
(b)対象がApoE ε4陰性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する、
場合に、該対象さらなる診断検査の候補であることを示す、方法。
【請求項2】
対象から取得した血液試料においてAβアミロイドーシスを検出するための方法であって、
対象の年齢およびApoE ε4状態を決定すること、および、
象から取得した血液試料において、Aβ42およびAβ40の濃度を測定し、Aβ42/Aβ40値を計算することを含み、
(a)対象がApoE ε4陽性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも55歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vii)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1404以下のAβ42/Aβ40値を有する、または、
(b)対象がApoE ε4陰性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する、
場合に、該対象Aβアミロイドーシス陽性であることを示す、方法。
【請求項3】
対象の神経変性疾患のステージを等級付けするための方法であって、
対象の年齢およびApoE ε4状態を決定すること、および、
象から取得した血液試料において、Aβ42およびAβ40の濃度を測定し、Aβ42/Aβ40値を計算することを含み、
(a)対象がApoE ε4陽性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも55歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vii)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1404以下のAβ42/Aβ40値を有する、または、
(b)対象がApoE ε4陰性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する、
場合に、該対象Aβアミロイドーシスを有することを特徴とする神経変性疾患の少なくとも無症候性段階にあることを示す、方法。
【請求項4】
Aβアミロイドーシスの処置のための医療看護のための候補として対象を特定するための方法であって、
対象の年齢およびApoE ε4状態を決定すること、および、
象から取得した血液試料において、Aβ42およびAβ40の濃度を測定し、Aβ42/Aβ40値を計算することを含み、
(a)対象がApoE ε4陽性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも55歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vii)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1404以下のAβ42/Aβ40値を有する、または、
(b)対象がApoE ε4陰性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する、
場合に、該対象がAβアミロイドーシスの処置のための医療看護のための候補であることを示す、方法。
【請求項5】
医療看護が、
(a)予防的もしくは阻止的手段、
(b)診断検査、または、
(c)治療的介入
から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
予防的もしくは阻止的手段が、
(i)対象における望ましくない生理的変化の予防または減速、
(ii)対象における疾患の状態の安定化、
(iii)対象における疾患進行の遅延または緩徐、
(iv)対象の行動の改善、または、
(v)栄養補助、
から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療的介入が、非薬理学的処置、薬理学的処置、またはイメージング剤による処置とその後のイメージング剤の検出である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
イメージング剤が、機能的イメージング剤または分子イメージング剤である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
治療的介入が非薬理学的処置である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
治療的介入が薬理学的処置である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
治療的介入が臨床試験により施される、請求項に記載の方法。
【請求項12】
Aβアミロイドーシスを処置するための臨床試験に含める対象を選別するための方法であって、
対象の年齢およびApoE ε4状態を決定すること、および、
象から取得した血液試料において、Aβ42およびAβ40の濃度を測定し、Aβ42/Aβ40値を計算することを含み、
(a)対象がApoE ε4陽性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも55歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vii)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1404以下のAβ42/Aβ40値を有する、または、
(b)対象がApoE ε4陰性であり、かつ、
(i)対象が少なくとも60歳であり、血液試料が0.1032以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(ii)対象が少なくとも65歳であり、血液試料が0.1094以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iii)対象が少なくとも70歳であり、血液試料が0.1156以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(iv)対象が少なくとも75歳であり、血液試料が0.1218以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(v)対象が少なくとも80歳であり、血液試料が0.128以下のAβ42/Aβ40値を有する;
(vi)対象が少なくとも85歳であり、血液試料が0.1342以下のAβ42/Aβ40値を有する、
場合に、該対象臨床試験に含められることを示す、方法。
【請求項13】
単一アッセイである、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
血液試料中の1つまたはそれ以上の神経変性のマーカーを検出することをさらに含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
1つまたはそれ以上の神経変性のマーカーが、ニューロフィラメント軽鎖、タウアイソフォーム、ビシニン様タンパク質1ニューログラニンアイソフォーム、リン酸化タウ、TDP-43、α-シヌクレイン、SOD-1、FBP1、FUS、FKBP51、IRS-1、リン酸化IRS-1、カテプシンD(CTSD)、1型リソソーム関連膜タンパク質(LAMP1)、ユビキチン化タンパク質(UBP)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、CD9、CD63、CD81、CD171、BACE1、アミロイドベータ前駆体タンパク質、GHR、PD-1、APEX1、ハンチンチン、PRKNまたはPSEN1から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象が、(a)以前にAβアミロイドーシスと診断されていない、(b)無症候性である、(c)Aβアミロイドーシスに関連する疾患のための臨床試験における潜在的参加者である、(d)アミロイドイメージングの候補である、または(e)(a)~(d)のいずれかの組合せである、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、末梢血液を使用して、アミロイドーシス障害を検出するための単一アッセイの使用に関する。特に、本開示は、アミロイドプラーク(アミロイドベータ42、アミロイドベータ40)、遺伝的リスク(ApoE表現型)および神経変性(例えば、ニューロフィラメント軽鎖、タウおよびビシニン様タンパク質1(visinin-like protein one))のマーカーの単一アッセイへ組合せ使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドーシス障害の臨床診断は、通常、初期の記憶障害エピソード伴う緩徐進行性認知障害歴、および障害の他の潜在的な原因を考慮に入れるまたは除外することに依存する。いくつかの臨床的な症例では、アミロイドPETおよび/またはCSFバイオマーカーは、脳アミロイドーシスの証拠を評価するために使用されている。研究環境では、アミロイドPETスキャンおよび/またはCSFバイオマーカーを使用して、アルツハイマー病認知症を有することが疑われる参加者において脳アミロイドーシスを確認する、または予防試験のため、前臨床アルツハイマー病(無症候性脳アミロイドーシス)を有する個体をスクリーニングする。不運なことに、アミロイドPETおよびCSFバイオマーカーのどちらも、費用、利用性および潜在リスクを含めた、深刻な欠点を有する。
【0003】
したがって、アルツハイマー病の発病までのタイムラインを予測する可能性を含めた、アミロイドーシス障害の早期検出のための、分析誤差および経済的負荷を減じると同時に、効率の向上した単一アッセイが当分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態において、本発明は、さらなる診断検査および/または治療的介入のための候補として対象を特定する方法であって、(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、その対象をさらなる診断検査および/または治療的介入の候補として特定することを含む、方法を提供する。
【0005】
別の実施形態において、本発明は、対象をAβアミロイドーシスに関する臨床試験のためにスクリーニングする方法であって、(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、その対象を診療試験の候補として特定することを含む、方法を提供する。
【0006】
別の実施形態において、本発明は、疾患、例えばAβアミロイドーシスのステージまたは重症度に関して対象を等級付けする方法であって、(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、その対象はAβアミロイドーシスを有する、またはAβアミロイドーシスを発症するリスクがあると特定することを含む、方法を提供する。
【0007】
複数の実施形態が開示されているが、本発明のさらに他の実施形態が、本発明の例示的実施形態を示して説明する、以下の詳細な説明から当業者に明白となろう。したがって、図面および詳細な説明は、例示的な性質として見なされるべきであり、限定として見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ベースライン血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40とベースラインアミロイドPETとの一致を図示する。ベースラインアミロイドPET陽性個体において、ベースライン血漿(A)中およびCSF(B)中Aβ42/Aβ40は低下した。受信者操作特性の分析により、ベースライン血漿(C)中およびCSF(D)中Aβ42/Aβ40は、ベースラインアミロイドPET状態を高度に予測することが実証される。曲線下面積(AUC)は、95%の信頼区間で記されている。列挙されているカットオフに関すると、陽性一致率(PPA)および陰性一致率(NPA)は、95%信頼区間で提示されている。ベースライン血漿(E)中およびCSF(F)中Aβ42/Aβ40は、センチロイドスケールに基づいて測定されるベースラインアミロイドPETの結合と逆相関した。ベースライン血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40は、高度に相関した(G)。スピアマンロー(r)は、(E~G)の場合、95%の信頼区間で記されている。赤点線は、最大ヨーデン指数に基づく血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40(A~G)に対するカットオフを、またはアミロイドPET陽性に対して確立されたカットオフであるアミロイドPETセンチロイド(E~F)に対するカットオフを図示している。
図2図2は、年齢、APOE ε4状態および性別とベースライン血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40との関係を図示している。ベースライン血漿中Aβ42/Aβ40は、年齢が高いほど低く、APOE ε4キャリアおよび男性では、一層低かった(A)。ベースラインCSF中Aβ42/Aβ40は、年齢が高いほど低く、APOE ε4キャリアでは、一層低かった。水平な赤点線は、血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40に関するカットオフを図示している。傾斜線は、推定されるAβ42/Aβ40を断面群の年齢の関数として表す。受信者操作特性分析により、年齢およびAPOE ε4状態がこのモデルに含まれる場合、アミロイドPET状態の予測に関して、より大きな曲線下面積(AUC)の方向に向かう傾向があることが実証された(C)。AUCは、95%の信頼区間で記されている。血漿Aβ42/Aβ40、年齢およびAPOE ε4状態の組合せを使用して、アミロイドPET陽性の可能性を予測した(D)。
図3図3は、ベースライン血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40が、アミロイドPET状態の転換を予測することを図示している。ベースラインにおいてアミロイドPET陰性であり、経過観察期間にわたり、アミロイドPET陽性に転じた個体は、アミロイドPET陰性のままであった個体よりも低いベースライン血漿中Aβ42/Aβ40を有した(A)。アミロイドPET転換者対非転換者(B)において、一層低いベースラインCSF中Aβ42/Aβ40に向かう傾向がやはりあった。赤点線は、血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40に関するカットオフを図示している。陽性血漿中Aβ42/Aβ40を有する、ベースラインにおいて、アミロイドPET陰性であった個体は、陰性血漿中Aβ42/Aβ40を有する個体と比べると、経過観察期間にアミロイドPET陽性に変換するリスクが12倍高かった(C)。陽性CSF中Aβ42/Aβ40を有する、ベーラインにおいてアミロイドPET陰性である個体は、陰性CSF中Aβ42/Aβ40を有する個体と比べると、経過観察期間にアミロイドPET陽性に変換するリスクが5倍高かった(D)。
図4図4は、血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40の縦断的変化を図示する。血漿(A)中とCSF(B)中Aβ42/Aβ40のどちらも、経時的に個体内で減少した。薄線は、個体内の値を繋げている。太線の比は、縦断的コホート全体に対する線形回帰による平均変化率であり、太い黒線によって表されている。赤点線は、図1に示されている分析に基づいた、血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40に関するカットオフを図示している。個々の個体に対する血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40の変化率は線形回帰によって求められ、この傾きをプロットした。血漿中Aβ42/Aβ40の変化率は、アミロイドPET群によって有意な変動はなかった(C)。アミロイドPET転換者は、第1の時間点と最後の時間点の両方において、アミロイドPET陽性であった個体に比べると、CSF中Aβ42/Aβ40の迅速な低下を有した(D)。赤点線は、ゼロの傾き(変化なし)を図示する。点線は、縦断的コホート全体に対する線形回帰による平均変化率である。
図5図5は、血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40とPETトレーサーによるアミロイドPET測定値との相関関係を図示している。血漿(A~C)中およびCSF(D~F)中Aβ42/Aβ40は、使用したPETトレーサーに関わりなく、アミロイドPET結合の測定値と逆相関した。赤点線は、アミロイドPET陽性に対して確立されたカットオフを図示している。スピアマンロー(r)が記されている。
図6図6は、ApoEプロテオフォームのLC/MSから抽出したイオンクロマトグラムを図示している(Baker-Nigh et. al. JBC, 2016)。ApoEアイソフォームは、5分間にわたる単一LCを実施して一緒にそれぞれ測定し、E2、3および4特異的ペプチドを捕捉して、個体のApoE遺伝子型/表現型を正確に特定し、ApoEの量を定量する。ApoEアイソフォームのタイプは、10mclという少ない量で求めることが可能である。図中で表示されているペプチドは、配列番号1~6である。
図7図7は、血漿中Aβ42/40、APOE ε4および年齢対血漿中Aβ42/40に関するROC曲線を図示している。年齢およびApoEを含ませることによって、血漿とアミロイドPET状態との一致性が改善したことが、比較により実証される。これらの測定は、単一血液試料および20分間の質量分析法での単回注入で行うことができ、CSFと同程度にまたはこれよりも良好に行うことができる(Gray et al, CSF Lumipulse tau/Aβ42 AUC= 0.94, 2018)。
図8図8は、神経変性に対する有用なマーカーとして血漿NfLに関する証拠を図示する。
図9図9は、VILIP-1血漿アッセイを図示する:Vilip-1は、正常な病理から、非常に軽度(CDR=0.5)または軽度認知症(CDR=1)を伴うアミロイドプラーク陽性までステージが向上している。
図10図10は、マルチプレックスアッセイにより測定された42/40と42/40対照とを比較するグラフを図示している。原点から強引に引いた線の傾きおよびR2の解析により、y=1.0015xおよびR2=0.8807となった。
図11図11A、BおよびCは、標準プロトコルとマルチプレックスプロトコルとの間の相関関係を例示する、グラフ(図11Aおよび11B)および表(図11C)を図示している。
図12A図12A、12B、12Cおよび12Dは、ApoE遺伝子型が、Aベータ免疫沈降の20%から100%の正確さで決定することができることを例示するグラフを図示している。図12Aは、E4特異的ペプチド(LGADMEDVR)の検出を例示している。数を特定する特定の患者はチャートから除かれているが、試料はすべて、アッセイにより正確に決定した。
図12B図12A、12B、12Cおよび12Dは、ApoE遺伝子型が、Aベータ免疫沈降の20%から100%の正確さで決定することができることを例示するグラフを図示している。図12Bは、E2およびE3特異的ペプチド(LGADMEDVCGR)の検出を例示している。数を特定する特定の患者はチャートから除かれているが、試料はすべて、アッセイにより正確に決定した。
図12C図12A、12B、12Cおよび12Dは、ApoE遺伝子型が、Aベータ免疫沈降の20%から100%の正確さで決定することができることを例示するグラフを図示している。図12Cは、E2特異的ペプチド(CLAVYQAGR;配列番号7)の検出を例示している。数を特定する特定の患者はチャートから除かれているが、試料はすべて、アッセイにより正確に決定した。
図12D図12A、12B、12Cおよび12Dは、ApoE遺伝子型が、Aベータ免疫沈降の20%から100%の正確さで決定することができることを例示するグラフを図示している。図12Dは、E2特異的ペプチド(CLAVYQAGR;配列番号7)の全シグナルに正規化したデータを例示している。数を特定する特定の患者はチャートから除かれているが、試料はすべて、アッセイにより正確に決定した。
【0009】
本発明の様々な実施形態が、図面を参照して詳細に記載されており、同様の参照番号が、いくつかの図面にわたり同様の部分を表す。様々な実施形態を述べる場合、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書において表されている図面は、本発明による様々な実施形態に限定されず、本発明の例示的例示が提示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、Aβアミロイドーシスを検出するための血液に基づく方法、およびそのためのシステムに関する。CSFにおけるAβ42/Aβ40の比は、Aβアミロイドーシスの存在下では、約50%低下するが、血液中のAβ42/Aβ40比は、アミロイド陰性対象に比べて、アミロイド陽性対象では平均で14%、低下する。重要なことに、本明細書に記載されている方法およびシステムは、高い精度で、個体のAβ種の血漿中濃度を測定する。これらの正確な測定により、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象との間の血漿中Aβ42濃度のわずかな差異を正確に定量することが可能となり、臨床的な利用性を有する。アミロイド-ベータ血液検査の感度および特異度は、ApoE状態が決まると、実質的に改善される。ApoE状態と共にAβ42/40を分析する血漿に基づく単一血液検査により、AUCは、Aβ42/Aβ40比単独に比べると、88%から95%に向上した。さらに、神経変性の1つまたは複数のマーカーを含ませることは、ADをステージ決定(例えば、症状の発症までの無症候の年数対軽度および中度の罹患)する、および臨床的な薬物検査の間の治療剤に対する応答をモニタリングする、一層有効な手助けとなる可能性を有する。したがって、本発明はまた、以下に限定されないが、さらなる診断検査の実施、臨床試験への対象の登録、および医療的処置の開始または継続を含めた、臨床的決定に情報を提供して案内する方法に関する。本発明の他の目的、利点および特徴は、添付の図面に関連させて以下の説明から明白になろう。
【0011】
本発明の実施形態は、特定の方法工程に限定されず、様々とすることができ、当業者によって理解される。本明細書において使用される用語はすべて、特定の実施形態を説明する目的に過ぎず、いかなる方法または範囲でも、制限することを意図するものでないことがさらに理解されるべきである。例えば、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、その内容が特に明確に示さない限り、複数の指示物を含むことができる。さらに、すべての単位、接頭語および記号は、そのSIの許容される形態で表すことができる。
【0012】
本明細書内に列挙されている数値範囲は、その範囲を規定する数を含み、その規定された範囲内の各整数を含む。本開示を通じて、本発明の様々な態様が、範囲形式において提示される。範囲形式での説明は、単に便宜上および簡潔とするために過ぎないこと、および本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の説明は、具体的に開示されたすべての可能な部分範囲、ならびにその範囲内の分数および個々の数値を有すると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示されている部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5および6、ならびに小数および分数、例えば1.2、3.8、1 1/2および4 3/4を有すると見なされるべきである。これは、その範囲の幅に関わらず適用される。
I.定義
【0013】
本発明が一層容易に理解され得るよう、ある種の用語が最初に定義される。特に定義されない限り、本明細書において使用される技術的および科学的用語はすべて、本発明の実施形態が関係する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似の、これに修正されたまたは等価な多数の方法および物質を、過度の実験を行うことなく、本発明の実施形態の実施に使用することができ、好ましい物質および方法が、本明細書に記載されている。本発明の実施形態の説明および特許請求するに際し、以下の用語が、以下に説明される定義に従って使用される。
【0014】
用語「約」は、本明細書において使用する場合、以下に限定されないが、質量、容量、時間、距離、波長、周波数、電圧、電流および電磁場を含めた、いかなる定量可能な変数に関しても、例えば、典型的な測定技法および装置により生じ得る数量の変動を指す。さらに、実社会で使用される固体および液体の取り扱い手順を考慮すると、ある種の不注意な誤差、および本組成物を作製するため、または本方法を実施するためなどに使用される、成分の製造、供給源もしくは純度の差異による可能性の高い変動がある。用語「約」はまた、これらの変動を包含し、この変動は、最大で±5%となり得るが、±4%、3%、2%、1%などにもなり得る。用語「約」によって修飾されていか否かに関わらず、特許請求の範囲は、その量の等価量を含む。
【0015】
用語「Aβ」は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれるより大きなタンパク質のカルボキシ末端中の領域から誘導されたペプチドを指す。APPをコードする遺伝子は、染色体21に位置する。毒性作用を有することがあるAβの多数の形態が存在する。Aβペプチドは、通常、37~43個の長のアミノ酸配列であるが、それらは、全体のサイズを変える切り取りおよび修飾を有することができる。それらは、細胞内または細胞外で、モノマー形態、オリゴマー形態および凝集形態で、可溶性および不溶性コンパートメントに見出され得、他のタンパク質または分子と複合体が形成されることがある。Aβの有害作用または毒性作用は、上記の形態のいずれかまたはすべて、および具体的に記載されていない他のものに起因し得る。例えば、2つのこのようなAβアイソフォームは、Aβ40およびAβ42を含む。Aβ42アイソフォームは、特に、線維形成性または不溶性であり、疾患状態に関連している。用語「Aβ」とは、通常、個体のAβ種の間において区別なく、複数のAβ種を指す。特定のAβ種は、ペプチド、例えば、Aβ42、Aβ40、Aβ38などのサイズによって特定される。
【0016】
本明細書において使用する場合、用語「Aβ42/Aβ40値」は、対象から取得した血液試料中のAβ42の濃度を同じ血液試料中のAβ40の濃度と比較した比を意味する。
【0017】
本明細書において使用する場合、用語「Aβ42/Aβxx値」は、対象から取得した血液試料中のAβ42の濃度を同じ血液試料中の別のAβ種の濃度と比較した比を意味する。
【0018】
「Aβアミロイドーシス」は、脳におけるAβ沈着の証拠として臨床的に定義される。Aβアミロイドーシスを有すると臨床的に判定された対象は、本明細書において、「アミロイド陽性」と称される一方、Aβアミロイドーシスを有さないと臨床的に判定された対象は、本明細書において、「アミロイド陰性」と称される。Aβアミロイドーシスは、現在の技法により検出可能になる前に存在している可能性が高い。それにもかかわらず、当分野においてAβアミロイドーシスの許容される指標が存在する。本開示時点に、Aβアミロイドーシスは、通常、アミロイドのイメージング(例えば、PiB PET、フルオベタピル(fluorbetapir)、または当分野において公知の他のイメージング法)によって、または脳脊髄液(CSF)中Aβ42の低下またはCSF中Aβ42/40の比の低下によって特定される。免疫沈降および質量分析法(IP/MS)によって、約1ng/mlの脳脊髄液(CSF)中Aβ42濃度となる、>0.18となる平均皮質結合能(mean cortical binding potential:MCBP)スコアを有する[11C]PIB-PETイメージングが、Aβアミロイドーシスの指示体となる。当分野において公知のこれらまたは他のものなどの値は、単独でまたは組み合わせて使用されて、Aβアミロイドーシスを臨床的に確認することができる。例えば、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれている、Klunk W E et al. Ann Neurol 55(3) 2004, Fagan A M et al. Ann Neurol, 2006, 59(3), Patterson et. al, Annals of Neurology, 2015, 78(3): 439-453、またはJohnson et al., J. Nuc. Med., 2013, 54(7): 1011-1013を参照されたい。Aβアミロイドーシスを有する対象は、症候性であることがあるか、または症候性ではないことがあり、症候性対象は、Aβアミロイドーシスに関連する疾患に関する臨床的な診断基準を満たすことがあり、または満たさないことがある。Aβアミロイドーシスに関連する症状の非限定例は、認知機能障害、変容行動、言語機能の異常、情緒調整不全、発作、認知症および神経系の構造または機能の障害を含むことができる。Aβアミロイドーシスに関連する疾患は、以下に限定されないが、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症および封入体筋炎を含む。Aβアミロイドーシス有する対象は、Aβアミロイドーシスに関連する疾患を発症するリスクが増大している。
【0019】
「Aβアミロイドーシスの臨床的な兆候」は、当分野において公知のAβ沈着の測定値を指す。Aβアミロイドーシスの臨床的な兆候は、以下に限定されないが、アミロイドのイメージング(例えば、PiB PET、フルオルベタピル、または当分野において公知の他のイメージング法)によって、または脳脊髄液(CSF)中Aβ42またはAβ42/40の比の低下によって特定される、Aβ沈着を含むことができる。例えば、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれている、Klunk WE et al. Ann Neurol 55(3) 2004,およびFagan AM et al. Ann Neurol 59(3) 2006を参照されたい。Aβアミロイドーシスの臨床的な兆候はまた、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第14/366,831号、同第14/523,148号および同第14/747,453号に記載されている通り、Aβの代謝の測定値、特にAβ42代謝単独でのまたは他のAβ変異体(例えば、Aβ37、Aβ38、Aβ39、Aβ40および/または全Aβ)の代謝の測定値との比較での測定値を含むことができる。追加方法は、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれている、Albert et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 170-179; McKhann et al., Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 263-269;およびSperling et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 280-292に記載されている。重要なことに、Aβアミロイドーシスの臨床的な兆候を有する対象は、Aβ沈着に関連する症状を有することがあるか、または有さないことがある。しかし、Aβアミロイドーシスの臨床的な兆候を有する対象は、Aβアミロイドーシスに関連する疾患を発症するリスクが増大している。
【0020】
「アミロイドイメージングの候補」とは、アミロイドイメージングが臨床的に妥当となり得る個体におけるように、臨床医によって特定される対象を指す。非限定例として、アミロイドイメージングの候補は、Aβアミロイドーシスの1つもしくは複数の臨床的な兆候、Aβプラークに関連する1つもしくは複数の症状、または(on)1つもしくは複数のCAA関連症状、あるいはそれらの組合せを有する対象とすることができる。臨床医は、このような対象の臨床的ケアを指示するために、対象のアミロイドイメージングを奨励することがある。別の非限定例として、アミロイドイメージングの候補は、Aβアミロイドーシスに関連する疾患のための臨床試験における潜在的参加者であってもよい(対照対象または試験対象のどちらか一方)。
【0021】
「Aβプラークに関連する症状」または「CAA関連症状」とは、それぞれ、アミロイド線維と呼ばれる規則的に並んだ線維凝集体で構成されている、アミロイドプラークまたはCAAの形成によって引き起こされる、またはそれらの形成に関連する症状のいずれかを指す。例示的なAβプラークに関連する症状は、以下に限定されないが、ニューロン変性、認知機能障害、記憶障害、変容行動、情緒調整不全、発作、神経系の構造または機能の障害およびアルツハイマー病もしくはCAAの発症または悪化のリスクの増大を含むことができる。ニューロン変性は、ニューロン構造の変化(毒性タンパク質の細胞内蓄積、タンパク質凝集物などの分子変化、および軸索もしくは樹状突起の形状または長さの変化、ミエリン鞘組成の変化、ミエリン鞘の喪失などのマクロレベルの変化を含む)、ニューロン機能の変化、ニューロン機能の喪失、ニューロン死またはそれらの任意の組合せを含むことができる。認知機能障害は、以下に限定されないが、記憶、注意、集中力、言語、抽象的な思考、創造性、実行機能、計画および組織化の困難を含むことができる。変容行動は、以下に限定されないが、暴力または暴言、衝動性、抑制の低下、無関心、始動の低下、人格変化、アルコール、タバコまたは薬物の乱用、および他の中毒関連行動を含むことができる。情緒調整不全は、以下に限定されないが、うつ病、不安、愛着、過敏性および情動失禁を含むことができる。発作は、以下に限定されないが、全身性強直性間代性発作、複雑な部分発作、および非てんかん性発作、心因性発作を含むことができる。神経系の構造または機能の障害は、以下に限定されないが、水頭症、パーキンソン症候群、睡眠障害、精神病、バランスと協調の障害を含むことができる。これは、単麻痺、片側不全麻痺、四肢不全麻痺、運動失調症、バリスムスおよび震えなどの運動障害を含むことができる。これはまた、嗅覚、触覚、味覚、視覚および聴覚を含めた感覚喪失または機能障害を含むことができる。さらに、これは、腸と膀胱の機能障害、性機能障害、血圧および温度調節不全などの、自律神経系障害を含むことができる。最後に、これは、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、プロラクチン、および多数の他のホルモンおよびモジュレーターの欠乏ならびに調節不全などの、視床下部および脳下垂体の機能障害の一因となるホルモン障害を含むことができる。
【0022】
本明細書において使用する場合、用語「Aβアミロイドーシスを検出する確率」とは、検出が行われる可能性の程度を指し、診断検査の正確さの指標である。
【0023】
「ApoE」(NP_000032.1、UniProtKB識別子P02649)は、染色体19にマッピングされたAPOE遺伝子から発現したアポリポタンパク質である(例えば、ジーンバンクアクセッション番号NM_000041またはNCBI基準配列:NC_000019.10として特定されるヌクレオチド配列)。ApoEは、3種の主要な多形:ApoE2(Cys112、Cys158)、ApoE3(Cys112、Arg158)およびApoE4(Arg112、Arg158)を有する。ApoE2、ApoE3およびApoE4アイソフォームは、APOE遺伝子のε2、ε3およびε4アレルによりコードされる。特に明示的に明記されていない限り、「ApoE」とは、「ヒトApoE」を指し、機能的断片を含む。「組換えApoE」とは、核酸の発現およびそのタンパク質への翻訳を支持する系(例えば、原核細胞、真核細胞または細胞不含発現系)に導入される核酸によってコードされるApoEを指す。組換えタンパク質を生成するための方法は、当分野で周知であり、本明細書において開示されている組換えApoEの生成は、特定の系に限定されない。
【0024】
本明細書において使用する場合、用語「ApoE ε4状態」とは、アポリポタンパク質E遺伝子上のイプシロン4アレルが存在することを指す。ApoE ε4状態は、核酸レベル(例えば、アポリポタンパク質E遺伝子の配列決定など)で、またはタンパク質レベル(例えば、ApoEタンパク質の配列決定、抗体をベースとする方法、質量分析法に基づく方法など)で決定され得る。
【0025】
本明細書において使用する場合、「神経変性のマーカー」とは、アルツハイマー病(AD)、血管疾患認知症、前頭側頭型認知症(FTD)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上麻痺(PSP)、レビー小体型認知症、神経原線維変化優位型老年期認知症、ピック病(PiD)、嗜銀顆粒病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、他の運動ニューロン疾患、グアムパーキンソニズム認知症複合、FTDP-17、リティコーボディグ病、多発性硬化症、外傷性脳損傷(TBI)およびパーキンソン病などの神経変性疾患または障害のバイオマーカーを指す。神経変性の標識およびそれを検出する方法は、当分野において公知である。神経変性のマーカーの非限定例には、タウ、リン酸化タウ、TDP-43、α-シヌクレイン、SOD-1、FBP1、FUS、FKBP51、IRS-1、リン酸化IRS-1、カテプシンD(CTSD)、1型リソソーム関連膜タンパク質(LAMP1)、ユビキチン化タンパク質(UBP)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ニューロフィラメント軽鎖(NFL)、CD9、CD63、CD81、CD171、ビシニン様タンパク質1、BACE1、アミロイドベータ前駆体タンパク質、GHR、PD-1、APEX1、ハンチンチン、PRKNおよびPSEN1が含まれる。
【0026】
「ニューロフィラメント軽鎖」(NM_006158.4→NP_006149.2、UniProtKB識別子P07196)は、ニューロンの内径を維持するための軸骨格および機能を含む。ニューロフィラメントは、軽鎖、中鎖および重鎖からなるIV型中間フィラメントヘテロポリマーである。ニューロフィラメントは、軸索および樹状突起への細胞内輸送においてある役割を果たすこともできる。ニューロフィラメント軽鎖(Nfl)遺伝子における変異は、別の神経障害を特徴とする末梢神経系の障害である、シャルコー-マリー-トゥース病1F型(CMT1F)および2E型(CMT2E)を引き起こす。偽遺伝子は、染色体Y上で特定されている。Nflレベルは、核酸レベル(例えば、RT-PCR配列決定法など)で、またはタンパク質レベル(例えば、抗体に基づく方法、質量分析法に基づく方法など)で決定することができる。
【0027】
「ビシニン様タンパク質1」(NP_003376、UniProtKB識別子P62760)は、ヒトにおいて、VSNL1遺伝子によってコードされるタンパク質である。この遺伝子は、ニューロンのカルシウムセンサータンパク質のビシニン/リカバリンのサブファミリーのメンバーである。コードされたタンパク質は、小脳の顆粒細胞において強力に発現され、このタンパク質は、小脳において、カルシウム依存的に膜と結合し、アデニリルシクラーゼの活性を直接または間接的に調節することによって、中枢神経系の細胞内シグナル伝達経路をモジュレートする。代替として、スプライスされた転写変異体が観察されているが、その完全長という性質は決定されていない。
【0028】
本明細書において使用する場合、用語「ROC」は、「受信者操作特性」を意味する。ROC分析は、試験もしくは分析法の診断性能または予測能を評価するために使用され得る。ROCのグラフは、様々な閾値またはカットオフ値における、試験の感度および特異度のプロットである。ROC曲線上の各点は、感度、およびそのそれぞれの特異度を表す。閾値は、ROC曲線に基づいて、感度と特異度の両方が許容される値を有しており、この値が、診断目的のための試験を適用する際に使用することができる点を特定するよう選択することができる。特異度しか最適化されない場合、この試験は、疾患の一部の症例が特定されない可能性(例えば、擬陰性)の増大を犠牲にして、偽陽性(疾患を有さないさらなる対象における疾患の診断)が生じる可能性が低くなる。感度しか最適化されない場合、この試験は、疾患を有する対象の大部分または全員を特定する可能性が一層高いが、疾患を有していないさらなる対象において、やはり疾患があると判断する(例えば、偽陽性)。ユーザーは、パラメータを修正し、したがって、当業者によって容易に理解される方法で、所与の臨床状況に好適なROC閾値を選択することができる。
【0029】
ROC曲線の別の有用な特徴は、この場合、Aβアミロイドーシスを有する対象(すなわち、アミロイド陽性)とAβアミロイドーシスを有さない対象(すなわち、アミロイド陰性)との間を区別するための、様々な試料特性の間で区別する試験の総合的な能力を定量する、曲線下面積(AUC)の値である。真の陽性を特定する際に、無作為機会ほど良好ではない試験は、AUCが0.5を有するROC曲線を生じる。完全な特異度および感度を有する試験(すなわち、偽陽性も偽陰性も生じない)は、1.00となるAUCを有する。実際には、大部分の試験は、これらの2つの値の間のいずれかのAUCを有する。
【0030】
本明細書において使用する場合、用語「感度」とは、試験などによって分類される真の陽性観察の割合を指し、アミロイド陽性として正しく特定される対象の割合を示す。言い換えると、感度は、(真の陽性結果)/[(真の陽性結果)+(偽の陰性結果)]に等しい。
【0031】
本明細書において使用する場合、用語「特異度」とは、試験などによって分類される真の陰性観察の割合を指し、アミロイド陰性として正しく特定される対象の割合を示す。言い換えると、ある状態を有していないと正しく特定される、健常なヒトの割合である。特異度は、(真の陰性結果)/[(真の陰性結果)+(偽の陽性結果)に等しい。
【0032】
一実施形態において、最高の感度の範囲は、0.8~1である。別の実施形態において、最高の特異度の範囲は、0.8~1である。一実施形態において、最高の感度の範囲は、0.8~1であり、最高の特異度の範囲は、0.8~1である。
【0033】
本明細書において使用する場合、用語「対象」は、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。哺乳動物には、以下に限定されないが、ヒト、霊長類、家禽、げっ歯類およびペットが含まれる。対象は、医療看護もしくは処置に待機をしていることがある、医療看護もしくは処置の下にあることがある、または医療看護もしくは処置を受けていることがある。
【0034】
本明細書において使用する場合、用語「健常な対照群」、「正常な群」または「健常な」対象に由来する試料は、定性的または定量的検査結果に基づいて、AβアミロイドーシスまたはAβアミロイドーシスに関連する臨床的疾患(以下に限定されないが、アルツハイマー病を含む)に罹患していないと医師によって診断された対象または対象の群を意味する。「正常な」対象は、通常、以下に限定されないが、同じ年齢の対象、および5~10歳の範囲内の対象を含めた、評価される個体とほぼ同じ年齢である。
【0035】
本明細書において使用する場合、用語「血液試料」とは、血液、好ましくは末梢(または循環)血液に由来する生体試料を指す。血液試料は、全血、血漿または血清とすることができるが、血漿が、通常、好ましい。
【0036】
用語「処置する」、「処置すること」または「処置」とは、本明細書において使用する場合、それを必要とする対象に訓練を受けて資格を有する専門家による医療看護が提供されることを指す。医療看護は、診断検査、治療的処置、および/または予防的もしくは阻止的手段であってもよい。治療的処置および予防処置の目的は、望ましくない生理的変化または疾患/障害を予防すること、または減速させる(低下させる)ことである。治療的もしくは予防処置の有益なまたは所望の臨床結果は、以下に限定されないが、検出可能であるかまたは検出不可能であるかに関わらず、症状の緩和、疾患の程度の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患進行の遅延または緩徐、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的または完全)を含む。「処置」はまた、処置を受けない場合、予想される生存と比べて、生存が延びることを意味する。処置を必要とするヒトは、既に疾患、状態もしくは障害を有するヒト、および疾患、状態もしくは障害を有する傾向があるヒト、または疾患、状態もしくは障害が予防されるヒトを含む。
II.検出方法
【0037】
本発明の一態様は、Aβアミロイドーシス、神経変性を検出するため、および/またはタウを段階分けするための血液に基づく方法である。一般的に述べると、本方法は、対象から取得した血液試料において、Aβ42および適宜、1種の他のAβペプチドを検出し、それらの濃度を定量すること、ならびにAβ42濃度(またはAβ42/Aβxx値)を所定の閾値と比較することを含む。本方法はまた、同じ血液試料中のApoEおよび適宜、神経変性のマーカーを検出すること、ならびにApoE ε4状態および神経変性のマーカーの濃度を決定することを一般に含む。重要なことに、本明細書に記載されている方法は、高い精度で、個体のAβ種の血漿中濃度およびApoE状態を測定する。これらの正確な測定により、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象との間の血漿中Aβ42濃度のわずかな差異を正確に定量することが可能となる。Aβ42/Aβ40、ApoE表現型および適宜、神経変性のマーカーを単一アッセイに多重化すると、アッセイ時間を短縮すると同時に、Aβアミロイドーシスの検出に非常に感度が高く、かつ特異的な一致をもたらす。その結果、本方法を使用して、Aβアミロイドーシスを約80%以上、約85%以上、約90%以上、好ましくは少なくとも約95%で検出する確率を有するシステムを生成することができる。代替的にまたはさらに、本システムを使用して、Aβアミロイドーシスを発症する可能性が最も高い対象を特定することを含めた、疾患、例えばAβアミロイドーシスのステージに関して対象を等級付けすることができる。神経変性のマーカーのこのアッセイへの取込みは、ADをステージ決定する(例えば、症状の発症までの無症候の年数対軽度および中度の罹患)、および臨床的な薬物検査の間の治療剤に対する応答をモニタリングする手助けにするためのアッセイの特異度および感度を向上させる可能性を有する。
【0038】
本方法は、対象の特定の群に限定されない。例えば、本方法は、一般的な医師または医療専門家によって行われる常套的なスクリーニング作業に組み込まれ得る。様々な他の実施形態において、対象は、臨床試験への参加者、Aβアミロイドーシス(例えば、既知の遺伝的リスク、環境リスクまたは生活様式リスクによる)を発症するリスクがある対象、Aβアミロイドーシスの少なくとも1つの症状を有する対象、CAA関連症状を有する対象、またはAβアミロイドーシスもしくはAβアミロイドーシスに関連する臨床的な疾患のための処置を開始または継続している対象とすることができる。
【0039】
Aβ42および少なくとも1種の他のAβペプチド(Aβxx)の濃度を測定する実施形態において、他のAβペプチドは、Aβ40、Aβ38または任意の他のAβペプチドとすることができる。好ましい実施形態において、他のAβペプチドは、Aβ40またはAβ38である。
【0040】
(a)血液試料
対象から取得した血液試料が必要である。血液試料は、検出可能な標識を含むよう修飾されていない(「非標識Aβ」)Aβを含有してもよく、または試料は、インビボで標識されたAβを含有してもよい。用語「インビボで標識されたAβ」とは、対象に標識を投与した後に、インビボで標識されているAβを指す。好適な標識は当分野において公知であり、以下に限定されないが、放射活性同位体または非放射活性同位体により標識されているアミノ酸またはアミノ酸前駆体を含む。例えば、それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれている、US20090142766およびUS20130115716を参照されたい。インビボでの標識方法は、検出方法の感度を高めることができるが、本発明の利点は、インビボで標識されているAβを必要としないことである。好ましい実施形態において、血液試料は非標識Aβを含む。別の好ましい実施形態において、血液試料は、インビボで標識されているAβを含有しない。
【0041】
血液試料は、通常、Aβ、ApoEおよび適宜、神経変性のマーカーの測定を可能にするほど十分に多くあるべきである。典型的な血液試料は、約0.5ml~約10mlとすることができる。2つ以上の試料を、特定の時間点の間、プールしてもよい。血液試料は。本方法の一部として直接、採取されてもよい。代替的に、以前に取得した血液試料が使用されてもよい。血液試料を採取する方法は当分野で周知である。例えば、カテーテルを用いる、または用いない静脈穿刺を使用して血液試料を採取することができる。別の例において、指腹での採血またはその等価なことを使用して、血液試料を採取してもよい。添加物は、血漿分離の前に、採取した血液試料に添加してもよく、または添加しなくてもよい。好適な添加物は、クエン酸塩、ヘパリン、EDTA、Tweenおよびプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0042】
(b)神経変性のAβ、ApoEペプチドおよびマーカーの検出および定量
血液試料中のAβ、ApoEおよび適宜、神経変性のマーカー(例えば、ニューロフィラメント軽鎖、タウおよびビシニン様タンパク質1)を検出および定量する方法は、様々となることができ、様々になるであろうが、血液中のAβ、神経変性のマーカーの濃度およびAPOE ε4状態を正確に特定するのに十分に感度が高く正確であるはずである。アッセイ精度の非限定的な測定は、変動係数(CV)である。一部の実施形態において、CVは、5%未満とすることができる。一部の実施形態において、CVは、約2~3%とすることができる。好適な方法は当分野において公知であり、以下に限定されないが、捕捉特異的アッセイ、特に、抗体に基づくアッセイ(例えば、ELISA、xMAP(登録商標)技術、単分子アレイ(SIMOA(商標))技術など)、および高分解能質量分析法を含む。一般に言えば、Aβを検出する方法を使用して、Aβの濃度を定量することもでき、ApoEを検出する方法を使用して、ApoE ε4状態を決定することができる。一部の実施形態において、定量は、Aβ42/Aβxx値の決定を包含する。
【0043】
通常、血漿試料の形態にある血液試料が直接、使用されてもよい。しかし、一般に、試料分析の前に試料の追加的な処理を行う。好ましい実施形態において、1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を試料に添加する。プロテアーゼ阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤カクテルの多数の市販源がある。様々な実施形態において、血液試料は、一定分量が採取されてもよく、この試料を処理して、Aβ、神経変性のマーカーおよびApoEを並行して検出することが可能である。このような実施形態において、試料は、次に、分析前に、一緒にプールされてもよい。
【0044】
様々な他の実施形態において、追加的な技法を使用して、他の血液構成成分から(部分的にまたは完全に)Aβ、神経変性のマーカーおよびApoEを分離することができるか、または試料中のAβ、神経変性のマーカーおよびApoEを濃縮することができる。一例として、免疫沈降を使用して、部分的にまたは完全にAβを精製した後に、分析する。免疫沈降抗体は、ビーズまたは樹脂などの固体支持体に結合されていてもよい。Aβのミッド-ドメインに結合する抗体の使用を使用して、複数のAβペプチドを免疫沈降させることができる一方、AβのN末端またはC末端に結合する抗体の選択を使用して、Aβペプチドのサブセットを免疫沈降させることができる。免疫沈降のプロトコルは、当分野において公知である。神経変性のマーカーおよびApoEに関すると、例えば、免疫富化技法または非免疫富化技法を使用して、他の血液構成成分を分離して濃縮することができる。一実施形態において、ApoEアイソフォーム特異的タンパク質を検出および定量する抗体非依存的方法を使用する。例えば、血清または血漿から脂質およびリポタンパク質を除去するために、通常、使用される吸収剤であるPHM-Liposorb(商標)(Calbiochem、San Diego、CA)を使用して、生体液からApoEを捕捉することができる。
【0045】
Aβ、神経変性のマーカーおよびApoEを分離または濃縮する他の方法を単独で、または組み合わせて使用することができる。例えば、クロマトグラフィー技法を使用して、サイズ、疎水性または親和性によって、Aβ、神経変性のマーカーまたはApoE(またはその断片)を分離することができる。Aβ、神経変性のマーカーおよび/またはApoEはまた、検出前に、より小さなペプチドへと開裂されてもよい。例えば、Aβ、神経変性のマーカーおよび/またはApoEは、プロテアーゼによって酵素的に開裂されて、いくつかの小さなペプチドを生成することができる。好適なプロテアーゼには、以下に限定されないが、トリプシン、Lys-N、Lys-CおよびArg-Nが含まれる。好ましい実施形態において、Aβは、Lys-Nにより酵素的に開裂され得る。好ましい実施形態において、ApoEは、トリプシンにより酵素的に開裂され得る。
【0046】
一実施形態において、捕捉特異的アッセイが使用される。試料を分析する前に、1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を試料に添加する。ここで、1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を含有する試料を次に分析して、Aβ42の濃度を決定する。ある種の実施形態において、少なくとも1種の他のAβペプチド、例えば、Aβ40および/またはAβ38の濃度もまた決定される。好ましい実施形態において、アッセイの捕捉特異的試薬は、実質的にAβを含まない抗体である。
【0047】
別の実施形態において、高分解能タンデム質量分析法が使用される。試料を分析する前に、1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を試料に加え、この試料の一定分量を採取し、そうして、Aβ、神経変性のマーカーおよびApoEを並行して検出することができる。次に、抗Aβ抗体、好ましくは、すべての標的Aβペプチドに特異的に結合する抗Aβ抗体を使用して、Aβが免疫沈降される。並行して免疫富化を用いて、またはこれを使用しないで、ApoEおよび適宜、神経変性のマーカーを濃縮する。1回または複数の洗浄工程の後に、濃縮したペプチドをタンパク質分解により消化させて、分析のため、試料をプールする。好適なプロテアーゼには、以下に限定されないが、トリプシン、Lys-N、Lys-CおよびArg-Nが含まれる。消化は、溶出後、またはペプチドが結合している間に行われてもよい。1回または複数の洗浄工程の後に、消化後のペプチドを高分解能タンデム型MSユニット(LC-MS/MS)に接続した液体クロマトグラフィーシステムによって分析する。
【0048】
LC-MS/MS分析前に、試料の追加的な処理もまた行われてもよい。例えば、試料は、トリクロロ酢酸(TCA)による消化またはトリフルオロ酢酸(TFA)による沈殿後にさらに処理されてもよい。血漿タンパク質対Aβ濃度の比が高いために、ならびにLC-MS/MSによってAβが検出されるより長い保持時間では、ポリマーおよびほぼ等圧の混入物(例えば、PEGまたは他の緩衝構成成分)があるために、Aβの正確な測定は、血漿の処理時に問題となり得る。その結果、PEGおよび他の汚染物質は、質量分析計中で、Aβペプチドのイオン抑制を引き起こす。有益なことに、TCAまたはTFA沈殿は、このような混入を低減することができる。代替的にまたはさらに、試料は、過酸、非限定例では、過ギ酸(PFA)、過酢酸(PAA)、トリフルオロ過酢酸(PTFA)およびこのような他の過酸を用いる消化(および、任意選択のTCA/TFA沈殿)後にさらに処理されてもよい。これにより、Aβをそれほど疎水性にさせないAβの誘導体化をもたらし、次いで、Aβを多数の疎水性汚染物質の保持時間から遠ざける。
【0049】
例示的な実施形態において、本実施例において概略されている質量分析法のプロトコルが使用される。
【0050】
(c)所定の閾値との比較
対象から取得した血液試料中のAβ42濃度(またはAβ42/Aβxx値)が、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象とを区別する所定の閾値より小さい場合、および所定の閾値が、約80%以上、約85%以上、約90%以上、好ましくは少なくとも約95%のAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムによって得られる場合、Aβアミロイドーシスの検出が行われる。
【0051】
本明細書において使用する場合、用語「システム」とは、以下に限定されないが、試薬、Aβ、神経変性のマーカーおよびApoEを検出および定量するために使用されるアッセイ、ならびに分析に使用される統計学的方法を含めた、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象とを区別する閾値を決定するために使用される一連の手順を指す。さらに、システムは、80%以上のAβアミロイドーシスの検出確率を有するレベルで行うよう検証されているか、またはこのシステムは、検証が行われなかった場合でさえも、前記レベルで現在行われるかのどちらかである。
【0052】
一実施形態において、Aβ、ApoEおよび適宜、神経変性のマーカーを検出および定量する方法は、項目II(b)に開示されているものから選択され、Aβアミロイドーシスを検出する所定の閾値および確率は、受信者操作特性(ROC)曲線、または当分野において公知の実質的に類似の他の方法を使用することによって計算される。例えば、ROC曲線は、対象と同じ種のアミロイド陽性個体またはアミロイド陰性個体から取得した血液試料を使用して、共変量であるAβ42濃度(またはAβ42/Aβxx値)、ApoE ε4状態、神経変性のマーカーの濃度およびアミロイド状態(すなわちアミロイド陽性またはアミロイド陰性)を使用して生成することができる。プロットがこうして生成され、このプロットを使用して、アミロイド状態を予測するための、様々なAβ42濃度(またはAβ42/Aβxx値)、神経変性のマーカーの濃度およびApoE状態の感度および特異度を決定することができる。ある種の実施形態において、年齢は、別の共変量として使用されてもよい。ROC曲線下面積を使用して、診断の正確さを評価することができる。例えば、0.80となるROC AUCとは、Aβアミロイドーシスを有する無作為に選択された個体が、Aβアミロイドーシスを有さない無作為に選択された個体に比べて、低い血漿中Aβ42/Aβ40値を有する確率が80%であることを示す。アミロイド陽性対象を区別するための閾値として働くよう、感度および特異度を最大化する最適カットオフ値を決定するための様々な方法が、当分野において公知である。一実施形態において、所定の閾値は、ROC曲線上の最高の感度における、最高の特異度のデータ点によって決定される。別の実施形態において、所定の閾値は、アミロイドベータ、ApoEアイソフォームおよび適宜、神経変性の1つまたは複数のマーカーの数学的組合せによる複合スコア(例えば、ロジスティック回帰)によって決定される。
III.血液に基づくAβアミロイドーシスのバイオマーカー
【0053】
本発明の別の態様は、血液に基づくAβアミロイドーシスのバイオマーカーであり、この場合、血液に基づくバイオマーカーは、約80%以上、より好ましくは85%のAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムによって決定すると、0.130未満のAβ42/Aβ40値となる。別の言い方を述べると、アミロイド陽性対象を特定するために使用することができるAβ42/Aβ40値は、0.130未満のAβ42/Aβ40値である。
【0054】
一部の実施形態において、血液に基づくAβアミロイドーシスのバイオマーカーは、約0.128未満、好ましくは約0.125未満のAβ42/Aβ40値である。代替的に、アミロイド陽性対象を特定するために使用することができるAβ42/Aβ40値は、約0.124未満、約0.123未満、約0.120未満、または約0.117未満とすることができる。別の例において、アミロイド陽性対象を特定するために使用することができるAβ42/Aβ40値は、約0.115未満とすることができる。例示的な実施形態において、対象がアミロイド陽性であることを示すAβ42/Aβ40値は、約0.113以下のAβ42/Aβ40値である。別の例示的な実施形態において、対象がアミロイド陽性であることを示すAβ42/Aβ40値は、約0.109~約0.113のAβ42/Aβ40値である。上記の実施形態の各々において、上記の血液に基づくAβアミロイドーシスのバイオマーカーは、追加のバイオマーカーと組み合わされてもよく、診断の正確さをさらに改善することができる。APOE ε4状態、および適宜、年齢が、Aβアミロイドーシスを検出するためのシステムにおいて、血漿中のAβ42/Aβ40値と共に含まれる場合、ROC AUCは、0.95(0.91~0.98)まで向上した。
【0055】
本発明の別の態様は、血液に基づくAβアミロイドーシスのバイオマーカーであり、血液に基づくバイオマーカーは、Aβ42/Aβxx値であり、Aβxxは、Aβ42以外のAβペプチドである。当業者は、本明細書における開示に基づいた他のAβペプチドの値を決定することができるであろう。
【0056】
Aβ、ApoEおよび神経変性マーカーのペプチドを検出および定量する方法は公知であり、項目IIにやはり記載されている。
IV.さらなる診断検査および/または治療的介入のための候補として対象を特定する方法
【0057】
本発明の別の態様は、さらなる診断検査および/または治療的介入のための候補として対象を特定または分類する方法である。本方法は、対象から取得した血液試料中のAβ42、1種の他のAβペプチド、ApoE、および適宜、神経変性のマーカーの濃度を検出して定量すること、および該対象の検査が、項目IIIの血液に基づくバイオマーカーに対して陽性となるか、または項目IIに記載されている所定の閾値未満の血液中のAβ42濃度(または、Aβ42濃度と別のAβペプチドの濃度との比)を有する場合、さらなる診断検査および/または治療的介入の候補として対象を特定または分類することを含む。
【0058】
本方法は、対象の特定の群に限定されない。例えば、本方法は、一般的な医師または医療専門家によって行われる常套的なスクリーニング作業に組み込まれ得る。様々な他の実施形態において、対象は、臨床試験への参加者または潜在的参加者、Aβアミロイドーシス(例えば、既知の遺伝的リスク、環境リスクまたは生活様式リスクによる)を発症するリスクがある対象、Aβアミロイドーシスの少なくとも1つの症状を有する対象、少なくとも1つのCAA関連症状を有する対象とすることができる。一部の実施形態において、対象は、アミロイドイメージングの候補である。
【0059】
Aβアミロイドーシス、またはAβアミロイドーシスに関連する疾患に対する最先端の検査は、費用および利用性によって制限される一方、本明細書において開示されている方法は、侵襲性が最小限であり、かつ多様性があるので、さらなる診断検査を必要とする対象を特定するために、本明細書において開示されている方法を使用することが有利となり得る。一部の実施形態において、さらなる診断検査は、脳脊髄液(CSF)において見出される1種または複数の生体分子の濃度を測定するためのCSF検査である。非限定例には、1種または複数のAβペプチド、特にAβ42、タウ、ホスホ-タウ、ニューロフィラメント軽鎖、ビシニン様タンパク質1およびApoEが含まれる。他の実施形態において、さらなる診断検査は、構造イメージング検査、機能的イメージング検査または分子イメージング検査などの、神経イメージング検査である。構造イメージング検査は、通常、磁気共鳴イメージング法(MRI)および/またはコンピュータ断層撮影(CT)によって行われて、形状、位置または脳組織の容量に関する情報を提供する。機能的イメージング検査は、通常、ポジトロン放出検査(PET)および機能的MRI(fMRI)によって行われ、脳の1つまたは複数の領域における細胞活性を測定する。機能的イメージング検査の非限定例は、フルオロデオキシグルコース(FDG)-PETである。分子イメージング検査は、高度に標的化された放射性トレーサーを使用して、細胞変化または化学変化を検出し、PET、fMRIおよび単一光子放射断層撮影法(SPECT)を含む技術によって行われる。分子のイメージング検査の非限定例には、ピッツバーグ化合物B(PIB)-PET、フロルベタベン-PET、フロルベタピル-PETおよびフルテメタモル-PETが含まれる。
【0060】
本明細書において開示されている方法はまた、治療的介入を必要とする対象を特定するために使用されてもよい。一部の実施形態において、治療的介入は、アミロイド沈着を減速させる、これを阻害するまたは反転させることができる。このような介入が臨床試験の段階から進められるまで、本明細書において開示されている方法を使用して、臨床試験に登録する対象を特定する、および/または臨床試験の間の対象の状態を評価することができる。対象が、Aβアミロイドーシスの1つまたは複数の症状を有する実施形態において、治療的介入は、症状を減速させる、もしくはこの悪化を阻害することができる、かつ/または新しい症状の発病を減速させる、阻害するもしくは予防することができる。
V.Aβアミロイドーシスを有する対象を処置する方法
【0061】
本発明の別の態様は、項目IIIの血液に基づくバイオマーカーに対する対象の陽性検査結果または対象の血液中のAβ42濃度(または、Aβ42濃度と別のAβペプチドの濃度との比)、および項目IIに記載されているApoE状態に基づいた、非薬理学的処置、薬理学的処置またはイメージング剤により対象を処置する方法である。
【0062】
一実施形態において、本方法は、対象から取得した血液試料中のAβ42濃度、ApoE状態および適宜、神経変性のマーカーを測定することであって、Aβ42濃度が、所定の閾値未満である場合、対象はAβアミロイドーシスと診断され、Aβ42濃度が、対象のApoE状態と比較されて、アミロイド陽性対象をアミロイド陰性対象およびAβアミロイドーシスを発症する可能性が高い対象から区別する、測定することを含む。所定の閾値は、80%以上、好ましくは少なくとも約85%のAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムによって得られ、診断された対象に処置を施す。所定の閾値は、状況的環境により必要とされる通りに設定され得る。例えば、ある種の臨床状況において、偽陽性率を最小化することが望ましいことがある。これらの臨床状況は、以下に限定されないが、実験的処置の使用(例えば、臨床試験における)、または重症な有害事象および/もしくは平均数より多い副作用に関連する処置の使用を含むことができる。代替的に、他の臨床状況における、偽陰性率を最小化することが望ましいことがある。非限定例は、非薬理学的介入、良好なリスク-利益プロファイルを有する処置の使用による処置、または機能的イメージング剤、分子イメージング剤(例えば、放射性イメージング剤など)による処置とその後のPET、fMRI、SPECTによる検出などを含むことができる。ある種の実施形態において、本方法は、血液試料中の別のAβ変異体(Aβxx)の濃度を測定することであって、血液中Aβ42/Aβxx値が、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象とを区別する所定の閾値未満となると、対象がAβアミロイドーシスと診断される、測定することをさらに含む。好ましい実施形態において、Aβxxは、Aβ42、Aβ40またはAβ38である。
【0063】
別の実施形態において、本方法は、アミロイド陽性対象をアミロイド陰性対象およびAβアミロイドーシスを発症する可能性が高い対象から区別する、対象のApoE状態および適宜、神経変性のマーカー濃度に鑑みて、所定の閾値未満のAβ42血液中濃度を対象が有するかどうかを判定する分析の結果をもたらす検査を要求することであって、血液中Aβ42濃度が、80%以上、好ましくは少なくとも約85%のAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムにより得られる、検査を要求すること、対象の血液中Aβ42濃度が所定の閾値未満であることを検査結果が示した場合、対象をAβアミロイドーシスと診断すること、および診断した対象に処置を施すことを含む。検査において要求することとは、本明細書において使用する場合、医師が、第3者から、社内の検査施設から、または検査を行うことが可能な科学検査室から、検査を要求または注文することを指すことができる。所定の閾値は、状況的環境により必要とされる通りに設定され得る。例えば、ある種の臨床状況において、偽陽性率を最小化することが望ましいことがある。これらの臨床状況は、以下に限定されないが、実験的処置の使用(例えば、臨床試験における)、または重症な有害事象および/もしくは平均数より多い副作用に関連する処置の使用を含むことができる。代替的に、他の臨床状況における、偽陰性率を最小化することが望ましいことがある。非限定例は、非薬理学的介入による処置、良好なリスク-利益プロファイルを有する処置の使用、または機能的イメージング剤、分子イメージング剤(例えば、放射性イメージング剤など)による処置とその後のPET、fMRI、SPECTによる検出などを含むことができる。代替的に、感度と特異度の両方を最大化することが望ましいことがある。ある種の実施形態において、本方法は、対象のApoE状態を鑑みて、アミロイド陽性対象とアミロイド陰性対象とを区別する、所定の閾値未満の血液中Aβ42/Aβxx値を患者が有するかどうかを判定する分析の結果をもたらす検査を要求すること、および対象の血液中Aβ42/Aβxx値が所定の閾値未満であることを検査結果が示した場合、対象をAβアミロイドーシスと診断することをさらに含む。好ましい実施形態において、Aβxxは、Aβ42、Aβ40またはAβ38である。
【0064】
別の実施形態において、本方法は、対象から取得した血液試料において、Aβ42濃度およびAβ40濃度を測定することであって、80%以上、または約85%以上であってもよいAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムによって決定すると、計算されたAβ42/Aβ40値が0.126未満である場合に、対象がAβアミロイドーシスと診断される、測定すること、および診断された対象に処置を施すことを含む。さらなる実施形態において、Aβ42/Aβ40値は、約0.124未満、約0.123未満または約0.120未満とすることができる。さらなる実施形態において、Aβ42/Aβ40値は、約0.117未満または約0.115未満とすることができる。さらなる実施形態において、Aβ42/Aβ40値は、約0.113以下とすることができる。代替的に、Aβ42/Aβ40値は、約0.109~約0.113とすることができる。この処置は、非薬理学的処置、薬理学的処置、またはイメージング剤による処置とその後のイメージング剤の検出(例えば、PET、fMRI、SPECTなどを用いる)とすることができる。
【0065】
別の実施形態において、本方法は、80%以上、または約85%以上であってもよいAβアミロイドーシスの検出確率を実現するシステムによって決定すると、対象が0.126未満の血中Aβ42/Aβ40値を有するかどうかを判定する分析の結果をもたらす検査を要求すること、対象の血液中Aβ42/Aβ40値が0.126未満であることを検査結果が示した場合、対象をAβアミロイドーシスと診断すること、および診断した対象に処置を施すことを含む。さらなる実施形態において、Aβ42/Aβ40値は、約0.124未満、約0.123未満、約0.120未満、または約0.117未満とすることができる。さらなる実施形態において、Aβ42/Aβ40値は、約0.115未満または約0.113以下の値とすることができる。代替的に、Aβ42/Aβ40値は、約0.109~約0.113とすることができる。この処置は、非薬理学的処置、薬理学的処置、またはイメージング剤による処置とその後のPET、fMRI、SPECTによる検出などとすることができる。
【0066】
非薬理学的処置の非限定例は、認知行動療法、心理療法、行動管理療法、モンテッソーリ活動、記憶訓練、マッサージ、アロマセラピー、音楽療法、ダンス療法、動物介在療法および多感覚療法を含む。薬理学的処置の非限定例には、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、抗うつ剤(例えば、選択的セロトニン再取込み阻害剤、非定型抗うつ剤、アミノケトン、選択的セロトニンおよびノルエピネフリン再取込み阻害剤、三環系抗うつ剤など)、ガンマ-セレクターゼ阻害剤、ベータ-セレクターゼ阻害剤、抗Aβ抗体(抗原結合断片、変異体またはそれらの誘導体を含む)、抗タウ抗体(抗原結合断片、変異体またはそれらの誘導体を含む)、幹細胞、栄養補助食品(例えば、リチウム水、リポ酸を含むオメガ-3脂肪酸、長鎖トリグリセリド、ゲニステイン、レスベラトロール、クルクミンおよびブドウ種子抽出物など)、セロトニン受容体6のアンタゴニスト、p38アルファMAPK阻害剤、組換え顆粒球マクロファージコロニー-刺激因子、受動免疫療法、能動ワクチン(例えば、CAD106、AF20513など)、タウタンパク質凝集阻害剤(例えば、TRx0237、塩化メチルチオニミウムなど)、血中糖制御を改善する治療法(例えば、インスリン、エクセナチド、リラグルチド、ピオグリタゾンなど)、抗炎症剤、ホスホジエステラーゼ9A阻害剤、シグマ-1受容体アゴニスト、キナーゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、CB1および/またはCB2エンドカンナビノイド受容体部分アゴニスト、β-2アドレナリン受容体アゴニスト、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT2Aインバースアゴニスト、アルファ-2cアドレナリン受容体アンタゴニスト、5-HT 1Aおよび1D受容体アゴニスト、グルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ阻害剤、APP生成の選択的阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、神経成長因子刺激薬、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、神経栄養剤、ムスカリンM1受容体アゴニスト、GABA受容体モジュレーター、PPARガンマアゴニスト、微小管タンパク質モジュレーター、カルシウムチャネル遮断薬、血圧降下剤、スタチン、およびそれらの任意の組合せが含まれる。
【0067】
イメージング剤の非限定例は、機能的イメージング剤(例えば、フルオロデオキシグルコースなど)および分子イメージング剤(例えば、ピッツバーグ化合物B、フロルベタベン、フロルベタピル、フルテメタモル、放射性核種標識抗体など)を含む。
例えば、本開示は下記の実施態様を提供する。
[1]
さらなる診断検査および/または治療的介入のための候補として対象を特定する方法であって、
(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに
(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、該対象をさらなる診断検査および/または治療的介入の候補として特定すること
を含む、方法。
[2]
Aβアミロイドーシスを検出する方法であって、
(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに
(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、該対象をAβアミロイドーシスを有する、またはAβアミロイドーシスを発症するリスクがあると特定すること
を含む、方法。
[3]
疾患のステージに関して対象を等級付けする方法であって、
(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、ならびに
(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上の疾患の検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、該対象を疾患を有する、または疾患を発症するリスクがあると特定すること
を含む、方法。
[4]
Aβアミロイドーシスを有する対象を処置する方法であって、
(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、
(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、該対象をさらなる診断検査および/または治療的介入の候補として特定すること、ならびに
(c)診断された個体に処置を施すこと
を含む、方法。
[5]
Aβアミロイドーシスを処置するための臨床試験を行う対象を選別する方法であって、
(a)対象から取得した血液試料において、ApoEペプチドを検出し、Aβ42およびAβ40、ならびに適宜、神経変性のマーカーの濃度を測定し、次に、ApoE ε4状態を決定し、Aβ42/Aβ40値を計算し、適宜、神経変性のマーカーの濃度を決定すること、および
(b)Aβ42/Aβ40値が0.126未満であり、Aβ42/Aβ40値が、約90%以上のAβアミロイドーシスの検出確率をもたらすシステムによって得られた場合、該対象を臨床試験の候補として特定すること
を含む、方法。
[6]
Aβ42/Aβ40値が、約0.125以下である、前記のいずれか一項に記載の方法。
[7]
Aβ42/Aβ40値が、約0.124以下である、前記のいずれか一項に記載の方法。
[8]
疾患の診断確率が、受信者操作曲線(ROC)曲線下面積(AUC)を使用して計算される、前記のいずれか一項に記載の方法。
[9]
所定の閾値が、ROC曲線上の最高の感度における、最高の特異度のデータ点によって決定される、前記のいずれか一項に記載の方法。
[10]
神経変性のマーカーが、ニューロフィラメント軽鎖、タウアイソフォーム、ビシニン様タンパク質1およびニューログラニンアイソフォームのうちの1つ以上から選択される、前記のいずれか一項に記載の方法。
[11]
対象が、(a)以前にAβアミロイドーシスと診断されていない、(b)無症候性である、(c)Aβアミロイドーシスに関連する疾患のための臨床試験における潜在的参加者である、(d)アミロイドイメージングの候補である、または(e)(a)~(d)のいずれかの組合せである、前記のいずれか一項に記載の方法。
[12]
処置が、Aβアミロイドーシスの等級に基づいて決定される、前記3または前記4に記載の方法。
[13]
処置が、非薬理学的処置、薬理学的処置、またはイメージング剤による処置とその後のイメージング剤の検出である、前記4または前記12に記載の方法。
[14]
イメージング剤が、機能的イメージング剤または分子イメージング剤である、前記13に記載の方法。
[15]
処置が非薬理学的処置である、前記12に記載の方法。
[16]
処置が薬理学的処置である、前記12に記載の方法。
[17]
処置が臨床試験により施される、前記12に記載の方法。


【実施例
【0068】
以下の実施例は、本開示の様々な実施形態を実証するため含まれている。以下に続く実施例に開示されている技法は、本発明を実施する際に十分に機能するよう発明者によって発見された技法を表し、したがって、その実施のための好ましい様式を構成すると見なされ得ることが当業者によって理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らし合わせて、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な実施形態において多数の変更を行い、依然として同様のまたは類似した結果を得ることができると理解すべきである。
[実施例1]
【0069】
臨床試験および予防試験に進むため、アルツハイマー病(AD)のための非侵襲的な安価なスクリーニング検査が必要とされている。アミロイド-β(Aβ)ペプチドであるAβ42およびAβ40に感度が高く、かつ特異的な免疫沈降質量分析法(IPMS)の血液検査を開発した。複数コホートにおいて、IPMSにより測定されるAβ42/Aβ40は、アミロイドPET陰性個体と比較すると、アミロイドPET陽性個体ではかなり低下する。血漿中Aβ42/Aβ40によるアミロイドPET状態の予測のためのロジスティック回帰モデルは、0.88のROC AUCを有し、これは、APOE ε4状態および年齢がこのモデルに含まれる場合、0.95まで向上した。血漿中Aβ42/Aβ40およびAPOE ε4状態に関する単一アッセイは、AD薬物試験における参加者を登録するためのスクリーニング費用を削減し、臨床診断に使用する可能性を有する。
【0070】
初期検討(n=41対象、>500試料)は、血漿中Aβ42および血漿中Aβ40を定量し、アミロイドPET陽性個体において、血漿中Aβ42/Aβ40は、アミロイドPET陰性個体に比べると14%低いことを見出した。受信者操作特性(ROC)分析により、血漿中Aβ42/Aβ40は、0.89という曲線下面積(AUC)でアミロイドPET状態を区別することが見出された(Ovod, V. et al., Alzheimers Dement 13, 841-849 (2017))。158名の参加者を含む異なるコホートにおいて同様の結果が得られた(ROC AUC=0.88[95%CI 0.82~0.93])。これらの参加者(n=100)のサブセットは、血液検査後に、経過観察のPETスキャンを2~9年間、受けた。血漿中Aβ42/Aβ40(<0.1218)が低いベースライン時におけるアミロイドPET陰性であった個体は、経過観察期間にアミロイドPET陽性になる可能性は15倍、高く、血漿中Aβ42/Aβ40は、アミロイドPET陽性の閾値未満でさえも、脳アミロイドーシスに感度が高いことを示唆している。APOEε4状態および年齢が、ベースラインアミロイドPET状態のためのロジスティック回帰モデルにおいて、ベースライン血漿中のAβ42/Aβ40と共に含まれる場合、ROC AUCは、0.95(0.91~0.98)まで向上した。APOE ε4状態を考慮すると、脳アミロイドーシスの予測が改善されると仮定し、血漿中Aβ42およびAβ40の定量、ならびにApoEタンパク質アイソフォームの単回質量分析法アッセイを用いる分析によるAPOE ε4状態の決定の両方を行う可能性を検討した。
【0071】
配列決定法によるApoE遺伝子型とLC-MS/MSによる表現型との間の100%の一致が、以前に実証された(Baker-Nigh, A. et. al., J Biol Chem 291, 27204-27218 (2016))。一組の15N標準品の添加後、Aβをモノクローナル抗Aβミッド-ドメイン抗体により、血漿から免疫沈降させた。ApoE分析は、免疫濃縮なしに並行して行った。試料をエンドプロテオリティックに消化させて(LysNを用いてAβ、およびトリプシンを用いてApoE)、固相抽出工程で一緒にして、次に、LC-MS/MSにより同時分析した。フラグメントイオンの並行(および/または選択した)反応モニタリング(PRMまたはSRM)により、ApoE多形ペプチド、およびC末端Aβ42およびAβ40ペプチドの確度の高い検出が可能となった。これらの分析から、Aβ42/Aβ40比を計算して、ApoEプロトタイプを割り当てた。治験責任医師は、データ取得およびQC分析中に、知らされなかった。データは、血漿中Aβ42およびAβ40の定量、ならびにApoEアイソフォーム分析により、単回の感度の高く、費用の安い質量分析法アッセイによって決定することができることを示唆する。
【0072】
したがって、高精度IPMSにより測定される血漿中Aβ42/Aβ40値とAPOE ε4状態および年齢とを組み合わせると、本システムの感度および特異度が実質的に改善されて、脳アミロイドーシスが正確に検出された。本発明者らは、血漿中Aβ42/Aβ40の定量とAPOE ε4状態の決定の両方を可能にする、単一アッセイを提案する。このアッセイは、ADの早期検出を改善し、かつADの薬物検査のための脳アミロイドーシスによる研究コホートを動員する費用を実質的に削減する可能性を有する。
[実施例2]
【0073】
Washington Universityにおける記憶および加齢の研究に登録した参加者を、アミロイドPETスキャンの18か月以内に血漿の採取を受けた場合に、この検討に含ませた。このアッセイは、1.6mlの血漿を使用したので、試料は、バイオレポジトリに十分な血漿が利用可能となるように選択した。すべての年齢および診断の参加者を含めたが、バイオレポジトリは、より若くかつ認知が正常な参加者からの血漿の利用性が一層高かった。したがって、このコホートは、便利な試料となる。参加者はすべて、臨床的認知症尺度(CDR)14およびミニメンタルステート検査(MMSE)15を含む臨床的評価を受けた。ApoE遺伝子型は、Knight ADRC Genetics Core16から得た。手順はすべて、Washington University Human Research Protection Officeによって承認を受け、書面のインフォームドコンセントを各参加者から得た。
【0074】
CSFを既に記載した通りに採集した17。参加者は、一晩、絶食をした後に午前8時にLPを受けた。20~30mlのCSFを22ゲージの脊髄用無傷針Sprotteを使用する重力落下により50mlのポリプロピレン製管に採取した。この管を穏やかに反転させて、勾配作用の可能性を防ぎ、低速で遠心分離して、いかなる細胞の細片もペレットにした。CSFの一定分量を採取してポリプロピレン製管に入れて、-80℃で保管した。Roche cobas e601分析器で対応するElecsys免疫アッセイによって、CSF中Aβ42、tタウおよびpタウを測定した18
【0075】
CSF採取と同時に、0.5M EDTAにより事前コーティングされている10mLのシリンジ2本に血液を抜き取り、次に、120μlの0.5M EDTAを含有する15mLのポリプロピレン製管2本に移した。血液細胞から血漿を分離するために遠心分離をするまで(<2時間)、これらの試料を湿った氷の上に維持した。次に、血漿を1本の50mLポリプロピレン製管に移し、穏やかに混合して、一定分量をポリプロピレン製管に採取し、-80℃で保管した。
【0076】
M-270 Epoxy Dynabeads(Invitrogen、Carlsbad、CA、米国)にコンジュゲートされているモノクローナル抗Aβミッド-ドメイン抗体(HJ5.1、抗Aβ13-28)により、1.6mLの血漿または0.5mLのCSFから標的Aβアイソフォーム(Aβ38、Aβ40およびAβ42)を同時に免疫沈降させた。血漿試料の添加前に、アッセイ用管を5.26Xプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche、Basel、スイス)、0.263%(w/v)Tween-20、2.63X PBSおよび2.63Mグアニジンを含有するマスターミックス380μLと共に事前処理した。試料添加後に、4:1の0.1%水酸化アンモニウム:アセトニトリル中の3.75pg/μLの1215N-Aβ38、25pg/μLの1215N-Aβ40および2.5pg/μLの1215N-Aβ42(RPeptide製(Athens、GA、米国)の標識ペプチド)を含有する溶液20μLを血漿試料にスパイクした一方、CSF試料に、4:1の0.1%水酸化アンモニウム:アセトニトリル中の75pg/μLの1215N-Aβ38、500pg/μLの1215N-Aβ40および50pg/μLの1215N-Aβ42を含有する溶液20μLをスパイクした。すべてのその後の免疫沈降工程は、既に記載した通りに行った12
【0077】
ヒト血漿の分析は、既に記載した通りに行った12。CSF分析は、Waters nanoAcquityクロマトグラフィーシステムを接続したWaters Xevo TQ-Sトリプル四重極質量分析計で行った。CSF分析に関すると、抽出した消化物を10%ギ酸/10%のアセトニトリルにおいて、50μlの20nM BSA Digest(Pierce、Appleton WI、米国)を用いて再構成した。4.5μLの一定分量分の各再構成消化物を、12分間、600nL/分の流速を用いる10%アセトニトリル/2%ジメチルスルホキシド(DMSO)/0.1%ギ酸で、Waters100 X 0.075mm Acquity M-クラスHSS T3カラムへの直接注入によりロードした。ロード後、10%アセトニトリル/2%DMSO/0.1%ギ酸から50%アセトニトリル/2%DMSO/0.1%ギ酸まで、400nL/分で8分間の直線グラジエントを使用してペプチドを分割した。最初のグラジエントの後に、400nL/分で2分間かけて、65%アセトニトリル/2%DMSO/0.1%ギ酸までの急激な直線グラジエントを続けた。次に、このカラムを95%アセトニトリル/2%DMSO/0.1%ギ酸により、5分間、400nL/分で洗浄した。最後に、このカラムを600nL/分において5分間、最初の溶媒条件に戻して平衡化した。
【0078】
ヒトAβから誘導したペプチドは、天然の14窒素(14N)同位体を含むアミノ酸を含有する一方、標準品として試料にスパイクした外因性Aβから誘導したペプチドは、15窒素(15N)同位体により一様に標識されたアミノ酸を含有した。PRM(血漿)およびSRM(CSF)分析のために利用した前駆体/生成物イオン対を既に記載した通りに選択し12、Skylineソフトウェアパッケージを使用して、誘導して積分したピーク面積を分析した19。各Aβアイソフォーム(Aβ40またはAβ42)、およびその対応するアイソトポマー(14Nまたは15N)の場合、選択した生成物イオンの積分したピーク面積を合計した。Aβ42/Aβ40比は、以下の通り計算した:((Aβ42の14N生成物イオンの積分したピーク面積の合計/Aβ42の15N生成物イオンの積分したピーク面積の合計)×Aβ42 15Nで計算した内部標準の量)÷((Aβ40の14N生成物イオンの積分したピーク面積の合計/Aβ40の15N生成物イオンの積分したピーク面積の合計)×Aβ40 15Nで計算した内部標準の量)
【0079】
質量分析法および品質管理の分析はすべて、試料の非盲検化の前に行った。品質管理に合格しなかった値は、これらの値が試料調製(紛失/取り扱いの誤った試料)、シグナル強度、クロマトグラフの特性(ピーク幅/形状)、変動係数(技術的反復)および質量スペクトルのノイズに関する閾値判断基準を満たさなかった場合、使用しなかった。合計では、血漿分析物の2.3%(216のうちの5つ)およびCSF分析物の3%(361のうちの11)は、データのQC過程に不合格であった。
【0080】
血漿は、高い品質管理(QC)および低い品質管理の較正品として使用するために、認知の正常な若い個体、および脳アミロイドーシスを有することが分かっている老齢個体からそれぞれ採取した。高QCおよび低QCの較正品を、高QCおよび低QC較正品の中間ミックスと併せて、血漿試料の各回分と共に行った。未加工の血漿中Aβ42/Aβ40値は、線形回帰を使用してQC較正品に正規化し、回分ごとのばらつきを最小化した。この正規化は、これまでの検討において観察された回分の影響のために、演繹的に計画を立てた。高QCおよび低QC較正品をCSF試料とも共に行い、回分ごとの有意なばらつきは認められず、したがって、正規化は行わなかった。
【0081】
アミロイドPETは、十分に確立されたバイオマーカーであり、脳アミロイド負荷を評価するため、臨床試験において幅広く使用されているので、これを、アミロイドーシスの参照標準として使用した5、6、8。参加者は、11Cピッツバーグ化合物B(PIB)またはAV45のどちらか一方と共に、60分間の動的走査を受けた。PETイメージングは、Siemens962 HR+ECAT PETまたはBiograph40 scanner(Siemens/CTI、Knoxville KY)を用いて行った。MPRAGE T1強調画像を使用する構造の磁気共鳴画像法(MRI)もまた取得し、FreeSurfer20(http://freesurfer.net/)を使用して処理し、対象とする皮質領域および皮質下領域を導いた21。参照として小脳灰色を使用して、局所PIBまたはAV45の値を標準化取込み値比(SUVR)に変換し、部分容量を局所拡張機能手法(regional spread function approach)22を使用して補正した。左右の外側眼窩前頭皮質、内側眼窩前頭皮質、楔前部皮質、吻側中前頭皮質、上前頭皮質、上側頭皮質および中側頭皮質からの値を平均して、平均皮質SUVRとした。アミロイドPET陽性は、PIBの場合、>1.4223という確立されているカットオフ、およびAV45の場合、>1.21924という確立されているカットオフを用いて演繹的に規定した。アミロイドPETセンチロイドは、類似スケールでPIBデータおよびAV45データを一緒にして使用した25、26
【0082】
アミロイドPET陽性群およびPET陰性群の特徴を、連続変数の場合、T検定を、およびカテゴリー変数の場合、カイ二乗検定を使用して比較した。受信者操作特性(ROC)分析を行い、血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40のいずれかおよびアミロイドPET状態の間での一致性を評価し、PROC LOGISTICを用いて実行した。陽性一致率(PPA)は、所与の血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40値によって陽性であったアミロイドPET陽性個体の割合として定義した。陰性一致率(NPA)は、所与の血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40値によって陰性であったアミロイドPET陽性個体の割合として定義した。潜在的血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40値の各々に関するヨーデン指数を、PPA+NPAー1として計算した。最大ヨーデン指数を有する血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40値をカットオフ値として選択し、この指数は、合計PPAおよびNPAが最高値を有し、したがって、アミロイドPET陽性個体とアミロイドPET陰性個体とを最良に区別した。アミロイドPETセンチロイド値は、正常に分布されなかったので、スピアマン相関関係を使用して、アミロイドPETセンチロイドと血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40との間の関係を評価した。血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40を結果変数として、および中心年齢(年齢-63.70歳のコホートの平均年齢)、APOEε4状態および性別を予測因子として用いた共分散分析をPROC GLMを用いて実施した。ベースラインの血漿中またはCSF中Aβ42/Aβ40状態および経過観察時間に基づいて、その最後のPETスキャン時に、始めはアミロイドPET陰性であった個体のアミロイドPET状態の予測を、PROC LOGISTICにおいて実施した。ベースライン血漿試料と、事象が起こるまでの時間として使用した第1の陽性アミロイドPETスキャンとの間の時間間隔を使用して、生存率解析をPROC PHREGで実施した。線形回帰を使用して変化率を決定した。線形複合モデルを使用するにはデータは不十分であった。
【0083】
血漿中Aβ42/Aβ40をスクリーニングすることによるアミロイドPETスキャンにおける予測される節約の計算に関すると、年齢群とAPOE ε4状態の関数としてのアミロイドPET陽性の頻度を、A4予防検討からのデータに基づいて推定した11。この計算から、参加者の35%がAPOE ε4キャリアであり、76%が56~75歳の年齢であり、24%が75~85歳であると推測された。陽性血液検査を有する個体の場合の陽性アミロイドPETスキャンの確率は、血液の検査結果(陽性または陰性)、年齢(連続変数として)、および予測因子としてAPOE ε4状態を用いる本検討からのデータを使用して生成したロジスティック回帰モデルに基づいた。
【0084】
統計解析は、SAS9.4(SAS Institute Inc.、Cary、NC)を使用して行った。プロットは、GraphPad Prismバージョン6.07(GraphPad Software、La Jolla、CA)を用いて作製した。ヒートマップは、R ggplot2パッケージを使用して生成した。P値<0.05を統計学的有意であると見なした。この検討におけるデータは、Washington University Knight Alzheimer Disease Research Centerのデータセットに蓄え、あらゆる適格治験責任医師の要望により共有される。
【0085】
158名の個体から総数210の血漿試料を免疫沈降-質量分析法(IPMS)によって分析した(参加者の特徴に関しては、表1を参照されたい)。145名の個体からの血漿と同じ日に採取した186の利用可能なCSF試料のAβ42/Aβ40をIPMSによってアッセイした。Elecsys免疫アッセイによって測定される、152名の個体のCSF中Aβ42、tタウおよびpタウに関するデータが利用可能であった。
【0086】
【表1】
【0087】
ベースラインの血漿試料の18か月以内に行ったアミロイドPETスキャンは、115名の個体に対して陰性であり、43名の個体に対して陽性であった。血漿採取とアミロイドPETスキャンとの間の平均間隔時間は、0から1.5年間の範囲で、0.26±0.35年間(平均値±標準偏差)であった。この年齢範囲は、46.1~86.9歳と拡大した。アミロイドPET陰性個体と比較すると、アミロイドPET陽性であった個体は、高齢者であり(71.4±6.8対60.8±6.7歳、p<0.0001)、APOE ε4アレルのキャリアの可能性がより高く(63%対35%、p=0.001)、ゼロよりも大きな臨床的認知症尺度によって実証される認知障害を有する可能性がより高く(14%対3%、p=0.04)、Elecsys免疫アッセイによって、より低いCSF中Aβ42ならびにより高いCSF tタウおよびpタウ(p<0.0001)を有した。
【0088】
ベースライン時に陽性アミロイドPETを有する個体は、ベースライン時に陰性アミロイドPETを有する個体に比べると、かなり低いベースライン血漿中Aβ42/Aβ40を有した(0.1152±0.006対0.1276±0.0091、p<0.0001)(図1A)。受信者操作特性(ROC)分析により、ベースライン血漿中Aβ42/Aβ40は、0.88の曲線下面積(AUC)の場合、ベースラインアミロイドPET状態の良好な予後因子である(95%信頼区間[CI]は、0.82~0.93)ことが実証された(図1C)。代替的な参照標準はまた、血漿中Aβ42/Aβ40アッセイが高性能であることも示した。ROC AUCは、0.0198のCSF Elecsys pタウ/Aβ42カットオフの場合18、0.85(0.79~0.92)であり、0.0220のCSF Elecsys pタウ/Aβ42カットオフの場合、0.85(0.78~0.92)であった27。本発明者らのコホートは、幅広い年齢範囲を表すが、このアッセイの性能は、60歳よりも高齢の個体のサブコホートに非常に類似した(ROC AUC0.87、0.80~0.94)。<0.1218となる血漿中Aβ42/Aβ40カットオフを陽性と見なし、アミロイドPET状態の場合、0.88(0.75~0.96)となる陽性一致率(PPA)および0.76(0.67~0.83)となる陰性一致率(NPA)を有する最大ヨーデン指数を有した(図1C)。ベースライン血漿中Aβ42/Aβ40は、連続センチロイドスケールに関するアミロイドPETと逆相関し(図1E)、スピアマンローが-0.55であった(-0.65~-0.43)。
【0089】
予想通りに、ベースラインIPMS CSF中Aβ42/Aβ40もまた、ベースライン時に陽性アミロイドPETを有する個体ではより低く(図1B)、CSF中Aβ42/Aβ40とアミロイドPETとの間の一致は、AUCが0.98(0.97~1.0)とほぼ完璧であった(図1D)。<0.1094となるCSF中Aβ42/Aβ40カットオフを陽性と見なし、0.98(0.87~1.0)となるPPAおよび0.94(0.88~0.98)となるNPAを有する最大ヨーデン指数を有した。ベースラインCSF中Aβ42/Aβ40は、アミロイドPETセンチロイドと逆相関し(図1F)、スピアマンローが-0.66であった(-0.74~-0.55)。2つのトレーサーを使用した場合、血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40とアミロイドPETとの間の類似の逆相関関係が得られ、PIBおよびAV45を個別に評価した(図5)。
【0090】
ベースライン血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40は、高度に相関した(スピアマンローは0.66、0.56~0.75)(図1G)。本明細書に記載されているカットオフを使用すると、血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40は、145名の個体のうち122名にアミロイド状態の一致する予測を有した(84%)。高いCSF中および血漿中Aβ42/Aβ40の両方を有する個体はすべて、アミロイドPET陰性であった(n=81)。低い血漿中とCSF中のAβ42/Aβ40の両方を有する41名の個体のうちの35名が、アミロイドPET陽性であったが、6名は、依然としてPET陰性であった。血漿中Aβ42/Aβ40が陽性であるが、CSF中Aβ42/Aβ40が陰性の19名の個体のうちの18名は、アミロイドPET陰性であった。血漿中Aβ42/Aβ40が陰性であるが、CSF中Aβ42/Aβ40が陽性の4名の個体は、アミロイドPET陽性であった。
【0091】
ベースライン血漿中Aβ42/Aβ40は、年齢が高いほど低く(p<0.0001)、APOE ε4キャリア(p<0.0001)および男性では、一層低かった(p<0.002)(図2Aおよび表2)。年齢とAPOE ε4状態との間に有意な相互作用はなかった。APOE ε4キャリア状態および男性は、10歳ごとに、約0.005だけ低い血漿中Aβ42/Aβ40レベルと関係した(比較のため、アミロイドPET陽性個体とPET陰性個体における血漿中Aβ42/Aβ40の間の差異は、約0.012であった)。同様に、ベースラインCSF中Aβ42/Aβ40は、年齢が高いほど低く、APOE ε4キャリアでは一層低かった(どちらも、p<0.0001)(図2Bおよび表2)。血漿中Aβ42/Aβ40と対照的に、CSF中Aβ42/Aβ40は、性別により変動しなかった。
【0092】
【表2】
【0093】
アミロイドPET状態の予測に関するモデルに血漿中Aβ42/Aβ40と共に年齢およびAPOE ε4状態を組み入れると、ROC AUCが、0.88(0.82~0.93)から0.95(0.91~0.98)へと改善されたが、この差異は有意には到達しなかった(図2C)。性別は、このモデルにおいて有意な予測因子ではなく、ROC AUCを改善しなかったが、可能性として、このモデルは既に、参加者のほぼ全員を正しく分類し、性別は、残りのほとんどない不一致な症例の分類を改善しなかったからである。血漿中Aβ42/Aβ40、年齢およびAPOE ε4状態の組合せを使用して、アミロイドPET陽性の可能性を予測した(図2D)。
【0094】
100名の個体のサブコホートは、それらのベースライン血漿試料後に、>1.5年となる少なくとも1つのアミロイドPETスキャンを受けた(サブコホート特徴に関しては、表4を参照されたい)。このサブコホートにおける対象の全員に関すると、ベースライン血漿の採取と最後のアミロイドPETスキャンとの間の平均間隔時間は、1.9~9.0年間の範囲で、3.9±1.4年間であった。これらの個体のうちの94名はまた、CSF試料と一致した。ベースラインにおいてアミロイドPET陰性であり、経過観察期間にアミロイドPET陽性に転じた個体は、アミロイドPET陰性のままであった個体よりも低いベースライン血漿中Aβ42/Aβ40を有した(p<0.05、図3A)。血漿の採取から最後のPETスキャンまでの経過観察時間を含むロジスティック回帰モデルにより、血漿中Aβ42/Aβ40(連続値)は、アミロイドPET陰性からアミロイドPET陽性の状態への変換を予測し(p=0.03)、0.88(0.81~0.95)のROC AUCで、最後のアミロイドPETスキャン時のアミロイド状態を予測することが見出された。アミロイドPET変換までの時間に関する生存モデルにより、陽性の血漿中Aβ42/Aβ40(<0.1218)を有する個体は、陰性の血漿中Aβ42/Aβ40を有する個体よりもアミロイドPETの変換リスクが12倍、高かった(p=0.02、図3C)ことが実証された。
【0095】
アミロイドPET陰性のままであった個体と比べると、アミロイドPET転換者は、低いベースラインCSF中Aβ42/Aβ40を有する傾向もあった(p=0.06、図3B)。CSFの採取から最後のPETスキャンまでの経過観察時間を含むロジスティック回帰モデルにより、CSF中Aβ42/Aβ40(連続値)は、アミロイドPET陰性からアミロイドPET陽性状態への変換を予測し(p=0.007)、0.96(0.92~1.00)のROC AUCで、最後のアミロイドPETスキャン時のアミロイド状態を予測することが見出された。陽性CSF中Aβ42/Aβ40(<0.1094)を有する、ベーラインにおいてアミロイドPET陰性にある個体は、陰性CSF中Aβ42/Aβ40を有する個体と比べると、経過観察期間にアミロイドPET陽性に変換するリスクが5倍高かった(p=0.02、図3D)。
【0096】
アミロイドPET転換者は、アミロイドPET陰性のままであった個体と比べると、かなり高いベースラインアミロイドPETセンチロイドを有し(6.9±4.7対-0.5±4.0、p<0.0001)、アミロイドPET転換者は、閾値未満の脳アミロイドーシスを有したことを示唆している。最初の時間と最後の時間点の両方における、陰性の血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40を有するアミロイドPET転換者として分類された1名の個体は、脳アミロイドーシスと一致しないElecsys CSF中バイオマーカーを有し(最後の時間点において、CFS中Aβ42は1434pg/mlであり、tタウは193pg/mlであり、pタウは17.5pg/mlであった)、それらの最後のPETスキャンは偽陽性の可能性を示唆している。
【0097】
50名の個体のサブコホートは、縦断的アミロイドPETスキャンの18か月以内に採取された、縦断的な血漿中Aβ42/Aβ40を有し(図4、参加者特徴に関しては表5を参照されたい)、個体間の変化率の試験が可能であった。このサブコホートにおける対象の全員に関して、最初の血漿採取と最後の血漿採取との間の平均間隔時間は、1.9~7.1年間の範囲で、3.6±1.2年間であった。これらの個体のうちの39名はまた、Aβ42/Aβ40を分析するCSF試料を有した。線形複合モデル解析を強化するデータは十分ではなかった。代わりに、線形回帰を使用して、各参加者に関して個体間の変化率を推定した。経時的な血漿中(-0.0011/年)とCSF中Aβ42/Aβ40(-0.0023/年)の両方の有意な低下があった(それぞれ、1つの試料のT検定により、p<0.001およびp<0.0001)。アミロイドPET群により、血漿中Aβ42/Aβ40の変化率に差異はなかった(一元配置ANOVAは有意ではなかった。図4C)。しかし、アミロイドPET転換者は、ベースライン時と最後の時間点において、アミロイドPET陽性であった個体に比べると、CSF中Aβ42/Aβ40の迅速な低下を有した(一元配置ANOVAの場合、p<0.05、テューキーの事後検定の場合、P<0.05、図4D)。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
脳アミロイドーシスの高いリスクを有する個体のスクリーニングのため、血漿中Aβ42/Aβ40を使用した値を評価した(表3)。年齢群とAPOE ε4状態の関数として、アミロイドPET陽性の頻度は、年齢が65~85歳の認知の正常な個体を含む、アルツハイマー(A4)の予防検討における抗アミロイド処置からのデータに基づいた11。陽性血液検査を有する個体の陽性アミロイドPETスキャンの確率は、本検討からのデータを用いて生成したロジスティック回帰モデルに基づいた。陽性血漿中Aβ42/Aβ40を有する個体をスクリーニングすることによって、陽性アミロイドPETスキャンを有する100名の個体のコホートを取得するために必要なアミロイドPETスキャンの確認は一層少なくなると思われる。血漿中Aβ42/Aβ40を有する参加者を最初にスクリーニングすることによって救命されたPETスキャンの割合は、APOE ε4非キャリアおよびより若い個体では最高であった。A4に類似するコホートの場合、血漿中Aβ42/Aβ40を有する参加者のスクリーニングにより、必要なアミロイドPETスキャンの数を約62%低下させることができた。
【0102】
この検討は、高精度免疫沈降および液体クロマトグラフィー-質量分析法アッセイによって測定すると、血漿中Aβ42/Aβ40は、脳アミロイドーシスを正確に診断というクラスIの証拠を提供する28。脳アミロイドーシスを有する個体は、認知能の低下、および高い比率のAD認知症への進行を有することが以前に示されている29、30。認知の正常な個体(CDR=0を有するものが94%)をほぼ例外なく含む本発明者らの検討コホートにおいて、本発明者らは、脳アミロイドーシスを検出するために、血漿中Aβ42/Aβ40に高い性能があることを見出し(ROC AUC0.88)、血漿中Aβ42/Aβ40は、AD認知症のリスクがある個体のスクリーニングとして使用することができることを示唆している。さらに、本発明者らは、陽性血漿中Aβ42/Aβ40を有するが、陰性アミロイドPETスキャンを有する個体は、アミロイドPET陽性へ転換するリスクが12倍高い(p=0.02)ことを見出した。アミロイドPET状態に転換する個体に対する血漿中Aβ42/Aβ40アッセイの感度は、血漿中Aβ42/Aβ40は、本検討に使用した確立されたアミロイドPET閾値よりも早く陽性になることを示唆している。したがって、陰性アミロイドPETスキャンを有する陽性血漿中Aβ42/Aβ40は、偽陽性結果よりもむしろ、早いアミロイドーシスを呈することがある。総合的に、本発明者らの結果は、高精度アッセイによって測定される、血漿中Aβ42/Aβ40は、認知の正常な研究参加者を動員するAD予防薬物検査において、脳アミロイドーシスを正確に検出することができることを実証している。
【0103】
過去20年間にわたる多数の検討は、通常、比較的高い分散性および不確かな特異度を有しており、かつ全体的に性能が乏しく一貫性がないとされる免疫アッセイを使用する、アルツハイマー病のためのバイオマーカーとして、血漿中Aβ42を評価している31。最近、高精度アッセイを使用することによって、本発明者らのグループおよび他のグループは、血漿中Aβ42/Aβ40は、脳アミロイドーシスと高い一致を有することを見出した12、13。この検討において、この検討におけるアミロイドPET陽性個体とPET陰性個体との間の差異は小さく、0.1276±0.0091対0.1152±0.006であったが、本発明者らの高精度アッセイを用いて測定した場合、かなり有意性があった。この高いアッセイの正確さは、多重特異的なAβ種の直接的な測定を含めた、アッセイプラットフォームとして、質量分析法の精度が高いためである可能性が高い。同様に、同じ試料中のAβ42およびAβ40の両方を同時に測定することは、2つの個別のアッセイにより分析対象を測定することによって発生するばらつきを低減することができる。
【0104】
本発明者らは、血漿中Aβ42/Aβ40レベルは、年齢、APOE ε4状態および性別に有意に関連したことを見出した。精度のより低いアッセイを使用する最近の検討により、ELISAにより測定される血漿中Aβ42/Aβ40は、年齢およびAPOE ε4状態と関連したこと32、ならびに年齢およびAPOE ε4状態を含めたモデルは、アミロイド状態をより良好に予測することが見出されたが33、これらの検討が、性別と血漿中Aβ42/Aβ40レベルとの間の関係を検討したかどうかは不明確である。興味深いことに、CSF中Aβ42/Aβ40レベルは、年齢およびAPOE ε4状態によってモジュレートされたが、性別によってはモジュレートされなかった。この無関係性により、血漿中およびCSF中Aβ42/Aβ40レベルが、様々な因子によって影響を受け得ることが示唆された。他の検討は、血漿中Aβ42/Aβ40を修正することができる因子を探索したが、32、34、35、これらの因子を明確に規定するために、高精度のAβ42/Aβ40アッセイおよびより大きなコホートを使用するさらなる検討が必要である。血漿中Aβ42/Aβ40を修正する因子の知識を使用して、脳アミロイドーシスを予測するためのモデルを改善することができる。高精度の血漿中Aβ42/Aβ40アッセイを使用する本発明者らの検討において、血漿中Aβ42/Aβ40、年齢およびAPOE ε4状態を含めた、アミロイドPET状態を予測するモデルは、0.95となるROC AUCに到達した。現在のCSFバイオマーカー検査は、アミロイドPETとほぼこのレベルの一致を有し18、27、血漿中Aβ42/Aβ40は、とりわけ他の因子と組み合わされると、ある点における臨床的使用に十分に正確となり得ることを示唆する。
【0105】
血漿中Aβ42/Aβ40アッセイの最も直接的な使用は、脳アミロイドーシスに関するアルツハイマーの薬物検査のための潜在的参加者をスクリーニングすることである。年齢およびAPOE ε4状態は、スクリーニングの正確さを改善するために使用することができた。血漿中Aβ42/Aβ40スクリーニングが陽性である場合、本検討の必要性に応じて、アミロイドPETまたはCSFバイオマーカーなどの確認試験を行ってもよい。血漿中Aβ42/Aβ40スクリーニングは、とりわけ、比較的低い割合の脳アミロイドーシスを有する認知の正常な個体を動員する予防試験の場合に、脳アミロイドーシスを有する研究参加者のコホートを選別するために必要な確認検査数をかなり低減するか、なくすことができる。本発明者らは、A4に類似する予防試験の場合11、血漿中Aβ42/Aβ40を用いる予備スクリーニングは、必要なアミロイドPETスキャン数を62%、低減することができ、これにより、動員のための時間および費用のかなりの削減がもたらされると推定する。年齢およびAPOE ε4状態と組み合わせた血漿中Aβ42/Aβ40検査が、脳アミロイドーシスの診断において、非常に高い正確さを実証し続ける場合(ROC AUCが、約0.95)、血漿中Aβ42/Aβ40およびAPOE遺伝子型を含めた単一血液検査を、PETまたはCSFを確認する必要なしに検討への組み入れに使用することができる。この正味の効果は、薬物検査の時間、費用およびリスクを低減することによる、ADの効果的な治療に向けた本発明者らの進歩の加速であり、1日で、クリニックでの血液検査により、疾患修飾処置の恩恵を受け得る患者を特定することが可能となる。
参考文献
1. Hebert LE, Weuve J, Scherr PA, Evans DA. Alzheimer disease in the United States (2010-2050) estimated using the 2010 census. Neurology 2013;80:1778-1783.
2. Blennow K, Hampel H, Weiner M, Zetterberg H. Cerebrospinal fluid and plasma biomarkers in Alzheimer disease. Nature reviews Neurology 2010;6:131-144.
3. Witte MM, Foster NL, Fleisher AS, et al. Clinical use of amyloid-positron emission tomography neuroimaging: Practical and bioethical considerations. Alzheimer's & dementia 2015;1:358-367.
4. O'Brien JT, Herholz K. Amyloid imaging for dementia in clinical practice. BMC medicine 2015;13:163.
5. Klunk WE, Engler H, Nordberg A, et al. Imaging brain amyloid in Alzheimer's disease with Pittsburgh Compound-B. Annals of neurology 2004;55:306-319.
6. Mattsson N, Carrillo MC, Dean RA, et al. Revolutionizing Alzheimer's disease and clinical trials through biomarkers. Alzheimer's & dementia 2015;1:412-419.
7. Karran E, Hardy J. Antiamyloid therapy for Alzheimer's disease--are we on the right road? N Engl J Med 2014;370:377-378.
8. Sperling RA, Rentz DM, Johnson KA, et al. The A4 study: stopping AD before symptoms begin? Science translational medicine 2014;6:228fs213.
9. Carrillo MC, Brashear HR, Logovinsky V, et al. Can we prevent Alzheimer's disease? Secondary "prevention" trials in Alzheimer's disease. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2013;9:123-131 e121.
10. Honig LS, Vellas B, Woodward M, et al. Trial of Solanezumab for Mild Dementia Due to Alzheimer's Disease. N Engl J Med 2018;378:321-330.
11. Sperling RA, Donohue M, Raman R, et al. The Anti-Amyloid Treatment in Asymptomatic Alzheimer's Diseae (A4) Study: Report of Screening Data Results. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2018;14:P215-P216.
12. Ovod V, Ramsey KN, Mawuenyega KG, et al. Amyloid beta concentrations and stable isotope labeling kinetics of human plasma specific to central nervous system amyloidosis. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2017;13:841-849.
13. Nakamura A, Kaneko N, Villemagne VL, et al. High performance plasma amyloid-beta biomarkers for Alzheimer's disease. Nature 2018;554:249-254.
14. Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 1993;43:2412-2414.
15. Folstein MF, Folstein SE, McHugh PR. "Mini-mental state". A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. Journal of psychiatric research 1975;12:189-198.
16. Pastor P, Roe CM, Villegas A, et al. Apolipoprotein Eepsilon4 modifies Alzheimer's disease onset in an E280A PS1 kindred. Annals of neurology 2003;54:163-169.
17. Fagan AM, Mintun MA, Mach RH, et al. Inverse relation between in vivo amyloid imaging load and cerebrospinal fluid Abeta42 in humans. Annals of neurology 2006;59:512-519.
18. Schindler SE, Gray JD, Gordon BA, et al. Cerebrospinal fluid biomarkers measured by Elecsys assays compared to amyloid imaging. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2018.
19. Pino LK, Searle BC, Bollinger JG, Nunn B, MacLean B, MacCoss MJ. The Skyline ecosystem: Informatics for quantitative mass spectrometry proteomics. Mass Spectrom Rev 2017.
20. Fischl B, van der Kouwe A, Destrieux C, et al. Automatically parcellating the human cerebral cortex. Cerebral cortex 2004;14:11-22.
21. Su Y, D'Angelo GM, Vlassenko AG, et al. Quantitative analysis of PiB-PET with FreeSurfer ROIs. PloS one 2013;8:e73377.
22. Su Y, Blazey TM, Snyder AZ, et al. Partial volume correction in quantitative amyloid imaging. NeuroImage 2015;107:55-64.
23. Vlassenko AG, McCue L, Jasielec MS, et al. Imaging and cerebrospinal fluid biomarkers in early preclinical alzheimer disease. Annals of neurology 2016;80:379-387.
24. Mishra S, Gordon BA, Su Y, et al. AV-1451 PET imaging of tau pathology in preclinical Alzheimer disease: Defining a summary measure. NeuroImage 2017;161:171-178.
25. Klunk WE, Koeppe RA, Price JC, et al. The Centiloid Project: standardizing quantitative amyloid plaque estimation by PET. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2015;11:1-15 e11-14.
26. Su Y, Flores S, Hornbeck RC, et al. Utilizing the Centiloid scale in cross-sectional and longitudinal PiB PET studies. Neuroimage Clin 2018;19:406-416.
27. Hansson O, Seibyl J, Stomrud E, et al. CSF biomarkers of Alzheimer's disease concord with amyloid-beta PET and predict clinical progression: A study of fully automated immunoassays in BioFINDER and ADNI cohorts. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2018;14:1470-1481.
28. Gross RA, Johnston KC. Levels of evidence: Taking Neurology to the next level. Neurology 2009;72:8-10.
29. Vos SJ, Xiong C, Visser PJ, et al. Preclinical Alzheimer's disease and its outcome: a longitudinal cohort study. The Lancet Neurology 2013;12:957-965.
30. Donohue MC, Sperling RA, Petersen R, et al. Association Between Elevated Brain Amyloid and Subsequent Cognitive Decline Among Cognitively Normal Persons. JAMA 2017;317:2305-2316.
31. Olsson B, Lautner R, Andreasson U, et al. CSF and blood biomarkers for the diagnosis of Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis. The Lancet Neurology 2016;15:673-684.
32. Nakamura T, Kawarabayashi T, Seino Y, et al. Aging and APOE-epsilon4 are determinative factors of plasma Abeta42 levels. Ann Clin Transl Neurol 2018;5:1184-1191.
33. Verberk IMW, Slot RE, Verfaillie SCJ, et al. Plasma Amyloid as Prescreener for the Earliest Alzheimer Pathological Changes. Annals of neurology 2018.
34. Toledo JB, Vanderstichele H, Figurski M, et al. Factors affecting Abeta plasma levels and their utility as biomarkers in ADNI. Acta Neuropathol 2011;122:401-413.
35. Toledo JB, Shaw LM, Trojanowski JQ. Plasma amyloid beta measurements - a desired but elusive Alzheimer's disease biomarker. Alzheimers Res Ther 2013;5:8.
[実施例3]
【0106】
アルツハイマー病(AD)の現在の臨床診断は、特異的、簡単で安価な検査がないため、進行性の記憶力低下および認知障害に依存している。しかし、臨床診断は、ADおよび他の神経変性認知症に対して、感度および特異度のどちらにも乏しい。発症時の現在の診断検査は、タウのもつれおよびアミロイド-プラーク病理に関するCSFおよびPETスキャンを含む。しかし、これらの手法は侵襲的であり、かなりの訓練を必要として、高価である。さらに、研究検討、臨床試験および予防試験において、参加者の登録にAD病理の早期無症候性検出が必要である。
【0107】
臨床診断を改善し、治療法の開発を加速するための血液検査は、正常から認知障害までの範囲にわたる参加者における特異度および感度を改善し、最小限の侵襲性かつ安価となる必要がある。さらに、この検査は、ADの重要領域:遺伝的リスク(ApoE)、アミロイドプラークの病理およびタウのもつれ、ならびに個体のADステージを判定する一助となる神経変性の測定を含ませるべきである。これらの領域を報告する単一検査は、ADの主要な状況を捕捉し、認知症のクリニックにおいて有用になると思われる。この目的に向けて、質量スペクトル分析は、2つの主な利点:感度を維持しながら特異度を大幅に改善すること、および多重化、すなわち複数の分析対象を同時に測定するのが容易であることを有する。
【0108】
アポリポタンパク質E(ApoE)は、3つの主なアイソフォーム:ε2、ε3およびε4を有し、これらは、分子量、構造および機能に差異をもたらす、アミノ酸の変異を1つ有する。重要なことに、単一Apo ε4アレルは、ADのリスクを3~4倍、増大させ、2つのApo ε4アレルは、ADのリスクを10~14倍、増大させる(3)。複数の方法が、配列決定(遺伝子型測定)によって、および液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)(表現型測定)によって、100%の一致でApoE状態を測定するよう開発された(図6)。アミロイド-ベータ血液検査の感度および特異度は、ApoE状態が年齢と組み合わされると実質的に改善する。本発明者らが、ApoE状態および年齢と共に血漿中Aβ42/40を分析した場合、本発明者らのAUCは、88%から95%まで向上した(図7)。Aβ42/40およびApoE表現型の単一アッセイへの多重化は、アッセイ時間を短縮すると同時に、高い感度およびアミロイドPETとの特異的な一致を実現する。
【0109】
100の血液試料(50のADおよび50の対照)に関する個々のアッセイとマルチプレックスアッセイの結果を比較する。実験設計:マルチプレックスアッセイのパラメータの最適化。プールしたCSFおよびプールした血漿は、最初のアッセイ開発に使用する。Aβ42/40およびApoEに対する既存のプロトコルは、免疫沈降、タンパク質消化、固相抽出および液体クロマトグラフィーを含めた、様々な点で多重化される。マルチプレックスアッセイからの結果を無関係のアッセイからの結果と比較し、最も正確な多重化プロトコルを選択する。マルチプレックスアッセイの生物学的分析パラメータを測定し、個々のアッセイと比較する。最適化されるパラメータは、上に記載されており、分析感度(LOQ)、正確さ、精度および安定性を含む。マルチプレックスアッセイおよび個々のアッセイを100の血液試料に行う(CSFおよびPET ADにより50のアミロイド陽性対PETおよびCSFにより50の認知の正常なアミロイド陰性(年齢の一致する対照))。
[実施例4]
【0110】
ニューロフィラメント軽鎖(NfL)は、ニューロンの細胞骨格の主要な構成成分である。ニューロフィラメント軽鎖は、神経変性に際して、CSFおよび血液に放出され、神経変性のバイオマーカーとして、CSFおよび血液の両方で測定することができる。Nflは、多数の神経変性疾患において増大するが、Nflは、ADをステージ決定(例えば、症状の発症までの無症候の年数対軽度および中度の罹患)する、および臨床的な薬物検査の間の治療剤に対する応答をモニタリングする手助けとなる可能性を有する。Mattssonら(JAMA Neurology、2017年)による検討は、血漿中NfLの場合、0.87のAUCが、AD認知症群と対照とを区別すると報告している(図8)。現在まで、NfL分析は、免疫アッセイによって主に行われてきた。本発明者らの質量分析アッセイにNflを組み入れると、多重化により、ニューロン(および、潜在的なニューロンサブタイプ)に対して一層特異的で、感度および費用効果が高いアッセイとなることが期待される。Nflによるマルチプレックスアッセイの構築によって、追加的なステージ決定情報をアミロイドプラークの高い正確性のある血漿検出に付与することができる。
【0111】
ビシニン様タンパク質1(VILIP-1)は、神経損傷後に向上するカルシウムセンサーニューロンタンパク質である。CSFおよび血漿の両方におけるTarawnehらによる免疫アッセイ検討は、AD群と対照との間で隔離されることを示している(図9)。NfLに関する本発明者らの予期に類似して、本発明者らは、VILIP-1質量分析法アッセイは、免疫アッセイよりも特異的かつ精度が高く、多重化に適していると期待する。
【0112】
NfLアッセイの開発:抗体開発および選択:組換えヒトNfLが、Lewcukら(2018年)によって記載されている通り発現する。手短に述べると、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)タンパク質アミノ酸1-396(NfL-頭部+コア)をコードするヌクレオチドは、完全長cDNA(RC205920、Origene)から増幅させる。PCR断片を精製して、BamHI/EcoRI消化pG(GST)発現プラスミド(GE Healthcare)にクローニングする。コンストラクトの配列決定を行い、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)に形質変換する。アンピシリンを含有するLB培地中でこのコンストラクトを含有する大腸菌BL21(DE3)を培養し、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)によりタンパク質発現を誘導する。細胞を遠心分離によりペレットにし、精製するまで-20℃で保管する。溶解緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl、1% NP40 pH7.5)および完全プロテアーゼ阻害剤(Complete、Roche)中にこのペレットを再懸濁させて、Glutathione-Sepharose 4B(GE Healthcare)を使用して、GST-NfL融合タンパク質を精製する。トロンビンによるGST-融合タンパク質のビーズ表面の開裂を行う。プロテアーゼ阻害剤を含有するPBSにより、開裂したタグの付いていないタンパク質を溶出する。NfLに対するモノクローナル抗体を、タウモノクローナル抗体の生成に関して記載されている、完全フロイントアジュバント(Sigma)を使用して、組換えタンパク質断片(頭部+コア)による、8週齢のBalb/cマウスの免疫付与によって生成する(Yanamandraら、2013)。手短に述べると、組換えタンパク質断片(およそ75μg/マウス)を2~3回投与した後に、脾臓を取り出し、標準手順に従い、B細胞を骨髄腫細胞系SP2/0と融合する。融合しておよそ10日後、組換えタンパク質断片の頭部+コア(アミノ酸1-396)および精製済みウシNfLタンパク質を使用して、NfL抗体に対して細胞培地のスクリーニングを行う(Karlssonら、1987)。組換えNfLタンパク質およびウシNfLと反応するが、陰性対照タンパク質とは反応しないクローンをさらに成長させて、サブクローニングし、次いで、液体窒素中で凍結する。ヒトNfLに対する反応性は、ヒト脳試料の皮質からのウエスタンブロットによって決定する。抗体のアイソタイプは、市販のキット(Pierce Rapid Isotyping Kit-Mouse)を使用して決定する。最後に、タンパク質Gカラム(GE Healthcare)を使用して、抗体を精製する。精製後のNfL抗体(表1)を、ヒト血清に由来するNfLを免疫沈降するその能力について、市販の抗体と比較する。
【0113】
【表6】
【0114】
酵素およびペプチド選択:標的ペプチドを経験的に選択する。組換えヒトNfLは、トリプシンまたはLysNによって消化され、データ依存アクイジション(data dependent acquisition)を用いるLC/MS/MSによって分析する。候補ペプチドは、ペプチド化学(酸化部位およびアルキル化部位がない)、保持時間、電荷状態、相対強度およびフラグメント化に基づいて選択する。上位候補は、BLAST検索を使用して一意性を分析し、次に、最低で5つの技術的複製を使用してプールしたCSFおよび血漿においてさらに分析を行う。遷移イオンは、衝突誘起解離によるペプチドのフラグメント化から選択され、大部分の再生可能なフラグメントイオンを定量するために選択する。この反復過程は、2~4種の各遷移イオンを有するいくつかの標的ペプチドの選択をもたらす。次に、ADおよび対照CSFおよび血漿の比較を使用して、最終マルチプレックスアッセイに使用するための最適かつ特異的NFlペプチドを決定する。
【0115】
VILIP-1アッセイの開発:抗体:VILIP-1に対する免疫アッセイおよびモノクローナル抗体を開発した(developred)。エピトープS96-Y108に対するクローン3A8.1、およびエピトープF55-D73対するクローン2B9.3を含めたこれらの抗体が、ヒト血漿に由来するVILIP-1を免疫沈降する能力を比較する。
【0116】
酵素およびペプチド選択:上のNfLに関して記載されている同じ反復過程をVILIP-1質量分析法のアッセイ開発に利用する。
【0117】
NfLおよびVILIP-1は、質量分析法アッセイにより定量し、疾患状態を予測するその能力を評価する。50のアミロイド陽性ADおよび50のアミロイド陰性対照の試料を分析する前に、血漿中Aβに関する本発明者らの現在のプロトコルに基づいて、内部標準、較正曲線および品質管理試料を調製する。血液中のAβ42/40およびApoE、NfLおよびVILIP-1のマルチプレックスアッセイの測定および分析感度(LOQ)の最適化、精度/再現性、安定性および正確さは、以下に準拠して完成する。
【0118】
内部標準:標的タンパク質の安定な同位体標識されている「重い形態」を既知濃度の各試料に入れる。重いペプチド:軽いペプチドの比により、遷移イオンの定量およびその一貫した比が可能になり、非常に正確なタンパク質の定量が可能になる(%CV<2%)。較正曲線:精製済みタンパク質をゼロから検出の上限値までの範囲の6種の濃度で合成血漿にスパイクし、使用するまで一定分量を-80℃で凍結する。一定分量を解凍し、内部標準を所定濃度で加え(QCおよび試料に添加されるものと同じ濃度)、この試料を正常品として処理する。較正曲線は、各試料を設定して線形あてはめ(y=mx+b)する前に実施する。分析対象は、内部標準の比と較正曲線を比較することによって定量する。品質管理試料:QC試料は、アミロイド陽性AD、およびアミロイド陰性の認知が健常な対照を用いて、本発明者らの実験室において利用する。各QCプールからの一定分量を内部標準でスパイクし、すべての試験試料と共に処理し、各回分の最初、中間および最後に実施する。許容特徴は、QC物質(+/-2SD、%CV<3%)に関して判定し、分析誤差を検出するために使用する。2つの標準偏差の外側にあるQCを含む試料はいずれも、誤差と記し、この誤差が補正された後に再度実施する。定量の限界値(LOQ)および分析測定範囲:本発明者らは、標準品をマトリックスにスパイクし、シグナル対ノイズ(S/N)が、10:1~20:1の間となる濃度を決定し、それを検出下限値として設定する。線形範囲もまたこの方法によって決定し、理論濃度範囲の+/-20%で評価する。直線範囲全体の複数の濃度の場合、本発明者らは、ピーク形状、保持時間およびイオンの比を評価する。精度/再現性および持ち越し:本発明者らは、5日にわたるQCの3つのレベルを毎日、5回の反復により評価する。持ち越しは、マトリックスブランクを組み入れることによって評価する。許容される持ち越しは、低い方のLOQの<20%である。安定性:本発明者らは、溶液中およびマトリックス中の試料、内部標準、校正器およびQCの安定性を試験する。短期間安定性は、室温において、および長期安定性は、-80℃、-20℃および-4℃において決定する。凍結解凍サイクルの最大数も決定する。正確さ:本発明者らは、質量分析法アッセイからの結果と既存の免疫アッセイからの結果とを比較し、両方法間の一致と個々の方法の疾患状態を予測する能力の両方を評価する。
[実施例5]
【0119】
単回の免疫沈降(IP)が、アミロイドベータの結果に負に影響を及ぼすことなく、アミロイドベータとApoEとの両方を特定するために使用することができるかどうかを判定する実験を行った。20個のLoad100試料1mLを、通常のAベータのIPおよびマルチプレックスIPに使用した。これらの試料のうちの0.5mLのIPの2つ(1つは、通常のAベータに、マルチプレックスに1つ)を使用した。マルチプレックス試料の場合、Aベータ IPからのギ酸溶出の20%(すなわち、20uL)を除去した。残りの80%(80uL)は、スピードバキュームにより乾燥し、通常のAベータ分析に使用する一定分量分と並行して処理した。試料はすべて、同じマススペックキュー(Mass Spec queue)(トライブリッド質量分析計(Orbitrap Lumos)上で)において実施した。
【0120】
この実験は、ApoE分析の場合、Aベータ IPの20%を除去する効果を試験するために使用した。具体的には、試料の20%を除去すると精度に悪影響があったのか、またはバイアスが導入されたのか(つまり、陽性または陰性)どうかを特定するためである。通常のAベータ IP対マルチプレックス試料のCVは、通常の方法を使用する品質管理のための二重IPのCV以下となる。図10および図11に例示されている通り、標準Aベータ IPからの溶出物の20%を除去しても、Aベータアッセイに陽性バイアスまたは陰性バイアスをもたらさない。通常のプロトコルにより処理した試料とApoE分析のために除去した試料の20%により処理した試料との間に良好な相関関係がある。このアッセイの精度は、下流でのApoE処理のため、IPの20%を除去することによって低下しなかった。
【0121】
次の疑問は、ApoE状態は、AベータIPの20%から正確に決定することができるかどうかであった。この実験のために除去した20%分を乾燥し、還元し、アルキル化して、トリプシンにより消化した後、Xevoで分析した。図12は、20の試料、低対照、高対照、および3つのプールした血漿対照の各々のスカイライン分析を示している。5% CAN中に再懸濁させたPP対照2および3を除く試料はすべて、0.1%FAに再懸濁させた。プールした血漿対照1=ApoE IP(他の試料と比較する1:500希釈)。プールした血漿対照2および3は、最上位で再混合したAベータIPの10%、および最上位で再混合したAベータIPの30%とした。試料は、ACNを10%まで低下させたAベータ再懸濁溶媒に再懸濁させた(すなわち、HSA、10%FA、5%ACN)。
【0122】
結果(図12を参照されたい)は、100%の正確さでAベータIPの20%からApoE遺伝子型が決定され得ることを実証している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
【配列表】
0007558574000001.app