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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/22 20180101AFI20240924BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20240924BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20240924BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240924BHJP
   C09J 107/00 20060101ALI20240924BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240924BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C09J7/22
C09J7/24
C09J7/25
C09J7/38
C09J107/00
C09J201/00
C09K3/00 R
C09K3/00 105
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020020903
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021127360
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】堀口 計
(72)【発明者】
【氏名】米▲崎▼ 幸介
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 雄太
(72)【発明者】
【氏名】三島 国将
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080626(JP,A)
【文献】特開2017-200977(JP,A)
【文献】特開2019-059879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/22
C09J 7/24
C09J 7/25
C09J 7/38
C09J 107/00
C09J 201/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての樹脂フィルムと、該基材の第一面に設けられた粘着剤層とを備えた粘着シートであって、
前記基材の第二面は剥離面であり、
前記第二面の滑り抵抗値が3.5N以上であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤は天然ゴム系粘着剤であり、
前記粘着剤層は、ベースポリマー100重量部に対して粘着付与剤を70重量部未満含み、
前記基材は、前記第二面を構成する背面層と、前記第一面を構成する支持層とを含み、
前記背面層は、剥離剤を含有する樹脂組成物により構成されており、
前記剥離剤はシリコーン系剥離剤を含み、
前記シリコーン系剥離剤はシリル化ポリオレフィンを含み、
ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度30m/分の条件で測定される高速剥離強度が4.5N/20mm以上であり、
引張速度30m/分の条件で測定される自背面粘着力の最大値と最小値の差が1.5N/20mm以下である、粘着シート。
【請求項2】
前記自背面粘着力の平均値は1N/20mm以上5N/20mm以下である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度0.3m/分の条件で測定される低速剥離強度が5N/20mm以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記基材は、ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムである、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
レーザ光で切断して用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記基材はレーザ光吸収剤を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記レーザ光吸収剤は、カーボンブラック、酸化チタン、鉄系酸化物、チタンブラックおよびマンガン系酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項に記載の粘着シート。
【請求項8】
主波長900nm~1100nmのレーザ光で切断して用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シートを、前記粘着剤層が前記基材の前記第二面に当接するように巻回された形態で含む、ロール体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、様々な分野において、典型的には基材上に粘着剤層を有する粘着シートの形態で、接合や固定、表面保護、マスキング、標示等の目的で広く利用されている。例えば、レーザ加工時の表面保護に利用され得る粘着フィルムに関する技術文献として、特許文献1、2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-59879号公報
【文献】国際公開第2018/159591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、レーザ光を用いた加工技術に対する関心が高まっている。レーザ光による加工技術は、各種材料の切断や孔あけ等に広く用いられている。かかる加工処理に使用するレーザの代表例として、主波長9.3μm~10.6μm程度の炭酸ガスレーザや、主波長0.9μm~1.1μm程度の短波長レーザが挙げられる。レーザ加工の一態様として、補助材料としての粘着シートを被着体である加工対象物(workpiece、以下「ワーク」ともいう。)に貼り付けておき、これにレーザ光を照射して上記粘着シートごと上記ワークをレーザ処理する態様が例示される。このような態様で用いられ得る粘着シートは、レーザ加工時に供給されるアシストガスによる浮きや剥がれの抑制に適した高速剥離強度を有することが好ましい。
【0005】
なかでも、主波長0.9μm~1.1μm程度の短波長のレーザ光を用いることにより、加工に必要なエネルギーを効率よくワークに加えることができる。このことは加工のスピードアップや微細加工性の観点から有利となり得る。一方、短波長レーザによる加工では、加工のスピードアップのためアシストガス圧が高くなる傾向にある。このため、短波長レーザによる加工に用いられることが想定される粘着シートは、かかる高圧のアシストガスが加工対象物との間に入り込んで該加工対象物から浮き上がる事象の発生を抑制する観点から、ある程度以上の高速剥離強度を有することが殊に望ましい。
【0006】
ところで、使用前(被着体への貼付け前)の粘着シートは、資源の節約や作業場所において発生する廃棄物の低減等の観点から、基材の第二面(背面)を剥離処理剤の塗布等の剥離処理が施された剥離面とし、該背面に粘着剤層の表面を当接させたロール体や積層体の形態で提供されることがある。このような形態の粘着シートの加工対象物への貼付けは、該粘着シートを上記背面から引き剥がして粘着剤層の表面(粘着面)を露出させる操作を伴う。レーザ加工を伴う処理の効率化を図るためには、上記レーザ加工に先立って加工対象物に粘着シートを貼り付ける作業も高速化することが望ましく、上記背面から粘着シートを引き剥がす操作もまた高速化することが好ましい。
【0007】
しかし、レーザ加工時のアシストガス圧等に十分耐えうる高速剥離強度を発揮するように構成された粘着シートは、該粘着シートを背面から引き剥がす操作を高速化すると大きな剥離音を発生しやすいことが判明した。騒音の面で作業環境を改善するためには上記剥離音を抑制することが望ましい。ところが、粘着シートの背面からの剥離性を高めることによって剥離音を抑えようとして、より滑り性付与効果の高い剥離処理剤を用いて基材背面の剥離処理を行うと、加工対象物(例えば金属板)に該粘着シートが貼り付けられた状態で複数枚を重ねて平積みした際に、容易に横滑りして荷崩れを起こす等の不都合が生じることが懸念される。
【0008】
かかる事情に鑑みて、本発明は、レーザ光による加工にも適用可能な高速剥離強度を有し、背面から高速で引き剥がす際の剥離音が抑制され、かつ金属板等に貼り付けた状態で重ね置きしても滑り過ぎない粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書によると、基材としての樹脂フィルムと、該基材の第一面に設けられた粘着剤層とを備えた粘着シートが提供される。上記粘着シートは、上記基材の第二面が剥離面であり、該第二面の滑り抵抗値は3.5N以上である。上記粘着シートは、ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度30m/分の条件で測定される高速剥離強度(以下、単に「高速剥離強度」ともいう。)が4.5N/20mm以上であり、引張速度30m/分の条件で測定される自背面粘着力(以下、単に「自背面粘着力」ともいう。)の最大値と最小値の差(以下「変動幅」ともいう。)が1.5N/20mm以下である。
【0010】
このように構成された粘着シートは、例えばレーザ光による加工時のアシストガス圧のような衝撃に対しても浮きや剥がれを起こすことなく、被着体に貼り付けられた状態を好適に維持することができる。また、使用時に粘着シートをその背面から高速で引き剥がす際の剥離音を軽減させることができ、かつ、粘着シートが貼り付けられた状態の被着体を重ね置きした際の横滑りを抑制し得る。
【0011】
いくつかの好ましい態様に係る粘着シートは、上記基材の第二面は、剥離剤を含有する樹脂組成物により構成されている。ここに開示される粘着シートは、このような基材を備える構成において好適に実施することができる。上記剥離剤としては、例えばシリコーン系剥離剤を好ましく利用することができる。シリコーン系剥離剤の一好適例としてシリル化ポリオレフィンが挙げられる。
【0012】
いくつかの態様において、上記粘着剤層を構成する粘着剤としては、天然ゴム系粘着剤を好ましく採用し得る。このような粘着剤層を備えた粘着シートは、高い高速剥離強度を求められる用途に好適に利用できる。
【0013】
いくつかの好ましい態様において、ここに開示される粘着シートは、自背面粘着力の平均値が1N/20mm以上5N/20mm以下である。このような粘着シートは、適切な滑り抵抗値との両立を容易とし、かつ背面から剥離する際の作業性を高める観点から好ましい。
【0014】
ここに開示される粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートをステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度0.3m/分の条件で測定される低速剥離強度(以下、単に「低速剥離強度」ともいう。)は、5N/20mm以下であることが好ましい。このような粘着シートは、使用後に被着体から容易に剥がすことができ、剥離後の糊残りがよりよく抑制される傾向にある。
【0015】
いくつかの態様において、上記基材は、ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムである。このような基材を備えた粘着シートは、例えばレーザ光で切断した際に、切断幅を制御しやすく、かつ形状精度のよい切断端面を形成しやすいので好ましい。
【0016】
ここに開示される粘着シートには、必要に応じてレーザ光吸収剤を含有させることができる。粘着シートにレーザ吸収剤を含有させることにより、レーザ光吸収率を高め、上記粘着シートが貼り付けられた被着体のレーザ加工性を高めることができる。良好なレーザ光吸収性と所望の粘着特性との両立を容易とする観点から、少なくとも基材にレーザ光吸収剤を含有させることが好ましい。
【0017】
いくつかの態様において、上記レーザ光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、チタンブラック、鉄系酸化物およびマンガン系酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を好ましく利用することができる。材料の安定入手性の観点から好ましいレーザ光吸収剤として、カーボンブラックや鉄系酸化物が例示される。
【0018】
ここに開示される粘着シートは、加工対象物(被着体)に貼り付けられた状態で該加工対象物とともにレーザ光で切断して用いられても、アシストガス圧による被着体からの浮きや剥がれが生じにくい。したがって、上記粘着シートの他の側面として、ここに開示されるいずれかの粘着シートからなり、レーザ光(例えば、炭酸ガスレーザや短波長レーザ等のレーザ光)で切断して用いられるレーザ切断用粘着シートが提供される。また、上記粘着シートのさらに他の側面として、主波長900nm~1100nmの範囲にある短波長レーザ光(以下、「特定レーザ光」ともいう。)で切断して用いられるレーザ切断用粘着シートが提供される。
【0019】
また、この明細書によると、上記粘着シートを、上記粘着剤層が上記基材の上記第二面(背面)に当接するように巻回された形態で含む、ロール体が提供される。このようなロール体によると、該ロール体から粘着シートを巻き出す際に発生する対背面剥離音が抑制されるので、作業者に対する作業環境改善が実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る粘着シートを模式的に示す断面図である。
図2】一実施形態に係る粘着シートが巻回されたロール体を模式的に示す断面図である。
図3】他の一実施形態に係る粘着シートを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0022】
ここに開示される粘着シートは、基材としての樹脂フィルムの一方の面(第一面)に粘着剤層を有する。一実施形態に係る粘着シートの構成を図1に模式的に示す。この粘着シート1は、基材としての樹脂フィルム10と、その一方の面(第一面)10Aに設けられた粘着剤層20とを備え、該粘着剤層20を被着体に貼り付けて使用される。この粘着シート1は、樹脂フィルム10の他方の面(背面、第二面)10Bが剥離性を有する表面(剥離面)となっている。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の粘着シート1は、例えば図2に示すように、粘着剤層20の表面(粘着面)20Aが樹脂フィルム10の背面10Bに当接するようにコア(巻芯)52の周囲にロール状に巻回され、これにより表面20Aが保護されたロール体50の形態であり得る。また、コア52を有しないロール体、すなわち粘着シート1が単独で巻回された、いわゆるコアレスタイプのロール体の形態であってもよい。あるいは、使用前の粘着シート1は、ロール体の形態の他、シート状(枚葉状)の粘着シートが、一枚の粘着シートの粘着剤層表面を他の一枚の粘着シートの背面に当接させて積層された積層形態とすることにより粘着面20Aが保護された形態であってもよい。あるいは、使用前の粘着シート1の表面20Aは、粘着シートを構成する基材の背面ではなく、剥離ライナーによって保護されていてもよい。
【0023】
この実施形態の粘着シート1の好ましい一態様では、樹脂フィルム10が、例えば図3に示すように、樹脂フィルム10の他方の面(第二面)10Bを構成する背面層11と、背面層11の内側(粘着剤層20が設けられる側)に配置された支持層12とを含む。背面層11は、剥離剤を含有する樹脂組成物により構成され、これにより背面層11の表面(樹脂フィルム10の第二面10Bを兼ねる。)は剥離面となっている。支持層12は、剥離剤を含有しない樹脂組成物からなる層であってもよく、剥離剤を含有する樹脂組成物からなる層であってもよい。図3に示す例のように樹脂フィルム10の一方の面10Aが支持層12により構成される態様では、粘着剤層20の樹脂フィルム10への投錨性の観点から、支持層12が剥離剤を含有しない樹脂組成物からなる層であることが好ましい。なお、図3に示す粘着シート2では、樹脂フィルム10が背面層11と支持層12とからなる二層構造であるが、樹脂フィルム10の構造は二層構造に限定されない。
【0024】
<粘着シート>
ここに開示される粘着シートは、基材としての樹脂フィルムと、該基材の第一面に設けられた粘着剤層とを備えた粘着シートであって、該基材の第二面は剥離面である。上記粘着シートは、ステンレス鋼(SUS)板に貼り付けて30分後に引張速度30m/分の条件で測定される高速剥離強度が4.5N/20mm以上であることが好ましい。ここで、引張速度30m/分とは、例えば短波長レーザ光による加工対象物の加工時に、該加工対象物に貼り付けられた粘着シートにアシストガスが吹き付けられる状況を想定して設定された測定条件である。レーザ加工の際に供給される上記アシストガスによって粘着シートに浮き(典型的には、レーザ光による切断部からアシストガスがその風圧により加工対象物と粘着シートとの接着界面に入り込むことによる部分的な剥がれ)が生じると、粘着シートの加工対象物への固定(粘着剤による接合)が解除された状態で該粘着シートが熱に曝されることにより熱収縮が大きくなり、上記切断部の両側で加工対象物表面が露出しやすくなる等の不都合が生じ得る。高速剥離強度が4.5N/20mm以上である粘着シートによると、切断時の粘着シートの浮きを効果的に抑制し得る。
【0025】
より高い効果を得る観点から、いくつかの態様において、粘着シートの高速剥離強度は、例えば5.0N/20mm以上であってよく、5.5N/20mm以上でもよく、6.0N/20mm以上でもよい。高速剥離強度の上限は特に制限されないが、加工対象物から粘着シートを剥離する際における作業負担軽減や粘着シートの千切れ防止の観点から、いくつかの態様において、粘着シートの高速剥離強度は、例えば20N/20mm以下であってよく、15N/20mm以下でもよく、10N/20mm以下でもよく、8N/20mm以下でもよい。高速剥離強度は、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される。高速剥離強度は、例えば、粘着剤層の種類や厚さの選択、架橋剤の種類や使用量の選択、剥離剤の種類や使用量の選択、粘着付与樹脂等の任意成分の使用、等により調節することができる。
【0026】
ここに開示される粘着シートは、自背面粘着力の変動幅が1.5N/20mm以下であることが好ましい。自背面粘着力の変動幅が1.5N/20mm以下である粘着シートによると、使用前の粘着シートの粘着剤層表面を保護する保護材の表面(典型的には基材の背面)から該粘着シートを引き剥がす際の剥離音が軽減され得るので、騒音を抑制し、作業環境の改善が実現され得る。粘着シートの剥離音による騒音性は、例えば実施例に記載の方法で評価することができる。
【0027】
本明細書により開示される技術を実施するにあたり、自背面粘着力の最大値と最小値の差(変動幅)が剥離音の大小に寄与するメカニズムを解明することは必要とされないが、この自背面粘着力の変動幅が大きい粘着シートの場合、剥離面(背面)と粘着面との間で剥離の進行/停止を繰り返すスティック-スリップ破壊が起こり、「ビリビリ」という音が生じていることが考えられる。ただし、このメカニズムのみに限定解釈されるものではない。
【0028】
より高い効果を得る観点から、いくつかの態様において、粘着シートの自背面粘着力の変動幅は、例えば1.5N/20mm未満であってよく、1.4N/20mm以下でもよく、1.0N/20mm以下でもよい。自背面粘着力の変動幅の下限は、原理的に0N/20mmであり、剥離音低減の観点からは変動幅が小さいほど好ましい。いくつかの態様において、他の特性とのバランスや製造容易性等の実用上の観点から、自背面粘着力の変動幅は、例えば0.01N/20mm以上であってよく、0.05N/20mm以上でもよく、0.1N/20mm以上でもよい。自背面粘着力の変動幅は、後述する実施例に記載の方法で測定される。自背面粘着力の変動幅は、例えば、基材の第二面の構成材料(例えば、剥離剤の種類や使用量)や表面処理の選択、粘着剤層を構成する粘着剤の種類の選択、架橋剤や粘着付与樹脂等の任意成分の使用有無および使用する場合における種類や量の選択、等により調節することができる。
【0029】
ここに開示される粘着シートにおいて、自背面粘着力の平均値は、自背面粘着力の変動幅を小さくしやすくする観点から、例えば5N/20mm以下であることが好ましく、4.5N/20mm以下であることがさらに好ましく、4N/20mm以下であってもよい。自背面粘着力の平均値が低いことは、例えばロール体を構成する粘着シートにおいて、巻戻しに要する労力を軽減し作業性を向上させたり、巻戻しの際に引き伸ばされた粘着シートが被着体への貼付け後に収縮して該被着体からの浮きを生じたりすることを抑制する観点から有利となり得る。自背面粘着力の平均値の下限は特に制限されないが、他の特性とのバランスをとりやすくする観点から、例えば0.5N/20mm以上であることが好ましく、1N/20mm以上であることがより好ましく、1.5N/20mm以上であってもよい。例えばロール体を構成する粘着シートの場合、ロール形態から余分に巻き出されやすくなる等の不都合を抑制する観点から、自背面粘着力の平均値は低すぎないことが好ましい。自背面粘着力の平均値は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0030】
ここに開示される粘着シートは、上記基材の第二面の滑り抵抗値が3.5N以上であることが好ましい。この明細書において基材の第二面の滑り抵抗値とは、該粘着シートの背面とSUS板の間の動摩擦力であり、具体的には後述する実施例に記載の方法で測定される。滑り抵抗値が小さ過ぎると、例えばSUS板その他の金属板のような加工対象物(被着体)に該粘着シートが貼り付けられた状態で複数枚を重ねて平積みした際に、横滑りによる荷崩れが起こりやすくなることが懸念される。基材の第二面の滑り抵抗値が3.5N以上である粘着シートによると、被着体の滑り性を効果的に抑制することができる。
【0031】
より高い効果を得る観点から、いくつかの態様において、粘着シートの基材の第二面の滑り抵抗値は、例えば4N以上であってよく、4.5N以上でもよく、5N以上でもよい。粘着シートの基材の第二面の滑り抵抗値の上限は特に制限されない。自背面粘着力の変動幅を抑制しやすくする観点から、いくつかの態様において、上記滑り抵抗値は、例えば10N以下であってよく、15N以下でもよく、20N以下でもよい。
【0032】
ここに開示される粘着シートは、いくつかの態様において、ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度0.3m/分の条件で測定される低速剥離強度が10N/20mm以下であることが好ましく、8N/20mm以下であることがさらに好ましく、5N/20mm以下であることが特に好ましく、4.5N/20mm以下であってもよい。ここで、引張速度0.3m/分とは、例えば加工対象物(被着体)の加工工程後に、該加工対象物に貼り付けられた粘着シートを剥離除去することを想定して設定された測定条件である。不要となった粘着シートを剥がす際に要する労力を軽減し作業性を向上させる観点や、粘着シートの剥離後に被着体表面に粘着剤が付着した状態(いわゆる「糊残り」)が生じることを抑制する観点から、低速剥離強度は小さいほど好ましい。低速剥離強度の下限は特に制限されない。他の特性(例えば、所定以上の高速剥離強度)との両立を容易とする観点から、いくつかの態様において、低速剥離強度は0.5N/20mm以上であってもよく、0.8N/20mm以上であってもよく、1.0N/20mm以上であってもよい。低速剥離強度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。低速剥離強度は、例えば、粘着剤層の種類や厚さの選択、架橋剤の種類や使用量の選択、剥離剤の種類や使用量の選択、粘着付与樹脂等の任意成分の使用、等により調節することができる。
【0033】
なお、本明細書に開示される粘着シートは、上述した高速剥離強度、自背面粘着力の変動幅および基材の第二面の滑り抵抗値のうち一または二以上の特性の制限のない態様を包含し、そのような態様において、粘着シートは上記特性を満足するものに限定されない。
【0034】
ここに開示される粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、加工に用いるレーザ光の波長範囲におけるレーザ光吸収率(典型的には、該レーザ光の主波長におけるレーザ光吸収率)が20%以上であることが好ましい。このレーザ光吸収率は、粘着シートに照射されたレーザ光のうち、実際に粘着シートに吸収されるレーザ光の割合を意味する。レーザ光吸収率が20%以上である粘着シートによると、レーザ光を効率よく吸収することができる。
【0035】
いくつかの態様において、粘着シートのレーザ光吸収率は、例えば25%以上であってよく、30%以上でもよく、45%以上でもよく、60%以上でもよく、75%以上でもよい。粘着シートのレーザ光吸収率は、100%であってもよいが、実用的には95%以下が好ましく、90%以下でもよい。
【0036】
なお、この明細書において「レーザ光吸収率」とは、分光光度計(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計、型式「U-4100」またはその相当品)を用いて測定されるサンプルの透過率T(%)および反射率R(%)から、以下の式(I)により算出される値をいうものとする。
吸収率A(%)=100(%)-T(%)-R(%) (I)
【0037】
この明細書において、例えば「波長900nm~1100nmの範囲におけるレーザ光吸収率」とは、当該波長範囲における最小のレーザ光吸収率を指すものとする。また、本明細書においてレーザ光吸収率とは、特記しない場合、粘着シートまたは基材の背面(レーザ光が照射される側の面、すなわちワークに貼り付けられる面とは反対側の面)のレーザ光吸収率をいう。
【0038】
粘着シートの透過率および反射率は特に限定されない。いくつかの態様において、粘着シートは、加工に用いるレーザ光の波長の範囲でレーザ光吸収率が最小となる波長におけるレーザ光の透過率が70%未満であってよく、例えば50%未満でもよい。また、いくつかの態様において、粘着シートは、上記レーザ光吸収率が最小となる波長におけるレーザ光の反射率が50%未満であってよく、例えば40%未満でもよく、20%未満でもよく、10%未満でもよい。上記透過率および上記反射率の少なくとも一方(好ましくは両方)を満たす粘着シートは、ここに開示される好ましいレーザ光吸収率を有するものとなりやすい。
【0039】
レーザ光吸収率を調節するために、必要に応じてレーザ光吸収剤を用いることができる。レーザ光吸収剤としては、加工に用いるレーザ光の吸収率(典型的には、少なくとも主波長における吸収率)を上昇させる作用を発揮し得る各種の材料を好ましく使用することができる。粘着シートに含まれるレーザ光吸収剤の種類は、一種類でもよく、二種類以上でもよい。二種類以上のレーザ光吸収剤を含む粘着シートにおいて、それらのレーザ光吸収剤は、ブレンドして用いられてもよく、粘着シート内の異なる層にそれぞれ含有されていてもよい。
【0040】
なお、この明細書において「レーザ光吸収剤」とは、当該レーザ光吸収剤を用いない場合に比べて上記レーザ光吸収率を上昇させる作用を発揮し得る材料をいう。また、この明細書において「特定吸収剤」とは、上記レーザ光吸収剤のうち、比熱900J/kg・K未満かつ熱伝導率200W/m・K未満の金属を構成元素として有するものをいう。この明細書において、レーザ光吸収剤(特定吸収剤であり得る。)を含む層を「レーザ光吸収層」ということがある。
【0041】
ここに開示される粘着シートに用いられ得るレーザ光吸収剤の例としては、アルミニウム、ステンレス、チタン、ニッケル、ジルコニウム、タングステン、銅、銀、金、亜鉛、モリブデン、クロムおよびこれらを主成分とする合金等の金属;上記金属の酸化物(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム等)、窒化物、炭化物等の金属化合物;カーボンブラックやカーボンファイバー等の炭素材料;フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、アミニウム系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ナフトキノン系化合物、ジイモニウム系化合物、アントラキノン系化合物、芳香族ジチオール系金属錯体(例えばニッケル錯体)等の有機化合物;等が挙げられる。樹脂組成物中にレーザ光吸収剤を含むレーザ光吸収層において、該レーザ光吸収剤としては、上記レーザ光吸収層を構成する樹脂成分よりも熱分解温度の高い材料を用いることが好ましい。
【0042】
粉末状のレーザ光吸収剤を用いる場合、該粉末を構成する粒子の形状は特に限定されず、例えば薄片状、球状、針状、多面体状、不規則形状等であり得る。通常は、薄片状、球状または針状のレーザ光吸収剤を好ましく採用し得る。レーザ光吸収剤の平均粒径は特に限定されず、例えば0.005μm以上20μm以下であり得る。分散性の観点から、通常は、平均粒径が10μm以下または5μm以下のレーザ光吸収剤を好ましく使用し得る。少量のレーザ光吸収剤によってレーザ光吸収率を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、レーザ光吸収剤の平均粒径は、例えば3μm以下であってよく、1μm以下でもよく、0.6μm以下でもよく、0.4μm以下でもよく、0.3μm以下でもよい。また、粉末の取扱い性や均一分散の容易性の観点から、いくつかの態様において、レーザ光吸収剤の平均粒径は、例えば0.008μm以上であってよく、0.01μm以上でもよく、0.05μm以上でもよく、0.1μm以上でもよく、0.15μm以上でもよく、0.2μm以上でもよい。なお、本明細書中において「平均粒径」とは、特記しない場合、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径)を指す。
【0043】
いくつかの態様において、上記レーザ光吸収層は、上記レーザ光吸収剤としてカーボンブラックを含み得る。例えば、平均粒径10nm~500nm(より好ましくは10nm~120nm)のカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、単独で用いられてもよく、他のレーザ光吸収剤と組み合わせて用いられてもよい。
【0044】
また、いくつかの態様において、上記レーザ光吸収層は、レーザ光吸収剤として金属粉末および金属化合物粉末の少なくとも一方を含み得る。かかるレーザ光吸収剤は、特定レーザ光の吸収に伴う発熱に耐えて該特定レーザ光を吸収する性質を適切に維持し得るので好ましい。この種のレーザ光吸収剤の好適例として、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末、金属アルミニウム粉末等が挙げられる。
【0045】
レーザ光吸収層は、典型的には、樹脂成分中にレーザ光吸収剤を含む層である。かかる樹脂成分として採用し得る材料の非限定的な例示には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン-ポリエチレンブレンド樹脂等のポリオレフィン樹脂;その他、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド系樹脂;等が含まれる。かかる樹脂材料にレーザ光吸収剤を配合してなる樹脂組成物を、典型的にはフィルム状に成形することにより、レーザ光吸収層を形成することができる。
【0046】
レーザ光吸収剤を使用する場合、その使用量は特に限定されない。いくつかの態様において、レーザ光吸収剤の使用量は、例えば、該レーザ光吸収剤を含むレーザ光吸収層の0.01重量%以上であってよく、0.05重量%以上でもよく、0.1重量%以上でもよい。また、レーザ切断残渣の低減や反射率抑制の観点から、いくつかの態様において、レーザ光吸収剤の含有量は、レーザ光吸収剤を含むレーザ光吸収層の例えば10重量%以下であってよく、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよく、2重量%以下でもよい。
【0047】
いくつかの態様において、ここに開示される粘着シートは、上記レーザ光吸収剤として、特定吸収剤、すなわち比熱900J/kg・K未満かつ熱伝導率200W/m・K未満の金属を構成元素として有するレーザ光吸収剤を好ましく使用し得る。特定吸収剤は、上記比熱および上記熱伝導率を満たすいずれか一種の金属の単体;上記比熱および上記熱伝導率を満たすいずれか一種の金属を、50重量%超、70重量%超または90重量%超の割合で含む合金;上記比熱および熱伝導率を満たす二種以上の金属を、合計で50重量%超、70重量%超または90重量%超の割合で含む合金;このような金属単体または合金に相当する金属を構成元素として含む金属化合物;等からなる群から選択され得る。ここでいう特定吸収剤には、例えば、鉄、鉄合金(例えば、Cr,Ni,Si,W,Mn,SiおよびCからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む鉄合金)、および、上記鉄または鉄合金に対応する金属(鉄系金属)を構成元素として含む金属化合物(鉄系化合物)が含まれる。上記鉄系化合物としては、例えば、上記鉄系金属の酸化物(鉄系酸化物)を好ましく使用し得る。特定吸収剤の他の例としては、MnまたはMn合金に対応する金属(Mn系金属)を構成元素として含むMn系化合物が挙げられ、なかでもMn系酸化物が好ましい。特定吸収剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。二種類以上の特定吸収剤を含む粘着シートにおいて、それらの特定吸収剤は、ブレンドして用いられてもよく、粘着シート内の異なる層にそれぞれ含有されていてもよい。
【0048】
一般に、金属単体の比熱および熱伝導率に比べて、該金属を構成元素として含む金属化合物の比熱および熱伝導率は、より小さくなる傾向にある。したがって、ここに開示される粘着シートのいくつかの態様において、この明細書に開示される好ましい比熱および熱伝導率を満たす金属を構成元素として含む金属化合物を、特定吸収剤として好ましく用いることができる。特定吸収剤として使用し得る金属化合物は、ここに開示される好ましい比熱および熱伝導率を満たす金属の、例えば酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、水酸化物、オキシ水酸化物等であり得る。特定吸収剤として使用し得る金属化合物の他の例として、該金属のイオンを含む金属有機化合物(錯体等)が挙げられる。特定レーザ光の吸収に伴う発熱に耐えて該特定レーザ光を吸収する性質を適切に維持する観点から、上記金属の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物が好ましく、酸化物が特に好ましい。上記酸化物の例としては酸化鉄(FeO,Fe,Fe等)、二酸化マンガン、チタンブラック、酸化クロム(CrO,Cr等)、フェライト等が挙げられ、上記硫化物の例としては硫化鉄、硫化モリブデン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
ここに開示される粘着シートが特定吸収剤を含む場合において、特定吸収剤の含有量は特に限定されず、例えば、上記粘着シートの0.01重量%以上20重量%以下の範囲から適宜選択し得る。いくつかの態様において、特定吸収剤の含有量は、例えば0.05重量%以上であってよく、0.1重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、0.8重量%以上でもよい。特定吸収剤の含有量が多くなると、特定レーザ光の吸収率は高くなる傾向にある。一方、特定吸収剤の含有量が多すぎると、吸収した特定レーザ光のエネルギーが面方向に拡散しやすくなり、エネルギーロスが多くなることがあり得る。かかる観点から、特定吸収剤の含有量は、通常、粘着シートの15重量%以下とすることが適当であり、10重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、5重量%以下または5重量%未満でもよい。
【0050】
ここに開示される粘着シートは、特定吸収剤に加えて、必要に応じて特定吸収剤以外のレーザ光吸収剤を補助的に含み得る。以下、このように補助的に用いられる特定吸収剤以外のレーザ光吸収剤を「補助吸収剤」ともいう。補助吸収剤は、例えば、粘着シートの吸収率の向上、透過率や反射率の調整、外観の調整等の目的で用いられ得る。補助吸収剤としては、アルミニウム、銅、銀、金等の金属;上記金属の酸化物、窒化物、炭化物等の金属化合物;カーボンブラック;フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、アミニウム系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ナフトキノン系化合物、ジイモニウム系化合物、アントラキノン系化合物等の有機化合物;等を利用し得る。
【0051】
補助吸収剤の使用量は、重量基準で、粘着シートに含まれるレーザ光吸収剤の総量(すなわち特定吸収剤と補助吸収剤との合計量)の50%未満とすることが好ましく、25%未満でもよく、10%未満でもよく、5%未満でもよい。補助吸収剤を実質的に含まない粘着シートであってもよい。ここで、補助吸収剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には補助吸収剤が用いられていないことをいう。粘着シートに含まれるレーザ光吸収剤の総量は、該粘着シートの25重量%以下とすることが適当であり、20重量%以下、15重量%以下、または10重量%以下とすることがより好ましい。
【0052】
ここに開示される粘着シートが特定吸収剤を含む場合において、粘着シートのカーボンブラック(CB)含有量は、上記粘着シートの0.3重量%未満であることが好ましく、0.1重量%未満であることがより好ましく、0.05重量%未満であることがさらに好ましく、0.02重量%以下であることが特に好ましい。CBの含有量の低減により、粘着シートの非汚染性が向上する傾向にある。CBを実質的に含有しない粘着シート、すなわち、少なくとも意図的にはCBが用いられていない粘着シートであってもよい。ここに開示される粘着シートは、特定吸収剤を含有することにより、CBを使用しないかまたはその使用量を上記のように制限しても、ワークを効率よく加工し得る。かかる粘着シートによると、ワークの加工効率向上と非汚染性とを好適に両立し得る。
【0053】
いくつかの態様において、特定吸収剤としては、黒色系金属化合物を好ましく使用し得る。黒色系金属化合物の使用により、粘着シートのレーザ光吸収率を効率よく高めることができる。これにより、CBを使用しないかまたはその使用量を制限しても、上述した好ましいレーザ光吸収率を有する粘着シートを好適に実現し得る。本発明者らの検討により、このような黒色系金属化合物は、意外にも、CBとは異なり、黒い残渣を生じにくいことが明らかとなった。したがって、黒色系金属化合物の使用により、ワークの加工効率向上と非汚染性とを好適に両立することができる。
【0054】
黒色系金属化合物の例としては、酸化鉄、二酸化マンガン、チタンブラック、酸化クロム、硫化鉄、硫化モリブデン等が挙げられるが、これらに限定されない。入手容易性の点から好ましい黒色系金属化合物として、酸化鉄(例えば、FeO,Fe等)、チタンブラック、二酸化マンガン等が挙げられる。上記チタンブラックとは、チタン原子を有する黒色粒子であり、好ましくは酸窒化チタンや低次酸化チタン等の黒色粒子である。なかでも好ましい黒色系金属化合物として、酸化鉄、チタンブラックが例示される。
【0055】
粘着シートにおける黒色系金属化合物の含有量は、例えば上記粘着シートの0.05重量%以上とすることができ、レーザ光吸収率向上の観点から0.1重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、0.8重量%以上でもよい。また、粘着シートの面方向への拡散によるエネルギーロスを低減する観点から、黒色系金属化合物の含有量は、通常、粘着シートの15重量%以下とすることが適当であり、10重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、5重量%以下または5重量%未満でもよい。特定吸収剤のうち黒色系金属化合物の占める割合は、例えば50重量%超であってよく、70重量%以上でもよく、90重量%以上でもよく、実質的に100重量%でもよい。
【0056】
粘着シートの背面の明度Lは、95未満であることが好ましい。いくつかの態様において、粘着シートの背面の明度Lは、例えば90未満であってよく、70未満でもよく、60未満でもよく、50未満でもよく、45未満でもよく、40未満でもよい。このように背面の明度Lを低く設定することによって、粘着シートのレーザ光吸収率を高めやすくなる。明度Lの下限は特に制限されないが、粘着シートの意匠性、表面印刷性、耐候性、識別性等の観点から、通常は20以上が適当であり、30以上でもよい。いくつかの態様において、粘着シートの背面の明度Lは、例えば40以上であってよく、50以上でもよい。
【0057】
粘着シートの背面の色度aは、特に限定されない。いくつかの態様において、上記明度Lと同様の観点から、粘着シートの背面の色度aは、例えば-15~+15の範囲であってよく、-10~+10の範囲でもよく、-5~+7の範囲でもよく、-3~+5の範囲でもよく、-1.5~+3の範囲でもよく、0~+2の範囲でもよい。粘着シートの背面の色度bは、特に限定されないが、例えば-15~+15の範囲であってよく、-10~+10の範囲でもよく、-5~+5の範囲でもよく、-3~+2の範囲でもよく、-1.5~+1の範囲でもよい。
【0058】
粘着シートの前面の明度L、色度a、色度bは、上述した粘着シートの背面の明度L、色度a、色度bと同様の範囲から適宜選択し得る。明度L、色度a、色度bの各々は、粘着シートの前面と背面とで同程度であってもよく、異なってもよい。
【0059】
なお、本明細書において、明度L、色度aおよび色度bは、L表色系で規定される明度L、色度a、色度bを意味し、国際照明委員会が1976年に推奨した規定またはJIS Z 8729の規定に準拠するものとする。具体的には、明度L、色度a、色度bは、色差計(例えば、商品名「CR-400」ミノルタ社製;色彩色差計)を用いて測定することにより求められる。明度L、色度a、色度bは、レーザ光吸収剤の種類の選択、レーザ光吸収剤の使用量の選択、レーザ光吸収剤以外の着色剤の使用の有無、着色剤を使用する場合における該着色剤の種類や使用量の選択、等により調節することができる。
【0060】
粘着シートの厚さは特に限定されないが、通常は10μm~200μm程度が適当である。粘着シートのハンドリング性等の観点から、いくつかの態様において、粘着シートの厚さは、例えば20μm以上であってよく、25μm以上でもよく、40μm以上でもよく、55μm以上でもよく、80μm以上でもよい。また、例えばレーザ加工の迅速性や精密性の観点から、粘着シートの厚さは、例えば150μm以下であってよく、120μm以下でもよく、100μm以下でもよい。場合によっては、粘着シートの厚さは、80μm以下でもよく、60μm以下でもよく、50μm以下でもよい。
【0061】
<基材>
ここに開示される粘着シートは、基材として樹脂フィルムを含む。樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン-ポリエチレンブレンド樹脂等のポリオレフィン樹脂;その他、塩化ビニル樹脂(典型的には、軟質塩化ビニル樹脂)、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド系樹脂;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
基材が可撓性を有することによる各種加工性の観点から、あるいは例えば特定レーザ光による粘着シートの切断性や非汚染性の観点から、いくつかの態様において、上記樹脂フィルムとしてポリオレフィン系樹脂フィルムまたはポリエステル系樹脂フィルムを好ましく用いることができる。
【0063】
ここで、ポリオレフィン系樹脂フィルムとは、主成分がポリオレフィン系樹脂である樹脂フィルムをいう。本明細書において主成分とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分をいう。例えば、樹脂フィルムの主成分がポリオレフィン系樹脂であるとは、該樹脂フィルムがその全体重量の50重量%を超えてポリオレフィン系樹脂を含むことをいう。ポリオレフィン系樹脂フィルムの好適例として、主成分がポリエチレン(PE)樹脂および/またはポリプロピレン(PP)樹脂である樹脂フィルムをいう。ポリオレフィン系樹脂フィルムは、PE樹脂および/またはPP樹脂を含み、PE樹脂とPP樹脂との合計量が該ポリオレフィン樹脂フィルムの50重量%超、好ましくは70重量%以上、例えば85重量%以上を占めるものであり得る。上記合計量は、PE樹脂を含みPP樹脂を含まない樹脂フィルムでは、PE樹脂の含有量と一致する。
【0064】
上記PE樹脂は、エチレンを主構成単量体単位とする種々のポリマー(エチレン系ポリマー)を主成分とするものであり得る。1種または2種以上のエチレン系ポリマーから実質的に構成されるPE樹脂であってもよい。上記エチレン系ポリマーは、エチレンのホモポリマーであってもよく、主モノマーとしてのエチレンに、副モノマーとして他のα-オレフィンを共重合(ランダム共重合、ブロック共重合等)させたものであってもよい。上記α-オレフィンの好適例としては、プロピレン、1-ブテン(分岐1-ブテンであり得る。)、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等の、炭素原子数3~10のα-オレフィンが挙げられる。例えば、上記副モノマーとしてのα-オレフィンが10重量%以下(典型的には5重量%以下)の割合で共重合されたエチレン系ポリマーを主成分とするPE樹脂を好ましく採用し得る。
【0065】
上記PE樹脂は、また、重合性官能基に加えて別の官能基を有するモノマー(官能基含有モノマー)とエチレンとのコポリマーを含むPE樹脂や、かかる官能基含有モノマーをエチレン系ポリマーに共重合させたPE樹脂等であってもよい。エチレンと官能基含有モノマーとのコポリマーとしては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-(メタ)アクリル酸(すなわち、アクリル酸および/またはメタクリル酸)共重合体が金属イオンで架橋されたもの、等が挙げられる。
【0066】
PE樹脂の密度は特に限定されない。ここでいうPE樹脂の概念には、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれもが含まれる。一態様において、上記PE樹脂の密度は、例えば0.90~0.94g/cm程度であり得る。好ましいPE樹脂として、LDPEおよびLLDPEが挙げられる。
【0067】
上記PP樹脂は、プロピレンを主構成単量体単位とする種々のポリマー(プロピレン系ポリマー)、すなわち全構成単量体単位の50重量%超がプロピレンであるポリマーを主成分とするものであり得る。1種または2種以上のプロピレン系ポリマーから実質的に構成されるPP樹脂であってもよい。ここでいうプロピレン系ポリマーの概念には、ホモポリプロピレンの他、プロピレンと他のモノマーとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)やブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)が包含される。
【0068】
基材の第一面(すなわち、粘着剤層が設けられる側の表面)には、必要に応じて、粘着剤層との密着性を高めるための適宜の表面処理が施されていてもよい。密着性を高めるための表面処理としては、コロナ放電処理、酸処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布等が例示される。
【0069】
ここに開示される粘着シートは、基材の第二面が剥離面となっている。基材の第二面が剥離面であるとは、典型的には、基材の第一面に設けられた粘着剤層の表面(粘着面)を上記剥離面に当接させた粘着シートを、該剥離面に糊残り(粘着剤の残留)を生じることなく引き剥がし可能であることをいう。
【0070】
いくつかの態様において、上記第二面を構成する樹脂組成物(以下、「第二面形成材」ともいう。)は、剥離剤を含有することが好ましい。かかる第二面を有する基材は、少なくとも第二面に上記剥離剤が練り込まれている基材として把握され得る。このような態様によると、上記第二面の滑り抵抗値が3.5N以上であり、自背面粘着力の変動幅が1.5N/20mm以下である粘着シートを好ましく実現し得る。上記第二面形成材は、基材の少なくとも第二面を構成していればよく、例えば上記基材の第二面側のみを構成していてもよく、基材の全体を構成していてもよい。
【0071】
第二面形成材としては、剥離剤と樹脂材料とを少なくとも含む樹脂組成物が好ましく用いられ得る。上記樹脂材料としては、基材としての樹脂フィルムを構成する樹脂材料として例示した各種材料、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン-ポリエチレンブレンド樹脂等のポリオレフィン樹脂;その他、塩化ビニル樹脂(典型的には、軟質塩化ビニル樹脂)、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド系樹脂;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
第二面形成材の構成成分として用いられ得る剥離剤(すなわち、第二面練込み用剥離剤)としては、例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体、脂肪酸アミド系訴加剤、低分子量ポリオレフィンワックス、長鎖アルキル系添加剤、シリコーン系剥離剤等が挙げられる。剥離剤は、一種を単独でまたは二種以上を適宜組み合わせて使用することができる。第二面形成材に含まれる樹脂成分との混合性の良い剥離剤を選択することが好ましい。
【0073】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体としては、例えばエチレンと酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニルとの共重合体をケン化することによって得られるエチレン・ビニルアルコール共重合体等を用いることができる。
脂肪酸アミド系訴加剤としては、例えば飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド、および置換尿素等が挙げられる。
脂肪酸アミド系添加剤としては、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイイン酸アミド、N,N-ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリル-N’-ステアリル尿素等のN-ステアリル-N’-ステアリル酸アミド等が挙げられる。これらの脂肪酸アミド系添加剤は、一種を単独で使用してもよく、また二種以上を混合して使用してもよい。
低分子量ポリオレフィンワックスとしては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロプレンワックス等の低分子量のものが適宜使用できる。
長鎖アルキル系添加剤としては、ピーロイル(登録商標)1010やピーロイル(登録商標)1010S(以上、いずれも一方社油脂工業社製)等の、アルキル鎖を有する低分子量添加物等が適宜使用できる。
シリコーン系剥離剤としては、例えばシリル化ポリオレフィン、シリコーンレジン、シリコーンアルコキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー、シリコーンマスターペレット、シリコーンゴムパウダー、シリコーンエマルジョン等が挙げられる。シリル化ポリオレフィンとしては、例えば特開2011-26448号公報の実施例で示される方法で作製したシリル化ポリオレフィンを使用し得る。
【0074】
適切な滑り抵抗値を実現しやすく、かつ自背面粘着力の変動幅を抑制しやすいことから、第二面練込み用剥離剤の好適例として、上記長鎖アルキル系添加剤およびシリコーン系剥離剤が挙げられる。なかでも、シリコーン系剥離剤が特に好ましい。シリコーン系剥離剤としては、シリル化ポリオレフィンが特に好ましい。
【0075】
第二面形成材中の剥離剤の含有量は特に限定されず、例えば該第二面形成材全体の0.01~80重量%程度とすることができる。自背面粘着力の変動幅および滑り抵抗値を所望の値の範囲とする観点から、いくつかの態様において、上記第二面形成材中の剥離剤の含有量は、例えば0.1重量%以上であってよく、0.3重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、0.7重量%以上でもよく、1重量%以上でもよい。上記樹脂材料との相溶性等の観点から、上記第二面形成材中の剥離剤の含有量は、例えば70重量%以下であってよく、50重量%以下でもよく、30重量%以下でもよく、10重量%以下でもよい。
【0076】
基材は、単層構造でもよく、二層以上の多層構造でもよい。いくつかの態様において、多層構造の基材を好ましく採用し得る。多層構造の基材には、該基材の第一面と第二面とで機能や外観を異ならせやすいという利点がある。多層構造の基材において、各層を構成する樹脂材料の種類は、同一でもよく、異なっていてもよい。多層構造の基材は、例えば二層~五層構造であってよく、二層または三層構造でもよい。他のいくつかの態様において、基材は単層構造であってもよい。単層構造の基材は、該基材の生産性や品質安定性の面で有利となり得る。
【0077】
基材の成形方法は特に限定されず、従来公知の押出成形法、例えばインフレーション押出成形法やキャスト成形法等を適宜採用することができる。基材は、無延伸であってもよく、一軸延伸や二軸延伸等の延伸が施されていてもよい。多層構造の基材は、各層に対応する樹脂組成物を同時に(例えば、多層インフレーション成形法により)成形する方法、各々の層を成形した後に貼り合わせる方法、先に成形した層の上に他の層をキャストする方法等を、単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することにより得ることができる。
【0078】
いくつかの態様において、基材は、上述のような第二面形成材から形成された背面層と、上記背面層の内側(すなわち、第一面に近い側)に配置された支持層とを含む、二層以上の多層構造の基材であり得る。以下、このような構成の基材において上記背面層を形成する樹脂組成物(すなわち、第二面形成材)を、特に「背面層形成材」ということがある。背面層形成材としては、上述した第二面形成材と同様、剥離剤を含む樹脂組成物を好ましく用いることができる。上記背面層形成材は、例えば、剥離剤と樹脂材料とを少なくとも含む樹脂組成物であり得る。背面層形成材の構成成分として用いられ得る剥離剤、背面層形成材中における上記剥離剤の含有量、背面層形成材の構成成分として用いられ得る樹脂材料の例示等は、上述した第二面形成材と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0079】
上記支持層は、樹脂組成物から形成された層であり得る。以下、支持層を形成する樹脂組成物を「支持層形成材」ということがある。支持層形成材の構成成分として用いられ得る樹脂成分としては、上述した樹脂フィルムを構成する樹脂材料と同様のポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。支持層形成材は、このような樹脂材料から選択される一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて含み得る。支持層形成材は、第二面形成材に用いられ得る剥離剤と同様の剥離剤を含んでいなくてもよく、剥離剤を含んでいてもよい。支持層の一方の表面が基材の第一面を兼ねる態様では、粘着剤層の支持層への投錨性向上の観点から、支持層形成材は剥離剤を含まないことが好ましい。
背面層形成材を構成する樹脂材料と支持層形成材を構成する樹脂材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。背面層と支持層との密着性の観点から、いくつかの態様において、上記背面層形成材を構成する樹脂材料としては、上記支持層構成材を構成する樹脂材料と同じ種類の樹脂を好ましく採用し得る。
【0080】
背面層とその内側に配置された支持層とを含む基材は、例えば、支持層形成材と背面層形成材とを共押出成形により積層することにより得ることができる。上記支持層形成材を、あらかじめ形成されたベース樹脂フィルムの形態で、上記背面層形成材と共押出成形してもよい。上記各層それぞれにおいて積層する層の数は特に限定されるものではなく、上記背面層および上記支持層はそれぞれ単層であってもよいし、必要に応じて複数層の積層構造としてもよい。
【0081】
共押出成形としては、フィルム、シート等の製造等に一般に用いられる方法を採用することができ、特に限定されるものではない。具体的には、二層、三層または四層以上の多層にして、たとえば、インフレーション法、共押出T-ダイ法等を用いることができる。これらの共押出成形を用いることは、コスト面や生産性の面で好ましい。
【0082】
ここに開示される粘着シートにおいて、上記第二面を剥離面とする手法としては、上述のように樹脂組成物中に剥離剤を含む第二面形成材により基材の第二面を構成する手法を好ましく採用し得るが、これに限定されない。基材の第二面を剥離面とする手法としては、適切な滑り抵抗値および自背面粘着力の変動幅を示す粘着シートを実現し得る各種の手法を、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて適用することができる。基材の第二面は、例えば、剥離剤を含まない樹脂組成物により構成された表面に剥離処理剤を塗布する表面処理を施してなる剥離面であってもよい。かかる表面処理は、例えば、一般的なシリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系等の剥離処理剤を用いて実施することができる。剥離剤を含有する樹脂組成物より構成された表面(すなわち、上記剥離剤が練り込まれた表面)に、剥離処理剤を塗布する表面処理がさらに施されていてもよい。
【0083】
基材には、必要に応じてレーザ光吸収剤を含有させることができる。いくつかの態様において、上記レーザ光吸収剤は、特定吸収剤を含むことが好ましい。
レーザ光吸収剤を含む基材の一好適例として、レーザ光吸収層(特定吸収剤であり得る。)を含む基材が挙げられる。多層構造の基材では、少なくとも一つの層が、レーザ光吸収剤を含むレーザ光吸収層であることが好ましい。レーザ光吸収層を含む基材のレーザ光吸収率は、粘着シートのレーザ光吸収率が20%以上となるように設定することができる。いくつかの態様において、基材のレーザ光吸収率は、例えば15%以上であってよく、通常は20%以上が適当であり、25%以上でもよく、30%以上でもよく、45%以上でもよく、60%以上でもよく、75%以上でもよい。基材のレーザ光吸収率は、100%であってもよいが、実用的には95%以下が好ましく、90%以下でもよい。基材の透過率および反射率は、上述した粘着シートの透過率および反射率と同様の範囲から適宜選択し得る。
【0084】
基材に含有させるレーザ光吸収剤としては、粘着シートに使用し得るレーザ光吸収剤に係る上記の例示と同様のものから、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。上記レーザ光吸収剤が特定吸収剤を含む態様において、該特定吸収剤としては、粘着シートに使用し得る特定吸収剤に係る上記の例示と同様のものから、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。基材におけるレーザ光吸収剤の含有量および特定吸収剤の含有量としては、粘着シートにおけるレーザ光吸収剤の含有量および特定吸収剤の含有量に係る例示を、それぞれ適用することができる。
【0085】
基材の背面の明度L、色度a、色度bは、上述した粘着シートの背面の明度L、色度a、色度bと同様の範囲から適宜選択し得る。同様に、基材の前面の明度L、色度a、色度bは、上述した粘着シートの前面の明度L、色度a、色度bと同様の範囲から適宜選択し得る。
【0086】
基材には、必要に応じて任意の添加剤を配合することができる。かかる添加剤の例としては、難燃剤、帯電防止剤、光安定剤(ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤等)、酸化防止剤等が挙げられる。
【0087】
基材の厚さは特に限定されず、例えば5μm~150μm程度とすることができる。基材または該基材を備えた粘着シートのハンドリング性の観点から、いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば15μm以上であってよく、20μm以上でもよく、35μm以上でもよく、50μm以上でもよく、75μm以上でもよい。また、レーザ加工の迅速性や精密性の観点から、いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば130μm以下であってよく、110μm以下でもよく、90μm以下でもよい。場合によっては、基材の厚さは、70μm以下でもよく、50μm以下でもよく、40μm以下でもよい。
【0088】
背面層(好ましくは、剥離剤を含む樹脂組成物からなされた背面層)と支持層とを含む基材において、該背面層の厚さ(背面層が積層構造である場合は、それらの層の合計厚さ)は特に限定されない。厚みムラの少ない背面層を形成しやすくする観点から、背面層の厚さは、例えば1μm以上であることが有利であり、3μm以上でもよく、5μm以上でもよい。ここに開示される技術は、背面層の厚さが7μm超、10μm超、15μm超、20μm超または25μm超である基材を備える粘着シートの形態でも好適に実施され得る。背面層の厚さの上限は特に制限されず、該背面層を含む基材全体の厚さ未満であればよい。基材全体の厚さのうち背面層の厚さは、例えば1%以上とすることができ、3%以上でもよく、5%以上でもよく、8%以上でもよく、また、例えば95%以下とすることができ、70%以下でもよく、50%以下でもよく、20%以下でもよく、15%以下でもよい。背面層の厚さは、基材全体の厚さに応じて、例えば60μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下等とすることができる。背面層の厚さを小さくすることは、粘着シートの薄型化を図る観点から有利となり得る。
【0089】
支持層の厚みムラの抑制や、あらかじめ成形された樹脂フィルムを支持層として用いる場合における該樹脂フィルムの取扱い性等の観点から、支持層の厚さは、通常、5μm以上であることが適当であり、10μm以上であることが好ましく、25μm以上でもよく、40μm以上でもよく、60μm以上でもよい。支持層の厚さの上限は特に制限されず、該背面層を含む基材全体の厚さ未満であればよい。
【0090】
レーザ光吸収層を含む基材において、該レーザ光吸収層の厚さ(複数のレーザ光吸収層を含む基材では、それらの層の合計厚さ)は、例えば3μm以上であってよく、5μm以上でもよく、10μm以上でもよい。レーザ加工の迅速性や精密性の観点から、いくつかの態様において、基材全体の厚さのうちレーザ光吸収層(換言すれば、レーザ光吸収剤が配置された箇所)の厚さは、例えば20%以上であってよく、50%以上でもよく、70%以上でもよく、90%以上でもよい。なお、レーザ光吸収層からなる単層の基材や、複数のレーザ光吸収剤層からなる基材では、該基材全体の厚さのうちレーザ光吸収層の厚さが100%である。
【0091】
<粘着剤層>
ここに開示される技術における粘着剤層を構成する粘着剤は特に限定されず、例えば、公知のゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。粘着性能やコストの観点から、ゴム系粘着剤またはアクリル系粘着剤を好ましく採用し得る。ここで、ゴム系粘着剤とは、該粘着剤に含まれるポリマー成分の主成分(典型的には、50重量%を超えて含まれる成分)がゴム系ポリマーである粘着剤をいい、アクリル系粘着剤とは、該粘着剤に含まれるポリマー成分の主成分がアクリル系ポリマーである粘着剤をいう。ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等についても同様である。
上記粘着剤層は、単層構造であってもよく、組成が同じかまたは異なる二以上の層を有する積層構造であってもよい。粘着剤層の均一性を高めて自背面粘着力の変動幅を小さくする観点から、単層構造の粘着剤層が好ましい。
【0092】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層を構成する粘着剤としては、高速剥離強度をよりよく発揮する観点から、ゴム系粘着剤を特に好ましく採用し得る。ゴム系粘着剤の例としては、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤等が挙げられる。
【0093】
上記天然ゴム系粘着剤の概念には、ベースポリマーが天然ゴムであるもの、および、ベースポリマーが変性天然ゴムであるものが包含される。上記天然ゴムとしては、特に限定されず、例えばstandard malaysian rubber(SMR)、standard vietnamese rubber(SVR)、リブドスモークドシート(RSS)、ペールクレープ等を用いることができる。上記変性天然ゴムとしては、該変性天然ゴムのうち50重量%以上(例えば60重量%以上)が天然ゴムに由来する構造部分であるものを好ましく採用し得る。上記変性天然ゴムの具体例としては、アクリル変性天然ゴムが挙げられるが、これに限定されない。
【0094】
また、上記合成ゴム系粘着剤のベースポリマーたるゴム系ポリマーの具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、ポリイソブチレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、等が挙げられる。
【0095】
好ましい一態様では、上記ゴム系粘着剤層のベースポリマーが天然ゴムである。例えば、MS(1+4)100℃(L型ロータ使用、予熱1分、粘度測定時間4分、試験温度100℃)の測定条件におけるムーニー粘度が10~60程度の天然ゴムが好ましい。天然ゴム系粘着剤層を備えた粘着シートは、合成ゴム系粘着剤層を備えた粘着シートに比べて被着体との密着性が迅速に上昇する傾向にある。これにより、例えば加工対象物(被着体)に粘着シートを貼り付けて上記加工対象物にレーザ加工に供するまでの時間を短くしても、アシストガス圧による粘着シートの浮きや剥がれが好適に抑制され得る。
【0096】
ここに開示される技術におけるゴム系粘着剤層は、ベースポリマーに他のポリマー(以下、副ポリマーともいう。)がブレンドされた組成であり得る。かかる副ポリマーは、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等のベースポリマーとなり得るアクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、シリコーンポリマー等であり得る。あるいは、上述したゴム系ポリマーのうちベースポリマー以外のものであってもよい。かかる副ポリマーは、単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0097】
このような副ポリマーは、ベースポリマー100重量部に対して100重量部以下の使用量(二種以上の副ポリマーを使用する場合にはそれらの合計量を指す。)で用いられる。通常は、ベースポリマー100重量部に対する副ポリマーの使用量を70重量部以下とすることが適当であり、50重量部以下とすることが好ましい。副ポリマーを実質的に含まない(すなわち、ポリマー成分の実質的に100重量%がベースポリマーである)ゴム系粘着剤層であってもよい。また、ゴム系ポリマー以外のポリマー成分を実質的に含有しないゴム系粘着剤層(例えば、天然ゴムおよび変性天然ゴム以外のポリマー成分を実質的に含有しないゴム系粘着剤層)であってもよい。
【0098】
ここに開示される粘着シートは、アクリル系粘着剤により構成されたアクリル系粘着剤層を有していてもよい。アクリル系粘着剤としては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とし、これに必要に応じて該アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な改質用モノマーを加えたモノマー組成を有するアクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分)とするものを好ましく用いることができる。上記改質用モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;スチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル等のビニルエステル類;等が挙げられる。かかるアクリル系粘着剤は、溶液重合法、エマルション重合法、紫外線(UV)重合法等の慣用の重合法により得ることができる。
【0099】
粘着剤層(例えば、ゴム系粘着剤層)には、必要に応じてレーザ光吸収剤を含有させることができる。すなわち、粘着剤層はレーザ光吸収層であってもよい。複数の層からなる粘着剤層では、それらのうち少なくとも一つの層にレーザ光吸収剤を含有させることができる。粘着剤層に含有させるレーザ光吸収剤としては、上記で例示したレーザ光吸収剤のなかから一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。粘着剤層におけるレーザ光吸収剤の含有量は、通常、該粘着剤層の5重量%以下とすることが適当であり、粘着性能の観点から3重量%以下が好ましく、1重量%以下でもよい。ここに開示される技術は、粘着剤層がレーザ光吸収剤を実質的に含有しない態様でも好ましく実施され得る。
【0100】
粘着剤層には、必要に応じて粘着付与剤を含有させることができる。粘着付与剤としては、公知のロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂(C5系、C9系等)、テルペン系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与剤樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、安定化ロジン、重合ロジン、変性ロジン等が挙げられる。上記ロジン誘導体樹脂としては、上記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。上記石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、これらの水素化物等が例示される。上記テルペン系樹脂としては、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂等が挙げられる。上記ケトン系樹脂としては、例えば、ケトン類とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン系樹脂が例示される。このような粘着付与剤は、単独で使用してもよく、二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。なかでも好ましい粘着付与剤として、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、脂肪族系(C5系)石油樹脂、テルペン樹脂が例示される。これらの粘着付与樹脂は、例えば、ゴム系粘着剤層、アクリル系粘着剤層等である態様において好適に使用され得る。
【0101】
上記粘着付与剤の使用量(二種以上を用いる場合にはそれらの合計量)は、通常、ベースポリマー100重量部に対して凡そ20~150重量部(好ましくは凡そ30~100重量部)とすることが適当である。高速剥離強度向上の観点から、いくつかの態様において、粘着付与剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば30重量部以上であってよく、40重量部以上でもよく、45重量部以上でもよい。また、凝集力の低下による糊残りの発生の回避等の観点から、いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の使用量は、例えば85重量部以下であってよく、75重量部以下であってもよい。いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の使用量は、例えば70重量部未満でもよく、65重量部以下でもよく、55重量部以下でもよく、50重量部以下でもよい。粘着付与剤の使用量を少なくすることは、例えば、被着体から粘着シートを剥離する際における作業負担軽減や粘着シートの千切れ防止の観点から有利となり得る。
【0102】
粘着剤層には架橋剤を含有させることができる。架橋剤の使用により、粘着剤層に適度な凝集力を付与することができる。架橋剤を含有する粘着剤層は、例えば、該架橋剤を含む粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成することにより得ることができる。上記架橋剤は、架橋反応後の形態、架橋反応前の形態、部分的に架橋反応した形態、これらの中間的または複合的な形態等で粘着剤層に含まれ得る。上記架橋剤は、典型的には、専ら架橋反応後の形態で粘着剤層に含まれている。
【0103】
架橋剤を使用する場合における使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.005重量部以上10重量部以下の範囲とすることができる。ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、例えば0.01重量部以上であってよく、0.1重量部以上でもよく、0.5重量部以上でもよい。また、被着体(加工対象物)表面に対する密着性向上の観点から、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、例えば5.0重量部未満であってよく、4.0重量部未満でもよく、3.5重量部以下でもよく、2.5重量部以下でもよい。ここに開示される技術は、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量が2.0重量部未満または1.5重量部以下である態様でも好適に実施され得る。
【0104】
使用し得る架橋剤の例には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、シリコーン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、シラン系架橋剤、アルキルエーテル化メラミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、過酸化物等の架橋剤が含まれる。上記架橋剤の好適例として、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が挙げられる。架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、イソシアネート系架橋剤が好ましく用いられ得る。イソシアネート系架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。イソシアネート系架橋剤は、他の架橋剤、例えばエポキシ系架橋剤と組み合わせて用いてもよい。
【0105】
上記イソシアネート系架橋剤としては、イソシアネート基(イソシアネート基をブロック剤または数量体化等により一時的に保護したイソシアネート再生型官能基を含む。)を1分子中に2つ以上有する化合物を用いることができる。イソシアネート系架橋剤の例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート等が挙げられる。
【0106】
上記イソシアネート系架橋剤としては、より具体的には、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製,商品名コロネートL)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製,商品名コロネートHL)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製,商品名コロネートHX)等のイソシアネート付加物、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名:タケネートD110N)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名:タケネートD120N)、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名:タケネートD140N)、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名:タケネートD160N);ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、ならびにこれらと各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合等で多官能化したポリイソシアネート等を挙げることができる。これらのなかでも芳香族イソシアネートや脂環式イソシアネートを用いることが好ましい。
【0107】
イソシアネート系架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば凡そ0.1重量部以上であってよく、凡そ0.5重量部以上でもよく、凡そ1.0重量部以上でもよく、1.5重量部超でもよい。より高い使用効果を得る観点から、いくつかの好ましい態様に係る粘着剤層において、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば2.0重量部超であってよく、凡そ2.5重量部以上でもよく、2.5重量部超でもよく、凡そ2.7重量部以上でもよい。また、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば10重量部以下であってよく、7重量部以下であってもよく、5重量部以下でもよい。
【0108】
上記エポキシ系架橋剤としては、エポキシ基を1分子中に2つ以上有する多官能エポキシ化合物を用いることができる。エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテルの他、分子内にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ系樹脂等が挙げられる。上記エポキシ系架橋剤の市販品としては、例えば、三菱ガス化学社製の商品名「テトラッドC」、「テトラッドX」等が挙げられる。
【0109】
エポキシ系架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。また、エポキシ系架橋剤は、単独で使用してもよく、他の架橋剤、例えばイソシアネート系架橋剤と組み合わせて用いてもよい。エポキシ系架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.005~5重量部程度とすることができ、0.01~5重量部としてもよく、0.1~3重量部としてもよい。
【0110】
その他、粘着剤層は、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を、必要に応じて含有してもよい。このような添加剤は、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0111】
かかる粘着剤層を基材の第一面に設ける方法は特に限定されない。例えば、適当な媒体中に粘着剤層形成成分を含む粘着剤組成物(例えば、粘着剤層形成成分が有機溶媒に溶解した溶液、または該成分が水性溶媒に分散した分散液)を基材に塗布して乾燥または硬化させることにより基材上に直接粘着剤層を形成する方法、剥離性を有する表面上に形成した粘着剤層を基材に移着する方法、粘着剤層形成成分を基材形成成分とともに溶融加熱して共押出し成形により積層する方法、等の公知の方法を適宜採用することができる。より高い高速剥離強度を有する粘着シートを構成する粘着剤層を形成するために、粘着剤層形成成分の取扱い容易性の観点から、粘着剤組成物を塗布する方法を好ましく採用し得る。上記粘着剤組成物は、例えば、ポリマー成分と、典型的には粘着付与剤と、必要に応じて用いられる他の成分と、上記媒体とを、常法により混合して調製することができる。粘着剤組成物の塗布方法としては、従来公知の各種の方法を使用可能である。具体的には、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法等の方法が挙げられる。
【0112】
粘着剤層の厚さは、粘着シートの用途に応じて適切な粘着性能が得られるように適宜設定することができる。粘着剤層の厚さは、通常、0.5μm~50μmとすることが適当である。被着体への密着性向上の観点から、いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、例えば1.5μm以上であってよく、3μm以上でもよく、5μm以上でもよく、7μm以上でもよい。また、粘着剤層の厚さは、例えば30μm以下であってよく、20μm以下でもよく、15μm以下でもよく、10μm以下でもよい。粘着剤層の厚さが小さいことは、例えば被着体(ワーク)とともにレーザ切断される態様で用いられ得る粘着シートにおいて、レーザ加工の迅速性や精密性の観点から有利となり得る。ここに開示される技術は、厚さが10μm未満または8μm以下の粘着剤層を有する粘着シートの態様でも好ましく実施され得る。
【0113】
<ロール体>
この明細書によると、ここに開示される粘着シートを巻回された形態で含むロール体が提供され得る。このようなロール体は、典型的には、コア(巻芯)と、該コアの周囲に巻きつけられた粘着シートとを含む。コアの形状は特に限定されず、例えば、中実の円柱形状、中空の円柱形状(すなわち円筒形状)、中空または中実の多角柱形状、等であり得る。ロール体の取扱い性向上の観点から、中空の円柱状または中空の多角柱形状のコアを好ましく採用し得る。円筒状のコアが特に好ましい。
【0114】
コアを構成する材料は特に制限されず、公知の材料を用いることができる。例えば、ボール紙等の紙類;PE樹脂、PP樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のプラスチック材料;繊維強化プラスチック(FRP)等の複合材料;鉄、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム等の金属材料;等が挙げられる。
【0115】
コアの外径は特に制限されない。いくつかの態様において、コアの外径は、例えば30mm以上であってよく、50mm以上でもよく、70mm以上でもよく、80mm以上でもよく、85mm以上でもよい。生産性の向上等を目的として、ロール体に含まれる積層シートを長尺化することでロール交換の頻度を減らしたいとの要請がある。ロール体に含まれる積層シートを長尺化するには、コアの外径は小さいほうが有利である。かかる観点から、コアの外径は、例えば300mm以下とすることが好ましく、250mm以下でもよく、200mm以下でもよく、180mm以下でもよい。ここに開示される技術は、コアの外径が150mm以下、100mm以下、さらには95mm以下であるロール体の態様でも好適に実施することができる。なお、上記コアの直径とは、断面形状が非円形の巻芯の場合には、その断面形状を円形で近似した直径をいうものとする。
【0116】
中空形状のコアの場合、該コアの肉厚(すなわち、外壁の厚さ)は特に限定されず、該コアの材質や外径等を考慮して、所望の強度が得られるように適宜設定することができる。ロール体の軽量化等の観点から、コアの肉厚は、通常、2mm~15mm程度が適当であり、3mm~10mm程度が好ましい。
【0117】
ここに開示されるロール体を構成する粘着シートの幅は、典型的には5mm以上であり、例えば10mm以上であってよく、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上であり、50mm以上でもよく、150mm以上でもよく、300mm以上でもよく、500mm以上でもよい。粘着シートの幅が大きくなると、該粘着シートのロール体を巻き戻す際の剥離音は概して大きくなる傾向にある。したがって、ここに開示される技術を適用して剥離音の発生を抑制することが特に有意義である。また、取扱い性等の観点から、上記粘着シートの幅は、通常は凡そ5m以下が適当であり、例えば凡そ4m以下であってよく、凡そ3m以下でもよく、凡そ2m以下でもよく、凡そ1m以下でもよい。
【0118】
ここに開示されるロール体を構成する粘着シートにおいて、30m/分の速度で測定される高速巻戻し力は、自背面粘着力の変動幅を小さくしやすくする観点から、例えば、5N/20mm以下であることが好ましく、4.5N/20mm以下であることがさらに好ましく、4N/20mm以下であってもよい。高速巻戻し力が小さいことは、巻戻しに要する労力を軽減し作業性を向上させる観点や、巻戻しの際に引き伸ばされた粘着シートが被着体への貼付け後に収縮して該被着体からの浮きを生じたりすることを抑制する観点から有利となり得る。高速巻戻し力の下限は特に制限されないが、他の特性とのバランスをとりやすくする観点から、例えば0.5N/20mm以上であることが好ましく、1N/20mm以上であることがより好ましく、1.5N/20mm以上であってもよい。ロール形態から余分に巻き出されやすくなる等の不都合を抑制する観点から、高速巻戻し力は小さ過ぎないことが好ましい。高速巻戻し力は、JIS Z0237:2009に準拠して測定することができる。高速巻戻し力は、例えば、粘着剤層の粘着剤の種類の選択、架橋剤の種類や使用量の選択、剥離剤の種類や処理方法の選択、粘着付与樹脂等の任意成分の使用、等により調節することができる。
【0119】
<用途>
ここに開示される粘着シートは、高速剥離強度が高く、被着体への貼付けに先立って粘着剤層の表面を露出させる際の剥離音が抑制され、かつ金属板等に貼り付けた状態で重ね置きしても滑り過ぎないという特長を活かして、例えば表面保護材(表面保護用粘着シートとしても把握され得る。)として好適に用いられ得る。ここに開示される粘着シートは、例えば、金属板、塗装板、アルミサッシ、樹脂板、化粧鋼板、塩化ビニルラミネート鋼板、ガラス板等の部材、偏光フィルム等の液晶用光学フィルム、液晶パネル等の光学部材、電子部材等を運搬、加工または養生する際等に、それら部材表面に貼り付け保護する用途等に用いられ得る。
【0120】
ここに開示される粘着シートは、表面保護の一態様として、各種レーザにより加工されるワークに貼り付けられた状態で、該ワークのレーザ加工に伴ってレーザ切断される態様で好ましく用いられ得る。上記レーザ加工に用いられるレーザ光としては、特に限定されず、従来公知の種々のものを採用することができる。例えば、ArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザ、XeClエキシマレーザ等のエキシマレーザ、YAGレーザやYLFレーザ、YVO4レーザ、チタンサファイアレーザ等の固体レーザ、半導体レーザ(ダイオードレーザと称されることもある。)、ファイバーレーザ、炭酸ガスレーザ等を使用することができる。ここに開示される粘着シートが貼り付けられた状態でワークに施されるレーザ加工の種類は特に限定されず、例えば切断、孔開け、切削、彫刻等であり得る。
【0121】
ワークの材質は、レーザ光(例えば、炭酸ガスレーザやファイバーレーザ等のレーザ光)により切断可能なものであれば特に限定されず、例えば、鉄、鉄合金(炭素鋼、ステンレス鋼、クロム鋼、ニッケル鋼等)、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、タングステン、銅、銅合金、チタン、チタン合金、シリコン等の金属または半金属材料;ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の樹脂材料;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ガリウム、石膏等のセラミック材料;アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、石英ガラス等のガラス材料;紙、段ボール、木材、合板等のセルロース系材料;これらの積層物や複合物;等であり得る。ワークの好適例として、鉄、アルミニウム、銅、チタン、およびこれらの各金属を主成分とする合金(ステンレス鋼等)等の金属材料が挙げられる。ワークの形状は特に限定されず、板状、筒状、塊状等であり得る。ここに開示される粘着シートは、ワークとしての金属板に貼り付けた状態で重ね置きしても横滑りが抑制されるので、好ましい。
【0122】
ここに開示される粘着シートは、このようなレーザ加工において、ワークのレーザ光照射側の表面に貼り付けられた状態で好ましく用いられ得る。また、レーザ加工の前後あるいはレーザ加工中のワークの表面保護等の目的で、ワークのレーザ光照射側とは反対側の表面(裏面)に上記粘着シートを貼り付けてもよい。ここに開示される粘着シートは、このようなレーザ加工のうち、主波長900~1100nmの短波長レーザによるレーザ加工の用途に好ましく用いられ得る。上記短波長レーザとしては、例えば、主波長が概ね1050nm程度のファイバーレーザ、主波長が概ね950nm程度のダイオードレーザ、等を利用することができる。
【0123】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1) 基材としての樹脂フィルムと、該基材の第一面に設けられた粘着剤層とを備えた粘着シートであって、
上記基材の第二面は剥離面であり、
上記第二面の滑り抵抗値が3.5N以上であり、
ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度30m/分の条件で測定される高速剥離強度が4.5N/20mm以上であり、
引張速度30m/分の条件で測定される自背面粘着力の最大値と最小値の差が1.5N/20mm以下である、粘着シート。
(2) 上記基材の第二面は、剥離剤を含有する樹脂組成物により構成されている、上記(1)に記載の粘着シート。
(3) 上記剥離剤はシリコーン系剥離剤を含む、上記(2)に記載の粘着シート。
(4) 上記シリコーン系剥離剤はシリル化ポリオレフィンを含む、上記(3)に記載の粘着シート。
(5) 上記基材と上記剥離剤を含有する樹脂組成物が共押出成形により一体に形成された、上記(2)~(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(6) 上記粘着剤層を構成する粘着剤は天然ゴム系粘着剤である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の粘着シート。
(7) 上記自背面粘着力の平均値は1N/20mm以上5N/20mm以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の粘着シート。
(8) ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度0.3m/分の条件で測定される低速剥離強度が5N/20mm以下である、上記(1)~(7)のいずれかに記載の粘着シート。
(9) 上記基材は、ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムである、上記(1)~(8)のいずれかに記載の粘着シート。
(10) 上記基材は、上記剥離剤を含有する樹脂組成物からなる背面層と、上記背面層の内側に配置された支持層とを含む、上記(1)~(9)のいずれかに記載の粘着シート。
(11) 上記支持層はポリオレフィン樹脂層またはポリエステル樹脂層である、上記(10)に記載の粘着シート。
【0124】
(12) 基材としての樹脂フィルムと、該基材の第一面に設けられた粘着剤層とを備えた粘着シートであって、
上記基材の第二面は、剥離剤を含有する樹脂組成物により構成されている剥離面であり、
上記基材は、上記剥離剤を含有する樹脂組成物からなる背面層と、上記背面層の内側に配置された支持層とを含み、
上記剥離剤はシリル化ポリオレフィンを含み、
上記支持層はポリオレフィン樹脂層またはポリエステル樹脂層であり、
上記粘着剤層を構成する粘着剤は天然ゴム系粘着剤である、粘着シート。
(13) 上記基材と上記剥離剤を含有する樹脂組成物が共押出成形により一体に形成された、上記(12)に記載の粘着シート。
(14) 上記基材は、上記剥離剤を含有する樹脂組成物からなる背面層と、上記背面層の内側に配置された支持層とを含む、上記(12)または(13)に記載の粘着シート。
(15) ステンレス鋼板に貼り付けて30分後に引張速度30m/分の条件で測定される高速剥離強度が4.5N/20mm以上である、上記(12)~(14)のいずれかに記載の粘着シート。
(16) 引張速度30m/分の条件で測定される自背面粘着力の最大値と最小値の差が1.5N/20mm以下である、上記(12)~(15)のいずれかに記載の粘着シート。
(17) 上記第二面の滑り抵抗値が3.5N以上である、上記(12)~(16)のいずれかに記載の粘着シート。
【0125】
(18) 上記(1)~(17)のいずれかに記載の粘着シートからなり、表面保護材として用いられる、粘着シート。
(19) レーザ光で切断して用いられる、上記(1)~(18)のいずれかに記載の粘着シート。
(20) 上記基材はレーザ光吸収剤を含む、上記(1)~(19)のいずれかに記載の粘着シート。
(21) 上記レーザ光吸収剤は、カーボンブラック、酸化チタン、鉄系酸化物、チタンブラックおよびマンガン系酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を含む、上記(20)に記載の粘着シート。
(22) 主波長900nm~1100nmのレーザ光で切断して用いられる、上記(1)~(21)のいずれかに記載の粘着シート。
(23) 上記粘着剤層は粘着付与剤を含む、上記(1)~(22)のいずれかに記載の粘着シート。
(24) 上記粘着付与剤は、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、脂肪族系(C5系)石油樹脂、テルペン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、上記(23)に記載の粘着シート。
(25) 上記粘着剤層は、ベースポリマー100重量部に対して粘着付与剤を70重量部未満含む、上記(23)または(24)に記載の粘着シート。
(26) 上記粘着剤層の厚さが10μm未満である、上記(1)~(25)のいずれかに記載の粘着シート。
【0126】
(27) 上記(1)~(26)のいずれかに記載の粘着シートが貼り付けられている加工対象物を用意すること、および、
上記粘着シートが貼り付けられている上記加工対象物に主波長900nm~1100nmのレーザ光を照射することにより、上記加工対象物をレーザ加工するとともに上記レーザ光により上記粘着シートを切断すること、
を包含する、レーザ加工された物品の製造方法。
(28) 上記レーザ光が照射される上記加工対象物には、該加工対象物の上記レーザ光が照射される側の面およびその反対面の少なくとも一方に上記粘着シートが貼り付けられている、上記(27) に記載の方法。
(29) 上記レーザ加工後の上記加工対象物をさらに後加工すること、
および
上記加工対象物から上記粘着シートを引き剥がして除去すること、
をこの順に含む、上記(27)または(28) に記載の方法。
(30) 上記加工対象物は金属板である、上記(27)~(29)のいずれかに記載の方法。
(31) 上記(1)~(26)のいずれかに記載の粘着シートを、上記粘着剤層が上記基材の上記第二面に当接するように巻回された形態で含む、ロール体。
(32) 高速巻戻し力が1N/20mm以上5N/20mm以下である、上記(31)に記載のロール体。
【実施例
【0127】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、特記しない限り、各材料の使用量は有効成分量基準である。
【0128】
以下の各例において、粘着シートの作製に使用した原料は次のとおりである。
粘着剤組成物P1:天然ゴム100部に対し、粘着付与剤(日本ゼオン株式会社製、商品名「Quintone A100」)45部、老化防止剤(大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラックNS-5」)2部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部およびトルエンを加えて混合したもの。
粘着剤組成物P2:天然ゴム100部に対し、粘着付与剤(日本ゼオン株式会社製、商品名「Quintone A100」)70部、老化防止剤(大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラックNS-5」)2部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部およびトルエンを加えて混合したもの。
【0129】
<粘着シートの作製>
(実施例1)
ポリオレフィン中にFe(平均粒径250nmの四酸化三鉄粉末)を40%の濃度で含む黒色マスタバッチ(以下、Feマスタバッチともいう。)3部およびLDPE(低密度ポリエチレン、東ソー社製、商品名「ペトロセン186R」)97部からなる支持層形成材と、上記支持層形成材96部およびシリコーン系剥離剤としてのシリル化ポリオレフィン(特開2011-26448号公報の実施例で示される方法で作製した。)を約30%とPE樹脂を約70%含有するシリル化ポリオレフィンマスターバッチ4部からなる背面層形成材(背面層形成材中のシリコーン系剥離剤の含有量は1.2%である。)とを、インフレーション成形法によりダイス温度180℃にて共押出しして成膜し、支持層と背面層とからなる二層構造の樹脂フィルムF1を得た。この樹脂フィルムF1の総厚は80μmであり、そのうち背面層の厚さは8μmであった。樹脂フィルムF1の第一面(剥離面側ではない面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に粘着剤組成物P1を塗布し、乾燥させて、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。このようにして、基材の第一面上に粘着剤層を有し、該基材の第二面が剥離面となっている粘着シートを得た。
【0130】
(実施例2~5)
背面層形成材中のシリル化ポリオレフィンマスターバッチの含有量を表1に示すように変更した他は樹脂フィルムF1と同様にして、樹脂フィルムF2~F5を得た。樹脂フィルムF1に代えて樹脂フィルムF2~F5をそれぞれ使用した他は例1と同様にして、実施例2~5に係る粘着シートを得た。
【0131】
(実施例6)
粘着剤組成物P1に代えて粘着剤組成物P2を使用し、粘着剤層の厚さを10μmとした他は実施例1と同様にして、本例に係る粘着シートを得た。
【0132】
(実施例7,8)
樹脂フィルムF1に代えて樹脂フィルムF2,F3をそれぞれ使用した他は実施例6と同様にして、実施例7,8に係る粘着シートを得た。
【0133】
(比較例1)
実施例2と同様にして得た樹脂フィルムF2の第一面(剥離面側ではない面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面にスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)をベースポリマーとする厚さ10μmのゴム系粘着剤層を形成して、本例に係る粘着シートを得た。
【0134】
(比較例2)
実施例2と同様にして得た樹脂フィルムF2の第一面(剥離面側ではない面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に以下のアクリル系粘着剤組成物を塗布し、乾燥させて、厚さ10μmのアクリル系粘着剤層を形成して、本例に係る粘着シートを得た。
アクリル系粘着剤組成物:重合溶媒としての酢酸エチルと、モノマ一原料としての2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)96部およびアクリル酸(AA)4部と、重合開始剤としてのAIBN0.2部とを入れて窒素気流下で重合反応を行い、得られたアクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液(濃度40%、アクリル系ポリマーのMw=50×10)に、該溶液に含まれる不揮発分100部に対してイソシアネー卜系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネー卜L」)1部を加えて混合したもの。
【0135】
(比較例3)
実施例1と同様にして得た基材層形成材を、インフレーション成形法によりダイス温度180℃で成膜して、厚さ90μmの単層構造の樹脂フィルムF6を得た。樹脂フィルムF6の一方の面(第一面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に粘着剤組成物P1を塗布し、乾燥させて、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。樹脂フィルムF6の他方の面(第二面)にUV硬化性無溶剤型シリコーン系剥離剤を塗布した。上記剥離剤の塗布量は、1.3g/mとした。上記剥離剤の塗布後、照度2W/cmおよびライン速度70m/分の条件で、高圧水銀灯を光源とする紫外線を照射して上記剥離剤を硬化させ、背面処理層を形成した。このようにして、本例に係る粘着シートを得た。
【0136】
(比較例4)
比較例3と同様にして、樹脂フィルムF6を得た。樹脂フィルムF6の一方の面(第一面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に粘着剤組成物P2を塗布し、乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。樹脂フィルムF6の他方の面(第二面)に、アルキル系剥離剤としてのポリビニルアルコールとオクタデシルイソシアネートの反応物を、乾燥後の膜厚が0.05μmとなるように塗布して、背面処理層を形成した。このようにして、本例に係る粘着シートを得た。
【0137】
なお、実施例および比較例の各例に係る粘着シートは、波長900nm~1100nmの範囲でレーザ光吸収率が最小となる波長における特定レーザ光の透過率が、いずれも20~40%の範囲にあった。また、上記レーザ光吸収率が最小となる波長における特定レーザ光の反射率は、いずれも3~10%の範囲にあった。波長900nm~1100nmの範囲における最小のレーザ光吸収率は、いずれも60~70%の範囲にあった。粘着シートの背面の明度Lは、いずれも20~35の範囲にあり、粘着シートの背面の色度aは、いずれも0~+1の範囲にあり、粘着シートの背面の色度bは、いずれも0~+1の範囲にあった。
【0138】
<性能評価>
上記で作製した粘着シートから適切なサイズのサンプルを切り出し、以下の項目を評価した。結果を表1に示した。
【0139】
(1)高速剥離強度
各例に係る粘着シートを、幅20mm、長さ100mmのサイズの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片の粘着面を被着体としてのステンレス鋼板(SUS430BA)に、JIS Z0237に規定する2kgのゴムローラを1往復させて圧着した。このサンプルを23℃×50%RHの標準環境下に30分間放置した後、該標準環境下にて、万能引張試験機を用いて、引張速度30m/分、剥離角度180度の条件で、高速剥離強度(N/20mm)を測定した。
【0140】
(2)低速剥離強度
各例に係る粘着シートを、幅20mm、長さ100mmのサイズの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片の粘着面を被着体としてのステンレス鋼板(SUS430BA)に、JIS Z0237に規定する2kgのゴムローラを1往復させて圧着した。このサンプルを23℃×50%RHの標準環境下に30分間放置した後、該標準環境下にて、万能引張試験機を用いて、引張速度0.3m/分、剥離角度180度の条件で、低速剥離強度(N/20mm)を測定した。
【0141】
(3)自背面粘着力
各例における基材として幅1000mmの長尺状の樹脂フィルムを使用し、該基材の幅の中央部に各例に係る粘着剤組成物を約930mmの幅で塗布し、乾燥させて、長尺状の粘着シートを作製した。この粘着シートの幅の両端を、上記粘着剤組成物から形成された粘着剤層(各例に対応する厚さを有する。)の幅の内側で裁断することにより、幅300mm、長さ約1000mのロール体作製用サンプルを調製した。
外径90.2mm、軸長305mmの円筒状のコアを用意した。上記ロール体作製用サンプルの粘着剤層側が内周側となるようにして、上記サンプルの長手方向の一端(巻き始め端)を上記コアの外周面に市販の粘着テープで固定し、該サンプルの残りの部分を約200N/mの巻取り張力で上記コアに巻き付けてロール体を作製した。
上記で作製したロール体を30℃の室内で28日間保存した後、上記巻き終わり端から約50cmの粘着シートを巻き出して除去した。次いで、残ったロール体の外周に、該ロールの軸方向に沿って延びる切れ目を20mm間隔で2本入れ、それらの切れ目の間に位置する粘着シートを約3枚(すなわち、約3周分)積層した状態で、より内側の粘着シートの背面から剥がすことにより、幅20mm、長さ300mmの粘着シート積層体(自背面剥離試験用のサンプル)を得た。
上記粘着シート積層体の内周側に露出する粘着面にSUS304板(BA仕上げ)を貼り付けて裏打ちし、23℃×50%RHの標準環境下に30分間放置した後、該標準環境下にて、万能引張試験機を用いて、上記粘着シート積層体の外周側から一枚目の粘着シートを、引張速度30m/分、剥離角度180度の条件で、外周側から二枚目の粘着シートの背面から引き剥がす自背面剥離試験を行った。このとき、剥離距離0.25mm毎に粘着力のデータを取得した。そのうち剥離距離20mm~70mmの範囲で得られた粘着力データについて、自背面粘着力の最大値と最小値との差、および自背面粘着力の平均値をそれぞれ求め、得られた結果を、それぞれ表1の「自背面粘着力変動幅」欄および「自背面粘着力平均値」欄に示した。
【0142】
(4)加工性
ワークとして厚さ3.0mmのSUS304板(2B仕上げ)を用い、各例に係る粘着シートをワークの上面に貼付した。このワークの上面側からレーザビームを照射して切断試験を行った。具体的には、ファイバーレーザ加工機(トルンプ社製、Trulaser5030、主波長1050nm)を使用して、以下の条件で直線の切断加工を行った。
[レーザ加工条件]
切断速度:5.0m/min
出力:3000W
供給ガスおよびガス圧:窒素ガス、圧力18bar
ノズル直径:2.0mm
ノズル高さ:2mm
レーザビーム焦点:ワークの上面から1.5mm下の位置
【0143】
その後、レーザ加工(ここではレーザ切断)されたワークの加工縁部を目視で観察し、上記の条件で粘着シートの浮きや剥がれがなく切断できた場合には加工性良好(G)、切断できていても粘着シートの浮きや剥がれが観察された場合には加工性不良(NG)と評価した。
【0144】
(5)騒音性
粘着シートを裁断する幅を200mmとした他は上記自背面剥離試験用のサンプルを取得するためのロール体の作製と同様にして、各例に係る幅200mmの長尺状粘着シートが巻回されたロール体を得た。このロール体から引張速度約30m/分、剥離角度約90°で粘着シートを巻き出した際の音量を、巻き出されるロール体から水平方向に約10cm離れた場所に設置した騒音計(リオン株式会社製、SOUND LEVEL METER NL-27)により測定し、100dB未満の場合は騒音性良好(G)、100dB以上の場合は騒音性不良(NG)と評価した。なお、一般に100dB以上の騒音は聴覚機能に異常をきたすレベルであることが知られている。
【0145】
(6)滑り抵抗値
各例に係る粘着シートを厚さ3.0mm、長さ300mm、幅200mmのSUS304板(2B仕上げ)の上面に気泡を噛みこまないように貼付し、サンプル板を作成した。上記粘着シートの貼付は、基材として用いた樹脂フィルムの長手方向(MD)がサンプル板の長さ方向と平行になるように行った。
SUS304板(BA仕上げ)からなる接触面積25cm(一辺の長さ50mm)の正方形の滑り片の上に荷重を載せ、滑り片自重を加えた総荷重を1.0kgとした。上記サンプル板の上(すなわち、粘着シートの背面上)に上記滑り片を載せ、23℃×50%RHの標準環境下で、この滑り片を引張速度300mm/分でサンプル板の長さ方向に滑らせたときの動摩擦力(N)をオートグラフ(島津製作所社製、AG―ISD)により測定し、滑り距離100mm~200mmの範囲で得られた滑り抵抗値データについて得られた平均値を表1の「滑り抵抗値」欄に示した。
【0146】
(7)滑り性
各例に係る粘着シートを厚さ3.0mm、長さ300mm、幅200mmのSUS304板(2B仕上げ)の上面に貼付したサンプル板を複数枚作製した。サンプル板の上面(粘着シート貼付面)と裏面(SUS板面)が交互に接触するようにサンプル板10枚を水平に重ねて置き、最上段のサンプル板を水平方向に手で軽く押したときの様子を目視で観察した。サンプル板を押したとき、積まれたサンプル板の横ずれが観察されなかった場合には良好(G)、押したときにほとんど抵抗なくサンプル板が横滑りして、積まれたサンプル板の横ずれが観察された場合には不良(NG)と評価した。
【0147】
(8)糊残り(曲げ加工後糊残り試験)
被着体としての0.6mm厚のSUS304板(2B仕上げ)について、トルエンを染み込ませたウエスでその表面を拭いた後、各例に係る粘着シートをラミネータ(線圧40N/cm、速度3m/分)で貼り合わせ、室温で30分以上放置した後、粘着シート側が凸になるように90°曲げ加工を行った。
その後、引張速度約0.3m/分、剥離角度約180度の条件で粘着シートを剥がし、被着体の表面状態を目視で観察した。被着体の表面に糊残りが観察されなかった場合には良好(G)、糊残りが観察された場合には不良(NG)と評価した。
【0148】
【表1】
【0149】
表1に示されるように、実施例1~8の粘着シートによると、該粘着シートとともにワークをファイバーレーザ加工する際、粘着シートの浮きや剥がれがなく切断することができた。これらの粘着シートは、自背面から引き剥がすときの騒音性も良好で、また粘着シートを貼付したSUS板を重ね置きした際の横滑りが抑制されていた。一方、高速剥離強度が4.5N/20mm以下である比較例1,2の粘着シートでは、ファイバーレーザ加工時に粘着シートの浮きや剥がれが観察された。また、滑り抵抗値が3.5N未満である比較例3の粘着シートでは、粘着シートを貼付したSUS板を重ね置きした際の横滑りが生じやすかった。自背面粘着力の最大値と最小値の差が1.5N/20mmを超える比較例4の粘着シートは、粘着シートを自背面から引き剥がす際の音が大きく、騒音の面で使用時の作業環境の悪化が懸念されるものであった。
【0150】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0151】
1,2 粘着シート
10 樹脂フィルム(基材)
10A 第一面
10B 第二面(背面、剥離面)
11 背面層
12 支持層
20 粘着剤層
20A 表面(粘着面)
50 ロール体
52 コア
図1
図2
図3