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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置と、レーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240924BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240924BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240924BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/21 A
B23K26/082
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021081093
(22)【出願日】2021-05-12
(65)【公開番号】P2022174998
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 安里
(72)【発明者】
【氏名】常盤 忠史
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-347338(JP,A)
【文献】特開2005-095934(JP,A)
【文献】特開2010-171131(JP,A)
【文献】特開2012-253098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0076593(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/21
B23K 26/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状に出力するレーザ光によってワークの複数の溶接部を順に溶接するレーザ溶接装置であって、
励起エネルギーが注入された状態において前記溶接部のための前記レーザ光を放出するレーザ媒体と、
駆動電力が供給された状態において前記レーザ媒体に前記励起エネルギーを注入する励起光源と、
前記励起エネルギーのためのパルス状の前記駆動電力を前記励起光源に供給する制御部とを有し、
前記制御部が、
前記複数の溶接部のうち最初に溶接する1番目の溶接部を溶接する前に、
前記駆動電力よりも小さい予備励起電力を前記駆動電力のパルス幅よりも長い予備供給時間にわたり前記励起光源に供給することにより、前記励起エネルギーよりも小さいエネルギーを前記レーザ媒体に注入する手段と、
前記予備供給時間が経過したのち前記1番目の溶接部を溶接する前に所定のインターバルを経過させる手段と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接装置において、
前記複数の溶接部を走査するためのガルバノスキャナを含み前記レーザ媒体が放出するパルス状の前記レーザ光を前記複数の溶接部に順に照射する走査機構を有したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接装置において、
複数の前記ワークを載置するワーク支持部と、
前記ワーク支持部に載置された前記ワークを溶接ステージに向けて移動させ、溶接すべき前記ワークを前記溶接ステージに停止させる移動機構とをさらに有し、
前記制御部が、
溶接すべき前記ワークが前記溶接ステージに向かって移動する間に前記予備励起電力を前記励起光源に供給する手段を有したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項4】
パルス状に出力するレーザ光によってワークの複数の溶接部を順に溶接するレーザ溶接方法であって、
前記複数の溶接部のうち最初に溶接する1番目の溶接部を溶接する前に、励起エネルギーを生じさせる駆動電力よりも小さい予備励起電力を前記駆動電力のパルス幅よりも長い予備供給時間にわたり励起光源に供給することにより、前記励起エネルギーよりも小さいエネルギーをレーザ媒体に注入し、
前記予備供給時間が経過したのち前記1番目の溶接部を溶接する前に所定のインターバルを経過させ、
前記インターバルが経過したのち、前記駆動電力を前記励起光源に供給することにより前記励起エネルギーを前記レーザ媒体に注入し、
前記励起エネルギーにより前記1番目の溶接部のための前記レーザ光を前記レーザ媒体から放出させることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ溶接方法において、
前記インターバルが前記駆動電力のパルス幅以上であり、かつ、前記インターバルが前記予備供給時間よりも短いことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項4に記載のレーザ溶接方法において、
前記複数の溶接部ごとに同じ大きさの前記駆動電力を前記励起光源に供給し、1秒あたり100を越える高速パルス溶接により前記複数の溶接部を溶接することを特徴とするレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の溶接部を有するワークの前記溶接部を溶接するためのレーザ溶接装置と、レーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置用サスペンションのように小さな複数の金属板からなるワークを溶接するために、特許文献1あるいは特許文献2に記載されたように、レーザ溶接が使用されることがある。例えばディスク装置用サスペンションは、ベースプレートと、ステンレス鋼の薄い板からなるロードビーム(load beam)と、ロードビームに沿って配置されたフレキシャ(flexure)とを含んでいる。前記フレキシャを前記ロードビームに固定したり、前記ロードビームを前記ベースプレートに固定したりするために、レーザ光を用いたスポット溶接(これ以降はレーザ溶接と称す)が適用されている。
【0003】
1つのワークに複数の溶接部を形成する場合、溶接時間を短縮するために、いわゆる高速パルス溶接が適用される。高速パルス溶接では、例えば1秒当たり100箇所を越える溶接部が溶接される。しかし高速パルス溶接は、複数の溶接部のうち最初に溶接する1番目の溶接部のレーザ光の出力が不安定となることがあり、溶接品質が問題となることがあった。
【0004】
1番目の溶接部に溶接不良が生じることを防ぐために、いわゆるレーザ光の捨て打ちが行なわれることがある。レーザ光の捨て打ちは、1番目の溶接部を溶接する直前に、レーザ光をワーク以外の箇所に照射したり、ワークの一部で溶接とは無関係のブランク部(blank portion)にレーザ光を照射したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-95934号公報
【文献】特開平08-293299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディスク装置用サスペンションのように微小なワークの場合、レーザ光の捨て打ちを行なうためのスペースをワークの一部に確保できないことがある。ワークが溶接ステージに向かって移動している最中に捨て打ちを行なうと、レーザ光を所定位置に集光させることができないことがある。このためワークが溶接ステージに停止した状態において、捨て打ちを行なうことが望まれるが、1つ目の溶接部を溶接するまでに余計な時間が費やされることになるため、生産性が低下するという問題がある。
【0007】
従って本発明の目的は、1つのワークに多数の溶接部を形成する場合に、レーザ光の捨て打ちを行なうことなく、1つ目の溶接部に溶接不良が生じることを回避できるレーザ溶接装置と、レーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施形態は、パルス状に出力するレーザ光によってワークの複数の溶接部を順に溶接するレーザ溶接装置であって、励起エネルギーが注入された状態において前記溶接部のための前記レーザ光を放出するレーザ媒体と、駆動電力が供給された状態において前記レーザ媒体に前記励起エネルギーを注入する励起光源と、前記励起エネルギーのためのパルス状の前記駆動電力を前記励起光源に供給する制御部とを有している。
【0009】
前記制御部は、前記複数の溶接部のうち最初に溶接する1番目の溶接部を溶接する前に、前記駆動電力よりも小さい予備励起のための電力(予備励起電力と称す)を、前記駆動電力のパルス幅よりも長い予備供給時間にわたり前記励起光源に供給する手段を含んでいる。1番目の溶接部を溶接する前に、前記励起エネルギーよりも小さいエネルギー(予備励起エネルギーと称す)が前記レーザ媒体に注入される。さらに前記制御部は、前記予備供給時間が経過したのち前記1番目の溶接部を溶接する前に、所定のインターバルを経過させる手段を具備している。
【0010】
前記実施形態において、前記複数の溶接部を走査するためのガルバノスキャナを含む走査機構を有してもよい。前記レーザ媒体が放出するパルス状の前記レーザ光が、前記ガルバノスキャナを介して前記複数の溶接部に順に照射される。
【0011】
前記実施形態のレーザ溶接装置は、複数の前記ワークを載置するワーク支持部と、移動機構とをさらに有してもよい。前記移動機構は、前記ワーク支持部に載置された前記ワークを溶接ステージに向けて移動させ、溶接すべき前記ワークを前記溶接ステージに停止させる。また前記制御部が、溶接すべき前記ワークが前記溶接ステージに向かって移動する間に前記予備励起電力を前記励起光源に供給する手段を有してもよい。
【0012】
レーザ溶接方法の1つの実施形態は、最初に溶接する1番目の溶接部を溶接する前に、励起エネルギーを生じさせる駆動電力よりも小さい予備励起電力を前記駆動電力のパルス幅よりも長い予備供給時間にわたり励起光源に供給する。これにより、前記励起エネルギーよりも小さいエネルギーをレーザ媒体に注入する。前記予備供給時間が経過したのち、前記1番目の溶接部を溶接する前に、所定のインターバルを経過させる。前記インターバルが経過したのち、前記駆動電力を前記励起光源に供給することにより、前記励起エネルギーを前記レーザ媒体に注入する。前記励起エネルギーにより、前記1番目の溶接部のための前記レーザ光を前記レーザ媒体から放出させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の溶接部を有するワークの前記溶接部を形成する場合に、レーザ光の捨て打ちを行なうことなく、1つ目の溶接部に溶接不良が生じることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複数の溶接部を有するワークの平面図。
図2】1つの実施形態に係るレーザ溶接装置を模式的に示す斜視図。
図3図2に示されたレーザ溶接装置の一部の正面図。
図4】同レーザ溶接装置のレーザ発振器を模式的に示す平面図。
図5】同レーザ溶接装置の励起光源に供給される電力と時間との関係を示したタイムチャート。
図6】1つの実施形態に係るレーザ溶接方法の前半部分を示したフローチャート。
図7】1つの実施形態に係るレーザ溶接方法の後半部分を示したフローチャート。
図8】予備励起の条件が互いに異なる第1から第4の実施形態について、1つ目のショットからのショット番号と、エネルギー値との関係を示した図。
図9】単位時間あたりのショット数が互いに異なる第5から第8の実施形態について、1つ目のショットからのショット番号と、エネルギー値との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、1つの実施形態に係るレーザ溶接装置とレーザ溶接方法について、図1から図9を参照して説明する。
図1は、複数の溶接部を有するワーク1の一例として、ディスク装置用サスペンションを示している。ワーク1は、ステンレス鋼からなるベースプレート10と、第1の板(ロードビーム)11と、第2の板(フレキシャ)12とを含んでいる。
【0016】
第1の板11と第2の板12とは、それぞれ、ばね性を有するステンレス鋼からなる。第1の板11と第2の板12とは、複数の溶接部13によって互いに固定されている。これら溶接部13は、以下に説明するレーザ溶接装置20とレーザ溶接方法とによって形成される。
【0017】
第1の板11は、厚さが200μm以下のステンレス鋼からなる。第1の板11の厚さは第2の板12の厚さよりも大きい。第2の板12は、厚さが100μm以下のステンレス鋼からなる。第1の板11の厚さの一例は30μmである。第2の板12の厚さの一例は18μmである。第2の板12の一方の面に沿って配線部15が形成されている。配線部15は、ポリイミド等の絶縁樹脂からなる絶縁層と、銅からなる導体とを含んでいる。
【0018】
第2の板12は、第1の板11と共通の金属(例えばSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼)からなる。SUS304の化学成分は、C:0.08以下、Si:1.00以下、Mn:2.00以下、Ni:8.00~10.50、Cr:18.00~20.00、残部がFeである。
【0019】
図2はレーザ溶接装置20を模式的に表わしている。レーザ溶接装置20は、パルス状に放出するレーザ光によって、ワーク1の複数の溶接部13を順に溶接する機能を有している。図2に示されたレーザ溶接装置20は、複数のワーク1を支持するワーク支持部21と、ワーク支持部21を移動させる移動機構22と、レーザ照射装置23と、制御部24とを含んでいる。制御部24は、移動機構22とレーザ照射装置23とを制御するための電気的な構成と、制御のためのソフトウェアと、制御用のデータを格納するメモリなどを含んでいる。
【0020】
ワーク1の第1の板11と第2の板12とを厚さ方向に重ねた状態において、ワーク1が押さえ治具によってワーク支持部21に固定される。ワーク支持部21は、ワーク1を所定の溶接ステージ25に保持する機能を有している。溶接ステージ25はレーザ照射装置23と対応した位置に設けられている。ワーク支持部21の一例はセラミックからなる。ワーク支持部21をセラミック製とすれば、溶接部13に生じた溶融金属がワーク支持部21に固着することを回避できる。
【0021】
図2に示されたように複数のワーク1は、フレーム部材1aによって互いに所定のピッチP1でワーク1の移動方向(矢印M1で示す)に接続されている。移動機構22は、ワーク1の移動方向に沿うガイド部材26と、アクチュエータ27とを含んでいる。アクチュエータ27の一例は、制御部24によって電気的に制御されるサーボモータである。アクチュエータ27は、ボールねじ等の力伝達機構を介して、ワーク支持部21をガイド部材26に沿う方向に移動させる。
【0022】
移動機構22は、ワーク支持部21に載置されたワーク1を、溶接ステージ25に向けて、図2に矢印M1で示す方向にピッチP1ずつ間欠的に移動させる。ワーク支持部21に載置された溶接すべきワーク1を溶接ステージ25に停止させることができる。
【0023】
図2に示されたようにレーザ照射装置23は、ガルバノスキャナ30を備えたレーザヘッド31を有している。走査機構として機能するガルバノスキャナ30は、レーザ照射装置23から放出されたレーザ光の集光位置を、停止した状態のワーク1の溶接すべき溶接部13に移動させる機能を有している。すなわちレーザ照射装置23のレーザ光学系の集光位置を、ガルバノスキャナ30のスキャニング動作により、溶接部13に向けて高速で移動させることができる。
【0024】
図3は、ワーク1と、レーザ溶接装置20の一部を模式的に示している。図3に示されたレーザ照射装置23は、レーザ光の発生源であるレーザ発振器40と、光学的なレンズ系41とを含んでいる。レンズ系41は、レーザ発振器40が出力したレーザ光42を集光し、エネルギー密度を高めた状態でワーク1の溶接部13に照射する機能を有している。レーザ溶接装置20の一例は、YAG(Yttrium Aluminium Garnet)のロッドを使用する固体レーザである。ただし必要に応じて、COレーザ等のガスレーザが使用されてもよいし、半導体レーザやファイバレーザ等が使用されてもよい。
【0025】
図4はレーザ発振器40を模式的に表わしている。光共振器として機能するレーザ発振器40は、レーザ媒体50と、励起光源51と、高反射率鏡55および低反射率鏡56とを含んでいる。励起光源51は、供給された駆動電力に応じてレーザ媒体50に励起エネルギーを注入する。高反射率鏡55と低反射率鏡56とは、互いに対向して配置されている。制御部24は、励起エネルギーを注入するための駆動電力を励起光源51に供給する。
【0026】
レーザ光を発振させるための電力が励起光源51に供給されると、励起光源51が放射する励起エネルギー57がレーザ媒体50に注入される。レーザ媒体50に励起エネルギー57が注入されると、レーザ媒体50から放出された光60が高反射率鏡55と低反射率鏡56との間で共振し、増幅される。
【0027】
増幅された光60のエネルギーがレーザ媒体50の損失エネルギーを超えると、レーザ発振が生じ、低反射率鏡56からレーザ光42が放出される。励起光源51に供給する電力に応じて、レーザ媒体50に注入するエネルギーを変化させることが可能である。レーザ発振器40の波長の一例は1.06μmである。
【0028】
以下に本実施形態のレーザ溶接方法を、図5に示すタイムチャートと、図6図7に示すフローチャートとを参照して説明する。この明細書では、溶接のためのレーザ光の1回の照射を1ショットと称することがある。
【0029】
図6中のステップST1では、溶接すべきワーク1を移動機構22によって溶接ステージ25に向けて移動させ、ワーク1を溶接ステージ25に停止させる。ステップST1においてワーク1が移動している間、またはワーク1が溶接ステージ25に停止した状態において、レーザ媒体50に予備励起のためのエネルギーを注入するステップST2が行われる。
【0030】
ステップST2では、最初に溶接する1番目の溶接部13を溶接する直前に、予備励起のためのエネルギーを注入する。すなわちステップST2は、レーザ媒体50に励起エネルギーを生じさせる駆動電力Pw1(図5に示す)よりも小さい電力(予備励起電力Pw2と称す)を、駆動電力Pw1のパルス幅T1よりも長い予備供給時間T2にわたり、励起光源51に供給する。ステップST2によって、励起エネルギーよりも小さいエネルギー(予備励起エネルギーと称す)がレーザ媒体50に注入される。
【0031】
ステップST2は、ステップST1においてワーク1が溶接ステージ25に向けて移動している間に行ってもよい。すなわちステップST2は、ワーク1が溶接ステージ25に向けて移動している間に、予備励起電力Pw2を励起光源51に供給する手段として機能する。このようにステップST2は、最初に溶接する1番目の溶接部を溶接する前に、駆動電力Pw1よりも小さい予備励起電力Pw2を、パルス幅T1よりも長い予備供給時間T2にわたり、励起光源51に供給する。
【0032】
図6に示すステップST3では、レーザ照射装置23から放出されるレーザ光の集光先がワーク1の1番目(1ショット目)の溶接部に向かうように、ガルバノスキャナ30のスキャニング動作が制御される。
【0033】
前記ステップST2において予備供給時間T2(図5に示す)が経過したのち、1番目の溶接部を溶接する直前に、ステップST4にて所定のインターバルT3(図5に示す)を経過させる。インターバルT3は、駆動電力Pw1のパルス幅T1と同じか、パルス幅T1よりも長い。またインターバルT3は予備供給時間T2よりも短く、かつ、駆動電力Pw1のパルス間隔T4よりも短い。ステップST4は、1番目の溶接部を溶接する前に、所定のインターバルT3を経過させる手段として機能する。
【0034】
インターバルT3が経過したのち、図7に示すステップST5において、パルス状の駆動電力Pw1を励起光源51に供給することにより、励起エネルギーをレーザ媒体50に注入する。レーザ媒体50に注入された励起エネルギーにより、ステップST6において、1番目の溶接部のためのレーザ光がレーザ媒体50から放出される。すなわちステップST5は、ワーク1が溶接ステージ25に停止した状態において駆動電力Pw1を励起光源51に供給する手段として機能する。
【0035】
ステップST7では、1つのワークの全ての溶接部の溶接が終了したか否かが判断される。全ての溶接部の溶接が終了していなければ(ステップST7において“NO”)、ステップST8に進み、2番目以降の溶接部の準備に移る。
【0036】
ステップST8では、レーザ照射装置23から出力されるレーザ光の集光先が2番目以降の溶接部に向かうように、ガルバノスキャナ30のスキャニング動作が制御される。そののち、ステップST5とステップST6とにより、2番目以降の溶接部が形成される。
【0037】
ステップST7において、1つのワークの全ての溶接部が溶接されたと判断されれば(ステップST7において“YES”)、ステップST9に進む。ステップST9では、全てのワークの溶接が終了したか否かが判断される。
【0038】
ステップST9において、全てのワークの溶接が終了していないと判断されれば(ステップST9において“NO”)、図6のステップST1に戻り、次のワーク(2個目以降のワーク)が溶接ステージ25に移動してくる。そして再びステップST2からステップST9までの一連の工程が繰り返されることにより、2個目以降のワークの溶接が行なわれる。なお、各ワークの配列ピッチが小さい場合には、ステップST1に戻ることなく、隣りのワークの溶接部に対してステップST5とステップST6とを繰り返してもよい。
【0039】
本実施形態では、複数の溶接部ごとに共通の大きさの駆動電力Pw1を励起光源51に供給する。しかしワークによっては、溶接部の厚さや材質が異なることもある。その場合、ワークの厚さや材質に応じて、駆動電力Pw1の大きさを変化させるなどして、レーザ光の出力(エネルギー値)を調整してもよい。
【0040】
図8は、予備励起電力Pw2と予備供給時間T2とを変えて実験を行った4つの実施例(第1の実施例から第4の実施例)について、それぞれのショット番号とエネルギー値との関係を示している。図8中の横軸の“1”は、1ショット目の溶接部(1番目の溶接部)である。いずれの実施例も、1秒あたりのショット数(溶接数)が200、各ショットの励起エネルギー(駆動電力)が100Wである。
【0041】
図8中の黒丸は第1の実施例であり、予備励起電力Pw2が30W、予備供給時間T2が10msである。第1の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0772Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーの低下は見られなかった。このため1番目の溶接部に溶接不良が生じることが回避された。第1の実施例では、予備励起電力Pw2を与えたときに僅かにレーザ光の放出が確認されたが、ワークを溶融させるほどのエネルギーではなかった。
【0042】
図8中の白丸は第2の実施例であり、予備励起電力Pw2が25W、予備供給時間T2が10msである。第2の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0767Jであり、2ショット目以降と比較して、実質的にエネルギーの低下は見られなかった。このため1番目の溶接部に溶接不良が生じることが回避された。第2の実施例では、予備励起電力Pw2を与えたときにレーザ光の放出は確認されなかった。
【0043】
図8中の白三角は第3の実施例であり、予備励起電力Pw2が20W、予備供給時間T2が10msである。第3の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0758Jであり、2ショット目以降と比較して、1ショット目のエネルギーの低下が大きかった。このため1番目の溶接部に溶接不良が生じる原因となった。
【0044】
図8中の黒四角は第4の実施例であり、予備励起電力Pw2が30W、予備供給時間T2が5msである。第4の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.07459Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーが大きく低下した。このため1番目の溶接部に溶接不良が生じる原因となった。
【0045】
図9は、予備励起エネルギーを与えずに溶接を行った場合で、単位時間あたりのショット数が互いに異なる4つの実施例(第5の実施例から第8の実施例)について、それぞれのショット番号とエネルギー値との関係を示している。図9中の横軸の“1”は、1ショット目の溶接部(1番目の溶接部)を示している。“PPS”は1秒あたりのショット数(Pulse per Second)の略語である。
【0046】
図9中の黒丸は第5の実施例であり、1秒あたりのパルス数が42である。この第5の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0600Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーの低下は見られなかった。このような低速パルス溶接では、1番目の溶接部の品質が問題となることはない。しかしワーク1つあたりの溶接時間が長くなるため、生産効率が低下するという問題がある。
【0047】
図9中の白三角は第6の実施例であり、1秒あたりのパルス数が100である。この第6の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0599Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーの低下が見られた。このため1番目の溶接部の品質が問題となる可能性がある。
【0048】
図9中の白四角は第7の実施例であり、1秒あたりのパルス数が200である。この第7の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0598Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーの低下が見られた。このため1番目の溶接部の品質が問題となる可能性がある。
【0049】
図9中の白丸は第8の実施例であり、1秒あたりのパルス数が500である。この第8の実施例の1ショット目のエネルギー値は0.0582Jであり、2ショット目以降と比較して、エネルギーが大きく低下した。このため第8の実施例は、1番目の溶接部の品質が悪化した。
【0050】
以上述べたように、1秒当たりのショット数が100以上の高速パルス溶接の場合に、1ショット目のエネルギー値の低下が問題となった。高速パルス溶接は多数の溶接部を比較的短時間で溶接でき、生産性が高いという利点がある反面、1番目の溶接部の品質が問題となる。
【0051】
以上のことから、1秒当たりのショット数が100以上の高速パルス溶接において、25W以上の予備励起電力Pw2を、10ms以上の予備供給時間T2で励起光源51に供給することが、レーザ溶接の効率を下げることなしに、1番目の溶接部の溶接不良を防止する上で有効であるとの知見が得られた。
【0052】
なお本発明を実施するに当たり、レーザ照射装置や制御部、ワーク支持部等の具体的な構成を種々に変更して実施できることは言うまでもない。また本発明は、ディスク装置用サスペンション以外のワークの溶接に適用することもできる。
【符号の説明】
【0053】
1…ワーク、11…第1の板、12…第2の板、13…溶接部、20…レーザ溶接装置、21…ワーク支持部、22…移動機構、23…レーザ照射装置、24…制御部、25…溶接ステージ、30…ガルバノスキャナ、31…レーザヘッド、40…レーザ発振器、42…レーザ光、50…レーザ媒体、51…励起光源、Pw1…駆動電力、Pw2…予備励起電力、T1…パルス幅、T2…予備供給時間、T3…インターバル、T4…パルス間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9