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  • 特許-夏用寝具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】夏用寝具
(51)【国際特許分類】
   A47G 9/00 20060101AFI20240924BHJP
   A47G 9/02 20060101ALI20240924BHJP
   D04B 21/04 20060101ALI20240924BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
A47G9/00
A47G9/02 A
D04B21/04
A47C27/12 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024068727
(22)【出願日】2024-04-20
【審査請求日】2024-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598044556
【氏名又は名称】藤井株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137372
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 徳子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幹晴
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第7262156(JP,B1)
【文献】特開2006-104620(JP,A)
【文献】特開2024-035008(JP,A)
【文献】特開2003-183957(JP,A)
【文献】特開2018-057518(JP,A)
【文献】特開2016-084550(JP,A)
【文献】特開2019-199679(JP,A)
【文献】実開平7-33986(JP,U)
【文献】特開平6-316844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/00- 9/10
A47C27/12
D04B 1/00
D04B21/00
D04B21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経編機で編成される、地組織にパイル糸が係止される生地において、
パイル糸は、綿糸を含む糸であって、
地組織を構成する糸がパイル糸に使用した綿 繊 維 の半分以下の単糸繊度のポリ エステル系繊維又はナイロン系繊維を含む繊維からなり、
メッシュ状に編成された地組織のみのパイル間隙部と、並行に形成された畝状パイル部とが寝具横方向全体にわたり交互に配置されていることを特徴とする寝具。
【請求項2】
50%以上の脱脂加工を施すことを特徴とする請求項1記載の寝具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夏用寝具に関するものである。より詳しくは、吸水性、水分拡散性及び速乾性を有する、経編機で編成された夏に好適の寝具に関する。
【背景技術】
【0002】
新規な糸を使用した、地組織とパイル糸からなる吸水性及び水分拡散性に優れたタオル地の特許がある。(特許文献1)。
【0003】
また、強撚糸を使用した接触冷感を有する寝装寝具に関する織物地がある(特許文献2)。
【0004】
また、表裏地にメッシュ生地を挟んでキルティング加工により接結し、それぞれの間に空間を設けることで、暖められた内部空気と外部の空気を入れ替える工夫が施された寝具がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許公報第7262156号公報
【文献】特開2016-183426号公報
【文献】特開2015-204874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載のタオル地は、吸水性、水分拡散性及び速乾性の機能性を付与したタオル地の発明で、地組織に使用する糸と、パイル糸に使用する糸を新規開発したことで、上記効果を達成するものであるが、夏用敷パッドに応用できるような編地に関する工夫はされていない。
【0007】
特許文献2記載の織物地は、綿製太番手の強撚糸を使用して接触冷感効果を付与したものであるが、吸水性や水分拡散等の効果を奏するものではない。
【0008】
特許文献3記載の寝具は、メッシュ生地を介在させたキルティング生地により内部に空間を形成することで通気性を確保した夏季に使用される敷パッドであるが、身体が接触する生地表面に関する工夫がなされていないため、汗などを素早く吸収する効果を奏するものではない。
【0009】
そこで本願では、パイル糸とそれを係止する地組織に使用する糸の繊度の違いに着目して、吸水速度や水分拡散性を付与し、さらに編地の形状に工夫を施して、通気性を確保し、吸収した水分を地組織に迅速に移行、拡散させて水分を蒸発させてクーリング効果を付与した夏用寝具の提供を目的とするのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1では、経編機で編成される、地組織にパイル糸が係止される生地において、パイル糸に綿糸を含む糸を使用し、 地組織を構成する糸に、パイル糸に使用した綿 繊 維 の半分以下の単糸繊度のポリエステル系 繊維又はナイロン系繊維を含む繊 維を使用して、メッシュ状に編成した地組織のみのパイル間隙部と、並行に形成された畝状パイル部とを寝具横方向全体にわたり交互に配置して寝具を製造するのである。
【0011】
請求項2では、請求項1記載の寝具に50%以上の脱脂加工を施すのである。
【発明の効果】
【0012】
パイル糸から吸収された汗などの水分は、パイル地に使用した綿糸よりも半分程度の単糸繊度からなる、疎水性繊維で編成された地組織へと毛細管現象により素早く吸収され、さらに、地組織内で素早く拡散して寝具外へと放出されるのである。
【0013】
地組織をメッシュ状に粗く編成しているため通気性に優れる。また、パイル糸による横方向の畝が寝具に均一に形成され、表面に凹凸ができる結果、身体への接触面積が減り、身体と寝具の間に空間が形成されることで軽く、サラッとした快適な触感となるのである。
【0014】
また、畝状に並行に形成したパイル部と、メッシュ状地組織を交互に配列したため、身体が寝具と接触する部分が少なく、パイル部と地組織との高低差から寝具と身体との間に空間が生じ優れた通気性を有する。またパイル部がクッションとなり適度な硬さとなる。
【0015】
汗が蒸散するときに気化熱として寝具に接触している身体から熱エネルギーを奪うため寝具内に熱がこもらないだけでなく、クーリング効果を奏し、涼しく快適な睡眠を得ることができるのである。
【0016】
水切り性がよく、洗濯乾燥時間が短く洗濯に使用する水の量も減り環境に配慮した寝具となる。
【0017】
表面の濡れ感が少なく、パイル面から吸収した水分は疎水性繊維からなる地組織が、保持することなく蒸散し続けるため常にさらっとした肌触りの使用感を享受できるのである。
【0018】
脱脂加工を施すことで綿糸の油分が取り除かれ、身体に接触するパイル部からの吸水性が高まるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願発明に係る寝具の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の最適な実施形態について以下、図1を参照しながら詳説する。
【0021】
本願発明のパイル編物である夏用寝具1はメッシュ状の地組織の表面にパイル糸からなる一又は複数の畝を並行に形成してなる。パイル糸からなる畝を係止する地組織は、パイル糸に使用する綿糸の半分以下の細さの糸を使用すると共にメッシュ状に粗く編成してなる。メッシュ状地組織のみからなるパイル間隙部2と畝状に並行した複数のパイル部3とを交互に配置して寝具を製造するのである。
【0022】
パイル部を形成する畝の太さや本数、地組織のみからなるパイル間隙部とパイル部との間隔などは特に限定されるものではないが、パイル間隙部とパイル部との適度な高低差を保持し、空気の通り道となる空間を形成することが重要である。パイル間隙部とパイル部との高低差は2mm~30mm程度が適当である。
【0023】
地組織はパイル糸に使用した綿糸の半分以下の細さの糸を使用する。実験に使用した糸は、マイクロポリエステル95%、ポリウレタン5%からなる疎水性繊維である。マイク
ロポリエステルの単糸デニールは0.5デシテックス以下である。
【0024】
パイル地よりも細い糸を使用して地組織を編成することで毛細管現象を利用して表面から地組織への水分の移行を迅速にし、吸水速度及び拡散速度を向上させることができるのである。
【0025】
また、地組織を構成する疎水性繊維の例としては、ポリエステル系繊維、ナイロン系繊維、アクリル系繊維等が考えられる。
パイル地よりも地組織を細い糸を使用して編成することで、寝具表面のパイル糸で吸水した水分を、毛細管現象を利用して素早く地組織へと移行させるのである。また疎水性繊維を使用することで吸収された水分は地組織内で素早く拡散するのである。
【0026】
また、パイル糸を綿糸だけでなく、綿糸と10から30デニールのポリエステル系長繊維維とを引き合わせ、綿糸と逆方向に撚り合わせた解撚糸とすることもできる。地組織を構成する糸をパイル糸に使用した綿 繊 維 の半分以下の単糸繊度のポリエステル系繊維又はナイロン系繊維を含む繊維とする。さらにメッシュ状に編成した地組織のみのパイル間隙部と、畝状に並行に形成されたパイル部とを交互に配置して寝具を製造するのである。
【0027】
具体的には単糸デニールが0.5デシテックス以下の疎水性繊維で編成する。マイクロポリエステル等が好適である。
【0028】
一方、パイル糸には1.0デシテックスから3.0デシテックスの綿繊維と10から30デニールのポリエステル系長繊維を逆方向に交撚したものを使用する。このとき、どの程度撚りを戻した状態が好適かについて、パイル糸の吸水速度について実験を行っている。
【0029】
当該実験は改良ラローズ法により行った。20番手の綿糸を20デニールのポリエステル糸で逆方向に交撚して綿糸を解撚した合撚糸をパイル地に使用している。解撚率は70%から80%である。ここでいう解撚率とは、綿糸のZ方向の100回の撚りに対し、ポリエステル糸による逆向き、即ちS方向への撚り戻しが70回から80回の場合に70%から80%とする指標である。解撚率は70%から140%が好適であるとの結果を得た。
【0030】
続いて、市販の接触冷感をうたった敷パッドと本願に係る生地からなる、敷パッドの接触温度計測に関する実験を行った。
【0031】
1は「接触冷感パッド」であって中綿を挟んでキルティングを施しクッション性を付与したものであって身体が接触する生地表面に接触冷感生地を使用している。生地に使用されている素材はポリエチレン、ナイロン及びポリエステルなどである。生地表面は平滑である。
【0032】
2は市販の他の夏用敷パッドである。表面に接触冷感生地が使用されている。
【0033】
3はメッシュ状地組織とパイル糸に同じ繊度の綿糸を使用して複数の畝を並列形成した生地であって、地組織のみからなるパイル間隙部とパイル部が交互に形成されている。具体的には、寝具横方向に幅5mm程度の細畝を三条形成し、パイル間隙部は縦方向に3cmである。
【0034】
4は本願実施例1の生地であって1.5cmごとにメッシュ状地組織のみからなる地組
織部と、5mm程度の太畝からなるパイル部を三条並列形成してなる敷パッドである。地組織のみからなるパイル間隙部とパイル畝との間に高低差が生じ、寝具と身体との間に空間が形成されている。
【0035】
測定環境は室温20℃湿度65%、被験者は50代男性である。風速約2m/秒の風を当てたのち試料に掌を10分間接触させた。この時の初期の、生地に接触している掌部分の温度、即ち生地表面温度と掌の表面温度と5分後、10分後の掌の温度を計測するとともにサーモグラフィ画像を撮影した。
【0036】
【表1】
【0037】
いずれの生地も生地に掌をあてた瞬間の生地表面の温度は20.4℃である。また、掌表面の温度も29.1℃から29.6℃の間と特に目立った差異はなかった。
【0038】
5分後、1はクッション性を付与するために内装された中綿に被験者の熱がこもるのか生地表面温度が29.1℃となった。その他の生地はいずれも5℃から6℃生地表面温度が上昇しているが、4の本願敷パッドは25.6℃と、他の生地に比べると1℃近く低い結果となり、掌表面温度も初期の29.6℃より低くなっている。
【0039】
10分経過すると、4の本願敷パッドは生地表面の温度、掌表面温度いずれも下がり、掌の汗を吸収するとともに地組織で拡散、蒸散することで接触している身体表面から熱を奪ってクーリング効果を奏したことがわかる。
【0040】
この実験により本願の寝具生地はパイル糸よる形成された畝により寝具表面が凹凸となって身体との接触面積が少ないため、寝具に体が接触しても生地表面温度が上がらない。地組織に使用される糸はパイル糸の半分以下の単糸繊度の糸が使用されているため、身体と接触するパイル糸から吸収された汗が迅速に地組織へ移行し、メッシュ状地組織(パイル間隙部)及びパイル部という広い表面積から水分が拡散、蒸発するのである。
【0041】
また、地組織のみからなるパイル間隙部にパイル部との高低差により生じる空間が形成され、通気性の高い地組織から迅速に熱が放出されるのである。
【0042】
従って、生地表面温度はいったん上昇するものの、気化熱による冷却効果を奏し、涼しく、快適な温度を保つことができるのである。
【0043】
続いて市販の綿ガーゼからなる、夏用敷パッドと本願発明品との比較実験を行った。夏用敷パッドとして市場で好評を得ている商品である。
【0044】
市販の夏用敷パッドは表面にキルティングが施されているもののきわめて平滑な表面形状を呈する編成で、綿100%である。
【0045】
一方、本願はパイル糸による横畝が敷寝具の横方向全体にわたって形成されており、パイル糸は綿100%であるが、地組織に使用される糸はパイル糸の半分程度の細さの糸を使用している。具体的には1.5cmごとにメッシュ状地組織のみからなる地組織部と、5mm程度の太畝からなるパイル部を三条並列形成してなる敷パッドである。
【0046】
結果は以下の通りである。
【0047】
【表2】
【0048】
1の試料が本願発明に係る夏用敷パッドである。2が市販の夏用敷パッドである。
【0049】
風速約2/秒の風を当て、試料に掌を10分間接触させた。この時の初期、5分後及び10分後の掌を接触させた部分の生地表面温度とての掌の表面温度計測し、また、サーモグラフィを用いて撮影した。被験者は50代男性である。
【0050】
1及び2の試料は初期の掌部分及び掌表面温度は同じであるが、5分後、掌接触部分及び掌表面いずれも2度近い差が生じている。10分後においても1の本願夏用敷パッドは高いクーリング効果を奏し、接触部分及び掌表面においても1度以上温度が低くなっている。
【0051】
また、1の試料である、本願発明に係る夏用敷パッドについてバイレック法による吸水性についても実験を行っている。比較対象は高い吸水性をうたった市販のタオルである。本願の夏用敷パッドの10分後の吸水結果は縦方向に55mm、横方向に140mm、一方、市販のタオルは縦方向に48mm、横方向に42mmであった。縦方向及び横方向共に本願発明に係る夏用敷パッドのほうが吸水性に優れ、特に横方向においては3倍以上の水分拡散性を示す結果となった。すなわち本願発明品は地組織がメッシュ状に編成されているため、水分拡散性に優れ、さらに寝具横方向に形成された複数の畝がラジエーターのフィンのように作用し、大きな寝具表面積から、いったん吸い上げた水分を素早く蒸発させる効果と気化の際に熱を奪う、いわゆるクーリング効果に優れているのである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願にかかる寝具は敷パッドやタオルケットなどの寝装品、パジャマなどにも応用可能である。

【要約】
【課題】吸水性、水分拡散性及び速乾性を有する、経編機で編成された寝具であって、汗などの水分を迅速に吸水・拡散し、生地から蒸発するときの気化熱によりクーリング効果を奏する夏用寝具を提供することを目的とする。
【解決手段】地組織にパイル糸が係止される生地において、パイル糸に綿糸を含む糸を使用し、地組織を構成する糸にパイル糸に使用した綿繊維の半分以下の単糸繊度のポリエステル系繊維又はナイロン系繊維を含む繊維を使用してメッシュ状に編成した地組織のみのパイル間隙部と、畝状に並行に形成されたパイル部とを交互に配置して寝具を製造する。パイル糸と地組織との繊維の太さの差から生じる毛細管現象を利用した吸水・拡散速度を促進し、パイル糸と地組織との高低差により肌との接触面積を減らすとともに通気性を高める。さらに脱脂加工を施し、綿糸の油分を取り除き吸水性能を高めるのである。
【選択図】図1
図1