(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】気象情報処理装置及び気象情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/14 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
G01W1/14 E
(21)【出願番号】P 2020213371
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 総務省「レジリエントな防災・減災機能の強化」研究開発委託契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 和紘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文彦
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-009857(JP,A)
【文献】特開2000-322556(JP,A)
【文献】特開2003-066161(JP,A)
【文献】特開2018-194968(JP,A)
【文献】特開2005-331491(JP,A)
【文献】特開2016-166837(JP,A)
【文献】特開2020-060078(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00~1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象レーダ装置から取得した気象観測データを用いて、上空の2次元の降水強度に関する降水強度分布データを算出する第1算出部と、
複数の降水強度分布データを積算して、積算雨量分布データを算出する第2算出部と、
前記積算雨量分布データと、地図上の危険区域の情報に関する危険区域データとを用いて、前記危険区域内の積算雨量を算出する判定部と、
地図データに前記積算雨量分布データを重畳して、表示データを生成する生成部と、
を具備
し、
前記生成部は、前記算出した積算雨量が閾値を超えた場合に、前記表示データに所定のアラーム情報を含める
気象情報処理装置。
【請求項2】
前記第2算出部は、所定の積算時間ごとに、前記積算雨量分布データを算出し、
前記積算時間は、入力部を用いて設定される
請求項1に記載の気象情報処理装置。
【請求項3】
前記危険区域データを格納する記憶部をさらに具備する
請求項
1又2に記載の気象情報処理装置。
【請求項4】
気象レーダ装置から取得した気象観測データを用いて、上空の2次元の降水強度に関する所定時間後の降水強度分布の予測データを算出する第1算出部と、
複数の降水強度分布の予測データを積算して、積算雨量分布の予測データを算出する第2算出部と、
前記積算雨量分布の予測データと、地図上の危険区域の情報に関する危険区域データとを用いて、前記危険区域内の積算雨量を算出する判定部と、
地図データに前記積算雨量分布の予測データを重畳して、表示データを生成する生成部と、
を具備
し、
前記生成部は、前記算出した積算雨量が閾値を超えた場合に、前記表示データに所定のアラーム情報を含める
気象情報処理装置。
【請求項5】
前記第1算出部は、雨雲の移動する方向、及び雨雲が移動する速度を算出し、前記算出結果に基づいて、前記降水強度分布の予測データを算出する
請求項4に記載の気象情報処理装置。
【請求項6】
前記第2算出部は、所定の積算時間ごとに、前記積算雨量分布の予測データを算出し、
前記積算時間は、入力部を用いて設定される
請求項4又は5に記載の気象情報処理装置。
【請求項7】
前記表示データを表示する表示部をさらに具備する
請求項1乃至
6のいずれかに記載の気象情報処理装置。
【請求項8】
前記表示データは、積算雨量を表す等高線を含む
請求項1乃至
7のいずれかに記載の気象情報処理装置。
【請求項9】
前記表示データをユーザに送信する通信部をさらに具備する
請求項1乃至
8のいずれかに記載の気象情報処理装置。
【請求項10】
前記気象レーダ装置は、フェーズドアレイ気象レーダである
請求項1乃至
9のいずれかに記載の気象情報処理装置。
【請求項11】
気象レーダ装置から気象観測データを取得する工程と、
前記気象観測データを用いて、上空の2次元の降水強度に関する降水強度分布データを算出する工程と、
複数の降水強度分布データを積算して、積算雨量分布データを算出する工程と、
前記積算雨量分布データと、地図上の危険区域の情報に関する危険区域データとを用いて、前記危険区域内の積算雨量を算出する工程と、
地図データに前記積算雨量分布データを重畳して、表示データを生成する工程と、
前記算出した積算雨量が閾値を超えた場合に、前記表示データに所定のアラーム情報を含める工程と、
を具備する気象情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、気象情報処理装置及び気象情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、突発的かつ局地的に多くの雨が降る集中豪雨(ゲリラ豪雨とも呼ばれる)が発生している。この集中豪雨により、河川の氾濫や大規模な斜面崩壊などの災害が発生する危険がある。よって、現在の降雨状況を受益者に伝達することは重要である。
【0003】
気象レーダで上空の積乱雲等の雨雲を観測して、上空の降水強度を算出する技術が知られている。この技術を用いて、所望の地点の降雨状況を受益者に伝達することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、積算雨量を地図上に表示することが可能な気象情報処理装置及び気象情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る気象情報処理装置は、気象レーダ装置から取得した気象観測データを用いて、上空の2次元の降水強度に関する降水強度分布データを算出する第1算出部と、複数の降水強度分布データを積算して、積算雨量分布データを算出する第2算出部と、地図データに前記積算雨量分布データを重畳して、表示データを生成する生成部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る気象情報処理システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る気象情報処理装置のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る気象情報処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る気象情報処理装置の動作を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、表示データの一例を説明する図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る気象情報処理システムのブロック図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る気象情報処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、表示データの一例を説明する図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る気象情報処理システムのブロック図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る気象情報処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置及び方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0009】
[1] 第1実施形態
[1-1] 気象情報処理システム1の構成
図1は、第1実施形態に係る気象情報処理システム1のブロック図である。気象情報処理システム1は、気象レーダ装置10、及び気象情報処理装置11を備える。
【0010】
気象レーダ装置10は、地上に設置された装置である。気象レーダ装置10は、設置箇所を中心にした所定範囲の気象状況(雨、雪、雨雲、雨域、風向、及び風速等)を観測し、この気象状況に関する気象観測データを生成する。気象レーダ装置10は、電波を送信及び受信することで、雨粒を三次元構造として観測する。また、気象レーダ装置10は、所定時間毎(例えば30秒毎)に、雨粒を高速にスキャンする。
【0011】
気象レーダ装置10は、例えば、フェーズドアレイ気象レーダ(PAWR:phased array weather radar)で構成される。フェーズドアレイ気象レーダは、フェーズドアレイアンテナを構成するアレイ状のアンテナ素子に入力する信号の位相を制御することによって、指向角を電子的に変動させる。気象レーダ装置10は、アンテナの指向角を変動させながら電波を送受信する。例えば、気象レーダ装置10は、電気的な位相制御によって、エレベーション方向(垂直方向)における指向角を、一定の角度範囲(例えば90度)内で変動させる。また、気象レーダ装置10は、アジマス方向(水平方向)における指向角を、駆動機構によって機械的に変動させる。
【0012】
また、気象レーダ装置10は、例えば、マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP(multi parameter)-PAWR)で構成される。MP-PAWRは、二重偏波フェーズドアレイ気象レーダ(dual-polarization PAWR)とも呼ばれる。MP-PAWRは、水平偏波のパルス信号と垂直偏波のパルス信号とを、ファンビームにより同時に送信する方式である。MP-PAWRを用いることで、雨雲の3次元構造をより精度よく観測することができ、また、降水強度をより精度よく推定することができる。
【0013】
気象情報処理装置11は、コンピュータ及びソフトウェアにより構成されており、インターネット等のネットワークを介して、クライアントコンピュータと接続可能なサーバとして実現される。気象情報処理装置11は、例えば、クラウド・コンピューティング型のサーバでもよい。
【0014】
気象情報処理装置11は、気象レーダ装置10から気象観測データを受信する。気象情報処理装置11は、気象観測データを用いて、積算雨量などの各種気象情報を生成する。気象情報処理装置11は、制御部12、記憶部13、通信部14、入力部15、及び表示部16を備える。
【0015】
通信部14は、WAN(Wide Area Network)、又はLAN(Local Area Network)等のネットワークを介して、気象レーダ装置10と通信を行い、気象レーダ装置10から気象観測データを受信する。通信部14により受信された気象観測データは、記憶部13に格納される。また、通信部14は、WAN等のネットワークを介して、ユーザとの間で通信を行う。
【0016】
入力部15は、気象情報処理装置11にデータを入力するための入力デバイスである。入力部15は、例えば、キーボード及びマウスを含む。操作者は、入力部15を用いて、気象情報処理装置11に情報を入力することが可能である。
【0017】
表示部16は、ディスプレイからなり、各種の表示データを画面に表示する。
【0018】
記憶部13は、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)等の不揮発性記憶装置と、RAM(Random Access Memory)、レジスタ等の揮発性記憶装置とを含む。記憶部13は、気象情報処理装置11のプロセッサが実行するプログラムを格納する他、後述する気象観測データ13A、地図データ13B、降水強度分布データ13C、及び積算雨量分布データ13D等を格納する。
【0019】
制御部12は、気象観測データ取得部12A、降水強度算出部12B、積算雨量算出部12C、及び表示データ生成部12Dを備える。これらの構成要素の一部または全部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが記憶部13に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。また、制御部12の構成要素の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0020】
気象観測データ取得部12Aは、気象レーダ装置10から気象観測データ13Aを取得する。気象観測データ13Aは、気象レーダ装置10が観測した気象情報である。気象観測データ13Aは、記憶部13に格納される。
【0021】
降水強度算出部12Bは、気象観測データ13Aを用いて、降水強度分布データ13Cを算出する。降水強度分布データ13Cは、気象観測データ13Aの観測領域における降水強度分布であり、上空の2次元(水平面)の降水強度に関するデータである。降水強度分布データ13Cは、記憶部13に格納される。
【0022】
積算雨量算出部12Cは、降水強度分布データ13Cを用いて、所定の積算時間ごとに、積算雨量分布データ13Dを算出する。積算雨量分布データ13Dは、所定の積算時間に含まれる複数の降水強度分布を積算したデータである。積算雨量分布データ13Dは、記憶部13に格納される。
【0023】
表示データ生成部12Dは、記憶部13から読み出された地図データ13B及び積算雨量分布データ13Dを用いて、表示データを生成する。表示データは、地図上に積算雨量分布が重畳されたデータである。
【0024】
[1-2] 気象情報処理装置11のハードウェア構成
次に、気象情報処理装置11のハードウェア構成の一例について説明する。
図2は、第1実施形態に係る気象情報処理装置11のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【0025】
気象情報処理装置11は、CPU(Central Processing Unit)100、ノースブリッジ101、サウスブリッジ102、主メモリ103、表示コントローラ104、ディスプレイ105、SSD(Solid State Drive)106、サウンドコントローラ107、スピーカ108、ネットワークコントローラ109、キーボード110、及びマウス111等を備える。
図2の各構成要素は、バスを介して接続される。すなわち、気象情報処理装置11は、メモリ及びプロセッサを備えるコンピュータである。
【0026】
CPU100は、当該コンピュータの動作を制御するために設けられたプロセッサである。CPU100は、SSD106から主メモリ103にロードされた、オペレーティングシステム(OS)112、及び気象情報処理プログラム113などの各種プログラムを実行する。
【0027】
気象情報処理プログラム113は、本実施形態に係る気象情報処理を行うためのプログラムである。CPU100が気象情報処理プログラム113を実行することで、本実施形態に係る気象情報処理を行うことができる。
【0028】
ノースブリッジ101は、CPU100、主メモリ103、表示コントローラ104、及びサウスブリッジ102に接続される。ノースブリッジ101は、データ転送のタイミング及びその速度などを制御する。ノースブリッジ101は、高速で動作する装置との間でデータの橋渡しをする。ノースブリッジ101は、主メモリ103をアクセス制御するメモリコントローラ(図示せず)を内蔵する。また、ノースブリッジ101は、PCIe(Peripheral Component Interconnect Express)バスなどを介して表示コントローラ104との通信を実行する機能を有する。
【0029】
主メモリ103は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)で構成される。主メモリ103は、CPU100の作業領域として使用される。主メモリ103は、SSD106からロードされた、オペレーティングシステム(OS)112、及び気象情報処理プログラム113などの各種プログラムを格納する。
【0030】
表示コントローラ104は、ディスプレイ105を制御する。表示コントローラ104は、ディスプレイ105に映像信号を送信する。ディスプレイ105は、LCD(Liquid Crystal Display)などで構成される。
【0031】
サウスブリッジ102は、SSD106、サウンドコントローラ107、ネットワークコントローラ109、キーボード110、及びマウス111に接続される。サウスブリッジ102は、データ転送のタイミング及びその速度などを制御する。サウスブリッジ102は、ノースブリッジ101より低速で動作する装置との間でデータの橋渡しをする。また、サウスブリッジ102は、SSD106を制御するメモリコントローラを内蔵する。
【0032】
SSD106は、不揮発性記憶装置である。SSD106は、OS112、及び気象情報処理プログラム113などの各種プログラムを不揮発に格納する。
【0033】
サウンドコントローラ107は、音源デバイスであり、再生対象の音声信号をスピーカ108に出力する。
【0034】
ネットワークコントローラ109は、有線ネットワークに接続するためのデバイスであり、インターネット等の外部ネットワークとの通信を実行する。また、ネットワークコントローラ109は、無線LAN(Local Area Network)コントローラを含む。すなわち、ネットワークコントローラ109は、他の無線通信デバイスと一対一の無線通信、及びインターネット等の外部ネットワークを介した無線通信を実行する。
【0035】
キーボード110及びマウス111は、気象情報処理装置11にデータを入力するための入力デバイスである。操作者は、キーボード110及びマウス111を用いて、気象情報処理装置11に情報を入力することが可能である。キーボード110及びマウス111の通信については、USB(Universal Serial Bus)などを用いることができる。
【0036】
[1-3] 動作
上記のように構成された気象情報処理システム1の動作について説明する。
図3は、第1実施形態に係る気象情報処理装置11の動作を説明するフローチャートである。
図4は、第1実施形態に係る気象情報処理装置11の動作を説明する模式図である。
【0037】
気象レーダ装置10は、常時、気象観測を行っており、所定周期(例えば30秒周期)ごとに、気象観測の結果としての気象観測データを生成している。
【0038】
気象観測データ取得部12Aは、所定周期ごとに、気象レーダ装置10から気象観測データ13Aを取得する(ステップS100)。制御部12は、気象レーダ装置10から取得した気象観測データ13Aを、記憶部13に格納する。今回の気象観測データ13Aを取得した時間をtiとする。
【0039】
気象観測データ13Aは、強度パラメータ、及び偏波パラメータなどの観測パラメータを含む。強度パラメータは、レーダ反射因子(雨から反射して帰ってくる電波の強さ)、及びエコー頂高度(エコー強度の高さ)を含む。偏波パラメータは、水平偏波及び垂直偏波に関する情報を含む。具体的には、偏波パラメータは、反射因子差ZDR(水平偏波の反射因子ZHと垂直偏波の反射因子ZVとの比)、偏波間位相差ΦDP(水平偏波と垂直偏波との位相差)、比偏波間位相差KDP(単位距離あたりの偏波間位相差)などを含む。また、気象観測データ13Aは、風向情報、及び風速情報を含む。
【0040】
続いて、降水強度算出部12Bは、気象観測データ13Aを用いて、降水強度分布データ13Cを算出する(ステップS101)。降水強度分布データ13Cは、所定周期ごとに受信する気象観測データ13Aごとに算出される。降水強度分布データは、2次元の領域ごとの降水強度を表すデータである。降水強度は、強度パラメータ(具体的には、レーダ反射因子)に基づいて算出される。制御部12は、降水強度分布データ13Cを記憶部13に格納する。降水強度算出部12Bは、過去に、時間ti-1~ti-Nごとに降水強度分布データを算出している。“N”は、1以上の整数である。時間ti-1~ti-Nごとの降水強度分布データは、記憶部13に格納されている。
【0041】
続いて、積算雨量算出部12Cは、所定の積算時間ごとに、複数の降水強度分布データ13Cを用いて、積算雨量分布データ13Dを算出する(ステップS102)。積算時間は、操作者が任意に設定可能であり、操作者が入力部15から積算時間を入力する。積算時間は、例えば、数分単位から数時間単位である。今回の積算雨量分布データ13Dを算出した時間を時間Tjとする。積算時間は、時間ti~ti-Nである。積算雨量算出部12Cは、時間ti~ti-Nごとの降水強度分布データを積算し、時間Tjにおける積算雨量分布データを算出する。積算雨量算出部12Cは、過去に、時間Tj-1~Tj-Mごとに積算雨量分布データを算出している。“M”は、1以上の整数である。時間Tj-1~Tj-Mごとの積算雨量分布データは、記憶部13に格納されている。
【0042】
続いて、制御部12は、地図データ13B、及び積算雨量分布データ13D(具体的には、時間Tjにおける積算雨量分布データ)を、記憶部13から読み出す(ステップS103)。なお、地図データは、ネットワークを介して通信部14が外部から取得するようにしてもよい。
【0043】
続いて、表示データ生成部12Dは、記憶部13から読み出された地図データ13B及び積算雨量分布データ13Dを用いて、表示データを生成する(ステップS104)。表示データは、地図上に積算雨量分布が重畳されたデータである。
【0044】
続いて、表示データ生成部12Dは、表示データを表示部16に表示させる(ステップS105)。また、通信部14は、ネットワークを介して、表示データをユーザに送信する。なお、表示データ生成部12Dは、過去に生成した時間Tj-1~Tj-Mごとの積算雨量分布データを表示部16に表示させることも可能である。
【0045】
図5は、表示データの一例を説明する図である。
図5に示すように、積算雨量分布は、地図に重畳されて表示される。積算雨量分布は、例えば、等高線を用いたコンター図として表示される。
【0046】
[1-4] 第1実施形態の効果
第1実施形態によれば、積算雨量分布と地図情報とを同時に視認することが可能となる。積算雨量は災害ポテンシャルと相関が高いため、積算雨量分布の履歴を地図上で表示させることにより、豪雨に起因する災害の危険性がある地点の空間的な分布がリアルタイムで視認可能である。
【0047】
[2] 第2実施形態
第2実施形態は、地図上に、豪雨による災害が発生しやすい危険区域を表示する。そして、危険区域内の積算雨量が閾値を超えた場合に、アラームをユーザに通知するようにしている。
【0048】
[2-1] 気象情報処理システム1の構成
図6は、第2実施形態に係る気象情報処理システム1のブロック図である。
【0049】
記憶部13は、危険区域データ13Eをさらに格納する。危険区域データ13Eは、予め設定された危険区域の情報である。危険区域は、豪雨による災害が発生しやすい領域であり、例えば、河川流域、土砂災害警戒区域(例えば、山の急斜面を含む区域)などである。危険区域は、操作者が任意に設定可能である。
【0050】
制御部12は、積算雨量判定部12Eをさらに備える。積算雨量判定部12Eは、積算雨量分布データ13D、及び危険区域データ13Eを用いて、危険区域内の積算雨量が閾値を超えたか否かを判定する。また、積算雨量判定部12Eは、判定結果に基づいて、危険区域に関するアラーム情報を生成する。
【0051】
その他の構成は、第1実施形態で説明した
図1と同じである。
【0052】
[2-2] 動作
上記のように構成された気象情報処理システム1の動作について説明する。
図7は、第2実施形態に係る気象情報処理装置11の動作を説明するフローチャートである。
【0053】
ステップS100~S102の動作は、第1実施形態で説明した
図3と同じである。
【0054】
続いて、制御部12は、地図データ13B、積算雨量分布データ13D、及び危険区域データ13Eを、記憶部13から読み出す(ステップS200)。
【0055】
続いて、積算雨量判定部12Eは、記憶部13から読み出された積算雨量分布データ13D、及び危険区域データ13Eを用いて、所定の積算時間における危険区域内の積算雨量を算出し、危険区域内の積算雨量が閾値を超えたか否かを判定する(ステップS201)。
【0056】
危険区域内の積算雨量が閾値を超えた場合(ステップS201=Yes)、積算雨量判定部12Eは、アラーム情報を生成する(ステップS202)。
【0057】
続いて、表示データ生成部12Dは、記憶部13から読み出された地図データ13B、積算雨量分布データ13D、及び危険区域データ13E、並びにステップS202で生成したアラーム情報を用いて、表示データを生成する(ステップS203)。
【0058】
このアラーム情報の通知方法は、例えば、危険区域を点滅させる、危険区域が強調されるようにこの危険区域の色を変更するなどが挙げられる。また、“アラーム”の文字を画面の任意に箇所に表示させてもよい。さらに、音声でアラームをユーザに通知してもよい。
【0059】
一方、危険区域内の積算雨量が閾値を超えていない場合(ステップS201=No)、表示データ生成部12Dは、記憶部13から読み出された地図データ13B、積算雨量分布データ13D、及び危険区域データ13Eを用いて、表示データを生成する(ステップS203)。この場合の表示データは、第1実施形態と同じである。
【0060】
続いて、表示データ生成部12Dは、表示データを表示部16に表示させる(ステップS105)。また、通信部14は、ネットワークを介して、表示データをユーザに送信する。
【0061】
図8は、表示データの一例を説明する図である。
図8に示すように、地図上には、危険区域が表示される。また、積算雨量分布は、地図に重畳されて表示される。
【0062】
[2-3] 第2実施形態の効果
第2実施形態によれば、豪雨による災害が発生しやすい危険区域を地図上に表示することができる。また、危険区域内の積算雨量が閾値を超えた場合に、ユーザにアラームを通知することができる。
【0063】
[3] 第3実施形態
第3実施形態は、積算雨量の予測値を算出して積算雨量分布の予測データを表示するようにしている。
【0064】
[3-1] 気象情報処理システム1の構成
図9は、第3実施形態に係る気象情報処理システム1のブロック図である。
【0065】
記憶部13は、降水強度分布の予測データ13C、及び積算雨量分布の予測データ13Dを格納する。降水強度分布の予測データ13Cは、現在から所定時間後の降水強度分布データである。積算雨量分布の予測データ13Dは、現在から所定時間後の積算雨量分布データである。
【0066】
降水強度算出部12Bは、所定時間後の降水強度を予測する。積算雨量算出部12Cは、所定時間後の積算雨量を予測する。
【0067】
その他の構成は、第2実施形態で説明した
図6と同じである。
【0068】
[3-2] 動作
上記のように構成された気象情報処理システム1の動作について説明する。
図10は、第3実施形態に係る気象情報処理装置11の動作を説明するフローチャートである。
【0069】
ステップS100の動作は、第1実施形態で説明した
図3と同じである。
【0070】
続いて、降水強度算出部12Bは、所定周期ごとの複数の気象観測データ13Aを用いて、所定時間後(例えば10分後)の降水強度を予測し、降水強度分布の予測データ13Cを算出する(ステップS300)。具体的には、降水強度算出部12Bは、気象観測データ13Aに含まれる所定周期ごとの複数の強度パラメータの差、及び所定周期ごとの偏波パラメータの差を算出し、この算出結果を用いて、雨雲が移動する方向(雨雲の移動方向)、及び雨雲が移動する速度(雨雲の速度)を算出する。雨雲の移動方向と雨雲の速度とを算出することで、所定時間後の雨雲の位置が予測できる。そして、降水強度算出部12Bは、雨雲の移動方向及び雨雲の速度を用いて、所定時間後の降水強度分布を予測する。
【0071】
また、気象観測データ13Aは、風向及び風速を含み、降水強度算出部12Bは、気象観測データ13Aに含まれる風向及び風速を用いて、所定時間後の降水強度分布を予測するようにしてもよい。
【0072】
予測する所定時間は、操作者が任意に設定可能である。制御部12は、降水強度分布の予測データ13Cを記憶部13に格納する。
【0073】
続いて、積算雨量算出部12Cは、所定の積算時間ごとに、複数の降水強度分布の予測データ13Cを用いて、積算雨量分布の予測データ13Dを算出する(ステップS301)。具体的には、積算雨量算出部12Cは、積算時間に含まれる複数の降水強度分布の予測データを積算する。
【0074】
続いて、制御部12は、地図データ13B、積算雨量分布の予測データ13D、及び危険区域データ13Eを、記憶部13から読み出す(ステップS302)。その後の動作は、第2実施形態と同じである。
【0075】
なお、予測に使用する複数の気象観測データ13Aの一部を所定周期ごとに間引いて、予測のための演算を行うようにしてもよい。これにより、予測にかかる時間を短縮できる。例えば、気象条件(台風、及び集中豪雨を含む)に応じて、気象観測データ13Aの一部を間引くようにしてもよい。
【0076】
[3-3] 第3実施形態の効果
第3実施形態によれば、現在から所定時間後の積算雨量分布を表示させることができる。また、積算雨量分布の予測データを用いて、所定時間後における危険区域の危険度を判定することができる。
【0077】
なお、第3実施形態の予測データを第1実施形態に適用することも可能である。
【0078】
[4] 変形例
なお、上記各実施形態では、気象レーダ装置としてフェーズドアレイ気象レーダを例に挙げて説明したが、フェーズドアレイ気象レーダ以外の気象レーダにも適用可能である。例えば、パラボラアンテナを機械的に回転させながら電波の送受信を行う気象レーダであってもよい。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1…気象情報処理システム、10…気象レーダ装置、11…気象情報処理装置、12…制御部、12A…気象観測データ取得部、12B…降水強度算出部、12C…積算雨量算出部、12D…表示データ生成部、12E…積算雨量判定部、13…記憶部、14…通信部、15…入力部、16…表示部。