(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240924BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240924BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2021083254
(22)【出願日】2021-05-17
【審査請求日】2023-11-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴司
(72)【発明者】
【氏名】上松 秀樹
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-072261(JP,A)
【文献】特開2008-108796(JP,A)
【文献】特開2005-347400(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009028(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/013941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面と、を有するセラミック基板と、
前記セラミック基板の前記第2表面側に配されるベース部材であって、前記セラミック基板の反対側に位置する第3表面を有するベース部材と、前記セラミック基板と前記ベース部材との間に配される接合材と、を備え、
(1)前記セラミック基板及び前記ベース部材には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第3表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、又は
(2)前記セラミック基板には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第2表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、
前記流路には、多孔セラミック領域が設けられており、
前記多孔セラミック領域は、疎領域と、前記疎領域よりも低い空隙率を有し前記疎領域よりも前記第1表面側に配される密領域と、を備え
、
前記流路は、前記第1表面側に、前記流出孔に連通する流出孔側流路を有し、
前記疎領域は、前記流出孔側流路に直接接続されていない、保持装置。
【請求項2】
前記第1表面から前記第3表面に向かう方向についての前記密領域の延在幅は、前記疎領域の延在幅よりも小さい、請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記密領域及び前記疎領域は、前記第1表面と前記第2表面との間に配されている、請求項1又は請求項2に記載の保持装置。
【請求項4】
前記セラミック基板は、前記第1表面を含む第1の部分と、抵抗発熱体により形成されたヒータ電極及び前記第2表面を含む第2の部分と、前記第1の部分と前記第2の部分とを接合する接合部分と、を備える、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の保持装置。
【請求項5】
前記密領域は、前記流出孔側流路に充填された部分を有する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の保持装置。
【請求項6】
前記多孔セラミック領域は、前記疎領域と、前記密領域と、前記疎領域と前記密領域との境界と、を備え、
前記境界の空隙率は、前記疎領域の空隙率以下、前記密領域の空隙率以上であり、かつ前記疎領域から前記密領域に向かうにしたがって徐々に低下する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の保持装置。
【請求項7】
前記セラミック基板に配された密領域と前記ベース部材に配された前記疎領域との間に隙間が形成されている、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置の一例として、下記特許文献1に記載の静電チャックが知られている。この静電チャックは、裏面とチャック面とを有するチャック本体と、前記チャック本体内の電極と、前記裏面と前記チャック面との間で伸びてこれらの間を流体的に通じさせる複数の管路とを備え、各管路がその内部に前記チャック本体と一体化されて該チャック本体へと延びる多孔領域を備える。チャック面に保持されたウェハのプラズマ処理等を行う際には、チャック面の温度制御性を高めるため、熱伝導流体であるヘリウムガス等のガスが、管路を通じて裏面からチャック面に送られる。装置内でウェハ等を処理する際、ウェハ等と静電チャックに含まれる金属部材との間に位置する管路の内部において、異常放電(アーク放電)が発生する可能性があるが、特許文献1の静電チャックでは、管路内に多孔領域が設けられていることにより、異常放電の発生が低減される。
【0003】
ところで、ウェハ等の対象物を保持装置に保持させたり、保持させた対象物を処理したりすることにより、装置内の不純物や、ウェハとチャック面との擦れによって発生するセラミック片等の異物が、ガスを流通させるための管路に落下することがある。上記のような静電チャックでは、管路内に落下した異物が多孔領域の内部まで侵入すると、ガス詰まりが生じて圧力が低下し、裏面からチャック面側にガスが十分に供給されなくなって、対象物の温度制御性が低下する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術は、上記状況に鑑み、異常放電の発生を低減しつつ、対象物の温度を高い精度で制御可能な保持装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る保持装置は、対象物を保持する第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面と、を有するセラミック基板と、前記セラミック基板の前記第2表面側に配されるベース部材であって、前記セラミック基板の反対側に位置する第3表面を有するベース部材と、前記セラミック基板と前記ベース部材との間に配される接合材と、を備え、(1)前記セラミック基板及び前記ベース部材には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第3表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、又は、(2)前記セラミック基板には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第2表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、前記流路には、多孔セラミック領域が設けられており、前記多孔セラミック領域は、疎領域と、前記疎領域よりも低い空隙率を有し前記疎領域よりも前記第1表面側に配される密領域と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、異常放電の発生を低減しつつ、対象物の温度を高い精度で制御可能な保持装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る保持装置の一部を破断して概略構成を模式的に示した斜視図である。
【
図2】
図2は、保持装置の内部構造の概要を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4は、流路内に形成された多孔領域の様子の一例を模式的に示した断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る保持装置の内部構造の概要を模式的に示した断面図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係る保持装置の一部を拡大して示した断面図である。
【
図8】
図8は、他の実施形態の別の一例に係る保持装置の一部を拡大して示した断面図である。
【
図9】
図9は、他の実施形態のさらに別の一例に係る保持装置の一部を拡大して示した断面図である。
【
図10】
図10は、他の実施形態のさらに別の一例に係る保持装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
<1> 本開示に係る保持装置は、対象物を保持する第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面と、を有するセラミック基板と、前記セラミック基板の前記第2表面側に配されるベース部材であって、前記セラミック基板の反対側に位置する第3表面を有するベース部材と、前記セラミック基板と前記ベース部材との間に配される接合材と、を備え、(1)前記セラミック基板及び前記ベース部材には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第3表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、又は、(2)前記セラミック基板には、前記第1表面に設けられた流出孔と前記第2表面に設けられた流入孔との間を流体が移動可能に連通させる流路が形成され、前記流路には、多孔セラミック領域が設けられており、前記多孔セラミック領域は、疎領域と、前記疎領域よりも低い空隙率を有し前記疎領域よりも前記第1表面側に配される密領域と、を備える。
【0010】
上記<1>の構成によれば、第3表面側から第1表面にガスを供給する流路に、疎領域と密領域を備える多孔セラミック領域が配される。第1表面側に位置する密領域によって、対象物の処理等に起因する異物は多孔セラミック領域の内部まで侵入し難くなり、ガス詰まりが軽減される。また、密領域よりも第3表面側に疎領域を配することによって、第3表面側から導入されるガスの圧力損失を大きく増加させることなく、対象物を処理する際の異常放電の発生を低減できる。この結果、上記構成の保持装置によれば、異常放電の発生を低減しつつ、ガスを安定的に第1表面側に供給して対象物の温度を高い精度で制御可能となる。
【0011】
<2> 上記<1>の保持装置において、前記第1表面から前記第3表面に向かう方向についての前記密領域の延在幅は、前記疎領域の延在幅よりも小さい。<2>の構成によれば、密領域の、第1表面から第3表面に向かう方向についての延在幅、すなわち厚みが、疎領域の厚みよりも小さく(薄く)形成される。この結果、多孔領域が存在することによるガスの圧力損失を比較的小さく抑えることができる。
【0012】
<3> 上記<1>又は<2>の保持装置において、前記密領域及び前記疎領域は、前記第1表面と前記第2表面との間に配されている。<3>の構成によれば、多孔セラミック領域である密領域及び疎領域が、第1表面と第2表面との間、すなわち多孔セラミック領域と同種の材料からなるセラミック基板中に配される。この結果、保持装置中に、周辺構造との密着性が高く耐久性に優れた密領域及び疎領域を形成可能となる。
【0013】
<4> 上記<1>から<3>の何れかの保持装置において、前記セラミック基板は、前記第1表面を含む第1の部分と、抵抗発熱体により形成されたヒータ電極及び前記第2表面を含む第2の部分と、前記第1の部分と前記第2の部分とを接合する接合部分と、を備える。<4>の構成の保持装置は、例えばヒータ電極を含む第2の部分を形成してベース部材と接合し、ヒータ電極への給電やベース部材の冷却等を行いながらヒータ電極の電気抵抗を調整した後に、第2の部分と第1の部分とを接合することによって製造できる。このような保持装置は、その製造工程においてヒータ電極の電気抵抗を容易に調整できるため、第1表面の温度分布を高精度に制御できる。このような保持装置に本技術を適用すれば、対象物の温度を非常に高い精度で制御可能な保持装置を得ることができる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の保持装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。なお、各図面の一部には、直交座標系XYZのX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図において同一方向となるように描かれている。以下の説明では、Z軸方向を上下方向とし、
図2の上側を上、
図2の下側を下とするが、保持装置が必ずこのような姿勢で設置されることを意味するものではない。また、複数の同一部材については、一の部材に符号を付して他の部材の符号は省略することがある。各図面における部材の相対的な大きさや配置は必ずしも正確ではなく、説明の便宜を考慮して一部の部材の縮尺等を変更しているものがある。
【0015】
<実施形態1の詳細>
(保持装置)
以下、本実施形態に係る保持装置100を、
図1から
図4を参照しつつ説明する。保持装置100は、対象物(例えば、半導体ウェハW)を所定の処理温度(例えば、50℃~400℃)に加熱しながら、静電引力によって吸着し保持する静電チャックである。静電チャックは、例えば減圧されたチャンバー内でプラズマを用いてエッチングを行うプロセスにおいて、ウェハWを載置するテーブルとして使用される。
【0016】
図1は、保持装置100の概略構成を模式的に示した図である。保持装置100は、円板状のセラミック基板10と、同じく円板状のベース部材20と、を備える。ベース部材20の径はセラミック基板10よりも大きく、例えばセラミック基板10が直径300mm×厚み3mmの円板状をなす場合、ベース部材20は直径340mm×厚み20mmの円板状とすることができる。なお、セラミック基板10及びベース部材20は何れも、概ね円板状をなすものであり、これらに、位置合わせを行うための凹凸等が設けられていてもよい。セラミック基板10とベース部材20は、上下方向に配列され、接合材30によって接合されている。セラミック基板10の上側の第1表面S1が、ウェハWを吸着し保持する吸着面とされ、セラミック基板10の下側の第2表面S2が、接合材30を介してベース部材20と接合される。ベース部材20の下側の面を、第3表面S3とする。
【0017】
(セラミック基板)
図2にも示すように、セラミック基板10は、その第1表面S1及び第2表面S2がZ軸に略直交するように配される。セラミック基板10は絶縁性の基板であって、例えば、窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al
2O
3)を主成分とするセラミックスにより形成されている。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。
【0018】
図2に示すように、セラミック基板10の内部において、上側すなわち第1表面S1側には、チャック電極40が配され、チャック電極40の下方すなわち第2表面S2側には、セラミック基板10を加熱するための抵抗発熱体からなるヒータ電極50が配されている。チャック電極40及びヒータ電極50は、例えば、タングステンやモリブデン等を含む導電性材料によって形成されている。本実施形態において、チャック電極40は、第1表面S1に略平行な平面状をなす。また、ヒータ電極50は、第1表面S1に略平行な平面に沿って延びる電極であって、上方から視て、例えば渦巻状や同心円状の線状パターンを形成するように配置されている。チャック電極40及びヒータ電極50は、それぞれ端子等を介して電源に接続される。必要に応じてヒータ電極50への給電が行われることにより、セラミック基板10が加熱され、セラミック基板10の第1表面S1に保持されたウェハWが加熱される。
【0019】
図1及び
図2に示すように、セラミック基板10の第1表面S1には、複数の流出孔61が設けられている。第1表面S1の外周縁部は、内周部分に比べて僅かに上方に突出するように形成されており、第1表面S1にウェハWが吸着保持されると、
図2に示すように、ウェハWと第1表面S1との間にギャップGが形成されるようになっている。セラミック基板10には、流出孔61に連通して第2表面S2に開口する(セラミック基板10の内部を上下方向に貫通する)セラミック側流路60Cが形成されている。
【0020】
本実施形態において、セラミック側流路60Cは、水平方向(第1表面S1に平行)に延びる面並行流路部分60CTを含む。セラミック側流路60Cはまた、上下方向(第1表面S1に垂直)に延びて流出孔61と面並行流路部分60CTとを接続する第1接続部分60CV1と、上下方向(第1表面S1に垂直)に延びて面並行流路部分60CTと後述する接合材内流路60Jとを接続する第2接続部分60CV2と、を含む。本実施形態では、面並行流路部分60CTは、上下方向について、ヒータ電極50と第2表面S2との間に配されている。流出孔61や第2表面S2における開口の形状、並びに、セラミック側流路60Cの断面形状は限定されるものではないが、例えば略円形とすることができる。なお、本実施形態において、流出孔61の径はセラミック側流路60Cの大半部分における断面の径より小さく形成されており、1つのセラミック側流路60Cに複数の流出孔61が連通されている(
図3等参照)。
【0021】
(接合材)
接合材30には、例えばシリコーン系の有機接合剤、無機接合剤や、Al系の金属接着剤を含むボンディングシート等を用いることができる。接合材30は、セラミック基板10及びベース部材20の双方に対して高い接着力を有していることに加え、高い耐熱性と熱伝導性を有していることが好ましい。接合材30において、セラミック基板10に形成された第2接続部分60CV2下端の開口に対向する位置には穴が設けられており、
図2に示すように、接合材30の内部を上下方向に貫通する接合材内流路60Jが形成されている。
【0022】
(ベース部材)
図2等に示すように、ベース部材20は、接合材30により、セラミック基板10の下側すなわち第2表面S2側に接合される。セラミック基板10の反対側に位置する第3表面S3は、Z軸に略直交するように配される。ベース部材20は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金や、金属とセラミックスの複合体(Al-SiC)、又はセラミックス(SiC)を主成分として構成できる。ベース部材20は、既述したようにセラミック基板10より大径な円板状をなし、この上にセラミック基板10の全体が載置される。
【0023】
図1及び
図2に示すように、ベース部材20の内部には、冷媒路21が形成されている。冷媒路21に水やフッ素系不活性液体等の冷媒が流されることで、プラズマ熱の冷却が行われる。冷媒路21を冷媒が流れると、ベース部材20が冷却され、接合材30を介した熱伝導によってセラミック基板10が冷却され、さらにセラミック基板10の第1表面S1に保持されたウェハWが冷却される。冷媒の流れを調整することにより、ウェハWの温度を制御できる。
【0024】
図1及び
図2に示すように、ベース部材20の第3表面S3には、ガスが流入する複数の流入孔63が設けられている。そして、ベース部材20の内部には、上下方向(第1表面S1に垂直)に延びて、接合材内流路60Jと流入孔63とを連通する(ベース部材20の内部を上下方向に貫通する)ベース側流路60Bが形成されている。
【0025】
(流路)
保持装置100には、上記したセラミック側流路60C、接合材内流路60J、及びベース側流路60Bにより、この保持装置100の内部を上下方向に貫通して第1表面S1及び第3表面S3に開口する流路60が形成される。流路60は、全長に亘ってこの内部を流体が移動可能に形成されている。流路60には、熱伝導流体であるヘリウムガス等の不活性ガスが流される。第3表面S3の流入孔63から流入したガスは、流路60を通って第1表面S1の流出孔61から流出し、セラミック基板10とウェハWと間のギャップGに充填される。これにより、第1表面S1の温度がウェハWに伝わり易くなり、ウェハWの温度制御性が向上する。
【0026】
(多孔セラミック領域)
図2に示すように、保持装置100において、流路60の内部、第1表面S1と第3表面S3との間には、多孔セラミック領域65が形成されている。
図3に示すように、本実施形態では、多孔セラミック領域65は、第1表面S1と第2表面S2との間、すなわちセラミック側流路60Cに形成されている。より詳しくは、第1接続部分60CV1のうち上下方向についてチャック電極40とヒータ電極50との間に位置する部分が、第1接続部分60CV1の他の部分よりも大径に形成されており、この大径部分に、多孔セラミック領域65が形成されている。流路60に多孔セラミック領域65が形成されていることで、後述するように、ウェハWを処理する際の異常放電の発生が低減される。
【0027】
図4は、多孔セラミック領域65のXY断面の一例を模式的に示した図である。セラミック側流路60Cの内部に形成された多孔セラミック領域65には、絶縁性のセラミック材料からなる多孔体Mが配されていることによって、多数の空隙Pが形成されている。流体が多孔セラミック領域65を上下方向に移動可能である限り、多孔体Mによって形成される空隙Pの形状・寸法・配置は、特に限定されるものではなく、例えば
図4に示すように、様々な大きさで不定形状の空隙Pがランダムに配置されていてもよい。多孔セラミック領域65において空隙Pが占める割合である空隙率は、例えば多孔セラミック領域65断面の電子顕微鏡画像を解析し、単位面積あたりに占める空隙Pの面積に基づいて算出できる。第3表面S3側から第1表面S1側へのガス供給をスムーズに行うためには、多孔セラミック領域65の空隙率は高いことが好ましい。また、後述する異常放電の発生及び異物の侵入を低減するためには、多孔セラミック領域65内の空隙Pは小さいことが好ましい。
【0028】
図3に示すように、多孔セラミック領域65の下側の領域は、比較的空隙率が高い疎領域65Aとされる。このようにすることで、ガスの圧力損失を抑えながら異常放電の発生を効果的に低減できる。一方、多孔セラミック領域65の上側(第1表面S1側)の領域は、疎領域65Aよりも空隙率が低い密領域65Bとされる。密領域の空隙率は、疎領域の空隙率の0.50倍以上0.90倍以下とする。このようにすることで、ガスの供給を大きく阻害することなく多孔セラミック領域65内部への異物の侵入を効果的に低減できる。なお、多孔セラミック領域65の全体の空隙率は、30%以上70%以下とすることが好ましく、40%以上60%以下とすることがより好ましい。このような範囲にすることで、多孔セラミック領域65について十分な強度を確保しながら、第3表面S3側から第1表面S1にガスを供給できる。
【0029】
図3に示すように、本実施形態では、多孔セラミック領域65において、密領域65Bの厚み(上下方向の延在幅)TBは、疎領域65Aの厚みTAよりも小さくなるように設定されている(TB<TA)。このように設定することで、ガスの圧力損失を抑えながら異常放電の発生を効果的に低減できる。また、密領域65Bの厚みTBは、疎領域65Aの厚みTAの0.1倍以上0.9倍以下とする。このような範囲であれば、ガスの供給を大きく阻害することなく多孔セラミック領域65内部への異物の侵入を効果的に低減できる。
【0030】
多孔セラミック領域65の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を採用できる。本実施形態の多孔セラミック領域65は、例えば軸方向について異なる空隙率を有する円筒形状の多孔体Mを作製し、セラミック基板10の製造工程において、第1接続部分60CV1に設けられた大径部分に嵌め込むことにより、形成できる。
【0031】
(保持装置の使用)
保持装置100は、例えば半導体製造装置の一部として使用される。半導体製造装置のチャンバー内に設置された保持装置100の第1表面S1上にウェハWが載置され、電源からチャック電極40への給電が行われると、静電引力が生じて第1表面S1にウェハWが吸着される。チャンバー内に原料ガスが導入され電圧が印加されると、プラズマが発生してウェハWの処理が行われる。
【0032】
ウェハWを処理する際、電源からヒータ電極50への給電が行われると、ウェハWはセラミック基板10を介して加熱される。他方、冷媒路21に冷媒が流されると、ウェハWは冷却される。このとき、第3表面S3の流入孔63から熱伝導ガスが導入され、流路60を流れたガスが第1表面S1の流出孔61から流出し、第1表面S1とウェハWとの間に形成されたギャップGに充填されることで、ウェハWの温度が高い精度で制御されるようになっている。
【0033】
上記のようにプラズマを発生させてウェハWの処理を行う際、電圧を印加することにより、保持装置に含まれる金属部材と、ウェハWとの間に位置する流路内において、異常放電(アーク放電)が生じる可能性がある。例えば、金属製のベース部材を用いる場合はウェハWとベース部材との間、金属接着剤を含む接合材でセラミック基板とベース部材とを接合している場合はウェハWと接合材との間に存在する空間で、放電が生じ得る。保持装置100では、ガスの流路60内に絶縁性の多孔セラミック領域65が配されていることにより、流路60内における異常放電の発生が低減されるようになっている。
【0034】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る保持装置100は、ウェハ(対象物)Wを保持する第1表面S1と、前記第1表面S1の反対側に位置する第2表面S2と、を有するセラミック基板10と、前記セラミック基板10の前記第2表面S2側に配されるベース部材20であって、前記セラミック基板10の反対側に位置する第3表面S3を有するベース部材20と、セラミック基板10とベース部材20との間に配される接合材30と、を備え、前記セラミック基板10及び前記ベース部材20には、前記第1表面S1に設けられた流出孔61と前記第3表面S3に設けられた流入孔63との間を流体が移動可能に連通させる流路60が形成され、前記流路60には、多孔セラミック領域65が設けられており、前記多孔セラミック領域65は、疎領域65Aと、前記疎領域65Aよりも低い空隙率を有し前記疎領域65Aよりも前記第1表面S1側に配される密領域65Bと、を備える。
【0035】
ウェハWを処理する際、チャンバー内の不純物やセラミック片等の異物が流路60に落下すると、多孔セラミック領域65でガス詰まりが生じてギャップGへのガスの供給が不足し、温度制御性が低下する可能性がある。この点、本実施形態に係る保持装置100では、第1表面S1側に密領域65Bが配されていることによって、ウェハW等の対象物の処理等に起因する異物が多孔セラミック領域65の内部まで入り込み難くなっている。より詳しくは、異物が流出孔61から流路60内に落下した場合でも、異物の多くが密領域65Bの上面に留まる。ウェハWの処理中は流路60の内部を第3表面S3側から第1表面S1側に向けてガスが流されており、密領域65Bの上面に存在する異物の多孔セラミック領域65内部に侵入は抑制される。この結果、異物の侵入による多孔セラミック領域65のガス詰まりが軽減される。
【0036】
ここで、異常放電の発生を低減するための多孔セラミック領域65の全域を、異物が浸入し難い密領域65Bとすると、多孔セラミック領域65におけるガスの圧力損失が大きくなり、第1表面S1とウェハWとの間のギャップGに十分なガスが供給されなくなる可能性がある。この点、本実施形態に係る保持装置100は、密領域65Bよりも第3表面S3側の領域を、空隙率の大きな疎領域65Aとすることによって、多孔セラミック領域65によるガスの圧力損失をできるだけ小さく抑えながら、ウェハWを処理する際の異常放電の発生を低減できるように構成されている。
【0037】
以上の結果、保持装置100によれば、異常放電の発生を低減しつつ、ガスを安定的に第1表面S1側に供給してウェハ(対象物)Wの温度を高い精度で制御可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係る保持装置100において、前記第1表面S1から前記第3表面S3に向かう方向についての前記密領域65Bの延在幅(密領域65Bの厚みTB)は、前記疎領域65Aの延在幅(疎領域65Aの厚みTA)よりも小さい。
【0039】
本実施形態の保持装置100では、密領域65Bの上下方向(第1表面S1から第3表面S3に向かう方向)についての延在幅すなわち厚みTBが、疎領域65Aの厚みTAよりも小さく(薄く)形成される。これにより、多孔セラミック領域65が存在することによるガスの圧力損失を比較的小さく抑えることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る保持装置100において、前記密領域65B及び前記疎領域65Aは、前記第1表面S1と前記第2表面S2との間に配されている。
【0041】
本実施形態の保持装置100では、多孔セラミック領域65である密領域65B及び疎領域65Aが、第1表面S1と第2表面S2との間、すなわち多孔セラミック領域65と同種の材料からなるセラミック基板10中に配される。これにより、周辺構造との密着性が高く耐久性に優れた密領域65B及び疎領域65Aを、保持装置100の内部に形成可能となる。
【0042】
<実施形態2の詳細>
以下、本実施形態に係る保持装置200を、
図5及び
図6を参照しつつ説明する。本実施形態に係る保持装置200は、セラミック基板210の構造と、多孔セラミック領域265を含む流路260の構造が、実施形態1に係る保持装置100と相違している。以下の説明では、実施形態1と同様の構成については説明を割愛する。
【0043】
(セラミック基板)
図5に示すように、本実施形態に係るセラミック基板210は、第1表面S1を含む第1の部分211と、下側の面である第2表面S2を含む第2の部分212を備える。なお、第1表面S1は、セラミック基板210の上側の面であって、ウェハW等の対象物を静電引力によって吸着し保持する吸着面であり、第2表面S2は、セラミック基板210の下側の面であって、接合材230を介してベース部材220に接合される接合面である。第1の部分211と第2の部分212は、上下方向に配列され、接合部分213によって接合されている。第1の部分211の内部には、チャック電極240が配される一方、第2の部分212の内部には、ヒータ電極250が配されている。なお、
図5に表されているように、セラミック基板210の外周にはシール材ORが嵌装される。
【0044】
(流路)
図5に示すように、保持装置200には、セラミック側流路260C、接合材内流路260J、及びベース側流路260Bにより、この保持装置200の内部を上下方向に貫通して、第1表面S1の流出孔261と第3表面S3の流入孔263とを連通する流路260が形成されている。本実施形態に係る流路260のうち、セラミック側流路260C及び接合材内流路260Jは、セラミック基板210もしくは接合材230をそれぞれ上下方向に貫通している。また、ベース側流路260Bは、水平方向(第1表面S1に平行)に延びる面並行流路部分260BTと、上下方向(第1表面S1に垂直)に延びて接合材内流路260Jと面並行流路部分260BTとを接続する第1接続部分260BV1と、上下方向(第1表面S1に垂直)に延びて流入孔263と面並行流路部分260BTとを接続する第2接続部分260BV2と、を含む。本実施形態では、面並行流路部分260BTは、上下方向について、ベース部材220の上側の面と、冷媒路221との間に配されている。
【0045】
(多孔セラミック領域)
図6に示すように、本実施形態では、多孔セラミック領域265は、流路260のうちセラミック側流路260Cに形成されている。より詳しくは、セラミック基板210の第1の部分211に形成された第1流路260C1に、空隙率が比較的低い密領域265Bが、第2の部分212に形成された第2流路260C2に、空隙率が比較的高い疎領域265Aが、それぞれ配されている。本実施形態では、接合部分213に形成された接合部流路260C3には多孔セラミック領域265は配されておらず、疎領域265Aと密領域265Bは互いに分離した状態でセラミック側流路260C内に配されている。
【0046】
(保持装置の製造)
本実施形態に係る保持装置200は、例えば下記のように製造できる。
まず、所定のパターンに形成されたヒータ電極250を含む第2の部分212と、冷媒路221が形成されたベース部材220を作製し、接合材230により、これらを接合させる。この状態で、ヒータ電極250への給電による第2の部分212の加熱と、冷媒を流すことによるベース部材220の冷却とを行いながら、第2の部分212の上側表面の温度分布を測定する。測定結果に応じて、第2の部分212の上方からヒータ電極250を部分的に除去するなどして電気抵抗を調整する。しかる後に、別途作製した第1の部分211を、接合部分213を介して第2の部分212の上側の面に接合させ、保持装置200を得る。
【0047】
上記のように保持装置200を製造するにあたり、多孔セラミック領域265は、例えば、第2の部分212及び第1の部分211を作製する際に形成できる。具体的には、予め作製しておいた多孔体を第2流路260C2もしくは第1流路260C1の大径部分に嵌め込むことで、疎領域265A及び密領域265Bを形成できる。
【0048】
(本実施形態の効果)
以上記載したように、本実施形態に係る保持装置200において、セラミック基板210は、第1表面S1を含む第1の部分211と、抵抗発熱体により形成されたヒータ電極250及び第2表面S2を含む第2の部分212と、前記第1の部分211と前記第2の部分212とを接合する接合部分213と、を備える。
【0049】
本実施形態に係る保持装置200は、ヒータ電極及びチャック電極を含むセラミック基板を作製した後にベース部材と接合して製造される従来の保持装置と比較して、ヒータ電極250の電気抵抗を高い精度で容易に調整可能である。また、セラミック基板製造時の焼成に起因するヒータ電極の電気抵抗の変動を考慮した上で、調整を行える。よって、保持装置200では、従来の保持装置と比較して、温度制御性の向上を図ることができる。このような保持装置200に本技術を適用すれば、ウェハWの温度を非常に高い精度で制御可能な保持装置を得ることができる。
【0050】
<他の実施形態>
(1)多孔セラミック領域は、セラミック基板の第1表面S1に設けられた流出孔を含む領域に形成されていてもよい。例えば
図7に示すセラミック基板310のように、面並行流路部分360CTと流出孔361とを接続する第1の接続部分360CV1に多孔セラミック領域365を形成する場合、第1表面S1寄りの位置に設けられた大径部分に疎領域365Aと密領域365Bを配すると共に、大径部分から流出孔361に至るまでの小径部分にも、密領域365Bを配することができる。このようにすれば、第1表面S1側からの異物の侵入が流路360上端の入口において抑制されるため、多孔セラミック領域365のガス詰まりを一層効果的に軽減できる。なお、このように流出孔361に至る小径部分にも多孔セラミック領域365を形成する場合には、ガスの圧力損失が増大するのを回避するため、流出孔361の面積及び小径部分の断面積をできるだけ大きく設定することが好ましい。
【0051】
(2)多孔セラミック領域は、疎領域の第1表面S1側に、疎領域に対して十分に低い空隙率を有する密領域が配されていればよく、疎領域と密領域との間の構成は問わない。実施形態1に記載したように、疎領域65Aと密領域65Bとが互いに接する態様で形成されていてもよく、実施形態2に記載したように、疎領域265Aと密領域265Bとが分離して形成されていてもよい。また、疎領域と密領域との境界が明確である必要もない。例えば
図8に示すセラミック基板410のように、セラミック側流路460Cに設けられた大径部分に多孔セラミック領域465を配する場合、所定の空隙率を有する疎領域465Aから、この疎領域465A上方(第1表面S1側)に位置する密領域465Bに向かって空隙率が徐々に低下するように、多孔セラミック領域465を形成してもよい。
【0052】
(3)多孔セラミック領域は、その一部もしくは全部が、ベース部材の内部に形成されていてもよい。例えば
図9に示すセラミック基板510のように、ベース部材520の内部に設けられたベース部材側流路560Bの一部に疎領域565Aを形成し、この疎領域565Aの上方(第1表面S1側)に位置し、セラミック基板510の内部に設けられたセラミック側流路560Cに、密領域565Bを形成してもよい。或いは、ベース部材側流路に、疎領域及び密領域の両方を形成しても構わない。
【0053】
(4)流路は、ベース部材に形成されていなくてもよい。例えば、
図10に示す保持装置600では、セラミック基板610の第1表面S1に設けられた流出孔661と、第2表面S2に設けられた流入孔662とを連通する流路660が形成されており、ベース部材620に流路は形成されていない。セラミック基板610の第2表面S2には、流入孔662から外周に向けて溝664が形成され、溝664の端部が保持装置600の側面に開口して、この開口からガスが導入されるようになっている。このような保持装置600にも本技術を適用し、疎領域と密領域とを備える多孔セラミック領域665を流路660に形成することで、本技術の効果を得ることができる。
【0054】
(5)ベース部材は、冷媒路が形成されているものに限定されない。ベース部材としては、熱伝導性の高い材料で形成されているもの、放冷フィン等の冷却機構を備えているもの、が好ましい。
【0055】
(6)上記実施形態は、適宜組み合わせることができる。例えば、実施形態1に記載したセラミック基板10の一部に、
図7や
図8に記載した態様の多孔セラミック領域が設けられていてもよい。或いは、実施形態2に記載した構成の保持装置200に、実施形態1や、
図7から
図9に記載した態様の多孔セラミック領域が設けられていてもよい。
【0056】
(7)上記実施形態の保持装置における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。また、上記実施形態における保持装置の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0057】
(8)本開示は、上記実施形態で例示した静電チャックに限らず、セラミック基材の表面上に対象物を保持する他の保持装置(例えば、加熱装置等)にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
100,200,600…保持装置
10,210,310,410,510,610…セラミック基板
20,220,520,620…ベース部材
21,221…冷媒路
30,230…接合材
40,240…チャック電極
50,250…ヒータ電極
60,260,360,660…流路
60B,260B,560B…ベース側流路
60C,260C,460C,560C…セラミック側流路
60CT,360CT…面並行流路部分(セラミック側流路)
60CV1,360CV1…第1接続部分(セラミック側流路)
60CV2…第2接続部分(セラミック側流路)
60J,260J…接合材内流路
61,261,361,661…流出孔
63,263,662…流入孔
664…溝
65,265,365,465,665…多孔セラミック領域
65A,265A,365A,465A,565A…疎領域
65B,265B,365B,465B,565B…密領域
211…第1の部分
212…第2の部分
213…接合部分
260BT…面並行流路部分(ベース側流路)
260BV1…第1接続部分(ベース側流路)
260BV2…第2接続部分(ベース側流路)
260C1…第1流路(セラミック側流路)
260C2…第2流路(セラミック側流路)
260C3…接合部流路(セラミック側流路)
G…ギャップ
M…多孔体
P…空隙
S1…第1表面
S2…第2表面
S3…第3表面
TA,TB…厚み(上下方向の延在幅)
W…ウェハ(対象物)
OR…シール材