(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/22 20060101AFI20240924BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2021016104
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】森 文太
(72)【発明者】
【氏名】三木 陽介
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-232253(JP,A)
【文献】特開2014-047693(JP,A)
【文献】特開2016-117316(JP,A)
【文献】特開2019-189192(JP,A)
【文献】特開2020-156134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関によって駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータと、
前記発電用モータジェネレータが発電した電力を蓄える蓄電装置と、
前記発電用モータジェネレータまたは蓄電装置から電力の供給を受けて車両の駆動輪を駆動する走行用モータジェネレータと
を備える車両の内燃機関を制御する制御装置であって、
当該車両をテストベンチに載せて試験走行する際、イグニッションスイッチを所定回数押下後アクセルペダルから足を離す操作が行われたことを条件として、ファイアリングしていた
前記内燃機関の気筒への燃料供給を停止する燃料カットを行い、
前記発電用モータジェネレータを電動機として作動させて前記内燃機関を回転駆動するモータリングに移行し、排気通路における排気浄化用の触媒の下流に設置された空燃比センサの出力信号を参照してその異常の有無を判定する
、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記条件が満たされたとき、
前記内燃機関のファイアリングを必要とする他の要素が
、前記内燃機関に出力を要求しているか否かを確認し、
出力が要求されておらず前記モータリングへ移行することが許される場合に、前記空燃比センサの異常の有無を判定する
、請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
内燃機関と、
前記内燃機関によって駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータと、
前記発電用モータジェネレータが発電した電力を蓄える蓄電装置と、
前記発電用モータジェネレータまたは蓄電装置から電力の供給を受けて車両の駆動輪を駆動する走行用モータジェネレータと
を備える車両の内燃機関を制御する制御装置であって、
当該車両をテストベンチに載せて試験走行する際、特定の操作が行われたとき、前記内燃機関のファイアリングを必要とする他の要素が、前記内燃機関に出力を要求しているか否かを確認し、出力が要求されておらず前記発電用モータジェネレータを電動機として作動させて前記内燃機関を回転駆動するモータリングへ移行することが許される場合に、ファイアリングしていた前記内燃機関の気筒への燃料供給を停止する燃料カットを行い、前記モータリングに移行し、排気通路における排気浄化用の触媒の下流に設置された空燃比センサの出力信号を参照してその異常の有無を判定する、内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記モータリング移行後の前記空燃比センサの出力信号の変化量の絶対値が判定値よりも大きいならば、前記空燃比センサが正常だと判定する、請求項1または3記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の運転を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、内燃機関及び電動機の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献1を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、内燃機関の気筒に燃料を供給して燃焼させるファイアリングを行わなくとも、走行用モータジェネレータが蓄電装置に蓄えた電荷を消費して回転駆動力を出力し、車両を走行させることが可能である。よって、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【0005】
蓄電装置に蓄えている電荷の量が減少したときや、走行用モータジェネレータに対する要求出力が大きいときには、内燃機関を始動してファイアリング運転し、内燃機関の出力する回転駆動力により発電用モータジェネレータを駆動、発電を実行して、蓄電装置を充電しまたは走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。ファイアリング中は、エンジン回転数毎の目標エンジントルク(または、エンジン負荷率、スロットルバルブ開度、吸入空気量、燃料噴射量)を結ぶ動作線に沿って、内燃機関の出力を制御する。目標エンジントルクは、対応するエンジン回転数の下で熱効率が最大化するような値に設定する。
【0006】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をクランキングする役割を兼ねる。クランキング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【0007】
一般に、内燃機関の排気通路には、ファイアリング中に気筒から排出される排気ガス中に含まれる有害物質HC、CO、NOxを酸化/還元して無害化する三元触媒が装着されている。HC、CO、NOxの全てを効率よく浄化するには、混合気の空燃比をウィンドウと称する理論空燃比近傍の一定範囲に収める必要がある。
【0008】
そのために、従来より、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設置し、空燃比センサの出力信号を参照して、排気通路を流れるガスの空燃比を理論空燃比またはその近傍の目標空燃比にフィードバック制御している。内燃機関の運転制御を司るECU(Electronic Control Unit)は、気筒に吸入される空気(新気)の量に比例する基本噴射量に、ガスの実測空燃比に応じて変動するフィードバック補正係数を乗じることで、インジェクタから気筒に対する燃料噴射量を決定する(例えば、下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2020-156134号公報
【文献】特開2020-084902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
内燃機関からの有害物質の排出を適正に抑止するためには、その排気通路に設置した空燃比センサが正常に機能している必要がある。当然ながら、内燃機関を搭載した車両を出荷する際には、空燃比センサに異常がないかどうかを検査している。
【0011】
ハイブリッド車両でない、専ら内燃機関が出力するエンジントルクを駆動輪に入力して走行する従来型の車両では、運転者がアクセルペダルの踏み込みを緩め、またはアクセルペダルから足を離して車速の減速を要求したときに、気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実施する。従来型の車両では、その走行時に内燃機関のクランクシャフトと駆動輪とが機械的に連結されており、燃料カット中も駆動輪の惰性回転が内燃機関のクランクシャフトに伝達されてエンジン回転が維持される。
【0012】
これを利用して、排気通路における触媒の下流に設置した空燃比センサの異常の有無を検査することが可能である。より具体的に述べると、出荷前の車両をテストベンチに載せて試運転を行い、アクセルペダルを踏み込んで高車速で走行している状況から、アクセルペダルの踏み込みを緩める。さすれば、ECUの機能により燃料カットが開始され、内燃機関が回転を続けている間、吸気通路から気筒を経て排気通路に燃料成分を含まない空気が流れ込む。排気浄化用の触媒は、ある程度以上の量の酸素を吸蔵する能力を有している。触媒に流入する空気に含まれる酸素が触媒の酸素吸蔵能力一杯まで吸着されると、その後、酸素を含んだ空気が触媒の下流に流出するようになる。触媒の下流に設置した空燃比センサが正常なものであれば、このときに当該センサの出力する信号が変動する、即ち当該センサを介して検出される空燃比がリッチまたはストイキオメトリからリーンへと変化する。
【0013】
だが、走行時にあっても内燃機関と駆動輪とが切り離される、換言すれば駆動輪の回転が内燃機関のクランクシャフトに伝達されない態様のハイブリッド車両では、上述の手法に則って触媒の下流に設置した空燃比センサの検査を遂行することが困難である。燃料カットを開始しても内燃機関が駆動輪に連れ回されて回転を続ける状態を作出できず、燃料カットの直後からエンジン回転数が急落し、早期に内燃機関が停止するに至るからである。エンジン回転が停止してしまうと、吸気通路から排気通路に向かう空気の流通が滞る。それ故、酸素を含んだ空気が触媒の下流に流出せず、触媒の下流に位置する空燃比センサがリーン空燃比を検出することもない。結局、その空燃比センサが正常に機能するかどうかが判然としない。
【0014】
本発明は、以上の点に着目してなされたものであり、内燃機関の排気通路の触媒の下流に設置した空燃比センサの異常の有無の検査を適切に遂行できるようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、内燃機関と、前記内燃機関によって駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータと、前記発電用モータジェネレータが発電した電力を蓄える蓄電装置と、前記発電用モータジェネレータまたは蓄電装置から電力の供給を受けて車両の駆動輪を駆動する走行用モータジェネレータとを備える車両の内燃機関を制御する制御装置であって、当該車両をテストベンチに載せて試験走行する際、特定の操作が行われたことを条件として、ファイアリングしていた前記内燃機関の気筒への燃料供給を停止する燃料カットを行い、前記発電用モータジェネレータを電動機として作動させて前記内燃機関を回転駆動するモータリングに移行し、排気通路における排気浄化用の触媒の下流に設置された空燃比センサの出力信号を参照してその異常の有無を判定する、内燃機関の制御装置を構成した。特定の操作とは、例えば、イグニッションスイッチ(または、パワースイッチ、イグニッションキー)を所定回数押下後アクセルペダルから足を離す操作である。
【0016】
特に、ハイブリッド車両では、複数の要因に基づいて内燃機関をファイアリング運転する。このことから、各要素による要求を調停して内燃機関を制御する必要があり、前記条件が満たされたとき、前記内燃機関のファイアリングを必要とする他の要素が、前記内燃機関に出力を要求しているか否かを確認し、出力が要求されておらず前記モータリングへ移行することが許される場合に、前記空燃比センサの異常の有無を判定するようにすることが好ましい。前記空燃比センサの異常の有無の判定にあっては、例えば、前記モータリング移行後の前記空燃比センサの出力信号の変化量の絶対値が判定値よりも大きいならば、前記空燃比センサが正常だと判定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内燃機関と駆動輪とが切り離される態様の車両において、内燃機関の排気通路の触媒の下流に設置した空燃比センサの異常の有無の検査を適切に遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
【
図3】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図4】同実施形態の制御装置が実施する触媒下流の空燃比センサの検査の模様を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0020】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトと、車両の駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0021】
内燃機関1のクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と、歯車機構を介してまたは軸を直結して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのクランキングを実行する。
【0022】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0023】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しつつ、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0024】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0025】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0026】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0027】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、例えば火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。
図2には、そのうち一つを図示する)を有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0028】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、吸気絞り弁である電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の位置、即ち空気を取り入れる吸気口に所在する。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0029】
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。
【0030】
排気通路14における触媒141の上流及び下流には、排気通路14を流通するガスの空燃比を検出するための空燃比センサ143、144を設置する。空燃比センサ143、144は、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよく、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよい。本実施形態では、触媒141の上流の空燃比センサ143としてリニアA/Fセンサを、触媒141の下流の空燃比センサ144としてO2センサを、それぞれ想定している。リニアA/Fセンサ143の出力電圧fは、触媒41に流入するガスの空燃比がリーンであるほど高くなる。これに対し、O2センサ144の出力電圧gは、触媒141から流出するガスの空燃比がリーンであるほど低くなる。特に、理論空燃比近傍の一定範囲では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比がリーンである領域では低位飽和値に漸近し、それよりも空燃比がリッチである領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
【0031】
因みに、排気通路14における触媒141及び空燃比センサ144の下流に、さらなる排気浄化用の触媒(図示せず)を付設することがある。
【0032】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0033】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関1の気筒11に連なる吸気通路13(特に、サージタンク133若しくは吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号e、内燃機関1の排気通路14の触媒141の上流側におけるガスの空燃比を検出する空燃比センサ143から出力されるフロント空燃比信号f、触媒141の下流側におけるガスの空燃比を検出する空燃比センサ144から出力されるリア空燃比信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
【0034】
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
【0035】
原則として、蓄電装置3が現在十分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が下限値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力により発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0036】
ECU0の一部をなすHV ECU00が、ファイアリング中の内燃機関1の目標出力即ちエンジン回転数及びエンジントルクを決定する手法に関して補足する。HV ECU00は、
(i)運転者が操作するアクセル開度に応じた、現在運転者が走行用モータジェネレータ4に対して要求している走行駆動出力
(ii)現在の蓄電装置3の蓄電量(SOC)に応じた、蓄電装置3を充電するための発電出力
(iii)現在ブレーキブースタ15に蓄えている負圧の大きさに応じた、ブレーキブースタ15に負圧を補給するための出力
(iv)運転者が車室内暖房を使用している場合の熱源となるヒータコアの温度の維持
等の諸要素がそれぞれ要求する出力を調停し、より優先順位が高い要素の要求が満たされるよう、内燃機関1の目標エンジン回転数及び目標エンジントルクを決定する。そして、その目標エンジン回転数及び目標エンジントルクを、ECU0の一部をなすEFI ECU001に対して指令する。EFI ECU001は、HV ECU00から指令された目標エンジン回転数及び目標エンジントルクを達成するべく、内燃機関1の運転を制御する。
【0037】
上に挙げたものの中では、(i)が最も優先順位が高く、(iv)が最も優先順位が低い。具体例を挙げて述べると、蓄電装置3の蓄電量が十分であり(ii)による要求出力が低くとも(つまりは現状、充電の必要性に乏しい)、運転者がアクセルペダルを強く踏み込み車両の急加速を要求しているならば、(i)による要求出力を達成できるようにエンジン回転数及びエンジントルクを決定する。(iv)は、暖房使用中にヒータコアの温度がある値以下に降下するようであれば内燃機関1のファイアリングを続行して冷却水を加温する必要がある、という程度のことであり、(i)ないし(iii)の何れも内燃機関1に対して特段出力を要求していないときにはじめて参酌される。つまり、暖房使用中でなければ、内燃機関1のファイアリングを停止することになる。
【0038】
EFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報b、d、f、gを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0039】
ところで、本実施形態のECU0は、内燃機関1の排気通路14の触媒141の下流に設置した空燃比センサ144の異常の有無を自動で検査する機能を備えている。
【0040】
図3に示すように、ECU0は、人の手によりある特定の操作が行われたことを感知した場合において(ステップS1)、内燃機関1をファイアリングして運転している最中に(ステップS2)内燃機関1をファイアリングからモータリングに移行することが許容されるかどうかを判断し(ステップS3)、モータリングに移行することが許される状況であるならば、気筒11に対するインジェクタ111からの燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを行い(ステップS4)、かつ発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動するモータリングを開始する(ステップS5)。ファイアリングからモータリングへの移行は、後述するように、駆動輪62から機械的に切り離された内燃機関1の空燃比センサ144の検査を完遂するために必須となる処置である。
【0041】
ステップS1にいう特定の操作とは、触媒141の下流の空燃比センサ144の検査を開始するトリガとなる操作を意味する。基本的に、その操作は、内燃機関1を搭載した車両を工場から出荷するにあたり、対象の車両をテストベンチに載せて試験走行する際に作業者の手により実行されるものである。であるから、この特定の操作は、出荷前の工場内でのみ行われる操作、即ち市中その他の公道上における車両の走行時に運転者が通常行わないかまたは到底行い難いような操作として定められることが望ましい。
【0042】
特定の操作の例として、アクセルペダルを強く踏み込み車両を高車速(例えば、100km/h以上)で運転しながらイグニッションスイッチ(パワースイッチ)を所定回数立て続けに押下し、しかる後アクセルペダルから足を離すような行為が考えられる。この操作は、イグニッションスイッチがOFFからONとなりシステムを起動した後の車両の停車時(発進前)になされる。
【0043】
尤も、特定の操作が、公道上における車両の走行時に運転者が行い得る操作であっても構わない。例えば、イグニッションスイッチをOFFからONに操作した後、初めてアクセルペダルを閾値以上に強く踏み込み、しかる後アクセルペダルから足を離す行為を、特定の操作と定義してもよい。
【0044】
ステップS1にて、特定の操作を受けたEFI ECU01は、HV ECU00にその旨を通知する。しかして、ステップS3にて、HV ECU00は、内燃機関1をファイアリングからモータリングに移行してよいかどうかを、上掲の(i)ないし(iv)等の要素に基づく要求出力と比較して判断する。例えば、(i)の要因について、現在のアクセルペダルの踏込量が大きく、走行用モータジェネレータ4に要求される駆動出力が中高出力領域II、IIIにある場合、内燃機関1のファイアリング及び発電用モータジェネレータ2による発電を実行する必要があり、よってステップS3の条件が真とならず、モータリングに移行しない、ひいては空燃比センサ144の検査を開始しない。(ii)の要因についても、現在蓄電装置3に蓄電している電荷量が下限値以下に減少している場合には、内燃機関1をファイアリングして発電用モータジェネレータ2により発電し蓄電装置3を充電しなければならず、ステップS3の条件が真とならず、モータリングに移行しない。(iii)の要因については、現在蓄電装置3に十分な量の電荷を蓄えているならば、発電用モータジェネレータ2により内燃機関1をモータリングし、その吸気通路13のスロットルバルブ132の下流に発生する吸気負圧をブレーキブースタ15に供給可能であることから、内燃機関1のファイアリングからモータリングへの移行が許容されることがある。(iv)の要因は、元来優先順位が低く、ステップS3の判断に影響を及ぼさないかもしれない。
【0045】
ステップS3の条件が真となり、内燃機関1をファイアリングからモータリングに移行できると判断したHV ECU00は、EFI ECU01にステップS4の燃料カットを開始するべき旨の通知を発するとともに、MG ECU02にステップS5のモータリングを開始するべき旨の通知を発する。このとき、HV ECU00からEFI ECU01やMG ECU02に対し、空燃比センサ144の出力信号gがその検査に好適なS/N比を有したものとなるよう、適当な目標エンジントルク即ちスロットルバルブ132の開度及びモータリング中の回転数を指令する。これを受けたEFI ECU01及びMG ECU02は、内燃機関1をファイアリングからモータリングへと移行させる。
【0046】
空燃比センサ144の検査を遂行するECU0は、内燃機関1のファイアリング中及びファイアリングからモータリングに移行した後の期間における空燃比センサ144の出力信号gを観測し、当該期間においてその出力信号gが正常/異常の判定値を跨ぐように変化した、または判定値よりも大きく変化した(出力信号gの変化量の絶対値が判定値よりも大きい)ならば(ステップS6)、空燃比センサ144が正常に働いていると判定する(ステップS7)。さもなくば、空燃比センサ144が異常であると判定する(ステップS8)。
【0047】
図4に示すように、時点T以前の時期である内燃機関1のファイアリング中は、気筒11から排気通路14に燃料を燃焼させた後のガス、即ち空燃比がリッチないしストイキオメトリのガスが排出され、これが触媒141に流入し、有害物質が酸化/還元反応により浄化された上で触媒141の下流へと流出する。故に、空燃比センサ144の出力信号gは、空燃比リッチないしストイキオメトリを示す。空燃比センサ144がO
2センサであるとすると、その出力電圧gは比較的高くなる。
【0048】
時点T以降、燃料カットが開始されて内燃機関1がファイアリングからモータリングに移行すると、気筒11から排気通路14に燃料成分を含まず酸素を多く含んだ空気、即ち空燃比が明らかにリーンのガスが排出され、これが触媒141に流入する。そして、触媒141の酸素吸蔵能力一杯まで酸素が吸着されると、その後酸素を多く含んだ空気がそのまま触媒141の下流へと流出する。従って、空燃比センサ144が正常に機能しているならば、
図4中に実線で描画しているように、その出力信号gが空燃比リーンを示すように変化するはずである。空燃比センサ144がO
2センサであるとすると、その出力電圧gが明確に低下する。
【0049】
時点T以降、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1をモータリングするのは、触媒141に酸素が充満してその下流側の空燃比が変化するまでの時間を稼ぐためである。仮に、内燃機関1をモータリングせず単純に燃料カットだけを実行すると、
図4中に鎖線で描画しているように、時点T後にエンジン回転数が急落して内燃機関1が停止するに至り、触媒141の下流の空燃比がリッチないしストイキオメトリからリーンに変化する前に、排気通路14を流れる気流が停滞してしまう。そうなれば、空燃比センサ144の出力信号gに変化が現れることはなく、空燃比センサ144が正常に機能するか否かを判定できない。
【0050】
空燃比センサ144の検査を目的としたモータリング中の回転数は、例えば、内燃機関1本来のアイドル回転数(ファイアリングにより自立回転を維持可能な最低限の回転数)よりも幾分高い、1000rpmないし2000rpmの間に設定する。その回転数は、一定に維持してもよいし、徐々に低下させてもよい。時点T以降のモータリングの所要時間は、最大で数秒程度である。
【0051】
ステップS6及びS7にて、空燃比センサ144が正常であると判定したEFI ECU00は、その旨をHV ECU00に通知する。これを受けたHV ECU00は、空燃比センサ144の検査処理を終了し、以後は平常通り、そのときのアクセルペダルの踏込量等に応じて内燃機関1、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4を制御することになる。少なくとも、発電用モータジェネレータ2による内燃機関1のモータリングは速やかに終了するであろう。
【0052】
ステップS6及びS8にて、空燃比センサ144が異常であると判定したEFI ECU00は、その旨をHV ECU00に通知する。これを受けたHV ECU00は、空燃比センサ144に何らかの異常が生じている事実を、人の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知する。例えば、車両のコックピットに設けられた警告灯(エンジンチェックランプ)を点灯させる、ディスプレイに表示する、警告音声を発する等する。発電用モータジェネレータ2による内燃機関1のモータリングも終了する。
【0053】
内燃機関1の排気通路14に設置した空燃比センサ144が正常に機能しないことは極稀であり、その原因の代表例は、センサ144に連なるハーネスがコネクタに正しく接続されていないこと、またはセンサ144の短絡である。であるから、実のところ空燃比センサ144の検査は頻繁に実施しなくてよく、せいぜい工場からの出荷時に行う程度である。
【0054】
本実施形態では、車両に搭載され、駆動輪62から機械的に切り離される内燃機関1を制御するものであり、特定の操作が行われたことを必要条件として、それまでファイアリングして運転していた内燃機関1の気筒11への燃料供給を停止する燃料カットを行い、かつ電動機2により内燃機関1を回転駆動するモータリングに移行し、排気通路14における排気浄化用の触媒141の下流に設置された空燃比センサ144の出力信号gを参照してその異常の有無を判定する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0055】
本実施形態の制御装置0は、前記特定の操作が行われたとき、内燃機関1のファイアリングを必要とする他の要素(i)、(ii)、(iii)、(iv)が現在内燃機関1に出力を要求しているか否かを確認し、その上でファイアリングからモータリングへと移行することが許される場合に、内燃機関1をモータリングしつつ前記空燃比センサ144の異常の有無の判定を実行する。
【0056】
本実施形態によれば、特にシリーズ方式のハイブリッド車両において、内燃機関1の排気通路14の触媒141の下流に設置した空燃比センサ144の異常の有無の検査を適切に遂行できるようになる。しかも、従来型の非ハイブリッド車両とハイブリッド車両とが混流する製品出荷ライン内で、非ハイブリッド車両とハイブリッド車両とを同じように検査することが可能となり、両者を分流させなくてもよくなる。
【0057】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、本発明を適用する対象は、シリーズ方式のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1には限定されない。
【0058】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
0…制御装置(ECU)
00…HV ECU
01…EFI ECU
02…MG ECU
1…内燃機関
11…気筒
111…インジェクタ
14…排気通路
141…触媒
144…空燃比センサ
2…電動機(発電用モータジェネレータ)