IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ケミカル株式会社の特許一覧

特許7558778露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材
<>
  • 特許-露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20240924BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G03F1/64
G03F7/20 501
G03F7/20 521
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020200596
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088255
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸澤 恵介
(72)【発明者】
【氏名】間山 和浩
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-340486(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065082(WO,A1)
【文献】特開2007-101523(JP,A)
【文献】特開平08-023025(JP,A)
【文献】特開平09-142996(JP,A)
【文献】ガラス状カーボン,日本,日清紡ケミカル株式会社 [オンライン],2021年11月25日,インターネット: <URL: https://www.nisshinbo-chem.co.jp/products/carbon/glass.html>
【文献】吉田 明, 鏑木 裕, 菱山 幸宥,炭素材料のラマン一次スペクトルバンド振動数の較正法とGバンドラマン振動数の対d002プロット,炭素,日本,炭素材料学会,2008年09月01日,2008巻234号,227-233頁
【文献】片桐 元,炭素材料のラマンスペクトルおよびその新しい応用,炭素,日本,炭素材料学会,1996年12月20日,1996巻175号,304-313頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
G03F 7/20-7/24
G03F 9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状炭素を含む露光装置用部材からなるペリクルフレーム
【請求項2】
前記ガラス状炭素の密度が1.6g/cm以下である、請求項1に記載のペリクルフレーム
【請求項3】
前記ガラス状炭素のショア硬さ(HS)が100以上である、請求項1又は2に記載のペリクルフレーム
【請求項4】
前記ガラス状炭素の線膨張係数が4.0×10-6/K以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のペリクルフレーム
【請求項5】
前記ガラス状炭素中の灰分の質量分率が50ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のペリクルフレーム
【請求項6】
前記ガラス状炭素のラマン分光スペクトルにおける1,300~1,400cm-1の範囲にあるDバンドのピーク強度IDと1,550~1,650cm-1の範囲にあるGバンドのピーク強度IGとのピーク強度比ID/IGが、1.0~2.5であり、前記Dバンドの半値幅が50~130cm-1である、請求項1~5のいずれか1項に記載のペリクルフレーム
【請求項7】
前記露光装置用部材のうち少なくとも一つの面が研磨面である、請求項1~6のいずれか1項に記載のペリクルフレーム
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペリクルフレームの製造方法であって、
熱硬化性樹脂材料を成形して樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体を焼成してガラス状炭素体を得る焼成工程と、を含むペリクルフレームの製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程より前に前記樹脂成形体を、前記樹脂成形体の温度が150℃以上となるように加熱して不融化する不融化工程を更に含み、
前記焼成工程においては、不融化された樹脂成形体を900~3,000℃で焼成する、請求項8に記載のペリクルフレームの製造方法。
【請求項10】
前記ガラス状炭素体を研磨加工する研磨加工工程、及び、前記ガラス状炭素体を任意の形状に研削加工する研削加工工程のうち少なくとも一方の工程を更に含む、請求項8又は9に記載のペリクルフレームの製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のペリクルフレームと、当該ペリクルフレームとは異なる材料からなる部品とを含む、複合型ペリクルフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ上に半導体素子等のパターンニングを行うリソグラフィー工程では、露光装置を用いてパターンニングを実施する。上記露光装置内において露光用基盤であるフォトマスクを用い、フォトマスクに形成された回路をシリコンウエハ上に形成する。その際にフォトマスクやレチクルに異物が付着すると、形成されるパターンに短絡等の不良を招く恐れがある。このため、露光装置内で使用される部材である露光装置用部材には発塵や、異物の原因となる成分が脱離しない材料が選定される。同様に露光光に対して高い耐性を持ち、シリコンウエハ自体を汚染しない、純度の高い材料が必要とされる。
主な露光装置用部材として、(a)一般的に長方形の枠体であって、その一端面がペリクル膜設置面であるペリクルフレーム、(b)シリコンウエハが設置されるプレート状のステージ部品、(c)円盤状で位置測定用のミラー部品、(d)搬送部がU字形状からなる搬送用アーム等の被露光物保持部材、及び、(e)その他構造部品などがある。なお、上記ペリクルフレームは、そのペリクル膜設置面にペリクル膜が張設されることで、フォトマスクやレチクルを防塵する機能を有するペリクルを構成する。以下、シリコンウエハを単に「ウエハ」と称することがある。
【0003】
従来、ペリクルフレームとしては、アルミニウムやアルミニウムの合金製のものが広く用いられているほか、ステンレス鋼などの他の金属製ペリクルフレームや、ポリエチレン等の樹脂製ペリクルフレームも提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
また、上記ステージ部品、ミラー部品、及び、搬送用アーム等の被露光物保持部材には、一般的に、高純度化しやすく複雑な表面形状にも対応可能なセラミック材が使用されており、例えば、アルミナ、炭化ケイ素が広く用いられている。この他、負の熱膨張特性を持ったセラミックスとの複合なども提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
また、ステージ部品は、位置精度向上を目的として線膨張係数の小さい材料を用いることが知られている。
また、ミラー部品は金属の蒸着によってミラー面を形成し、ミラー面以外の部分には反射を少なくすることが知られている。搬送用アーム等の被露光物保持部材はウエハへの影響を軽減するため、ウエハに接触する接触面をテーパー状にすることなどが知られている。
【0004】
近年、リソグラフィー工程(露光工程)における駆動系部材の移動速度の向上や、露光装置用部材のハンドリング性の向上を目的として、露光装置用部材の質量低減が求められるようになっている。
例えば、ペリクルフレーム用の材料に広く用いられているアルミニウムの密度は2.7g/cm程度であるが、露光装置用部材の質量を低減するためには、これよりも密度の小さい素材でペリクルフレームを構成することが有効である。例えば、アルミニウムよりも低密度の素材からなるペリクルフレームとして、上述したような樹脂製ペリクルフレームが考えられる。
しかしながら、樹脂製ペリクルフレームは、概して樹脂の線膨張係数が大きいことに起因して、使用環境温度が上昇すると大きく熱膨張する。通常、パターンニング工程において、露光光源はペリクルフレームが直接露光されないように設置されるが、露光によって迷光が発生し、この迷光がペリクルフレームに当たると、ペリクルフレームの温度が上昇することになる。
上述したように、樹脂製ペリクルフレームが熱膨張すると、当該ペリクルフレームに張設されたペリクル膜にシワ、剥がれ、破れ等が生じる恐れがある。
【0005】
また、ステージ部品、ミラー部品、搬送用アーム等の被露光物保持部材においては、通常熱膨張の少ないアルミナ(線膨張係数=7.2×10-6/K,密度=3.9g/cm)、炭化ケイ素(線膨張係数=3.7×10-6/K,密度=3.2g/cm)が用いられている。これらのセラミックスは金属と比較して線膨張係数及び密度が小さい材料であるが、上述の通り、露光光の照射によって部材の温度が上昇した場合、熱膨張によって露光精度を悪化させることがある。したがって、更なるハンドリング性、露光精度の向上のためには、線膨張係数及び密度がより小さい材料が求められる。またウエハへの悪影響を軽減するためにウエハと比較して表面硬度の低い材料が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-025559号公報
【文献】特開2018-028659号公報
【文献】特開2006-009088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、露光パターンの解像度の更なる向上を目指して、パターンニングの際の露光光の短波長化が進められ、例えば、深紫外光(DUV)や波長10nm付近の領域の光(EUV)が用いられるようになっている。これらの高エネルギーの光源を用いた場合においては、露光装置内の温度上昇が顕著になり、部品によっては数百℃に達することもあると推測される。特に、真空雰囲気でこれらの極短波長光を照射する場合、露光装置内で使用される部材からの気体流動による不純物等の脱離も懸念され、温度上昇による熱膨張などの影響がより高くなると考えられる。
例えば、ペリクルフレームについていえば、上述したような樹脂製ペリクルフレームに限らず、アルミニウム製ペリクルフレームであっても、加熱されたときの膨張によって、当該ペリクルフレームに張設されたペリクル膜にシワ、剥がれ、破れ等が生じる可能性がある。また、ステージ部品、ミラー部品、及び、被露光物保持部材の場合は、熱膨張によって位置精度の低下が懸念される。また、いずれの部品や部材であっても、被露光物に接するものであれば被露光物への影響が懸念され、被露光物が配置される空間に面している部品や部材であれば不純物等の脱離の影響が懸念されることとなる。
【0008】
したがって、軽量でありながら熱膨張しにくく、延いては、駆動系部材の移動速度を向上させ、ハンドリング性を優れたものとすることができ、更に、高エネルギーの光源を用いるパターンニングにおいても変形を生じにくい露光装置用部材が求められている。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、軽量でありながら熱膨張しにくい、露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、露光装置用部材を、ガラス状炭素を含むものとすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[13]を提供するものである。
[1]ガラス状炭素を含む露光装置用部材。
[2]前記ガラス状炭素の密度が1.6g/cm以下である、上記[1]に記載の露光装置用部材。
[3]前記ガラス状炭素のショア硬さ(HS)が100以上である、上記[1]又は[2]に記載の露光装置用部材。
[4]前記ガラス状炭素の線膨張係数が4.0×10-6/K以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の露光装置用部材。
[5]前記ガラス状炭素中の灰分の質量分率が50ppm以下である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の露光装置用部材。
[6]前記ガラス状炭素のラマン分光スペクトルにおける1,300~1,400cm-1の範囲にあるDバンドのピーク強度Iと1,550~1,650cm-1の範囲にあるGバンドのピーク強度Iとのピーク強度比I/Iが、1.0~2.5であり、前記Dバンドの半値幅が50~130cm-1である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の露光装置用部材。
[7]前記露光装置用部材のうち少なくとも一つの面が研磨面である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の露光装置用部材。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の露光装置用部材の製造方法であって、
熱硬化性樹脂材料を成形して樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体を焼成してガラス状炭素体を得る焼成工程と、を含む、露光装置用部材の製造方法。
[9]前記焼成工程より前に前記樹脂成形体を、前記樹脂成形体の温度が150℃以上となるように加熱して不融化する不融化工程を更に含み、
前記焼成工程においては、不融化された樹脂成形体を900~3,000℃で焼成する、上記[8]に記載の露光装置用部材の製造方法。
[10]前記ガラス状炭素体を研磨加工する研磨加工工程、及び、前記ガラス状炭素体を任意の形状に研削加工する研削加工工程のうち少なくとも一方の工程を更に含む、上記[8]又は[9]に記載の露光装置用部材の製造方法。
[11]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の露光装置用部材と、当該露光装置用部材とは異なる材料からなる部品とを含む、複合型露光装置用部材。
[12]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の露光装置用部材からなるペリクルフレーム。
[13]上記[12]に記載のペリクルフレームと、当該ペリクルフレームとは異なる材料からなる部品とを含む、複合型ペリクルフレーム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量でありながら熱膨張しにくい、露光装置用部材、露光装置用部材の製造方法、及び、複合型露光装置用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る露光装置用部材であるペリクルフレームの一例を示す外観模式図であり、図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)のIB-IB線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る露光装置用部材の構成と製造方法、及び、複合型露光装置用部材について順に説明する。露光装置用部材は、ペリクルフレームに限られるものではなく、露光装置内で使用される部材であればよく、例えば、上述したステージ部品、ミラー部品、搬送用アーム等の被露光物保持部材、又は、その他構造部品であってもよい。
なお、以下の説明においては、理解を容易にするため、適宜、図面を参照したり、図面に示す符号を用いてペリクルフレームの各面を説明したりするが、本発明は図示した態様には制限されない。また、図面は、理解を容易にするため、模式的に、また、誇張して示してある。
【0014】
1.露光装置用部材
本発明の実施形態に係る露光装置用部材は、ガラス状炭素を含む。
上記露光装置用部材には、露光装置内の可動部品、ウエハ等の被露光物に接する部品、及び、被露光物が配置される空間に面する部品等が含まれる。上記露光装置用部材に含まれる具体的な部品としては、ペリクルフレーム、例えばプレート状の形状を有するステージ部品、例えば円盤状の形状を有し位置測定等に利用されるミラー部品、U字形状の搬送部を有する搬送用アーム等の被露光物保持部材、及び、その他の構造部品等が挙げられる。
【0015】
上記露光装置用部材に含まれるガラス状炭素は、熱硬化性樹脂材料を所定の形状に成形して樹脂成形体を作製した後、この樹脂成形体を高温で熱処理(焼成)することにより得られる。成形によって樹脂成形体を作製する工程(成形工程)、及び、樹脂成形体を焼成してガラス状炭素体を得る工程(焼成工程)等については後述する。
【0016】
ガラス状炭素の密度は、アルミニウムの密度の60%未満である。また、ガラス状炭素の線膨張係数は樹脂やアルミニウムに比べて小さい。例えば、上述した樹脂製ペリクルフレームを構成するポリエチレンの線膨張係数は110~130×10-6/K、アルミニウムの線膨張係数は24×10-6/K程度であるところ、ガラス状炭素の線膨張係数は後述するように、例えば4.0×10-6/K以下とすることができる。
このため、ガラス状炭素を含む露光装置用部材の一つである、ガラス状炭素を含むペリクルフレームは、従来広く使用されているアルミニウム等の金属製ペリクルフレームに比べて軽量であり、また、樹脂製ペリクルフレームや金属製ペリクルフレームに比べて熱膨張しにくく(つまり、線膨張係数を小さく)することができる。
上記ガラス状炭素を含むペリクルフレームは、軽量でありながら熱膨張しにくいことにより、ペリクル膜を張設してペリクルとした場合に、当該ペリクルの移動速度を向上させ、ハンドリング性を優れたものとすることができる。また、高エネルギーの光源を用いるパターンニングにおいてもペリクル膜に変形を生じにくくすることができる。
つまり、上記ガラス状炭素を含む露光装置用部材が、露光装置内で移動し得る可動部品である場合や、被露光物を支持する部品等の、被露光物に接触する部品である場合、軽量化と低熱膨張性とを両立することができる。このため、露光装置用部材の高速移動性やハンドリング性を高めたり、温度上昇時における被露光物への影響や寸法精度の低下を抑えたりすることができる。
【0017】
また、ガラス状炭素は、特有の架橋構造を有していることにより組織の均一性が高く、一般的な黒鉛と比べて高い硬度を有しており、粒子脱落による発塵を生じにくい。
【0018】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素は、上述したように、熱硬化性樹脂材料を所定の形状に成形して樹脂成形体を作製した後、この樹脂成形体を高温で熱処理(焼成)することにより得られる。ガラス状炭素は、上記熱処理を経ることによって既に高温の熱履歴を受けているため、露光によって加熱されたとしても、ガラス状炭素から脱離する成分が極めて少ない。このため、パターンニングに障害を引き起こすような成長性異物(ヘイズ)の発生を抑えることができる。
【0019】
加えて、ガラス状炭素は、理想的な黒体に近く、光の反射を抑えやすい。このため、例えば、露光装置用部材に付着する異物の検査を行いやすいという利点がある。なお、アルミニウム製ペリクルフレームを、酸性溶液中での陽極酸化被膜処理(アルマイト処理)と染料とによって黒色化することが知られている。しかし、このような陽極酸化処理されたアルミニウム製ペリクルフレームには、酸性溶液に含まれる硫酸イオン・硝酸イオン等が残留しており、ペリクルフレームの使用中に、例えば高真空下に曝されることによって、脱離した硝酸イオン等がアンモニアと反応することによって成長性異物が生じ、パターンニングに障害をもたらす恐れがある。また、陽極酸化被膜表面は多孔質であるため、発塵しやすいという問題もある。これらを防ぐために、アルミニウムやその陽極酸化被膜を電着塗装等によってポリマーで覆うことも提案されているが、ハンドリング時の摩擦によって電着塗装膜が剥がれたり、露光によって膜が劣化したりするという別の問題が生じる。
上記ガラス状炭素を含む露光装置用部材は、上述したように、発塵を生じにくく、高真空下でも高温環境下でもガスの発生が極めて少なく、しかもそれ自身が黒体に近い。このため、上記露光装置用部材がペリクルフレームである場合も、アルミニウム製ペリクルフレームのような追加の処理が必要なく、ポリマー膜で覆う必要もない。
さらに、セラミック製のウエハ保持用部材、例えば搬送用アームは、ウエハより表面硬度が高く、ウエハと接触した際に衝撃による悪影響を及ぼすが、ガラス状炭素を含む搬送用アーム等の被露光物保持部材はセラミック製に比較して表面硬度が低く、ウエハに対する影響を低減させることが出来る。
つまり、上記ガラス状炭素を含む露光装置用部材が、被露光物が配置される空間に面する部品である場合、発塵やガス発生を生じにくいため、異物発生等の問題を生じにくい。
【0020】
また、ガラス状炭素を含む露光装置用部材は、後述するように、研磨加工によって、平坦度を高くすることができる。このため、上記露光装置用部材がペリクルフレームである場合、当該ペリクルフレームへのペリクル膜の張設時やフォトマスクの接着時に、ペリクルフレームが弾性変形することが抑制され、延いては、ペリクル膜やフォトマスクが歪むことを抑制することができる。
【0021】
また、上記ガラス状炭素を含むペリクルフレームは、樹脂製ペリクルフレームに比べて、剛性の点で有利であり、ペリクルの作製時や使用時に、ペリクル膜の変形や破損を生じにくい。
また、ガラス状炭素は、あらゆる酸・塩基・有機溶媒に対して高い耐薬品性を有している。このため、ガラス状炭素を含む露光装置用部材には腐食等が起きにくいという利点もある。
【0022】
ガラス状炭素には、製造上不可避的に含まれる成分(例えば、灰分)が含まれていてもよいが、ガラス状炭素に所期の物性を発現させる観点、高温及び高真空下で上記不純物が溶出することを防止する観点から、上記成分の含有量が少ないことが好ましい。
ここで、灰分とは、ガラス状炭素の製造工程において、ガラス状炭素内に混入した、主として不純物金属に由来する成分を意味する。本明細書において、「ガラス状炭素」には、上記灰分を含むガラス状炭素も含まれる。
上記ガラス状炭素中の灰分の質量分率は、不純物の混入をできるだけ抑えるとともにその溶出を防止する観点から、好ましくは50ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、最も好ましくは5ppm以下である。
ガラス状炭素における灰分の質量分率を上記範囲にするためには、熱硬化性樹脂を高温で熱処理してガラス状炭素を得る際に、例えば、熱硬化性樹脂材料の種類を適切に選択したり、金属成分の混入を減らすような工程上の工夫を行ったりすることで実現することができる。
【0023】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素の密度は、軽量化の観点から、好ましくは1.6g/cm以下、より好ましくは1.58g/cm以下、更に好ましくは1.56g/cm以下である。
上記ガラス状炭素の密度の下限に特に制限はないが、ガラス状炭素の硬度や炭素間の十分な架橋構造等を確保する観点及び製造容易性の観点から、例えば1.45g/cmである。
上記密度を上記の数値範囲とするための方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を高温で熱処理してガラス状炭素を得る際の到達温度を適切に設定することが挙げられる。
【0024】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素のショア硬さ(HS)は、発塵を抑制しやすくする観点から、好ましくは100以上である。
ガラス状炭素は、一般的な黒鉛のショア硬さ(ショア硬さ(HS)が50~80程度)と比べて、高いショア硬さを有する。これは、ガラス状炭素に特徴的な架橋構造に由来する。そして、ガラス状炭素のショア硬さ(HS)が100以上であると、架橋構造の発達により組織の均一性が高くなり、黒鉛のような粒子脱落による発塵が起こりにくくなる。したがって、ガラス状炭素を含む露光装置用部材が他の部材と接触しても、摩擦によるパーティクルの発生が少ない。
【0025】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素のショア硬さ(HS)は、より好ましくは100~150、更に好ましくは110~140、より更に好ましくは115~135である。
【0026】
本明細書において、ショア硬さ(HS)は、ショア硬さ試験機D形で測定される値であり、詳しくは実施例に記載する方法で測定される。
なお、ショア硬さ(HS)を上記数値範囲とするための方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を高温で熱処理してガラス状炭素を得る際の熱処理温度を適切に設定することが挙げられる。
【0027】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素の線膨張係数は、当該露光装置用部材の寸法変化の抑制、及び、露光装置用部材以外の部材に及ぼす影響の低減等の観点から、200℃での線膨張係数が、好ましくは4.0×10-6/K以下、より好ましくは3.5×10-6/K以下、更に好ましくは3.0×10-6/K以下である。
ガラス状炭素の線膨張係数を上記範囲とすることで、例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合、ペリクルの寸法変化の抑制、及び、ペリクルフレームとペリクル膜との接着性の確保が容易になる。また、例えば、露光装置用部材がステージ部品である場合、ステージ部品の駆動時の精度確保や被露光物を保持するための保持部全体の寸法精度を確保することが容易になる。
上記線膨張係数の下限に特に制限はないが、ガラス状炭素の硬度や炭素間の十分な架橋構造等を確保する観点及び製造容易性の観点から、例えば2.0×10-6/Kである。
上記線膨張係数を上記の数値範囲とするための方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を高温で熱処理してガラス状炭素を得る際の到達温度を適切に設定することが挙げられる。
【0028】
上記露光装置用部材を構成するガラス状炭素は、炭素間の架橋構造の十分な発達により、低密度や低熱膨張などの特性を得やすくする観点から、好ましくは、ラマン分光スペクトルにおける1,300~1,400cm-1の範囲にあるDバンドのピーク強度Iと、1,550~1,650cm-1の範囲にあるGバンドのピーク強度Iとのピーク強度比I/Iが、1.0~2.5であり、上記Dバンドの半値幅が50~130cm-1である。
Dバンドは黒鉛構造の欠陥に由来するピークであり、Gバンドは炭素材料の理想的な黒鉛構造に由来するピークである。I/Iの値が1以上であり、かつ、Dバンドの半値幅が上記範囲にあるということは、炭素構造中に乱れ・架橋構造を多く持ち、結晶成長が黒鉛ほど進んでいないことを意味する。このため、I/I及びDバンドの半値幅が上記範囲にあれば、炭素間の架橋構造の十分な発達により、低密度や低熱膨張などの特性を得やすくなる。
より好ましくは、I/Iが、1.0~2.0であり、上記Dバンドの半値幅が70~130cm-1である。
上記ピーク強度比I/Iを上記の数値範囲とするための方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を高温で熱処理してガラス状炭素を得る際の到達温度を適切に設定することが挙げられる。
【0029】
上記露光装置用部材が有する面のうち少なくとも一つの面は、好ましくは研磨面である。
例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合は、ペリクル膜設置面及びマスク接合面のうち少なくとも一方が研磨面であることが好ましい。露光装置用部材がステージ部品又は搬送用アーム等の被露光物保持部材である場合は、被露光物に接触する面が研磨面であることが好ましい。露光装置用部材がミラー部品である場合は、ミラー面となる領域を含む面が研磨面であることが好ましい。
上記研磨面は、所定の表面粗さを有する面であってもよいし、鏡面仕上げ面であってもよい。本明細書において、「鏡面仕上げ面」とは、鏡面加工用砥粒等の研磨剤を用いて鏡面加工を施された表面であることを意味する。
【0030】
上記露光装置用部材は、ガラス状炭素製の露光装置用部材のみからなるものであってもよいし、後述するように、上記露光装置用部材と、当該露光装置用部材とは異なる材料からなる部品とを含む複合体であってもよい。本明細書においては、上記複合体を「複合型露光装置用部材」という。複合型露光装置用部材については後述する。
【0031】
上記露光装置用部材はガラス状炭素のみから構成されていてもよいし、露光装置用部材の強度やその他の物性を高める目的で、上記露光装置用部材にはガラス状炭素以外の他の成分が含まれていてもよい。
上記他の成分としては、炭素繊維、黒鉛、珪素等が挙げられる。
上記露光装置用部材中におけるガラス状炭素以外の成分の質量分率は、ガラス状炭素の硬度や炭素間の十分な架橋構造等を確保する観点及び製造容易性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0032】
2.ペリクルフレーム
本発明の実施形態に係るペリクルフレームは上記露光装置用部材の一つである。
上記ペリクルフレームは、ペリクルフレームのみからなるものであってもよいし、後述するように、上記ペリクルフレームと、当該ペリクルフレームとは異なる材料からなる部品とを含む複合体であってもよい。本明細書においては、上記複合体を「複合型ペリクルフレーム」という。複合型ペリクルフレームについては後述する。
次に、本発明の実施形態に係るペリクルフレームの一例を図1に示す。
図1に示すペリクルフレーム10は、図1(a)の平面図に示すように、平面視で長方形の枠形状を有しており、中央部分に開口10cが設けられている。長い直線部10eと短い直線部10fとが交差する各角部10dはR形状としてある。なお、図1には図示していないが、ペリクルフレームには、後述するザグリ部や貫通孔が設けられていてもよい。
そして、図1(b)の断面図に示すように、ペリクルフレーム10の厚さ方向に位置する2つの面のうち、一方が、ペリクル膜が設置される面であるペリクル膜設置面10aであり、他方が、フォトマスクが接合される面であるマスク接合面10bである。
なお、ペリクルフレーム10には、ペリクル膜設置面10aやマスク接合面10b上に、後述する接着剤層や粘着剤層が設けられ得るが、図1(b)においてはこれらの層は図示を省略している。
【0033】
ガラス状炭素を含むペリクルフレームは、金属製ペリクルフレームに比べて軽量で、樹脂製ペリクルフレームや金属製ペリクルフレームに比べて熱膨張しにくい。このため、ペリクル膜を張設してペリクルとした場合に、当該ペリクルの移動速度を向上させ、ハンドリング性を優れたものとすることができる。また、高エネルギーの光源を用いるパターンニングにおいてもペリクル膜に変形を生じにくくすることができる。また、ガラス状炭素に特有の架橋構造により、粒子脱落による発塵を生じにくく、製造時に高温の熱履歴を受けているため、加熱されても脱離する成分が極めて少ない。さらに、樹脂製ペリクルフレームに比べて、剛性の点で有利であり、ペリクルの作製時や使用時に、ペリクル膜の変形や破損を生じにくい。加えて、高い耐薬品性を有しているため腐食等が起きにくく、また、ガラス状炭素が理想的な黒体に近いため光の反射を抑えやすい。
【0034】
上記ペリクルフレームの、ペリクル膜設置面(図1(b)の符号10a)及びマスク接合面(図1(b)の符号10b)のうち少なくとも一つの面は、好ましくは研磨面である。
より好ましくは、ペリクル膜設置面とマスク接合面の両方が研磨面である。上記研磨面は鏡面仕上げ面であってもよい。
ペリクル膜設置面及びマスク接合面のうち少なくとも一方の面を研磨面とすることで、これらの面の平滑化が可能であり、平坦性を高めることができる。その結果、ペリクルフレームの平坦性が高まり、ペリクル膜やフォトマスクとの接着時の歪みを抑制しやすくなる。
【0035】
上記ペリクルフレームの平坦度は、ペリクルフレームへのペリクル膜の張設時やフォトマスクの接着時にフレームが弾性変形することを抑制し、ペリクル膜やフォトマスクが歪むことを抑制する観点から、好ましくは50μm以下である。
本明細書において、ペリクルフレームの平坦度は、ペリクルフレームが多角形の枠形状である場合は、ペリクルフレームの各角部と、隣り合う一対の角部(図1(a)の符号10d)の間にある直線部(図1(a)の符号10e、10f)の全てについて、それぞれの高さを測定し、測定した高さから最小二乗法によって導いた仮想平面からの各測定点の距離のうち最高点から最低点を引いた差で算出した値であり、詳しくは実施例に記載の方法で測定される。
上記平坦度を上記数値範囲にするためには、例えば、ガラス状炭素を含むペリクルフレームのペリクル膜設置面やマスク接合面を研磨加工することが挙げられる。
【0036】
ペリクルフレームを平面視したときの形状は、図1(a)に示すような長方形の枠形状に限らず、任意の形状とすることができ、例えば、正方形、六角形等の多角形の枠形状とすることができる。
【0037】
ペリクルフレームを平面視したときの大きさには、特に制限はなく、露光対象領域の大きさや露光装置の構成等に応じて、また、製造のしやすさ等を考慮して、適宜の大きさとすればよい。長方形状のペリクルフレームであれば、例えば、外形の長さ(図1(a)の符号L1参照)50~300mm、幅(図1(b)の符号L2参照)を50~300mm、枠部分の幅(図1(b)の符号W参照)を1~50mmとすることができる。
【0038】
ペリクルフレームの厚さ(図1(b)の符号D参照)にも特に制限はなく、強度と導入する装置の仕様等に応じて、また、製造のしやすさ等を考慮して、適宜の厚さとすればよい。ペリクルフレームの厚さは、例えば、0.5~6.0mmとすることができる。
【0039】
本発明の一実施形態に係るペリクルフレームは、例えば、その形状が多角形枠形状であり、角部を有する。一般的には、図1(a)に示す長方形等の四角形の枠形状である。上記ペリクルフレームの直線部分が交差する角部は、図1(a)に示す角部10dのように、R形状としてもよいし、厚さ方向(図1(b)の符号Dの示す方向)に延びる平面で面取りされていてもよい。また、上記ペリクルフレームには、例えば貫通孔やザグリ部を設けてもよい。上記貫通孔は、例えば通気を行うために用いることができる。また、上記ザグリ部は、例えば、搬送時の把持部や位置決め部として用いることができる。
【0040】
3.露光装置用部材の製造方法
本発明の実施形態に係る露光装置用部材は、以下の各工程を含む製造方法によって製造することができる。
・熱硬化性樹脂材料を成形して樹脂成形体を作製する工程(成形工程)
・上記樹脂成形体を焼成してガラス状炭素体を得る工程(焼成工程)
【0041】
上記露光装置用部材の製造方法は、上記ガラス状炭素体を研磨加工する工程(研磨加工工程)、及び、上記ガラス状炭素体を任意の形状に研削加工する工程(研削加工工程)のうち少なくとも一方の工程を更に含むことが好ましい。
例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合は、ペリクル膜設置面及びマスク接合面のうち少なくとも一方を上記研磨加工工程で加工することが好ましい。露光装置用部材がステージ部品である場合は、被露光物が載置される面を上記研磨加工工程で加工することが好ましい。露光装置用部材がミラー部品である場合は、ミラー面となる領域を含む面を上記研磨加工工程で加工することが好ましい。露光装置用部材が搬送用アーム等の被露光物保持部材である場合は、被露光物への接触面を上記研磨加工工程で加工することが好ましい。
上記の各面が研磨加工工程を経て研磨面とされることにより、これらの面の表面を任意の粗さに制御し、高い平滑性を持たせたり、所定の表面粗さを持たせたりすることができる。例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合、ペリクル膜設置面やマスク接合面の平滑性を高めることで、レチクル膜やフォトマスクに歪み等を生じにくくすることができる。また、露光装置用部材がステージ部品や搬送用アーム等の被露光物保持部材である場合、被露光物への接触面を所定の表面粗さとすることによって、被露光物への影響を抑制しやすくすることができる。また、露光装置用部材がミラー部品である場合、ミラー面となる領域の平滑性を高めるとともに、それ以外の領域を所定の表面粗さとすることにより、ミラー面によって高い精度で露光光を反射するとともに、それ以外の領域での反射を抑制することで、露光光を意図したように反射させやすくなる。
また、例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合は、ペリクルフレームの外形の形成、枠形状への加工、貫通孔やザグリ部の形成等を上記研削加工工程において行うことができる。また、露光装置用部材が、ステージ部品、ミラー部品、及び、搬送用アーム等の被露光物保持部材である場合は、それらの部品の外形を形成するための加工を上記研削加工工程において行うことができる。
【0042】
上記研磨加工工程と上記研削加工工程との順序に特に制限はなく、例えば、(i)研磨加工を行った後に研削加工を行ってもよいし、(ii)研削加工を行った後に研磨加工を行ってもよい。また、(iii)研磨加工工程と研削加工工程の少なくとも一部を並行して行ってもよい。
上記(i)の場合、研磨加工工程において研磨を比較的容易に行うことができる。上記(ii)の場合、研磨加工工程において研磨の対象部分を少なくすることができる。上記(iii)の場合、工程全体に要する時間を短縮しやすくなる。
【0043】
また、上記焼成工程と、研磨加工工程及び研削加工工程との順序にも特に制限はなく、例えば、(iv)研磨加工工程及び研削加工工程を焼成工程後に行ってもよく、(v)研磨加工工程の少なくとも一部を焼成工程より前に行ってもよいし、(vi)研削加工工程の少なくとも一部を焼成工程より前に行ってもよい。
上記(iv)の場合、焼成工程における作業や製造条件の設定が容易になる。また、上記(v)や(vi)の場合、焼成工程後に行う工程を簡素化しやすくなる。
なお、本明細書において、上記樹脂成形体を焼成して得られた、上記研磨加工工程及び研削加工工程に供する前のガラス状炭素体を「露光装置用部材用原体」という場合がある。
【0044】
上記露光装置用部材の製造方法は、好ましくは、上記焼成工程より前に上記樹脂成形体を、当該樹脂成形体の温度が150℃以上となるように加熱して不融化する不融化工程を更に含む。そして、上記焼成工程においては、不融化された樹脂成形体を900~3,000℃で焼成することが好ましい。
この場合、不融化工程、研磨加工工程及び研削加工工程との順序にも特に制限はない。
【0045】
[成形工程]
成形工程においては、ガラス状炭素の炭素源となる熱硬化性樹脂材料を成形して、樹脂成形体を作製する。
ガラス状炭素の原料は、熱処理されることよって難黒鉛化性炭素となる樹脂成分を含む熱硬化性樹脂材料である。具体的には、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、フラン系樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等が挙げられる。
上記熱硬化性樹脂材料は一般的に粉状や液状を呈している。このため、モールド成形やキャスト成形等の、それぞれの樹脂性状に適した成形方法によって成形して樹脂成形体を得ることが望ましい。
【0046】
露光装置用部材に適した緻密な樹脂成形体を得るためには、上記熱硬化性樹脂材料として液状の熱硬化性樹脂材料を用い、この液状の熱硬化性樹脂材料を型枠に流し込み、所定の温度に加熱してキャスト成形を行うことにより、樹脂成形体を作製することが望ましい。液状の熱硬化性樹脂材料は、樹脂成分と溶媒とを含むものであってもよい。
液状の熱硬化性樹脂材料としては、例えば、レゾール型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂溶液、ポリカルボジイミド樹脂溶液、フルフリルアルコール重合物などが挙げられる。
樹脂成分とともに用いられる溶剤としては、例えば、メタノール等のアルコール、パークロロエチレン等の塩素系有機溶剤、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、水等が挙げられる。成形性等の観点から、メタノール等のアルコール、トルエン、DMF、水等が好ましい。
【0047】
成形工程においては、上記熱硬化性樹脂材料の少なくとも一部に通気性部材を接触させて加熱を行うことが好ましい。
また、熱硬化性樹脂材料を平面状に配置し、当該平面状に配置された熱硬化性樹脂材料の少なくとも一方の面にシート状の通気性部材を接触させて上記熱硬化性樹脂材料を加熱することがより好ましい。一対のシート状の通気性部材の間に熱硬化性樹脂材料を配して加熱を行うことも可能である。熱硬化性樹脂材料を囲む形状を有する通気性部材を用いて、当該通気性部材の内縁を熱硬化性樹脂材料に接触させて加熱を行うようにしてもよい。熱硬化性樹脂材料を囲む形状を有する通気性部材とシート状の通気性部材とを併用してもよい。
成形工程においては、好ましくは、熱硬化性樹脂材料として液状の熱硬化性樹脂材料を用い、この液状の熱硬化性樹脂材料を型に流し込んで所定温度で加熱してキャスト成形することにより、固形の樹脂成形体とする。
熱硬化性樹脂材料に通気性部材を接触させて加熱を行うことにより、熱硬化性樹脂材料が均一に加熱されるとともに、通気性部材を介して均一に脱ガスされる。特に、熱硬化性樹脂材料を平面状に配置し、その少なくとも一方の面にシート状の通気性部材を接触させて加熱すると、通気性部材が接触した面において、均一に加熱及び脱ガスされる。このように加熱及び脱ガスが均一に行われることによって、均質なガラス状炭素体を得やすくなり、また、内部に残ったガスによって熱硬化性樹脂材料に割れ等が発生しにくくなる。
【0048】
成形工程においては、溶媒の揮発による気泡発生防止の観点から、所定の到達温度になるまで徐々に昇温させながら加熱することが好ましい。上記到達温度は、例えば、樹脂溶液中に含まれる溶媒の蒸気圧や沸点に応じて決定することができる。また、到達温度に達するまでの加熱時間は、例えば、成形物のサイズに応じて10~50時間とすることが好ましい。
シート状の通気性部材としては、例えばメッシュフィルター等の撥水性の繊維からなるシートが挙げられる。シート状の通気性部材を切り抜いて枠状に加工したり、シート状の通気性部材を帯状に加工したものを複数組み合わせて使用したりすることにより、熱硬化性樹脂材料を囲む形状を有する通気性部材とすることができる。
【0049】
なお、成形工程において任意の形状を有する樹脂成形体を作製することにより、後述する研削加工工程を省略乃至簡素化するようにしてもよい。例えば、露光装置用部材としてペリクルフレームを作製する場合、成形工程において枠形状を有する樹脂成形体を作製することにより、後述する研削加工工程を省略乃至簡素化するようにしてもよい。換言すれば、成形工程において枠形状等の任意の形状を有する樹脂成形体を作製し、研削加工工程を実施しない方法で露光装置用部材を製造してもよいし、成形工程において枠形状等の任意の形状を有する樹脂成形体を作製することで、研削加工工程における加工量を少なくするようにしてもよい。
【0050】
[不融化工程]
樹脂成形体の化学的安定性を高める観点から、好ましくは、上記の焼成工程より前に、上記樹脂成形体を、当該樹脂成形体の温度が150℃以上となるように加熱して不融化する不融化工程を設ける。
熱硬化性樹脂材料を成形して得られた樹脂成形体は、不融化工程を経ることによって樹脂成分が硬化して硬化樹脂成形体となる。
不融化工程における加熱は、樹脂の種類等によっても異なるが、到達温度が、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは200℃以上となるように行う。
加熱時の雰囲気に特に制限はなく、例えば大気雰囲気下で加熱することができる。
不融化のために用いる装置としては、例えば、自然対流式乾燥機、強制対流式乾燥機、ホットプレート等が挙げられる。
【0051】
[塗布工程]
不融化された樹脂成形体に対して、上記焼成工程より前に帯電防止剤を塗布する塗布工程を設けてもよい。塗布工程を設けることで、露光装置用部材に、環境中に含まれる微量な金属成分が付着することに起因して、不純物が混入したり、ポアが形成されたりすることを防止しやすくなる。
帯電防止剤としては、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
上記イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
[焼成工程]
焼成工程においては、樹脂成形体、好ましくは不融化処理後の樹脂成形体を高温で焼成することにより、ガラス状炭素体(露光装置用部材用原体)を得る。
焼成工程は、好ましくは、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下、又は、10-3~10-1Torr程度の真空下で行う。
焼成工程は、900~1,100℃で加熱する第1加熱工程と、第1加熱工程よりも高温で加熱を行う第2加熱工程とを備えることが好ましい。第2加熱工程では、1,100℃超3,000℃以下の温度まで加熱し、加熱温度と保持時間を調整することにより、ガラス状炭素の結晶性状を制御することができる。
【0053】
第2加熱工程では、塩素ガス等の精製ガスを流通させながら加熱を行うことにより、ガラス状炭素を高純度化させるようにしてもよい。
上記精製ガスとしては、フッ素ガス、塩素ガス、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、四塩化炭素等が挙げられる。
焼成温度は、第1加熱工程においては、得られるガラス状炭素体の均一性、割れや亀裂防止の観点から、到達温度で好ましくは900~1,100℃、より好ましくは930~1,050℃、更に好ましくは950~1,000℃であり、第2加熱工程においては、炭素構造とその物性制御の観点から、好ましくは1,100~3,000℃、より好ましくは1,150~2,500℃、更に好ましくは1,200~2,000℃である。
焼成を行う装置は、上記の雰囲気下で上記焼成温度を達成できる装置であれば特に制限はなく各種のものを用いることができ、例えば、電気炉、リードハンマー炉、真空炉等を用いることができる。
【0054】
得られるガラス状炭素体への割れ亀裂、不純物混入防止の観点から、好ましくは、上述の成形工程で樹脂成形体を得た後、更に、不融化工程及び塗布工程を経た後に、焼成工程を行う。
【0055】
上記の熱硬化性樹脂材料を原料として、成形及び焼成を経て得られるガラス状炭素体は、ガラス状炭素に特徴的な架橋構造を有している。この架橋構造が発達していると、組織の均一性が高くなり、黒鉛のような粒子脱落による発塵が起こりにくくなる。その結果、パーティクルの発生を抑えやすくなる。
ガラス状炭素であることは、ラマン分光分析によって得られるラマン分光スペクトルにおける、上述したDバンド及びGバンドの有無によって確認することができる。
架橋構造を発達させ、組織の均一性を高めるための方法としては、上記成形工程や不融化工程における熱処理の昇温速度を適切に設定したり、上記成形工程において通気性部材を用いたりすることによって、樹脂成形体の組織を均一にすることや、上記焼成工程における昇温速度や到達温度を適切に設定することが挙げられる。
【0056】
[研磨加工工程]
研磨加工工程においては、ラップ、ポリッシュ加工を施すことにより、平坦性のよい露光装置用部材用原体を得る。さらに、砥粒の粒度を調節することで任意の表面粗さに仕上げることができる。
研磨加工工程は2段階で実施してもよく、ペリクル膜設置面又はマスク接合面となるガラス状炭素体の面を所定の厚さまで加工する一次研磨加工工程と、所定の表面粗さ以下になるように更に加工する二次研磨加工工程とを含んでいてもよい。
【0057】
一次研磨加工工程は、例えば、粒度#1000~#2000のSiC砥粒やBC砥粒を用いて、ラップ盤等の研磨装置により、0.3~3.0mmの深さまで研磨を施すことにより行うことができる。
二次研磨加工工程は、例えば、アルミナ系鏡面加工用砥粒やダイヤモンド系鏡面加工用砥粒を用いて、鏡面仕上げを施すことにより行うことができる。
二次研磨加工工程では、使用する砥粒が、鏡面加工用であり、非常に細かいため、研磨によるガラス状炭素体の表面のダメージ深さや、研磨によってガラス状炭素体の表面に形成される変性層の厚さ(変性深さ)を少なくすることができる。
【0058】
上述した研磨加工工程を経ることによって、例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合、上記のペリクル膜設置面やマスク接合面を研磨面とし、ペリクル膜設置面やマスク接合面の平坦性を向上させることができる。
【0059】
[研削加工工程]
研削加工工程においては、上記ガラス状炭素体を研削加工する。例えば、露光装置用部材をペリクルフレームとする場合のように、上記ガラス状炭素体を枠形状に研削したり、上記ガラス状炭素体に貫通孔やザグリ部を形成したりする。上記研削加工工程において、図1(a)に示したペリクルフレーム10の角部10dのように、角部をR形状に加工してもよい。
研削加工には、任意のツールを用いることができ、例えば、高硬度の研削工具を備えたマシニングセンタを用いることができる。
搬送用アーム等の被露光物保持部材の場合は、ウエハに接触する接触面をテーパー状にすることができる。
【0060】
4.複合型露光装置用部材
本発明の実施形態に係る複合型露光装置用部材は、上記露光装置用部材と、当該露光装置用部材とは異なる材料からなる部品とを含む。
また、本発明の実施形態に係る複合型ペリクルフレームは、上記ペリクルフレームと、当該ペリクルフレームとは異なる材料からなる部品とを含む。
上記の各部品を構成する、露光装置用部材とは異なる材料、及び、ペリクルフレームとは異なる材料としては、例えば、アルミニウム、樹脂、ステンレス鋼が挙げられる。
【0061】
上記の各部品の形状には特に制限はなく、任意の形状のものを用いることができるが、例えば、平面視で上記露光装置用部材と同様の形状を有するものとすることができる。複合型ペリクルフレームの場合は、例えば、上記部品の形状をペリクルフレームと同様の枠形状を有するものとすることができる。
上記部品は、例えば、露光装置用部材がペリクルフレームである場合、当該ペリクルフレームの、ペリクル膜設置面及びマスク接合面のうち少なくとも一方の面に、接着剤層や粘着剤層を介して設けられる。
上記部品を設けることにより、上記複合型露光装置用部材は、上記露光装置用部材よりも、また、上記複合型ペリクルフレームは、上記ペリクルフレームよりも強度や剛性を高めやすくなる。
【実施例
【0062】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
下記実施例のペリクルフレームの製造に用いたガラス状炭素体の物性値、及び、下記実施例ペリクルフレームの物性値についての、測定や評価は以下の手順で行った。
【0064】
<密度>
露光装置用部材用原体となるガラス状炭素体の質量と体積を測定し、前者を後者で除した値を算出し、露光装置用部材を構成するガラス状炭素の密度とした。
【0065】
<ショア硬さ(HS)>
上記ガラス状炭素体の一端面において、今井精機株式会社製ショア硬さ試験機D形で異なる任意の5箇所において測定し、その平均値をガラス状炭素のショア硬さ(HS)とした。
【0066】
<線膨張係数>
熱機械分析装置TMA8310(Rigaku)を用いて線膨張係数の測定を行った。基準試料はφ5×10mmのSiOを用いた。測定サンプルは露光装置用部材用原体をφ5×10mmに研削して作製した。測定条件は窒素流通下で200℃まで10℃/minで昇温した。試験片高さの変化量から線膨張係数を算出した。
【0067】
<灰分含有量>
灰化しやすいように露光装置用部材用原体を粉末状になるまで砕いてから、白金製るつぼに入れ、処理前の試料重量を測った。マッフル炉で酸素中、800℃で灰化した。炭素分が残っていないことを確認後、残留物の重量を灰分として測定し、露光装置用部材用原体に含有される灰分量を算出した。
【0068】
<ラマンピーク強度比>
532nmのNd:YVOレーザーを用いた顕微レーザーラマン分光測定装置 (HORIBA Scientific社製Lab RAM)によって、各サンプルの主面に対してラマン分光測定を行い、得られた分光スペクトルにおける1,300~1,400cm-1の範囲にあるDバンドのピーク強度I、及び、1,550~1,650cm-1の範囲にあるGバンドのピーク強度Iから、ピーク強度比I/Iを算出した。
【0069】
<露光加速試験>
ArFエキシマレーザーを用いて露光装置用部材用原体に対する露光加速試験を実施した。当該試験は、193nmのArFレーザー、出力3mJ/cm、全露光量1kJの条件で行った。光学顕微鏡により、験開始前及び試験完了後の露光装置用部材用原体の表面観察を行い、露光前後における表面変化の有無を調べた。
【0070】
<イオン溶出試験>
露光装置用部材用原体を脱イオン水中に浸漬し、90℃、2時間放置した。その後、イオンクロマトグラフィーを用いて、上記脱イオン水中に溶出した脱離イオン分を定量した。
【0071】
<露光装置用部材用原体の平坦度>
露光装置用部材用原体の平坦度は次の手順で測定した。露光装置用部材用原体の各角部と、隣り合う一対の角部の間にある直線部の高さを5mmピッチで測定し、最小二乗平面(仮想平面)を算出して、各測定点の距離のうち、最小二乗平面の上側に最も離れた点(最高点)から最小二乗平面の下側に最も離れた点(最低点)を引いた差で算出した値を露光装置用部材用原体の平坦度とした。
【0072】
[製造例1]
熱硬化性樹脂材料として、レゾール型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂のメタノール溶液を用いた。シート状通気性部材であるフッ素樹脂製不織布を2枚準備し、これら上下の不織布の間に側面を形作るためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コートを施したアルミニウム製の型を配置し、当該型内に上記熱硬化性樹脂材料を配してキャスト成形することにより、長さ250mm×幅250mm×厚さ5mmの正方形平板状の樹脂成形体を作製した。上記キャスト成形は、オーブン中で、室温から90℃まで20時間かけて徐々に昇温することにより行った。そして、上下の不織布及び型を取り除いた後、オーブン中で90℃から200℃まで30時間かけて昇温・加熱することにより、樹脂成形体を硬化し、さらに不融化させて硬化樹脂成形体とした。
上記硬化樹脂成形体に、真空炉を用いて、0.01Torrの真空雰囲気にて、第1加熱工程として、室温から1,000℃まで徐々に昇温して熱処理し、更に、第2加熱工程として、1,000℃から1,750℃まで徐々に昇温して熱処理することにより、ガラス状炭素からなる長さ約200mm×幅約200mm×厚さ約4mmの四角形板状のガラス状炭素体を得た。
【0073】
上記ガラス状炭素体の上記各物性の測定結果を表1に示す。表1には、参考のために、参考例1としてアルミニウム(A5052)、参考例2としてポリエチレン(HDPE)について、それぞれの密度とショア硬さ(HS)と線膨張係数も示している。
なお、参考例1のショア硬さは実施例1と同様の方法で測定した値である。参考例1~3の密度及び線膨張係数は、辞典や各種文献等に記載されている一般的な値を記載した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、上記の各工程を経て作製された製造例1のガラス状炭素体は、ラマンピーク強度比I/Iの値が1.86で、1以上であり、また、ラマンDバンド半値幅が75.5cm-1で、50~130cm-1の範囲にあることから、炭素の結晶構造中に乱れが形成され、架橋構造の発達によって組織の均一性が高いことが判る。そして、アルミニウムとの比較から明らかなように、製造例1のガラス状炭素体は、高いショア硬さと低い線膨張係数を備え、またポリエチレンやアルミナと比較しても、製造例1のガラス状炭素体は、低い線膨張係数を備えており、露光装置用部材に適したガラス状炭素で構成されていることが判る。
また、製造例1と参考例1との比較から明らかなように、製造例1のガラス状炭素体は、アルミニウムに比べて密度が低く、露光装置用部材の重量を大きく低減させ得ることが理解できる。
また、製造例1及び参考例3との比較から明らかなように、製造例1のガラス状炭素体はセラミックより線膨張係数が小さく、密度も低いことから、ステージ部品、ミラー部品、又は、搬送用アーム等の被露光物保持部材として使用した際に、位置精度の向上させ得ることが理解できる。
【0076】
また、表1に示すように、露光加速試験の結果、露光後も製造例1の露光装置用部材用原体の表面に変化は見られず、ガラス状炭素を含む露光装置用部材用原体が高耐光性を有していることが判る。
更に、表1に示すように、イオン溶出試験の結果、SO 2-が5ppb以下、NH が15ppb以下であり、製造例1の露光装置用部材用原体からの成分の溶出が極めて少ないことが判る。
【0077】
[実施例1]
製造例1で作製したガラス状炭素体を用いて、次の手順で研磨加工及び研削加工を施すことにより、実施例1のペリクルフレームを作製した。
上記ガラス状炭素体のペリクル膜設置面及びマスク接合面を、一次加工として#1000のSiC砥粒を用い、ラップ盤で0.5mm以上の研磨を行った。二次加工としてペリクル膜設置面及びマスク接合面の表面をアルミナ系鏡面加工用砥粒にて鏡面仕上げを施すとともに、厚さ3mmに仕上げた。
こうして得た上下面が鏡面化されたガラス状炭素体を、ダイヤモンド工具を備えたマシニングセンタを用いて研削加工を行うことにより、外形(図1(b)のL1及びL2)を150mm×110mm、枠部分の幅(図1(b)のW)を2mmに仕上げるとともに、枠部分の各直線部について、平面視したときに直線部の中心から一方の端部までの間とその逆の端部までの間に中心を挟み対象となる位置において、それぞれ外形側の側面の厚さ方向(図1(b)のD方向)の中央部から各枠部分の幅方向(図1(b)のW方向)に向けて、1.5mm径×深さ1mmのザグリ孔を設けた。こうしてペリクルフレームを作製した。
【0078】
上記の研磨加工及び研削加工を経て得られた実施例1のガラス状炭素を含むペリクルフレームは、平坦度を20μm未満とすることができた。
また、上記実施例1のペリクルフレームは、アルミニウムの密度(2.68g/cm)及び線膨張係数(24×10-6/K程度)を考慮すると、同様の形状を有するアルミニウム製ペリクルフレームに比べて、質量を約40%以上軽減することができ、かつ、室温から200℃まで昇温した際の線膨張を、上記アルミニウム製ペリクルフレームの線膨張の10%程度に抑えることができる。また、樹脂製のペリクルフレームとして、同様の形状を有するポリエチレン製ペリクルフレーム(線膨張係数110~130×10-6/K)に比べて、2%程度に抑えることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:ペリクルフレーム
10a:ペリクル膜設置面
10b:マスク接合面
10c:開口
図1