(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】取り上げ装置
(51)【国際特許分類】
D05B 33/00 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
D05B33/00
(21)【出願番号】P 2020204921
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛志
(72)【発明者】
【氏名】上原 勇輝
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-089143(JP,A)
【文献】特開平04-303494(JP,A)
【文献】特開2020-029353(JP,A)
【文献】特開平11-071033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層されたシート状の被縫製物を上から取り上げる取り上げ装置であって、
エアーの吹き出しにより積層された前記被縫製物から上から一枚目の被縫製物を上方に引き寄せる取り上げノズルを有するノズル機構と、
上から一枚目の前記被縫製物を保持する保持機構と、
積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込むための爪部材と、前記爪部材の先端部を進退移動させる進退駆動部とを有する分離機構と、
積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物を吸い寄せる非吸着式吸引パッドを有する吸引機構と、
前記ノズル機構と前記分離機構と前記吸引機構と前記保持機構とを制御する制御装置と、
前記ノズル機構と前記分離機構と前記吸引機構のいずれか一つ又は複数の組み合わせを選択する選択部とを備え、
前記制御装置は、前記選択部の選択に従って、積層された前記被縫製物を上から取り上げる動作制御を実行
し、
前記爪部材の先端部の進退移動方向を前後方向とした場合に、前記積層された前記被縫製物の上面における前記前後方向に沿った各位置における積層方向の変位を検出する変位検出部と、
前記変位検出部の検出結果から上から一枚目の前記被縫製物の状態を推定する推定部とを備えることを特徴とする取り上げ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記選択部からの選択に従って、
前記分離機構単独により前記被縫製物の取り上げを行う第一の取り上げ動作と、前記ノズル機構と前記分離機構の組み合わせにより前記被縫製物の取り上げを行う第二の取り上げ動作と、前記吸引機構と前記分離機構の組み合わせにより前記被縫製物の取り上げを行う第三の取り上げ動作のいずれかの動作制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の取り上げ装置。
【請求項3】
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第一の取り上げ動作において、
前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする請求項2に記載の取り上げ装置。
【請求項4】
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第二の取り上げ動作において、
前記ノズル機構により、前記取り上げノズルからエアーを吹き出して上から一枚目の前記被縫製物を上方に引き寄せてから、前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする請求項2又は3に記載の取り上げ装置。
【請求項5】
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第三の取り上げ動作において、
前記吸引機構の前記非吸着式吸引パッドにより、積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物を引き寄せてから、前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の取り上げ装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記変位検出部の検出する前記積層された前記被縫製物の上面における
前記前後方向に沿った各位置における積層方向の変位と、当該変位に基づく傾きとから上から一枚目の前記被縫製物の状態を推定することを特徴とする
請求項1から5のいずれか一項に記載の取り上げ装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記推定部が推定した上から一枚目の前記被縫製物の状態に応じて、一枚目の前記被縫製物の状態の正常化を図るための正常化動作を実行することを特徴とする
請求項1から6のいずれか一項に記載の取り上げ装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記ノズル機構、前記分離機構、前記吸引機構、前記保持機構のいずれか一つ又は複数を制御して前記正常化動作を実行することを特徴とする
請求項7に記載の取り上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層されたシート状の被縫製物を取り上げる取り上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシン等の縫製装置では、効率的に縫製を行うために、複数のシート状の被縫製物が積層されて保存された供給部から上から一枚目の被縫製物を一枚ずつ取り上げてミシンに供給する取り上げ装置が利用されている。
このような取り上げ装置は、吸引ノズルで一枚ずつ被縫製物を吸着して取り上げてからミシンに搬送して供給を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の取り上げ装置は、上から一枚目の被縫製物に対して上方から吸引ノズルの先端部を突き当てて取り上げを行う構成のため、被縫製物の材料の種別によっては、一度に二枚以上の被縫製物が取り上げられる等、良好な取り上げを安定的に行うことが困難であった。
【0005】
本発明は、種々の被縫製物に対応して適正に被縫製物を取り上げることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、取り上げ装置において、
積層されたシート状の被縫製物を上から取り上げる取り上げ装置であって、
エアーの吹き出しにより積層された前記被縫製物から上から一枚目の被縫製物を上方に引き寄せる取り上げノズルを有するノズル機構と、
上から一枚目の前記被縫製物を保持する保持機構と、
積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込むための爪部材と、前記爪部材の先端部を進退移動させる進退駆動部とを有する分離機構と、
積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物を吸い寄せる非吸着式吸引パッドを有する吸引機構と、
前記ノズル機構と前記分離機構と前記吸引機構と前記保持機構とを制御する制御装置と、
前記ノズル機構と前記分離機構と前記吸引機構のいずれか一つ又は複数の組み合わせを選択する選択部とを備え、
前記制御装置は、前記選択部の選択に従って、積層された前記被縫製物を上から取り上げる動作制御を実行し、
前記爪部材の先端部の進退移動方向を前後方向とした場合に、前記積層された前記被縫製物の上面における前記前後方向に沿った各位置における積層方向の変位を検出する変位検出部と、
前記変位検出部の検出結果から上から一枚目の前記被縫製物の状態を推定する推定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の取り上げ装置において、
前記制御装置は、前記選択部からの選択に従って、
前記分離機構単独により前記被縫製物の取り上げを行う第一の取り上げ動作と、前記ノズル機構と前記分離機構の組み合わせにより前記被縫製物の取り上げを行う第二の取り上げ動作と、前記吸引機構と前記分離機構の組み合わせにより前記被縫製物の取り上げを行う第三の取り上げ動作のいずれかの動作制御を実行することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の取り上げ装置において、
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第一の取り上げ動作において、
前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3に記載の取り上げ装置において、
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第二の取り上げ動作において、
前記ノズル機構により、前記取り上げノズルからエアーを吹き出して上から一枚目の前記被縫製物を上方に引き寄せてから、前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項2から4のいずれか一項に記載の取り上げ装置において、
前記保持機構は、前記爪部材の上側で当該爪部材に対して相対的に下降して前記被縫製物を把持する把持部材と、前記把持部材に前記爪部材に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部とを有し、
前記制御装置は、前記第三の取り上げ動作において、
前記吸引機構の前記非吸着式吸引パッドにより、積層された前記被縫製物に対して上から一枚目の前記被縫製物を引き寄せてから、前記分離機構の前記爪部材の先端部を進出移動させて上から一枚目の前記被縫製物の下側に差し込み、前記保持機構の前記把持部材を相対的に下降させて上から一枚目の前記被縫製物を把持することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の取り上げ装置において、
前記推定部は、前記変位検出部の検出する前記積層された前記被縫製物の上面における積層方向の変位と、当該変位に基づく傾きとから上から一枚目の前記被縫製物の状態を推定することを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の取り上げ装置において、
前記制御装置は、前記推定部が推定した上から一枚目の前記被縫製物の状態に応じて、一枚目の前記被縫製物の状態の正常化を図るための正常化動作を実行することを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7に記載の取り上げ装置において、
前記制御装置は、前記ノズル機構、前記分離機構、前記吸引機構、前記保持機構のいずれか一つ又は複数を制御して前記正常化動作を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、ノズル機構と分離機構と吸引機構のいずれか一つ又は複数の組み合わせを選択する選択部を備え、制御装置は、選択部の選択に従って、積層された被縫製物を上から取り上げる動作制御を実行するので、各機構に適した被縫製物の取り上げ動作を行うことができ、多種の被縫製物について良好な取り上げを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態である取り上げ装置の斜視図である。
【
図2】取り上げ装置を
図1とは別の方向から見た斜視図である。
【
図3】取り上げ装置を
図1及び
図2とは別の方向から見た斜視図である。
【
図4】取り上げ装置を
図1~
図3とは別の方向から見た斜視図である。
【
図5】保持機構の一部を切り欠いて左方から見た側面図である。
【
図6】爪部材に対する二つの光電センサーの検出位置を平面視で示した説明図である。
【
図8】爪部材の上に被縫製物がない状態における把持部材の周囲の構成の斜視図である。
【
図9】爪部材の上に被縫製物がある状態における把持部材の周囲の構成の斜視図である。
【
図10】取り上げノズルの鉛直上下方向に沿った断面図である。
【
図11】取り上げ装置の制御系を示すブロック図である。
【
図12】第一の取り上げ動作の制御を示すフローチャートである。
【
図14】
図13に続く第一の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図15】被縫製物厚さ検知処理を示すフローチャートである。
【
図16】被縫製物厚さ検知処理における動作説明図である。
【
図17】
図16に続く被縫製物厚さ検知処理における動作説明図である。
【
図18】
図17に続く被縫製物厚さ検知処理における動作説明図である。
【
図19】
図18に続く被縫製物厚さ検知処理における動作説明図である。
【
図20】第二の取り上げ動作の制御を示すフローチャートである。
【
図22】
図21に続く第二の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図23】
図22に続く第二の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図24】
図23に続く第二の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図25】
図24に続く第二の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図26】第三の取り上げ動作の制御を示すフローチャートである。
【
図28】
図27に続く第三の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図29】
図28に続く第三の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図30】
図29に続く第三の取り上げ動作の動作説明図である。
【
図31】
図31(A)は「正常状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図31(B)は「正常状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図32】
図32(A)は「上めくり状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図32(B)は「上めくり状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図33】
図33(A)は「下めくり状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図33(B)は「下めくり状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図34】
図34(A)は「上生地不足状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図34(B)は「上生地不足状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図35】
図35(A)は「上生地過剰状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図35(B)は「上生地過剰状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図36】
図36(A)は「カール状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図、
図36(B)は「カール状態」における一枚目の被縫製物の上面の変位を示す線図である。
【
図37】一枚目の被縫製物に生じる表面状態の種別を推定する処理のフローチャートである。
【
図38】被縫製物の表面状態が「正常状態」である場合の動作説明図である。
【
図39】
図39(A)及び
図39(B)は、被縫製物の表面状態が「上めくり状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
【
図40】
図40(A)及び
図40(B)は、被縫製物の表面状態が「下めくり状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
【
図41】被縫製物の表面状態が「上生地不足状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
【
図42】被縫製物の表面状態が「上生地過剰状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
【
図43】被縫製物の表面状態が「カール状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の実施形態]
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1~
図4は本実施形態である取り上げ装置10をそれぞれ別の方向から見た斜視図である。
この取り上げ装置10は、当該取り上げ装置10を保持して前後左右上下の任意の方向に搬送することが可能な搬送装置、さらには、取り上げ装置10を互いに直交する三軸回りに回動させて姿勢を変えることができるロボットアーム等の搬送装置に支持される。
そして、取り上げ装置10は、複数枚のシート状の被縫製物Cを積層状態で保持する供給装置から一枚ずつ被縫製物Cを取り上げて、ミシンに搬送され、被縫製物Cの供給を行う。
【0018】
以下の説明では、後述する爪部材41の平坦な底面に平行であって当該爪部材41の進退移動方向をX軸方向、爪部材41の平坦な底面に平行であってX軸方向に直交する方向をY軸方向、X軸方向とY軸方向とに直交する方向をZ軸方向とする。
なお、図示しない供給装置において積層された複数枚の被縫製物Cから上から一枚目の被縫製物Cを取り上げる際には、取り上げ装置10のZ軸方向が鉛直上下方向に平行な状態に向けられる。
また、
図1~
図4に示すように、X軸方向に平行であって爪部材41が進出移動を行う方向を「前」、その逆方向を「後」とし、Y軸方向に平行であって取り上げ装置10を前方から見て左側を「左」、右側を「右」とし、Z軸方向に平行であって前述した被縫製物Cを取り上げる際に上側となる方向を「上」、下側となる方向を「下」とする。
なお、上記X軸,Y軸,Z軸及び前後左右上下方向は、取り上げ装置10上の固定的な視点における各方向を示すものであって、取り上げ装置10そのものの向きは、ロボットアーム等の搬送装置によって任意に変更され得る。以下の説明におけるX軸,Y軸,Z軸及び前後左右上下方向は、原則として、取り上げ装置10上の固定的な視点における各方向を示し、特に断りがない限り、搬送装置側からの視点ではないものとする。
【0019】
[取り上げ装置の概略構成]
取り上げ装置10は、エアーの吹き出しにより積層された被縫製物Cから上から一枚目の被縫製物Cを上方に引き寄せるためのノズル機構20と、上から一枚目の被縫製物Cを保持するための保持機構50と、積層された被縫製物Cから上から一枚目の被縫製物Cを分離させるための分離機構40と、積層された被縫製物Cに対して上から一枚目の被縫製物Cを吸い寄せるための吸引機構30と、ノズル機構20と吸引機構30と分離機構40と保持機構50とを支持するベース体11と、ノズル機構20と吸引機構30と分離機構40と保持機構50とを制御する制御装置90(
図11参照)とを備えている。
【0020】
[ベース体]
ベース体11は、取り上げ装置10の上側に位置する天板111と前側に位置する前側板112とを有し、これらが一体的に連結されている。
前側板112の前面には、取り上げ装置10を支持する図示しないロボットアームが取り上げ装置10を位置決めする際に被縫製物C等の対象物を検出するための二次元変位センサー12が設けられている。
この二次元変位センサー12は、その下方に対して、X-Z平面に沿った断面形状を検出する機能を有し、取り上げ装置10をY軸方向に沿って走査移動させることにより、下方の三次元形状を検出することができる。これにより、二次元変位センサー12は、積層された被縫製物Cの上面における積層方向(Z軸方向)の変位を検出する変位検出部として機能する。
【0021】
[分離機構]
分離機構40は、
図1~
図4に示すように、図示しない供給装置において積層された複数の被縫製物Cの上から一枚目の被縫製物Cとその下の二枚目の被縫製物Cとの間に前端部を挿入するための板状の爪部材41と、爪部材41をX軸方向に沿って進退移動させる進退駆動部42とを備えている。
【0022】
爪部材41は、全体的に板状であって、その底面はX-Y平面に平行な状態で進退駆動部42に支持されている。
爪部材41の前側の端部である先端部411は、平面視で、前に向かうに従ってY軸方向の幅が縮小する尖鋭形状となっている。また、爪部材41の先端部411は、その上面が傾斜面となって、前に向かうに従ってZ軸方向の厚みが薄くなるように形成されている。これにより、積層された被縫製物Cと被縫製物Cとの間に爪部材41の先端部411を差し込むことを容易にしている。
【0023】
また、爪部材41の底面には、底面中央部から先端部411まで溝状のエアーの流路413が形成されている。この流路413は、先端部411から前方に向かって開口しており、前方にエアーを吹き出すノズル口412となっている。流路413の根元部分は、図示しないファンやポンプ、正圧タンク等の正圧エアーの供給源に接続されている。
なお、流路413は、
図2~
図4では、下方に解放されているように見えるが、実際には爪部材41の底面に透明フィルムが貼られており、ノズル口412から前方に向かってのみエアーが吹き出し可能となっている。
【0024】
進退駆動部42は、電動スライダーから構成されており、駆動源となるモーター及びボールネジ機構等の直動機構を内蔵した本体部421と、本体部421にX軸方向に沿って設けられたスライドレール422と、スライドレール422に沿って滑動するスライドブロック423とを備えている。
スライドブロック423は、スライドレール422に対して図示しないリニアガイドを介して支持されている。さらに、スライドブロック423は、本体部421のボールナットに連結されて、X軸方向に沿った任意の位置に位置決めが可能となっている。
【0025】
また、スライドブロック423は、Z軸方向に沿って図示しない二本の支柱により爪部材41を吊下状態で固定的に支持している。これにより、爪部材41は、スライドブロック423に対してZ軸方向に一定の距離を維持しながら、X軸方向に沿って進退動作を行う。
【0026】
[保持機構]
図5は保持機構50の一部を切り欠いて左方から見た側面図である。
保持機構50は、爪部材41の上面に取り付けられており、爪部材41と共にX軸方向に沿って進退移動動作を行う。
保持機構50は、
図1~
図5に示すように、爪部材41に対してZ軸方向に沿って昇降可能に支持された保持ブロック51と、保持ブロック51に昇降動作を付与する駆動源としての保持用エアシリンダー52と、保持ブロック51の下降時に爪部材41の上面にある被縫製物Cを上から把持する把持部材53と、保持ブロック51の左右両端部にそれぞれ設けられた光電センサー55とを備えている。
【0027】
保持ブロック51は、前述した爪部材41を支持する二本の支柱が貫通しており、当該支柱に沿って上下動可能に支持されている。また、二本の支柱には保持ブロック51を常時下方に押圧する押圧バネが装備されている。
保持用エアシリンダー52は、爪部材41の上面における左右に一つずつ設けられており、保持ブロック51を前述した押圧バネに抗して上方に押し上げることができる。保持用エアシリンダー52は、保持ブロック51を介して把持部材53に爪部材41に対する相対的な下降方向に沿った移動動作を付与する把持駆動部として機能する。
【0028】
把持部材53は、保持ブロック51によりZ軸方向に沿って移動可能に支持されている。この把持部材53は、保持ブロック51をZ軸方向に沿って貫通する軸部531と、当該軸部531の下端部に固定的に設けられ、軸部531よりも外径の大きい略円板状の当接部532と、軸部531の上端部に固定的に設けられ、軸部531よりも外径の大きい略円柱状の頭部533とを備えている。
【0029】
把持部材53の当接部532は、保持ブロック51の底面よりも下方に突出した状態で設けられ、当接部532と保持ブロック51との間には、把持部材53を下方に押圧する押圧バネ54が設けられている。
これにより、保持ブロック51の下降時に、把持部材53の当接部532が爪部材41の上面の被縫製物Cに当接し、押圧バネ54のバネ圧で把持することができる。
【0030】
把持部材53の頭部533は、保持ブロック51の上方及び前方が開放された凹部511内に配置されており、頭部533の上端部に対して、後述するタッチセンサー36が上方から接触することが可能となっている。即ち、保持ブロック51が下降して把持部材53の当接部532が爪部材41の上面の被縫製物Cを把持すると、保持ブロック51に対して相対的に把持部材53が押し上げられた状態となる。このときの把持部材53に上方からタッチセンサー36が接触し、接触時点のタッチセンサー36の高さを検出することで、制御装置90が爪部材41と当接部532の間に把持された被縫製物Cの厚さを検出し、適正な把持が行われているか否かを判定する。
【0031】
保持ブロック51の左右に個別に設けられた二つの光電センサー55は、いずれもZ軸方向の下方に向けて配置されている。各光電センサー55は、鉛直下方に検出光を出射し、その反射光の光強度を検出して、爪部材41の上面の被縫製物Cの有無を求めることができる。
【0032】
図6は、爪部材41に対する二つの光電センサー55の検出位置Sを平面視で示した説明図である。
二つの光電センサー55は、爪部材41が進退駆動部42により前進移動を行って、被縫製物Cが爪部材41と把持部材53の間に相対的に進入した状態において、被縫製物Cの前端部さらには左又は右の端部の位置検出を行う。
【0033】
即ち、爪部材41が進退駆動部42により前進移動を行った後に、被縫製物Cを適正な位置で把持する必要があるため、光電センサー55により被縫製物Cの端部を検出して、ロボットアームが把持位置への位置決めを行う。
より具体的には、ロボットアームが取り上げ装置10を前方に移動させることにより、被縫製物Cは、その後端部が相対的に後方に移動して二つの光電センサー55の検出位置Sに到達する。その際の被縫製物Cの後端部の有無の変化を検出することにより被縫製物Cの後端部を検出位置Sに位置決めすることができる。その際、二箇所で検出するので、被縫製物Cの後端部を左右方向に対して傾きのない向きに位置決めすることができる。
また、必要な場合には、被縫製物Cの後端部の位置決め後に、ロボットアームが取り上げ装置10を左右いずれかの方向に移動させて、左右いずれかの光電センサー55により被縫製物Cの左端部又は右端部の有無を検出することにより被縫製物Cの左方向又は右方向の端部を検出位置Sに位置決めすることができる。
【0034】
[吸引機構]
図7は後述する昇降ブロック33の周囲の構成の斜視図である。
図1~
図7に示すように、吸引機構30は、上から一枚目の被縫製物Cの吸引を行う非吸着式吸引パッド31と、複数本の支軸32を介して非吸着式吸引パッド31をZ軸方向に沿って往動可能に支持する昇降ブロック33と、昇降ブロック33をZ軸方向に沿って移動させる昇降駆動部34とを備えている。
【0035】
非吸着式吸引パッド31は、被縫製物C側の対向面である底面に円形に開口が形成されており、円形の開口からは下方に向かってエアーが吐出される。
非吸着式吸引パッド31は、ファンやポンプ、正圧タンク等に接続されて正圧エアーが供給される。
これにより、円形の開口から被縫製物Cにエアーが吹き出されると、円形の開口の中央部側はエアーの逃げ道がないことから、半径方向外側に向かってエアーは吹き出される。これにより、ベルヌーイの法則に従って、非吸着式吸引パッド31の底面の中央部に低圧領域が発生する。
従って、非吸着式吸引パッド31の底面を被縫製物Cに接触させなくともある程度接近すると、被縫製物Cを非接触吸着状態で取り上げることができる。
なお、非吸着式吸引パッド31の開口からは底面に対して垂直方向(被縫製物C側)にエアーが吐出される例を説明したが、エアーの吐出方向は、円形の開口の半径方向外側に向けて傾斜させてもよい。
【0036】
昇降駆動部34は、電動スライダーから構成されており、駆動源となるモーター及びボールネジ機構等の直動機構を内蔵した本体部341と、本体部341にZ軸方向に沿って設けられたスライドレール342と、スライドレール342に沿って滑動するスライドブロック343とを備えている。
スライドブロック343は、スライドレール342に対して図示しないリニアガイドを介して支持されている。さらに、スライドブロック343は、本体部341のボールナットに連結されて、Z軸方向に沿った任意の位置に位置決めが可能となっている。
【0037】
昇降ブロック33は、昇降駆動部34のスライドブロック343に連結支持されており、Z軸方向に沿って任意に昇降動作が行われる。
昇降ブロック33は、当該昇降ブロック33をZ軸方向に沿って貫通し、Z軸方向に沿って滑動可能な複数の支軸32を介して非吸着式吸引パッド31を吊下支持している。
各支軸32は、上端部に昇降ブロック33に対する抜け止めが設けられ、下端部は非吸着式吸引パッド31の上面に固定的に連結されている。また、各支軸32には、昇降ブロック33と非吸着式吸引パッド31との間に押圧バネ35が配置され、昇降ブロック33に対して非吸着式吸引パッド31を常に下方に押圧している。
【0038】
また、昇降ブロック33の底面であって、前述した把持部材53が爪部材41上の被縫製物Cを把持した時の把持部材53の真上となる位置には、下方に向けられたタッチセンサー36が設けられている。
把持部材53は、保持ブロック51の下降時において爪部材41の上面に被縫製物Cが存在すると、その厚さ分だけ保持ブロック51に対して上昇を生じる。
この状態で昇降ブロック33を下降させると、タッチセンサー36が把持部材53の頭部533の上端部に接触したことを検出することができる。
従って、昇降ブロック33の下降時にタッチセンサー36による把持部材53との接触の検出を監視し、接触検出時の昇降駆動部34の駆動源であるアクチュエーターの動作パルス数をカウントすることで、爪部材41に対する把持部材53のZ軸方向の位置を検出することができる。
この爪部材41に対する把持部材53のZ軸方向の位置は、爪部材41の上面における被縫製物CのZ軸方向に沿った厚さに対応する位置を示すので、タッチセンサー36は、厚さ検出部として機能する。
【0039】
具体的には、制御装置90は、爪部材41の上面に被縫製物Cが存在しないときにタッチセンサー36が把持部材53との接触を検出した時のカウント数を把持部材の53の高さh1(
図8参照)として予め記憶しておき、被縫製物Cを把持したときに、タッチセンサー36が把持部材53との接触を検出した時のカウント数から把持部材の53の高さh2(
図9参照)を求め、h2とh1との差を求めることで、把持部材53の浮き上がり量を算出する。
そして、制御装置90は、把持部材53の浮き上がり量から、被縫製物Cの把持が適正に行われているか否かを判定する判定部として機能する。例えば、浮き上がり量が過小な場合には、被縫製物Cの把持が行われなかったと判断し、過大な場合には二枚以上の被縫製物Cを把持したと判断する等により、把持エラーを判定することができる。
【0040】
[ノズル機構]
図10は後述する取り上げノズル21のY-Z平面に沿った断面図である。
ノズル機構20は、
図1~
図4,
図7及び
図10に示すように、上から一枚目の被縫製物Cを上方に引き寄せる取り上げノズル21と、前述した昇降ブロック33に対して取り上げノズル21をZ軸方向に沿って往動可能とする複数本の支軸22とを備えている。なお、取り上げノズル21を昇降可能に支持する昇降ブロック33と、取り上げノズル21に昇降動作を付与する昇降駆動部34とは吸引機構30と共用している。従って、昇降ブロック33と昇降駆動部34は、ノズル機構20の昇降ブロック及び昇降駆動部ということもできる。
【0041】
取り上げノズル21は、
図10に示すように、上から一枚目の被縫製物Cの上面に対向する底面211に設けられ、エアーの吹き出し側端部であるY軸方向の右端部に抜ける通風溝212と、当該通風溝212の内側に沿って右側にエアーを吹き出すノズル口213と、ノズル口213に通じるエアーの流路214にエアーを供給するための供給管215を有している。
【0042】
供給管215は、Z軸方向に沿った管状体であり、取り上げノズル21の上部に設けられている。供給管215の上端部は、ファンやポンプ、正圧タンク等に接続されて正圧エアーが供給される。
ノズル口213に通じるエアーの流路214は、Y軸方向に沿って形成されており、その左端部は供給管215の管内流路と連結されている。
これにより、取り上げノズル21の外部から供給されるエアーがノズル口213から右方に吐出される。
【0043】
通風溝212は、底面211において、下方に向かって開放された溝であり、流路214の延長線上にY軸方向に沿って形成されている。
取り上げノズル21の底面211及び通風溝212の溝内底面216は、エアーの吹き出し側端部である右端部を除いてX-Y平面に平行な水平面となっている。一方、底面211及び溝内底面216の右端部は、被縫製物Cから幾分離隔する方向(上方)を向いている。より詳細には、底面211及び溝内底面216の右端部は、右方に向かうにつれて上方に傾きが漸増する曲面状に形成されている。
また、取り上げノズル21の底面211の右端部は、段差217により底面211の他の部分よりも被縫製物Cに対して上方に離隔している。
【0044】
取り上げノズル21は、上記構造により、ノズル口213から通風溝212内に右方に向かってエアーが吐出されると、エアーは、矢印Wに示すように、溝内底面216に沿って通風溝212内を進行し、コアンダ効果により、その右端部から右斜め上方に吐出される。その結果、通風溝212の右端部の下側が負圧状態となり、底面211の右端部に沿って被縫製物Cを引き寄せることが可能となる。
前述した非吸着式吸引パッド31も、負圧を形成して被縫製物Cを吸引する構成だが、当該非吸着式吸引パッド31は、エアーが外周の全方位に吹き出す構造となっている。これに対して、取り上げノズル21は、エアーが一定の方向(右方)に吐出される構造であるため、取り上げノズル21を被縫製物Cの上面に接近配置し、取り上げノズル21のエアーの吹き出し側端部を被縫製物Cの端部近傍に配置することにより、被縫製物Cの端部を局所的に上方にめくり上げるように引き寄せることが可能となる。
このような構造により、取り上げノズル21は、上から一枚目の被縫製物Cは、二枚目の被縫製物Cに対して局所的に徐々に剥離させるようにめくり上げることができ、二枚目の被縫製物Cが一枚目の被縫製物Cに密着したまま一緒に引き寄せてしまうことを抑制することができる。
【0045】
なお、取り上げノズル21の通風溝212の溝内底面216は、右端部が上方に傾斜した一つの傾斜面で形成しても良いし、右側に向かうにつれて上方への傾斜角が大きくなる複数の傾斜面で形成しても良い。
【0046】
複数の支軸22は、昇降ブロック33をZ軸方向に沿って貫通し、昇降ブロック33に対してZ軸方向に沿って滑動可能となっている。そして、各支軸22は、上端部に昇降ブロック33に対する抜け止めが設けられ、下端部は取り上げノズル21の上面に固定的に連結されている。また、各支軸22には、昇降ブロック33と取り上げノズル21との間に押圧バネ23が配置され、昇降ブロック33に対して取り上げノズル21を常に下方に押圧している。
【0047】
押圧バネ23により昇降ブロック33に対して最大限に下方に押し出された状態の取り上げノズル21の底面211と、押圧バネ35により昇降ブロック33に対して最大限に下方に押し出された状態の非吸着式吸引パッド31の底面とは、Z軸方向について同じ位置(高さ)となるように配置されている。
【0048】
また、複数の支軸22の一つには、その上端部に永久磁石24が装備されており、昇降ブロック33には、永久磁石24に近接対向するように磁気センサー25が支持されている。この磁気センサー25は、永久磁石24のZ軸方向における位置検出を行うことができる。
これにより、爪部材41の上面に存在する被縫製物Cに対して、少なくとも取り上げノズル21の底面211が当接する規定の位置まで昇降ブロック33を下降させた状態で、磁気センサー25が永久磁石24のZ軸方向における位置を検出することで、磁気センサー25もまた、爪部材41の上の被縫製物Cの厚さを検出する厚さ検出部として機能する。
【0049】
より具体的には、制御装置90は、爪部材41の上面に被縫製物Cが存在しない状態で規定の位置まで昇降ブロック33を下降させて、磁気センサー25が検出した永久磁石24のZ軸方向における位置を基準位置として予め記憶しておく。
そして、制御装置90は、被縫製物Cの取り上げの際に、規定の位置まで昇降ブロック33を下降させて、磁気センサー25が永久磁石24のZ軸方向における位置を検出し、基準位置との差分から、爪部材41の上の被縫製物Cの厚さを求めることができる。
この場合も、制御装置90は、基準位置との差分値から、被縫製物Cの把持が適正に行われているか否かを判定する判定部として機能する。例えば、差分値が過小な場合には、被縫製物Cの把持が行われなかったと判断し、過大な場合には二枚以上の被縫製物Cを把持したと判断する等により、把持エラーを判定することができる。
【0050】
[制御装置]
図11は取り上げ装置10の制御系を示すブロックである。
制御装置90は、各種の演算処理を行うCPU91と、上述した各構成の動作制御に関するプログラムが格納されたROM92と、CPU91の処理に関する各種データをワークエリアに格納するRAM93と、各種の設定データ等を記録する記憶部としてのEEPROM94とを備えている。なお、記憶部はEEPROMに限らず、不揮発性のあらゆるメモリ、記憶装置を代用することができる。
【0051】
制御装置90には、吸引機構30の昇降駆動部34の駆動源と分離機構40の進退駆動部42の駆動源とがそれぞれ駆動回路34a,42aを介して接続されている。
また、制御装置90には、取り上げノズル21へのエアーを供給する電磁弁218と、非吸着式吸引パッド31へのエアーを供給する電磁弁311と、爪部材41のノズル口412にエアーを供給する電磁弁414と、保持用エアシリンダー52を作動させる電磁弁521とが、それぞれ駆動回路218a,311a,414a,521aを介して接続されている。
さらに、制御装置90には、二次元変位センサー12と、磁気センサー25と、タッチセンサー36と、光電センサー55とが、それぞれインターフェイス12a,25a,36a,55aを介して接続されている。
【0052】
また、取り上げ装置10は、供給装置から上から一枚目の被縫製物Cを取り上げるに際して、後述する第一~第三の取り上げ動作を選択して行うことができる。このため、制御装置90には、第一~第三の取り上げ動作のいずれを実行すべきかを選択するための選択部としての入力装置96がインターフェイス96aを介して接続されている。
さらに、取り上げ装置10は、当該取り上げ装置10を支持し、移動位置決めを行う搬送装置としてのロボットアームとの協働により、供給装置に用意された積層状態の被縫製物Cの上から一枚目の被縫製物Cの取り上げと、ミシンへの供給とを行うため、ロボットアームの制御装置101との通信を行うための通信インターフェイス95が制御装置90に併設されている。
なお、取り上げ装置10と、取り上げ装置10を搬送する搬送装置としてのロボットアームと、ロボットアームの制御装置101とを含む構成を取り上げシステムとする。
【0053】
[第一の取り上げ動作]
上述のように制御装置90のCPU91は、予め入力装置96により選択設定された第一~第三の取り上げ動作のいずれかを実行するように取り上げ装置10を制御する。
ここでは、第一の取り上げ動作の動作制御について、
図12のフローチャート及び
図13~
図14の動作説明図に基づいて説明する。
【0054】
第一の取り上げ動作では、ノズル機構20及び吸引機構30を使用しないで、分離機構40のみにより上から一枚目の被縫製物Cの取り上げ作業を行う。この第一の取り上げ制御は、被縫製物Cが端部にカールが生じる素材ではない場合や、被縫製物Cが繊維質であることにより繊維の絡みにより被縫製物C同士の張り付きが生じる素材ではない場合に好適である。
【0055】
予め、取り上げ装置10は、ロボットアームにより積層配置された被縫製物Cの手前上方に搬送される。このとき、ロボットアームは、被縫製物Cが積層配置された載置面と取り上げ装置10のX-Y平面とが平行となるように支持する。
そして、CPU91は、二次元変位センサー12により下方の積層された被縫製物Cの形状及び位置検出並びに一枚目の被縫製物Cの高さ検出を行い、ロボットアーム側に出力する(ステップS1)。
【0056】
ロボットアームは、この検出に基づいて
図13に示すように、爪部材41の底面が一枚目の被縫製物Cと二枚目の被縫製物の間の高さとなり、先端部411が積層された被縫製物Cの後端部に対向するように、取り上げ装置10の位置決めを行う。CPU91は、上記位置決め動作の完了待ち状態となる(ステップS3)。
【0057】
そして、ロボットアームの位置決めが完了すると、CPU91は、
図14に示すように、進退駆動部42を制御して爪部材41を前進移動させる(ステップS5)。これにより、上から一枚目の被縫製物Cと二枚目の被縫製物Cの間に爪部材41の先端部411が差し込まれ、これらを分離する。
また、爪部材41の前進移動に伴い、ロボットアームは取り上げ装置10を前方に移動するため、CPU91は、この前方移動の動作待ちを行う(ステップS7)。
【0058】
取り上げ装置10の前方移動の際に、CPU91は、二つの光電センサー55により、一枚目の被縫製物Cの後端部の検出を行い(ステップS9)、検出されるとロボットアームに停止指令を入力する(ステップS11)。
また、被縫製物Cの左端部又は右端部を検出位置Sに位置決めする場合には、さらに、ロボットアームに対して右方移動又は左方移動の動作指令を入力して、検出位置Sで停止させる。
【0059】
これら被縫製物Cの端部検出により、保持機構50に対して被縫製物Cが相対的に適正な把持位置に位置決めされる。
そして、CPU91は、保持用エアシリンダー52を作動させて、保持ブロック51を下降させる(ステップS13)。これにより、被縫製物Cは、爪部材41の上面において、上から把持部材53の当接部532が圧接し、把持された状態となる。
また、保持ブロック51の下降動作に伴い、CPU91は、被縫製物厚さ検知処理を実行し(ステップS15)、爪部材41と把持部材53の当接部532との間の被縫製物Cの厚さを求め、その値から、複数枚の被縫製物Cを把持していないか、或いは、一枚も被縫製物Cを把持できていないか等を判断し、把持エラーの発生を判定する(ステップS17)。なお、被縫製物厚さ検知処理の詳細は別途後述する。
【0060】
そして、把持エラーが生じていると判定した場合には、ステップS1に戻り、第一の取り上げ動作のリトライを実行する。また、適正に一枚の被縫製物が把持されていると判定した場合には、その旨をロボットアーム側に通知し、第一の取り上げ動作の動作制御を終了する。
ロボットアーム側では、取り上げ装置10をミシンまで搬送し、予め定められた供給位置に把持された被縫製物Cを供給する。
【0061】
[被縫製物厚さ検知処理]
前述した被縫製物厚さ検知処理について、
図15のフローチャート及び
図16~
図19の動作説明図に基づいて説明する。
被縫製物厚さ検知処理において、CPU91は、
図16に示すように、ロボットアームによる適正な把持位置への位置決め待ちを行ってから、保持用エアシリンダー52を作動させて、保持ブロック51を下降させる(ステップS21)。
【0062】
これにより、
図17に示すように、把持部材53が押圧バネ54のバネ圧による加圧状態で被縫製物Cを把持した状態となり、把持部材53は、被縫製物Cの厚さ分だけ爪部材41の上面から上方に離隔した位置で停止する。
そして、CPU91は、昇降駆動部34を制御して、昇降ブロック33の下降を開始する。
昇降ブロック33の下降により、
図18に示すように、取り上げノズル21及び非吸着式吸引パッド31も下降し、その底面が被縫製物Cに到達する。到達後も昇降ブロック33の下降動作は継続され、押圧バネ23,35が圧縮され、取り上げノズル21及び非吸着式吸引パッド31は下降せずに昇降ブロック33のみが下降する。これにより、取り上げノズル21の支軸22に装備された永久磁石24は、磁気センサー25に対して相対的に上方に移動する。
CPU91は、昇降ブロック33が規定の高さまで下降した時に磁気センサー25が検出する永久磁石24の検出位置の読み取りを行う。規定の高さは、例えば、被縫製物Cが存在しない状態で昇降ブロック33が下降した時に取り上げノズル21及び非吸着式吸引パッド31の底面が爪部材41の上面に到達する高さとする。
爪部材41の上面に被縫製物Cが存在する場合には、昇降ブロック33が上記規定の高さに達すると、取り上げノズル21及び非吸着式吸引パッド31は、被縫製物Cの厚さ分だけ上方に位置変化を生じているので、このときの磁気センサー25の検出値から、爪部材41の上面の被縫製物Cの厚さを算出することができる。
【0063】
さらに、CPU91は、タッチセンサー36による把持部材53の頭部533に対する接触の検出状態を監視しながら昇降ブロック33の下降動作を継続し(ステップS25)、
図19に示すように、昇降ブロック33のタッチセンサー36が把持部材53の頭部533に対する接触を検出したときに昇降ブロック33を停止させる。そして、昇降ブロック33の停止時における昇降駆動部34の駆動源の動作ステップ数を記録する(ステップS27)。そして、記録されたステップ数と予め測定された基準位置におけるステップ数(被縫製物Cが存在しない場合のタッチセンサー36検出時のステップ数)との差分から、爪部材41の上面の被縫製物Cの厚さを算出することができる(ステップS29)。
【0064】
このように、被縫製物厚さ検知処理では、磁気センサー25の検出に基づく被縫製物Cの厚さの算出と、タッチセンサー36の検出に基づく被縫製物Cの厚さの算出とによって、二系統により被縫製物Cの厚さを求めることができる。
従って、前述したステップS17における把持エラーの判定の際には、検出された二系統の被縫製物Cの厚さに対して、それぞれ、その厚さの適否を判断しても良い。そして、両方の値が適正である場合には、把持が適正に行われたと判定し、いずれか一方でも不適正である場合には、把持が不適正であると判定しても良い。
【0065】
[第二の取り上げ動作]
次に、第二の取り上げ動作の動作制御について、
図20のフローチャート及び
図21~
図25の動作説明図に基づいて説明する。
【0066】
第二の取り上げ動作では、吸引機構30を使用しないで、ノズル機構20と分離機構40との組み合わせで上から一枚目の被縫製物Cの取り上げ作業を行う。この第二の取り上げ制御は、被縫製物Cが端部にカールが生じる素材や被縫製物Cが繊維質であることによる繊維の絡み、その他の要因により被縫製物C同士の張り付きが生じる素材であっても取り上げを行うことができる。
【0067】
予め、取り上げ装置10は、ロボットアームにより積層配置された被縫製物Cの手前上方に搬送される。この場合も、ロボットアームは、被縫製物Cが積層配置された載置面と取り上げ装置10のX-Y平面とが平行となるように支持する。
そして、CPU91は、二次元変位センサー12により下方の積層された被縫製物Cの形状及び位置検出並びに一枚目の被縫製物Cの高さ検出を行い、ロボットアーム側に出力する(ステップT1)。
【0068】
そして、CPU91は、昇降駆動部34を制御して、取り上げノズル21の底面211が爪部材41の底面に等しくなる高さまで取り上げノズル21を下降させる(ステップT3)。
一方、ロボットアームは、二次元変位センサー12の検出に基づいて
図21に示すように、爪部材41の底面が一枚目の被縫製物Cの上面より幾分高くなり、先端部411が積層された被縫製物Cの後端部に対向するように、取り上げ装置10の位置決めを行う。
CPU91は、ロボットアームによる位置決めの完了待ちを行う(ステップT5)。
【0069】
そして、取り上げノズル21は、退避状態の爪部材41のすぐ前方に配置されているので、ロボットアームによる位置決めが完了すると、取り上げノズル21は、一枚目の被縫製物Cの後端部の上方となる。
この状態で、CPU91は、取り上げノズル21の電磁弁218を制御して、エアーの吐出状態とする(ステップT7)。すると、一枚目の被縫製物Cの後端部は、
図22に示すように、取り上げノズル21の吹き出し端部側、つまり、上方にめくり上げられた状態となる。
【0070】
この状態で、CPU91は、
図23に示すように、進退駆動部42を制御して爪部材41の前進移動を開始させる(ステップT9)。
さらに、CPU91は、
図24に示すように、エアーの吐出を停止すると共に、昇降駆動部34を制御して、取り上げノズル21を上昇させて、前進移動を行う爪部材41との干渉を回避する(ステップT11)。
爪部材41は、
図25に示すように、さらに前進して上から一枚目の被縫製物Cと二枚目の被縫製物Cの間に差し込まれ、これらを分離する。
【0071】
これ以降の処理は、第一の取り上げ動作のステップS7~S19までと同一である。
即ち、CPU91は、ロボットアームによる前方移動の動作待ちを行い(ステップT13)、二つの光電センサー55により一枚目の被縫製物Cの端部位置検出を行い(ステップT15)、ロボットアームを把持位置で停止させる(ステップT17)。
さらに、被縫製物Cの把持を行い(ステップT19)、被縫製物厚さ検知処理を行い(ステップT21)、把持の適否を判定し(ステップT23)、把持状態が不適正であれば取り上げ動作をステップT1からリトライし(ステップT25)、適正であれば動作を終了する。
【0072】
[第三の取り上げ動作]
次に、第三の取り上げ動作の動作制御について、
図26のフローチャート及び
図27~
図30の動作説明図に基づいて説明する。
【0073】
第三の取り上げ動作では、ノズル機構20を使用しないで、吸引機構30と分離機構40との組み合わせで上から一枚目の被縫製物Cの取り上げ作業を行う。この第三の取り上げ制御は、被縫製物Cが端部にカールが生じる素材ではない場合や被縫製物C同士の張り付きが生じる素材でない場合であって、分離機構40のみでは一枚目の取り上げが困難な被縫製物Cの取り上げを行う。
【0074】
予め、取り上げ装置10は、ロボットアームにより積層配置された被縫製物Cの手前上方に搬送される。この場合も、ロボットアームは、被縫製物Cが積層配置された載置面と取り上げ装置10のX-Y平面とが平行となるように支持する。
そして、CPU91は、二次元変位センサー12により下方の積層された被縫製物Cの形状及び位置検出並びに一枚目の被縫製物Cの高さ検出を行い、ロボットアーム側に出力する(ステップU1)。
【0075】
そして、ロボットアームは、二次元変位センサー12の検出に基づいて
図27に示すように、爪部材41の底面が一枚目の被縫製物Cと二枚目の被縫製物の間となる高さとなり、非吸着式吸引パッド31の底面が一枚目の被縫製物Cの上面より幾分上方となる位置に取り上げ装置10の位置決めを行う。
CPU91は、ロボットアームによる位置決めの完了待ちを行う(ステップU3)。
【0076】
そして、非吸着式吸引パッド31は、退避状態の爪部材41の前方に配置されているので、ロボットアームによる位置決めが完了すると、非吸着式吸引パッド31は、一枚目の被縫製物Cの後端部の上方となる。
この状態で、CPU91は、非吸着式吸引パッド31の電磁弁311を制御して、エアーの吐出状態とする(ステップU5)。すると、一枚目の被縫製物Cは、
図28に示すように、非吸着式吸引パッド31の底面に引き寄せられた状態となる。
【0077】
この状態で、CPU91は、
図29に示すように、進退駆動部42を制御して爪部材41の前進移動を開始させる(ステップU7)。
さらに、CPU91は、
図30に示すように、エアーの吐出を停止する(ステップU9)。
爪部材41は、さらに前進して上から一枚目の被縫製物Cと二枚目の被縫製物Cの間に差し込まれ、これらを分離する。
【0078】
これ以降の処理は、第一の取り上げ動作のステップS7~S19までと同一である。
即ち、CPU91は、ロボットアームによる前方移動の動作待ちを行い(ステップU11)、二つの光電センサー55により一枚目の被縫製物Cの端部位置検出を行い(ステップU13)、ロボットアームを把持位置で停止させる(ステップU15)。
さらに、被縫製物Cの把持を行い(ステップU17)、被縫製物厚さ検知処理を行い(ステップU19)、把持の適否を判定し(ステップU21)、把持状態が不適正であれば取り上げ動作をステップU1からリトライし(ステップU23)、適正であれば動作を終了する。
【0079】
[被縫製物の表面状態推定処理]
次に、制御装置90のCPU91が実行する被縫製物の表面状態推定処理について、
図31~
図36に基づいて説明する。
図31(A)、
図32(A)、
図33(A)、
図34(A)、
図35(A)、
図36(A)は、積層された取り上げ前の被縫製物Cの上から一枚目の被縫製物Cに生じる各種の表面状態を示す側面図である。また、
図31(B)、
図32(B)、
図33(B)、
図34(B)、
図35(B)、
図36(B)は、一枚目の被縫製物Cの上面の変位を示す線図であり、横軸はX軸方向における位置、縦軸はZ軸方向の検出変位を示す。
【0080】
積層された取り上げ前の被縫製物Cの上から一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態は、「正常状態」(
図31(A))、「上めくり状態」(
図32(A))、「下めくり状態」(
図33(A))、「上生地不足状態」(
図34(A))、「上生地過剰状態」(
図35(A))、「カール状態」(
図36(A))が挙げられる。
【0081】
被縫製物Cを積層して載置する載置面において、X軸方向について、各被縫製物Cの後端部の位置を揃えるための基準点Fが予め設定されている。また、載置面上の被縫製物Cに対して、上から一枚目の被縫製物Cの上面における積層方向(Z軸方向)の変位を二次元変位センサー12により検出し、その検出結果から表面状態の種別を推定するための第一検出区間Aと第二検出区間BとがX軸方向について設定されている。
なお、取り上げ装置10のX軸方向に対する載置面上の被縫製物Cの向きや載置面の基準点Fの位置は、例えば、ロボットアームに予めティーチングで教示しても良い。或いは、載置面上に二次元変位センサー12等により位置検出可能なマーキングを設け、当該マーキングの位置から取得可能としても良い。前述した取り上げ動作の場合も同様である。
【0082】
第一検出区間Aは、被縫製物Cの後端部から前方に向かって一定範囲内に発生する状態を識別するための検出範囲であり、前述した基準点Fの前方に位置する始点Mから基準点Fまでの範囲である。例えば、第一検出区間Aは、X軸方向に数十ミリから数百ミリの範囲について設定される。
第二検出区間Bは、被縫製物Cの後端部に発生する状態を識別するための検出範囲であり、前述した基準点Fを中心として前後に数ミリから十数ミリの範囲に設定される。
二次元変位センサー12は、上記第一検出区間A及び第二検出区間Bを全て網羅し、且つ、前側と後側とにそれぞれ十分な余裕が取れる範囲(全検出範囲とする)で変位検出を行う。
【0083】
「正常状態」は、
図31(A)のように、各被縫製物Cの後端部がおおむね基準点Fに揃った状態で平坦に積層された状態を示す。
「正常状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図31(B)に示す。変位検出は、全検出範囲をX軸方向について微少単位(例えば、0.1~1.0[mm])のサンプリング間隔で走査してZ軸方向の変位を取得する。
「正常状態」の場合、積層枚数に応じた上面高さに対する変位の変動は非常に小さくなり、また、その後端部では、上面高さから載置面高さまで急激に下降する傾向を示す。
【0084】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「正常状態」か否かを以下の条件(1)~(3)によって判定する。
(1)第一検出区間A全体において、基準高さ(始点Mの高さ)に対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値未満であること
(2)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位減少量が第2変動閾値未満であること
(3)第二検出区間Bにおけるサンプリング間隔ごとの下向きの傾きが減少閾値以上となる部分が存在すること
【0085】
「正常状態」では、積層された被縫製物Cの上面は平坦となるので、条件(1)、(2)のように、上下の変位が少ないことを識別の条件とする。第1及び第2変動閾値は、例えば、被縫製物Cの1枚分(或いは数枚分)の厚さ程度の値としても良い。
さらに、「正常状態」では、積層された被縫製物Cの後端部は、全体の厚さ分の落差が生じるので、条件(3)のように、第二検出区間Bにおけるサンプリング間隔ごとの下向きの傾きが減少閾値以上となる部分が存在することを識別の条件とする。減少閾値は、例えば、サンプリング間隔に対して積層された規定枚数分の被縫製物Cの全体的な厚さの減少が生じる傾き程度としても良い。
上記第1及び第2変動閾値と減少閾値は、入力装置96によって個別に任意に設定することが可能である。
また、第1及び第2変動閾値を、被縫製物Cの1枚分(或いは数枚分)の厚さとする場合には、事前に、入力装置96から、被縫製物Cの厚さの値を入力することによりCPU91が第1及び第2変動閾値を算出しても良い。
また、減少閾値を、サンプリング間隔に対して積層された被縫製物Cの全体的な厚さの減少が生じる傾き程度とする場合には、載置面に積層される規定の被縫製物Cの積層枚数と被縫製物Cの厚さの値を入力してCPU91が減少閾値を算出しても良い。
【0086】
「上めくり状態」は、
図32(A)のように、一枚目の被縫製物Cの後端部が上から前方にめくり上がった状態を示す。
「上めくり状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図32(B)に示す。
「上めくり状態」の場合、めくり上がった被縫製物Cによって、上り勾配の盛り上がり部分が生じ、当該盛り上がり部分の前端部には、前方にめくり上がった被縫製物Cの後端部によって急峻で小さな立ち上がり部分が発生する。
【0087】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「上めくり状態」か否かを以下の条件(4),(5),(6)によって判定する。
(4)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値以上となる部分が存在すること
(5)第一検出区間A全体において、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きが傾き閾値以上となる部分が存在すること
(6)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第3変動閾値未満であること
【0088】
「上めくり状態」では、積層された被縫製物Cの上面に盛り上がり部分が生じるので、条件(4)に示すように、変位増加量が前述した第1変動閾値を超える部分が必ず発生する。
さらに、「上めくり状態」では、盛り上がり部分の前端部に急峻で小さな立ち上がり部分が発生するので、条件(5)に示すように、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きを求めると、傾き閾値以上となる部分が存在する。傾き閾値は、例えば、サンプリング間隔に対して被縫製物Cの一枚分程度の厚さ増加が生じる傾き程度としても良い。
【0089】
また、「上めくり状態」と近似する状態として、後述する「カール状態」が挙げられるが、これらを識別するために条件(6)が定められている。
「カール状態」は、被縫製物Cの後端部が上方に跳ね上がり、「上めくり状態」のように被縫製物Cの後端部は反り返って前斜め下向きとならないので、「カール状態」では、「上めくり状態」よりも高い変位が発生する。従って、「カール状態」と「上めくり状態」とで生じ得る変位の中間の値を第3変動閾値に設定する。この第3変動閾値は、例えば、「カール状態」と「上めくり状態」の実測値を蓄積し、経験則的に求めることができる。
そして、第一検出区間A内に第3変動閾値を超える変位増加量が生じないことにより、「カール状態」ではなく「上めくり状態」であることを識別する。
【0090】
第1変動閾値については前述した通りである。
傾き閾値と第3変動閾値は、入力装置96によって任意に設定することが可能である。
また、傾き閾値を、サンプリング間隔に対して被縫製物Cの一枚分程度の厚さ増加が生じる傾きとする場合には、事前に、入力装置96から、被縫製物Cの厚さの値を入力することにより傾き閾値を算出しても良い。
【0091】
「下めくり状態」は、
図33(A)のように、一枚目の被縫製物Cの後端部が下から前方にめくり込まれた状態を示す。
「下めくり状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図33(B)に示す。
「下めくり状態」の場合、めくり込まれた被縫製物Cによって、上り勾配の盛り上がり部分が生じる。「下めくり状態」の盛り上がり部分は、「上めくり状態」の盛り上がり部分と異なり、その前端部には、急峻で小さな立ち上がり部分がなく、滑らかに変位が漸増する形状となっている。
【0092】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「下めくり状態」か否かを以下の条件(4),(7)によって判定する。
(4)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値以上となる部分が存在すること
(7)第一検出区間A全体において、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きが傾き閾値未満であること
【0093】
「下めくり状態」では、積層された被縫製物Cの上面に盛り上がり部分が生じるので、条件(4)に示すように、変位増加量が前述した第1変動閾値を超える部分が必ず発生する。
さらに、「下めくり状態」では、盛り上がり部分の前端部は滑らかに変位が漸増するので、条件(7)に示すように、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きを求めると、傾き閾値以上となる部分が生じない。
なお、第1変動閾値及び傾き閾値については前述した通りである。
【0094】
「上生地不足状態」は、
図34(A)のように、一枚目の被縫製物Cの後端部が大きく前方にずれた状態を示す。
「上生地不足状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図34(B)に示す。
「上生地不足状態」の場合、大きく前方にずれた一枚目の被縫製物Cの後端部によって、下りの段差部分が生じる。
【0095】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「上生地不足状態」か否かを以下の条件(1),(8)によって判定する。
(1)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値未満となること
(8)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位減少量が第2変動閾値以上となる部分が存在すること
【0096】
「上生地不足状態」では、積層された被縫製物Cの上面は下りの段差部分を除いて平坦となるので、条件(1)のように、上側の変位が少ないことを識別の条件とする。
さらに、「上生地不足状態」では、積層された被縫製物Cの上面に下りの段差部分を生じるので、条件(8)のように、下側の変位が前述した第2変動閾値以上となる部分が存在することを識別の条件とする。
なお、第1変動閾値及び第2変動閾値については前述した通りである。
【0097】
「上生地過剰状態」は、
図35(A)のように、各被縫製物Cの後端部が大きく後方にずれた状態を示す。
「上生地過剰状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図35(B)に示す。
「上生地過剰状態」の場合、第一検出区間A内では、被縫製物Cの上面高さに対する変位の変動は非常に小さくなるが、第一検出区間Aの後端部よりも後方では、上面高さから載置面高さまで下降勾配となる傾向を示す。
【0098】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「上生地過剰状態」か否かを以下の条件(1),(2),(9)によって判定する。
(1)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値未満であること
(2)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位減少量が第2変動閾値未満であること
(9)第二検出区間Bにおけるサンプリング間隔ごとの下向きの傾きが減少閾値未満であること
【0099】
「上生地過剰状態」では、積層された被縫製物Cの上面は第一検出区間A内では平坦となるので、条件(1)、(2)のように、上下の変位が少ないことを識別の条件とする。
さらに、「上生地過剰状態」では、第一検出区間Aの後方で積層された被縫製物Cの後端部が全体の厚さ分の落差で緩やかな勾配を描くので、条件(9)のように、第二検出区間Bにおけるサンプリング間隔ごとの下向きの傾きが減少閾値未満であることを識別の条件とする。
なお、第1変動閾値、第2変動閾値及び減少閾値については前述した通りである。
【0100】
「カール状態」は、
図36(A)のように、一枚目の被縫製物Cの後端部が上方にめくり上がった状態を示す。
「カール状態」の被縫製物Cに対して二次元変位センサー12により、全検出範囲ついて、変位検出を行った結果を
図36(B)に示す。
「カール状態」の場合、めくり上がった被縫製物Cによって、上方に急峻で立ち上がる立ち上がり部分が生じ、当該立ち上がり部分の上端部は、前述した「上めくり状態」の盛り上がり部分の上端部よりも高くなる。
【0101】
制御装置90のCPU91は、二次元変位センサー12による前側から後側に向かう全検出範囲の走査によって、上記「カール状態」か否かを以下の条件(4),(5),(6)によって判定する。
(4)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第1変動閾値以上となる部分が存在すること
(5)第一検出区間A全体において、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きが傾き閾値以上となる部分が存在すること
(10)第一検出区間A全体において、基準高さに対してZ軸方向の変位増加量が第3変動閾値以上となる部分が存在すること
【0102】
「カール状態」では、積層された被縫製物Cの上面に立ち上がり部分が生じるので、条件(4)に示すように、変位増加量が前述した第1変動閾値を超える部分が必ず発生する。
さらに、「カール状態」では、立ち上がり部分が急峻で大きく立ち上がるので、条件(5)に示すように、サンプリング間隔ごとの上向きの傾きを求めると、傾き閾値以上となる部分が存在する。
【0103】
また、「カール状態」は、立ち上がり部分が「上めくり状態」の盛り上がり部分よりも高い変位が生じるので、適切に設定された第3変動閾値以上となることを識別の条件とすることにより、「カール状態」を「上めくり状態」と識別することができる。
なお、第1変動閾値、傾き閾値及び第3変動閾値については前述した通りである。
【0104】
以上のように、一枚目の被縫製物Cに生じる「正常状態」、「上めくり状態」、「下めくり状態」、「上生地不足状態」、「上生地過剰状態」、「カール状態」の表面状態は、全検出範囲に対して二次元変位センサー12によって行われた変位検出の結果に対して、各表面状態について定められた各種の識別条件を満たすか否かを判定することにより、個々に識別することが可能である。
図37は、CPU91が実行する一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態の種別を推定する処理のフローチャートである。
当該処理について、順番に説明する。
【0105】
まず、CPU91は、ロボットアームの制御装置を通じてロボットアームを制御し、取り上げ装置10をX軸方向に移動させる。これにより、載置面上に載置された被縫製物Cに対して、全検出範囲が二次元変位センサー12によってX軸方向に走査を行い、全検出範囲のZ軸方向の変位をサンプリング間隔で取得する(ステップV1)。
なお、被縫製物Cの積層枚数と厚さ、第1~第3変動閾値、減少閾値、傾き閾値は、予め、入力装置96から設定され又は関連する他の設定値から算出されているものとする。
【0106】
次いで、CPU91は、第一検出区間A全体で基準高さに対するZ軸方向の変位の増加量が第1変動閾値未満となっているか否かを判定する(ステップV3)。
第一検出区間A全体における増加が第1変動閾値未満である場合には、前述した判定条件(1)を満たすこととなり、CPU91は、第一検出区間A全体で基準高さに対するZ軸方向の変位の減少量が第2変動閾値以上となっている部分があるか否かを判定する(ステップV5)。
【0107】
第一検出区間A全体における減少が第2変動閾値以上となっている部分がある場合には、前述した判定条件(8)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「上生地不足状態」と推定する(ステップV7)。
【0108】
また、ステップV5において、第一検出区間A全体で基準高さに対するZ軸方向の変位の減少量が第2変動閾値以上となっていない(第2変動閾値未満である)と判定した場合には、前述した判定条件(2)を満たすこととなり、CPU91は、第二検出区間Bにおける傾きを求める。そして、第二検出区間Bの傾きが減少閾値以上となる下降勾配であるか否かを判定する(ステップV9)。
その結果、第二検出区間Bの傾きが減少閾値以上となる下降勾配である場合には、前述した判定条件(3)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「正常状態」と推定する(ステップV11)。
一方、第二検出区間Bの傾きが減少閾値以上とならない(減少閾値未満である)下降勾配である場合には、前述した判定条件(9)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「上生地過剰状態」と推定する(ステップV13)。
【0109】
また、ステップV3において、第一検出区間A全体で基準高さに対するZ軸方向の変位の増加量が第1変動閾値未満となっていない(第1変動閾値以上となる部分が存在する)と判定した場合には、前述した判定条件(4)を満たすこととなり、CPU91は、第一検出区間Aにおけるサンプリング間隔ごとの傾きを求める(ステップV15)。
そして、第一検出区間Aにおけるサンプリング間隔ごとの傾きの中で、上向きの傾きが傾き閾値以上となるものが存在するか否かを判定する(ステップV17)。
【0110】
その結果、第一検出区間A中に傾き閾値以上となるものが存在する場合には、前述した判定条件(5)を満たすこととなり、CPU91は、CPU91は、第一検出区間A全体で基準高さに対するZ軸方向の変位の増加量が第3変動閾値以上となっている部分があるか否かを判定する(ステップV19)。
その結果、第一検出区間A中に第3変動閾値以上となっている部分がある場合には、前述した判定条件(10)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「カール状態」と推定する(ステップV21)。
一方、第一検出区間Aの変位が第3変動閾値以上とならない(第3変動閾値未満である)場合には、前述した判定条件(6)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「上めくり状態」と推定する(ステップV23)。
【0111】
一方、ステップV17において、第一検出区間Aにおけるサンプリング間隔ごとの傾きの中で、傾き閾値以上となるものが存在しない(傾き閾値未満である)場合には、前述した判定条件(7)を満たすこととなり、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「下めくり状態」と推定する(ステップV25)。
【0112】
以上のように、CPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を「正常状態」、「上めくり状態」、「下めくり状態」、「上生地不足状態」、「上生地過剰状態」、「カール状態」のいずれか一つであるものと推定することができる。これにより、制御装置90のCPU91は、推定部として機能する。
【0113】
[被縫製物の表面状態に対する正常化動作]
制御装置90のCPU91は、一枚目の被縫製物Cに生じる表面状態を推定し、その表面状態が「正常状態」以外の表面状態である場合に、表面状態を「正常状態」にするための正常化動作を行うように、取り上げ装置10及びロボットアームを制御する。なお、CPU91は、制御装置101を通じてロボットアームを制御する。
以下、各表面状態に対する正常化動作を個別に説明する。
【0114】
図38は、被縫製物Cの表面状態が「正常状態」である場合の動作説明図である。
「正常状態」の場合には、CPU91は、正常化動作を行わず、前述した第一~第三の取り上げ動作のいずれかを実行する。
【0115】
図39(A)及び
図39(B)は、被縫製物Cの表面状態が「上めくり状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
なお、説明の便宜上、
図39(A)については、取り上げ動作を行う場合の向きに対して前後が反転した状態となっているが、図中の「前」と「後」の記載は取り上げ動作を行う際の取り上げ装置10の向き(
図13,
図14,
図21~
図25,
図27~
図30参照)に合わせて記載しており、図中の取り上げ装置10の向きに一致しない向きで記載している。また、
図39(A)に関する文章説明も、図示の「前」と「後」の方向に合わせて説明している。
【0116】
「上めくり状態」が生じている場合には、
図39(A)に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の前後の方向をZ軸回りに180°反転させる。これにより、爪部材41の先端部411を後方に向かせることが出来る。さらに、爪部材41の先端部411を上めくりが生じた被縫製物Cの後端部のすぐ前側に移動させて、ノズル口412からエアーを吐出する制御を行うことにより、反転した被縫製物Cの後端部を後方に押し戻すことができ、「正常状態」にすることができる。
【0117】
或いは、
図39(B)に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の爪部材41の後端部を上めくりが生じた被縫製物Cの後端部のすぐ前側に移動させて、爪部材41の底面部が一枚目の被縫製物Cの上面に摺接するか、ぎりぎり摺接しない高さを維持して、取り上げ装置10を後方に移動させる。
これにより、爪部材41の底面部が被縫製物Cを平らに均しながら、爪部材41の後端部が反転した被縫製物Cの後端部を後方に押し戻すことができ、「正常状態」にすることができる。
なお、
図39(A)と
図39(B)の正常化動作は、一方のみを行っても良いし、両方を(先後は問わず)順番に行っても良い。
【0118】
図40(A)及び
図40(B)は、被縫製物Cの表面状態が「下めくり状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
なお、説明の便宜上、
図40(A)の場合も「前」と「後」の方向の記載が取り上げ動作を行う際の取り上げ装置10の向きで記載しており、図中の取り上げ装置10の向きに一致しない向きで記載している。
図40(A)に関する文章説明も同様である。
【0119】
「下めくり状態」が生じている場合には、
図40(A)に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の前後の方向をZ軸回りに180°反転させる。これにより、爪部材41の先端部411を後方に向かせることが出来る。さらに、爪部材41の先端部411を下めくりが生じた被縫製物Cの後端部のすぐ前側に移動させて、ノズル口412からエアーを吐出する制御を行う。これにより、被縫製物Cを透過したエアーがめくり込まれた被縫製物Cの後端部を後方に押し戻すことができ、正常状態にすることができる。
【0120】
或いは、
図40(B)に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の非吸着式吸引パッド31を下めくりが生じた被縫製物Cの後端部のすぐ真上に移動させて、吸引動作を実行する。吸引動作は取り上げノズル21で行っても良い。その際、ロボットアームにより、取り上げ装置10を少し上方に移動させて、引き寄せられた被縫製物Cをより上側に引き上げてもよい。
これにより、被縫製物Cのめくり込まれた後端部が自らの弾性によって後方に戻り、「正常状態」にすることができる。
なお、
図40(A)と
図40(B)の正常化動作は、一方のみを行っても良いし、両方を(先後は問わず)順番に行っても良い。
【0121】
図41は、被縫製物Cの表面状態が「上生地不足状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
「上生地不足状態」が生じている場合には、
図41に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の非吸着式吸引パッド31を前方にずれた被縫製物Cの後端部のすぐ真上に移動させて、吸引動作を実行する。そして、ロボットアームにより、取り上げ装置10を後方に移動させて、引き寄せられた被縫製物Cの後端部を後方に移動させる。
これにより、前方にずれた被縫製物Cの後端部を後方に引き戻し、「正常状態」にすることができる。
【0122】
図42は、被縫製物Cの表面状態が「上生地過剰状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
「上生地過剰状態」が生じている場合には、
図42に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の非吸着式吸引パッド31を後方にずれた被縫製物Cの後端部のすぐ真上に移動させて、吸引動作を実行する。そして、ロボットアームにより、取り上げ装置10を前方に移動させて、引き寄せられた被縫製物Cの後端部を前方に移動させる。
これにより、後方にずれた被縫製物Cの後端部を前方に引き戻し、「正常状態」にすることができる。
【0123】
図43は、被縫製物Cの表面状態が「カール状態」である場合の正常化動作の動作説明図である。
図43に示すように、CPU91は、ロボットアームにより取り上げ装置10の爪部材41の後端部をカールが生じた被縫製物Cの後端部のすぐ前側に移動させて、爪部材41の底面部が一枚目の被縫製物Cの上面に摺接するか、ぎりぎり摺接しない高さを維持して、取り上げ装置10を後方に移動させる。
これにより、爪部材41の底面部が被縫製物Cを平らに均しながら、爪部材41の後端部がカールが生じた被縫製物Cの後端部を後方に押し戻すことができ、「正常状態」にすることができる。
【0124】
なお、上記表面状態推定処理、正常化動作は、いずれも、被縫製物Cの取り上げ動作の前に毎回行っても良いし、周期的、或いは、一定条件を満たす場合に行っても良い。周期的に行う場合には、例えば、被縫製物Cの規定枚数の取り上げごとに行っても良い。また、一定条件を満たして行う場合には、例えば、装置の主電源をONされた場合に行っても良いし、載置台に一束の被縫製物Cが載置された場合に行っても良い。また、或いは、入力装置96から、表面状態推定処理又は正常化動作の実行を指示入力された場合に実行しても良い。
また、表面状態推定処理と正常化動作は、セットで行っても良いし、いずれか一方のみを行っても良い。
【0125】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、取り上げ装置10は、取り上げノズル21の底面211に設けられ通風溝212の溝内底面216のエアーの吹き出し側端部が被縫製物Cから離隔する方向に向いた形状に形成されているので、取り上げノズル21の吹き出し側端部の対向位置の局所的な範囲に被縫製物Cを下の被縫製物から離隔する方向に引き寄せることができる。
従って、端部がカールして引き寄せにくい被縫製物Cや互いにくっつき合う素材の被縫製物Cであっても、局所的な剥離を促し、一枚ずつ良好に取り上げることが可能となる。
【0126】
また、取り上げノズル21の底面211におけるエアーの吹き出し側端部には、段差217により底面211の他の部分よりも被縫製物Cから上方に離隔している。この段差217により、上方に引き寄せられる被縫製物Cの引き上げスペースを確保し易くなり、被縫製物Cの剥離を効果的に行うことができる。
【0127】
また、取り上げノズル21は、通風溝212の溝内底面216のエアーの吹き出し側端部が取り上げノズル21の底面211に平行な状態から起伏角度が漸増する曲面で形成されているので、被縫製物Cの剥離を徐々に促すことができ、一枚ずつの被縫製物Cの取り上げをより効果的に安定的に行うことが可能となる。
また、通風溝212の溝内底面216のエアーの吹き出し側端部は、取り上げノズル21の底面211に対して一定の起伏角度で傾斜した傾斜面で形成した場合には、当該傾斜面に沿って被縫製物Cの剥離を促すことが可能である。また、形状が単純化され、通風溝212の加工を容易に行うことが可能となる。
【0128】
また、取り上げノズル21は、爪部材41に対して、その進出方向下流側に配置されているので、取り上げノズル21で一枚目の被縫製物をめくり上げ、爪部材41がそこから一枚目の被縫製物Cを二枚目の被縫製物Cから分離させることができ、効果的且つ効率的な取り上げ作業を行うことが可能となる。
【0129】
また、取り上げ装置10は、爪部材41の先端部411の進退移動により被縫製物Cと被縫製物Cとの間に爪部材41を挿入する分離機構40を有するので、被縫製物C同士の剥離後の再付着を抑制して、より効果的に被縫製物Cを分離させることが可能となる。
【0130】
さらに、取り上げ装置10は、非吸着式吸引パッド31を有する吸引機構30を備えているので、取り上げノズル21よりも広範囲で被縫製物Cを剥離させることができ、剥離作業が困難な素材ではない場合には、取り上げ作業をより迅速に行うことが可能となる。
【0131】
また、取り上げ装置10は、爪部材41の上の被縫製物Cの厚さを検出する厚さ検出部として、磁気センサー25やタッチセンサー36を備えるので、検出される被縫製物Cの厚さから取り上げ損ねや複数の被縫製物Cの取り上げ等の取り上げ不良を判定部としての制御装置90が判定することができる。
このため、被縫製物Cの供給先に正しく適正に供給を行うことができ、信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0132】
特に、タッチセンサー36を使用する場合、被縫製物Cの厚さを把持部材53の爪部材41に対する高さから検出するので、被縫製物Cを把持する過程で被縫製物Cの厚さを検出することができ、専用の別部材で検出する場合に比べて作業工程数を低減し、容易且つ迅速に検出を行うことが可能となる。
【0133】
また、取り上げ装置10は、ノズル機構20と分離機構40と吸引機構30のいずれか一つ又は複数の組み合わせを選択する入力装置96を備え、制御装置90は、入力装置96の選択に従って、被縫製物の取り上げの動作制御を実行するので、ノズル機構20と分離機構40と吸引機構30の特性に応じて、種々の被縫製物Cに対して適正な取り上げ作業を行うことが可能となる。
特に、選択に応じて、分離機構40単独により被縫製物Cの取り上げを行う第一の取り上げ動作と、ノズル機構20と分離機構40の組み合わせにより被縫製物Cの取り上げを行う第二の取り上げ動作と、吸引機構30と分離機構40の組み合わせにより被縫製物の取り上げを行う第三の取り上げ動作のいずれかの動作制御を実行する場合、被縫製物Cの種別や取り上げ動作のタクトの違い等に応じて、種々の被縫製物Cに対して適正且つ効率的な取り上げ作業を行うことが可能となる。
【0134】
また、第一の取り上げ動作は、分離機構40の爪部材41の先端部411を進出移動させて一枚目の被縫製物Cを分離させて取り上げるので、より迅速な取り上げを実現することができる。
また、第二の取り上げ動作は、取り上げノズル21により一枚目の被縫製物Cを上方に引き寄せてから、爪部材41の先端部411を一枚目の被縫製物Cの下側に差し込んで取り上げるので、被縫製物C同士を分離させにくい被縫製物であってもより効果的に分離して、信頼性の高い取り上げを実現することができる。
また、第三の取り上げ動作は、非吸着式吸引パッド31により一枚目の被縫製物Cを引き寄せてから、爪部材41の先端部411を一枚目の被縫製物Cの下側に差し込んで取り上げるので、爪部材41単独では被縫製物C同士の分離が困難な被縫製物Cについて、剥離を促し、取り上げノズル21よりも迅速に被縫製物Cの取り上げを行うことができる。
【0135】
また、取り上げ装置10では、CPU91が、二次元変位センサー12の検出結果から上から一枚目の被縫製物Cの状態を推定する推定部として機能するので、取り上げ動作を行う前に積層された被縫製物Cの表面状態を推定することができ、その後の取り上げ動作の実行の有無を判断することができ、取り上げ動作不良の発生を低減し、装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【0136】
また、CPU91は、二次元変位センサー12の検出する積層された被縫製物Cの上面における積層方向の変位と、当該変位に基づく傾きとから上から一枚目の被縫製物Cの状態を推定するので、既設の検出装置を使用することができ、新たに変位検出部を設ける必要がなく、部品点数の低減及びこれによりコスト低減を図ることが可能となる。
【0137】
また、CPU91は、当該CPU91が推定した上から一枚目の被縫製物Cの状態に応じて、当該被縫製物Cの表面状態の正常化を図るための正常化動作を実行するので、その後の取り上げ動作における取り上げ動作不良の発生を低減し、装置の信頼性を向上させることが可能となる。また、正常化動作を人が行わなくて済むので、作業の中断が回避されて作業の迅速化が図られると共に作業負担の低減を図ることが可能となる。
【0138】
また、CPU91は、ノズル機構20、分離機構40、吸引機構30、保持機構50のいずれか一つ又は複数を制御して正常化動作を実行するので、既設の構成を利用して正常化動作を実行することができ、新たに正常化動作を行うための構成を設ける必要がなく、部品点数の低減及びこれによりコスト低減を図ることが可能となる。
【0139】
[その他]
上記各実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、被縫製物Cの取り上げ動作は、上記第一~第三の取り上げ動作を例示したが、これらのパターンに限らず、ノズル機構20、分離機構40、吸引機構30のいずれかによる単独の取り上げ動作を行っても良いし、他の二以上の組み合わせで取り上げ動作を行っても良い。
【0140】
また、二次元変位センサー12が被縫製物Cの位置を十分に精度良く検出可能であれば、光電センサー55による被縫製物Cの端部検出は省略しても良い。
【0141】
また、前述した第一~第三の取り上げ動作では、把持エラーの際にリトライが行われるが、リトライに替えて、それまで実行していなかった他の機構であるノズル機構20、分離機構40、吸引機構30のいずれかに変更して新たな把持動作を行うように制御しても良い。その場合、リトライが複数回繰り返されて把持エラーが解消されない場合に、他の機構に変更しても良い。
【符号の説明】
【0142】
10 取り上げ装置
12 二次元変位センサー(変位検出部)
20 ノズル機構
21 取り上げノズル
24 永久磁石(厚さ検出部)
25 磁気センサー(厚さ検出部)
30 吸引機構
31 非吸着式吸引パッド
33 昇降ブロック
34 昇降駆動部
36 タッチセンサー(厚さ検出部)
40 分離機構
41 爪部材
42 進退駆動部
50 保持機構
51 保持ブロック
52 保持用エアシリンダー
53 把持部材
55 光電センサー
90 制御装置
91 CPU(推定部)
96 入力装置(選択部)
211 底面
212 通風溝
213 ノズル口
214 流路
215 供給管
216 溝内底面
217 段差
411 先端部
531 軸部
532 当接部
533 頭部
C 被縫製物