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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】調達先配分方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20240924BHJP
【FI】
G06Q10/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021000138
(22)【出願日】2021-01-04
(65)【公開番号】P2022105388
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伊知郎
【審査官】久慈 渉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-190965(JP,A)
【文献】特開2003-242207(JP,A)
【文献】特開2013-062662(JP,A)
【文献】特開2010-257407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小売事業者が複数存在する場合の調達先配分方法であって、
配分計算の諸元である調達先のデータを格納する調達先格納ステップと、
調達先の登録数を最大値として可変長な階層構造を持つ調達先の優先度および小売事業者間に設定される小売優先度を格納する優先度格納ステップと、
前記小売事業者に関するデータを格納する小売事業者格納ステップと、
各調達先の優先度に1個以上の調達先が所属するように対応付けた優先度割付を生成する優先度割付生成ステップと、
前記優先度割付を格納する優先度割付格納ステップと、
前記優先度割付を読み出し、各調達先への配分が、あらかじめ規定された上限値に達したと判定する数式を、個別上限判定制約として生成する個別上限判定制約生成ステップと、
前記調達先が属する小売事業者の需給が一致していると判定する数式を、需給一致判定制約として生成する需給一致判定制約生成ステップと、
各調達先において前記個別上限判定制約または前記需給一致判定制約のどちらかを満たしているという個別充足条件の成立を判定する数式を、個別充足判定制約として生成する個別充足判定制約生成ステップと、
前記優先度割付を読み出し、優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが前記個別充足条件を満たしているという階層充足条件の成立を判定する数式を、階層充足判定制約として生成する階層充足判定制約生成ステップと、
前記優先度割付を読み出し、直上位の優先度の階層が前記階層充足条件を満たした場合に限り、下位階層の優先度に所属する調達先への配分を可能にする数式を、配分制限制約として生成する配分制限制約生成ステップと、
前記個別上限判定制約、前記需給一致判定制約、前記個別充足判定制約、前記階層充足判定制約および前記配分制限制約を、最適化問題優先度制約として格納する最適化問題優先度制約格納ステップと、
最適化問題目的関数を格納する最適化問題目的関数格納ステップと、
前記最適化問題優先度制約および前記最適化問題目的関数を読み出し、対応する最適化問題を解く最適化実行ステップと、
最適化結果を格納する最適化結果格納ステップと、
最適化結果を表示する最適化結果表示ステップと、がコンピュータによって実行される調達先配分方法。
【請求項2】
小売事業者が複数存在する場合の調達先配分装置であって、
配分計算の諸元である調達先のデータを格納する調達先格納部と、
調達先の登録数を最大値として可変長な階層構造を持つ調達先の優先度および小売事業者間に設定される小売優先度を格納する優先度格納部と、
前記小売事業者に関するデータを格納する小売事業者格納部と、
各調達先の優先度に1個以上の調達先が所属するように対応付けた優先度割付を生成する優先度割付生成部と、
前記優先度割付を読み出し、各調達先への配分が、あらかじめ規定された上限値に達したと判定する数式を、個別上限判定制約として生成する個別上限判定制約生成部と、
前記調達先が属する小売事業者の需給が一致していると判定する数式を、需給一致判定制約として生成する需給一致判定制約生成部と、
各調達先において前記個別上限判定制約または前記需給一致判定制約のどちらかを満たしているという個別充足条件の成立を判定する数式を、個別充足判定制約として生成する個別充足判定制約生成部と、
前記優先度割付を読み出し、優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが前記個別充足条件を満たしているという階層充足条件の成立を判定する数式を、階層充足判定制約として生成する階層充足判定制約生成部と、
前記優先度割付を読み出し、直上位の優先度の階層が前記階層充足条件を満たした場合に限り、下位階層の優先度に所属する調達先への配分を可能にする数式を、配分制限制約として生成する配分制限制約生成部と、
最適化問題目的関数を格納する最適化問題目的関数格納部と、
前記個別上限判定制約、前記需給一致判定制約、前記個別充足判定制約、前記階層充足判定制約および前記配分制限制約を最適化問題優先度制約として読み出し、且つ前記最適化問題目的関数を読み出して、対応する最適化問題を解く最適化実行部と、
最適化結果を格納する最適化結果格納部と、
最適化結果を表示する最適化結果表示部と、を含む調達先配分装置。
【請求項3】
前記優先度割付を格納するための優先度割付データベースを備えた請求項2に記載の調達先配分装置。
【請求項4】
前記最適化問題優先度制約を格納するための最適化問題優先度制約データベースを備えた請求項2又は3に記載の調達先配分装置。
【請求項5】
前記需給一致判定制約を格納するための需給一致判定制約データベースを備えた請求項2~4のいずれかに記載の調達先配分装置。
【請求項6】
前記個別充足判定制約を格納するための個別充足判定制約データベースを備えた請求項2~5のいずれかに記載の調達先配分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の優先度を考慮した調達先配分方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調達先の配分計算では、数理最適化問題を応用して、コストの最小化または収益の最大化などの経済性を満たす計画を算出することが一般的である。この場合、発電機などの調達先は安価なものから選択されることとなる。
【0003】
一方で、自由化以後の取引は多様性を増しており、様々な態様の契約が結ばれている。例えば、経済性の点では、必ずしも最適とはならない配分計算を行うことが求められている。具体的には、再生可能エネルギーの有線活用や、個別の契約で優先購入が定められている場合などである。これらの場合には、経済性は二の次となり、優先する調達先をスケジュール指定つまり最適化問題としては定数として指定することで、配分計算を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許5159518号
配分計算の目的関数の重みづけ優先度に関するもの
【文献】H.P. Williams 『数理計画モデルの作成法』産業図書 1995 (ISBN-13 : 978-4782846018)整数計画法で論理条件を扱う方法に関する基礎文献
【文献】宮代隆平“整数計画ソルバー入門”,オペレーションズ・リサーチ,57,4,pp.183-189(2012)整数計画を解くソフトウェアの動向に関する基礎文献
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の小売事業者を束ねる需要バランシンググループ(以下、需要BG)が知られている。需要BGでは、各小売事業者にそれぞれ、調達先として、火力発電、風力発電、水力発電などが属する。例えば、小売1、2を持つ需要BGにおいて、調達先として水力発電機y,wと、風力発電機x,zとがあり、水力発電機yおよび風力発電機xが小売1に属し、水力発電機wおよび風力発電機zが小売2に属しているとする。ここで、小売1、2の中で、調達先の優先度を設定することができる。例えば、水力発電が風力発電よりも優先度が高いとすると、水力発電機y,wが優先度0、風力発電機x,zが優先度1となる。
【0006】
このような調達先に関する優先度の設定に加えて、調達先である発電機の側から見て、どちらの小売に優先的に電力を割り当てるかという小売に関する優先度(小売優先度と呼ぶこととする)を設定することも可能である。例えば、小売1の方が小売2より優先度を高くして、小売1に属する風力発電機xに予め設定された値まで配分されなければ、小売2に属する風力発電機zには配分されないとする。
【0007】
このため、小売1に属する風力発電機xに予め設定された値まで配分に達しない限り、小売2は風力発電機zから供給を受けることができないことになる。従って、小売2では水力発電機wだけに需要を頼るほかなくなり、水力発電機wだけで需要を賄いきれない場合には、小売2は風力発電機zという配分資源があるにも関わらず、需給一致のバランスを崩してしまう。その結果、配分計算で「解なし」エラーが発生することになる。
【0008】
需要BGでは小売事業者数が増加すると、調達先の優先度と小売優先度が競合して、配分計算の結果が「解なし」エラーの発生頻度が高まる可能性がある。配分計算で「解なし」エラーが発生すると、「解なし」エラーの発生原因を見極めた上で、調達先の優先度を再設定するなど、修正作業を行い、再度、配分計算を実行する必要がある。しかし、「解なし」エラーの発生原因が即座に判明することは少なく、配分計算での「解なし」エラーの原因究明や修正再実行は、時間がかかることが多い。契約態様の多様化が進む傾向にある現在、配分計算での「解なし」エラーの原因究明や修正再実行に要する作業時間は長期化し易く、面倒である。そのため、「解なし」エラーの発生は需給運用の業務効率を低下させる要因となっていた。
【0009】
特に、配分資源があるにも関わらず、小売事業者の需給バランスが崩れて配分計算で「解なし」エラーが発生した場合、実際には小売事業者の需給が一致可能であって、修正作業自体が徒労となるといった事態が起きかねない。そこで近年では、「解なし」エラーの発生を減らし、業務効率を改善することが強く求められている。
【0010】
本発明の実施形態では、現実に沿った形であれば、「解なし」エラーの発生を回避することができ、これにより需給運用の業務効率の向上を図った調達先配分方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本実施形態に係る調達先配分方法は、小売事業者が複数存在する場合の調達先配分方法であって、以下のステップ(1)~(15)を含む。
(1)配分計算の諸元である調達先のデータを格納する調達先格納ステップ。
(2)調達先の登録数を最大値として可変長な階層構造を持つ調達先の優先度および小売事業者間に設定される小売優先度を格納する優先度格納ステップ。
(3)前記小売事業者に関するデータを格納する小売事業者格納ステップ。
(4)各調達先の優先度に1個以上の調達先が所属するように対応付けた優先度割付を生成する優先度割付生成ステップ。
(5)前記優先度割付を格納する優先度割付格納ステップ。
(6)前記優先度割付を読み出し、各調達先への配分が、あらかじめ規定された上限値に達したと判定する数式を、個別上限判定制約として生成する個別上限判定制約生成ステップ。
(7)前記調達先が属する小売事業者の需給が一致していると判定する数式を、需給一致判定制約として生成する需給一致判定制約生成ステップ。
(8) 各調達先において前記個別上限判定制約または前記需給一致判定制約のどちらかを満たしているという個別充足条件の成立を判定する数式を、個別充足判定制約として生成する個別充足判定制約生成ステップ。
(9)前記優先度割付を読み出し、優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが前記個別充足条件を満たしているという階層充足条件の成立を判定する数式を、階層充足判定制約として生成する階層充足判定制約生成ステップ。
(10)前記優先度割付を読み出し、直上位の優先度の階層が前記階層充足条件を満たした場合に限り、下位階層の優先度に所属する調達先への配分を可能にする数式を、配分制限制約として生成する配分制限制約生成ステップ。
(11)前記個別上限判定制約、前記需給一致判定制約、前記個別充足判定制約、前記階層充足判定制約および前記配分制限制約を、最適化問題優先度制約として格納する最適化問題優先度制約格納ステップ。
(12)最適化問題目的関数を格納する最適化問題目的関数格納ステップ。
(13)前記最適化問題優先度制約および前記最適化問題目的関数を読み出し、対応する最適化問題を解く最適化実行ステップ。
(14)最適化結果を格納する最適化結果格納ステップ。
(15)最適化結果を表示する最適化結果表示ステップ。
【0012】
本発明の実施形態は、上記ステップを実行する構成要素を備えた調達先配分装置として捉えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態のブロック図
図2】第1の実施形態のデータ生成およびデータ表示の流れを示すフローチャート
図3】第1の実施形態のデータ生成の関係を示す説明図
図4】第1の実施形態の数式を示す図
図5】第1の実施形態の数式、数式および添字の定義を示す図
図6】第1の実施形態との比較例の計算例を示す図
図7】第1の実施形態との比較例の計算例を示す図
図8】第1の実施形態との比較例の計算例を示す図
図9】第1の実施形態の計算例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
[構成]
図1のブロック図を用いて第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は、各構成要素がそれぞれのステップを実行する調達先配分方法である。第1の実施形態は、各ステップを実行する構成要素を備えた調達先配分装置として捉えてもよい。なお、実施形態の態様としては、調達先配分方法およびその装置に加えて、各ステップをコンピュータに実行させる調達先配分プログラムや、当該プログラムを記録した記録媒体も包含するものとする。
【0015】
図1に示すように、調達先配分装置100には、データの格納部であるデータベース(DBと記載する)1、2、4、8、9、11、13、16、17、18が設けられている。また、調達先配分装置100には6つの生成部3、5、6、7、14、15が設けられている。さらに、調達先配分装置100には、上記の構成要素に加えて、最適化実行部10と、最適化結果表示部12とが設けられている。
【0016】
調達先配分装置100に設けられたDBはそれぞれ、データを格納する格納ステップを行う。このうち、1は調達先DB、2は優先度DB、16は小売事業者DB、4は優先度割付DBである。調達先DB1は、配分計算の諸元である調達先のデータを格納し(調達先格納ステップ)、優先度DB2は、調達先の優先度および小売事業者間に設定される小売優先度を格納する(優先度格納ステップ)。調達先の優先度は、調達先の登録数を最大値として可変長の階層構造を持つものとする。小売事業者DB16は、小売事業者に関するデータを格納する(小売事業者格納ステップ)。小売事業者に関するデータには小売事業者の需給データなどが含まれる。優先度割付DB4は、後述する優先度割付生成部3が生成した優先度割付を格納する(優先度割付格納ステップ)。
【0017】
8は最適化問題優先度制約DB、9は最適化問題目的関数DB、11は最適化結果DB、13は最適化問題通常制約DB、17は最適化問題需給一致判定制約DB、18は最適化問題個別充足判定制約DBである。このうち、最適化問題優先度制約DB8は、後に述べるデータの生成部5、6、7からそれぞれ、個別上限判定制約、需給一致判定制約および配分制限制約といったデータを読み込んで、これらの制約を最適化問題優先度制約として格納する(最適化問題優先度制約格納ステップ)。なお、最適化問題優先度制約DB8は、後に述べるデータの生成部14、15からそれぞれ、需給一致判定制約及び個別充足判定制約といったデータを読み込んで、これらの制約も最適化問題優先度制約として格納するようにしてもよい。
【0018】
最適化問題目的関数DB9は、最適化問題目的関数を格納する(最適化問題目的関数格納ステップ)。最適化結果DB11は、最適化実行部10が解いた最適化問題の解として、最適化結果を格納する(最適化結果格納ステップ)。図9の例でみるように、本発明に係る実施形態は、数学的には「整数計画法」と呼ばれる最適化問題のクラスに含まれる。非特許文献2に示されるように整数計画法は汎用ソルバーと呼ばれる商用/非商用ソフトウェアを適用して解くことが一般的である。本発明に係る実施形態でおいても同様の想定である。最適化問題通常制約DB13は、前記の最適化問題優先度制約ではなく、従来からある既存の制約として最適化問題通常制約を格納する(最適化問題通常制約格納ステップ)。最適化問題通常制約とは、例えば、需給一致制約、調達先の上限値制約、調達先の下限値制約などである。最適化問題需給一致判定制約DB17は、後述するデータの生成部14から需給一致判定制約を読み込んでこれを格納するデータベースである。最適化問題個別充足判定制約DB18は、後述するデータの生成部15から個別充足判定制約を読み込んでこれを格納するデータベースである。
【0019】
調達先配分装置100に設けられた6つの生成部はそれぞれ、データの生成ステップを行う。このうち、3は優先度割付生成部である。優先度割付生成部3は、調達先DB1から調達先のデータを読み出し、優先度DB2から調達先優先度を読み出して、各調達先の優先度に1個以上の調達先が所属するように対応付けた優先度割付を生成する(優先度割付生成ステップ)。
【0020】
5は個別上限判定制約生成部、6は階層充足判定制約生成部、7は配分制限制約生成部、14は需給一致判定制約生成部、15は個別充足判定制約生成部である。個別上限判定制約生成部5は、優先度割付DB4から優先度割付を読み出して、各調達先への配分が、あらかじめ規定された上限値に達したと判定する数式を、個別上限判定制約として生成する(個別上限判定制約生成ステップ)。
【0021】
階層充足判定制約生成部6は、優先度割付DB4から優先度割付を読み出して、優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが個別充足条件を満たしているという階層充足条件の成立を判定する数式を、階層充足判定制約として生成する (階層充足判定制約生成ステップ)。配分制限制約生成部7は、優先度割付DB4から優先度割付を読み出して、直上位の優先度の階層が階層充足条件を満たした場合に限り、下位階層の優先度に所属する調達先への配分を可能にする数式を、配分制限制約として生成する(配分制限制約生成ステップ)。
【0022】
需給一致判定制約生成部14は、小売事業者DB16から小売事業者に関するデータを呼び出して、調達先が属する小売事業者の需給が一致していると判定する数式を、需給一致判定制約として生成する(需給一致判定制約生成ステップ)。個別充足判定制約生成部15は、各調達先において個別上限判定制約または需給一致判定制約のどちらかを満たしているという個別充足条件の成立を判定する数式を、個別充足判定制約として生成する(個別充足判定制約生成ステップ)。
【0023】
最適化実行部10は、最適化問題優先度制約DB8から最適化問題優先度制約を、最適化問題目的関数DB9から最適化問題目的関数を、最適化問題通常制約DB13から最適化問題通常制約を、最適化問題需給一致判定制約DB17から需給一致判定制約を、最適化問題個別充足判定制約DB18から個別充足判定制約を、それぞれ読み出して、これらに対応する最適化問題を解く部分である。また、最適化実行部10は最適化の実行が正常に終了したかどうかを判定する。最適化結果表示部12は、最適化実行部10が最適化の実行は正常に終了したと判定すれば、最適化結果を表示し、最適化実行部10が最適化の実行は正常に終了しなかったと判定すれば、エラー種別を表示する。
【0024】
[データ生成およびデータ表示]
図2を用いて第1の実施形態のデータ処理の流れについて説明する。図2に示すように、まず、優先度割付生成部3が優先度割付データを生成する(ステップ20)。続いて、個別上限判定制約生成部5は個別上限判定制約データを生成し(ステップ21)、需給一致判定制約生成部14は需給一致判定制約データを生成し(ステップ22)、個別充足判定制約生成部15は個別充足判定制約データを生成し(ステップ23)、階層充足判定制約生成部6は階層充足判定制約データを生成し(ステップ24)、配分制限制約生成部7は配分制限制約データを生成する(ステップ25)。
【0025】
上記のステップ21からステップ25で生成された個別上限判定制約、需給一致判定制約、個別充足判定制約、階層充足判定制約および配分制限制約は、最適化問題優先度制約として最適化問題優先度制約DB8に格納される。最適化実行部10は、最適化問題優先度制約DB8から最適化問題優先度制約を、最適化問題目的関数DB9から最適化問題目的関数を、最適化問題通常制約DB13から最適化問題通常制約を、それぞれ読み出して、これらに対応する最適化問題を解く(最適化実行ステップ:ステップ26)。
【0026】
最適化実行部10は最適化の実行が正常に終了したかどうかを判定し(正常終了判定ステップ:ステップ27)、最適化の実行が正常に終了した場合(ステップ27のY)、最適化結果表示部12は最適化結果を表示する(最適化結果表示ステップ:ステップ28)。最適化実行部10が最適化の実行は正常に終了しなかったと判定した場合(ステップ27のN)、最適化結果表示部12はエラー種別を表示する(エラー種別表示ステップ:ステップ29)。
【0027】
以上のような第1の実施形態は、調達先に関する優先度の概念を階層的集合としてモデル化し、最適化問題の制約条件として取り扱う。「優先度の概念を階層的集合としてモデル化する」とは、複数の調達先を登録してその登録数を最大値とした階層的構造を持つ階層として優先度を捉え、まず優先度に対応する複数の階層を考える。優先度の各階層は例えば、「優先度0」、「優先度1」…に対応する。全ての調達先がどれか一つの優先度の階層に所属するとすれば、各優先度に対応する調達先の集合が導けることになる。
【0028】
また、第1の実施形態では、図3に示すように、各調達先への配分があらかじめ規定された上限値に達していることを示す[個別上限判定]を行うと共に、各調達先が属する小売事業者の需給が一致しているかどうかという[需給一致判定]を行う。そして、[個別上限判定]と、[需給一致判定]との論理和(OR条件)から、各調達先に対して[個別充足判定]を行っている。さらに、第1の実施形態では、優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが前記個別充足条件を満たしているかという[階層充足判定]を行う。第1の実施形態では、これらの充足判定を導入したことで、各調達先の優先度を、「直上位の優先度の階層が階層充足条件を満たさない限り、調達先自身の電力量が配分されることはない」と定義したことになり、[配分制限制約生成]を行う。
【0029】
以上の優先度の関係を、0-1変数を用いた最適化問題の制約条件としてモデル化すると、必要な制約データは次の5つである。
(a)各調達先への配分があらかじめ規定された上限値に達していることを示す論理フラグ(個別上限判定)
(b)調達先が属する小売事業者の需給が一致していることを示す論理フラグ(需給一致判定)
(c)調達先が個別上限または需給一致のどちらかを満たしているとことを示す論理フラグ(個別充足判定)
(d)階層が個別充足条件を満たしていることを示す論理フラグ(階層充足判定)
(e)直上位の階層が階層充足条件を満たしていなければ下位階層の優先度に所属する調達先は配分されない制御を行う切換え機能(配分制限)
【0030】
第1の実施形態では、個別上限判定制約生成部5、需給一致判定制約生成部14、個別充足判定制約生成部15、階層充足判定制約生成部6、配分制限制約生成部7が、上記の5つの制約データ(a)~(e)を、0-1変数を用いて数式化している。生成部5、14、15が生成する数式を図4に示し、生成部5、6が生成する数式を図5に示す。いずれも優先度x,x-1とした場合である。なお、図5の下段に数式および添字の定義を示す。
【0031】
図4に示すように、個別上限判定制約生成部5では、任意のf(調達先ごと)に数式(1)を生成して、あらかじめ規定された上限値まで配分されたときのみ、Δ=1となる。また、需給一致判定制約生成部14では、任意のf(小売内調達先ごと)に数式(2)を生成して、需要想定分の調達先が配分されたときのみ、Δ’=1となる。個別充足判定制約生成部15では、任意のf(小売内調達先ごと)に数式(3)を生成して、Δ=1か、あるいはΔ’=1が成立すればδ=1となる。
【0032】
図5に示すように、階層充足判定制約生成部6では、1階層である優先度ごとに1つ、数式(4)を生成して、全ての階層でδ=1のときのみ、L=1となる。さらに、配分制限制約生成部7では、任意のg(調達先ごと)に数式(5)を生成して、L=1のときのみ、配分可能となる。
【0033】
[作用]
第1の実施形態によって優先度制約を適用した場合と、従来技術により通常制約を適用した場合とに関して、具体的な比較例を用いて説明する。図6図9に需要BG全体での配分計算を示す。小売1、2を持つ需要BGにおいて、小売1の需要D1は250kWh、小売2の需要D2は300kWhである。調達先としては水力発電機y,wと、風力発電機x,zとがあり、水力発電機yおよび風力発電機xが小売1に属し、水力発電機wおよび風力発電機zが小売2に属する。
【0034】
各発電機の最大配分・1kWh当たりのコストは、次の通りである。
風力発電機x…200kWh・12円、
水力発電機y…210kWh・16円、
風力発電機z…220kWh・8円、
水力発電機w…230kWh・10円である。
【0035】
小売1の需要D1は250kWh、小売2の需要D2は300kWhなので、需給一致制約は、小売1の需要D1はx+y=250、小売2の需要D2はz+w=300となり、配分計算では需要BG全体で、12x+16y+8z+10wの最小コストを求めるものとする。従来技術により通常制約のみ(例えば目的関数がコスト最小化)を適用した場合を図6に示す。図6に示すように、風力発電機xには40kWh、水力発電機yには210kWh、風力発電機zには220kWh、水力発電機wには80kWhが配分される。従って、12x+16y+8z+10w=12・[40]+16・[210]+8・[220]+10・[80]=5720円となって、コスト的には最も安価である。
【0036】
ここで、発電機の側から見た小売優先度を設定したとする。例えば、風力発電機の側から見て小売1の方が小売2に優先する、つまり小売1→小売2という優先度を追加して、小売1に属する風力発電機xの方が小売2に属する風力発電機zに優先するものとする(図7参照)。この場合、風力発電機xが最大配分200kWhに達しない限り、風力発電機zに配分されることはない。従って、図7での数式に示すように、風力発電機xの配分上限x=200でΔx=1となり、Δx=1でLz=1となる。つまり、Lz=1となって、小売1に属する風力発電機xが上限値に達したことになり、下位の小売2に属する風力発電機zへの配分が可能となる。
【0037】
その結果、小売1においては、風力発電機xには200kWhが配分され、x+y=250であるから、水力発電機yには50kWhが配分される。また、小売2においては、前記図6に示した場合と同じく、風力発電機zには220kWhが配分され、水力発電機wには80kWhが配分されることになる。従って、12x+16y+8z+10w=12・[200]+16・[50]+8・[220]+10・[80]=5760円となって、通常制約のみの場合と比べて、わずかながらコストが上昇する。
【0038】
さらに、小売1→小売2という優先度を維持したまま、小売1内で水力を風力よりも優先する、つまり水力発電機y→風力発電機xという優先度を追加したとする(図8参照)。この場合、水力発電機yが最大配分210kWhに達しない限り、風力発電機xに配分されることはない。また、小売1→小売2という優先度が存在するので、風力発電機xが最大配分200kWhに達しない限り、風力発電機zに配分されることはない。ここで、水力発電機yが最大配分210kWhであるため、風力発電機xは40kWhしか配分されない。すなわち、風力発電機xは最大配分に達することはなく、風力発電機xの配分は「満杯」にならないということになる。
【0039】
従って、図8に示すように、小売2に属する風力発電機zには全く配分されずに0kWhとなる。このため、水力発電機wに230kWhが配分されたとしても、小売2の需要D2である300kWを満たすことはできず、小売2の需給バランスは破綻することになる。従って、小売2の需要D2は、風力発電機zという配分資源があるにも関わらず、配分計算は「解なし」NGになる。すなわち、需要BGにおいて異なる小売優先度と調達先の優先度が競合した結果、小売2側には電力に余裕があるにも関わらず、配分計算の結果が「解なし」エラーとなる。配分計算では、「解なし」エラーの発生原因が分かりやすく提示されることはなく、エラーの原因が判明するまでには時間がかかる。しかも、実際には小売事業者の需給が一致可能でありながら、需給バランスが破綻すると計算された場合、「解なし」エラーの原因究明は難しい可能性がある。
【0040】
そこで、第1の実施形態では、図9に示すように、風力発電機xに対する優先度による制約を緩めて(図9では「満杯」基準の緩和とした)、個別上限判定制約か、需給一致判定制約のどちらかを満たしていれば、調達先である風力発電機xの個別の判定制約が充足されるものとする。すなわち、風力発電機xが最大配分200kWhに達しておらず、風力発電機xが「満杯」になっていないとしても、需給一致判定制約であるx+y=250が成立するのであれば、小売2の需給バランスに支障を来すことはないので、風力発電機zへの配分を可能とする。
【0041】
すなわち、図9での数式の追加制約にて示すように、Δx=1またはΔ’=1で、δ=1として、Lz=1で小売2に属する風力発電機zへの配分が可能となる。これは、風力発電機xにおける「満杯」という基準を緩和して、小売2に属する風力発電機zに220kWhが配分されることを意味する。また、水力発電機wには80kWhが配分される。その結果、12x+16y+8z+10w=12・[40]+16・[210]+8・[220]+10・[80]=6400円となり、図7に示した場合よりもさらにコストが上昇するものの、風力発電機zに配分できて、解が求まることになり、「解なし」エラーを回避することができる。
【0042】
[効果]
第1の実施形態は、小売事業者が複数存在する場合の調達先配分方法であって、各調達先の優先度に1個以上の調達先が所属するように対応付けた優先度割付を生成する優先度割付生成ステップと、各調達先への配分が、あらかじめ規定された上限値に達したと判定する数式を、個別上限判定制約として生成する個別上限判定制約生成ステップと、調達先が属する小売事業者の需給が一致していると判定する数式を、需給一致判定制約として生成する需給一致判定制約生成ステップと、各調達先において前記個別上限判定制約または前記需給一致判定制約のどちらかを満たしているという個別充足条件の成立を判定する数式を、個別充足判定制約として生成する個別充足判定制約生成ステップと、各優先度の階層ごとに所属する調達先の全てが個別充足条件を満たしているという階層充足条件の成立を判定する数式を、階層充足判定制約として生成する階層充足判定制約生成ステップと、直上位の優先度の階層が階層充足条件を満たした場合に限り、下位階層の優先度に所属する調達先への配分を可能にする数式を、配分制限制約として生成する配分制限制約生成ステップと、を含む。
【0043】
上記のような第1の実施形態では、各調達先が属する小売事業者の需給一致判定と各調達先の個別上限判定との論理和である個別の充足判定を導入し、調達先の優先度を、「直上位の優先度の階層に所属する調達先の全てが個別充足条件を満たさない限り、調達先自身の電力量が配分されることはない」といった定義を維持しつつ、調達先が属する小売事業者の需給が一致するという現実に沿った形で、小売事業者間に設定された優先度を緩和することが可能である。
【0044】
このため、需要BGなどにおいて配分資源があるにも関わらず小売事業者の需給バランスが崩れて生じる「解なし」エラーを、回避することができる。従って、調達先の優先度を再設定するなどの修正作業が不要となり、正常な配分計算を実行することが可能となる。その結果、契約態様が多様化した場合でも確実に、需給運用の業務効率を向上させることができる。
【0045】
また、第1の実施形態においては、需給一致判定制約を格納する最適化問題需給一致判定制約DB17及び個別充足判定制約を格納する最適化問題個別充足判定制約DB18を独立して備えている。そのため、最適化実行部10は、これらの判定制約を効率よく利用して最適化問題を解くことができる。
【0046】
(他の実施形態)
本発明のいくつかの複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0047】
例えば、第1の実施形態における需要BGでは、小売事業者が2つで、各小売事業者内の調達先が2つであったが、小売事業者の数は3つ以上でもよいし、各小売事業者内の調達先も3つ以上あっても構わない。また、優先度が異なる小売事業者に属する調達先間に同一の制約条件が跨っていてもよく、一つの数理計画内で、当該制約条件と優先度を同時に考慮して解を求めることができる。このような実施形態によれば、人手で当該制約を考慮しつつ優先度をスケジュール指定する運用に比べて、効率よく配分計算作成業務を進めることができる。
【0048】
また本発明はコスト最小化問題だけではなく、収益最大化問題の場合でも適用可能である。目的関数が最大化の場合でも優先度を定義する制約条件群は数学的には同等であるからである。
【符号の説明】
【0049】
1 調達先DB
2 優先度DB
3 優先度割付生成部
4 優先度割付DB
5 個別上限判定制約生成部
6 階層充足判定制約生成部
7 配分制限制約生成部
8 最適化問題優先度制約DB
9 最適化問題目的関数DB
10 最適化実行部
11 最適化結果DB
12 最適化結果表示部
13 最適化問題通常制約DB
14 需給一致判定制約生成部
15 個別充足判定制約生成部
16 小売事業者DB
17 最適化問題需給一致判定制約DB
18 最適化問題個別充足判定制約DB
100 調達先配分装置
図1
図2
図3
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図9