(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】易開封性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240924BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240924BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240924BHJP
B65D 77/20 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 H
B65D65/40 D
B65D77/20 H
(21)【出願番号】P 2020192145
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】アールエム東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 和樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 和臣
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-139143(JP,A)
【文献】国際公開第2009/123286(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018282(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163835(WO,A1)
【文献】特開2005-028679(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B65D 65/00 - 65/46
B65D 77/00 - 77/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)が、この順に積層されてなり、熱融着層(A)が、プロピレン系重合体(a)50から70質量%、密度が
930~970kg/m
3
のエチレン系重合体(b)
5から18質量%、並びに密度が900kg/m
3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)合計12から40質量%を含有
し、
ラミネート層(C)がプロピレンブロックコポリマーを60質量%以上含有する、易開封性フィルム。
【請求項2】
中間層(B)がプロピレンブロックコポリマーを60質量%以上含有する、請求項1に記載の易開封性フィルム。
【請求項3】
(C)ラミネート層の側に、更に(D)基材層を有する、請求項1から
2のいずれか一項に記載の易開封性フィルム。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の易開封性フィルムを含んでなる蓋材と、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種を含む本体部からなる包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易開封性フィルムに関し、より具体的には優れた易開封性及び封緘性を示すとともに、開封時の糸引きが抑制されるなど外観にも優れ、更に耐衝撃性にも優れた易開封性フィルム及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
無菌米飯等の各種食品用の包装として、ボトル、カップ、ないしトレー状のプラスチック容器をプラスチック積層フィルムからなる蓋材でシールした包装が広く採用されている。このような包装には、流通経路に耐える機械的な強度、使用時における易開封性、外部からの圧力や内部からの圧力にも耐えうる封緘強度などが求められている。この様な要求を満足するために易開封性フィルムとして、それぞれ特定の樹脂組成を有する積層構造からなる易開封性シーラントフィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、易開封性フィルムの用途によっては、例えばプラスチック容器用の蓋材の場合には、流通の過程での取り扱い等で衝撃が加わる可能性があり、この様な形態での使用を考慮すると、耐衝撃性を一層向上することが求められていた。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記技術背景に鑑み、本発明の目的は、熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)が積層されてなる易開封性フィルムであって、易開封性、封緘強度などの優れた特性を維持しながら、耐衝撃性にも優れた易開封性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱融着層(A)、中間層層(B)、およびラミネート層(C)が積層されてなる易開封性フィルムにおいて、熱融着層(A)の組成を特定範囲内のものとすることで、優れた易開封性、封緘性等を維持したままフィルムの耐衝撃性が顕著に向上し、これにより上記課題を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)が、この順に積層されてなり、熱融着層(A)が、プロピレン系重合体(a)50から70質量%、密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)0から18質量%、並びに密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)合計12から40質量%を含有する、易開封性フィルム、
に関する。
【0006】
以下、[2]から[5]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
中間層(B)がプロピレンブロックコポリマーを60質量%以上含有する、[1]に記載の易開封性フィルム。
[3]
ラミネート層(C)がプロピレンブロックコポリマーを60質量%以上含有する、[1]又は[2]に記載の易開封性フィルム
[4]
(C)ラミネート層の側に、更に(D)基材層を有する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の易開封性フィルム。
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載の易開封性フィルムを含んでなる蓋材と、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種を含む本体部からなる包装容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の易開封性フィルムは、優れた易開封性、封緘性等の特性を維持しながら、耐衝撃性が大幅に向上するとともに、開封時の糸引きが抑制され外観にも優れるなど、実用上高い価値を有する性質を、従来技術の限界を超えた高いレベルで兼ね備えたものであり、食品用プラスチック容器の蓋材をはじめとする各種用途において、好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)が、この順に積層されてなり、熱融着層(A)が、プロピレン系重合体(a)50から70質量%、密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)0から18質量%、並びに密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)合計10から40質量%を含有する、易開封性フィルム、である。
すなわち、本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)を有する。
【0009】
熱融着層(A)
本発明の易開封性フィルムを構成する熱融着層(A)は、以下の成分を含有する。
・プロピレン系重合体(a):50から70質量%
・密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b):0から18質量%
・密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d):合計で12から40質量
熱融着層(A)における各成分の量が上記数値範囲内にあることにより、本発明の易開封性フィルムは、易開封性、封緘性、耐衝撃性、外観(糸引きの抑制)等を高いレベルで兼ね備えることができる。
各成分の量が上記数値範囲内にある限りにおいて、熱融着層(A)は、(a)から(d)成分のみ(但し、(b)、(c)、(d)成分は存在しない場合もある。)からなっていてもよく、それ以外の成分を含有していてもよい。
【0010】
プロピレン系重合体(a)
本発明の易開封性フィルムを構成する熱融着層(A)は、プロピレン系重合体(a)を50から70質量%含有する。
プロピレン系重合体(a)の含有量が50質量%以上であることで、被着体容器のポリプロピレンと適切な強度で熱融着することが可能となり、上記本発明の効果を実現することに寄与する。プロピレン系重合体(a)の含有量は、51質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。
プロピレン系重合体(a)の含有量が70質量%以下であることで、被着体容器のポリプロピレンと完全融着することなく適切な強度で熱融着することが可能となり、上記本発明の効果を実現することに寄与する。プロピレン系重合体(a)の含有量は、69質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることが特に好ましい。
【0011】
プロピレン系重合体(a)は、一般にポリプロピレンの名称で製造・販売されている樹脂で、通常、密度が890~930kg/m3程度のプロピレンの単独重合体若しくは、プロピレン共重合体、すなわち、プロピレンと共に、他の少量のα-オレフィン等から選ばれる少なくとも1種以上のコモノマーからなる共重合体である。
共重合体においては、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。このプロピレンの共重合体における他のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテンなどの、エチレンと炭素原子数が4~20程度のα-オレフィンを例示することができる。このような他のα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上のα-オレフィンを組み合わせて共重合させてもよい。また、α-オレフィン以外のコモノマーの存在を排除するものではない。
【0012】
プロピレン系重合体(a)は、プロピレン由来の構成単位の割合が50モル%以上であることによって、(b)から(d)等の熱融着層(A)の他の成分から区別される。プロピレン由来の構成単位の割合は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。
プロピレン由来の構成単位の割合が50モル%以上であるため、コモノマー由来の構成単位の割合は50モル%未満となる。通常のポリプロピレンにおいては、コモノマー由来の構成単位の割合は25モル%以下となる場合が多い。ランダム共重合体の場合には、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。ブロック共重合体の場合には、20モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることが特に好ましい。
【0013】
これらプロピレン系重合体(a)の中でも、得られる易開封性積層フィルムの熱融着性と耐熱性のバランスから、示差走査熱量計(DSC)に基づく融点が110~145℃、特に115~140℃の範囲にあるプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体が好ましい。
【0014】
熱融着層(A)で用いるプロピレン系重合体(a)は、後述のエチレン系重合体(b)、エチレン・α―オレフィンランダム共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)と混合してなるオレフィン系重合体組成物がフィルム形成能を有する限り、メルトフローレート(MFR)(ASTM D1238、230℃、2160g荷重)は特に限定はされないが、押出加工性の点から、通常、0.01~100g/10分、好ましくは0.1~70g/10分の範囲にある。
【0015】
熱融着層(A)においては、プロピレン系重合体(a)として、2種以上のプロピレン系重合体を組合せて使用することもできる。
【0016】
プロピレン系重合体(a)は、種々公知の製造方法、具体的には、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒やシングルサイト触媒のようなオレフィン重合用触媒を用いて製造することができる。特にはシングルサイト触媒を用いて製造することができる。シングルサイト触媒は、活性点が均一(シングルサイト)である触媒であり、例えばメタロセン触媒(いわゆるカミンスキー触媒)やブルックハート触媒などがあげられる。メタロセン触媒は、メタロセン系遷移金属化合物と、有機アルミニウム化合物及び上記メタロセン系遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とからなる触媒であり、無機物に担持されていてもよい。
【0017】
密度が900kg/m
3
以上のエチレン系重合体(b)
本発明の易開封性フィルムを構成する熱融着層(A)は、密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)を0から18質量%含有する。
エチレン系重合体(b)の含有量の下限は0質量%であるので、熱融着層(A)はエチレン系重合体(b)を含有していなくともよいが、被着体容器のポリプロピレンとのシール強度を抑制し、易開封性を制御できるといった観点から、エチレン系重合体(b)を含有していることが好ましい。エチレン系重合体(b)の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
エチレン系重合体(b)の含有量が18質量%以下であることで耐衝撃性が向上し、かつ糸引きが発生することなく開封が可能となり、上記本発明の効果を実現することに寄与する。エチレン系重合体(b)の含有量は、17質量%以下であることが好ましい。
【0018】
エチレン系重合体(b)は、エチレンに由来する構成単位の割合が50モル%以上であり、したがってプロピレン由来の構成単位の割合が50モル%未満であるので、この点においてプロピレン系重合体(a)から区別される。また、密度が900kg/m3以上であることにおいて、密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)から区別される。
【0019】
エチレン系重合体(b)は、密度が900kg/m3以上、好ましくは910~970kg/m3、更に好ましくは930~970kg/m3の範囲にある。
エチレン系重合体(b)の密度は、30分間沸水処理した試料を用いて、JIS K 7112のD法(密度勾配管法)により測定することができる。
エチレン系重合体(b)の密度は、従来公知の方法により調整することが可能であり、例えばエチレン以外の共重合成分の量を増やすことや、或いは高圧法などにより分岐の量を増やすことなどで、密度を低下させることができる。
【0020】
エチレン系重合体(b)は、エチレンの単独重合体であってもよく、エチレンと炭素数が3~10のα-オレフィンをはじめとする他の共重合成分との共重合体であってもよい。
他の共重合成分としては、上述の様に、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の、炭素数が3~10のα-オレフィンを用いることが好ましいが、これらには限定されず、ジエン等のポリエン、極性モノマー等の他の共重合成分を使用することもできる。エチレン系重合体(b)が共重合体である場合には、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
他の共重合成分由来の構成単位は50モル%未満であればよいが、通常10モル%以下であり、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0021】
ポリマーの分類としては、エチレン系重合体(b)の好適な例として、高圧法低密度ポリエチレン(HP-LDPE)、直鎖状あるいは線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)と呼ばれているエチレンの単独重合体若しくはエチレン・α-オレフィン共重合体等を挙げることができる。これらの好適なポリマーの詳細は、900kg/m3以上という条件を満たす限りにおいて、従来本技術分野において知られているものと同様である。
【0022】
密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)は、一種類のみを使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。
【0023】
密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)メルトフローレート(MFR)(ASTM D1238、190℃、2160g荷重)は、前記プロピレン系重合体(aA-1)、後述の密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)と所定割合で混合した際に、フィルム形成能がある限り特に限定はされないが、通常、0.01~100g/10分、好ましくは0.1~70g/10分の範囲にある。
エチレン系重合体(b)メルトフローレートは、従来当該技術分野において慣用される方法で調整することができ、例えば分子量を小さくすることや、分子量分布を大きくすることで、メルトフローレートを大きくすることができる。
【0024】
エチレン系重合体(b)のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布(MwZMn)は、通常1.5~4.0、好ましくは1.8~3.5の範囲にある。エチレン系重合体(b)はまた、示差走査熱量計(DSC)の昇温速度10°C/分で測定した吸熱曲線から求めた鋭い吸熱ピークが1個ないし複数個あることが好ましく、該ピークの最高温度、すなわち融点が通常70~130℃好ましくは80~120℃の範囲にある。
【0025】
上記のようなエチレン系重合体(b)は、チーグラー型触媒を代表例とするマルチサイト触媒、メタロセン触媒を代表例とするシングルサイト触媒を用いた従来公知の製造法により調製することができる。たとえば、エチレン系重合体(b)として好ましく用いられる線状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、遷移金属のメタ口セン化合物を含む触媒を用いて調製することができる。このメタ口セン化合物を含む触媒は、(a)遷移金属のメタ口セン化合物と、(b)有機アルミニウムォキシ化合物と、(c)担体とから形成されることが好ましく、さらに必要に応じて、これらの成分と(d)有機アルミニウム化合物およびノまたは有機ホウ素化合物とから形成されていてもよい。なお、このようなメタ口セン化合物を含むオレフィン重合用触媒、および触媒を用いた線状低密度ポリエチレン(LLDPE)の調製方法は、たとえば特開平8-269270号公報に記載されている。
【0026】
本発明の易開封性フィルムを構成する熱融着層(A)は、密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)を、合計で12から40質量%含有する。
エチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)の含有量が合計で12から40質量%である限りにおいて、エチレン・α-オレフィン共重合体(c)のみを含有していてもよく、粘着性付与樹脂(d)のみを含有していてもよく、またエチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び粘着性付与樹脂(d)の両方を含有していてもよい。
【0027】
エチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)の含有量が合計で12質量%以上であることにより、被着体容器のポリプロピレンとのシール強度を抑制し、易開封性を制御でき、上記本発明の効果を実現することに寄与する。エチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)の含有量は合計で13質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。
エチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)の含有量が合計で40質量%以下であることにより、耐衝撃性が向上し、上記本発明の効果を実現することに寄与する。エチレン・α-オレフィン共重合体(c)及び/又は粘着性付与樹脂(d)の含有量は合計で35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
密度が900kg/m
3
未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)
エチレン・α-オレフィン共重合体(c)は、エチレンに由来する構成単位の割合が50モル%以上であり、したがってプロピレン由来の構成単位の割合が50モル%未満であるので、この点においてプロピレン系重合体(a)から区別される。また、密度が900kg/m3未満であることにおいて、密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)から区別される。
密度が900kg/m3未満のエチレン・α―オレフィン共重合体(c)は、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0029】
エチレン・α―オレフィン共重合体(c)は、1種類の共重合体のみを使用してもよく、2種類の共重合体の組み合わせであってもよい。
後者の好適な例として、密度が860~895kg/m3の範囲にあり、α―オレフィンが炭素数4~10である少なくとも1種類であるエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(c-1)及び密度が865~875kg/m3の範囲にあるエチレン・プロピレンランダム共重合体(c-2)から構成される樹脂組成物を挙げることができる。
さらに、好ましくは、エチレン・α―オレフィンランダム共重合体(c-1)10~90質量部、特に好ましくは30~90質量部、及びエチレン・プロピレンランダム共重合体(c-2)90~10質量部、特に好ましくは70~10質量部(但し、(c-1)+(c-2)=100質量部とする。)から構成される樹脂組成物を用いることができる。
【0030】
なお、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(c-1)としては、下記の[c-1a]から[c-1c]の物性のうち少なくとも1個以上有するポリマーであることが望ましい。
[c-1a]エチレン含有量が85~93モル%である
[c-1b]X線による結晶化度が7~30%である
[c-1c]示差走査熱量計(DSC)による昇温速度10℃/分での吸熱曲線から求めた融点が60~90℃の範囲にある
【0031】
すなわち、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(c-1)として、[c-1a]、[c-1b]、または[c-1c]の物性を有するエチレン・α-オレフィンランダム共重合体が好ましく、さらに[c-1a]と[c-1b]の物性、[c-1a]と[c-1c]の物性、または[c-1b]と[c-1c]の物性を有するエチレン・α-オレフィンランダム共重合体がより好ましく、さらに[c-1a]、[c-1b]、と[c-1c]の物性を有するエチレン・α-オレフィンランダム共重合体が特に好ましい。
【0032】
また、エチレン・プロピレンランダム共重合体(c-2)としては、同様に下記の[c-2a]、[c-2b]の物性の少なくともいずれかを有するポリマーが望ましい。
[c-2a]エチレン含有量が75~85モル%である
[c-2b]X線による結晶化度が5%未満の範囲にある非晶性若しくは僅かに結晶性を有する
すなわち、エチレン・プロピレンランダム共重合体(c-2)として、[c-2a]、または[c-2b]の物性を有するエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましく、さらに[c-2a]と[c-2b]の物性を有するエチレン・プロピレンランダム共重合体が特に好ましい。。
【0033】
これらの共重合体の中から、エチレン・α-オレフィン共重合体(c)として、得られる易開封性積層フィルムの熱融着特性等を考慮すると、エチレン含有量が85~93モル%、X線による結晶化度が7~30%及び示差走査熱量計(DSC)による昇温速度10℃/分での吸熱曲線から求めた融点が60~90℃の範囲にある低結晶性のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(c-1)及び、エチレン含有量が75~85モル%、X線による結晶化度が5%未満の範囲にある非晶性若しくは僅かに結晶性を有するエチレン・プロピレンランダム共重合体(c-2)からなる組成物(混合物)を、特に好適に使用することができる。
【0034】
本発明中の熱融着層(A)に用いることができる密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)としては、前記プロピレン系重合体(a)、前記エチレン系重合体(b)及び後述の粘着付与樹脂(d)と混合してオレフィン系重合体組成物にした際に、フィルム形成能がある限り、メルトフローレート(MFR)(ASTMD1238、190℃、2160g荷重)は、特に限定はされないが、当該オレフィン系重合体組成物の加工性、耐油性等を考慮すると、メルトフローレート(MFR)(ASTMD1238、190℃、2160g荷重)が、好ましくは0.01~20g/10分、更に好ましくは0.1~10g/10分の範囲のものが好適である。
本発明中の熱融着層(A)に用いることができる密度が900kg/m3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(c)は、例えば遷移金属化合物触媒成分、例えばバナジウム化合物やジルコニウム化合物と、有機アルミニウム化合物触媒成分とからなる触媒を用いて、エチレンとα-オレフィン等とを共重合することによって得ることができる。
【0035】
粘着性付与樹脂(d)
本発明の易開封性フィルム中の熱融着層(A)において用いることができる粘着性付与樹脂(d)は、粘着性付与剤として製造・販売されている公知の樹脂であり、具体的には、脂肪族系炭化水素樹脂(上記(a)から(c)のいずれかに該当するものを除く)、脂環族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、ポリテルペン系樹脂、ロジン類、スチレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂などを挙げることができる。
【0036】
脂肪族系炭化水素樹脂の例としては、1-ブテン、イソブテン、ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレンなど炭素数4~5のモノ又はジオレフィンの少なくとも1種以上を含む留分を重合して得られる樹脂を挙げることができる。
脂環族系炭化水素樹脂の例として、スペントC4~C5留分中のジエン成分を環化二量化後重合させて得られる樹脂、シクロペンタジエンなどの環状モノマーを重合させた樹脂、芳香族系炭化水素樹脂を核内水添した樹脂などを挙げることができる。
芳香族系炭化水素樹脂の例として、ビニルトルエン、インデン、α-メチルスチレンなどのC8~C10のビニル芳香族炭化水素を少なくとも一種以上含有する留分を重合して得られる樹脂、あるいはこれら留分と上記脂肪族炭化水素留分を共重合して得られる樹脂などを挙げることができる。
【0037】
ポリテルペン系樹脂の例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体、テルペン・フェノール共重合体、α-ピネン・フェノール共重合体、これらの水素添加物などを挙げることができる。
ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油などのロジン及びその変性物などであり、変性物としては水素添加、不均化、二量化、エステル化などの変性を施したものを例示することができる。
スチレン系炭化水素樹脂としては、純度の高いスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、イソプロピルトルエンなどのスチレン系単量体の1種又は2種以上を重合して得られる分子量の低い樹脂状重合体を挙げることができる。
【0038】
本発明の易開封性フィルムを飲食品包装用の易開封性材料として使用する場合には、無臭性、食品衛生性、他成分との混和性などを考慮すると、芳香族系炭化水素樹脂を核内水添した樹脂あるいはポリテルペン系樹脂を、粘着性付与樹脂(d)として使用することが好ましい。
【0039】
本発明の易開封性フィルムを構成する熱融着層(A)は、本発明の易開封性フィルムを用いて包装容器、包装袋等を形成する際に、通常、最内層とされ、他のフィルムと融着される。
熱融着層(A)の厚みには特に制限はないが、シールの安定性等の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることが特に好ましい。
一方、剥離外観等の観点からは、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることが特に好ましい。
【0040】
中間層(B)
本発明の易開封性フィルムを構成する中間層(B)の成分には特に制限はなく、易開封性フィルムに求められる機械的性質や熱融着層(A)、ラミネート層(C)との接着性などを考慮して、適宜使用成分を選択すればよい。
【0041】
熱融着層(A)が相当量のプロピレン系重合体(a)を含有するためそれとの接着性や、易開封性フィルムの強度、耐熱性、軽量性等を考慮すると、中間層(B)はプロピレン系重合体を含有することが好ましい。
中間層(B)に使用することができるプロピレン系重合体の好ましい形態及び詳細は、熱融着層(A)に使用するプロピレン系重合体(a)に関連して上記にて説明したものと同様である。
耐衝撃性等の観点から、中間層(B)に使用するプロピレン系重合体としては、ブロック共重合体が特に好ましい。
また、耐衝撃性を一層向上させ、他の層との接着性を向上させる観点から、中間層(B)には低密度ポリエチレン等のエチレン系の重合体を添加してもよい。
【0042】
プロピレン系重合体は、耐熱性が高く、軽量で、低コストなので、これを含有することで中間層(B)を、耐熱性が高く、軽量で、低コストなものとすることができる。
更に、層間の親和性の点から、中間層にプロピレン系重合体を用いると、他の(A)熱融着層(B)、及びラミネート層(C)にもプロピレン系重合体を使用し易くなり、易開封性フィルム全体を耐熱性が高く、軽量で、低コストなものとすることができる。
中間層(B)におけるプロピレン系重合体の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましく、75~85質量%であることが特に好ましい。
上述の様に、中間層(B)に使用するプロピレン系重合体としては、ブロック共重合体が特に好ましいので、中間層(B)がブロック共重合体(プロピレンブロックコポリマー)を60質量%以上含有することが特に好ましい。
【0043】
本発明の易開封性フィルムを構成する各層のうち、熱融着層(A)は適切な封緘強度や易剥離性が得られるよう設計することが好ましく、ラミネート層(C)は基材層等との間のラミネート強度等を考慮して設計することが好ましいのに対して、中間層(B)はその様な制約が比較的少ないので、機械的性質等、本発明の易開封性フィルム全体に所望の物性、性能を付与することを優先して設計することができる。この場合、中間層(B)の厚みを、熱融着層(A)の厚み及びラミネート層(C)の厚みよりも大きなものとすることが好ましく、熱融着層(A)の厚み及びラミネート層(C)の厚みの和よりも大きなものとすることが特に好ましい。
より具体的には、中間層(B)の厚みは、18μm以上であることが好ましく、19μm以上であることが特に好ましい。
一方、原料コスト等の観点からは、中間層(B)の厚みは、45μm以下であることが好ましく、43μm以下であることが特に好ましい。
【0044】
ラミネート層(C)
本発明の易開封性フィルムを構成するラミネート層(C)は、必要又は所望に応じて、後述の基材層(D)をはじめとする他の層と積層することができる。
従って、ラミネート層(C)は、基材層(D)をはじめとする他の層との間のラミネート強度等を考慮して設計することが好ましい。
例えば、基材層(D)をはじめとする他の層と同種の材料を使用することが好ましく、したがって基材層(D)に好ましく用いられる、ポリプロピレン系の材料やポリエステル系、ポリアミド系の材料を使用することが好ましい。
また、基材層(D)をはじめとする他の層との間のラミネート強度を更に向上するため、ラミネート層(C)の表面(中間層(B)と積層する面とは反対側の面)に、コロナ処理、粗面化処理等の処理を行ってもよい。
【0045】
中間層(B)がプロピレン系重合体を含有する場合には、中間層(B)との積層強度の観点からラミネート層(C)もプロピレン系重合体を含有することが好ましい。上述の様に中間層(B)に用いるプロピレン系重合体としてはブロック共重合体が特に好ましいので、このときラミネート層(C)に用いるプロピレン系重合体としてもブロック共重合体が特に好ましい。
この実施形態において、ラミネート層(C)におけるプロピレン系重合体の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましく、75~85質量%であることが特に好ましい。
上述の様に、ラミネート層(C)に用いるプロピレン系重合体としてもブロック共重合体が特に好ましいので、ラミネート層(C)がブロック共重合体(プロピレンブロックコポリマー)を60質量%以上含有することが特に好ましい。
【0046】
また、耐衝撃性を一層向上させ、他の層との接着性を向上させる観点から、ラミネート層(C)には低密度ポリエチレン等のエチレン系の重合体を添加してもよい。
【0047】
本発明の易開封性フィルムを保管等する際のブロッキング防止の観点からは、ラミネート層(C)は、ブロキング防止剤を含んでいてもよい。
ブロッキング防止剤としては、粉末状のシリカ、好ましくは合成シリカ、等を好適に使用することができる。粉末状のシリカをラミネート層(C)中に均一に分散させる観点からは、粉末状のシリカを、ラミネート層(C)を構成する樹脂との混和性に優れた樹脂中に分散してマスターバッチを形成し、次いでマスターバッチをラミネート層(C)に添加してもよい。
【0048】
ラミネート層(C)の厚みには特に制限はないが、フィルムカールを抑制する等の観点から、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることが特に好ましい。
一方、原料コスト等の観点からは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが特に好ましい。
【0049】
熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)のいずれも、本発明の目的に反しない限りにおいて、上記以外の、各種添加材、充填材、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、核剤、難燃剤、顔料、染料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、マイカ、タルク、クレー、抗菌剤、防曇剤等を添加することができる。さらにまた、その他の(上記にて説明した以外の)熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム類等を本発明の目的に反しない範囲で配合してもよい。
各種添加剤は、マスターバッチ形式で添加してもよい。
【0050】
易開封性フィルム(積層フィルム)
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)、中間層(B)、及びラミネート層(C)を有する。本発明の易開封性フィルムにおいては、好ましくは中間層(B)を介して、ラミネート層(C)と熱融着層(A)とが直接積層されるが、それ以外の層が間に存在していてもよい。
【0051】
本発明の易開封性フィルムは、種々公知のフィルム成形方法、例えば、予め、ラミネート層(C)、中間層(B)、及び熱融着層(A)となるフィルムをそれぞれ成形した後、当該フィルムを貼り合せて易開封性フィルムとする方法、多層ダイを用いて中間層(B)及び熱融着層(A)からなる複層フィルムを得た後、当該中間層(B)の表面上に、ラミネート層(C)を押出して易開封性フィルムとする方法、多層ダイを用いてラミネート層(C)及び中間層(B)からなる複層フィルムを得た後、当該中間層(B)の表面上に、熱融着層(A)を押出して易開封性フィルムとする方法、あるいは、多層ダイを用いてラミネート層(C)、中間層(B)及び熱融着層(A)からなる易開封性フィルムを得る方法などを採用することができる。
【0052】
また、フィルム成形方法は、種々公知のフィルム成形方法、具体的には、T-ダイキャストフィルム成形方法、インフレーションフィルム成形方法等を採用し得る。
【0053】
本発明の易開封性フィルムの厚さには特に限定はされないが、実用的な強度を確保する等の観点から、通常5μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上である。一方、例えば基材層(D)と積層された後においても実用的な可撓性を有する等の観点からは、通常100μm以下であり、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下である。
【0054】
本発明の易開封性フィルムは延伸フィルムであっても無延伸フィルムであってもよいが、機械的物性の向上の観点からは、延伸フィルムであることが好ましく、二軸延伸フィルムであることが特に好ましい。
二軸延伸は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、多段延伸等の方法が適宜採用される。
二軸延伸の条件としては、公知の二軸延伸フィルムの製造条件、例えば、逐次二軸延伸法では、縦延伸温度を100℃~145℃、延伸倍率を4~7倍の範囲、横延伸温度を150~190℃、延伸倍率を8~11倍の範囲とすることが挙げられる。
【0055】
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)が所定の樹脂組成を有すること等により、高い耐衝撃性を実現することができる。
ここで、耐衝撃性とは、大きな歪速度の衝撃(外圧)が加わった際に、容器等とシールされた蓋材等が破損せず耐えうる性能のことである。例えばプラスチック容器用の蓋材の場合には、段積みして梱包されることが多く、流通の過程での取り扱い等で大きな衝撃が加わった際に、蓋材がシール部から破損すると、カビの発生に繋がる恐れがある。
易開封性フィルムの耐衝撃性は、従来から当該分野で慣用される評価手法により評価することができるが、例えばダートインパクト法による破損回数によって評価することが可能であり、より具体的には例えば本願実施例に記載の方法により評価することができる。
本願実施例に記載の方法により評価した場合、本発明の易開封性フィルムがダートインパクト試験により破損するまでの重りの落下回数は、通常4.5回以上であり、より好ましくは5回以上であり、特に好ましくは7回以上である。
本発明においては、熱融着層(A)の樹脂組成を更に最適化する等して耐衝撃性をさらに向上することが可能であり、例えば密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)の含有量を低く設定することで、耐衝撃性を向上することができる。
【0056】
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)が所定の樹脂組成を有すること等により、高い易開封性を実現することができる。
ここで、易開封性とは、開封時に容易に開封(剥離)ができる性能のことであり、消費者の利便性に繋がるものである。また、開封時の剥離外観が美麗である方が衛生面で好まれることが多く、特に剥離後の容器等または蓋材等に糸状の樹脂が残存する現象(糸引き)や、膜状に汚く剥がれる現象(デラミネーション)の発生は、剥離外観を損ねるものの1つである。
易開封性は、従来から当該分野で慣用される評価手法により評価することができるが、例えば所定の条件でのヒートシール後のヒートシール強度によって評価することが可能であり、より具体的には例えば本願実施例に記載の方法により評価することができる。
本願実施例に記載の方法により評価した場合の本発明の易開封性フィルムのヒートシール強度は、30N/15mm以下であることが好ましく、26N/15mm以下であることがより好ましく、24N/15mm以下であることが特に好ましい。
易開封性の観点からは、ヒートシール強度は小さい程好ましいが、封緘強度が過少にならず、また意図しない開封を防止する等の観点から、通常10N/15mm以上となり、15N/15mm以上であることがより適切である。
本発明においては、熱融着層(A)の樹脂組成を更に最適化する等して易開封性をさらに向上することが可能であり、例えば密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)の含有量を高く設定することで、易開封性を向上することができる。
【0057】
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)が所定の樹脂組成を有すること等により、開封時に良好な外観を実現することができる。より具体的には、開封の際に、糸引きやでラミネーション(膜状に汚く剥がれる現象)の発生が有効に抑制される。
開封時の外観は、上述の易開封性(ヒートシール性)の評価の際に、剥離面を観察することで評価でき、より具体的には本願実施例に記載の方法で評価することができる。
本発明においては、熱融着層(A)の樹脂組成を更に最適化する等して開封時の外観をさらに向上することが可能であり、例えば密度が900kg/m3以上のエチレン系重合体(b)の配合量を低く設定することにより、開封時の外観を一層良好なものとすることができる。
【0058】
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)が所定の樹脂組成を有すること等により、高い封緘強度を実現することができる。
ここで、封緘強度とは、比較的小さな歪速度で内圧を加えていき、蓋材が破裂した時の強度のことであり、密封性の指標とすることが多い。例えば、気温や気圧等の外部環境変化によって内圧が上昇した際に、蓋材等がシール部から破損すると、カビの発生に繋がる恐れがある。
封緘強度は、従来から当該分野で慣用される評価手法により評価することができるが、例えば所定の条件でのヒートシール後に内圧をかけて開封に至る内圧を測定することで評価することが可能であり、より具体的には例えば本願実施例に記載の方法により評価することができる。
本願実施例に記載の方法により評価した場合の本発明の易開封性フィルムの封緘強度は、20kPa/容器以上であることが好ましく、25kPa/容器以上であることがより好ましく、27kPa/容器以上であることが特に好ましい。
封緘強度は通常高い程好ましく特に上限は存在しないが、ヒートシール強度が過大にならない等の観点から、通常40kPa/容器以下となり、35kPa/容器以下であることがより適切である。
本発明においては、熱融着層(A)の樹脂組成を更に最適化する等して封緘強度をさらに向上することが可能であり、例えばプロピレン系重合体(a)の含有量を高く設定することで、封緘強度を向上することができる。
【0059】
基材層(D)
所望に応じて、本発明の易開封性フィルムを、そのラミネート層(C)において、基材層(D)と積層することができる。
【0060】
基材層(D)には特に制限はなく、例えば通常プラスチック包装に使用されるフィルムを、好適に使用することができる。
好ましい基材層(D)の材質としては、例えば、結晶性ポリプロピレン、結晶性プロピレン-エチレン共重合体、結晶性ポリブテン-1、結晶性ポリ4-メチルペンテン-1、低-、中-、或いは高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)等のポリオレフィン類;ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン樹脂等のハロゲン化ビニル重合体;アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体の如きニトリル重合体;ナイロン6、ナイロン66、パラまたはメタキシリレンアジパミドの如きポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステル類;各種ポリカーボネート;ポリオキシメチレン等のポリアセタール類等の熱可塑性樹脂から構成されたプラスチックフィルムを挙げることができる。また、包装する内容物が酸素に敏感なものの場合には、上記フィルムに金属酸化物等を蒸着したフィルム、或いは有機化合物を被覆したフィルムや、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂からなる層を設けてもよい。
これらの材料からなるプラスチックフィルムは、未延伸、一軸延伸、或いは二軸延伸して用いられる。
【0061】
基材層(D)として、これらのプラスチックフィルムを単層で、或いは、2種以上を積層したものとして使用することができ、また、これらのプラスチックフィルムの一種、或いは、2種以上と、アルミニウム等の金属箔、紙、セロファン等を貼合わせて構成することもできる。
好ましい基材層(D)として、例えば、延伸ナイロンフィルム、延伸ポリエステルフィルムからなる単層フィルム、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムとPETを積層した二層構成のフィルム、PET/ナイロン/ポリエチレンを積層した三層構成のフィルム等が挙げられる。これらの積層フィルムの製造に際しては、各層間に必要に応じて接着剤、アンカー剤を介在させることもできる。また、デザインを表現するインキ層を設けてもよい。
【0062】
基材層(D)をラミネート層(C)に積層する方法には特に制限はないが、例えば押出しラミネート等によりラミネート層(C)に基材層(D)を直接積層することができる。また、ドライラミネート等により接着剤層を介してラミネート層(C)に基材層(D)を積層してもよい。接着剤としては、ウレタン系接着剤、酸変性ポリオレフィン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリエーテル系接着剤、ポリアミド系接着剤等、通常のものを使用することができる。
基材層(D)の厚さは任意に設定することができるが、通常は、5~1000μm、好ましくは9~100μmの範囲から選択される。
【0063】
本発明の易開封性フィルム、及び本発明の易開封性フィルムのラミネート層(C)に基材層(D)を積層した積層フィルムは、各種用途において好ましく使用され、特に包材として使用するのに適している。
【0064】
その様な包材の好ましい例として、蓋材を挙げることができる。すなわち、本発明の易開封性フィルム、及び本発明の易開封性フィルムのラミネート層(C)に基材層(D)を積層した積層フィルムは、熱融着層(A)を容器側の最内層として用いる容器用の蓋材として用いることができる。
容器蓋材として用いる場合は、本発明の易開封性フィルムをそのまま蓋材として用いても良いし、印刷して用いても良い。更に印刷されたあるいはされていない基材層(D)と貼り合せて蓋材にしても良い。又、用途によっては予め容器形状に合わせてカットして蓋材にしても良い。容器蓋材とする場合には、基材層(D)と貼り合せて使用するのが好ましい。
【0065】
本発明の易開封性フィルムは、熱融着層(A)において各種被着体に熱融着させることにより熱シール層を形成させることができる。このような被着体としてプロピレン系重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等を例示することができる。これら被着体は、フィルム、シート、トレー、カップ、ボトル等、種々の形状のものであることができる。この中では特にプロピレン系重合体を被着体とすると、熱シール層の密封性、易開封性、耐熱性、耐油性などに優れており好ましい。
かかるプロピレン系重合体は、本発明の積層体において好ましく用いられる上記のプロピレン系重合体と同一の範疇のものであるが、個々の物性は同一であっても異なっていてもよい。例えばプロピレン系重合体からなる被着体においては、被包装材料に合わせてプロピレン系重合体を公知の方法でフィルム、シート、トレー、カップ、ボトル等の種々の形状に成形したものを使用することができる。フィルム若しくはシートの場合は、本発明の易開封性フィルムと同様な方法で製造し得る。トレー若しくはカップの場合は、一旦上記方法でシートを製造した後、真空成形、圧空成形等の熱成形によりトレー、カップ等の容器とすることにより製造し得る。また、カップあるいはボトルの場合は射出成形、射出中空成形(インジェクションブロー)、中空成形等により容器として成形し得る。
【0066】
本発明の易開封性フィルムを包装材料として使用する場合、易開封性フィルムそのものを、例えば、折りたたんで三方シールしたり、2枚の易開封性フィルムを四方シールして包装体としてもよいし、易開封性フィルム又はそれを基材層(D)と貼り合せた蓋材を上記各種被着体と熱シール層を形成して包装体を形成してもよい。
その様な包装体の好適な一例として、上記蓋材とポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種を含む容器本体部からなる包装容器を挙げることができる。
包装容器への収納物には特に制限はないが、食品、医薬品、医療器具、日用品、雑貨等の包装に好ましく用いることができる。本発明の易開封性フィルムの高い耐衝撃性を活かし、流通過程で衝撃を受けることも多い無菌米飯用の包装容器として、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0068】
実施例/比較例における物性、特性の評価は、以下の方法により行った。
(1)耐衝撃性(ダートインパクト破損回数)
基材(厚み12μmのPETフィルムと、厚み25μmのナイロンフィルムとの積層体)に実施例/比較例の易開封性フィルムのラミネート層(C)を張り合わせたフィルムを作製し、次いで当該フィルムの熱融着層(A)を無菌米飯用容器(ポリプロピレン)に185℃、1.2秒、1500Nの条件でヒートシールした包装体を作製した。
作製した包装体に対し、80cmの高さから750gの重りを落下させ、破損するまでの落下の回数を測定した。包装体3個について測定を行い、その平均値を評価結果とした。
【0069】
(2)易開封性(ヒートシール強度)
基材(厚み12μmのPETフィルムと、厚み25μmのナイロンフィルムとの積層体)に実施例/比較例の易開封性フィルムのラミネート層(C)を張り合わせたフィルムを作製し、次いで当該フィルムの熱融着層(A)を厚さ300μmのポリプロピレンシ-トと重ね合わせ、185℃で、幅5mmのシ-ルバ-を用い、0.2MPaの圧力で1秒間シ-ルした後放冷した。これから15mm幅の試験片を切り取りクロスへッド速度500mm/分でヒ-トシ-ル部を剥離し、その強度(試料3個についての平均値)を、ヒ-トシ-ル強度(N/15mm)とした。
【0070】
(3)開封時の外観(糸引き/デラミネーション)
上記ヒートシール強度の評価において、剥離形態を観察し、糸引きや、膜状に汚く剥がれる現象(デラミネーション)の発生の有無を評価した。
【0071】
(4)封緘性
易開封性を評価するために作成したラミ品を蓋材とし、無菌米飯用PP系バリア容器(PP/接着層/EVOH/接着層/PP)を使用して、封緘性を評価した。ラミ品を蓋材としてカップシーラーを用いて温度185℃、1.2秒、1500Nでヒートシールした後放冷し、蓋材の上面に粘着テープ付きのゴムシート片を貼り付け、このシート面から針を差し込み常温下で内圧をかけて、蓋材シール部分から剥離もしくはエッジ切れし開封した時の強度を封緘強度(kPa)とした。この測定は株式会社サン科学社製の封緘強度測定器(JIS-Z0238準拠)を用いて評価した。
試料3個についての封緘強度(kPa)の平均値を、評価値とした。
【0072】
実施例/比較例で用いた樹脂等の各構成成分の詳細は、以下のとおりである。
・プロピレン-エチレンブロック共重合体(b-PP)
MFR(2.16kg、230℃):2.5g/10分
密度: 910kg/m3
融点:165℃
・プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体(r-PP)
エチレン含有量;3.6モル%(2.4重量%)
1-ブテン含有量;1.9モル%(2.5重量%)
密度;910kg/m3
メルトフローレート(MFR)(2.16kg、230℃);7.2g/10分
融点;143℃
・プロピレン単独重合体(h-PP)
MFR(2.16kg、230℃):7g/10分
密度: 910kg/m3
融点: 161℃
・高密度ポリエチレン(HDPE)
密度;954kg/m3
MFR(2.16kg、190℃);1.1g/10分
融点;132℃
・低密度ポリエチレン(LDPE)
密度:0.919g/cm3
MFR:2.0g/10分
・エチレン・1-ブテンランダム共重合体(EBR)
エチレン含有量;89.1モル%
結晶化度;10%
密度;886kg/m3、
MFR(2.16kg、190℃);4.0g/10分
・エチレン・プロピレン共重合体(EPR)
エチレン含有量;82.6モル%
密度;870kg/m3
MFR(2.16kg、190℃);2.9g/10分
・粘着付与樹脂
水素添加芳香族炭化水素樹脂
環球法軟化点:115℃
【0073】
(実施例1)
各種原料を夫々別々の押出機に供給し、Tダイ法によって厚み比率7:75:18で、熱融着層(A)、中間層(B)、およびラミネート層(C)の三層共押出フィルムからなる総厚み50μm積層フィルムを成形し、ラミネート層にコロナ処理を施して易開封性フィルムを製造した。
各層の配合は、以下のとおりである。
熱融着層(A)
・表1に示す。
中間層(B)
・プロピレン-エチレンブロック共重合体(b-PP):100質量%
ラミネート層(C)
・プロピレン-エチレンブロック共重合体(b-PP):100質量%
得られた易開封性フィルムについて、上記の方法にしたがい耐衝撃性、易剥離性、開封時の外観、及び封緘性を評価した。
結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2から7、及び比較例1から2)
(A)熱融着層の処方、組成を表1に示すとおり変更したことを除くほか、実施例1と同様にして易開封性フィルムを作製して、評価した。
結果を表1に示す。
【0075】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の易開封性フィルムは、優れた易開封性、封緘性等の特性を維持しながら、耐衝撃性が大幅に向上するとともに、開封時の糸引きが抑制され外観にも優れるなど、実用上高い価値を有する性質を、従来技術の限界を超えた高いレベルで兼ね備えたものであり、食品用プラスチック容器の蓋材をはじめとする各種用途において好適に使用することが可能であり、農業、食品加工業、流通、外食などの産業の各分野において高い利用可能性を有する。