(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240924BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240924BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240924BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240924BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H01L25/04 C
H01L23/36 C
H01L23/12 J
(21)【出願番号】P 2021052210
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 亨太
(72)【発明者】
【氏名】徳山 健
(72)【発明者】
【氏名】難波 明博
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-96771(JP,A)
【文献】特開2017-69253(JP,A)
【文献】特開2002-246515(JP,A)
【文献】特開2006-229180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H01L 25/07
H01L 23/36
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、
前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、
前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、
前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、
前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、
前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、
前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され
、
前記第1導体は、前記第1主面および前記第1副面の両方に露出し、
前記第2導体は、前記第2主面および前記第2副面の両方に露出し、
前記第1導体と前記第2導体の一方又は双方は、凹部を形成し、
前記半導体素子は、前記凹部内に収納される、電力変換装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記第1基板および
前記第2基板の少なくとも一方には、前記凹部と前記電力変換装置の外部とを接続する貫通孔が形成され、
前記凹部の前記半導体素子を除く領域には樹脂部材が充填される、電力変換装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記凹部は前記第1導体のみに形成され、
前記第2導体は、前記第2基板の前記第2主面と面一に形成され、
前記半導体素子は、コレクタ電極が前記第1導体と接続され、かつエミッタ電極が前記第2導体と接続され、さらにゲート電極が
前記第2基板の別の導体と接続される、電力変換装置。
【請求項4】
半導体素子と、
向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、
前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、
前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、
前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、
前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、
前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、
前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され
、
前記第1基板および前記第2基板は、前記第1導体および前記第2導体とは異なる第3導体および第4導体を有し、
当該第3導体および前記第4導体は、金属接合材で接続されて前記第1基板と前記第2基板とを接続し、
前記第3導体および前記第4導体の少なくとも一方には、前記金属接合材を収納する第2凹部が形成される、電力変換装置。
【請求項5】
半導体素子と、
向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、
前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、
前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、
前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、
前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、
前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、
前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され
、
前記第1基板と前記第2基板は、前記第1導体及び前記第2導体とは別に、それぞれの基板を貫通する第5導体および第6導体を有し、
前記第5導体および前記第6導体に前記半導体素子と反転した向きでもう一つの半導体素子が接続される、電力変換装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の電力変換装置において、
前記第1導体、前記半導体素子、および前記第2導体は第1方向に並び、
前記第1基板は、前記第1方向に直交する第2方向に延伸し、前記第1導体および前記第5導体を電気的に接続する第7導体をさらに有し、
前記第2基板は、前記第2方向に延伸し
前記第2導体と電気的に接続される第8導体、および前記第2方向に延伸し前記第6導体と電気的に接続され、かつ、前記第8導体とは接続されない第9導体をさらに有し、
前記第8導体および
前記第9導体に跨るコンデンサをさらに備える、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置には出力の増大だけでなく製造性の向上も要求されている。1相分の上アーム回路または下アーム回路の単位でモジュールが構成されている場合には、3相分を設けるためには6個のモジュールが必要となる。そのためパワー半導体モジュールの製造性の向上が重要になる。その一方で、製造性が向上しても熱抵抗の増大に繋がってしまうと、電力変換装置の出力増大の妨げとなる。車載用の電力変換装置は産業用などと比較すると温度変化の大きい環境で使用されるため、高温の環境に置かれていながら高い信頼性を維持できる電力変換装置が要求されている。特許文献1には、第1放熱器と、前記第1放熱器の主面上に実装した第1基板と、前記第1基板の主面上に実装した第1半導体素子と、前記第1放熱器の主面上或いは前記第1基板の主面上に実装した第1電極と、前記第1半導体素子の上面に配置され、前記第1半導体素子の第1上面電極と前記第1電極を電気的に接続する複数の第1ワイヤボンディング線、及び前記第1上面電極を接触させたヒートスプレッダと、前記ヒートスプレッダの一面側に設けた、前記第1ワイヤボンディング線の間を通って前記第1上面電極に接触又は近接する凸部、及び前記第1ワイヤボンディング線に近接する凹部と、前記ヒートスプレッダの他面側に実装した第2放熱器とを有することを特徴とする電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、製造性および放熱性に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による電力変換装置は、半導体素子と、向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され、前記第1導体は、前記第1主面および前記第1副面の両方に露出し、前記第2導体は、前記第2主面および前記第2副面の両方に露出し、前記第1導体と前記第2導体の一方又は双方は、凹部を形成し、前記半導体素子は、前記凹部内に収納される。
本発明の第2の態様による電力変換装置は、半導体素子と、向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され、前記第1基板および前記第2基板は、前記第1導体および前記第2導体とは異なる第3導体および第4導体を有し、当該第3導体および前記第4導体は、金属接合材で接続されて前記第1基板と前記第2基板とを接続し、前記第3導体および前記第4導体の少なくとも一方には、前記金属接合材を収納する第2凹部が形成される。
本発明の第3の態様による電力変換装置は、半導体素子と、向かい合わせて配置される第1基板および第2基板と、を備え、前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1主面と前記第1主面とは逆側の第1副面とを有し、前記第2基板は、前記第1基板に対向する第2主面と前記第2主面とは逆側の第2副面とを有し、前記第1基板には前記第1副面に露出する第1導体が埋設され、前記第2基板には前記第2副面に露出する第2導体が埋設され、前記半導体素子は、前記第1導体と前記第2導体との間に配され、前記半導体素子は、前記第1導体および前記第2導体と電気的に接続され、前記第1基板と前記第2基板は、前記第1導体及び前記第2導体とは別に、それぞれの基板を貫通する第5導体および第6導体を有し、前記第5導体および前記第6導体に前記半導体素子と反転した向きでもう一つの半導体素子が接続される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造性および放熱性に優れた電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施の形態における電力変換装置の概略図
【
図5】変形例1における第1パワー回路部の一部を示す図
【
図6】第2の実施の形態における電力変換装置の概略図
【
図7】第3の実施の形態における電力変換装置の概略図
【
図8】第4の実施の形態における電力変換装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図4を参照して、電力変換装置の第1の実施の形態を説明する。以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定解釈されるものではなく、公知の他の構成要素を組み合わせて本発明の技術思想を実現してもよい。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は電力変換装置100の概略を示す平面図、
図2は
図1のII-II断面図、
図3は
図1のIII-III断面図、
図4は
図1のIV-IV断面図である。電力変換装置100は、バッテリなどから得た直流電力を電動機に供給する交流電力に変換する電力変換装置であり、1相分の上アーム回路および下アーム回路を構成する。電力変換装置100は、第1基板10と、第2基板20と、第1基板10および第2基板20によって形成される第1パワー回路部30および第2パワー回路部40と、電力変換装置100に印加される電圧を平滑化するコンデンサ80と、第1パワー回路部30および第2パワー回路部40にそれぞれ駆動信号を与える制御回路90と、を備える。
【0010】
図2に記載したように、第1基板10は、電力変換装置100における内側の第1主面10Pと、第1主面10Pとは逆側の第1副面10Qとを有する。第2基板20は、電力変換装置100における内側の第2主面20Pと、第2主面20Pとは逆側の第2副面20Qとを有する。すなわち、第1基板10の第1主面10Pと、第2基板20の第2主面20Pとが向かい合って接合され、電力変換装置100を構成している。なお以下では
図2~
図4の下部に示すように、第1基板10および第2基板20が並ぶ方向を「第1方向」と呼び、第1方向に直交する方向を「第2方向」と呼ぶ。
【0011】
第1基板10および第2基板20は、主にプリント回路基板である。第1基板10および第2基板20は、銅材などにより構成される複数の導体層を備え、他の箇所はガラスエポキシ樹脂などの絶縁部材で構成される。図示の都合により
図2などでは第1基板10や第2基板20の導体層の厚みが基板の3分の1程度であるように記載しているが、実際には導体層は数十マイクロメートル程度の厚みであり、基板の厚みに対する割合は非常に小さい。この導体層は、仮に大電流を流すのであればインピーダンスが比較的大きく、インダクタンスも増加する。
【0012】
まずは
図1および
図2を参照して第1パワー回路部30を説明する。第1パワー回路部30は、IGBT50と、ダイオード54と、コレクタ導体60と、エミッタ導体61と、ゲート導体パターン62と、カソード導体63と、アノード導体64と、を含む。IGBT50は、板形状で主電極と当該主電極に流れる主電流を制御するゲート電極53を有する。主電極はIGBT50の上下で電極が分かれており、下面にコレクタ電極51、上面にエミッタ電極52とゲート電極53とが設けられる。ダイオード54は板形状であり、
図2の視点では下面にカソード電極55、上面にアノード電極56が設けられる。
【0013】
コレクタ導体60、エミッタ導体61、ゲート導体パターン62、カソード導体63、およびアノード導体64は導体、たとえば銅材で構成される。このうち少なくともゲート導体パターン62を除くコレクタ導体60、エミッタ導体61、カソード導体63、およびアノード導体64はプリント基板上の配線パターンではなく、厚みが数百マイクロメートル以上の導体かつ伝熱性が良好な部材の塊、たとえば銅の塊である。導体の塊は配線パターンよりも厚みがあるのでインピーダンスが低下し、インダクタンスも小さくなる。
【0014】
コレクタ導体60およびカソード導体63は第1基板10に埋設されており、第1基板10を貫通する。換言すると、コレクタ導体60およびカソード導体63のいずれも、第1主面10Pから第1副面10Qまで貫通している。
【0015】
コレクタ導体60は凹みであるIGBT収納用凹部70を形成する。IGBT50は、IGBT収納用凹部70の内部に収納され、はんだなどの金属接合材73を介してIGBT50のコレクタ電極51と電気的に接続される。カソード導体63は、凹みであるダイオード収納用凹部71を形成する。ダイオード54は、ダイオード収納用凹部71の内部に収納され、金属接合材73を介してダイオード54のカソード電極55と電気的に接続される。これにより、第1基板10の第1主面10Pが、IGBT50およびダイオード54を搭載することで平面状になり、第2基板20との接続が容易となることから製造性が向上する。
【0016】
図2において、コレクタ導体60はIGBT収納用凹部70を有しているので一部は第1主面10Pから奥まった位置にあるが、コレクタ導体60の端部は第1主面10Pと段差がなくフラットな状態、いわゆる面一の状態である。同様に、カソード導体63はダイオード収納用凹部71を有しているので一部は第1主面10Pから奥まった位置にあるが、カソード導体63の端部は第1主面10Pと段差がなくフラットな状態、いわゆる面一の状態である。
【0017】
図2に示すように、エミッタ導体61およびアノード導体64は第2基板20に埋設されており、第2基板20を貫通する。エミッタ導体61の第2主面20P側は、第2主面20Pと段差がなくフラットな状態、いわゆる面一の状態である。またエミッタ導体61の第2主面20P側は、金属接合材73を介してIGBT50のエミッタ電極52と電気的に接続される。アノード導体64の第2主面20P側は、第2主面20Pと段差がなくフラットな状態、いわゆる面一の状態である。アノード導体64の第2主面20P側は、金属接合材73を介してダイオード54のアノード電極56と電気的に接続される。このように、IGBT50およびダイオード54と接続される第2基板20の接続面が平面状に統一されることで、製造性が向上する。
【0018】
ゲート導体パターン62は、第2基板20上に形成され、金属接合材73を介してIGBT50のゲート電極53と電気的に接続される。ゲート導体パターン62は、ビア74を介して第2基板20の上面に接続される。これにより、IGBT50およびダイオード54の全ての電極が第1基板10もしくは第2基板20上の導体パターンに接続される。この結果、従来は数百本のワイヤボンディングや複数のリードフレーム、バスバーで構成する主回路構造と比較すると、構成部材を削減することで製造性が向上し、低コスト化が可能となる。さらに、接合プロセスを回路基板と半導体素子のはんだ接合プロセスのみに簡略化することで、製造プロセスを短縮できる。
【0019】
図2および
図3に示すように、第1基板10の上面および第2基板20の下面には、それぞれダミー導体65が設けられる。なお
図2および
図3のそれぞれでは、図の左側、中央、右側のそれぞれにダミー導体65が示されているが、作図の都合により左側にしか符号を付していない。ダミー導体65は、コレクタ導体60やエミッタ導体61などと同様に導体の塊である。
【0020】
それぞれの第1基板10のダミー導体65には、金属接合材73を収納する基板接合用凹部72が、IGBT50およびダイオード54をそれぞれ囲って形成される。第1基板10および第2基板20のダミー導体65を金属接合材73で接続することにより、第1基板10と第2基板20を接続する。これにより、IGBT50およびダイオード54の接合面以外での第1基板10と第2基板20の接続面が確保され、信頼性が向上する。
【0021】
コレクタ導体60、エミッタ導体61、カソード導体63、およびアノード導体64は、IGBT50およびダイオード54の接続面とは反対側に放熱フィン75を形成する。これにより、IGBT50およびダイオード54から放熱フィン75まで絶縁部材を介さずに放熱経路を形成でき、油などの冷媒により直接冷却されるため熱抵抗の増加を抑制し電力変換装置の出力増大を図ることが可能となる。
【0022】
図1および
図4に示すように、第2基板20は、第1基板10上のIGBT収納用凹部70およびダイオード収納用凹部71と、第2基板20の外面を繋げる貫通孔76を形成する。貫通孔76を介して液状硬化性樹脂などの樹脂部材77が充填されることで、IGBT50およびダイオード54が封止される。従来のワイヤボンディングやリードフレームで構成される主回路構造は、トランスファモールドで信頼性を確保するため、構成部材の寸法ばらつきの影響を受けて樹脂被り等が部分的に発生し、放熱面を確実に露出できない課題が生じた。これに対して本実施の形態では、放熱面の露出が妨げられるプロセスを排除しているので製造性が向上する。
【0023】
図3に示すように、第2パワー回路部40は、IGBT50と、ダイオード54と、コレクタ導体60と、エミッタ導体61と、ゲート導体パターン62と、カソード導体63と、アノード導体64と、を含む。第2パワー回路部40の主な構成は、第1パワー回路部30をおおよそ反転した構造となる。第2パワー回路部40だけに特有の構成は存在しないので、電力変換装置100全体の説明を続ける。
【0024】
図1の左および
図3の上部に示すように、コレクタ導体60およびカソード導体63は、正極電源導体パターン66に接続される。
図3の下部に示すように、エミッタ導体61およびアノード導体64は、交流出力導体パターン68に接続される。
図2の下部に示すように、交流出力導体パターン68には、第1パワー回路部30のコレクタ導体60およびカソード導体63も接続される。
図2の上部に示すように、第1パワー回路部30のエミッタ導体61およびアノード導体64は、負極電源導体パターン67に接続される。
【0025】
図1に示すように、正極電源導体パターン66および負極電源導体パターン67は、それぞれ正極電源端子661と負極電源端子671が設けられ、バッテリからの電動機の駆動に必要な電気エネルギーが供給される。交流出力導体パターン68には、
図1の上部に示す交流出力端子681が設けられ、電動機を駆動する電気エネルギーが出力される。
図1に示す正極電源端子661、負極電源端子671、および交流出力端子681は、第1基板10および第2基板20に連なって貫通しており、端子部周辺は図示していないビアによって両基板の上下面が接続されている。これにより、バッテリおよび電動機に接続される電流経路の経路面積が拡大し、発熱集中を防止できる。
【0026】
図1に示すように、正極電源導体パターン66および負極電源導体パターン67上には、電力変換装置100に印加される電圧を平滑化するコンデンサ80が搭載される。これにより、電力変換装置100のスイッチング時には、コンデンサ80から流出した電流は第2パワー回路部40および第1パワー回路部30を介してコンデンサ80に流入する。この結果、スイッチング時の過渡電流の経路が第1基板10および第2基板20内のみで完結し、電流経路が短縮することでインダクタンスが低減できる。さらに、スイッチング時の過渡電流経路が第1基板10および第2基板20で完結していることから、第1基板10と第2基板20の電流経路が近くなり、第1パワー回路部30と第2パワー回路部40に対向電流が流れることで、インダクタンスが低減する。また、コンデンサ80接続用のバスバーが不要となり、製造性が向上する。
【0027】
図1~
図3に示すように、ゲート導体パターン62は、第1基板10および第2基板20のビア74を介して第2基板20の上面に電気的に接続される。
図2および
図3に示すように、第1基板10のビア74付近には基板接合用凹部72が設けられ、基板接合材により第1基板10と第2基板20とが接合される。
図1に示すように、第2基板20上には、第1パワー回路部30および第2パワー回路部40それぞれの制御回路90が設けられ、それぞれのゲート導体パターン62に接続される。これにより、制御信号のインダクタンスを低減し、素子駆動性能の低下を防ぐことで損失増加を防止する。
【0028】
以上のような構成とすることで、電力変換装置100は、バッテリからの電動機の駆動に必要な電気エネルギーは第1パワー回路部30および第2パワー回路部40に供給され、交流出力導体パターン68に設けられた交流出力端子681から出力される交流電力を制御する。構成部品である第1パワー回路部30および第2パワー回路部40と、コンデンサ80と、制御回路90と、をすべて第1基板10および第2基板20上に構成することで、複雑な形状のバスバーが不要となり、製造性が向上する。電力変換装置100のスイッチング時には、コンデンサ80のから流出した電流は第1パワー回路部30と第2パワー回路部40を介してコンデンサ80に流入する。これにより、スイッチング時の過渡電流経路を短縮化し、インダクタンスを低減する。
【0029】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電力変換装置100は、半導体素子であるIGBT50と、向かい合わせて配置される第1基板10および第2基板20とを備える。第1基板10は、第2基板20に対向する第1主面10Pと第1主面10Pとは逆側の第1副面10Qとを有する。第2基板20は、第1基板10に対向する第2主面20Pと第2主面20Pとは逆側の第2副面20Qとを有する。第1基板10には第1副面10Qに露出する第1導体、たとえば第1パワー回路部30のコレクタ導体60が埋設される。第2基板20には第2副面20Qに露出する第2導体、たとえば第1パワー回路部30のエミッタ導体61が埋設される。IGBT50は、コレクタ導体60とエミッタ導体61との間に配される。IGBT50は、コレクタ導体60およびエミッタ導体61と電気的に接続される。そのため、従来のような複雑な形状のバスバーが不要となり製造性に優れている。また、IGBT50に接するコレクタ導体60およびエミッタ導体61は金属の塊なので熱の伝導性がよく、かつ外周側に露出しているので放熱性に優れている。すなわち電力変換装置100は、製造性および放熱性に優れている。
【0030】
(2)第1パワー回路部30のコレクタ導体60は、第1主面10Pおよび第1副面10Qの両方に露出する。第1パワー回路部30のエミッタ導体61は、第2主面20Pおよび第2副面20Qの両方に露出する。第1パワー回路部30のエミッタ導体61は、凹部であるIGBT収納用凹部70を形成し、IGBT50はこのIGBT収納用凹部70の内部に収納される。
【0031】
(3)第2基板20は、IGBT収納用凹部70と第2基板20の外部とを接続する貫通孔であるビア74が形成され、IGBT収納用凹部70のIGBT50を除く領域には樹脂部材77が充填される。そのため、樹脂部材77によりIGBT50への異物の不着や振動によるIGBT50の悪影響が防止される。
【0032】
(4)IGBT50が収容されるIGBT収納用凹部70は、第1パワー回路部30のコレクタ導体60に形成され、相対するエミッタ導体61には形成されない。エミッタ導体61は、第2基板20の第2主面20Pと面一に形成される。IGBT50は、コレクタ電極51がコレクタ導体60と接続され、かつエミッタ電極52がエミッタ導体61と接続され、さらにゲート電極53が第2基板20のゲート導体パターン62と接続される。そのため、IGBT収納用凹部70が第1基板10のみに形成されるので、両方に凹部が設けられる場合よりも公差の管理が容易である。また、仮にIGBT50が第1基板10と第2基板20との境界に配されると、電力変換装置100を捻る力が発生した場合にIGBT50に物理的な負荷が生じる。しかし本実施の形態では第1基板10の内部に配されるので、IGBT50が保護される。
【0033】
(5)第1基板10および第2基板20のそれぞれは、第1パワー回路部30のコレクタ導体60および第1パワー回路部30のエミッタ導体61とは異なる複数のダミー導体65を有する。これら複数のダミー導体65同士を金属接合材73で接続することにより、第1基板10と第2基板20とを接続する。第1基板10に含まれるダミー導体65は、金属接合材73を収納する基板接合用凹部72が形成される。そのため、第1基板10と第2基板20とが強固に接続され、電力変換装置100に強い力が加わった際にIGBT50に生じる力を減らすことができる。
【0034】
(6)第1基板10と第2基板20は、第1パワー回路部30のコレクタ導体60およびエミッタ導体61とは別に、それぞれの基板を貫通する第2パワー回路部40のコレクタ導体60およびエミッタ導体61を有する。第2パワー回路部40のコレクタ導体60およびエミッタ導体61に、第1パワー回路部30のIGBT50と反転した向きで第2パワー回路部40のIGBT50が接続される。そのため、1組の基板を用いて2つのIGBT50を保持できる。
【0035】
(7)コレクタ導体60、IGBT50、およびエミッタ導体61は第1方向、すなわち
図2~
図4の上下方向に並ぶ。第1基板10は、第1方向に直交する第2方向に延伸し、第1パワー回路部30のコレクタ導体60および第2パワー回路部40のエミッタ導体61を電気的に接続する交流出力導体パターン68を有する。第2基板20は、第2方向に延伸し第1パワー回路部30のエミッタ導体61と電気的に接続される負極電源導体パターン67と、第2方向に延伸し第2パワー回路部40のコレクタ導体60と電気的に接続され、かつ負極電源導体パターン67とは接続されない正極電源導体パターン66を有する。電力変換装置100は、正極電源導体パターン66および負極電源導体パターン67に跨るコンデンサ80を備える。そのため、第1基板10と第2基板20と2つのIGBT50とを用いて、1相分の上アーム回路および下アーム回路を構成することができる。
【0036】
(8)コレクタ導体60は、第1副面10Qに放熱フィン75が接続される。エミッタ導体61は、第2副面20Qに放熱フィン75が接続される。そのため、電力変換装置100は効率よく放熱できる。
【0037】
(変形例1)
上述した第1の実施の形態では、いずれのコレクタ導体60およびエミッタ導体61も基板を貫通しており、主面および副面の両方に露出していた。しかしコレクタ導体60およびエミッタ導体61は、少なくとも外周側、すなわち副面側に露出していればよく、主面側に露出していなくてもよい。換言するとコレクタ導体60およびエミッタ導体61は、基板を貫通しなくてもよい。
【0038】
図5は、変形例1における第1パワー回路部30の一部を示す図であり
図2の中央付近に相当する。
図5では、エミッタ導体61は第1の実施の形態と同様に第2主面20Pに露出しているが、コレクタ導体60は第1主面10Pに露出していない。具体的には、第1パワー回路部30のエミッタ導体61における第1主面10Pに最も近いコレクタ導体端部60Xは、第1主面10Pよりも奥まった位置に存在する。本変形例の構成においても、第1の実施の形態と同様に放熱性がよく、かつ製造性がよい。
【0039】
(変形例2)
上述した第1の実施の形態では、コレクタ導体60にはIGBT50を格納する凹部であるIGBT収納用凹部70が設けられたがエミッタ導体61には凹部が設けられなかった。しかし、コレクタ導体60に凹部を設ける代わりにエミッタ導体61に凹部を設けてもよいし、コレクタ導体60およびエミッタ導体61の両方に凹部を設けてもよい。
【0040】
(変形例3)
上述した第1の実施の形態では、IGBT収納用凹部70に樹脂部材77が充填された。しかしIGBT収納用凹部70に樹脂部材77が充填されることは必須の構成ではなく、IGBT収納用凹部70に樹脂部材77が充填されなくてもよい。
【0041】
(変形例4)
上述した第1の実施の形態では、コレクタ導体60およびエミッタ導体61は外周側に放熱フィン75を有した。しかしコレクタ導体60およびエミッタ導体61が放熱フィン75を備えることは必須の構成ではなく、コレクタ導体60およびエミッタ導体61の少なくとも一方は放熱フィン75を備えなくてもよい。
【0042】
(変形例5)
上述した第1の実施の形態では、第1基板10と第2基板20との接続を強固にするためにダミー導体65および金属接合材73が用いられた。しかし電力変換装置100は、ダミー導体65および金属接合材73を備えなくてもよい。
【0043】
―第2の実施の形態―
図6を参照して、電力変換装置の第2の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、交流出力端子の配置が第1の実施の形態と異なる。
【0044】
図6は、第2の実施の形態における電力変換装置100Aの概略図である。交流出力端子681は、正極電源端子661および負極電源端子671に近接して配置される。具体的には交流出力端子681は、
図1では図の上部に示されていたが
図6では図の下部に示されている。第2の実施の形態では、電力変換装置100に接続される主回路配線がすべて同一方向から接続できるため、バッテリおよび電動機に組付ける際に生産性が向上する。
【0045】
―第3の実施の形態―
図7を参照して、電力変換装置の第3の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、コンデンサ80が複数設けられる点で、第1の実施の形態と異なる。
【0046】
図7は、第3の実施の形態における電力変換装置100Bの概略図である。電力変換装置100Bは、コンデンサ80を2以上備え、
図7に示す例ではコンデンサ80を3つ備える。正極電源導体パターン66および負極電源導体パターン67に搭載されるコンデンサ80を複数設けることで、スイッチング時の過渡電流経路が複数に分かれ、インダクタンスが低減する。さらに、コンデンサ80が、第1パワー回路部30および第2パワー回路部40の間に配置されることで、スイッチング時の過渡電流経路が短縮され、インダクタンスが低減する。
【0047】
―第4の実施の形態―
図8~
図9を参照して、電力変換装置の第4の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、逆導通IGBTを備える点で、第1の実施の形態と異なる。
【0048】
図8は、第4の実施の形態における電力変換装置100Cの概略図である。
図9は、
図8のIX-IX断面図である。第1パワー回路部30および第2パワー回路部40には、IGBTおよびダイオードが一体化された逆導通IGBT(Reverse Conducting IGBT)57が搭載される。これにより、半導体素子の実装面積が縮小し、電力変換装置100の小型化が可能となる。さらに、スイッチング時の過渡電流経路が短縮され、インダクタンスが低減する。
【0049】
上述した各実施の形態および変形例において、機能ブロックの構成は一例に過ぎない。別々の機能ブロックとして示したいくつかの機能構成を一体に構成してもよいし、1つの機能ブロック図で表した構成を2以上の機能に分割してもよい。また各機能ブロックが有する機能の一部を他の機能ブロックが備える構成としてもよい。
【0050】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10…第1基板
10P…第1主面
10Q…第1副面
20…第2基板
20P…第2主面
20Q…第2副面
30…第1パワー回路部
40…第2パワー回路部
60…コレクタ導体
61…エミッタ導体
63…カソード導体
64…アノード導体
65…ダミー導体
70…IGBT収納用凹部
72…基板接合用凹部
73…金属接合材
74…ビア
75…放熱フィン
77…樹脂部材
80…コンデンサ
100、100A、100B、100C…電力変換装置