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  • 特許-密封構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
F16J15/10 T
F16J15/10 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020071517
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167648
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 亨
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-116550(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105094(WO,A1)
【文献】特開2010-60107(JP,A)
【文献】特開2011-80533(JP,A)
【文献】国際公開第2006/030557(WO,A1)
【文献】特開平10-068467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材の間の隙間を密封する弾性材からなる環状のシール部材を備える密封構造(但し、バックアップリングを備えるものを除く)であって、
前記シール部材は、前記2つの部材のうちの一方の部材である第1部材に設けられた環状溝内に配置されるとともに、前記2つの部材のうちの他方の部材である第2部材に摺動接触するものであり、
前記シール部材は、その厚さ方向の断面形状が、円形または楕円形であり、当該シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力が大きくなると、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間側に移動するものであり、
前記環状溝の、前記シール部材が移動する側にある側面は、前記環状溝の開口から底面に向かって前記環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面であり、
前記シール部材で仕切られた空間内が加圧されない状態においては、前記シール部材と前記環状溝の側面とは、非接触であり、前記シール部材と前記環状溝の側面との間には隙間が形成されており、
前記環状溝の開口部が曲面状をなしており、
前記拡径テーパー面と前記第1部材の表面とのなす角度が、50~70°であり、
前記環状溝は、前記底面の角部が曲面状である、密封構造。
【請求項2】
前記環状溝の両方の側面が、前記環状溝の開口から底面に向かって前記環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面である、請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記第2部材が、軸孔を有するハウジングであり、前記第1部材が、前記軸孔に挿入された軸部である、請求項1または2に記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封構造に関する。更に詳しくは、密封性を必要とする摺動部分に用いられる密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの部材の間の隙間を密封して密封性を確保するためにガスケットやパッキンなどのシール部材が用いられた密封構造が知られている。
【0003】
このシール部材のうちガスケットやこれを用いた密封構造としては、例えば、特許文献1~4に記載のものが知られている。
【0004】
具体的には、特許文献1には、互いに対向する二部材のうち一方に形成されたシール装着溝に嵌め込まれて他方と密接可能な弾性材料からなるシールリングと、このシールリングの外側にあって二部材のうち一方又は他方に保持されシールリングより剛性の大きなスペーサとを備える密封構造が記載されている。
【0005】
特許文献2には、片側の第一内側面が溝内側へ倒れるように傾斜した蟻溝に、弾性材料からなるシールリングが装着された密封構造が記載されている。
【0006】
特許文献3には、開口部と、所定の凹溝を備えた被取付部材と、この凹溝内へ装着される所定形状の弾性シールと、この弾性シールが上記凹溝から突出している突出部を押圧する相手部材と、を備える密封構造体が記載されている。
【0007】
特許文献4には、片あり溝のシール溝底面側に配置される第1のシール部材と、片あり溝の開口端面側に配置される第2のシール部材とが、凹凸嵌合部で着脱自在に一体化されるとともに、この凹凸嵌合部がシール溝底面と略平行な面に構成されているシール部材が記載されている。
【0008】
また、シール部材のうち、パッキンは、隙間を密封する部材と摺動するため、密封性を確保すること以外に、上記部材との摩擦抵抗を低減させたもの(即ち、摺動抵抗の低減化したもの)などが知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
なお、ガスケットとパッキンは、2つの部材の間の密着性を確保するものという点で共通するが、ガスケットは、上記部材と摺動接触しないものであり、一方、パッキンは、上記部材と摺動接触するものであるという違いがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-153169号公報
【文献】特開2007-64294号公報
【文献】特開2008-32033号公報
【文献】特開2010-60107号公報
【文献】特開2006-266279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の密封構造(例えば、特許文献5)で使用されるパッキンは、上述の通り、その接触する部材と摺動運動を行うので、当該部材との間に生じる摩擦力を低減させる技術の開発が行われている。ここで、摺動面に発生する反力を低減させることによって、生じる摩擦抵抗を低減させるという点においては未だ改良の余地があった。
【0012】
具体的には、Oリングなどのパッキンは、スクィーズタイプのシール部材(即ち、つぶし代を設けて密封するシール部材)である。そのため、往復運動や回転運動などの運動をする2つの部材の隙間を密封する用途で使用する場合、パッキンと上記部材との間に生じる摩擦力を低減させることが要求される。
【0013】
ここで、Oリングなどのパッキンのフリクション(摩擦力)は、式:フリクション(F)=摩擦係数(μ)×シール部材の反力(N)で算出することができる。この式からすると、更なる摩擦力の低減を達成するには、摩擦係数またはシール部材の反力を低減させる方法が考えられる。
【0014】
一方で、摩擦係数は、実機使用条件、相手摺動面の状態、潤滑形状に影響を受けるため、この摩擦係数を調整することは容易でない。
【0015】
また、シール部材の反力を低減させる方法としては、つぶし代を低減することが考えられる。即ち、2つの部材の間にシール部材を装着した際において、装着されたシール部材が潰れる程度を小さくすることが考えられる。しかし、この方法では、シール性が低下する傾向がある。特に、圧力条件下の場合、シール部材の反力が支配的となる。
【0016】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、圧力条件下において摺動面に発生する反力が低減され、シール部材と、このシール部材と摺動接触する部材との間に生じる摩擦力が低減された密封構造の開発を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、以下に示す、密封構造が提供される。
【0018】
[1] 2つの部材の間の隙間を密封する弾性材からなる環状のシール部材を備える密封構造(但し、バックアップリングを備えるものを除く)であって、
前記シール部材は、前記2つの部材のうちの一方の部材である第1部材に設けられた環状溝内に配置されるとともに、前記2つの部材のうちの他方の部材である第2部材に摺動接触するものであり、
前記シール部材は、その厚さ方向の断面形状が、円形または楕円形であり、当該シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力が大きくなると、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間側に移動するものであり、
前記環状溝の、前記シール部材が移動する側にある側面は、前記環状溝の開口から底面に向かって前記環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面であり、
前記シール部材で仕切られた空間内が加圧されない状態においては、前記シール部材と前記環状溝の側面とは、非接触であり、前記シール部材と前記環状溝の側面との間には隙間が形成されており、
前記環状溝の開口部が曲面状をなしており、
前記拡径テーパー面と前記第1部材の表面とのなす角度が、50~70°であり、
前記環状溝は、前記底面の角部が曲面状である、密封構造。
【0019】
[2] 前記環状溝の両方の側面が、前記環状溝の開口から底面に向かって前記環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面である、前記[1]に記載の密封構造。
【0023】
] 前記第2部材が、軸孔を有するハウジングであり、前記第1部材が、前記軸孔に挿入された軸部である、前記[1]または[2]に記載の密封構造。
【0024】
本発明の密封構造は、シール部材が配置される環状溝が所定の形状であることによって、圧力条件下において摺動面に発生する反力が低減され、シール部材と、このシール部材と摺動接触する部材との間に生じる摩擦力が低減されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の密封構造の一の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の密封構造の一の実施形態において一部を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図3】本発明の密封構造の一の実施形態において圧力条件下でのシール部材の移動を模式的に説明する説明図である。
図4】本発明の密封構造の一の実施形態において圧力条件下でのシール部材の移動を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0027】
(1)密封構造:
本発明の密封構造の一の実施形態は、図1に示す密封構造100である。この密封構造100は、2つの部材11,12の間の隙間S1を密封する弾性材からなる環状のシール部材10を備える密封構造である。シール部材10は、2つの部材11,12のうちの一方の部材である第1部材21に設けられた環状溝15内に配置されるとともに、2つの部材11,12のうちの他方の部材である第2部材22に摺動接触するものである。また、シール部材10は、このシール部材10で仕切られた一方の空間31(図2参照)内の圧力が大きくなると(即ち、一方の空間31内が加圧状態とされると)、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間32側に移動するものである。そして、環状溝15の、シール部材10が移動する側にある側面16は、環状溝15の開口17から底面18に向かって環状溝15の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面26である。
【0028】
この密封構造100は、圧力条件下において摺動面28(即ち、第2部材22の、シール部材10が摺動接触する面)に発生する反力が低減され、シール性を確保しつつ、シール部材10と、このシール部材10と摺動接触する部材である第2部材22との間に生じる摩擦力が低減される。そして、この場合、更に、シール部材10から摺動面28への面圧も低下傾向となるため、シール部材10の摩耗抑制効果も期待できる。
【0029】
(1-1)2つの部材(第1部材、第2部材):
2つの部材11,12は、特に制限はなく、往復運動や回転運動などの運動をする部材である。より具体的には、図1に示すように、一方の部材を「軸孔41aを有するハウジング41」(第2部材22)とし、他方の部材を「軸孔41aに挿入された軸部42」(第1部材21)とすることができる。そして、この軸部42の外周面に、環状の溝(環状溝15)が形成され、この環状溝15内にシール部材10が配置される。
【0030】
この第1部材21に形成された環状溝15は、その両側面のうちの少なくとも所定の側面が、シール部材10が圧力によって移動する側の側面16が拡径テーパー面26である。この拡径テーパー面26は、環状溝15の開口17から底面18に向かって環状溝15の幅が広がるように傾斜している面である。
【0031】
このような拡径テーパー面26を有する環状溝15を設けると、圧力によって移動したシール部材10が拡径テーパー面26に押し付けられて変形し、シール部材10からのハウジング41などの第2部材22に対する面圧を低減させることができる。なお、シール部材10は、弾性材から構成されているため、圧力が弱まると、元の形状に戻ることになる。図3図4では、シール部材10を空間32側に移動させ、シール部材10を拡径テーパー面26に押し付ける力(圧力)を白抜き矢印で示し、この圧力によってシール部材10が変形する状態を太い矢印で示している。
【0032】
環状溝15は、その両方の側面が拡径テーパー面26であることでもよい。拡径テーパー面26は、上述の通り、環状溝15の開口から底面18に向かって環状溝15の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面である。つまり、環状溝15は、いわゆる、あり溝(その深さ方向の断面形状が、開口17から底面18に向かって拡径する台形状の溝)とすることができ、上述の通り、片方の側面だけが拡径テーパー面26である片側あり溝であってもよい。
【0033】
環状溝15をあり溝とすることによって、シール部材10によって仕切られた空間31,32(図2参照)のそれぞれが必要に応じて加圧されるような用途にも適用することができる。
【0034】
環状溝15において、拡径テーパー面26と第1部材21の表面24とのなす角度θは、45~85°とすることができ、更に50~80°とすることができ、本願発明では、50~70°である。このような角度とすることによって、シール部材10から第2部材22に対する面圧をより良好に低減させることができる。また、上記範囲の角度とすると、シール部材10が空間31,32から圧力を受けなくなった際に、シール部材10は変形した状態が解かれ、圧力を受ける前の形状に戻り易くなる。角度θは、より具体的には、環状溝15の深さ方向の断面(図2参照)において、拡径テーパー面26と第1部材21の表面24とのなす角度である。なお、環状溝15の開口部が曲面状をなしている場合(即ち、面取りされている場合)、上記角度θは、拡径テーパー面26と第1部材21の表面24とを延長してこれらの線が交差したときの角度(鋭角)である。
【0035】
環状溝15は、底面18の角部19を曲面状とすることができる。このようにすることで、環状溝15の側面を構成する壁部45の強度を高めることができ、この壁部45が破損することを防止することができる。つまり、圧力条件下においてシール部材10が圧力によって拡径テーパー面26に押し付けられるが、その際、この壁部45はシール部材10から外力を加えられる。角部19を曲面状とすると、上記外力によって壁部45が破損することを回避するものである。
【0036】
(1-2)シール部材:
シール部材10は、2つの部材11,12の間の隙間S1を密封する弾性材からなる環状のものである。シール部材10は、2つの部材11,12のうちの一方の部材である第1部材21に設けられた環状溝15内に配置されるとともに、2つの部材11,12のうちの他方の部材である第2部材22に摺動接触する。
【0037】
シール部材10は、当該シール部材10で仕切られた一方の空間31内の圧力が大きくなると、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間32側に移動する。そして、移動したシール部材10は、環状溝15の拡径テーパー面26に押し付けられて変形し、シール部材10が摺動接触する部材(例えば、ハウジング41)に対する面圧が低減する。このようにして圧力条件下において摺動面28に発生する反力が低減される。
【0038】
シール部材10は、その厚さ方向の断面形状について特に制限はないが、例えば、円形、楕円形などとすることができ、本発明では、その厚さ方向の断面形状が、円形または楕円形である。このように円形または楕円形であると、シール部材10が環状溝15の拡径テーパー面26に押し付けられて変形した際に、更に良好に摺動面28に発生する反力を低減させることができる。別言すれば、上記形状であると、摺動面28に発生する反力がより低減するように変形する。
【0039】
シール部材10は、具体的には、Oリングなどのパッキンであり、弾性材からなるものである限り特に制限はなく、従来公知のパッキンの材料と同じものを適宜採用することができる。具体的には、ゴムなどの合成樹脂などを挙げることができる。
【0040】
シール部材10のつぶし代は、圧力条件下においてシール性が確保される限り特に制限はなく、従来公知のパッキン等のシール部材におけるつぶし代と同じとすることができる。
【0041】
シール部材10は、このシール部材10で仕切られた空間31,32内が加圧されない状態においては(例えば、使用開始直後においては)、シール部材10と環状溝15の側面16(具体的には、少なくとも一方の側面)とは、非接触であり、シール部材10と環状溝15の側面16との間には隙間S2(図1参照)が形成されているようにすることがよい。このような構成を採用すると、一方の空間31が加圧されて圧力条件下となった場合、その圧力によってシール部材10が良好に移動する。つまり、一方の空間31が加圧されると、シール部材10の、当該空間31に曝された面の全体で圧力を受けるため、シール部材10が移動し易く、また、シール部材10を拡径テーパー面26に押し付ける力が良好にシール部材10に対して働くことになる。
【0042】
(2)密封構造の使用方法:
本発明の密封構造の使用方法について、密封構造100に基づいて以下に説明する。2つの部材について、第2部材が軸孔を有するハウジングであり、第1部材が軸孔に挿入された軸部であるとする。
【0043】
まず、第1部材21である軸部42に形成された環状溝15に、シール部材10を嵌め込む。その後、この軸部42を、ハウジング41の軸孔41aに挿入する。このように軸部42を挿入すると、ハウジング41は、シール部材10で仕切られた2つの空間31,32に分けられるとともに、シール部材10によって、ハウジング41と軸部42の間の隙間S1が密封される。
【0044】
軸部42は、ハウジング41内において適宜移動し、シール部材10は、第2部材22であるハウジング41に摺動接触する。
【0045】
そして、シール部材10は、このシール部材10で仕切られた一方の空間31内の圧力が大きくなると、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間32側に移動し、拡径テーパー面26に接する。そして、環状溝15の、シール部材10が移動する側にある側面16は、環状溝15の開口17から底面18に向かって環状溝15の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面であるので、一方の空間内の圧力によって、シール部材10は、拡径テーパー面26側に押し付けられて変形する。変形したシール部材10は、シール性を維持しつつ、その摺動面28であるハウジング41の面に対する面圧が小さくなる。
【0046】
このようにして、圧力条件下において、シール性を維持しつつ、摺動面28に発生する反力を低減し、シール部材10と、このシール部材10と摺動接触する部材(第2部材22)との間に生じる摩擦力を低減することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図1に示すような密封構造を作製した。この密封構造は、2つの部材の間の隙間を密封する弾性材からなる環状のシール部材を備えていた。更に、このシール部材は、2つの部材のうちの一方の部材である第1部材に設けられた環状溝内に配置されるとともに、2つの部材のうちの他方の部材である第2部材に摺動接触するものであった。第2部材は、軸孔を有するハウジングであり、第1部材は、軸孔に挿入された軸部であった。シール部材は、断面形状が円形のパッキンであった。
【0049】
更に、シール部材は、当該シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力が大きくなると、当該圧力によって、圧力の小さい側である他方の空間側に移動するものとした。そして、第1部材において、環状溝の、シール部材が移動する側にある側面は、環状溝の開口から底面に向かって環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面であった。なお、第1部材である軸部の表面と拡径テーパー面とのなす角は、70°であった。拡径テーパー面と反対の側面は、あり溝状ではなく、第1部材である軸部の表面と当該側面とのなす角は、90°であった。
【0050】
作製した密封構造において、シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力を順次大きくした。そして、その際のシール部材の反力(N)、及び、摺動面における最大面圧(MPa)を算出した。空間内の圧力は、0MPa、2.5MPa、5MPaとした。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(比較例1)
シール部材を配置する環状溝の側面の形状を、従来の通りとしたこと(具体的には、両側面において、第1部材である軸部の表面と当該側面とのなす角を90°としたこと)以外は、実施例1と同様にして密封構造を作製した。そして、この密封構造において、実施例1と同様にして、シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力を順次大きくした。そして、その際のシール部材の反力(N)、及び、摺動面における最大面圧(MPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
実施例1、比較例1から分かるように、実施例1の密封構造では、比較例1の密封構造に比べて、シール部材で仕切られた一方の空間内の圧力を順次大きくすると、その際のシール部材の反力(N)、及び、摺動面における最大面圧(MPa)が減少することが分かる。つまり、圧力条件下において摺動面に発生する反力が低減され、シール部材と、このシール部材と摺動接触する部材との間に生じる摩擦力が低減されることが分かった。更に、実施例1の密封構造では、摺動面へのシール部材からの面圧も低下傾向となるため、シール部材の摩耗抑制効果も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の密封構造は、車両などの各種装置において密封性を必要とする摺動部分に用いられる密封構造として採用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10:シール部材、11,12:2つの部材、15:環状溝、16:環状溝の側面、17:環状溝の開口、18:環状溝の底面、19:角部、21:第1部材、22:第2部材、26:拡径テーパー面、28:摺動面、31:一方の空間、32:他方の空間、41:ハウジング:41a:軸孔、42:軸部、45:壁部、100:密封構造、S1,S2:隙間。
図1
図2
図3
図4