(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】構面構造
(51)【国際特許分類】
B27M 3/04 20060101AFI20240924BHJP
E04F 15/04 20060101ALI20240924BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
B27M3/04
E04F15/04 F
E04F15/02 G
(21)【出願番号】P 2022206536
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】322014060
【氏名又は名称】株式会社大和工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】玉井 次彦
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-121698(JP,A)
【文献】特開2004-293052(JP,A)
【文献】特開平4-68160(JP,A)
【文献】実開平1-68461(JP,U)
【文献】実開平6-28073(JP,U)
【文献】特開2012-87563(JP,A)
【文献】特開2013-142272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M 3/00-3/38
E04F 15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製で扁平直方体状の厚板の複数が、長手方向に直交する幅方向に列設されている構面構造であり、
中間軸部、及び、該中間軸部の両端それぞれから同一方向に延出している一対の釘部を備える又釘によって、隣接する前記厚板が接合されており、
前記厚板は、隣接する前記厚板と対面する側面に本ザネ加工または相杓り加工が施されていることにより、隣接する前記厚板間に嵌め合い部を有していると共に、
前記又釘の前記中間軸部が前記長手方向と平行となるように、一対の前記釘部が前記嵌め合い部に打ち込まれている
ことを特徴とする構面構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の床構面、屋根構面、或いは壁構面の構造である構面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現行の建築基準法では、三階建て以上の木造建築物については構造計算を要請しているのに対し、二階建て以下で面積が所定値を超えない木造建築物については、構造計算を必要としない代わりに、床面積に応じて必要な壁量を計算した上で、存在壁量が必要な壁量以上となるように耐力壁を配置することが求められている。建築基準法施行令では、複数の構造仕様と、それぞれの仕様の壁倍率が規定されているため、それらの壁倍率を参照して耐力壁を選定しながら、建築物の設計が行われる。ここで、壁倍率は、壁構面の剛性の指標となる数値であり、壁倍率1は長さ1m当たり1.96kNの耐力があることを示している。
【0003】
ところが、近年、大きな被害をもたらした大規模地震が相次いだこともあり、新規な建築物の建造に当たり、二階建て以下の木造建築物であっても、耐震等級3級を求める建築主が増えている。耐震等級は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、「品確法」と称する)において住宅性能表示として規定されているものであり、建築基準法と同程度の耐震性能を耐震等級1とし、その1.25倍、及び1.5倍の耐震性能を、それぞれ耐震等級2、及び耐震等級3としたものである。
【0004】
この品確法における住宅性能表示のためには、壁構面の強度評価に加えて、水平構面(床構面、屋根構面)についても強度を評価する必要がある。水平構面は、地震による荷重や強風による風圧などの水平力を耐力壁に伝達する作用を有しており、大きな水平力を耐力壁に伝達するためには、水平構面にも相応の剛性が必要となるためである。床倍率は、壁構面の剛性の指標である壁倍率と同様に、水平構面の剛性の指標となる数値である。
【0005】
更に、世代を超えて住み継いで行くことができるような性能の高い住宅の普及を促進する目的で、長期優良住宅法が制定されており、税制の特例が受けられることもあり、長期優良住宅を求める建築主も増えている。長期優良住宅として認定されるためには、所定の性能条件があるが、耐震性に関しては耐震等級2級以上であることが要求される。そのため、上記のように床倍率及び壁倍率が必要となる。
【0006】
加えて、2025年には、建築基準法第6条のいわゆる4号特例の廃止が予定されており、平屋を除く二階建て木造建築物の新築に対しても構造計算が求められるようになる。その計算のためには、床倍率及び壁倍率が必要である。床倍率の高い水平構面や壁倍率の高い壁構面を使用すれば、建築物の設計の自由度が高いものとなる。
【0007】
従来、床倍率の高い水平構面、壁倍率の高い壁構面を構築するためには、構造用合板の幅広パネル材が使用されている。これに対し、本出願人は、木の丸太材から切り出した板材(厚板)を使用して、剛性の高い水平構面や壁構面を構築できないかと考えた。厚板は、幅長さが丸太の径によって制限されるため、合板パネル材のような幅広にすることができず、それに応じて強度も低いものにとどまるため、現状では構面構造の構築材料としては殆ど使用されていない。
【0008】
また、近年、日本の木材資源が十分に活用されておらず、森林の荒廃に繋がっていることが問題となっている。特に、スギは、戦後に植林されたものが既に伐採期を迎えているにも関わらず、利用が進んでいない。スギは日本全国いたるところにあり、安価であるにも関わらず、需要が少ないのが実情である。そのため、スギを含む日本の木材の丸太から採取した厚板を使用して、剛性の高い構面構造を構築することができれば、日本の木材資源を有効に活用できることに加え、剛性の高い構面構造を有する建築物を安価に提供することができると考える。
【0009】
ところが、建築基準法及びその関係法令等では、構造用合板については壁倍率を2.5としているのに対し、板材の場合は木材の種類や節の存在等によって数値がばらつくとして、材木の種類や厚さによらず壁倍率を一律0.5と定めている。床倍率については、品確法に基づく評価方法基準では、構造用合板を使用した場合は0.7~3.0としているのに対し、厚板を使用した場合は、根太を所定間隔で配した仕様について0.2~0.3としている。このような低い壁倍率や床倍率では、耐震等級3の木造建築物や長期優良住宅を設計することはできない。強度を補うために火打ち材等の補強構造を配することとすると、必要な木材や作業の手間が増えることに加え、内観もよくないという問題がある。
【0010】
また、根太を使用しない仕様については、何れの法令等でも床倍率は定められていない。そこで、本出願人は、法令等で規定されていない構造仕様については、指定の評価機関で評価試験を行い、その試験結果の証明と共に、試験結果から得られた強度特性値に基づいて計算を行えば、法令等で定められた建築基準を満たしているか否かの建築確認を受けることができることを鑑み、木材の丸太から採取した厚板を使用して剛性の高い構面構造を構築し、指定の評価機関における試験によって強度特性値を得ることにより、耐震等級などの建築基準を満たしていることの建築確認を受けることを想到した。
【0011】
ここで、スギの厚板を使用して床構面または壁構面を構築し、その床倍率や壁倍率を測定する試みについては、いくつかの報告がなされている(例えば、非特許文献1~3を参照)。非特許文献1では、本ザネ加工したスギの厚板を幅方向に列設し、最大で約3.0の床倍率を得たと報告しているが、厚板の裏面に溝加工を施し、厚板に直交する方向に「木ダボ」と称される裏桟を埋め込むように挿入している。非特許文献2では、本ザネ加工したスギの厚板を幅方向に列設し、床倍率2.7を得たと報告しているが、厚板に直交する方向に横桟木を渡した上で厚板に釘打ちしている。
【0012】
つまり、非特許文献1,2の何れでも、スギの厚板に直交する方向に配した部材を厚板に固定しているため、構成が複雑で、手間、時間、及びコストがかかるという問題がある。
【0013】
非特許文献3では、本ザネ加工したスギの厚板を幅方向に列設し、3.0以上の壁倍率を得たと報告しているが、厚板に直交する方向に複数の補強板を渡した上で厚板にねじ留めしていることに加え、中央で交差するように相欠き加工した二枚の補強板を筋交い状に配してねじ留めしている。そのため、構成が複雑で、手間、時間、及びコストがかかるという問題がある。
【0014】
そのため、簡易な構成で、手間、時間、コストを低減して構築することができる剛性の高い構面構造が要請される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】中田欣作、「木ダボおよび木ねじを用いたスギ厚板床構面の面内せん断試験」、奈良県森林技術センター研究報告、奈良県森林技術センター、2016年4月、第45号、p.7-19
【文献】中山伸吾、“スギ厚板を用いた高耐力床構面の開発”、[online]、三重県、[令和4年12月19日検索]、インターネット<URL:https://www.pref.mie.lg.jp/ringi/hp/000250604.htm>
【文献】中田欣作、「補強板をねじ留めしたスギ板壁耐力壁の水平加力試験」、奈良県森林技術センター研究報告、奈良県森林技術センター、2015年4月、第44号、p.49-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、木造建築物の床構面、屋根構面、或いは壁構面の構造として、簡易な構成で、手間、時間、コストを低減して構築することができる剛性の高い構面構造の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる構面構造は、
「木製で扁平直方体状の厚板の複数が、長手方向に直交する幅方向に列設されている構面構造であり、
中間軸部、及び、該中間軸部の両端それぞれから同一方向に延出している一対の釘部を備える又釘によって、隣接する前記厚板が接合されており、
前記厚板は、隣接する前記厚板と対面する側面に本ザネ加工または相杓り加工が施されていることにより、隣接する前記厚板間に嵌め合い部を有していると共に、
前記又釘の前記中間軸部が前記長手方向と平行となるように、一対の前記釘部が前記嵌め合い部に打ち込まれている」ものである。
【0018】
「構面構造」は、床構面、屋根構面、及び壁構面の構造を総称している。なお、水平構面は、床構面及び屋根構面を含む概念であり、壁構面は垂直構面と称されることがある。
【0019】
木製の厚板を幅方向に列設して構面構造を構築する場合に、又釘によって隣接する厚板同士を接合するという構造仕様は、従来にない新規なものである。仮に、隣接する厚板同士を又釘によって接合するということを想到したとしても、一対の釘部の一方が隣接する厚板の一方に打ち込まれ、一対の釘部の他方が隣接する厚板の他方に打ち込まれるように、すなわち、中間軸部が厚板の長手方向に直交し、隣接する厚板の境界に跨るように使用するというのが、当業者の通常の発想であると考える。
【0020】
これに対し、本発明では、厚板の側面に本ザネ加工または相杓り加工が施されることにより、隣接する厚板間に嵌め合い部を設けた上で、又釘の中間軸部が板材の長手方向と平行となるように、又釘の一対の釘部を嵌め合い部に打ち込んで構面構造を構築する。つまり、構築された構面構造の外観上では、又釘は隣接する厚板同士を接合しているようには見えない。
【0021】
このような又釘の用い方は極めて斬新であり、詳細は後述するように、又釘の用い方の工夫のみによって、剛性の高い構面構造を構築できる点で非常に画期的である。
【0022】
本発明によれば、従来技術とは異なり、裏桟、横桟木、補強板など、厚板を接合するための木材を使用することなく、又釘のみで厚板間を接合しているため、構面構造が非常に簡易である。また、厚板を接合するための木材が不要であることに加え、又釘は安価であることから、コストを低減して構面構造を構築することができる。そして、又釘は、一般的なステープラー(タッカー)を使用することにより、容易な作業で、高速で木材に打ち込むことができるため、容易にかつ短時間で構面構造を構築することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、木造建築物の床構面、屋根構面、或いは壁構面の構造として、簡易な構成で、手間、時間、コストを低減して構築することができる剛性の高い構面構造を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)本ザネ加工が施された厚板の斜視図であり、(b)相杓り加工が施された厚板の斜視図である。
【
図2】(a)本ザネ加工が施された厚板同士の又釘による接合の説明図であり、(b)相杓り加工が施された厚板同士の又釘による接合の説明図である。
【
図5】(a)
図4におけるB-B線断面図であり、(b)
図4におけるC-C線断面図である。
【
図8】(a)
図7におけるE-E線断面図であり、(b)
図7におけるF-F線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態である構面構造について、図面を用いて説明する。本実施形態の構面構造は、木造建築物の床構面、屋根構面、或いは壁構面の構造であり、木材の丸太から採取した板材である厚板の複数が、幅方向に列設されているものである。
【0026】
まず、厚板について、
図1(a),(b)を用いて説明する。厚板10は、扁平直方体状の木製の板材であり、長手方向(図示、Y方向)に直交する幅方向(図示、X方向)の長さが90mm~185mm、長手方向及び幅方向に直交する厚さ方向(図示、Z方向)の長さが21mm~40mmのものを使用する。
【0027】
本実施形態では、厚板10として、一対の側面、すなわち、隣接する厚板10に対面する面に、本ザネ加工が施された厚板10a、または、相杓り加工が施された厚板10bを使用する。厚板10a及び厚板10bを区別する必要がない場合は、厚板10と総称する。
【0028】
本ザネ加工が施された厚板10aでは、
図1(a)に示すように、一対の側面の一方に凸部11aが形成されており、一対の側面の他方に凹部12aが形成されている。凸部11aと凹部12aは、隣接する厚板10aの一方の凸部11aが、他方の凹部12aに嵌め込まれ、且つ、両方の板材10aの表裏面がそれぞれ同一面上となるように、大きさ及び位置が設定されている。このような凸部11aと凹部12aとの嵌合により、隣接する厚板10a間に嵌め合い部20が形成される。
【0029】
相杓り加工とは、板厚の半分を互い違いに切り欠いた加工である。すなわち、相杓り加工が施された厚板10bにおいては、一対の側面の一方では表面側に切欠き部12bが形成されることによって裏面側に突出部11bを有しており、一対の側面の他方では裏面側に切欠き部12bが形成されることによって表面側に突出部11bを有している。このような突出部11bと切欠き部12bを重ね合わせることにより、隣接する厚板10b間に嵌め合い部20が形成され、両方の板材10bの表裏面がそれぞれ同一面上となる。
【0030】
又釘30は、中間軸部31、及び、中間軸部31の両端それぞれから同一方向に延出している一対の釘部32を備える釘である(
図2(a),(b)を参照)。すなわち、又釘30は、コ字形を呈している。又釘30としては、中間軸部31の長さが12mm~36mmのものを使用する。また、又釘30における釘部32の長さは厚板10の厚さに応じて設定されるものであり、厚さよりは少し短い16mm~34mmに設定される。
【0031】
本ザネ加工が施された厚板10a同士を又釘30で接合する際は、
図2(a)に示すように、隣接する厚板10aの一方の凸部11aと他方の凹部12aとを嵌合させて嵌め合い部20を形成する。そして、又釘30の向きを、中間軸部31が厚板10aの長手方向と平行となる向きとして、又釘30の一対の釘部32を嵌め合い部20に打ち込む。
【0032】
相杓り加工が施された厚板10b同士を又釘30で接合する際は、
図2(b)に示すように、隣接する厚板10bの一方の延出部11bと他方の切欠き部12bを重ね合わせて嵌め合い部20を形成する。そして、上記と同様に、又釘30の向きを、中間軸部31が厚板10bの長手方向と平行となる向きとして、又釘30の一対の釘部32を嵌め合い部20に打ち込む。
【0033】
ここでは、隣接する厚板10の接合に当たり、接着剤は使用しない。これは、工場内で建築用部材を製造する場合とは異なり、建築現場における施工に際しては、接着剤の使用が禁止されているからである。
【0034】
次に、実際に本実施形態の構面構造を構築し、評価試験によって得られる強度特性値を、比較例の構面構造と対比した結果を示す
【0035】
本実施形態の構面構造である試験用構面E1は、
図3~5に示すように、一対の第一長尺材51、及び、これに直交する一対の第二長尺材52で形成したフレームを作製した上で、複数の厚板10を、一対の第二長尺材52間に架け渡した状態で幅方向に列設することにより構築した。フレーム内では、第二長尺材52に平行な第三長尺材53の二本を、一対の第一長尺材51間に架け渡した。
【0036】
フレームの大きさは2730mm×2730mmとし、第一長尺材51、第二長尺材52、及び第三長尺材53としては、105mm×105mmのスギの角材を使用した。隣接する第三長尺材53間の距離、及び、第二長尺材52と隣接する第三長尺材53との距離は、それぞれ910mmとした。第二長尺材52の両端部と第一長尺材51、及び、第三長尺材53の両端部と第一長尺材51は、それぞれ蟻掛けによって接合した。
【0037】
厚板は、本ザネ加工が施された厚板10aとし、幅長さ135mm、厚さ30mmのスギの板材を使用した。また、実際の施工現場では、厚板が長手方向に継いで使用されることを想定し、厚板10aとして、長手方向の長さが1820mmである厚板10aLと、長手方向の長さが910mmである厚板10aSとを使用し、二本の第三長尺材53のうちの一本の第三長尺材53bを、厚板10aLと厚板10aSとの継手とした。厚板10aLと厚板10aSとの継ぎ目は、イモ目地とした。厚板10aL及び厚板10aSは、それぞれ二十枚を使用した。
【0038】
厚板10aL及び厚板10aSを幅方向に列設する際には、順次、隣接する厚板10aLの一方の凸部11aを他方の凹部12aと嵌合させることにより嵌め合い部20を形成すると共に、隣接する厚板10aSの一方の凸部11aを他方の凹部12aと嵌合させることにより嵌め合い部20を形成する。そして、厚板10aLそれぞれの両端を一対の第二長尺材52の一方と第三長尺材53bに、釘40の三本で留め付けると共に、厚板10aLの長手方向における中央において、第三長尺材53に釘40の三本で留め付けた。また、厚板10aSそれぞれの両端を一対の第二長尺材52の他方と第三長尺材53bに、釘40三本で留め付けた。釘40としては、長さ90mmのCN釘を使用した。
【0039】
更に、隣接する厚板10aLの境界部、及び、隣接する厚板10aSの境界部において、中間軸部31が厚板10aL,10aSの長手方向に平行となる向きで、又釘30の一対の釘部32を嵌め合い部20に打ち込んだ。このように、中間軸部31が厚板の長手方向と平行となる向きで又釘30を打ち込む方法を、以下「又釘平行打ち」と称する。又釘30としては、中間軸部31の長さが22mmで一対の釘部32の長さが28mmのものを使用し、一枚の厚板10aL,10aSそれぞれにおける又釘30のピッチ(又釘と隣接する又釘との間隔)は150mmとした。
【0040】
また、一枚の厚板10aL,10aSそれぞれにおける又釘30のピッチを300mmとする以外は、構面構造E1と同一に構築した構面構造を、試験用構面E2とした。
【0041】
比較のために、又釘30の向きを除き、試験用構面E1と同一に構築した構面構造を、試験用構面R1とした。試験用構面R1では、
図6~8に示すように、隣接する厚板10aLの境界部、及び、隣接する厚板10aSの境界部において、中間軸部31が厚板10aL,10aSの長手方向に直交する向きで、又釘30の一対の釘部32のうちの一方を隣接する厚板10aL,10aSの一方の嵌め合い部20に打ち込み、又釘30の一対の釘部32のうちの他方を隣接する厚板10aL,10aSの他方の嵌め合い部20に打ち込んだ。このように、中間軸部31が厚板の長手方向と直交する向きで又釘30を打ち込む方法を、以下「又釘直交打ち」と称する。又釘30のピッチは150mmとした。
【0042】
更に、比較のための構面構造として、別の試験用構面R2を構築した。試験用構面R2は、
図9~11に示すように、又釘30を使用していないことを除き、試験用構面E1,E2,R1と同一の構成とした。
【0043】
試験用構面E1,E2,R1,R2について、面内せん断試験を行った。試験は、木構造体の強度試験に関する評価機関として指定されている岐阜県森林文化アカデミーにて実施した。面内せん断試験は、(公財)日本住宅・木材技術センターの木造軸組工法住宅の許容応力度設計の試験方法に準じて行った。具体的には、一対の第二長尺材52の軸方向を上下方向とし、下端を試験装置に固定した上で、上端に正負方向(第一長尺材51の軸方向)の力を繰り返し加えた。繰り返し加力は、みかけのせん断変形角を1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/30radとし、最終的には正方向に大変形を加えた。
【0044】
試験用構面E1,E2,R1,R2それぞれについて、複数の試験体に対して試験を行い、それぞれの荷重-せん断変形角曲線から得られた強度特性値を平均して表1に示す。表1では、構面の剛性指標値として「床倍率」を示しているが、これは第二長尺材52を梁と考え、試験用構面E1,E2,R1,R2を床構面と考えた場合である。第二長尺材52を柱と考えれば、試験用構面E1,E2,R1,R2は壁構面と考えることができ、剛性指標値として「壁倍率」が得られる。
【0045】
【0046】
表1に示すように、又釘30を使用せず、厚板10を第二長尺材52及び第三長尺材53に釘打ちしただけの試験用構面R2の床倍率は、0.9と低い値であった。このような低い床倍率では、耐震性や耐久性に優れる木造建築物を設計することはできない。
【0047】
試験用構面R1は、試験用構面R2に又釘30を直交打ちした構造に相当する。試験用構面R2の床倍率は1.3であり、試験用構面R1の床倍率よりは大きくなったものの、依然として低い値であった。又釘の直交打ちは、幅方向に列設された厚板を又釘で接合することを想到した場合に、当業者が通常の創作力で考えつく打ち込み方である。直交打ちの場合は、又釘が隣接している厚板を接合していることが、外観上で明らかである。しかしながら、今回の試験により、又釘の直交打ちでは、剛性の高い構面構造は得られないことが判明した。これは、厚板の長手方向に作用する外力、及び外力の分力に対して又釘が抗することができず、又釘を回転させながら、厚板が長手方向にずれてしまうためと考えられた。
【0048】
これに対し、試験用構面R2に又釘30を平行打ちした構造に相当し、又釘30のピッチが150mmである試験用構面E1では、床倍率は2.6であった。これは、構造用合板の床倍率に匹敵する高い数値である。又釘30ひとつ当たり二本の釘部32が、厚板10aL,10aSの長手方向における同一線上で嵌め合い部20に打ち込まれており、この二カ所の接合を中間軸部31が連結していることにより、隣接する厚板10aL,10aSが長手方向にずれることを、又釘30が有効に抑制していると考えられた。
【0049】
平行打ちした又釘30は、隣接している厚板10aL,10aSを接合していることが外観上では分からない。このような又釘30の用い方は、従来は当業者が想到しなかった、非常に斬新かつ画期的なものである。
【0050】
このように、構造用合板に匹敵する床倍率を示す構面構造によれば、耐震性や耐久性の高い木造建築物を設計することができ、設計の際の自由度も高い。
【0051】
又釘30を平行打ちしている点では試験用構面E1と同様であるが、又釘30のピッチを300mmと大きくした試験用構面E2では床倍率は1.9であり、試験用構面E1の床倍率から大きく低下した。このことから、平行打ちした又釘による作用効果、すなわち、幅方向に列設された厚板が長手方向にずれることを抑制する作用効果が、非常に大きいことが分かる。
【0052】
以上のように、幅方向に列設した厚板10aL,10aSの嵌め合い部20に、又釘30を平行打ちすることにより、床倍率・壁倍率が高い構面構造を得ることができ、耐震性や耐久性の高い木造建築物を、高い自由度で設計することができる。本実施形態の構面構造は、強度を高めるために構造用合板に依存してきた従来の木造建築物から脱却し、天然木の厚板をそのまま使用した日本の風土に馴染む建築物でありながら、耐震性や耐久性にも優れる木造建築物へと、転換する契機となるものである。
【0053】
また、本実施形態では、厚板としてスギを使用しているため、現状では伐採期を迎えているものの需要がなく利用が進んでいない日本のスギ材を、資源として有効に活用することができる。また、日本の各地に豊富に存在し、安価な木材であるスギ材を使用することにより、耐震性や耐久性の高い木造建築物を安価に提供することができる。スギを合板の材料として使用することも可能ではあるが、その場合は蒸気で前処理した後、薄くスライスして単板にし、乾燥させ、多数の単板を積層して接着し、加熱圧縮するという多数の工程が必要であり、手間もコストもかかる。これに対し、本実施形態の構面構造は、スギの丸太から採取した厚板を、そのままの状態で使用するものであり、余計な手間やコストをかけることなく、スギの新たな需用を創出することができる。
【0054】
更に、本実施形態の構面構造では、接着剤を使用していない。構造用合板の場合は、接着層が水分の浸透を妨げるため、木造建築物の気密化の進行に伴い、結露が生じやすくなっている点が問題視されている。これに対し、本実施形態では、厚板の接合に接着剤を使用していないため、水分の浸透を妨げる接着層がなく結露が生じにくいことに加え、接着剤に含まれる揮発成分による住環境汚染の問題もない利点を有している。
【0055】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0056】
例えば、上記の実施形態では、構面構造が床構面または壁構面の構造である場合を示したが、本発明は水平構面である屋根構面の構造にも適用することができる。傾斜している屋根の場合は、その傾斜を考慮した係数を乗ずる必要があるが、上記のような試験の結果として得られる床倍率に基づいて、剛性の指標値を求めることができる。
【0057】
また、上記では、厚板の材料としてスギを使用した場合を例示したが、厚板の材料はスギに限定されるものではない。スギは、一般的に流通している木材の中では、最も強度が低い木材である。従って、他の木材を使用した場合は、上記の試験による剛性の指標値以上の高い数値を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 厚板
10a,10aL,10aS 厚板(本ザネ加工が施された厚板)
10b 厚板(相杓り加工が施された厚板)
11a 凸部
11b 延出部
12a 凹部
12b 切欠き部
20 嵌め合い部
30 又釘
31 中間軸部
32 釘部
40 釘
51 第一長尺材
52 第二長尺材
53,53b 第三長尺材