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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】神経伝達物質分泌抑制組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240924BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240924BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240924BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240924BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240924BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240924BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240924BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20240924BHJP
   A61K 36/758 20060101ALI20240924BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240924BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240924BHJP
   C07D 311/30 20060101ALN20240924BHJP
   C07D 493/06 20060101ALN20240924BHJP
   C07H 17/07 20060101ALN20240924BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/64
A61K8/49
A61Q19/08
A61K45/00
A61K38/08
A61K38/02
A61K31/352
A61K36/758
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P17/00
C07D311/30
C07D493/06
C07H17/07
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021549366
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 KR2020095007
(87)【国際公開番号】W WO2020171682
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0021265
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0002573
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514112488
【氏名又は名称】エルジー・エイチアンドエイチ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウ-ソン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ユン-スン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ム-ヒュン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ネ-ギュ・カン
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107854355(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0080476(KR,A)
【文献】特表2018-511615(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106963820(CN,A)
【文献】韓国特許第10-0883757(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第2008-0056576(KR,A)
【文献】韓国公開特許第2008-0082955(KR,A)
【文献】Hyalinum Lifting Ampoule,MINTEL GNDP,ID#:5343931,2018年01月
【文献】Hyalinum Lifting Mask,MINTEL GNDP,ID#:5343933,2018年01月
【文献】Botal Tension-Up Mask,MINTEL GNDP,ID#:6431741,2019年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
KOSMET(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)サンショウ(Zanthoxylum piperitum)果実抽出物と、(ii)SNARE形成抑制剤との組合せを有効成分として含む、神経伝達物質分泌抑制用の組成物であって、
前記サンショウ果実抽出物が3~50ppmのクエルシトリン(quercitrin)を含み、
前記SNARE形成抑制剤がアルジレリン及びA型ボツリヌス神経毒素軽鎖(BoNT/A LC)からなる群より選択される一つ以上であり、
全体組成物中に含まれる前記サンショウ果実抽出物の重量が、前記SNARE形成抑制剤の重量に対して同量以上であることを特徴とする神経伝達物質分泌抑制用の組成物
【請求項2】
前記組成物が、皮膚しわを改善するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記サンショウ果実抽出物は、サンショウ果実の搾汁抽出物、超音波抽出物、水抽出物、炭素数が1~4である低級アルコール水溶液抽出物及び炭素数が1~4である低級アルコール抽出物からなる群より選択される一つ以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記(i)サンショウ果実抽出物100~500ppmと、前記(ii)SNARE形成抑制剤10~100ppmと、を含み、含まれたサンショウ果実抽出物の重量がSNARE形成抑制剤の重量に対して同量以上であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、化粧料組成物であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の組成物を含む、化粧品。
【請求項7】
(i)サンショウ(Zanthoxylum piperitum)果実抽出物と、(ii)SNARE形成抑制剤との組合せを含む化粧料組成物を対象体に適用することを含む、皮膚美容の目的のために神経伝達物質の分泌を抑制する方法であって、
前記サンショウ果実抽出物が3~50ppmのクエルシトリンを含み、
前記SNARE形成抑制剤がアルジレリン及びA型ボツリヌス神経毒素軽鎖(BoNT/A LC)からなる群より選択される一つ以上であり、
全体組成物中に含まれる前記サンショウ果実抽出物の重量が、前記SNARE形成抑制剤の重量に対して同量以上であることを特徴とする、皮膚美容の目的のために神経伝達物質の分泌を抑制する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経の膜電位生成抑制による神経伝達物質分泌抑制組成物及びそれを含む皮膚しわ改善用の化粧料組成物に関する。
【0002】
本出願は、2019年02月22日出願の韓国特許出願第10-2019-0021265号及び2020年01月08日出願の韓国特許出願第10-2020-0002573号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
老化とは、時間が経つことによって身体機能及び能力が退化する現象であって、ヒトを含めたほとんどの生物体に現われる普遍的な現象である。皮膚しわの増加は、老化によって現われる外部的な変化の中でも、目立つ変化の一つである。老化によって顔及び全身にわたってしわが増加するようになり、しわの形成には老化のみならず、皮膚の水分度、紫外線に対する露出程度、筋肉の反復的な動きなどが関与する。筋肉を頻繁に動く眉間、目もと、口周りなどに深いしわができる場合が多くて、反復的な筋肉の動きまたは表情によって生成されるしわを表情しわという。
【0004】
ボツリヌス毒素(Botulinum toxin)とは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が生成する神経毒性タンパクである。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部に作用して、神経細胞からの神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌を抑制して筋肉を麻痺させる役割を果たす。神経細胞からアセチルコリンが分泌されるには、軸索の末端でSNARE複合体が形成されなければならず、ボツリヌス毒素(血清型A)の場合、SNARE複合体の構成タンパク質の一つであるSNAP-25を切断してSNARE複合体の形成を阻止し、結果的にアセチルコリンの分泌を抑制する。
【0005】
ボツリヌス毒素は、筋肉を麻痺させてしわを改善する効果に優れる。最近、ボツリヌス毒素が美容の目的で大衆的によく使用されているが、半数致死量が10ng/kgにすぎない強い毒物であることから安全事故の危険性があり、専門医によってのみ施術可能であるため、消費者が近付しにくいという短所がある。また、施術のためには、侵襲的手術が必ず必要であるという短所がある。このような短所を補うために、副作用が低く、化粧料、外用剤などに適用可能なボトックスに類似の効能を有する素材の開発が求められている実情である。
【0006】
本明細書の全体に亘って多数の文献が参照され、その引用が示されている。引用された文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として挿入され、本発明が属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、神経伝達物質分泌抑制の効果を奏しながらも副作用のないボトックス類似の効能物質を開発するために鋭意研究した結果、多様な天然原料の中で、サンショウ果実抽出物をSNARE形成抑制剤と組み合わせる場合、神経伝達物質分泌の抑制効果及びしわ改善効果において各々の原料が有する効果よりも顕著なシナジー効果を奏することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
したがって、本発明は、サンショウ果実抽出物とSNARE形成抑制剤との組合せを有効成分として含む神経伝達物質分泌抑制用の組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記組成物を含む皮膚しわ改善用の化粧料組成物及び化粧品を提供することを他の目的とする。
【0010】
本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解でき、本発明の実施例によってより明らかに理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点は、(i)サンショウ(Zanthoxylum piperitum)果実抽出物と、(ii)SNARE形成抑制剤との組合せを有効成分として含む、神経伝達物質分泌抑制用の組成物を提供することである。
【0012】
サンショウは、伝統的に局所痲酔、陣痛効果のあるひりひりした神経刺激がある植物であり、葉、幹または果実を乾かして使用する。サンショウの葉、幹または果実抽出物は、主に、抗菌、抗ウイルス、抗アレルギー、陣痛及び紫外線遮断などに効果を奏すると知られている。
【0013】
本発明の組成物は、有効成分として、サンショウ果実抽出物とSNARE形成抑制剤との組合せを含み、本明細書で使用される用語「抽出物」とは、原物を搾汁、または原物に抽出溶媒を処理して得た抽出結果物やこれを剤形化(例えば、粉末化)した加工物を含む意味である。
【0014】
本発明の組成物に用いられる抽出物を、原物に抽出溶媒を処理して得る場合には、多様な抽出溶媒が用いられる。例えば、極性溶媒または非極性溶媒を用い得る。極性溶媒としては、(i)水、(ii)アルコール(望ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、1-ペンタノール、2-ブトキシエタノール又はエチレングリコール)、(iii)酢酸、(iv)DMFO(dimethyl-formamide、ジメチルホルムアミド)及び(v)DMSO(dimethyl sulfoxide、ジメチルスルホキシド)などを使うことができ、非極性溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、エチルアセテート、メチルアセテート、フルオロアルカン、ペンタン、ヘキサン、2,2,4-トリメチルペンタン、デカン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ジイソブチレン、1-ペンテン、1-クロロブタン、1-クロロペンタン、o-キシレン、ジイソプロピルエーテル、2-クロロプロパン、トルエン、1-クロロプロパン、クロロベンゼン、ベンゼン、ジエチルエーテル、ジエチルスルフィド、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、アニリン、ジエチルアミン、エーテル、四塩化炭素及びテトラヒドロフラン(THF)などを使い得る。
【0015】
望ましくは、本発明に用いられる抽出物は、原物を搾汁するか、または超音波抽出器を用いて抽出するか、または水、炭素数が1~4である低級アルコール及びこれらの混合物からなる群より選択されたいずれか一つを抽出溶媒として使用して抽出したものであり得るが、これらに制限されない。より望ましくは、本発明で用いられる抽出物は、サンショウ果実のエタノールまたはエタノール水溶液抽出物である。
【0016】
また、本明細書で使用される用語「抽出物」は、上述したように当業界で生抽出物(crude extract)で通用する意味を有するが、広義には、抽出物をさらに分画(fractionation)した分画物も含む。即ち、原物を搾汁または上述した抽出溶媒を用いて得た抽出物のみならず、ここに精製過程をさらに適用して得たものも含む。例えば、前記抽出物を一定の分子量カットオフ値を有する限外濾過膜を通過させて得た分画、多様なクロマトグラフィー(大きさ、電荷、疎水性または親和性による分離のために製作されたもの)による分離など、追加的に実施された多様な精製方法によって得られた分画も、本発明の抽出物に含まれる。
【0017】
また、本発明の抽出物は、以後の追加的な過程、例えば、濾過や濃縮または乾燥過程を行って溶媒を除去したもの、または、濾過、濃縮及び乾燥を共に行ったものであり得る。濾過は、例えば、濾過紙を用いるか、または減圧濾過器を用い得、濃縮は、減圧濃縮機、乾燥は、噴霧乾燥または凍結乾燥などを行って粉末状態の抽出物を得ることもできる。
【0018】
本発明の一具現例によると、前記のように製造したサンショウ果実抽出物は、3~50ppmのクエルシトリン(quercitrin)を含み、望ましくは、4ppm以上、5ppm以上、6ppm以上、7ppm以上、8ppm以上、9ppm以上、10ppm以上、11ppm以上、12ppm以上、13ppm以上、14ppm以上、15ppm以上、16ppm以上、17ppm以上、18ppm以上、19ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、40ppm以上、または50ppm以上のクエルシトリンを含み得る。
【0019】
本発明の組成物に含まれるSNARE形成抑制剤としては、神経伝達物質の排出通路を開くのに核心作用をするSNAREタンパク質を切断するか、またはSNARE複合体を不安定にする物質として当業界に知られている物質、例えば、韓国登録特許公報第10-0883757号に開示されている化合物を含むが、これに制限されることではない。具体的には、本発明の組成物に含まれるSNARE形成抑制剤は、アルジレリン(Argireline)、A型ボツリヌス神経毒素軽鎖(BoNT/A LC)、ケンペロール、ケルセチン、ミリセチン、ルテオリン、デルフィニジン、シアニジン、ブテイン及びエラグ酸からなる群より選択される一つ以上であり得る。
【0020】
本発明の組成物において、前述したサンショウ果実抽出物及びSNARE形成抑制剤は、混合物及び複合物として含まれ得る。前記混合物または複合物は、サンショウ果実抽出物及びSNARE形成抑制剤の各々の単一物質に比べて相乗効果を有することを特徴とする。より具体的に、相乗効果を奏するためには、前記全体組成物中に含まれる前記サンショウ果実抽出物の重量が、前記SNARE形成抑制剤の重量に対して同量以上になるべきである。
【0021】
韓国の「化粧品の全成分表示指針」によると、化粧品に使用された成分を含量の多い順に記載するように規定している。
【0022】
第6条(表示の順序):成分の表示は、化粧品に使用された含量が多い順に記載する。但し、混合原料は個々の成分として表示し、1%以下に使用された成分、香料及び着色剤に対しては順不同で記載することができる。
【0023】
既存のしわ改善化粧品は、いわゆる「塗るボトックス」という名前でアルジレリンを1%以下に微量含有したこともあるが、このような微量のアルジレリン単独では効果がほとんどない一方、アルジレリンを1%以上に高濃度で使用するには、合成ペプチッドの特性上、価格面で不利であり、また高濃度の使用による副作用が憂慮されるという短所があった。また、既存のしわ改善用の化粧品は、アルジレリンと共にサンショウ果実抽出物を含んだこともあったが、この場合、ローズマリー葉抽出物、緑茶抽出物など、多数の天然植物抽出物を含むと共に、サンショウ果実抽出物をコンセプト原料として極微量で含んでいるだけであった。
【0024】
しかし、本発明者が見出したことによると、サンショウ果実抽出物がアルジレリンより多いか、または少なくとも同量で含まれる場合のみに相乗効果が現われ、アルジレリンよりも少ない量でコンセプト原料として極微量を含む場合には、相乗効果を奏しない(図6参照)。
【0025】
一具現例において、本発明の神経伝達物質分泌抑制用の組成物は、前記(i)サンショウ果実抽出物100~500ppmと、前記(ii)SNARE形成抑制剤10~100ppmと、を含み、この際、含まれたサンショウ果実抽出物の重量がSNARE形成抑制剤の重量に対して同量以上であることを特徴とする。ここで、ppmとは、組成物全体重量1,000,000mgに入っている物質のmg数(またはmg/kg)を意味する。
【0026】
他の具現例で、本発明の神経伝達物質分泌抑制用の組成物に含まれる前記サンショウ果実抽出物の含量は、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、500ppm以上、600ppm以上、700ppm以上、800ppm以上、900ppm以上、または1,000ppm以上であり得、前記SNARE形成抑制剤の含量は、10ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、または400ppm以上であり得るが、SNARE形成抑制剤の含量がサンショウ果実抽出物の含量を超過しない。
【0027】
このように、サンショウ果実抽出物が、アルジレリンなどのSNARE形成抑制剤よりも多く、または少なくとも同量で含まれる本発明の組成物は、SNARE複合体形成抑制に関わる相乗効果を奏することで、神経伝達物質を活性的に分泌できないようにし、これによって、筋収縮が起こりにくくなり、皮膚しわを改善する効果を奏する。本発明のこのような実質的なしわ緩和の効果に基づいて、前記サンショウ果実抽出物とSNARE形成抑制剤との組合せを含む皮膚しわ改善用の化粧料組成物を提供する。
【0028】
本発明の化粧料組成物は、ボトックスに類似な効能を示し、ボトックス類似の効能とは、しわ改善、リフティング、皮脂分泌改善、にきび改善、汗分泌抑制(多汗症改善)、目の下のくぼみ改善、目の下の涙袋形成、筋弛緩及び痛症緩和、偏頭痛の改善などを意味する。
【0029】
前記化粧料組成物を皮膚外用剤として使用する場合、脂肪物質、有機溶媒、溶解剤、濃縮剤、ゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤、芳香剤、界面活性剤、水、イオン性または非イオン性乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート化剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、必須オイル、染料、顔料、親水性または親油性活性剤、脂質素嚢または皮膚用外用剤に通常使用される任意の他の成分のような皮膚科学分野で通常使用される補助剤をさらに含み得る。また、前記成分は、皮膚科学分野において通常使用される量で含まれ得る。
【0030】
前記しわ改善用の組成物が皮膚外用剤の剤形で提供される場合、軟膏、パッチ、ゲル、クリームまたは噴霧剤のような剤形を有し得るが、これらに制限されない。
【0031】
また、本発明のしわ改善用の組成物は、化粧品の製造に用いられ得る。前記組成物を化粧品として使用する場合、一般的な乳化剤形及び可溶化剤形の形態に製造し得る。例えば、柔軟化粧水または栄養化粧水などのような化粧水、フェイシャルローション、ボディーローションなどのような乳液、栄養クリーム、水分クリーム、アイクリームなどのようなクリーム、エッセンス、化粧軟膏、スプレー、ゲル、パック、サンスクリーン、メークアップベース、液状、固状またはスプレータイプなどのファウンデーション、パウダー、クレンジングクリーム、クレンジングローション、クレンジングオイルのようなメークアップ除去剤、クレンジングフォーム、せっけん、ボディウォッシュなどのような洗浄剤などの剤形を有し得る。
【0032】
また、前記化粧品は、脂肪物質、有機溶媒、溶解剤、濃縮剤、ゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤、芳香剤、界面活性剤、水、イオン性または非イオン性乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート化剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、必須オイル、染料、顔料、親水性または親油性活性剤、脂質素嚢または化粧品に通常使用される任意の他の成分のような皮膚科学分野で通常使用される補助剤をさらに含み得る。
【発明の効果】
【0033】
本発明による神経伝達物質分泌抑制用の組成物は、SNARE複合体形成抑制に関わるシナジー効果を奏することで、神経伝達物質を活性的に分泌できないようにし、これによって、筋収縮が起こりにくくなり、皮膚しわを改善する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】サンショウ果実に含有されていると知られたハイペロサイド(hyperoside)とクェルシトリン(quercitrin)各々の筋収縮抑制効果を確認した結果を示す。
図2】神経細胞におけるサンショウ果実抽出物の電気信号伝達抑制能を示す。
図3】サンショウ果実抽出物の神経伝達物質分泌の抑制効果を示す。
図4】サンショウ果実抽出物の細胞毒性評価を示す。
図5】サンショウ果実抽出物の筋麻痺効能を示す。
図6】サンショウ抽出物とアルジレリン(アセチルヘキサペプチド-8)との相乗効果を示す。
図7】アルジレリン単独処理時の筋収縮抑制効果を示す。
図8】サンショウ抽出物とボトックス類似の効能物質であるBoNT/A LCとの相乗効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。しかし、これらは本発明をより詳細に説明するためのものであるだけで、本発明の権利範囲がこれによって限定されないことは本発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者にとって自明であろう。
【実施例
【0036】
1.サンショウ抽出物の製造及び効能成分の確認(図1
(1)サンショウ抽出物の製造
サンショウ(Zanthoxylum piperitum)果実を洗浄、乾燥及び粉碎し、それを用いてサンショウエタノール抽出物を製造した。具体的には、エタノール抽出物は、抽出溶媒として70%エタノールを加えて、常温で2時間抽出した後、得られた抽出物を濾過し濃縮して粉末化する方法で製造した。
【0037】
(2)効能成分の確認
サンショウ果実に含有されていると知られたハイペロサイド(hyperoside)とクェルシトリン(quercitrin)各々の筋収縮抑制効果をテストするために、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)システムを導入した。線虫は、野生型N2株(wild-type N2 strain)を用い、CGC(Caenorhabditis Genetics Center)から供給を受けた。同調された若い成虫期(Synchronized young-adult stage)のシノラブディス・エレガンスをM9(+0.01%PEG,0.1%DMSO)バッファーで採取して2回ウォッシング及びスピンダウンした後、適正量のM9バッファーで希釈して50ulずつe-チューブに分配した。各化合物を入れた後、最終反応体積を1mlに合わせた。各化合物を20℃のインキュベーターで1時間処理した後、1mlを全て24ウェルプレートに移してビデオ録画を行った。録画されたビデオで、左右一回の往復をスイミング回数1回にして10匹に対して20秒間のスイミング回数を測定し、1分当たりのスイミング回数を計算した。筋麻痺効果は、100-(実験群のスイミング回数)/(対照群のスイミング回数)×100で計算した。エラーバーはS.E.M(Standard Error of Mean)で計算し、統計処理はスチューデントt検定(Student’s t test)を用いた。
【0038】
実験結果、ハイペロサイドの筋収縮効果は微々たることに対し、クェルシトリンの場合、筋収縮抑制効果が確認された(図1)。
【0039】
(3)クェルシトリンの含量確認
前記製造したサンショウエタノール抽出物とサンショウ熱水抽出物、サンショウ超音波抽出物に含まれているクェルシトリンの含量を測定した。サンショウ熱水抽出物は、BIO FD&C社の「サンショウ果実抽出物」を使用し、サンショウ超音波抽出物は、The Garden of Naturalsolution社のJeju Chophi(サンショウ果実抽出物)を使用した。超音波抽出したサンショウ抽出物のクェルシトリンの含量は4ppmであり、熱水抽出物の場合、クェルシトリン含量3ppm、エタノール抽出物の場合、クェルシトリン含量は9ppmで測定されることから、他の溶媒抽出法よりもエタノール抽出時にクェルシトリンの含量が大幅高くなることが確認された。一方、カホクザンショウ(Zanthoxylum bungeanum)抽出物であるIndena社の「Zanthalene」からは、クェルシトリンが検出されなかった(1ppm未満)。
【0040】
2.神経細胞における電気信号伝達抑制能力(図2
(1)実験方法
上記のように製造したサンショウ果実(Zanthoxylum piperitum fruit)エタノール抽出物を用いて神経細胞における電気信号伝達抑制能力を測定した。具体的には、神経細胞株であるNG108-15でKCl刺激によるカルシウムイオン流入の変化を測定するために、FLIPR Calcium Assay Kitを使用した。NG108-15を1×10セル/ウェルになるよう、ポリ-L-リシンがコーティングされた96ウェルプレートに分注した。分注してから3日後にサンショウ果実抽出物をserum-free DMEMに希釈して1時間処理した。その後、ローディングバッファーを処理し、37℃でCOインキュベーターで2時間培養した。ローディングバッファーには、カルシウムイオンに反応する蛍光物質を含み、マスキングダイ(masking dye)によって細胞内のカルシウムイオンのみと反応して蛍光を示す。培養後、FlexStationを用いて細胞に70mM KClで刺激を与え、485/525nmで蛍光を測定した。
【0041】
(2)実験結果
神経細胞において70mM KClで脱分極を誘導すると、Ca2+が細胞内に流入する。ここにサンショウ果実抽出物を共に処理すると、脱分極によるCa2+の流入が有意に抑制された(図2)。これによって、サンショウ果実抽出物が神経細胞で電気信号の伝達を抑制する能力があることが分かった。
【0042】
3.サンショウ果実抽出物の神経伝達物質分泌の抑制効果(図3
(1)実験方法
神経細胞と筋細胞の共同培養条件で、神経伝達物質の分泌変化を調べるために、Neurotransmitter Transporter Uptake Assay Kitを使用した。共同培養してから3日目に、染料溶液を30分間処理し、その後、前記製造したサンショウ果実抽出物をHBSS buffer(HBSS+20mM HEPES)に希釈して30分間処理した。染料溶液は、神経伝達物質を模倣する蛍光物質とマスキングダイを含むようにした。マスキングダイによって蛍光物質が細胞内に入ると、蛍光を示し、放出されると、蛍光が消える。処理後、FlexStationを用いて細胞に70mM KClで刺激を与えて485/525nmで蛍光を測定した。
【0043】
(2)実験結果
サンショウ果実抽出物が電気信号の伝達を抑制して最終的に神経伝達物質分泌を抑制するかを確認した。神経伝達物質は、神経細胞に活動電位が発生するとき、シナプス前ニューロン(Presynaptic neuron)におけるシナプス間隙から放出される。放出された神経伝達物質は、筋肉にあるシナプス後ニューロン(postsynaptic neuron)の水溶体に結合して運動ニューロンに活動電位を生成し、その後、信号は筋収縮に変換される。この過程を研究するために、神経筋接合部(neuromuscular junction)が形成された環境が適切な研究条件となるため、NG108-15とC2C12を共培養して神経筋接合部を形成するインビトロ条件を作った。
【0044】
実験結果、対照群と比較したとき、KCl処理後に蛍光値が減ったことから、KCl処理が神経伝達物質の分泌を促進したことが分かった。ここに、サンショウ果実抽出物を共に処理したところ、KClによる神経伝達物質の分泌が減少することが観察された(図3)。これによって、サンショウ果実抽出物が神経伝達物質の分泌を抑制することを確認した。
【0045】
4.サンショウ果実抽出物の細胞毒性評価(図4
(1)実験方法
サンショウ果実抽出物の処理濃度に対する細胞毒性を確認するために、細胞生存率の測定は、MTT assayで行った。NG108-15細胞を1×10セル/ウェルになるように、ポリ-L-リシンがコーティングされた96ウェルプレートに分注し、24時間培養してプレートに付着した。その後、二つ物質を濃度別にserum-free DMEMに希釈して細胞に処理した後、COインキュベーターで4時間培養した。上澄液を除去した後、serum-free DMEMに溶かした0.5mg/ml MTT溶液を細胞に100μLずつ処理し、3時間反応させた。反応後、MTT溶液を除去してホルマザン結晶(formazan crystal)を溶解するために、イソプロパノール100μLを入れて10分撹拌して、マイクロプレートリーダーで540nmで吸光度を測定した。
【0046】
(2)実験結果
サンショウ果実抽出物を、12.5、25、50ppm処理したとき、全ての濃度で100%以上の細胞生存率を示すことから、細胞毒性がないことを確認することができた(図4)。
【0047】
5.サンショウ果実抽出物の筋麻痺効能(図5
上記1.(2)で記述したように、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)システムを用いて、上記のように製造したサンショウ果実抽出物の筋麻痺効能をテストした。
【0048】
実験結果、サンショウ果実抽出物を線虫に処理したとき、濃度によって筋麻痺効果が増加した。サンショウ抽出物0.01%では筋麻痺効果がなかったが、サンショウ抽出物0.05%処理時に8.5%、サンショウ抽出物0.1%処理時に24.1%の筋麻痺効果を奏した(図5)。これによって、サンショウ果実抽出物を処理したとき、個体水準で筋麻痺効能を奏することを確認した。また、以前の細胞実験結果に基づいて、ボトックスの機序と類似にサンショウ果実抽出物が神経細胞からの神経伝達物質の分泌を抑制することで筋麻痺を誘導することを類推することができる。
【0049】
6.サンショウ抽出物とアルジレリンとの組合せの相乗効果試験(図6及び図7
サンショウ果実抽出物とボトックス効能素材との相乗効果をテストした。先ず、神経細胞において、SNAP-25と結合してSNAREの形成を抑制するアルジレリン(アセチルヘキサペプチド-8)との相乗効果をテストした。
【0050】
実験結果、サンショウ抽出物をアルジレリンよりも少なく(サンショウ50ppm、アルジレリン100ppm)使用すると、相乗効果が現われない一方、最小限のサンショウ抽出物をアルジレリンと同量以上に使用した場合に相乗効果が現われることが確認された(図6)。また、アルジレリン(100ppm)の筋収縮抑制効果がサンショウ抽出物500ppmによって約15倍以上増加することが確認された(図6)。
【0051】
このような効果をアルジレリン単独処方で奏するためには、どのくらいの量を処理すべきであるかを把握するために、アルジレリンの量を次第に増加させていきながら実験した結果、アルジレリン100ppmとサンショウ抽出物500ppmとの組合せと同等な水準の効果を得るためには、アルジレリンの単独処方時、100,000ppmの処方が必要となることが確認された(図7)。
【0052】
7.サンショウ抽出物とBoNT/A LCとの組合せの相乗効果試験(図8
次に、サンショウ果実抽出物がボツリヌス毒素の効能部分の素材にも相乗効果を奏するかをテストした。ボツリヌス毒素の場合、毒性が非常に強くて規制が厳しいことから実験に使いにくいことから、ボツリヌス毒素タンパク質において酵素活性のある部位であるライトチェーン部位(BoNT/A LC)を用いて相乗効果を測定した。ボツリヌス毒素の筋麻痺効果のようにBoNT/A LC単独で0.002%(20ppm)処理時、50%ほどの筋麻痺効果が得られ、これによって、ボツリヌス毒素のようにBoNT/A LCもボトックス効能を奏することが分かる。相乗効果をテストするために、BoNT/A LCにサンショウ果実抽出物0.01%を共に処理した結果、20%以上の相乗効果が現われた(図8)。このような結果から、サンショウ果実抽出物が、ボトックスと類似な効能を奏する素材全般にわたって相乗効果を奏することが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8