(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/60 20060101AFI20240924BHJP
C07C 67/52 20060101ALI20240924BHJP
C07C 69/84 20060101ALI20240924BHJP
C07C 67/08 20060101ALN20240924BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240924BHJP
【FI】
C07C67/60
C07C67/52
C07C69/84
C07C67/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021046315
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼口 正基
(72)【発明者】
【氏名】霜田 航平
(72)【発明者】
【氏名】柳川瀬 邦代
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-63196(JP,A)
【文献】特開2020-122106(JP,A)
【文献】特開2019-99525(JP,A)
【文献】特開昭60-168721(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第1017612(GB,A)
【文献】特開2001-261603(JP,A)
【文献】特開昭50-121247(JP,A)
【文献】特開平11-147891(JP,A)
【文献】特開2021-54726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/60
C07C 67/52
C07C 69/84
C07C 69/88
C07C 67/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(A)式(1)
【化1】
で表されるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを含む粗組成物と、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒とを含有する溶液に、塩基性アルカリ金属化合物を添加し、水性媒体(a)中にビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む液状混合物を得る工程、
(B)該液状混合物を有機層と水層に分離し、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む水層を取り出す工程、及び
(C)取り出した水層を酸析し、析出したビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの結晶を回収する工程、
を含む、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの精製方法。
【請求項2】
前記粗組成物は、酸触媒の存在下、前記非水溶性溶媒中で4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応によって得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非水溶性溶媒は、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、灯油、軽油、クロロベンゼン、キシレン、1-ブタノール、スチレンおよびアニソールからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(A)の塩基性アルカリ金属化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
工程(A)は、塩基性アルカリ金属化合物と水性媒体(a)を添加することにより実施される、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
さらに、工程(B)で分離された有機層を水性媒体(b)で洗浄し、該有機層に残留する前記アルカリ金属塩を含む洗浄水を水層に添加する工程(B1)を含む、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
さらに、工程(C)の酸析の前に、工程(B)で抽出した水層に、水性媒体(c)を添加する工程を含む、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
工程(C)における酸析は、40~75℃の温度下で実施される、請求項1~7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
さらに、工程(C)で得られたビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの結晶を、水とアルコールの混合溶媒で懸濁洗浄する工程(D)を含む、請求項1~8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
水とアルコールの混合溶媒はアルコール濃度が30~96質量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルコールはメタノールである、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレン(以下、CH-POB2とも称する)のような脂肪族環を有するジフェノール化合物については、その構造的特徴から、樹脂の改質剤や感熱記録材料の顕色剤としての用途が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
CH-POB2の製造方法としては、4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとを有機スズ化合物などの金属触媒の存在下で反応させる方法(特許文献3)、あるいは、4-ヒドロキシ安息香酸メチルと1,4-シクロヘキサンジメタノールとをエステル交換させる方法(特許文献4)が知られている。
【0004】
しかしながら、前者の方法は、工業的に扱い難い金属触媒を使用するものであり、また、反応温度も200℃を超えるため製造設備が制限されるという問題があった。また、後者のエステル交換法は、原料4-ヒドロキシ安息香酸から中間体としてメチルエステル体を製造する工程が必要となるため、経済的に不利になるという問題があった。
【0005】
また、CH-POB2の製造方法において、アニソール等の第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を用いることがあり、その場合、得られた反応液を濾過する際に溶液が引火する等の危険性があるため、特に工業的にスケールアップした場合における精製方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-17082号公報
【文献】特開2020-122106号公報
【文献】米国特許2007/0087146A1
【文献】特開昭60-168721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液をそのまま濾過する工程がなく、工業的にスケールアップした場合においても、安全にビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得ることのできる精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを含む粗組成物と、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液に、水性溶媒中で塩基性アルカリ金属化合物を添加してビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を得た後、水層を取り出し、次いで酸析することにより、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを安全に得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕以下の工程:
(A)式(1)
【化1】
で表されるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを含む粗組成物と、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒とを含有する溶液に、塩基性アルカリ金属化合物を添加し、水性媒体(a)中にビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む液状混合物を得る工程、
(B)該液状混合物を有機層と水層に分離し、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む水層を取り出す工程
(C)取り出した水層を酸析し、析出したビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの結晶を回収する工程、
を含む、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの精製方法。
〔2〕前記粗組成物は、酸触媒の存在下、前記非水溶性溶媒中で4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応によって得られたものである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記非水溶性溶媒は、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、灯油、軽油、クロロベンゼン、キシレン、1-ブタノール、スチレンおよびアニソールからなる群から選択される1種以上である、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程(A)の塩基性アルカリ金属化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1種以上の化合物である、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の方法。
〔5〕工程(A)は、塩基性アルカリ金属化合物と水性媒体(a)を添加することにより実施される、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の方法。
〔6〕さらに、工程(B)で分離された有機層を水性媒体(b)で洗浄し、該有機層に残留する前記アルカリ金属塩を含む洗浄水を水層に添加する工程(B1)を含む、請求項1~5の何れかに記載の方法。
〔7〕さらに、工程(C)の酸析の前に、工程(B)で抽出した水層に、水性媒体(c)を添加する工程を含む、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の方法。
〔8〕工程(C)における酸析は、40~75℃の温度下で実施される、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の方法。
〔9〕さらに、工程(C)で得られたビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの結晶を、水とアルコールの混合溶媒で懸濁洗浄する工程(D)を含む、〔1〕~〔8〕の何れかに記載の方法。
〔10〕水とアルコールの混合溶媒はアルコール濃度が30~96質量%である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕アルコールはメタノールである、〔9〕または〔10〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液をそのまま濾過する工程がなく、工業的にスケールアップした場合においても安全にビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、式(1)で表されるCH-POB2を含有する粗組成物とは、目的物である式(1)で表されるCH-POB2以外に、反応原料や触媒および反応副生物などの不純物を含む組成物を意味する。不純物の含有量は反応方法によっても異なるが、通常、粗組成物中1~20質量%、好ましくは3~10質量%である。
【0012】
粗組成物中に含まれる具体的な不純物としては、原料である4-ヒドロキシ安息香酸、触媒などの未反応物や残渣などのほか、反応副生物である1,4-シクロヘキサンジメタノールの2量化エーテル体やスルホン酸エステルなどが挙げられる。
【0013】
CH-POB2を含有する粗組成物を得る方法は特に限定されないが、例えば、酸触媒の存在下、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒中で4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応によって得られたものが好適に用いられる。
【0014】
第1石油類とは、日本の消防法に規定されている第4類危険物の第1石油類に属する有機溶剤であり、1気圧における引火点が21℃未満の有機溶剤をいう。
【0015】
第2石油類とは、日本の消防法に規定されている第4類危険物の第2石油類に属する有機溶剤であり、1気圧における引火点が21℃以上70℃未満の有機溶剤をいう。
【0016】
第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、灯油、軽油、クロロベンゼン、キシレン、1-ブタノール、スチレンおよびアニソールからなる群から選択される1種以上が挙げられる。反応収率に優れる点で、キシレンおよび/またはアニソールが好ましい。
【0017】
本発明の精製方法では、まず工程(A)において、CH-POB2を含有する粗組成物と第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒とを含有する溶液に、塩基性アルカリ金属化合物を添加し、水性溶媒(a)中でCH-POB2のアルカリ金属塩を生成させ、CH-POB2のアルカリ金属塩を含む液状混合物を得る。
【0018】
本発明において、工程(A)で使用する塩基性アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0019】
これらの塩基性アルカリ金属化合物の中では、反応性や入手が容易で安価であることなどから、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いるのが好ましい。
【0020】
塩基性アルカリ金属化合物の使用量は、粗組成物中の酸触媒の量によっても異なり、特に限定されないが、CH-POB2のジアルカリ金属塩が生成する量であるのが好ましい。例えば、粗組成物中のCH-POB2に対して2.0~3.0当量であるのが好ましい。
【0021】
塩基性アルカリ金属化合物を添加する際、固体として添加してもよいが、反応温度等を制御し易い点から水溶液の形態で添加することが好ましい。例えば48質量%水酸化ナトリウム水溶液または48質量%水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0022】
本発明において、CH-POB2と塩基性アルカリ金属化合物とを反応させる際、水性媒体(a)を添加するのが好ましい。すなわち、工程(A)は、塩基性アルカリ金属化合物と水性媒体(a)を添加することにより実施することが好ましい。
【0023】
本発明において、水性媒体とは水単独、または濃度20質量%までの水溶性有機溶媒の水溶液をいい、工程(A)においては用いられる水性媒体(a)は副反応が発生しないように水を単独で使用することが好ましい。
【0024】
本発明で用いることができる水溶性有機溶媒としては、25℃で20質量%まで水に溶解するものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。また、これらの水溶性有機溶媒は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
工程(A)において用いられる水性媒体(a)の量は、CH-POB2の質量に対し好ましくは0.5~19.5質量倍、より好ましくは1.0~13.5質量倍、さらに好ましくは2.0~8.5質量倍である。
【0026】
CH-POB2と塩基性アルカリ金属化合物との反応は、空気中で行っても不活性ガス雰囲気下で行っても特に問題ないが、窒素やヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下に行うのが好ましい。
【0027】
CH-POB2と塩基性アルカリ金属化合物との反応は、反応温度等の条件にもよるが、通常、速やかに完了する。
【0028】
CH-POB2と塩基性アルカリ金属化合物との反応が完了した後、得られたビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む液状混合物は、この時点で濾過処理を行うことなく、次いで工程(B)に供される。
【0029】
本発明の精製方法の工程(B)では、工程(A)で得た液状混合物を有機層と水層に分離し、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む水層が取り出される。具体的には、例えば、反応系内の有機物を溶媒に溶解するまで加熱・撹拌した後、有機層と水層とが十分に分離するまで反応系を静置し、分離したビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのアルカリ金属塩を含む水層を取り出すことができる。
【0030】
水層を取り出す際の温度は、CH-POB2のアルカリ金属塩が水に溶解し、水層と有機層が分離した状態を保つ温度であればよく、好ましくは15~50℃、より好ましくは20~45℃、さらに好ましくは25~40℃である。
【0031】
有機層に残留するCH-POB2のアルカリ金属塩を回収するために、分離して水層を取り出した後の有機層を水性媒体(b)で洗浄し、回収した洗浄水を水層に添加する工程(B1)を含んでもよい。水性媒体(b)としては水を単独で使用することが好ましい。
【0032】
水性媒体(b)の使用量は、CH-POB2の質量に対し好ましくは0.1~3.0質量倍、より好ましくは0.2~2.0質量倍、さらに好ましくは0.3~1.5質量倍である。
【0033】
以上のようにして取り出された水層、すなわちCH-POB2のアルカリ金属塩を含む水性媒体溶液は、必要により、不溶性の異物を除去するための濾過処理や、着色性物質、金属などを除去するための活性炭などによる吸着剤処理を行った後に、工程(C)に供される。
【0034】
本発明の精製方法の工程(C)では、工程(B)で得られた水層、すなわちCH-POB2のアルカリ金属塩を含む水性媒体溶液を酸析し、析出したCH-POB2の結晶を分離して回収する。
【0035】
酸析の前に、工程(B)で得られた水層、すなわちCH-POB2のアルカリ金属塩を含む水性媒体溶液に対して、さらに別途、水性媒体(c)を添加することが好ましい。酸析後の固液分離の際の濾過性を向上させることが可能になる点で、水および/またはメタノールを添加するのが好ましい。
【0036】
水性媒体(c)の使用量は、CH-POB2の質量に対し好ましくは0.1~4.0質量倍、より好ましくは0.15~3.0質量倍、さらに好ましくは0.2~2.0質量倍である。
【0037】
酸析される溶液の媒体、すなわち、CH-POB2と塩基性アルカリ金属化合物との反応によって生成する水および水性媒体(a)、ならびに任意に、水性媒体(b)、水性媒体(c)および塩基性アルカリ金属化合物水溶液中の媒体に由来する混合媒体の組成は、酸析後の固液分離の際の濾過性を向上させることが可能になる点で、メタノール1~20質量%水溶液であることが好ましく、メタノール3~17質量%水溶液であることがより好ましく、メタノール5~14質量%水溶液であることがさらに好ましい。
【0038】
酸析される溶液の媒体の量は、CH-POB2の質量に対し好ましくは1~20質量倍、より好ましくは2~15質量倍、さらに好ましくは3~10質量倍である。
【0039】
酸析中の温度は40~75℃が好ましく、45~70℃がより好ましく、48~67℃がさらに好ましい。酸析中の温度が上記範囲内にあることで、副反応を起こし難く、また酸析後の固液分離の際の濾過性が向上する。
【0040】
本発明においてCH-POB2のアルカリ金属塩を酸析するために使用される酸は特に限定されないが、鉱酸が好適に用いられる。鉱酸としては、例えば、塩酸、フッ化水素酸のような二元酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸のようなオキソ酸が挙げられる。また、酢酸、プロピオン酸などの有機酸などを用いることもできる。
【0041】
これらの酸析に使用される酸は、反応温度等を制御し易い点から水溶液の形態であることが好ましく、例えば70質量%硫酸水溶液が好適に使用される。
【0042】
酸析において、これらの酸の滴下は、上記混合媒体のpHが好ましくは5.8~7.3、より好ましくは6.2~7.2、さらに好ましくは6.5~7.1になるまで行われる。
【0043】
酸析時間は、反応のスケールなどにより異なるが、好ましくは30~120分、より好ましくは45~100分である。
【0044】
酸析は、空気中で行っても不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、窒素やヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下に行うことが好ましい。
【0045】
酸析によって析出した結晶は、通常、濾過等の常套手段により固液分離し、目的物であるCH-POB2を回収する。固液分離に際し、適宜溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる溶媒としては、水が好ましい。
【0046】
工程(C)によって得られたCH-POB2の結晶は、さらに高純度にするために、懸濁洗浄をする工程(D)に供することが好ましい。
【0047】
工程(D)は、結晶が析出した懸濁状態の混合溶液を、撹拌することにより行うことができる。懸濁洗浄によって、触媒や未反応のカルボン酸、結晶に噛み込まれた溶媒(非水溶性溶媒等)などの不純物を除去し、高純度のCH-POB2を精製することができる。
【0048】
工程(D)において用いられる溶媒は、水とアルコールの混合溶媒が好適に用いられる。混合溶媒のアルコール濃度は、好ましくは30~96質量%、より好ましくは40~92質量%、さらに好ましくは45~88質量%である。アルコール濃度が上記範囲内にあることで、結晶中の種々不純物を効率よく除去することができる。
【0049】
工程(D)において用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノールおよび2-プロパノールからなる群から選択される1種以上が挙げられ、不純物除去効率に優れる点でメタノールが好ましい。
【0050】
工程(D)において用いられる混合溶媒の量は、CH-POB2の質量に対して0.5~6.0質量倍、より好ましくは1.0~5.0質量倍である。
【0051】
懸濁洗浄は、オートクレーブ等の耐圧機を用いて高圧で行う(高圧懸濁洗浄)こともできる。
【0052】
懸濁洗浄の温度は30~160℃が好ましく、45~140℃がより好ましく、60~120℃がさらに好ましい。
【0053】
懸濁洗浄は、1時間以上、好ましくは2時間以上で行うことが好ましい。
【0054】
懸濁洗浄後の結晶は、通常、濾過等の常套手段により固液分離し、目的物であるCH-POB2を回収する。固液分離に際し、適宜溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる溶媒としては、懸濁洗浄で用いた溶媒と同じ組成のものが好ましい。
【0055】
固液分離によって回収された結晶は、例えば、常圧下において溶媒の沸点以上で加熱乾燥するか、減圧下で乾燥し、溶媒を留去することによって、高純度のCH-POB2を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
目的物であるCH-POB2は、以下の方法によって分析した。
【0058】
<超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)>
装置:Waters UPLC H-Class システム
カラム型番:ACQUITY UPLC HSS C18 1.8μm 2.1×50mm
液量:0.5mL/分
溶媒比:H2O(pH2.3)/MeOH=80/20(1.5分)→0.5分→45/55(3分)→0.5分→15/85(4分)
波長:229nm
カラム温度:40℃
【0059】
参考例1(CH-POB2を含有する粗組成物と、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液の調製)
撹拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置を備えた1Lの4ツ口フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸(POB、上野製薬株式会社)110.5g(0.8モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(cis-,trans-混合物)(1,4-CHDM、東京化成工業株式会社)57.7g(4-ヒドロキシ安息香酸に対し0.5当量)、p-トルエンスルホン酸一水和物5.5g、アニソール60.8gおよびキシレン547.0gを仕込み、窒素気流下121~135℃で12時間反応した後、30℃まで冷却し、CH-POB2を含有する粗組成物と、第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液を調製した。得られた溶液について、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いて成分分析を行った。成分分析結果を表2に示す。尚、CH-POB2の生成率は85.7モル%(0.343モル、131.79g)であった。
【0060】
実施例1
・工程(A)
撹拌機及び温度センサーを備えた2Lの底抜きフラスコに参考例1で得られた溶液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液76.6g(CH-POB2の質量に対して2.68モル当量)および水496.8g(CH-POB2の質量に対して3.77質量倍、水性媒体(a))を加え、30℃で15分撹拌して、液状混合物を得た。
・工程(B)
工程(A)で得られた溶液(液状混合物)を有機層と水層に分離するまで静置した後、30℃で水層を取り出した。有機層を水110.7g(CH-POB2の質量に対して0.84質量倍、水性媒体(b))で洗浄し、洗浄水を抽出した水層に加えた。
・工程(C)
撹拌機及び温度センサーを備えた1Lの4ツ口フラスコに、工程(B)で得られた水溶液とメタノール55.4g(CH-POB2の質量に対して0.42質量倍、水性媒体(c))を加えた後、59~62℃まで加熱昇温し、同温度で撹拌しながら70質量%硫酸をpHが7.0になるまで66分かけて滴下し、CH-POB2の結晶を析出させた。得られた懸濁液を50℃まで冷却した後、固液分離し、次いで、水218.8g(CH-POB2の質量に対して1.66質量倍)で洗浄した。得られたCH-POB2の結晶を超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)および結晶誘導結合プラズマ(ICP)発光光分析にて定量分析を行った。工程(A)~工程(C)までの収率を表1に、成分分析結果を表2に記す。
【0061】
参考例2、3
参考例1と同様にして溶液を調製した。得られた溶液について、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いて成分分析を行った。それぞれの溶液中のCH-POB2の生成率を表1に、成分分析結果を表2に記す。
【0062】
実施例2、3
溶液をそれぞれ参考例2、3で得られたものに変更し、表1に記す精製条件に変更した以外は実施例1と同様にしてCH-POB2の結晶を得た。得られたCH-POB2について、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)および結晶誘導結合プラズマ(ICP)発光光分析にて定量分析を行った。工程(A)~工程(C)までの収率を表1に、成分分析結果を表2に記す。
【0063】
実施例4
・工程(D)
撹拌機、温度センサー及びジムロートを備えた1Lの4ツ口フラスコに、実施例1の工程(C)で得られたCH-POB2の結晶とメタノール85質量%水溶液540.3g(CH-POB2の質量に対して4.1質量倍)を加えた後、65℃まで加熱昇温し、同温度で60分撹拌した。得られた懸濁液を固液分離し、次いで懸濁洗浄液と同じメタノール質量%の水溶液163.4g(CH-POB2の質量に対して1.24質量倍)で洗浄した。得られたCH-POB2の結晶を100℃で12時間通風乾燥し、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)および結晶誘導結合プラズマ(ICP)発光光分析にて定量分析を行った。工程(D)の収率は79.7モル%であった。成分分析結果を表2に記す。
【0064】
本発明の実施例によると、アニソールやキシレン等の第1石油類および第2石油類から選択される1種以上の非水溶性溶媒を含有する溶液を濾過する工程を要することなく、安全にCH-POB2が得られた。また、表2に示す通り、さらに水とアルコールの混合溶媒で懸濁洗浄することにより、副生物やアルカリ金属等を有意に除去可能であった。
【0065】
【0066】