IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インターベット インターナショナル ベー. フェー.の特許一覧

特許7558638PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン
<>
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図1
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図2
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図3
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図4
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図5
  • 特許-PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】PCV2およびPRRSウイルス感染に対する皮内適用のためのワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/12 20060101AFI20240924BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240924BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
A61K39/12
A61P31/14
A61P31/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018549457
(86)(22)【出願日】2017-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2017056781
(87)【国際公開番号】W WO2017162720
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】16161994.5
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】スノ,メラニエ
(72)【発明者】
【氏名】ウィトフリート,マールテン・ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ファヒンガー,ヴィッキー
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】山村 祥子
【審判官】冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-512449(JP,A)
【文献】国際公開第2015/082457(WO,A1)
【文献】Vaccine、(2007) Vol.25、p.3400-3408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00
Caplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタサーコウイルス2型(PCV2)の非複製性免疫原を含むワクチンと生弱毒化PRRSウイルスを含むワクチンを、非ヒト動物の真皮内に組み合わせて投与することによる、ブタサーコウイルス2型(PCV2)による感染およびPRRSウイルスによる感染に対して非ヒト動物を予防的に治療するための方法であり、
ここで、PCV2の非複製性免疫原は、組換え発現ORF2タンパク質であり、
ここで、ワクチンは、単回投与により投与されるものであり、無針ワクチン接種装置で投与され、そして、直腸温は、投与されていないものと比較して、投与により1.5℃以内に維持される、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
PCV2の非複製性免疫原がPCV2のバキュロウイルス発現ORF2タンパク質であることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項3】
PCV2の免疫原および生弱毒化PRRSウイルスを、投与前の24時間以内に、ワクチンにおいて組み合わせることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
PCV2の免疫原および生弱毒化PRRSウイルスを、投与前の6時間以内に、ワクチンにおいて組み合わせることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ワクチンがマイコプラズマ・ヒオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)の非複製性免疫原を更に含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ブタサーコウイルス2型(PCV2)による感染およびPRRSウイルスによる感染に対して動物を予防的に治療するための動物に皮内投与用の、PCV2の免疫原と生弱毒化PRRSウイルスとを組み合わせて含むワクチンを製造するための、ブタサーコウイルス2型(PCV2)の非複製性免疫原および生弱毒化PRRSウイルスの使用であって、
ここで、PCV2の非複製性免疫原は、組換え発現ORF2タンパク質であり、
ここで、ワクチンは、単回投与により投与されるものであり、無針ワクチン接種装置で投与され、そして、直腸温は、投与されていないものと比較して、投与により1.5℃以内に維持される、ことを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、ブタの健康の分野に関する。ブタは多数の病原性微生物に感染しやすい。感染の防除は、一般に、安定した飼料管理、抗ウイルス薬および抗生物質のような薬剤での治療、またはワクチンを使用する予防的治療により行われる。特に、本発明は、ブタサーコウイルス2型(PCV-2)およびPRRS(ブタ生殖器呼吸器症候群)ウイルスに対するワクチン、ならびに該ワクチンを使用してそのような感染に対して動物を防御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCV2およびPRRSウイルスは、養豚業において重大な経済的損失をもたらす2つのウイルスである。PCV-2は、若いブタで見られる離乳後多重全身性消耗症候群(post-weaning multisystemic wasting syndrome)(PMWS)に関連している。この疾患は1991年にカナダで初めて見出された。その臨床徴候および病理学は1996年に公開され、進行性消耗、呼吸困難、頻呼吸および時には黄疸を含む。Nayarら(Can.Vet.J.Volume 38,June 1997)は、PMWSの臨床症状を有するブタにおいてブタサーコウイルスを検出し、PK-15細胞の天然生息ウイルスとして認識されている公知PCV以外のPCVがPMWSに関連している可能性があると結論づけた。その後の刊行物(Hamelら,J.Virol.,72(6),5262-5267,1998;Meehanら,J.gen.Virol.,79,2171-2179,1998)はこれらの知見を証明しており、新規病原性PCVをPCV-2と命名し、一方、元のPK-15細胞培養分離体(Tischerら,Nature 295,64-66,1982)はPCV-1と呼ぶべきであると提案された(Meehanら,前掲)。PCV-2は、環状一本鎖DNAゲノムを含有する小さな(17nm~22nm)二十面体の非包膜ウイルスである。PCV-2ゲノムの長さは約1768bpである。世界の種々の地域に由来するPCV-2分離体は互いに密接に関連しているらしく、95~99%のヌクレオチド配列同一性を示す(Fenauxら,J.Clin.Micorbiol.,38(7),2494-2503,2000)。PCVのORF-2は、該ウイルスのカプシドタンパク質をコードしている。PCV2のORF2は、約233アミノ酸のタンパク質をコードしている。全てのPCV-2分離体のORF2は、91~100%のヌクレオチド配列同一性および90~100%の推定アミノ酸配列同一性を共有している。
【0003】
PRRSウイルスは1987年に北米および中欧で初めて報告された。PRRSウイルスは小さな包膜RNAウイルスである。それは、約15キロベースのサイズを有する一本鎖プラス鎖RNAゲノムを含有する。該ゲノムは9個のオープンリーディングフレームを含有する。該ウイルスはニドウイルス目アルテリウイルス科アルテリウイルス属のメンバーである。PRRSVの2つの原型株は北米株VR-2332および欧州株レリスタッドウイルス(LV)である。該欧州および北米PRRSV株は類似した臨床症状を引き起こす。2000年代初めに、北米遺伝子型の高病原性株が中国で出現した。この株HP-PRRSVは他の全ての株より強毒性であり、世界中のアジア諸国で大きな損失を引き起こしている。いずれのPRRSウイルスにおいても、無症候性感染は一般的であり、臨床徴候は動物群において散発的に生じるに過ぎない。臨床徴候には、雌ブタにおける生殖障害、例えば流産および死産またはミイラ変性胎児の出産、ならびに耳および外陰部のチアノーゼが含まれる。新生ブタにおいては、該疾患は呼吸困難を引き起こし、グレッセー病のような呼吸器感染症に対する感受性を高める。
【0004】
前記で特定されている病原体に対するワクチンは一般に公知である。PCV2による感染に対して動物、特にブタを予防的に治療するための通常のワクチンは、(非複製性)免疫原としての全不活性化PCV-2ウイルスに基づくものでありうる。また、当技術分野においては、ORF2にコードされるカプシドタンパク質(例えば、組換え発現された場合)は、適切なワクチンに使用されるブタサーコウイルス2型のサブユニット免疫原として適していることが示されている。このように理解されうるのは、このサブユニットが循環系においてウイルス自体と同じ様態を示し、DNAおよび非構造タンパク質がカプシドの内部に存在しないという点で本質的に異なるからである。当技術分野においてはPCV2に対する幾つかのワクチンが商業的に入手可能である。Porcilis(登録商標)PCV(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能)は、3週齢以上のブタにおいて使用される、ブタサーコウイルス2型に対してブタを防御するためのワクチンである。2回投与(2用量)ワクチンとして投与された場合、免疫持続時間(DOI)は22週間であり、ブタの肥育期間をほぼ完全にカバーする。Ingelvac CicroFlex(登録商標)(Boehringer Ingelheim,Ingelheimから入手可能)は、2週齢以上のブタにおいて使用される、ブタサーコウイルス2型に対してブタを保護するためのワクチンである。それは1回投与(1用量)ワクチンとしてのみ登録されている。Circovac(登録商標)(Merial,Lyon,Franceから入手可能)は、3週齢以上のブタにおいて使用される、ブタサーコウイルス2型に対してブタを保護するためのワクチンである。Suvaxyn(登録商標)PCV(Zoeitis,Capelle a/d IJssel,The Netherlandsから入手可能)は、3週齢以上のブタにおいて使用される、ブタサーコウイルス2型に対してブタを保護するためのワクチンである。他のPCV2ワクチンは、例えば、WO2007/028823、WO2007/094893およびWO2008/076915に記載されている。
【0005】
PRRSウイルスに関しては、不活化ウイルスワクチンが記載され商業的に入手可能であるが、生弱毒化形態の欧州型(I型)または北米型(II型)のいずれかを含む修飾生ワクチン(MLV)がその防除のための主要な免疫学的手段である。幾つかのワクチンが当技術分野で商業的に入手可能である。Porcilis(登録商標)PRRS(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能)は、生弱毒化PRRSウイルスI型を含むワクチンであり、PRRSウイルスの感染により引き起こされる感染症(ウイルス血症)を軽減するために登録されている。Ingelvac PRRS(登録商標)MLV(Boehringer Ingelheim,Ingelheimから入手可能)は、PRRSウイルスにより引き起こされる疾患の軽減を助けるワクチンであり、該ワクチンは種々のタイプの株に対する交差防御をもたらす。Fostera(登録商標)PRRS(Zoeitis,Florham Park,New Jersey,USAから入手可能)もMLVワクチンであり、PRRSウイルスにより引き起こされる呼吸器および生殖器の両方の形態の疾患に対する防御のために登録されている。他のPRRSワクチンは、例えば、WO2006/074986、US 8728487およびWO2014/048955に記載されている。
【発明の概要】
【0006】
発明の目的
ブタの健康管理のための簡便で安全で効果的な手段が絶えず必要とされている。本発明の目的は、この必要性、特に、新規PCV2/PRRSウイルス混合ワクチンの必要性を満たすワクチンを提供することである。
【0007】
発明の概括
本発明の目的を達成するために、動物の真皮内へのワクチンの投与により、ブタサーコウイルス2型(PCV2)による感染およびPRRSウイルスによる感染に対して動物を予防的に治療するために使用される、ブタサーコウイルス2型の非複製性免疫原と生弱毒化PRRSウイルスとを組み合わせて含む新規ワクチンを本発明において案出した。
【0008】
どちらのウイルスに関しても、ワクチンは公知であり商業的に入手可能であるが、若い動物における使用に有効であり同時に安全である皮内投与用の組合せワクチン(混合ワクチン)は存在しない。一般に公知のとおり、想定または示唆される抗原の組合せの全てが、安全かつ有効な組合せワクチンにつながるとは限らない可能性がある。実際、たとえ単一(1価)ワクチンが安全かつ有効であったとしても、組合せワクチンの安定性、安全性および有効性に関する高レベルの不確実性が存在する。
【0009】
欧州医薬品評価庁(European Agency for the Evaluation of Medicinal Products)(EMEA)の獣医薬品委員会(The committee for veterinary medicinal products)はその刊行物「組合せ獣医薬品の要件に関するガイダンス(Note for guidance:requirements for combined veterinary products)」(EMEA,2000,CVMP/IWP/52/97-FINAL)において、「組合せワクチンの開発は容易ではない。各組合せは、品質、安全性および有効性に関して、個々に開発され、研究されるべきである。」(2/6頁)と明言している。該委員会は更に、良好な組合せワクチンの探索は、典型的には、例えば保存剤、賦形剤および安定剤、不活性化剤ならびにアジュバントを含む、組合せワクチンにおける個々の成分の間の適合性を含むことを示している。第3頁の最上部の段落において、「組合せワクチンにおいては、2以上の成分の存在が、しばしば、相互作用を引き起こし、特定の成分が単独で投与された場合と比較して低減または増強した、個々の成分に対する応答をもたらしうる。そのような相互作用は本質的に免疫学的であることが多いが、免疫系への直接的影響がより小さい他の因子によっても引き起こされうる。」と記載されており、また、「組合せワクチンに対する免疫応答を増強するためにアジュバントを使用する場合には、特別な問題が生じうる。」と記載されている。
【0010】
米国保健社会福祉省食品医薬品局生物製剤評価研究センター(U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Biologics Evaluation and Research)は「予防可能な疾患に対する組合せワクチンの評価に関する業界向けガイダンス:製造、試験および臨床研究(Guidance for Industry, for the evaluation of combination vaccines for preventable diseases:Production,Testing and Clinical Studies)」を1997年4月に公開した。該ガイダンスには、「複数の1価ワクチンを組み合わせることは、所望のものより低い安全性および有効性を有する新たな組合せをもたらしうることを、経験は示している。時には、不活化ワクチンの成分は有効成分の1以上に対して不利に作用しうる。」と記載されており(第3頁「成分の適合性(Compatibility of Components)」)、このことは、特に、不活化ワクチンが生ワクチンの有効性に悪影響を及ぼしうることを示しており、例えば、それが見られた例として、百日咳生ワクチンと不活化ポリオウイルスワクチンとを組み合わせた場合、低下した百日咳効力を有するワクチンが得られた。
【0011】
世界保健機関(WHO)は、「ワクチン安全の基礎(Vaccine Safety Basics)」と称されるeラーニングコースを公開しており、これは、モジュール(MODULE)2において、組合せワクチンに関して検討している。このモジュールは、初めに、「認可された組合せワクチンは、製品が安全で有効であり、許容可能な品質を有することを保証するために、各国当局の承認を得る前に広範な試験を受ける。」と記載している。また、「したがって、全ての組合せに関して、製造業者は、各抗原成分の効力、免疫を誘導するように組み合せた場合のワクチン成分の有効性、毒性への可能な復帰のリスク、および他のワクチン成分との反応を評価しなければならない。」とも記載されている。
【0012】
したがって、新規組合せワクチンを案出することは簡単ではなく、ましてや、特定の投与部位に対する新規ワクチンはなおさらである。例えば、世界保健機関(WHO)は、「ワクチン安全の基礎(Vaccine Safety Basics)」と称されるeラーニングコースを公開しており、このコースの第53頁に、「投与経路は、ワクチン(または薬物)が身体と接触する経路である。これは免疫化の成功のための決定的に重要な要因である。物質は、進入部位から、その作用が生じることが望まれる身体部分へと輸送されなければならない。しかし、この目的に身体の輸送メカニズムを用いることは単純ではない。」と報告されている。
【0013】
これに関して、米国カリフォルニア州保健局予防接種部門(California Department of Health Services’Immunization Branch)は適切な免疫化のための指針を公開している(http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/downloads/appendices/d/vacc admin.pdf)。投与部位に関して、それは第7頁第1段落全体において以下のとおりに記載している:「各ワクチンに関する推奨経路および部位は、臨床試験、実際の経験および理論的考慮に基づく。この情報は各ワクチンに関する製造業者の製品情報に含まれる。ワクチンの投与には5つの経路が用いられる。推奨経路からの逸脱はワクチンの有効性を低下させ、または局所的有害効果を増強しうる」。第14頁に、米国で許可されている唯一の皮内ワクチンが取り上げられている:「皮内フルゾン(Fluzone Intradermal)は、皮内経路により投与される、米国で許可されている唯一のワクチンである。それは18~64歳の者における使用のみに関して承認されている。このフルゾン製剤は不活化インフルエンザワクチン(TIV)の筋肉内製剤と同じではない。他のTIV製剤は、皮内経路により投与されるべきではない。」。
【0014】
全体として、特定の部位におけるワクチン接種、ましてや、特定の部位における組合せワクチンのワクチン接種は単純ではなく、安全性および有効性を決定するための実験を要することが一般に公知である。
【0015】
皮内投与に関しては、皮内投与は、しばしば、無針ワクチン接種装置、例えばIDAL(登録商標)ワクチン接種器(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能)を使用して行われるが、「皮内」投与自体は「無針」投与と同等ではないはずである。世界保健機関は、その2009年8月27日付けの論文(題名“Intradermal Delivery of Vaccines;A review of the literature and the potential for development for use in low- and middle-income countries”)において、「無針」ワクチン接種は「皮内」ワクチン接種を必ずしも意味しないことを実際に明らかに示している(該総説の第3頁表1を参照されたい)。無針装置が「皮内ワクチン接種のために構成されている」場合にのみ、ワクチンは実際に(少なくとも部分的に)皮内に運搬される。そうでなければ、ワクチンはその全体が皮下または筋肉内に運搬されうる。
【0016】
本発明はまた、ブタサーコウイルス2型(PCV2)の非複製性免疫原と生弱毒化PRRSウイルスとを組み合わせて含むワクチンを動物に皮内投与することにより、ブタサーコウイルス2型(PCV2)による感染およびPRRSウイルスによる感染に対して動物を予防的に治療する方法、およびブタサーコウイルス2型(PCV2)による感染およびPRRSウイルスによる感染に対して動物を予防的に治療するために動物に皮内投与するためのPCV2の免疫原と生弱毒化PRRSウイルスとを組み合わせて含むワクチンを製造するための、ブタサーコウイルス2型(PCV2)の非複製性免疫原および生弱毒化PRRSウイルスの使用に関する。
【0017】
ワクチンにおいては、免疫原(抗原とも称される)は、典型的には、医薬上許容される担体と組み合わされることに注目され、該担体は、生体適合性媒体、すなわち、対象動物において有意な有害反応を投与後に誘発しない媒体であって、ワクチンの投与後に宿主動物の免疫系に免疫原を提示しうるもの、例えば、水および/または任意の他の生体適合性溶媒を含有する液体、あるいは固体担体、例えば、(糖および/またはタンパク質に基づく)凍結乾燥ワクチンを得るために一般に使用される固体担体であり、所望により、動物への投与に際して、野生型微生物による感染に対して動物を治療するために免疫応答を誘導する、すなわち、そのような感染またはそれから生じる障害を予防、改善または治癒するのを助ける免疫刺激性物質(アジュバント)を含みうる。所望により、ワクチンの意図される用途または要求される特性に応じて、他の物質、例えば安定剤、粘度調整剤または他の成分が添加される。
【0018】
定義
ワクチンは、対象動物において病原性微生物に対する防御免疫を誘導しうる、すなわち、後記のとおりの予防的治療を成功裏にもたらしうる、対象動物に安全に投与される医薬組成物である。
【0019】
病原体の非複製性免疫原は、対応病原体に対して免疫応答を惹起する、(弱毒化形態の野生型における)全体としての生複製性病原体以外の病原体に対応する任意の物質または化合物であり、この場合、この免疫応答の結果として、対応毒性病原体またはその毒性因子の1以上が宿主免疫系により認識され、最終的に少なくとも部分的に中和される。非複製性免疫原の典型例は、死滅全病原体、ならびにこれらの病原体のサブユニット、例えばカプシドタンパク質および他の表面発現タンパク質、例えば組換え発現タンパク質である。
【0020】
病原体による感染に対する予防的治療は、その病原体による感染またはその感染から生じる障害(病原性病原体での治療後チャレンジから生じもの)の予防または改善を助けること、特に、そのようなチャレンジの後の宿主におけるその負荷を減少させること、そして所望により、病原体による治療後感染から生じる1以上の臨床症状の予防または改善することを助けることである。
【0021】
生弱毒化病原体は、低減した毒性を有する病原体の生存可能で複製可能な形態である。弱毒化の方法は、感染性病原体を採取し、細胞系による病原体の多重継代または病原体の遺伝的修飾により、それが無害または弱毒性になるようにそれを改変する。
【0022】
予防的治療に使用されるワクチンの単回(単一用量)投与は、防御免疫を得るためには、ワクチン接種が、ワクチンの第2投与で増強される必要がないことを意味する。2回投与レジメンにおいては、初回(プライム)ワクチン接種は、典型的には、初回投与から6週間以内、一般には、初回投与から3週間以内または更には2週間以内に増強(ブースト)され、第2(ブースト)投与の後で初めて、防御免疫、すなわち、前記の成功した予防的治療が達成されうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】PCV2血清学的応答の結果を示す図である。
図2】PRRS血清学的応答の結果を示す図である。
図3】ウイルス血症データを示す図である。
図4】PCV2血清学的応答の結果を示す図である。
図5】PRRS血清学的応答の結果を示す図である。
図6】ウイルス血症データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の実施形態においては、該ワクチンは単回投与(単一用量)により投与される。単回投与は有効なワクチン接種をもたらすことが判明した。これは、両方の病原性ウイルスに対して動物を防御するための非常に簡便で経済的な方法を提供する。
【0025】
次の実施形態においては、動物の皮膚を介して真皮に到達するために該ワクチンのジェットを使用する無針(needle-less)ワクチン接種装置で、該ワクチンは投与される。この実施形態においては、真皮内へのワクチン接種は、典型的には、0.05~0.2mlの範囲の非常に低い容量のワクチンを使用して、該ワクチンの液体ジェット(高加圧流体流)を使用する無針ワクチン接種装置によりもたらされる。これは該ワクチンおよび投与方法の安全性を更に向上させる。
【0026】
もう1つの実施形態においては、該非複製性免疫原は、ブタサーコウイルス2型の組換え発現ORF2タンパク質であり、例えば、当技術分野で公知のとおり、バキュロウイルスにより発現されたものである。この組換えタンパク質は本発明における適用に適していることが判明している。特に、該ORF2タンパク質は、例えばWO2007/028823、WO2007/094893またはWO2008/076915に記載されているようなバキュロウイルス発現系において発現されうる。
【0027】
更にもう1つの実施形態においては、PCV2の免疫原および生弱毒化PRRSウイルスは、投与前の24時間以内(すなわち、投与前、かつ、投与の24時間前以降)、好ましくは6時間以内に、該ワクチンにおいて組み合わされる。投与直前にそれらの抗原が組み合わされることは、賦形剤の選択の、より大きな自由度をもたらす。なぜなら、多数の医薬組成物に関して、そして、自体公知であるPCV2 ORF2抗原を含む組合せワクチン(例えば、MSD Animal Healthから入手可能なPorcilis(登録商標)PCV M Hyo)に関してでさえも公知のことであるが、長期安定性の達成は尚も、少なくともありとあらゆる医薬上許容される担体組成物に関して必ずしも容易であるとは限らない可能性があるからである。
【0028】
更にもう1つの実施形態においては、該ワクチンは、更に、マイコプラズマ・ヒオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)(M.hyyo)の非複製性免疫原を含む。この実施形態においては、該ワクチンは、ただ1つのワクチンを使用することにより、3つの主要ブタ病原体に対する防御をもたらしうる。M.hyoに対する多数の市販ワクチンが存在し、これらは商業的養豚業の大部分において日常的に使用されている。一般に、これらのワクチンは、例えば、典型的には非経口投与されるサブユニットタンパク質および/またはバクテリン(すなわち、全細胞、(部分)溶菌体、ホモジネート化体、フレンチプレス化体またはこの組合せとしての死滅細菌を含む組成物、あるいは別の形態の死滅細菌を含む組成物であって、該組成物が死滅細菌培養に由来するもの)のような非複製性免疫原を含む。幾つかの例としては、RespiSure(登録商標)(Zoetis)、Ingelvac(登録商標)M.hyo、およびMycoFLEX(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、Hyoresp(登録商標)(Merial)、Stellamune(登録商標)Mycoplasma(Elanco Animal Health)、Fostera(登録商標)PCV MH(Zoetis)およびM+Pac(登録商標)(MSD Animal Health)が挙げられる。
【0029】
つぎに、以下の実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明することとする。
【0030】
実施例
研究1
目的
本研究の目的は、種々のPCV2 ORF2ワクチン中に溶解された弱毒化PRRSウイルスワクチンの、皮内投与後の有効性および安全性を評価することである。PCV2による感染に対する防御の有効性は、抗ORF2血清学(抗ORF2抗体はPCV2ウイルスを中和することが公知である)を評価することにより評価される。PRRSウイルスによる感染に対する有効性は、ワクチン接種の4週間後の病原性PRRS株でのチャレンジの際のPRRSウイルス血症を評価することにより評価される。
【0031】
実験計画
本研究では10頭の雌ブタの後代(子孫)が利用可能であった。合計50頭の動物をそれぞれ10頭の子ブタの5つの群に割り当てた。全ての動物は、それらが約4週齢のときに動物施設に移された。IDAL(登録商標)ワクチン接種器を使用して、群1~4に頸部の右側の皮内にワクチン接種した。群1~3のそれぞれは、ORF2タンパク質に基づくPCV2ワクチンの投与を受け、該ワクチンにおいては、生PRRSウイルスワクチン(Porcilis PRRS)が再構成される。それらの種々のPCV2ワクチンは、3つの異なる生産工程に由来する。各ワクチンはORF2タンパク質の用量当たり9μgのORF2タンパク質を含有し(一方、商業的に入手可能なPorcilis(登録商標)PCVワクチンでは用量当たり20μgを超える)、商業的に入手可能なXSolveアジュバント(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlands)に基づいており、それに3%卵アルブミンを安定剤として添加した。該PRRSワクチンは凍結乾燥ワクチンであり、適切なPCV2ワクチンまたは希釈剤を使用して200μlの用量あたり104.5 TCID50のウイルスを含有するように投与直前に再構成(還元)される。群4は該PRRSワクチンのみの投与を受け、群5は未接種のままであり、対照として使用された。全ての子ブタを臨床徴候に関して毎日観察した。該動物が約8週齢(第28日)になったとき、病原性PRRSウイルス(I型)を該動物にチャレンジ感染させた。該チャレンジ物質は2ml中に5.3 log10 TCID50(計算用量)のウイルスを含有していた。該物質を、鼻孔当たり1mlで、鼻腔内投与した。観察期間の終了時(チャレンジの21日後に対応するワクチン接種の49日後)に、全てのブタを犠死させた。血液サンプルを、第0日、第14日、第28日(チャレンジ直前)、第31日、第35日、第38日、第42日および第49日に、全動物から個々に(頸静脈から)採取し、PRRSウイルスの存在に関して、PRRSVおよびPCV2に対する抗体に関して試験した。
【0032】
結果
いずれの動物もワクチン接種による臨床的徴候を示さず、直腸温は対照から1.5℃以内に維持された。したがって、該ワクチンは安全とみなされる。
【0033】
PCV2血清学的応答の結果を図1に示す。全ての組合せワクチンは、陽性の抗ORF2抗体応答を誘導する(これは、該ワクチンが野生型PCV2による感染に対する防御免疫を誘導することを意味する)ようである。
【0034】
PRRS血清学的応答の結果を図2に示す。全ての組合せワクチンは、商業的に入手可能なPRRSワクチンと同様に、チャレンジ前に、陽性の抗PRRS抗体応答を誘導するようである。これは、該ワクチンがPRRSウイルス感染に対する防御をもたらすことを示している。図3にウイルス血症データを示す。ウイルス血症レベルが、各時点で陽性対照動物(群5)におけるレベルより低いので、全てのワクチンはPRRSウイルス感染に対する防御をもたらすようである。
【0035】
研究2
目的
本研究の目的は、種々のPCV2/Mhyo組合せワクチン中に溶解された弱毒化PRRSウイルスワクチンの、皮内投与後の有効性および安全性を評価することである。PCV2による感染に対する防御の有効性は、抗ORF2血清学を評価することにより評価される。マイコプラズマ・ヒオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)による感染に対する有効性は、商業的に入手可能なMhyoワクチンPorcilis(登録商標)Mhyo(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlands)の場合と血清学的応答を比較することにより評価される。PRRSウイルスによる感染に対する有効性は、ワクチン接種の4週間後の病原性PRRS株でのチャレンジの際のPRRSウイルス血症を評価することにより評価される。
【0036】
実験計画
本研究では10頭の雌ブタの後代(子孫)が利用可能であった。合計40頭の動物をそれぞれ10頭の子ブタの4つの群に割り当てた。全ての動物は、それらが約4週齢のときに動物施設に移された。IDAL(登録商標)ワクチン接種器を使用して、群1~4に頸部の右側の皮内にワクチン接種した。群1および2のそれぞれは、Mhyoバクテリン(Porcilis M Hypにおけるものと同じ)を更に含む、ORF2タンパク質に基づくPCV2ワクチンの投与を受け、該組合せワクチンにおいては、生PRRSウイルスワクチン(Porcilis PRRS)が再構成された。群1のワクチンはモンタニド(Montanide)アジュバント(SEPPIC,Franceから入手可能なIMS 251)に基づくものであり、それに3%卵アルブミンを安定剤として添加した。群2のワクチンは、卵アルブミンを添加しなかったこと以外は同じアジュバントを含有していた。各ワクチンは9μg/用量のORF2タンパク質、および商業的に入手可能なワクチンPorcilis(登録商標)M Hyo ID ONCEにおけるM Hyo抗原の2倍の濃度のMhyo抗原を含有していた。該PRRSワクチンは凍結乾燥ワクチンであり、適切なPCV2ワクチンまたは希釈剤を使用して200μlの用量あたり104.5 TCID50のウイルスを含有するように投与直前に再構成(還元)された。群3は該PRRSワクチンのみの投与を受け、群4は未接種のままであり、対照として使用された。全ての子ブタを臨床徴候に関して毎日観察した。該動物が約8週齢(第28日)になったとき、病原性PRRSウイルス(I型)を該動物にチャレンジ感染させた。該チャレンジ物質は、2ml中に5.3 log10 TCID50(計算用量)のウイルスを含有していた。該物質を、鼻孔当たり1mlで、鼻腔内投与した。観察期間の終了時(チャレンジの21日後に対応するワクチン接種の49日後)に、全てのブタを犠死させた。血液サンプルを、第0日、第14日、第28日(チャレンジ直前)、第31日、第35日、第38日、第42日および第49日に、全動物から個々に(頸静脈から)採取し、PRRSウイルスの存在に関して、PRRSV、PCV2およびMhyoに対する抗体に関して試験した。
【0037】
結果
いずれの動物もワクチン接種による臨床的徴候を示さず、直腸温は対照から1.5℃以内に維持された。したがって、該ワクチンは安全とみなされる。
【0038】
Mhyoに関しては、該組合せワクチンの血清学的応答は、商業的に入手可能なワクチンPorcilis M Hyoで得られうるものに匹敵するようである(図に数値結果は示されていない)。したがって、該ワクチンはMhyoによる感染に対して防御すると結論づけられうる。
【0039】
PCV2血清学的応答の結果を図4に示す。2つの組合せワクチンは、陽性の抗ORF2抗体応答を誘導する(これは、該ワクチンが野生型PCV2による感染に対する防御を誘導することを意味する)ようである。
【0040】
PRRS血清学的応答の結果を図5に示す。2つの組合せワクチンは、商業的に入手可能なPRRSワクチンと同様に、チャレンジ前に、陽性の抗PRRS抗体応答を誘導するようである。これは、該ワクチンがPRRSウイルス感染に対する防御をもたらすことを示している。図6にウイルス血症データを示す。ウイルス血症レベルが、各時点で陽性対照動物(群4)におけるレベルより低いので、全3個のワクチンはPRRSウイルス感染に対する防御をもたらすようである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6