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特許7558744異常報知システム、制御方法および車両制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】異常報知システム、制御方法および車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240924BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G08B21/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020169212
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061294
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】森 慎吾
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113138(JP,A)
【文献】特開2015-178288(JP,A)
【文献】特開2021-46023(JP,A)
【文献】特開2019-67282(JP,A)
【文献】特開2016-115250(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116121(WO,A1)
【文献】特開2014-58229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G08B 21/00 - 21/24
B60Q 1/00 - 1/56
B60Q 5/00 - 7/02
B60R 21/00 - 21/017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両が異常状態であることを示す情報を含む信号を受信する受信手段と、
前記信号を受信した場合、所定のエリアにいる人物対して音によって異常を報知するよう制御する第1報知手段と、
前記第1報知手段による報知を認識していない人物の存在を検出する検出手段と、
前記第1報知手段による報知を認識していない人物の存在を検出した場合、前記人物が携帯するモバイル機器から異常を報知するよう制御する第2報知手段と、
を備えることを特徴とする異常報知システム。
【請求項2】
前記人物の位置情報を取得する位置取得手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の異常報知システム。
【請求項3】
前記位置取得手段は、前記人物が携帯するモバイル機器から受信した信号を用いて、人物の位置情報を取得する、ことを特徴とする請求項2に記載の異常報知システム。
【請求項4】
前記位置取得手段は、前記人物を撮影した画像を用いて、人物の位置情報を取得する、ことを特徴とする請求項2に記載の異常報知システム。
【請求項5】
前記位置取得手段が取得した人物の位置情報に基づいて、前記人物の危険度を推定する危険度推定手段を備え、前記第1報知手段と第2報知手段の少なくとも一方は、前記危険度に応じて、異常を報知するよう制御することを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の異常報知システム。
【請求項6】
前記危険度推定手段は、前記人物の位置情報と地図情報に基づいて、前記危険度を推定することを特徴とする請求項5に記載の異常報知システム。
【請求項7】
前記走行中の車両の走行に関する情報を取得し、
前記所定のエリアは、前記車両の走行に関する情報を用いて設定されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の異常報知システム。
【請求項8】
前記走行中の車両が異常状態であるとは、当該車両の故障による異常状態もしくは当該車両の運転手の急病による異常状態であることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の異常報知システム。
【請求項9】
前記第2報知手段は、前記第1報知手段による報知を認識していない人物の周囲の人物に対しても異常を報知することを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の異常報知システム。
【請求項10】
請求項1からの何れか1項に記載の異常報知システムに、車両が異常状態であることを示す情報を含む信号を送信する車両制御システムであって、前記第1報知手段による報知を認識していない人物との衝突を避けるように車両を制御する制御装置を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項11】
走行中の車両が異常状態であることを示す情報を含む信号を受信する受信工程と、
前記信号を受信した場合、所定のエリアにいる人物対して音によって異常を報知するよう制御する第1報知工程と、
前記第1報知工程による報知を認識していない人物の存在を検出する検出工程と、
前記第1報知工程による報知を認識していない人物の存在を検出した場合、前記人物が携帯するモバイル機器から異常を報知するよう制御する第2報知工程と、
を備えることを特徴とする異常報知システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両の異常を歩行者などの対象物に報知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の故障や運転手の急病といった車両内で生じた異常を検出し、車両外に異常を報知する方法が提案されている。特許文献1は、運転手の異常を検出した場合、車両の外側に備えた可動部を動作させることで、車両外に異常を報知する方法を提案している。
【0003】
また、特許文献2は、車両の情報を、道路に設置された情報収集装置を介してデータセンターに集め、車両の状態を正確に把握しておくことで、車両の不具合を把握する方法を提案している。
【0004】
これらの文献から、車両の異常を検出した場合に、路車間通信を介して道路に設置された報知装置を作動させることで、歩行者などに対して、車両の異常を報知するシステムが考えられる。
【0005】
たとえば、車両内に設置されたカメラで運転手が急病であることを検出したとき、車両の進行方向の横断歩道に設置されたスピーカーから警告音を鳴らしたり、警告灯が点灯したりするシステムが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-113138号公報
【文献】特開2019-79467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のシステムでは、歩行者がスマートフォンを操作していたり、ヘッドホンで音楽を聴くなどしていたりすると、報知を認識できない場合がある。本発明は、歩行者や自転車の運転手などの対象物がより確実に認識できるように、車両の異常を報知する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1実施態様は、走行中の車両が異常状態であることを示す情報を含む信号を受信する受信手段と、前記信号を受信した場合、所定のエリアにいる人物対して音によって異常を報知するよう制御する第1報知手段と、前記第1報知手段による報知を認識していない人物の存在を検出する検出手段と、前記第1報知手段による報知を認識していない人物の存在を検出した場合、前記人物が携帯するモバイル機器から異常を報知するよう制御する第2報知手段と、を備える異常報知システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歩行者などの対象物がより確実に認識できるように、車両の異常を報知する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態における異常報知システムの適用状況例である。
図2】本発明の実施形態における異常報知システムの構成例である。
図3】本発明の実施形態における動作処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態における異常報知システムの適用状況例である。
図5】本発明の実施形態における車両制御システムの適用状況例である。
図6】本発明の実施形態における車両制御システムの構成例である。
図7】本発明の実施形態における動作処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。各実施形態は一例であって、各実施形態の内容は本発明を限定するものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
図1から図4を用いて、第1の実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態は、走行中の車両において、車両の故障や運転手(ドライバ)の急病といった車両異常を検出すると、横断歩道などの場所に設置された報知装置から、対象物に報知を行う異常報知システムを一例として説明する。ここで報知の対象物とは、主に歩行者や自転車の運転手である。なお、対象物は、人以外の動物、自転車以外のモビリティ装置の運転手であってもよい。
【0014】
なお、本実施形態では、運転手の急病が車両異常として検出された例を用いて説明するが、車両異常検出装置は、運転手の急病と車両の故障の一方を車両異常として検出するように構成してもよいし、運転手の急病と車両の故障の両方を車両異常として検出するように構成してもよい。
【0015】
図1は、本実施形態の異常報知が適用される横断歩道周辺の状況を示したものである。図1は、運転手101の急病等で制御が困難となった車両102が、歩行者103のいる横断歩道に近づいている場面を示している。図1の103~105は歩行者であり、歩行者103はヘッドホンで音楽を聴いているため、車両異常を報知する警告音を認識することができない状態である。また、車両用信号機106は「止まれ」を意味する赤信号を表示しており、歩行者用信号機107は「進むことができる」を意味する「青信号」を表示している。この例では、歩行者103は警告音を認識できないため、車両102が近づいてきても、歩行者用信号機107に従って横断歩道を歩行してしまう可能性がある。
【0016】
[1-1.構成]
図2は、本実施形態の異常報知システムの構成を示すブロック図である。異常報知システム1は、車両異常検出装置11と、受信装置12と、第1報知装置13と、認識判定装置14と、第2報知装置15を備える。各装置はそれぞれ、CPU、ROM及びRAMを中心とする周知のマイクロコンピュータを備える。
【0017】
車両異常検出装置11は、状態検出部111と、異常判定部112と、送信部113を備える。
【0018】
状態検出部111は、車両102を運転する運転手101の情報を取得するように構成され、例えば運転手101を撮影するカメラ1111や、運転手の姿勢を測定する感圧センサ1112、運転手の心拍、体温、血圧等の生体情報を測定する生体センサ1113などを備える。
【0019】
異常判定部112は、アプリケーションプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。異常判定部112は、状態検出部111の各センサからの出力に基づいて、運転手101に異常がないか判定する機能を有する。
【0020】
送信部113は、異常判定部112の判定結果を示す信号を、車両102の外部に送信する機能を有する。上記信号は、運転手101の急病により、走行中の車両102が異常状態であることを示す情報となる。
【0021】
受信装置12は、車両異常検出装置11から送信された車両異常を示す信号(異常信号)を受信する機能を有する。また、受信装置12は異常信号を受信した際に、異常信号の受信を示す信号を第1報知装置13に出力する機能を有する。
【0022】
第1報知装置13は、第1報知装置制御部131と、第1報知部132を備える。第1報知装置13は、横断歩道の周囲などの所定のエリアに存在する対象物に対して、車両異常を報知する機能を有する。ここで対象物とは、歩行者や自転車の運転者などの被報知者である。
【0023】
第1報知部132は、スピーカーであり、警告音を出力する機能を有する。
【0024】
第1報知装置制御部131は、アプリケーションプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。第1報知装置制御部131は、受信装置12から入力された異常信号の受信を示す信号に基づいて、第1報知部132の出力を制御する。本実施形態では、第1報知部132はスピーカーのため、第1報知装置制御部131は、警告音の出力のON/OFFや、警告音の音量などを制御する。また、第1報知装置制御部131は、認識判定装置14に報知を実施したことを示す信号を出力する機能を有する。
【0025】
第1報知部132は、警告音を出力する機能を有する。
【0026】
認識判定装置14は、対象物情報取得部141と、認識判定部142から構成される。
【0027】
対象物情報取得部141は、第1報知装置13の周辺に存在する対象物の情報を取得する機能を有し、例えば、カメラ1411や対象物の所有するスマートフォン等のモバイル機器に搭載されたIMUセンサ1412で構成される。カメラ1411は、単眼カメラや複眼カメラであり、対象物の情報として、報知装置の周辺に存在する対象物の画像や、カメラ1411から対象物までの距離情報を取得する機能を持つ。IMUセンサ1412は、モバイル機器の加速度や角速度情報を取得する機能を持つ。また、対象物情報取得部141は、記録した画像や、距離情報、加速度や角速度などの情報を、認識判定部142に出力する機能を有する。
【0028】
認識判定部142は、アプリケーションプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。認識判定部142は、対象物情報取得部141が取得した対象物の情報に基づいて、対象物が第1報知装置13による報知を認識したか否か判定する機能と、判定結果を第2報知装置15に出力する機能を有する。
【0029】
第2報知装置15は、第2報知装置制御部151と、第2報知部152を備える。第2報知装置15は、横断歩道の周囲に存在する対象物であって、第1報知装置15による報知を認識していない対象物に対して、車両異常を再び報知する機能を有する。
【0030】
第2報知部152はライトであり、発光して横断歩道の周囲を照らす機能を有する。
【0031】
第2報知装置制御部151は、アプリケーションプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。第2報知装置制御部151は、認識判定装置14から入力された信号に基づいて、第2報知部152を制御する。本実施形態では、第2報知部152はライトのため、発光のON/OFFや発光量などを制御する。
【0032】
本実施形態では、第2報知装置15は音以外のライトを使用するが、第1報知装置とは異なる報知手段や報知方法で報知する装置であれば、他の報知装置を使用してもよい。本実施形態は、報知手段が異なる形態であるが、第2報知装置15も第1報知装置13と同様にスピーカーであって、報知音を変えるなどの報知方法を異ならせるようにしてもよい。報知手段または報知方法を異ならせることは含めて。報知の態様を異ならせるとする。
【0033】
さらにまた、対象物情報取得部141がモバイル機器である場合は、第2報知装置15は、対象物が携帯するモバイル機器と通信して信号を送信し、モバイル機器を介して対象物に車両異常を報知する形態であってもよい。
【0034】
なお、本実施形態は、第1報知装置13と第2報知装置15は横断歩道の周囲に設置された形態であるが、上述のようにモバイル機器と通信して車両異常を示す信号を送信する場合であれば、横断歩道の周囲に設置する必要はない。
【0035】
[1-2.処理]
図3は、本実施形態の異常報知システムの動作処理を示すフローチャートである。図3を用いて、異常報知システム1が実行する報知処理を説明する。図3のフローチャートが示す処理は、車両異常検出装置11が車両の故障や運転手の急病といった車両異常を検出してから報知を実行するまでの処理である。なお、車両異常を検出する前の各報知装置の出力は、OFF(スピーカーから音は出力されず、ライトは消灯されている状態)となっている。
【0036】
まず、S11にて、車両異常検出装置11は、状態検出部111の出力した画像やセンサ信号に基づいて、運転手101に異常が生じていないかを判定する。ここで異常とは、運転手101が車両102の運転を継続することが困難な状態を指す。
【0037】
本実施形態は、運転手101の異常の判定方法として、様々に方法を用いることができる。判定の一例として、車両102の椅子の臀部や背が当たる領域の押圧力を検出し、押圧力の分布に基づいて運転手101が姿勢を判別し、運転手101の異常を判定する。また、他の判定方法として、運転手101の顔が写った画像から白目をむいた状態を検出し、白目をむいた状態が所定時間続いたとき、運転手101を異常と判定する方法でもよい。
【0038】
S12では、車両異常装置11の判定結果に基づいて、以降の処理を分岐する。車両異常検出装置11が車両異常がないと判定した場合はS11へ戻り、S11以降の処理を繰り返す。車両異常検出装置11が車両異常があると判定した場合はS13へと進む。
【0039】
S13では、横断歩道の周囲の対象物に対して、走行して向かってくる車両に車両異常があるということを示す報知が、第1報知装置13によって実施される。まず、車両異常検出装置11は、送信部113が車両102の外部の受信装置12に、車両異常があることを示す信号(異常信号)を送信する。受信装置12が異常信号を受信すると、その情報を第1報知装置13に伝達し、第1報知装置13はスピーカーから所定の音量で警告音を出力することで、報知を行う。
【0040】
S14では、認識判定装置14によって、対象物が警告音を認識したか否か判定する。認識の判定は、対象物情報取得部141の出力する画像や加速度、角速度情報に基づいて実施する。
【0041】
本実施形態は、画像に基づく判定方法として、様々な方法を用いることができる。本実施形態は、一例として、対象物の視線や顔がスピーカーの方向を向いた場合は報知を認識したと判定し、向かない場合は報知を認識していないと判定する。
【0042】
なお、画像から人物の顔を検出する公知の方法としては、特定のパッチを画像に畳み込んで顔を検出するパッチベースの方法や、大量の顔画像を学習することで人の顔を検出する機械学習ベースの方法などがある。また、顔画像から視線や顔の向きを推定する方法としては、顔の特徴量の三次元位置情報を検出して視線や顔の向きを推定する方法がある。
【0043】
他の判定方法として、対象物が首を振る、道路の奥を見るなどして、周囲を警戒する仕草を見せた場合に、報知を認識したと判定してもよい。また、報知前後の対象物の姿勢の変化が、所定の閾値よりも大きい場合に、報知を認識したと判定してもよい。これらの判定方法の一つだけを用いて判定してもよいし、複数の判定方法の結果に基づいて判定してもよい。
【0044】
なお、対象物情報取得部141が出力する加速度や角速度に基づいて判定する方法においては、加速度と角速度から対象物の状態を検出し、その状態の変化に基づいて判定することができる。
【0045】
その一例を説明する。検出する対象物の状態は、移動中、停止中、進路の変更の3つとする。各状態の判定方法は、ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸の各角速度が、所定値以上の時は移動中と判定し、所定値未満のときは停止中と判定する。移動中、ある方向に所定値以上の加速度を検出した場合は、進路を変更したと判定する。これらの状態が、第1報知装置13のスピーカーからの報知後、所定時間の間に状態変化した場合、対象物は報知を認識したと判定する。すなわち、スピーカーからの報知後に、対象物が歩行方向を変えて回避行動を開始したり、急停止したりした場合は、対象物は報知を認識したと判定する。
【0046】
S15では、認識判定装置14の判定結果に基づいて、以降の処理を分岐する。対象物情報取得部141によって確認されたすべての対象物が、警告音を認識したと判定された場合は、報知処理は終了となる。警告音を認識していないと判定された対象物が存在する場合は、S16の処理へと進む。
【0047】
S16では、第2報知装置15によってライトを点灯することで、非認識対象物に車両異常を報知する。
【0048】
なお、各報知装置が報知を継続する時間は、例えば、下記のように設定する。
【0049】
第1報知装置13のスピーカーによる報知は、受信装置12にて異常信号が検出されなくなってから所定時間、継続する。
【0050】
第2報知装置15のライトによる報知は、非認識の対象物が報知を認識するまで継続する。非認識の対象物が存在しなくなる前に、受信装置12にて異常信号が検出されなくなってから所定時間が経過した場合は、ライトによる報知は終了としてもよい。
【0051】
[1-3.効果]
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0052】
車両異常検出装置11は、運転手101の異常を車両異常として検出し、横断歩道に設置した第1報知装置13による報知(スピーカーからの警告音の出力)を実施する。その後、第1報知装置13による報知を認識していない対象物(非認識の対象物)が存在するか判定し、第2報知装置15による報知(ライトの点灯)を実施している。これにより、ヘッドホンで音楽を聴いているなどして、第1報知装置13の報知を認識できなかった対象物に対しても、第2報知装置15により車両異常を報知することができる。よって、非認識の対象物に対しても、回避や停止等の適切な行動を促すことができる。そのため、対象物が異常状態の車両による交通事故に巻き込まれるリスクを低下させることができる。
【0053】
また、非認識対象物の存在が、第2報知装置が作動することでその周囲の対象物に周知されるため、第2報知装置による報知を認識した対象物が非認識対象物を探して注意を促すことが可能となる。
【0054】
以上、本実施形態について詳述したが、本実施形態の異常報知システムの構成について以下のように変更を加えてもよい。
【0055】
車両異常検出装置11に、車両のブレーキの故障や、タイヤのパンクといった車両の故障を検出する構成にしてもよい。異常判定部112は、車両の故障を車両異常と判定し、異常信号を送信することで、車両の故障時にも回避や停止等の適切な行動をとるための情報を対象物に提供することができる。
【0056】
また、車両異常検出装置11は、運転手の異常と車両の故障の両方を検出する構成にしてもよい。車両における多様な異常検出に対応して、回避や停止等の適切な行動をとるための情報を対象物に提供することができる。
【0057】
また、第1報知装置13および第2報知装置15は、電光掲示板やスマートフォンのポップアップ通知、スマートフォンの振動などを使用するなど、他の報知の方法を用いてもよい。多様な方法で報知を行うことで、対象物が第1報知装置および第2報知装置の報知を認識する機会を増やすことができる。
【0058】
異常報知システム1は、さらに、対象物の位置情報を取得する機能を有する位置取得装置を備えてもよい。また、第2報知装置15は、非認識対象物に車両の異常を報知する機能に加え、どの対象物が非認識対象物であるかを周囲の対象物に周知する機能を有していてもよい。対象物は非認識対象物をすぐに特定できるため、より早く非認識対象物に注意を促すことが可能となる。
【0059】
位置取得装置による対象物の位置情報の取得方法について説明する。ここでは位置取得装置の一例として、ステレオカメラを使用しているが、Liderやビーコンといった他の位置取得装置を用いてもよい。
【0060】
位置取得装置は、ステレオカメラの出力した画像に基づいて、第2報知装置の位置情報を基準とする対象物の位置情報を取得する。この場合、対象物の位置情報の取得は、下記のようにして実施される。なお、下記の方法は一例であり、他の方法により位置情報を取得してもよい。
【0061】
まず、画像における対象物の画素位置情報を算出する。これは、上述した認識判定部142における顔検出方法を使用することで、対象物の画素位置情報(u、v)を算出できる。次に、カメラの焦点距離fと縦方向と横方向の画素サイズ(du、dv)、画像座標における光軸と撮像面の交点位置情報(cu、cv)から、下記式に従って座標変換を行う。
x=du(u‐cu)/f
y=dv(v‐cv)/f
【0062】
ここで、変換後の座標(x、y)はカメラの光学中心を原点とし、X軸とY軸は画像の横方向と縦方向に平行な軸である。ここで、光軸をZ軸とすると、変換後の座標は(x、y、1)と記述される。変換後の座標系をカメラ座標系とよぶ。
【0063】
カメラから対象物の距離zは、ステレオカメラから得られた複数視点の画像に対象物の視差量から、三角測量に基づいて、カメラから対象部の距離zを算出できる。よって、光学中心を原点とする対象物の位置情報pは、p=(xz、yz、z)で求めることができる。
【0064】
次に、カメラ座標系で記述された対象物の位置情報pを、第2報知装置15の位置情報と初期姿勢を基準とする座標系へと変換する。その変換行列をTとすると、第2報知装置の位置情報を基準とする対象物の位置情報p′は、p′=Tpで計算できる。変換行列Tはカメラと第2報知装置15の位置情報および初期姿勢から求めることができる。以上により、第2報知装置15の位置情報を基準とする対象物の位置情報を取得する。
【0065】
第2報知装置15は、以上の方法で取得した対象物の位置情報に基づいて、どの対象物が非認識対象物であるかを周囲の対象物に周知する機能を有していてもよい。例えば、第2報知装置15は、横断歩道の周囲における特定の場所に光をあてることのできるスポットライトを使用するとする。非認識対象物にスポットライトの光をあてることで、車両異常が非認識対象物に報知される。加えて、横断歩道の周囲にいる対象物は、スポットライトの光があたっている対象物を見ることで、即座に非認識対象物の場所を知ることができる。
【0066】
上述の例では、第2報知装置15の一例としてスポットライトを使用しているが、対象物の足元を照らす道路パネルや、電光掲示板による表示など、別の報知装置を使用して、どの対象物が非認識対象物か周知してもよい。
【0067】
以上の構成を備えた異常報知システム1は、どの対象物が非認識対象物であるか第2報知装置の周囲の対象物に報知できるため、報知を認識した対象物はより早く非認識対象物に注意を促すことが可能となる。
【0068】
異常報知システム1は、第1報知装置または第2報知装置の候補(報知装置候補)を複数備えていてもよい。また、異常報知システム1は、さらに、対象物情報取得部141の取得した対象物の画像情報や距離情報、IMUセンサ1412の情報に基づいて、対象物の状態を検出する状態検出装置を備えていてもよい。ここで、対象物の状態とは、対象物がスマートフォンを見ていたり、サングラスをかけていたりするなど、各報知装置候補の報知の効果に影響を及ぼすような対象物の状態を指す。
【0069】
また、異常報知システム1は、状態検出装置の出力に基づいて、報知装置候補から適切な報知装置を選択し、第1報知装置または第2報知装置とする機能を有する報知装置選択装置を備えていてもよい。対象物の状態に応じて適切な報知装置を選択することで、より効果的に対象物に報知することが可能となる。
【0070】
例えば、スマートフォンの画面を見ている対象物が多い場合は、第1報知装置13にスマートフォンを選択し、スマートフォンの画面に警告情報を表示させることで、より多くの対象物に効果的に報知することができる。
【0071】
また、サングラスをかけている対象物が非認識対象物である場合を考える。このとき、第2報知装置14による報知をスポットライトや電光掲示板といった視覚的な手段による報知装置ではなく、指向性スピーカーやスマートフォンの振動といった聴覚、触覚的な手段を持つ報知装置を選択する。このように非認識対象物の感覚しやすい報知装置を選択することで、非認識対象物に効果的に報知することが可能である。
【0072】
異常報知システム1は、上述した位置取得装置が取得した対象物の位置や、対象物情報取得部141が取得した対象物の画像情報に基づいて、対象物の危険度を推定する危険度推定装置(図示せず)を備えていてもよい。ここで危険度とは、対象物の交通事故の巻き込まれやすさや、交通事故に巻き込まれた際に負う怪我の大きさ等を示している。
【0073】
例えば危険度は、対象物が車両の移動する道路に近いほど高く、また高齢の方や車椅子を運転するなど、移動に時間のかかる人ほど高く設定される。
【0074】
また、第1報知装置13または第2報知装置15のうち少なくとも1つは、スポットライトや指向性スピーカーのように、出力の強い方向を非認識対象物に向けることで報知する機能を有し、さらに危険度の高い非認識対象物から順番に報知する機能を有するように構成してもよい。
【0075】
以上の構成を備えた異常報知システム1は、より重傷を負いやすい対象物に、より早く回避や停止等の適切な行動をとるための情報を提供することができるため、重大な事故となるリスクを低下させることができる。
【0076】
危険度推定装置は、第1報知装置13または第2報知装置15の周辺の危険度が示された地図情報(危険度マップ)を備えていてもよい。また、危険度推定装置は、危険度マップと、対象物の位置情報に基づいて、対象物の危険度を推定する構成としてもよい。ここで、危険度マップとは、第1報知装置13または第2報知装置15の周辺の各地点における道路交通環境に基づく危険度が示されたマップである。危険度マップは、一例として、ガードレールのない歩道は危険度が高く設定される。
【0077】
図4は、危険度推定装置による危険度推定が適用される、横断歩道の周辺の状況を示している。図1と共通する構成については同じ符号を用いて説明を省略する。
【0078】
図4は、具体的には、運転手101の急病等により制御困難となった車両102が、歩行者201が歩行中の横断歩道に近づいている場面である。ここで、歩行者201~203のうち、歩行者201と歩行者202はヘッドホンで音楽を聴いているため、第1報知装置13のスピーカーからの警告音を認識できていない状態である。
【0079】
図4の網掛けされた領域206には、対象物と車両との間にガードレール204が存在しない。そのため、危険度推定装置の備える危険度マップは、領域206の各地点の危険度が、他の地点の危険度より高く設定されている。よって、危険度推定装置は、報知を認識していない歩行者201と歩行者202のうち、歩行者201の方が、危険度が高いと推定する。
【0080】
この危険度推定装置を用いた異常報知システム1は、第1報知装置13または第2報知装置15の周辺の道路交通環境を考慮して、より重傷を負う可能性が高い対象物に、より早く回避や停止等の適切な行動をとるための情報を優先的に提供することができる。よって、対象物が重傷を負うリスクを低下させることができる。
【0081】
また、危険度推定装置は、車両異常の検出された車両の位置を取得する車両位置情報取得装置を備えていてもよい。ここで、車両の位置は、対象物情報取得部141のカメラ1411で撮像した車両の写る画像から算出するなどで実現することができる。この場合、一例として、危険度推定装置は、対象物の位置と車両の位置に基づいて、車両に近い対象物ほど危険度を高く推定する。
【0082】
この危険度推定装置を用いた異常報知システム1は、車両と対象物の位置関係を考慮して、より重傷を負う可能性が高い対象物に、より早く回避や停止等の適切な行動をとるための情報を優先的に提供することができる。よって、対象物が重傷を負うリスクを低下させることができる。
【0083】
さらにまた、危険度推定装置は、第1報知装置13または第2報知装置15の周辺の渋滞情報や車両交通量などの交通情報を取得する交通情報取得装置を備えていてもよい。この場合、危険度推定装置は、対象物の位置と、車両の位置と、交通情報に基づいて、対象物の危険度を推定する。
【0084】
例えば、図4において、車両102と第1報知装置13または第2報知装置15の周囲の対象物との間で渋滞が発生している場合は、車両進行方向の車線の危険度を低くして、反対側の車線の危険度を高く設定する。車両102が渋滞の車両を避けて、反対車線を走行した場合、反対車線側のほうが車両と歩行者が接触しやすくなるため、重大な事故が起きやすくなる。
【0085】
この危険度推定装置を用いた異常報知システム1は、第1報知装置13または第2報知装置15の周辺の交通状況を考慮して、より重傷を負う可能性が高い対象物に、より早く回避や停止等の適切な行動をとるための情報を優先的に提供することができる。よって、対象物が重傷を負うリスクを低下させることができる。
【0086】
また、異常報知システム1のすべての構成を車両に搭載することで、異常信号の送受信を有線通信で行うような構成にしてもよい。無線通信で異常信号の送受信を行う場合と比べ、有線通信で異常信号を送信するため、異常信号の送信から受信までに要する時間が短縮される。従って、異常報知システム1は、対象物により早く回避や停止等の適切な行動をとるための情報を提供することが可能なため、対象物が交通事故に巻き込まれるリスクを低下させることができる。
【0087】
(第2の実施形態)
図5から図7を用いて、第2の実施形態を説明する。
【0088】
第2の実施形態は、基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。また、共通する構成には同一の符号を用いる。
【0089】
本実施形態は、車両の故障や運転手の急病といった車両異常を検出すると、横断歩道に設置された報知装置から周囲の対象物(歩行者や自転車の運転手など)に報知を行うとともに、報知の結果に基づいて車両を自動的に制御する車両制御システムである。
【0090】
図5は、本実施形態は適用される横断歩道周辺の状況を示している。図5は、具体的には、運転手101の急病等で制御困難となった車両301が、歩行者302と歩行者303がいる横断歩道に接近している場面である。ここで、図5の歩行者302はヘッドホンで音楽を聴いているため、第1報知装置13のスピーカーからの警告音を認識できていない状態である。なお、車両用信号機106は「止まれ」を意味する赤信号が表示されており、歩行者用信号機107は「進むことができる」を意味する「青信号」が表示されている。
【0091】
[2-1.構成]
図6は、本実施形態の異常報知システムの構成を示すブロック図である。
【0092】
車両制御システム2は、異常報知システム21と、車両制御装置22を備える。
【0093】
異常報知システム21は、車両異常検出装置11と、受信装置12と、第1報知装置13と、認識判定装置14と、位置取得装置21を備える。異常報知システム21の各構成は、位置取得装置23を除いて、第1の実施形態と同様の構成と機能を有する。
【0094】
位置取得装置23は、CPU、ROM及びRAMを中心とする周知のマイクロコンピュータを備える。また、位置取得装置23は、第1の実施形態における位置取得装置と同様の構成と機能を有する。さらに、位置取得装置23は、車両制御装置22に、対象物の位置情報を出力する機能を有する。
【0095】
車両制御装置22は、CPU、ROM及びRAMを中心とする周知のマイクロコンピュータと、位置情報受信部221と車両制御部222を備える。
【0096】
位置情報受信部221は、異常報知システム21が出力する非認識対象物の位置情報を受信し、車両制御部222に出力する機能を有する。
【0097】
車両制御部222は、運転手101の運転が困難となった場合、自動で危険を回避する危機回避運転を実施する自動運転機能を有する。また、車両制御部222は、自動運転中、車両301の周囲の歩行者や自転車、他の車両の位置情報報と、非認識対象物の位置情報報に基づいて、車両を自動的に制御する。
【0098】
[2-2.処理]
図7は、本実施形態の車両制御システム2の動作処理を示すフローチャートである。図7は、非認識対象物の位置情報を異常報知システム21が送信してから、車両の制御を実施するまでの処理を示している。なお、異常報知システム2が運転手の異常を検出してから位置情報を取得するまでの処理は、第1の実施形態と同様のため説明は省略する。
【0099】
S21では、位置取得装置21は、第1報知装置13による報知の非認識対象物の位置情報を取得し、無線通信などを使用して車両301に送信する。
【0100】
S22では、車両制御部222は、受信した非認識対象物の位置情報に基づいて、車両301の自動運転を行う。
【0101】
ここで、車両301は、運転手101が運転不可能な状態であるため、手動運転から自動運転に切り替わった状態となっている。図5は、車両制御システム2は、自動運転により衝突の回避を目的とした車両制御を実施するが、車両301の減速が間に合わないため、歩行者302と303の間を通り抜けようとしている状況を示す。
【0102】
車両制御部222は、報知を認識している対象物(認識対象物)の位置情報と非認識対象物の位置情報報に基づいて、車両301の進行方向を制御する。このとき、車両301から非認識対象物の距離は、車両301から認識対象物の距離よりも大きくなるように車両301の進行方向を制御する。つまり、車両301と歩行者302との距離と、車両301と歩行者303の距離について、各歩行者の安全を確保可能な距離となるように、各歩行者が報知を認識しているか否かで決定する。
【0103】
以上が、非認識対象物の位置情報を異常報知システム21が送信してから、車両制御システム2が車両301の制御を実施するまでの処理である。
【0104】
[2-3.効果]
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0105】
車両制御システム2は、認識対象物と非認識対象物の位置情報に基づいて、車両の進行方向を制御している。すなわち、非認識対象物の安全を確保可能な距離を、認識対象物の安全を確保可能な距離より大きくなるように車両301を制御するため、車両との衝突により非認識対象物が重傷を負うリスクを低下させることができる。
【0106】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の各実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えばASIC)によっても実現可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7