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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】薬剤情報管理システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/10 20180101AFI20240924BHJP
【FI】
G16H20/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020102213
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021196803
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一洋
(72)【発明者】
【氏名】根本 真記
(72)【発明者】
【氏名】中野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】清水 久範
【審査官】原 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092344(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045169(WO,A1)
【文献】特開2010-061420(JP,A)
【文献】特開2012-133564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の薬剤の正確な情報を入力する常用薬入力手段と、
前記常用薬入力手段より入力された患者の薬剤データを記憶する記憶手段と、
治療計画に影響を与える可能性のある薬剤についての情報が記憶されている医薬品情報データベースと、
前記患者の薬剤データを医薬品情報データベースと照合し、治療計画に影響を与える薬剤を抽出する抽出手段と、
前記患者の薬剤データと抽出手段によって抽出された医薬品情報を表示する表示手段と、
電子カルテから患者情報である患者の状況及び/又は治療目的を抜き出す手段と、
前記抽出手段において抽出された医薬品情報を、患者情報に基づいてAIにより重み付けを行わせる手段と、
前記表示手段は、医薬品情報の一覧においてAIに重要と判断された重み付けにしたがって、医薬品情報を医療従事者に関連情報とともに表示することを特徴とする薬剤情報管理システム。
【請求項2】
前記正確な情報を入力する常用薬入力手段が、
画像入力手段、文字認識手段、音声入力手段、及び保険薬局情報照会手段であり、
少なくとも1つ以上の前記常用薬入力手段を選択可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤情報管理システム。
【請求項3】
前記医薬品情報データベースには、
術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報が記録されており、
術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報は医薬品添付文書、医薬品リスク管理計画情報、製薬企業による医薬品個別情報、他医療機関による薬情報に基づいたものである請求項1、又は2記載の薬剤情報管理システム。
【請求項4】
前記抽出手段によって前記患者の薬剤データに術前中止薬が含まれる場合には、
前記表示手段に患者の薬剤データが侵襲的治療前の休薬期間とともに表示されることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の薬剤情報管理システム。
【請求項5】
前記患者の薬剤情報に加えて、
薬剤師問診で得られた情報を入力する追加情報入力手段を備えていることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の薬剤情報管理システム。
【請求項6】
患者の薬剤の情報が患者によりインターネットを介して提供され、
患者により提供された情報により画像入力手段、文字認識手段、及び/又は音声入力手段を用いて行われる請求項1~5いずれか1項記載の薬剤情報管理システム。
【請求項7】
前記医薬品情報データベースの情報は、
インターネットを介して更新されることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の薬剤情報管理システム。
【請求項8】
患者の常用薬を管理するプログラムであって、
患者が登録した常用薬の一覧と医薬品情報データベースを照合するステップと、
医薬品情報データベースから常用薬の情報を抽出するステップと、
電子カルテに登録されている患者情報から抽出された情報に重み付けをするステップと、
医療従事者に必要な医薬品情報が上位になるように関連情報とともに薬剤一覧に抽出された情報を表示することをコンピュータに実現させる常用薬管理プログラム。
【請求項9】
前記医薬品情報データベースから抽出する情報が術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報であることを特徴とする請求項8記載の常用薬管理プログラム。
【請求項10】
前記医薬品情報データベースは、
医薬品の添付文書、医薬品リスク管理計画情報、製薬企業による医薬品個別情報、他医療機関による薬情報をAIにより解釈及び構造化したデータベースであることを特徴とする請求項8又は9記載の常用薬管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者から提供された薬剤情報を一覧として一元管理し、医師、薬剤師、看護師等の医療従事者の治療計画及び服薬指導を支援するシステムに関する。特に、検査、入院治療のために休薬が必要な薬剤を入院前に抽出し、医師が患者に適時に適切な指示を与え、入院中の薬物治療を支援するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院、診療所等の医療機関では、医師による診察の後の処方指示に基づいて院内若しくは院外の薬局で薬剤が処方される。しかし、患者によっては、複数の医療機関で治療を受けており、すでに他院で薬剤を処方され服用している場合も多い。複数の医療機関において薬剤が処方される場合には、薬剤の相互作用による有害事象、いわゆる副作用が生じる可能性がある。
【0003】
慢性疾患等の治療のために患者が常用している薬を常用薬というが、入退院支援の一環として、入院前の薬剤師による常用薬確認が求められている。入院中の患者に対して使用する薬剤は、入院する病院において入院中に処方することが原則とされており、患者の常用薬確認は適切な治療を行うためにも重要である。例えば、糖尿病、血圧降下剤などいわゆる慢性疾患に対する治療薬は、別の疾患で入院した場合にも続けて服用する必要があり、入院前に正確に把握しておかなければならない。
【0004】
しかしながら、図5に示すように、患者が持参した持参薬、あるいはお薬手帳等から読み取った常用薬の情報は、入院後に院内薬剤師によりヒアリングを行って電子カルテに常用薬として登録することがほとんどである。ヒアリングでは、常用薬と入院後に治療のために新しく投与する薬の相互作用や術前中止薬(術前休止薬)等が投与されていないかを確認し、電子カルテに入力していた。また、ヒアリングにより得られた情報から治療薬の効果や副作用のモニタリングの提案等を入院後に行っていた。
【0005】
薬剤師が登録した患者情報を医師が確認し、手術等の侵襲的治療が必要な患者については休薬指示を看護師に与え、継続して投与が必要な薬の投薬指示を行っていた。しかし、入院後に休薬すべき薬剤が継続されていることが見つかった場合には、侵襲的治療を延期せざるを得ない場合があった。また、常用薬の確認、入力は自動化されておらず、時間と労力を要していた。
【0006】
一般的に常用薬確認は院内薬剤師等の面談によって行われている。しかし、同一の作用を有する薬剤であっても、先後発品の存在、規格、剤型の違いなど様々な薬が存在することから確認に多大な労力と時間を要する。また、これまで入院後に行われてきた薬剤師による常用薬確認も、近年では、入退院支援の一環として、入院前の外来の段階で、薬剤師が常用薬確認等を行うことが求められてきている。しかし、全入院予定患者数に対し薬剤師数は不足しており、すべての患者に対し薬剤師面談による常用薬確認を行うことは困難である。
【0007】
また、入院して治療を受ける場合には、上述のように薬剤の相互作用による有害事象、いわゆる薬の飲み合わせによる副作用のリスク把握に加えて、検査、治療における有害事象防止のための常用薬への休薬指示が必要になる。具体的には、手術等の侵襲的医療行為を行う際、抗血栓薬・抗凝固薬をはじめとする出血リスクの高い薬剤は適切な休薬期間を確保する必要がある。全身麻酔等との併用において周術期に休薬が推奨される向精神薬等の薬剤もある。周術期薬剤管理から患者の安全を考えた場合、休薬が推奨される対象薬もその根拠情報も膨大であり、迅速に適切な判断をすることは困難である。
【0008】
個々の患者の常用薬情報は、問診の他、お薬手帳、かかりつけ薬局からの情報提供、あるいは患者が持参する薬を特定することによって行われている。お薬手帳は、患者が服用している薬の服用履歴や既往症、アレルギーなど医療従事者に必要な情報を記載する手帳の名称であり、すでに服用している薬と新規に処方された薬の飲み合わせによる副作用のリスクや、薬の重複投与を防ぐために導入された個人健康情報管理制度である。また、薬の飲み合わせや重複をチェックし、副作用や飲み合わせのリスクを減らすだけではなく、アレルギー、既往症等についても記載できることから、医療従事者には重要な情報源となっている。
【0009】
かかりつけ薬局(ないしは、かかりつけ薬剤師)制度は、処方薬や市販薬など患者が常用している薬を一箇所で把握し、薬の重複や飲み合わせ、効果、副作用等を確認し、複数医療機関受診により同種同効薬の重複と服用による副作用の発現を軽減するための制度である。高齢化するわが国の人口動態において、必ずしも、患者が正しい薬識をもって服薬されているとは限らないことから推奨されている制度である。
【0010】
お薬手帳やかかりつけ薬局からは、常用薬に関する正確な情報を得ることができるが、患者を受け入れる病院にとっては、データを入力する必要があることから、入力のための作業時間をとられること、さらに電子カルテ等に転記する際の誤入力も問題となっている。薬剤師による常用薬登録において、ケアレスミスによる銘柄、規格間違いなど登録間違いは少なくない頻度で発生していることが報告されている。
【0011】
また、常用薬そのものを患者が持参した場合には、薬の刻印・色・形状等から常用薬を特定する必要がある。処方された薬剤の情報が記載されているシートとともに持参する患者もいれば、ピルケースに入れて持参する患者もいる。患者の管理状況や持ち込み形態は様々であることから、薬剤師の業務における常用薬確認に費やされる時間や労力は大きなウェイトを占めている。
【0012】
入院後の院内薬剤師による面談では、服薬状況やアドヒアランス評価、副作用やアレルギー歴の聴取など、患者の常用薬確認だけではなく、様々な事項を確認する必要がある。しかし、常用薬確認に多くの時間を割かなければならず、これらの業務に必要な時間を圧迫している。
【0013】
入院に伴う薬の管理を軽減するためのシステムがすでに公開されている。特許文献1には、持参薬と処方薬を一元管理し、相互作用、重複投与等をチェックする薬剤管理指導支援システムが開示されている。特許文献2には、院内薬剤師が行う持参薬の確認業務を軽減するための薬剤情報共有システムが開示されている。
【0014】
特許文献1に記載のシステムは、患者の処方データを入力する処方入力手段によって入力された薬の情報を薬剤名検索手段によって検索し、薬剤部に新たにオーダーする薬が有害事象を生じさせるか否かを判定する機能を備えている。
【0015】
特許文献2に記載のシステムは、患者の入院を受け入れることが予定されている医療機関と、当該患者が利用している医療機関外の薬局の薬局側端末の間でデータの送受信を可能にすることで薬剤情報を共有し、入院予定患者が医療施設に入院する前に、患者の処方箋データ等を取得するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2013-137775号公報
【文献】特開2017-204243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、患者が持参した現物の薬剤、薬袋の記載に基づいて持参薬の鑑別処理を行う必要があり、画像を確認しながら鑑別を行うなど、多くのステップが必要とされ、さらにキーボード、マウス等の入力手段によって端末から情報を入力する必要があるため、常用薬の確認負担の軽減には繋がらず、また、誤入力の問題を解決することはできない。特許文献2に記載の発明は、個々の患者が利用している薬局との連携が必要であり、現時点での実用化はすべての患者の情報がかかりつけ薬局から得られるわけではないことから限定的である。
【0018】
本発明は、患者の常用薬を正確且つ迅速に把握し、電子カルテに登録することによって、医療従事者全員が把握できるシステムを提供することを課題とする。特に、本システムでは、電子カルテへの患者の常用薬の入力を自動で行い、日々アップデートされる医薬品に関する情報を、治療において休薬すべき薬剤、モニタリングを必要とする薬剤等、病院で照合すべきリストに自動で取り入れることにより、周術期、あるいは侵襲的治療前に休薬期間を根拠に基づき表示し、医療従事者が根拠に基づいて対応することができるシステムを提供することを課題とする。
【0019】
また、院内で新たに処方した薬剤に関しても薬剤リストと照合し、患者の常用薬との併用禁忌、モニタリングの必要性等について表示することによって、医療従事者が適切に対応可能なシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以下の実施形態に示す薬剤情報管理システム、常用薬管理プログラムに関する。
(1)患者の薬剤の情報を入力する常用薬入力手段と、前記常用薬入力手段より入力された患者の薬剤データを記憶する記憶手段と、治療計画に影響を与える可能性のある薬剤についての情報が記憶されている医薬品情報データベースと、前記患者の薬剤データを医薬品情報データベースと照合し、治療計画に影響を与える薬剤を抽出する抽出手段と、前記患者の薬剤データと抽出手段によって抽出された医薬品情報を表示する表示手段を備えることを特徴とする薬剤情報管理システム。
(2)前記常用薬入力手段が、画像入力手段、文字認識手段、音声入力手段、及び保険薬局情報照会手段であり、少なくとも1つ以上の前記常用薬入力手段を選択可能に構成されていることを特徴とする(1)記載の薬剤情報管理システム。
(3)前記医薬品情報データベースには、術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報が記録されており、術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報は医薬品添付文書、医薬品リスク管理計画情報、製薬企業による医薬品個別情報、他医療機関による薬情報に基づいたものである(1)、又は(2)記載の薬剤情報管理システム。
(4)前記抽出手段によって前記患者の薬剤データに術前中止薬が含まれる場合には、前記表示手段に患者の薬剤データが侵襲的治療前の休薬期間とともに表示されることを特徴とする(1)~(3)いずれか1つ記載の薬剤情報管理システム。
(5)前記患者の薬剤情報に加えて、薬剤師問診で得られた情報を入力する追加情報入力手段を備えていることを特徴とする(1)~(4)いずれか1つ記載の薬剤情報管理システム。
(6)患者の薬剤の情報が患者によりインターネットを介して提供され、患者により提供された情報により画像入力手段、文字認識手段、及び/又は音声入力手段を用いて行われる(1)~(5)いずれか1つ記載の薬剤情報管理システム。
(7)前記医薬品情報データベースの情報は、インターネットを介して更新されることを特徴とする(1)~(6)いずれか1つ記載の薬剤情報管理システム。
(8)患者の常用薬を管理するプログラムであって、患者が登録した常用薬の一覧と医薬品情報データベースを照合するステップと、医薬品情報データベースから常用薬の情報を抽出するステップと、電子カルテに登録されている患者情報から抽出された情報に重み付けをするステップと、関連情報とともに薬剤一覧に抽出された情報を表示することを特徴とする常用薬管理プログラム。
(9)前記医薬品情報データベースから抽出する情報が術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬、副作用の情報であることを特徴とする(8)記載の常用薬管理プログラム。
(10)前記医薬品情報データベースは、医薬品の添付文書、医薬品リスク管理計画情報、製薬企業による医薬品個別情報、他医療機関による薬情報をAIにより解釈及び構造化したデータベースであることを特徴とする(8)又は(9)記載の常用薬管理プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本システムを採用した場合の患者の常用薬の登録から投薬指示までの流れを示す図。
図2】本実施形態の薬剤情報管理システムの構成例を示す図。
図3】本実施形態のクスリ一覧とデータベースの照合を示すフローチャート。
図4】本実施形態の常用薬一覧とデータベースの照合を示すフローチャート。
図5】従来の患者からの常用薬のヒアリングから投薬指示までの流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「常用薬」とは、慢性疾患等の治療のために患者が常用している薬を指し、「持参薬」とは患者が入院する際に持参する常用薬のことをいう。また、「休薬」とは、治療目的のために一時的に薬剤の服用を休止することを指し、「術前中止薬」(術前休止薬)とは、手術をはじめとする侵襲的な処置に際して事前に休薬する薬をいう。
【0023】
以下に本システムについて実施形態を示しながら説明する。また、ここでは手術等の侵襲的治療を行う場合を主として想定して説明するが、これに限らず内科的な治療を行う場合であっても実施形態に示すシステムを適用できることは言うまでもない。
【0024】
図1に本システムを採用した場合の患者の常用薬の登録から投薬指示までの流れを概説する。初診時、あるいは入院前の外来診療時に、患者は外来において常用薬の登録を行う。患者は看護師とともに、画像、文字又は音声のいずれかの方法により常用薬の登録を行う。あるいは、外来診療予約時に、スマートフォン等により撮影したお薬手帳に記載された情報、薬の写真などを送信し、インターネットを介して予め常用薬を登録しておくこともできる。あるいは、患者が利用している保険薬局と連携が行われている場合には、保険薬局と情報を連携することにより、常用薬の登録を行うことができる。いずれの方法であっても、患者の常用薬の情報は、電子カルテの「クスリ一覧」のフォルダーに登録される。
【0025】
「クスリ一覧」に登録された患者の常用薬は、院内で作成されている医薬品情報データベースと照合が行われ、侵襲的治療が予定されている場合には、患者の常用薬から休止薬が抽出される。医薬品情報データベースには侵襲的治療を行う場合に休薬が必要な薬剤が休止薬リストとしてリスト化されており、抽出手段によって、患者の常用薬が休止薬リストと照合され、休止薬が含まれていれば休薬期間等休薬に関連する関連情報とともに抽出される。例えば、手術が予定されている患者の場合には、術前中止薬が抽出され、手術の前に休止する薬剤が明示され、さらに、それぞれの休薬期間が薬毎に示される。
【0026】
担当医は、外来において、「クスリ一覧」に患者の常用薬に関する情報が事前登録され、術前中止薬及び休薬期間が明示されていることから、手術など侵襲的治療のために必要な休薬期間を考慮したうえで、手術計画を立て、患者にいつから休薬する必要があるか等、常用薬に関する指示を行うことができる。外来時に患者に常用薬についての指示を行うことができるので、入院、検査、手術等の日程をスムーズに設定することができる。
【0027】
薬剤師は、患者が入院後、あるいは入院直前の外来の際に、電子カルテ上の「クスリ一覧」に登録された患者の常用薬リストを参照しながら、患者と薬剤師面談を行うことができる。薬剤師面談では、入院において予定されている患者の治療に対して、休止すべき常用薬を「クスリ一覧」で確認するだけではなく、患者の服薬状況を確認し、アドヒアランス評価を行うことができる。また、患者の副作用、アレルギー歴を確認し、追加情報として追加情報入力手段である薬剤師端末から「クスリ一覧」に加えることや、モニタリングのための追加検査などの提案も加えることができる。薬剤師が「クスリ一覧」に加えた情報はクスリ一覧情報とともに「常用薬一覧」として電子カルテ内に記録される。薬剤師は本システムを使用することによって、常用薬登録が終わった状態の「クスリ一覧」を見ながら患者と面談を行うことができるため、きめ細かい対応を行う時間の確保が可能となる。
【0028】
患者が入院後に、医師は、常用薬一覧を確認し、入院中の治療計画にしたがって、処方、検査の追加を行うことができる。常用薬一覧には、患者のアドヒアランス評価、副作用等の情報が薬剤師により追記されていることから、追記情報も考慮したうえで、きめ細かく対応することが可能である。
【0029】
入院後に追加された処方薬も含めた常用薬一覧の薬は、RMP(Risk Management Plan、医薬品リスク管理計画)・併用薬禁忌リストと照合され、投薬、併用に注意を要する薬剤があれば抽出され、患者の常用薬一覧の警告欄に注意事項が表示される。
【0030】
次に薬剤情報管理システムの各構成について説明する。図2に、実施形態の薬剤情報管理システムの構成例を示す。医療機関の電子カルテシステムには、医療機関内の医事システム、検査部門、診療部門、受付/検診部門など様々な部門からアクセスし、患者データを共有できるように構築されているが、ここでは、常用薬の登録から担当医の投薬指示にいたるまでに必要な構成を示している。
【0031】
[薬剤情報登録端末からの常用薬の登録]
患者は、初診時又は外来診療時に常用薬を常用薬入力手段により登録する。患者が、常用薬を持参している場合、あるいはお薬手帳を持参している場合には、それぞれの情報から常用薬を薬剤情報登録端末に登録することができる。
【0032】
患者が常用薬を持参した場合には、常用薬の画像をCCDカメラで読み取り、その画像情報から薬品判別を行う画像入力装置によって常用薬の鑑別を行う。患者の持参した薬剤は、画像入力装置によって画像として読み取られ、画像入力装置の薬剤データベースと照合されることによって個々の薬剤の鑑別が行われ、電子カルテの「クスリ一覧」のフォルダーに薬剤情報として直接入力されるように連携されている。画像により常用薬を鑑別するシステムとしては、Tabjudge(湯山製作所)等があり、これと連携するようにシステムを構築することも可能である。
【0033】
また、患者がお薬手帳を持参した場合には、文字情報をスキャナで取り込み、テキストデータとして、情報を電子カルテの「クスリ一覧」のフォルダーに取り込ませればよい。いずれも簡単な操作により常用薬情報を登録することができる。
【0034】
患者が常用薬やお薬手帳を持参していない場合には、以下の2つの手順どちらかにより患者服薬情報を入手する。(1)かかりつけ薬局より、服薬情報等提供(当該保険薬局加算・服薬情報等提供料1)による「薬歴情報」を入手する。保険医療機関の求めがあった場合において薬剤の使用が適切に行われるよう文書により提供する制度を活用する。患者自身の服薬状況が曖昧と判断する場合においても、患者のかかりつけ薬局の店舗名を知る事で、当該患者の薬歴情報の提供を依頼し、文字情報を取り込み、テキストデータへ変換し、クスリ一覧へ登録する。本システムの運用方法において、保険医療機関が患者の利用している薬局一つ一つとの連携は必要ではなく、日本全国に展開している保険薬局がFAXやクラウドなどにより情報を提供できる作業環境であればよい。(2)看護師が患者にヒアリングを行いながら、看護師又は患者が音声によって常用薬を薬剤情報登録端末から入力する。音声入力であることから、入力時間を短縮することが可能であり、キーボードによる入力のように誤入力の恐れはない。
【0035】
また、患者は外来診療予約時にお薬手帳に記載された情報、薬の写真などをスマートフォン等により撮影し、情報を予め登録しておくことが可能である。患者端末より送信された情報は、インターネットを介して適切な方法で変換され、常用薬情報として「クスリ一覧」に登録される。
【0036】
いずれの場合も、常用薬の登録自体は、薬剤に対する広範な知識を必要としない。登録した情報に漏れがないかチェックしながら電子カルテを確認すればよい。したがって、この時点では薬剤師の対応は必要がなく、初診時、あるいは入院前の外来診療時に、短時間で看護師が常用薬の登録を行うことができる。
【0037】
患者の常用薬に関する情報を取り込む方法として、画像、文字、音声、薬局からの情報提供と、多様な方式で対応可能な常用薬入力手段を備えたシステムを構築することにより、自動入力で患者の常用薬登録を行うことができる。その結果、従来問題となっていた常用薬確認及び電子カルテ端末への入力業務にかかる負担を減らし、常用薬登録時の誤入力を回避することが可能となる。
【0038】
[医薬品情報データベース]
医薬品情報データベースには医薬品の添付文書に記載されている情報、RMP情報、製薬企業提供の医薬品個別情報、他医療機関の術前中止薬情報など、公開された情報に基づき術前中止薬、相互作用注意薬、併用禁忌薬、疾患禁忌薬の情報が蓄積されている。
【0039】
また、これら公開情報に基づく医薬品情報は、日々アップデートされることから、インターネットを介して情報がダウンロードされ、医薬品情報データベースに追加される。また、院内で得られた医薬品の情報は他機関との情報共有のためにインターネットにアップロードされる。
【0040】
また、医薬品情報データベースに登録されている薬剤には、個々の薬剤に対応するコードが付与されている。このコードは、既存のコードでも医療機関独自のコードでもよいが、薬価基準収載医薬品コード(YJコード)を使用すれば、アップデートされた添付文書、RMP情報と紐付けて医薬品情報データベースを自動更新することが可能となる。さらに、院内で医師が新たに投薬指示を出す場合にも利用することが可能となる。
【0041】
医薬品情報はその入手先が添付文書、RMP等、多くの情報源があるうえに、得るべき情報も、モニタリング情報や、休薬期間、禁忌等多岐にわたっている。そこで、医薬品情報のアップデート、情報管理はAIを用いて行うことにより、漏れなく効率的に行うことができる。例えば、文章中から、「休薬」、「副作用」などのキーワードやその類義語を見つけ、テキストマイニングにより文脈を読み取り休薬期間、副作用などの必要な情報を抜き出すことができる。さらに、同じ効能の薬や併用禁忌の薬の検知など、多大な時間を必要とする情報管理をAIにより行わせることが可能である。
【0042】
[クスリ一覧]
薬剤情報登録端末を介して電子カルテの「クスリ一覧」に登録された情報は、システム内の医薬品情報データベースと照合され、必要な情報がクスリ一覧に追加されるように構成されている(図3)。
【0043】
クスリ一覧に記載されたクスリは医薬品情報データベースと照合され、当該データベースから情報が抽出される。医薬品情報データベースには副作用、禁忌、術前中止など様々な情報が蓄積されている。しかし、患者の状況に応じて必要な情報の重みは異なっている。そこで、患者の入院の目的に応じ、最も必要な情報が上位に記載されるように患者情報に照らした重み付けをAIが行い、関連情報とともにクスリ一覧に表記する。例えば、手術を目的とした入院の場合、手術前に把握すべき事項は、患者が術前中止薬を服用しているか否かである。そこで、患者が術前中止薬を服用している場合には、患者の入院目的を考慮して一番重要な薬剤情報である休止薬が「クスリ一覧」において薬剤情報として表記され、関連情報として休薬期間が表示される。薬剤情報には、術前中止薬の休薬期間など具体的な情報が同時に示されることから、外来において看護師、医師が、休薬期間を加味して手術日、あるいは検査日を決定することができる。あるいは、手術や検査に備えていつから休薬をすべきか、患者に指示を行うことが可能となる。
【0044】
さらに、クスリ一覧に記載されている患者の服用中の薬から、AIが疾患名予測を行い、事前把握を行うことも可能である。併存症がある場合には、治療にも影響する場合があるので、問診の前に事前に疾患名を予測しておくことは患者の状態を把握するうえでも重要である。
【0045】
[常用薬一覧]
薬剤情報登録端末により患者の常用薬の登録が完了した後に、薬剤師が患者と面談を行う。薬剤師は患者と面談を行い、服薬状況、アドヒアランス評価、薬に対する副作用、アレルギー歴など、常用薬の登録だけでは得られない情報のヒアリングを行う。薬剤師が得た情報は、薬剤師端末から各患者の「クスリ一覧」に入力され、「常用薬一覧」が作成される。医師や看護師は「常用薬一覧」の情報を参考にしながら、患者に対応することができる。
【0046】
また、入院時に新たに継続的に投与が必要となった薬や、治療によって変更された薬などの情報は適時常用薬一覧に追加される。医師は、患者の最新の情報を参照しながら、治療を行うことができる。
【0047】
入院後に追加された処方薬も含めた常用薬一覧の薬は、医薬品情報データベースのRMP・併用薬禁忌リストと照合され、投薬、併用に注意を要する薬剤があれば抽出される(図4)。併用禁忌薬がある場合には、代替薬の提案がなされ、また、投薬上モニタリングが必要な場合には、モニタリング提案が警告欄に表示される。医師は、警告欄を参照しながら、安全かつ有効な薬を処方し、治療を行うことができる。
【0048】
[表示機能]
担当医は担当医端末の表示手段である画面から、電子カルテシステムより患者の常用薬情報を確認する。外来診療時には、患者の常用薬は、薬剤情報登録端末により事前に「クスリ一覧」として登録されていることから、医薬品情報データベースを参照して得られた医療行為に係る事項として、警告として表示された休薬情報に基づき、手術計画を立て、必要があれば休薬指示を行うことができる。
【0049】
また、薬剤師端末より入力された患者のアドヒアランスや副作用、アレルギー情報等の追加情報が記載された「常用薬一覧」を医師や看護師が共有することができる。医薬品情報データベースを参照して得られた、医療行為に関わる事項も「常用薬一覧」に警告として表示されていることから、常用薬が注意すべき薬剤であるとの警告が表示された場合、医師はその根拠について電子カルテシステムを介して医薬品情報データベースに照会することができる。医師は医薬品情報データベースから得られた詳細な情報に基づいて、治療を行うことができる。
【0050】
クスリ一覧、常用薬一覧に登録された薬剤情報は、院内システムの記憶手段に記憶され、担当医、薬剤師、看護師等の医療従事者が使用している各端末のモニターを表示手段として、患者情報の一部として表示させることができる。記憶手段や表示手段として、電子カルテ等の院内システムを使用することができることから、全ての医療従事者がアクセス可能となる。
【0051】
以上のように、薬剤情報管理システムを用いることにより、患者の常用薬を自動で電子カルテシステムに登録することが可能となることから、薬剤師はアドヒアランス評価等の業務に注力することが可能となる。また、侵襲的治療を行う場合に、外来時においても休止すべき薬剤が休薬期間とともに表示されることから、入院後に手術日程を再調整するなどの無駄を省くことが可能となり、検査や手術の日程調整が容易になる。
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図2
図3
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図5