IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

<>
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図1
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図2
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図3
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図4
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図5
  • 特許-測定プログラムおよび測定装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】測定プログラムおよび測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20240924BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01M11/00 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020148173
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042674
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 公紀
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-202868(JP,A)
【文献】特開2015-233121(JP,A)
【文献】特開2009-097952(JP,A)
【文献】特開2014-020881(JP,A)
【文献】赤塚 純一ほか,“Background Oriented Schlieren法に基づく密度勾配の可視化法の改良”,日本機械学会論文集B編,2011年,第77巻, 第784号,PP.2391-2400
【文献】Hiroshi Ohno et al.,“Localized gradient-index field reconstruction using background-oriented schlieren”,Applied Optics,2019年09月26日,Vol. 58, No. 28,PP.7795-7804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01M 11/00-11/08
G02B 1/00- 1/08
G02B 3/00- 3/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に透明な測定対象を介した背景画像が写っている撮像画像を撮像装置から取得することと、
前記撮像画像と所定の参照画像との比較に基づいて、前記測定対象において発生する光の偏向量の、前記撮像装置の光軸と交差する前記測定対象の投影面における二次元分布を測定することと、
対称性検出装置から前記測定対象の形状の対称性の情報として前記測定対象の対称軸の位置の情報を取得することと、
前記対称軸が前記撮像画像の中心部に位置するように、前記測定対象を支持するステージを移動させることと、
前記対称性検出装置の検出した前記対称軸をディスプレイに表示することと、
前記二次元分布と、前記対称性と、に基づいて、前記測定対象の内部における前記偏向量に関連する特徴の三次元分布を測定することと、
をコンピュータに実行させるための、測定プログラム。
【請求項2】
前記特徴は、屈折率を含む、
請求項1に記載の測定プログラム。
【請求項3】
前記撮像画像には、前記測定対象と、当該測定対象のレンズ効果をキャンセルするレンズ効果抑制構造と、を介した前記背景画像が写っている、
請求項1または2に記載の測定プログラム。
【請求項4】
前記撮像画像には、赤色の単色光が照射されている場合における前記測定対象を介した前記背景画像が写っている、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の測定プログラム。
【請求項5】
前記対称性が、前記撮像装置の光軸と交差する方向に延びる対象軸周りの軸対象である場合、前記測定対象の前記対称軸周りの姿勢が異なる複数の条件の各々において測定された前記三次元分布の一致性に基づいて、前記測定対象の前記対称軸周りの均一性を判定すること、
を前記コンピュータにさらに実行させるための、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の測定プログラム。
【請求項6】
光学的に透明な測定対象を介した背景画像が写っている撮像画像を撮像装置から取得する画像取得部と、
前記撮像画像と所定の参照画像との比較に基づいて、前記測定対象において発生する光の偏向量の、前記撮像装置の光軸と交差する前記測定対象の投影面における二次元分布を測定する第1測定部と、
対称性検出装置から前記測定対象の形状の対称性の情報として前記測定対象の対称軸の位置の情報を取得する対称性取得部と、
前記対称軸が前記撮像画像の中心部に位置するように、前記測定対象を支持するステージを移動させるアクチュエータと、
前記対称性検出装置の検出した前記対称軸をディスプレイに表示する表示制御部と、
前記二次元分布と、前記対称性と、に基づいて、前記測定対象の内部における前記偏向量に関連する特徴の三次元分布を測定する第2測定部と、
を備える、測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、測定プログラムおよび測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどのような光学的に透明な測定対象において、対象内部の屈折率分布および屈折率勾配が原因で生じる光の偏向量の、測定対象の所定の投影面における二次元分布を測定する技術について、従来から様々に検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-117999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような技術では、測定対象において発生する光の偏向量の二次元分布だけでなく、当該偏向量に関連する特徴(たとえば偏向を生じさせる要因である特徴)の測定対象の内部における三次元分布も測定することができれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態にかかる測定プログラムは、光学的に透明な測定対象を介した背景画像が写っている撮像画像を撮像装置から取得することと、撮像画像と所定の参照画像との比較に基づいて、測定対象において発生する光の偏向量の、撮像装置の光軸と交差する測定対象の投影面における二次元分布を測定することと、測定対象の形状の対称性を取得することと、二次元分布と、対称性と、に基づいて、測定対象の内部における偏向量に関連する特徴の三次元分布を測定することと、をコンピュータに実行させるための測定プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態にかかる測定システムの全体構成を示した例示的かつ模式的な図である。
図2図2は、実施形態にかかる測定対象の位置決めの際に得られる撮像画像の例を示した例示的かつ模式的な図である。
図3図3は、実施形態にかかる測定装置の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図4図4は、実施形態にかかる測定装置が実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
図5図5は、実施形態にかかる測定装置のハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図6図6は、変形例にかかる測定対象を示した例示的かつ模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0008】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる測定システムの全体構成を示した例示的かつ模式的な図である。
【0009】
実施形態にかかる測定システムは、以下に説明するような構成に基づき、シュリーレン法または背景型シュリーレン法などと呼ばれる方法を実施することで、レンズなどのような光学的に透明な測定対象の屈折率分布および屈折率勾配が原因で生じる光の偏向に関連する特徴の、測定対象の内部における三次元分布を測定する。
【0010】
以下では、上記特徴の一つとしての屈折率の三次元分布を測定する構成について主として説明するが、実施形態の技術によれば、密度、温度、応力、濃度、または音圧など、屈折率が関係する他の物理量の三次元分布を測定することも可能である。なお、密度、温度、応力、濃度、または音圧の定量的な評価は、屈折率を特定しないと実行することが不可能であるが、密度、温度、応力、濃度、または音圧の定性的な評価は、屈折率を特定しなくても実行することが可能である。
【0011】
図1に示されるように、実施形態にかかる測定システムは、測定対象10と、撮像装置21と、背景画像22と、照明装置23と、対称性検出装置24と、基準面25と、ステージ26と、レンズ効果抑制構造27と、測定装置30と、を備えている。
【0012】
なお、図1に示される例では、説明の便宜のため、X軸、Y軸、Z軸、θ方向、φ方向、およびψ方向が定義されている。X軸は、水平面内で撮像装置21の光軸Ax11に沿うように定義されており、Y軸は水平面内でX軸と直交するように定義されている。また、Z軸は、X軸およびY軸と直交する鉛直方向に沿うように定義されている。なお、θ方向、φ方向、およびψ方向は、それぞれ、Z軸、X軸、およびY軸周りの回転方向として定義されている。
【0013】
測定対象10は、円柱状の部分11と、半球状の部分12と、が一体化されたレンズとして構成されている。より具体的に、測定対象10は、Z方向に延びる対称軸Ax20周りに軸対称に構成されている。なお、図1に示される測定対象10は、あくまで一例である。このため、実施形態の技術は、図1に示される測定対象10とは異なる形状の測定対象にも適用可能である。図1に示される例において、測定対象10は、撮像装置21の光軸Ax11と、X=0の位置でY軸に沿って延びる軸Ax12と、が交差する位置に配置されている。一般的に、レンズのような光学部品の内部は、成形条件などの影響で屈折率が不均一となる。理想的には、軸対称な形状のレンズの内部には、軸対称な屈折率分布が生じていると考えられる。
【0014】
撮像装置21は、測定対象10および後述するレンズ効果抑制構造27を介して背景画像22を撮像するたとえばデジタルカメラである。なお、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27の内部の光学距離を考慮した、撮像装置21の撮像により得られる撮像画像の倍率は、既知であるものとする。
【0015】
背景画像22は、たとえばフィルムに印刷されたランダムドット模様である。背景画像22は、Y-Z平面に平行に設置され、X座標が既知であるものとする。詳細は後述するが、実施形態では、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27が撮像装置21と背景画像22との間に介在した状態で撮像装置21により得られる撮像画像と、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27が撮像装置21と背景画像22との間に介在していない状態で撮像装置21により得られる撮像画像に対応した所定の参照画像と、の比較により算出されるドットの変位量に基づいて、測定対象10内で生じる光の偏向量の、Y-Z平面に沿った断面に平行な面としての投影面における二次元分布が測定される。または、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27が撮像装置21と背景画像22との間に介在した状態で撮像装置21により得られる撮像画像と、測定対象10が撮像装置21と背景画像22との間に介在していない状態で撮像装置21により得られる撮像画像に対応した所定の参照画像と、の比較により算出されるドットの変位量に基づいて、測定対象10内で生じる光の偏向量の、Y-Z平面に沿った断面に平行な面としての投影面における二次元分布が測定されてもよい。測定対象10の屈折率の二次元分布を測定するためのこのような手法は、シュリーレン法または背景型シュリーレン法などと呼ばれることがある。シュリーレン法または背景型シュリーレン法において、参照画像と、当該参照画像と比較する対象としての撮像画像と、の選び方は測定の目的に応じて変化しうる。
【0016】
照明装置23は、たとえば赤色の単色光を照射する赤色LEDのような光源である。なお、実施形態において照明装置23として使用する光源は、測定対象10の物理的性質である屈折率の波長依存性を考慮し、光源の波長スペクトル幅に対応する測定対象10における屈折率の幅が小さい波長の光を照射する光源であれば、たとえば赤外光を照射する赤外LEDなど、赤色LEDとは異なる他の光源であってもよい。また、要求される測定精度によっては、太陽光、白色光、または各種照明などの一般的な光源が使用されてもよい。
【0017】
対称性検出装置24は、測定対象10の対称性を検出する。たとえば、図1に示される例において、対称性検出装置24は、測定対象10を介して基準面25に対してレーザ光をZ軸に沿った方向に出力し、当該レーザ光の基準面25における到達位置を検出することで、測定対象10の対称軸Ax20の位置が、レーザ光の光軸と一致しているか否かを検出する。
【0018】
より具体的に、図1に示される例において、基準面25には、対称性検出装置24からのレーザ光が測定対象10の表面および内部で偏向せずに直進した場合に到達する基準位置P25が設けられている。レーザ光が測定対象10の対称軸を通過する場合、レーザ光は軸対称性により屈折率勾配が無い軸上を通過するため、理想的にはレーザ光に偏向が生じない。つまり、対称性検出装置24からのレーザ光が基準位置P25に到達している場合、測定対象10の対称軸Ax20がレーザ光の光軸と一致していると言える。したがって、対称性検出装置24は、レーザ光が基準位置P25に到達しているか否かに基づいて、測定対象10の対称軸の位置を検出する。
【0019】
なお、対称性を検出する手法は、上記の手法に限られるものではない。たとえば、対称性検出装置24は、測定対象10の表面形状を測定するレーザ干渉計またはレーザ顕微鏡などとして構成されていてもよい。この場合、対称性検出装置24は、測定対象10の表面形状がZ軸周りの軸対称である場合、組合せHough変換などのような既知の手法により、測定される表面形状を用いて、対象軸がZ軸に一致するか否かを検出しうる。また、対称性検出装置24は、測定対象10の表面形状がX軸方向に均一でかつX-Z平面またはY-Z平面に平行な対称面を有する場合、組合せHough変換などの既知の手法により対称面を検出し、当該対称面がX-Z平面またはY-Z平面に一致するか否かを検出しうる。
【0020】
なお、対称性検出装置24の検出結果は、測定装置30を介してディスプレイ32にリアルタイムで表示されうる。また、対称性検出装置24は、対称性の検出にあたり、対称軸の位置の予測などに用いるため、測定対象10の形状データを取得して参照することもできる。また、対称性検出装置24は、撮像装置21により得られる撮像画像を利用して、測定対象10の対称性を検出してもよい。この場合、対称性の検出のためにレーザ光を利用する必要がないので、基準面25を設けることが不要であるし、測定対象10を対称性検出装置24と基準面25との間の位置に配置することも不要である。
【0021】
ステージ26は、測定対象10を所望の位置および姿勢に位置決めした状態で支持する。ステージ26は、測定システムにおける測定対象10の屈折率の測定が適切に実施されるように、たとえば撮像装置21による撮像に適した位置および姿勢で、測定対象10を固定する。なお、測定対象10の位置および姿勢の変更は、6軸または必要な軸数のアクチュエータ(不図示)の駆動に応じて自動で実行されてもよいし、人の操作に応じて手動で実行されてもよい。また、測定対象10の位置および姿勢の変更は、対称性検出装置24の検出の結果を考慮して実行されうる。
【0022】
上記を踏まえて、ステージ26による測定対象10の位置決めの際において、撮像装置21により得られる撮像画像への測定対象10の写り込み方は、次の図2に示されるように変化する。
【0023】
図2は、実施形態にかかる測定対象10の位置決めの際に得られる撮像画像の例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0024】
図2に示される例において、画像IM201は、測定対象10の位置決めが完了する前に得られる撮像画像を示す。この画像IM201には、測定対象10が中心からずれた位置に写り込んでいる。そして、測定対象10の位置決めが完了すると、測定対象10が中心付近に写り込んだ画像IM202のような撮像画像が得られる。このとき、当該画像IM202上には、対称軸Ax20の向きとしての軸方向を示す矢印A201と、軸方向に対する径方向を示す矢印A202と、が対称性検出装置24の検出結果として表示されうる。
【0025】
図1に戻り、レンズ効果抑制構造27は、測定対象10の表面形状に起因するレンズ効果を抑制する構造である。レンズ効果抑制構造27は、測定対象10の屈折率の測定に必須の構造ではないが、撮像装置21から背景画像22を撮影しにくい場合に有効な構造である。たとえば、レンズ効果抑制構造27は、測定対象10と凹凸が反対の表面形状を有するレンズとして実現される。なお、レンズ効果抑制構造27は、測定対象10と略等しい屈折率を有するグリセリン水溶液またはシリコーンオイルなどのような液体の測定対象10への液浸により実現されてもよい。
【0026】
測定装置30は、撮像装置21により得られた撮像画像と、対称性検出装置24により検出された対称性と、に基づいて、測定対象10において発生する光の偏向に関連する特徴としての屈折率を測定する。測定装置30は、キーボード31からの入力を受け付けるとともにディスプレイ32に画像を出力することが可能なPCのような情報処理装置として構成されている。
【0027】
ここで、測定対象10を投影する所定の投影面における偏向量の二次元分布を測定する方法については、上述したシュリーレン法または背景型シュリーレン法のように、従来から様々に検討されている。しかしながら、屈折率については、投影面における二次元分布だけでなく、測定対象10の内部における三次元分布も測定することができれば望ましい。
【0028】
そこで、実施形態にかかる測定装置30は、以下に説明する機能に基づき、測定対象10の内部における屈折率の三次元分布を測定する。
【0029】
図3は、実施形態にかかる測定装置30の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0030】
図3に示されるように、実施形態にかかる測定装置30は、画像取得部301と、第1測定部302と、対称性取得部303と、第2測定部304と、を備えている。
【0031】
画像取得部301は、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27を介した背景画像が写っている撮像画像を撮像装置21から取得する。そして、第1測定部302は、画像取得部301により取得された撮像画像と、前述した参照画像と、の比較に基づいて、撮像装置21の光軸Ax11と交差するY-Z平面に沿った投影面における、測定対象10の内部で生じる光の偏向量の二次元分布を測定する。
【0032】
そして、対称性取得部303は、対称性検出装置24の検出結果としての測定対象10の対称性を取得する。そして、第2測定部304は、第1測定部302により測定された偏向量の二次元分布と、対称性取得部303により取得された対称性と、に基づいて、測定対象10の内部における屈折率の三次元分布を測定する。
【0033】
たとえば、軸対象な測定対象10の屈折率の三次元分布は、ドットパターンの変位量の二次元分布として測定された、光線の偏向量の二次元分布を数学的に再構成することで求めることができる。たとえば、非特許文献(Ohno, H. and Toya, K., " Localized gradient-index field reconstruction using background-oriented schlieren," Applied Optics, Vol. 58, Issue 28, (2019), pp.7795-7804)には、偏向角のスカラーポテンシャルを利用することで、軸対称な屈折率分布をドットパターンの変位量から再構成する方法が示されている。
【0034】
以下、上記の非特許文献の内容について簡単に説明する。
【0035】
まず、y-z平面内の座標を(ξyz)で表し、ベクトルuを次の式(10)のように定義する。
【0036】
【数1】
【0037】
そして、測定媒体内の屈折率場の偏差をΔn(r,z)と表し、測定媒体の標準屈折率をn0と表す。また、結像レンズから背景までと像面までの距離をそれぞれloとliと表し、原点Oから背景までの距離をlmと表す。ドットパターンを有する背景を発する光線は、媒体と結像レンズを通過し、像面に到達する。
【0038】
ここで、光線に偏向がない場合の結像位置をQで表し、屈折率場により偏向した場合の結像位置をQ'で表す。そして、周囲の屈折率をnbとする。
【0039】
偏向角ベクトルεは、結像位置Q'とQとを用いて、次の式(20)のように表すことができる。
【0040】
【数2】
【0041】
上記の式(20)において、l*は原点Oから背景までの有効距離である。媒体の屈折率を考慮すると、l*は次の式(21)のように書ける。下記の式(21)において、dは、測定媒体の厚さである.
【0042】
【数3】
【0043】
また、上記の式(20)において、M0*は背景の有効倍率である。媒体の屈折率を考慮すると、M0*は、次の式(22)のように書ける。
【0044】
【数4】
【0045】
さらに、上記の式(20)において、Q'-Qは、背景のドットパターンの変位を表す。偏向は平面x=0上のξで生じると想定できるため、ξは、Q'を用いて次の式(23)のように書ける。
【0046】
【数5】
【0047】
上記の式(23)において、Mm*は、媒体の内部平面x=0の有効倍率である。媒体の屈折率を考慮すると、Mm*は、次の式(24)のように書ける。
【0048】
【数6】
【0049】
以上を踏まえて、軸対称な屈折率分布を表す屈折率場は、ドットパターンの変位から、次の式(25)のように導出できる。
【0050】
【数7】
【0051】
上記の式(25)は、屈折率場をドットパターン変位の積分で表した式である。これは、軸対称な三次元の屈折率場がドットパターンの変位測定により再構築できることを示している。
【0052】
このように、上記の非特許文献の技術を利用すれば、軸対称な測定対象10の内部の屈折率場、すなわち屈折率の三次元分布を、ドットの変位量に基づいて数学的に求めることが可能である。
【0053】
なお、軸対称形である測定対象10の屈折率が対称軸Ax周りに本当に対称であるか否かは、測定対象10の対称軸Ax周りの姿勢が異なる複数の条件における複数の三次元分布の測定結果の比較によりチェックすることができる。この場合、第2測定部304は、測定対象10の対称軸Ax周りの姿勢が異なる複数の条件で測定された複数の三次元分布の一致性に基づいて、測定対象10の対称軸Ax周りの対称性を判定しうる。
【0054】
以上の構成に基づき、実施形態にかかる測定装置30は、測定対象10の屈折率の三次元分布を測定するために、次の図4に示されるような一連の処理を実行する。図4に示される一連の処理は、ステージ26上での測定対象10の位置決めが完了した後に開始する。
【0055】
図4は、実施形態にかかる測定装置30が実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0056】
図4に示されるように、実施形態では、まず、S501において、測定装置30の画像取得部301は、測定対象10およびレンズ効果抑制構造27を介した背景画像22が写っている撮像画像を撮像装置21から取得する。
【0057】
そして、S502において、測定装置30の第1測定部302は、S501で取得された撮像画像と所定の参照画像との比較に基づいて、屈折率に関連する特徴として測定対象10において発生する光の偏向量の、撮像装置21の光軸Ax11と交差する断面に投影した二次元分布を測定する。
【0058】
そして、S503において、測定装置30の対称性取得部303は、対称性検出装置24により検出された測定対象10の対称性を取得する。
【0059】
そして、S504において、測定装置30の第2測定部304は、S502で測定された二次元分布と、S503で取得された対称性と、に基づいて、測定対象10の内部における屈折率の三次元分布を測定する。そして、処理が終了する。
【0060】
最後に、実施形態にかかる測定装置30のハードウェア構成について説明する。実施形態にかかる測定装置30は、次の図5に示されるようなハードウェア構成を有している。
【0061】
図5は、実施形態にかかる測定装置30のハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0062】
図5に示されるように、測定装置30は、プロセッサ601と、メモリ602と、ストレージ603と、入力インターフェース(入力I/F)604と、出力インターフェース(出力I/F)605と、を備えている。これらのハードウェアは、バス606に接続されている。
【0063】
プロセッサ601は、たとえばCPU(Central Processing Unit)として構成され、測定装置30の各部の動作を統括的に制御する。
【0064】
メモリ602は、たとえばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含み、プロセッサ601により実行されるプログラムなどの各種のデータの揮発的または不揮発的な記憶、およびプロセッサ601がプログラムを実行するための作業領域の提供などを実現する。
【0065】
ストレージ603は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)を含み、各種のデータを不揮発的に記憶する。
【0066】
入力インターフェース604は、キーボード31を介した測定装置30のデータの入力を制御する。また、出力インターフェース605は、ディスプレイ32を介した測定装置30からのデータの出力を制御する。
【0067】
実施形態において、測定装置30が有する図3に示される各機能は、プロセッサ601がメモリ602またはストレージ603などに記憶された測定プログラムを実行した結果として、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。ただし、実施形態では、図3に示される機能のうち少なくとも一部が、専用のハードウェア(回路)として実現されてもよい。
【0068】
なお、実施形態にかかる測定プログラムは、必ずしもメモリ602またはストレージ503に予め記憶されている必要はない。たとえば、測定プログラムは、各種の磁気ディスクまたは光ディスクなどといったコンピュータで読み取り可能な記録媒体にインストール可能な形式または実行可能な形式で記録されたコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0069】
また、実施形態にかかる測定プログラムは、インターネットなどのネットワーク経由で提供または配布されてもよい。すなわち、測定プログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納された状態で、ネットワーク経由でのダウンロードを受け付ける、といった形で提供されてもよい。
【0070】
以上説明したように、実施形態にかかる測定装置30は、画像取得部301と、第1測定部302と、対称性取得部303と、第2測定部304と、を備えている。画像取得部301は、光学的に透明な測定対象10を介した背景画像22が写っている撮像画像を撮像装置21から取得する。第1測定部302は、撮像画像と所定の参照画像との比較に基づいて、測定対象の屈折率に関連する特徴として発生する光の偏向量の、撮像装置21の光軸Ax11と交差するY-Z平面に沿った投影面における二次元分布を測定する。対称性取得部303は、測定対象10の形状の対称性を取得する。第2測定部304は、第1測定部により測定された二次元分布と、対称性取得部303により取得された対称性と、に基づいて、測定対象10の内部における屈折率の三次元分布を測定する。
【0071】
上記のような構成によれば、第1測定部により測定された偏向量の二次元分布と、対称性取得部303により取得された対称性と、に基づいて、測定対象10の内部における屈折率の三次元分布を測定することができる。
【0072】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、対称軸Ax周りの屈折率の対称性が期待できる軸対称の測定対象10が例示されているが、軸対称以外の対称性についても、当該対称性に応じて、屈折率の何らかの対称性を期待することができる。したがって、実施形態の技術は、軸対称以外の対称性を有する測定対象にも適用可能である。軸対称以外の対称性を有する測定対象の一例としては、たとえば、次の図6に示されるような測定対象700が考えられる。
【0073】
図6は、変形例にかかる測定対象700を示した例示的かつ模式的な図である。
【0074】
図6に示される測定対象700は、X軸に沿って延びる半円柱形状を有している。この測定対象700の内部の屈折率は、X軸に沿った方向に均一であることが期待できる。つまり、測定対象700において、X軸と直交するY-Z平面に沿った断面P700を含む任意の断面の屈折率の二次元分布は略等しいことが期待できる。
【0075】
したがって、図6に示される例においては、まず、X軸と直交するY-Z平面に沿った投影面における偏向量の二次元分布がシュリーレン法または背景型シュリーレン法により測定される。そして、上述したX軸に沿った方向の屈折率の均一性を考慮して、測定対象700の内部における屈折率の三次元分布が測定される。
【0076】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
10、700 測定対象
21 撮像装置
30 測定装置
301 画像取得部
302 第1測定部
303 対称性取得部
304 第2測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6