(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】滑り緩衝装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240924BHJP
F16F 15/067 20060101ALI20240924BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/067
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2021021584
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】松井 伸仁
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河合 俊直
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-276186(JP,A)
【文献】特開2006-057435(JP,A)
【文献】特開2005-240822(JP,A)
【文献】特開2009-079621(JP,A)
【文献】特開2003-160991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 15/067
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物と第2構造物との対向部分に配設される第1部材と第2部材とを有し、前記第1部材は前記第1構造物に固定され、前記第2部材は前記第2構造物に固定され、前記第1部材に摺動面を構成する滑り部材が備えられた滑り緩衝装置であって、
前記滑り部材を前記第1構造物に固定する台座
が設け
られ、
前記滑り部材と前記台座との間には、前記滑り部材及び前記台座を前記摺動面の摺動方向と直交する摺動直交方向であって離間する方向に付勢するバネ部材が設けられ、
前記バネ部材は、前記滑り部材の重心に対して等間隔で配置された複数のコイルバネで構成さ
れ、
前記滑り部材と前記台座との互いに対向する部分には、前記コイルバネの前記摺動方向の移動を規制するスプリングガイドが設けられ、
前記台座には、摺動直交方向に延びるとともに、先端側の内部に前記滑り部材を摺動直交方向に移動可能に収容する筒部材が設けられ、
前記筒部材は前記台座に固定され、
前記筒部材および前記滑り部材には、前記滑り部材の摺動直交方向への位置規制を行なう規制部が設けられ、
前記規制部は、
前記筒部材に設けられた上下方向に延びる長孔と、
前記長孔を介して前記滑り部材の外周部に螺合するボルトとで構成された
滑り緩衝装置。
【請求項2】
前記滑り部材の外周部には、前記筒部材の内周面に摺接する側部滑り部が設けられた
請求項
1に記載の滑り緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1構造物と第2構造物との対向部分に配設される第1部材と第2部材とを有し、前記第1部材は前記第1構造物に固定され、前記第2部材は前記第2構造物に固定され、前記第1部材に摺動面を構成する滑り部材が備えられるとともに、ダンパー機能を有する滑り緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震動等の振動を吸収し、構造物が振動によって損傷することを防止する免震構造が多用されている。
例えば、特許文献1における免震部屋工法もそのひとつである。特許文献1における免震部屋工法は、建物枢体内の所望の部屋内に、免震装置を介して部屋を構築するとともに、免震装置の他に減衰装置、衝突緩衝材を備えている。
【0003】
このように構成した部屋の内部の物品全体が免震され、横揺れの地震等の被害を避けることができるとされている。
しかしながら、オイルダンパーなどの複雑な構造の減衰装置が必要となり、構造の簡略が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、第1部材と第2部材との境界である摺動面が摺動方向に摺動して面内方向に変位することができるとともに、構造物の摺動方向への変位量を抑制するダンパー効果と、摺動直交方向への振動を吸収する効果とを奏することができる簡単な構造の滑り緩衝装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、第1構造物と第2構造物との対向部分に配設される第1部材と第2部材とを有し、前記第1部材は前記第1構造物に固定され、前記第2部材は前記第2構造物に固定され、前記第1部材に摺動面を構成する滑り部材が備えられた滑り緩衝装置であって、前記滑り部材を前記第1構造物に固定する台座が設けられ、前記滑り部材と前記台座との間には、前記滑り部材及び前記台座を前記摺動面の摺動方向と直交する摺動直交方向であって離間する方向に付勢するバネ部材が設けられ、前記バネ部材は、前記滑り部材の重心に対して等間隔で配置された複数のコイルバネで構成され、前記滑り部材と前記台座との互いに対向する部分には、前記コイルばねの前記摺動方向の移動を規制するスプリングガイドが設けられ、前記台座には、摺動直交方向に延びるとともに、先端側の内部に前記滑り部材を摺動直交方向に移動可能に収容する筒部材が設けられ、前記筒部材は前記台座に固定され、前記筒部材および前記滑り部材には、前記滑り部材の摺動直交方向への位置規制を行なう規制部が設けられ、前記規制部は、前記筒部材に設けられた上下方向に延びる長孔と、前記長孔を介して前記滑り部材の外周部に螺合するボルトとで構成されたことを特徴とする。
【0007】
上記第1構造物及び第2構造物は、例えば、外壁で囲繞された部屋を第1構造物とし、上記外壁を離間囲繞する外部の上床版を第2構造物としてもよく、サーバーまたはサーバーを格納する筐体等の軽量構造物を第1構造物とし、軽量構造物が収容される部屋の内壁を第2構造物としてもよく、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を第1構造物とし、ビルを第2構造物としてもよい。
【0008】
上記第1部材及び第2部材は、第1構造物の上方に第2構造物が配置された場合における下側部材と上側部材とで構成してもよい。
上記滑り緩衝装置は、面内方向における任意の方向に摺動する構成であってもよいし、面内方向における一方向に摺動する構成であってもよい。
【0009】
上記面内方向は、例えば、第1部材及び第2部材との対向部分における摺動面が平面である場合、摺動面を構成する平面に平行な方向であり、該平面に交差する方向を含まない概念である。
上記滑り部材は、ポリアミド樹脂(PA)やポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、あるいは、その他の樹脂や、金属、グラファイト、セラミックス等の樹脂以外の材質であってもよい。
上記コイルバネとしては、角バネ、HKバネ、Hareyバネ、円錐バネ、同心圧縮コイルバネのいずれであってもよい。
【0010】
この発明により、簡単な構造で、第1部材と第2部材との境界である摺動面で摺動できるとともにダンパー機能を奏することができる。
詳述すると、第1構造物に固定された第1部材と、第2構造物に固定された第2部材との境界面、つまり、摺動面が摺動方向に摺動して、面内方向に変位することができる。
【0011】
また、摺動直交方向であって離間する方向に付勢するバネ部材が設けられているため、第1構造物の摺動直交方向への変位を許容することができる。しかも、地震動等の外力により第1構造物が摺動直交方向に変位した場合、バネ部材が摺動直交方向に圧縮され、バネ部材のバネ力が増大する。この結果、第1構造物の摺動方向への摺動抵抗が増加し、つまり滑り性を低下させて摺動方向への変位量を抑制することができる。
すなわち、第1構造物の第1構造物の摺動直交方向への変位を許容するとともに、摺動方向への変位量を抑制するというダンパー効果を確保することができる。
【0012】
つまり、構造物を摺動方向に摺動する機能と、摺動方向への変位量を抑制する機能とを、簡単な構造の一種の滑り緩衝装置によって確保することができ、滑り緩衝装置の設置に手間を要したり、構造が煩雑化することを抑制できる。
【0013】
また、前記バネ部材が、前記滑り部材の重心に対して等間隔で配置された複数のコイルバネで構成されているため、複数のコイルバネにより滑り部材に極端な偏荷重が作用することを防止できる。さらに、安定した付勢力によって、確実に摺動方向への変位量を抑制することができる。
【0014】
また、前記台座には、摺動直交方向に延びるとともに、先端側の内部に前記滑り部材を摺動直交方向に移動可能に収容する筒部材が設けられているため、第1構造物に固定された台座と滑り部材とが筒部材を介して摺動方向に相対移動不能に連結されるため、その間に設けられたバネ部材が摺動方向の外力を受けることがない。よって、バネ部材が意図せず摺動方向に変形したり、バネ機能を阻害されたりすることを抑止できる。
【0015】
また、前記筒部材および前記滑り部材には、前記滑り部材の摺動直交方向への位置規制を行なう規制部が設けられているため、前記規制部によって滑り部材の摺動直交方向の移動を許容しつつ、滑り部材の摺動直交方向の位置規制を行なうことができ、バネ部材のバネ力で滑り部材が筒部材から抜け出ることを防止できる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記滑り部材の外周部には、前記筒部材の内周面に摺接する側部滑り部が設けられてもよい。
上記側部滑り部は、ポリアミド樹脂(PA)やポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、あるいは、その他の樹脂や、金属、グラファイト、セラミックス等の樹脂以外の材質であってもよい。
この発明により、側部滑り部によって筒部材に対する摺動抵抗の低減を図り、滑り部材の摺動直交方向への移動時における摺動性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、第1部材と第2部材との境界である摺動面が摺動方向に摺動して面内方向に変位することができるとともに、構造物の摺動方向への変位量を抑制するダンパー効果と、摺動直交方向への振動を吸収する効果とを奏することができる簡単な構造の滑り緩衝装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】滑り緩衝装置を第1部材と第2部材とに分解した状態で示す分解斜視図。
【
図9】滑り緩衝装置を部屋の外壁と外郭の上床版との間に配置した実施例を示す概略図。
【
図10】部屋の外壁が摺動直交方向に変位した場合の概略図。
【
図11】滑り緩衝装置をサーバーラックの上下の両側に配置した実施例を示す概略図。
【
図12】滑り緩衝装置をビルと渡り廊下との間に配置した実施例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
図1は滑り緩衝装置1の斜視図を示し、
図2は滑り緩衝装置1を下側部材30と上側部材40とに分解した分解斜視図を示し、
図3は
図1のA-A線矢視断面図を示し、
図4は上側部材40の分解斜視図を示し、
図5は下側部材30の分解斜視図を示し、
図6は
図3のB-B線に沿う要部の矢視断面図を示している。なお、
図1において上部構造物20の手前側の一部を透過状態で図示している。
【0020】
また、
図7はコイルバネ34の状態を説明する説明図を示している。詳しくは、
図7(a)はコイルバネ34の無負荷状態を示す概略断面図であり、
図7(b)は滑り緩衝装置設置状態におけるコイルバネ34の状態を示す概略断面図であり、
図7(c)はコイルバネの限界沈み込み時の状態を示す概略断面図である。
【0021】
図3に示すように、滑り緩衝装置1は、下部構造物10と上部構造物20との対向部分に配設されて免震構造を構成する免震装置である。この滑り緩衝装置1は、下部構造物10に固定された下側部材30と、上部構造物20に固定された上側部材40とを備えている。そして、下側部材30と上側部材40との境界面、つまり、摺動面30a,40aが摺動することで、下部構造物10が上部構造物20に対して境界面(摺動面)における面内方向に相対的に変位することができる。
【0022】
詳しくは、滑り緩衝装置1は、
図3に示すように、下部構造物10の上面に固定された下側部材30と、上部構造物20の下面に固定された上側部材40とを備えている。
上側部材40は、上部構造物20の下面に固定されたソールプレート41と、ソールプレート41の他方側部に複数の皿小ねじを用いて固定されたスライドプレート42とを備えている。スライドプレート42の下面は、下側部材30の下摺動面30aと摺動する上摺動面40aを構成している。
【0023】
本実施形態では、
図1,
図2,
図4に示すように、ソールプレート41は、一般構造用圧延鋼板などの鋼板で構成されるとともに、方形状に形成されている。ソールプレート41は、アンカボルト21およびナット22を用いて四隅部が上部構造物20の下面に固定される。
【0024】
図1,
図2に示すように、スライドプレート42は、アンカボルト21との干渉を回避するため方形状の四隅部に切欠き部42aが形成された略八角形状に形成されている。なお、スライドプレート42はステンレス鋼などの鋼板で構成されている。
【0025】
図3に示すように、下側部材30は、台座31と、筒部材32と、滑り部材33と、コイルバネ34とを備えている。
台座31は、下部構造物10の上面に固定され、筒部材32は、台座31から摺動直交方向(上下方向Y)の上方に延びる筒状体である。なお、摺動直交方向(上下方向Y)は、摺動面30aを構成する水平面に対して直角に交差する方向である。
【0026】
滑り部材33は、筒部材32の先端側内部に上下方向Yに移動可能に収容され、コイルバネ34は、滑り部材33を台座31から離間する上方向に付勢する。
詳述すると、
図2,
図3,
図5に示すように、台座31は方形状に形成されており、台座31の四隅部がアンカボルト11およびナット12を用いて下部構造物10の上面に取付けられている。
【0027】
図3,
図5に示すように、台座31の上面には、筒部材32の基部を挿入する円環状の凹溝31aが形成されている。円筒形状に形成された筒部材32の基部を凹溝31a内に挿入し、かつ凹溝31aから外部に露出した筒部材32の外周と、台座31との間を溶接手段によって溶着固定している。
台座31は、一般構造用圧延鋼板などの鋼板で構成され、滑り部材33を下部構造物10に固定するものである。
【0028】
図3,
図5に示すように、筒部材32は鋼板によって構成された筒状であり、その先端側には、円周上等間隔(本実施形態では、円周上90度の等間隔)を隔てて上下方向Yに延びる長孔32aが形成されている。
【0029】
摺動部材として機能する滑り部材33は、ベアリングホルダ36と、スライドベアリング37とを備えている。
ベアリングホルダ36は、スライドベアリング37を保持する円盤状鋼材で形成されている。
【0030】
スライドベアリング37は、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、または、ポリ四フッ化エチレン樹脂で摺動直交方向から見て円形に形成されている。
本実施形態では、スライドベアリング37はベアリングホルダ36に対して貼付けられている。スライドベアリング37の表面37aは、上側部材40のスライドプレート42の表面である上摺動面40aと摺動する下摺動面30aを構成している。
【0031】
図5に示すように、滑り部材33を構成するベアリングホルダ36の外周部、詳しくは、長孔32a同士の間に位置するベアリングホルダ36の外周部には、筒部材32の内周面に摺接するサイドベアリング38が設けられている。
サイドベアリング38は、スライドベアリング37と同様、自己潤滑性を有し、ポリアミド樹脂、または、ポリ四フッ化エチレン樹脂で帯状に形成され、ベアリングホルダ36の外周部に貼付けられている。
【0032】
図3に示すように、筒部材32の外周側から長孔32aを介してベアリングホルダ36の下部外周部に螺合するボルトB1を設けている。ボルトB1と長孔32aとの両者で、滑り部材33の上下方向Yへの位置規制を行なう規制部35として機能している。ボルトB1としては六角穴付きボルトが用いられる。
【0033】
滑り部材33を上方に付勢するコイルバネ34は、滑り部材33の重心位置CE、および滑り部材33の重心位置CEに対して等間隔で複数配置されている(
図6参照)。
詳しくは、複数のコイルバネ34は、
図6に示すように、滑り部材33の重心位置CEとベアリングホルダ36の外周との間において、重心位置CEと、重心位置CEを中心とする仮想円周上において等間隔を隔てた複数の位置とに配置されている。
【0034】
本実施形態では、仮想円周上に45度の等間隔を隔てて配置した8個のコイルバネ34と、重心位置CEに配置したコイルバネ34との合計9個のコイルバネ34を用いている。
しかしながら、コイルバネ34の配置構造は上記配置に限定されず、例えば、
図8(a),(b)に示す配置構造であってもよい。
【0035】
例えば、
図8(a)に示す配置構造は、重心位置CEとベアリングホルダ36の外周との間において、重心位置CEを中心とする仮想円周上に120度の等間隔を隔てた複数の位置にコイルバネ34を配置し、合計3個のコイルバネ34を用いている。
【0036】
図8(b)に示す配置構造は、重心位置CEとベアリングホルダ36の外周との間において、重心位置CEを中心とする仮想円周上に72度の等間隔を隔てた複数の位置と、重心位置CEとにそれぞれコイルバネ34を配置し、合計6個のコイルバネ34を用いている。
【0037】
図3,
図5,
図6に示すように、コイルバネ34を、滑り部材33と台座31との間において上述の配置構造で配置するための構造について以下で説明する。
すなわち、ベアリングホルダ36の下面に各コイルバネ34の内径部の位置と一致し、スプリングガイドとして機能するボルトB2を螺合固定している。
【0038】
同様に、台座31の上面に各コイルバネ34の内径部の位置と一致し、スプリングガイドとして機能するボルトB3を螺合固定している。
そして、ベアリングホルダ36側のボルトB2と台座31側のボルトB3との間にコイルバネ34を配設することで、滑り部材33と台座31との間にコイルバネ34を配置することができる。
なお、ボルトB2,B3としては、ボルト頭部が円柱状で、かつボルト頭部の外径がコイルバネ34の内径よりも小さい六角穴付きボルトが用いられる。
【0039】
コイルバネ34の状態を説明する
図7において、
図7(a)に示す無負荷状態におけるコイルバネ34は自由長L0であり、滑り緩衝装置1を下部構造物10と上部構造物20との対向部分に配設した設置状態では、
図7(b)に示すように、コイルバネ34が圧縮されて、その長さはL1となる。
【0040】
また、摺動直交方向に外力が付加されると、
図7(c)に示すようにコイルバネ34がさらに圧縮されて最大で限界沈み込み状態となり、この状態においてコイルバネの長さはL2となる(但し、L0>L1>L2)。
【0041】
これにより、
図7(a)に示す無負荷状態と
図7(b)に示す設置状態との間には、浮上り追従分αが確保でき、
図7(b)に示す設置状態と
図7(c)に示す限界沈み込み時との間には、沈み込み追従分βを確保することができる。
このように、コイルバネ34の伸縮により、地震動による上下振動を吸収することができる。
【0042】
続いて、下側部材30の組立について説明する。
まず、ベアリングホルダ36の上面(
図3,
図5の上面)にスライドベアリング37を貼付けるとともに、ベアリングホルダ36の外周面にサイドベアリング38を貼付ける。また、ベアリングホルダ36の下面(
図3,
図5の下面)には複数のボルトB2を取付ける。
【0043】
次に、予め凹溝31aが形成された台座31の上面(
図3,
図5の上面)に複数のボルトB3を取付ける。
そして、複数のコイルバネ34を台座31側のボルトB3に合わせて設置した後に、筒部材32を台座31の凹溝31aに嵌め込み、凹溝31aから外部に露出した筒部材32の外周と、台座31との間を溶着する。
【0044】
さらに、ベアリングホルダ36側のボルトB2がコイルバネ34の内径部と一致するように、ベアリングホルダ36を筒部材32の先端側に挿入する。そして、摺動面30aに対してコイルバネ34の付勢力が作用するように、滑り部材33を他方側(
図3,
図5の下方側)に押し下げ、この状態でボルトB1を、長孔32aを介してベアリングホルダ36の外周部に取付ける。本実施形態では、摺動面30aに対してコイルバネ34の付勢力が作用するように、滑り部材33を2mm程度押し下げて固定している。
【0045】
なお、下側部材30を含む滑り緩衝装置1が構造物10,20同士の間に配設されていない下側部材30単体の状態では、コイルバネ34の付勢力によりボルトB1は長孔32aの一方側孔縁に当接し、滑り部材33の筒部材32からの抜け出しが防止されている。
【0046】
図3に示すように、滑り緩衝装置1が構造物10,20同士の間の対向部分に配設されると、ボルトB1と長孔32aの一方側孔縁との間にはクリアランスが形成され、摺動面30aに対してコイルバネ34の付勢力が作用することとなる。
なお、下側部材30の組立順序は、上述した順序に限定されるものではなく、適宜の組立順序で組み立てもよい。
【0047】
このように構成した下側部材30と、上側部材40とを、
図3に示すように、下摺動面30aと上摺動面40aとが摺動可能に対向させて、下側部材30と上側部材40とを組み付けて滑り緩衝装置1を構成している。
【0048】
下側部材30の下摺動面30aと上側部材40の上摺動面40aとが摺動可能に対向する滑り緩衝装置1は、上側部材40の上摺動面40aと、下部構造物10に備えた下側部材30の下摺動面30aとが、コイルバネ34の付勢力に応じた接触圧で接触している。
【0049】
上述の滑り緩衝装置1は、下部構造物10と上部構造物20との対向部分に配設される下側部材30と上側部材40とを有し、下側部材30は下部構造物10に固定され、上側部材40は上部構造物20に固定され、下側部材30に摺動面30aを構成する滑り部材33が備えられている。
【0050】
また、滑り緩衝装置1は、滑り部材33を下部構造物10に固定する台座31を設け、滑り部材33と台座31との間には、滑り部材33及び台座31を摺動面30aの摺動方向である水平方向Xと直交する上下方向Yに離間する方向に付勢するコイルバネ34が複数設けられている。
【0051】
そのため、下部構造物10に固定された下側部材30と、上部構造物20に固定された上側部材40との境界面、つまり、摺動面30aが水平方向Xに摺動して、下部構造物10が上部構造物20に対して面内方向に相対的に変位することができる。
【0052】
しかも、地震動等の外力により下部構造物10が、上部構造物20に対して上方に変位した場合、コイルバネ34が圧縮され、コイルバネ34のバネ力が増大するため、滑り部材33および台座31に対する押圧力が高くなる。
【0053】
この結果、摺動面30a,40aの面圧が高くなることで摩擦力(摺動抵抗)が高くなり、摺動面30a,40aの滑り性を低下させて、下部構造物10の水平方向Xへの移動量を低減することができる。
【0054】
すなわち、下部構造物10と上部構造物20との相対的な上下方向Yの変位を許容するとともに、摺動直交方向への振動を吸収でき、さらには下部構造物10と上部構造物20との相対的な水平方向Xへの移動量を低減するというダンパー効果を確保することができる。
また、滑り部材33の重心位置CE(
図6参照)に対して等間隔で配置された8個のコイルバネ34を備えているため、滑り部材に極端な偏荷重が作用することを防止できる。さらに、コイルバネ34の安定した付勢力によって、確実に振動を吸収することができる。
【0055】
さらに、台座31には、上方に延びるとともに、先端側の内部に滑り部材33を上下方向Yに移動可能に収容する筒部材32が設けられたことにより、下部構造物10に固定された台座31と滑り部材33とが筒部材32を介して摺動方向に相対移動不能に連結されるため、その間に設けられたコイルバネ34が摺動方向の外力を受けることがない。よって、コイルバネ34が摺動方向に変形したり、バネ機能を阻害されたりすることを抑止できる。
【0056】
さらにまた、筒部材32および滑り部材33には、滑り部材33の上下方向Yへの位置規制を行なう規制部35が設けられたことにより、規制部35によって滑り部材33の上下方向Yの移動を許容しつつ、滑り部材33の摺動直交方向の位置規制を行なうことができ、コイルバネ34のバネ力で滑り部材33が筒部材32から抜け出ることを防止できる。
【0057】
加えて、滑り部材33の外周部には、筒部材32の内周面に摺接するサイドベアリング38が設けられたことにより、サイドベアリング38によって筒部材32に対する摺動抵抗の低減を図り、滑り部材33の上下方向Yへの摺動性を向上することができる。
【0058】
続いて、
図9,
図10を参照して滑り緩衝装置1の他の実施例について説明する。
図9は滑り緩衝装置1を部屋13の外壁17と外郭23の上床版26との間に配置した概略図を示し、
図10は部屋13の外壁17が摺動直交方向である鉛直方向上方Yaに変位した場合の概略図を示している。
【0059】
なお、
図9,
図10においては図示の便宜上、滑り緩衝装置1については概略的に示している。
また、
図9,
図10において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0060】
部屋13を構成する外壁17は、底壁14と、左右の側壁15と、上壁16とで外壁17を備えている。
そして、外壁17の外方を囲繞する外郭23を設け、外郭23は床部24と、左右の側壁部25と、上床版26とを備えている。
【0061】
外郭23の床部24と、外壁17の底壁14との間には、複数の傾斜滑り支承装置50が設けられるとともに、外壁17の上壁16と、外郭23の上床版26との間には、複数の滑り緩衝装置1が設けられている。
この場合、上壁16が下部構造物となり、上床版26が上部構造物となる。
【0062】
傾斜滑り支承装置50は、床部24に固定されたスペーサ51と、スペーサ51上に下部台座52を介して固定された下側傾斜支持部材53と、底壁14に上部台座54を介して固定された上側傾斜支持部材55とを備えている。
【0063】
下側傾斜支持部材53は、中央部から左上に延びる傾斜面53aと、中央部から右上に延びる傾斜面53bとを備え、各傾斜面53a,53bにより、下側傾斜支持部材53の上面部は正面視においてV字形状に形成されている。
上側傾斜支持部材55の下面部には、下側傾斜支持部材53の正面視V字形状と一致するようにV字形状部55aが形成されている。
【0064】
なお、
図9,
図10では左右方向の傾斜面53a,53bおよびV字形状部55aのみを図示したが、上下の各傾斜支持部材53,55には左右方向と直交する前後方向にも上述同様の傾斜面およびV字形状部が形成されている。
【0065】
地震動等の外力により、部屋13を形成する外壁17は、
図9に示す状態から
図10に示すように水平方向Xaに移動すると、傾斜滑り支承装置50の動作により、水平方向の移動量に応じて鉛直方向上方Yaに変位する。外壁17の鉛直方向上方の変位量に応じて外壁17が上方に移動する。
【0066】
外壁17の鉛直方向上方への変位は、上壁16の摺動直交方向の変位となるため、滑り緩衝装置1のコイルバネ34が摺動直交方向に圧縮され、上壁16の摺動直交方向への移動を吸収することができる。また、コイルバネ34のバネ力が増大して滑り部材33および台座31に対する押圧力が高くなる。この結果、水平方向への移動量に比例して摺動面30a,40aの面圧が高くなることで摩擦力(摺動抵抗)が高くなり、上壁16の摺動方向の移動量を低減することができる。
【0067】
図10に示すように、鉛直方向上方Yaに変位した外壁17には、コイルバネ34の付勢力と鉛直方向下方への重力とが作用して元の位置に戻ろうとする復元力が作用し、外壁17は傾斜滑り支承装置50の動作により、元の位置に戻ることができる。
【0068】
次に、
図11を参照して滑り緩衝装置1のさらに他の実施例について説明する。
図11は滑り緩衝装置1(1a,1b)をサーバーラックの上下両側に配置した概略図を示している。
【0069】
なお、
図11(a)は通常状態のサーバー室60の概略図を示し、
図11(b)は、サーバーラック61が水平方向X及び上下方向Yに移動した状態のサーバー室60の概略図を示している。また、
図11においても、図示の便宜上、滑り緩衝装置1については概略的に示すとともに、
図11において前図と同一の部分には、同一符号を付している。
【0070】
本実施例のサーバー室60は、サーバーラック61を収納するように、サーバー室60は底壁部62と、左右の側壁部63と、上壁部64とを備え、サーバーラック61と底壁部62及び上壁部64との間に滑り緩衝装置1(1a,1b)を配置している。
【0071】
具体的には、サーバー室60の底壁部62とサーバーラック61の底部との間には、複数の下側滑り緩衝装置1aが設けられるとともに、サーバーラック61の上部と上壁部64との間には、複数の上側滑り緩衝装置1bが設けられている。なお、サーバーラック61の上下両側において配置された下側滑り緩衝装置1a及び上側滑り緩衝装置1bは、それぞれのコイルバネ34を無負荷状態より縮めた状態で設置している。これにより、摺動面30a,40aの面圧を確保し、滑り緩衝装置1a,1bの滑り性能を安定させることができる。
【0072】
地震動等の外力により、サーバーラック61が上下方向及び水平方向に移動すると、下側滑り緩衝装置1a及び上側滑り緩衝装置1bのいずれかのコイルバネ34が上下方向に圧縮され、つまり上下方向の変位を許容できるとともに、振動を吸収することができる。
【0073】
また、サーバーラック61が上下方向に移動することで、下側滑り緩衝装置1a及び上側滑り緩衝装置1bのうち一方のコイルバネ34が上下方向に伸長されてコイルバネ34のバネ力が低減し、滑り部材33および台座31に対する押圧力が低くなる。
逆に、下側滑り緩衝装置1a及び上側滑り緩衝装置1bのうち他方のコイルバネ34は上下方向に圧縮されるコイルバネ34のバネ力が増大し、滑り部材33および台座31に対する押圧力が高くなる。
【0074】
この結果、縮めた状態で設置したコイルバネ34の押圧力による摺動面30a,40aの面圧を確保し、安定したダンパー効果を得ることができる。
なお、サーバーラック61の下側に配置した下側滑り緩衝装置1aは、上述のように滑り緩衝装置としての機能のみならず、サーバーラック61を支承する支承装置としても機能することができる。
【0075】
なお、
図11に示した実施形態においては、サーバー室60の底壁部62、上壁部64とサーバーラック61のとの間に滑り緩衝装置1a、1bを設けたが、これら滑り緩衝装置1a、1bに替えて、或いは、これら滑り緩衝装置1a、1bとともに、サーバー室60の両側の側壁部63とサーバーラック61のとの間にそれぞれ滑り緩衝装置1を設けてもよい。
【0076】
次に、
図12を参照して滑り緩衝装置1のさらにまた他の実施例について説明する。
図12は滑り緩衝装置1をビルと渡り廊下との間に配置した概略図を示している。
【0077】
なお、
図12においても、図示の便宜上、滑り緩衝装置1については概略的に示している。
また、
図12において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0078】
渡り廊下70の床部71は、左右のビル73(図面では左側のビル73のみを示す)の側壁74同士の間に水平に横架される。ビル73の側壁74の上部には、渡り廊下70の床部71の上面と面一状になる通路壁75が設けられている。
【0079】
滑り緩衝装置1の第1部材30における台座31は、渡り廊下70の床部71の左側端部に固定され、滑り緩衝装置1の第2部材40におけるソールプレート41は、ビル73の側壁74の外面において第1部材30と対向する位置に固定されている。
【0080】
この実施形態の場合、第1部材30の滑り部材33と、第2部材40のスライドプレート42との間には、クリアランス72が形成されており、通常時におけるビル73の振動が渡り廊下70に伝達されること、並びに、渡り廊下70の振動がビル73に伝達されることを回避すべく構成している。
【0081】
なお、右側のビルと渡り廊下70の床部71における右側端部との間にも、左側と同様に滑り緩衝装置1が介設されている。また、渡り廊下70の下部に位置するフロアについては図示省略している。
【0082】
図12に示す実施例の滑り緩衝装置1は、摺動面30a,40aの摺動方向は上下方向となり、摺動直交方向は水平方向となる。
地震動等の外力により渡り廊下70の床部71が、摺動直交方向である水平方向左側Cに変位し、第1部材30の滑り部材33が第2部材40のスライドプレート42に圧接されると、コイルバネ34が摺動直交方向に圧縮され、床部71の摺動直交方向への変位を吸収することができる。
【0083】
また、コイルバネ34のバネ力が増大して滑り部材33および台座31に対する押圧力が高くなる。
この結果、摺動面30a,40aの面圧が高くなることで摩擦力(摺動抵抗)が高くなり、床部71の側壁74に対する摺動方向の移動量を抑制することができる。
【0084】
上述の通り、
図11および
図12に示した実施形態においても、サーバーラック61、および渡り廊下70の床部71の摺動直交方向への振動または変位を吸収するとともに、摺動方向への変位量を抑制するというダンパー効果を確保することができる。
図11および
図12で示した実施例の滑り緩衝装置1においても、その他の構成および作用、効果については、上述の実施例とほぼ同様の作用、効果を奏することができる。
【0085】
この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、この発明の第1構造物は、実施形態の下部構造物10、上壁16、サーバーラック61、渡り廊下70の床部71に対応し、
以下同様に、
第2構造物は、上部構造物20、上床版26、サーバー室60、ビル73の側壁74に対応し、
第1部材は、下側部材30,第1部材30に対応し、
摺動面は、摺動面30aに対応し、
台座は、台座31に対応し、
筒部材は、筒部材32に対応し、
滑り部材は、滑り部材33に対応し、
バネ部材は、コイルバネ34に対応し、
規制部は、規制部35に対応し、
側部滑り部は、サイドベアリング38に対応し、
第2部材は、上側部材40,第2部材40に対応するも、
この発明は、上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0086】
上述の説明においては、免震構造における摺動面30a,40aの面内方向における任意方向に摺動する滑り緩衝装置1について説明したが、面内方向における一方向に摺動する構成としてもよいし、水平面内の回転方向に摺動する構成としてもよい。
【0087】
また、スライドベアリング37は円形状のみならず、楕円状、小判状、方形状など様々な形状で形成してもよい。
また、筒部材32は円筒形状のみならず、スライドベアリング37を含む滑り部材33の形状に対応すべく楕円筒形状、小判筒形状、角筒形状など様々な形状で形成してもよい。
【0088】
また、スライドベアリング37およびサイドベアリング38の材質はポリアミド樹脂またはポリ四フッ化エチレン樹脂のみならず、その他の樹脂や、金属、グラファイト、セラミックス等の樹脂以外の材質であってもよい。
【0089】
さらに、コイルバネ34は、角バネのみならず、HKバネ、Hareyバネ、円錐コイルバネ、同心圧縮コイルバネなどで形成してもよい。
さらにまた、コイルバネ34の配置構造は、重心位置CEを中心とする仮想円周上に45度の等間隔を隔てた構造(
図6参照)、120度の等間隔を隔てた構造(
図8(a)参照)、72度の等間隔を隔てた構造(
図8(b)参照)のみならず、90度の等間隔を隔てた構造や60度の等間隔を隔てた構造であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1…滑り緩衝装置
10…下部構造物
20…上部構造物
30…下側部材、第1部材
30a…摺動面
31…台座
32…筒部材
33…滑り部材
34…コイルバネ
35…規制部
38…側部滑り部
40…上側部材、第2部材
60…サーバー室
61…サーバーラック
71…床部
74…側壁